(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6681941
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
B60R 19/04 20060101AFI20200406BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20200406BHJP
B23K 33/00 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
B60R19/04 M
F16F7/00 C
B23K33/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-105078(P2018-105078)
(22)【出願日】2018年5月31日
(65)【公開番号】特開2019-209727(P2019-209727A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2019年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】横田 智也
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 龍雄
(72)【発明者】
【氏名】辻 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】喜多 僚
(72)【発明者】
【氏名】関口 智英
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 直
【審査官】
志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−054445(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/163203(WO,A1)
【文献】
特許第5140093(JP,B2)
【文献】
特開2004−262300(JP,A)
【文献】
特開2006−232198(JP,A)
【文献】
特開2005−152920(JP,A)
【文献】
特表2004−528196(JP,A)
【文献】
特開2004−203202(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0114746(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/02 − 19/50
B23K 33/00
F16F 7/00 − 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金製の第1中空部材及び第2中空部材が、互いに溶接接合してなる衝撃吸収部材であって、
前記第2中空部材に段差部が形成されており、
前記第1中空部材と前記第2中空部材の前記段差部とは、それぞれの衝撃を受ける面の前方に向けて開口する凹部を形成し、
前記凹部内で前記第1中空部材と前記第2中空部材とが前記溶接接合され、
前記第1中空部材及び前記第2中空部材のそれぞれの前記衝撃を受ける面から、前記凹部内の溶接材及び溶接ビードが突出していないことを特徴とする、衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記第2中空部材は断面が三角形状であり、前記第1中空部材及び前記第2中空部材は、衝突面側において面一であることを特徴とする、請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記第1中空部材及び前記第2中空部材の少なくとも一方は、押出材であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記第1中空部材はバンパーレインフォースメントであり、前記第2中空部材は嵩上げ部材であって、前記衝撃吸収部材はバンパー構造体を構成することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、衝突時に運転者を守るため、様々な方法で運転者の被害を低減することが検討されている。特にバンパーは、自動車の前後に設置され、対向車との衝突や運転ミスによる壁等への衝突が想定され、衝撃吸収部材としてのバンパーの重要性は増している。
【0003】
主に自動車には、その前部、後部に衝突時の衝撃を吸収するためのバンパー構造体が装備されている。バンパー構造体は一般的にバンパーレインフォースメント及びエネルギー吸収部材からなり、バンパーレインフォースメントで衝撃を受け、エネルギー吸収部材が変形することにより、車体へのダメージを抑える構造となっている。特に、前方に設置されるバンパーは、さまざまな衝突条件が想定される。例えば、オフセット衝突、フルラップ衝突などがある。その一つとして、歩行者との接触も挙げられる。また、安全性が重要視される一方で、環境問題への対応から車体全体の重量軽減への対応も必要であり、車両を構成するバンパーもその例外ではない。
【0004】
このようなことから、軽量であるアルミニウム合金を用いた衝撃吸収部材が必要とされるが、衝突条件にあわせた強度、衝撃吸収性について検討が必要となった。
例えば、特許文献1には、上下オフセット衝突対策部品を配置したバンパー構造体が提案されている。このバンパー構造体は、アルミニウム合金製の中空押出材からなるバンパーレインフォースメントと、このバンパーレインフォースメントの上面または下面に取り付けられたアルミニウム合金製の中空押出材からなる嵩上げ部材とで構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5140093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたバンパー構造体は、アルミニウム合金製の中空押出材から構成しているため、バンパーの軽量化、それに伴う車体全体の軽量化という目的を達成することはできるが、強度及び衝撃吸収性については、高いものと低いものとが混在し、スペック通りの強度及び衝撃吸収性を備えるようなバンパーを高い歩留りで得ることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、自動車のバンパー等として使用可能な、強度及び衝撃吸収性に優れ、これらの特性を高い歩留りで達成することが可能な、重量を軽減し、環境問題に配慮した衝撃吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は、アルミニウム合金製の第1中空部材及び第2中空部材が、互いに溶接接合してなる衝撃吸収部材であって、前記第1中空部材及び前記第2中空部材の接合面側から、溶接材及び溶接ビードが突出していないことを特徴とする、衝撃吸収部材に関する。
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った。その結果、上記特許文献1では、バンパーレインフォーメントと嵩上げ部材とを取り付ける際に、バンパーレインフォースメントの上面と、嵩上げ部材の凸部との境界面に溶接を施すが、この溶接の精度が、衝撃吸収部材の強度及び衝撃吸収性に大きな影響を与えることを見出した。
【0010】
すなわち、特許文献1において、バンパーレインフォースメントの側面と嵩上げ部材の凸部を含む側面とが溶接接合の際の接合面を構成することになるが、溶接材が多すぎたり、溶接の出力が大きすぎたりすると、溶接材や溶接ビードが上記接合面より外方に突出するようになる。すると、衝撃吸収部材の、例えば接合面に対して衝撃が加わると、当該衝撃によるエネルギーが上記突出物に集中するようになる。したがって、衝撃吸収部材全体で衝撃によるエネルギーを分散して受け止めることができなくなるため、衝撃吸収部材の強度及び衝撃吸収性が低下してしまう。
【0011】
しかしながら、本発明によれば、溶接接合による溶接材及び溶接ビードを当該溶接接合による接合面から外方に突出しないようにしている。したがって、衝撃吸収部材に衝撃が加わった場合においても、当該衝撃によるエネルギーが突出物に集中することなく、衝撃吸収部材全体に分散するようになる。このため、衝撃吸収部材の強度及び衝撃吸収性を高く保持することができる。
【0012】
また、アルミニウム合金製の中空部材から衝撃吸収部材を構成しているので、重量を軽減した衝撃吸収部材を提供することができ、環境問題にも対応することができる。
【0013】
なお、本発明における接合面とは、実際に溶接材が付与されて溶接が行われる面を意味し、溶接によって互いに当接するようになった面を意味するものではない。
【0014】
本発明の一例においては、接合面に段部を形成し、溶接接合は、当該段部にて行うことができる。このように接合面に段部を形成すれば、溶接材は当該段部に溜り、溶接ビードは当該段部内に形成されるようになる。したがって、溶接材及び溶接ビードの、接合面からの突出を簡易に防止することができる。
【0015】
また、本発明の一例においては、第2中空部材の断面を三角形状とし、第1中空部材及び第2中空部材は、衝突面側において面一とすることができる。すなわち、第2中空部材の断面形状を三角形状としているので、第2中空部材の重量を例えば10%程度軽減することができる。また、第1中空部材及び第2中空部材は、衝突面側において面一としているので、外部からの衝撃を第1中空部材及び第2中空部材の両方で効率的に受けることができ、効果的なエネルギー分散により、高い強度及び衝撃吸収性を実現することができる。
【0016】
さらに、本発明の一例においては、第1中空部材及び第2中空部材の少なくとも一方は、押出材とすることができる。これによって、第1中空部材及び第2中空部材の少なくとも一方は、所望の断面形状を有するように一体で形成することができ、接合部を有しない。したがって、所望の強度の第1中空部材等を得ることができる。
【0017】
また、本発明の一例においては、第1中空部材をバンパーレインフォースメントとし、第2中空部材を嵩上げ部材とすることができる。これによって、上述した特徴を有する衝撃吸収部材からなるバンパー構造体を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、自動車のバンパー等として使用可能な、強度及び衝撃吸収性に優れ、これらの特性を高い歩留りで達成することが可能な、重量を軽減し、環境問題に配慮した衝撃吸収部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態における衝撃吸収部材の上面図である。
【
図2】
図1に示す衝撃吸収部材のX−X線に沿って切った場合の断面図である。
【
図3】比較例におけるバンパー構造体の上面図である。
【
図4】
図3に示すバンパー構造体のX−X線に沿って切った場合の断面図である。
【
図5】比較例におけるバンパー構造体の上面図である。
【
図6】
図5に示すバンパー構造体のX−X線に沿って切った場合の断面図である。
【
図7】実施例におけるフルラップ解析結果を示す、荷重−ストローク曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的特徴について、発明を実施するための形態に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の衝撃吸収部材の上面図であり、
図2は、
図1に示す衝撃吸収部材の断面図である。
【0022】
図1及び
図2に示すように、本発明の衝撃吸収部材10は、アルミニウム合金製の第1中空部材11と第2中空部材12とを有している。本実施形態では、
図2で示すように、第1中空部材11の上面の端部表面と第2中空部材12の下面の端部表面とが溶接により接合されている。したがって、この場合の溶接面は、これら端部表面で画定される表面であって、具体的には、
図2において、A−A線で示される接合面を意味する。
【0023】
本実施形態では、A−A線で示される接合面において段部16が形成され、当該段部16内で、第1中空部材11の上面端部と第2中空部材12の下面端部との溶接が行われ、第1中空部材11と第2中空部材12とが溶接接合している。
【0024】
なお、図中、符号Wは、溶接材及び溶接ビードの少なくとも一方を表している。
【0025】
このように、本実施形態では、第1中空部材11と第2中空部材12との接合面A−Aにおいて、段部16を形成し、当該段部16内で溶接を行っているので、溶接材及び溶接ビードWが接合面A−Aより、衝撃吸収部材の前方に突出することがない。したがって、衝撃吸収部材10に、例えばその前方から衝撃が加わった場合においても、当該衝撃によるエネルギーが溶接材及び溶接ビードWに集中することなく、衝撃吸収部材10全体に分散するようになる。このため、衝撃吸収部材10の強度及び衝撃吸収性を高く保持することができる。
【0026】
また、アルミニウム合金から第1中空部材11及び第2中空部材12を形成しているので、重量を軽減した衝撃吸収部材10を提供することができ、環境問題にも対応することができる。
【0027】
なお、第1中空部材11及び第2中空部材12を構成するアルミニウム合金としては、アルミニウム1000系合金、アルミニウム2000系合金、アルミニウム3000系合金、アルミニウム4000系合金、アルミニウム5000系合金、アルミニウム6000系合金、アルミニウム7000系合金など汎用のものを用いることができる。
【0028】
また、第1中空部材11及び第2中空部材12を接合する溶接は、アーク溶接、ガス溶接、電子ビーム溶接、レーザ溶接、MIG溶接、TIG溶接などの汎用の手法を用いることができる。
【0029】
さらに、本実施形態では、溶接を段部16内で行い、溶接材及び溶接ビードWが接合面A−Aから前方に突出しないようにしているが、段部16の代わりに、例えば溝部を形成し、この溝部内で溶接を行って、溶接材及び溶接ビードWが接合面A−Aから前方に突出しないようにしてもよい。さらに、段部や溝部を形成する代わりに、溶接材の量や溶接の強度などを調整して、溶接材及び溶接ビードWが接合面A−Aから前方に突出しないようにしてもよい。
【0030】
本実施形態においては、
図2から明らかなように、第2中空部材12の断面を三角形状とし、接合面A−A側、この場合は、衝撃吸収部材10の前方、すなわち衝突面側において、第1中空部材11及び第2中空部材12は、面一(接合面A−Aを含む面)としている。
【0031】
このように、第2中空部材12の断面形状を三角形状としているので、第2中空部材12の重量を例えば10%程度軽減することができる。また、第1中空部材11及び第2中空部材12は、衝突面側において面一としているので、外部からの衝撃を第1中空部材11及び第2中空部材12の両方で効率的に受けることができ、効果的なエネルギー分散により、高い強度及び衝撃吸収性を実現することができる。
【0032】
また、第1中空部材11及び第2中空部材12の少なくとも一方、好ましくは双方ともに押出材とする。これによって、第1中空部材11及び第2中空部材12は、所望の断面形状を有するように一体で形成することができ、接合部を有しない。したがって、所望の強度の第1中空部材11及び12を得ることができる。
【0033】
また、本実施形態においては、第1中空部材11をバンパーレインフォースメントとし、第2中空部材12を嵩上げ部材とすれば、衝撃吸収部材10をバンパー構造体として得ることができる。したがって、強度及び衝撃吸収性が高く、重量を軽減したバンパー構造体を提供することができ、環境問題にも対応することができる。但し、本実施形態の衝撃吸収部材10は、バンパー構造体に限定されるものではなく、その他、衝撃吸収が要求される機械部材や治具等、任意の部材に対して用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0035】
本発明例のモデル、及び、本発明の範囲から外れる比較例のモデルについて、フルラップ解析結果を実施した結果を以下に示す。なお、以下の解析は、全て、第1中空部材11をバンパーレインフォースメントとし、第2中空部材12を嵩上げ部材として、衝撃吸収部材10をバンパー構造体として構成した。また、本発明例の作用効果を示すべく、比較例としては、嵩上げ部品のないバンパー構造体(比較例1、
図3,4参照)及び溶接材及び溶接ビードWが接合面A−Aから前方に突出したバンパー構造体(比較例2、
図5,6参照)を準備した。
【0036】
FEM解析の材料モデルは、バンパーレインフォースメントは0.2%耐力が400MPa程度の7000系アルミニウム合金押出形材からなるものとした。エネルギー吸収部材及び嵩上げ部品は0.2%耐力が180MPaの6000系アルミニウム合金押出形材からなるものとした。
【0037】
FEM解析には、汎用の有限要素解析ソフトRADIOSS(登録商標)を用いた。エネルギー吸収部材端部の拘束条件は、単板を溶接で設置する場合を想定して、圧壊方向以外の変位と回転を拘束し、剛体で押し込む態様とした。
【0038】
当該ソフトを用い、フルラップ解析を行い荷重−ストローク曲線を作成し、
図7に示した。
【0039】
図7に示すように、本発明例は、荷重の立ち上がりも早期であり、短いストロークで高荷重に達することがわかる。すなわち、ストローク初期から荷重が立ち上がるため、より早期に衝撃によるエネルギーを吸収することが可能となり、バンパー構造体として優れた強度及び衝撃吸収性を有することがわかる。
【0040】
一方、嵩上げ部材のない比較例1では、荷重の立ち上がりこそ早期であって発明例と同様の傾向を示すが、最大荷重が発明例に比較して低い。これは、比較例1では、嵩上げ部材がないことから、衝撃によるエネルギーの分散吸収が発明例より劣るためと考えられる。
【0041】
また、溶接材及び溶接ビードWが接合面A−Aから前方に突出した比較例2では、最大荷重こそ発明例と同様であるが、荷重の立ち上がりが遅い。これは、比較例2では、溶接材等が接合面A−Aから前方に突出していることから、当初は、当該箇所に衝撃によるエネルギーが集中し、その後に、バンパーレインフォースメントや嵩上げ部材に分散して吸収されるためと考えられる。
【0042】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
10 衝撃吸収部材
11 第1中空部材
12 第2中空部材
16 段部
W 溶接材及び溶接ビード