【実施例】
【0023】
以下、本発明による非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノード並びにそのアノードの製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0024】
[実施例1]
塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl
3・xH
2O)(和光純薬工業株式会社製の99.0質量%の試薬)0.50gを純水50mLに溶解し、室温で攪拌して得られた塩化ルテニウム水溶液に、(過酸化水素水溶液の滴下時に逆反応が起こるのを防ぐために)水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えてpH5に調整した後、この水溶液に30質量%の過酸化水素(H
2O
2)水溶液(和光純薬工業株式会社製)を約50mL滴下した。この滴下により、激しい気体発生が生起し、水溶液中に黒褐色の物質が沈殿した。
【0025】
得られた沈殿物を回収し、遠心分離器を用いた固液分離と水洗を3回繰り返した後、約60℃で24時間加熱して乾燥することにより、前駆体物質を得た。この前駆体物質を横型電気炉に入れ、大気中において500℃で2時間加熱(熱処理)して焼成することにより、熱処理生成物としてルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0026】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行った。
【0027】
ルテニウム酸化物の粉末の粉末X線回折法(XRD)による測定は、X線回折装置(株式会社リガク製のSmartLab−2080A211)により、X線光源としてCu管球(CuKα、1.5418オングストローム)を使用し、管電圧45kV、管電流200mA、走査速度2°/分の条件で行った。
【0028】
ルテニウム酸化物の粉末のX線光電子分光法(XPS)による測定は、X線光電子分光分析装置(KRATOSANALYTICAL社製のAXIS−ULTRA)により、X線源としてAlを使用し、加速電圧15kV、エミッション電流9mAの条件で、分析試料(実施例1〜3および比較例1〜5で得られた各々のルテニウム酸化物の粉末)にX線を照射して、C1s準位、O1s準位およびRu3p準位のX線光電子スペクトルを計測することによって行った。計測したXPSスペクトルは、C1s準位の結合エネルギー(285.0eV)に基づく帯電補正を行った後、解析ソフト(XPS Peak4.1)を用いて、Lorentz−Gauss関数に基づく波形分離を行った。すなわち、バックグラウンドをShirley法で補正した後、分離成分のエネルギー位置を特定し、ピーク波形のフィッティングを行い、分離した各波形から計算した面積比をルテニウム化合物の存在割合(モル%)とした。その結果、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合は、それぞれ64.20モル%、27.13モル%、8.67モル%であった。
【0029】
また、ルテニウム酸化物の粉末のX線回折パターンから、シェラー(Scherrer)の式を用いて、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2の200面に垂直方向の結晶子径を算出したところ、RuO
2の結晶子径は27nmであった。
【0030】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末1.0質量%を含む(Pbとルテニウム酸化物の)混合粉末を圧延ローラで圧延して、厚さ約5mmのPbとルテニウム酸化物の粉末圧延板(Pb−RuO
2粉末圧延アノード)を得た。
【0031】
この粉末圧延板から切り出したアノード板を使用して定電流電解試験を行うために、
図3に示す定電流電解システム10を作製した。なお、
図3において、参照符号12はアノード板、14はカソード板、16は恒温水槽、18は参照電極、20は電解液、22は熱電対、24は析出したZn、26および28はエレクトロメータ、30はポテンショガルバノスタットを示している。
【0032】
この定電流電解システム10において、アノード板12として本実施例の粉末圧延板から切り出したアノード板をそれぞれ使用するとともに、カソード板14としてAlからなるカソード板を使用し、極間距離を50mmとし、参照電極18としてAg/AgCl電極を使用し、70g/Lの亜鉛と150g/Lの硫酸を含む電解液(電解液20)から、40℃において電流密度60mA/cm
2で定電流電解を5時間行った。
【0033】
この定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.722Vであった。
【0034】
[実施例2]
前駆体物質の加熱温度を400℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0035】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合と、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2の結晶子径を算出したところ、RuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合は、それぞれ61.71モル%、29.31モル%、8.98モル%であり、RuO
2の結晶子径は16nmであった。
【0036】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.721Vであった。
【0037】
[実施例3]
前駆体物質の加熱温度を300℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0038】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合と、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2の結晶子径を算出したところ、RuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合は、それぞれ55.00モル%、40.10モル%、4.91モル%であり、RuO
2の結晶子径は15nmであった。
【0039】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.759Vであった。
【0040】
[比較例1]
前駆体物質の加熱温度を250℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0041】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合を算出したところ、RuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合は、それぞれ34.52モル%、54.07モル%、11.40モル%であった。
【0042】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は2.077Vであった。
【0043】
[比較例2]
前駆体物質の加熱温度を200℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0044】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合を算出したところ、RuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合は、それぞれ21.90モル%、62.44モル%、15.67モル%であった。
【0045】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は2.068Vであった。
【0046】
[比較例3]
前駆体物質の加熱温度を600℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0047】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合と、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2の結晶子径を算出したところ、RuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合は、それぞれ66.80モル%、26.52モル%、6・69モル%であり、RuO
2の結晶子径は60nmであった。
【0048】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.973Vであった。
【0049】
[比較例4]
前駆体物質を25℃で保持したまま、熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、前駆体物質(Precursor)としてのルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0050】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合を算出したところ、RuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合は、それぞれ12.41モル%、68.38モル%、19.20モル%であった。
【0051】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、(5時間の定電流電解後の)定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は2.067Vであった。
【0052】
[比較例5]
ルテニウム酸化物の粉末として、市販の酸化ルテニウム(RuO
2)の粉末(Commercial Product)を用意した。
【0053】
このルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合と、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2の結晶子径を算出したところ、RuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合は、それぞれ49.46モル%、39.93モル%、10.60モル%であり、RuO
2の結晶子径は40nmであった。
【0054】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.769Vであった。
【0055】
これらの実施例および比較例のルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3の割合と、RuO
2の結晶子径と、ルテニウム酸化物の粉末から作製した粉末圧延板を使用して行った定電流電解試験後のアノード電位を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
また、実施例および比較例のルテニウム酸化物の粉末(および試薬(Reagent)(RuCl
3・nH
2O))について、粉末X線回折法(XRD)による測定結果を
図1に示し、ルテニウム酸化物の粉末中のRu化合物(RuO
2、RuO
2・nH
2OおよびRuO
3)の割合と前駆体物質の熱処理温度との関係を
図2に示し、ルテニウム酸化物の粉末中のRu化合物(RuO
2およびRuO
2・nH
2O)の割合および定電流電解試験後のアノード電位と前駆体物質の熱処理温度との関係を
図4に示し、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO
2の結晶子径および定電流電解試験後のアノード電位と前駆体物質の熱処理温度との関係を
図5に示す。
【0058】
これらの結果から、熱処理温度が500℃(実施例1)、400℃(実施例2)、300℃(実施例3)のときに、ルテニウム酸化物中の二酸化ルテニウム(RuO
2)の割合がそれぞれ64.20モル%(実施例1)、61.71モル%(実施例2)、55.00モル%(実施例3)と非常に多くなり、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位がそれぞれ1.722V(実施例1)、1.721V(実施例2)、1.759V(実施例3)と非常に低くなっているのがわかる。