特許第6682084号(P6682084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682084
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】混繊糸及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
   D02G3/04
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-538278(P2016-538278)
(86)(22)【出願日】2015年7月21日
(86)【国際出願番号】JP2015070672
(87)【国際公開番号】WO2016017469
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-155595(P2014-155595)
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(74)【代理人】
【識別番号】100111855
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 好昭
(72)【発明者】
【氏名】小寺 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大江 勇介
(72)【発明者】
【氏名】高木 進
(72)【発明者】
【氏名】川邊 和正
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慶一
(72)【発明者】
【氏名】伊與 寛史
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−324331(JP,A)
【文献】 特開2005−179829(JP,A)
【文献】 特表2007−518890(JP,A)
【文献】 特開平02−026938(JP,A)
【文献】 特開平01−280031(JP,A)
【文献】 特開2002−053266(JP,A)
【文献】 特開2003−064540(JP,A)
【文献】 特開平06−220731(JP,A)
【文献】 特開平06−155460(JP,A)
【文献】 特開平01−111037(JP,A)
【文献】 特表2010−534149(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102011010592(DE,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102007028373(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00−3/48
D02J 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に引き揃えられた補強繊維材料に対して当該補強繊維材料と同じ方向に引き揃えられた合成繊維材料を混繊させた混繊糸であって、前記合成繊維材料は、芯部分として高融点の合成樹脂材料を用い鞘部分として低融点の合成樹脂材料を用いた芯鞘構造の複合繊維材料からなるとともに当該鞘部分が前記補強繊維材料に対して熱融着することで前記補強繊維材料に接着一体化しており、混繊糸の断面を分割した区分領域における前記合成繊維材料の断面積の比率に関する標準偏差が25以下となるように前記合成繊維材料が分散されている混繊糸。
【請求項2】
請求項1に記載の混繊糸を用いて成型された成型品。
【請求項3】
開繊されて所定の方向に引き揃えられたシート状の補強繊維材料に対して当該補強繊維材料と同じ方向に引き揃えられるとともに当該補強繊維材料の密度に合わせて分散された状態で合成繊維材料を重ね合せる重合工程と、重ね合わされた前記補強繊維材料及び前記合成繊維材料を接着一体化する一体化工程とを備えており、前記合成繊維材料は、芯部分として高融点の合成樹脂材料を用い鞘部分として低融点の合成樹脂材料を用いた芯鞘構造の複合繊維材料からなり、前記一体化工程では、前記鞘部分が前記補強繊維材料に対して熱融着して接着一体化する混繊糸の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程では、重ね合わされた前記補強繊維材料及び前記合成繊維材料を開繊処理する請求項3に記載の混繊糸の製造方法。
【請求項5】
接着一体化された前記補強繊維材料及び前記合成繊維材料を別の形態の糸に形成する糸形成工程を備えている請求項3又は4に記載の混繊糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維等の補強繊維材料及び熱可塑性樹脂等の合成繊維材料を混繊させた混繊糸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維補強複合材料は、繊維材料とマトリックス材料を組み合せたもので、軽量で剛性が高く多様な機能設計が可能な材料であり、航空宇宙分野、輸送分野、土木建築分野、運動器具分野等の幅広い分野で用いられている。現在、炭素繊維又はガラス繊維といった補強繊維材料を熱硬化性樹脂材料又は熱可塑性樹脂材料等の合成樹脂材料と組み合せた繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastic)が主流となっている。FRPの中では、リサイクル性、短時間成型性、成型品の耐衝撃特性の向上等の利点から、補強繊維として炭素繊維を用い、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂材料を用いた炭素繊維補強複合材料(CFRP;Carbon Fiber Reinforced Plastic)による成型品開発が今後増加すると考えられている。
【0003】
補強繊維材料と合成樹脂材料を組み合わせた繊維補強複合シート材については、例えば、特許文献1では、炭素繊維を一方向に引き揃えた繊維体に対して、離型フィルムに樹脂を積層した樹脂シートを重ね合せて加熱することで繊維体に樹脂を含浸させてプリプレグを製造する点が記載されている。こうした補強繊維材料にマトリックス樹脂となる合成樹脂材料を重ね合せて繊維補強複合材料を製造する方法以外に、マトリックス樹脂となる合成樹脂材料を繊維化した合成繊維材料を補強繊維材料と混繊させて混繊糸を製造し、得られた混繊糸を用いて繊維補強複合材料を製造する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−91377号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】長谷部裕之 外2名、「コミングル糸を用いた熱可塑性炭素繊維強化複合材料の試作と物性評価」、一般社団法人日本繊維機械学会北陸支部研究発表会講演要旨集、p.11-p.12、一般社団法人日本繊維機械学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、繊維体に対して樹脂シートを重ね合せて樹脂を含浸させるようにしているため、繊維の間に樹脂が浸透しにくくボイド(空隙)が生じやすくなる。また、樹脂シートの製造工程等が必要となり、工程が多くなって製造設備の大型化や設備のコスト負担が大きくならざるを得ない。また、合成繊維材料を補強繊維材料と混繊させた混繊糸を用いる方法では、予め補強繊維材料の間に合成繊維材料を配置した混繊糸を用いるので、特許文献1に記載された方法に比べて補強繊維材料の間に樹脂が浸透しやすくなってボイドの発生が抑制されるようになる。
【0007】
こうした混繊糸を用いる方法では、補強繊維材料に対して合成繊維材料をできるだけ均一に混繊させたものを用いることが必要となる。従来の混繊糸としては、芯糸に対してカバーリングにより鞘糸を巻き付けたものが挙げられるが、こうした混繊糸では、補強繊維材料と合成繊維材料とが二層に分かれるようになるため、均一に混繊させた状態にすることは困難である。
【0008】
また、非特許文献1では、炭素繊維とポリフェニレンサルファイド(PPS)からなる合成繊維を一定の速度で送り出しながら重ね合せ、重ね合せた部分にエアノズルにより空気を吹き付けて両者を交絡させることで混繊させるようにしている。しかしながら、空気の吹き付けるエア交絡では、両者を十分に混繊させることが困難であり、また炭素繊維がエア交絡の際に切れて毛羽立つようになり、品質の良好な混繊糸を製造することが難しいといった課題がある。
【0009】
そこで、本発明は、補強繊維材料の間に合成繊維材料を分散させて混繊させた良好な品質を有する混繊糸及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る混繊糸は、所定の方向に引き揃えられた補強繊維材料に対して当該補強繊維材料と同じ方向に引き揃えられた合成繊維材料を混繊させた混繊糸であって、前記合成繊維材料は、芯部分として高融点の合成樹脂材料を用い鞘部分として低融点の合成樹脂材料を用いた芯鞘構造の複合繊維材料からなるとともに当該鞘部分が前記補強繊維材料に対して熱融着することで前記補強繊維材料に接着一体化しており、混繊糸の断面を分割した区分領域における前記合成繊維材料の断面積の比率に関する標準偏差が25以下となるように前記合成繊維材料が分散されている。
【0011】
本発明に係る混繊糸の製造方法は、開繊されて所定の方向に引き揃えられたシート状の補強繊維材料に対して当該補強繊維材料と同じ方向に引き揃えられるとともに当該補強繊維材料の密度に合わせて分散された状態で合成繊維材料を重ね合せる重合工程と、重ね合わされた前記補強繊維材料及び前記合成繊維材料を接着一体化する一体化工程とを備えており、前記合成繊維材料は、芯部分として高融点の合成樹脂材料を用い鞘部分として低融点の合成樹脂材料を用いた芯鞘構造の複合繊維材料からなり、前記一体化工程では、前記鞘部分が前記補強繊維材料に対して熱融着して接着一体化する。さらに、前記重合工程では、重ね合わされた前記補強繊維材料及び前記合成繊維材料を開繊処理する。さらに、接着一体化された前記補強繊維材料及び前記合成繊維材料を別の形態の糸に形成する糸形成工程を備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記の構成を有することで、補強繊維材料の間に合成繊維材料を分散させて混繊させた良好な品質を有する混繊糸を得ることができる。本発明の混繊糸を用いて成型品を得る場合、比較的に温和な成型条件であってもボイドのない、高品質の成型品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る混繊糸を製造する工程に関する説明図である。
図2】重合工程と一体化工程に関する説明図である。
図3】混繊糸の模式的な断面図である。
図4】実施例1に関する混繊糸の断面に関する撮影画像である。
図5】実施例2に関する混繊糸の断面に関する撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明に係る混繊糸を製造する工程に関する説明図である。まず、混繊糸の原料となる補強繊維材料及び合成繊維材料をシート状に形成するシート形成工程が行われる。補強繊維材料の場合、繊維束を開繊して薄層のシート状に形成する。補強繊維材料の開繊方法としては、開繊ローラや振動ローラ等に接触させて繊維束を開繊する方法、流体の流れに交差するように繊維束を走行させて繊維束を撓ませることで開繊する方法、これらを組み合せた開繊方法といった公知の方法が挙げられる。特に、流体を用いて繊維束を撓ませながら開繊する方法(例えば、特許第3064019号公報参照)は、補強繊維にダメージを与えることなく均一に開繊することができるため、補強繊維材料の開繊方法として好適である。また、複数本の繊維束を幅方向に並列配置して同時に開繊処理することで、幅広のシート状に容易に形成することができる。
【0016】
合成繊維材料の場合には、繊維束の状態のものを整経機による整経処理や補強繊維材料と同様の開繊処理により薄層のシート状に形成することができる。また、原料となる合成樹脂材料から紡糸して繊維材料を製造する際に、繊維材料がシート状に配列された状態で紡糸することで、薄層でシート状の合成繊維材料が得られる。
【0017】
補強繊維材料としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、金属繊維等のFRPに用いられる高強度・高弾性率の無機繊維や有機繊維等が挙げられる。また、これらの繊維が集束した繊維束を複数組み合せてもよい。なお、繊度については特に限定されない。
【0018】
合成繊維材料としては、母材(マトリックス)樹脂となるもので、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、LPC(液晶ポリエステル)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等が使用される。また、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合して、ポリマーアロイにして母材(マトリックス)樹脂として使用してもよい。
【0019】
また、合成繊維材料は、後述する一体化工程において補強繊維材料との接着性を高めるために、中心部分に比べて表面部分の融点が低い複合繊維材料を使用することもできる。例えば、芯部分として高融点の合成樹脂材料を用い鞘部分として低融点の合成樹脂材料を用いた芯鞘構造の複合繊維材料が挙げられる。こうした複合繊維材料を用いることで、芯部分の融点よりも低く鞘部分の融点よりも高い温度で加熱すれば、繊維の形態を維持したまま鞘部分が補強繊維材料と確実に接着して一体化することができる。
【0020】
合成繊維材料の使用量は、補強繊維材料の使用量に合わせて設定すればよく、混繊糸を用いる繊維補強複合材料の繊維体積含有率(以下、「Vf値」と略称する)に基づいて設定することができる。そして、合成繊維材料の繊度は、補強繊維の間に入り込みやすく混繊糸として扱われた際に付与される張力に対する耐久性を備えることが望ましい。
【0021】
次に、シート状の補強繊維材料に対してシート状の合成繊維材料を重ね合せる重合工程が行われる。図2は、重合工程と一体化工程に関する説明図である。シート状の補強繊維材料T及びシート状の合成繊維材料Sは、所定の方向に引き揃えられた状態で並行して搬送されて圧接ロールRの間を通過することで、シート状の補強繊維材料の片面にシート状の合成繊維材料を圧接させて重ね合せた状態に設定する。
【0022】
合成繊維材料Sは、シート状の補強繊維材料Tの密度に合わせて分散するように調整して配置する。例えば、補強繊維材料Tが薄層で密度が低い場合には、その密度に合わせて合成繊維材料Sを所定の間隔を空けて複数本配置して重ね合わせる。また、補強繊維材料Tの密度が低い場合やVf値が高く設定されている場合には、合成繊維材料Sの両面に補強繊維材料Tを重ね合せるようにしてもよい。
【0023】
また、補強繊維材料Tの間に合成繊維材料Sが入り込むようにするために、必要応じて重ね合せた状態で開繊処理を行うようにすることもできる。図2では、圧接ロールRの搬送方向下流側に開繊機構Kが配置されており、開繊機構Kでは、重ね合せた状態の補強繊維材料T及び合成繊維材料Sを搬送しながら空気流を交差させて撓ませることで開繊する。開繊機構Kとしては、振動ローラ等を組み合せた機構としてもよい。なお、開繊処理の際に、補強繊維材料T及び合成繊維材料Sに加わる張力が変動するが、補強繊維材料Tに比べて合成繊維材料Sの方が伸縮する場合には、空気流の流れの下流側に合成繊維材料Sを配置しておくことで、開繊処理中に合成繊維材料Sの繊維が伸縮して補強繊維の間に入り込みやすくなる。
【0024】
以上説明したように、開繊した補強繊維材料の密度に合わせて合成繊維材料を分散させて重ね合せることができるので、より均一な状態で混繊させることが可能となる。また、後述する糸形成工程の処理に合わせて予め合成繊維材料を分散させておくこともでき、最終的に製造される混繊糸の混繊状態が均一になるように合成繊維材料を重ね合せるようにする。
【0025】
次に、重ね合わせた状態の補強繊維材料及び合成繊維材料を一体化する一体化工程が行われる。図2に示す例では、重ね合わせた状態の補強繊維材料T及び合成繊維材料Sを搬送しながら加熱ロールHの間を通過させることで、合成繊維材料Sを仮接着させて一体化させている。合成繊維材料Sを仮接着させる場合、加熱ロールHで圧接することで、合成繊維材料Sが部分的に溶融して補強繊維材料Tに対して熱融着するが、合成繊維材料Sは繊維形態を維持した状態のままで接着されている。例えば、合成繊維材料Sとして上述した複合繊維材料を用いた場合には、加熱ロールHの温度を、芯部分の融点よりも低く鞘部分の融点よりも高い温度に設定すれば、鞘部分が補強繊維材料Tと熱融着して繊維の形態を維持したまま一体化することができる。
【0026】
そして、補強繊維材料に対して合成繊維材料を仮接着させて一体化させることで、開繊された補強繊維材料がばらけることがなくなり、混繊糸として取扱いが容易になる。また、補強繊維材料及び合成繊維材料が繊維形態を維持した状態で一体化しているので、混繊糸を用いて製織する場合の引張強度やドレープ性を十分備えることができる。なお、合成繊維材料を補強繊維材料に対して仮接着する場合、必要に応じて合成繊維材料を全面的に又は部分的に接着させるようにすればよく、例えば、接着箇所をドット状、ライン状又は帯状に設定することができ、混繊糸の用途に合わせて適宜設定すればよい。
【0027】
次に、混繊糸を様々な別の形態の糸に仕上げる糸形成工程が行われる。一体化工程により得られたものはそのまま混繊糸として使用することもできるが、用途に合わせた混繊糸を製造する場合には、一体化工程で得られたものを、撚り、畳み、重ね、スリットといった糸形成処理を行うことで、様々な形態の混繊糸を製造することができる。図3は、混繊糸の模式的な断面図である。図3(a)は、一体化された補強繊維材料及び合成繊維材料を公知の撚り装置により撚りをかけて得られた混繊糸の断面図を示している。一体化された補強繊維材料及び合成繊維材料はシート状に形成されており、撚りにより幅方向に巻かれる処理されるため、混繊糸の中心部まで合成繊維材料が分散した状態となってより均一な混繊糸を得ることができる。図3(b)は、一体化された補強繊維材料及び合成繊維材料を糸長方向に折り目が付くように複数回折り畳んで得られた混繊糸の断面図を示している。この場合には、補強繊維材料及び合成繊維材料が交互に積層された状態となって、中心部にまで合成繊維材料が分散してより均一な混繊糸を得ることができる。折り畳む方法としては、巻くように折り畳んだり、ジグザグに折り畳むことも可能で、補強繊維材料及び合成繊維材料が交互に積層されるように折り畳めばよい。図3(c)は、一体化された補強繊維材料及び合成繊維材料を複数枚重ね合せて得られた混繊糸の断面図を示している。この場合にも、補強繊維材料及び合成繊維材料が交互に積層された状態となり、中心部にまで合成繊維材料が分散してより均一な混繊糸を得ることができる。図3(d)は、一体化された補強繊維材料及び合成繊維材料を糸長方向にスリットして得られた混繊糸の断面図である。一体化された補強繊維材料及び合成繊維材料を幅広のシート状に形成しておき、細幅にスリットしてそれぞれ集束することで、同じ品質の混繊糸を同時に複数本製造することが可能となり、生産性を大幅に向上させることができる。
【0028】
以上説明したように、開繊されたシート状の補強繊維材料の密度に合わせて合成繊維材料を分散させて重ね合せ、一体化することで、より均一に混繊した混繊糸を製造することができる。得られた混繊糸の混繊状態の均一性は、混繊糸の糸長方向と直交する方向の断面において合成繊維材料の分散状態を定量的に分析することで確認することができる。例えば、断面を複数の区分領域に分割して、各区分領域における合成繊維材料の断面積の比率を算出し、算出された各領域の比率に関する標準偏差をみることで、分散状態を定量的に分析することができる。この場合、標準偏差が小さくなるほど合成繊維材料が満遍なく分散していることになり、より均一に混繊した混繊糸が得られたことを示している。また、混繊糸を用いて熱プレス等により成型を行う場合に、合成繊維材料が溶融して補強繊維材料の間に浸透してボイドのない状態に充填されるためには、標準偏差σを25以下に設定することが必要である。
【0029】
本発明による混繊糸を用いて熱プレスによる成型を行う場合の条件としては、加熱温度260℃〜320℃、圧力0.1MPa〜3.0MPa、処理時間3分〜20分とすることができる。一方、引き揃えた炭素繊維に樹脂シートを重ね合わせて熱プレスを行うといった従来の方法では、圧力として10MPa以上、処理時間30分以上を要する。本発明の混繊糸を用いることで、より低い圧力と短い処理時間でボイドのない成型品を得ることができる。すなわち、簡易な熱プレス装置によって効率的に、高い品質の成型品を製造することができる。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
以下の材料を用いて混繊糸を製造した。
<使用材料>
(補強繊維材料)
炭素繊維(三菱レーヨン株式会社製;50R15L)
繊維直径7μm 繊維本数15000本
(合成繊維材料)
ポリエチレンテレフタレート(PET)製複合繊維(KBセーレン株式会社製;ベルカップル(PET芯鞘タイプ融着糸、芯鞘重量比1:1))
繊度8dtex 繊維本数1000本
炭素繊維及び複合繊維の使用量は、Vf値が49.0%となるように設定した。
<製造工程>
炭素繊維は、特許第3064019号公報に記載された空気流による開繊方法により幅100mmに開繊処理した。得られたシート状の炭素繊維の密度は、150本/mmとなった。複合繊維は、公知の整経機を用いて幅100mmに整経処理した。得られたシート状の複合繊維の密度は、10本/mmであった。次に、シート状に形成した炭素繊維及び複合繊維を搬送しながら重ね合せた後、炭素繊維の開繊方法と同様の開繊処理を行って幅100mmの重合シート材に形成した。そして、形成した重合シート材を加熱ロール(170℃)の間を通すことで炭素繊維に対して複合繊維を仮接着して一体化した。得られた仮接着シート材を糸長方向の折り目に沿って4回折り畳むことで、16層に積層した混繊糸を製造した。
【0031】
<混繊糸の均一性評価>
製造された混繊糸を糸長方向と直交する方向に切断して走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製S−3500N)により断面を撮影した。図4は、混繊糸の断面に関する撮影画像である。混繊糸の均一性を評価するために、混繊糸の断面の撮影画像を処理して複合繊維の面積の分散状態を評価した。撮影画像の処理には、市販の画像処理ソフトウェア(オリンパス株式会社製Stream Essential)を使用した。まず、混合糸の断面に外接する矩形を描いて分析する領域を画定し、画定された矩形領域を縦横3等分した9つの区分領域を設定した。図4では、白い直線で区分領域を示している。
【0032】
各区分領域について混繊糸の外形をなぞるようにして外形線を描き、描いた外形線と区分領域の境界線とにより囲まれた混繊糸の面積S1を算出する。次に、複合繊維のみを囲む囲み線を描いて囲まれた複合繊維の面積S2を算出する。図4では、外形線及び囲み線を白い曲線で示している。そして、混繊比率Mを以下の式により算出する。
M(%)=S2/S1×100
そして、9つの区分領域についてそれぞれ算出された混繊比率Mに関して標準偏差σを算出する。実施例1の混繊糸については、標準偏差σは9.3であった。
【0033】
[実施例2]
実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様にシート形成工程から一体化工程を行った。得られた仮接着シート材を公知の撚り装置により100回/mの撚りをかけて混繊糸を製造した。製造された混繊糸について、実施例1と同様に断面を撮影した。図5は、混繊糸の断面に関する撮影画像である。均一性評価のため、実施例1と同様に断面画像について画像処理を行い、標準偏差を算出した。標準偏差σは11.5であった。
【0034】
[実施例3]
実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様にシート形成工程から一体化工程を行った。得られた仮接着シート材を幅方向に渦巻き状に巻き付けて混繊糸を製造した。製造された混繊糸について、実施例1と同様に断面を撮影した。そして、均一性評価のため、実施例1と同様に断面画像について画像処理を行い、標準偏差を算出した。標準偏差σは15.2であった。
【0035】
[実施例4]
実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様にシート形成工程から一体化工程を行った。得られた仮接着シート材を公知のスリッタにより幅2mmで糸長方向にスリットして混繊糸を製造した。製造された混繊糸について、実施例1と同様に断面を撮影した。そして、均一性評価のため、実施例1と同様に断面画像について画像処理を行い、標準偏差を算出した。標準偏差σは19.2であった。
【0036】
[比較例1]
<使用材料>
(補強繊維材料)
実施例1と同様の炭素繊維を使用した。
(合成繊維材料)
ポリエステル繊維(KBセーレン株式会社製;ベルカップル)280T/16f 30本
炭素繊維及びポリエステル繊維の使用量は、Vf値が47.5%となるように設定した。
<製造工程>
ポリエステル繊維を15本ずつ2つの繊維束に分け、炭素繊維を中心にしてカバーリング装置により2つの繊維束でダブルカバーリング処理を行って混繊糸を製造した。繊維束の巻き付け数は、200回/mに設定した。
【0037】
製造された混繊糸について、均一性評価のため、実施例1と同様に断面画像を撮影して画像処理を行い、標準偏差を算出した。標準偏差σは30.6であった。
【0038】
[実施例5]
次に、実施例1で得られた混繊糸を用いて熱プレスによる複合繊維の浸透性を評価した。熱プレス装置(株式会社井元製作所製IMC−180C型)に混繊糸をセットして、加熱温度300℃及び加圧力0.14MPaに設定し、5分間熱プレス処理した。混繊糸は、幅約4.5mm及び厚さ約0.4mmの板状体に成型された。成型された板状体を厚さ方向に切断して断面を電子顕微鏡により観察したところ、断面に表出した炭素繊維の間に樹脂が充填されており、ボイドは観察されなかった。
【0039】
[実施例6]
実施例2で得られた混繊糸を実施例5と同様に熱プレス処理して板状体に成型した。成型された板状体を厚さ方向に切断して断面を電子顕微鏡により観察したところ、断面に表出した炭素繊維の間に樹脂が充填されており、ボイドは観察されなかった。
【0040】
[比較例2]
比較例1で得られた混繊糸を実施例5と同様に熱プレス処理して板状体に成型した。成型された板状体を厚さ方向に切断して断面を電子顕微鏡により観察したところ、断面に表出した炭素繊維の間に樹脂が浸透していないボイドが観察された。
【0041】
[実施例7]
加熱処理温度280℃、加圧力1.29MPaに設定した以外は、実施例5と同様に熱プレス処理して板状体に成型した。成型された板状体を厚さ方向に切断して断面を電子顕微鏡により観察したところ、断面に表出した炭素繊維の間に樹脂が充填されており、ボイドは観察されなかった。
【0042】
[比較例3]
炭素繊維(三菱レーヨン株式会社製;50R15L)を引き揃え、ポリエチレンテレフタレートフィルム(藤森工業株式会社製;75−NT2−AS)を重ね合わせて、実施例7と同様の条件にて熱プレス処理して板状体に成型した。成型された板状体を厚さ方向に切断して断面を電子顕微鏡により観察したところ、断面に表出した炭素繊維の間に樹脂が浸透していないボイドが観察された。
【0043】
以上の実施例及び比較例をみると、混繊糸の合成繊維材料の分散状態示す標準偏差が25以下とすることで、ボイドのない成型品を得ることができることがわかる。
【符号の説明】
【0044】
H・・・加熱ロール、K・・・開繊機構、R・・・圧接ロール、S・・・合成繊維材料、T・・・補強繊維材料
図1
図2
図3
図4
図5