(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶性シリコチタネートが、X線源にCu−Kαを用いて回折角(2θ)が5〜80°の範囲でX線回折測定したときに、前記結晶性シリコチタネートのピークが1以上観察されると共に前記チタン酸塩のピークが1以上観察され、
前記結晶性シリコチタネートのメーンピークの高さに対する前記チタン酸塩のメーンピークの高さの比が5%以上70%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射性物質吸着シート。
前記結晶性シリコチタネートをCu−KαをX線源に用いて回折角(2θ)が5〜80°の範囲でX線回析測定したときに、前記チタン酸塩のメーンピークが回折角(2θ)8〜10°以下に観察される請求項1〜5のいずれか1項に記載の放射性物質吸着シート。
前記バインダー樹脂は、放射性物質吸着シートに固着するバインダー樹脂100質量%中、90質量%以上が基材内部で固着している請求項1〜7のいずれか1項に記載の放射性物質吸着シート。
海水に14日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)が400ml/g以上であり、セシウムに対する分配係数(Kd)が10,000ml/g以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載の放射性物質吸着シート。
雨水に14日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)が20,000ml/g以上であり、セシウムに対する分配係数(Kd)が200,000ml/g以上である請求項1〜10のいずれか1項に記載の放射性物質吸着シート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<放射性物質吸着シート>
本発明に係る放射性物質吸着シートは、基材と、この基材の厚さ方向に表面から途中まで形成される微多孔性バインダー樹脂層とを有し、吸着剤が前記バインダー樹脂層においてバインダー樹脂を介して基材に固定化されたシートである点に特徴を有する。本発明に係る放射性物質吸着シートは、例えば、吸着剤とバインダー樹脂とを含む発泡性の塗料を基材の少なくとも片面に塗布し、前記基材の厚さ方向に該塗料の一部が浸透した状態で前記塗料を固化させることにより製造することが可能である。吸着剤とバインダーとを含む発泡性の塗料を基材に塗布することにより、塗料中の気泡が塗料の浸透を阻害するため、塗料の基材に対する浸透度合を調整することができる。すなわち、塗料を発泡性にしておけば、塗料が基材の厚さ方向全体に亘って浸透せず、塗料の一部は表面に留まり、残りは少しずつ基材に浸透していくため、基材の内部に塗料が固着していない部分(より好ましくは層)が形成される。この基材中の塗料が固着していない部分では、(1)基材自体が本来有する透水性が発揮されるため、放射性物質吸着シートを海に沈めたときに大量の海水を処理したり、放射性物質を含む雨水を効率よく処理することが可能となる。(2)また発泡性の塗料を用いているため、固化した塗料中には、発泡中の気泡に由来する細かな微多孔が形成される。
図1.1(倍率100倍)に放射性物質吸着シートの表面写真を示すが、この写真中の丸囲みの部分をみると、固化後のバインダー樹脂層に微多孔(細かな穴)が存在していることがわかる。この微多孔の存在により、放射性物質吸着シートの透水性が更に高まるため、大量の海水処理や雨水の高効率の処理に寄与する。(3)更にこの微多孔の存在により、吸着剤の表面が表に露出しやすくなり、海水や雨水との接触頻度が高まる。そのため、発泡性を有しない塗料を塗布する場合に比べ、放射性ストロンチウム及び放射性セシウムの回収効率を高めることも可能である。(4)加えて、吸着剤をバインダー樹脂で固定しているため、吸着剤が水中に脱落するリスクも抑えることができる。
このように、発泡性の塗料を基材表面に塗布すれば、一つの操作で多くの問題を一挙に解決できるのである。以下、本発明について詳述する。
【0014】
<基材>
放射性物質吸着シートの基材について説明する。基材は、放射性物質吸着シートを海に沈めた際に透水性に優れることから、繊維を含む不織布から構成されることが望ましい。前記不織布は、長繊維不織布、短繊維不織布のいずれであってもよい。不織布のウェブ形成には、乾式法(カーディング法)、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等を適宜採用するとよい。ウェブの結合方法も特に限定されるものではなく、例えば、ニードルパンチ法、スパンレース法(水流絡合法)等の機械的絡合法;不織布層に予め低融点繊維を混繊しておき、この低融点繊維の一部又は全部を熱溶融させて、繊維交点を固着する方法(サーマルボンド法);等の各種結合方法を採用できる。本発明では、基材を嵩高く、風合いをソフトに仕上げることができることから、ニードルパンチ法、水流絡合法等の機械的絡合法が好ましく、特にニードルパンチ不織布が好ましく採用できる。
【0015】
前記基材に使用される繊維としては、化学繊維が好ましい。具体的には、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリアリレート等のポリエステル繊維;ポリアクリロニトリル繊維、ポリアクリロニトリル−塩化ビニル共重合体繊維等のアクリル繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維;ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリクラール繊維等のポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン繊維;ポリエチレンオキサイド繊維、ポリプロピレンオキサイド繊維等のポリエーテル系繊維;等が好ましい。これらの繊維は、単独で使用しても、混繊して使用してもよい。
中でも、再生繊維や合成繊維が好ましく、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維等のポリエステル繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維;等の合成繊維である。特にポリエステル繊維が好ましく、ポリエチレンテレフタレート繊維が最適である。ポリエステル繊維は、基材100質量%中、70質量%以上(より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上)含まれている事が望ましい。
【0016】
基材に使用される繊維は、中実繊維であっても中空繊維であってもよく、捲縮を有していても有していなくてもよい。また前記繊維は芯鞘型、偏心型等の複合繊維であってもよい。これらの繊維は単独で使用してもよく、また複数を混綿して使用してもよい。
【0017】
前記基材を構成する繊維の平均繊維径は、例えば、0.4μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、35μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは25μm以下であり、特に好ましくは20μm以下である。平均繊維径が下限値を下回ると、繊維が細かすぎて繊維間が密になり、透水性が悪化する虞がある。また上限値を上回ると、繊維間が粗になり、吸着剤を均一に固着できない可能性があるため好ましくない。
なお平均繊維径は、例えば、目視や、繊維を構成する素材の繊度及び密度などに基づき計算により求めることができる。
【0018】
塗料の浸透性を決める因子として、基材の見掛け密度が挙げられる。基材の見掛け密度は、例えば、0.01g/cm
3以上が好ましく、より好ましくは0.05g/cm
3以上であり、更に好ましくは0.07g/cm
3以上であり、0.3g/cm
3以下が好ましく、0.25g/cm
3以下がより好ましく、0.2g/cm
3以下が更に好ましい。基材の見掛け密度が下限値を下回ると、繊維間隙が多くなり、塗料が基材に過剰に浸透し易くなり、塗料の浸透量を調整することが難しくなるため好ましくない。また、基材の見掛け密度が上限値を上回ると、繊維間が密になり、塗料が基材の内部へ浸透し難くなるため好ましくない。なお、基材の見掛け密度の測定方法は、基材の目付を厚さで除すことで求めることができる。
【0019】
また、見掛け密度を上記範囲内に調整するためには、基材の目付と厚さのバランスが重要となる。前記基材の目付は、例えば、10g/m
2以上が好ましく、50g/m
2以上がより好ましく、150g/m
2以上が更に好ましく、1000g/m
2以下が好ましく、500g/m
2以下がより好ましく、350g/m
2以下が更に好ましい。目付を前記範囲内に調整することにより、所望量の吸着剤を固着することが可能になる。一方、基材が薄いと支持体としての強度が劣るが、そのような場合には、後述するように、放射性物質吸着シートを巻き上げたり、複数枚を積層した吸着ユニットとして使用するとよい。
【0020】
前記基材の厚さは、例えば、10mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましく、3.5mm以下が特に好ましい。下限は特に限定されないが、例えば、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上が更に好ましい。基材の厚さを前記範囲内に調整することで、所望量の吸着剤を固着することが可能になる。また基材が薄くなると、塗料が基材の内部にまで浸透しやすくなるものの、基材を海に沈める際に丸めやすくなるといった利点もある。
【0021】
<塗料>
次に基材に塗布する塗料について説明する。塗料とは、吸着剤とバインダー樹脂とを含むものであり、機械的発泡等により発泡した状態、または発泡剤を含む状態で基材に塗布するものである。発泡剤を含む塗料は、乾燥機中で発泡することにより、塗料の基材への浸透度を調整することが可能となる。固形の吸着剤は、分散媒にほぼ均一に分散されていることが好ましい。
【0022】
前記塗料は、安価であり、且つ、環境に対する負荷が少ないことから、水を分散媒とするエマルジョン系が好ましい。
【0023】
本発明において、放射性物質吸着シートに固着するバインダー樹脂(固形分)と吸着剤の質量比(バインダー樹脂(固形分)/吸着剤)は、0.4以上であり、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.6以上であり、更に好ましくは0.7以上であり、特に好ましくは0.8以上であり、上限は特に限定されないが、5以下であり、より好ましくは3以下であり、更に好ましくは2以下であり、特に好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.2以下である。吸着剤の配合比率が高過ぎると、バインダー樹脂で十分に固定できず、吸着剤が基材から剥がれ落ちる虞がある。一方、吸着剤の配合比率が低すぎると、吸着剤の表面がバインダー樹脂に被覆され外部に露出し難くなるため、放射性ストロンチウムや放射性セシウムの吸着性能が低下する虞もある。
【0024】
<吸着剤>
吸着剤としては、水中の放射性ストロンチウム及び放射性セシウムに対して吸着性能を発揮できる材料が用いられ、具体的には、一般式;Na
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O、(Na
xK
(1-x))
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O及びK
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O(これらの式中、xは0超1未満の数を示し、nは0〜8の数を示す。)で表される結晶性シリコチタネートから選ばれる少なくとも一種(以下、特に断りがない場合、単に「結晶性シリコチタネート」又は「前記結晶性シリコチタネート」という)と、一般式;Na
4Ti
9O
20・mH
2O、(Na
yK
(1-y))
4Ti
9O
20・mH
2O及びK
4Ti
9O
20・mH
2O(これらの式中、yは0超1未満の数を示し、mは0〜10の数を示す。)で表されるチタン酸塩から選ばれる少なくとも一種(以下、特に断りがない場合、単に「チタン酸塩」又は「前記チタン酸塩」という)とを含む吸着剤が用いられる。前記結晶性シリコチタネートと前記チタン酸塩とは安定的に共存しており、この特徴を有することにより、優れたセシウム及びストロンチウムの吸着除去性能を発揮する。
【0025】
吸着剤は、前記結晶性シリコチタネートと前記チタン酸塩とを安定に共存させたことを反映して、これをX線回折測定すると、特定の回折ピークパターンを有する。この回折ピークパターンについて以下詳述する。
吸着剤を、X線源にCu−Kαを用いて回折角(2θ)が5〜80°の範囲でX線回折測定すると、前記結晶性シリコチタネートのピークが1以上観察されると共に前記チタン酸塩のピークが1以上観察される。
【0026】
吸着剤は、前記の線源及び回折角の範囲でX線回折測定したときに、前記結晶性シリコチタネートのピークのうち最も強度の高いピーク(以下メーンピークともいう。)の高さに対する、前記チタン酸塩のメーンピークの高さの比が5%以上70%以下であることが好ましく、5%以上60%以下であることがより好ましく、5%以上50%以下であることが更に好ましい。ピーク高さ比が前記の範囲の吸着剤を製造するには、例えば、後述する製造方法により結晶性シリコチタネートを製造し、且つその際に、ケイ酸源、ナトリウム化合物、カリウム化合物、四塩化チタン等の材料比を調整すればよい。前記のピーク高さ比は、実際のX線回折測定で得られた回折ピークパターンをベースライン補正した回折ピークパターンに基づいて算出する。このベースライン補正はsonneveld-visser法により行う。前記の回折ピークパターンからピーク高さを求める際には、次のようにする。まず、一つのピークが有する2つの底点を結んで直線を得る。そして当該ピークの頂点から垂線を引いて該直線と交わらせ、得られた交点と該ピークの頂点との距離をピーク高さとする。
【0027】
吸着剤は、前記の線源及び回折角の範囲でX線回折測定したときに前記チタン酸塩のメーンピークは回折角(2θ)=8〜10°に観察されることが好ましい。8〜10°に検出されるピークは、前記チタン酸塩のうち、結晶方位が(010)であり、一般式におけるmが5〜7であるものに由来する。従って、このような吸着剤は、前記チタン酸塩としてmが5〜7である含水塩を多く含むものである。チタン酸塩のメーンピークが前記の回折角範囲にある吸着剤を製造するには、例えば、後述する製造方法を用いて結晶性シリコチタネートを製造し、且つその際に、ケイ酸源、ナトリウム化合物、カリウム化合物、四塩化チタン等の材料比を調整すればよい。
【0028】
回折角(2θ)=8〜10°の範囲に前記チタン酸塩のメーンピークが検出される場合、これに加えて、27〜29°及び/又は47〜49°の範囲に更に前記チタン酸塩のピークが検出されることが好ましい。また、これらのピークは、前述したチタン酸塩のメーンピークの高さに対して10%以上70%以下の高さを有することが好ましい。
【0029】
前記結晶性シリコチタネートのメーンピークは、回折角(2θ)10〜13°の範囲に観察されることが好ましい。この範囲で検出されるピークは、前記結晶性シリコチタネートのうち、結晶方位が(0,1,0)であり、nが5〜7であるものに由来する。
【0030】
回折角(2θ)=10〜13°の範囲に前記結晶性シリコチタネートのメーンピークが検出される場合、これに加えて、27°〜29°及び/又は34°〜35°の範囲に更に前記結晶性シリコチタネートのピークが検出されることが好ましい。また、これらのピークは、前述した結晶性シリコチタネートのメーンピークの高さに対して5%以上40%以下の高さを有することが好ましい。
【0031】
吸着剤は、組成分析によって得られる前記結晶性シリコチタネートに対する前記チタン酸塩のモル比(前者:後者)が、1:0.25〜0.45であることが好ましく、1:0.30〜0.40であることがより好ましく、1:0.35〜0.38であることが更に好ましい。このモル比は、具体的には、以下の方法で求める。
【0032】
〔結晶性シリコチタネート:チタン酸塩のモル比の求め方〕
(a)吸着剤を、適当な容器(アルミリング等)に入れ、ダイスで挟みこんでからプレス機で10MPaの圧力をかけてペレット化することにより測定用試料を得る。この試料を蛍光X線装置(装置名:ZSX100e、管球:Rh(4kW)、雰囲気:真空、分析窓:Be(30μm)、測定モード:SQX分析(EZスキャン)、測定径:30mmφ、(株)リガク製)で全元素測定する。吸着剤中のSiO
2及びTiO
2の含有量(質量%)を、半定量分析法であるSQX法で計算することで算出する。
(b)求めたSiO
2及びTiO
2の含有量(質量%)をそれぞれの分子量で割り、吸着剤100g中のSiO
2及びTiO
2のモル数を得る。
(c)前記で求めた吸着剤中のSiO
2のモル数の3分の1を吸着剤中の前記結晶性シリコチタネート(Na
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O、(Na
xK
(1-x))
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O及びK
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oから選ばれる少なくとも1種)のモル数と仮定する。また、前記結晶性シリコチタネート1モル中のTi原子のモル数が4であることから、下記式(1)により吸着剤中の前記チタン酸塩のモル数を求める。
【0034】
(d)得られた結晶性シリコチタネートのモル数及びチタン酸塩のモル数から上記の比を得る。
【0035】
前記結晶性シリコチタネートは、Na
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O、(Na
xK
(1-x))
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O及びK
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oで表される結晶性シリコチタネートから選ばれる少なくとも1種である。前記結晶性シリコチタネートはこれらの結晶性シリコチタネートのうち1種のみからなるものであってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。また、これらのうち(Na
xK
(1-x))
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oで表される結晶性シリコチタネートは、xが一つの値をとる単一の化合物であってもよいし、xが2つの値をとるものの混合物であってもよい。また前記結晶性シリコチタネートは、nは1つの値のみをとっていてもよいし、nが2つ以上の値をとるものが混合していてもよい。
【0036】
前記結晶性シリコチタネートが、Na
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O及びK
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oを含むか、或いは(Na
xK
(1-x))
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oを含む場合、結晶性シリコチタネートの結晶化度が高いものとなりやすく、これにより吸着剤の性能、特にセシウムの吸着性能を高めることが可能でありうる。
【0037】
吸着剤は、前記結晶性シリコチタネートは、A
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O(ここでAはNa、K又はNa及びKである)以外の結晶性シリコチタネートを含んでいてもよい。しかしながら、吸着剤を、回折角(2θ)5〜80°の範囲でX線回折測定したときに、結晶性シリコチタネートとして、少なくとも、TiとSiのモル比が1:1の結晶性シリコチタネートのピーク及び、TiとSiのモル比が5:12の結晶性シリコチタネートのピークが観察されないことが好ましい。とりわけ、吸着剤を回折角(2θ)5〜80°の範囲でX線回折測定したときに、A
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oのみのピークが観察されることが好ましい。また、吸着剤はX線回折測定したときに、酸化チタンのピークである2θ=25°が検出されないことが好ましい。
【0038】
前記チタン酸塩は、Na
4Ti
9O
20・mH
2O、(Na
yK
(1-y))
4Ti
9O
20・mH
2O及びK
4Ti
9O
20・mH
2Oで表されるチタン酸塩から選ばれる少なくとも一種である。
前記チタン酸塩は、これらのチタン酸塩のうち1種のみからなるものであってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。また、これらのうち(Na
yK
(1-y))
4Ti
9O
20・mH
2Oで表されるチタン酸塩は、yが、一つの値をとる単一の化合物であってもよいし、yが2つの値をとるものの混合物であってもよい。また前記チタン酸塩は、mは1つの値のみをとっていてもよいし、mが2つ以上の値をとるものが混合していてもよい。
【0039】
吸着剤は、A
4Ti
9O
20・mH
2O(ここでAはNa、K又はNa及びKである)以外のチタン酸塩、例えばNa
2Ti
3O
7等を含んでいても良いが、吸着剤を前記の線源で回折角(2θ)5〜80°の範囲でX線回折測定したときに、チタン酸塩として、A
4Ti
9O
20・mH
2Oのみの回折ピークが観察されることが好ましい。
【0040】
前記チタン酸塩はNa
4Ti
9O
20・mH
2O及びK
4Ti
9O
20・mH
2Oを含むか、又は(Na
yK
(1-y))
4Ti
9O
20・mH
2Oを含むことが、セシウム及びストロンチウムの選択的吸着性が一層向上する観点から好ましい。
【0041】
なお、(Na
yK
(1-y))
4Ti
9O
20・mH
2Oで表されるチタン酸塩におけるyの値と、(Na
xK
(1-x))
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oで表される結晶性シリコチタネートにおけるxの値とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。x及びyの値は、それぞれ独立に0超1未満であり、この範囲内で任意の値を採用することができる。
【0042】
結晶性シリコチタネートのNa及びKの量比及びチタン酸塩のNa及びKの量比は、吸着剤におけるNa及びKの量比からある程度推定可能である。吸着剤におけるNa及びKの量比は、Na及びKのモル数の合計を100としたときに、Kのモル数の割合が3〜50であることが好ましく、5〜30であることがより好ましい。この割合は例えば、前記の〔結晶性シリコチタネート:チタン酸塩のモル比の求め方〕の(a)で記載した全元素測定により吸着剤中のNa
2O及びK
2Oの含有量(質量%)を求めることにより算出することができる。
【0043】
上記で説明した吸着剤は、以下で説明する結晶性シリコチタネートの製造方法により製造することができる。具体的には、前記結晶性シリコチタネートの製造方法は、前記一般式で表される結晶性シリコチタネートに加えて副生物として一般式;Na
4Ti
9O
20・mH
2O、(Na
yK
(1-y))
4Ti
9O
20・mH
2O及びK
4Ti
9O
20・mH
2O(これらの式中、yは0超1未満の数を示し、mは0〜10の数を示す。)で表されるチタン酸塩から選ばれる少なくとも一種を生成することにより、吸着剤を製造できる。しかしながら、前記吸着剤の製造方法は、前記チタン酸塩を生成しない方法も含むものである。
【0044】
以下、前記結晶性シリコチタネートの製造方法について詳細に説明する。
結晶性シリコチタネートの製造方法における第一工程は、ケイ酸源と、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物と、四塩化チタンと、水とを混合し混合ゲルを製造する工程である。
【0045】
第一工程において用いられるケイ酸源としては、例えば、ケイ酸ソーダが挙げられる。また、ケイ酸アルカリ(すなわちケイ酸のアルカリ金属塩)をカチオン交換することにより得られる活性ケイ酸も挙げられる。
【0046】
活性ケイ酸は、ケイ酸アルカリ水溶液を例えばカチオン交換樹脂に接触させてカチオン交換して得られるものである。ケイ酸アルカリ水溶液の原料としては、通常水ガラス(水ガラス1号〜4号等)と呼ばれるケイ酸ナトリウム水溶液が好適に用いられる。このものは比較的安価であり、容易に手に入れることができる。また、Naイオンを嫌う半導体用途では、ケイ酸カリウム水溶液が原料としてふさわしい。固体状のメタケイ酸アルカリを水に溶かしてケイ酸アルカリ水溶液を調製する方法もある。メタケイ酸アルカリは晶析工程を経て製造されるので、不純物の少ないものがある。ケイ酸アルカリ水溶液は、必要に応じて水で希釈して使用する。
【0047】
活性ケイ酸を調製するときに使用するカチオン交換樹脂は、公知のものを適宜選択して使用することができ、特に制限されない。ケイ酸アルカリ水溶液とカチオン交換樹脂との接触工程では、例えばケイ酸アルカリ水溶液をシリカが濃度3質量%以上10質量%以下となるように水に希釈し、次いで、希釈したケイ酸アルカリ水溶液をH型強酸性又は弱酸性カチオン交換樹脂に接触させて脱アルカリする。更に必要に応じてOH型強塩基性アニオン交換樹脂に接触させて脱アニオンすることができる。この工程によって、活性ケイ酸水溶液が調製される。ケイ酸アルカリ水溶液とカチオン交換樹脂との接触条件の詳細については、従来、様々な提案が既にあり、本発明ではそれら公知のいかなる接触条件も採用することができる。
【0048】
例えば、藤原恵子、“ヒートポンプ吸着材としてのマイクロポーラスクリスタルの改質と評価”、[online]、[2014年3月3日検索]、インターネット<URL:http://kaken.nii.ac.jp/pdf/2011/seika/C-19/15501/21560846seika.pdf>においてケイ素源として高分散SiO
2粉末を用いているのに対し、ケイ酸源として、ケイ酸ソーダ又は活性ケイ酸を用いることは、汎用シリカ原料使用による製造コストの低減がはかれるという利点を有する。
【0049】
第一工程において用いられるナトリウム化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムが挙げられる。これらのナトリウム化合物のうち、炭酸ナトリウムを用いると炭酸ガスが発生するため、そのようなガスの発生がない水酸化ナトリウムを用いることが、中和反応を円滑に進める観点から好ましい。
【0050】
例えば、第一工程においてカリウム化合物及びナトリウム化合物のうちナトリウム化合物のみを用いた場合、結晶性シリコチタネートとしてNa
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oで表される結晶性シリコチタネートが得ることができる。またこの場合、副産物として、Na
4Ti
9O
20・mH
2Oで表されるチタン酸ナトリウムが得られうる。
また、例えば第一工程においてナトリウム化合物及びカリウム化合物を用いると、結晶性シリコチタネートとして、Na
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O及びK
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oを含むか、或いは(Na
xK
(1-x))
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oを含むものを得ることができる。またこの場合、副産物のチタン酸塩として、Na
4Ti
9O
20・mH
2O及びK
4Ti
9O
20・mH
2Oを含むか、(Na
yK
(1-y))
4Ti
9O
20・mH
2Oを含むものが得られうる。
第一工程においてナトリウム化合物及びカリウム化合物を用いる場合は、ナトリウム化合物とカリウム化合物との合計モル数に対し、カリウム化合物のモル数の割合が3〜50%であることが好ましく、5〜30%であることがより好ましい。第一工程において用いられるカリウム化合物としては、水酸化カリウムや炭酸カリウムが挙げられ、ナトリウム化合物と同様の理由から水酸化カリウムが好ましい。
【0051】
結晶性シリコチタネートの製造方法においては、チタン源として四塩化チタンを用いる。酸化チタン等の他のチタン化合物をチタン源とした場合には、後述する比較例1において例証されるとおり、未反応の酸化チタンが残存したり、あるいはTi:Siのモル比が4:3の結晶性シリコチタネート以外の結晶性シリコチタネートが生成しやすい。そこで本発明ではチタン源として四塩化チタンを用いている。
【0052】
ケイ酸源及び四塩化チタンの添加量を、混合ゲル中の四塩化チタン由来のTiとケイ酸源由来のSiとのモル比であるTi/Siが特定比となる量とすることも、前記結晶性シリコチタネートの製造方法の特徴の一つである。例えば、前述した“ヒートポンプ吸着材としてのマイクロポーラスクリスタルの改質と評価”においては、チタン源として四塩化チタンを用いているが、ケイ酸源及び四塩化チタンは、Ti/Si比が0.32となる量で混合溶液に添加されている。これに対し、本発明では、Ti/Si比が0.5以上3.0以下となるような量でケイ酸源及び四塩化チタンを添加する。本発明者らが検討した結果、混合ゲル中のTi/Si比を前記のモル範囲に設定することで、A
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oで表される結晶性シリコチタネートとして結晶化度の高いものが得やすく、この結晶性シリコチタネートを吸着剤として用いた場合に特にセシウムの吸着性能が向上する。この観点から、混合ゲル中のTi/Si比は、1.0以上3.0以下であることが好ましく、1.5以上2.5以下であることがより好ましく、1.8以上2.2以下であることが更に好ましい。
【0053】
混合ゲルにおいて、Ti/Si比が前記の範囲以内であることは、得られる結晶性シリコチタネートが、副生物として特定のチタン酸塩を含みやすく、前述した吸着剤を好適に製造しうる点でも好ましい。一般に、通常結晶性シリコチタネートを吸着剤として使用する場合、副生物が含有されない組成を採用することが一般的であるところ、製造方法の好ましい態様の一つは、このように比較的高いTi/Si比を採用して敢えて副生物を生成させることで意外にも、セシウム及びストロンチウムの吸着性能を高めたものである。
【0054】
また、混合ゲルに占めるSiO
2換算のケイ酸源濃度とTiO
2換算の四塩化チタン濃度の総量が2.0質量%以上40質量%以下であり、かつ混合ゲルに占めるA’
2OとSiO
2のモル比がA’
2O/SiO
2=0.5以上3.0以下となるようにケイ酸源及び四塩化チタンを添加することが望ましい。ここでA’はNa及びKを示す。前記範囲内にケイ酸源及び四塩化チタンの添加量を調整することで、目的とする吸着剤の収率を満足すべき程度に高くすることができ、かつ、TiとSiのモル比が1:1の生成物が生成することを効果的に防止することができる。
また、これらの範囲は、前記チタン酸塩を副生させる観点からも好ましい。
【0055】
第一工程において用いられる四塩化チタンは、工業的に入手可能なものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0056】
第一工程において、ケイ酸源、ナトリウム化合物、カリウム化合物、及び四塩化チタンは、それぞれ水溶液の形態で反応系に添加することができる。場合によっては固体の形態で添加することもできる。更に第一工程では、得られた混合ゲルに対して、必要があれば純水を用いて該混合ゲルの濃度を調整することができる。
【0057】
第一工程において、ケイ酸源、ナトリウム化合物、カリウム化合物、及び四塩化チタンは、種々の添加順序で添加することができる。例えば(1)ケイ酸源、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物、並びに水を混合したものに、四塩化チタンを添加することにより混合ゲルを得ることができる(この添加順序のことを、以下、単に「(1)の実施」ということもある。)。この(1)の実施は、四塩化チタンから塩素の発生をおさえる点で好ましい。
【0058】
第一工程における別の添加順序として、(2)ケイ酸アルカリをカチオン交換することによって得られる活性ケイ酸(以下、単に「活性ケイ酸」ということもある。)水溶液と四塩化チタンと水とを混合したものに、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物を添加する、という態様を採用することもできる。この添加順序を採用しても、(1)の実施と同様に混合ゲルを得ることができる(この添加順序のことを、以下、単に「(2)の実施」ということもある。)。四塩化チタンはその水溶液の形態又は固体の形態で添加することができる。同様に、ナトリウム化合物及びカリウム化合物も、その水溶液の形態又は固体の形態で添加することができる。
【0059】
(1)及び(2)の実施において、ナトリウム化合物及びカリウム化合物は、混合ゲル中のナトリウム及びカリウムの合計濃度がNa
2O換算で0.5質量%以上15質量%以下、特に0.7質量%以上13質量%以下となるように添加されることが好ましい。混合ゲル中におけるナトリウム及びカリウムの合計のNa
2O換算質量及び混合ゲル中におけるナトリウム及びカリウムの合計のNa
2O換算の濃度(以下「ナトリウム及びカリウムの合計濃度(第一工程でカリウム化合物を用いない場合、ナトリウム濃度)」と言う)は、以下の式で計算される。
混合ゲル中におけるナトリウム及びカリウムの合計のNa
2O換算質量(g)=(ケイ酸ソーダ由来のナトリウムイオンのモル数+水酸化ナトリウム等のナトリウム化合物由来のナトリウムイオンのモル数+水酸化カリウム等のカリウム化合物由来のカリウムイオンのモル数−四塩化チタン由来の塩化物イオンのモル数)×0.5×Na
2O分子量
混合ゲル中におけるナトリウム及びカリウムの合計のNa
2O換算の濃度(質量%)=混合ゲル中におけるナトリウム及びカリウムの合計のNa
2O換算質量/(混合ゲル中の水分量+混合ゲル中におけるナトリウム及びカリウムの合計のNa
2O換算質量)×100
【0060】
ケイ酸源の選択と混合ゲル中のナトリウム及びカリウムの合計濃度の調整を組み合わせることにより、Ti:Siのモル比が4:3の結晶性シリコチタネート以外の結晶性シリコチタネートの生成を抑制することができる。ケイ酸源としてケイ酸ソーダを用いた場合、Na
2O換算で2.8質量%以上とすることで、Ti:Siのモル比が5:12の結晶性シリコチタネートの生成を効果的に抑制することが可能となり、一方、混合ゲル中のナトリウム及びカリウムの合計濃度をNa
2O換算で4.5質量%以下とすることで、Ti:Siのモル比が1:1の結晶性シリコチタネートの生成を効果的に抑制することが可能となる。また、ケイ酸源としてケイ酸アルカリをカチオン交換することにより得られる活性ケイ酸を用いた場合、Na
2O換算で1質量%以上とすることで、Ti:Siのモル比が5:12の結晶性シリコチタネートの生成を効果的に抑制することが可能となり、一方、混合ゲル中のナトリウム及びカリウムの合計濃度をNa
2O換算で6質量%以下とすることで、Ti:Siのモル比が1:1の結晶性シリコチタネートの生成を効果的に抑制することが可能となる。
【0061】
なお、ケイ酸源としてケイ酸ナトリウムを用いた場合は、ケイ酸ナトリウム中のナトリウム成分は、同時に混合ゲル中のナトリウム源となる。したがって、ここで言う「混合ゲル中におけるナトリウムのNa
2O換算質量(g)」とは、混合ゲル中のすべてのナトリウム成分の和として計数される。
【0062】
(1)及び(2)の実施において、四塩化チタンの添加は、均一なゲルを得るため一定の時間をかけて、四塩化チタン水溶液として段階的又は連続的に行うことが望ましい。このため、四塩化チタンの添加にはペリスタポンプ等を好適に用いることができる。
【0063】
第一工程により得られた混合ゲルは、後述する第二工程である水熱反応を行う前に、0.5時間以上2時間以下の時間にわたり、30℃以上100℃以下で熟成を行うことが、均一な生成物を得る点で好ましい。熟成工程は、例えば静置状態で行ってもよく、あるいはラインミキサーなどを用いた撹拌状態で行ってもよい。
【0064】
本発明においては第一工程において得られた前記混合ゲルを、第二工程である水熱反応に付して結晶性シリコチタネートを得る。水熱反応としては、結晶性シリコチタネートが合成できる条件であれば、いかなる条件であってもよく制限されない。通常、オートクレーブ中で好ましくは120℃以上300℃以下、より好ましくは120℃以上200℃以下、更に好ましくは140℃以上180℃以下の温度において、好ましくは6時間以上72時間以下、更に好ましくは12時間以上36時間以下の時間にわたって、加圧下に反応させる。反応時間は、合成装置のスケールに応じて選定できる。
【0065】
前記第二工程で得られた含水状態の結晶性シリコチタネートは乾燥させ、得られた乾燥物を必要により解砕又は粉砕して粉末状(粒状を含む)とすることができる。また、含水状態の結晶性シリコチタネートを複数の開孔が形成された開孔部材から押出成形して棒状成形体を得、得られた該棒状成形体を乾燥させて柱状にしてもよいし、乾燥させた該棒状成形体を球状に成形したり、解砕又は粉砕して粒子状としてもよい。後者の場合つまり乾燥前に押出成形を行う場合、後述する分級方法により回収される結晶性シリコチタネートの収率を高めることができる。ここで、解砕とは、細かい粒子が集まって一塊になっているものをほぐす操作をいい、粉砕とはほぐされた固体粒子に対し,機械的な力を作用させさらに細かくする操作をいう。
【0066】
開孔部材に形成された孔の形状としては、円形、三角形、多角形、環形等を挙げることができる。開孔の真円換算径は0.1mm以上10mm以下が好ましく、0.3mm以上5mm以下がより好ましい。ここでいう真円換算径は、孔一つの面積を円面積とした場合の該面積から算出される円の直径である。押出成形後の乾燥温度は例えば例えば50℃以上200℃以下とすることができる。また乾燥時間は1時間以上120時間以下とすることができる。
【0067】
前記製造方法で得られる結晶性シリコチタネートは、一般式;Na
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O、(Na
xK
(1-x))
4Ti
4O
3O
16・nH
2O及びK
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O(これらの式中、xは0超1未満の数を示し、nは0〜8の数を示す。)で表される結晶性シリコチタネートから選ばれる少なくとも一種である。前記製造方法で得られる結晶性シリコチタネートの第一の特徴は、これらの一般式から明らかなように、Ti:Siのモル比が4:3である点にある。前記結晶性シリコチタネートにおけるTi:Siのモル比がこの値であることは、該結晶性シリコチタネートをX線回折による構造解析で確認することができる。
【0068】
前記製造方法で得られる結晶性シリコチタネートの第二の特徴は、不純物として酸化チタンを含まない点にある。酸化チタンを含まないことは、前記結晶性シリコチタネートをX線回折測定して得られる回折ピーク中に、酸化チタンのピークである2θ=25°が検出されないことによって確認することができる。
【0069】
なお、前記製造方法によって得られる結晶性シリコチタネートは、一般式;Na
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O、(Na
xK
(1-x))
4Ti
4Si
3O
16・nH
2O及びK
4Ti
4Si
3O
16・nH
2Oで表されるTi:Siのモル比が4:3であるものを主成分とするものであり、他の結晶性シリコチタネートが効果を損なわない範囲で含有されていてもよい。また、前記製造方法に由来するチタン酸ナトリウム(Na
4Ti
9O
20)又はその含水塩等のチタン酸塩の副生物が含有されていても差し支えない。このチタン酸塩は、むしろストロンチウムの吸着除去特性を向上させる成分となりうるため、セシウム及びストロンチウムを同時に除去する吸着剤として用いる場合に、前記製造方法において、この種の化合物は好ましい副生物であると言える。
【0070】
前記製造方法で得られる結晶性シリコチタネート、特に前記チタン酸塩を含む前記結晶性シリコチタネートは、ストロンチウム及び/又はセシウムの吸着除去特性に優れている。
【0071】
また、前記製造方法によって得られる含水状態の結晶性シリコチタネートを造粒加工した顆粒状のものは、更に磁性粒子を含有させることにより、セシウム及び/又はストロンチウムを含む水から磁気分離で回収可能な結晶性シリコチタネートとして使用することが出来る。磁性粒子としては、例えば鉄、ニッケル、コバルト等の金属またはこれらを主成分とする磁性合金の粉末、四三酸化鉄、三二酸化鉄、コバルト添加酸化鉄、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の金属酸化物系磁性体の粉末が挙げられる。
含水状態の結晶性シリコチタネートを造粒加工した顆粒状のものに磁性粒子を含有させる方法としては、例えば、前述した造粒加工操作を磁性粒子を含有させた状態で行えばよい。
【0072】
また前記製造方法によれば前記結晶性シリコチタネートと前記チタン酸塩とを含む吸着剤を効率よく製造することができるが、吸着剤は、前記結晶性シリコチタネートと前記チタン酸塩とを別々に製造し、それを任意の配合で混合することによって製造することもできる。
【0073】
市販品の吸着剤としては、例えば、日本化学工業株式会社製「ピュアセラム(登録商標)」等が挙げられる。
【0074】
本発明では、固着させる吸着剤の平均粒子径(個数基準)を、前述した基材中の繊維の径との関係を考慮して、一定の範囲内に調整することが望ましい。吸着剤の平均粒子径と、基材中の繊維の平均繊維径との比(平均粒子径:平均繊維径)は、例えば、1:3〜1:20が好ましく、より好ましくは1:4〜1:16であり、更に好ましくは1:4.5〜1:14である。
図1.2及び
図1.3に本発明に係る放射性物質吸着シートの表面の拡大写真を示す。これらの写真が示すように、吸着剤の平均粒子径と基材中の繊維の平均繊維径との比を適切に調整することにより、繊維表面に吸着剤が重なり合うことなく、吸着剤の表面が露出し易くなるため、吸着性能の向上に寄与する。
【0075】
吸着剤の平均粒子径は、個数基準で、例えば、0.2μm以上が好ましく、より好ましくは0.5μm以上であり、更に好ましくは1μm以上であり、上限は特に限定されないが、例えば、30μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以下であり、更に好ましくは10μm以下であり、特に好ましくは6μm以下である。吸着剤の平均粒子径が大きくなると、吸着剤が塗料中で沈んでしまい、保管安定性が悪くなる虞がある。また吸着剤の平均粒子径が下限値を下回ると、バインダーで吸着剤の表面が被覆されやすくなり、吸着剤粒子がバインダー被膜に埋没して海水や雨水と接触しにくくなるため、放射性物質の吸着量が低下する虞がある。
本発明において、吸着剤の平均粒子径は、例えば、島津製作所製「SALD−7000」により測定することが可能である。
【0076】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂としては、通常、不織布の接着用途で用いる樹脂を適宜使用するとよいが、例えば、酢酸ビニル単量体を構成単位に含む酢酸ビニル系バインダー、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの共重合体であるアクリル系バインダー、合成ゴム系(例えば、ブタジエン−スチレン系、ブタジエン−アクリロニトリル系、クロロプレン系)バインダーが好ましい。中でも、接着強度が高いという利点を有するため、アクリル系バインダーが好ましい。
【0077】
前記アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2,2−ジメチルプロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−2−tert−ブチルフェニル、アクリル酸2−ナフチル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2,2−ジメチルプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸−2−tert−ブチルフェニル、メタクリル酸2−ナフチル、メタクリル酸フェニル等のラジカル重合性単量体が例示できる。
【0078】
前記アクリル系バインダーのガラス転移温度は、−10〜50℃が好ましく、より好ましくは0〜40℃である。
【0079】
吸着剤の含有量は、塗料100質量%中、0.1〜90質量%が好ましく、0.5〜50質量%がより好ましく、1〜40質量%が更に好ましい。
【0080】
塗料には、本発明の効果を阻害しない程度で、起泡剤、消泡剤、水、分散剤、増粘剤、着色料、防腐剤等の添加物が含まれていてもよい。
【0081】
<製造方法>
本発明に係る放射性物質吸着シートの製造方法は、
発泡性塗料を、基材の少なくとも片面に塗布する工程;
発泡性塗料塗布後の基材を、乾燥する工程;
を含む。放射性物質吸着シートは前述したように、基材の厚さ方向に発泡性塗料の一部が浸透した状態で、該塗料を固化させて得られる。すなわち、発泡性の塗料を用いると、塗料中の気泡が、塗料が基材の内部奥深くにまで浸透することを遮り、塗料の一部のみが基材に浸透し、残りは基材の表面に気泡を形成した状態で固化する。
【0082】
本発明の放射性物質吸着シートを製造する方法は、基材の少なくとも片面に、発泡性の塗料を塗布するものであれば特に限定されるものではなく、機械発泡等により塗料が発泡した状態、または発泡剤を含む状態で塗布するとよい。例えば、発泡状態の塗料を塗布する際、該塗料を未発泡のものに比べ、1.5倍以上に起泡してから基材に塗布するとよい。発泡倍率は、より好ましくは2倍以上であり、更に好ましくは3倍以上であり、特に好ましくは5倍以上であり、20倍以下が好ましく、より好ましく15倍以下であり、更に好ましく10倍以下であり、特に好ましくは9倍以下である。発泡倍率を前記範囲内に調整することにより、塗料の浸透の程度をコントロールし易くなる。
【0083】
塗料を発泡させる方法としては、例えば、物理的に塗料を発泡させる機械発泡や化学発泡等が知られているが、発泡倍率の調整が容易なことや、発泡のタイミングを制御できることから、少なくとも機械発泡を行うことが好ましい。また発泡の条件を考慮して、機械発泡と化学発泡の両発泡法にて塗料を発泡させても構わない。
【0084】
発泡性塗料を基材に塗布する方法は特に限定されるものではなく、グラビア法、ロータリープリント法等一般的な塗布法を用いるとよい。塗料を塗布するときは、リバースコーター、キスロールコーター、ナイフコーター等の各種設備を用いるとよく、本発明では特にナイフコーターが好ましい。発泡性塗料を基材に塗布するときは、塗料中の気泡をできるだけ壊さないようにする点に注意が必要である。
【0085】
発泡性塗料は、基材の片面または両面に塗布される。
図2.1には、放射性物質吸着シートの片面に塗料を塗布した場合の概略断面図を示す。この図において、放射性物質吸着シート1には、基材3の片面において、この厚さ方向に表面から途中までに微多孔性バインダー樹脂層が形成され、吸着剤5がバインダー樹脂2を介して基材3に固定化され、且つ、微多孔性バインダー樹脂層には微多孔4が存在していることが分かる。このように基材の片面のみに塗料を塗布すると、塗料が固着していない面から海水や雨水が通液しやすく、分配係数Kdが高くなるため好ましい。また、
図2.2には、放射性物質吸着シートの両面に塗料を塗布した場合の概略断面図を示す。
図2.2のように基材の両面に塗料を塗布すると、放射性ストロンチウムや放射性セシウムの吸着量が増大するため好ましい。
【0086】
発泡性塗料の塗布量(WET付量)は、固着させたい吸着剤の量に応じて適宜調整すると良いが、例えば、50g/m
2以上が好ましく、より好ましくは100g/m
2以上であり、600g/m
2以下が好ましく、より好ましくは550g/m
2以下である。
【0087】
乾燥工程での温度は、例えば、100℃以上170℃以下が好ましく、より好ましくは110℃以上160℃以下である。乾燥温度が低すぎると、塗料中の水分が蒸発しにくくなる。またアクリル系バインダーを使用する場合には、硬化のために、高温での実施が好ましい。
【0088】
発泡性塗料塗布後の基材の乾燥時間は、特に限定されるものではないが、例えば0.5〜5分が好ましく、より好ましくは1〜3分である。乾燥時間を前記範囲内に調整することにより、発泡性塗料の泡を適度に破泡させ、発泡性塗料塗布後の基材を十分に乾燥することが可能となる。
【0089】
本発明のように発泡性塗料を用いる製法によれば、基材の厚さ方向において、塗料が浸透する深さを調整できるため、放射性物質吸着シートの内部に、塗料が浸透していない層が存在する。この塗料が浸透していない層の存在により放射性物質吸着シートの透水性が高まるため、放射性物質吸着シートを海に沈めた際に、大量の海水や雨水を効率よく処理することが可能になる。また放射性物質吸着シートの表面には、塗料中の気泡が一部、固化後も、気泡が破泡した連通状の状態で残っていてもよい。
【0090】
放射性物質吸着シートにおいて、バインダー樹脂は、放射性物質吸着シートに固着するバインダー樹脂100質量%中、90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上が基材内部で固着していることが望ましい。上限は特に限定されないが、100質量%以下が好ましい。バインダー樹脂が基材の内部で固定化されれば、外部からの摩擦に対し、優れた耐摩耗性が発揮され、脱落の少ない放射性物質吸着シートが得られる。
【0091】
前述したように、本発明の放射性物質吸着シートは、基材内部にバインダー樹脂が固着していない部分が存在していることが特徴的である。
図1.4及び
図1.5に、本発明に係る放射性物質吸着シートの断面写真を示す。各写真には、バインダー樹脂が固着している部分とバインダー樹脂が固着していな部分との境目に一点線を引いている。バインダー樹脂が付着しているため一点線を境にして表面側の基材においては、基材中の繊維が2〜5本程度の束となってバインダー樹脂で固定されている。また一点線を境にして内側の基材にはバインダー樹脂が付着していないため、基材中の各繊維は、一本一本が分離可能な状態で存在していることが分かる。バインダー樹脂が固着していない部分は、例えば、基材全体の30%以上であることが好ましく、より好ましくは45%以上であり、更に好ましくは60%以上であり、上限は特に限定されないが、95%以下が好ましく、90%以下であっても問題ない。なおバインダー樹脂が固着していない部分の比率は、例えば、基材の厚さと、基材の厚さ方向におけるバインダー樹脂が固着していない部分の厚さの比率から求めることが可能である。
【0092】
放射性物質吸着シートに固着する吸着剤の合計量は、乾燥付着量で10g/m
2以上が好ましく、より好ましくは15g/m
2以上であり、更に好ましくは20g/m
2以上であり、特に好ましくは35g/m
2以上である。上限は特に限定されないが、400g/m
2以下が好ましく、より好ましくは200g/m
2以下であり、更に好ましくは120g/m
2以下であり、80g/m
2以下であってもよい。吸着剤の量が前記範囲内であれば、所望の除染性能を発揮し得る放射性物質吸着シートを効率よく製造することが可能になる。
【0093】
このようにして製造された放射性物質吸着シートの目付は、放射性物質吸着シートの用途及び使用環境を考慮して適宜調整するとよいが、例えば、100g/m
2以上が好ましく、200g/m
2以上がより好ましく、300g/m
2以上が更に好ましく、1000g/m
2以下が好ましく、より好ましくは750g/m
2以下であり、更に好ましくは650g/m
2以下である。
【0094】
放射性物質吸着シートの厚さは、例えば、10mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましく、3.5mm以下が特に好ましい。下限は特に限定されないが、例えば、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上が更に好ましい。放射性物質吸着シートの厚さを前記範囲内に調整することで、所望量の吸着剤を固着することが可能になる。
【0095】
<性能>
本発明に係る放射性物質吸着シートはストロンチウム及びセシウムに対して優れた吸着性能を有するため、分配係数(Kd)の値も高くなる。
例えば、放射性物質吸着シートを海水に浸漬する場合は以下の通りである。
1日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)は200ml/g以上(より好ましくは300ml/g以上)であり、セシウムに対する分配係数(Kd)は1,000ml/g以上(より好ましくは1,500ml/g以上);
14日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)は400ml/g以上(より好ましくは450ml/g以上)であり、セシウムに対する分配係数(Kd)は10,000ml/g以上(より好ましくは20,000ml/g以上);
35日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)は500ml/g以上(より好ましくは600ml/g以上)であり、セシウムに対する分配係数(Kd)は100,000ml/g以上(より好ましくは120,000ml/g以上);
【0096】
また放射性物質吸着シートを雨水に浸漬する場合は以下の通りである。
1日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)は100ml/g以上(より好ましくは200ml/g以上)であり、セシウムに対する分配係数(Kd)は300ml/g以上(より好ましくは400ml/g以上);
2日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)は1,000ml/g以上(より好ましくは1,200ml/g以上)であり、セシウムに対する分配係数(Kd)は7,000ml/g以上(より好ましくは8,000ml/g以上);
7日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)は10,000ml/g以上(より好ましくは12,000ml/g以上)であり、セシウムに対する分配係数(Kd)は250,000ml/g以上(より好ましくは300,000ml/g以上);
14日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)は20,000ml/g以上(より好ましくは25,000ml/g以上)であり、セシウムに対する分配係数(Kd)は200,000ml/g以上(より好ましくは300,000ml/g以上);
28日浸漬後におけるストロンチウムに対する分配係数(Kd)は70,000ml/g以上(より好ましくは75,000ml/g以上)であり、セシウムに対する分配係数(Kd)は500,000ml/g以上(より好ましくは600,000ml/g以上);
【0097】
なお本発明において分配係数(Kd)とは、日本原子力学会バックエンド部会の有志会員による「福島第一原子力発電所内汚染水処理技術のための基礎データ収集」に定義される、「ある物質が接触する2つの相にどのような比で存在するかを示す係数」であり、例えば、実施例に示す浸漬試験により求めることができる。分配係数(Kd)は、その値が大きいほど、少ない吸着剤量で多くのストロンチウムを吸着できることを意味する。
なお本発明においてKd値は、試験溶液量L/吸着剤の質量S:1000/1、吸着剤の塗布量:42g/m
2の条件下で測定されるものとする。
【0098】
本発明に係る放射性物質吸着シートの、吸着剤の質量当たりのストロンチウム吸着量は、例えば海水中に35日浸漬後で、好ましくは1mg/g以上であり、より好ましくは1.5mg/g以上であり、更に好ましくは2mg/g以上であり、より更に好ましくは2.5mg/g以上である。また雨水中に28日浸漬後で、好ましくは400mg/g以上であり、より好ましくは450mg/g以上であり、更に好ましくは500mg/g以上であり、より更に好ましくは520mg/g以上である。
【0099】
また本発明に係る放射性物質吸着シートの、吸着剤の質量当たりのセシウム吸着量は、例えば雨水中に28日浸漬後で、好ましくは20mg/g以上であり、より好ましくは25mg/g以上であり、更に好ましくは30mg/g以上であり、より更に好ましくは35mg/g以上である。
【0100】
また本発明に係る放射性物質吸着シートは、雨水中の放射性物質に対する吸着性能に非常に優れており、ストロンチウムの場合は、2日浸漬後での吸着率は、50%以上(より好ましくは60%以上)であり、7日浸漬後の吸着率は85%以上(より好ましくは90%以上)となる。またセシウムの場合は、2日浸漬後での吸着率は、80%以上(より好ましくは85%以上)であり、7日浸漬後の吸着率は90%以上(より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上)となる。
なお吸着率は、100%−浸漬期間経過後の水中の放射性物質濃度/初期濃度(%)で求められる値である。
【0101】
放射性物質吸着シートは、前述したように固化後のバインダー樹脂中に、小さな微多孔が存在している。そのため透水性に優れており、大量の海水や雨水を効率よく処理することができる。例えば、放射性物質吸着シートの透水係数は、0.01cm/sec以上が好ましく、基材の厚さや目付にもよるが、例えば、0.3cm/sec以下であり、0.2cm/sec以下であってもよい。
なお透水係数は、例えば、JIS A1218−1998に準じて測定することが可能である。
【0102】
<用途>
本発明に係る放射性物質吸着シートは、放射性ストロンチウム及び放射性セシウムを含む海水及び雨水の除染作業等、水中の放射性物質の回収に好ましく用いることができる。放射性物質吸着シートの大きさ、海水や雨水の処理量等にもよるが、例えば、本発明に係る放射性物質吸着シートを水中に沈め、1週間〜6ヶ月程浸漬しておき、その後放射性物質吸着シートを海から引き上げるとよい。
【0103】
本発明に係る放射性物質吸着シートは、例えば、放射性ストロンチウムや放射性セシウム等の回収量を上げるため、放射性物質吸着シートにおいて吸着剤が存在している層が、2以上の層を形成した状態で、或いは、2枚以上の放射性物質吸着シートがネット等に包まれた状態で水中に投入されることが望ましい。水中に投入する形態としては、例えば、放射性物質吸着シートの一端が内側になるように丸めた巻回型の放射性物質吸着材(投入形態1)、2枚以上の放射性物質吸着シートを厚さ方向に積み重ねた積層型の放射性物質吸着材(投入形態2)、2枚以上の放射性物質吸着シートがネット等に包まれた放射性物質吸着材(投入形態3)等が挙げられる。
【0104】
巻回型の放射性物質吸着材14の場合は、例えば、
図3.1に示すように、巻き上げた1〜50本程度の放射性物質吸着材11の一端にウェイトチェーン13を取り付け、また他端に浮き(フロート)12を取り付けて並列に繋いだものを、一つの吸着材ユニット15として海に沈めるとよい。除染作業の効率を考慮すれば、放射性物質吸着材11の長さは、例えば、1〜3m程度、吸着材ユニット15の長さは15〜30m程度が好ましい。また放射性物質吸着シートが損傷することを防ぐため、巻き上げた放射性物質吸着材11をできるだけ密接に配置したり、巻回型の放射性物質吸着材14をネットで保護しておくとよい。また海の深い所での吸着性能を上げるため、複数の放射性物質吸着材11を直列に繋ぐことも可能である。
【0105】
また積層型の放射性物質吸着材21は、例えば、
図3.2に示すように、放射性物質吸着シート1を2枚以上積層したものを金属枠22等に収容して一つの吸着材ユニットにするとよい。放射性物質吸着シートを巻回型、積層型の放射性物質吸着材にすることで、放射性物質の回収量の向上だけでなく、敷設・引き上げ等の作業を実施しやすくなるといった利点もある。
【0106】
海水を除染する場合、これらの吸着材ユニットは、海中に直接設置するとよい。また雨水を除染する場合は、除染仮置場等の集排水升や、雨水等の集水枡に放射性物質吸着材を浸漬させるとよく、具体的には、例えば、
図3.3に示すように、積層型の放射性物質吸着材21を集水枡30に浸漬させ、ポンプ32等によって放射性物質吸着材21を通じた除染後の雨水を水路31に汲み上げるとよい。また雨水の除染には、2枚以上の放射性物質吸着シートがネット等に包まれた放射性物質吸着材も使用できる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0108】
本実施例で用いた測定装置は以下の通りである。
ストロンチウム濃度の測定:アジレント・テクノロジー社製「ICP−MS」
平均粒子径の測定:島津製作所製「SALD−7000」
【0109】
<実施例1>
吸着剤(日本化学工業株式会社製「ピュアセラム(登録商標)」)を用いた。前記吸着材のX線回折構造から判断される組成は以下の通りである。
・主相Na
4Ti
4Si
3O
16・6H
2O
・Na
4Ti
9O
20・5〜7H
2Oを検出
・他の結晶性シリコチタネートとTiO
2は未検出
また、得られた吸着材のX線回折チャートを
図5.1に示す。また、得られた吸着材のX線回折チャートを前記の方法によりベースライン補正して得られた補正後のX線回折チャートを
図5.2に示す。
図5.1及び
図5.2に示すように、これらのX線回折チャートにおいては、2θ=10〜13°の範囲に、前記結晶性シリコチタネートのメーンピーク(M.P.)(Na
4Ti
4Si
3O
16・6H
2Oに由来)が検出されるとともに、2θ=8〜10°に前記チタン酸塩であるチタン酸ナトリウムのメーンピーク(Na
4Ti
9O
20・5〜7H
2Oに由来)が検出された。
図5.2に示す補正後のX線回折チャートに基づき、結晶性シリコチタネートのメーンピークの高さに対してチタン酸ナトリウムのメーンピークの高さの比(%)を求めたところ、38.5%であった。また得られた吸着材について、上述した方法で組成分析を行い、上述した方法で結晶性シリコチタネートとチタン酸ナトリウムとのモル比を求めたところ、結晶性シリコチタネート:チタン酸ナトリウム=1:0.37であった。なお該吸着材は、特許5696244号公報の実施例1に記載の方法により製造可能である。
<評価装置>
X線回折:Bruker社 D8 AdvanceSを用いた。線源としてCu−Kαを用いた。測定条件は、管電圧40kV、管電流40mA、走査速度0.1°/secとした。
【0110】
塗料に添加する前に、吸着剤を微粒子化するためのビーズミルによる微粉砕工程を実施した。微粉砕工程では、平均粒子径60.5μmの吸着剤、水を分散媒とするアクリル系バインダー(日本合成化学工業社製「モビニール(登録商標)710A」、不揮発分41%、粘度200〜700mpas)、消泡剤、増粘剤を含む分散液、及びセラミックビーズ(ビーズ径:0.4mm)を5分間接触させた。これにより、平均粒子径3.2μm(個数基準;モード径:1.6μm、d95:20.5μm、d50:2.8μm、d10:0.82μm)の吸着剤分散液を作製した(固形分:30%)。該吸着剤分散液における吸着剤に対するバインダー樹脂の質量比は1.14である。
これを塗料とし、この塗料を機械発泡にて発泡倍率2.5〜5.0倍にまで発泡させて発泡性塗料とした。得られた発泡性塗料を、ポリエステル製スパンボンド不織布(東洋紡社製「ODS300」、スパンボンド不織布を構成する繊維の平均繊維径3dtex(16μm)、目付300g/m
2、厚さ3.0mm)に、ナイフコーターにて該スパンボンド不織布の片面に、吸着剤塗布量(基材に固着する吸着剤の乾燥付着量)が42g/m
2となるようにして塗布し、その後130℃で乾燥させた。この放射性物質吸着シートを吸着剤が乾燥重量で1gになる試料サイズを1つのサンプル品とした。このサンプル品を用いて浸漬試験を行った。
【0111】
〔浸漬試験〕
I.人工海水中でのストロンチウム/セシウム吸着試験
浸漬試験では、ストロンチウム及びセシウムを含む人工海水1,000mlを容器に入れ、そこへ、実施例1で得たサンプル品を加え(すなわち、試験溶液量L/吸着剤の質量S=1000/1)、静置状態で、1日間、14日間、35日間浸漬した。1日間、14日間、35日間経過後の海水中のストロンチウム濃度(平衡濃度)或いはセシウム濃度(平衡濃度)を計測し、サンプル品を浸漬する前の海水中の初期濃度と測定した平衡濃度を用いて、Kd及び吸着量を求めた。またセシウム吸着試験では比較例1として粒子径を300〜710μmに調整した吸着剤の粒状物を用いた。各値の算出方法は以下の通りである。結果を表1及び
図4.1〜
図4.2に示す。なお、ストロンチウム濃度測定には、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)型式:Agilent 7700x(アジレント・テクノロジー社製)を用いて、ストロンチウム88の定量分析を行った。またセシウム濃度測定には、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)型式:Agilent 7700x(アジレント・テクノロジー社製)を用いて、セシウム133の定量分析を行った。
【0112】
吸着量(mg/g)
=〔(Cα)−(C)〕×V/(M×1000) …(i)
【0113】
吸着量(mg/m
2)
=(吸着量(mg/g))×(吸着剤塗布量(g/m
2)) …(ii)
【0114】
Kd(ml/g)
=〔(Cα)−(C)〕/(C)×V/M …(iii)
なお本発明においてKd値は、試験溶液量L/吸着剤の質量S:1000/1、吸着剤の塗布量:42g/m
2の条件下で測定されるものとする。
【0115】
なお上記式(i)〜(iii)において、
Cαは、浸漬試験前における海水中のストロンチウム/セシウム濃度(ppm)、
Cは、浸漬試験後における海水中のストロンチウム/セシウム濃度(ppm)、
Vは、試験に用いた海水の量(ml)、
Mは、吸着剤塗布量(g)、
を意味する。
【0116】
また浸漬試験で使用する人工海水は、ストロンチウム/セシウムを所定濃度になるように調整した人工海水(大阪薬研株式会社製「マリンアート(登録商標)SF−1」を精製水に溶いたもの)を用いた。
【0117】
【表1】
【0118】
表1が示すように、吸着剤が付着する放射性物質吸着シートによれば、効率よく海水中のストロンチウム/セシウムを回収することができることがわかる。特にセシウム吸着試験においては、比較例1の粒状物そのものと比べて、実施例1の放射性物質吸着シートはバインダー樹脂で吸着剤を被覆しているため海水との接触効率が低下しているものの、吸着剤を微粒子化することによってこの欠点が補われていると言える。
【0119】
II.人工雨水中でのストロンチウム/セシウム吸着試験
人工海水を、ストロンチウム及びセシウムを所定濃度になるように調整した雨水(Na:10ppm、Ca/Mg:10ppm、Sr:10ppm)に代えたこと以外は人工海水中での吸着試験と同じ方法で試験を行った。濃度の計測は、1日後、2日後、7日後、14日後、28日後にそれぞれ行った。結果を表2及び
図4.3〜
図4.4に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
表2が示すように、吸着剤が付着する放射性物質吸着シートによれば、Kd値は極めて高い値を示していることから、雨水中のストロンチウムやセシウムを効率よく回収できることがわかる。
【0122】
〔繰り返し使用試験〕
繰り返し使用試験では、セシウムを含む人工海水1,000mlを容器に入れ、そこへ実施例1で得たサンプル品を加え(すなわち、試験溶液量L/吸着剤の質量S=1000/1)、静置状態で、前記サンプル品を36日間海水中に浸漬させた。36日間経過後の海水中のセシウム濃度を計測した後、36日間浸漬後のサンプル品を、セシウムを含む海水1000mlの容器に浸漬させた。更に7日間浸漬させ(試験開始から42日間経過)、試験開始から42日間経過後の海水中のセシウム濃度を計測した後、該サンプル品を、セシウムを含む人工海水1000mlの容器に浸漬させた。更に7日間浸漬させ(試験開始から48日間経過)、試験開始から48日間経過後の海水中のセシウム濃度を計測した。結果を
図4.5に示す。
図4.5から明らかなように、本発明に係る放射性物質吸着シートは繰り返し使用が可能である。