(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料血液を入れるための希釈緩衝液を用い、該希釈緩衝液中に含まれる内部標準物質を分析し、血漿又は血清の希釈率を算出し、前記試料血液中の血漿又は血清成分中の生体成分を分析する生体試料成分の分析方法において、前記希釈緩衝液に含まれる内部標準物質が血球内に浸透しない性質を有している、リチウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムからなる群から選択されるアルカリ金属に属する元素、又はストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選択されるアルカリ土類金属に属する元素である生体試料成分の分析方法。
試料血液を入れるための希釈緩衝液を用い、該希釈緩衝液中に含まれる内部標準物質を分析し、血液又は血漿又は血清の希釈率を算出し、前記試料血液中の血球算定数や血漿の生体成分又は前記試料血液中の血漿又は血清成分中の生体成分を分析する生体試料成分の分析方法において、
前記希釈緩衝液は、
血球内に浸透しない性質を有する前記内部標準物質である、リチウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムからなる群から選択されるアルカリ金属に属する元素、又はストロンチウム、バリウム及びラジウムからなる群から選択されるアルカリ土類金属に属する元素と、
血球内に浸透する性質を有する前記内部標準物質であって、エタノールアミン、ヘキシルアミン、フェニールエチルアミン、アミールアミン、ヒスタミン、プトレシン、ヒポキサンチン、トリプトファン、プレグレノロン、β-シトステロールからなる群から選ばれる物質とを含む生体試料成分の分析方法。
前記希釈緩衝液が前記血液中の生体試料成分を変性させることなく、安定に維持できるように、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩などのキレート剤、アミカシン硫酸塩、カナマイシン硫酸塩、チアベンダゾール、アジ化ナトリウムなどの抗菌剤や防腐剤、ピリドキサルリン酸、マグネシウム、亜鉛などの補酵素、マンニトール、デキストロース、オリゴ糖などの糖類、ドデシル硫酸ナトリウム、水銀、ヘパリンからなる群から選択される阻害剤を被測定成分に応じて単独若しくは複数組み合わされた組成の添加物を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体試料成分の分析方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した従来の希釈率算出法では、血漿の希釈内部標準物質としてはグリセロール-3-リン酸が利用されているが、生体に存在する酵素であるアルカリホスファターゼにより水解され、グリセロールを生成する。従って、血液を添加した後の保存時間が長くなるか、あるいは温度が高くなると正確な血液希釈率が得られなくなる。このため、原血漿中の生体成分や酵素活性の測定値への信頼性が低下する。このような状況を解消するため従来の方法では酵素の阻害剤であるEDTAを添加する必要があった。しかしながら、この阻害剤の添加では完全に酵素を阻害できないため、生成物阻害剤としてリン酸を更に添加する必要があり、これら2つの物質の添加によりアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼやアラニンアミノトランスフェラーゼの活性が低下することとなる。その結果、これらの酵素の活性化剤であるピリドキサルリン酸を過剰に添加する必要があった。
【0011】
これらの問題点を解決する内部標準物質としては、コリンなどの陽イオンに荷電した物質を内部標準として利用できるが、プラスチック容器に吸着が認められ、長期間の保存には適さないという課題がある。これらの物質については、〔特許文献2〕として申請されているが、分子内に芳香環を持つために疎水性が高く、プラスチックの容器に長期保存すると吸着を起こし、血液の希釈倍数を正確に求めることが出来ないという問題がある。分子内に芳香環を持たず、血球内に浸透する物質としてエタノールアミンなどの化合物が有効であることを見いだした。これらの物質は血液中にほとんど存在せず、しかも安定な化合物である。また、内部標準液の緩衝液に溶けることが可能で、長期保存によりプラスチック容器に吸着することがない。
【0012】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、対象者の手指等の体表面から採取され、希釈された少量かつ未知量の全血試料の成分に対し、簡便かつ正確に定量することのできる希釈率算出法を提供することを目的とする。
【0013】
また、特許文献3に記載された方法では、内部標準物質としてはグリセロール-3-リン酸は安定な化合物として利用されているが試料が少ない場合は内部標準物質の希釈率は小さく、その希釈倍数の信頼性は低下することが問題であった。
【0014】
また、特許文献4に記載されているように、濾紙や多孔質材に血液を吸収させた後、乾燥させて郵送し、血液成分を抽出する方法は乾燥させる過程や郵送時に成分が変性することがある。また、乾燥した試料から生体成分を抽出する緩衝液はpH調整や生体成分安定化のためにNaOHやNaCl、HClを添加した緩衝液を利用する必要がある。このため、試料の成分で最も恒常性があり、個体間差が少ないナトリウムやクロールの濃度を外部標準物質として、希釈された元の他の生体成分濃度の補正をすることに利用できない。
【0015】
一方、緩衝液で希釈する方法は生体試料中の生体成分がpH7.4の生理的条件の緩衝液で保存され、輸送中の安定性にも優れているが、内部標準物質添加緩衝液による試料中の内部標準物質の希釈率が小さく、少ない試料添加では測定誤差が生じ易い。
【0016】
本発明は、緩衝液で生体試料を希釈して生体試料中の分析対象成分を定量分析する方法において、生体成分を緩衝液で試薬した試料中の生体成分濃度を、外部標準である試料中の恒常的成分の希釈率から正確に生体試料の希釈倍数を求めて、生体試料中の分析対象成分を定量分析する方法の提供を目的とする。
【0017】
さらに、本発明は、緩衝液で生体試料を希釈して生体試料中の分析対象成分を定量分析する方法において、内部標準物質を用いて生体試料の希釈倍数を求める方法、外部標準物質を用いて生体試料の希釈倍数を求める方法について両者の欠点を補い、正確に生体試料の希釈倍数を求めて、生体試料中分析対象成分を定量分析する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した目的を達成するため、本発明は、血液などの生体試料中の生体成分を分析する際に、1.内部標準物質を利用して分析するか、2.外部標準物質を利用するか、あるいは3.内部標準物質及び外部標準物質を利用することを特徴とする。
【0019】
1.内部標準物質を利用する分析方法(内部標準法)
本発明は、血液などの生体試料中の生体成分を分析する方法であって、前記血液などの生体試料を添加する希釈緩衝液と、該希釈緩衝液中に含まれる内部標準物質を分析し、希釈率を算出し、血漿、血清や血球の生体成分の希釈率を算出し、前記血液などの生体試料中の血漿、血清又は生体試料中の生体成分を分析することを特徴とする。
【0020】
本発明の血漿試料生体試料成分の分析方法において、前記緩衝液中の内部標準物質は長期間安定であり、前記緩衝液を入れる容器に吸着しない成分であり、前記内部標準物質は前記血液などの生体試料中にほとんど含まれていない物質であり、生化学自動分析装置などで容易且つ精度よく分析可能な物質であるのが好ましい。
【0021】
また、本発明の血漿試料生体試料成分の分析方法において、前記緩衝液中の内部標準物質は前記血球内に浸透しない成分であり、前記血漿や前記血清の希釈率を正確に反映可能な物質であるのが好ましい。同様に血球数の算定方法において、前記緩衝液中の内部標準物質は前記血球内に浸透する成分であり、前記全血(血漿と血球)の希釈率を正確に反映可能な物質であるのが好ましい。
【0022】
さらに、本発明の生体試料成分の分析方法において、前記緩衝液は血球膜に対する浸透圧が250〜500mOsm/kgで、血液が混合されても前記血球の溶血が生じない試薬組成を有しているのが好ましい。
【0023】
さらにまた、本発明の生体試料成分の分析方法において、前記緩衝液は前記血液中の生体試料成分を変性させることなく、安定に維持できる組成を有しているのが好ましい。
【0024】
さらに、本発明の生体試料成分の分析方法において、血漿内部標準物質はリチウム又はマルトースを含んでいるのが好ましい。
【0025】
血漿の希釈率からは血漿濃度を求めることが可能であるが、血球の体積を求めることはできない。血液の全血(血漿と血球)を求めることができれば貧血の検査が可能になる。
【0026】
そこで血球内に浸透する内部標準物質として疎水性でプラスチックの吸着がないエタノールアミンを含んでいるのが好ましい。この内部標準を測定することで血液量全体の希釈率を求めることができる。
【0027】
血液の血漿の希釈率と血液量全体の希釈率から血球の容積比率(ヘマトクリット値)を求めることが可能となる。
【0028】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1−1] 試料血液を入れるための希釈緩衝液を用い、該希釈緩衝液中に含まれる内部標準物質を分析し、血漿又は血清の希釈率を算出し、前記試料血液中の血漿又は血清成分中の生体成分を分析する生体試料成分の分析方法において、前記希釈緩衝液に含まれる内部標準物質が血球内に浸透しない性質を有しており、マルトースを含む2糖類、グルタミン酸、ロイシン、バリン、イソロイシン、4-ハイドロキシンベンゼン、ハイドロキシ酪酸、クレアチン、リンゴ酸、トリンダー試薬、リチウムからなる群から選ばれる物質である内部標準物質を用いた生体試料成分の分析方法。
[1−2] 希釈緩衝液に含まれる内部標準物質がリチウムである、[1−1]の生体試料成分の分析方法。
[1−3] 試料血液を入れるための希釈緩衝液を用い、該希釈緩衝液中に含まれる内部標準物質を分析し、血液の希釈率を算出し、前記試料血液中の血球算定数や血漿の生体成分を分析する生体試料成分の分析方法において、前記希釈緩衝液に含まれる内部標準物質が血球内に浸透する性質を有しており、エタノールアミン、ヘキシルアミン、フェニールエチルアミン、アミールアミン、ヒスタミン、プトレシン、ヒポキサンチン、トリプトファン、プレグレノロン、β-シトステロールからなる群から選ばれる物質である内部標準物質を用いた生体試料成分の分析方法。
[1−4] 試料血液を入れるための希釈緩衝液を用い、該希釈緩衝液中に含まれる内部標準物質を分析し、血液又は血漿又は血清の希釈率を算出し、前記試料血液中の血球算定数や血漿の生体成分又は前記試料血液中の血漿又は血清成分中の生体成分を分析する生体試料成分の分析方法において、前記希釈緩衝液は、血球内に浸透しない性質を有する前記内部標準物質であって、リチウム、マルトースを含む2糖類、グルタミン酸、ロイシン、バリン、イソロイシン、4-ハイドロキシンベンゼン、ハイドロキシ酪酸、クレアチン、リンゴ酸、トリンダー試薬からなる群から選ばれる物質と、血球内に浸透する性質を有する前記内部標準物質であって、エタノールアミン、ヘキシルアミン、フェニールエチルアミン、アミールアミン、ヒスタミン、プトレシン、ヒポキサンチン、トリプトファン、プレグレノロン、β-シトステロールからなる群から選ばれる物質とを含む生体試料成分の分析方法。
[1−5] 前記希釈緩衝液に含まれる内部標準物質が分子量500以下の化学物質で分子内に硫酸イオン(-SO
3-)、カルボキシルイオン(-COO
-)、チオール基(-SH)、第4級アミン(-NH
3+)からなる群から選ばれる置換基を持つ化合物から選ばれる内部標準物質である、[1−1]の生体試料成分の分析方法。
[1−6] 前記希釈緩衝液に含まれる内部標準物質がADOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン)、ADPS(N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン)、ALPS(N-エチル-N-スルホプロピルアニリン)、DAOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン)、HDAOS(N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン)、MAOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン)、TOOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン)、TOPS(N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン)から成る群から選ばれる化合物であるトリンダー試薬である、[1−1]の生体試料成分の分析方法。
[1−7] 前記希釈緩衝液は、血液が混合されても前記血球の溶血が生じない試薬組成を有している[1−1]〜[1−6]のいずれかの生体試料成分の分析方法。
[1−8] 前記希釈緩衝液が前記血液中の生体試料成分を変性させることなく、安定に維持できるように、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩などのキレート剤、アミカシン硫酸塩、カナマイシン硫酸塩、チアベンダゾール、アジ化ナトリウムなどの抗菌剤や防腐剤、ピリドキサルリン酸、マグネシウム、亜鉛などの補酵素、マンニトール、デキストロース、オリゴ糖などの糖類、ドデシル硫酸ナトリウム、水銀、ヘパリンからなる群から選択される阻害剤を被測定成分に応じて単独若しくは複数組み合わされた組成の添加物を含む[1−1]〜[1−7]のいずれかの生体試料成分の分析方法。
[1−9] 前記内部標準物質の希釈率から血液の血球容積率(ヘマトクリット値)を算出することを特徴とする[1−4]の生体試料成分の分析方法。
【0029】
2.外部標準物質を利用する分析方法(外部標準法)
血液中のナトリウムやクロールは非常に高い恒常性があり、個体間の変動も小さいことが知られている。そのナトリウムの中央値濃度も142 mmol/Lと生体濃度としては濃いため、緩衝液で希釈しても、高希釈倍数の試料濃度を精度良く測定できる。しかしながら、ナトリウムやクロールを外部標準として用いる場合、ナトリウムやクロールが含まれる緩衝液を希釈用緩衝液として用いることはできなかった。
【0030】
本発明者らは、まず、外部標準物質として生体内の恒常性が高いナトリウム、クロール又はタンパク質を用いることを検討した。
【0031】
これらの外部標準物質を用いるためには、生体試料を希釈する緩衝液にナトリウムやクロールの存在は避ける必要があった。従来はpH7.4付近で緩衝能を有し、かつアルカリ(NaOHなど)を含まない緩衝液は存在しなかった。本発明者らは、新たな緩衝液の開発を試み、アルカリ金属類(NaOHなど)やクロールイオンを含まないアルカリ性を示す化合物としては、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミノアルコール化合物を利用した。これらの化合物に生化学研究用として優れた性能を持つGood’s緩衝液でpKaがpH7.4付近の緩衝液である、HEPES (2-[4-(2-Hydoxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid), TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid), MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid), BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)を酸として混合することでpH7.4に調整できること新たに見出した。また、これらの緩衝液が外部標準物質の一例であるナトリウムやクロールを含まず、測定対象のナトリウムやクロールの測定系に干渉を与えないことを見出した。さらに、これらの緩衝液で希釈された成分は生化学・免疫自動分析装置での種々の測定法でも干渉しないこと、さらに血球が溶血をしないことや生体成分が37℃でも安定に保存できることを見出した。また、緩衝液で希釈された血漿中の生体成分を測定するため、緩衝液成分がこれら生体成分を変性させたり、安定性に影響を与えてはならない。この一例として2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)とHEPESを混合してpH7.4に調整した緩衝液は生体成分に変性を与えず、安定しており、これら生体成分の測定試薬にも干渉しないことを見出した。
【0032】
さらに、希釈用緩衝液で希釈した生体試料中の低濃度のナトリウムを正確に定量する方法を見出した。
【0033】
本発明は、生体試料中に一定の濃度を維持している血漿中ナトリウム等を外部標準物質として用いるが、これらの物質は元素であり、安定した生体成分である。緩衝液で希釈された外部標準物質としてのナトリウム等を正確に測定することで血漿の希釈倍数を求め、採取した血液中の未知濃度の希釈血漿生体試料成分の定量及び酵素活性を市販の生化学・免疫自動分析装置で効率的に多数の試料を分析することができる。
【0034】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[2−1] 希釈用緩衝液で微量血液試料を希釈し、血液中の分析対象成分を定量分析する方法において、外部標準物質を用いて血液試料の希釈倍数を算出することを含む、血液試料中の分析対象成分の定量分析方法であって、外部標準物質は血液試料中に恒常的に所定の濃度で含まれる成分であり、前記希釈用緩衝液は外部標準物質の定量に干渉する成分を含んでおらず、希釈用緩衝液で希釈した血液試料中の外部標準物質濃度を測定し、これらの測定値に基づいて血液試料の希釈倍数を算出することを含む、血液試料中の分析対象成分の定量分析方法。
[2−2]希釈用緩衝液で希釈した血液試料中の外部標準物質濃度を測定し、これらの測定値に基づいて血液試料の希釈倍数を算出することを含む、血液試料中の分析対象成分の定量分析方法。
[2−3] 外部標準物質がナトリウム、クロール、アルブミン及び総タンパク質からなる群から選択される、[2−1]又は[2−2]の定量分析方法。
[2−4] 外部標準物質がナトリウム、クロール、及び総タンパク質からなる群から選択される、[2−3]の定量分析方法。
[2−5] 希釈用緩衝液が、緩衝剤成分として、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群から選択されるアミノアルコール化合物、並びにHEPES (2- [4- (2-Hydoxyethyl)-1-piperazinyl] ethanesulfonic acid)、TES (N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2- aminoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)及び BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)からなる群から選択される緩衝剤を含み、pH7.4で緩衝作用を有する緩衝液である、[2−1]〜[2−4]のいずれかの定量分析方法。
[2−6] 希釈用緩衝液が、ナトリウム及びクロールを実質的に含まない、[2−1]〜[2−4]のいずれかの定量分析方法。
[2−7] 微量血液試料の希釈倍数が以下の算出式(I)の算出式により算出され、希釈血漿中の分析対象成分を定量し、算出式(I)で求めた希釈倍数を乗じて、元の血漿中の分析対象成分を定量する、[2−1]〜[2−6]のいずれかの定量分析法:
A
X = --------- (I)
B
A:血漿中外部標準物質濃度の健常者中央値の吸光度、
B:希釈血漿中の外部標準物質の吸光度、
X:血漿希釈倍数
[ここで、希釈血漿とは、血液試料を希釈用緩衝液で希釈し、血球を除去して得られた血漿をいう]。
[2−8] β-ガラクトシダーゼはナトリウムイオン濃度に応じて酵素活性が変化し、その吸光度変化量からナトリウムイオン濃度を定量できることを利用し、希釈用緩衝液を用いて希釈した血液試料中のナトリウムを以下の方法で測定する[2−3]〜[2−7]のいずれかの定量分析方法:
生体試料を希釈用緩衝液で希釈し、さらに精製水で希釈し、
β-ガラクトシダーゼを含む緩衝液である第1試薬を試料量の10〜30倍容積量添加し、30〜45℃で2〜20分加温し、o-Nitrophenyl-β-D-Galactpyranosideを含む基質液である第2試薬を第1試薬量の半量を添加し、主波長410nm、副波長658nmで反応速度の吸光度を測定する。
[2−9] [2−1]〜[2−8]のいずれかの定量分析方法において、微量血液試料の希釈に用いる希釈用緩衝液であって、緩衝剤成分として、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群から選択されるアミノアルコール化合物、並びにHEPES (2- [4- (2-Hydoxyethyl)-1-piperazinyl] ethanesulfonic acid)、TES (N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2- aminoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)及び BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)からなる群から選択される緩衝剤を含み、pH7.4で緩衝作用を有する緩衝液。
[2−10] ナトリウム及びクロールを実質的に含まない、[2−9]の緩衝液。
【0035】
3.内部標準物質と外部標準物質を利用する分析方法(ハイブリッド法)
上記のように、内部標準物質を単独で利用する分析方法、及び外部標準物質を単独で利用する分析方法により、微量の生体試料中の分析対象生体成分を正確に測定できるようになった。
【0036】
本発明者らは、さらに正確な測定を目指し、内部標準物質を利用する方法の利点と外部標準物質を利用する方法の利点の両方を併せ持ち、かつ内部標準物質を利用する方法の欠点と外部標準物質を利用する方法の欠点を補う方法について鋭意検討を行った。
【0037】
上記のように、外部標準物質として生体内の恒常性が高いナトリウム、クロール、タンパク質を用い、かつ外部標準物質として利用する物質を含まない緩衝液を用いることにより、正確な測定が可能になった。しかしながら、健常人において高い恒常性を有する物質でも受検者によっては、健常人の濃度範囲を外れることがあり、この場合、正確な測定が損なわれることがあった。
【0038】
一方、希釈用の緩衝液中の内部標準物質は高い濃度に設定できるため、精度良く測定できる。しかしながら、生体試料の量が少ない場合内部標準物質の希釈が小さくなり、希釈倍数の信頼性は低下してしまう。また、有機化合物の内部標準物質としてはグリセロール-3-リン酸が安定な物質として利用でき、無機物の内部標準物質としてはリチウムが好適に利用できる。
【0039】
本発明者らは、外部標準物質を単独で用いる方法の欠点と内部標準物質を単独で用いる方法の欠点を解消し得る方法の開発について鋭意検討を行った。
【0040】
本発明者らは従来の内部標準物質の欠点を解消するため安定性が高いアルカリ金属類又はアルカリ土類金属類に属する元素を用い、外部標準物質として生体内の恒常性が高いナトリウム、クロール又はタンパク質を用いることを検討した。
【0041】
内部標準物質と生体試料中の恒常性の高い成分である外部標準物質を組み合わせて併用することで、測定精度の高い定量法として、内部標準物質を用いる方法及び外部標準物質を用いる2つの定量法の欠点を補完して信頼性の高い希釈成分定量法とすることができ、本発明を完成させるに至った。
【0042】
本発明は以下の特徴を有する。生体試料中に一定の濃度を維持している血漿中ナトリウム等を外部標準物質として用い、また血漿中に全く含まれない若しくはほとんど含まれない成分であって、血球膜を通過しない内部標準物質としてリチウム等のアルカリ金属類又はアルカリ土類金属類に属する元素や安定なグリセロール-3-リン酸を用い、これを緩衝液中に添加する。従来の有機化合物を内部標準物質として用いた場合は生体酵素の作用を受けて保存安定性に課題が残されていた。この内部標準物質は緩衝液中で長期間安定であり、容易に定量することができる。また測定する生体試料中の外部標準物質であるナトリウムも元素であるため安定である。この結果、採取した血液中の未知濃度の希釈血漿生体試料成分の定量及び酵素活性を市販の生化学・免疫自動分析装置で効率的に多数の試料を分析することができる。
【0043】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[3−1] 希釈用緩衝液で試料を希釈し、血液中の分析対象成分を定量分析する方法において、内部標準物質及び外部標準物質を用いて血液試料の希釈倍数を算出することを含む、血液試料中の分析対象成分の定量分析方法であって、内部標準物質は希釈用緩衝液に所定濃度添加され、外部標準物質は血液試料中に恒常的に所定の濃度で含まれる成分であり、前記希釈用緩衝液は内部標準物質及び外部標準物質の定量に干渉する成分を含んでおらず、希釈用緩衝液で希釈した血液試料中の内部標準物質濃度と外部標準物質濃度を測定し、これらの測定値に基づいて血液試料の希釈倍数を算出することを含む、血液試料中の分析対象成分の定量分析方法。
[3−2] 前記外部標準物質濃度の測定値を用いて、前記内部標準物質濃度の測定値から求めた血液試料の希釈倍数を補正することにより、前記血液試料中の分析対象成分を定量分析する定量分析方法。
[3−3] 内部標準物質がアルカリ金属類又はアルカリ土類金属類に属する元素、外部標準物質がナトリウム、クロール、アルブミン及び総タンパク質からなる群から選択される、[3−1]又は[3−2]の定量分析方法。
[3−4] 内部標準物質がリチウム、又はグリセロール-3-リン酸であり、外部標準物質がナトリウムである、[3−3]の定量分析方法。
[3−5] 希釈用緩衝液が、緩衝剤成分として、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群から選択されるアミノアルコール化合物、並びにHEPES (2- [4- (2-Hydoxyethyl)-1-piperazinyl] ethanesulfonic acid)、TES (N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2- aminoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)及び BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)からなる群から選択される緩衝剤を含み、pH6.5〜pH8.0の緩衝作用を有する緩衝液である、[3−1]〜[3−4]のいずれかの定量分析方法。
[3−6] 希釈用緩衝液が、ナトリウム及びクロールを実質的に含まない、[3−5]のいずれかの定量分析方法。
[3−7] 微量血液試料の希釈倍数が以下の算出式(1)〜(4)のいずれかの算出式により算出され、希釈血漿中の分析対象成分を定量し、算出式(1)〜(4)のいずれかで求めた希釈倍数を乗じて、元の血漿中の分析対象成分を定量する、[3−1]〜[3−6]のいずれかの定量分析法:
算出式(1)
A + C
X = --------- (1)
B + D
;
算出式(2)
√(A
2 + C
2)
X = --------------- (2)
√(B
2 + D
2)
;
算出式(3)
X= a × (B+D) ± b (3)
[ここで、a及びbは係数であり、あらかじめB+Dと希釈倍数のデータを取得し、X= a ×(B+D) ± bで表される標準曲線を作成しておく]
;
並びに
算出式(4)
X=A/B' (4)
[ここで、B'=(A×D)/Cである]、
[上記式において、A、B、C、D、B'及びXは以下のように定義される;
A:内部標準物質を添加した緩衝液中の内部標準物質の吸光度
B:希釈血漿中の内部標準物質の吸光度
C:血漿中外部標準物質濃度の正常中央値の吸光度、
D:希釈血漿中の外部標準物質の吸光度、
B':外部標準物質吸光度から算出した希釈倍数による、希釈血漿中の内部標準物質の吸光度の補正値、及び
X:血漿希釈倍数
[ここで、希釈血漿とは、血液試料を希釈用緩衝液で希釈し、血球を除去して得られた血漿をいう]。
[3−8] β-ガラクトシダーゼはナトリウムイオン濃度に応じて酵素活性が変化し、その吸光度変化量からナトリウムイオン濃度を定量できることを利用し、希釈用緩衝液を用いて希釈した血液試料中の外部標準の一つであるナトリウムを以下の方法で測定する[3−1]〜[3−7]の定量分析方法:
生体試料を希釈用緩衝液で希釈し、さらに精製水で希釈し、β-ガラクトシダーゼを含む緩衝液である第1試薬を試料量の10〜30倍容積量添加し、30〜45℃で2〜20分加温し、o-Nitrophenyl-β-D-Galactpyranosideを含む基質液である第2試薬を第1試薬の半量を添加し、生成するo-Nitrophenolを主波長410nm、副波長658nmで吸光度を測定する。
【0044】
[3−9] [3−1]〜[3−8]の定量分析する方法において、微量血液試料の希釈に用いる希釈用緩衝液であって、緩衝剤成分として、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群から選択されるアミノアルコール化合物、並びにHEPES (2- [4- (2-Hydoxyethyl)-1-piperazinyl] ethanesulfonic acid)、TES (N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2- aminoethanesulfonic acid)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)及び BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)からなる群から選択される緩衝剤を含み、pH7.4で緩衝作用を有する緩衝液。
[3−10] ナトリウム及びクロールを実質的に含まない、[3−9]の緩衝液。
[3−11] 外部標準物質を用いた定量分析方法に用いられる、[3−9]又は[3−10]の緩衝液。
[3−12] 内部標準物質を用いた定量分析方法に用いられる、[3−9]又は[3−10]の緩衝液。
【発明の効果】
【0045】
生体試料中の分析対象生体試料成分の分析において、内部標準物質又は外部標準物質を利用し生体試料の希釈倍数を求め、成分を定量分析することで、微量の生体試料成分の生体試料検体量を測定することなく、生体試料成分を正確に分析測定することができる。
【0046】
また、本発明によれば、手指等を介して体内から採取した微量かつ未知量の全血試料などの生体試料の血漿及び生体試料中のいずれの成分に対してもプラスチック容器を使用して、簡便かつ正確に定量することができる。また血漿希釈率と全血希釈率から計算により血液の貧血の程度である血球容積比率(ヘマトクリット値)を求めることができる。さらに全血の内部標準標準物質を用いることで、血球成分(白血球数:WBC、赤血球数:RBC、ヘモグロビン量:Hgb、ヘマトクリット:Hct)の算定が可能となる。
【0047】
さらに、内部標準物質単独又は外部標準物質単独で用いる場合、定量の精度や正確性に欠けることがあった。本発明においては、内部標準物質と外部標準物質の両方を併用して生体試料の希釈倍数を求めるため、内部標準物質により求めた希釈倍数が外部標準物質により求めた希釈倍数により補正され、より正確な値となり、より高い精度で分析対象成分を定量することができる。
【0048】
また、従来、pH7.4の中性付近で緩衝能を有し、ナトリウムやクロールを含まない緩衝液が存在しなかったため、生体中の恒常性の高い物質であるナトリウムやクロールを外部標準物質として用いることはできなかった。本発明の方法では新たに開発したpH7.4の中性付近で緩衝能を有し、ナトリウムやクロールを含まない緩衝液を用いることにより、恒常性の高いナトリウムやクロールを外部標準物質として用いることが可能になり、より高い精度と正確性の高い分析が可能になった。
【0049】
本発明の方法により、微量の血液(65μL)を用いて生化学検査13項目、腫瘍マーカー、肝炎検査など多くの検査ができる。この検査法は時間と場所を選ばないことから健診を受けられない未病を発見できる。また、気軽に検査ができることから健康管理が容易にできるため、疾患の重篤化になる前に体内の変化を捉えることができ、国民医療費の節減にも貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0051】
1.内部標準物質を利用する分析法(内部標準法)
本発明は以下の特徴を有する。すなわち、本発明の1つの特徴によれば、採取した未知濃度の血球を含む生体試料の成分を定量及び酵素活性分析する方法であって、生体試料に全く含まれない若しくはほとんど含まれない成分であって、血球膜を通過しない内部標準物質を用意し、これを緩衝液中に添加する。血液を添加する前の緩衝液中の内部標準物質濃度を分析し、その吸光度と血液添加後の希釈された緩衝液中の内部標準物質の濃度を測定することで、その吸光度の比率から血液中の血漿希釈率を求め、原血漿中の生体成分や酵素活性を求める。この場合、前記緩衝液の浸透圧がほぼ血液浸透圧となるように調製されるのが好ましい。
【0052】
本発明の方法では、血漿の希釈倍率を求めるときに、生体試料の検体量を求める必要はない。
【0053】
内部標準物質を用いる方法を内部標準法と呼び、例えば、リチウムを内部標準物質として用いる方法をリチウム(Li)内部標準法と呼ぶ。
【0054】
上記未知濃度の生体試料は、血球を含まない生体試料(唾液、尿など)であっても構わない。この場合に用いる内部標準物質は、血球膜を透過する物質であっても構わない。
【0055】
緩衝液中の内部標準物質の濃度を測定する代表的な方法としては、その内部標準物質又は内部標準物質から誘導された物質を基質とする酸化酵素を加えることによって過酸化水素を生成させ、ペルオキシダーゼ存在下でトリンダー試薬と4-アミノアンチピリンが酸化縮合して得られるキノン色素やNAD(P)H、テトラゾニウム塩の発色を吸光度として測定、定量する酵素的測定法方法がある。
【0056】
他にも内部標準物質の定量方法として、内部標準物質自身の吸光度を直接測定する方法、内部標準物質に対する抗体及び標識抗体を用いて吸光度若しくは化学発光によって測定する方法、クロマトグラフィーなどがあり、用いる内部標準物質に応じた定量方法をとり得る事が出来る。
【0057】
血液を緩衝液で希釈したときの、血漿成分の正確な希釈率を求めるためには、緩衝液に入れる内部標準物質は生体内に存在しないか、極微量に存在する成分であり、血球膜を透過しないこと、緩衝液中で安定なこと、容器に吸着しないことが必要である。また、他の生体成分に干渉しないことが必要である。
【0058】
図1に示すように、血液1は、液体成分である血漿又は血清2、と固体成分である血球3によって構成されており、更に血球3は血球膜などの固体成分とその内側に液体成分を有することが知られている。血液1には抗凝固剤であるEDTA-2ナトリウムを加えることにより血球3の凝固を阻止できる。この全血を遠心すると比重の重い血球3が最下段に沈降し、上清に血漿が分離される。
【0059】
また、
図2に示すように、予め容器に緩衝液4に血球膜を透過しない内部標準物質5を収容しておき(
図2(a))、採取した血液1を容器の上部から緩衝液4と内部標準物質5の混合層の上側に導入する(
図2(b))。そして血液1を所定の緩衝液4で希釈した場合、本来、血漿又は血清2に存在する血球膜を透過しない成分は、緩衝液4及び血漿又は血清2中に分布することになり、希釈されて血液希釈溶液6となる(
図2(c))。
【0060】
この際、緩衝液4に血球膜を透過しない内部標準物質5が規定量溶解している場合、本来緩衝液中に存在するこの内部標準物質5は、緩衝液4及び血漿又は血清2中に分布することになり、希釈される。この内部標準物質5としては血漿2中にのみ浸透するマルトースなどの内部標準物質5を含む。マルトースは陰イオンとして緩衝液4に溶解しているため、血漿2中に溶存して、血球3内には浸透しない。
【0061】
血漿成分の希釈率を求めるために緩衝液に添加される内部標準物質としては、分子量500以下の化学物質で分子内に硫酸イオン(-SO
3-)、カルボキシルイオン(-COO
-)、チオール基(-SH)、第4級アミン(-NH
3+)などの置換基を持つ化合物で、マルトースなどの2糖類、グルタミン酸、ロイシン、バリン、イソロイシン、4-ハイドロキシンベンゼン、ハイドロキシ酪酸、クレアチン、リンゴ酸、金属類(リチウム、ナトリウム、カリウム、クロール)、硫酸基を分子内に持つトリンダー試薬である(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン)、ADPS(N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン)、ALPS(N-エチル-N-スルホプロピルアニリン)、DAOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン)、HDAOS(N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン)、MAOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン)、TOOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン)、TOPS(N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン)から成る群から選ばれる。この中でもリチウムが好ましい。
【0062】
図3に内部標準物質5の全血(血漿2+血球3)への分布の説明図を示す。
図3に示す場合の内部標準物質5(たとえば、エタノールアミン)は血漿2と血球3内の両者に浸透する。予め容器に緩衝液4に血球膜を透過する内部標準物質5を収容しておき(
図3(a))、採取した血液1を容器の上部から緩衝液4と内部標準物質5の混合層の上側に導入する(
図3(b))。そして、血液1を所定の緩衝液4で希釈した場合、本来、血漿又は血清2に存在する血球膜を透過する内部標準物質は、血球3及び血漿又は血清2中の両方に存在するが、血漿又は血清2中に均一に分散して血液希釈溶液6を構成する(
図3(c))。すなわち、
図3に示す場合に使用する内部標準物質5は血漿2と血球3内の両者に分布するので緩衝液4による希釈倍数を求めることができる。
【0063】
血球膜を透過する内部標準物質としては、分子量500以下の化学物質でアミノ基(-NH
2)、アルキル基(-CH
3、-C
6H
6)、エステル基(-COOR)、アルコキシ基(-OR)、ハロゲン(-Cl, -Br, -I)などの疎水性置換基を持つ化合物で、エタノールアミン、ヘキシルアミン、フェニールエチルアミン、アミールアミン、ヒスタミン、プトレシン、ヒポキサンチン、トリプトファン、プレグレノロン、β-シトステロールなどが挙げられる。これらの内部標準に対応するは酸化酵素を用いた酵素的測定法で分析することができる。
【0064】
これらの内部標準物質は血球内と血漿内に分布するため、全血(血漿+血球)の希釈倍数を求めることに利用できる。
【0065】
生体成分を希釈する緩衝液4は、生体試料と任意の分量で混和可能であり、生体試料中の被測定成分を安定に保存できることが必要である。緩衝液4の成分は限定されないが、緩衝能を有するHEPES{2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸}緩衝液、ACES[N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸]緩衝液、ADA[N-(2-アセトアミド)イミノジ酢酸]緩衝液、BES[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノスルホン酸]緩衝液、Bicine[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン]緩衝液、Bis-Tris[ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン]緩衝液、CAPS(N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸)緩衝液、CAPSO(N-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-3-アミノプロパンスルホン酸)緩衝液、CHES(N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸)緩衝液、DIPSO{3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸}緩衝液、EPPS{3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸}緩衝液、HEPPSO{2-ヒドロキシ-3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸一水和物}緩衝液、MES(2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物)緩衝液、MOPS(3-モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝液、MOPSO(2-ヒドロキシ-3-モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝液、PIPES[ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)]緩衝液、POPSO[ピペラジン-1,4-ビス(2-ヒドロキシ-3-プロパンスルホン酸)二水和物]緩衝液、TAPS[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸]緩衝液、TAPSO[2-ヒドロキシ-N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノスルホン酸]緩衝液、TES[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸]緩衝液、Tricine{N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン}緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、リン酸緩衝液生理食塩水などが挙げられ、その濃度は特に限定されないが、0.1〜1000mmol/Lが好ましく、特に10〜500mmol/Lが好ましい。緩衝液のpHは特に限定されないが、希釈する生体試料の安定性の面から生体試料の元来のpH付近が望ましく、血液、血漿又は血清の場合、pH6〜8が好ましい。
【0066】
希釈緩衝液には被測定成分を安定に保つことを目的にキレート剤、抗菌剤、防腐剤、補酵素、糖類、阻害剤などを含んでもよい。
【0067】
キレート剤の一例としては、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩などが挙げられる。抗菌剤や防腐剤の一例としては、アミカシン硫酸塩、カナマイシン硫酸塩、チアベンダゾール、アジ化ナトリウムなどが挙げられる。補酵素の一例としては、ピリドキサルリン酸、マグネシウム、亜鉛などが挙げられる。糖類の一例としては、マンニトール、デキストロース、オリゴ糖などが挙げられる。阻害剤の一例としては、ドデシル硫酸ナトリウム、水銀、ヘパリンなどが挙げられる。
【0068】
安定化剤は、被測定成分に応じて複数の種類を組み合わせて添加しても構わない。血液、血漿又は血清を緩衝液で希釈し、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)及びALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)を被測定成分とする場合、緩衝液中にエチレンジアミン四酢酸塩及びピリドキサルリン酸が含まれていることが好ましい。この場合の緩衝液にはエチレンジアミン四酢酸塩は0.1〜5.0mmol/L、ピリドキサルリン酸は0.01〜0.20mmol/Lが含まれていることが望ましく、特にエチレンジアミン四酢酸0.5〜3.0mmol/L、ピリドキサルリン酸0.02〜0.10mmol/Lが含まれていることが好ましい。
【0069】
緩衝液に加える内部標準物質は、生体内に無いか極微量であること、生体成分に干渉を与えないこと、緩衝液内で安定であること、保存容器に吸着しないこと、精度よく測定できる検出系が利用できることなどが求められる。また、血液を希釈する場合には、血球が溶血しないような浸透圧が必要であり、250〜500mOsm/kgの浸透圧が好ましい。
【0070】
表1には緩衝液の一例として、血球膜を透過しない内部標準物質の1つであるサルコシン及び血球膜を透過する内部標準物質の1つであるエタノールアミンを含有する緩衝液の組成が示されている。
【0071】
【表1】
ここで、HEPESはN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸である。
【0072】
表2には、血球膜を通過しない内部標準物質の1つであるサルコシンの測定試薬が示されている。
【0073】
【表2】
ここで、TOOSはN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリンナトリウム二水和物である。
【0074】
以下に、マルトースの測定手順を示す。
マルトース測定にあたっては、上記R1及びR2を使用する。
1.7.0μlの混合生体試料と90μlのR1を混合し、37℃で5分間放置する。
2.545/658nm波長で吸光度を測定する。――A1(吸光度)
3.30μlのR2を混合し、37℃で5分間放置する。
4.545/658nm波長で吸光度を測定する。――A2(吸光度)
吸光度は測定値の差として表すことができる。従って、一般に吸光度はΔA=A2-A1として得られる。
【0075】
表3には、血球膜を通過する内部標準物質の1つであるエタノールアミンの測定試薬が示されている。
【0076】
【表3】
ここで、DAOSはN-エチル-N(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリンナトリウム塩である。
【0077】
以下に、エタノールアミンの測定手順を示す。
エタノールアミン測定にあたって、上記R1及びR2を使用する。
1.11μlの混合生体試料と90μlのR1を混合し、37℃で5分間放置する。
2.596/805nm波長で吸光度を測定する。――A3(吸光度)
3.45μlのR2を混合し、37℃で5分間放置する。
4.546/884nm波長で吸光度を測定する。――A4(吸光度)
吸光度は測定値の差として表すことができる。従って、一般に吸光度はΔA=A4-A3として得られる。
【0078】
吸光度と濃度の関係はLambert-Beerの法則によりA=ε×c×lであることが知られている。ここで、A(吸光度)、ε(モル吸光係数)、c(溶質のモル濃度)、l(光路長)である。吸光度(A)と溶質のモル濃度(c)は比例関係にあり、既知濃度の溶質が溶けた溶液を測定し得られた検量線を用いることによって、一般に未知試料中の溶質の濃度が算出される。
【0079】
図1に示すように、血液1は、液体成分である血漿2又は、血清と固体成分である血球3によって構成されており、更に血球は血球膜などの固体成分とその内側に液体成分を有することが知られている。血液は抗凝固剤であるEDTA-2ナトリウムを加えることで血球の凝固を阻止できる。この全血を遠心すると比重の重い血球が最下段に沈降し、上清に血漿が分離される。
【0080】
また、
図2に示すように、血液1を所定の緩衝液4で希釈した場合、本来、血漿2又は血清に存在する血球膜を透過しない成分は、緩衝液4及び血漿2又は、血清中に分布することになり、希釈される。
【0081】
この際、緩衝液4に血球膜を透過しない内部標準物質5が規定量溶解している場合、本来緩衝液中に存在するこの内部標準物質は、緩衝液及び血漿又は、血清中に分布することになり、希釈される。この内部標準は血漿中にのみ浸透するマルトースなどの内部標準を示す。マルトースは陰イオンとして緩衝液に溶解しているため、血漿中に溶存して、血球内には浸透しない。
【0082】
つまり、緩衝液4中の血球膜を透過しない内部標準物質5の初期濃度(C0)は、血液が添加されることによって濃度(C1)へ変化する。このC0及びC1によって、血漿又は、血清の希釈率(r1)=C0/(C0-C1)が算出される。緩衝液量をVO、血漿又は血清を緩衝液に添加した総量V1とする。ここで、本来血漿又は、血清に存在する血球膜を透過しない成分の希釈率は、血漿2又は、血清の希釈率と等しいので、r1=(V0+V1)/V1=C0/(C0-C1)によって算出される。
【0083】
血液1を所定の緩衝液4で希釈した場合、血球膜を透過する成分は、緩衝液及び血漿又は血清及び血球中に分布することになり、希釈される。この際、緩衝液に血球膜を透過する内部標準物質が規定量溶解している場合、本来緩衝液中に存在するこの内部標準物質は、緩衝液及び血漿又は、血清及び血球中に分布することになり、希釈される。血球膜体積(V2)、血球内体積(V3)とすると、つまり、緩衝液中の血球膜を透過する内部標準物質の初期濃度(C2)は、血液が添加されることによって濃度(C3)へ変化する。このC2及びC3によって、血液全体の希釈率(r2)=(V0+V1+V2+V3)/(V1+V2+V3)=C2/(C2-C3)が算出される。ここで、本来血漿又は、血清及び血球液体に存在する血球膜を透過する成分の希釈率は、血液全体の希釈率と等しいので、r2=(V0+V1+V2+V3)/(V1+V2+V3)=C2/(C2-C3)によって算出される。
これらは、以下の表4に示すいずれの場合でも利用可能である。
【0085】
さらに、血球膜を透過しない内部標準物質が含まれる溶液で生体試料を希釈する際、内部標準物質が含まれる溶液の容量(V0)が規定量であれば、血球膜を透過しない内部標準物質から算出される血球膜を透過しない生体試料成分の希釈率(r1)より、血球膜を透過しない生体試料の容量(V1)が算出できる。
すなわち、
V1=V0/(r1-1)
で算出できる。
【0086】
また、血球膜を透過する内部標準物質5が含まれる溶液で生体試料を希釈する際、内部標準物質が含まれる溶液の容量(V0)が定量であれば、血球膜を透過する内部標準物質から算出される血液の希釈率(r2)より、血液の容量(V1+V2+V3)が算出できる。
すなわち、
V1+V2+V3 =V0/(r2-1)
で算出できる。
【0087】
血球膜を透過しない内部標準物質と血球膜を透過する内部標準物質が含まれる溶液で生体試料を希釈する際、V0とr1から求められるV1と、V0とr2から求められるV1+V2+V3の両式より、
V2+V3 =(V1+V2+V3)- V1 = V0 / (r2 - 1) - V0 / (r1 - 1)が算出できる。
【0088】
また、血球は65%の液体と35%の固体から成ることが知られている。
V2/(V2+V3)= 0.65より
V2 = 0.65×{V0 / (r2 - 1) - V0 / (r1 - 1)}
V3 = 0.35×V2/0.65
V3 = 0.35×{V0 / (r2 - 1) - V0 / (r1 - 1)}
【0089】
従って、血球膜を透過しない内部標準物質を含む溶液、血球膜を透過する内部標準物質を含む溶液又は、血球膜を透過しない内部標準物質と血球膜を透過する内部標準物質が含まれる溶液で生体試料を希釈する際、V0、r1、r2によってV1、V2、V3が算出可能である。
【0090】
さらに、V0、r1、r2、V1、V2、V3を組み合わせることによって、
血漿又は、血清の量(V1)
血漿又は、血清の希釈率(r1)
血漿又は、血清及び血球液体の量(V1+V2)
血液全体の希釈率(r2)
血液量(V1+V2+V3)
血液の希釈率{(V0+V1+V2+V3)/(V1+V2+V3)}
血球量(V2+V3)
血球の希釈率{(V0+V2+V3)/(V2+V3)}
血球液体の量(V2)
血球液体の希釈率{(V0+V2)/V2}
血球固体の量(V3)
血球固体の希釈率{(V0+V3)/V3}
ヘマトクリット値(%){(V2+V3)/(V1+V2+V3)×100(%)}又は1-(血液希釈率-1)/(血漿希釈率-1)
緩衝液の量(V0)
緩衝液の血漿又は、血清に対する希釈率{(V0+V1)/V0}
緩衝液の血漿又は、血清及び血球液体に対する希釈率{(V0+V1+V2)/V0}
緩衝液の血液に対する希釈率{(V0+V1+V2+V3)/V0}
緩衝液の血球液体に対する希釈率{(V0+V2)/V0}
緩衝液の血球固体に対する希釈率{(V0+V3)/V0}
緩衝液の血球に対する希釈率{(V0+V2+V3)/V0}
などが算出可能である。V0、r1、r2、V1、V2、V3を単独又は組み合わせることによって算出できるものは、上記の例に限定されるものではない。
【0091】
2.外部標準物質を利用する分析法(外部標準法)
本発明は、血液等の生体試料を緩衝液で希釈した後に生体試料中の定量すべき分析対象成分を定量する方法であって、生体試料成分である外部標準物質を用いて生体試料の希釈倍数を求め、該希釈倍数から生体試料中の分析対象成分を定量することを特徴とする。
【0092】
本発明の方法では、生体試料の希釈倍率を求めるときに、生体試料の検体量を求める必要はない。
外部標準物質を用いる方法を外部標準法と呼び、例えば、ナトリウムを外部標準物質として用いる方法をナトリウム(Na)外部標準法と呼ぶ。
生体成分に含まれる恒常成分である外部標準物質を用いて希釈倍数を求める。
【0093】
本発明において、分析対象とする生体試料としては、血液、血清、血漿、尿、唾液、リンパ液、髄液、間質液、汗等の生体試料が挙げられるが、この中でも血液、血清、血漿が好ましい。特に、本発明の好ましい態様では、受検者より微量の血液を採取し、緩衝液で希釈した後、フィルターや遠心分離により血球を分離し、得られた血漿又は血清を用いて分析対象成分を測定する。また、本発明は生体試料を希釈用緩衝液を用いて希釈するため生体試料は微量で足りる。特に、生体試料が血液である場合、200μL以下の微量血液試料を用いて分析対象成分を測定することができる。
【0094】
生体試料の起源もヒトに限定されず、動物類、魚類、鳥類等であってもよい。例えば、動物類としては、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、クマ、パンダ等が挙げられる。
【0095】
分析対象となる生体試料成分は限定されず、生体試料中に含まれるあらゆる物質が対象となる。例えば、臨床診断に用いられる血液中の生化学検査項目、腫瘍マーカーや肝炎のマーカー等各種疾患のマーカー等が挙げられ、タンパク質、糖、脂質、低分子化合物等が挙げられる。また、測定は物質の濃度だけでなく、酵素等の活性を有する物質の活性も対象となる。各分析対象成分の測定は、公知の方法で行うことができる。
【0096】
外部標準物質は、生体試料中に含まれており、恒常性が高い物質、すなわち、生体試料中濃度の生理的変動が少ない物質であり、さらにヒト個体間で生体試料中濃度の差が少ない物質が好ましい。このような物質として、ナトリウム(Na
+)、クロール(Cl
-)、タンパク質が挙げられる。タンパク質としては、例えば血液中に含まれ恒常性が高いアルブミンや血清中総タンパク質等が挙げられる。この中でも、特に恒常性が高く、また、個体間の変動が少ないナトリウムが好ましい。
【0097】
ヒト血漿中のナトリウム濃度の正常値、すなわち健常人の血漿中のナトリウム濃度は、約135〜145mmol/L(mEq/L)であり、中央値は約142mmol/Lである。95%の受検者において、血漿中ナトリウム濃度は正常範囲に含まれる。2.5%の受検者においては、これよりも低濃度となり、2.5%の受検者においては、これよりも高濃度となる。緩衝液を用いて希釈した後の外部標準物質の濃度と健常人の血漿中ナトリウム濃度の平均値から、検体として用いる生体試料の希釈倍数を求めることができる。また、生体試料として、血液、血清、血漿以外の生体試料を用いる場合、各生体試料中のナトリウム濃度の中央値から希釈倍数を求めることができる。
【0098】
外部標準物質として、生体試料中に含まれる物質を用いるため、生体試料を希釈する緩衝液としては、外部標準物質が含まれていないか、あるいは含まれていたとしても生体試料を希釈した後の混合物中の外部標準物質の測定に影響を及ぼさない程度の極微量の濃度で含まれる緩衝液を用いる必要がある。また、外部標準物質の測定を妨げる物質が含まれていないか、あるいは含まれていたとしても生体試料を希釈した後の希釈溶液中の外部標準物質の測定に影響を及ぼさない程度の極微量の濃度で含まれる緩衝液を用いる必要がある。これらの物質が含まれていないか、あるいは含まれていたとしても生体試料を希釈した後の混合物中の外部標準物質の測定に影響を及ぼさない程度の極微量の濃度で含まれる緩衝液を、前記物質を実質的に含まない緩衝液という。例えば、本発明の方法で用いる希釈用緩衝液中のナトリウム濃度は、100 nmol/L以下である。
【0099】
例えば、外部標準物質として、ナトリウム又はクロールを用いる場合、生体試料の希釈用緩衝液にナトリウム又はクロールが含まれていないか、含まれていたとしても極微量である必要がある。さらに、ナトリウムはアルカリ金属類に属する元素又はアルカリ土類金属類に属する元素の定量に影響を及ぼすため、生体試料の希釈用緩衝液にナトリウムは含まれていないか、含まれていたとしても極微量である必要がある。また、生体試料中の目的分析対象物を測定するため、目的分析対象物の分解や変性を防ぐために、生体試料の希釈用緩衝液は、生体試料のpHに近い、pH6.5〜pH8.0、好ましくはpH7.0〜pH7.5、さらに好ましくはpH7.4の緩衝液である必要がある。さらに、本発明においては、緩衝液で希釈された血液中の生体成分を測定するため、緩衝液成分がこれら測定しようとする生体成分の変性や安定性に影響を及ぼしてはならない。従来は、pH7.4前後で緩衝能を有し、ナトリウムやクロールを含まない緩衝液は存在しなかったため、ナトリウムやクロールを外部標準物質として用いることは不可能であった。本発明においては、pH7.4前後で緩衝能を有し、ナトリウムやクロールを含まない緩衝液を新たに開発し、ナトリウムやクロールを外部標準物質として用いることを可能にした。
【0100】
このようなナトリウム、クロール、アルカリ金属類の元素及びアルカリ土類金属類の元素を含まないアルカリ性物質として、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール化合物類と酸性を示す化合物としてGood’s緩衝剤(グッドバッファー)があり、pKaがpH7.4付近の緩衝剤である、HEPES (2- [4- (2-Hydoxyethyl)-1-piperazinyl] ethanesulfonic acid)(pKa=7.55)、TES (N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2- aminoethanesulfonic acid)(pKa=7.50)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)(pKa=7.20)又はBES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)(pKa=7.15)を組合せて混合した緩衝液が挙げられる。この中でも、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)とHEPES、TES、MOPS又はBESの組合せが好ましく、さらに、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)とHEPESの組合せが好ましい。
【0101】
上記緩衝液を作製するためには、アミノアルコールとGood's緩衝剤を1:2〜2:1、好ましくは1:1.5〜1.5:1、さらに好ましくは1:1の濃度比で混合すればよい。緩衝液の濃度は限定されないが、アミノアルコール又はGood's緩衝剤の濃度は、0.1〜1000 mM/L、好ましくは1〜500 mM/L、さらに好ましくは10〜100 mM/Lである。
【0102】
緩衝液中には、分析対象成分を安定に保つことを目的にキレート剤、界面活性剤、抗菌剤、防腐剤、補酵素、糖類、阻害剤等が含有されてもよい。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、クエン酸塩、シュウ酸塩等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤又は非イオン界面活性剤が挙げられる。防腐剤としては、例えば、アジ化ナトリウムや抗生物質等が挙げられる。補酵素としては、ピリドキサールリン酸、マグネシウム、亜鉛等が挙げられる。糖類としては、マンニトール、デキストロース、オリゴ糖等が挙げられる。阻害剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、水銀、ヘパリン等が挙げられる。特に、マンニトールとピリドキサールリン酸の添加により血球膜や酵素を安定することができ、3〜4種類の抗生物質や抗菌剤の添加により、手指採血時に手指表面から一部混入する細菌の増殖を抑えることができ、生体成分の細菌による分解の安定化を図ることができる。
【0103】
生体試料に全血を使用する場合には、希釈した血液中の血球成分をフィルター濾過する必要から、緩衝液の浸透圧は血液と同等(285 mOsm/kg)又はそれ以上の浸透圧を用いることで血球の溶血を防ぐことができる。浸透圧は、測定しようとする生体成分の定量に影響しない塩類、糖類等、緩衝剤等により等張に調整することができる。
【0104】
本発明は、本発明の方法により生体試料の希釈倍数を用いるために用いる上記緩衝液も包含する。
【0105】
外部標準物質である、クロール(Cl
-)、タンパク質も公知の方法で測定することができる。例えば、クロールは吸光度を測定する方法があり、それは、アミラーゼがクロールイオンで活性化するため、その反応速度から測定することができる。タンパク質は、ビューレット法、ブラッドフォード法、ローリー法等により測定することができる。アルブミンの測定には、色素法であるブロムクレゾールグリーン法により測定することができる。
【0106】
緩衝液で希釈された、外部標準として用いる生体試料中ナトリウムを測定する方法には炎光光度計、原子吸光法、イオン選択電極法等がある。本発明において、生体試料として血液を用いる場合、微量な血液を手指から採取して緩衝液で希釈した試料は僅か150μL程度であり、生化学成分や免疫検査項目を10項目以上測定することから、数μLの微量の試料を用いて外部標準物質であるナトリウムを測定する必要がある。また、大量の試料を分析する必要から、市販の生化学・免疫自動分析装置に適応できる必要がある。
【0107】
ナトリウム測定においては、ナトリウムイオンにより酵素ガラクトシダーゼの酵素活性が活性化する。このため、本発明においては、ナトリウム測定法として、緩衝液で希釈された非常に低濃度ナトリウム(24 mmol/L以下)試料を数μL用いて測定する酵素的測定法を開発した。該酵素的測定法においては、希釈した生体試料の微量ナトリウム測定はβ-ガラクトシダーゼがナトリウムで活性化することを利用し、緩衝液で希釈された試料のナトリウム濃度とガラクトシダーゼ活性が比例関係にあることを利用して測定する。この方法は生化学・免疫自動分析装置に適応でき、ナトリウム測定のために別の測定機器を必要としない点で効率性が高く経済的である。
【0108】
前記ナトリウム測定法においては、血液等の生体試料を希釈用緩衝液で希釈し、さらに精製水で希釈し、β-ガラクトシダーゼを含む緩衝液である第1試薬を希釈試料の10〜30倍容積量添加し、30〜45℃で2〜20分加温し、o-Nitrophenyl-β-D-Galactpyranosideを含む基質液である第2試薬を第1試薬の量の半量ほど添加し、主波長410nm、副波長658nmで吸光度を測定する。より詳細には、血液等の生体試料を希釈用緩衝液で希釈し、さらに精製水で5倍程度に希釈し、希釈した生体試料と緩衝液混合物を1〜10μL、好ましくは3μLに第1試薬としてβ-ガラクトシダーゼを含む緩衝液30〜100μL、好ましくは52μLを、β-ガラクトシダーゼを含む緩衝液と希釈した生体試料と緩衝液混合物の容積比が10〜30、好ましくは15〜25になるように添加する。次いで、30〜45℃、好ましくは37℃で2〜20分、好ましくは5分加温し、次いで第2試薬としてo-Nitrophenyl-β-D-Galactpyranosideを含む基質液25μLを添加する。その後、主波長410nm、副波長658nmで吸光度を測定することによりナトリウム濃度を測定することができる。
本発明の生体試料の希釈倍数を求める方法は以下のようにして行う態様が望ましい。
【0109】
生体試料10〜200μLを、緩衝液50〜500μLに添加して混合する。この際、緩衝液の容積は生体試料の容積の3〜4倍以上であることが好ましい。例えば、生体試料が血液である場合、微量血液試料65μLを緩衝液280μLに添加して混合する。生体試料が血液である場合、希釈後に、赤血球、白血球等の血球を除去する。血球はフィルターを利用して除去してもよいし、希釈血液試料を遠心分離にかけ除去してもよい。血球を除去した希釈血漿試料を用いて、分析対象成分を測定する。微量血液試料65μLを緩衝液280μLに添加する場合、血液試料65μLに約30μLの血漿が含まれるため、血漿は約10倍に希釈される。生体試料として血液を用いる場合、血漿に換算し、血漿が5〜20倍、好ましくは5〜16倍、さらに好ましくは5〜10倍、特に好ましくは8〜10倍程度に希釈されるように、血液と希釈用緩衝液を混合すればよい。
【0110】
また、同時に希釈血漿試料中の外部標準物質濃度を測定する。外部標準物質濃度から血液の希釈倍数を求め、希釈血漿試料の分析対象成分の測定値に希釈倍数を乗じることにより血液中の分析対象成分濃度を算出することができる。
【0111】
生体試料として血液を用いる場合、血液を希釈用緩衝液で希釈後、血球を除去するため、残った試料は血漿であり、これを希釈血漿と呼ぶ。従って、この場合、血漿の希釈倍数を求めることをいう。
【0112】
血漿の希釈倍数は、外部標準物質を用いて算出式(I)を用いた以下の算出方法により求めることができる。
【0113】
以下に説明する方法においては、血液を希釈用緩衝液で希釈し、フィルターを用いてろ過し得られた血漿試料を用いる。
算出方法1
A
X = --------- (I)
B
A:血漿中外部標準物質濃度の正常中央値の吸光度、
B:希釈血漿中の外部標準物質の吸光度、
X:血漿希釈倍数
外部標準物質としてナトリウムを用いる場合、ナトリウムの吸光度を求めればよい。血漿中ナトリウム濃度の正常中央値の吸光度としては、ナトリウム142 mmol/Lの吸光度を用いればよい。
【0114】
3.内部標準物質及び外部標準物質を利用する測定法(ハイブリッド法)
本発明は、血液等の生体試料を緩衝液で希釈した後に生体試料中の定量すべき分析対象成分を定量する方法であって、内部標準物質及び外部標準物質を用いて生体試料の希釈倍数を求め、該希釈倍数から生体試料中の分析対象成分を定量することを特徴とする。
【0115】
本発明の方法では、生体試料の希釈倍率を求めるときに、生体試料の検体量を求める必要はない。
【0116】
内部標準物質と外部標準物質を併用して希釈倍数を求めるが、外部標準物質は内部標準物質による希釈倍数を補正し、希釈倍数を正確に求めるために用いられる。本発明の生体試料の希釈倍数を求める方法を内部標準物質と外部標準物質の両方を用いるため、ハイブリッド法と呼ぶことがある。
【0117】
内部標準物質のみを用いて生体試料の希釈倍数を求める場合、生体試料に内部標準物質を添加した希釈用緩衝液で希釈するため、生体試料の量が少ない場合、希釈倍数が大きくなり過ぎ、内部標準物質濃度から求めた希釈倍数の信頼性は低くなってしまう。本発明のハイブリッド法においては、このような内部標準物質を用いる方法の欠点について外部標準物質を用いることにより補えることができる。また、後述のように、生体試料中に内部標準物質として用いる物質が含まれていたり、元々生体試料中にある外部標準物質の濃度が正常値を外れている場合がある。このような場合でも、ハイブリッド法では、それぞれの方法の欠点を補い、正確な希釈倍数を求めることができる。
【0118】
本発明の分析対象とする生体試料としては、上記「2.外部標準物質を利用する分析法(外部標準法)」に記載の生体試料を用いることができ、生体試料の起源も上記2(外部標準法)のとおりである。
【0119】
分析対象生体試料成分も上記2(外部標準法)に記載の分析対象生体試料成分が対象となる。
【0120】
内部標準物質は、生体試料の希釈に用いる緩衝液に所定の濃度になるように添加して用いる。内部標準物質としては、生体試料中に全く含まれないか、若しくは、含まれていたとしても極微量である物質、生体試料中の分析対象成分の測定に干渉を与えない物質、生体試料中の生体酵素の作用を受けて分解しない物質、緩衝液中で安定な物質、血球膜を透過せず血球中に含まれない物質、緩衝液の保存容器に吸着しない物質、精度よく測定できる検出系が利用できる物質を用いる。このような物質として、上記「1.内部標準物質を利用する分析法(内部標準法)」に記載した物質が挙げられ、この中でも緩衝液に添加した状態で長期間保存しても安定なアルカリ金属又はアルカリ土類金属に属する元素であって、天然において生体試料中に含まれないものが好ましい。
【0121】
アルカリ金属に属する元素として、Li(リチウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)、Fr(フランシウム)が挙げられ、アルカリ土類金属に属する元素として、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)、Ra(ラジウム)が挙げられ、この中でもLiが好ましい。
また、特開2003-161729号公報に記載のグリセロール-3-リン酸を用いることもできる。
【0122】
内部標準物質の生体試料の希釈に用いる緩衝液への添加濃度は、希釈後に内部標準物質の濃度が測定できる濃度であれば、限定されない。例えば、0.1〜1000mM/L、好ましくは0.1〜100mM/L、さらに好ましくは0.5〜10mM/Lの濃度で添加すればよい。例えば、リチウムを内部標準物質として用いる場合、生体試料の希釈に用いる緩衝液にリチウムを上記濃度で添加すればよい。
【0123】
緩衝液を用いて希釈した後の生体試料の希釈液中の内部標準物質の濃度と希釈に用いた緩衝液中に添加した内部標準物質の濃度から、検体として用いる生体試料の希釈倍数を求めることができる。
【0124】
内部標準物質が含有された緩衝液に試料を添加した時の試料の希釈倍数の範囲に限定はないが、5〜20倍、好ましくは5〜15倍である。
【0125】
外部標準物質は、生体試料中に含まれており、恒常性が高い物質、すなわち、生体試料中濃度の生理的変動が少ない物質であり、さらにヒト個体間で生体試料中濃度の差が少ない物質が好ましい。このような物質として、ナトリウム(Na
+)、クロール(Cl
-)、タンパク質が挙げられる。タンパク質としては、例えば血液中に含まれ恒常性が高いアルブミンや血清中総タンパク質等が挙げられる。この中でも、特に恒常性が高く、また、個体間の変動が少ないナトリウムが好ましい。
【0126】
ヒト血漿中のナトリウム濃度の正常値、すなわち健常人の血漿中のナトリウム濃度は、約135〜145mmol/L(mEq/L)であり、正常中央値は約142mmol/Lである。95%の受検者において、血漿中ナトリウム濃度は正常範囲に含まれる。2.5%の受検者においては、これよりも低濃度となり、2.5%の受検者においては、これよりも高濃度となる。緩衝液を用いて希釈した後の外部標準物質の濃度と健常人の血漿中ナトリウム濃度の平均値から、検体として用いる生体試料の希釈倍数を求めることができる。また、生体試料として、血液、血清、血漿以外の生体試料を用いる場合、各生体試料中のナトリウム濃度の中央値から希釈倍数を求めることができる。
【0127】
緩衝液を用いて希釈した後の生体試料中の内部標準物質の濃度と希釈に用いた緩衝液中に添加した内部標準物質の濃度から、検体として用いる生体試料の希釈倍数を求め、さらに、希釈した後の生体試料中の外部標準物質の濃度と生体試料中に含まれる外部標準物質の濃度を用いて、内部標準物質濃度から算出した希釈倍数を補正することにより、より正確な希釈倍数を求めることができる。
【0128】
外部標準物質として、生体試料中に含まれる物質を用いるため、生体試料を希釈する緩衝液としては、外部標準物質が含まれていないか、あるいは含まれていたとしても生体試料を希釈した後の混合物中の外部標準物質の測定に影響を及ぼさない程度の極微量の濃度で含まれる緩衝液を用いる必要がある。また、外部標準物質及び内部標準物質の測定を妨げる物質が含まれていないか、あるいは含まれていたとしても生体試料を希釈した後の希釈溶液中の内部標準物質又は外部標準物質の測定に影響を及ぼさない程度の極微量の濃度で含まれる緩衝液を用いる必要がある。これらの物質が含まれていないか、あるいは含まれていたとしても生体試料を希釈した後の混合物中の内部標準物質又は外部標準物質の測定に影響を及ぼさない程度の極微量の濃度で含まれる緩衝液を、前記物質を実質的に含まない緩衝液という。例えば、本発明の方法で用いる希釈用緩衝液中のナトリウム濃度は、100 nmol/L以下である。
【0129】
例えば、外部標準物質として、ナトリウム又はクロールを用いる場合、生体試料の希釈用緩衝液にナトリウム又はクロールが含まれていないか、含まれていたとしても極微量である必要がある。また、内部標準物質としては、アルカリ金属類に属する元素又はアルカリ土類金属類に属する元素を用いるので、生体試料の希釈用緩衝液は、内部標準物質として用いるアルカリ金属類に属する元素及びアルカリ土類金属類に属する元素、並びにこれらに近似した物質が含まれていないか、含まれていたとしても極微量である必要がある。さらに、ナトリウムはアルカリ金属類に属する元素又はアルカリ土類金属類に属する元素の定量に影響を及ぼすため、生体試料の希釈用緩衝液にナトリウムは含まれていないか、含まれていたとしても極微量である必要がある。また、生体試料中の目的分析対象物を測定するため、目的分析対象物の分解や変性を防ぐために、生体試料の希釈用緩衝液は、生体試料のPHに近い、PH6.5〜PH8.0、好ましくはPH7.0〜PH7.5、さらに好ましくはPH7.4の緩衝液である必要がある。さらに、本発明においては、緩衝液で希釈された血液中の生体成分を測定するため、緩衝液成分がこれら測定しようとする生体成分の変性や安定性に影響を及ぼしてはならない。従来は、PH7.4前後で緩衝能を有し、ナトリウムやクロールを含まない緩衝液は存在しなかったため、ナトリウムやクロールを外部標準物質として用いることは不可能であった。本発明においては、PH7.4前後で緩衝能を有し、ナトリウムやクロールを含まない緩衝液を新たに開発し、ナトリウムやクロールを外部標準物質として用いることを可能にした。
【0130】
このようなナトリウム、クロール、アルカリ金属類の元素及びアルカリ土類金属類の元素を含まないアルカリ性化合物として、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール化合物類と酸性を示すGood’s緩衝剤(グッドバッファー)でpKaがpH7.4付近の緩衝剤である、HEPES (2- [4- (2-Hydoxyethyl)-1-piperazinyl] ethanesulfonic acid)(pKa=7.55)、TES (N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2- aminoethanesulfonic acid)(pKa=7.50)、MOPS(3-Morpholinopropanesulfonic acid)(pKa=7.20)又はBES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)(pKa=7.15)を組合せて混合した緩衝液が挙げられる。この中でも、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)とHEPES、TES、MOPS又はBESの組合せが好ましく、さらに、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)とHEPESの組合せが好ましい。
【0131】
上記緩衝液を作製するためには、アミノアルコールとGood's緩衝剤を1:2〜2:1、好ましくは1:1.5〜1.5:1、さらに好ましくは1:1の濃度比で混合すればよい。緩衝液の濃度は限定されないが、アミノアルコール又はGood's緩衝剤の濃度は、0.1〜1000 mM/L、好ましくは1〜500 mM/L、さらに好ましくは10〜100 mM/Lである。
【0132】
緩衝液中には、分析対象成分を安定に保つことを目的にキレート剤、界面活性剤、抗菌剤、防腐剤、補酵素、糖類、阻害剤等が含有されてもよい。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、クエン酸塩、シュウ酸塩等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤又は非イオン界面活性剤が挙げられる。防腐剤としては、例えば、アジ化ナトリウムや抗生物質等が挙げられる。補酵素としては、ピリドキサールリン酸、マグネシウム、亜鉛等が挙げられる。糖類としては、マンニトール、デキストロース、オリゴ糖等が挙げられる。阻害剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、水銀、ヘパリン等が挙げられる。特に、マンニトールとピリドキサールリン酸の添加により血球膜や酵素を安定することができ、3〜4種類の抗生物質や抗菌剤の添加により、手指採血時に手指表面から一部混入する細菌の増殖を抑えることができ、生体成分の細菌による分解の安定化を図ることができる。
【0133】
生体試料に全血を使用する場合には、希釈した血液中の血球成分をフィルター濾過する必要から、緩衝液の浸透圧は血液と同等(285 mOsm/kg)又はそれ以上の浸透圧を用いることで血球の溶血を防ぐことができる。浸透圧は、測定しようとする生体成分の定量に影響しない塩類、糖類等、緩衝剤等により等張に調整することができる。
【0134】
本発明は、本発明のハイブリッド法により生体試料の希釈倍数を用いるために用いる上記緩衝液も包含する。該緩衝液は、本発明のハブリッド法のみならず、外部標準を用いた定量分析方法(外部標準法)にも、内部標準を用いた定量分析方法(内部標準法)にも用いることができる。
【0135】
内部標準物質である、アルカリ金属類の元素又はアルカリ土類金属類の元素は、公知の方法で測定することができる。例えば、アルカリ金属類に属する元素又はアルカリ土類金属類に属する元素とキレート錯体を形成する物質を添加し、形成されたキレート錯体の吸光度を測定すればよい。アルカリ金属類の元素又はアルカリ土類金属類の元素とキレート錯体を形成する物質として、例えば、多価ハロゲン置換ポルフィリン化合物(例えば、ポリフルオロポルフィリン)等のポルフィリン誘導体が挙げられる。また、元素自体の吸光度を原子吸光度法により測定することもできる。具体的には、内部標準物質として緩衝液に添加したリチウムの測定は、キレート比色法(ハロゲン化ポルフィリンキレート法:perfluoro-5,10,15,20-tetraphenyl-21H,23H -porphyrin)を利用して生化学自動分析装置で行うことができる。この方法により、多数検体を微量の試料で容易に測定できる。
【0136】
外部標準物質である、クロール(Cl
-)、タンパク質も上記2(外部標準法)に記載の公知の方法で測定することができる。
【0137】
本発明の方法においては、内部標準物質としてリチウム等のアルカリ金属類の元素やアルカリ土類金属の元素を用い、かつ外部標準物質としてナトリウム(Na
+)、クロール(Cl
-)又はタンパク質等の生体試料中に含まれる物質の2つの標準物質を用いるハイブリッド法で希釈倍数を求め、内部標準物質を用いて求めた希釈倍数について外部標準物質を用いて補正して、正確な希釈倍数を求めることができる。
【0138】
躁病及び躁うつ病の躁状態の改善のための医薬として、炭酸リチウムが用いられる。治療を必要とする受検者に対して、炭酸リチウムは1日当たり数百mg〜千数百mg投与される。従って、炭酸リチウムの投与を受けている被験体の生体試料中にはリチウムが含まれ、リチウムのみを内部標準として用いた場合に、正確な希釈倍数を求めることができなくなる。
【0139】
一方、ナトリウムは前述のように健常者における血液中濃度の正常範囲は約135〜145mmol/L(mEq/L)であるが、約5%の受検者においては、健常者であっても正常値を外れ、約2.5%の被験体においては健常者であっても上記正常値より低濃度となり、約2.5%の被験体においては健常者であっても上記正常値より高濃度となる。このような受検者において、ナトリウムのみを外部標準として用いた場合、正確に希釈倍数を求めることができなくなる。
【0140】
上記のように、受検者がリチウム等のアルカリ金属類の元素やアルカリ土類金属の元素を医薬として投与されている場合や、血液中のナトリウム(Na
+)、クロール(Cl
-)又はタンパク質の濃度が正常値を外れている場合でも、内部標準物質を用いて求める希釈倍数を外部標準物質により補正するため、両者の欠点を補完することができ、正確に生体試料の希釈倍数を求めることができる。
本発明の生体試料の希釈倍数を求める方法は以下のようにして行う態様が望ましい。
【0141】
生体試料10〜200μLを、あらかじめ内部標準物質を所定の濃度で添加した緩衝液50〜500μLに添加して混合する。この際、緩衝液の容積は生体試料の容積の3〜4倍以上であることが好ましい。例えば、生体試料が血液である場合、微量血液試料65μLを内部標準添加緩衝液280μLに添加して混合する。生体試料が血液である場合、希釈後に、赤血球、白血球等の血球を除去する。血球はフィルターを利用して除去してもよいし、希釈血液試料を遠心分離にかけ除去してもよい。血球を除去した希釈血漿試料を用いて、分析対象成分を測定する。微量血液試料65μLを内部標準添加緩衝液280μLに添加する場合、血液試料65μLに約30μLの血漿が含まれるため、血漿は約10倍に希釈される。生体試料として血液を用いる場合、血漿に換算し、血漿が5〜20倍、好ましくは5〜16倍、さらに好ましくは5〜10倍、特に好ましくは8〜10倍程度に希釈されるように、血液と希釈用緩衝液を混合すればよい。
【0142】
また、同時に希釈血漿試料中の内部標準物質濃度と外部標準物質濃度を測定する。内部標準物質濃度及び外部標準物質濃度から血液の希釈倍数を求め、希釈血漿試料の分析対象成分の測定値に希釈倍数を乗じることにより血液中の分析対象成分濃度を算出することができる。
【0143】
生体試料をして血液を用いる場合、血液を希釈用緩衝液で希釈後、血球を除去するため、残った試料は血漿であり、これを希釈血漿と呼ぶ。従って、この場合、血漿の希釈倍数を求めることをいう。
【0144】
血漿の希釈倍数は、内部標準物質及び外部標準物質を用いて以下の3種類の算出方法により求めることができる。
【0145】
以下に説明する方法においては、血液を内部標準物質が添加された希釈用緩衝液で希釈し、フィルターを用いてろ過し得られた血漿試料を用いる。内部標準物質としてリチウムを用い、外部標準物質としてナトリウムを用いる。
【0146】
算出方法1
A:内部標準物質を添加した緩衝液中の内部標準物質の吸光度
B:希釈血漿中の内部標準物質の吸光度
C:血漿中外部標準物質濃度の正常中央値の吸光度
D:希釈血漿中の外部標準物質の吸光度
X:血漿希釈倍数
ここで、希釈血漿とは、血液試料を希釈用緩衝液で希釈し、血球を除去して得られた血漿をいう。内部標準物質としてリチウムを用い、外部標準物質としてナトリウムを用いる場合、リチウムの濃度は、例えば、キレート比色法等でリチウム濃度を測定した場合に得られる吸光度で表すことができる。また、ナトリウムの濃度は、酵素的測定法等で測定した場合の吸光度で表すことができる。血漿中ナトリウム濃度の正常中央値は健常者の中央値であり、血漿中ナトリウム濃度の正常中央値の吸光度としては、ナトリウム142 mmol/Lの吸光度を用いればよい。該値は、既知の値である。以下の算出方法2及び3においても同様である。
【0147】
緩衝液による血漿の希釈倍数Xは下の算出式(1)又は算出式(2)で求めることができる。
A + C
X = -------- (1)
B + D
√(A
2 + C
2)
X = -------------- (2)
√(B
2 + D
2)
希釈血漿中の分析対象成分である生化学成分の測定濃度や酵素活性を定量し、該定量値に算出式(1)又は算出式(2)で求めた希釈倍数を乗じて、元の血漿中の分析対象成分を定量することができる。
【0148】
算出方法2
B:希釈血漿中の内部標準物質の吸光度
D:希釈血漿中の外部標準物質の吸光度
X:血漿希釈倍数
血漿の希釈倍数は下の算出式(3)で求めることができる。
X= a × (B+D) ± b (3)
(a及びbは係数)
算出方法2においては、あらかじめB+Dと希釈倍数のデータを取得し、X = a × (B+D) ± bで表される回帰直線を作成しておく。
希釈血漿中の分析対象成分である生化学成分の測定濃度や酵素活性を定量し、該定量値に算出式(3)で求めた希釈倍数を乗じて、元の血漿中の分析対象成分を定量することができる。
【0149】
算出方法3
A:内部標準物質を添加した緩衝液中の内部標準物質の吸光度
B:希釈血漿中の内部標準物質の吸光度
C:血漿中外部標準物質濃度の正常中央値の吸光度、
D:希釈血漿中の外部標準物質の吸光度
B':外部標準物質の吸光度から算出した希釈倍数による、希釈血漿中の内部標準物質の吸光度の補正値
X:血漿希釈倍数
内部標準物質(例えば、リチウム)と外部標準物質(例えば、ナトリウム)の希釈倍数Xは同じと仮定すると、下記の式が得られる。
X = A/B = C/D
外部標準物質(例えば、ナトリウム)の希釈倍数により内部標準物質(例えば、リチウム)の吸光度変化量補正値B'を下の式で求める。
(B')=(A×D)/C
内部標準物質(例えば、リチウム)の吸光度変化量補正値B'でAを除することで外部標準物質(例えば、ナトリウム)補正による内部標準物質(例えば、リチウム)希釈倍数を求める。
X=A/B' (4)
希釈血漿中の分析対象成分である生化学成分の測定濃度や酵素活性を定量し、該定量値に算出式(4)で求めた希釈倍数を乗じて、元の血漿中の分析対象成分を定量することができる。
【実施例】
【0150】
以下、本発明の実施例について説明する。
1.内部標準を利用する分析法(内部標準法)
[実施例1−1]
マルトースを内部標準物質として希釈緩衝液に添加した血液希釈緩衝液にEDTA-2Na添加した全血試料を60μLと血液希釈緩衝液を200 μL加え、50例の静脈血液試料について検討した。希釈なしの全血を遠心して得られた血漿の測定値と希釈した血漿の測定値に内部標準で希釈倍数を乗じて求めた希釈血漿測定値について相関を調べた結果、
図1に示すように酵素活性(トランスアミナーゼ;ALT,γ-グルタミルトランスフェラーゼ;GGT)、脂質検査(中性脂肪;TG、LDL-コレステロール、グルコース、ヘモグロビンA1c)の検査で良好な相関性が得られた。
【0151】
[実施例1−2]
血球及び血漿に分布する内部標準であるエタノールアミンを血液希釈緩衝液に添加した希釈緩衝液にEDTA-2Na添加した全血試料を60μLと血液希釈緩衝液を200μL加え、50例の静脈血液試料について検討した。
静脈採血のEDTA-2Na添加全血とこの全血を血液希釈緩衝液で希釈した希釈全血をそれぞれ試料として白血球(WBC)、赤血球(RBC)、ヘモグロビン濃度(Hgb)、ヘマトクリット値(Hct)、血小板数(Plt)を算定した相関図を
図5に示す。これによれば血小板数を除き、良好な相関性が認められる。
【0152】
[実施例1−3]
マルトース内部標準から求めた血漿希釈率とエタノールアミンから求めた全血希釈率を用いて計算式から求めた血液中の血球体積を示すヘマトクリット値と全血を血球計数機で求めた値との相関を調べた。その結果を
図6に示す。良好な相関性で実用性がある。
【0153】
2.外部標準物質を利用する分析法(外部標準法)
[実施例2−1] 微量血液試料を用いた定量分析
(1)外部標準物質(ナトリウム)の測定及び希釈倍数の算出
微量血液試料65μLを緩衝液280μLに添加して混合し、フィルターで血球を濾過して、希釈血漿を試料として生化学自動分析装置で外部標準物質及び生体成分の各濃度を測定した。
血液試料の希釈用緩衝液としては、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールとHEPES(2-[4-(2-Hydoxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)を組合わせて混合したpH7.4の緩衝液を用いた。
用いた緩衝液の組成を表5に示す。
【0154】
【表5】
【0155】
外部標準物質としては、血液試料に含まれているナトリウムを用いた。
希釈血漿の微量ナトリウム測定はβ-ガラクトシダーゼがナトリウムで活性化することを利用し、緩衝液で希釈された試料のナトリウム濃度とガラクトシダーゼ活性が比例関係にあることを利用した酵素的測定法を開発した。
表6にナトリウム測定試薬の組成を示す。
【0156】
【表6】
【0157】
表6に示したナトリウム測定試薬を用いて、以下の測定を行った。
希釈緩衝液280μLに全血65μLを添加すると全血中の血漿(約30μL)は約10希釈される。この希釈血漿を精製水で4.5倍希釈後の3μLにβ-ガラクトシダーゼ緩衝液(第1試薬)を52μL加えて、37℃で5分加温し、基質液o-Nitrophenyl-β-D-Galactpyranoside(第2試薬)を26μL加えて、1分間の吸光度速度変化を、日本電子(株)JCA-BM 6050型生化学自動分析装置を用いて、主波長410nm、副波長658nmで吸光度を測定することにより求めた。
図1にナトリウム濃度と吸光度変化量を示した検量線を示す。24mmol/Lまで原点を通る直線性が得られナトリウムの定量性が認められた。
【0158】
(2)外部標準物質(クロール)の測定
以下の試薬を用いた
1)第一試薬:pH6.0, 0.1 mol/L MES・NaOH緩衝液に膵由来アミラーゼ2 U/ml及び10 mmol/L EDTAを含む溶液
2)第二試薬:5 mmol/L 2-クロロ-4-ニトロフェニルマルトース溶液
クロール測定法は以下のとおりであった。
試料5μLに第一試薬150μL加え、37℃で5分間加温して後、第二試薬を50μL加えた後、1分後から2分間の405nmにおける吸光度変化を求めた。
図8にクロール濃度と吸光度変化量を示した検量線を示す。
【0159】
(3)微量血液試料と静脈血漿との相関性
表7には血漿測定値と外部標準物質(ナトリウム)の希釈倍率から求めた希釈血漿測定値との相関統計値を示した。測定は、日本電子(株)JCA-BM 6050型自動分析装置を用いて行った。142mmol/Lのナトリウム測定吸光度(A)と希釈血漿のナトリウム吸光度(B)を下記の式(I)により求めた希釈倍数(X:8倍希釈)を利用して求めた希釈血漿の生化学検査データ(希釈血漿測定値)と血漿データ(血漿測定値)の相関を示す。各検査項目の血漿測定は常法で行った。また、希釈血漿の測定は常法より試料の容量を増やして最適化した条件で測定を行った。表7に示すように生化学検査13項目の相関性は良好であり、微量の血液から元の血漿中の生化学検査データを得ることが可能である。
A
X = --------- (I)
B
【0160】
【表7】
【0161】
3.内部標準物質及び外部標準物質を利用する分析法(ハイブリッド法)
[実施例3−1] 微量血液試料を用いた定量分析
(1)内部標準物質(リチウム、グリセロール-3-リン酸)及び外部標準物質(ナトリウム)の測定及び希釈倍数の算出
微量血液試料65μLを内部標準物質添加緩衝液280μLに添加して混合し、フィルターで血球を濾過して、希釈血漿を試料として生化学自動分析装置で内部標準物質と外部標準物質及び生体成分の各濃度を測定した。
血液試料の希釈用緩衝液としては、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールとHEPES(2-[4-(2-Hydoxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)を組合わせて混合したpH7.4の緩衝液を用いた。
用いた内部標準物質を添加した緩衝液の組成を表8に示す。
【0162】
【表8】
【0163】
内部標準物質としてはリチウムを用い、希釈用緩衝液に1 mM/Lの塩化リチウムを添加した。外部標準物質としては、血液試料に含まれているナトリウムを用いた。
緩衝液に内部標準物質として添加したリチウムの測定は、キレート比色法(ハロゲン化ポルフィリンキレート法:perfluoro-5,10,15,20-tetraphenyl-21H,23H -porphyrin)により行った。
希釈血漿の微量ナトリウム測定はβ-ガラクトシダーゼがナトリウムで活性化することを利用し、緩衝液で希釈された試料のナトリウム濃度とガラクトシダーゼ活性が比例関係にあることを利用した酵素的測定法を開発した。
表9にナトリウム測定試薬の組成を示す。
【0164】
【表9】
【0165】
表9に示したナトリウム測定試薬を用いて、以下の測定を行った。
希釈緩衝液280μLに全血65μLを添加すると全血中の血漿(約30μL)は約10希釈される。この希釈血漿を精製水で4.5倍希釈後の3μLにβ-ガラクトシダーゼ緩衝液(第1試薬)を52μL加えて、37℃で5分加温し、基質液o-Nitrophenyl-β-D-Galactpyranoside(第2試薬)を26μL加えて、1分間の吸光度速度変化を、日本電子(株)JCA-BM 6050型生化学自動分析装置を用いて、主波長410nm、副波長658nmで吸光度を測定することにより求めた。
図7にナトリウム濃度と吸光度変化量を示した検量線を示す。24mmol/Lまで原点を通る直線性が得られナトリウムの定量性が認められた。
【0166】
【表10】
【0167】
表10の測定試薬を用いて以下方法でリチウムの測定を行った。
希釈緩衝液280μLに全血65μLを添加すると全血中の血漿(約30μL)は約10希釈される。日本電子(株)JCA-BM 6050型生化学自動分析装置を用いて、この希釈血漿を精製水で4.5倍希釈後の5μLにキレート試薬(第1試薬)を55μL加えて、37℃で10分加温し、主波長545nm、副波長596nmで吸光度を測定することにより求めた。
【0168】
図9にリチウム濃度と吸光度を示した検量線を示す。1 mmol/Lまで原点を通る直線性が得られリチウムの定量性が認められた。
【0169】
グリセロール-3-リン酸を内部標準物質とした時の測定法は、希釈緩衝液280μLに全血65μLを添加すると全血中の血漿(約30μL)は約10希釈される。日本電子(株)JCA-BM 6050型生化学自動分析装置を用いて、この希釈血漿を精製水で4.5倍希釈後の9μLに第1試薬(ペルオキシダーゼ)を50μL加えて、37℃で5分加温し、第二試薬(グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ)25μL加えて5分後に、主波長596nm、副波長884nmで吸光度を測定することにより求めた。4 mmol/Lまで原点を通る直線性が得られグリセロール-3-リン酸の定量性が認められた。
グリセロール-3-リン酸測定法は表11に示した試薬組成を用いた。
【0170】
【表11】
【0171】
(2)微量血液試料と静脈血漿との相関性
日本電子(株)JCA-BM 6050型自動分析装置を用いて測定した血漿と希釈血漿の生化学検査項目の測定値の相関図を
図10−1〜10−6に示す。希釈用緩衝液中の内部標準物質(リチウム)の測定吸光度(A)と血漿添加後の内部標準物質の測定吸光度(B)及び142mmol/Lのナトリウム測定吸光度(C)と希釈血漿のナトリウム吸光度(D)を下記の算出式(1)により求めたハイブリッドで希釈倍数(X:8倍希釈)を利用して求めた希釈血漿の生化学検査データ(希釈血漿測定値)をy軸、血漿データ(血漿測定値)をx軸に表示した。各検査項目の血漿測定は常法で行った。また、希釈血漿の測定は常法より試料の容量を増やして最適化した条件で測定を行った。
図10−1〜10−6に示すように生化学検査13項目の相関性は良好であり、微量の血液から元の血漿中の生化学検査データを得ることが可能である。
A + C
X = -------- (1)
B + D
表12には内部標準物質(リチウム)及び外部標準物質(ナトリウム)を併用するハイブリッド法での血漿測定値と希釈血漿測定値との相関統計値を示した。
【0172】
【表12】
【0173】
[実施例3−2] 血漿と希釈血漿の生化学検査項目の測定値の相関
日本電子(株)JCA-BM 6050型自動分析装置を用いて測定した血漿と希釈血漿の生化学検査項目の測定値の相関を表13に示す。希釈用緩衝液中の内部標準物質(グリセロール-3-リン酸)の測定吸光度(A)と血漿添加後の内部標準物質の測定吸光度(B)及び142mmol/Lのナトリウム測定吸光度(C)と希釈血漿のナトリウム吸光度(D)を実施例3−1の算出式(1)により求めたハイブリッドで希釈倍数(X:8倍希釈)を利用して求めた希釈血漿の生化学検査データ(希釈血漿測定値)をy軸、血漿データ(血漿測定値)をx軸に表示した。各検査項目の血漿測定は常法で行った。また、希釈血漿の測定は常法より試料の容量を増やして最適化した条件で測定を行った。表13に示すように生化学検査13項目の相関性は良好であり、微量の血液から元の血漿中の生化学検査データを得ることが可能である。
表13には内部標準物質(グリセロール-3-リン酸)及び外部標準物質(ナトリウム)を併用するハイブリッド法での血漿測定値と希釈血漿測定値との相関統計値を示した。
【0174】
【表13】
【0175】
[実施例3−3] 内部標準物質(Li)と外部標準物質(Na)の併用による検査データの測定誤差と精度に与える影響
(1)外部標準物質として血漿ナトリウムを用いる場合の希釈倍数に与える影響
健常者の血漿ナトリウム濃度は個体内及び個体間の生理的変動は非常に小さく、その基準範囲(正常範囲)は135〜145 mmol/Lである。この健常者の中央値である142mmol/Lという値を利用して、血液試料を希釈用緩衝液で希釈し血球を除去して得た希釈血漿中のナトリウム濃度を高感度な酵素法で測定すると0〜30 mmol/Lまで精度良く測定ができる。また、基準範囲上下限の135mmol/Lと145 mmol/Lの試料を142 mmol/Lを基準として希釈倍数を補正しても±2%の誤差範囲内で測定ができる。
【0176】
しかし、表14に示すように基準範囲上下限値を超える健常者はそれぞれ全体の2.5%存在するため、136 mmol/Lと148 mmol/Lの血漿ではそれぞれ±4%以上の誤差が生じる問題点がある。リチウムを内部標準物質とする希釈倍数を求める方法とナトリウムを外部標準物質として希釈倍数を求める方法を併用するハイブリッド法においては、表14に示すように±4%以上の誤差は半分に低減できる。表14において、希釈倍数の欄の「Na外部標準」は、外部標準物質であるナトリウムの濃度のみに基づいて求めた希釈倍数を示し、「Na-Li補正:ハイブリッド法補正」は、外部標準物質であるナトリウムの濃度及び内部標準物質であるリチウムの濃度の両方に基づいて求めた希釈倍数を示す。「ハイブリッド法補正」における希釈倍数は、実施例3−1の算出式(1)を用いて算出した。ナトリウムのみによる希釈倍数とハイブリッドによる希釈倍数の2つの方法で血漿コレステロールでの測定値に与える誤差を表14に示した。ハイブリッド法を用いることで誤差が半減することが分かる。
【0177】
【表14】
【0178】
(2)内部標準物質としてリチウムを用いる場合の希釈倍数に与える影響
血液を希釈する緩衝液にリチウムを内部標準物質として添加した場合、血液中の血漿量に応じてリチウム濃度が希釈されて、血漿希釈倍数を求める方法は8〜10倍程度までは血漿添加量が多いため、添加前と添加後の濃度差が大きく希釈倍数の再現性は変動係数2%以下である。しかし、12〜16倍では血漿の添加量が減少するため希釈倍数は変動係数4〜5%に上昇する。
【0179】
表15に示すようにハイブリッド法補正による12倍から16倍までの希釈倍数は約3%となり血液が採取しにくい受検者であっても精度の良いデータが得られた。血漿コレステロール210 mg/dlの受検者が16倍希釈の場合、内部標準物質として内部標準物質であるリチウムのみを用いて希釈倍数を算出し、測定値を補正した場合は199〜221mg/dlの変動を与えることから高脂血症(220 mg/dl以上)の対象者に判定される。表15において、「Li内部標準」は、内部標準物質であるリチウムの濃度のみに基づいて求めた希釈倍数を示し、「Na外部標準」は、外部標準物質であるナトリウムの濃度のみに基づいて求めた希釈倍数を示し、「ハイブリッド法補正」は、外部標準物質であるナトリウムの濃度及び内部標準物質であるリチウムの濃度の両方に基づいて求めた希釈倍数を示す。「ハイブリッド法補正」における希釈倍数は、実施例3−1の算出式(1)を用いて算出した。
【0180】
一方、内部標準物質としてのリチウムと外部標準物質としてのナトリウムを併用して希釈倍数を算出し測定値による補正した場合では204〜216 mg/dlとなり、健常者として判定される。
従って、ハイブリッド法を用いた補正により、精度の高い測定値を得ることができる。
【0181】
【表15】
【0182】
血漿希釈倍数を6〜16倍における内部標準物質としてリチウムと外部標準ナトリウム及びハイブリット法での希釈倍数に与える再現性(CV%)への影響を表15に示した。
ハイブリット法は内部標準法の単独の再現性に比べ良好な再現性を示した。