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特許6682083非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノード並びにそのアノードの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682083
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノード並びにそのアノードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/02 20060101AFI20200406BHJP
   C25C 1/16 20060101ALI20200406BHJP
   C25C 1/12 20060101ALI20200406BHJP
   C22B 19/20 20060101ALI20200406BHJP
   C22B 3/20 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   C25C7/02 306
   C25C1/16 A
   C25C1/12
   C22B19/20
   C22B3/20
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-100439(P2016-100439)
(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公開番号】特開2017-206747(P2017-206747A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年5月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度科学技術振興機構 研究成果展開事業 マッチングプランナー プログラム 産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】田口 正美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘樹
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−181380(JP,A)
【文献】 米国特許第4543174(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00− 7/08
C22B 1/00−61/00
B22F 1/00− 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、50モル%以上のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下であるルテニウム酸化物の粉末とPbの粉末との混合粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用することを特徴とする、非鉄金属の電解採取方法。
【請求項2】
前記ルテニウム酸化物が55モル%以上のRuOを含むことを特徴とする、請求項1に記載の非鉄金属の電解採取方法。
【請求項3】
前記結晶子径が5〜35nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の非鉄金属の電解採取方法。
【請求項4】
前記混合粉末中の前記ルテニウム酸化物の含有量が0.1〜3質量%であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の非鉄金属の電解採取方法。
【請求項5】
前記非鉄金属が亜鉛であり、前記非鉄金属の硫酸塩が硫酸亜鉛であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の非鉄金属の電解採取方法。
【請求項6】
塩化ルテニウム水溶液に過酸化水素水を添加して生成した前駆体物質を大気中において280〜520℃で加熱して熱処理することにより得られたルテニウム酸化物の粉末と、Pbの粉末との混合粉末を圧延することにより、粉末圧延板からなるアノードを製造することを特徴とする、非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項7】
前記ルテニウム酸化物が50モル%以上のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下であることを特徴とする、請求項6に記載の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項8】
50モル%以上のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下であるルテニウム酸化物の粉末とPbの粉末との混合粉末を圧延することにより、粉末圧延板からなるアノードを製造することを特徴とする、非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項9】
前記ルテニウム酸化物が55モル%以上のRuOを含むことを特徴とする、請求項7または8に記載の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項10】
前記結晶子径が5〜35nmであることを特徴とする、請求項7乃至9のいずれかに記載の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項11】
前記混合粉末中の前記ルテニウム酸化物の含有量が0.1〜3質量%であることを特徴とする、請求項6乃至10のいずれかに記載の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項12】
前記非鉄金属が亜鉛であることを特徴とする、請求項6乃至11のいずれかに記載の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法。
【請求項13】
50モル%以上のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下であるルテニウム酸化物とPbとからなることを特徴とする、非鉄金属の電解採取用アノード。
【請求項14】
前記ルテニウム酸化物が55モル%以上のRuOを含むことを特徴とする、請求項13に記載の非鉄金属の電解採取用アノード。
【請求項15】
前記結晶子径が5〜35nmであることを特徴とする、請求項13または14に記載の非鉄金属の電解採取用アノード。
【請求項16】
前記ルテニウム酸化物の含有量が0.1〜3質量%であることを特徴とする、請求項13乃至15のいずれかに記載の非鉄金属の電解採取用アノード。
【請求項17】
前記非鉄金属が亜鉛であることを特徴とする、請求項13乃至16のいずれかに記載の非鉄金属の電解採取用アノード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノード並びにそのアノードの製造方法に関し、特に、鉛を含むアノードを使用して、硫酸亜鉛や硫酸銅などの非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から亜鉛や銅などの非鉄金属を電解採取する方法およびそれに用いるアノード並びにそのアノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アノードとして硫酸に不溶なPb板またはPb−Ag合金板を使用して、硫酸亜鉛や硫酸銅などの非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から亜鉛や銅をカソード上に析出または付着させて、亜鉛や銅などの非鉄金属を電解採取する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような非鉄金属の電解採取方法では、アノードとして、PbまたはPb−Ag合金を鋳造した後に圧延して得られる鋳造圧延板が使用されている。
【0003】
非鉄金属の電解採取において電力コストを低減させるためには、電解採取に要する電力を低減させる必要がある。この所要電力P(Ws)は、槽電圧V(V)と電気量i(A)×t(s)との積、すなわち、P(Ws)=V(V)×i(A)×t(s)であるから、所要電力Pを低減させるためには、槽電圧Vを低減させる必要がある。この槽電圧Vは、理論分解電圧E(=1.229V)とオーム損EIRとアノード過電圧ηとカソード過電圧ηの和(V=E+EIR+η+η)であるから、槽電圧Vを低減させるためには、アノード過電圧ηを低減させるのが好ましい。このアノード過電圧ηの大部分が酸素過電圧であるから、アノード過電圧ηを低減させるためには、酸素過電圧を低減させるのが好ましい。
【0004】
しかし、従来の非鉄金属の電解採取方法のように、アノードとしてPbまたはPb−Ag合金の鋳造圧延板を使用する方法では、アノード過電圧の大部分を占める酸素過電圧が比較的高く、槽電圧が比較的高いため、所要電力が高く、電力コストが高くなるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbと金属酸化物の粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法により、アノード過電圧の大部分を占める酸素過電圧を低減させて槽電圧を低減させることによって所要電力を低減させることができるが、アノード電位をさらに低くすることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−20989号公報(段落番号0002)
【特許文献2】特開2014−181380号公報(段落番号0007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbと金属酸化物の粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用する従来の方法よりもさらにアノード電圧を低下させることができる、非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノード並びにそのアノードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、50モル%以上のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下であるルテニウム酸化物の粉末とPbの粉末との混合粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用することにより、Pbと金属酸化物の粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用する従来の方法よりもさらにアノード電圧を低下させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による非鉄金属の電解採取方法は、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、50モル%以上のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下であるルテニウム酸化物の粉末とPbの粉末との混合粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用することを特徴とする。
【0010】
この非鉄金属の電解採取方法において、ルテニウム酸化物が55モル%以上のRuOを含むのが好ましく、結晶子径が5〜35nmであるのが好ましい。また、混合粉末中のルテニウム酸化物の含有量が0.1〜3質量%であるのが好ましい。また、非鉄金属が亜鉛であるのが好ましく、非鉄金属の硫酸塩が硫酸亜鉛であるのが好ましい。
【0011】
また、本発明による非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法は、塩化ルテニウム水溶液に過酸化水素水を添加して生成した前駆体物質を大気中において280〜520℃で加熱して熱処理することにより得られたルテニウム酸化物の粉末と、Pbの粉末との混合粉末を圧延することにより、粉末圧延板からなるアノードを製造することを特徴とする。この非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法において、ルテニウム酸化物が50モル%以上のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下であるのが好ましい。
【0012】
また、本発明による非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法は、50モル%以上のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下であるルテニウム酸化物の粉末とPbの粉末との混合粉末を圧延することにより、粉末圧延板からなるアノードを製造することを特徴とする。
【0013】
上記の非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法において、ルテニウム酸化物が55モル%以上のRuOを含むのが好ましく、結晶子径が5〜35nmであるのが好ましい。また、混合粉末中のルテニウム酸化物の含有量が0.1〜3質量%であるのが好ましく、非鉄金属が亜鉛であるのが好ましい。
【0014】
さらに、本発明による非鉄金属の電解採取用アノードは、50モル%以上のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下であるルテニウム酸化物とPbとからなることを特徴とする。
【0015】
この非鉄金属の電解採取用アノードにおいて、ルテニウム酸化物が55モル%以上のRuOを含むのが好ましく、結晶子径が5〜35nmであるのが好ましい。また、ルテニウム酸化物の含有量が0.1〜3質量%であるのが好ましく、非鉄金属が亜鉛であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Pbを含むアノードを使用して、非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から非鉄金属を電解採取する方法において、Pbと金属酸化物の粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用する従来の方法よりもさらにアノード電圧を低下させることができる、非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノード並びにそのアノードの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例および比較例のルテニウム酸化物の粉末についての粉末X線回折法(XRD)による測定結果を示す図である。
図2】実施例および比較例のルテニウム酸化物の粉末中のRu化合物(RuO、RuO・nHOおよびRuO)の割合と前駆体物質の熱処理温度との関係を示す図である。
図3】実施例および比較例で使用した定電流電解システムの概略図である。
図4】実施例および比較例のルテニウム酸化物の粉末中のRu化合物(RuOおよびRuO・nHO)の割合および定電流電解試験後のアノード電位と前駆体物質の熱処理温度との関係を示す図である。
図5】実施例および比較例のルテニウム酸化物の粉末中のRuOの結晶子径および定電流電解試験後のアノード電位と前駆体物質の熱処理温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による非鉄金属の電解採取方法の実施の形態では、Pbを含むアノードを使用して、(硫酸亜鉛などの)非鉄金属の硫酸塩を含む電解液から(亜鉛などの)非鉄金属を電解採取する方法において、50モル%以上、好ましくは55モル%以上(または55〜70モル%)のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が40nm以下(好ましくは5〜35nm、さらに好ましくは10〜30nm)であるルテニウム酸化物の粉末(好ましくは0.1〜3質量%、さらに好ましくは0.2〜2.0質量%)とPbの粉末との混合粉末を圧延して得られた粉末圧延板をアノードとして使用する。
【0019】
このように50モル%以上のRuOを含むルテニウム酸化物の粉末とPbの粉末との混合粉末を圧延して粉末圧延板を作製すると、従来の鋳造圧延板では内部に混入させるのが困難なルテニウム酸化物が内部に分散した圧延板を作製することができ、この粉末圧延板をアノードとして使用することにより、アノード電位を大幅に低下させることができる。また、ルテニウム酸化物中のRuOの結晶子径を小さくする(特に、RuOの(200)面における結晶子径を40nm以下にする)ことにより、比表面積を大きくすることができるので、粉末圧延板をアノードとして使用した際に反応性を向上させることができる。
【0020】
また、本発明による非鉄金属の電解採取用アノードの製造方法の実施の形態では、塩化ルテニウム水溶液に過酸化水素水を添加して生成した前駆体物質を大気中において280〜520℃(好ましくは300〜500℃)で加熱して熱処理することにより得られた(好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは55モル%以上(または55〜70モル%)のRuOを含み且つRuOの(200)面における結晶子径が好ましくは40nm以下、さらに好ましくは5〜35nm、最も好ましくは10〜30nmである)ルテニウム酸化物の粉末(好ましくは0.1〜3質量%、さらに好ましくは0.2〜2.0質量%)と、Pbの粉末との混合粉末を圧延することにより、粉末圧延板からなるアノードを製造する。なお、混合粉末の平均粒径は1〜500μmであるのが好ましい。
【0021】
ルテニウム酸化物の粉末は、例えば、塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl・xHO)を純水に溶解し、室温で5分程度撹拌して得られた塩化ルテニウム水溶液に、(過酸化水素水の滴下時に逆反応が起こるのを防ぐために)水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えてpH5程度に調整した後、この水溶液に過酸化水素(H)水を滴下して生成された(残留塩化物濃度が10−5Mよりも低い)沈殿物を回収し、遠心分離器を用いた固液分離と水洗を繰り返した(pH7になるまで生成物を純水で数回洗浄した)後、約60℃で24時間加熱して乾燥することにより得られた前駆体物質を横型電気炉に入れ、大気中において280〜520℃(好ましくは300〜500℃)で1〜3時間(好ましくは2時間程度)加熱(熱処理)して焼成することにより、熱処理生成物として製造することができる。
【0022】
なお、塩化ルテニウム水溶液に過酸化水素水を滴下すると、過酸化水素の分解による発熱反応が起こり、激しい気体発生(Oの発生)が生起し、水溶液中に黒褐色状の物質(RuO・nHO析出物)が沈殿する。このときに進行する反応は以下のとおりであると推察される。
2RuCl+5H→2RuO・nHO+2O+2(1−n)HO+6HCl
RuO・nHO+H→RuO+(n+1)H
【実施例】
【0023】
以下、本発明による非鉄金属の電解採取方法およびそれに用いるアノード並びにそのアノードの製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0024】
[実施例1]
塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl・xHO)(和光純薬工業株式会社製の99.0質量%の試薬)0.50gを純水50mLに溶解し、室温で攪拌して得られた塩化ルテニウム水溶液に、(過酸化水素水溶液の滴下時に逆反応が起こるのを防ぐために)水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えてpH5に調整した後、この水溶液に30質量%の過酸化水素(H)水溶液(和光純薬工業株式会社製)を約50mL滴下した。この滴下により、激しい気体発生が生起し、水溶液中に黒褐色の物質が沈殿した。
【0025】
得られた沈殿物を回収し、遠心分離器を用いた固液分離と水洗を3回繰り返した後、約60℃で24時間加熱して乾燥することにより、前駆体物質を得た。この前駆体物質を横型電気炉に入れ、大気中において500℃で2時間加熱(熱処理)して焼成することにより、熱処理生成物としてルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0026】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行った。
【0027】
ルテニウム酸化物の粉末の粉末X線回折法(XRD)による測定は、X線回折装置(株式会社リガク製のSmartLab−2080A211)により、X線光源としてCu管球(CuKα、1.5418オングストローム)を使用し、管電圧45kV、管電流200mA、走査速度2°/分の条件で行った。
【0028】
ルテニウム酸化物の粉末のX線光電子分光法(XPS)による測定は、X線光電子分光分析装置(KRATOSANALYTICAL社製のAXIS−ULTRA)により、X線源としてAlを使用し、加速電圧15kV、エミッション電流9mAの条件で、分析試料(実施例1〜3および比較例1〜5で得られた各々のルテニウム酸化物の粉末)にX線を照射して、C1s準位、O1s準位およびRu3p準位のX線光電子スペクトルを計測することによって行った。計測したXPSスペクトルは、C1s準位の結合エネルギー(285.0eV)に基づく帯電補正を行った後、解析ソフト(XPS Peak4.1)を用いて、Lorentz−Gauss関数に基づく波形分離を行った。すなわち、バックグラウンドをShirley法で補正した後、分離成分のエネルギー位置を特定し、ピーク波形のフィッティングを行い、分離した各波形から計算した面積比をルテニウム化合物の存在割合(モル%)とした。その結果、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO、RuO・nHOおよびRuOの割合は、それぞれ64.20モル%、27.13モル%、8.67モル%であった。
【0029】
また、ルテニウム酸化物の粉末のX線回折パターンから、シェラー(Scherrer)の式を用いて、ルテニウム酸化物の粉末中のRuOの200面に垂直方向の結晶子径を算出したところ、RuOの結晶子径は27nmであった。
【0030】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末1.0質量%を含む(Pbとルテニウム酸化物の)混合粉末を圧延ローラで圧延して、厚さ約5mmのPbとルテニウム酸化物の粉末圧延板(Pb−RuO粉末圧延アノード)を得た。
【0031】
この粉末圧延板から切り出したアノード板を使用して定電流電解試験を行うために、図3に示す定電流電解システム10を作製した。なお、図3において、参照符号12はアノード板、14はカソード板、16は恒温水槽、18は参照電極、20は電解液、22は熱電対、24は析出したZn、26および28はエレクトロメータ、30はポテンショガルバノスタットを示している。
【0032】
この定電流電解システム10において、アノード板12として本実施例の粉末圧延板から切り出したアノード板をそれぞれ使用するとともに、カソード板14としてAlからなるカソード板を使用し、極間距離を50mmとし、参照電極18としてAg/AgCl電極を使用し、70g/Lの亜鉛と150g/Lの硫酸を含む電解液(電解液20)から、40℃において電流密度60mA/cmで定電流電解を5時間行った。
【0033】
この定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.722Vであった。
【0034】
[実施例2]
前駆体物質の加熱温度を400℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0035】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO、RuO・nHOおよびRuOの割合と、ルテニウム酸化物の粉末中のRuOの結晶子径を算出したところ、RuO、RuO・nHOおよびRuOの割合は、それぞれ61.71モル%、29.31モル%、8.98モル%であり、RuOの結晶子径は16nmであった。
【0036】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.721Vであった。
【0037】
[実施例3]
前駆体物質の加熱温度を300℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0038】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO、RuO・nHOおよびRuOの割合と、ルテニウム酸化物の粉末中のRuOの結晶子径を算出したところ、RuO、RuO・nHOおよびRuOの割合は、それぞれ55.00モル%、40.10モル%、4.91モル%であり、RuOの結晶子径は15nmであった。
【0039】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.759Vであった。
【0040】
[比較例1]
前駆体物質の加熱温度を250℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0041】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO、RuO・nHOおよびRuOの割合を算出したところ、RuO、RuO・nHOおよびRuOの割合は、それぞれ34.52モル%、54.07モル%、11.40モル%であった。
【0042】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は2.077Vであった。
【0043】
[比較例2]
前駆体物質の加熱温度を200℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0044】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO、RuO・nHOおよびRuOの割合を算出したところ、RuO、RuO・nHOおよびRuOの割合は、それぞれ21.90モル%、62.44モル%、15.67モル%であった。
【0045】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は2.068Vであった。
【0046】
[比較例3]
前駆体物質の加熱温度を600℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、ルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0047】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO、RuO・nHOおよびRuOの割合と、ルテニウム酸化物の粉末中のRuOの結晶子径を算出したところ、RuO、RuO・nHOおよびRuOの割合は、それぞれ66.80モル%、26.52モル%、6・69モル%であり、RuOの結晶子径は60nmであった。
【0048】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.973Vであった。
【0049】
[比較例4]
前駆体物質を25℃で保持したまま、熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、前駆体物質(Precursor)としてのルテニウム酸化物の粉末を得た。
【0050】
このようにして得られたルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO、RuO・nHOおよびRuOの割合を算出したところ、RuO、RuO・nHOおよびRuOの割合は、それぞれ12.41モル%、68.38モル%、19.20モル%であった。
【0051】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、(5時間の定電流電解後の)定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は2.067Vであった。
【0052】
[比較例5]
ルテニウム酸化物の粉末として、市販の酸化ルテニウム(RuO)の粉末(Commercial Product)を用意した。
【0053】
このルテニウム酸化物の粉末について、実施例1と同様の方法により、粉末X線回折法(XRD)による測定を行うとともに、X線光電子分光法(XPS)による測定を行い、ルテニウム酸化物の粉末中のRuO、RuO・nHOおよびRuOの割合と、ルテニウム酸化物の粉末中のRuOの結晶子径を算出したところ、RuO、RuO・nHOおよびRuOの割合は、それぞれ49.46モル%、39.93モル%、10.60モル%であり、RuOの結晶子径は40nmであった。
【0054】
また、得られたルテニウム酸化物の粉末を使用して、実施例1と同様の方法により、粉末圧延板を作製して、定電流電解試験後の標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位を求めたところ、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位は1.769Vであった。
【0055】
これらの実施例および比較例のルテニウム酸化物の粉末中のRuO、RuO・nHOおよびRuOの割合と、RuOの結晶子径と、ルテニウム酸化物の粉末から作製した粉末圧延板を使用して行った定電流電解試験後のアノード電位を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
また、実施例および比較例のルテニウム酸化物の粉末(および試薬(Reagent)(RuCl・nHO))について、粉末X線回折法(XRD)による測定結果を図1に示し、ルテニウム酸化物の粉末中のRu化合物(RuO、RuO・nHOおよびRuO)の割合と前駆体物質の熱処理温度との関係を図2に示し、ルテニウム酸化物の粉末中のRu化合物(RuOおよびRuO・nHO)の割合および定電流電解試験後のアノード電位と前駆体物質の熱処理温度との関係を図4に示し、ルテニウム酸化物の粉末中のRuOの結晶子径および定電流電解試験後のアノード電位と前駆体物質の熱処理温度との関係を図5に示す。
【0058】
これらの結果から、熱処理温度が500℃(実施例1)、400℃(実施例2)、300℃(実施例3)のときに、ルテニウム酸化物中の二酸化ルテニウム(RuO)の割合がそれぞれ64.20モル%(実施例1)、61.71モル%(実施例2)、55.00モル%(実施例3)と非常に多くなり、(5時間の定電流電解後の)標準水素電極(NHE)電位に対するアノード電位がそれぞれ1.722V(実施例1)、1.721V(実施例2)、1.759V(実施例3)と非常に低くなっているのがわかる。
【符号の説明】
【0059】
10 定電流電解システム
12 アノード板
14 カソード板
16 恒温水槽
18 参照電極
20 電解液
22 熱電対
24 析出したZn
26、28 エレクトロメータ
30 ポテンショガルバノスタット
図1
図2
図3
図4
図5