(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記柱体は、前記基軸部の延出方向に沿って適宜間隔を有しつつ複数が整列して立設されるものであり、前記レール部は、前記可動部が摺動する方向に長尺な長孔状に穿設され、複数の前記柱体を同時に貫通させるとともに、該柱体が整列する長さよりも長尺である請求項2に記載の蒸着用ボートの保持装置。
前記板状部材は、先端を折曲してなる折曲部と、前記基軸部の延出方向に沿って形成されたスリット部を備え、前記可動部は、前記スリット部に挿通可能な挿通部を備え、該挿通部が前記スリット部の内部に挿通させるとともに、前記折曲部と前記挿通部との間に離間方向へ付勢する付勢手段を介在させている請求項2または3に記載の蒸着用ボートの保持装置。
前記真空蒸着装置は、抵抗加熱型の装置であり、前記基部、前記基軸部、前記可動部および前記挟持手段はいずれも導電性を有し、前記基部と前記基軸部との間、および前記可動部と前記挟持手段との間は、いずれも導通した状態で固定されるとともに、前記基軸部と前記可動部とが、可撓性を有する導線によって接続されている請求項1ないし5のいずれかに記載の蒸着用ボートの保持装置。
前記導線は、弾性変形可能な導電材料により全体形状が帯状に構成され、該導線の両端が前記基軸部の延出方向に向かって適宜間隔を有するように略U字形に湾曲させた状態で接続され、前記導線の弾性力によって前記可動部を他方のクランプ部材から離間させる方向へ付勢させるものである請求項6に記載の蒸着用ボートの保持装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空蒸着装置は、成膜法の一種である蒸着法に使用されるものであって、減圧されるチャンバ内に蒸着用ボートを設置し、この蒸着ボートに収容される蒸着材料を加熱して蒸散させることにより、チャンバ内の蒸着対象物の表面に蒸着材料を成膜するものとして知られている。
【0003】
この真空蒸着装置に使用される蒸着用ボートは、一枚の板状部材を加工し、蒸着材料を収容し得る収容領域を設けたものもあるが、蒸着材料が突沸するなどにより、蒸着面にいわゆる砂目と呼ばれる欠陥を生じることがある。そこで、突沸しやすい蒸着材料を使用しつつ蒸着法により成膜する場合には、三層構造のボートが使用されていた(特許文献1参照)。
【0004】
この三層構造のボートは、底板と上板とで空間を形成し、その内部に遮蔽板を設けた構造となっており、遮蔽板と上板は適宜な位置に貫通孔が穿設され、当該空間内に充満する蒸着材料を上板から蒸散させるように構成されている。また、これら三層構造を形成する三種類の板状部材は、それぞれが容易に分離しないように、底板の両側端縁が一部的に折り曲げられ、当該折曲部が遮蔽板および上板の両側端縁を掛止するようになっていた。そのため、遮蔽板および上板の装着・分離は、底板の長手方向にスライドさせることによるものであった。
【0005】
ところが、一枚構成であるか三層構造であるかの種類を問わず、いずれも金属製(タングステン、チタンまたはモリブデン等)によって構成されていることから、蒸着材料を蒸散させるための加熱により熱膨張することがあった。そのため、従来は、簡易なスライド機構による可動部と、錘またはバネ等による引張機構によって、熱膨張を吸収させようとする試みがなされていた(特許文献2および3参照)。
【0006】
上記のように簡易なスライド機構と引張機構との組合せによれば、使用するバネが蒸着用ボートの熱で劣化し易く、スライド機構に蒸着材料が付着すると円滑な動作が得られないとの指摘があり、これを解消すべく、蒸着ボートの両端を挟持する挟持部と、蒸着材料を収容する部分(充填部)の両側にガイド部を設け、挟持部とガイド部との間によって熱膨張部分の曲げ領域を形成する構成が提案された(特許文献4参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前掲の特許文献4に記載の発明(従来技術)によれば、挟持部は、蒸着用ボートの両端を挟持によって固定するものであり、ガイド部は、蒸着用ボートを表裏から間隔を有して挟み込むものであり、挟持部とガイド部との間に形成される空間(逃がし部)を構成することにより、蒸着用ボートの加熱による熱膨張によって生じる長手方向の伸び量を、厚み方向に変換することができ、蒸着用ボートの変形を逃がし部に集中させるというものであった。このような変形を逃がし部に集中させることにより、蒸着用ボートが当初より有する反りや捩れを吸収するとともに、熱膨張により生じる反りや捩れ等の変形をも吸収するというものであった。
【0009】
しかしながら、蒸着用ボートの熱膨張による伸び量を逃がし部において許容させるとしても、当該逃がし部において蒸着用ボートは変形することとなり、変形後の蒸着ボートを再度利用することは難しいものとなっていた。すなわち、従来技術において使用が想定されている蒸着用ボートは、二層構造によるものであることから、少なくとも2枚の部材を重ね合わせて単体としており、蒸着材料の充填には、両者を分離させなければならないが、一部が変形することにより、二枚の部材を分離・合体させることは三層構造と同様に困難な状態となり得るものであった。
【0010】
また、蒸着用ボートは、確かに加熱により熱膨張するものであるが、充填部の両側(挟持部からガイド部までの間)においてのみ膨張するものではなく、充填部においても膨張することとなり、熱膨張の全てを逃がし部によって吸収できるものではなかった。特に、二層構造とした底板と上板とが、両側に配置される二個所の逃がし部で同じように変形できるものではなく、想定されたとおりに熱膨張を吸収できるかについては疑問があった。
【0011】
他方、スライド機構により可動部を構成させた前掲の引用文献2および3に開示される技術は、蒸着用ボートを変形させずに熱膨張を吸収するという点では好ましいが、スライド部分の面積が大きく、可動部が移動する際の抵抗が大きいため、引張機構による引張力の調整が難しく、また、スライド面に蒸着材料が付着することによる可動不良の原因を招来させるものとなっていた。さらには、追加すべき部材が多数存在するため、既存の真空蒸着装置に設置することが困難なものとなっていた。
【0012】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、既存の真空蒸着装置に取り付け可能な構造により、蒸着用ボートを変形させることなく熱膨張を吸収し得る保持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明は、真空蒸着装置のチャンバ内において蒸着用ボートの両端を挟持する二つのクランプ部材を備え、該蒸着用ボートを保持するための保持装置であって、前記クランプ部材の少なくとも一方は、基部と、該基部から他方のクランプ部材に向かって延出する基軸部と、該基軸部によって摺動可能に支持される可動部とを備え、前記基軸部には、前記可動部が部分的に摺接され、該可動部の摺動方向を案内する案内部が形成されており、前記可動部には前記蒸着用ボートの端部を挟持する挟持手段が設けられていることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、基部から延出する基軸部に沿って可動部が摺動するものであり、可動部は、基軸部の案内部においてのみ摺接される状態であることから、接触面積を小さくすることにより可動状態を安定させることができる。特に、基軸部が丸棒または円筒状の棒状部材である場合には、摺接部分が線接触となり、当該接触面積は極端に小さくなり得るものである。従って、可動部の摺動時における摩擦抵抗が減少するため、蒸着用ボートが熱膨張する際に両端の間隔を拡張させる力を利用して可動部を移動させることができる。また、本発明は、基部と可動部とが基軸部で連結される構造であることから、既存の真空蒸着装置に設置されているクランプ部材を取り外し、基部を装着することにより、既存の装置においても使用が可能となる。なお、基軸部に形成される案内部には、平行なレール状の部材や基軸部を複数の部材で構成するものなどが想定され、基軸部によって可動部の摺動方向へ案内を可能にするとともに、基軸部を中心とする軸回りへの回動を抑制すれば、可動部全体の姿勢が安定することとなる。
【0015】
上記構成の発明において、前記基軸部は、前記基部に突設された棒状部材で構成され、前記可動部は、前記棒状部材を挿通可能な貫通孔を備え、前記貫通孔に前記棒状部材を挿通させることにより該棒状部材によって前記案内部が形成されるように構成することができる。
【0016】
上記構成の場合には、棒状部材によって基軸部が形成され、これが挿通する貫通孔との間で摺動方向が案内させることから、蒸着用ボートが熱膨張により延伸する方向に合致するように棒状部材の軸線を配置すれば、当該蒸着用ボートの延伸方向に沿って可動部を摺動させることができる。なお、棒状部材は、丸棒のみならず角棒もあり、さらには多角形状の棒状部材を使用することができ、また、丸棒の場合には、断面形状が円の場合のほか楕円とする部材を使用することができる。
【0017】
また、上記構成の発明において、前記基軸部は、軸線を水平方向に平行としつつ基部に突設された複数の棒状部材で構成され、前記可動部は、前記棒状部材をそれぞれ挿通可能とする複数の貫通孔を備え、前記各貫通孔に前記各棒状部材を挿通させることにより該各棒状部材によって前記案内部が形成されるように構成することができる。
【0018】
上記構成の場合には、複数の軸部によって単一の可動部を支持することができることから、少ない接触面積としつつ可動部の重量を分散して支えることができる。特に、軸部が丸棒である場合には、可動部が軸回りに回転することがあるため、複数の軸部で支持することにより、軸回りの回転を防止し、可動部の姿勢を安定させることができる。
【0019】
上記と同様の作用を得るために、前記基部に突設された主軸と、該主軸に平行な軸線を有しつつ前記基部に突設された補助軸とで構成され、前記可動部は、前記主軸および前記補助軸を挿通する二種類の貫通孔を備え、前記各貫通孔に前記主軸および補助軸をそれぞれ挿通させることにより該主軸および補助軸によって前記案内部が形成されるように構成してもよい。この場合には、主として主軸によって可動部を支持しつつ、補助軸によって主軸の軸回りの回転を防止することができる。
【0020】
また、本発明は、上記構成の発明において、前記基軸部が、前記基部に突設された棒状部材で構成されるとともに、さらに、該基軸部の軸線方向に対して直交方向に穿設された貫通部と、この貫通部を挿通可能な直交軸とを備え、前記可動部が、前記基軸部が挿通可能な貫通孔と、この貫通孔の中間位置において該貫通孔に直交する方向に穿設された直交孔とを備え、前記各貫通孔に前記基軸部が挿通されるとともに、該基軸部の貫通部および前記可動部の直交孔に対し前記直交軸が連続して挿通されることによって前記案内部が形成されるように構成してもよい。
【0021】
上記構成によれば、棒状部材による基軸部は、主として可動部の摺動方向を案内し、直交軸が可動部に埋設された状態で基軸部をも挿通することから、基軸部を中心として軸回りに可動部が回転することを規制し、その姿勢を安定させるような状態を維持するものとなる。この場合、基軸部に穿設される貫通部が、基軸部の軸線方向に適宜長さの長孔状に構成することによって、可動部に埋設される直交軸が当該長孔の範囲で可動できることとなり、結果的には、摺動範囲を案内し得ることとなる。
【0022】
さらに、本発明は、上記構成の発明において、前記基軸部が、前記基部から突出する板状部材で構成され、前記可動部が、前記基軸部の表面に摺接する摺接面を有する摺接片部を備えるものであり、前記案内部が、前記基軸部の表面または前記可動部の摺接面のいずれか一方に立設され、先端に大径部を有する柱体と、前記基軸部または前記可動部のうち柱体が立設されない他方に穿設され、該可動部の摺動方向に沿って長尺な長孔状のレール部とで構成され、かつ、前記レール部に前記柱体を貫通させるとともに、前記大径部によって前記基軸部または前記可動部の反対側表面を当接させるように構成としてもよい。
【0023】
上記構成によれば、板状部材の表面に摺接面を摺接させることにより、可動部の姿勢は安定し、さらに、レール部に柱体を貫通させることにより、可動部の摺動方向を案内させることができる。また、柱体先端の大径部が、レール部の周辺に当接することにより、可動部の基軸部からの離脱を防止できるとともに、当該大径部の当接によって可動部の姿勢を一層安定した状態とすることができる。
【0024】
また、上記構成の発明においては、前記柱体が、前記基軸部の延出方向に沿って適宜間隔を有しつつ複数が整列して立設されるものであり、前記レール部が、前記可動部が摺動する方向に長尺な長孔状に穿設され、複数の前記柱体を同時に貫通させるとともに、該柱体が整列する長さよりも長尺であるものとしてもよい。
【0025】
上記構成の場合には、柱体による可動部の摺動方向および向きを安定させることができる。すなわち、レール部の複数個所において柱体が貫通されていることから、可動部は、柱体を中心に軸回りへの回動が制限され、可動部の水平面内における向きが安定し、また、複数の柱体が同時にレース部の内部に当接され得る状態で可動部が摺動することとなり、その摺動方向はレール部に沿った方向に強制されることとなる。従って、複数の柱体が可動部を摺動させるべき方向(蒸着用ボートの延伸方向)に沿って直線上に配置されることにより、蒸着用ボートの延伸による伸びを可動部の摺動によって吸収することができる。
【0026】
また、上記各構成の発明において、前記基軸部と前記可動部との間には、可動部を他方のクランプ部材から離間させる方向へ付勢する付勢手段が介在されている構成とすることができる。
【0027】
このような構成は、可動部が蒸着用ボートの熱膨張のみによって移動できない場合に、当該移動を補助することも可能となる。可動部の移動を補助するための付勢手段であることから、可動部が必ずしも当該付勢によってのみ移動可能となるものではなく、移動を誘導する程度に付勢するものでよい。逆に強力な付勢力を付与する場合には、蒸着用ボートを装着する際に、当該付勢に抗して可動部を移動させた状態で挟持手段による端部の挟持を行わなければならず、使用に際して不便となるものである。
【0028】
さらに、基軸部を板状部材で構成する場合においては、前記板状部材が、先端を折曲してなる折曲部と、前記基軸部の延出方向に沿って形成されたスリット部を備え、前記可動部が、前記スリット部に挿通可能な挿通部を備え、該挿通部が前記スリット部の内部に挿通させるとともに、前記折曲部と前記挿通部との間に離間方向へ付勢する付勢手段を介在させるような構成としてもよい。
【0029】
上記構成によれば、基軸部を形成する板状部材に設けられたスリット部に、可動部の挿通部を挿通させることができ、この挿通部の両端縁をスリット部の内部両端縁に当接させることにより可動部の姿勢を一層安定させることが可能となる。さらに、可動部の延出部は、スリット部に挿通可能とするために折曲させれば、板状部材の折曲部との間で対向する平面部を構成することができ、この対向する平面部を利用して付勢手段を配置することができる。そして、両者の折曲を概ね直角方向とすれば、摺動方向に直交させることとなるから、付勢手段による付勢の方向は、両面間に直線的に作用するものとすれば、その付勢方向は摺動方向に平行に作用するものとなる。
【0030】
さらに、上記各構成の発明において、前記真空蒸着装置は、抵抗加熱型の装置であり、前記基部、前記基軸部、前記可動部および前記挟持手段はいずれも導電性を有し、前記基部と前記基軸部との間、および前記可動部と前記挟持手段との間は、いずれも導通した状態で固定されるとともに、前記基軸部と前記可動部とが、可撓性を有する導線によって接続されているものとすることができる。
【0031】
上記構成によれば、抵抗加熱型の真空蒸着装置において、少なくとも一方の電極を基部から交換することにより、可動型の電極を設置することができるものである。この場合、可動部と基軸部は、接触面積が極めて小さいことから、両者間を導通させるのではなく、導線を別途接続することにより、挟持手段(電極の接点)までの導通状態を良好にしているのである。このような導線は、基部から延出する基軸部と可動部との間に介在されるものであるから、既存の抵抗加熱型の真空蒸着装置における電極部の全体を取り外し、基部を装着することで使用可能となるものである。
【0032】
また、上記構成の発明において、前記導線は、弾性変形可能な導電材料により全体形状が帯状に構成され、該導線の両端が前記基軸部の延出方向に向かって適宜間隔を有するように略U字形に湾曲させた状態で接続され、前記導線の弾性力によって前記可動部を他方のクランプ部材から離間させる方向へ付勢させるものとすることができる。
【0033】
上記構成によれば、特に別途付勢手段を設けることなく導線と付勢手段を兼ねた構成によって、可動部に対する適当な付勢力を付与することができるものである。なお、これとは別に付勢手段を設ける構成としてもよく、この場合の付勢力は、導線の弾性力と、別途設けられる付勢手段によるものとで総合されることとなり、当該総合された付勢力は、可動部を補助的に移動させる程度とするものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る蒸着用ボートの保持装置は、基部から延出する基軸部によって可動部が支持される構成であるから、基部を装着することができれば、既存の真空蒸着装置に取り付け可能となる。これは、抵抗加熱型の真空蒸着装置においても同様であり、少なくとも一方の電極部を基部に置き換えることにより、使用可能な状態なるものである。そして、いずれの構成においても、蒸着用ボートの端部は、少なくとも一方のクランプ部材では可動部によって挟持されることとなるため、可動部の移動によって蒸着用ボートの熱膨張を吸収させることができる。そして、両方のクランプ部材に可動部を有する場合には、容易に移動できる側の可動部が移動することにより、仮に一方のクランプ部における可動部が不良であったとしても蒸着用ボートを変形させることから回避し得ることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、第1の本実施形態の概略を示す分解斜視図である。この図に示すように、蒸着用ボートの保持装置にかかる実施形態は、真空蒸着装置のチャンバ内において、蒸着用ボートAを設置するものであり、この蒸着用ボートAは、両端を二つのクランプ部材1,2によって挟持されるものである。なお、抵抗加熱型の真空蒸着装置の場合には、クランプ部材1,2は、それぞれの基部11,21が固定電極EL1,EL2に電気的に接続されつつ固定されるものである。本実施形態は、前記クランプ部材1,2の一方(クランプ部材1)について、可動部12を備えるものとしている。
【0037】
可動部12を備える側のクランプ部材1は、基部11から延出し、または基部11に突設される基軸部13,14によって可動部12を支持する構成である。すなわち、板状の基部11が固定電極EL1に平面を鉛直方向にしつつ固定され、その上部において水平方向に突設する二本の主軸13,14が設けられている。この基軸部13,14は、いずれも先端を他方のクランプ部材2に向かって突出させており、軸線は相互に水平方向に平行な状態としている。なお、延出とは、基部11に連続して突出状態を意味し、基部11を構成する部材で構成される場合のほか、基部11に固定される部材によって構成される場合がある。本実施形態では基軸部13,14を基部11とは別の部材で構成しつつ、基部11に固定することによって所定方向に延出する部材として使用している。
【0038】
ところで、この基軸部13,14は、専ら可動部12の重量を支持しつつ、可動部12の摺動(進退)方向を規制するための案内部として機能させるものであり、後述する変形例のように、一本の軸部で構成してもよいが、可動部12の姿勢を安定させ、かつ重量を分散支持するために、複数(本実施形態は、例示として二本)の基軸部13,14を使用している。また、本実施形態におけるそれぞれの基軸部13,14は、断面円形の棒状部材によって構成したものを例示している。
【0039】
可動部12は、この二本の基軸部13,14に沿って進退自在な状態で支持されるものであり、そのために、貫通孔15,16が進退方向に貫設され、この貫通孔15,16に前記基軸部13,14がそれぞれ挿通できる構成となっている。基軸部13,14を断面円形の棒状部材で構成する場合、これらの両貫通孔15,16は、円形断面の孔として穿設し、基軸部13,14が遊嵌され得るように構成している。そして、軸線を平行とする複数(二本)の基軸部13,14が同時に複数(二個)の貫通孔15,16に挿通されることにより、可動部12が平行な基軸部13,14の軸線方向に摺動が規制されるとともに、基軸部13,14のいずれか一方の軸線を中心とする軸回りへの回転も規制されることとなり、可動部12の全体の姿勢が安定した状態に維持されるものである。
【0040】
また、可動部12の貫通孔15,16を挿通させた基軸部13,14の先端には、当該基軸部13,14との間で電気的に接続される接続部17が設けられ、この接続部17と可動部12とが導線18によって電気的に接続されている。ここで、可動部12と基軸部13,14は、貫通孔15,16を介して接触していることから、両者間で電気的に接続する構成でもよいが、接触面積を小さくする場合には電気抵抗が大きくなるため、両者間の電気的な接続よりも導線18による接続を優先している。従って、基軸部13,14と貫通孔15,16とは、絶縁物を介在させることも可能であり、絶縁物を介在させないとしても主として導線18によって導通させるものとしている。なお、基軸部13,14と貫通孔15,16とが電気的に導通する場合、同じ材質とする場合は、通電時に吸着する現象が生じるため、本実施形態では、両者間に絶縁物を介在させず、可動部12は銅製とし、他方、基軸部13,14はステンレス鋼により構成している。
【0041】
この導線18は、可動部12と基軸部13,14とを導通させるものであるが、同時に可動部12に対して付勢する構成とすることができる。すなわち、導線18を弾性力ある材質(例えば金属材料)によって構成し、電気抵抗を小さくするために帯状とするものである。例示すれば、銅製の板状部材を略U字状に湾曲させ、その両端が拡大方向へ復元するような状態で、一端を基軸部13,14の先端に固着し、他端を可動部12に固着する方法がある。このように、帯状部材を略U字状に湾曲させることにより、適宜位置に両端を固定するとともに、湾曲部分による復元力をもって付勢力を付与するのである。この種の板状部材に代えて、銅製の線材を平織りしてなる網銅線などを使用してもよい。この網銅線は、表面メッキしたものでも、絶縁材料で被覆したものでもよく、適度な弾性体であれば使用可能である。
【0042】
また、上記の接続部17は、基軸部13,14の先端において電気的に導通しており、導線18を介して可動部12に導通させるものであるが、基軸部13,14の先端における可動部12のストッパとしても機能させている。すなわち、前記のとおり、導線18を弾性材料で構成する場合、可動部12は、その弾性力による付勢に抗して基軸部13,14の先端方向へ摺動可能であるが、その付勢は補助的で弱いものであるため、可動部12は容易に基軸部13,14の先端方向へ移動させることができる。そこで、基軸部13,14の先端において、当該基軸部13,14の周囲に張り出した状態で接続部17を固定することにより、可動部12の抜け落ちを防止しているのである。
【0043】
上記のような構成により、可動部12は、その貫通孔15,16に対して基軸部13,14が挿通されることによって、可動部12の重量が二本の基軸部13,14に分散されつつ支持されることとなる。この支持状態において、貫通孔15,16の内壁と基軸部13,14の表面とが摺接することとなるが、可動部12の重量が下向きに作用するため、貫通孔15,16の内壁上部と、基軸部13,14の表面上部とが摺接することとなる。本実施形態のように基軸部13,14を断面円形の棒状部材で構成し、貫通孔15,16を円形孔で構成する場合には、それぞれ線状に摺接することとなる。このように線状に摺接されることにより、可動部12は極めて狭い面積によって基軸部13,14と接触し、基軸部13,14の軸線方向への移動を容易にしている。なお、図は、基軸部13,14と貫通孔15,16との間に形成される間隙を図示できていないが、基軸部13,14の挿通は遊嵌状態とすることにより相互間に遊びを有し、僅かながら間隙が形成されるものである。
【0044】
また、可動部12の上部には、蒸着用ボートAの端部が載置できる平面部が構成され、この平面部に対し押圧部19がネジ等Ba,Bbによって装着できるように構成されている。二本のネジBa,Bbを使用する場合は、蒸着用ボートAの端部を中間に配置できるように適宜間隔を有する位置にネジBa,Bbが設けられ、ネジBa,Bbの螺進によって押圧力を調整できるようにしている。従って、可動部12の上部平面部に載置された蒸着用ボートAの端部の上面側を、この押圧部19によって押圧することにより、当該蒸着用ボートAの端部を挟持させることができるものである。挟持に必要な押圧力は、ネジBa,Bbの螺進状態によって適宜調整可能であり、容易に位置が変更しない程度に強固に挟持されるものである。
【0045】
他方のクランプ部材2は、既存のものがそのまま使用され、蒸着用ボートAの他端を固定的に挟持できるものである。既存のクランプ部材2を例示すれば、図示のように、垂直面と水平面とで形成される略L字状の基部21が、固定電極EL2との固定によって支持され、この基部21の水平面に前記可動部12と同様の押圧部29が装着されることによって、蒸着用ボートAの他端を挟持させることができるようになっている。
【0046】
なお、本実施形態の保持装置によって保持される蒸着用ボートAとしては、種々の形態のものがあり得るが、図示は三層構造による蒸着用ボートAを示している。この三層構造による蒸着用ボートAは、蒸着材料が収容できるように、中央付近を下向きの凹状部分を形成してなる底板Aaと、この底板Aaの凹状部分に対向する位置に対称な形状で上向きに凹状部分を形成した上板Abとを備え、上下板Aa,Abの両方の凹状部分によって所定空間を形成するとともに、中間に遮蔽板Acを配置することにより、前記空間を二分割するものである。なお、遮蔽板Acには複数の貫通孔が穿設されて、当該貫通孔を介して二分割された空間を連通しており、上板Abには、前記遮蔽板Acの貫通孔と重ならない位置に貫通孔が設けられ、蒸着材料を蒸散させることができるようになっている。また、蒸着用ボートAを構成する各部材Aa,Ab,Acは、いずれも一般的に流通されているものを使用することが前提であり、タングステン、チタンまたはモリブデン等の金属製であり、いずれも加熱による熱膨張により、長手方向への延伸が予想され得るものである。
【0047】
この種の蒸着用ボートAが保持装置に装着された状態を
図2に示す。この図に示されているように、蒸着用ボートAは、対向する二つのクランプ部材1,2に両端が挟持されることによって、両クランプ部材1,2の中間に保持される。このとき、固定側(既存の)クランプ部材2の水平面と、可動側のクランプ部材1の可動部12の上面とが、ほぼ同じ高さとなるように構成されており、両端を挟持された蒸着用ボートAは、ほぼ水平な状態を維持しつつ配置されることができるものである。
【0048】
この状態で蒸着加工を行う場合、蒸着用ボートAが加熱されることとなるが、その加熱によって熱膨張により、当該蒸着用ボートAが長手方向に延伸するとき、当該延伸の程度に応じて可動部12が主軸13,14に沿って移動するのである。なお、本実施形態では、可動側クランプ部材1は片方のみであるから、蒸着用ボートAの延伸は、当該可動側クランプ部材1に側においてのみ吸収されることとなる。
【0049】
このときの熱膨張の吸収状態を詳述する。
図3(a)は加熱前(または蒸着終了後の冷却時)における保持装置を示し、
図3(b)は加熱状態における保持装置を示す。なお、図中の符号Caはチャンバの外部壁面を示している。ここで、
図3(a)に示すように、蒸着用ボートAは、その両端が二つのクランプ部材1,2によって挟持され、両クランプ部材1,2の中間に配置された状態となっている。このときの両クランプ部材1,2の先端の間隔は初期の状態(間隔=L1)に固定されている。
【0050】
その後、蒸着加工を開始することによって、蒸着用ボートAを加熱することとなるが、その加熱により、当該蒸着用ボートAは熱膨張によって、その長さ方向に延伸することとなる。この蒸着用ボートAの延伸により、
図3(b)に示すように、可動部12が後方へ僅かに(距離=△Lだけ)摺動し、延伸した蒸着用ボートAの長さに合わせた間隔となるように、両クランプ部材1,2の先端の間隙は拡大すること(間隔=L2)となる。
【0051】
上記のような可動部12の移動により、蒸着用ボートAは、熱膨張による延伸部分が吸収されることとなることから、折曲または湾曲することを回避できる。また、蒸着加工の終了後において、蒸着用ボートAが冷却した際に、再び収縮することとなるが、その際には、可動部12が前方へ摺動することにより、当該収縮に応じた位置で両端の挟持が維持されることとなる。このような可動部12の移動によって、蒸着用ボートAは大きい変形を受けることなく、再利用が可能となるのである。
【0052】
なお、蒸着用ボートAの熱膨張による延伸のみでは可動部12に対する可動力が不足し、または基軸部13,14と貫通孔15,16との摩擦抵抗が大きい場合など、可動部12の摺動が円滑でない場合には、導線18による付勢によって後方への摺動が案内される。また、逆に冷却による収縮時は、この付勢を抗するように可動部12が前方へ移動するが、その移動は蒸着用ボートAの収縮力によることとなる。
【0053】
本発明の第1の実施形態は上記のような構成であるから、一方のクランプ部材1を基部11から交換することによって、摺動可能な可動部12を有するクランプ部材1に変更することが可能となる。この交換により蒸着用ボートAの延伸部分を吸収し、当該蒸着用ボートAの破損を回避することができる。また、可動部12の移動方向に対する付勢手段18を設けることにより、その摺動を容易にすることができる。
【0054】
次に、実施形態の変形例について説明する。
図4は数種類の変形例を例示するものである。第1の実施形態の変形例であることから、基軸部には棒状部材が使用されたものを示している。まず、
図4(a)に示す変形例は、基軸部113,114を主軸113と補助軸114とに区別したものであり、断面円形の棒状部材による主軸113を可動部112の水平方向(幅方向)の中央において、貫通孔115に挿通させた構成である。このような構成のクランプ部材101は、主軸113の左右両側(幅方向両側)における可動部112のバランスが不均衡となりやすく、主軸113を中心に可動部112が回転することとなるため、補助軸114を設け、可動部112の他の貫通孔116に挿通させている。このような構成の場合、可動部112の重量は主軸103によって専ら支持されるものであり、可動部112の摺動も当該主軸113に沿って進退するものとしている。なお、補助軸114は回転方向の制御のための補助的なものであるため、強力な支持力は不要であるから、主軸113よりも小径としている。また、可動部112に作用する回転モーメントに耐え得るように、主軸113から大きく離れた位置に設けられている。
【0055】
また、
図4(b)に示す変形例は、一本の基軸部213で構成するものであり、この基軸部213の断面形状を楕円とし、長軸を鉛直方向として設けたものである。このような構成のクランプ部材201は、貫通孔215の断面形状も楕円とすることによって、単一の基軸部213によって可動部212の重量を支持しつつ、可動部212の回転をも制限することができる。なお、このような構成の場合、基軸部213の表面と貫通孔215の内部表面との接触面積が大きくならないように、貫通孔215を主軸213よりも大きくし、貫通孔215に基軸部213が遊びを有して挿通されるようにしてもよいが、基軸部213の楕円の曲率と、貫通孔215の楕円の曲率を異なるものとしてもよい。いずれの構成においても、基軸部213の表面のうち、上部と側部の二個所において貫通孔215の内部表面と摺接できるように構成すれば、接触面積を小さくすることができる。
【0056】
さらに、
図4(c)に示す変形例は、付勢手段318aを導線318bとは別に設ける構成である。このような構成のクランプ部材301の場合、導線318bは、可撓性を有する材料により、主軸313,314の先端に設けられる接続部317と、可動部312の近接する位置(前方端部)との間に配置し、付勢手段318aは、略U字状に湾曲させてなる弾性材料による帯状部材で構成し、当該接続部317と可動部312の後方端部との間に配置させる構成とすることができる。そして、付勢手段318aは、導体である必要がないため、絶縁物または絶縁体で被覆したものなどを使用することができる。
【0057】
いずれの変形例においても、基部111,211,311は、固定電極EL1(
図1)に着脱が可能であり、既存のクランプ部材を取り外して前記クランプ部材101,201,301を装着することができるものである。そのため、既存の真空蒸着装置に使用することが可能となっている。
【0058】
次に、第2の実施形態について説明する。
図5は本実施形態における一方のクランプ部材401の概略を示す図である。本実施形態は、この図に示すように、基部411に一本の基軸部413を突設し、可動部412に貫通孔415を穿設したものであり、この貫通孔415に基軸部413を挿通することによって、当該可動部412が基軸部413に支持されるものである。
【0059】
ところで、本実施形態の基軸部413には、その軸線方向に直交する貫通部414aと、この貫通部414aに挿通される直交軸414bとが備えられており、他方、可動部412の貫通孔415の中間位置には、当該貫通孔415の貫通方向に直交する直交孔416が穿設されている。そこで、基軸部413を可動部412の貫通孔415に挿通させた状態で、直交軸414bを可動部412の直交孔416に挿入することにより、この直交軸414bは、直交孔416から基軸部413の貫通部414aに到達し、さらに当該貫通部414aを挿通させることにより、その先方の直交孔416の内部まで連続的に挿通させることができる。この状態で、直交軸414bは、可動部412の内部に埋設された状態となり、可動部412と一体化することとなり、また、基軸部413は、可動部412の内部において、直交軸414bの挿通を許容しつつ直交状態で配置されることとなる。
【0060】
ここで、基軸部413と可動部412との関係は、第1の実施形態と同様に、基軸部413の軸線方向に摺動可能な状態であり、上記貫通部414aは、基軸部413の軸線方向に長尺な長孔によって形成し、直交軸414bが貫通部414aの長手方向にそって摺動自在となるように構成されている。従って、可動部412は、直交軸414bとともに基軸部413の軸線方向に摺動可能となるのである。この摺動可能な範囲は、貫通部414aを形成する長孔の長手方向の範囲となる。他方、可動部412の内部において、基軸部413の左右両側には直交軸414bが配置されるため、基軸部413が丸棒状または円筒状の棒状部材で構成されているとしても、当該基軸部413を中心に軸回りの回転が規制されることとなる。
【0061】
また、略U字形の帯状とした導線または付勢手段418を設ける場合は、一方の端部は可動部412の側面に固定され、他方の端部は可動部412を貫通した基軸部413の先端に固定する構成とすることができる。そのために、可動部412の側面には、締着部材418aが螺合する雌ネジ418bが設けられ、基軸部413の先端には、もう一つの締着部材418cが螺合できる雌ネジが設けられるものである。
【0062】
なお、基部411に対する基軸部413の固定は、締着部材410aによって締着する方法によるものであり、これは、第1の実施形態と同様である。このような締着固定のために、基軸部413の後端には雌ネジ410bが刻設され、基部411を挟んだ状態で締着するように構成されている。基部411は、締着部材410aの頭部が埋没できるように段付き孔410cを設ける構成としている。また、可動部412の上面部には、押圧部419が設置できるようになっており、第1の実施形態と同様に、蒸着用ボートを挟持する挟持手段が構成されている。
【0063】
ここで、各構成部材を組付けた状態を
図6(a)に示す。この図のように、直交軸414bは可動部412に埋設された状態で一体化しており、その可動部412に挿通される基軸部413に沿って摺動し、他方の図示せぬクランプ部材との間隔を調整できるようになっている。また、
図6(b)にB−B断面を示している。この図に示されるように、可動部412と一体化した直交軸414bは、基軸部413の貫通部414aの範囲で移動が可能となっており、その移動方向は、基軸部413の軸線と平行となっている。さらに、付勢手段418は、略U字形の両端を拡大させる方向へ付勢するものであり、固定的に配置される基軸部413の先端と、可動部412の側面との間を拡大させるように付勢することにより、可動部412が後方(図中左方向)へ摺動させるように付勢力を作用させることができるのである。
【0064】
次に、第3の実施形態について説明する。
図7(a)は、本実施形態における一方のクランプ部材の各構成部材を分解した状態を示し、
図7(b)は各部材を組付けた状態を示す。これらの図に示されているように、本実施形態の基軸部513は、板状部材で形成されるものであり、基部511を折曲して延出させた構成となっている。また、この板状部材の一部は、可動部512との摺接を許容する平面部513aが形成されている。他方、可動部512も全体的に板状部材で構成され、中央には摺接片部512aが設けられている。この摺接片部512aの下面が摺接面として、前記基軸部513の平面部513aに摺接可能になっている。このように、両面512a,513aが相互に摺接することにより、可動部512は、基軸部513の平面部513aの表面上を摺動し得るものとなっている。
【0065】
また、可動部512の摺動方向を案内するための案内部は、可動部512に穿設されたレール部515と、基軸部513に立設される柱体514a,514bとで構成されている。レール部515は、可動部512が摺動すべき方向に向かって長尺な長孔で構成され、柱体514a,514bは、その長孔に挿通されるものである。本実施形態の柱体514a,514bは、基軸部413から二個所で立設されるものであるが、一個所に1個の柱体514を立設してもよい。ただし、本実施形態は、可動部512の姿勢を安定させるため、2個の柱体514a,514bを摺動方向に適宜間隔で立設している。また、2個の柱体514a,514bを同時に挿通させつつ摺動を可能にするため、レール部515の長手方向の長さは、柱体514a,514bが立設される間隔よりも長くなるように構成している。
【0066】
このように、複数(図は2個)の柱体514a,514bが、同時に単一のレール部515に挿通されることにより、レール部515の長手方向の向きが固定され、可動部512の摺動方向が決定された状態となる。そして、レール部(長孔)515の長手方向の長さが柱体514a,514bよりも長くなっている範囲において、その摺動が許容されることとなり、その範囲で可動部512は姿勢を安定しつつ摺動できるものである。なお、柱体514a,514bの頭部は、大径部となっており、その外径は、レール部515の幅寸法よりも大きくすることにより、大径部が摺接片部512aの表面側を当接し得るものとすることができる。この頭部を当接(摺接)させることにより、可動部512を支持するために機能させるとともに、案内部の一部として、可動部512の摺動を案内するために機能させることができる。
【0067】
また、基軸部513には、延出方向に沿ったスリット部513bが幅広い形状で形成されている。このスリット部513bに可動部512の一部を挿通させることにより、可動部512の向きを安定させることができる。特に、柱体514が1本の場合には、この柱体514を軸に向きが変動し得るため、スリット部513bの対向端縁に可動部512の両側縁部を摺接させることにより、当該向きの変動を解消させることができる。
【0068】
ここで、スリット部513bは、延出する基軸部513に沿って形成されることから、このスリット部513bに可動部512の一部を挿通させるために、可動部512の後端側に、挿通部512bを形成している。この挿通部512bは、可動部512の摺接片部512aに対して有角状となるように、その境界部分において折曲している。この折曲が垂直方向への折曲の場合には、挿通部512bは、可動部512の摺動方向に対して直交する平面を有することとなる。他方、基軸部513は、全体的に板状部材で構成されていることから、その先端を折曲することにより、折曲片部513cを構成することができる。この折曲片部513cは、基軸部513に対して、直交方向となるように折曲することにより、前記可動部512の挿通部512bと平行に、かつ対向する平面を配置することができる。
【0069】
上記構成において、対向する位置にある挿通部512bと折曲片部513cとの間に、略U字形の弾性部材を付勢手段418として装着することが可能となる。この場合には、両者512b,513cを相互に離間させる方向へ付勢させることができ、両者512b,513cがともに可動部512の摺動方向に直交する方向に設けられているため、その付勢力は、可動部512の摺動方向に平行に作用することから、当該摺動を補助させることとなる。
【0070】
なお、本実施形態の可動部512の上面には、第1の実施形態と同様の挟持手段519が設けられ、蒸着用ボートの端部を挟持することができるものであり、可動部512の前記摺動は、基本的には蒸着用ボートの延伸によって可動するものであり、付勢手段518はその可動を補助するためのものである。
【0071】
上記のように第3の実施形態を示したが、基軸部513を板状部材で構成する場合においても、本発明が当該実施形態に限定されるものではなく、他の形態とすることができる。その変形例を
図8に示す。
【0072】
すなわち、第3の実施形態の変形例としては、案内部を構成する柱体514a,514bは、可動部512の摺接面512aから下向きに立設し、レール部515を基軸部513に形成するものである。このような構成であっても可動部512の摺動方向は同様に規制されることとなる。また、スリット部513bを可動部512に設け、当該スリット部513bの両側片部512bが、基軸部513の側縁に摺接するように設けた構成とすることも可能である。
【0073】
以上のとおり、いずれの構成による実施形態においても、蒸着用ボートAの加熱による熱膨張を吸収させ、当該蒸着用ボートAの変形等による破損を防止し、繰り返し使用できることとなる。なお、上述の実施形態では抵抗加熱型の真空蒸着装置におけるものを例示したが、高周波誘導加熱型または電子ビーム加熱型においても適用することが可能である。
【0074】
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、上記の実施形態は一例であって、本発明が上記実施形態に限定される趣旨ではない。従って、上記実施形態を適宜変更することは可能である。例えば、上記各実施形態は、いずれも片方のクランプ部材についてのみ可動部12を有する構造とするものとしているが、これに限定されるものではなく、
図9に示すように、両方のクランプ部材について、いずれも可動部12を有するものとしてもよい。なお、図は、第1の実施形態を両方のクランプ部材1,2としたものを例示している。
【0075】
このように、両方のクランプ部材1,2がともに可動部12,22を備える構成の場合、蒸着用ボートAの延伸による両端の長さの変化は、両方の可動部12,22によって吸収できることとなる。そして、前述のように、付勢手段(例えば導線18)は補助的に設けられているため、両側の可動部12,22のいずれか一方が摺動不良となった場合でも他方の摺動によって延伸部分を吸収し得ることとなるのである。
【0076】
また、上述の実施形態において参照する各図は、その形態を説明するためのものであり、部分的に誇張し、または省略する部分も存在する。従って、当然ながらこれらの図に示された形状に限定されるものではなく、各部材が同様の機能を発揮するものであれば種々の形状に構成することができる。また、各部材の長さ、肉厚、幅等の比率や素材等についても適宜選択することができる。従って、同様の機構であれば、その形状等を問うものではない。
【0077】
さらに、上述の各実施形態では、可動部の可動範囲を格別限定するものではないが、可動部が可動(進退)し得る範囲を制限するように構成してもよい。特に可動範囲は、伸張する方向への可動域を制限するように構成することが好ましい。この場合、付勢手段による不必要な伸張方向への付加を抑えることができる。そして、その可動範囲を蒸着用ボートの長さに対して1/10以下とすれば、蒸着装置内における加熱による蒸着用ボートが伸張する範囲で可動部を移動させることができる。例えば、
図7および
図8に示すレール部515は、単に可動部の移動を許容するのみでなく、その可動範囲を限定するために、所定長さに設計してもよい。また、その他の実施形態においては、単純にストッパを設ける構成としてもよいが、さらに、付勢手段が弾性変形の復元力を利用する場合には、弾性変形の復元が可動範囲内で終了するような構成とし、可動範囲を超えた移動を促進させないように構成してもよい。
【0078】
本発明は、上述のような実施形態によって例示される蒸着用ボートの保持装置としているが、蒸着用ボート以外において、環境等の変化により伸縮する部材を固定するための保持装置や、加熱されて温度上昇する部材の保持装置などにも転用が可能である。また、蒸着用ボートには、使用時において蒸着材料が収容されるため、その保持装置は蒸着用ボートを水平に保持することが前提とされるが、本発明に係る機構は、水平に維持する必要のないものについての保持装置にも転用し得る。すなわち、何らかの原因により伸縮する部材を、その両端で固定しなければならない場合の保持装置として使用することができるのである。
【0079】
従って、線状体または板状体が、熱等によって体積膨張、面膨張または線膨張するものであって、その両端または一方端を可動しつつ固定する必要があれば、当該固定のために使用することができる。これらの膨張には加熱以外の原因、例えば、重量の増減などもあり、加熱による膨張には、加熱手段により外部から熱せられる場合のほか、当該物自体が加熱する場合もあり得る。より具体的には、例えば、抵抗発熱体、フィラメントヒータ、ワイヤヒータなどを挙げることができる。さらには、加熱装置内に設置される防着壁などの保持のために使用することができる。これらの場合における転用には、挟持手段等において固定(接続)するために、これらの構成を適宜変更すべき場合もあり得るが、本発明の機構をそのまま使用することができる。