特許第6682218号(P6682218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クレハの特許一覧

特許6682218深絞り成形用多層フィルム及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682218
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】深絞り成形用多層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20200406BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20200406BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20200406BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20200406BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20200406BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20200406BHJP
   B65D 1/26 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   B65D65/40 D
   B32B27/30 C
   B32B27/28 102
   B32B27/32 Z
   B29C51/14
   B65D1/00 111
   B65D1/26
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-175919(P2015-175919)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-52524(P2017-52524A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】南部 翔太
【審査官】 矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−502401(JP,A)
【文献】 特表昭64−500180(JP,A)
【文献】 特開2007−160574(JP,A)
【文献】 特開2014−124911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/00−65/46
B65D 1/00− 1/48
B32B 1/00−43/00
B29C 49/00−49/46
B29C 49/58−49/68
B29C 49/72−51/28
B29C 51/42
B29C 51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と、一方の表面層である架橋オレフィン系樹脂層と、他方の表面層である第1のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層とを備えており、前記中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と前記一方の表面層である架橋オレフィン系樹脂層との間、及び、前記中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と前記他方の表面層である第1のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層との間のうちの少なくとも一方に、第2のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層を更に備えていることを特徴とする深絞り成形用多層フィルムであって、
前記他方の表面層である第1のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層は、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂からなり、
前記他方の表面層である第1のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層の厚みが1〜50μmであり、
前記第2のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層の厚みが3〜100μmであり、
深絞り成形機(Multivac社製「R255」)を用い、縦200mm、横145mm、深さ90mmの金型にて、面積絞り比3.1倍で、絞り成形温度を75℃から5℃ずつ上昇させながら、前記多層フィルムに深絞り成形を施し、深絞り成形が可能な最も低い温度を最低絞り温度とした場合に、前記最低絞り温度が90℃以下であることを特徴とする深絞り成形用多層フィルム。
【請求項2】
温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ20〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の深絞り成形用多層フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の深絞り成形用多層フィルムからなることを特徴とする深絞り成形用底材フィルム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の深絞り成形用多層フィルムからなることを特徴とする深絞り成形用蓋材フィルム。
【請求項5】
請求項3に記載の底材フィルム、請求項4に記載の蓋材フィルム、及び前記底材フィルムと前記蓋材フィルムとによって内包された被包装物を備えており、
前記架橋オレフィン系樹脂層が最外層であり、前記第1のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層が最内層であることを特徴とする包装体。
【請求項6】
中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と一方の表面層であるオレフィン系樹脂層と他方の表面層である第1のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層とを備えており、前記中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と前記一方の表面層であるオレフィン系樹脂層との間、及び、前記中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と前記他方の表面層である第1のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層との間のうちの少なくとも一方に、第2のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層を更に備えている多層未延伸フィルムに、前記オレフィン系樹脂層側からエネルギー線を照射して前記オレフィン系樹脂を架橋せしめた後、縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍の二軸延伸を施して多層二軸延伸フィルムを作製し、或いは、前記多層未延伸フィルムに、縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍の二軸延伸を施した後、前記オレフィン系樹脂層側からエネルギー線を照射して前記オレフィン系樹脂を架橋せしめて多層二軸延伸フィルムを作製する工程、並びに、
前記多層二軸延伸フィルムに、縦方向及び横方向にそれぞれ10〜40%の緩和処理を施して請求項1に記載の深絞り成形用多層フィルムを得る工程を含むことを特徴とする深絞り成形用多層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深絞り成形用の蓋材、底材等として有用な深絞り成形用多層フィルム、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、延伸収縮性の多層フィルムは生肉、畜肉加工品、魚、チーズ、スープ類といった食品包装に広く用いられている。これらの内容物の包装方法として、バッグ又はパウチの袋に内容物を充填包装する方法、縦ピロー・横ピロー包装機械にて製袋直後のフィルムに充填包装する方法、深絞り成形により充填包装する方法等が一般的に行われている。
【0003】
従来の深絞り成形により充填包装する方法には、未延伸、非収縮性の多層フィルムが用いられており、特に、ハム、焼豚、ベーコンといった異形な内容物を充填包装した場合、フィルムの収縮性が乏しいために包装体に皺が入り易く、内容物とのフィット性に欠け内容物の液汁が溜り易くなるという欠点があった。また、フィルムの収縮性が乏しいためにフィルムの密着性が悪くなり、内容物の保存性が悪くなるという欠点もあった。
【0004】
そこで、特開2007−296842号公報(特許文献1)には、収縮による内容物とのタイトフィット性及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルムとして、塩化ビニリデン共重合体樹脂からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂からなる樹脂層が積層されてなり、さらに、前記第一の熱可塑性樹脂の融点よりも5℃以上低い融点を有するシーラント樹脂からなる内層を備えており、所定の熱水収縮率を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−296842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の熱収縮性多層フィルムを深絞り成形して製造した包装体を開封する場合、切込みから多層フィルムを真っ直ぐに切り開くことができない場合があり、更に容易に開封することが可能な深絞り成形用多層フィルムが求められていた。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、深絞り成形により製造した包装体を容易に開封することが可能な多層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、多層フィルムの最内層をエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂を用いて形成することによって、この多層フィルムを切込みから真っ直ぐに切り開くことが可能となり、この多層フィルムを深絞り成形して製造した包装体を容易に開封できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の深絞り成形用多層フィルムは、中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と、一方の表面層である架橋オレフィン系樹脂層と、他方の表面層であるエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
このような深絞り成形用多層フィルムは、中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と一方の表面層であるオレフィン系樹脂層と他方の表面層であるエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層とを備える多層未延伸フィルムに、前記オレフィン系樹脂層側からエネルギー線を照射して前記オレフィン系樹脂を架橋せしめた後、縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍の二軸延伸を施して作製した多層二軸延伸フィルム、或いは、前記多層未延伸フィルムに、縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍の二軸延伸を施した後、前記オレフィン系樹脂層側からエネルギー線を照射して前記オレフィン系樹脂を架橋せしめて作製した多層二軸延伸フィルムに、縦方向及び横方向にそれぞれ10〜40%の緩和処理を施すことによって得られたものであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の深絞り成形用多層フィルムは、前記中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と前記一方の表面層である架橋オレフィン系樹脂層との間、及び、前記中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と前記他方の表面層であるエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層との間のうちの少なくとも一方に、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層を更に備えていてもよい。
【0012】
本発明の深絞り成形用底材フィルム及び蓋材フィルムは、前記本発明の深絞り成形用多層フィルムからなることを特徴とするものである。また、本発明の包装体は、本発明の底材フィルム、本発明の蓋材フィルム、及び前記底材フィルムと前記蓋材フィルムとによって内包された被包装物を備えており、前記架橋オレフィン系樹脂層が最外層であり、前記エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層が最内層であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の深絞り成形用多層フィルムの製造方法は、中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と一方の表面層であるオレフィン系樹脂層と他方の表面層であるエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層とを備える多層未延伸フィルムに、前記オレフィン系樹脂層側からエネルギー線を照射して前記オレフィン系樹脂を架橋せしめた後、縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍の二軸延伸を施して多層二軸延伸フィルムを作製し、或いは、前記多層未延伸フィルムに、縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍の二軸延伸を施した後、前記オレフィン系樹脂層側からエネルギー線を照射して前記オレフィン系樹脂を架橋せしめて多層二軸延伸フィルムを作製する工程、並びに、
前記多層二軸延伸フィルムに、縦方向及び横方向にそれぞれ10〜40%の緩和処理を施して請求項1に記載の深絞り成形用多層フィルムを得る工程を含むことを特徴とする方法である。
【0014】
本発明の深絞り成形用多層フィルムの製造方法において、前記多層未延伸フィルムとしては、前記中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と前記一方の表面層であるオレフィン系樹脂層との間、及び、前記中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と前記他方の表面層であるエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層との間のうちの少なくとも一方に、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層を更に備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、深絞り成形により製造した包装体を容易に開封することが可能な多層フィルムを得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
先ず、本発明の深絞り成形用多層フィルムについて説明する。本発明の深絞り成形用多層フィルムは、中間層である塩化ビニリデン共重合体樹脂層と、一方の表面層である架橋オレフィン系樹脂層と、他方の表面層であるエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層とを備えていることを特徴とするものである。
【0018】
(塩化ビニリデン共重合体樹脂)
本発明で使用する塩化ビニリデン共重合体樹脂(以下、場合によっては「PVDC樹脂」という)は、塩化ビニリデン60〜98質量%と、前記塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体2〜40質量%との共重合により得られる共重合体を含有する樹脂である。このようなPVDC樹脂からなる中間層は、本発明の多層フィルムにおいて、ガスバリア層として機能するものである。
【0019】
このように塩化ビニリデンと共重合可能な単量体(共単量体)としては、例えば、塩化ビニル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ラウリル等のアクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);アクリロニトリル等のシアン化ビニル;スチレン等の芳香族ビニル;酢酸ビニル等の炭素数1〜18の脂肪族カルボン酸のビニルエステル;炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸のアルキルエステル(部分エステルを含み、アルキル基の炭素数1〜18)を挙げることができる。これらの共単量体は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、これらの共単量体の中でも、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸ラウリルを用いることが好ましい。なお、これらの共単量体の共重合割合は、好ましくは3〜35質量%、より好ましくは3〜25質量%、特に好ましくは4〜20質量%の範囲である。共単量体の共重合割合が前記下限未満では、内部可塑化が不十分となって、溶融加工性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ガスバリア性が低下する傾向にある。
【0021】
本発明で使用するPVDC樹脂の還元粘度〔ηsp/C;単位=l/g〕は、フィルムに成形する場合の溶融加工性、延伸加工性、包装機械適性、耐寒性等の観点から、好ましくは0.035〜0.070、より好ましくは0.040〜0.067、特に好ましくは0.045〜0.063である。PVDC樹脂の還元粘度が前記下限未満では、延伸加工性が低下し、二軸延伸フィルムの力学的性質も低下する傾向にある。他方、前記上限を超えると、溶融加工性が低下し、また着色傾向にあり透明性が損なわれる傾向にある。なお、本発明においては、還元粘度が異なる2種以上のPVDC樹脂を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明で使用するPVDC樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等の任意の重合法により合成することができるが、粉体レジンとしてコンパウンドを形成する場合には、懸濁重合法により合成することが好ましい。このように懸濁重合法により合成した場合には、PVDC樹脂からなる粉体レジンの粒度を調整するための粉砕工程を必要としない傾向にある。このようなPVDC樹脂からなる粉体レジンの粒度は、40〜600μmの範囲であることが好ましく、50〜500μmの範囲であることがより好ましい。なお、粉体レジンの粒度は、例えば、標準篩いを用いた乾式篩い分け法により測定することができる。
【0023】
このようなPVDC樹脂には、必要に応じて、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリエチレン(低密度、高密度)、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体等の他の樹脂を含有させることができる。また、このようなアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルは、アルキル基の炭素数1〜18のアルキルエステルであることが好ましい。なお、これらのその他の樹脂を使用する場合には、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。
【0024】
さらに、このようなPVDC樹脂には、必要に応じて、熱安定剤、可塑剤、抗酸化剤、滑材等の各種添加剤を更に含有させることができる。これらの各種添加剤は、懸濁重合法による粉体レジン製造時に、前記単量体組成物中に含有させてもよい。このように懸濁重合法による粉体レジン製造時に添加剤各種を粉体レジンに添加すると、粉体レジン製造時の温度条件下で、液体の添加剤は粉体レジンに吸収され、固体の添加剤は粉体レジンの表面に付着する傾向にある。
【0025】
前記熱安定剤としては、例えば、エポキシ化植物油、エポキシ化動物油、エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシ樹脂プレポリマー等のエポキシ化合物;エポキシ基含有樹脂を挙げることができる。これらの熱安定剤は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。本発明にかかるPVDC樹脂にこのような熱安定剤を添加することにより、PVDC樹脂コンパウンドの熱安定性を改善することができる傾向にある。
【0026】
また、エポキシ化植物油及びエポキシ化動物油としては、不飽和結合を有する天然の動植物油を過酸化水素や過酢酸等でエポキシ化することにより、二重結合をオキシラン環に変性したものを用いることができる。エポキシ化植物油としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が好ましい。エポキシ化脂肪酸エステルとしては、エポキシ化ステアリン酸オクチル等の不飽和脂肪酸エステルのエポキシ化物が挙げられる。エポキシ樹脂プレポリマーとしては、ビスフェノールAグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0027】
さらに、エポキシ基含有樹脂としては、少なくとも1つのエポキシ基を含有する樹脂であればよく特に限定されないが、例えば、グリシジル基含有アクリル樹脂及びグリシジル基含有メタクリル樹脂を用いることが好ましい。これらのグリシジル基含有アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂としては、ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステルを共重合成分として含有する共重合体が好ましい。グリシジル基含有アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂としては、ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステルと、グリシジル基を含有しないアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル、並びにこれらの単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体が好ましい。
【0028】
また、グリシジル基含有アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂としては、例えば、メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル−スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸グリシジル−塩化ビニル共重合体、メタクリル酸グリシジル−アクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−アクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−塩化ビニリデン共重合体が挙げられる。
【0029】
これらの熱安定剤の中でも、食品包装材料の分野においては、エポキシ化植物油を用いることが好ましい。エポキシ化植物油等の熱安定剤は、その使用量の一部をPVDC樹脂の重合工程で単量体組成物中に含有させて粉体レジンを調製し、コンパウンド調製時に、その残量を粉体レジンに添加することができる。さらに、使用する熱安定剤の全量を重合時に添加してもよく、あるいはコンパウンド調製時に粉体レジンとブレンドしてもよい。
【0030】
これらの熱安定剤を使用する場合には、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、0.05〜6質量部の範囲であることが好ましく、0.08〜5質量部の範囲であることがより好ましく、0.1〜4質量部の範囲であることが特に好ましい。熱安定剤の添加量が前記下限未満では、PVDC樹脂コンパウンドの熱安定性を十分に改善することができず、成形加工が困難になるとともに、黒化の原因となる傾向にある。他方、前記上限を超えると、二軸延伸フィルムのガスバリア性や耐寒性が低下したり、フィッシュアイの原因となったりする傾向にある。
【0031】
前記可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、アセチルクエン酸トリブチル、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、アセチル化モノグリセライド、アセチル化ジグリセライド、アセチル化トリグリセライド、及びそれらの2〜3つを含むアセチル化グリセライド類、アジピン酸と1,3−ブタンジオール、アジピン酸と1,4−ブタンジオール、及びこれらの2種以上の混合物等のポリエステル可塑剤が挙げられる。これらの可塑剤は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0032】
これらの可塑剤は、PVDC樹脂の重合工程において、生成するPVDC樹脂の粉体レジン中に含有させるか、PVDC樹脂の粉体レジンとブレンドするか、あるいはこれらを組み合わせた方法により、PVDC樹脂コンパウンド中に含有させることができる。また、可塑剤をPVDC樹脂の重合工程において生成する粉体レジン中に含有させるには、塩化ビニリデンとそれと共重合可能な他の単量体とを可塑剤の存在下に共重合するか、あるいは共重合後に可塑剤を添加して、PVDC樹脂の粉体レジンを製造することができる。さらに、重合工程で可塑剤をPVDC樹脂の粉体レジン中に含有させ、ブレンド時に必要に応じて追加の可塑剤をブレンドすることができる。また、使用する可塑剤の全量を重合時に添加してもよく、あるいはコンパウンド調製時に粉体レジンとブレンドしてもよい。
【0033】
このような可塑剤を使用する場合には、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、0.05〜10質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。可塑剤の添加量が前記下限未満では、可塑化効果が乏しく、溶融押出加工が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ガスバリア性が劣化する傾向にあるためである。
【0034】
前記抗酸化剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチル−フェノール(BHT)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]〔例えば、BASF社製「Irganox 245」(登録商標)〕、2,4−ジメチル−6−S−アルキルフェノール、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〔例えば、BASF社製「Irganox 1076」(登録商標)〕等のフェノール系抗酸化剤;チオジプロピオン酸、ジステアリルチオジプロピオネート等のチオエーテル系抗酸化剤;トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のホスファイト系抗酸化剤等が挙げられる。このような抗酸化剤を使用する場合には、添加量はPVDC樹脂100質量部に対して、通常0.0001〜0.05質量部である。
【0035】
前記滑材としては、PVDC樹脂の溶融加工に好適なものとして、酸化ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸エステルワックス、モンタン酸カルシウム等のワックス類;グリセリンモノエステル等の脂肪酸エステルが挙げられる。また、PVDC樹脂の溶融加工とフィルムの二次加工に好適な滑材としては、ステアリン酸アミド等の脂肪酸のモノアミドまたはビスアミド等が挙げられる。これらの滑材を使用する場合には、添加量はPVDC樹脂100質量部に対して、通常2質量部以下である。なお、PVDC樹脂に対する相溶性の悪い滑材であって、成形品に色むらや相分離を発生し易いものは、その添加量を極力少なくするか、添加しないことが望ましい。
【0036】
本発明に使用するPVDC樹脂には、必要に応じて、その他の安定剤、紫外線吸収剤、pH調整剤等を更に含有させることができる。
【0037】
前記その他の安定剤としては、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、カルシウムヒドロキシホスフェート等の無機塩基類;クエン酸、クエン酸アルカリ金属塩等の有機弱酸塩類;エチレンジアミン四酢酸塩類等を、適宜適量を用いることができる。
【0038】
前記紫外線吸収剤としては、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等が挙げられ、必要に応じて適量を用いることができる。
【0039】
前記pH調整剤としては、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム等が挙げられる。これらのpH調整剤を使用する場合は、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましい。なお、これらのpH調整剤は、通常、PVDC樹脂の重合時に用いられる。
【0040】
(オレフィン系樹脂)
本発明で使用するオレフィン系樹脂としては、シングルサイト触媒又はメタロセン触媒(以下、「SSC」と略す)を用いて重合されたポリエチレン(エチレンと少量のα−オレフィンとの共重合体を含む。例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(SSC−LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(SSC−VLDPE))、従来のチグラー系触媒を用いて重合されたポリエチレン(エチレンと少量のα−オレフィンとの共重合体を含む。例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPEまたはULDPE))、エチレン・α−オレフィン共重合体(前記ポリエチレンに該当するものを除く)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸エステル共重合体等のオレフィン系樹脂が挙げられる。このようなオレフィン系樹脂を架橋せしめた架橋樹脂層を一方の表面層として備えることによって、本発明の多層フィルムは、耐メルトホール性、耐熱性、機械強度に優れたものとなる。
【0041】
前記ポリエチレンや前記エチレン・α−オレフィン共重合体に用いられるα−オレフィンとしては、炭素数4〜18のα−オレフィン(例えば、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチルペンテン、1−オクテン)が挙げられる。また、前記エチレン・アクリル酸エステル共重合体としては、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA))、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体等が挙げられ、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体としては、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA))、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・メタクリル酸ブチル共重合体等が挙げられる。さらに、エチレン・酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル含量としては5〜30質量%が好ましく、エチレン・アクリル酸エステル共重合体のアクリル酸エステル含量としては5〜30質量%が好ましく、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体のメタクリル酸エステル含量としては5〜30質量%が好ましい。このようなオレフィン系樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらのオレフィン系樹脂のうち、延伸性の観点から、LLDPE、VLDPEまたはULDPE、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0042】
(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)
本発明で使用するエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)は、本発明の多層フィルムにおいて、他方の表面層を形成し、シール層として機能するものである。EVA樹脂をシール層に使用することによって、本発明の多層フィルムは、シール強度に優れるだけでなく、90℃以下の低温での深絞り成形が可能となる。その結果、この多層フィルムを深絞り成形して製造した包装体において、切込みから真っ直ぐに多層フィルムを切り開くことができ、前記包装体を容易に開封することが可能となる。
【0043】
また、本発明の多層フィルムにおいては、このようなEVA樹脂層を、前記中間層であるPVDC樹脂層と前記一方の表面層である架橋オレフィン系樹脂層との間、及び、前記中間層であるPVDC樹脂層と前記他方の表面層であるEVA樹脂層との間のうちの少なくとも一方(好ましくは両方)に、更に備えていてもよい。これにより、本発明の多層フィルムは、熱収縮率、突刺強度や引張強度等のフィルム強度、柔軟性に優れたものとなる。
【0044】
(接着性樹脂)
本発明で使用する接着性樹脂としては、エチレン系共重合体又はその酸変性物が挙げられる。より具体的には、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA))、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA))、エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、アイオノマー等のエチレン系共重合体、及びこれらのマレイン酸、フマル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸又は酸無水物による変性物を挙げることができる。このような接着性樹脂からなる接着剤層を、各層間に配置することによって、層間剥離を抑制される。
【0045】
これらの接着性樹脂は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。また、これらの接着性樹脂の中でも、酢酸ビニル含量が10〜28質量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステル含量が10〜28質量%のエチレン・アクリル酸エステル共重合体、又はこれらの不飽和カルボン酸もしくは酸無水物による変性物を用いることが好ましい。
【0046】
<深絞り成形用多層フィルム>
本発明の多層フィルムは、中間層である前記PVDC樹脂からなる樹脂層と、一方の表面層である前記オレフィン系樹脂を架橋せしめた架橋樹脂層と、他方の表面層であるEVA樹脂からなる樹脂層とを備えるものである。また、本発明の多層フィルムにおいては、前記PVDC樹脂層と前記架橋オレフィン系樹脂層との間、及び、前記PVDC樹脂層とシール層である前記EVA樹脂層との間のうちの少なくとも一方(好ましくは両方)に、前記EVA樹脂からなる樹脂層を更に備えていてもよい。この場合、前記PVDC樹脂層と前記架橋オレフィン系樹脂層との間にある前記EVA樹脂からなる樹脂層は架橋されている。さらに、これらの各層間には、層間接着性を高めるために、前記接着性樹脂からなる接着剤層が配置されていてもよい。この場合、前記PVDC樹脂層と前記架橋オレフィン系樹脂層との間にある前記接着剤層は架橋されていてもよい。
【0047】
ここで、本発明の多層フィルムの層構成の具体例を以下に示すが、本発明はこれらの限定されるものではない。
1:架橋オレフィン系樹脂層/PVDC樹脂層/EVA樹脂層。
2:架橋オレフィン系樹脂層/接着剤層/PVDC樹脂層/接着剤層/EVA樹脂層。
3:架橋オレフィン系樹脂層/架橋EVA樹脂層/PVDC樹脂層/EVA樹脂層/EVA樹脂層。
4:架橋オレフィン系樹脂層/架橋EVA樹脂層/接着剤層/PVDC樹脂層/接着剤層/EVA樹脂層/EVA樹脂層。
【0048】
本発明の多層フィルムの厚みは、製造性の観点から、通常40μm以上である。また、本発明の多層フィルムの厚みの上限としては150μm以下が好ましい。多層フィルムの厚みが前記上限を超えると、フィルム製造時のインフレーション延伸における内圧が高くなり、製膜が難しくなる傾向にある。さらに、本発明の多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして使用する場合には、多層フィルムの厚みは60〜150μmであることが好ましく、深絞り成形用蓋材フィルムとして使用する場合には、多層フィルムの厚みは30〜90μmであることが好ましい。
【0049】
また、本発明にかかるPVDC樹脂層の厚みとしては1〜20μmが好ましく、2〜15μmがより好ましく、3〜10μmが特に好ましい。PVDC樹脂層の厚みが前記下限未満になると、ガスバリア性が低下する傾向にあるとともに、押出し加工、製膜時における層厚のコントロールが困難となる傾向にある。他方、PVDC樹脂層の厚みが前記上限を超えると、得られる多層フィルムの剛性が増加し過ぎる傾向にあるとともに、包装資材の廃棄量が増える等の経済的な不利益となる傾向にある。なお、本発明の多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして使用する場合には、PVDC樹脂層の厚みとしては2〜20μmが好ましく、2〜15μmがより好ましく、2〜10μmが特に好ましい。また、本発明の多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして使用する場合には、PVDC樹脂層の厚みとしては1〜10μmが好ましい。
【0050】
本発明にかかる架橋オレフィン系樹脂層の厚みとしては1〜20μmが好ましく、2〜15μmがより好ましい。架橋オレフィン系樹脂層の厚みが前記下限未満になると、耐メルトホール性、耐熱性、機械強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、多層フィルムが硬くなりすぎ、延伸性が低下する傾向にある。
【0051】
前記他方の表面層であるEVA樹脂層(シール層)の厚みとしては1〜50μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。シール層の厚みが前記下限未満になると、シール強度が低下する傾向にあるとともに、包装体を容易に開封することが困難となる傾向にある。他方、シール層の厚みが前記上限を超えると、包装体の強度が不足するとともに、フィルムの透明性が低下する傾向にある。
【0052】
前記PVDC樹脂層と前記架橋オレフィン系樹脂層との間に配置される架橋EVA樹脂層や前記PVDC樹脂層とシール層である前記EVA樹脂層との間に配置されるEVA樹脂層の厚みとしては3〜100μmが好ましく、5〜70μmがより好ましい。前記架橋EVA樹脂層や前記EVA樹脂層の厚みが前記下限未満になると、多層フィルムの突刺強度や引張強度が下がるだけでなく多層フィルムが内側に強くカールする様になり、深絞り包装機適性が低下傾向にあり、他方、前記上限を超えると、インフレーション延伸時の内圧が高くなり製造性が低下する傾向にある。
【0053】
本発明にかかる接着剤層の厚みとしては1〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。接着剤層の厚みが前記下限未満になると、層間接着性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、それ以上の接着力の向上は見込めず、さらには包装資材の廃棄量が増える等の経済的な不利益となる傾向にある。
【0054】
本発明の多層フィルムにおいて、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率としてはそれぞれ20〜50%が好ましい。熱水収縮率が前記下限未満になると、被包装物に対するタイトフィット性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、延伸後の非晶部の配向が緩められていないために深絞り性が低下する傾向にある。なお、熱水収縮率は以下の方法で測定した値である。すなわち、多層フィルムの機械方向(縦方向、MD)及び機械方向に垂直な方向(横方向、TD)に10cmの距離で印を付けたフィルム試料を、90℃に調整した熱水に10秒間浸漬した後、取り出し、直ちに常温の水で冷却する。その後、印をつけた距離を測定し、10cmからの減少値の原長10cmに対する割合(百分率)を求める。1試料について5回試験を行ない、縦方向及び横方向のそれぞれについての平均値を熱水収縮率とする。
【0055】
本発明の多層フィルムにおいて、酸素ガス透過度としては、温度23℃、100%RHの条件下において、100cm/m・day・atm以下が好ましく、80cm/m・day・atm以下がより好ましく、50cm/m・day・atm以下が特に好ましい。酸素ガス透過度が前記上限を超えると、被包装物が酸化し易い生肉等の食品を包装した場合に、包装体の保存時に赤味が無くなる等の劣化が起こる傾向にある。
【0056】
また、このような多層フィルムにおいて、透湿度(WVTR)としては、温度40℃、90%RHの条件下において、20g/m・day以下が目減りの点で好ましい。透湿度(WVTR)が前記上限を超えると、包装体の被包装物の水分が透過して蒸散し易くなり、包装体の質量である賞味量が保持できなくなる傾向にある。
【0057】
<包装体>
本発明の包装体は、このような本発明の深絞り成形用多層フィルムを用いて、生肉、畜肉加工品、魚、チーズ、果物、ピザ類等の被包装物を包装したものである。このような包装体は、本発明の多層フィルムからなる蓋材フィルムと底材フィルム、及び、これら蓋材フィルムと底材フィルムに内包されている被包装物とを備えており、本発明にかかる架橋オレフィン系樹脂層が最外層となり、シール層であるEVA樹脂層が最内層となっている。この包装体は、蓋材と底材のシール強度に優れているとともに、容易に開封することができる。さらに、耐熱性、耐メルトホール性、機械強度にも優れている。
【0058】
<深絞り成形用多層フィルムの製造方法>
次に、本発明の深絞り成形用多層フィルムの製造方法について説明する。本発明の深絞り成形用多層フィルムの製造方法は、
中間層であるPVDC樹脂層と一方の表面層であるオレフィン系樹脂層と他方の表面層であるEVA樹脂層とを備える多層未延伸フィルムに、前記オレフィン系樹脂層側からエネルギー線を照射して前記オレフィン系樹脂を架橋せしめた後、縦方向及び横方向に二軸延伸を施して多層二軸延伸フィルムを作製する工程、或いは、
前記多層未延伸フィルムに、縦方向及び横方向に二軸延伸を施した後、前記オレフィン系樹脂層側からエネルギー線を照射して前記オレフィン系樹脂を架橋せしめて多層二軸延伸フィルムを作製する工程、並びに
前記多層二軸延伸フィルムに、縦方向及び横方向に緩和処理を施して本発明の深絞り成形用多層フィルムを得る工程を含む方法である。
【0059】
また、本発明の多層フィルムの製造方法においては、前記多層未延伸フィルムとして、前記PVDC樹脂層と前記オレフィン系樹脂層(一方の表面層)との間、及び、前記PVDC樹脂層と前記EVA樹脂層(他方の表面層)との間のうちの少なくとも一方(好ましくは両方)に、EVA樹脂層を更に備えているものを使用することができる。これにより、前記PVDC樹脂層と前記架橋オレフィン系樹脂層との間、及び、前記PVDC樹脂層と前記EVA樹脂層(シール層)との間のうちの少なくとも一方(好ましくは両方)に、EVA樹脂層(前記PVDC樹脂層と前記架橋オレフィン系樹脂層との間においては、架橋EVA樹脂層)を更に備える本発明の多層フィルムを得ることができる。
【0060】
本発明の多層フィルムの製造方法に用いられる多層未延伸フィルムは、例えば、溶融状態のPVDC樹脂、オレフィン系樹脂及びEVA樹脂を、それぞれ中間層、一方の表面層及び他方の表面層を形成するように、共押出しし、得られた共押出物を、例えば、それを構成する全ての樹脂の融点未満の温度(好ましくは5〜30℃)の水に浸漬して冷却することによって作製することができる。また、管状の多層未延伸フィルムを作製する場合には、例えば、前記オレフィン系樹脂からなる層が最外層、前記EVA樹脂層が最内層となるように、環状ダイを用いて各樹脂を共押出する。
【0061】
このようにして作製した多層未延伸フィルムに、前記オレフィン系樹脂層側からエネルギー線を照射する。また、このエネルギー線照射は、多層未延伸フィルムを二軸延伸した後に実施してもよい。エネルギー線を照射することによって、前記オレフィン系樹脂が(前記PVDC樹脂層と前記オレフィン系樹脂層との間にEVA樹脂層が配置されている場合には、このEVA樹脂層も)架橋され、耐メルトホール性、耐熱性、機械強度に優れた多層フィルムを得ることができる。また、二軸延伸前にエネルギー線を照射した場合には、延伸性も向上する。
【0062】
前記エネルギー線としては、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、X線等公知のエネルギー線を使用することができるが、照射前後での架橋効果の観点から、電子線やγ線が好ましく、中でも電子線が、成形物を製造上での作業性や生産能力の高さなどの点で好都合である。前記エネルギー線の照射条件としては、エネルギー線の種類や目的とする用途に応じて、適宜設定すればよく、電子線の場合は、加速電圧が150〜500キロボルトの範囲、照射線量が10〜200キログレイの範囲が好ましい。
【0063】
次に、前記多層未延伸フィルムを、例えば、70〜90℃の熱水槽を通過させて加熱し、縦方向及び横方向に二軸延伸して多層二軸延伸フィルムを作製する。多層未延伸フィルムが管状の場合には、例えば、管状の多層未延伸フィルムの内部に空気を入れながら多層未延伸フィルムを縦方向(管状フィルムの流れ方向)に引出しつつ、縦方向及び横方向(管状フィルムの円周方向)に二軸延伸することによって、管状の多層二軸延伸フィルムが得られる。延伸倍率としては、縦方向及び横方向それぞれ2.5〜4倍が好ましい。延伸倍率が前記下限未満になると、所望の被包装物に対するフィット性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、延伸時にフィルムが破断する傾向にある。
【0064】
次に、前記オレフィン系樹脂層を架橋していない場合には、エネルギー線を照射して前記オレフィン系樹脂を(前記PVDC樹脂層と前記オレフィン系樹脂層との間にEVA樹脂層が配置されている場合には、このEVA樹脂層も)架橋せしめた後、得られた多層二軸延伸フィルムに熱処理を施し、さらに、この熱処理と同時に縦方向及び横方向に緩和(弛緩)処理を施すことによって、深絞り成形に適した多層フィルムが得られる。多層二軸延伸フィルムが管状の場合には、例えば、折り畳まれた管状の多層二軸延伸フィルムの内部に空気を入れながら多層二軸延伸フィルムバブルを形成させ、多層二軸延伸フィルムバブルの外表面側からスチーム又は温水を接触させて熱処理を行い、この熱処理と同時に縦方向及び横方向に緩和(弛緩)処理を施すことによって、深絞り成形に適した多層フィルムが管状体として得られる。なお、この管状の多層フィルムは、縦方向(管状フィルムの流れ方向)にカットして平板状等の形状にして深絞り成形に使用する。熱処理の温度としては60〜95℃が好ましい。熱処理(緩和処理)の温度が前記下限未満になると、緩和処理を十分に行うことができない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、フィルムが蛇行して安定した製造が困難となる傾向にある。また、緩和率としては10〜40%が好ましい。緩和率が前記下限未満になると、深絞り適性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、緩和後のフィルムが不安定となり、安定した製造が困難となる傾向にある。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において使用した樹脂を、その略号とともに下記表1にまとめて示す。さらに、実施例及び比較例における熱収縮性多層フィルムの製造条件を下記表2にまとめて示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例1)
先ず、積層態様が外側から内側へ順に且つかっこ内に示す厚み(単位:μm)で、VLDPE1(5)/EVA1(36)/EMA(2.5)/PVDC(8)/EMA(2.5)/EVA2(18)/EVA3(18)となるように、各樹脂を複数の押出機でそれぞれ溶融押出しし、溶融された樹脂を環状ダイに導入し、ここで上記層構成となるように溶融接合し、共押出し加工を行った。ダイ出口から流出した温度180℃の溶融環状体を水浴中で、10℃に冷却し、扁平幅約186mmの環状体とした。次に、得られた扁平環状体を加速電圧275KeVの電子線照射装置の中で扁平環状体の外側から電子線を照射して100キログレイの照射線量を与え、最外層のVLDPE1とその内側のEVA1を架橋させた。この扁平環状体を約82℃の温水中を通過させながら加熱した後、バブル形状の管状体とし、10℃のエアリングを用いて冷却しながらインフレーション法により縦方向(MD)に3.5倍、横方向(TD)に3.2倍の延伸倍率で同時二軸延伸した。次いで、得られた二軸延伸フィルムを円筒状の熱処理筒中に導き、バブル形状フィルムとし、温度80℃にて縦方向(MD)に20%、横方向(TD)に20%弛緩させながら約2秒間の緩和熱処理を行い、扁平巾約477mmの環状二軸延伸フィルムを得た。この環状二軸延伸フィルムの両耳を切り、幅425mmの深絞り成形用多層フィルムを巻き取った。得られた深絞り成形用多層フィルムの厚みを表2に示す。
【0069】
(実施例2〜5、比較例1〜4)
フィルムの層構成及び製造条件をそれぞれ表2に示す層構成及び製造条件に変更した以外は実施例1と同様にして、二軸延伸フィルム(深絞り成形用多層フィルム)を得た。得られた深絞り成形用多層フィルムの厚みを表2に示す。
【0070】
<深絞り成形用多層フィルムの諸特性の評価>
(1)耐メルトホール性
内径20mm、深さ20mmの容器の開口部に多層フィルムを被せ、直径25mmのシールパッキンで多層フィルムを固定した。次に、容器内を真空(0.005MPa以下)にした後、多層フィルムを容器ごと、所定温度に加熱した熱水中に10秒間浸漬し、多層フィルムに穴が形成されたか否かを確認した。この操作を熱水の温度を変化させながら各温度で5回繰り返し、穴が一つも形成しなかった最も高い温度を求めた。その結果を表3に示す。
【0071】
(2)蓋材/底材間の剥離強度
同じ多層フィルムを2枚準備し、これらを蓋材フィルム及び底材フィルムとして使用した。深絞り成形機(Multivac社製「R255」)を用い、タオルを被包装物として、縦200mm、横145mm、深さ90mmの金型にて、面積絞り比3.1倍、110℃で深絞り成形を行い、蓋材フィルムと底材フィルムとをシールした。得られた包装体のシール部分のシール強度を引張試験機(オリエンテック社製「RTC−1210型」)を用いて測定した。その結果を表3に示す。
【0072】
(3)最低絞り温度
深絞り成形機(Multivac社製「R255」)を用い、縦200mm、横145mm、深さ90mmの金型にて、面積絞り比3.1倍、所定の絞り成形温度で、多層フィルムに深絞り成形を施した。絞り成形温度を75℃から5℃ずつ上昇させながら、この深絞り成形を行い、深絞り成形が可能な最も低い温度を求めた。その結果を表3に示す。
【0073】
(4)開封性
同じ多層フィルムを2枚準備し、これらを蓋材フィルム及び底材フィルムとして使用した。深絞り成形機(Multivac社製「R255」)を用い、タオルを被包装物として、縦200mm、横145mm、深さ90mmの金型にて、面積絞り比3.1倍、前記(3)で求めた最低絞り温度で深絞り成形を行い、蓋材フィルムと底材フィルムとをシールした。得られた包装体を90℃の熱水に3秒間浸漬して多層フィルムを収縮させた後、20℃の水中で冷却した。この包装体の耳部にハサミで切込みを入れ、この切込みから底材方向に切り開いたときの開封のしやすさを下記基準で判定した。その結果を表3に示す。
A:切込みから真っ直ぐに容易に開封することができた。
B:切れ目が曲がり、切込みから真っ直ぐに開封できなかった。
C:切込み先端部で層間剥離が発生し、さらに、真っ直ぐに開封できなかった。
【0074】
【表3】
【0075】
表3に示した結果から明らかなように、最内層がエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層である本発明の深絞り成形用多層フィルム(実施例1〜5)は、最内層がアイオノマー樹脂層の場合(比較例1、3)及びエチレン・メタクリル酸共重合体樹脂層の場合(比較例4)に比べて、蓋材と底材との間の剥離強度が高いことがわかった。
【0076】
また、最内層がエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂層である本発明の深絞り成形用多層フィルム(実施例1〜5)は、最内層がアイオノマー樹脂層の場合(比較例1、3)、VLDPEの場合(比較例2)及びエチレン・メタクリル酸共重合体樹脂層の場合(比較例4)に比べて、容易に開封できるものであった。これは、本発明の深絞り成形用多層フィルム(実施例1〜5)が、最内層がアイオノマー樹脂層の場合(比較例1、3)、VLDPEの場合(比較例2)及びエチレン・メタクリル酸共重合体樹脂層の場合(比較例4)に比べて、低い温度で深絞り成形できることに起因する。
【0077】
さらに、最外層のVLDPEを架橋した本発明の深絞り成形用多層フィルム(実施例1〜5)は、最外層のVLDPEを架橋しなかった場合(比較例1)に比べて、耐メルトホール性に優れていた。なお、比較例2の多層フィルムが耐メルトホール性に優れているのは、VLDPEに比べて融点が高いLLDPEを用いて最外層を形成したためである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明によれば、90℃以下の低温での深絞り成形が可能な多層フィルムを得ることができ、このような多層フィルムを用いて深絞り成形することによって、得られた包装体を容易に開封することが可能となる。
【0079】
したがって、本発明の深絞り成形用多層フィルムは、深絞り成形用の蓋材フィルム、底材フィルム等として有用である。