【文献】
Langevin et al.,Journal of Virology,2002年,Vol.76, No.21,p.10756-10765
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の第一の態様によれば、以下を含むp75NTRニューロトロフィン結合タンパク質(NBP)−Fc融合タンパク質が提供される:
(a)p75NTR(NBP)部分;および
(b)免疫グロブリンFc部分。
【0027】
好ましくは、p75NTR(NBP)部分およびFc部分は、リンカーを介して連結される。より好ましくは、リンカーは、式G
x(ここでxは、1、2、3、4、5または6である)のペプチドを含む。
【0028】
本発明に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質の特に好ましい実施態様では、p75NTR(NBP)はヒトp75NTR(NBP)である。本発明に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質の別の特に好ましい実施態様では、FcはヒトFcである。
【0029】
さらに別の好ましい実施態様では、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、配列番号3に示すアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。別の好ましい実施態様では、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、配列番号15に示すアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。
【0030】
好ましくは、p75NTRニューロトロフィン結合タンパク質(p75NTR(NBP))はペグ化され、さらに好ましくはグリコシル化される。
【0031】
本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、好ましくは、NGF、BDNF、NT3またはNT4/5のうちの任意の1または複数と、約0.01nM〜約50nMの間の結合親和性(K
d)で結合する。一部の好ましい実施態様では、結合親和性(K
d)は、本明細書に記載のNGF、BDNF、NT3またはNT4/5に関するインビトロ結合アッセイにより測定すると、好ましくは20℃での表面プラズモン共鳴により測定すると、約0.01nMと、約0.1nM、0.2nM、0.5nM、1nM、1.5nM、2nM、2.5nM、3nM、3.5nM、4nM、4.5nM、5nM、5.5nM、6nM、6.5nM、7nM、7.5nM、8nM、8.5nM、9nM、9.5nM、10nM、15nM、20nM、25nM、30nM、35nM、40nM、45nMまたは50nMのいずれかとの間である。一部のさらに好ましい実施態様では、結合親和性(K
d)は、本明細書に記載のニューロトロフィンとのp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質に関するインビトロ結合アッセイで測定すると、好ましくは20℃での表面プラズモン共鳴により測定すると、約250pM、300pM、350pM、400pM、450pM、500pM、550pM、600pM、650pM、700pM、750pM、800pM、850pM、950pMまたは1nMのいずれか、またはそれ未満である。さらにより好ましい実施態様では、結合親和性(K
d)は、本明細書に記載のニューロトロフィンとp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質に関するインビトロ結合アッセイで測定すると、好ましくは20℃での表面プラズモン共鳴により測定すると、約0.3nMまたは約1nMである。
【0032】
好ましくは、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、疼痛または疼痛の症状の治療での使用のためのものである。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まずに、本発明者らは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、前述のニューロトロフィンNGF、BDNF、NT3またはNT4/5の機能性活性(例えば、それらのそれぞれの受容体とのそれらの相互作用により生じる前述のニューロトロフィンの機能性活性)をもたらすことにより(ニューロトロフィンの機能性活性を調節する、または上方または下方制御するものとして定義される)、疼痛または疼痛の症状の治療における有効性を達成すると考える。
【0033】
好ましくは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、神経細胞およびシナプスの増殖および分化、神経細胞培養での生存および分化、Trkシグナリング、軸索伸長の刺激(インビトロまたはインビボ)のいずれかの機能性アッセイにより評価されるような、BDNFの機能性活性をもたらす。
【0034】
好ましくは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、古典的な神経細胞生存アッセイ(例えば、Cowan et al.Annu. Rev.Neurosci.2001;24:551−600に記載される)に示されるように、NGFのTrkAに対する結合および活性化を測定することにより評価されるような、NGFの機能性活性をもたらす。
【0035】
好ましくは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、Trk受容体リン酸化、分裂促進因子により活性化されるタンパク質キナーゼリン酸化レポーターアッセイ、または、細胞生存および軸索伸長のアッセイに示されるように、NT3の内因性Trk受容体に対する結合および内因性Trk受容体活性の活性化を測定することにより評価されるような、NT3の機能性活性をもたらす。
【0036】
好ましくは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、例えばミエリン塩基性タンパク質(MBP)リン酸化アッセイにおいて、または代わりに、インビボの血管内皮成長因子(VEGF)/塩基性線維芽細胞増殖因子により誘導される血管新生のマトリゲル血管新生アッセイにおいて、NT4/5のインビトロまたはインビボのリン酸化および活性化アッセイを測定することにより評価されるような、NT4/5の機能性活性をもたらす。
【0037】
好ましくは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、He and Garcia(2001)Science,301,870〜805頁に示される、ニューロトロフィンNGF、NT3、BDNFおよびNT4/5のうちの1つまたは複数の接触残基に結合する。
【0038】
好ましくは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は可溶性であり、好ましくは水性溶液に可溶性であり、好ましくは生物学的流体、例えば血清、血漿、血液に可溶性である。
【0039】
本明細書において用いられる用語、「Fc」または「免疫グロブリンFc」または「Ig Fc」は、免疫グロブリン鎖定常領域のカルボキシル末端部分、好ましくは免疫グロブリン重鎖定常領域、またはその部分を意味すると理解される。好ましくは、免疫グロブリンFcは、1)場合により免疫グロブリンヒンジ領域を伴う、CH1ドメイン、CH2ドメイン、および、CH3ドメイン、2)場合により免疫グロブリンヒンジ領域を伴う、CH1ドメインおよびCH2ドメイン、3)場合により免疫グロブリンヒンジ領域を伴う、CH1ドメインおよびCH3ドメイン、4)場合により免疫グロブリンヒンジ領域を伴う、CH2ドメインおよびCH3ドメイン、または、5)場合により免疫グロブリンヒンジ領域と組み合わされた、制限されないがCH1、CH2およびCH3から選択される、2またはそれ以上のドメインの組み合わせを含む。好ましくは、免疫グロブリンFcは、少なくとも、免疫グロブリンヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメイン、および場合によりCH1ドメインを含む。好ましくは、免疫グロブリンFcは、制限されないが、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、さらに好ましくは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、sIgA、さらに好ましくはIgG1、IgG2またはIgG4、最も好ましくはIgG1を含む、アイソタイプの免疫グロブリンのFcまたはFc部分を含むか、またはそれからなる。場合により、免疫グロブリンFcはまた、補体結合または抗体依存性の細胞の細胞毒性を最小限化する働きをする、またはFc受容体に対する結合の親和性を改善する、アミノ酸変異、欠失、置換または化学修飾も含む。
【0040】
さらに好ましくは、免疫グロブリンFcは、(a)CH2ドメインまたはその部分、および、CH3ドメインまたはその部分、(b)CH2ドメインまたはその部分、または、(c)CH3ドメインまたはその部分のいずれかを含むか、またはこれらからなり、ここで、免疫グロブリンFcまたはその部分は、制限されないが、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、さらに好ましくは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、sIgA、さらに好ましくはIgG、IgG2またはIgG4、最も好ましくはIgG1を含む、アイソタイプである。
【0041】
好ましくは、免疫グロブリンFcは、免疫グロブリン重鎖のカルボキシ末端領域を含むか、またはそれからなり、IgG、IgAまたはIgD抗体アイソタイプ由来のCH2および/またはCH3ドメインまたはそれらの部分、または、IgMまたはIgE由来のCH2および/またはCH3および/またはCH4ドメインまたはそれらの部分を含んでよい。好ましくは、免疫グロブリンFcは、主としてCH3を含みCH2をごく一部含むFcのフラグメントを含むか、またはそれからなり、免疫グロブリンのペプシン消化により生じさせることができる。好ましくは、免疫グロブリンFcは、Fc全領域を含むか、またはそれからなり、CH2およびCH3を含み、さらに無傷の免疫グロブリンにおいてCH1およびCH2領域を連結する重鎖の短いセグメントであるヒンジ領域に結合され、免疫グロブリンのパパイン消化により生産され得る。好ましくは、免疫グロブリンヒンジ領域は、IgG、好ましくはヒトIgG、さらに好ましくは、制限されないがIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4から選択される、最も好ましくはIgG1に由来する、ヒンジ領域またはヒンジ領域部分を含むか、またはそれからなるか、または代わりに、前述のヒンジ領域の具体例の種または対立遺伝子多型である。ヒンジ領域または免疫グロブリンのヒンジ領域部分は、Fc領域のC末端またはN末端、好ましくはN末端に存在してよい。
【0042】
本発明の好ましい実施態様によれば、免疫グロブリンFcは、好ましくは、Fcのエフェクター機能を減少させる、CH2領域に野生型配列の1つまたは複数のアミノ酸変異を含む免疫グロブリンのFcまたは免疫グロブリンのFcの一部分を、含むか、またはそれからなる。好ましくは、これらの変異は、A330、P331〜S330、S331である(野生型IgG1配列に関するアミノ酸のナンバリングであり、CH2領域はヒト重鎖IgG1定常領域に存在する:[Eur.J.Immunol.(1999)29:2613−2624]。好ましくは、免疫グロブリンFcはグリコシル化されて生理学的pHで高電荷であり、それ故に、p75NTR(NBP)を可溶化するのを助ける。また、Fc領域は、例えば診断目的での、抗−FcのELISAによるp75NTR(NBP)の検出を可能にする。本発明のp75NTR(NBP)は、好ましくは通常のグリコシル化部位でIg Fcをグリコシル化する細胞内で、好ましくは合成される。
【0043】
好ましくは、免疫グロブリンFcは、ヒト免疫グロブリンFc領域を含むか、またはそれからなる。
【0044】
本発明によれば、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、好ましくは、p75NTR(NBP)の溶解性および/またはp75NTR(NBP)の安定性の改善、および/または、p75NTR(NBP)の血清半減期の改善の、有利な生物学的特性を示す。溶解性の改善は、p75NTR(NBP)の生物学的利用性が投与の際に最大化されて、p75NTR(NBP)の正確な用量を決定および実行することができるため、望ましい。溶解性の改善は、インビボの送達において望ましくない疼痛を引き起こしかつ潜在的炎症につながる凝集体の問題を、克服するのに有利である。血清半減期の改善は、送達されるp75NTR(NBP)の同等または維持された治療効果を達成するために、治療のための使用の間、必要投与量のレベルの低減または頻度の低減を容易にする、利点を有する。延長された半減期および血液中または血清中でのより高い安定性は、より低い頻度の投与および/またはより少ない投与レベルの用量計画を可能にする利点を有し、それ故に、インビボでの潜在的な毒性または副作用を減少させる。この場合、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、その治療効果においてより強力であり、および/または、循環においてより安定である。結果として生じる、より低い、または、より少ない頻度の投与量は、p75NTR(NBP)投与と関連する可能性のある任意の潜在的な毒性作用または副作用を最小限化する点で有利である。p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質の分子量は、p75NTR(NBP)単独よりも増加しており、このこともまた、静脈内投与されたときに分子が血液循環中に良く維持されて、中枢神経系などの望ましくない部位への透過性の危険を減らし、分子が標的組織中に維持または集中されるのを適切にするという利点を有する。
【0045】
好ましくは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、p75NTR(NBP)単独と比較して、p75NTR(NBP)の溶解性の改善、および/または、p75NTR(NBP)の安定性の改善、および/または、血清半減期の改善を示す。好ましくは、溶解性の改善は、好ましくはバッファーなどの賦形剤および/または好ましくは生理学的pH、好ましくはpH5〜pH8の間、好ましくは約pH7の塩を有する、水などの水性溶液中での溶解性であり、または、血清または血液などの生物学的流体中での溶解性である。好ましくは、安定性の改善は、保管期間またはその後の凍結融解の間の、長年にわたる変性、酸化、フラグメント化、または凝集の効果に起因する、p75NTR(NBP)タンパク質の活性または構造的一体性の安定性である。構造的安定性は、変性、酸化、凝集または凝集の標準的な測定により判定することができ、活性の安定性は、本明細書に記載の結合または機能性アッセイにより測定することができ、タンパク質の血清半減期を測定する方法は公知である。
【0046】
好ましくは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、様々な哺乳類の宿主細胞から高レベルで発現させて単一種を生産することができ、アフィニティクロマトグラフィーにより、例えば黄色ブドウ球菌プロテインAに対する結合により、効率的に精製することができる。好ましくは、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、二量体化することができ、好ましくは、その二量体は、p75NTR(NBP)単独と比較して、ニューロトロフィンNGF、BDNF、NT3またはNT4/5に対する親和性が増加する。よりタイトな結合は、例えば本明細書に記載のニューロトロフィン機能性アッセイにより判定されるp75NTR(NBP)の効果により判断されるように、より高い効能およびより高い治療有効性の利点を有する。より高い効能は、より低い用量でp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質を使用して同一の治療有効性を達成することができ、それ故に、インビボでの潜在的な毒性または副作用を減少させるという利益を有する。
【0047】
好ましくは、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、インビボで、約2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100、102、104、106、108、110、112、114、116、118、120、122、124、126、128、130、132、134、136、138、140、142、144、146、148、150、152、154、156、158、160、62、164、166、168、170、172、174、176、178、180、182、184、186、188、190、192、194、196、198、200、202、204、206、208または210時間+/−1時間のいずれか、またはこれを超える半減期を有し、さらに好ましくは、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、インビボで、約24時間またはこれを超える半減期を有する。
【0048】
さらに好ましくは、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、インビトロで、約2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100、102、104、106、108、110、112、114、116、118、120、122、124、126、128、130、132、134、136、138、140、142、144、146、148、150、152、154、156、158、160、62、164、166、168、170、172、174、176、178、180、182、184、186、188、190、192、194、196、198、200、202、204、206、208または210日+/−1日のいずれか、またはこれを超える半減期を有し、さらに好ましくは、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、インビトロで、約6日またはこれを超える半減期を有する。好ましくは、安定性は、だいたい生理学的なpHで、緩衝水溶液中で、好ましくは20℃または37℃で測定される。
【0049】
前述の好ましい実施態様によれば、好ましくは、インビボの半減期は、ラットでの半減期またはヒトでの半減期、さらに好ましくはヒトでの半減期である。好ましくは、半減期は、例えば静脈内または皮下注入によるインビボでの投与の後に、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質のレベルの血清測定より決定される。
【0050】
p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質のp75NTR(NBP)部分および免疫グロブリンFc部分は、リンカーを介して連結されてよい。リンカーは、好ましくは、1または複数のアミノ酸を含むか、またはそれからなる、または、アミノ酸、好ましくは約1〜約25アミノ酸、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、または9アミノ酸のいずれか、さらに好ましくは約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21 22、23または24アミノ酸のいずれか、最も好ましくは13アミノ酸の、ポリペプチド配列を含むか、またはそれからなる。
【0051】
好ましくは、リンカーは、αへリックス、β鎖、3
10へリックスおよびpiへリックス、ポリプロリンヘリックス、αシートなどの任意の安定な二次構造が欠損した、アミノ酸のポリペプチド配列を含むか、またはそれからなる。好ましくは、リンカー領域は、可動性または動的または不定形のポリペプチド、例えばフレキシブルループ、ランダムコイルまたはフレキシブルターンなどを定義するアミノ酸のポリペプチド配列を含むか、またはそれからなり、そのような不定形のポリペプチドは、大きなタンパク質分子における二次構造の結合領域にしばしば見られる。
【0052】
好ましくは、リンカーは、p75NTR(NBP)中の約50%またはそれより多いグリシンおよび/またはアラニンおよび/またはセリン、さらに好ましくは、p75NTR(NBP)中の約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%またはそれより多いグリシンおよび/またはアラニンおよび/またはセリンを含む、アミノ酸のポリペプチド配列である。好ましくは、リンカー領域は、グリシンおよびセリンの両方を、好ましくはセリンよりもグリシンが多い比率で含む、アミノ酸のポリペプチド配列を含むか、またはそれからなり、好ましくは、リンカー領域は、可動性リンカーを含むか、またはそれからなる。
【0053】
いかなる特定の理論にも拘束されることを望まずに、本発明者らは、可動性リンカーは、p75NTR(NBP)単独と比較すると、p75NTR(NBP)−Fc融合の、前述のニューロトロフィン結合能力または生物学的活性を妨げ得る立体障害を、克服または防ぐと考える。それ故に、リンカー領域は、例えば本明細書に記載の結合アッセイを用いたニューロトロフィンに対する結合により判定されるように、フリーまたは天然のp75NTR(NBP)単独と比較して、好ましくはp75NTR(NBP)部分と免疫グロブリンFc部分との間に可動性を与え、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質の前述の生物学的活性を維持または改善させる。
【0054】
さらに好ましくは、リンカーは免疫学的に不活性であり、したがって、補体媒介性の溶解を引き起こさず、抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)を刺激せず、ミクログリアまたはT細胞を活性化しない。好ましくは、リンカー領域は、これらの活性の1つまたは複数が低下している。
【0055】
さらに好ましくは、リンカーは、構造分析または構造予測から、可動性または動的または不定形のポリペプチドであるか、または安定な二次構造を欠くと知られ、または予測されるポリペプチドを含むか、またはそれからなる。
【0056】
最も好ましくは、リンカーは、式G
x(ここでxは、1、2、3、4、5または6である)のペプチドを含むか、またはそれからなる。
【0057】
また、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、場合によりp75NTR(NBP)部分と免疫グロブリンFc部分との間に入れられた、タンパク質分解的な切断部位を含んでもよい。タンパク質分解的な切断部位は、リンカー内、またはp75NTR(NBP)部分または/および免疫グロブリンFc部分のいずれかとリンカーの接合部に位置してよい。p75NTR(NBP)は、場合により、治療目的のための投与およびまたは製剤化の前に、免疫グロブリンFc部分から切断されてよい。
【0058】
あるいは、本発明のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質を改変して、タンパク質分解的な切断部位を取り除いてよい。好ましい実施態様では、αおよびγセクレターゼの切断部位を取り除くことができる。特に好ましい実施態様では、配列GSSQPVVTRGTTDNDIEGRMD(配列番号5)が取り除かれる。
【0059】
さらに好ましい実施態様では、収率または溶解度などの特性を改善するために、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質における特定のアミノ酸を変更してよい。1つの特に好ましい実施態様は、222位のシステイン残基の、セリン残基への変更であり、それは、タンパク質製造中にCHO細胞から発現されるときにタンパク質の凝集を低減させることが見いだされた。
【0060】
好ましくは、リンカーおよび/または免疫グロブリンFc部分は、p75NTR(NBP)部分を害さず、または著しく害さない:
【0061】
(a)ニューロトロフィンNGF、BDNF、NT3またはNT4/5の機能性活性に対する効果(ニューロトロフィンの機能性活性の調節または上方または下方制御として定義される)、
(b)約0.1nM〜約50nMの間の結合親和性での、NGF、BDNF、NT3またはNT4/5のいずれかに対する結合親和性、
(c)ニューロトロフィンNGF、NT3、BDNFおよびNT4/5、好ましくはヒトNGF、NT3、BDNFおよびNT4/5のそれぞれに対する結合能力。
【0062】
本発明の別の態様によれば、第一または第二の態様に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質をコードする核酸分子が提供される。好ましくは、核酸分子は、疼痛の治療での使用のためのものである。
【0063】
本発明の好ましい実施態様によれば、核酸分子は、シグナル配列、好ましくはp75NTRシグナル配列をコードする領域、例えばDNAまたはRNA配列をさらに含んでよい。
【0064】
本発明の別の態様によれば、細胞をトランスフェクトするための複製可能な発現ベクターが提供され、ベクターは、第三の態様の核酸分子を含み、好ましくは、ベクターはウイルスベクターである。好ましくは、ベクターは、疼痛の治療で用いるためのものである。
【0065】
さらに本発明の上記態様によれば、本発明の核酸分子またはベクターを発現させて、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質を生産または分泌する方法が提供される。好ましくは、前記方法は、核酸分子またはベクターを細胞内に導入すること、および、その中で核酸を発現させて、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質を、生産または分泌させることを含む。好ましくは、核酸分子またはベクターは、インビトロあるいはインビボで細胞内に導入される。好ましくは、発現されるp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、インビトロで発現されて、場合によりさらに分離および精製され、あるいは好ましくは、発現されるp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質は、インビボで発現され、好ましくは、インビボでの発現は、遺伝子治療を構成する。好ましくは、ベクターは、複製可能な発現ベクターであり、場合により哺乳類の細胞をトランスフェクトするためのものであり、好ましくは、ベクターはウイルスベクターである。
【0066】
本発明の別の態様によれば、第三または第四の態様のいずれかの核酸分子またはベクターを保有する宿主細胞が提供され、好ましくは、細胞は哺乳類の細胞である。
【0067】
本発明の別の態様によれば、疼痛または疼痛の症状の治療での使用のためのp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または、疼痛または疼痛の症状の治療での使用のための核酸またはベクターが提供される。疼痛または疼痛の症状は、制限されないが以下を含んでよい:
(a)急性疼痛および/または自発痛、
(b)慢性疼痛およびまたは進行中の疼痛、
(c)関節痛、変形性関節症または関節リウマチから生じる疼痛、炎症性腸疾患、乾癬および湿疹から生じる疼痛のいずれかを含む炎症性疼痛、
(d)侵害受容性疼痛、
(e)有痛性糖尿病性神経障害または帯状疱疹後神経痛と関連する疼痛を含む、神経障害性疼痛
(f)痛覚過敏、
(g)アロディニア、
(h)中枢痛、中枢性卒中後痛、多発性硬化症から生じる疼痛、脊髄損傷から生じる疼痛、またはパーキンソン病またはてんかんから生じる疼痛、
(i)癌性疼痛、
(j)術後疼痛、
(k)消化性内臓痛および非消化性内臓痛を含む内臓痛、胃腸(GI)障害に起因する疼痛、機能性腸疾患(FBD)から生じる疼痛、炎症性腸疾患(IBD)から生じる疼痛、月経困難、骨盤痛、膀胱炎、間質性膀胱炎または膵炎から生じる疼痛、
(l)筋骨格痛、筋肉痛、線維筋痛、脊椎炎、血清陰性(非リウマチ性)関節障害、関節外リウマチ、ジストロフィン異常症、グリコーゲン分解、多発性筋炎、化膿性筋炎、
(m)心臓または血管性疼痛、狭心症、心筋梗塞、僧帽弁狭窄、心膜炎、レイノー現象、浮腫性硬化症(scleredoma)、浮腫性硬化症または骨格筋虚血に起因する疼痛、
(n)片頭痛、前兆を伴う片頭痛、前兆を伴わない片頭痛、群発頭痛、緊張型頭痛を含む、頭痛、
(o)歯痛、顎関節筋膜痛または耳鳴りを含む、口腔顔面痛、または、
(p)背痛、滑液包炎、月経痛、片頭痛、関連痛、三叉神経痛、超増感、脊椎の外傷および/または変性または脳卒中から生じる疼痛
【0068】
疼痛の治療は、制限されないが、疼痛および/または疼痛の症状の発達または進行を、予防する、改善する、制御する、発生を低減させる、または遅らせることを含む。
【0069】
本発明の別の態様によれば、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または、第三および第四の態様に係る核酸分子またはベクターが提供され、ここで、p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質または核酸分子またはベクターは、第二の薬理学的に活性の化合物と組み合わせて、別々に、連続して、または同時に併用するためのものである。好ましくは、組み合わせる第二の薬理学的に活性の化合物は、制限されないが、以下を含んでよい;
・オピオイド鎮痛薬、例えばモルヒネ、ヘロイン、ヒドロモルフォン、オキシモルフォン、レボルファノール、レバロルファン、メタドン、メペリジン、フェンタニル、コカイン、コデイン、ジヒドロコデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、プロポキシフェン、ナルメフェン、ナロルフィン、ナロキソン、ナルトレキソン、ブプレノルフィン、ブトルファノール、ナルブフィンまたはペンタゾシン;
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、例えばアスピリン、ジクロフェナク、ジフルシナル(diflusinal)、エトドラク、フェンブフェン、フェノプロフェン、フルフェニサル、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラック、メクロフェナム酸、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、ナプロキセン、ニメスリド、ニトロフルルビプロフェン、オルサラジン、オキサプロジン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スルファサラジン、スリンダク、トルメチンまたはゾメピラック;
・バルビツレート鎮静剤、例えばアモバルビタール、アプロバルビタール、ブタバルビタール、ブタルビタール(butabital)、メホバルビタール、メタルビタール、メトヘキシタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール(phenobartital)、セコバルビタール、タルブタール、チアミラール(theamylal)またはチオペンタール;
・鎮静作用を有するベンゾジアゼピン、例えばクロルジアゼポキシド、クロラゼペート、ジアゼパム、フルラゼパム、ロラゼパム、オキサゼパム、テマゼパムまたはトリアゾラム;
・鎮静作用を有するH
1拮抗薬、例えばジフェンヒドラミン、ピリラミン、プロメタジン、クロルフェニラミンまたはクロルシクリジン;
・鎮静剤、例えばグルテチミド、メプロバメート、メタカロンまたはジクロラルフェナゾン;
・骨格筋弛緩薬、例えばバクロフェン、カリソプロドール、クロルゾキサゾン、シクロベンザプリン、メトカルバモールまたはオルフレナジン;
・NMDA受容体拮抗薬、例えばデキストロメトルファン((+)−3−ヒドロキシ−N−メチルモルフィナン)またはその代謝物デキストロルファン((+)−3−ヒドロキシ−N−メチルモルフィナン)、ケタミン、メマンチン、ピロロキノリンキニン、シス−4−(ホスホノメチル)−2−ピペリジンカルボン酸、ブジピン、EN−3231(MorphiDex(登録商標)、モルヒネおよびデキストロメトルファンの組み合わせ製剤)、トピラマート、ネラメキサン、または、NR2B拮抗薬を含むペルジンホテル、例えばイフェンプロジル、トラキソプロジルまたは(−)−(R)−6−{2−[4−(3−フルオロフェニル)−4−ヒドロキシ−1−ピペリジニル]−1−ヒドロキシエチル−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キノリノン;
・α−アドレナリン作用薬、例えばドキサゾシン、タムスロシン、クロニジン、グアンファシン、デキスメタトミジン(dexmetatomidine)、モダフィニル、または4−アミノ−6,7−ジメトキシ−2−(5−メタン−スルホンアミド−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノール−2−イル)−5−(2−ピリジル)キナゾリン;
・三環系抗うつ薬、例えばデシプラミン、イミプラミン、アミトリプチリンまたはノルトリプチリン;
・抗痙攣薬、例えばカルバマゼピン、ラモトリジン、トピラマート(topiratmate)またはバルプロエート;
・タキキニン(NK)拮抗薬、特にNK−3、NK−2またはNK−1拮抗薬、例えば(αR,9R)−7−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル]−8,9,10,11−テトラヒドロ−9−メチル−5−(4−メチルフェニル)−7H−[1,4]ジアゾシノ[2,1−g][1,7]−ナフチリジン−6−13−ジオン(TAK−637)、5−[[(2R,3S)−2−[(1R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ−3−(4−フルオロフェニル)−4−モルホリニル]−メチル]−1,2−ジヒドロ−3H−1,2,4−トリアゾル−3−オン(MK−869)、アプレピタント、ラネピタント、ダピタントまたは3−[[2−メトキシ−5−(トリフルオロメトキシ)フェニル]−メチルアミノ]−2−フェニルピペリジン(2S,3S);
・ムスカリン拮抗薬、例えばオキシブチニン、トルテロジン、プロピベリン、塩化トロスピウム(tropsium chloride)、ダリフェナシン、ソリフェナシン、テミベリンおよびイプラトロピウム;
・COX−2選択的阻害剤、例えばセレコキシブ、ロフェコキシブ、パレコキシブ、バルデコキシブ、デラコキシブ、エトリコキシブ、またはルミラコキシブ;
・コールタール鎮痛剤、特にパラセタモール;
・神経遮断薬、例えばドロペリドール、クロルプロマジン、ハロペリドール、ペルフェナジン、チオリダジン、メソリダジン、トリフルオペラジン、フルフェナジン、クロザピン、オランザピン、リスペリドン、ジプラシドン、クエチアピン、セルチンドール、アリピプラゾール、ソネピプラゾール、ブロナンセリン、イロペリドン、ペロスピロン、ラクロプリド、ゾテピン、ビフェプルノックス、アセナピン、ルラシドン、アミスルプリド、バラペリドン、パリンドール、エプリバンセリン、オサネタント、リモナバン、メクリネルタント、Miraxion(登録商標)またはサリゾタン;
・バニロイド受容体アゴニスト(例えばレシニフェラトキシン)または拮抗薬(例えばカプサゼピン);
・β−アドレナリン作用薬、例えばプロプラノロール;
・局部麻酔薬、例えばメキシレチン;
・コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン;
・5−HT受容体アゴニストまたは拮抗薬、特に5−HT
1B/1Dアゴニスト、例えばエレトリプタン、スマトリプタン、ナラトリプタン、ゾルミトリプタンまたはリザトリプタン;
・5−HT
2A受容体拮抗薬、例えばR(+)−α−(2,3−ジメトキシ−フェニル)−1−[2−(4−フルオロフェニルエチル)]−4−ピペリジンメタノール(MDL−100907);
・コリン作用性(ニコチン性)鎮痛剤、例えばイスプロニクリン(TC−1734)、(E)−N−メチル−4−(3−ピリジニル)−3−ブテン−1−アミン(RJR−2403)、(R)−5−(2−アゼチジニルメトキシ)−2−クロロピリジン(ABT−594)またはニコチン;
・トラマドール(登録商標);
・PDEV阻害剤、例えば5−[2−エトキシ−5−(4−メチル−1−ピペラジニル−スルホニル)フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン(シルデナフィル)、(6R,12aR)−2,3,6,7,12,12a−ヘキサヒドロ−2−メチル−6−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−ピラジノ[2’,1’:6,1]−ピリド[3,4−b]インドール−1,4−ジオン(IC−351またはタダラフィル)、2−[2−エトキシ−5−(4−エチル−ピペラジン−1−イル−1−スルホニル)−フェニル]−5−メチル−7−プロピル−3H−イミダゾ[5,1−f][1,2,4]トリアジン−4−オン(バルデナフィル)、5−(5−アセチル−2−ブトキシ−3−ピリジニル)−3−エチル−2−(1−エチル−3−アゼチジニル)−2,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−(5−アセチル−2−プロポキシ−3−ピリジニル)−3−エチル−2−(1−イソプロピル−3−アゼチジニル)−2,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−エトキシ−5−(4−エチルピペラジン−1−イルスルホニル)ピリジン−3−イル]−3−エチル−2−[2−メトキシエチル]−2,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、4−[(3−クロロ−4−メトキシベンジル)アミノ]−2−[(2S)−2−(ヒドロキシメチル)ピロリジン−1−イル]−N−(ピリミジン−2−イルメチル)ピリミジン−5−カルボキサミド、3−(1−メチル−7−オキソ−3−プロピル−6,7−ジヒドロ−1H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−5−イル)−N−[2−(1−メチルピロリジン−2−イル)エチル]−4−プロポキシベンゼンスルホンアミド;
・カンナビノイド;
・代謝型グルタミン酸受容体サブタイプ1(mGluR1)拮抗薬;
・セロトニン再取り込み阻害剤、例えばセルトラリン、セルトラリン代謝物デメチルセルトラリン、フルオキセチン、ノルフルオキセチン(フルオキセチンデスメチル代謝物)、フルボキサミン、パロキセチン、シタロプラム、シタロプラム代謝物デスメチルシタロプラム、エスシタロプラム、d,l−フェンフルラミン、フェモキセチン、イフォキセチン、シアノドチエピン、リトキセチン、ダポキセチン、ネファゾドン、セリクラミンおよびトラゾドン;
・ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)再取り込み阻害剤、例えばマプロチリン、ロフェプラミン、ミルタザピン(mirtazepine)、オキサプロチリン、フェゾラミン、トモキセチン、ミアンセリン、ブプロプリオン、ブプロプリオン代謝物ヒドロキシブプロプリオン、ノミフェンシンおよびビロキサジン(Vivalan(登録商標))、特に選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤、例えばレボキセチン、特に(S,S)−レボキセチン;
・二重セロトニン−ノルアドレナリン再取り込み阻害剤、例えばベンラファキシン、ベンラファキシン代謝物O−デスメチルベンラファキシン、クロミプラミン、クロミプラミン代謝物デスメチルクロミプラミン、デュロキセチン、ミルナシプランおよびイミプラミン;
・誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)阻害剤、例えばS−[2−[(1−イミノエチル)アミノ]エチル]−L−ホモシステイン、S−[2−[(1−イミノエチル)−アミノ]エチル]−4,4−ジオキソ−L−システイン、S−[2−[(1−イミノエチル)アミノ]エチル]−2−メチル−L−システイン、(2S,5Z)−2−アミノ−2−メチル−7−[(1−イミノエチル)アミノ]−5−ヘプテン酸、2−[[(1R,3S)−3−アミノ−4−ヒドロキシ−1−(5−チアゾリル)−ブチル]チオ]−5−クロロ−3−ピリジンカルボニトリル;2−[[(1R,3S)−3−アミノ−4−ヒドロキシ−1−(5−チアゾリル)ブチル]チオ]−4−クロロベンゾニトリル、(2S,4R)−2−アミノ−4−[[2−クロロ−5−(トリフルオロメチル)フェニル]チオ]−5−チアゾールブタノール、2−[[(1R,3S)−3−アミノ−4−ヒドロキシ−1−(5−チアゾリル)ブチル]チオ]−6−(トリフルオロメチル)−3ピリジンカルボニトリル、2−[[(1R,3S)−3−アミノ−4−ヒドロキシ−1−(5−チアゾリル)ブチル]チオ]−5−クロロベンゾニトリル、N−[4−[2−(3−クロロベンジルアミノ)エチル]フェニル]チオフェン−2−カルボキサミジン、またはグアニジノエチルジスルフィド;
・アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、例えばドネペジル;
・プロスタグランジンE
2サブタイプ4(EP4)拮抗薬、例えばN−[({2−[4−(2−エチル−4,6−ジメチル−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−1−イル)フェニル]エチル}アミノ)−カルボニル]−4−メチルベンゼンスルホンアミドまたは4−[(1S)−1−({[5−クロロ−2−(3−フルオロフェノキシ)ピリジン−3−イル]カルボニル}アミノ)エチル]安息香酸;
・ロイコトリエンB4拮抗薬;例えば1−(3−ビフェニル−4−イルメチル−4−ヒドロキシ−クロマン−7−イル)−シクロペンタンカルボン酸(CP−105696)、5−[2−(2−カルボキシエチル)−3−[6−(4−メトキシフェニル)−5E−ヘキセニル]オキシフェノキシ]−吉草酸(ONO−4057)またはDPC−11870、
・5−リポキシゲナーゼ阻害剤、例えばジレウトン、6−[(3−フルオロ−5−[4−メトキシ−3,4,5,6−テトラヒドロ−2H−ピラン−4−イル])フェノキシ−メチル]−1−メチル−2−キノロン(ZD−2138)、または2,3,5−トリメチル−6−(3−ピリジルメチル)、1,4−ベンゾキノン(CV−6504);
・ナトリウムチャンネルブロッカー、例えばリドカイン;または
・5−HT3拮抗薬、例えばオンダンセトロン;
および、それらの薬学的に許容できる塩および溶媒和物。
【0070】
本発明のさらなる態様によれば、個体における疼痛または任意の前述の疼痛および/または疼痛の症状の発達または進行を治療する、予防する、改善する、制御する、発生を低減させる、または遅らせる方法が提供され、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様に係る有効量のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または、第三および第四の態様に係る核酸分子またはベクターの、個体への投与を含む。
【0071】
本発明は、ヒト医療および獣医分野の両方に適用可能である。好ましくは、個体は、哺乳類、例えばウマ、ネコまたはイヌなどのコンパニオン動物、または、ヒツジ、ウシまたはブタなどの家畜である。最も好ましくは、個体はヒトである。
【0072】
本発明の第八の態様によれば、疼痛または任意の前述の疼痛/または症状の発達または進行を治療する、予防する、改善する、制御する、発生を低減させる、または遅らせる、任意の1または複数のための医薬組成物が提供され、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様によるp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または、第三および第四の態様による核酸分子またはベクターおよび薬学的に許容できる担体および/または賦形剤を含む。
【0073】
好ましくは、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様によるp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または、第三および第四の態様による核酸分子またはベクター、または、第八の態様の医薬組成物は、経口、舌下、口腔内、局所、直腸内、吸入、経皮、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、心臓内、骨内、皮内、腹腔内、経粘膜、膣内、硝子体内、関節内、関節周囲、局所または皮膚上の投与のために調製され、またはそれらの投与に適切である。
【0074】
好ましくは、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または、第三および第四の態様による核酸分子またはベクター、または、第八の態様の医薬組成物は、疼痛発症前および/または疼痛発症中および/または疼痛発症後の投与のために、または、そのような使用のために、調製され、または適切である。
【0075】
好ましくは、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様に係るp75NTR(NBP)Fc、または第三および第四の態様に係る核酸分子またはベクターまたは第八の態様の医薬組成物は、1週間あたり1回〜7回、さらに好ましくは1ヶ月あたり1回〜4回、さらに好ましくは6ヶ月の期間で1回〜6回、さらに好ましくは1年あたり1回〜12回の投与のためであり、またはそのような投与のために調製される。好ましくは、薬剤は、制限されないが、1日に1回、2日、3日、4日、5日または6日ごとに1回、毎週、2週間ごとに1回、3週間ごとに1回、毎月、2ヶ月ごとに1回、3ヶ月ごとに1回、4ヶ月ごとに1回、5ヶ月ごとに1回、6ヶ月ごとに1回、7ヶ月ごとに1回、8ヶ月ごとに1回、9ヶ月ごとに1回、10ヶ月ごとに1回、11ヶ月ごとに1回または毎年を含む期間で、末梢に投与されるものであり、または、そのように投与されるために調製される。
【0076】
さらに好ましくは、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または第三および第四の態様に係る核酸分子またはベクター、または第八の態様の医薬組成物は、制限されないが、経口で、舌下に、口腔に、局所的に、直腸に、吸入を介して、経皮的に、皮下で、静脈内に、動脈内に、または筋肉内に、心臓内投与を介して、骨内に、皮内に、腹腔内に、経粘膜的に、経膣的に、硝子体内に、皮膚上に、関節内に、関節周囲に、または局所的に、1つまたは複数を含む経路を介して末梢に投与されるものであり、またはそのように投与されるために調製される。
【0077】
好ましくは、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または第三および第四の態様に係る核酸分子またはベクター、または第八の態様の医薬組成物は、約0.05〜約200mg/mlの間;好ましくは約0.05、0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200mg/ml+/−約10%誤差のいずれか、最も好ましくは約3mg/ml(獣医学的適用)、および0.1(ヒト)の濃度での投与のためであり、または、そのような投与のために調製される。
【0078】
好ましくは、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または第三および第四の態様に係る核酸分子またはベクター、または第八の態様の医薬組成物は、約0.1〜約200mg/kg体重の間;好ましくは約0.5、1、5、10、15 20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または約200mg/kg体重+/−約10%誤差のいずれか、最も好ましくは約10mg/kg(獣医学的適用)、および0.3(ヒト)の濃度での投与のためであり、または、そのような投与のために調製される。
【0079】
本発明の第九の態様によれば、以下を含むキットが提供される:
(a)第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または、第三および第四の態様に係る核酸分子またはベクター、または第八の態様の医薬組成物;および
(b)疼痛および/または疼痛の症状の予防または治療の任意の1または複数のための、または、疼痛および/または疼痛の症状の発達または進行を改善する、制御する、発生を低減させる、または、遅らせるための、有効量の前記p75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、核酸分子、ベクターまたは医薬組成物の、個体への投与に関する説明書。
【0080】
キットは、本明細書に記載のp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、核酸、ベクターまたは医薬組成物を含んだ1つまたは複数の容器、および、本発明の任意の方法および用途に係る使用に関する指示書を含んでよい。キットは、個体が疼痛または疼痛の症状を有するか、または、そのようなものを有するリスクがあるかどうかの同定に基づいて、治療に適切な個体を選択する説明書をさらに含んでよい。医薬組成物の投与に関する指示書は、用量、投与スケジュール、および、意図する治療のための投与経路に関する情報を含んでよい。
【0081】
本発明のさらに別の態様によれば、予防または治療の任意の1または複数での使用のための、または、ニューロトロフィンNGF、BDNF、NT−3、NT−4/5の任意の1または複数と関連する状態または状態の症状の発達または進行を、改善する、制御する、発生を低減させる、または遅らせるための、第一または第二の態様またはそれらの好ましい実施態様に係るp75NTR(NBP)−Fc融合タンパク質、または、第三および第四の態様に係る核酸分子またはベクター、または、第八の態様の医薬組成物が提供される。
【0082】
−
NGF(神経成長因子)は、少なくとも2つのクラスの受容体:p75NTRおよびTrkA、膜貫通チロシンキナーゼと結合し、軸索の成長、分岐および伸長に関与する。NGFと関連する状態および症状は公知である。NGFは、炎症性疾患および疼痛において発現されて、炎症性疾患および疼痛と関連する[タンパク質配列NP_002497.2、NP_038637]。また、NGFは、数々の心血管系の疾患、例えば冠動脈アテローム性動脈硬化、肥満、2型糖尿病、およびメタボリック症候群において、および多発性硬化症において、役割を果たすことが示されている。NGFの血漿レベルの減少は(およびBDNFの血漿レベルの減少もまた)、急性冠動脈症候群およびメタボリック症候群と関連している。NGFはまた、様々な神経障害、例えば認知症、うつ病、神経分裂症、自閉症、レット症候群、神経性食欲不振、および神経性過食症とも関連し、そして、アルツハイマー病および神経変性疾患の発達にも関与している。NGFはまた、創傷治癒を促進することも示されており、皮膚の潰瘍および角膜の潰瘍の治療に役立ち得ることができる証拠が存在し、ラットにおいて、神経変性を減らし、末梢神経の再生を促進することが示されている。
【0083】
−
BDNF(脳由来神経栄養因子)はニューロトロフィンであり、神経系の発達中の神経の生存および伸長をサポートする[タンパク質配列NP_001137277.1、NP_001041604]。BDNFは、細胞表面受容体TrkBおよびp75NTRに結合し、また、α−7ニコチン性受容体の活性を調節する。BDNFと関連する状態および症状は公知である。BDNFは、生理学的および病理学的疼痛の伝達において、特に、BDNFの合成が非常に増加することが認められている急性疼痛、炎症性疼痛および神経障害性疼痛のモデルにおいて、重大な役割を果たすことが示されていて;また、BDNFは、慢性疼痛の症状において、およびさらに湿疹および乾癬などの症状において、上方制御されることが示されている。BDNFの下方制御は、うつ病、神経分裂症、強迫性障害、アルツハイマー病、ハンチントン病、レット症候群、および認知症、ならびに、神経性食欲不振および神経性過食症でみられる。
【0084】
−
ニューロトロフィン−5(NT−5)としても知られるニューロトロフィン−4(NT−4)は、主にp75NTRおよびTrkB受容体を介してシグナル伝達して、末梢知覚交感神経細胞の生存を促進する神経栄養因子である。このタンパク質の成熟ペプチドは、ヒト、ブタ、ラットおよびマウスを含む調べられた全ての哺乳類において同一である[タンパク質配列NP_006170、NP_937833]。NT−4は、後根神経節(DRG)の主な神経細胞、および、傍脊椎および椎前の交感神経節、背側および腹角の脊椎の神経細胞により生成され、前立腺、胸腺、胎盤および骨格筋を含む多くの組織において発現が見られる。NT−4/5と関連する状態および症状は公知である。NT4/5における異常は、原発性開放隅角緑内障に対する感受性と関連する。また、ニューロトロフィン4は、乳癌細胞の生存に寄与することも示されており、腫瘍増殖を阻害する標的である。NT−4/5は、疼痛−シグナリングシステム、例えば侵害受容性疼痛に関与することが知られており、また、NT−4/5の上方制御は、皮膚の慢性炎症性疾患、例えば皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎の痒疹病変にも見られる。NT−4/5の下方制御は、アルツハイマー病、ハンチントン病に見られる。
【0085】
−
ニューロトロフィン−3(NT−3)は、構造的に、β−NGF、BDNF、およびNT−4に関連し、哺乳類の神経細胞の生存と分化および成人の神経系の維持を調節するニューロトロフィンであり、ヒト胎盤で発現されると、胚での神経細胞の発達に影響し得る。NT3と関連する状態および症状は公知である。遺伝子ターゲッティングにより生産されたNTF3−欠損マウスは、四肢の重度な運動障害を示す。NT−3は、Trk受容体を介してシグナル伝達し、神経およびグリア細胞の増殖および生存を促進する[タンパク質配列NP_001096124.1およびNP_032768]。ヒト、マウスおよびラットのNT−3のアミノ酸配列は同一である。NT3およびその同起源受容体、チロシンキナーゼC(TrkC)は、神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛、および、侵害受容と自己受容性感覚(proporioception)のメカニズムを調節することが知られており、例えば、NT3発現は、神経障害性動物の小型DRG細胞内で増加している。また、NT3発現は、神経障害、例えば糖尿病性多発性神経障害およびHIV関連の神経障害、萎縮を含む大径繊維神経障害(large fiber neuropathy)とも関連し、さらに、痛覚過敏の進行(通常の侵害性刺激の閾値が減少する)、アロディニア(非侵害性刺激が侵害性になる)、および自発痛(明らかに刺激が不存在下での疼痛)に関与し、公知の筋肉痛のモジュレーターである。
【0086】
ここで、本発明は、以下の実施例を参照することにより説明され、それらは本発明を説明するために提供されるが、制限はしない。
【実施例】
【0087】
p75NTR−Fc配列に関するインシリコ(in silico)免疫原性テスト
【0088】
モノクローナル抗体(mAb)のFc(結晶化可能断片)に基づく新規クラスの多機能性の治療的融合タンパク質を含む幅広いバイオ医薬品を生産するために、組み換えDNA技術が現在のところ利用されている(Huang 2009 Curr Opin Biotechnol,20(6),692−9)。Fcドメインへの治療的タンパク質の融合は、2つの独特な方法で分子の血清半減期を延長させることにより、バイオ医薬品の全体的な治療効果を高める。第一に、新生児Fc受容体(FcRn)へのpH依存的な結合によるFc−融合の再生は、エンドソーム内の治療的タンパク質の分解を減らす。第二に、Fc−ドメインの追加および治療的タンパク質に対するFcが仲介する二量体化の両方による分子サイズの増大は、治療的分子と比較して腎クリアランスを制限するのを助ける。
【0089】
融合タンパク質は、2以上のドメインを一緒に直接接合することにより作ることができる。しかしながら、これは、生じる融合タンパク質において好ましくない分子特性、例えば低下した生物活性(Bai et al.2005 Proc.Natl.Acad.Sci.102 7292−7296)、タンパク質ミスフォールディング(Zhao et al.2008 Protein Expr.Purif.61,73−77)または低収率(Amet et al.2009 Pharm.Res.26,523−528)をもたらし得る。リンカー配列をドメイン間に挿入してこれらの潜在的論点を対処することができるが、様々な因子を考慮して適切なリンカーを選択しなければならない。第一に、リンカーは、融合タンパク質内のドメインの対象とする機能全てを反映しなければならない。一部の状況では、ドメインは独立に作動しなければならず、したがって、リンカーの可動性が望ましい。反対に、剛性リンカーは、ドメインを繋留する場合に必要であり得る。第二に、リンカーは、翻訳後修飾(PTM)を介して融合タンパク質内にいかなる不要な機能も導入してはならない。最後に、リンカーはヒトの体内で天然に生じないデノボ設計の配列であり得るので、リンカーおよびリンカーに隣接する領域の潜在的免疫原性を考慮しなければならない。
【0090】
ほとんどの治療的タンパク質は、程度は異なるが免疫原性であり(Van Walle et al.2007 Expert Opin Biol Ther.7(3):405−18,Stas et al.2009 Immunogenicity assessment of antibody therapeutics.Cambridge University Press,Cambridge)、そしてさらに、いわゆる完全−ヒト抗体治療は、免疫原性領域を含み得る(Harding et al.2010 MAbs.2,256−265)。免疫原性は、Th(T−ヘルパー)応答を誘導する能力であり、それは、独特のT細胞受容体が、抗原提示細胞上に提示されたHLAクラスII分子に結合したペプチドを認識するときに引き起こされる。ペプチドは、抗原提示細胞により内在化されたタンパク質から生産され、それからエンドソーム切断経路を通して処理される。HLAクラスII分子に関して十分な親和性を有するペプチドのみが、細胞表面上に提示され、場合によりTh応答を引き起こし得る。
【0091】
その結果として、Thエピトープを取り除くこと(脱免疫化として知られる処理)により、免疫原性の潜在性を低くすることが可能である(Chamberlain 2002 The Regulatory Review 5,4−9,Baker and Jones 2007 Curr.Opin Drug Discov.Devel.10,219−227)。これは、治療的タンパク質内のどのペプチドがHLAクラスII分子に結合することができるかを予測し、続いてHLAクラスII分子に関するペプチド結合親和性を排除または低減する置換を導入することにより達成される。
【0092】
様々なHLAクラスII遺伝子が存在し、ほとんど全てが非常に多型性である。さらに、HLAクラスII分子はαおよびβ鎖からなり、生来の多型を有する異なる遺伝子からそれぞれ得られ、さらに多様性を増大させる。具体的には、全ての個体が遺伝子:DRA/DRB、DQA/DQBおよびDPA/DPBを発現する。これらのうちDRAのみが非多型性である。加えて、「第二の」DRB遺伝子(DRB3、DRB4またはDRB5)が存在し得て、その産物もまたDRA鎖と関連する。
【0093】
脱免疫化中の焦点は、DQおよびDPよりも高いレベルで発現することが知られるDRアロタイプに当てられる(Laupeze et al.1999 Hum.Immunol.60,591−597,Gansbacher and Zier 1988 Cell Immunol.117,22−34,Berdoz et al.1987 J.Immunol.139,1336−1341,Stunz et al.1989 J.Immunol.143,3081−3086)。DRアロタイプは通常、DRA遺伝子は一定のままなのでDRB遺伝子により参照され、例えば、DRB1
*01:01であり、数字は対立遺伝子特有である。
【0094】
個々のエピトープに関する重度評価は、雑多さの基準、すなわち、特異的なエピトープが結合するHLAアロタイプの数、および、集団中のアロタイプの重要性(頻度)およびHLAの定性的評価:ペプチド複合体の結合の長さに基づく。個体のT−細胞集団は「自己−ペプチド」を認識しないように選択されているので、通常はTh応答を誘導しない(公知の)自己−ペプチドに対応するペプチドに関して脱免疫化されているタンパク質をスクリーニングすることが可能である。T細胞成熟中にどの内因性タンパク質が内在化されて、それとして自己−ペプチドを生じさせるのか詳細には知られていないが、抗体はその中にある(Kirschmann et al.1995 J.Immunol.155,5655−5662,Verreck et al.1996 Immunogenetics 43,392−397,Harding et al.2010 MAbs.2,256−265)。
【0095】
p75−NTR Fc−融合タンパク質の設計
p75−NTR Fc−融合タンパク質のFc部分の特異的なアロタイプは、IgG pConベクターIgGzaであった(上記参照)。
【0096】
p75−NTR Fc−融合タンパク質の設計は、様々な段階で進めた:
【0097】
・Fc−融合タンパク質に用いるべきp75−NTR配列の正確な構築物を定義した。以下を含む様々な因子を考慮した:
【0098】
p75−NTR Fc−融合は、少なくともNGF、BDNF、NT−3およびNT−4を含む様々なニューロトロフィンと結合することが可能でなければならない;可動性がp75−NTR Fc−融合タンパク質内に維持されていなければならない。
【0099】
不要なα−セクレターゼ切断部位がp75−NTR−Fc(配列番号1)上の細胞外ドメイン内に存在し、それらは切断を受けて、その結果として生物学的活性およびインビボのp75−Fc産物のPKプロファイルを低減させるので、これらはその配列から取り除かれなければならない。元のp75−Fc産物(配列番号1参照)はα−セクレターゼ切断部位を含み、その結果として、半減期および生物学的活性(PK/PD)が配列番号3と比較して有意に低下した(以下参照)。
【0100】
p75−NTR Fc−融合タンパク質内の細胞外p75−NTRドメインおよびFcを接合するための使用に適した、適切な経験的リンカーを同定した。翻訳後修飾(PTM)に潜在的に参加することのできる部位を含むリンカー配列は除いた。
【0101】
異なる潜在的リンカー配列を用いた適切なFc領域部分を有する所定のp75−NTR構築物を用いて、p75−NTR Fc−融合タンパク質の様々な変異をインシリコで構築した。構造モデリング、および、p75−NTR細胞外ドメイン、Fcヒンジ領域および潜在的リンカーのC末端の分析を試みた(表1参照)。
【0102】
異なるリンカー配列を有する変異を、潜在的なThエピトープに関して、Epibase(商標)を用いてスクリーニングした。
【0103】
発現した配列3 p75−NTR Fc−融合タンパク質(配列番号3)を、予測の免疫原性リスクに基づき提案した。
【0104】
Fc−融合タンパク質配列分析
現在のところ利用可能な治療的Fc−融合タンパク質13個に関するタンパク質配列を、United States Adopted Names(USAN)ウェブサイト(http://www.ama−assn.org/ama/pub/physician−resources/medical−science/)から取得した。可能な場合は、タンパク質配列を相互参照し、オンラインの特許情報ウェブサイトのような他のオンラインリソースに対して確認した。研究グレードのFc−融合タンパク質に関するタンパク質配列を、オンラインリソースを用いて他の市販の供給元から得た。
【0105】
様々なFc−融合タンパク質が得られた推定の親配列を同定するために、Fc−融合タンパク質配列を、MAFFTを用いて社内のLonza IgG pCon ベクターの翻訳タンパク質産物に対して並べた(Katoh et al.2002 Nucleic Acids Res.30,3059−3066)。それから、並べたFc−融合タンパク質配列を、Fc−融合がIgG配列と一致し始める位置でトランケートした。どこでIgG配列が始まるのか決定するために、3つの連続したIgG残基の基準を用いた。
【0106】
Uniprotデータベース(The UniProt Consortium,UniProt release 2012−09−Oct3,2012)の社内コピーのBlast検索(Altschul et al.1997 Nucleic Acids Res. 25 3389−3402)を、トランケートされたFc−融合タンパク質配列をそれらのIgG配列を伴わずに用いて行ない、最も近いマッチングのタンパク質配列を同定した。それから、各Fc−融合タンパク質配列を、Uniprotデータベース内に見られる最も近いマッチングの配列および最も近いマッチングのLonza IgG pCon配列の両方に対して手作業で再度並べた。それから、融合パートナーとFc領域との間の接合部を抽出して、13の治療的Fc−融合タンパク質に関するもの1つと市販のFc−融合タンパク質に関するもの1つの、2つのセットを作成した。それから、これらの2つのセットから、リンカー領域を定義した。
【0107】
それから、市販のFc−融合タンパク質配列のセットを、最も近いマッチングのLonza IgG pCon配列に対する配列同一性が見いだされたN末端の位置でトランケートした。それから、トランケートされた配列を分類し、配列の非重複(non−redundant)セットを生産した。
【0108】
Epibase(商標)免疫プロファイリング
Epibase(商標)免疫プロファイリングを、Globalセット中の85のHLAクラスIIアロタイプを用いて、Fc−融合タンパク質変異に関して行なった。
【0109】
HLA結合の予測のみを用いた、Fc−融合タンパク質変異のそれらの免疫原性リスクに関する比較は、非常に困難である。これは、様々の重要な因子が考慮されていないからである:
【0110】
・結合ペプチドは加工機械により生産され得ず、したがって、抗原提示細胞によりペプチド−HLA複合体としてTh細胞に露出されることは決してない。
【0111】
・ペプチド−HLA複合体は、Th細胞により認識され得ない。
【0112】
これらを考慮すれば、変異配列間でEpibase(商標)免疫プロファイリングを用いて、3つのタイプの定量的な比較を行なうことができる。第一に、DRB1、DRB3/4/5、DQおよびDPのアロタイプのセットのそれぞれに関する重要なエピトープの数は、1つとしてカウントされる同一のグループの多数のアロタイプに結合するペプチドと比較することができる。そのようなエピトープの数は各セット内の独特のエピトープの数を示し、変異間の違いは潜在的なThエピトープの完全な除去または付加を明らかにする。
【0113】
多くのエピトープ(特に雑多なエピトープ)が多数のアロタイプに結合するのと同様に、独特のThエピトープの数の変化は、変異間の免疫原性の潜在性の実際の減少または増加を目立たなくさせ得る。したがって、第二の定量的比較は、全てのThエピトープにわたる各HLAアロタイプのレベルにおいてであり、変異に関するアロタイプあたりの結合ペプチドの数は、血清型および集団頻度とともに考慮すれば、血清型またはアロタイプレベルのいずれかでの比較を可能にする。第三に、最悪の場合の免疫原性リスクを表わす概算のスコアは以下のように計算することができる:
【0114】
スコア=Σ(エピトープ数×アロタイプ頻度)
【0115】
影響を受けたアロタイプそれぞれに関する乗法結果は、所定のアロタイプに結合することが予測されるエピトープの数、および影響を受けたアロタイプの対立遺伝子の頻度から計算される。結果は、試験に用いた全ての影響を受けたDRB1、DRB3/4/5、DQおよびDPアロタイプに関して合計される。全ての選択されたHLAアロタイプ(DRB1、DRB3/4/5、DQおよびDP)を考慮しなければならないので、個々のアロタイプスコアは免疫原性リスクを測定する絶対的測定基準でないことに注意すべきである。
【0116】
Lonza pCon IgG Fcから得られるもののようなヒト抗体生殖細胞系配列は、それらはヒト免疫系に対して提示される循環抗体のプール中に見られ、自己−ペプチドであると考えることができるので、免疫原性であるとは考えなかった。同様に、p75−NTRは、ヒト体内に天然に発現されるので、本質的に免疫原性とは考えない。結果として、p75−NTRまたはヒト抗体生殖細胞系配列のいずれかから完全に得られるペプチドから生じる重要なエピトープは、示される免疫原性スコアおよびカウントから除外される。
【0117】
構造モデリング
提案されるp75−NTR Fc−融合タンパク質の構造モデルは、Lonzaのモデリングプラットフォームを用いて生産した。p75−NTRおよびFc部分に関する候補の構造テンプレート断片は、社内の抗体データベースの塩基およびProtein Data Bank(PDB)の両方から、それらの配列同一性、および、分解能(Angstrom(A))のようなテンプレート構造の定性的結晶学的方法に関して、スコアを付け、ランクを付け、選択した。
【0118】
p75−NTR Fc−融合タンパク質に対する構造テンプレート断片の配列アライメントを作成した。テンプレート断片を、配列アライメントとともにMODELLER(Sali et al.1993 J.Mol.Biol 234,779−815)により処理した。このプロトコルは、並べられた構造テンプレートのセットに由来する立体構造制限を作り出す。制限を満たす構造の集合体は、共役勾配およびシミュレートされたアニーリング最適化手順により作り出される。1つまたは複数のモデル構造は、タンパク質構造のスコアおよび立体構造制限の充足から得られるエネルギースコアに基づき、この集合体から選択される。モデルを調べて、ターゲットとテンプレートとの間で異なる位置の側鎖を、側鎖最適化アルゴリズムおよび最小限化されたエネルギーを用いて最適化した。一連の可視化および計算ツールを用いて、構造の立体構造可変性、および、ドメインのスコアおよびローカルパッキング(local packing)を評価して、1つまたは複数の好ましいモデルを選択した。
【0119】
p75−NTR Fc−融合タンパク質の設計
p75−NTR Fc−融合タンパク質の3つのリンカー変異を設計した。最終のFc−融合タンパク質内のp75−NTR領域における可動性を維持する試み、および、αおよびγセクレターゼに関する不要な切断部位を避ける望みの、設計制約を考慮して、細胞外p75−NTR配列をG237位でトランケートした。元のp75NTR−Fc配列1(配列番号1)を、A250位でトランケートした。αセクレターゼ切断部位は、241−242位と244−245位との間のp75−NTRの細胞外部分に同定されていて(Zampieri et al.2005 J Biol Chem.280,14563−71)、推定のγセクレターゼ切断部位は、282位の領域内の配列ホモロジーにより推測されている。配列1のPK/PDから、配列1(配列番号1)のPKおよび生物学的活性は、配列3(配列番号3)と比較して有意に低下していることが明らかである。これらの実験から、αおよびγセクレターゼの位置(sties)は、インビボ活性の低下に寄与することが結論付けられた。
【0120】
変異に関して選択されるリンカーの重要な要件は、PTMを生じることができるいかなる残基の導入も避けて低い免疫原性リスクを維持するために、Fc−融合タンパク質における融合パートナーの可動性を可能にすることである。
【0121】
Fc定常領域、経験的リンカーおよび天然のタンパク質から得られるリンカーにp75−NTRを接合するために、2つのクラスのリンカーを利用することができる。天然のタンパク質から得られるリンカーは、不要なPTMが可能な部位を導入し得て、それらの特質に起因して、潜在的に、免疫原性を導入するリスクがより高い。経験的リンカーは、これらの理由に関してさらなる調査が進められた。可動性または剛性のいずれかに幅広く分類することができる。繰り返しユニットの経験的リンカーの配列を、それらの可動性の分類とともに以下に記載する:
【0122】
・(G
4S)
x−可動性
・G
x−可動性
・A(EAAAK)
XA−剛性(配列番号14)
・(PA)
x−剛性
【0123】
最終のFc−融合タンパク質における、少なくともNGF、BDNF、NT3およびNT4を含む多数の神経栄養性リガンドに対する結合を確実にするための、可動性に関する必要性を考慮して、可動性リンカーのみ考えた。
【0124】
これらの考察に基づき、ポリ−グリシンリンカーを用いた1つの変異、および、テトラ−グリシンセリンリンカーを用いた2つの変異の、3つの変異を構築した。変異は全て、リンカー配列の一部として、元のp75−NTR配列におけるG209(発現タンパク質、配列3(配列番号3)参照)を考慮する。加えて、変異は、元のp75−NTR Fc−融合タンパク質配列1(配列番号1)における222位と同等の位置での、システインからセリンへの変異を含む。変異のリンカー領域を
図5に示す。
【0125】
各変異および
図1に示す他の配列に関する免疫原性の潜在性の分析を、Epibase(商標)を用いて行なった。Globalセット中の85のHLAクラスIIアロタイプに影響を及ぼす重要なエピトープに関する予測の免疫原性スコアを、以下の表1に示す。加えて、重要でないエピトープにより影響を受けたアロタイプの数についての情報も表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
予測の免疫原性およびPTMが可能な任意の部位の不在に基づき、変異1(p75_Fc_G4x1)は、3つの変異の最高の特性を有する。そしてインビボ試験のために生産された。
【0128】
NGFに関する、配列1(配列番号1)および配列3(配列番号3)p75NTR−Fcの親和性
実験ではBiacoreチップを調製し、フローセル1および2にプロテインAをアミン結合した。捕捉されたp75−Fcに結合するNGFの1サイクルのカイネティクスを測定した。
【0129】
チップ表面の結合能(R
maX)は、リガンド(融合タンパク質)の固定化レベルに依存する。カイネティクス試験のために、50〜100RUのR
maXがアドバイスされる。p75−FcおよびNGFの分子量を用いることにより、融合タンパク質に関する所望の固定化レベルを計算することができる。
【0130】
R
maX=(NGF分子量/融合タンパク質分子量)×固定化レベル×化学量論比:50=(13,500/102,000)×固定化レベル×1。
【0131】
したがって、必要な固定化レベル=(102,000/13,500)×50=378RUの配列1(配列番号1)および配列3(配列番号3)p75NTR−Fcであり、1サイクルのカイネティクスの前にプロテインAチップ上にNTR−Fcを固定化した。
【0132】
手動操作により、所望のレベルの約380RUが達成されるまで、プロテインAチップのフローセル2上に、配列3 p75−Fc(配列番号3)を捕捉させた。これは、10μl/分の流速および配列3 p75−Fc(配列番号3)濃度10μg/mlでの22秒の注入で行ない、プロテインA表面上に捕捉された418RUの融合タンパク質をもたらした。
【0133】
まず、10、5 2.5、1.25および0.625nMのNGF濃度を試験した。融合タンパク質に関するK
Dがこの範囲のNGF濃度内であると概算されるので、これらの濃度を試験した。
【0134】
1サイクルのカイネティクス方法は以下を含んだ:
【0135】
−0.625nMのNGFを、捕捉されたp75−Fc上に、30μl/分で120秒間注入する。
【0136】
−それから、このプロセスを1.25nMでのNGFの注入で繰り返し、2.5、5および10nMを続けた。
【0137】
−最終濃度のNGFが注入された後、ランニングバッファー(HBS−EP)をチップ上に流すことにより、600秒の解離フェーズを行なった。
【0138】
一旦完了したら、10mMのグリシンHCl(pH2)を30μl/分で60秒間を注入することにより、チップをそのプロテインA表面へ元に再生した。
【0139】
それから、10μg/mlの濃度で10μl/分の流速で38秒の注入を行なうことにより、配列1(配列番号1)p75−Fcをチップ上に捕捉した。これは、所望のレベルの430RUを達成した。それから、上述の1サイクルのカイネティクス手順を繰り返した。
【0140】
データ分析
融合タンパク質−NGF結合データを、Biacore T200評価ソフトウェアv1を用いて以下の方法で分析した:
【0141】
−フローセル2(Fc=2)上の融合タンパク質に対するNGFの結合に関して、および、コントロールフローセル1(Fc=1;プロテインAのみ)上を流れるNGFに関して、データを記録する。
【0142】
−それから、Fc=1によるデータをFc=2から差し引き、「2−1」結合データを得る。
【0143】
−それから、0nM(HBS−EPランニングバッファーのみ)の注入に関する2−1結合データを全ての2−1結合データから差し引き、実験全体のベースラインにおける任意のドリフトに関して調節する。
【0144】
−それから最後に、このデータを1:1結合モデルに合わせて、会合速度(ka)、解離速度(kd)および親和性(K
D)を含む、結合特性を計算する。
【0145】
捕捉された配列1(配列番号1)および3(配列番号3)p75−Fc融合タンパク質に結合するNGFの1サイクルのカイネティクスデータ
両方の融合タンパク質に関する、NGFへの結合プロファイルは、400pM(配列番号1)および360pM(配列番号3)であった。これらの試験から、配列3(配列番号3)は、配列1(配列番号1)よりも、NGFに関して高い親和性を有することが明らかであった。
【0146】
配列1(配列番号1)および3(配列番号3)p75NTR−Fcのインビボ薬物動態
体重120〜150g(到着時)の雄Wistarラット(Charles River UK)を、この試験に用いた。各動物は、到着時に検査し、外見上健康であるようであった。それらを2つのケージに無作為に割り当て、各ラットは、尾に押した入れ墨により固有の識別番号が割り当てられた。0日目の試験開始前に少なくとも10日間、動物を動物ユニットに慣れさせた。
【0147】
ラットがそれらの環境に慣れた時点で、それらを保管/手順室へ移し、そこで全てのインビボ手順を行なった。Home Office Animals(Scientific Procedures)Act 1986で推奨される12時間の明暗サイクル(オン7時オフ19時)を与えるように設定された蛍光灯により、動物を照らし続けた。部屋は空調管理し、空気温度(21℃+/−2℃)および相対的湿度を日常的に測定した。
【0148】
ラットには照射食物(Scientific Animal Food and Engineering,Augy,France)を与え、オートクレーブした水が試験を通じて適宜利用可能であった。食物の各バッチを検査し、組成および汚染物質に関して日常的にスクリーニングした。巣およびケージをオートクレーブし、各ケージは個別に換気した(IVCシステム)。
【0149】
試験設計は、表2に概説する5つの処置群があるようにした。
【0150】
【表2】
【0151】
2、4、6、8、12および15日目のほぼ同じ時間(午前10時〜午前11時30分)にラットの尾静脈から血液サンプルを採取し、血漿を調製した。
【0152】
尾静脈からの血液サンプリング
ラットを38℃に設定された加温ボックス内に、最低5分間だが10分よりも長くない時間置いて、尾静脈の血管拡張を誘導して出血を促進させた。ラットを適切なサイズの保定器(restrainer)内に監禁し、滅菌23Gニードルを用いて尾静脈を刺し、CB300マイクロベットチューブ(Sarstedt 16.444)へ血液を流し入れた。最低100μlおよび最高300μlの血液を、全ての時点において各ラットから回収した。繰り返しのサンプリングのために異なる部位を選択し、ラットは手順全体を通じて落ち着いていた。ラットは、繰り返しの血液サンプリングに良好に耐容し、傷の所見はなかった。回収した血液を用いて血漿を調製した。
【0153】
心臓由来の末端血液サンプル
末端血液サンプルを、テルモ1mlシリンジおよび23Gニードルを用いたイソフルラン麻酔薬の下で、心臓穿刺により採取した。それから動物を頚椎脱臼により殺した。回収した血液を用いて血清を調製した。
【0154】
血漿調製
尾静脈由来の血液を含むマイクロベットを穏やかに数回反転させて、抗凝固剤(カリウム−EDTA)との良好な混合を確実にした。それから、2700×gで10分間遠心分離する前にチューブを氷上に置き、血漿をポリプロピレンチューブ中に等分した(1アリコートのみ調製された2日目を除き、各時点について動物あたり2アリコート)。全ての血漿サンプルを直ちに凍らせて、必要になるまで−80℃で保管した。
【0155】
血清調製
15日目に心臓穿刺により回収した血液を、ポリプロピレンチューブ内で室温にて2〜3時間(最大3時間)凝固させた。それから、凝固血液を4000×gで5分間遠心分離し、血清をポリプロピレンチューブ中に等分した(動物あたり2アリコート)。血清サンプルを直ちに凍らせて、−80℃で保管した。
【0156】
血漿p75NTR−Fcの決定
無傷のp75NTR−Fcの全血漿濃度を決定する手段として、p75NTR(R and D systems)およびIgG1 Fc ELISA(R and D systems)に関して改変ELISAを用いて、血漿p75NTR−Fcを測定した。
【0157】
p75NTR−Fcの配列1(配列番号1)および配列3(配列番号3)の薬物動態を判定した。
【0158】
【表3】
【0159】
結果
配列1(配列番号1)p75NTR−Fcのαおよびγセクレターゼ切断部位を取り除くことにより、配列3(配列番号3)と比較して、これはp75NTR−FcのPKを有意に改善し、続いて、慢性の治療後の疼痛スコアにより評価される有効性を改善した。配列1(配列番号1)p75NTR−Fcのαおよびγセクレターゼ切断部位は、この化合物を、疼痛およびニューロトロフィン生物学に関連する他の病理(例えば呼吸器疾患)の治療のためのインビボ薬として不適切にさせた。
【0160】
配列3(配列番号3)は安定していて、配列1(配列番号1)と比較して改善されたPK/PDプロファイル、および、ニューロトロフィンに対するより高い親和性を有する。
【0161】
P75NTR−FC(配列番号3)は鎮痛剤である
この試験の目的は、ラットでの、ヨード酢酸一ナトリウム(MIA)で誘導される変形性関節症(OA)における、p75NTR−Fc(配列番号3)の慢性暴露の、疼痛有効性に対する効果を調べることであった。
【0162】
以前に我々は、自発痛の評価は、無能力試験器(incapacitance tester)を用いた静的荷重負荷の測定により行なうことができること、および、これは膝の組織病理学と関連していることも示している。疼痛のための新規の治療法を用いた事前の臨床試験は、データに偏見を生じさせる可能性に関して批判を受けている。これを対処するために、OAの誘導のために左右両膝を無作為に選択し、毎日のインビボの任務の全ての操作者は各膝の状態が見えないようにされた。典型的に文献からは、OAの誘導は右膝のみで行われているが、以前の試験で我々は、時点または用いたMIAの投与量にかかわらず、右膝に対して、左膝でのOAの誘導の間に一貫した違いは見いださなかった。
【0163】
MIAの調製
MIAを0.3mg/50μlのETF−PBS(それぞれの関節内注入に用いられる容量)で調製した(6mg/mlストック溶液と同等である)。302mgのMIAを量り取り、50.3mlのETF−PBS中に溶解させた。MIAを1日前もって調製し、必要になるまで暗所にて4℃で保管した。
【0164】
動物
体重110〜130g(到着時)の44匹の雄Wistarラット(Charles River UK)を、この試験に用いた。各動物は、到着時に検査し、外見上健康であるようであった。それらを2つのケージに無作為に割り当て、各ラットは、尾に押した入れ墨により固有の識別番号が割り当てられた。
【0165】
0日目の試験開始前に少なくとも10日間、動物を動物ユニットに慣れさせた。ラットがそれらの環境に慣れた時点で、それらを保管/手順室へ移し、そこで全てのインビボ手順を行なった。Home Office Animals(Scientific Procedures)Act 1986で推奨される12時間の明暗サイクル(オン07.00オフ19.00)を与えるように設定された蛍光灯により、動物を照らし続けた。部屋は空調管理し、空気温度(21℃+/−2℃)および相対的湿度を日常的に測定した。
【0166】
ラットには照射食物(Scientific Animal Food and Engineering,Augy,France)を与え、オートクレーブした水が適宜利用可能であった。食物の各バッチを検査し、組成および汚染物質に関して日常的にスクリーニングした。巣およびケージをオートクレーブし、各ケージは個別に換気した(IVCシステム)。
【0167】
実験設計
試験設計は、5グループの動物が存在するようにした:コントロールヒト抗体(n=6)、0.3mg/kgのp75NTR−Fc(配列番号3)、1mg/kgのp75NTR−Fc(配列番号3)、3mg/kgのp75NTR−Fc(配列番号3)および3mg/kgのPG−007(ファイザーのタネズマブのバイオシミラー抗−NGF抗体)。
【0168】
抗体およびp75NTR−Fc(配列番号3)を、5日ごとに25日間、皮下注入により投与した。
【0169】
体重を測定し、ベースラインの血液サンプルを−2日の朝に尾静脈から採取した。−1日のほぼ同じ時間に、ベースラインの静的荷重負荷を測定した。0日に、再びその日のほぼ同じ時間に、全てのラットをそれらのそれぞれの抗体またはp75NTR−Fc融合タンパク質で処置した。3時間後、全ての動物は、片方の膝に0.3mgのMIAを関節内注入された(ETF−PBSを逆側の膝に注入した)。
【0170】
処置の無作為化
試験の開始前にラットを計量し、各群内の動物の平均体重がほぼ等しくなるように、2つの各ケージのラットを無作為に処置群に割り当てた。特定の処置群に割り当てられた各ラットに加え、各ラットの左右いずれかの膝にMIAを注入するように(各ラットの逆側の膝はETFPBSを注入した)、さらなる無作為化も行なった。処置群の割り当ておよび各ラットに関してどちらの膝が治療を受けるかは、MacのMicrosoft Excel(Version 14.1.1)の乱数発生器を用いて出した。動物と接触のない職員が、無作為化手順および割り当てを行なった。
【0171】
2本の7mlポリプロピレンバイアルを各動物に関してラベルして左または右膝を表示した(合計88バイアル)。2人(1人がマスター無作為化シートをスコア付けおよび確認し、もう1人が関節内注入のために溶液を等分する)が、88バイアルを調製した。等分は、MIAバイアルが最初に充填されて、その後に残りのバイアルがETF−PBSで充填されるように(これは各動物に関して反対側の膝のバイアルである)、順々に行なった。インビボ試験全体を通じて、科学者は、全ての動物の処置状態が見えなかった。
【0172】
動物手順
膝の関節内注入
全てのラットを、Boyles Apparatusを用いたイソフルランの吸入により麻酔した。各動物の両膝上の毛をクリップで留めて、両膝をエタノールで拭いた。27Gニードルを付けた0.5ml滅菌Becton Dickinson Micro−Fineインスリンシリンジを用いて、ETF−PBS中0.3mgのMIAまたはETF−PBSのみのいずれかを50μl、膝蓋下靭帯を通して各膝に注入した。
【0173】
自発痛の評価
各動物に関して、無能力試験器(Linton Instruments,U.K.)を用いて左右後肢の荷重負荷を測定することにより自発痛を判定した。ラットを、それらの後脚が別々のセンサー上に座るように、無能力試験器上の適切なサイズのパースペックス動物ボックス中に置いた。ボックスのサイズは、ラットが押し潰されずに快適に座ることを可能にしたが、同様に、方向転換する十分な空間を与えなかった。ラットが安定して落ち着いた時点で、各肢の荷重負荷を5秒にわたり記録し、両後肢によってもたらされる力(グラム)の平均を記録した。後足の荷重配分を各時点で各ラットに関して5回判定し(その妥当性を以前に我々は示している)、5回の測定値の平均を計算した。右肢の荷重を両後肢に関する合計荷重で割ることにより、個々の荷重負荷データを荷重配分に変換した。
【0174】
MIAにより誘導されるOAに続く、自発痛の測定
無能力試験器を用いて自発痛を評価して、後肢を通じた荷重の配分を測定した。評価はベースラインで、MIAでの処置の3週後に行なった。
【0175】
図6に示すデータは、後肢にわたる合計荷重の比率として示される。
【0176】
処置を受けていない動物(naive animal)に関しては、後肢上の荷重の比率と理論的予測の0.5との間に、統計的に有意な違いはなかった。
【0177】
コントロール抗体で処置した動物に関しては、処置されていない肢よりも、処置された肢上に統計的に有意に少ない荷重がかけられた(39%対61%)。抗−NGF抗体(PG−007タネズマブバイオシミラー3mg/kg)で処置した動物およびp75NTR−Fc(配列番号3)を0.3および1mg/kgで処置した動物では、測定した任意の時点において、処置された後肢上の荷重の比率と理論的予測の0.5との間に(両後肢にわたる分配でさえ)、統計的に(P<01)有意差はなかった。3mg/kgでのp75NTR−Fc(配列番号3)の鎮痛効果は、対応するコントロールと比較して、さらにより統計的に有意(P<0.05)であった。
【0178】
これらの試験から、p75NTR−Fc(配列番号3)は、OAのMIAラットモデルにおける鎮痛剤であることが明らかである。p75NTR−Fc(配列番号3)の鎮痛効果は、同様の投与量:3mg/kg皮下で、抗−NGF抗体(PG−007:ファイザー抗−NGF抗体タネズマブのバイオシミラー)に関して観察されるよりも高かった。
【0179】
個々のニューロトロフィンに対する、p75NTR−Fc分子(配列3および配列15)の親和性における、予期しない改善
文献および従来技術から、低親和性p75ニューロトロフィン受容体は、約1nMの全てのニューロトロフィンに関して同様の親和性を有することが一般に認められている(Ichim etal.,2012 Exp Cell Res 318(11):1221−8)。さらに、Apollo Life Sciences(Molecules and chimeric molecules thereof US 20090232808 A1)の従来技術は、個々のニューロトロフィンに関するp75ニューロトロフィン受容体の親和性の類似性をさらに挙げている。「NGFRは、28アミノ酸のシグナルペプチドからなる427アミノ酸の糖タンパク質として合成されるI型膜タンパク質である。NGFRは、全てのニューロトロフィンに同等の親和性で結合する。」
【0180】
Biacoreプラズマ共鳴試験から、我々は、GGGリンカースペーサーを用いてヒトIgG1 Fcに結合した配列3および15の結合親和性における有意な変化を示した。
【0181】
【表4】
【0182】
等電点(pI)の低下:
【0183】
配列3の等電点およびApollo Life Scienceの従来技術に開示される等電点は、理論的に4.11のpIを有するが、これらの分子の両方とも有意にグリコシル化され、実際は3〜4の範囲のpIをもたらす。
【0184】
配列15は、理論的に4.23のpIを有し、他のp75NTRよりも低くグリコシル化される。その結果、pIは4〜5の範囲である。これは、配列3およびApollo Life Scienceの従来技術において以前に開示された配列よりも、重大な利点(改善された製剤化およびグリコシル化の部位およびグリコシル化の量における変動に起因する分子構造の低い可変性)を提供する。
【0185】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施態様により範囲が制限されるものではない。実際に、本明細書に記載のものに加えて、本発明の様々な改変が、前述の説明および添付図面から、当業者に明らかになるであろう。そのような改変は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。さらに、本明細書に記載の全ての実施態様は、幅広く適用可能であり、必要に応じて、任意および全ての他の一貫した実施態様と組み合わせることができると考えられる。
【0186】
様々な刊行物が本明細書中に挙げられ、その開示はそれらの全体で参照により援用される。