特許第6681831号(P6681831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6681831パターン化された金属被膜を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681831
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】パターン化された金属被膜を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/14 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
   C23C18/14
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-539297(P2016-539297)
(86)(22)【出願日】2014年12月4日
(65)【公表番号】特表2017-501304(P2017-501304A)
(43)【公表日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】EP2014076522
(87)【国際公開番号】WO2015090991
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年11月30日
(31)【優先権主張番号】102013114572.8
(32)【優先日】2013年12月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500449008
【氏名又は名称】ライプニッツ−インスティトゥート フィア ノイエ マテリアーリエン ゲマインニュッツィゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクタ ハフトゥンク
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ オリヴェイラ ペーター ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】デーア トビアス
(72)【発明者】
【氏名】モー カーステン
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−089319(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0220176(US,A1)
【文献】 特表2010−527332(JP,A)
【文献】 特開平10−340629(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0236732(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造化された金属被膜を製造する方法であって、
a)少なくとも1つの作用物質を含む開始剤組成物を基板に適用する工程と、
b)金属層のための少なくとも1つの前駆体化合物を含む前駆体組成物を、前記基板に適用する工程と、
c)前記開始剤組成物の前記作用物質によって、前記前駆体組成物の金属層を堆積させる工程と、
を含み、前記開始剤組成物がエマルションであり、前記作用物質がZnO又はTiOのナノスケールの粒子である、方法。
【請求項2】
前記粒子が表面改質されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エマルションが、ピッカリングエマルションであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記開始剤組成物中におけるナノスケールの粒子の含有量が0.1重量%より大きいことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)と工程b)との間に乾燥を行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは透明な、構造化された金属被膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造化された導電性被膜は、多くの用途において重要な役割を担っている。かかる構造化された導電性被膜は、特にタッチスクリーン又はOLEDに必要とされるものである。また、該被膜は透明であることが好ましい。
【0003】
これに関連する1つの問題は、上述の用途の基板が主にプラスチックから作られることである。かかるプラスチックが絶縁体であるだけでなく、それらの表面の処理中に低い温度を要件とする。
【0004】
特に、透明な被膜は特に微細な構造を必要とする。これらは、加圧法によってすぐに得ることができるものではない。比較的大きい領域の被膜も問題となる。
【0005】
特許文献1は、表面上に導電性構造を形成する銀ナノ粒子を有するエマルションを開示している。ここで、銀ナノ粒子は、焼結プロセス後に導電性構造を形成する。ここでの欠点は、特に導電性をあまり簡単に制御することができないことにあり、また構造の作製に高温の焼結プロセスを必要とすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/084849号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明により扱われる課題は、導電性コーティング剤で表面をコーティングする方法を提供することであり、この方法は、低温で行うことができ、そしてまた、構造の良好な制御を可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題は、独立項の特徴を有する発明によって解決される。本発明の有利な実施の形態は、従属項において特徴付けられる。特許請求の範囲全ての表現は、引用することにより本明細書の一部をなす。本発明はまた、独立項及び/又は従属項の、あらゆる意味のある、また特にあらゆる言及される組合せを含む。
【0009】
本課題は、
構造化された金属被膜を製造する方法であって、
a)少なくとも1つの作用物質を含む開始剤組成物を基板に適用する工程と、
b)金属層のための少なくとも1つの前駆体化合物を含む前駆体組成物を、前記基板に適用する工程と、
c)前記開始剤組成物の前記作用物質によって、前記前駆体組成物の金属層を堆積させる工程と、
を含み、工程a)及び/又は工程b)における前記組成物の少なくとも一方が、エマルションである、方法によって解決される。
【0010】
個々の方法工程を以下により詳細に説明する。記載される方法は更なる不特定の工程を有していてもよい。
【0011】
開始剤組成物でコーティングされる基板は、この目的に好適ないずれの材料であってもよい。好適な材料の例は、金属若しくは合金、ガラス、セラミック酸化物及びガラスセラミックを含むセラミック、又はプラスチック、並びに、紙及び他のセルロース含有材料である。当然ながら、上述の材料から作られる表層を有する基板を使用することも可能である。表層は例えば、金属被覆、ほうろう引き、ガラス若しくはセラミックの層、又は塗料であってもよい。
【0012】
金属又は合金の例は、ステンレス鋼を含む鋼、クロム、銅、チタン、スズ、亜鉛、黄銅及びアルミニウムである。ガラスの例は、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛結晶及びシリカガラスである。ガラスは例えば、フラットガラス、中空ガラス、例えば容器ガラス、又は実験機器ガラスとすることができる。セラミックは例えば、酸化物であるSiO、Al、ZrO若しくはMgO、又は対応する混合酸化物をベースとするセラミックである。金属と同様にフィルム形態にすることができるプラスチックの例は、ポリエチレン(PE)、例えばHDPE又はLDPE、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルブチラール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、再生セルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、三酢酸セルロース(TAC)、酢酸酪酸セルロース又は塩酸ゴムである。塗装面は、従来のプライマ又は塗料から形成され得る。好ましい実施の形態では、基板が、フィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリアミドフィルムである。
【0013】
本発明によれば、組成物の少なくとも一方がエマルションである。その後、作用物質及び/又は前駆体化合物は相のうちの1つの中に、特に好ましくは相界面に配されることが好ましい。これは多くの場合、作用物質及び/又は前駆体化合物が、例えば疎水性又は親水性であることから、エマルションの相内に異なる分布を有することに由来する。これにより、表面に適用すると、エマルションのパターン化が表面に移行する。エマルションの自己組織化が表面上で起こる。このように、格子状又はハニカム状の構造を得ることが可能となる。
【0014】
好ましくは、エマルションは、ピッカリングエマルション、すなわち、粒子の添加によって安定化されるエマルションである。かかるエマルションでは、粒子、特にナノ粒子自体がエマルションの分散相の周りに位置づけることによって、エマルションを安定化させる。安定化の程度は、まず粒子の半径、界面張力だけでなく、それらの濡れ性にも左右される。油/水型エマルションの最適な安定化は通常、90°の接触角で実現される。結果的に、粒子は疎水性又は親水性どちらかに片寄りすぎてもいけない。
【0015】
特にピッカリングエマルションの場合、表面に適用すると、相界面に沿って粒子の自己組織化がもたらされる。これによって、エマルション中に存在するナノ粒子からなる格子状又はハニカム状の構造が得られる。
【0016】
ここで、エマルションは、安定化のための分散剤を含んでいてもよい。エマルションは、O/W型又はW/O型エマルションとすることができる。O/W型エマルションの方が好ましい。ここでは疎水性相が分散相となる。ピッカリングエマルションの場合、エマルション中に存在するナノ粒子がエマルションの分散相を安定化させている。
【0017】
使用されるエマルションは好ましくは、水性相及び油性相(oily phase)からなる。水性相については、水、又は水と有機溶剤、好ましくは水溶性溶剤とを含む混合物が好ましい。水性相は、水、又は水とアルコール、アルデヒド及び/又はケトンとの混合物、特に好ましくは水、又は水と、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール若しくはエチレングリコール等の炭素数が最大4である一価若しくは多価アルコール、例えばホルムアルデヒド等の炭素数が最大4であるアルデヒド、及び/又は例えばアセトン若しくはメチルエチルケトン等の炭素数が最大4であるケトンとの混合物であるのが特に好ましい。水性相は水であることがとりわけ好ましい。
【0018】
油相(oil phase)は好ましくは、水性相に溶解しない少なくとも1つの有機溶剤である。有機溶剤は、炭素数が少なくとも5である芳香族炭化水素又は脂肪族炭化水素、例えば石油エーテル、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、ベンゼン、シクロペンタン又はシクロヘキサン、ハロゲン化芳香族炭化水素又はハロゲン化脂肪族炭化水素、例えばジクロロメタン、クロロホルム、酢酸アルキル、例えば酢酸ブチル、ケトン、例えばアセトフェノン又はシクロヘキサノンであるのが好ましい。溶剤の混合物を使用することも可能である。
【0019】
エマルションの両相については、150℃未満の沸点を有する溶剤が好ましい。
【0020】
エマルションについて、油相の割合は好ましくは、全組成物に対して15重量%〜80重量%である。ここで、含有量が50重量%より大きければ通常、W/O型エマルションとなるのに対し、含有量が50重量%より小さければO/W型エマルションとなる。
【0021】
油相の含有量が、全組成物に対して、O/W型エマルションの場合には15重量%〜40重量%、好ましくは20重量%〜30重量%であり、W/O型エマルションの場合には60重量%〜80重量%であるエマルションが特に好ましい。
【0022】
また、本組成物のようなエマルションは、例えば、ポリマー、バッファ又は分散助剤、成膜剤等の更なる化合物を含んでいてもよい。好ましくは、本組成物は、これらの助剤を、全組成物に対して、10重量%以下、好ましくは5重量%以下の量で含む。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態では、エマルションが、添加剤、特に、界面活性化合物、バインダ、ポリマー、バッファ又は分散剤を含まない。
【0024】
開始剤組成物は、開始剤として、前駆体化合物による金属層の堆積をもたらし得る少なくとも1つの作用物質を含む。これは、堆積の活性化に応じて種々の化合物とすることができる。したがって、堆積は、熱的、化学的に及び/又は放射によってもたらされ得る。
【0025】
作用物質は例えば、アルデヒド基等の還元性基又はその前駆体を含むことができる。
【0026】
好ましくは、開始剤組成物は、開始剤として、光触媒活性無機物質を含む。ここで、光触媒活性物質は、それ自体はプロセス中に分解されることなく、金属錯体中の金属イオンの還元を直接もたらして金属とする化合物、及び/又は、金属錯体若しくは更なる物質の酸化的活性化により間接的に金属イオンの還元をもたらす化合物を意味するものと理解される。酸化中に形成される生成物は、金属錯体の分解、及び錯体中の金属イオンの還元をもたらす。光触媒材料は、ZnO又はTiOとすることができ、TiOが好ましい。特に好ましくは、TiOはアナターゼ形態をとる。
【0027】
TiOは非晶質TiO形態をとるものであってもよい。好ましくは、TiOは、TiOのナノスケールの粒子である。TiOは、例えば、200nm未満の平均直径、好ましくは50nm未満、特に好ましくは20nm未満の平均直径(TEMを用いて求める)を有する、TiOのナノスケールの粒子であってもよい。1nm〜100nm、好ましくは1nm〜20nmの平均直径(TEMを用いて求める)を有する粒子が特に好ましい。
【0028】
本発明の一実施の形態において、使用される粒子の流体力学的半径(DLSにより測定)は、300nm未満、好ましくは200nm未満、特に好ましくは150nm未満である。本発明のとりわけ好ましい実施の形態では、粒子の流体力学的半径が120nm未満である。これに関連して、粒子は、特定の流体力学的半径を有する凝集体として存在するものであってもよい。ここで、粒子は、その少なくとも90%が上述の範囲内の流体力学的半径を有する粒子の分布として存在するものであってもよい。
【0029】
本発明の一実施の形態において、粒子は、独立して又は上記のパラメータと組み合わせて、動的光散乱法を用いて測定した100nm未満のd50値を有する。粒子は好ましくは150nm未満のd80値を有する。
【0030】
流体力学的半径は、粒子の表面改質を通じて増大させることができる。本発明の一実施の形態において、粒子が改質されていない場合、50nm未満のd50値を有し、好ましくは50nm未満のd80値を有する粒子が好ましい。表面改質させた場合には、100nm未満のd50値を有し、好ましくは150nm未満のd80値を有する粒子が好ましい(全て動的光散乱法を用いて測定)。
【0031】
使用される粒子は好ましくは、コロイド的に安定な形で存在する。安定化助剤も任意に添加してもよいが、好ましくない。
【0032】
特に、好ましくはTiO粒子を含む光触媒活性開始剤組成物を用いる場合、粒子の表面上に位置する任意の有機成分を除去する可能性がある。金属粒子を直接適用すれば、かかる有機成分が導電性を極度に阻害するおそれがある。本発明による方法は、かかる添加剤による影響を殆ど受けにくい。結果的に、表面上のパターン化を遙かに正確に制御することができる。
【0033】
例えば、米国特許出願公開第2009/0269510号に記載されている、熱水条件下で準化学量論的な量の水により得られる粒子が特に好ましい。かかる粒子はドープされた形態でも生成することができる。
【0034】
このため、ナノ粒子の場合には、ナノ粒子の生成中にドーピングに好適な金属化合物、例えば、酸化物、塩又は錯体化合物、例えば、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩(例えば酢酸塩)又はアセチルアセトネートを使用することができる。化合物は便宜上、ナノ粒子を生成するのに使用される溶剤に可溶性のものとする。好適な金属は、任意の金属、特に、元素周期律表の第5族〜第14族、並びにランタノイド及びアクチニドから選択される金属である。これらの群は、Roempp Chemie Lexikon(第9版)において示されるように、新しいIUPAC法に従って本明細書中に挙げられている。金属は任意の好適な酸化状態で化合物中に現れるものとすることができる。
【0035】
金属化合物に適した金属の例は、W、Mo、Zn、Cu、Ag、Au、Sn、In、Fe、Co、Ni、Mn、Ru、V、Nb、Ir、Rh、Os、Pd及びPtである。W(VI)、Mo(VI)、Zn(II)、Cu(II)、Au(III)、Sn(IV)、In(III)、Fe(III)、Co(II)、V(V)及びPt(IV)の金属化合物を使用するのが好ましい。特にW(VI)、Mo(VI)、Zn(II)、Cu(II)、Sn(IV)、In(III)及びFe(III)を用いることで非常に良好な結果が達成される。好ましい金属化合物の具体例は、WO、MoO、FeCl、酢酸銀、塩化亜鉛、塩化銅(II)、酸化インジウム(III)及び酢酸スズ(IV)である。
【0036】
また、金属化合物と、チタン化合物又は亜鉛化合物との量比は、使用される金属及びその酸化状態に応じて決まる。概して、例えば、金属化合物の金属と、チタン化合物又は亜鉛化合物のチタン/亜鉛とのモル比(Me/Ti(Zn))が、0.0005:1〜0.2:1、好ましくは0.001:1〜0.1:1、より好ましくは0.005:1〜0.1:1となるような量比が使用される。
【0037】
ナノ粒子のドーピングは、米国特許出願公開第2009/0269510号(その内容は本明細書の一部をなす)に記載されている。本質的には、生成中に上述の金属化合物もナノ粒子に添加される。
【0038】
また、例えば、ナノ粒子に組成物の相溶性を付与するため、またエマルション内におけるナノ粒子の分布又はエマルションを安定化させるようなナノ粒子の特性に影響を与えるために、本発明により使用されるナノ粒子を表面改質してもよい。このようにして、例えば、接触角、それ故、エマルションを安定化させるようなその特性に影響を与えることが可能となる。
【0039】
したがって、ナノ粒子は、疎水性、親水性、疎油性又は親油性の官能基(function)で表面改質することができる。疎水性及び/又は疎油性を実現するために、例えば、フッ化炭化水素鎖を含む官能基を導入してもよい。
【0040】
この種類の官能基は、ナノ粒子と表面改質剤との反応によって得ることができる。ナノスケールの粒子の表面改質は、本出願人によって、例えば、国際公開第93/21127号(独国特許第4212633号)又は国際公開第96/31572号に記載されているような既知の方法である。表面改質されたナノ粒子の生成は原則的に、2つの異なる方法、すなわち、第一に、既に生成されたナノスケールの粒子の表面改質によって、第二に、表面改質剤を用いてこれらの粒子を生成することによって行うことができる。
【0041】
完成ナノ粒子の表面改質は、粒子を表面改質剤と混合させることによって簡単に行うことができる。反応は、必要であれば、機械的若しくは熱的なエネルギーを投入することにより及び/又は触媒を添加することにより、任意に溶剤中で起こる。
【0042】
好適な表面改質剤は、第一に、ナノ粒子の表面上に存在する反応性基と反応又は相互作用し得る1つ又は複数の基(例えば、OH基等)を有する化合物である。表面改質剤は例えば、共有結合、配位結合(錯化)及びイオン結合(塩状)を、ナノ粒子の表面に形成することができるものであり、純粋な相互作用の中でも、例として、双極子−双極子相互作用、水素架橋結合、及びファンデルワールス相互作用について言及されている。共有結合、イオン結合の形成又は錯化が好ましく、イオン結合又は錯化により得られるようなものがとりわけ好ましい。
【0043】
表面改質剤は概して、比較的小さい分子量を有する。例えば、分子量は、1500未満、特に1000未満、好ましくは700未満、特に好ましくは500未満とし得るが、より大きい分子量、例えば最大2000以上のものも可能である。
【0044】
ナノ粒子の表面改質については、無機酸及び有機酸;塩基;キレート剤;錯体形成剤、例えば、錯体形成構造を有し得る、β−ジケトン、タンパク質;アミノ酸;又はシランが検討される。好ましい実施の形態では、表面改質剤を、粒子の表面上における錯化の結果として改質をもたらす錯化剤とすることができる。表面改質剤の具体例は、飽和又は不飽和のモノカルボン酸及びポリカルボン酸、対応する酸無水物、酸塩化物、エステル及び酸アミド、アミノ酸、タンパク質、イミン、ニトリル、イソニトリル、エポキシ化合物、モノアミン及びポリアミン、β−ジカルボニル化合物、例えばβ−ジケトン、オキシム、アルコール、ハロゲン化アルキル、粒子の表面基と反応することができる官能基を有する金属又は半金属化合物(half-compounds)化合物、例えば少なくとも1つの非加水分解性基を含む加水分解性基を有するシランである。表面改質剤のための特定の化合物は、例えば上述の国際公開第93/21127号及び国際公開第96/31572号に明記されている。
【0045】
特に好ましい表面改質剤は、飽和又は不飽和のカルボン酸、β−ジカルボニル化合物、アミン、ホスホン酸、スルホン酸又はシランである。
【0046】
説明してきたように、好ましい実施の形態における官能基(function group)は、少なくとも1つの官能基を有する。この目的のために、粒子の表面に結合させるための官能基に加えて、少なくとも1つの更なる官能基を含む表面改質剤を利用する。
【0047】
この官能基(function group)についての更なる官能基の例は、ヒドロキシ、エポキシド、チオール、アミノ、カルボキシル、カルボン酸無水物、スルホン酸基、リン酸基、第四級アミン基又はカルボニルである。より広義には、フッ化炭化水素基も含まれ得る。したがって、二官能性、三官能性又はより多官能の表面改質剤がこの目的に使用され、上述の官能基から選択される少なくとも1つの更なる基を有する、カルボン酸、β−ジカルボニル化合物、アミン、リン酸、スルホン酸又はシランが好ましく、例えばヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、アミノスルホン酸、アミノホスホン酸、官能基化β−ジカルボニル化合物である。
【0048】
また、表面改質の結果として、金属の堆積に有利に働く基を組み込むことが可能である。これらは、例えば、アルデヒド基等の還元性基とすることができる。
【0049】
表面改質に使用される好ましい化合物の例を以下に挙げる。
【0050】
炭素数1〜24であるのが好ましいカルボン酸の例は、飽和モノカルボン酸(例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、カプリル酸、ステアリン酸、フェニル酢酸、安息香酸)、2つ以上のカルボキシル基を有する飽和ポリカルボン酸(例えばシュウ酸、マロン酸、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸及びフタル酸)、不飽和カルボン酸(例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸及びオレイン酸)、α−ヒドロキシカルボン酸又はα−ケトカルボン酸(例えばグリコール酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、2−ヒドロキシブタン酸、2,3−ジヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシペンタン酸、2−ヒドロキシヘキサン酸、2−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシオクタン酸、2−ヒドロキシデカン酸、2−ヒドロキシドデカン酸、2−ヒドロキシテトラデカン酸、2−ヒドロキシヘキサデカン酸、2−ヒドロキシオクタデカン酸、マンデル酸、4−ヒドロキシマンデル酸、リンゴ酸、エリトラル酸(erythraric acid)、トレアル酸、グルカル酸、ガラクタル酸、マンナル酸、グラル酸、2−ヒドロキシ−2−メチルコハク酸、グルコン酸、ピルビン酸、グルクロン酸及びガラクツロン酸)、β−ヒドロキシカルボン酸(例えばサリチル酸、アセチルサリチル酸)、並びにカルボン酸の誘導体、例えば無水物、エステル(好ましくはC〜C−アルキルエステル、例えばメチルメタクリレート)及びアミドである。
【0051】
好ましくは炭素数4〜12、より好ましくは炭素数5〜8であるβ−ジカルボニル化合物の例は、アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン、アセト酢酸及びアセト酢酸C〜C−アルキルエステル;並びに官能基化ジカルボニル化合物、例えばヘキサフルオロアセチルアセトン及びアセトアセトアミドである。
【0052】
更なる例は、モノアミン及びポリアミン、特に一般式R3−nNHのもの(式中、n=0、1又は2であり、ラジカルRは互いに独立して、炭素数1〜12、特に1〜8、特に好ましくは1〜6のアルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル及びイソプロピル、ブチル又はヘキシル)、及びエチレンポリアミン(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等);2−アミノエタンスルホン酸及び3−アミノベンゼンスルホン酸等のスルホン酸、ホスホン酸、アミノ酸;イミン;並びに、例えば少なくとも1つの非加水分解性基を有する加水分解性シラン等のシラン)である)であり、なお、非加水分解性ラジカル上に官能基を有するものが好ましい。
【0053】
更なる好適な表面改質剤の例は、式NR4+の第四級アンモニウム塩(式中、R〜Rは、任意に互いに異なり、好ましくは炭素数1〜12、特に1〜8の脂肪族基、芳香族基又は脂環式基、例えば、炭素数1〜12、特に1〜8、特に好ましくは1〜6のアルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル及びイソプロピル、ブチル又はヘキシル)であり、Xは、無機又は有機アニオン、例えば、アセテート、OH、Cl、Br又はIである)である。
【0054】
これらの化合物の炭素鎖は、O基、S基又はNH基が介在し得る。かかる表面改質剤は例えば、1、2、3又はそれ以上のオキサ基を含み得るオキサアルカノン酸である。例えば、トリオキサデカノン酸、3−オキサブタノン酸、2,6−ジオキサへプタン酸、及びそれらの同族体である。
【0055】
本発明との関係において特に好ましいTiO粒子については、α−ヒドロキシカルボン酸、α−ケトカルボン酸若しくはβ−ヒドロキシカルボン酸、又はそれらの誘導体による表面改質が好ましく、とりわけ好ましいものとしてはサリチル酸又はアセチルサリチル酸による表面改質が挙げられる。
【0056】
好ましくは、エマルションを安定化させるために粒子の表面改質が用いられる。その表面改質の結果として、エマルションの特定の相に対する粒子の接触角を調節することが可能となる。結果として、粒子を或る特定のエマルションに対して最適化し得る。
【0057】
これはまた、表面改質に対する結合分子の数を求めることでもある。更なる実施の形態では、二酸化チタン粒子が、10分子/nm未満、好ましくは5分子/nm未満(同時熱分析を用いて測定、好ましくはNetzsch STA 449 C Jupiterを用いて測定)で表面改質される。
【0058】
本発明の一実施の形態において、開始剤組成物は、少なくとも1つの溶剤中における、表面改質されていてもよいナノ粒子の分散液である。ここでのナノ粒子の割合は、20重量%未満、好ましくは10重量%未満、特に好ましくは5重量%未満である。好ましい範囲は0.5重量%〜3重量%である。例えば、1%、1.5重量%、2重量%及び2.5重量%である。これに関連して、割合は全開始剤組成物に対するものとする。
【0059】
本発明の好ましい実施の形態では、開始剤組成物がエマルションである。好ましくは、開始剤組成物は、含有量15重量%〜40重量%、好ましくは含有量20重量%〜30重量%の油相を有するエマルションである。
【0060】
本発明の好ましい実施の形態では、開始剤組成物は、ピッカリングエマルション、すなわち、ナノ粒子によって安定化されるエマルションを含む。ここで好ましくは、ナノ粒子は開始剤組成物の作用物質である。ここでのナノ粒子の含有量は、全開始剤組成物に対して、0.1重量%より大きいものである。
【0061】
好ましい実施の形態では、ピッカリングエマルションを2つ以上の工程で調製する。初めに、ナノ粒子の水分散液を水と混ざらない溶剤と混合させた後、分散させて、エマルションを得る。好ましくは、ここでのナノ粒子の含有量は、全エマルションに対して、0.1重量%より大きく、好ましくは0.2重量%より大きいものとする。好ましくは、ナノ粒子の含有量は、0.1重量%〜5重量%、特に好ましくは0.1重量%〜2重量%、とりわけ好ましくは0.2重量%〜1.5重量%、又は1重量%である。更なる工程では、導電性金属層を単に適用するだけになるため、金属粒子を直接用いる場合よりも、かなり低い含有量の粒子で作用させることが可能となる。
【0062】
特に表面改質された粒子の場合、静置時間後にエマルションのクリーミングが生じ得る。ここで、クリーミングの結果として、上方の濃縮エマルション相が形成される。かかるクリーミングが観察される場合、下方の本質的に水性の相を分離し、上方の濃縮エマルション相を開始剤組成物として用いる。この濃縮エマルション相中、粒子の含有量はより高くなり得る。この場合、上記のデータは、クリーミング前の全組成物を基準としている。エマルションのクリーミングまでの静置時間は好ましくは1分〜30分である。
【0063】
加えて、初めに或る一定時間、例えば、1時間〜72時間静置するように調製したエマルションを放置することが必要とされ得る。
【0064】
2つの相の比率及び粒子の表面改質により、エマルション中に存在する液滴、O/W型エマルションの場合には油滴のサイズを調節することが可能である。これらは網目構造のその後の密度を決定するため、透明な構造が得られる際の重要なパラメータを構成するものとなる。
【0065】
本発明の好ましい実施の形態では、基板に適用した後のエマルションの平均液滴サイズが、1μm〜500μm(光学顕微鏡法により求める)である。透明な構造の場合、平均液滴サイズは好ましくは30μm〜400μmとなる。ここでは球状液滴のみを考慮している。
【0066】
溶液中の液滴サイズは、エマルションの時間経過(age)とともに変わり得る。界面張力に応じて、エマルションに凝集が起こり、より大きな液滴がもたらされる。
【0067】
開始剤組成物を適用するためには、従来方法、例えば、浸漬、圧延、ナイフコーティング、フラッディング、ドローイング、噴霧、スピニング又は塗装を使用することができる。適用は完全であっても部分的であってもよい。
【0068】
適用された分散液を乾燥させる。このために用いられる温度は、基板に応じて変わる。プラスチック基板又はプラスチック表面では、必然的に極めて高い温度を使用することができない。乾燥は、200℃未満、好ましくは150℃未満、特に好ましくは100℃未満で行われることが好ましい。乾燥に用いられる温度による処理は好ましくは、2分〜120時間行う。
【0069】
次の工程では金属層を単に適用するだけになるため、乾燥中に焼結を起こさないことが、本発明による方法にとって重要となる。それ故、40℃未満、又は30℃未満の温度でも構造を乾燥させることが可能となる。これらの温度では、1時間〜36時間の乾燥時間が好ましい。
【0070】
乾燥は、カバーを伴っても伴わなくても実施することができる。カバーは、ガラス若しくはプラスチックのプレート、フィルム又は多孔質フィルタクロスとすることができる。カバーは、表面上におけるエマルションの自己組織化に影響を及ぼす可能性がある。
【0071】
上記で既に述べたように、乾燥は、エマルションの分散相のサイズ分布に対する影響も有し得る。
【0072】
特に表面改質された粒子を含むピッカリングエマルションを用いる場合、乾燥のための時間は、好ましくは20℃〜120℃の温度で、2時間未満、好ましくは1時間未満まで短縮され得る。さらに、乾燥は、好ましくは50℃〜120℃の温度で、10分未満、好ましくは6分未満、特に好ましくは4分未満まで短縮させることが可能である。かかるエマルションは、極めて短時間の乾燥であっても表面上に安定な格子状構造を形成する。結果的に、かかる温度に短時間曝すだけで基板のコーティングが可能となる。
【0073】
次の組成物の適用前に、サンプルを洗浄して再度乾燥させることが必要な場合もある。
【0074】
次の工程では、金属層のための少なくとも1つの前駆体化合物を含む前駆体組成物を、基板に適用する。
【0075】
前駆体組成物は通常、少なくとも1つの前駆体化合物の溶液又は懸濁液である。この溶液はまた、2つ以上の前駆体化合物の混合物を含んでいてもよい。還元剤又は湿潤助剤等の更なる助剤が溶液中に存在していてもよい。
【0076】
前駆体化合物は好ましくは金属錯体である。金属錯体は、少なくとも1つの金属イオン又は金属原子と、少なくとも1タイプの配位子とを含む。金属は例えば、銀又は金である。好ましい実施の形態では、前駆体化合物が、銀錯体又は金錯体、特に好ましくは銀錯体である。前駆体化合物はまた、幾つかのタイプの金属、又は金属錯体の混合物を含んでいてもよい。
【0077】
キレート配位子が包括的に配位子として使用される。キレート配位子は、特に安定な錯体を形成することができる。キレート配位子は、複数のヒドロキシル基及び/又はアミノ基を有する化合物である。200g/mol未満の分子量を有する化合物、特に好ましくは少なくとも1つのヒドロキシル基と少なくとも1つのアミノ基とを有する化合物が好ましい。考えられる化合物の例は、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、2−アミノ−1−ブタノール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、NH、ニコチンアミド又は6−アミノヘキサン酸である。これらの配位子の混合物を使用することも可能である。好まれる銀錯体の場合、配位子としてはTRISが好ましい。
【0078】
前駆体組成物は、界面活性剤又は還元助剤等の更なる助剤を含んでいてもよい。
【0079】
前駆体組成物は任意の所望の方法で基板に適用することができる。このため、前駆体組成物は、金属イオンの金属への還元が、開始剤層の作用物質によって直接又は間接的に引き起こされ得るように適用される。通常、これは、前駆体組成物が開始剤層に直接適用されることによって起こる。
【0080】
前駆体組成物を適用するために、従来方法、例えば、浸漬、圧延、ナイフコーティング、フラッディング、ドローイング、噴霧、スピニング又は塗装を使用することができる。適用は完全であっても部分的であってもよい。
【0081】
本発明の更なる実施の形態では、前駆体組成物がエマルションである。結果として、金属化合物を或る特定の構造で、基板に適用することができる。
【0082】
全組成物に対して、O/W型エマルションの場合、含有量15重量%〜48重量%、好ましくは30重量%〜45重量%の油相を有し、W/O型エマルションの場合には、60重量%〜80重量%の油相を有するエマルションが、特に好ましい。エマルションは更なる分散剤又は乳化剤を含んでいてもよい。
【0083】
次の工程では、開始剤化合物によって前駆体化合物の金属イオンを金属へと還元させる。還元活性化のタイプは、使用される開始剤化合物に応じて決まる。還元活性化は、熱的活性化、化学的活性化又は光化学的活性化であってもよい。
【0084】
適用される組成物の少なくとも一方のパターン化のために、金属は、前駆体化合物、及び開始剤組成物の作用物質が、表面上に重ねて配される領域に堆積されるにすぎない。
【0085】
開始剤組成物をエマルションとして適用すると、金属は、エマルションの作用物質を含む相が配置された場所にのみ堆積される。作用物質が好ましいピッカリングエマルションである場合、金属は、ナノ粒子によって安定化される液滴の周りにだけ堆積する。
【0086】
光化学的活性化が好ましい。開始剤に対する電磁放射線の作用は、金属への還元をもたらす。このプロセスにおいて金属層が形成する。電磁放射線は、開始剤を活性化させる波長を有する放射線である。ここで、照射は、ランプ等のフラットビーム源を用いることによって、又はレーザを用いて実現することができる。電磁スペクトルの可視範囲又は紫外範囲内の波長、好ましくは、500nm未満の、例えば、200nm〜450nm又は210nm〜410nmの波長を有する放射線を使用することが好ましい。400nm未満の波長を有する放射線が好ましい。
【0087】
使用される光源は、任意の好適な光源とすることができる。光源の例は、水銀灯又はキセノンランプである。
【0088】
光源は、光に曝される基板から好適な距離で配される。ここで、この距離は例えば、2.5cm〜50cmとすることができる。ここでの放射線の強度は、250nm〜410nmのスペクトル範囲で1mW/cm〜400mW/cmとすることができる。
【0089】
照射は、光に曝される表面に対して可能な限り垂直となるように行わなければならい。
【0090】
照射は、金属層を形成するのに十分な時間行う。ここで、この時間は、被膜、開始剤のタイプ、ランプのタイプ、使用される波長範囲、及び照射の強度に応じて決まる。導電性構造を作製する場合には、より長い照射が必要となることがある。5秒〜10分、好ましくは20秒〜4分の照射時間が好ましい。
【0091】
照射にレーザを使用する場合、例えば、レーザビームが収束して平行となり、照射すべき基板上を2mm/sの速度で通過する、10mWを有するアルゴンイオンレーザ(351nm)を使用することができる。
【0092】
本発明の更なる実施の形態では、照射及び前駆体化合物の還元後に、基板を更に処理する。したがって、例えば、還元されていない過剰な前駆体組成物を、例えば脱イオン水又は別の好適な物質で表面を洗い流すことによって、除去してもよい。その後、例えば、炉内で加熱することによって、圧縮空気によって及び/又は室温で乾燥させることによって、コーティングした基板を乾燥させてもよい。
【0093】
また、例えばコーティングした表面を酸化及び水から、又はUV線から保護する更なる層を適用することも可能である。
【0094】
本発明の一実施の形態では、加えて、前駆体組成物の適用時及び/又は還元中にパターン化が起こる。本発明との関係において、パターン化は、空間的に制限された金属構造の作製を確立することを意味するものと理解される。パターン化は種々の方法で可能となる。初めに、基板を、幾つかの領域にのみ開始剤組成物でコーティングしてもよい。その上、前駆体組成物を幾つかの領域にのみ適用することも可能である。さらに、電磁放射線の作用も当然ながら、幾つかの領域に制限することができる。これらの方法を必然的に組み合わせて使用することもできる。
【0095】
本発明の好ましい実施の形態では、前処理に、プラズマ処理、コロナ処理、火炎処理、及び/又は有機−無機被膜の適用及び硬化を含む。プラズマ処理、コロナ処理及び/又は火炎処理は、特にフィルム基板、特にプラスチックフィルムについて考えられるものである。これに関連して、このような処理によって、得られる光触媒層の品質が改善されることが見出された。
【0096】
真空条件下でプラズマを得るのに考えられる方法は、文献に多く記載されている。電気エネルギーは誘導結合手段又は容量結合手段によって接続することができる。電気エネルギーは、直流又は交流であってもよく、交流の周波数が、数kHzからMHzの範囲をとることができる。マイクロ波範囲(GHz)のエネルギーの入力も可能である。
【0097】
使用され得る主なプラズマガスは、例えば、He、アルゴン、キセノン、N、O、H、蒸気又は空気、更にこれらの化合物の混合物である。酸素プラズマが好ましい。
【0098】
基板は通常、予め清浄しておく。これは、溶剤で単純に洗い流すことによって行う。その後、基板を任意に乾燥させた後、プラズマにより5分未満で処理する。処理時間は、基板の感度に応じて決めることができる。処理時間は通常1分〜4分とする。
【0099】
光触媒層の品質を改善させる更なる選択肢は、表面の事前火炎処理である。このような処理は当業者に既知のものである。選択されるパラメータは、処理すべき特定の基板によって予め与えられるものである。例えば、火炎温度、火炎強度、滞留時間、基板と火炎との距離、燃焼ガスの性質、空気圧、湿度は、対象とする基板に適合するものとする。使用される火炎ガスは、例えば、メタン、プロパン、ブタン、又は70%ブタンと30%プロパンとの混合物とすることができる。この処理は、好ましくはフィルムの場合、特に好ましくはプラスチックフィルムに対しても使用される。
【0100】
更なる熱処理を用いて、得られる金属構造を焼結することが必要な場合もある。しかしながら、更なる熱処理は行わない方が好ましい。
【0101】
本発明の好ましい実施の形態では、本方法に100℃を上回る熱処理を含めない。本発明による方法を用いると、50℃未満又は40℃未満の温度でのみ作用させることが更に可能となる。
【0102】
本発明による方法の利点は特に、金属のその後の堆積の結果として、金属の堆積量によって、構造の導電性を、かなり良好に制御することができることにある。金属粒子を直接用いる場合には高い含有量の粒子で作用させることが必要である。同時に、粒子を互いに融合させるために、構造の焼結が必要とされる。これは、本発明による方法を用いることによって防ぐことができる。
【0103】
その上、特に開始剤組成物を、作用物質としてナノ粒子を含むエマルションとして、特にピッカリングエマルションとして適用すると、より少量のナノ粒子で作用させることが可能となる。
【0104】
本発明による方法では、特に開始剤組成物の適用と、前駆体組成物の適用、及びその後の金属化との間に、基板に更なる組成物を適用しない。堆積が選択的であるため、前駆体組成物を適用する前に、作用物質でコーティングされていない基板領域のシーリングも必要ない。
【0105】
更なる主題は、開始剤組成物について上記に記載されている、水性相と、該水性相と混和しない少なくとも1つの相と、二酸化チタンナノ粒子とを含むピッカリングエマルションである。このエマルションは好ましくは、表面上の光触媒活性構造を作製するのに、特に金属の堆積に使用することができる。
【0106】
本発明は更に、本発明による方法によって得られる導電性被膜を提供する。透明な導電性被膜が特に好ましい。
【0107】
本発明による透明な導電性被膜は例えば、ディスプレイ、スクリーン及びタッチパネル用の透明電極として使用することができる。
【0108】
更なる詳細及び特徴は、従属項と併せて好ましい実施例の後続の説明から分かる。ここで、各特徴は、単独で、又は互いに重複するように組み合わせて理解することができる。課題を解決する可能性はこれらの実施例(working examples)に限定されない。このため、例えば、範囲データは常に、あらゆる(不特定の)間の値及びあらゆる考えられる部分区間を包含する。
【0109】
実施例を図面に図示する。個々の図面における同じ参照番号は、互いに同一若しくは機能的に同一であるか、又はそれらの機能面において互いに対応する要素を指す。具体的には次の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
図1】a)本発明による方法の図、b)得られる網目構造の図である。
図2】カバーガラス下における、基板上のエマルション7h(20℃)の顕微鏡写真である。
図3】カバーガラス下における、基板上のエマルション7k(20℃)の顕微鏡写真である。
図4】金属化前の二酸化チタンナノ粒子エマルション(サンプル7h)の顕微鏡写真である。スケールは10μmである。
図5】金属化後の二酸化チタンナノ粒子エマルション(サンプル7h)の顕微鏡写真である。スケールは10μmである。
図6】エマルションの顕微鏡写真、a)適用直後のエマルション8a、b)15分後の同じエマルション、c)適用後のエマルション8g、d)15分後の同じエマルションである。
図7】入射光を伴った、90℃で乾燥させたエマルション(8a)の顕微鏡写真であり、灰色領域はコーティングされていない部分である。
図8図7の一部分を示す図である。
図9】入射光を伴った、銀でコーティングされたエマルション(8a)の顕微鏡写真である。
図10】20℃における、2重量%のTiOを有する分散液のDLS測定結果を示す図である。
図11】20℃における、アセチルサリチル酸で改質されたTiO粒子の希釈溶液のDLS測定結果を示す図である。
図12】20℃における、サリチル酸で改質されたTiO粒子の希釈溶液のDLS測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0111】
図1aは、本方法の好ましい実施形態の図を示すものである。初めに、ナノ粒子1を含む2つの相2及び3を含む開始剤組成物のエマルションを基板4上に適用する。このエマルションは、ナノ粒子1によって安定化されるピッカリングエマルションであることが好ましい。適用したエマルションを基板の表面上で乾燥させる(工程10)。これによって、表面上のエマルションの相界面にナノ粒子の凝集がもたらされる(工程11)。これは、ナノ粒子の薄い格子状構造5の形成を引き起こす。その後(工程12)、金属6をナノ粒子上に堆積させる。これによって、格子状の金属化構造がもたらされる。得られる構造の理想とされる描写を図1bに示す。
【0112】
図2は、改質していない二酸化チタン粒子を含むエマルションの顕微鏡写真を示すものである。エマルションは、基板上で30μm〜140μmの液滴サイズを示している。図3は、弱い乳化剤としてのブタノールの添加の影響を示している。これにより、液滴サイズのかなりの低減がもたらされる。
【0113】
図4は、乾燥後の、改質していない二酸化チタン粒子を含むエマルションを示すものであり、図5では、次の工程において、銀により金属化されている。画像は、金属の堆積が、二酸化チタン上にのみ極めて選択的に起こることを示している。しかしながら、液滴のサイズが比較的小さいため、金属化後にサンプルが透明に見えないことを意味している。
【0114】
図6は、表面改質された粒子を含む2つのエマルションの室温におけるエマルションの経時変化(aging)を示すものである。より大きな液滴が形成されることが表面からはっきりと見てとることができる。ここでは、比較的大きい液滴の単層が形成される。10分後、動態はもはや観察されず、溶剤が徐々に蒸発する。
【0115】
図7及び図8は、表面改質された二酸化チタン粒子を含む乾燥させたエマルションを示すものである。ハニカム状パターンを形成する、二酸化チタンから形成される網をはっきりと見てとることができる。
【0116】
図9に示されるように、この構造は、単純に銀によって金属化することができる。
【実施例】
【0117】
透過型電子顕微鏡(TEM)、Philips CM200 FEG(200kV加速電圧)を使用した。
【0118】
顕微鏡写真は、透過光又は入射光を伴ってOlympus BH2シリーズのシステム顕微鏡を用いて記録した。
【0119】
流体力学的半径を測定するための動的光散乱法(DLS)は、Microtrac Nanotrac Ultraを用いて行った。
【0120】
1.TiOナノ粒子(アナターゼ)の合成
105.45g(1745mmol)の1−プロパノールに溶解させた97.07g(342mmol)のチタンイソプロポキシドを、250ml容の丸底フラスコに入れ、強力撹拌する。6.69g(68mmol)の37%濃度の塩酸を、20.00g(333mmol)の1−プロパノールに添加し、この溶液を2分後、反応混合物に徐々に滴加する。30分後、8.05g(447mmol)の水と、40.00g(666mmol)の1−プロパノールとの混合物を滴加する。
【0121】
混合物を更に20分間撹拌し、このように生成したゾルを等分に2つのテフロン(登録商標)容器に入れ、オートクレーブ内で30分にわたって225℃とし、この温度で120分間保持する。
冷却後、溶剤を静かに注ぎ出して(decanted off:デカンテーションして)捨て、沈殿物を最大40℃でロータリーエバポレータ上において略完全に乾燥させる。白色粉末としてアナターゼナノ粒子が得られる。図10は、DLSにより測定されたサイズ分布を示すものである。
【0122】
特性化:BET:11.14nm;DLS:第1極大:10.52nm(S=0.31)、第2極大:21.04nm(S=0.77);Raman:E:146cm−1、B1G:399cm−1、A1G:639cm−1、E:639cm−1
【0123】
2.アセチルサリチル酸(ASA)による表面改質
0.18gのアセチルサリチル酸(1mmol)を45gの水に懸濁させ、過剰なアセチルサリチル酸を飽和溶液から分離除去するために、得られる懸濁液を濾過する。
【0124】
強力撹拌しながら、2.50g(31mmol)の二酸化チタン粒子(アナターゼ)を含む10gの水の分散液を、極めてゆっくりと滴加する。混合物を更に10分間しっかりと混合させる。7.03g(71mmol)の37%濃度の塩酸を添加することによって、酢酸をアセチルサリチル酸から排除すると、反応混合物は濃い黄色となる。得られる粒子を遠心分離し、上澄みを静かに注ぎ出して捨てる。残渣を40.00gの水に再分散させる。これによって、透明な黄色の分散液が得られる。
【0125】
図11は、同じ方法によって生成した幾つかのサンプルのDLS測定結果を示すものである。得られる希釈分散液を測定した。
【0126】
3.サリチル酸(SA)による表面改質
0.14g(1mmol)のサリチル酸を40gの水に懸濁させ、過剰なサリチル酸を濾過により分離除去する。
強力撹拌しながら、20gの水と3.58g(44mmol)の二酸化チタンとの分散液を徐々に滴加する。混合物を更に30分間強力撹拌する。わずかに濁った黄色の分散液が得られる。
【0127】
図12は、同じ方法によって生成した幾つかのサンプルのDLS測定結果を示すものである。得られる希釈分散液を測定した。
【0128】
4.二酸化チタンピッカリングエマルションの生成
表E1に従って、トルエン、水、ブタノール及び二酸化チタンナノ粒子の比率が異なる様々なエマルションを250ml容のフラスコ内に合成する。原則として、水及び二酸化チタンナノ粒子を投入した後に、IKA(商標)T25 Ultra Turrax(商標)を用いて25000rpmで2分間均質化させる。その後、有機溶剤を添加し、混合物を、冷却しながら更に3分間25000rpmで均質化させる。
【0129】
【表1】
【0130】
弱い乳化剤としてブタノールを含むエマルションは、液滴サイズの大幅な低減を示す。使用される二酸化チタン粒子の表面上の遊離型OH基のために、好ましいことにO/W型エマルションが安定化される。説明したように、W/O型エマルション7d、7e、7fはこれらの二酸化チタン粒子によって安定化されていない。他のあらゆる事例でも、エマルションが形成する。
【0131】
5.表面改質された粒子を含む二酸化チタンピッカリングエマルションの生成
表E2及び表E3に従って、様々なエマルションを20ml容のガラスベッセル内に合成する。0.06g(1mmol)の塩化ナトリウム及び10.00gの水を使用して、NaCl溶液を調製する。
【0132】
実施例2(ASAを伴うTiO)又は実施例3(SAを伴うTiO)による分散液を初めに投入し、NaCl溶液を添加する。有機相を添加した後、塩酸(37%)を添加し、25000rpmで振動式混合機(Heidolph(商標)Reax Control(商標))を用いて混合物を乳化させる。初めの数分間に、溶剤に応じてクリーミングが起こることがある。この場合、クリーミング後の上方の相をエマルションとして使用し、またエマルションと称することとする。表E2及び表E3は、調製したエマルションを示すものである。
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
6.表面改質を伴わない開始剤組成物の適用
200μlのエマルション7hをスライドガラス上に載せた。サンプルは、(1)第2のスライドで被覆する、(2)被覆することなく乾燥させる、(3)フィルタクロスで被覆するという3つの異なる方法で調製する。乾燥後、過剰な二酸化チタンを分離除去するために、スライドを蒸留水で十分に洗浄した。
【0136】
図7は、20℃で26時間乾燥させた後のサンプル7hを示すものである。
【0137】
7.表面改質を伴う開始剤組成物の適用:
200μlの調製したエマルション8a〜8lをその都度、スライドガラス上に載せ、被覆することなく乾燥させた。表E4は、エマルションの乾燥条件を示すものである。その後、任意の過剰な二酸化チタン及び塩化ナトリウムを、蒸留水を用いてスライドから洗い流し、圧縮空気を用いてサンプルを乾燥させた。
【0138】
【表4】
【0139】
いずれの場合にも、自己組織化、すなわち、格子状構造の形成が観察された。
【0140】
図7及び図8は、エマルション8aを90℃で3分間乾燥させた構造の顕微鏡写真を示すものである。
【0141】
表面改質された粒子は、サリチル酸による改質のためにエマルションの2つの相の界面に位置する。粒子は、乾燥の過程で液滴間にそれら自体を配し、これによって、網目構造が作製される。酸化チタンのうね(ribs)の幅は1μm〜3μmの範囲で様々な値をとるのに対し、40μm〜90μm直径の大きなコーティングされていない範囲が得られる。乾燥前に画像中に存在するより小さい液滴は、凝集及びエマルションの経時変化に起因して乾燥中に消失した。
【0142】
うねの幅のほんの僅かな明らかな広がりによって、スライド上の被膜は、部分的に視認可能となる。これらの芳しくないコーティング(miscoating)が存在しないか又は少なくとも殆ど存在しない領域では、乾燥したサンプルが光透過性であるように見える。
【0143】
8.前駆体組成物(Ag−TRIS)の生成
強力撹拌しながら、20gの水に溶解させた1.69g(10mmol)の硝酸銀の溶液を、20gの水に溶解させた2.57gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(9mmol)の溶液に徐々に滴加した。
【0144】
9.前駆体組成物の適用
乾燥させたサンプルをAg−TRISに浸水させた後、Hg−Xeランプ(1000ワット)に10秒〜30秒間曝した。二酸化チタンのうねにのみ銀が堆積する。
【0145】
図5は、表面改質していない二酸化チタン粒子を含むエマルションの露光済みサンプル(30秒、Hg−Xeランプ、1000ワット)を示すものである。丸い銀被覆されていない(non-silvered)領域の分布が明らかである。銀被覆されたうねは、およそ6μm幅である。結果的に、サンプルを一様に選択的に金属化すると、サンプルが透明でなくなる。
【0146】
図9は、表面改質された二酸化チタン粒子を含むエマルションの露光済みサンプル(15秒、Hg−Xeランプ、1000ワット)を示すものである。このサンプルも、二酸化チタン粒子でコーティングされた領域のみ銀被覆されているが、うねがかなり薄いため、光透過性は変化しない。
【0147】
引用文献
国際公開第2012/084849号
米国特許出願公開第2009/0269510号
国際公開第93/21127号
独国特許第4212633号
国際公開第96/31572号
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