(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
d軸電流指令からd軸電圧指令を生成し、q軸電流指令からq軸電圧指令を生成し、前記d軸電圧指令及び前記q軸電圧指令から3相交流電圧指令を生成し、前記3相交流電圧指令を電力増幅器へ出力することで交流モータを制御するモータ制御装置において、
前記交流モータにおけるq軸電流により発生するd軸上の干渉電圧をキャンセルするためのd軸非干渉電圧補償、及び前記交流モータにおけるd軸電流により発生するq軸上の干渉電圧をキャンセルするためのq軸非干渉電圧補償を算出する非干渉電圧補償部と、
前記d軸電圧指令に、前記非干渉電圧補償部により算出された前記d軸非干渉電圧補償を加算し、新たなd軸電圧指令を求め、前記q軸電圧指令に、前記非干渉電圧補償部により算出された前記q軸非干渉電圧補償を加算し、新たなq軸電圧指令を求める第1の加算器と、
前記第1の加算器により求めた前記新たなd軸電圧指令及び前記新たなq軸電圧指令を、前記3相交流電圧指令に座標変換する座標変換部と、を備え、
前記非干渉電圧補償部は、
前記交流モータの回転子電気角速度に前記q軸電流指令を乗算して第1の乗算結果を求め、前記第1の乗算結果に予め設定されたq軸リアクタンス同定値を乗算して第2の乗算結果を求める第1の乗算器と、
前記第1の乗算器により求めた前記第2の乗算結果を反転させ、前記d軸非干渉電圧補償を求める第1の反転器と、
前記交流モータの回転子電気角速度に前記d軸電流指令を乗算して第3の乗算結果を求め、前記第3の乗算結果に予め設定されたd軸リアクタンス同定値を乗算して第4の乗算結果を求める第2の乗算器と、
前記交流モータの回転子電気角速度に予め設定された逆起電圧定数を乗算して第5の乗算結果を求める第3の乗算器と、
前記第2の乗算器により求めた前記第4の乗算結果に、前記第3の乗算器により求めた前記第5の乗算結果を加算し、前記q軸非干渉電圧補償を求める第2の加算器と、を備え、
前記予め設定された逆起電圧定数は、前記交流モータがシンクロナスリラクタンスモータの場合、0が用いられ、前記交流モータがIPMシンクロナスモータの場合、所定値が用いられ、
当該モータ制御装置は、さらに、前記d軸電流指令及び前記q軸電流指令を生成する電流指令生成部を備え、
前記電流指令生成部は、
前記第1の加算器により求めた前記新たなd軸電圧指令及び前記新たなq軸電圧指令に基づいて、電圧指令フィードバックを算出する電圧指令FB(フィードバック)生成部と、
前記電力増幅器の直流バス電圧の設定値を示す端子電圧指令から、前記電圧指令FB生成部により算出された前記電圧指令フィードバックを減算し、端子電圧偏差を求める第1の減算器と、
前記第1の減算器により求めた前記端子電圧偏差が0になるように、端子電流指令を算出し、前記端子電流指令に対して0からマイナスの所定値までの範囲で制限を加え、前記0からマイナスの所定値までの範囲の前記端子電流指令を出力する端子電圧制御部と、
予め設定された速度指令から、前記交流モータの速度を示す速度フィードバックを減算し、速度偏差を求める第2の減算器と、
前記第2の減算器により求めた前記速度偏差が0になるように、速度偏差電流指令を算出し、予め設定された外部電流指令に前記速度偏差電流指令を加算して電流指令を求め、前記電流指令及び予め設定された電流位相角指令に基づいて、d軸分担電流指令及びq軸分担電流指令を求め、前記q軸分担電流指令を前記q軸電流指令とする速度制御部と、
前記速度制御部により求めた前記d軸分担電流指令に、前記端子電圧制御部により出力された前記端子電流指令を加算し、前記d軸電流指令を求める第3の加算器と、を備え、
前記予め設定された電流位相角指令は、前記交流モータがシンクロナスリラクタンスモータの場合、第1の所定値が用いられ、前記交流モータがIPMシンクロナスモータの場合、第2の所定値が用いられる、ことを特徴とするモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
〔モータ制御システム〕
図1は、本発明の実施形態によるモータ制御装置を含むモータ制御システムの構成例を示す全体図である。このモータ制御システムは、モータ制御装置1、電力増幅器2、交流モータ3及びPG(パルスジェネレータ)4を備えて構成される。尚、
図1には、本発明と直接関連する構成部のみ示してあり、直接関連しない構成部は省略してある。交流モータ3は、シンクロナスリラクタンスモータまたはIPMシンクロナスモータのいずれかとする。
【0019】
モータ制御装置1は、交流モータ3をd軸及びq軸にてベクトル制御する装置である。モータ制御装置1は、交流モータ3の回転速度を制御する電流指令(d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*)を生成する。この電流指令は、交流モータ3の回転速度を所定の制限速度以下とする指令でもある。
【0020】
モータ制御装置1は、電流指令を電流制御し、非干渉電圧を加算することで、電圧指令(d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*)を生成する。この電圧指令は、交流モータ3にて発生する干渉電圧をキャンセルするための指令でもある。
【0021】
モータ制御装置1は、電気角θeに基づいて、電圧指令をU相、V相及びW相の3相交流電圧指令(U相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*)に変換し、3相交流電圧指令を電力増幅器2へ出力する。
【0022】
モータ制御装置1は、電力増幅器2と交流モータ3との間に設けられた電流検出器により検出されたU相、V相及びW相の3相交流電流フィードバック(U相交流電流フィードバックiu、V相交流電流フィードバックiv及びW相交流電流フィードバックiw)を入力する。また、モータ制御装置1は、PG4から、交流モータ3の速度を示す速度フィードバックωを入力する。
【0023】
電力増幅器2は、インバータを備えている。電力増幅器2は、モータ制御装置1から3相交流電圧指令を入力し、3相交流電圧指令からPWM信号を生成し、PWM信号によってインバータのスイッチング素子のゲートをオンオフし、インバータに入力される直流バス電圧e
busをスイッチングして交流電圧に変換する。そして、電力増幅器2は、交流電圧を交流モータ3へ供給する。
【0024】
PG4は、交流モータ3の回転に応じたパルス信号を発生する。このパルス信号のカウント値から交流モータ3の回転速度である速度フィードバックωが得られ、当該速度フィードバックωがモータ制御装置1へ入力される。尚、
図1には、PG4からモータ制御装置1へ、速度フィードバックωが入力されるように略して示してある。
【0025】
〔モータ制御装置1〕
次に、
図1に示したモータ制御装置1について詳細に説明する。
図1に示すように、モータ制御装置1は、電流指令生成部10、減算器11,12、電流制御部13,14、加算器15,16、座標変換部17,18、変換器19、積分器20及び非干渉電圧FF(フィードフォワード)補償部21を備えている。
【0026】
電流指令生成部10は、予め設定された端子電圧指令v*及び速度指令ω*を入力すると共に、PG4から速度フィードバックω、加算器15からd軸電圧指令vd*、及び加算器16からq軸電圧指令vq*を入力する。端子電圧指令v*は、電力増幅器2の直流バス電圧e
busの設定値を示す。そして、電流指令生成部10は、これらのデータに基づいて、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を生成する。これにより、交流モータ3の回転速度を、予め設定された制限速度指令ω
MAX以下とするd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*が生成される。
【0027】
電流指令生成部10は、d軸電流指令id*を減算器11及び非干渉電圧FF補償部21に出力すると共に、q軸電流指令iq*を減算器12及び非干渉電圧FF補償部21に出力する。電流指令生成部10の詳細については後述する。
【0028】
減算器11は、電流指令生成部10からd軸電流指令id*を入力すると共に、後述する座標変換部18からd軸電流フィードバックidを入力する。そして、減算器11は、d軸電流指令id*からd軸電流フィードバックidを減算し、減算結果をd軸電流偏差として電流制御部13に出力する。
【0029】
減算器12は、電流指令生成部10からq軸電流指令iq*を入力すると共に、後述する座標変換部18からq軸電流フィードバックiqを入力する。そして、減算器12は、q軸電流指令iq*からq軸電流フィードバックiqを減算し、減算結果をq軸電流偏差として電流制御部14に出力する。
【0030】
電流制御部13は、減算器11からd軸電流偏差を入力し、d軸電流偏差が0になるように、予め設定された比例ゲイン及び積分ゲインを用いてPI制御器による電流制御を行い、d軸電圧指令を算出する。そして、電流制御部13は、d軸電圧指令を加算器15に出力する。
【0031】
電流制御部14は、減算器12からq軸電流偏差を入力し、q軸電流偏差が0になるように、予め設定された比例ゲイン及び積分ゲインを用いてPI制御器による電流制御を行い、q軸電圧指令を算出する。そして、電流制御部14は、q軸電圧指令を加算器16に出力する。
【0032】
加算器15は、電流制御部13からd軸電圧指令を入力すると共に、後述する非干渉電圧FF補償部21からd軸非干渉電圧FF(フィードフォワード)補償Δvd*を入力する。そして、加算器15は、d軸電圧指令にd軸非干渉電圧FF補償Δvd*を加算し、加算結果をd軸電圧指令vd*として座標変換部17及び電流指令生成部10に出力する。これにより、交流モータ3のd軸上に発生した干渉電圧をキャンセルするためのd軸電圧指令vd*が算出される。
【0033】
加算器16は、電流制御部14からq軸電圧指令を入力すると共に、後述する非干渉電圧FF補償部21からq軸非干渉電圧FF補償Δvq*を入力する。そして、加算器16は、q軸電圧指令にq軸非干渉電圧FF補償Δvq*を加算し、加算結果をq軸電圧指令vq*として座標変換部17及び電流指令生成部10に出力する。これにより、交流モータ3のq軸上に発生した干渉電圧をキャンセルするためのq軸電圧指令vq*が算出される。
【0034】
ここで、d軸非干渉電圧FF補償Δvd*及びq軸非干渉電圧FF補償Δvq*のフィードフォワードは、後述する非干渉電圧FF補償部21において、フィードバック制御ではなくフィードフォワード制御にて生成されることを意味する。
【0035】
座標変換部17は、加算器15からd軸電圧指令vd*を入力すると共に、加算器16からq軸電圧指令vq*を入力し、さらに、後述する積分器20から電気角θeを入力する。そして、座標変換部17は、電気角θeに基づいて、回転座標系のd軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*をU相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*に座標変換する。座標変換部17は、U相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*を電力増幅器2へ出力する。
【0036】
変換器19は、PG4から速度フィードバックωを入力し、速度フィードバックω、並びに予め設定された対極数N
p(=極数/2)、定格角速度ω
0(rad/s)及び基底角速度ω
base(rad/s)に基づいて、回転子電気角速度ω1を算出する。具体的には、変換器19は、(N
p×ω
0)/(N
p×ω
base)の演算を行い、回転子電気角速度ω1を求める。そして、変換器19は、回転子電気角速度ω1を積分器20及び非干渉電圧FF補償部21に出力する。
【0037】
積分器20は、変換器19から回転子電気角速度ω1を入力し、回転子電気角速度ω1を積分することで電気角θeを求める。そして、積分器20は、電気角θeを座標変換部17,18に出力する。
【0038】
座標変換部18は、電力増幅器2と交流モータ3との間に設けられた電流検出器により検出されたU相交流電流フィードバックiu、V相交流電流フィードバックiv及びW相交流電流フィードバックiwを入力すると共に、積分器20から電気角θeを入力する。そして、座標変換部18は、電気角θeに基づいて、U相交流電流フィードバックiu、V相交流電流フィードバックiv及びW相交流電流フィードバックiwを回転座標系のd軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqに座標変換する。座標変換部18は、d軸電流フィードバックidを減算器11に出力すると共に、q軸電流フィードバックiqを減算器12に出力する。
【0039】
非干渉電圧FF補償部21は、予め設定された逆起電圧定数ec^、d軸リアクタンス同定値Xd^及びq軸リアクタンス同定値Xq^を入力する共に、変換器19から回転子電気角速度ω1、電流指令生成部10からd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を入力する。そして、非干渉電圧FF補償部21は、これらのデータに基づいて、d軸非干渉電圧FF補償Δvd*及びq軸非干渉電圧FF補償Δvq*を算出する。
【0040】
これにより、交流モータ3のd軸上に発生した干渉電圧をキャンセルするためのd軸非干渉電圧FF補償Δvd*が算出される。また、交流モータ3のq軸上に発生した干渉電圧をキャンセルするためのq軸非干渉電圧FF補償Δvq*が算出される。
【0041】
非干渉電圧FF補償部21は、d軸非干渉電圧FF補償Δvd*を加算器15に出力し、q軸非干渉電圧FF補償Δvq*を加算器16に出力する。非干渉電圧FF補償部21の詳細については後述する。
【0042】
(電流指令生成部10)
次に、
図1に示した電流指令生成部10について詳細に説明する。前述のとおり、電流指令生成部10は、予め設定された端子電圧指令v*、速度指令ω*及び制限速度指令ω
MAX等、並びに入力した速度フィードバックω、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*に基づいて、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を生成する。
【0043】
図2は、電流指令生成部10の構成例を示すブロック図である。この電流指令生成部10は、電圧指令FB(フィードバック)生成部30、減算器31,32、端子電圧制御部33、速度制御部34及び加算器35を備えている。
【0044】
電圧指令FB生成部30は、加算器15からd軸電圧指令vd*を入力すると共に、加算器16からq軸電圧指令vq*を入力し、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*に基づいて、以下の式により電圧指令フィードバックv1*を算出する。
v1*=√(vd*
2+vq*
2)
そして、電圧指令FB生成部30は、電圧指令フィードバックv1*を減算器31に出力する。
【0045】
減算器31は、予め設定された端子電圧指令v*を入力すると共に、電圧指令FB生成部30から電圧指令フィードバックv1*を入力し、端子電圧指令v*から電圧指令フィードバックv1*を減算する。そして、減算器31は、減算結果を端子電圧偏差Δv1として端子電圧制御部33に出力する。
【0046】
端子電圧制御部33は、減算器31から端子電圧偏差Δv1を入力し、端子電圧偏差Δv1が0になるように電圧制御を行い、端子電流指令を算出する。そして、端子電圧制御部33は、0から−1までの範囲の端子電流指令を端子電流指令id1*として加算器35に出力する。
【0047】
図3は、端子電圧制御部33の構成例を示すブロック図である。この端子電圧制御部33は、電圧制御器40及びリミッタ41を備えている。電圧制御器40は、減算器31から端子電圧偏差Δv1を入力し、端子電圧偏差Δv1が0になるように、予め設定された比例ゲイン及び積分ゲインを用いてPI制御器による電圧制御を行い、端子電流指令を算出する。そして、端子電圧制御部33は、端子電流指令をリミッタ41に出力する。
【0048】
リミッタ41は、電圧制御器40から端子電流指令を入力し、端子電流指令に対して0から−1までの範囲で制限を加え、0から−1までの範囲の端子電流指令id1*を加算器35に出力する。
【0049】
これにより、電圧指令フィードバックv1*が端子電圧指令v*よりも大きい場合、0から−1までの範囲の端子電流指令id1*が加算器35に出力され、加算器35にてd軸電流指令id*を小さくすることができる。そして、d軸電流指令id*が小さくなるとd軸電圧指令vd*も小さくなるから、結果として、電圧指令フィードバックv1*を小さくして、電圧指令フィードバックv1*を端子電圧指令v*に近づけることができる。
【0050】
図2に戻って、減算器32は、予め設定された速度指令ω*を入力すると共に、PG4から速度フィードバックωを入力し、速度指令ω*から速度フィードバックωを減算し、減算結果を速度偏差Δωとして速度制御部34に出力する。
【0051】
速度制御部34は、減算器32から速度偏差Δωを入力し、速度偏差Δωが0になるように速度制御を行い、速度偏差電流指令Δi1*を算出する。そして、速度制御部34は、速度偏差電流指令Δi1*、後述する速度制限電流i1
LMT、後述する外部電流指令i*、及び電流位相角指令βに基づいて、d軸分担電流指令id*’及びq軸分担電流指令iq*’を算出する。
【0052】
速度制御部34は、d軸分担電流指令id*’を加算器35に出力し、q軸分担電流指令iq*’をq軸電流指令iq*として減算器12及び非干渉電圧FF補償部21に出力する。速度制御部34の詳細については後述する。
【0053】
加算器35は、端子電圧制御部33から0から−1までの範囲の端子電流指令id1*を入力すると共に、速度制御部34からd軸分担電流指令id*’を入力する。そして、加算器35は、d軸分担電流指令id*’に0から−1までの範囲の端子電流指令id1*を加算し、加算結果をd軸電流指令id*として減算器11及び非干渉電圧FF補償部21に出力する。
【0054】
図4は、速度制御部34の構成例を示すブロック図である。この速度制御部34は、速度制御器42、速度制限電流生成器43、加算器44、絶対値演算器45、コサイン演算器46及びサイン演算器47を備えている。
【0055】
速度制御器42は、減算器32から速度偏差Δωを入力し、速度偏差Δωが0になるように、予め設定された比例ゲイン及び積分ゲインを用いてPI制御器による速度制御を行い、速度偏差電流指令Δi1*を算出する。そして、速度制御器42は、速度偏差電流指令Δi1*を加算器44に出力する。
【0056】
速度制限電流生成器43は、予め設定された制限速度指令ω
MAX及び速度フィードバックωに基づいて、速度制限電流i1
LMTを算出し、速度制限電流i1
LMTを加算器44に出力する。制限速度指令ω
MAXは、交流モータ3の回転速度の制限値を示し、交流モータ3の最高速度が設定される。速度制限電流生成器43の詳細については後述する。
【0057】
加算器44は、速度制御器42から速度偏差電流指令Δi1*を入力すると共に、速度制限電流生成器43から速度制限電流i1
LMTを入力し、さらに、予め設定された外部電流指令i*を入力する。加算器44は、速度偏差電流指令Δi1*に速度制限電流i1
LMT及び外部電流指令i*を加算し、加算結果を電流指令i1*として絶対値演算器45及びサイン演算器47に出力する。
【0058】
絶対値演算器45は、加算器44から電流指令i1*を入力し、電流指令i1*の絶対値|i1*|を算出し、電流指令i1*の絶対値|i1*|をコサイン演算器46に出力する。
【0059】
コサイン演算器46は、絶対値演算器45から電流指令i1*の絶対値|i1*|を入力すると共に、予め設定された電流位相角指令βを入力し、電流指令i1*の絶対値|i1*|にcosβ(電流位相角指令βを角度とした余弦関数)を乗算する。そして、コサイン演算器46は、乗算結果をd軸分担電流指令id*’として加算器35に出力する。
【0060】
ここで、電流位相角指令βには、交流モータ3の最大トルクまたは最大効率等を実現する目的に応じて、交流モータ3の種類毎に異なる値が予め設定される。例えばシンクロナスリラクタンスモータの場合、電流位相角指令β=45°が設定され、IPMシンクロナスモータの場合、電流位相角指令β=90°が設定される
【0061】
サイン演算器47は、加算器44から電流指令i1*を入力すると共に、予め設定された電流位相角指令βを入力し、電流指令i1*にsinβ(電流位相角指令βを角度とした正弦関数)を乗算する。そして、サイン演算器47は、乗算結果であるq軸分担電流指令iq*’をq軸電流指令iq*として減算器12に出力する。
【0062】
図5は、速度制限電流生成器43の構成例を示すブロック図である。この速度制限電流生成器43は、減算器50,52、反転器51、乗算器53,54、リミッタ55,56及び加算器57を備えている。
【0063】
減算器50は、予め設定された制限速度指令ω
MAXを入力すると共に、PG4から速度フィードバックωを入力し、制限速度指令ω
MAXから速度フィードバックωを減算し、減算結果を制限速度偏差として乗算器53に出力する。
【0064】
乗算器53は、減算器50から制限速度偏差を入力し、制限速度偏差に、予め設定された係数K
DROOPを乗算し、乗算結果の制限速度偏差をリミッタ55に出力する。
【0065】
リミッタ55は、乗算器53から乗算結果の制限速度偏差を入力し、乗算結果の制限速度偏差に対し、0から予め設定されたマイナスの値(−η)までの範囲で制限を加え、0から−ηまでの範囲の速度制限電流を加算器57に出力する。
【0066】
これにより、交流モータ3の正転運転時には、0から−ηまでの範囲の速度制限電流が算出される。
【0067】
反転器51は、予め設定された制限速度指令ω
MAXを入力し、制限速度指令ω
MAXに−1を乗算することで、制限速度指令ω
MAXの符号を反転させ、反転した制限速度指令ω
MAXを減算器52に出力する。
【0068】
減算器52は、反転器51から反転した制限速度指令ω
MAXを入力すると共に、PG4から速度フィードバックωを入力し、反転した制限速度指令ω
MAXから速度フィードバックωを減算し、減算結果を反転制限速度偏差として乗算器54に出力する。
【0069】
乗算器54は、減算器52から反転制限速度偏差を入力し、反転制限速度偏差に、予め設定された係数K
DROOPを乗算し、乗算結果の反転制限速度偏差をリミッタ56に出力する。
【0070】
リミッタ56は、乗算器54から乗算結果の反転制限速度偏差を入力し、乗算結果の変転制限速度偏差に対して、予め設定されたプラスの値(+η)から0までの範囲で制限を加え、+ηから0までの範囲の速度制限電流を加算器57に出力する。
【0071】
これにより、交流モータ3の逆転運転時には、+ηから0までの範囲の速度制限電流が算出される。
【0072】
加算器57は、リミッタ55から、0から−ηまでの範囲の速度制限電流を入力すると共に、リミッタ56から、+ηから0までの範囲の速度制限電流を入力する。そして、加算器57は、入力した2つの速度制限電流を加算し、加算結果を速度制限電流i1
LMTとして加算器44に出力する。この場合、加算器57は、リミッタ55から、0から−ηまでの範囲の速度制限電流を入力した場合、リミッタ56から0の速度制限電流を入力する。また、加算器57は、リミッタ56から、+ηから0までの範囲の速度制限電流を入力した場合、リミッタ55から0の速度制限電流を入力する。つまり、加算器57は、リミッタ55から入力した0から−ηまでの範囲の速度制限電流、または、リミッタ56から入力した+ηから0までの範囲の速度制限電流を出力する。
【0073】
これにより、交流モータ3が正転運転している場合に、0から−ηまでの範囲の速度制限電流i1
LMTが加算器44に出力され、交流モータ3が逆転運転している場合に、+ηから0までの範囲の速度制限電流i1
LMTが加算器44に出力される。そして、前述のとおり、加算器44において、速度制限電流i1
LMTが外部電流指令i*及び速度偏差電流指令Δi1*に加算され、電流指令i1*が求められる。
【0074】
例えば交流モータ3が正転運転しており、速度フィードバックωが制限速度指令ω
MAXよりも大きくなり、外部電流指令i*がプラスの場合を想定する。この場合、速度制限電流生成器43により、0から−ηまでの範囲の速度制限電流i1
LMTが算出される。そして、
図4の加算器44において、0から−ηまでの範囲の速度制限電流i1
LMTがプラスの外部電流指令i*及び速度偏差電流指令Δi1*に加算されることで、電流指令i1*は0に近づく。一方、例えば交流モータ3が逆転運転しており、マイナスの速度フィードバックωの絶対値が制限速度指令ω
MAXよりも大きくなり、外部電流指令i*がマイナスの場合を想定する。この場合、速度制限電流生成器43により、+ηから0までの範囲の速度制限電流i1
LMTが算出される。そして、
図4の加算器44において、+ηから0までの範囲の速度制限電流i1
LMTがマイナスの外部電流指令i*及び速度偏差電流指令Δi1*に加算されることで、電流指令i1*は0に近づく。このように、電流指令i1*を0に相殺することで、電流制御において、交流モータ3の回転速度を、制限速度指令ω
MAX以下とすることができる。
【0075】
このように、電流指令生成部10により、予め設定された端子電圧指令v*、速度指令ω*及び制限速度指令ω
MAX等、並びに入力した速度フィードバックω、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*に基づいて、交流モータ3の回転速度を、予め設定された制限速度指令ω
MAX以下とするd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*が生成される。また、電流指令生成部10の処理は、予め設定された電流位相角指令βに応じて、シンクロナスリラクタンスモータまたはIPMシンクロナスモータに適用することができる。
【0076】
(非干渉電圧FF補償部21)
次に、
図1に示した非干渉電圧FF補償部21について詳細に説明する。前述のとおり、非干渉電圧FF補償部21は、予め設定された逆起電圧定数ec^、d軸リアクタンス同定値Xd^及びq軸リアクタンス同定値Xq^、並びに入力した回転子電気角速度ω1、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*に基づいて、d軸非干渉電圧FF補償Δvd*及びq軸非干渉電圧FF補償Δvq*を算出する。
【0077】
図6は、非干渉電圧FF補償部21の構成例を示すブロック図である。この非干渉電圧FF補償部21は、乗算器60,61,62,63,64、反転器65及び加算器66を備えている。
【0078】
乗算器60は、変換器19から回転子電気角速度ω1を入力すると共に、電流指令生成部10からq軸電流指令iq*を入力し、回転子電気角速度ω1にq軸電流指令iq*を乗算し、乗算結果を乗算器62に出力する。
【0079】
乗算器62は、乗算器60から乗算結果を入力し、乗算結果に、予め設定されたq軸リアクタンス同定値Xq^を乗算し、その乗算結果(ω1×iq*×Xq^)を反転器65に出力する。
【0080】
反転器65は、乗算器62から乗算結果(ω1×iq*×Xq^)を入力し、乗算結果(ω1×iq*×Xq^)に−1を乗算することで、乗算結果(ω1×iq*×Xq^)の符号を反転させる。そして、反転器65は、反転した乗算結果(−ω1×iq*×Xq^)をd軸非干渉電圧FF補償Δvd*として加算器15に出力する。
【0081】
乗算器61は、変換器19から回転子電気角速度ω1を入力すると共に、電流指令生成部10からd軸電流指令id*を入力し、回転子電気角速度ω1にd軸電流指令id*を乗算し、乗算結果を乗算器63に出力する。
【0082】
乗算器63は、乗算器61から乗算結果を入力し、乗算結果に、予め設定されたd軸リアクタンス同定値Xd^を乗算し、その乗算結果(ω1×id*×Xd^)を加算器66に出力する。
【0083】
乗算器64は、変換器19から回転子電気角速度ω1を入力し、回転子電気角速度ω1に、予め設定された逆起電圧定数ec^を乗算し、その乗算結果(ω1×ec^)を加算器66に出力する。
【0084】
ここで、逆起電圧定数ec^には、交流モータ3の種類毎に異なる値が予め設定される。例えばシンクロナスリラクタンスモータの場合、逆起電圧定数ec^=0が設定され、IPMシンクロナスモータの場合、所定の逆起電圧定数ec^が設定される。
【0085】
加算器66は、乗算器63から乗算結果(ω1×id*×Xd^)を入力すると共に、乗算器64から乗算結果(ω1×ec^)を入力し、乗算結果(ω1×id*×Xd^)に乗算結果(ω1×ec^)を加算する。そして、加算器66は、加算結果(ω1×id*×Xd^+ω1×ec^)をq軸非干渉電圧FF補償Δvq*として加算器16に出力する。
【0086】
このように、非干渉電圧FF補償部21により、予め設定された逆起電圧定数ec^、d軸リアクタンス同定値Xd^及びq軸リアクタンス同定値Xq^、並びに入力した回転子電気角速度ω1、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*に基づいて、交流モータ3にて発生する干渉電圧をキャンセルするためのd軸非干渉電圧FF補償Δvd*(−ω1×iq*×Xq^)及びq軸非干渉電圧FF補償Δvq*(ω1×id*×Xd^+ω1×ec^)が算出される。
【0087】
つまり、交流モータ3にd軸電流が流れることにより、q軸上に、q軸電流と同じ極性の干渉電圧(ω1×id*×Xd^+ω1×ec^)が発生し、この干渉電圧がq軸非干渉電圧FF補償Δvq*として算出される。また、交流モータ3にq軸電流が流れることにより、d軸上に、d軸電流とは逆の極性の干渉電圧(−ω1×iq*×Xq^)が発生し、この干渉電圧がd軸非干渉電圧FF補償Δvd*として算出される。
【0088】
また、非干渉電圧FF補償部21の処理は、予め設定された逆起電圧定数ec^に応じて、シンクロナスリラクタンスモータまたはIPMシンクロナスモータに適用することができる。交流モータ3がシンクロナスリラクタンスモータの場合、逆起電圧定数ec^=0が設定され、非干渉電圧FF補償部21により、d軸非干渉電圧FF補償Δvd*(−ω1×iq*×Xq^)及びq軸非干渉電圧FF補償Δvq*(ω1×id*×Xd^)が算出される。また、交流モータ3がIPMシンクロナスモータの場合、所定の逆起電圧定数ec^が設定され、非干渉電圧FF補償部21により、d軸非干渉電圧FF補償Δvd*(−ω1×iq*×Xq^)及びq軸非干渉電圧FF補償Δvq*(ω1×id*×Xd^+ω1×ec^)が算出される。
【0089】
以上のように、本発明の実施形態のモータ制御装置1によれば、電流指令生成部10は、予め設定された端子電圧指令v*、速度指令ω*及び制限速度指令ω
MAX等、並びに入力した速度フィードバックω、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*に基づいて、交流モータ3の回転速度を制限速度指令ω
MAX以下とするd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を生成する。ここで、電流指令生成部10は、予め設定された電流位相角指令βに応じて、シンクロナスリラクタンスモータまたはIPMシンクロナスモータのいずれかに適用するd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を生成する。
【0090】
これにより、シンクロナスリラクタンスモータ及びIPMシンクロナスモータの2種類の交流モータ3を制御する際に、交流モータ3の回転速度を制限速度指令ω
MAX以下とした制御を共通回路にて実現することができる。
【0091】
また、非干渉電圧FF補償部21は、予め設定された逆起電圧定数ec^、d軸リアクタンス同定値Xd^及びq軸リアクタンス同定値Xq^、並びに入力した回転子電気角速度ω1、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*に基づいて、交流モータ3にて発生する干渉電圧をキャンセルするためのd軸非干渉電圧FF補償Δvd*(−ω1×iq*×Xq^)及びq軸非干渉電圧FF補償Δvq*(ω1×id*×Xd^+ω1×ec^)を算出する。ここで、非干渉電圧FF補償部21は、シンクロナスリラクタンスモータの場合、予め設定された逆起電圧定数ec^=0にて処理を行い、IPMシンクロナスモータの場合、予め設定された所定の逆起電圧定数ec^にて処理を行う。
【0092】
これにより、シンクロナスリラクタンスモータ及びIPMシンクロナスモータを制御する際に、これらの交流モータ3に適用する共通回路にて、非干渉制御を実現することが可能となる。
【0093】
〔測定結果〕
次に、モータ制御装置1による測定結果について説明する。
図7は、シンクロナスリラクタンスモータを用いた場合の実機による測定結果を示すグラフであり、
図8は、IPMシンクロナスモータを用いた場合の実機による測定結果を示すグラフである。
【0094】
図7及び
図8において、グラフの上から、速度フィードバックω、電流指令i1*、d軸電流指令id*、d軸電流フィードバックid、q軸電流指令iq*、q軸電流フィードバックiq、直流バス電圧e
bus及び電圧指令フィードバックv1*の特性を示している。横軸は時間である。
【0095】
図7及び
図8を参照して、交流モータ3が正転加速、正転減速、逆転加速及び逆転減速のパターンの速度フィードバックωで動作した場合、d軸電流指令id*に対してd軸電流フィードバックidが追従していることがわかる。また、q軸電流指令iq*に対してq軸電流フィードバックiqも追従していることがわかる。つまり、シンクロナスリラクタンスモータ及びIPMシンクロナスモータの2種類の交流モータ3に対し、モータ制御装置1における共通回路にて非干渉制御を実現していることがわかる。