特許第6682022号(P6682022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オティックスの特許一覧 ▶ 株式会社クボタの特許一覧

<>
  • 特許6682022-タペット 図000002
  • 特許6682022-タペット 図000003
  • 特許6682022-タペット 図000004
  • 特許6682022-タペット 図000005
  • 特許6682022-タペット 図000006
  • 特許6682022-タペット 図000007
  • 特許6682022-タペット 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682022
(24)【登録日】2020年3月26日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】タペット
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/245 20060101AFI20200406BHJP
   F01L 1/14 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   F01L1/245 E
   F01L1/14 F
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-568076(P2018-568076)
(86)(22)【出願日】2018年1月26日
(86)【国際出願番号】JP2018002423
(87)【国際公開番号】WO2018150847
(87)【国際公開日】20180823
【審査請求日】2019年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2017-27503(P2017-27503)
(32)【優先日】2017年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 和周
(72)【発明者】
【氏名】高見 雅保
【審査官】 小笠原 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−261357(JP,A)
【文献】 特開2004−36476(JP,A)
【文献】 特開2008−232125(JP,A)
【文献】 特開2013−241861(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/107937(WO,A1)
【文献】 実開昭60−170008(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00− 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プッシュロッドの下端部を支持する油圧式のラッシュアジャスタと、
前記ラッシュアジャスタが内嵌され、回転するカムに応じて上下方向に往復変位するタペットケースとを備え、
前記タペットケースの内周面には、前記ラッシュアジャスタの組み付け時に前記タペットケースと前記ラッシュアジャスタとの間に存する空気を上方へ排出するエア抜き路が設けられていることを特徴とするタペット。
【請求項2】
前記ラッシュアジャスタは、ボディ油孔を有するボディと、プランジャ油孔を有し、前記ボディに上下方向に往復摺動可能に挿入されるプランジャとを有し、前記ボディ油孔が前記プランジャ油孔を介して前記プランジャ内の低圧室と連通しており、
前記低圧室における前記作動油の油面高さが、前記内燃機関の停止時に、前記ボディ油孔よりも上方に位置するようになっている請求項1記載のタペット。
【請求項3】
前記タペットケースには、このタペットケースからオーバーフローした作動油を下方へ誘導する通油路が設けられている請求項1又は2記載のタペット。
【請求項4】
前記通油路の下端は、この通油路から落下する作動油が前記カムのカム面に付着可能な位置に開口している請求項3記載のタペット。
【請求項5】
前記タペットケースは、前記エア抜き路を有するインナケースと前記インナケースが収容されるアウタケースとからなり、前記通油路は、前記インナケースと前記アウタケースとの間に形成されている請求項3又は4記載のタペット。
【請求項6】
前記インナケースには、径方向外側に突出して突出方向の先端面が前記アウタケースの内周面に当接可能な大径部が上下方向に間隔をあけて設けられ、前記アウタケースには、前記大径部と対応する高さ位置に前記大径部の周方向の一部が臨む開口部が貫通して設けられている請求項5記載のタペット。
【請求項7】
前記タペットケースには、タペットガイドの内周面から退避する方向に凹んで前記タペットガイドの内周面との間に前記通油路を区画する薄肉部が全周にわたって設けられている請求項3又は4記載のタペット。
【請求項8】
前記ラッシュアジャスタは、ボディ油孔が貫通するボディ周壁を有する筒状のボディと、プランジャ油孔が貫通するプランジャ周壁を有し、前記ボディに上下方向に往復摺動可能に挿入されるプランジャとを有し、前記プランジャ内には、低圧室が設けられ、前記ボディ内には、このボディの下部と前記プランジャの底壁部分との間に区画される高圧室が設けられ、前記ボディ油孔と前記プランジャ油孔は、前記低圧室に連通するとともに、前記ボディ周壁と前記プランジャ周壁との間の隙間を介して前記高圧室に連通しており、
前記タペットケースの内周面は、前記ボディ油孔より上方で且つ前記エア抜き路を除く領域に、前記ボディ周壁に接触するシール面を有している請求項1ないし7のいずれか1項記載のタペット。
【請求項9】
前記エア抜き路は、前記タペットケースの内周面において上下方向に螺旋状に延出する凹溝を有している請求項1ないし8のいずれか1項記載のタペット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タペットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バルブリフタとして構成されるタペットが開示されている。タペットは、カップ状をなし、内底部にプッシュロッドの下端部が当接して支持されている。プッシュロッドの上端部は、ロッカアームの一端部を支持している。ロッカアームの他端部は、排気バルブの上端部に当接している。
【0003】
タペットの下面は、平坦な摺接面とされ、カムと接触している。カムが回転すると、タペットがシリンダボア内でプッシュロッドとともに昇降され、それに伴ってロッカアームが揺動してバルブの開閉がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−169415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、タペットがプッシュロッドを直接支持するのではなく、タペット内に油圧式のラッシュアジャスタが組み込まれ、ラッシュアジャスタの頂部がプッシュロッドの下端部に当接することで、タペットがラッシュアジャスタを介して間接的に支持するような構成も知られている。この構成によれば、ラッシュアジャスタの油圧によってロッカアームの揺動支点位置が適正に調整され、バルブクリアランスをなくすことができる。
【0006】
タペット内にラッシュアジャスタを組み込む際には、ラッシュアジャスタとタペットとの間に密閉される空気を抜く必要がある。この場合に、タペットの周壁下端部にエア抜き路が横向きに開口して設けられると、内燃機関の長期停止時にラッシュアジャスタの低圧室に貯留された作動油がエア抜き路を通して外部に排出され、低圧室における作動油の油量が大幅に減少することがある。このため、再始動時に、低圧室の空気が高圧室に移行するいわゆるエア噛みが発生するおそれがあり、その対策が希求されている。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ラッシュアジャスタを内蔵するタペットにおいて、長期停止時に低圧室から作動油がリークするのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のタペットは、プッシュロッドの下端部を支持する油圧式のラッシュアジャスタと、前記ラッシュアジャスタが内嵌され、回転するカムに応じて上下方向に往復変位するタペットケースとを備え、前記タペットケースの内周面には、前記ラッシュアジャスタの組み付け時に前記タペットケースと前記ラッシュアジャスタとの間に存する空気を上方へ排出するエア抜き路が設けられているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
油圧室のラッシュアジャスタがタペットケース内に組み込まれる際に、タペットケースとラッシュアジャスタとの間に存する空気がエア抜き路を通して上方へ排出される。エア抜き路は上向き(斜め上向きを含)に開口する形態になるため、内燃機関の長期停止時に、ラッシュアジャスタの低圧室(リザーバ室)に貯留された作動油がエア抜き路を通してリークするのを防止することができる。その結果、再始動時における高圧室へのエア噛みを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1に係るタペットを備えた動弁装置の全体図である。
図2図1におけるタペット部分の断面図である。
図3】タペットケースの側面図である。
図4】インナケースの断面図である。
図5】本発明の実施例2に係るタペットの図2相当図である。
図6】タペットケースの側面図である。
図7】タペットケースにラッシュアジャスタを組み付けた直後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい形態を以下に示す。
前記ラッシュアジャスタは、ボディ油孔を有するボディと、プランジャ油孔を有し、前記ボディに上下方向に往復摺動可能に挿入されるプランジャとを有し、前記ボディ油孔が前記プランジャ油孔を介して前記プランジャ内の低圧室と連通しており、前記低圧室における前記作動油の油面高さが、前記内燃機関の停止時に、前記ボディ油孔よりも上方に位置するようになっている。このような構成であれば、高圧室へのエア噛みを確実に回避することができる。本発明の場合、ラッシュアジャスタがタペットケースに内嵌され、エア抜き路が上向きに開口する形態になるため、上記のように低圧室に十分な量の作動油を確保することができるのである。
【0012】
前記タペットケースには、このタペットケースからオーバーフローした作動油を下方へ誘導する通油路が設けられている。これによれば、タペットケース内に所定量の作動油を支障なく確保することができる。
【0013】
前記通油路の下端は、この通油路から落下する作動油が前記カムのカム面に付着可能な位置に開口している。これによれば、タペットケースの上部からオーバーフローした作動油でカムのカム面を効率良く潤滑することができる。
【0014】
前記タペットケースは、前記エア抜き路を有するインナケースと前記インナケースが収容されるアウタケースとからなり、前記通油路は、前記インナケースと前記アウタケースとの間に形成されている。これによれば、タペットケースが無駄に厚肉になることがなく、動弁機構の軽量化を図ることができる。
【0015】
前記インナケースには、径方向外側に突出して突出方向の先端面が前記アウタケースの内周面に当接可能な大径部が上下方向に間隔をあけて設けられ、前記アウタケースには、前記大径部と対応する高さ位置に前記大径部の周方向の一部が臨む開口部が貫通して設けられている。これによれば、インナケースの外周面のうち上下の大径部間に位置する小径部分とアウタケースの開口部とが通油路として利用されるため、通油路として上下方向の全長にわたって長く延出する縦溝構造を成形する必要がなく、製造コストを低減することができる。また、センターレス加工を行う際に、砥石、調整砥石及び支持刃間に上下の大径部を支障なく回転支持することができ、インナケースの外周面の研削を円滑に行うことができる。
【0016】
前記タペットケースには、タペットガイドの内周面から退避する方向に凹んで前記タペットガイドの内周面との間に前記通油路の上下方向の一部を区画する薄肉部が全周にわたって設けられている。薄肉部がタペットケースの全周にわたって設けられているため、動弁機構の軽量化を図ることができる。また、通油路の上下方向の一部が薄肉部で構成されるため、通油路として上下方向の全長にわたって長く延出する縦溝構造を成形する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0017】
前記ラッシュアジャスタは、ボディ油孔が貫通するボディ周壁を有する筒状のボディと、プランジャ油孔が貫通するプランジャ周壁を有し、前記ボディに上下方向に往復摺動可能に挿入されるプランジャとを有し、前記プランジャ内には、低圧室が設けられ、前記ボディ内には、このボディの下部と前記プランジャの底壁部分との間に区画される高圧室が設けられ、前記ボディ油孔と前記プランジャ油孔は、前記低圧室に連通するとともに、前記ボディ周壁と前記プランジャ周壁との間の隙間を介して前記高圧室に連通しており、前記タペットケースの内周面は、前記ボディ油孔より上方で且つ前記エア抜き路を除く領域に、前記ボディ周壁に接触するシール面を有している。
【0018】
例えば、ラッシュアジャスタの組み付け直後は、作動油がラッシュアジャスタの内部にボディ油孔の高さ程度にしか貯留されていないことがある。このため、仮に、ボディ油孔の上方が外部に開放されていると、プランジャがボディに対して往復摺動することにより、作動油が外部に流出するとともに高圧室にエアが侵入し、ラッシュアジャスタの動作不良を来たす懸念がある。
しかるに上記構成によれば、ボディ油孔より上方において、タペットケースのシール面がボディ周壁に接触するため、ボディ油孔がエア抜き路を除いて外部と連通しない状態に保たれる。その結果、ラッシュアジャスタの組み付け直後の始動時に、作動油が外部に流出するのが阻止され、高圧室へのエア噛みを回避することができる。
【0019】
前記エア抜き路は、前記タペットケースの内周面において上下方向に螺旋状に延出する凹溝を有している。ラッシュアジャスタ内の作動油はエア抜き路を通して外部に流出する懸念があるが、上記構成によれば、エア抜き路の凹溝がタペットケースの内周面において螺旋状に延出する形態になっているため、作動油が凹溝内を流動しにくく外部に流出するのが防止される。
【0020】
<実施例1>
本発明の実施例1を図1図4によって説明する。実施例1に係るタペット10は、内燃機関の動弁装置90に備わり、OHV型エンジンのバルブリフタを例示している。
【0021】
図1に示すように、動弁装置90は、シリンダヘッド91の吸気又は排気ポート92を開閉可能に組み込まれ、上端部がシリンダヘッド91の上方に突出して配置されるバルブ93と、長さ方向の一端部がバルブ93の上端部に当接するロッカアーム94と、上端部がロッカアーム94の長さ方向の他端部にアジャストスクリュ95を介して当接するプッシュロッド96と、プッシュロッド96の下端部が当接する油圧式のラッシュアジャスタ11と、ラッシュアジャスタ11を収容するタペットケース12とを備えている。このうち、ラッシュアジャスタ11とタペットケース12とによりタペット10が構成される。
【0022】
バルブ93は、バルブガイド97に上下方向に摺動可能に挿通されており、コイルバネ等の付勢部材98によって閉弁方向(ロッカアーム94の一端部を持ち上げる方向)に付勢されている。
【0023】
ロッカアーム94は、長さ方向の中間部を貫通するロッカシャフト99を支点として揺動され、その揺動変位に基づいてバルブ93の開閉を行う。アジャストスクリュ95は、ロッカアーム94の他端部を貫通してナット89に螺合され、ナット89へのねじ込みによって、ロッカアーム94の他端部から下方への突出量を調整可能とされている。
【0024】
プッシュロッド96は、上下方向に細長い棒状であって、図示を省略したロッド収容部内に上下方向への変位を可能に収容されている。プッシュロッド96の上端部は、外上向きに拡開する半球面状の上端凹部88とされている。アジャストスクリュ95の下端部は、上端凹部88に摺動可能に支持されている。また、プッシュロッド96の下端部は、外下向きに拡開する半球面状の下端凹部87とされている。図2に示すように、下端凹部87は、ラッシュアジャスタ11の後述するプランジャ14の頂部16に摺動可能に支持されている。
【0025】
プッシュロッド96には、軸方向に細長く延出して、上端が上端凹部88の中央部に開口し、下端が下端凹部87の中央部に開口する軸孔86が設けられている。ロッカアーム94に作動油(潤滑油)が供給されると、供給された作動油は、主としてロッカアーム94内及びアジャストスクリュ95内の油路100からアジャストスクリュ95の摺動領域及び上端凹部88を経て軸孔86に進入し、軸孔86に沿って降下して下端凹部87に至り、さらに後述する頂上孔17を通して低圧室22に貯留されるようになっている。また、作動油の一部は、ロッカアーム94側からプッシュロッド96の外面を伝わり落ちてタペットケース12内に進入するようになっている。
【0026】
続いて、タペット10について説明する。まず、タペット10を構成するラッシュアジャスタ11について説明する。図2に示すように、ラッシュアジャスタ11は、有底筒状のボディ13と、ボディ13の上下方向に摺動可能に挿入される有底筒状のプランジャ14とを備えている。プランジャ14は、底壁部分に弁孔15を有し、周壁部分(プランジャ周壁59)の上端部に半球面状の頂部16を有している。頂部16の中心には、頂上孔17が上下に貫通して設けられている。ボディ13の周壁部分(ボディ周壁58)には、後述するインナケース28の内周面に当接する上下の当接部18が全周にわたって設けられ、両当接部18間の凹み部分にボディ周壁58を貫通するボディ油孔19が開口して設けられている。また、プランジャ14のプランジャ周壁59にはボディ油孔19と連通するプランジャ油孔21が貫通して設けられている。
【0027】
プランジャ14の内部は、低圧室22として構成されている。また、ボディ13の内部には、下端部においてプランジャ14の底壁部分との間に高圧室23が区画されている。ここで、作動油は、プッシュロッド96の軸孔86から頂上孔17を通して低圧室22に流入するとともに、後述するインナケース28内からエア抜き路34、ボディ油孔19及びプランジャ油孔21を通して低圧室22に流入して貯留される。高圧室23の作動油は、ボディ周壁58とプランジャ周壁59との間の隙間を通して上昇し、ボディ油孔19から当接部18間の凹み部分に進入するとともにプランジャ油孔21を通して低圧室22に戻ることが可能とされている。
【0028】
高圧室23には、低圧室22に貯留された作動油が弁孔15を通して充填される。この高圧室23には、球形の弁体24、籠状のリテーナ25、第1バネ26及び第2バネ27が収容されている。弁体24及び第1バネ26はリテーナ25の内側に配置され、弁体24は第1バネ26によって弁孔15を閉じる方向に付勢されている。リテーナ25はプランジャ14に圧入されてプランジャ14の底壁部分に当接している。
【0029】
タペットケース12は、有底円筒状のインナケース28と、インナケース28とは別体で、且つインナケース28が収容される有底円筒状のアウタケース29とからなる。インナケース28の周壁は、全体として薄肉に形成され、上下方向途中の間隔をあけた2箇所に、径方向外側に全周にわたって張り出す環リブ状の大径部31を有している。大径部31の径方向外端面は、アウタケース29の内周面に対し周方向に沿って当接可能な円周状の形態になっている。インナケース28の外周面における上下の大径部31を除く領域は、アウタケース29の内周面から離間する方向(内方向)に退避した形態になっており、このうち、下側の大径部31よりも下方領域及び上下の大径部31間の領域が、後述する傾斜部32に起因し、内方向に大きく退避した形態になっている。
【0030】
インナケース28の周壁のうち、上側の大径部31と対応する高さ位置の部分には、下向きに縮径する傾斜部32が設けられている。
図4に示すように、インナケース28の内周面における傾斜部32を境とした上下の領域のうち、下側の領域は、上側の領域よりも小径になっている。インナケース28の内部には、ラッシュアジャスタ11が上方から密嵌状態で挿入され、インナケース28の内周面における下側の領域には、ボディ13の当接部18と当接可能な上下一対の内側環状部33が全周にわたって設けられている。
【0031】
インナケース28の内周面には、エア抜き路34が設けられている。具体的には、エア抜き路34は、インナケース28の内周面における上下の内側環状部33に刻設されて下側の領域を全体として上下方向に螺旋状に巻回するように延出する凹溝35と、上下の内側環状部33間においてボディ13のボディ周壁58の外周面から離間する方向に全周にわたって退避した形態をなす凹所36とにより構成される。エア抜き路34は、凹溝35の上端が傾斜部32の斜面部分に開口する一方、下端がインナケース28の底壁で閉塞されている。なお、凹溝35が螺旋状に巻回する形態になっていることにより、インナケース28の内周面の研磨加工を円滑に行うことができるようになっている。
【0032】
図2に示すように、アウタケース29の底壁は、回転するカム85のカム面84と摺接する平坦な下面部分を有している。アウタケース29の周壁は、内外周面がいずれも上下方向にほぼ沿って配置される薄肉の形態をなし、上端が、内挿されるインナケース28の上端よりも上方に位置している。アウタケース29の外周面は、タペットガイド83の内周面に沿って摺接するようになっている。
【0033】
図2及び図3に示すように、アウタケース29の周壁のうち、内挿されるインナケース28の上下の大径部31と対応する高さ位置の部分には、上下一対の円形の開口部37が貫通して設けられている。上下の大径部31は、周方向の一部が開口部37に臨むように配置される。
【0034】
ここで、インナケース28の内部には、作動油がロッカアーム94側から落下して貯留される。図2に示すように、インナケース28とアウタケース29との間には、インナケース28の上端からオーバーフローする作動油を下方へ誘導するための通油路38が構成されている。通油路38は、インナケース28の外周壁とアウタケース29の内周壁との間において大径部31で確定される通路幅径をもった壁間通路39と、上下の開口部37内でタペットガイド83と大径部31との間に位置する迂回通路41とからなる。通油路38の出口は、下側の迂回通路41の開口部分で構成され、カム85のカム面84に上方から臨む位置に配置される。
【0035】
次に、本実施例1に係るタペット10の作用を説明する。
組み付けに際し、タペットケース12のインナケース28内に上方からラッシュアジャスタ11が挿入される。このとき、ボディ13の当接部18とインナケース28の内側環状部33とが当接し、ボディ13とインナケース28の下端部との間に空気が密閉される懸念があるものの、この空気はエア抜き路34を上昇して上方に排出され、これによってラッシュアジャスタ11がタペットケース12内に支障なく収容される。また、ラッシュアジャスタ11がインナケース28に正規に収容された状態では、インナケース28の上端がプランジャ14の上端よりも上方に位置するようになっている。
【0036】
次いで、動弁機構について説明する。カム85が回転すると、カム85に接触するアウタケース29がタペットガイド83を上下方向に摺動変位する。それに伴ってプッシュロッド96がラッシュアジャスタ11を介してロッド収容部内を昇降する。このプッシュロッド96の昇降動作はアジャストスクリュ95を介してロッカアーム94に伝達され、ロッカアーム94がプッシュロッド96の上端凹部88を略支点として揺動変位することによってバルブ93が開閉されるようになっている。
【0037】
ところで、カム85の駆動に応じてプランジャ14にプッシュロッド96側から下向きの圧力が作用すると、弁体24が弁孔15を閉じて、プランジャ14とボディ13が剛体化し、プランジャ14の下降が規制される。プランジャ14に作用する圧力が減退すると、プランジャ14が第2バネ27に付勢され、弁体24が弁孔15を開いて、低圧室22の作動油が高圧室23に移行する。こうして、カム85のリフト力がラッシュアジャスタ11を介してプッシュロッド96及びロッカアーム94に減衰して伝達される。なお、タペットケース12が上下方向に移動する間、下側の迂回通路41はタペットガイド83の下方に位置し、インナケース28の上端からオーバーフローした作動油は通油路38を通って下側の迂回通路41からカム85側に排出される。
【0038】
ラッシュアジャスタ11の低圧室22はプランジャ油孔21及びボディ油孔19を介してインナケース28の内部に連通している。インナケース28の内周面にはエア抜き路34が設けられているが、このエア抜き路34は傾斜部32の斜面部分に開口しており、インナケース28の内部は全体として上方にのみ開放されている。このため、内燃機関の長期停止時に、インナケース28内には、実質的にインナケース28の上端に至るまで作動油が貯留され、インナケース28を介して、ラッシュアジャスタ11内にも、低圧室22のほぼ全体に作動油が貯留される。
【0039】
上記のとおり、内燃機関の停止時、作動油は、低圧室22からタペットケース12のエア抜き路34を通して外部へ排出されることがなく、低圧室22に貯留された状態が維持される。このため、その後の再始動時に、弁孔15が開くと、高圧室23には実質的に低圧室22から作動油のみが移行し、高圧室23におけるエア噛みを回避することができる。
【0040】
また、再始動時にタペットケース12が上下方向に移動するのに伴い、インナケース28に貯留された作動油がインナケース28の上端からオーバーフローして通油路38に進入する。通油路38に進入した作動油は、壁間通路39及び迂回通路41を経て下方へ落下し、カム85のカム面84に付着して、カム85とタペットケース12との摺動領域を潤滑する。インナケース28内の作動油がカム85の潤滑手段として利用されるため、再始動後、カム85とタペットケース12との摺動領域を迅速に潤滑することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施例1によれば、ラッシュアジャスタ11がタペットケース12内に組み込まれる際に、タペットケース12とラッシュアジャスタ11との間に存する空気がエア抜き路34を通して上方へ排出され、ラッシュアジャスタ11の組み付け性が良好となる。
【0042】
また、エア抜き路34は上向き(詳細には斜め上向き)に開口する形態になるため、内燃機関の長期停止時に、ラッシュアジャスタ11の低圧室22に貯留された作動油がエア抜き路34を通してリークするのを防止することができる。その結果、再始動時における高圧室23へのエア噛みを回避することができ、ラッシュアジャスタ11の機能を適正に発揮させることができる。とくに、ラッシュアジャスタ11の低圧室22における作動油の油面高さが、内燃機関の長期停止時に、少なくともボディ油孔19よりも上方に位置するようになっているため、高圧室23へのエア噛みを確実に回避することができる。
【0043】
また、タペットケース12にはこのタペットケース12からオーバーフローした作動油を下方へ誘導する通油路38が設けられているため、タペットケース12内に所定量の作動油を支障なく確保することができる。しかも、通油路38の下端はこの通油路38から落下する作動油がカム85のカム面84に付着可能な位置に開口しているため、カム85のカム面84を効率良く迅速に潤滑することができる。
【0044】
さらに、タペットケース12がエア抜き路34を有するインナケース28とインナケース28が収容されるアウタケース29とからなり、通油路38がインナケース28とアウタケース29との間に形成されているため、タペットケース12が無駄に厚肉になることがなく、動弁機構の軽量化を図ることができる。
【0045】
さらにまた、インナケース28には径方向外側に突出して突出方向の先端面がアウタケース29の内周面に当接可能な大径部31が上下方向に間隔をあけて対をなして設けられ、アウタケース29には大径部31と対応する高さ位置に大径部31の周方向の一部が臨む開口部37が貫通して設けられているため、インナケース28のセンターレス加工を行う際に、砥石、調整砥石及び支持刃間に上下の大径部31を支障なく回転支持することができ、インナケース28の外周面の研削を円滑に行うことができる。しかも、インナケース28の外周面のうち上下の大径部31間に位置する小径部分とアウタケース29の開口部37とが通油路38として利用されるため、通油路38として上下方向の全長にわたって長く延出する縦溝構造を成形する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0046】
<実施例2>
図5図7は、本発明の実施例2に係るタペット10Aを示す。実施例2のタペット10Aは、タペットケース12Aの全体が一体に形成されており、その形態が実施例1とは異なっている。もっとも、タペットケース12Aにはラッシュアジャスタ11が内嵌されており、タペットケース12A以外の構造は実施例1と同様である。このため、実施例2において実施例1と同様の構造には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0047】
タペットケース12Aは、比較的厚肉の円盤状の底壁部43と、底壁部43の外周から立ち上がる円筒状の周壁部44とからなる。底壁部43は、回転するカム85のカム面84と摺接する平坦な下面部分を有している。底壁部43の外周縁部は、径方向外側に全周にわたって張り出す拡張部45とされている。拡張部45の外周面は、円周状の周回面46と、周回面46の上端から上方へ向けて縮径するテーパ状の下端傾斜面47とで構成されている。
【0048】
周壁部44は、上下方向途中に下側摺接部48を有し、下側摺接部48は、その上下両側の領域よりも厚肉に形成されている。下側摺接部48の外周面は、タペットガイド83の内周面に摺接可能な円周状の下側摺接面49と、下側摺接面49から上下両側へ向けて縮径するテーパ状の上下傾斜面51とで構成されている。下側摺接部48の下側摺接面49には、上下方向に延出して上下両端が上下傾斜面51に開口する切欠状の凹状溝52が凹設されている。
【0049】
周壁部44における下側摺接部48の上側の領域は、タペットガイド83の内周面から退避する方向に全周にわたって凹む薄肉部53とされている。薄肉部53は、上下方向に沿った形態とされ、タペットケース12Aの中で後述する上側摺接部55とともに最も薄肉に形成されている。
【0050】
周壁部44の上端部は、薄肉部53の上端から上方へ向けて拡径するテーパ状の拡径部54と、拡径部54の上端から略垂直に立ち上がる円筒状の上側摺接部55とからなり、薄肉部53とほぼ同じ厚みで連続して設けられている。
上側摺接部55の外周面は、タペットガイド83の内周面に摺接可能な円周状の上側摺接面56とされ、径方向に関して下側摺接部48の摺接面49及び拡張部45の周回面46とほぼ同じ位置に配置されている。なお、タペットケース12Aのセンターレス加工を行うに際し、砥石、調整砥石及び支持刃間に、上側摺接部55と拡張部45とを回転支持することができるため、タペットケース12Aの外周面の研削を円滑に行うことができる。
【0051】
拡径部54には、周方向に関して凹状溝52とほぼ同じ位置に円形の貫通孔57が厚み方向に貫通して設けられている。ここで、タペットケース12Aの内部に貯留された作動油は、通油路38Aを通して下方へ排出される。通油路38Aは、貫通孔57と、薄肉部53の外周面とタペットガイド83の内周面との間に区画される壁間通路39Aと、凹状溝52とで構成されている。作動油の一部は、貫通孔57から通油路38Aに沿って下降したあと下端傾斜面47にいったん受けられ、下端傾斜面47からカム85のカム面84側へ向けて落下するようになっている。
【0052】
タペットケース12Aの内部には、ラッシュアジャスタ11が上方から密嵌状態で挿入される。タペットケース12Aの内周面には、ラッシュアジャスタ11のボディ13の当接部18と当接可能な上下一対の内側環状部33Aが全周にわたって設けられている。
【0053】
タペットケース12Aの内周面には、エア抜き路34Aが設けられている。具体的には、エア抜き路34Aは、タペットケース12Aの内周面における上下の内側環状部33Aに刻設されて全体として上下方向に螺旋状に巻回するように延出する凹溝35Aと、上下の内側環状部33A間においてボディ13のボディ周壁58の外周面から離間する方向に全周にわたって退避した形態をなす凹所36Aとにより構成される。エア抜き路34Aは、上端が傾斜部32Aの斜面部分に開口する一方、下端がタペットケース12Aの底部で閉塞されている。したがって、タペットケース12Aの内周面は、実施例1のインナケース28の内周面と実質的に同一の構造を有している。
【0054】
また、タペットケース12Aの内周面における上側の内側環状部33Aには、シール面61が設けられている。シール面61は、タペットケース12Aにラッシュアジャスタ11が組み付けられた状態で、ラッシュアジャスタ11のボディ油孔19よりも上方に位置し、ボディ周壁58の当接部18に対して周方向に沿って接触するようになっている。このシール面61は、上側の内側環状部33Aのうち、エア抜き路34Aを除く全域にわたって設けられている。なお、シール面61は、実施例1のタペットケース12のインナケース28における上側の内側環状部33にも同様に設けられている(図2を参照)。
【0055】
図7に示すように、ラッシュアジャスタ11がタペットケース12Aに組み付けられた直後、プランジャ14の頂部16側がボディ13の上方へ大きく突出し、作動油がタペットケース12A内に供給されず、プランジャ油孔21の高さ程度しか貯留されていないことがある。
その状態で、プッシュロッド96がプランジャ14の頂部16に支持され、プランジャ14が下降してカム85が回転すると、作動油がプッシュロッド96の軸孔86から低圧室22に供給されないにも関わらず、プランジャ14がボディ13に対して上下方向に往復摺動することがある。
【0056】
例えば、プランジャ14がボディ13に対して下降すると、高圧室23内の作動油がボディ周壁58とプランジャ周壁59との間の隙間を通して上昇し、ボディ油孔19から当接部18間の凹み部分に浸入することがある。このとき、仮に、ボディ油孔19の上方が外部に大きく開放されていると、当接部18間の凹み部分に浸入した作動油が外部に流出する懸念がある。
【0057】
しかし、上記構成によれば、タペットケース12Aの上部(上側の内側環状部33A)とボディ周壁58との間がエア抜き路34Aを除いてシール面61によって液密に閉塞されているため、作動油は、当接部18間の凹み部分からプランジャ油孔21を通して低圧室22に戻されるか、あるいは低圧室22及び高圧室23に留まる状態が維持される。したがって、ラッシュアジャスタ11の組み付け直後の始動時に、作動油がラッシュアジャスタ11の外部に流出するのがシール面61によって防止され、ひいては高圧室23へのエアの噛み込みが回避される。
【0058】
また、上下の内側環状部33Aに設けられたエア抜き路34Aが螺旋状に延出する凹溝35Aであるため、作動油が凹溝35Aを移動しづらく低圧室22及び高圧室23に良好に留まることができる。とくに、ボディ油孔19の上方では、シール面61とともに螺旋状の凹溝35Aが配置されるため、作動油がボディ油孔19より上方に流動しにくくボディ油孔19側からプランジャ油孔21を通して低圧室22側へと優先的に戻される。その結果、ラッシュアジャスタ11の低圧室22に所定量の作動油を貯留させることができ、高圧室23へのエアの噛み込みをより確実に回避することができる。
【0059】
また、実施例2によれば、実施例1と同様、エア抜き路34Aが上向きに開口する形態になるため、内燃機関の長期停止時に、ラッシュアジャスタ11の低圧室22に貯留された作動油がエア抜き路34を通して外部にリークするのを防止することができる。
【0060】
また、内燃機関の長期停止時には、タペットケース12Aの内部に、貫通孔57で規制される高さ位置まで作動油が貯留され、ラッシュアジャスタ11の低圧室22の全体に作動油が貯留されるため、高圧室23へのエア噛みを確実に回避することができる。
【0061】
さらに、タペットケース12Aには、タペットガイド83の内周面から退避する方向に凹んでタペットガイド83の内周面との間に通油路38Aの壁間通路39Aを区画する薄肉部53が全周にわたって設けられているため、通油路38Aとしてタペットケース12Aの上下方向の全長にわたって長く延出する縦溝構造を成形する必要がなく、コストを低減することができる。
【0062】
<他の実施例>
以下、他の実施例を簡単に説明する。
(1)エア抜き路は、タペットケースの内周面において上下方向にほぼ沿って延出する形態であってもよい。
(2)エア抜き路は、タペットケースの内周面において上下方向に途切れることなく連続して延出する形態であってもよい。
(3)エア抜き路は、タペットケースの内周面において周方向に間隔をあけて複数路設けられるものであってもよい。
(4)タペットケースの外周面のほぼ全体がタペットガイドの内周面に摺動可能に形成されていてもよい。
(5)通油路は、タペットケースの外周面において上下方向の全長にわたって延出する縦溝であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10、10A…タペット
11…ラッシュアジャスタ
12、12A…タペットケース
13…ボディ
14…プランジャ
19…ボディ油孔
21…プランジャ油孔
22…低圧室
28…インナケース
29…アウタケース
31…大径部
34…エア抜き路
37…開口部
38…通油路
53…薄肉部
61…シール面
83…タペットガイド
84…カム面
85…カム
90…動弁装置
96…プッシュロッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7