(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、粘性抵抗を低めつつ、機械システムに求められるちょう度を確保することは必ずしも容易ではない。そして、従来のグリースの場合、基油組成、増ちょう剤量のバランスを図りつつ、最適処方を経験的に実践するしかなかった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、軸受回転抵抗が低く、特には軸受回転時のトルクを大幅に低減することができ、かつ優れた軸受疲労寿命を満足しうるグリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、グリースに特定の性状を有する基油を用いることにより、軸受疲労寿命を維持しつつ、軸受回転時のトルクを大幅に低減することができることを見出した。
【0010】
なお、軸受を回転する際に必要とされるエネルギーを低減し、低トルク化を図るには、軸受転動体(玉、ころ)と軌道輪(内輪および外輪)間の転がり抵抗を極力低めることが重要であり、一般的には潤滑油剤(潤滑油やグリース)の基油を低粘度化することが有用と考えられている。しかし、グリースの場合、増ちょう剤を製造する過程で基油を160℃以上の高温条件に曝す必要があり、基油の蒸発、安全性の面で低粘度化には限界があった。つまり、グリースに用いる基油としては、少なくとも引火点が160℃以上の必要がある。
【0011】
一方、本発明者は、まず、軸受の油膜形成能、温度変化に伴う潤滑油基油の粘度変化に着目し、軸受転動体と軌道輪間に十分な油膜を形成してこれらの直接接触によるエネルギー損失を低減するためには、基油が特定の性状を有すること、特には、高い粘度指数を有する成分であるパラフィン成分(n−d−M環分析)を多く含有させることが有効であることを見出した。
【0012】
しかし、潤滑油基油中のパラフィン成分が多くても、該パラフィン成分が適度な分岐を有しないと、低温域での粘度増加が大きくなり、低温での軸受起動においてトルクが高まり、実用上問題となる。
【0013】
そこで本発明者は、さらに検討を重ねた結果、低温での軸受起動におけるトルク上昇の原因となるパラフィン分の含有量の指標として、尿素アダクト値が有効であることを見出した。そして、尿素アダクト値、%C
P、%C
A及び粘度指数がそれぞれ特定条件を満たす潤滑油基油を用いることによって、低温での起動トルク急増を抑えつつ、常温から高温域にわたって軸受の低トルク化を図ることができ、軸受などの機械要素のトルク損失を低減できることを見出した。
【0014】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記[1]又は[2]に記載のグリース組成物を提供する。
[1]尿素アダクト値が4質量%以下、%C
Pが70以上、%C
Aが2以下、粘度指数が105以上である潤滑油基油と、増ちょう剤と、を含有するグリース組成物。
[2]上記潤滑油基油の粘度指数が120以上である、[1]に記載のグリース組成物。
[3]グリース組成物全量を基準として、前記潤滑油基油を70〜95質量%、前記増ちょう剤を5〜30質量%含有する、[1]又は[2]に記載のグリース組成物。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載のグリース組成物の機械要素への使用。
[5]機械要素が軸受である、[5]に記載の機械要素への使用。
[6][1]〜[3]のいずれかに記載のグリース組成物により機械要素を潤滑する、機械要素のトルクの低減方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のグリース組成物は、軸受疲労寿命を維持しつつ、軸受の回転に必要なトルクが少なくて済むという格別の効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明の実施形態に係るグリース組成物は、尿素アダクト値が4質量%以下、%C
Pが70以上、%C
Aが2以下、粘度指数が105以上である潤滑油基油と、増ちょう剤と、を含有する。
【0018】
潤滑油基油の尿素アダクト値は、低温域での粘度増加を抑制し、低温での軸受起動におけるトルク上昇を抑制する観点から、4質量%以下であり、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。また、潤滑油基油の尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、低温での軸受起動におけるトルク上昇を十分に抑制しつつ、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
【0019】
本発明でいう尿素アダクト値は以下の方法により測定される。秤量した試料油(潤滑油基油)100gを丸底フラスコに入れ、尿素200g、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に尿素アダクト物として白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた尿素アダクト物の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。
尿素アダクト値の測定においては、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温での軸受起動におけるトルク上昇の原因となる成分、さらには潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィンを精度よく且つ確実に捕集することができるため、ノルマルパラフィン及び上記特定のイソパラフィンの含有割合の指標として優れている。なお、本発明者らは、GC及びNMRを用いた分析により、尿素アダクト物の主成分が、ノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認している。
【0020】
また、潤滑油基油の%C
pは、70以上であり、好ましくは70〜99、より好ましくは72〜97である。%C
pが70未満であると粘度指数が低く、トルクの低減効果が不十分となる。また、入手性やコスト面の観点から、%C
pは99以下が好ましい。
【0021】
潤滑油基油の%C
Aは、高粘度指数化の観点から、2以下であり、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下である。
【0022】
なお、本発明でいう%C
P及び%C
Aとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、及び芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C
P、及び%C
Aの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものである。
【0023】
本実施形態における潤滑油基油の粘度指数は、105以上であり、好ましくは110〜200、更に好ましくは120〜180である。粘度指数が105未満であると発熱による粘度低下の抑制効果が不十分となり、また、200を超えると高温での粘度低下が少ない分、流動抵抗が増大し、低トルク化が図れなくなる。
【0024】
また、本実施形態における潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは2.0〜22mm
2/s、より好ましくは2.2〜20mm
2/s、さらに好ましくは2.4〜15mm
2/s、特に好ましくは3.0〜8.0mm
2/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度が2.0mm
2/s未満の場合、グリース製造時の高温加熱により潤滑油基油が揮発する恐れがある。また、100℃における動粘度が22.0mm
2/sを超える潤滑油基油を得ようとする場合、その収率が低くなり、原料として重質ワックスを用いる場合であっても分解率を高めることが困難となる傾向にある。
【0025】
また、本実施形態における潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは5.0〜200mm
2/s、より好ましくは8.0〜150mm
2/s、さらに好ましくは10〜100mm
2/sである。
【0026】
本実施形態における潤滑油基油を製造するに際し、ノルマルパラフィンを含有する原料油を用いることができる。原料油は、鉱物油又は合成油のいずれであってもよく、あるいはこれらの2種以上の混合物であってもよい。また、原料油中のノルマルパラフィンの含有量は、原料油全量を基準として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、一層好ましくは90質量%、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは97質量%以上である。
【0027】
また、本発明で用いられる原料油は、ASTM D86又はASTM D2887に規定する潤滑油範囲で沸騰するワックス含有原料であることが好ましい。原料油のワックス含有率は、原料油全量を基準として、好ましくは50質量%以上100質量%以下である。原料のワックス含有率は、核磁気共鳴分光法(ASTM D5292)、相関環分析(n−d−M)法(ASTM D3238)、溶剤法(ASTM D3235)などの分析手法によって測定することができる。
【0028】
ワックス含有原料としては、例えば、ラフィネートのような溶剤精製法に由来するオイル、部分溶剤脱ロウ油、脱瀝油、留出物、減圧ガスオイル、コーカーガスオイル、スラックワックス、フーツ油、フィッシャー−トロプシュ・ワックスなどが挙げられ、これらの中でもスラックワックス及びフィッシャー−トロプシュ・ワックスが好ましい。
【0029】
スラックワックスは、典型的には溶剤またはプロパン脱ロウによる炭化水素原料に由来する。スラックワックスは残留油を含有し得るが、この残留油は脱油により除去することができる。フーツ油は脱油されたスラックワックスに相当するものである。
【0030】
また、フィッシャー−トロプシュ・ワックスは、いわゆるフィッシャー−トロプシュ合成法により製造される。
【0031】
さらに、ノルマルパラフィンを含有する原料油として市販品を用いてもよい。具体的には、パラフィリント(Paraflint)80(水素化フィッシャー−トロプシュ・ワックス)およびシェルMDSワックス質ラフィネート(Shell MDS Waxy Raffinate)(水素化および部分異性化中間留出物合成ワックス質ラフィネート)などが挙げられる。
【0032】
また、溶剤抽出に由来する原料油は、常圧蒸留からの高沸点石油留分を減圧蒸留装置に送り、この装置からの蒸留留分を溶剤抽出することによって得られるものである。減圧蒸留からの残渣は、脱瀝されてもよい。溶剤抽出法においては、よりパラフィニックな成分をラフィネート相に残したまま抽出相に芳香族成分を溶解する。ナフテンは、抽出相とラフィネート相とに分配される。溶剤抽出用の溶剤としては、フェノール、フルフラールおよびN−メチルピロリドンなどが好ましく使用される。溶剤/油比、抽出温度、抽出されるべき留出物と溶剤との接触方法などを制御することによって、抽出相とラフィネート相との分離の程度を制御することができる。さらに原料として、より高い水素化分解能を有する燃料油水素化分解装置を使用し、燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を用いてもよい。
【0033】
上記の原料油について、得られる被処理物の尿素アダクト値が4質量%以下且つ粘度指数が100以上となるように、水素化分解/水素化異性化を行う工程を経ることによって、本発明の潤滑油基油を得ることができる。水素化分解/水素化異性化工程は、得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数が上記条件を満たせば特に制限されない。本発明における好ましい水素化分解/水素化異性化工程は、
ノルマルパラフィンを含有する原料油について、水素化処理触媒を用いて水素化処理する第1工程と、
第1工程により得られる被処理物について、水素化脱ロウ触媒を用いて水素化脱ロウする第2工程と、
第2工程により得られる被処理物について、水素化精製触媒を用いて水素化精製する第3工程と
を備える。
【0034】
なお、従来の水素化分解/水素化異性化においても、水素化脱ロウ触媒の被毒防止のための脱硫・脱窒素を目的として、水素化脱ロウ工程の前段に水素化処理工程が設けられることはある。これに対して、本発明における第1工程(水素化処理工程)は、第2工程(水素化脱ロウ工程)の前段で原料油中のノルマルパラフィンの一部(例えば10質量%程度、好ましくは1〜10質量%)を分解するために設けられたものであり、当該第1工程においても脱硫・脱窒素は可能であるが、従来の水素化処理とは目的を異にする。かかる第1工程を設けることは、第3工程後に得られる被処理物(潤滑油基油)の尿素アダクト値を確実に4質量%以下とする上で好ましい。
【0035】
上記第1工程で用いられる水素化触媒としては、6族金属、8〜10族金属、およびそれらの混合物を含有する触媒などが挙げられる。好ましい金属としては、ニッケル、タングステン、モリブデン、コバルトおよびそれらの混合物が挙げられる。水素化触媒は、これらの金属を耐熱性金属酸化物担体上に担持した態様で用いることができ、通常、金属は担体上で酸化物または硫化物として存在する。また、金属の混合物を用いる場合は、金属の量が触媒全量を基準として30質量%以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。金属酸化物担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナまたはチタニアなどの酸化物が挙げられ、中でもアルミナが好ましい。好ましいアルミナは、γ型またはβ型の多孔質アルミナである。金属の担持量は、触媒全量を基準として、0.5〜35質量%の範囲であることが好ましい。また、9〜10族金属と6族金属との混合物を用いる場合には、9族または10族金属のいずれかが、触媒全量を基準として、0.5〜5質量%の量で存在し、6族金属は5〜30質量%の量で存在することが好ましい。金属の担持量は、原子吸収分光法、誘導結合プラズマ発光分光分析法または個々の金属について、ASTMで指定された他の方法によって測定されてもよい。
【0036】
金属酸化物担体の酸性は、添加物の添加、金属酸化物担体の性質の制御(例えば、シリカ−アルミナ担体中へ組み入れられるシリカの量の制御)などによって制御することができる。添加物の例には、ハロゲン、特にフッ素、リン、ホウ素、イットリア、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類酸化物、およびマグネシアが挙げられる。ハロゲンのような助触媒は、一般に金属酸化物担体の酸性を高めるが、イットリアまたはマグネシアのような弱塩基性添加物はかかる担体の酸性を弱くする傾向がある。
【0037】
水素化処理条件に関し、処理温度は、好ましくは150〜450℃、より好ましくは200〜400℃であり、水素分圧は、好ましくは1400〜20000kPa、より好ましくは2800〜14000kPaであり、液空間速度(LHSV)は、好ましくは0.1〜10hr
−1、より好ましく0.1〜5hr
−1であり、水素/油比は、好ましくは50〜1780m
3/m
3、より好ましくは89〜890m
3/m
3である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第1工程における水素化処理条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0038】
第1工程において水素化処理された後の被処理物は、そのまま第2工程に供してもよいが、当該被処理物についてストリッピングまたは蒸留を行い、被処理物(液状生成物)からガス生成物を分離除去する工程を、第1工程と第2工程との間に設けることが好ましい。これにより、被処理物に含まれる窒素分及び硫黄分を、第2工程における水素化脱ロウ触媒の長期使用に影響を及ぼさないレベルにまで減らすことができる。ストリッピング等による分離除去の対象は主として硫化水素およびアンモニアのようなガス異物であり、ストリッピングはフラッシュドラム、分留器などの通常の手段によって行うことができる。
【0039】
また、第1工程における水素化処理の条件がマイルドである場合には、使用する原料によって残存する多環芳香族分が通過する可能性があるが、これらの異物は、第3工程における水素化精製により除去されてもよい。
【0040】
また、第2工程で用いられる水素化脱ロウ触媒は、結晶質又は非晶質のいずれの材料を含んでもよい。結晶質材料としては、例えば、アルミノシリケート(ゼオライト)またはシリコアルミノホスフェート(SAPO)を主成分とする、10または12員環通路を有するモレキュラーシーブが挙げられる。ゼオライトの具体例としては、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、フェリエライト、ITQ−13、MCM−68、MCM−71などが挙げられる。また、アルミノホスフェートの例としては、ECR−42が挙げられる。モレキュラーシーブの例としては、ゼオライトベータ、およびMCM−68が挙げられる。これらの中でも、ZSM−48、ZSM−22およびZSM−23から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、ZSM−48が特に好ましい。水素化脱ロウ触媒の還元は、水素化脱ロウの際にその場で起こり得るが、予め還元処理が施された水素化脱ロウ触媒を水素化脱ロウに供してもよい。
【0041】
また、水素化脱ロウ触媒の非晶質材料としては、3族金属でドープされたアルミナ、フッ化物化アルミナ、シリカ−アルミナ、フッ化物化シリカ−アルミナ、シリカ−アルミナなどが挙げられる。
【0042】
脱ロウ触媒の好ましい態様としては、二官能性、すなわち、少なくとも1つの6族金属、少なくとも1つの8−10族金属、またはそれらの混合物である金属水素添加成分が装着されたものが挙げられる。好ましい金属は、白金、パラジウムまたはそれらの混合物などの9〜10族貴金属である。これらの金属の装着量は、触媒全量を基準として好ましくは0.1〜30質量%である。触媒調製および金属装着方法としては、例えば分解性金属塩を用いるイオン交換法および含浸法が挙げられる。
【0043】
なお、モレキュラーシーブを用いる場合、水素化脱ロウ条件下での耐熱性を有するバインダー材料と複合化してもよく、またはバインダーなし(自己結合)であってもよい。バインダー材料としては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカとチタニア、マグネシア、トリア、ジルコニアなどのような他の金属酸化物との二成分の組合せ、シリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−マグネシアなどのような酸化物の三成分の組合せなどの無機酸化物が挙げられる。水素化脱ロウ触媒中のモレキュラーシーブの量は、触媒全量を基準として、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは35〜100質量%である。水素化脱ロウ触媒は、噴霧乾燥、押出などの方法によって形成される。水素化脱ロウ触媒は、硫化物化または非硫化物化した態様で使用することができ、硫化物化した態様が好ましい。
【0044】
水素化脱ロウ条件に関し、温度は好ましくは250〜400℃、より好ましくは275〜350℃であり、水素分圧は好ましくは791〜20786kPa、より好ましくは1480〜17339kPaであり、液空間速度は好ましくは0.1〜10hr
−1、より好ましくは0.1〜5hr
−1であり、水素/油比は好ましくは45〜1780m
3/m
3、より好ましくは89〜890m
3/m
3である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第2工程における水素化脱ロウ条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0045】
第2工程で水素化脱ロウされた被処理物は、第3工程における水素化精製に供される。水素化精製は、残留ヘテロ原子および色相体の除去に加えて、オレフィンおよび残留芳香族化合物を水素化により飽和することを目的とするマイルドな水素化処理の一形態である。第3工程における水素化精製は、脱ロウ工程とカスケード式で実施することができる。
【0046】
第3工程で用いられる水素化精製触媒は、6族金属、8〜10族金属又はそれらの混合物を金属酸化物担体に担持させたものであることが好ましい。好ましい金属としては、貴金属、特に白金、パラジウムおよびそれらの混合物が挙げられる。金属の混合物を用いる場合、金属の量が触媒を基準にして30質量%もしくはそれ以上であるバルク金属触媒として存在してもよい。触媒の金属含有率は、非貴金属については20質量%以下、貴金属については1質量%以下が好ましい。また、金属酸化物担体としては、非晶質または結晶質酸化物のいずれであってもよい。具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナまたはチタニアのような低酸性酸化物が挙げられ、アルミナが好ましい。芳香族化合物の飽和の観点からは、多孔質担体上に比較的強い水素添加機能を有する金属が担持された水素化精製触媒を用いることが好ましい。
【0047】
好ましい水素化精製触媒として、M41Sクラスまたは系統の触媒に属するメソ細孔性材料を挙げることができる。M41S系統の触媒は、高いシリカ含有率を有するメソ細孔性材料であり、具体的には、MCM−41、MCM−48およびMCM−50が挙げられる。かかる水素化精製触媒は1.5〜10nmの細孔径を有するものであり、MCM−41が特に好ましい。MCM−41は、一様なサイズの細孔の六方晶系配列を有する無機の多孔質非層化相である。MCM−41の物理構造は、ストローの開口部(細孔のセル径)が1.5〜10nmの範囲であるストローの束のようなものである。MCM−48は、立方体対称を有し、MCM−50は、層状構造を有する。MCM−41は、メソ細孔性範囲の異なるサイズの細孔開口部で製造することができる。メソ細孔性材料は、8族、9族または10族金属の少なくとも1つである金属水素添加成分を有してもよく、金属水素添加成分としては、貴金属、特に10族貴金属が好ましく、白金、パラジウムまたはそれらの混合物が最も好ましい。
【0048】
水素化精製の条件に関し、温度は好ましくは150〜350℃、より好ましくは180〜250℃であり、全圧は好ましくは2859〜20786kPaであり、液空間速度は好ましくは0.1〜5hr
−1、より好ましくは0.5〜3hr
−1であり、水素/油比は好ましくは44.5〜1780m
3/m
3である。なお、上記の条件は一例であり、第3工程後に得られる被処理物の尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすための第3工程における水素化生成条件は、原料や処理装置の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
【0049】
また、第3工程後に得られる被処理物については、必要に応じて、蒸留等により所定の成分を分離除去してもよい。
【0050】
潤滑油基油は、グリース組成物全量基準で、70〜95質量%が好ましく、75〜90質量%とすることが特に好ましい。潤滑油基油の含有量が70〜95質量%の範囲を外れると所望のちょう度を有するグリース組成物を簡便に調製でき難くなる。
【0051】
増ちょう剤としては、金属石けん、複合金属石けんなどの石けん系増ちょう剤、ベントン、シリカゲル、ウレア系化合物(ジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物など)の非石けん系化増ちょう剤などのあらゆる増ちょう剤が使用可能である。耐熱性の観点からは、ウレア化合物およびウレア・ウレタン化合物から選択される少なくとも1種を含有することが望ましい。
【0052】
石けん系増ちょう剤としては、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム複合石けん、リチウム複合石けんなどが挙げられる。
【0053】
ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア化合物;ウレア・ウレタン化合物;ジウレタン化合物などのウレタン化合物、あるいはこれらの2種以上の混合物などが挙げられ、中でもジウレア化合物が好ましい。
【0054】
ジウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジイソシアネートとアミンとの反応で得られるジウレア化合物が挙げられる。
【0055】
ジイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネートや脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートなどがある。これらのジイソシアネートとしては、例えば炭化水素基を有するジイソシアネートが挙げられる。該炭化水素基は、飽和又は不飽和であってよく、また直鎖状又は分岐鎖状であってもよい。一例として、脂肪族ジイソシアネートとしては、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜、脂環式ジイソシアネートとしては、シクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等が好ましい。また、モノアミンとしては、脂肪族モノアミンや脂環式モノアミン、芳香族モノアミンなどがある。これらのモノアミンとしては、例えば炭化水素基を有するアミンが挙げられる。該炭化水素基は飽和又は不飽和であってよく、また直鎖状又は分岐鎖状であってもよい。一例として、脂肪族モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、脂環式モノアミンとしては、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、芳香族モノアミンとしては、アニリン、p−トルイジン等が好ましい。
【0056】
増ちょう剤は、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。この増ちょう剤の含有量は、所望のちょう度が得られれば良く、例えば、グリース組成物の全量基準で、好ましくは2〜30質量%又は5〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%又は10〜20質量%である。
【0057】
本実施形態に係るグリース組成物は、上記成分以外に、必要に応じて、一般に潤滑油やグリースに用いられている、例えば、清浄剤、分散剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、極圧剤、防錆剤、腐食防止剤などを適宜添加することができる。これらの上記成分以外の成分は、グリース組成物の全量基準で、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0058】
本実施形態に係るグリース組成物の製造方法は、潤滑油基油と、増ちょう剤と、を混合してグリース組成物を得る工程を備える。
【0059】
なお、本実施形態においては、予め調製した増ちょう剤を潤滑油基油と混合してもよく、あるいは、潤滑油基油に増ちょう剤の原料を配合し、潤滑油基油中で反応させて増ちょう剤を得てもよい。例えば、ウレア系増ちょう剤を用いる場合は、ウレア化合物の形で潤滑油基油に配合してもよいが、ジイソシアネートとアミン類を潤滑油基油に配合して、グリース作製時に反応させてウレア系増ちょう剤としてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
[基油A]
燃料油水素化分解装置から得られるボトム留分を潤滑油基油の原料として用い、水素化処理触媒を用いて水素化処理を行った。このとき、原料油中のノルマルパラフィンの分解率が10質量%以下となるように、反応温度および液空間速度を調整した。さらに、水素化処理により得られた被処理物について、貴金属含有量0.1〜5質量%に調整されたゼオライト系水素化脱ろう触媒を用い、315〜325℃の温度範囲で水素化脱ろうを行い、脱ろう油を得た。さらに、この脱ろう油を水素化精製触媒を用いて、水素化精製した。その後、蒸留により得られた下記性状の潤滑油基油を基油Aとして用いた。
尿素アダクト値:2質量%
%C
P:76
%C
A:0
40℃における動粘度:37.8mm
2/s
100℃における動粘度:6.7mm
2/s
粘度指数:133
【0062】
[基油B]
溶剤精製基油を精製する工程において減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。溶剤脱ろうの際に除去され、スラックワックスとして得られたワックス分を、潤滑油基油の原料として用い、水素化処理触媒を用いて水素化処理を行った。このとき、原料油中のノルマルパラフィンの分解率が10質量%以下となるように、反応温度および液空間速度を調整した。さらに、水素化処理により得られた被処理物について、貴金属含有量0.1〜5質量%に調整されたゼオライト系水素化脱ろう触媒を用い、315〜325℃の温度範囲で水素化脱ろうを行い、脱ろう油を得た。さらに、この脱ろう油を水素化精製触媒を用いて、水素化精製した。その後、蒸留により得られた下記性状の潤滑油基油を基油Bとして用いた。
尿素アダクト値:2質量%
%C
P:95
%C
A:0
40℃における動粘度:33.0mm
2/s
100℃における動粘度:6.8mm
2/s
粘度指数:167
【0063】
[基油C]
常圧蒸留残渣を減圧蒸留した留出油を溶剤精製して得られた、以下の性状の潤滑油基油を基油Cとして用いた。
尿素アダクト値:5質量%
%C
P:66
%C
A:5
40℃における動粘度:32.0mm
2/s
100℃における動粘度:5.5mm
2/s
粘度指数:100
【0064】
[基油D]
溶剤精製基油の減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。溶剤脱ろうの際に除去され、スラックワックスとして得られたワックス分を、潤滑油基油の原料として用い、水素化処理を行った。このとき、反応温度および液空間速度を調整し、水素化処理により得られた被処理物の水素化脱ろうの温度条件を300℃程度と低く調整し、得られたラフィネートの水素化精製した。その後、蒸留により得られた下記性状の潤滑油基油を基油Dとして用いた。
尿素アダクト値:5質量%
%C
P:75
%C
A:0
40℃における動粘度:32.0mm
2/s
100℃における動粘度:6.0mm
2/s
粘度指数:130
【0065】
[増ちょう剤A]
増ちょう剤Aとして、ステアリン酸(1モル当量)と水酸化リチウム(1モル当量)とを反応させて得られるステアリン酸リチウム化合物を用いた。
【0066】
[増ちょう剤B]
増ちょう剤Bとして、ジフェニルメタンジイソシアネート(1モル当量)とシクロヘキシルアミン(2モル当量)とを反応させて得られるジウレア化合物を用いた。
【0067】
[酸化防止剤]
アミン系酸化防止剤として、フェニル−α−ナフチルアミンを用いた。
【0068】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
実施例1〜4及び比較例1〜4においては、それぞれ表1に示す組成を有するグリース組成物を調製した。
実施例1,3及び比較例1,3においては、潤滑油基油として基油A、B、C又はDを用い、この潤滑油基油にステアリン酸を加えて加熱溶解させた。次いで、水酸化リチウムを水に加熱溶解させて得られた溶液を添加し、加熱攪拌しながら水分を蒸発させた。更に、反応生成物が溶解するまで加熱昇温させた後、同基油を加えるとゲル状物質が生じるので、攪拌しながら冷却し、酸化防止剤を添加した後、これらをロールミルに通して実施例1,3及び比較例1,3のグリース組成物を得た。
実施例2、4及び比較例2、4においては、潤滑油基油として基油A、B、C又はDを用い、この潤滑油基油にジフェニルメタンジイソシアネートを添加し加熱溶解させた。次いで、シクロヘキシルアミンを同基油に溶解させたものを加えるとゲル状物質が生じるので、酸化防止剤を添加した後、これらをロールミルに通して実施例2、4及び比較例2、4のグリース組成物を得た。
【0069】
[評価試験:ちょう度]
実施例1〜4及び比較例1〜4のグリース組成物について、グリース組成物の硬さを、JIS K2220のちょう度試験により比較した。本試験においては、25℃の温度で60回の混和をした後に、ちょう度を測定した。
【0070】
[評価試験:トルク評価]
実施例1〜4及び実施例1〜4のグリース組成物を用いて、軸受回転時におけるトルクを以下の手法により計測した。
軸受は単列深溝玉軸受6204VVを用いた。試験前に軸受内部を有機溶剤で十分洗浄した後、各グリース組成物を、軸受の玉、軌道輪、保持器の隙間に注射器で2g注入した。試験機には、神鋼造機株式会社製曽田式グリース寿命試験機を用いた。軸受回転数を8000rpm、温度を室温とし、試験開始時のトルク(起動トルク)と試験20時間後のトルク(回転トルク)とを比較した。繰り返し実験回数は2回とした。得られた結果を表1に示す。なお、表1中の起動トルク及び回転トルクは2回の実験の平均値である。
【0071】
[評価試験:軸受疲労寿命評価]
実施例1〜4及び比較例1〜4のグリース組成物を用いて、軸受疲労寿命を以下の手法により計測した。
軸受は単式スラスト玉軸受51110を用いた。試験前に軸受の玉24個のうち21個を取り除き、残りの3個が均等に配置されるように取り外した。軸受内部を有機溶剤で十分洗浄した後、各グリース組成物を、軸受に塗布した。試験機には神鋼造機株式会社製ユニスチール試験機を用いた。イギリス石油学会法IP305に準拠し、軸受回転数を1500rpm、温度を室温とし、疲労寿命を迎えるまでの時間からL50(50%寿命)を算出した。繰り返し実験回数は10回とした。得られた結果を表1に示す。
【0072】
[評価試験:低温トルク試験]
実施例1〜4及び比較例1〜4のグリース組成物を用いて、−20℃における低温トルクをJIS K2220に従って測定した。
【0073】
【表1】