(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682285
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】ヘッドホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
H04R1/10 102
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-17360(P2016-17360)
(22)【出願日】2016年2月1日
(65)【公開番号】特開2017-139523(P2017-139523A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年1月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 販売日 平成27年10月11日 販売した場所 大阪府大阪市中央区千日前2丁目10番1号 ビックカメラ なんば店
(73)【特許権者】
【識別番号】393010318
【氏名又は名称】エレコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138416
【弁理士】
【氏名又は名称】北田 明
(72)【発明者】
【氏名】趙 啓志
(72)【発明者】
【氏名】本間 始
【審査官】
柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭50−018226(JP,U)
【文献】
特開2013−138350(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0158301(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第03188494(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の耳当部と、
前記一対の耳当部どうしを一体化し使用者の頭頂部に掛けられるヘッドバンドとを備え、
前記一対の耳当部は、
オーディオ信号を音として出力するスピーカを備えたハウジングと、
前記スピーカの外周部に対応する位置にあり、凹部に使用者の耳が挿入された状態で使用者の耳をその外周で覆う環状のイヤーパッドとを備え、
前記ハウジングおよび前記イヤーパッドにより使用者の耳全体を覆うように装着されるヘッドホンであって、
前記凹部には、前記ヘッドバンド側の上部と、前記ヘッドバンド側とは反対側の下部とが含まれ、
前記耳当部を内側から見て前記上部の内径に比べて前記下部の内径の方が大きく形成されたことを特徴とするヘッドホン。
【請求項2】
前記イヤーパッドの内周壁面を構成する前記凹部の周壁面は、曲線によって形成された請求項1記載のヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の耳全体を覆うイヤーパッドを備えたオーバーイヤータイプのヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
オーバーイヤータイプのヘッドホンとして、下記特許文献1に記載の技術が提案されている。特許文献1に記載のヘッドホンはイヤーパッドを備え、イヤーパッドはその中心側に使用者の耳が入る凹部を備える。このヘッドホンは、使用者の耳の外周全体をイヤーパッドで覆うようにして頭部に装着される。イヤーパッドは、使用者の耳の周囲の頭部表面に対向する装着面を備えている。
【0003】
このヘッドホンでは、イヤーパッドの装着面全体を耳(耳介)の周囲にフィットさせるよう、装着面の一部が緩やかな曲面に形成されている。イヤーパッドの装着面全体が耳の周囲にフィットすることで、耳の周囲の頭部と装着面との間からの音漏れが抑制され、音質の劣化が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−138350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のヘッドホンは、音漏れを抑制するためにイヤーパッドの形状を工夫し、これによって音質の劣化を抑制しているのであって、積極的に音質を向上させる構成ではない。
【0006】
そこで本発明は、音質を向上させ得るヘッドホンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、オーディオ信号を音として出力するスピーカを備えたハウジングと、前記スピーカの外周部に対応する位置にあり、凹部に使用者の耳が挿入された状態で使用者の耳をその外周で覆う環状のイヤーパッドとを備え、前記ハウジングおよび前記イヤーパッドにより使用者の耳全体を覆うように装着されるヘッドホンであって、前記凹部は上部の前後幅に比べて下部の前後幅の方が大きく形成されたことを特徴としている。
【0008】
イヤーパッドの凹部は、上部の前後幅に比べて下部の前後幅のほうを大きく形成している。このため、ハウジングおよびイヤーパッドにより使用者の耳全体を覆った際に、耳の周囲空間の量が、耳介上部に比べて前後幅の小さい耳介下部のほうで多く確保され、この周囲空間をスピーカから放出される音を充分に反響させる空間とさせられる。
【0009】
本発明のヘッドホンでは、前記凹部の周壁は、曲線によって形成された構成を採用できる。
【0010】
上記構成のように、凹部の周壁が曲線によって形成されていれば、周壁が耳に接触した際に装着感が良好である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のヘッドホンによれば、イヤーパッドの凹部をその上部の前後幅に比べて下部の前後幅のほうを大きく形成した構成により、耳の周囲空間の量が、耳介上部に比べて前後幅の小さい耳介下部のほうで多く確保され、この周囲空間を、スピーカから放出される音を充分に反響させる空間として、音質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るヘッドホンの全体斜視図である。
【
図4】同イヤーパッドを取除いた耳当部の斜視図である。
【
図5】同耳当部のイヤーパッドの凹部の形状を表す側面図である。
【
図6】同耳当部のイヤーパッドの凹部に耳が入り込んだ状態の、耳当部の断面図である。
【
図7】同耳当部のイヤーパッドの凹部と耳との関係を表す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るヘッドホンを、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係るヘッドホンは、使用者の耳全体を覆うイヤーパッドを備えたオーバーイヤータイプである。
【0014】
図1および
図2に示すように、ヘッドホン1は、一対の耳当部2,2と、耳当部2,2どうしを一体化し使用者の頭頂部に掛けられるヘッドバンド3とを備える。このうち、ヘッドバンド3は一般的な構成を備えているので、概略の構成を説明すると、ヘッドバンド3の全体は湾曲しており、湾曲方向に沿って伸縮自在に構成されている。ヘッドバンド3の全体は、可撓性を備えている。耳当部2,2は左右対称であり、それぞれ同一の構成を備えている。このため一方の耳当部2に係る説明を他方の耳当部2の説明に兼用する。
【0015】
図3に示すように、耳当部2は、ヘッドバンド3の端部に設けられている。耳当部2は、スピーカ4を備えたハウジング5と、イヤーパッド6とを備える。スピーカ4は一般的な構成を備え、オーディオ信号を音として出力するよう構成されている。スピーカ4は円盤状に形成されている。ハウジング5は、ヘッドバンド3の端部に取付けられて内側を開放した外側部5Aと、外側部5Aの開放面を覆う内側部5Bとの組合せにより構成される。ここで内側とは、ヘッドホン1を装着する使用者側(頭部側)であり、外側は使用者から離れる方向である。
【0016】
外側部5Aは、ヘッドバンド3の端部に支軸7回りに回動自在に取付けられ、椀状に形成されている。内側部5Bは、円盤状に形成されている。スピーカ4は、内側部5Bの裏面側にあって、該裏面に沿った方向に配置されている。スピーカ4の外側には、外側部5Aと内側部5Bとの間の外側音響空間8が形成されている。
【0017】
内側部5Bにおいて、スピーカ4と対向する領域およびその周辺は、内側が凸となるよう緩やかに湾曲した湾曲部10とされている。湾曲部10の径方向外方には、平坦な環状に形成された環状部11が一体的に形成されている。内側部5Bの湾曲部10には、複数の放音孔が形成されている。放音孔は、
図3および
図4に示すように、湾曲部10の中心位置に配置された円形放音孔12と、円形放音孔12を中心に同心上に配置された複数の円弧状放音孔13とを備える。
【0018】
円弧状放音孔13のさらに径方向外側(環状部11)に、複数の反射音通過孔14が形成されている。反射音通過孔14は、それぞれ同径の円形に形成されている。反射音通過孔14は、円形放音孔12を中心に同心上に配置されている。反射音通過孔14は、後述するイヤーパッド6の周壁面16の近傍に配置されている。
【0019】
ヘッドホン1は、一般的な材質からなるイヤーパッド6を備える。イヤーパッド6は、ハウジング5に対し使用者の頭部側である内側、且つスピーカ4の外周部に対応する位置であるハウジング5の外周部にあって、使用者の耳Eをその外周で覆うよう構成されている(
図6、
図7参照)。イヤーパッド6は中心側に使用者の耳Eを入れる凹部6Aを有して、環状に形成される。イヤーパッド6は、ハウジング5の外周部に形成された環状の保持片15に着脱自在に取付けられる。
【0020】
図5に示すように、凹部6Aは、上部ほど後方に向けて傾斜するよう形成されている。イヤーパッド6の内周壁面である凹部6Aの周壁面16において、上部側と下部側とでは、上部側に比べて下部側のほうの前後幅が大きく形成されている。
図6に示すように、凹部6Aの周壁面16は、内外方向途中部分17、内外方向途中部分17に対して内側に形成された内側壁面18、および内外方向途中部分17に対して外側に形成された外側壁面19を備える。
【0021】
内側壁面18は、内外方向途中部分17に対して内側ほど大径になる傾斜面とされている。外側壁面19は、内外方向途中部分17に対して外側ほど大径になる傾斜面とされている。すなわち、周壁面16は、内外方向途中部分17を基準に内側外側方向に傾斜することで広がっている。
【0022】
耳当部2を内側から見て、すなわち内外側方向に投影させて、凹部6Aの周壁面16を周方向に結んでなる周壁線(内外方向途中部分17の周壁線に相当する)では、上部が径の小さい大曲率線部20、下部が大曲率線部20に比べて径の大きい小曲率線部21である。大曲率線部20および小曲率線部21の前後端部どうしが、直線部22で接続されている。大曲率線部20および小曲率線部21を合計した長さに比べて、直線部22の長さは極めて短い。凹部6Aの周壁面16は、大曲率線部20、直線部22、および小曲率線部21の連続により、下方ほど順次前後幅が大きくなるよう形成されている。
【0023】
図5に示すように、耳当部2を内側から見て、スピーカ4の外周縁(湾曲部10の外周縁)に対して大曲率線部20は上方へ延長するよう突出している。スピーカ4の外周縁に対して小曲率線部21は下方へ延長するよう突出している。直線部22はスピーカ4の外周縁に対して、スピーカ4の径方向内側にある。
【0024】
このように凹部6Aの周壁面16の周壁線は、曲線と直線の組合わせで形成されているが、直線部22に代えてこれを緩やかな曲線部として、全て曲線で形成される構成であってもよい。また、イヤーパッド6の内面23は平坦面に形成されて、頭部において耳Eの周囲にフィットし易くなっている。
【0025】
上記構成を備えたヘッドホン1では、使用者が必要に応じて耳当部2,2どうしを離間させるようヘッドバンド3をその弾性に抗して広げる。そして使用者は、耳当部2,2の凹部6Aに耳Eが入るよう、また、ヘッドバンド3が頭部に掛るようにヘッドホン1を装着する。しかも、耳当部2,2は支軸7を介してヘッドバンド3に対して回動可能であるから、ヘッドホン1を、使用者の頭部の大きさや形に応じるよう装着することができる。周壁面16は、大曲率線部20および小曲率線部21を備えて、ほとんどが曲線により形成されていることから、装着がし易い。また、周壁面16の上部における前後幅は特別に拡大させていないことからも、装着時における耳当部2,2の装着性を損なわない。
【0026】
凹部6Aの周壁面16は、内外方向途中部分17を基準に内側外側方向に傾斜することで広がっている。特に、内外方向途中部分17を基準に外側に傾斜することで広がっている構成によれば、凹部6Aに耳Eが入り込んだ状態で、耳Eが内外方向途中部分17に対して外側に入り込むことにより、耳Eの耳介E1が、周壁面16のうち径の最も小さい内外方向途中部分17に保持され易い。このため、耳当部2,2が支軸7回りに回動自在であっても、耳当部2,2を耳Eに対して安定させられる。
【0027】
凹部6Aに耳Eが入ると、ハウジング5およびイヤーパッド6により、耳Eの全体が覆われる。凹部6Aは、使用者の耳Eの耳介尖(耳介の上部)側に相当する上部の前後幅に比べて、耳介尾(耳介の下部)側に相当する下部の前後幅の方が大きく形成されている。
【0028】
このため、ハウジング5およびイヤーパッド6により使用者の耳全体を覆った際に、
図7に示すように、耳Eの外耳道に近い耳介尾側のほうにおいて、耳Eの周囲空間9の量(体積)が、耳介尖側に比べて多く確保される。この周囲空間9を、スピーカ4から放出される音を充分に反響させる空間とすることができる。特に、ハウジング5およびイヤーパッド6により囲まれた空間においては、スピーカ4から放出される音のうち、低音が空間にある空気を振動させることから、低音を響かせる領域として優れる。
【0029】
大曲率線部20は、スピーカ4の外周縁に対して上方へ延長するよう突出し、小曲率線部21は、スピーカ4の外周縁に対して下方へ延長するよう突出し、直線部22はスピーカ4の外周縁に対して内側にある。また、凹部6Aの周壁面16では、内外方向途中部分17が、内側壁面18および外側壁面19に対して小径に形成されている。このように、凹部6Aの周壁面16の形状は変化に富んでいる。そのうえで、凹部6Aの周壁面16において、上部側と下部側とでは、上部側に比べて下部側のほうの前後幅が大きく形成されているから、スピーカ4から放出される音を反響させ易い。このため、特別に凹部6Aの全体を大きくしたり、イヤーパッド6やスピーカ4を大型化したりすることなく、心地好い音響が得られる。
【0030】
なお、本実施形態におけるヘッドホン1では、スピーカ4から放出された音の一部は、直接的に円形放音孔12、円弧状放音孔13を通過して耳Eに入る。また、スピーカ4から放出された音の一部は、耳E側で反射して円形放音孔12、円弧状放音孔13を通過して外側音響空間8に至り、外側部5Aの外壁5aで反射して外側音響空間8で響き、反射音通過孔14を通過して再び耳Eに入る。
【0031】
ヘッドホン1はこのような外壁5a、外側音響空間8、反射音通過孔14を備えていることから、良質な音響が得られ、しかも凹部6Aの周壁面16において、上部側と下部側とでは、上部側に比べて下部側のほうの前後幅が大きく形成されていることで、スピーカ4から放出される音を反響させて、優れた音質とさせられる。
【0032】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、凹部6Aの周壁面16は、凹部6Aの周壁面16は、大曲率線部20、直線部22、および小曲率線部21の連続により、下部ほど順次前後幅が大きくなるよう形成された場合を挙げた。しかしながら、順次前後幅を大きくするのではなく、周壁面16の下部の前後幅を急激に拡大させた構成であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…ヘッドホン、2,2…耳当部、3…ヘッドバンド、4…スピーカ、5…ハウジング、5A…外側部、5B…内側部、5a…外壁、6…イヤーパッド、6A…凹部、9…周囲空間、8…外側音響空間、10…湾曲部、11…環状部、12…円形放音孔、13…円弧状放音孔、14…反射音通過孔、16…周壁面、17…内外方向途中部分、18…内側壁面、19…外側壁面、20…大曲率線部、21…小曲率線部、22…直線部