特許第6681782号(P6681782)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6681782-ロッカアーム脱落防止機構 図000002
  • 特許6681782-ロッカアーム脱落防止機構 図000003
  • 特許6681782-ロッカアーム脱落防止機構 図000004
  • 特許6681782-ロッカアーム脱落防止機構 図000005
  • 特許6681782-ロッカアーム脱落防止機構 図000006
  • 特許6681782-ロッカアーム脱落防止機構 図000007
  • 特許6681782-ロッカアーム脱落防止機構 図000008
  • 特許6681782-ロッカアーム脱落防止機構 図000009
  • 特許6681782-ロッカアーム脱落防止機構 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681782
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】ロッカアーム脱落防止機構
(51)【国際特許分類】
   F01L 3/24 20060101AFI20200406BHJP
   F01L 1/18 20060101ALI20200406BHJP
   F01M 9/10 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   F01L3/24 A
   F01L1/18 B
   F01M9/10 G
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-97949(P2016-97949)
(22)【出願日】2016年5月16日
(65)【公開番号】特開2017-206968(P2017-206968A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】川下 浩史
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−108698(JP,A)
【文献】 特開2009−215919(JP,A)
【文献】 特開2011−043075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00− 1/32
F01L 1/36− 1/46
F01L 3/00− 7/18
F01L 11/00−11/06
F01L 15/00−35/04
F01M 1/00− 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダヘッドに取り付けられたピボットの先端部と、一端側に形成された凹部とが係合しており、前記凹部と前記ピボットの先端部との係合部分を支点として揺動可能なロッカアームの脱落防止機構において、
前記ロッカアームの凹部が前記ピボットの先端部に対して変位していない場合には、前記ロッカアームとは接触せず、前記ロッカアームの凹部が前記ピボットの先端部に対して変位した場合には、前記ロッカアームの前記凹部が形成された面とは反対側の面に形成された凸部に係合する係合部を備え
前記係合部は、前記シリンダヘッドに取り付けられた支持部の先端に設けられており、
前記支持部には、前記ロッカアームとカムシャフトの動弁カムに供給される潤滑油の通路となる管が形成され、
前記支持部の前記シリンダヘッドへの取り付け位置から前記係合部に至る途中の位置に前記管の開口部が設けられており、前記潤滑油を当該開口部から流出させて前記ロッカアームと前記カムシャフトの動弁カムに供給するように構成されていることを特徴とするロッカアーム脱落防止機構。
【請求項2】
前記係合部の部分は前記支持部に対して幅広に形成されていることを特徴とする請求項に記載のロッカアーム脱落防止機構。
【請求項3】
前記支持部は、弾性を有していることを特徴とする請求項または請求項に記載のロッカアーム脱落防止機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッカアーム脱落防止機構に係り、特に過回転時のロッカアームの脱落を防止するロッカアーム脱落防止機構に関する。
【背景技術】
【0002】
OHC(overhead camshaft)型エンジンでは、シリンダヘッドに配置されたカムシャフトの回転により動弁カムが吸気バルブや排気バルブを開閉させるようになっている。バルブの開閉機構は多岐にわたるが、例えば図9に示すように、シリンダヘッド100にロッカアーム20を配置し、ロッカアーム20を介してカムシャフト30からバルブ40に駆動力を伝達するように構成される場合がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この場合、ロッカアーム20は、いわゆるエンドピボット式ロッカアームであり、シリンダヘッド100に取り付けられたピボット50の先端部51が、ロッカアーム20の一端側に形成された凹部21に挿入され、ロッカアーム20の凹部21とピボット50の先端部51とが係合することでロッカアーム20がピボット50の先端部51から脱落しないように係止されている。そして、ロッカアーム20は、凹部21とピボット50の先端部51との係合部分を支点として揺動することができるようになっている。
【0004】
また、ロッカアーム20の他端側にはパッド面22が形成されており、このパッド面22とバルブ40のステムエンド41(或いはステムエンド41に取り付けられたステムキャップ)とが当接している。また、ロッカアーム20の略中央部にはローラ23が設けられている。そして、カムシャフト30が回転し、動弁カム31がロッカアーム20のローラ23を回転させながら押すとロッカアーム20が揺動し、ロッカアーム20のパッド面22によりバルブ40のステムエンド41が押し込まれることでバルブ40が開動作するようになっている。
【0005】
そして、図示を省略するが、このような構成のロッカアーム20について、例えば特許文献2には、エンジンの運転時の始動や衝撃によってバルブ40がジャンプする等して異音が発生したり組み付け後にロッカアーム20が正規の位置から外れることを防止すること等を目的として、ロッカアーム20のパッド面22の部分にクリップを設け、クリップの係合孔をバルブ40のステムエンド41に設けた係合溝に係合させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−183577号公報
【特許文献2】特開2010−275883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ロッカアーム20が図9に示したように構成されていると、エンジンの通常回転時にカムシャフト30が回転してロッカアーム20が揺動しても、ロッカアーム20の凹部21とピボット50の先端部51との係合が外れることはなく、ロッカアーム20がピボット50の先端部51から脱落することはない。
【0008】
しかし、エンジンが過回転の状態になると、バルブスプリング43の反力よりもバルブ40やリテーナ42、バルブスプリング43、ロッカアーム20等の慣性荷重の方が大きくなり、ロッカアーム20のローラ23とカムシャフト30の動弁カム31との間のクリアランスが広がる。また、ロッカアーム20のパッド面22とバルブ40のステムエンド41との間も開き、いわゆるバルブジャンプが発生する。
【0009】
そのため、ロッカアーム20の揺動がカムシャフト30の動弁カム31の回転に追従しなくなり、ロッカアーム20の3点、すなわち凹部21、ローラ23、およびパッド面22にピボット50や動弁カム31、バルブ40から全く力が伝わらない状態になって、ロッカアーム20が脱落する場合がある。
【0010】
そのような場合に、上記の特許文献2に記載されているようにロッカアーム20に設けたクリップの係合孔とバルブ40のステムエンド41に設けた係合溝とが係合していると、上記のように過大な慣性荷重が加わった際にバルブ40が折れる等して破損する可能性がある。また、クリップを設けるため、その分だけロッカアーム20の慣性荷重がより大きくなることも考えられる。そのため、少なくともエンジンの過回転時にロッカアーム20が脱落することを防止するための機構としては、特許文献2に記載された構成は採用し難い。
【0011】
また、特許文献2に記載された構成では、ロッカアーム20とバルブ40とがクリップを介して係合されている。そのため、クリップとの係合がロッカアーム20の動作に影響して、ロッカアーム20が正常に動作しなくなる可能性がある。しかし、このように、ロッカアーム20の脱落を防止するための機構が、ロッカアーム20の正常な動作に影響を与えることは避けるべきである。
【0012】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、ロッカアームの動作に影響を与えることがなく、エンジンの過回転が生じてもロッカアームが脱落することを的確に防止することが可能なロッカアーム脱落防止機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ロッカアーム脱落防止機構において、
エンジンのシリンダヘッドに取り付けられたピボットの先端部と、一端側に形成された凹部とが係合しており、前記凹部と前記ピボットの先端部との係合部分を支点として揺動可能なロッカアームの脱落防止機構において、
前記ロッカアームの凹部が前記ピボットの先端部に対して変位していない場合には、前記ロッカアームとは接触せず、前記ロッカアームの凹部が前記ピボットの先端部に対して変位した場合には、前記ロッカアームの前記凹部が形成された面とは反対側の面に形成された凸部に係合する係合部を備え
前記係合部は、前記シリンダヘッドに取り付けられた支持部の先端に設けられており、
前記支持部には、前記ロッカアームとカムシャフトの動弁カムに供給される潤滑油の通路となる管が形成され、
前記支持部の前記シリンダヘッドへの取り付け位置から前記係合部に至る途中の位置に前記管の開口部が設けられており、前記潤滑油を当該開口部から流出させて前記ロッカアームと前記カムシャフトの動弁カムに供給するように構成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項に記載の発明は、請求項に記載のロッカアーム脱落防止機構において、前記係合部の部分は前記支持部に対して幅広に形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項に記載の発明は、請求項または請求項に記載のロッカアーム脱落防止機構において、前記支持部は、弾性を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ロッカアーム脱落防止機構は、エンジンの通常回転時にはロッカアームに接触しないため、ロッカアームの動作に影響も与えたりロッカアームの動作を邪魔したりすることなく、ロッカアームに正常に揺動動作を行わせることが可能となる。また、エンジンが過回転の状態になり、ロッカアームが脱落しそうになると、ロッカアーム脱落防止機構の係合部が、ロッカアームの凸部に係合する。そのため、エンジンの過回転が生じてもロッカアームが脱落することを的確に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)本実施形態に係るロッカアーム脱落防止機構を含むエンジンのシリンダヘッド部分の断面図であり、(B)本実施形態に係るロッカアーム脱落防止機構の構成を表す拡大図である。
図2】ロッカアーム脱落防止機構の支持部を(A)帯状に形成した場合、(B)幅狭に形成した場合の構成例を表す図である。
図3】エンジンの通常回転時にロッカアームが揺動してもロッカアーム脱落防止機構はロッカアームに接触しないことを説明する図である。
図4】ロッカアームが脱落しそうになるとロッカアーム脱落防止機構の係合部がロッカアームの凸部に係合することを表す図である。
図5】(A)DOHC水平対向型エンジンのシリンダヘッドにおける下側のカムシャフト部分における本実施形態の構成を表す断面図であり、(B)ロッカアーム脱落防止機構の部分の拡大図である。
図6】ロッカアームの凸部を挟んで係止部の反対側にも係止部を形成したロッカアーム脱落防止機構の構成例を表す図である。
図7】シリンダヘッドに取り付けられたジェット用ノズルから潤滑油を噴射する従来の構成例を表す図である。
図8】(A)、(B)ロッカアーム脱落防止機構の支持部に管を形成し、開口部から潤滑油を流出させて供給する構成例を表す図である。
図9】カムシャフトの動弁カムでロッカアームを揺動させてバルブの開閉動作を行わせるエンドピボット式のロッカアームを備えるエンジンのシリンダヘッド部分の構成例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るロッカアーム脱落防止機構の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
なお、以下の説明において、バルブ40は吸気バルブと排気バルブのいずれであってもよい。また、ロッカアームが以下で説明する本実施形態に係るロッカアーム20と同様の構成であれば、本発明は、SOHC型とDOHC型のいずれのエンジンにも適用することが可能である。
【0022】
[シリンダヘッド部分の構成]
図1(A)は、本実施形態に係るロッカアーム脱落防止機構を含むエンジンのシリンダヘッド部分の断面図であり、図1(B)は、本実施形態に係るロッカアーム脱落防止機構の構成を表す拡大図である。本実施形態に係るエンジンのシリンダヘッド100部分の構成は、前述した図9に示した構成と同様であり、図1(A)、(B)に示すように、シリンダヘッド100に、ロッカアーム20や、カムシャフト30、バルブ40、ピボット50等が設けられている。
【0023】
ロッカアーム20は、一端(図中A参照)側に凹部21が形成されており、シリンダヘッド100に取り付けられたピボット50の球面状の先端部51が、ロッカアーム20の凹部21に挿入されている。そして、ロッカアーム20の凹部21とピボット50の先端部51とが係合することで、ロッカアーム20がピボット50の先端部51から脱落しないように係止されている。また、ロッカアーム20は、凹部21とピボット50の先端部51との係合部分を支点として揺動することができるようになっている。
【0024】
また、ロッカアーム20の、凹部21が形成された面とは反対側の面(カムシャフト30に対向する側の面)には、凹部21に対応する位置に凸部24が形成されている。本実施形態では、凸部24は、円柱面(或いは円錐面)と球面とが組み合わされた形状になっているが、凸部24の形状は必ずしもこの形状でなくてもよい。
【0025】
ロッカアーム20の他端側には、パッド面22が形成されている。そして、このパッド面22とバルブ40のステムエンド41(或いはステムエンド41に取り付けられたステムキャップ)とが当接するようになっている。また、本実施形態では、ロッカアーム20の略中央部にはローラ23が設けられており、ロッカアーム20のローラ23とカムシャフト30の動弁カム31との間の部分Bには所定のクリアランスが設けられている。
【0026】
バルブ40には、ステムエンド41の近傍の部分にリテーナ42が取り付けられており、バルブ40は、リテーナ42とシリンダヘッド面との間に配置されたバルブスプリング43により閉方向に付勢されている。
【0027】
そして、エンジン運転時に、カムシャフト30が回転すると、動弁カム31がロッカアーム20のローラ23を回転させながらシリンダヘッド100方向に押す。そのため、ロッカアーム20が、凹部21とピボット50の先端部51との係合部分を支点として揺動し、ロッカアーム20のパッド面22がバルブ40のステムエンド41を押すため、バルブ40が押し込まれて開動作する。
【0028】
また、カムシャフト30がさらに回転し、動弁カム31のロッカアーム20への押圧がなくなれば、バルブ40は、バルブスプリング43の弾発力により押し戻されて閉動作するようになっている。
【0029】
なお、以下では、上記のようにロッカアーム20にローラ23が設けられており、ローラ23とカムシャフト30の動弁カム31とが接触するように構成されている場合について説明するが、ロッカアーム20に必ずしもローラ23が設けられていなくてもよく、例えば動弁カム31との接触部分にスリッパ面が形成されている構成等であってもよい。
【0030】
[ロッカアーム脱落機構の構成]
次に、本実施形態に係るロッカアーム脱落防止機構10について説明する。本実施形態では、ロッカアーム脱落防止機構10は、シリンダヘッド100に取り付けられた支持部11と、その先端に設けられた係合部12とを備えている。すなわち、係合部12は、ロッカアーム20の凸部24に対して、支持部11のシリンダヘッド100への取り付け位置とは反対側の端部に配置されている。
【0031】
そして、ロッカアーム脱落防止機構10の支持部11と係合部12は、エンジンの通常回転時には、すなわちロッカアーム20の凹部21がピボット50の先端部51に対して変位していない場合には、上記のようにロッカアーム20が揺動しても、ロッカアーム20とは接触しない状態に配置されている。
【0032】
なお、ロッカアーム脱落防止機構10の支持部11と係合部12は、カムシャフト30が回転動作を行っても、カムシャフト30の動弁カム31とは接触しない位置に配置されている。
【0033】
一方、ロッカアーム脱落防止機構10の係合部12は、支持部11の先端がロッカアーム20に向かう方向に屈曲された状態に形成されている。そして、係合部12は、エンジンが過回転の状態になりロッカアーム20の凹部21がピボット50の先端部51に対して変位した場合には、ロッカアーム20の凸部24に係合して、ロッカアーム20の脱落を防止するようになっている。
【0034】
カムシャフト30側から見た場合のロッカアーム脱落防止機構10の支持部11や係合部12の形状としては、例えば、図2(A)に示すように、支持部11と係合部12とを帯状に形成することが可能である。また、図2(B)に示すように、支持部11を幅狭に形成し、係合部12の部分を幅広に形成することも可能である。
【0035】
このように、ロッカアーム脱落防止機構10の支持部11や係合部12の形状として種々の形状を採用することが可能であるが、図2(A)、(B)に示すように、少なくとも係合部12を幅広に形成すれば、ロッカアーム20が脱落しそうになり図の左右方向に変位したとしても、係合部12がロッカアーム20の凸部24に確実に係合して、ロッカアーム20の脱落を確実に防止することが可能となる。なお、ロッカアーム20の形状は図2(A)、(B)の場合に限定されない。
【0036】
[作用]
次に、本実施形態に係るロッカアーム脱落防止機構10の作用について説明する。
本実施形態では、ロッカアーム脱落防止機構10が上記のように構成されている。そのため、エンジンの通常回転時に、ロッカアーム20が揺動しても、ロッカアーム20の凹部21がピボット50の先端部51に対して変位しないため、図3に示すように、ロッカアーム脱落防止機構10の支持部11と係合部12はいずれもロッカアーム20には接触しない。また、支持部11や係合部12は、カムシャフト30や動弁カム31にも接触しない。
【0037】
そのため、本実施形態では、ロッカアーム脱落防止機構10は、エンジンの通常回転時にロッカアーム20が揺動動作を行っている際には、ロッカアーム20の動作に何らの影響も与えたりロッカアーム20の動作を邪魔したりすることなく、ロッカアーム20に正常に揺動動作を行わせることが可能となる。なお、図3では、カムシャフト30やバルブ40等の図示が省略されている。
【0038】
一方、エンジンが過回転の状態になると、前述したように、ロッカアーム20のローラ23とカムシャフト30の動弁カム31との間のクリアランスが広がったりバルブジャンプが生じたりして、ロッカアーム20が脱落しそうになり、図4に示すように、ロッカアーム20の凹部21がピボット50の先端部51に対して変位する。すなわち、ロッカアーム20がピボット50から外れる。
【0039】
しかし、本実施形態では、そのような状態になると、ロッカアーム脱落防止機構10とロッカアーム20とが接触し、図4に示すように、ロッカアーム脱落防止機構10の係合部12が(或いはそれとともに支持部11も)、ロッカアーム20の凸部24に係合する。そのため、係合部12(および支持部11)によりロッカアーム20の凹部21がそれ以上ピボット50の先端部51から変位することが阻止される。そして、ロッカアーム20は、凹部21とピボット50の先端部51とが係合する状態(すなわち図3に示した状態)に戻される。
【0040】
そのため、本実施形態では、ロッカアーム脱落防止機構10は、エンジンの過回転時にロッカアーム20が脱落しそうになった場合(すなわちロッカアーム20の凹部21がピボット50の先端部51に対して変位した場合)には、係合部12(および支持部11)がロッカアーム20の凸部24に接触して的確に係合するため、エンジンの過回転が生じてもロッカアーム20が脱落することが的確に防止される。なお、上記のように、ロッカアーム脱落防止機構10の支持部11がロッカアーム20の凸部24に係合する場合、支持部11も係合部12として機能することになる。
【0041】
また、本実施形態のように、ロッカアーム20が脱落しそうになった場合に、ロッカアーム脱落防止機構10の係合部12を、ロッカアーム20の凹部21(すなわちロッカアーム20の揺動の支点)に対応する凸部24に係合させてロッカアーム20の脱落を防止するように構成すると、以下のような利点がある。
【0042】
すなわち、ロッカアーム20が揺動動作する際、図3に示したように、ロッカアーム20の凸部24の下側の部分(図中のC参照)の振幅(すなわちロッカアーム20の揺動による図中横方向の振れ幅)に比べて、例えばロッカアーム20のパッド面22では振幅が大きくなる。
【0043】
そのため、仮にロッカアーム脱落防止機構10の係合部12をロッカアーム20のパッド面22側に設ける場合、エンジンの通常回転時には、振幅が大きいパッド面22等と接触しないようにしながら、しかもエンジンの過回転時にはバッド面22側と係合してロッカアーム20の脱落を防止しなければならない。そのため、係合部12の長さを非常に長くしなければならず、或いは係合部12を含むロッカアーム脱落防止機構10の構造が複雑になる。
【0044】
それに対し、本実施形態では、上記のように、ロッカアーム脱落防止機構10の係合部12を、揺動の支点に近い、ロッカアーム20の凸部24の下側の部分Cの近傍に配置し、エンジンの過回転時にその部分でロッカアーム20の凸部24と係合するように構成した。
【0045】
そのため、ロッカアーム20の凸部24の下側の部分Cの振幅は他の部分の振幅に比べて小さいため、ロッカアーム脱落防止機構10の係合部12の長さを十分に短く形成することが可能となり、係合部12を含むロッカアーム脱落防止機構10の構造を単純化することができる。
【0046】
そして、その際、前述したように、ロッカアーム20の凸部24に対して、ロッカアーム脱落防止機構10の支持部11のシリンダヘッド100への取り付け位置とは反対側の端部にロッカアーム脱落防止機構10の係合部12を形成するように構成すれば、図2(A)、(B)等に示したように、ロッカアーム脱落防止機構10の構造がより単純なものとなる。
【0047】
そして、上記のように係合部12の長さが短く単純な構造であっても、本実施形態に係るロッカアーム脱落防止機構10のように構成すれば、上記のようにロッカアーム20が脱落しそうになった場合に、係止部12がロッカアーム20の凸部24に的確に係合するため、ロッカアーム20の脱落を的確に防止することができる。
【0048】
なお、上記のように、エンジンの通常回転時にロッカアーム脱落防止機構10とロッカアーム20とは接触しないが、ロッカアーム20が脱落しそうになった場合には、ロッカアーム脱落防止機構10とロッカアーム20とが確実に係合するように、ロッカアーム脱落防止機構10の係合部12の長さ等が適宜調整されることは言うまでもない。また、必要に応じてロッカアーム20の凸部24の高さを高くするように構成することも可能である。
【0049】
[効果]
以上のように、本実施形態に係るロッカアーム脱落防止機構10によれば、エンジンの通常回転時にはロッカアーム20に接触しないため、ロッカアーム20の動作に影響も与えたりロッカアーム20の動作を邪魔したりすることなく、ロッカアーム20に正常に揺動動作を行わせることが可能となる。
【0050】
一方、エンジンが過回転の状態になり、ロッカアーム20が脱落しそうになると、ロッカアーム脱落防止機構10の係合部12(と支持部11)が、ロッカアーム20の凸部24に係合する。そのため、エンジンの過回転が生じてもロッカアーム20が脱落することを的確に防止することが可能となる。
【0051】
なお、以上の説明では、エンジンが過回転の状態になった際にロッカアーム20が脱落しそうになる場合について説明したが、本実施形態に係るロッカアーム脱落防止機構10は、その構成や作用等から明らかなように、エンジンの過回転以外の原因でロッカアーム20が脱落しそうになった場合にも、ロッカアーム20の脱落を的確に防止することができる。そのため、本発明の適用対象は、エンジンが過回転になる場合に限定されない。
【0052】
また、上記の各図では、エンジンが水平対向型エンジンである場合が記載されているが、ロッカアーム20の脱落は、重力だけでなく、重力と入力の荷重方向(すなわち動弁カム31がロッカアーム20を押す方向)との関係で生じるため、直列型やV型のエンジンでも生じ得る。そのため、本発明は、直列型やV型のエンジンについても適用することが可能である。
【0053】
さらに、上記の各図では、DOHC水平対向型エンジンのシリンダヘッド100における上側のカムシャフト30部分について記載されているが、図5(A)、(B)に示すように、下側のカムシャフト30部分についても同様に構成することが可能である。
【0054】
そして、この場合は、ロッカアーム20が脱落しそうになった場合、ロッカアーム20の一端側(図中のA側)や凸部24がロッカアーム脱落防止機構10の支持部11と係合したり、ロッカアーム20のローラ23の部分の凸部23a(図5(B)参照)と係合部12とが係合する等して、ロッカアーム20の脱落を防止することができる。
【0055】
また、図1(A)、(B)等に示したシリンダヘッド100における上側のカムシャフト30部分の場合も同様であるが、上記の場合、例えば図6に示すように、ロッカアーム20の凸部24を挟んで、係止部12の反対側にも係止部12を形成するようにロッカアーム脱落防止機構10を構成することも可能である。
【0056】
そして、このように構成すれば、エンジンの過回転時に、ロッカアーム20の凸部24の両側の係止部12、12のいずれかで、脱落しそうになったロッカアーム20の凸部24と係合することが可能となり、ロッカアーム20の脱落をより的確に防止することが可能となる。
【0057】
なお、ロッカアーム20の凸部24の側方(図1(A)、(B)や図5(A)、(B)における凸部24の手前側や奥側)にも係止部12を形成するように構成したり、ロッカアーム20の凸部24を係止部12で包囲するように構成することも可能であり、ロッカアーム20の揺動動作の邪魔にならない限り、ロッカアーム脱落防止機構10の係止部12は適宜の形状に形成することが可能である。
【0058】
[ロッカアーム脱落防止機構に弾性を持たせることについて]
ところで、ロッカアーム脱落防止機構10をシリンダヘッド100に取り付けて、図1(A)、(B)等に示したようにロッカアーム20の周囲の部分に組み付ける際、ロッカアーム脱落防止機構10の支持部11等が硬いと、組み付け作業を行い難く、作業中にロッカアーム脱落防止機構10を破損したり落下させてしまう等の問題が生じる可能性がある。
【0059】
そのため、ロッカアーム脱落防止機構10の少なくとも支持部11は、弾性を有する金属等で構成することが好ましい。ロッカアーム脱落防止機構10が弾性を有していれば、組み付けの際にロッカアーム脱落防止機構10を変形させて組み付けることが可能となり、組み付け作業を行い易くなる。また、ロッカアーム脱落防止機構10を変形させても元の形状に容易に戻すことが可能となり、ロッカアーム脱落防止機構10に上記のような有益な作用効果を発揮させることが可能となる。
【0060】
[ロッカアーム脱落防止機構を潤滑油のノズルとして利用する構成等について]
一方、従来、ロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31の潤滑を行う場合、例えば図7に示すように、シリンダヘッド100に取り付けられたジェット用ノズルNから潤滑油(エンジンオイル)を、ロッカアーム20のローラ23とカムシャフト30の動弁カム31との間の部分Bに向けて噴射して行う場合があった。
【0061】
この場合、噴射された潤滑油は、ロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31だけでなく、ローラ23を伝い、ロッカアーム20のパッド面22やバルブ40のステムエンド41等にも到達して、それらも潤滑する。
【0062】
そして、上記の場合、ジェット用ノズルNと、ロッカアーム20のローラ23とカムシャフト30の動弁カム31との間の部分Bとの距離が比較的遠いため、当該部分Bに潤滑油が到達する確率を上げてロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31等に潤滑油を的確に到達させるようにするために、ジェット用ノズルNから潤滑油を比較的多めに噴射することが必要であった。
【0063】
しかし、ロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31に近い位置から潤滑油を供給するように構成すれば、潤滑油がローラ31や動弁カム31等に到達する確率が向上する。そのため、ロッカアーム20のローラ23とカムシャフト30の動弁カム31との間の部分Bに向けて供給する潤滑油の量をより少量に抑えることが可能となるとともに、潤滑油をロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31等に的確に到達させることが可能となる。
【0064】
そして、本実施形態では、図1(A)や図5(A)等に示したように、ロッカアーム脱落防止機構10の支持部11等が、ロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31等の近傍に配置されている。そこで、これを利用して、ロッカアーム脱落防止機構10をロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31等に潤滑油を供給するノズルとして機能するように構成することが可能である。
【0065】
具体的には、例えば図8(A)、(B)に示すように、ロッカアーム脱落防止機構10の支持部11に潤滑油の通路となる管13を形成する。そして、支持部11の、シリンダヘッド100への取り付け位置から係合部12に至る途中の位置であって、ロッカアーム20のローラ23とカムシャフト30の動弁カム31との間の部分Bに潤滑油を供給するために適した位置に、管13の開口部14を形成する。そして、開口部14から上記の部分Bに向けて潤滑油を流出させて、ロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31等に潤滑油を供給するように構成することが可能である。
【0066】
このように構成すれば、ロッカアーム脱落防止機構10の開口部14から流出された潤滑油が、ロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31等に的確に供給される。また、ロッカアーム20のローラ23やカムシャフト30の動弁カム31等に近い位置から潤滑油を供給することが可能となるため、供給する潤滑油の量をより少量に抑えることが可能となる。
【0067】
また、上記のようにノズル(すなわち管13や開口部14)とロッカアーム脱落防止機構10とを一体的に形成すれば、ジェット用ノズルN(図7参照)とロッカアーム脱落防止機構10とを別体として構成する場合に比べて部品点数を減らすことも可能となる。
【0068】
なお、この場合、図2(A)や他の形状に形成した支持部11に、上記の管13や開口部14等を設けることも可能であり、潤滑油のノズルとして利用する場合のロッカアーム脱落防止機構10の支持部11の形状は特定の形状に限定されない。
【0069】
また、本発明が上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
10 ロッカアーム脱落防止機構
11 支持部
12 係合部
13 管
14 開口部
20 ロッカアーム
21 凹部
24 凸部
50 ピボット
51 先端部
100 シリンダヘッド
A 一端側
B ロッカアームとカムシャフトの動弁カムとの間の部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9