【実施例】
【0047】
以下の実施例において、結果の統計解析にはGraphPad Prism5ソフトウェア(GraphPad Prism5 software, Inc)を用いた。PBMNCおよびQQCの細胞数またはそれらの間の割合の解析にはウィルコクソンの符号付き順位検定を用いた。相関解析は線形回帰分析により行った。他のアッセイにおいてそれらの細胞の各種パラメータはマン・ホイットニーのU検定により解析した。
3群間の比較にはクラスカル・ウォリス検定を用いた。P<0.05を統計的に有意とした。全ての値は平均±標準誤差で表している。
【0048】
実施例1:末梢血由来単核球からのEPC増加
(1) PBMNC及びCD34陽性単核球の調製
20-55歳の健康なボランティアから50mlシリンジに装着されたヘパリン化翼状針を用いて末梢血を20-100ml採取した。採取は東海大学医学部医学調査委員会の承認の下で行い、得られた末梢血サンプルの取り扱いは、ヒトサンプルに対する生物学的ガイドラインに沿って行った。末梢血からのPBMNCの単離は、Asahara et al., Science, 275: 964-7 (1997)に記載の方法に従って、Histopaque-1077 (Sigma-Aldrich, #10771)を用いた密度勾配遠心法により行った。単離されたPBMNCをPBS-EDTAで洗浄後、緩衝液中に懸濁し、細胞懸濁液を調製した。単離されたPBMNCにおいてCD34陽性率は0.23±0.03%、CD133陽性率は0.20±0.07%であった。また、末梢血100mlあたりのCD34陽性細胞数は(27.8±4.5)x10
4、CD133陽性細胞数は(23.2±6.9)x10
4であった。
【0049】
CD34陽性細胞の精製は、磁気ビーズをコートしたマウス抗ヒトCD34抗体、および説明書に従ってCD34 Cell isolation kit (Miltenyi Biotec, #130-046-702)を用い、autoMACS separator (Miltenyi Biotec)により行った。
【0050】
(2) 無血清培地の調製
培養に用いる無血清培地(以下、QQ培地またはQQcm)は、stemline
TMII Hematopoietic Stem Cell Expansion Medium (Sigma-Aldrich, Cat No. S0192)を用いて、表1に示す組成に基づいて作成した。即ち、表1に示す各成分を、所定の濃度となるように無血清培地に無菌的に添加した。
【0051】
【表1】
【0052】
(3) PBMNCの培養
上記方法により単離されたPBMNCを、Primaria Tissue culture plate (35-mm Primaria
TM tissue culture dish, BD Falcon, #353801)を用い、1ウェル当たり2x10
6細胞/2ml QQ培地の条件下、(2)で調製された無血清培地中で7日間培養した。QQ培地中の上記細胞密度は、末梢血1mlあたり約1x10
6 MNCに相当する。
培養の結果、培養開始前のPBMNCに対する上記培養後の細胞(以下、QQCといい、上記培養法をQQcという場合がある)の数は、全ての被験者について減少していた(平均で0.49倍;
図1)。一方、得られるQQC数は、線形回帰分析において、末梢血100mlあたりのPBMNC数と負の相関を示した。即ち、等量の末梢血から単離された全PBMNC数とは関係なく、100mlの末梢血から平均で約4x10
7個の細胞が得られた。
【0053】
(4) EPCコロニー形成アッセイ
元のPBMNCおよびQQCの血管形成能を調べるため、EPCコロニー形成アッセイ(EPC-CFA)により接着性EPCコロニーを定量した。EPC-CFAは、Masuda H. et al., Circulation research, 109: 20-37 (2011)に記載の方法に準じて行った。具体的には、35mm Primaria
TM dish (BD Falcon)中、表2に示す組成に基づいて作製した半固形培地中で細胞を培養し、培養開始から16-18日後に、位相差光学顕微鏡(Eclipse TE300, Nikon)下、ディッシュあたりの接着性コロニー数をgridded scoring dish (Stem Cell Tec.)を用いて測定した。未分化型EPCコロニー(PEPC-CFU (primitive EPC colony forming unit);
図2左)と分化型EPCコロニー(DEPC-CFU (definitive EPC colony forming unit);
図2右)とを別々にカウントした。
【0054】
【表2】
【0055】
EPC-CFAの結果、PBMNCと比較してQQCでは、ディッシュあたりの形成されたEPCコロニーの総数、および特に分化型EPCコロニー(DEPC-CFU)数について顕著な増加が観察された(それぞれ13.7倍、42倍;
図3)。分化型EPCコロニー形成細胞の頻度は強力な血管形成活性を反映していることが示されているため、この結果は、PBMNCに対してQQCは顕著に優れた血管再生能を有することを実証している。また、等量の血液に由来する分化型コロニー形成細胞数および総EPCコロニー形成細胞数はPBMNCとの比較でそれぞれ19倍、6.2倍増加した。EPCコロニー形成細胞の分化度についても、PBMNCではEPCコロニー形成細胞全体のうち未分化型コロニー形成細胞が66.4%、分化型コロニー形成細胞が33.6%であったのに対し、QQCでは未分化型コロニー形成細胞が8.4%、分化型コロニー形成細胞が91.6%と、分化型コロニー形成細胞の比率が大幅に増加していた。
更に、QQCにおける各EPCコロニー形成細胞の頻度とPBMNCにおける各EPCコロニー形成細胞の頻度との関係を線形回帰分析により調べたところ、1ディッシュあたりで、QQCの分化型EPCコロニー形成細胞数および総EPCコロニー形成細胞数はPBMNCの分化型EPCコロニー形成細胞数と相関していたが、QQCの未分化型EPCコロニー形成細胞数とPBMNCの未分化型EPCコロニー形成細胞数とは相関がなかった。一方、QQCの未分化型EPCコロニー形成細胞数または総EPCコロニー形成細胞数はPBMNCの分化型EPCコロニー形成細胞と相関がなかった。
要約すれば、QQCの総EPCコロニー形成細胞頻度はPBMNCのそれに依存していた。特に、QQCにおける分化型EPCコロニー形成細胞の頻度は、PBMNCにおける未分化型EPCコロニー形成細胞の頻度と関連しており、QQ培養によりPBMNC中の未分化型EPCコロニー形成細胞が分化したことを示している。以上のことから、QQ培養により、血管形成能が細胞の量的にも質的にも劇的に向上することが実証された。
【0056】
一方、(1)で精製したCD34陽性細胞について(3)と同様に培養し、(4)と同様にEPC-CFAに供したところ、未分化型EPCコロニーのみが形成され、分化型EPCコロニーは形成されなかった(
図4の中央のバー)。形成されたEPCコロニーの総数としても、CD34で分画しなかったPBMNCをQQ培養した場合より少なかった。また、CD34陰性細胞を同様に培養後、EPC-CFAに供した場合、EPCコロニーは形成されなかった(
図4の左のバー)。CD34陽性細胞をCD34陰性細胞と混合してQQ培養し、同様にEPCコロニー形成アッセイを行ったところ、分化型EPCコロニー形成活性の顕著な向上が観察された(
図4の右のバー)。これらの結果は、EPCコロニー形成活性に関与するのはCD34陽性細胞であるが、該活性、特に分化型EPCコロニー形成活性のためにはCD34陰性細胞の存在が重要であることを示唆している。
【0057】
以上のことから、CD34の発現を指標にして選別することなく、PBMNCをQQ培養に供することによって、該選別を行った場合と比較して、EPC数および分化型EPCコロニー形成細胞数を顕著に増加させ得ることが分かった。この結果は、CD34陽性細胞が分離され単独でQQ培養されるより、CD34陰性細胞と共に単核球のままQQ培養する方が、分化型EPCコロニー形成細胞の割合を高めることが可能になり、血管再生能力の強い細胞群になることを意味する。元来EPCコロニー形成細胞の純度が非常に高いCD34陽性細胞(あるいはCD133陽性細胞)でQQ培養することでEPCコロニー形成細胞を増幅することは容易に予測され技術が確立されたものであるが、EPCの純度を高めるための細胞分離(CD34, CD133)をおこなわず単核球のまま培養することで、CD34陰性細胞を共培養として利用することでEPCコロニー形成細胞を増幅し分化させることが可能になるという技術開発は、医療科学技術知識からは想定外の成果である。
【0058】
実施例2:細胞群のフローサイトメトリー解析
実施例1で得られた細胞群の特徴をより明らかにするため、フローサイトメトリーにより、血液血管系の幹細胞、血液系細胞、または血管系細胞の細胞表面マーカーの発現を調べた。フローサイトメトリー解析は下記の通りに行った。
MACSバッファー中に懸濁した細胞(5x10
5細胞/200μl MACSバッファー)を10μlのFCブロッキング試薬の添加後に4℃で30分間培養し、その後の染色のために反応チューブ中に等量に分注した(100μl/チューブ)。各アリコートを2μlの各一次抗体と共に4℃で20分間培養した後、1mlのMACSバッファーで2回洗浄した。細胞をMACSバッファー中に懸濁した(200μlのMACSバッファーあたり2x10
5細胞)。フローメトリー解析はLSRFortessa
TM cell analyzer (BD)およびFlowJo
TMソフトウェア(Tomy Digital Biology)を用いて行った。抗体はいずれも市販のものを使用した。vWFの染色の際は、細胞を各一次抗体と培養後、ビオチン抱合ラット抗マウスIgG1と培養し、次いでストレプトアビジン-PE/Cy7にコンジュゲートさせた。
PBMNCまたはQQCの散布図をそれぞれ、細胞サイズにより3つの集団、即ちリンパ球サイズ、単球サイズ、および大型細胞サイズにゲートした(
図5A)。PBMNCまたはQQCの各々の細胞陽性率を先ず各ゲートにおいて推定し、その後、各表面マーカーについて3つの細胞サイズ領域にゲートし測定することで、ゲートした全生存細胞画分における陽性率を計算した(
図5A左側)。また、末梢血100mlあたりの陽性細胞数(
図5A右側)についても、PBMNCまたはQQCの全生存細胞数と上記の累積された陽性率とを用いて算出した。
さらに、上記3集団にゲートした細胞の合計を100%とした場合の陽性率を算出し(
図5B左側)、さらにこの場合のQQC前後の細胞全体における各マーカー発現細胞の%変化も算出した(
図5B右側)。
【0059】
解析の結果、QQCでは、CD34陽性またはCD133陽性幹細胞の比率および数が、PBMNCに対して大幅に増加している一方(CD34陽性細胞について、頻度は5.31倍、数は1.96倍; CD133陽性細胞について、頻度は4.64倍、数は1.80倍)、殆どの造血系細胞マーカーについて陽性細胞の比率および数は減少していた(
図5A)。内皮系細胞のマーカーの陽性率については、CD31で0.92倍、vWFで0.77倍とわずかに減少が見られ、VEGFR-2では0.56倍であった。逆にCD105またはCD146については、恐らくQQCにおける未分化型または分化型コロニー形成性EPCの富化を反映して、陽性率が増加していた。
注目すべきこととして、抗炎症性M2型マクロファージのパラメータ(CD206)が幹細胞集団の増加と同程度に増加し、逆に炎症性M1型マクロファージのパラメータ(CCR2)は明らかに減少していた(CD206陽性細胞について、頻度は4.71倍、細胞数は1.72倍; CCR2陽性細胞について、頻度は0.01倍、細胞数は0.01倍)。
この結果は上記3集団にゲートした細胞の合計を100%とした場合の陽性率でも同様の傾向であった。具体的には、PB-MNCに比較してQQ-MNCでは、
・未分化EPC分画(CD34+またはCD133+細胞)の同一生細胞数当たりの比率が上昇していた。また、生細胞全体における含有率も若干上昇した。これは、未分化EPC分画がQQcにより増幅されたことを意味する(
図5B最上段四角内)。
・炎症性マクロファージ(CCR2+細胞)の同一生細胞数当たりの比率(左側)は減少しており、さらに生細胞全体における含有率(右側)は減少した。一方、抗炎症性マクロファージ(CD206+細胞)においては、いずれの指標も上昇した(
図5B下段上側四角内)。
・また血管形成性T細胞(angiogenic T cell)の指標としてはCD3/CXCR4/CD31が挙げられるが、これについてもいずれの指標も上昇した(
図5B下段下側四角内)。
【0060】
さらに、上記指標について、PB-MNCに比較してQQ-MNCでは、炎症性Tリンパ球サブセット(Th1)の減少を認め、反対に抗炎症性Tリンパ球サブセット(Th2)及び制御性Tリンパ球サブセット(T reg)の上昇を認めた(
図6)。左グラフは、各ThのPBMNC内含有率に対するQQC内含有率の比率を示す。炎症性Th1の減少(x 0.55倍) 及び抗炎症性サブセットの増幅(Th2= x 4.9倍、T reg= x5.81倍)が確認された。右グラフは、QQCのPBMNCに対する各Tサブセット含有率の実数の増減を示す。左グラフと同様の変動を示した。N= 4〜6である。
以上のことから、QQcにより幹細胞集団が富化されるのと同時に、抗炎症性環境が提供されると考えられる。
【0061】
実施例3:健常人と糖尿病患者におけるQQCの比較
糖尿病(DM)患者と健常人ボランティアから末梢血50ccを採血し、単核球を採取し、QQcにて一週間培養した。EPC-Colony Forming Assay法(EPC-CFA)、FACS、EPC AssayにてQQc前後の細胞における血管再生能力などを検討した。
【0062】
結果:DM患者におけるEPC-CFAの結果は、QQc前では健常人に比べコロニー数が有意に低下していたものの、QQc後においては、健常人と同等のコロニー数を認めた(
図9右側)。従ってDM患者におけるEPC血管再生能力は、QQcを行うことによって健常人同様に回復させることができると考えられる。
FACS(CD34抗体)によれば、QQc前後で全体の細胞数は共に減少するものの(
図7左側)、DM患者においても健常人と同様にCD34陽性細胞の増幅を認めた(
図7右側)。
また、FACS解析においてCD206陽性の抗炎症細胞であるM2マクロファージがDM患者と健常人においてQQc後に細胞数が優位に上昇し、CCR陽性細胞の炎症性細胞であるM1マクロファージ数が優位に低下する(
図8)。
なお、糖尿病患者において実施例2と同様に散布図をとり3集団にゲートし、各表面マーカーの陽性率を計算して生細胞数あたりの比率や生細胞全体における含有率をカウントしたが、糖尿病患者でも健常人と同様の傾向を示した。
【0063】
実施例4:細胞群のリアルタイムRT-PCR解析
リアルタイムRT-PCR法による細胞群の解析も行った。解析は以下の通りに行った。
トータルmRNAをTrizol (Invitrogen)により単離し、ゲノムDNAをDNase I処理により消化した。DNase I処理したmRNAをフェノール抽出およびエタノール沈殿により精製した。500 ngの精製したmRNAをSuperScript VILO cDNA Synthesis Kit (Invitrogen)を用いたcDNA合成のために用いた。in vivoコロニーの解析のために、TaqMan PreAmp Master Mix (Applied Biosystems)、および45nMのフォワードおよびリバースプライマーミクスチャーを用いてcDNAを増幅した。PCRで用いた増幅条件は以下の通りである:95℃で10分の後、95℃で10秒、60℃で4分を20サイクル。増幅したcDNAを10倍に希釈し、希釈したcDNAを、EagleTaq Master Mix (Roche)、cDNA増幅用のフォワードおよびリバースプライマー(0.3mM)、およびTaqManプローブ(Sigma Aldrich; 0.25mM)を用いたTaqMan RT-PCRのために使用した。全てのプライマーおよびTaqManプローブは市販のものを用いた。in vitroコロニーの解析のために、増幅工程なしで10倍に希釈されたcDNAをTaqMan RT-PCRのために使用した。遺伝子の発現レベルは全て、GAPDHに対して正規化した。
【0064】
解析の結果、PBMNCと比較してQQCにおいて、血管新生・血管形成、血管成熟、および抗炎症に関わる因子の発現が増強していた(
図10a, 10b)。血管新生・血管形成の成長因子またはサイトカインに関して、VEGF-Aの発現には減少傾向が見られたが、それを補うようにIGF-1および血管新生サイトカインであるレプチン、IL-8、IL-10の遺伝子発現が大幅に増強されていた(IGF-1について21.2倍、レプチンについて35.9倍、IL-8について6.3倍、IL-10について5.4倍)。血管成熟因子であるVEGF-BおよびAng-1の発現も増強されていた(VEGF-Bについて4.2倍、Ang-1について2.4倍)。一方、炎症性サイトカインについて、TNF-αの発現には変化は見られなかったが、IL-1βおよびTGF-βの発現は抑制されていた(IL-1βについて0.23倍、TGF-βについて0.44倍;
図10c)。QQCにおける炎症性サイトカインの発現低下および抗炎症性サイトカインIL-10の発現上昇は、一部の損傷組織において抗炎症性環境をもたらすと考えられる。更に、血管新生や組織リモデリングにおいて重要な役割を果たすことが知られるマトリクス・メタロプロテアーゼMMP-2およびMMP-9の発現は、PBMNCに対してQQCで著しく上昇していた(MMP-2について22.1倍、MMP-9について189.4倍;
図10d)。
【0065】
また、糖尿病患者における各遺伝子の発現を上記と同様に解析した場合、VEGFの発現は健常人と比べて優位に増加し、またIL-10の発現も有意に増加していた。その他の遺伝子についても、血管新生サイトカインであるレプチンの遺伝子発現が大幅に増強されており、また血管成熟因子であるAng-1の発現も増強されていた。
【0066】
実施例5:細胞群の血管形成能の評価
次に、本発明の方法で得られた、EPCを含む細胞群(QQC)の血管形成能を評価するために、in vitroでのマトリゲルアッセイを行った。アッセイは以下の通りに行った。
Masuda H. et al., Circulation research, 109: 20-37 (2011)に記載のように、37℃のCO
2インキュベータ中で30分間、acLDL-DiI (20μg/ml; 500μl中に2-4x10
4)を添加したEBM-2/ 2% FBS (500μl)を含有する1.5mlチューブ中で細胞を培養した。4℃において400gで10分間遠心分離し、上清を吸引後、細胞ペレットを1ml PBSで洗浄し、EBM-2/ 2% FBS (50μl中に1.0x10
3細胞)で懸濁した。標識された各細胞をHUVECと共に再懸濁した(100μlのEBM-2/ 2% FBS中、EPC:HUVEC = 1x10
3:1.5x10
4細胞)。混合細胞の懸濁液を水浴中37℃で培養し、それを96ウェルプレートのウェル中に予め培養されたマトリゲル(BD Falcon, #354234; 50μl/ウェル)に対して各100μlの量で添加した。12時間の培養後、HUVECにより形成された閉じた領域の数を、位相差光学顕微鏡(x2 HPF)(Eclipse TE300, Nikon)により撮られた写真中でPhotoshopソフトウェアを用いてカウントした。更に、チューブ中に取り込まれた標識されたPBMNCまたはQQC数についても、蛍光顕微鏡(IX70, Olympus)により撮られた写真中でPhotoshopソフトウェアを用いてカウントした。チューブ数および細胞数のカウントは、盲検で2人により行った。
【0067】
その結果、HUVECと共培養されたQQCは、HUVEC + PBMNCまたはHUVECのみの場合と比較して、細胞播種から12時間後に有意にチューブの形成を促進した(x2 HPFあたりのチューブ数 = 63.3±1.43 (HUVEC + QQC), 55.1±1.45 (HUVEC + PBMNC), または55.3±1.39 (HUVECのみ)(
図11)。
また、QQCは、PBMNCと比較して、チューブ内への取り込み能が顕著に高いことも分かった(x4 HPFあたりの、チューブ中に取り込まれたacLDL-DiI染色細胞数 = 38.5±8.30 (QQC), 8.72±1.89 (PBMNC))(
図12)。
以上のことから、本発明の方法で得られた細胞群は、PBMNCと比較して、血管形成能や血管内取り込みの増大を示すことが実証された。
【0068】
実施例6:虚血症モデルマウスへのヒトQQMNC細胞移植実験
本発明の方法で得られる細胞の細胞移植療法における有用性を評価するために、虚血症モデルマウスへの細胞移植実験を行った。全ての動物実験は、国および研究機関のガイドラインに沿って行った。また、実験プロトコルは、米国National Research CouncilのGuide for the Care and Use of Laboratory Animalsに基づく東海大学医学部伊勢原キャンパスの動物実験委員会のガイドラインによる承認を得た。実験動物の痛みや不快感を軽減すべく、麻酔についても最大限の注意を払った。
実験では、既報(Sasaki K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103: 14537-14541 (2006))の通り、8-10週齢のBALB/cAJcl-nu/nuマウス(Charles River, 日本)を用いた。浅枝および深枝を含む左大腿動脈の近位部を縫合し、伏在動脈の近位部および遠位部をバイポーラの電気凝固鉗子(MERA, #N3-14)で閉塞した。その部分の皮膚を外科用ステープルで閉じた。このようにして虚血症後肢モデルマウスを作製した。
翌日、細胞をIMDM中に懸濁し、虚血症後肢の4つの部位、即ち大腿部または下肢についてそれぞれ2箇所に懸濁液を筋肉内注射した(2.5x10
3細胞/10μl/部位; 計1x10
4細胞/マウス)。特に、移植細胞のin vivoでの内皮系への分化の評価の目的では、より多量の細胞を注射した(5.0x10
4細胞/10μl/部位; 計2x10
5細胞/マウス)。
【0069】
Laser Doppler Perfusion Imaging (Moor Instruments)を用いて、術後3週間の連続血流測定を記録し、それをMoor ldi Mainソフトウェア(Moor Instruments)を用いて解析した。
その結果、虚血手術の21日後において、QQC移植動物では、コントロール(IMDM注射)またはPBMNC注射の動物と比較して、虚血症後肢における顕著な血流の回復が見られた(
図13)。反対の肢に対する虚血症の肢における血流の割合は、QQC移植群においてコントロール群またはPBMNC移植群と比べて1.85倍または1.80倍であった。また、虚血症により損傷した後肢の分類の分布において、QQC移植群では最も低い下肢壊死頻度であった一方(QQC移植群、コントロール、PBMNC移植群についてそれぞれ4.3%、15.8%、9.5%)、全残存頻度は最も高かった(QQC移植群、コントロール、PBMNC移植群についてそれぞれ21.7%、10.5%、9.5%)(
図14)。
以上のことから、本発明の方法で得られた細胞群を移植することにより、PBMNC移植または細胞移植なしの場合と比較して、虚血症動物に対して血流量の回復をもたらし、更に組織を壊死から守ることができることが実証された。従って、本発明の細胞群は虚血症治療に有効である。
【0070】
実施例7:虚血症モデルマウスへのマウスQQMNC細胞移植実験
(1)EPCコロニーアッセイによるマウスQQMNCの血管再生能の評価
10-12週齢のC57BL6/N(雄)マウスにおいて、ペントバルビタール麻酔下にツベルクリン針を用いて心腔内ヘパリン採血を実施し、Histopaque-1083を用いた密度勾配法によりマウス単核球(MNC)を採取し、マウスPBMNCとして実験に用いた。実施例1におけるヒトQQCと同様の手法でQQ培養を行い、培養前後の細胞をEPC-CFAにてEPCコロニー産生能を評価した。QQ培養液= StemLine II, マウス遺伝子組み換えTPO、SCF、Flt-3 ligand、IL-6、VEGFを用いた。また、EPC-CFAについては、Stem Cell Tec社製MethoCult
TM SF M3236を用い、10%FBSを添加し、ヒトEPC-CFA と同様のマウス遺伝子組み換え成長因子、サイトカインをヒトと同様の濃度で調整した。PBMNC及びQQC細胞(QQ培養3日、5日後)を各1x10
5個ずつ35mm Primaria dishに播種した。コロニーの算定は、細胞播種後8日目に行った。未分化型、分化型EPCコロニー(pEPC-CFU、dEPC-CFU)はいずれもQQ培養日数に従って漸増した(
図15)。
【0071】
(2)day5 QQ-MNC の下肢虚血マウスへの移植による血流改善効果の評価
QQ培養day5の細胞をC57BL6/N(雄)マウス虚血モデル作成翌日に移植した。移植細胞数は、PB-MNC=1 x10
5/40 microL, QQ-MNC Low=1 x10
4/40 microL , QQ-MNC High=1 x10
5/40 microLとした。対照群は、細胞懸濁液のIMDMの培養液とした。20 microLずつを前脛骨筋及び腓腹筋に移植した。虚血作成後、14日後に、ヒトQQMNC実験例5と同様にLazer Doppler Perfusion Imagingによる血流測定を行った。対照群(IMDM)、PB-MNC移植(1x10
5/匹)群に比較して、QQC細胞移植群(Low= 1x10
4/匹、High=1x10
5/匹)は、各群N数が3のため、有意差が認められないものの血流改善傾向が観察された(
図16)。
【0072】
(3)微小血管密度及び壁細胞裏打ち効果の評価
虚血作成14日の血流測定後、isoectinB4-FITC (Vector Lab) 40 microLを尾静脈より注入し、in vivoにて微小血管を染色した後、十分量のPentobarbitalを腹腔内に投与し、麻酔下に左心室よりPBS及び4%パラホルムアルデヒド20 mLずつ注入し還流固定を行った。OCTコンパウンドに包埋後、液体窒素にて冷却したアセトンに浸潤し凍結標本を作製した。凍結標本から切片を作成し、smooth muscle alpha actin-Cy3(Sigma-Aldrich)の蛍光免疫染色を行い、蛍光顕微鏡にてヒトと同様に、微小血管及び壁細胞を観察し定量評価した。QQ-MNC low, highともにPB-MNC、非細胞移植群(IMDM) に比較して微小血管密度の上昇(
図17左)及び壁細胞による裏打ち血管数の増加(細動脈化促進)(
図17右)が認められ、血管再生能がQQ培養により増強することが確認された。
【0073】
実施例8:組織化学的評価
実施例6において移植実験に供されたマウスから組織切片を作製し、組織化学的評価を行った。そのプロトコルは下記の通りである。
(1) 評価用試料の作製
手術から3週間後、50μlのイソレクチンB4-FITCをインスリンシリンジを用いて尾静脈に注射した。注射の20分後に十分な麻酔下でマウスを安楽死させ、その直後に心臓穿刺により、20mlのPBSをかん流した後、4%パラホルムアルデヒドを含む等量のPBSに切り替えて固定を行った。その後、虚血症後肢を切除し、段階的な濃度のショ糖/PBS中に入れた。次いで、前脛骨筋を切除し、パラフィン中に包埋し、その後の評価に用いた。
(2) 微小血管密度(MVD)および周皮細胞のリクルートメントの評価
6-8μmの組織切片試料を筋肉の組織ブロックからスライスし、微小血管密度(MVD)および周皮細胞のリクルートメントの評価に用いた。
平滑筋αアクチン(SMαアクチン)の染色のために、組織切片を脱パラフィン化し、PBSで洗浄し、室温下10%ヤギ血清で30分間ブロッキングした後、希釈したCy3抱合SMαアクチン抗体(#C6198, Sigma-Aldrich)と共に室温下で2時間培養した。PBSでの洗浄後、切片をVECTASHIELD HardSet Mounting Medium (Vector Lab, #H-1400)を用いてマウントし、蛍光顕微鏡(Biorevo, #BZ-9000, Keyence)下で観察した。一次抗体を省いた同じプロトコルをネガティブコントロールとして行った。
ソフトウェア(VH analyzer, Keyence)を用い、撮像された各群のマウスあたり2-4の横断面中、イソレクチンB4-FITCでin vivo染色された毛細血管をカウントすることによりMVDを評価した。同時に、脈管構造中への周皮細胞のリクルートメントをSMαアクチン陽性細胞の領域をカウントすることにより評価した。
(3) 筋形成および間質線維の評価
H-E染色により中央に核が見られる筋線維を顕微鏡写真機(AX80, Olympus)で撮像し、VHanalyzerにより筋芽細胞(Pesce M et al., Circ. Res., 93: e51-62 (2003))をカウントした。肢部の間質線維をAzan染色を用いて形態学的に評価し、撮像した写真をVH analyzerにより解析した(Napoli C et al., Proc Natl Acad Sci USA, 102: 17202-17206 (2005); Sica V et al., Cell Cycle, 5: 2903-2908 (2006))。評価した組織切片の数は上記(3)と同じであった。また、定量的評価を盲検で2人により行った。
(4) 移植細胞の内皮系への分化の免疫組織化学的評価
脱パラフィン化後、蒸留水で希釈(1:10)したtarget retrieval solution (Dako, #S-1699)中(98℃)で10分間、組織切片をマイクロ線照射した。次いでStreptavidin/Biotin Blocking Kit (Vector Lab, #SP-2002)で処理して内因性ビオチンをブロッキングした後、切片を室温下で30分間、5% 正常ヤギ血清/PBSと培養し、次いで、ビオチン化ヤギ抗マウスIgGと予め反応させたマウス抗ヒトCD31抗体、およびマウス血清(Rockland, #D208)と4℃で一晩培養した。最後に、ストレプトアビジン-Alexa Fluor 594コンジュゲートと室温で1時間培養した後、切片をPBSで洗浄し、DABCO (Sigma Aldrich, #D2522-25G)/グリセロール/PBS中のTOTO-3 (Invitrogen, #T3604)を用いてマウントし、レーザー走査型顕微鏡(Carl Zeiss, LSM510META)により観察した。
【0074】
(結果)
微小血管密度(MVD)の組織化学的評価では、QQC移植群からの切片において、PBMNC移植群およびコントロール由来の切片と比較して、顕著に高いMVDが観察された(MVD/mm
2はQQC移植群400.7±37.9、コントロール群98.7±15.8、PBMNC移植群118.9±20.1; 従って、コントロール群に対して4.1倍、PBMNC移植群に対して3.4倍)(
図18)。また、SMαアクチン陽性細胞で評価した周皮細胞のリクルートメントについても、QQC移植群ではコントロール群に対して2.6倍、PBMNC移植群に対して2.0倍であった(SMαアクチン陽性細胞数/mm
2は、QQC移植群38.7±5.5、コントロール群15.0±2.7、PBMNC移植群19.8±4.3)(
図19)。更に、筋線維の頻度においても、QQC移植群ではコントロール群に対して1.95倍、PBMNC移植群に対して1.83倍であった(筋線維/mm
2は、QQC移植群112.2±16.4、コントロール群57.6±7.0、PBMNC移植群61.3±6.8)(
図20)。
以上のことから、本発明の細胞群は、PBMNCやコントロールと比較して、顕著に高い血管新生能、動脈形成能、筋形成能を有することが実証された。
【0075】
更に、Azan染色を用いた間質線維の評価によれば、QQC移植群では、コントロール群に対して0.23倍、PBMNC移植群に対して0.33倍と線維性領域は有意に小さかった(線維性領域/mm
2は、QQC移植群5.9±1.28、コントロール群25.2±7.57、PBMNC移植群17.7±3.18)(
図21)。
これは、QQCの移植は、PBMNCの移植やコントロールと比較して、線維化が有意に抑制されていることを示している。
【0076】
(5)抗炎症効果のiNOS発現による評価:
実施例7において移植実験に供されたマウスから組織切片を作製し、虚血作成14日の虚血筋肉組織をiNOS抗体(Abcam)で染色(茶色の被染色部分)した。iNOSは炎症細胞により発現が増強されており、コントロール虚血組織である非細胞移植群およびPB-MNC移植群でiNOS染色細胞が広範に確認されるが、QQ-MNC移植群では炎症細胞が有意に限局されていることが確認できた。非細胞移植群(IMDM)=10.6±1.6%、PB-MNC移植群=11.6±1.6%、QQCLow移植群6.8±0.6% , QQCHigh移植群4.6±0.8% 。*、**、***は図に示された対象に対する有意差(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)を示す。(
図22)
【0077】
実施例9:潰瘍モデルへの効果
(方法)
糖尿病患者(5例)、健常人ボランティア(4例)から50mlの末梢血を採取し、Histopaque-1077を用いた密度勾配法によりヒト単核球(MNC)を採取しヒトMNCとして実験に用いた。全てのデータはN=3(人)にて取得した。Balb/cヌードマウスの背部に6mmパンチを用いて皮膚全層欠損潰瘍を作成し、シリコンステントを潰瘍周囲に6−0ナイロンを用いて縫合し、創収縮を抑制した潰瘍モデルを作成した。
実施例1と同様の方法でヒトMNCQQ培養を行い、培養前後の細胞を本潰瘍モデルに移植した。QQ培養液としては、実施例1と同様に StemLine II,ヒト遺伝子組み換えTPO、SCF、Flt-3 ligand、IL-6、VEGFを用いた。PBMNC及びQQC細胞1x10
4個をPBS25ulに混濁して潰瘍底部に移植した。潰瘍作成後、Day0,3,7,10,14にてCanon Cyber shotにて撮影した写真にて潰瘍縮小率を計測し創治癒を比較した。Day14の潰瘍を採取しAnti-CD31染色にて組織内血管密度を解析した。
(結果)
糖尿病患者(DM)QQc後細胞移植群(A群)は、DMQQc前MNC細胞移植群(B群)及びPBS投与対照群(C群)に比較して有意に潰瘍の縮小を認めた(%縮小率; A群66.92±2.52vs B群84.16±3.29、C群65.61±4.19; p<0.01)。組織学的評価ではCD31染色にてDMQQc後細胞移植群は他の群に比べ高い組織内血管形成を認めた。(CD31陽性血管数; A群145±28 vs B群321±58、C群140±34; p<0.05 )