特許第6682261号(P6682261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6682261-クランクプーリ 図000002
  • 特許6682261-クランクプーリ 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682261
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】クランクプーリ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/126 20060101AFI20200406BHJP
   F16H 55/36 20060101ALI20200406BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20200406BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20200406BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20200406BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   F16F15/126 B
   F16H55/36 H
   F16F15/12 S
   F16C17/04 Z
   F16C17/02 Z
   F16C33/20 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-249660(P2015-249660)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-115927(P2017-115927A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】関根 政勝
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−220389(JP,A)
【文献】 特開2015−059618(JP,A)
【文献】 特開2007−071263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C17/00−17/26
33/00−33/28
F16F15/00−15/36
F16H55/32−55/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトの一端に取り付けられるハブと、
このハブと同心的にかつ円周方向相対変位可能な状態に配置されたプーリ本体と、
前記ハブ側と前記プーリ本体側を互いに円周方向相対変位可能に連結するカップリングゴムと、
前記ハブと前記プーリ本体との間に介装され、前記プーリ本体の軸方向変位を規制するスラストベアリングと、
記ハブの外径部の円周方向1か所で円弧状に延び、当該1か所以外の前記ハブの外径部よりも軸方向及び径方向の肉厚を大きくした形状を有し、前記プーリ本体と軸方向に並列する質量増大部と、
を備えることを特徴とするクランクプーリ。
【請求項2】
前記質量増大部の円周方向中間位置と前記ハブの軸心を挟んで180度対称位置を自らの円周方向中間位置とし、円弧状の凹部として前記ハブの外径部に設けられた質量減少部を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のクランクプーリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジンのクランクシャフトに設けられるクランクプーリであって、特に、エンジンのダイナミックアンバランスを低減するためのカウンターウェイトを設けたものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上を目的とするエンジンのダウンサイジングに伴い、直列3気筒エンジン等の小型エンジンが増えつつある。直列3気筒エンジンの場合、クランクシャフトは最もフロント側の気筒に対応する1番クランクから最もフライホイール側の気筒に対応する3番クランクまで、クランクシャフトの回転軸心に対する各クランクアームの回転方向相対角度が240度間隔となるように配置されている。
【0003】
このため、4気筒エンジンのように各クランクアームの回転方向相対角度が180度間隔で配置されるものと異なり、1番クランクと3番クランクのクランクアームが外観上120度の角度をなしており、したがってクランクシャフトの回転時に、位相がクランク毎に120度異なる遠心力(慣性力)による偶力を生じてみそすり状に振動するダイナミックアンバランスが発生する。そしてこのようなダイナミックアンバランスは、車体を揺する振動となって搭乗者に不快感を与えることから、可及的にダイナミックアンバランスを低減させることが重要である。
【0004】
そこで従来、クランクシャフトのフロント側の端部に取り付けられるクランクプーリに、このクランクプーリにおけるフロント側の端部の慣性偶力を相殺することによってダイナミックアンバランスを低減するためのカウンターウェイトを設けることが知られている(例えば、下記の特許文献参照)。
【0005】
しかし、クランクプーリは、ベルトを介して回転機器へ伝達するトルクの変動を吸収する機構と、クランクシャフトの捩り振動を低減する動的吸振機構を併せ持つトルク変動吸収ダンパを構成しているものの場合、部品点数が多く、しかもこのような機構を有するクランクプーリの構成部品にカウンターウェイトを設けるには、重心の偏心量を大きくするために円周方向の質量アンバランスを大きくする必要があり、重量が大きく増大してしまう懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−226728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
品点数の増大をきたすことなく、ダイナミックアンバランスの低減機能を満足することの可能なクランクプーリを提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ランクシャフトの一端に取り付けられるハブと、このハブと同心的にかつ円周方向相対変位可能な状態に配置されたプーリ本体と、前記ハブ側と前記プーリ本体側を互いに円周方向相対変位可能に連結するカップリングゴムと、前記ハブと前記プーリ本体との間に介装され、前記プーリ本体の軸方向変位を規制するスラストベアリングと、前記ハブの外径部の円周方向1か所で円弧状に延び、当該1か所以外の前記ハブの外径部よりも軸方向及び径方向の肉厚を大きくした形状を有し、前記プーリ本体と軸方向に並列する質量増大部と、を備えるクランクプーリである。
【発明の効果】
【0010】
ブがスラストベアリングを押さえる手段を兼ねるため、部品点数の増大をきたさず、質量増大部がクランクシャフトの回転時のダイナミックアンバランスを相殺するためのカウンターウェイトとして質量アンバランスを確保する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1ランクプーリの好ましい実施の形態を、軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
図2ランクプーリの好ましい実施の形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ランクプーリの好ましい実施の形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。以下の説明において「正面側」とは、図1における左側であって車両のフロント側のことであり、「背面側」とは各図おける右側であってエンジンが存在する側のことである。
【0013】
図1において、参照符号1は、不図示のエンジンのクランクシャフトに取り付けられるハブである。このハブ1は、金属により製作されたものであって、クランクシャフトの軸端が挿入されるボス部11と、このボス部11の正面側の端部から外径側へ延びる内径フランジ部12と、その外径端から正面側へ向けてボス部11と同心の円筒状に延びる中間筒部13と、この中間筒部13の正面側の端部から外径側へ延びる外径フランジ部14と、さらにこの外径フランジ部14の外径端部から正面側へ延びるリム部15を備える。外径フランジ部14には、外径側ほど正面側へ偏在するように、軸心と直交する平面に対して緩やかに傾斜した円錐状傾斜部14aを有する。また、参照符号11aはボス部11の内周面に形成されたキー溝である。
【0014】
ハブ1の中間筒部13の外周面には、金属製のスリーブ2が圧入嵌着されており、その外周側には環状質量体3が配置されており、この環状質量体3とスリーブ2は、ダンパゴム4を介して円周方向相対変位可能に弾性的に連結されている。
【0015】
環状質量体3は金属からなるものであって、スリーブ2と略同等の軸方向長さを有する内周筒部31と、その背面側の端部から外径側へ延びる円盤部32と、さらにこの円盤部32の外径端部から軸方向へ延びる外周筒部33からなる。
【0016】
ダンパゴム4は、ゴム状弾性体(ゴム又はゴム状弾性を有する合成樹脂)からなるものであって、スリーブ2の外周面と、環状質量体3の内周筒部31の内周面に一体的に加硫接着されている。すなわちこのダンパゴム4は、不図示の金型に、スリーブ2と環状質量体3を互いに同心的にセットし、型締めによってスリーブ2の外周面と環状質量体3の内周筒部31の内周面との間に画成される環状のキャビティに、成形用ゴム材料を充填して架橋硬化させることによって、加硫成形と同時にスリーブ2及び環状質量体3の内周筒部31に加硫接着したものである。
【0017】
ダンパゴム4及び環状質量体3は動的吸振部を構成するものであって、この動的吸振部の捩り方向(円周方向)固有振動数は、ダンパゴム4の円周方向剪断ばね定数と、環状質量体3の円周方向慣性質量によって、クランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域、すなわちクランクシャフトの捩り方向固有振動数域に同調されている。
【0018】
参照符号5は、ハブ1と同心的にかつ円周方向相対変位可能な状態で配置されたプーリ本体である。このプーリ本体5は金属からなるものであって、環状質量体3の外周筒部33に耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂で円筒状に成形されたラジアルベアリング6を介して支持されたプーリ部51と、このプーリ部51から正面側へ延びる外径筒部52と、その正面側の端部からハブ1のリム部15の背面側から内径方向へ延びる接合フランジ部53からなる。プーリ部51の外周面には円周方向へ延びる複数のV溝(ポリV溝)51aが形成されて、不図示の無端ベルトが巻き掛けられるようになっており、接合フランジ部53は、ハブ1における外径フランジ部14の円錐状傾斜部14aに対応して、外径側ほど正面側へ偏在するように、軸心と直交する平面に対して緩やかに傾斜した円錐面をなしている。
【0019】
環状質量体3の内周筒部31の外周面には、カップリング支持環7が嵌着されている。このカップリング支持環7は金属板のプレス等によって成形されたものであって、環状質量体3の内周筒部31における円盤部32寄りの外周面に圧入嵌着された嵌合筒部71と、その背面側の端部から環状質量体3の円盤部32に沿って延びる接合フランジ部72からなる。接合フランジ部72は、外径側ほど背面側へ偏在するように、すなわちプーリ本体5の接合フランジ部53と反対側へ傾斜した円錐面状をなしている。
【0020】
カップリング支持環7の接合フランジ部72と、その正面側に位置するプーリ本体5の接合フランジ部53は、略円筒状に延びるカップリングゴム8を介して、円周方向相対変位可能に弾性的に連結されている。
【0021】
カップリングゴム8はゴム状弾性材料からなるものであって、カップリング支持環7の接合フランジ部72と、プーリ本体5の接合フランジ部53に一体的に加硫接着されている。すなわちこのカップリングゴム8は、不図示の金型にカップリング支持環7とプーリ本体5を同心的にセットし、型締めによってこのカップリング支持環7の接合フランジ部72とプーリ本体5の接合フランジ部53の間に画成されるキャビティに、成形用ゴム材料を充填して架橋硬化させることによって、加硫成形と同時に接合フランジ部72,53に加硫接着したものである。
【0022】
そしてこのカップリングゴム8は、クランクシャフトからハブ1、スリーブ2及びダンパゴム4を介して環状質量体3へ入力された駆動トルクを、カップリング支持環7とプーリ本体5の接合フランジ部53との間での円周方向剪断変形によって平滑化しながら、プーリ本体5へ伝達するものである。そしてクランクシャフトのトルク変動は、アイドリング以下の低回転領域で大きくなるため、カップリングゴム8は、ばね定数を極力低くすると共に捩り方向への許容変形量を極力大きくし、所要のトルク伝達力を確保するために、軸方向及び径方向肉厚が十分に大きなものとなっている。また、カップリング支持環7の接合フランジ部72とプーリ本体5の接合フランジ部53が外径側へ互いに開く円錐面状をなすことによって、カップリングゴム8は軸方向肉厚が外周側ほど増大しており、このため環状質量体3とプーリ本体5の間で円周方向剪断変形を受けた時に、内周側と外周側とで歪応力がほぼ均一となるようになっている。
【0023】
ハブ1における外径フランジ部14の円錐状傾斜部14aと、その背面側に存在するプーリ本体5の接合フランジ部53との間には、スラストベアリング9が介在している。このスラストベアリング9は、ラジアルベアリング6と同様の耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂からなるものであって、ワッシャ状に成形されている。
【0024】
ハブ1のリム部15は、プーリ本体5における外径筒部52と略同径となっている。そして図2にも示すように、ハブ1の外径部には、円周方向1か所に、プーリ本体5と軸方向に並列する質量増大部16が形成されている。この質量増大部16は、外径フランジ部14の外径部からリム部15にかけての部分の断面積(軸方向及び径方向の肉厚)を大きくしたものであって、円弧状に延びており、ハブ1の重心を、このハブ1の回転軸心と質量増大部16の円周方向中間位置とを結ぶ方向へ移動させるものである。
【0025】
また、ハブ1の外径フランジ部14の外径部には、質量減少部17が形成されている。この質量減少部17は、質量増大部16と180度対称位置の質量を小さくするために外径フランジ部14の肉厚を薄くしたものであって、図示の例では、同形同大の円弧状の凹部として円周方向2か所に形成され、この2つの質量減少部17,17の間の部分が、質量増大部16の円周方向中間位置と180度異なる位相上にあり、これによって、ハブ1の重心を、質量増大部16による重心移動方向と同方向へ移動させるものである。
【0026】
以上の構成を備えるクランクプーリは、自動車エンジンのクランクシャフトの軸端に、ハブ1のボス部11が装着されることによって、このクランクシャフトと一体的に回転し、クランクシャフトの駆動トルクを、プーリ本体5のプーリ部51に巻き掛けられた不図示のベルトを介して補機の回転軸に伝達するものである。
【0027】
そして低回転域でクランクシャフトに顕著に発生するトルク変動は、ハブ1からダンパゴム4を介して環状質量体3に伝達されるが、この環状質量体3に取り付けられたカップリング支持環7とプーリ本体5の接合フランジ部53との間を連結しているカップリングゴム8は、ダンパゴム4に比較して円周方向剪断ばね定数が著しく低いため、入力されたトルク変動に応じて円周方向へ繰り返し剪断変形され、伝達トルクを平滑化する。このため、プーリ本体5と、これに巻き掛けられたベルトとのスリップが防止される。
【0028】
また、ダンパゴム4と環状質量体3からなる動的吸振部は、クランクシャフトの共振によってその捩れ角が最大となる振動数域で円周方向に共振し、その共振によるトルクは、入力振動のトルクと方向が逆になるため、クランクシャフトの共振による捩れ角のピークを有効に低減することができる。
【0029】
ここで、例えば直列3気筒エンジンの場合、先に説明したように、クランクシャフトはその回転軸心に対する各クランクアームの回転方向相対角度が240度間隔となるように配置されていることから、回転時には、位相がクランク毎に120度異なる慣性力による偶力を生じて、クランクシャフトがみそすり状に振動するダイナミックアンバランスが発生する。そして、上記構成のクランクプーリは、このようなダイナミックアンバランスを低減する機能を有するものである。
【0030】
詳しくは、ハブ1は、このハブ1の外径部に設けた質量増大部16及び質量減少部17によって重心が偏心しており、その偏心の方向がクランクシャフトの一端に作用する偶力を相殺する偶力を生じる方向となるように、クランクシャフトの一端に取り付けられる。具体的には、例えば質量増大部16の中央部の位相が、最もフロント側の気筒に対応する1番クランクに設けられたカウンターウェイトと同位相となるように取り付けられる。このためハブ1は、その重心が偏心していることによるカウンターウェイトを有するものであり、これによってダイナミックアンバランスを有効に低減させることができる。
【0031】
特に上記構成によれば、ハブ1は、リム部15の外径がプーリ本体5における外径筒部52の外径と略同径であって、すなわち大径に形成されているため、その外径部に形成された質量増大部16による重心の偏心量が大きくなり、しかもそれに加え、質量増大部16による重心移動方向と反対側に質量減少部17,17を設けたことによって、重心の偏心量がさらに大きくなるので、有効なカウンターウェイトを得ることができると共に、ハブ1の重量増大を抑制することができる。
【0032】
また、スラストベアリング9は、プーリ本体5の接合フランジ部53を正面側から円周方向摺動自在に支承することによって、カップリングゴム8との間でプーリ本体5の軸方向挙動を規制するものであって、ハブ1は、このスラストベアリング9を正面側から押さえる手段を兼ねている。したがって、上記構成によれば、このスラストベアリング9を支持するためのスラスト受け部材などを別途取り付ける必要がないので、部品点数を減少させることができる。
【0033】
なお、ハブ1は、リム部15の外径がプーリ本体5における外径筒部52の外径よりも大きなものであっても良く、これによって、より有効なカウンターウェイトを付与することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ハブ
16 質量増大部
17 質量減少部
3 環状質量体
4 ダンパゴム
5 プーリ本体
51 プーリ部
52 外径筒部
53 接合フランジ部
8 カップリングゴム
9 スラストベアリング
図1
図2