(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前後左右輪の制動トルクまたは駆動トルクである制駆動トルクを独立に制御可能な制駆動源と、操作手段の指令に応答して前記制駆動源に制駆動の指令値を与える駆動制御装置とを有する車両の旋回特性を制御する車両の旋回制御装置であって、
前記駆動制御装置は、
少なくとも車両の車速と舵角から計算される目標ヨーレートと前記車両に搭載されたセンサが出力する実ヨーレートとの差から計算されるヨーレート偏差、および路面摩擦係数の少なくとも一方を含む車両走行情報値を計算する車両走行値情報計算手段と、
予め定められた複数の制御ゲインから目標ヨーレートを決める複数目標ヨーレート計算手段と、
前記車両走行値情報計算手段により計算された車両走行情報値から制御ゲインを計算する制御ゲイン計算手段と、
前記複数目標ヨーレート計算手段により計算された複数の目標ヨーレートおよび前記制御ゲイン計算手段により計算された制御ゲインに応じて前記目標ヨーレートを補正する目標ヨーレート補正手段とを備え、
前記路面摩擦係数が小さくまたは前記ヨーレート偏差が大きくなるほど、初期設定のヨー応答特性を実現する制御ゲインα2のときの目標ヨーレートから、車両本来のヨー応答特性を実現する制御ゲインα1(α1=1)であるときの目標ヨーレートに近づけていき、
前記駆動制御装置は、予め定められた複数の前記制御ゲインからヨーモーメントを決める複数ヨーモーメント計算手段と、前記複数ヨーモーメント計算手段により計算された複数のヨーモーメントおよび前記制御ゲイン計算手段で計算された制御ゲインに応じて前記ヨーモーメントを補正するヨーモーメント補正手段とを備え、前記ヨーモーメント補正手段で計算された前記ヨーモーメントに応じて、前後左右輪で独立に制御可能な制動トルクまたは駆動トルクを出力し、
前記目標ヨーレート補正手段は、予め複数の制御ゲインから計算する前記目標ヨーレートを、隣り合う二つの制御ゲインの間を補間により近似した目標ヨーレートとして計算し、
前記ヨーモーメント補正手段は、予め複数の制御ゲインから計算する前記ヨーモーメントを、隣り合う二つの制御ゲインの間を補間により近似したヨーモーメントとして計算する、
ことを特徴とする車両の旋回制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のヨーモーメント制御では、タイヤのグリップを考慮していないため、次のような問題がある。例えば、走行する場所の路面摩擦係数が低い場合に旋回性能を向上させるようなヨーモーメント制御を行っても、タイヤのグリップは限界を超えてしまい、車両が不安定になる。
また、旋回程度が限界に近付き車両挙動安定化制御に切り替えたとしても、旋回性能を向上するヨーモーメント制御から車両挙動安定化制御に切り替えると、切り替える前後の操舵に対する車両の旋回特性が変化する。このため、運転者に違和感を与える可能性がある。
【0005】
このような課題を解決するものとして、路面摩擦係数もしくは目標ヨーレートと実際のヨーレートの偏差から求めたヨーレート偏差の大きさに従い、ヨーモーメント制御の制御ゲインを初期値から1に近付けていき、目標ヨーレートを車両が本来持つ応答に近付ける車両の旋回制御装置を提案した。
しかし、ヨーモーメント制御の制御ゲインを初期値から1に近付けるために応答関数の制御ゲインを変化させると、車両特性を変化させた時と同様の効果が起きる為、例えば一定舵角で旋回中に制御ゲインを変化させると、運転者の意図しない不要なヨーモーメントが発生する可能性がある。
【0006】
この発明の目的は、ヨーレート偏差または路面摩擦係数の大きさに応じて制御ゲインを変化させても、目標ヨーレートが不安定になることのない車両の旋回制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の車両の旋回制御装置は、前後左右輪の制動トルクまたは駆動トルクである制駆動トルクを独立に制御可能な制駆動源5と、操作手段17の指令に応答して前記制駆動源5に制駆動の指令値を与える駆動制御装置10とを有する車両の旋回特性を制御する車両の旋回制御装置であって、
前記駆動制御装置10は、
少なくとも車両の車速と舵角から計算される目標ヨーレートと前記車両に搭載されたセンサが出力する実ヨーレートとの差から計算されるヨーレート偏差、および路面摩擦係
数の少なくとも一方を含む車両走行情報値を計算する車両走行値情報計算手段29,24と、 予め定められた複数の制御ゲインから目標ヨーレートを決める複数目標ヨーレート計算手段25と、
前記車両走行
値情報計算手段29,24により計算された車両走行情報値から制御ゲインを計算する制御ゲイン計算手段26と、
前記複数目標ヨーレート計算手段25により計算された複数の目標ヨーレートおよび前記制御ゲイン計算手段26により計算された制御ゲインに応じて前記目標ヨーレートを補正する目標ヨーレート補正手段32とを備え、
前記路面摩擦係数が小さくまたは前記ヨーレート偏差が大きくなるほど、
初期設定のヨ
ー応答特性を実現する制御ゲインα2のときの目標ヨーレートから、車両本来のヨー応答特性を実現する制御ゲインα1(α1=1)であるときの目標ヨーレートに近づけてい
く、
ことを基本構成とする。
【0008】
この構成によると、複数目標ヨーレート計算手段25により計算された複数の目標ヨーレートおよび、ヨーレート偏差計算手段29から計算されるヨーレート偏差および路面摩擦係数計算手段24から計算される路面摩擦係数のいずれか一方または両方とから計算される制御ゲインに応じて目標ヨーレートを補正する目標ヨーレート補正手段32を備え、前記路面摩擦係数が小さくもしくは前記ヨーレート偏差が大きくなるほど、前記目標ヨーレートを初期の応答特性から車両本来の応答特性に近付けていく。このため、ヨーレート偏差もしくは路面摩擦係数の大きさに応じて制御ゲインを変化させても、目標ヨーレートが不安定になることがない。
【0009】
この
基本構成において、前
記駆動制御装置10は、予め定められた複数の前記制御ゲインからヨーモーメントを決める複数ヨーモーメント計算手段27と、前記複数ヨーモーメント計算手段27により計算された複数のヨーモーメントおよび前記制御ゲイン計算手段26で計算された制御ゲインに応じて前記ヨーモーメントを補正するヨーモーメント補正手段33とを備え、前記ヨーモーメント補正手段33で計算された前記ヨーモーメントに応じて、前後左右輪で独立に制御可能な制動トルクまたは駆動トルクを出力するように
する。
この構成の場合、制御ゲインを変化させても応答関数に影響を与えることが無い為、不要なヨーモーメントを発生させることがない。
【0010】
前記基本構成において、前記目標ヨーレート補正手段32は、予め複数の制御ゲインから計算する前記目標ヨーレートを、隣り合う二つの制御ゲインの間を補間により近似した目標ヨーレートとして計算するよう
にする。
上記のように目標ヨーレートを補間により近似する場合、ヨー応答特性を変化させても、車両姿勢安定化制御が不安定になることを抑制することができる。
【0011】
前記基本構成において、前記ヨーモーメント補正手段33は、予め複数の制御ゲインから計算する前記ヨーモーメントを、隣り合う二つの制御ゲインの間を補間により近似したヨーモーメントとして計算す
る。
上記のようにヨーモーメントを補間で近似する場合、ヨー応答特性を変化させても、ヨーモーメント制御から発生する不要なヨーモーメントを抑制することができる。
【0012】
この発明におい
て、前記駆動制御装置10は、前記路面摩擦係数について2つの異なる閾値μ
a とμ
b が設定されていてμ
a >μ
b の大小関係がある場合、前記路面摩擦係数が閾値μ
a よりも大きい場合は前記制御ゲインα
2 から前記目標ヨーレートおよび前記ヨーモーメントを計算し、前記路面摩擦係数が閾値μ
b よりも小さい場合は前記制御ゲインα
1 から前記目標ヨーレートおよび前記ヨーモーメントを計算し、前記路面摩擦係数が閾値μ
a よりも小さくμ
b よりも大きい場合は、
前記複数目標ヨーレート計算手段25により計算された目標ヨーレートおよび前記複数ヨーモーメント計算手段27により計算されたヨーモーメントを、前記制御ゲイン計算手段26で計算された制御ゲインに応じて前記目標ヨーレート補正手段32
および前記ヨーモーメント補正手段33によって
それぞれ補間により近似した前記目標ヨーレートおよび前記ヨーモーメントを計算するようにしても良い。
この構成の場合、路面摩擦係数が小さくなるにつれて車両本来のヨー応答特性に近付けるため、低μ路面においても車両の姿勢を安定した状態で維持することができる。
【0013】
この発明において、前記駆動制御装置10は、前記ヨーレート偏差に2つの異なる閾値r
aとr
bが設定されていてr
a< r
bの大小関係がある場合、前記ヨーレート偏差が閾値
r
aよりも小さい場合は前記制御ゲインα
2 から前記目標ヨーレートおよび前記ヨーモー
メントを計算し、前記ヨーレート偏差が閾値r
bよりも大きい場合は前記制御ゲインα
1
から前記目標ヨーレートおよび前記ヨーモーメントを計算し、前記ヨーレート偏差が閾値r
aよりも大きくr
bよりも小さい場合
は、前記複数目標ヨーレート計算手段25により計算された目標ヨーレートおよび前記複数ヨーモーメント計算手段27により計算されたヨーモーメントを、前記制御ゲイン計算手段26で計算された制御ゲインに応じて前記目標ヨーレート補正手段32
および前記ヨーモーメント補正手段33によって
それぞれ補間により近似した前記目標ヨーレートおよび前記ヨーモーメントを計算するようにしても良い。
この構成のようにヨーレート偏差が大きくなるにつれて車両本来のヨー応答特性に近付ける場合、プローもしくはスピン傾向の車両姿勢を早期に回復することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の車両の旋回制御装置は、前後左右輪の制動トルクまたは駆動トルクである制駆動トルクを独立に制御可能な制駆動源と、操作手段の指令に応答して前記制駆動源に制駆動の指令値を与える駆動制御装置とを有する車両の旋回特性を制御する車両の旋回制御装置であって、前記駆動制御装置は、少なくとも車両の車速と舵角から計算される目標ヨーレートと前記車両に搭載されたセンサが出力する実ヨーレートとの差から計算されるヨーレート偏差、および路面摩擦係
数の少なくとも一方を含む車両走行情報値を計算する車両走行値情報計算手段と、予め定められた複数の制御ゲインから目標ヨーレートを決める複数目標ヨーレート計算手段と、前記車両走行
値情報計算手段により計算された車両走行情報値から制御ゲインを計算する制御ゲイン計算手段と、前記複数目標ヨーレート計算手段により計算された複数の目標ヨーレートおよび前記制御ゲイン計算手段により計算された制御ゲインに応じて前記目標ヨーレートを補正する目標ヨーレート補正手段とを備え、 前記路面摩擦係数が小さくまたは前記ヨーレート偏差が大きくなるほど、
初期設定のヨー応答特性を実現する制御ゲインα2のときの目標ヨーレートから、車両本来のヨー応答特性を実現する制御ゲインα1(α1=1)であるときの目標ヨーレートに近づけてい
き、前記駆動制御装置は、予め定められた複数の前記制御ゲインからヨーモーメントを決める複数ヨーモーメント計算手段と、前記複数ヨーモーメント計算手段により計算された複数のヨーモーメントおよび前記制御ゲイン計算手段で計算された制御ゲインに応じて前記ヨーモーメントを補正するヨーモーメント補正手段とを備え、前記ヨーモーメント補正手段で計算された前記ヨーモーメントに応じて、前後左右輪で独立に制御可能な制動トルクまたは駆動トルクを出力し、前記目標ヨーレート補正手段は、予め複数の制御ゲインから計算する前記目標ヨーレートを、隣り合う二つの制御ゲインの間を補間により近似した目標ヨーレートとして計算し、前記ヨーモーメント補正手段は、予め複数の制御ゲインから計算する前記ヨーモーメントを、隣り合う二つの制御ゲインの間を補間により近似したヨーモーメントとして計算するため、ヨーレート偏差もしくは路面摩擦係数の大きさに応じて制御ゲインを変化させても、目標ヨーレートが不安定になることがないと言う効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の第1の実施形態に係る車両の旋回制御装置を
図1ないし
図10と共に説明する。
図1に示すように、この旋回制御装置を搭載した車両1として、四輪全てに制駆動源となるインホイールモータ駆動装置(以下、「IWM」と略称する場合がある)5を備えた四輪独立駆動式の車両を例に説明する。この車両1は、左右の後輪となる車輪2および左右の前輪となる車輪2が、いずれも制駆動源となる電気モータ4で独立して駆動される。
【0017】
図2に示すように、インホイールモータ駆動装置5は、電気モータ4、減速機6、および車輪用軸受7を有し、一部または全体が車輪2内に配置される。電気モータ4の回転は、減速機6および車輪用軸受7を介して車輪2に伝達される。インホイールモータ駆動装置5は、電気モータ4の回
転方向の切換により、駆動トルクまたは制動トルクを発生する。車輪用軸受7のハブ輪7aのフランジ部には摩擦ブレーキ装置8を構成するブレーキロータ8aが固定され、同ブレーキロータ8aは車輪2と一体に回転する。電気モータ4は、例えば、ロータ4aのコア部に永久磁石が内蔵された埋込磁石型同期モータである。この電気モータ4は、ハウジング4cに固定したステータ4bと、回転出力軸9に取り付けたロータ4aとの間にラジアルギャップを設けたモータである。
【0018】
図1において、制御系を説明する。
車両の旋回制御装置は、この例では電気制御ユニット(ECU)により構成される駆動制御装置10と、各電気モータ4に対して設けられた複数(この例では4つ)のインバータ装置11と、センサ類12とを備える。駆動制御装置10は、メインECU部13と、ヨーモーメント制御装置14と、車両姿勢安定化制御装置15と、インバータトルク指令装置16とを有する。駆動制御装置10は、マイクロコンピュータ等のコンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。駆動制御装置10と各インバータ装置11とは、CAN(コントロール・エリア・ネットワーク)等の車内通信網で接続されている。
【0019】
メインECU部13は、その基本的な構成として、車両全般の統括制御や協調制御を行う機能と、制駆動指令生成機能とを有する。この制駆動指令生成機能は、図示外のアクセルペダルに設けられたアクセルペダルセンサ17が検出した操作量の指令値であるアクセル指令値から電気モータ4へ与えるトルク指令値を生成する機能である。運転者が前記アクセルペダルを操作し駆動を指示した場合、前記アクセルペダルの操作量に応じてアクセルペダルセンサ17からアクセル指令値がメインECU部13に入力される。前記アクセルペダルは、請求項で言う操作手段の一つである。より具体的には、メインECU部13の制駆動指令生成機能は、図示外のブレーキペダルに設けられたブレーキペダルセンサが検出した操作量の指令値であるブレーキ指令値を前記アクセル指令値から差し引いて4つの各電気モータ4へ分配する合計のトルク指令値を生成する機能とされる。なお請求項で言う操作手段は、自動運転手段(図示せず)を備える場合、その自動運転手段であっても良い。
【0020】
メインECU部13からのアクセルトルク指令値はヨーモーメント制御装置14等を介してインバータ装置11へ送られる。各インバータ装置11は、図示外のバッテリの直流電力を電気モータ4の駆動のための交流電力に変換する手段であって、その出力を制御する制御部(図示せず)を有し、各車輪2毎に分配されたトルク指令値に従って担当の電気モータ4を制御する。各インバータ装置
11は、交流電力に変換するスイッチング素子のブリッジ回路等のパワー回路部(図示せず)と、そのパワー回路部を制御する制御部(図示せず)とを有する。
【0021】
センサ類12は、前記アクセルペダルセンサ17、車速検出手段である車速センサ18、操舵角検出手段である舵角センサ19、ヨーレート検出手段であるヨーレートセンサ20、および横加速度検出手段である横加速度センサ21を含む。前記舵角センサ19は、例えば、図示外のステアリングハンドル等の操舵角を検出するセンサである。メインECU部13には、舵角センサ19から操舵角、車速センサ18から車速、横加速度センサ21から実横加速度、ヨーレートセンサ20から実ヨーレートがそれぞれ入力される。各値は、メインECU部13からヨーモーメント制御装置14と車両姿勢安定化制御装置15に出力される。
【0022】
図3に示すように、ヨーモーメント制御装置14は、目標横加速度計算手段22、横加速度偏差計算手段23、車両走行値情報計算手段である路面摩擦係数計算手段24、複数目標ヨーレート計算手段25、目標ヨーレート補正手段32、制御ゲイン計算手段26、複数ヨーモーメント計算手段27、ヨーモーメント補正手段33、および制駆動トルク計算手段28を含む。
車両姿勢安定化制御装置15は、車両走行値情報計算手段であるヨーレート偏差計算手段29、車両姿勢状態計算手段30、制駆動トルク計算手段31を含む。
【0023】
ヨーモーメント制御装置14には、メインECU部13から、車速、舵角、実横加速度、ア
クセルペダルセンサ
17からのアクセルトルク指令値が入力される。目標横加速度計算手段22では、車速および舵角と車両の質量やホイールベース等の車両パラメータから目標横加速度を計算する。横加速度偏差計算手段23では、上記目標横加速度と実横加速度の差から横加速度偏差を計算する。路面摩擦係数計算手段24では、横加速度偏差計算手段23から出力された横加速度偏差が
図6に示すように閾値Gy
c以下ならば1とし、閾値Gy
c
を超えた時は実横加速度から路面摩擦係数を計算する。目標横加速度をGy
ref、実横加速
度をGy
act、路面摩擦係数をμ
estとすると、
Gy
ref − Gy
act≦ Gy
c ならば ⇒ μ
est = 1 (1)
Gy
ref − Gy
act> Gy
c ならば ⇒ μ
est ≧ |Gy
act| (2)
として推定する。
【0024】
図3において、複数目標ヨーレート計算手段25では、複数の目標ヨーレートが計算されており、式(3)に示す実舵角δ(s)に対する目標ヨーレートr(s)の二次遅れ系の伝達関数を計算したものが複数個出力される。
【0026】
式(3)は、車速と車両の質量やホイールベース等の車両パラメータから計算される、G
δr(0):ヨー角速度ゲイン定数、ω
n:ヨー方向の固有振動数、ζ:ヨー方向の減衰係数、T
r:ヨー角速度時定数と、s:ラプラス演算子、α
i:固有振動数ω
nの制御ゲイン(i=1〜3)、λ
i:減衰係数ζの制御ゲイン(i=1〜3)、から構成されている。
【0027】
制御ゲインが1より大きい場合、目標ヨーレートの立ち上がりが早くなり、制御ゲインが1の時は車両本来のヨー応答特性となる。例えば、
図4に示すように3つの制御ゲインが予め計算されていて制御ゲインの初期値α
2を2.0に設定した場合、(a)α
1=1.0、(b)α
2=2.0、(c)α
3=1.5の制御ゲインの時に計算される目標ヨーレートを予め計算しておく。
【0028】
目標ヨーレート補正手段32では、複数目標ヨーレート計算手段25で計算された目標ヨーレートと、制御ゲイン計算手段26から計算された制御ゲインから、最終的に出力するべき目標ヨーレートを計算する。例えば、上記と同様に制御ゲインの初期値α
2を2.0に設定していた時に、制御ゲイン計算手段26によって制御ゲインが2.0から1.0に変化した場合、α
1とα
3の間もしくはα
3とα
2の間は目標ヨーレートを線形補間により近似する事でスムーズに車両のヨー応答特性を車両が本来持つヨー応答特性に近付ける。なお、本実施形態では、補間方法として、線形補間を例に示したが、補間方法はこれに限られるものではない。すなわち、補間方法として、多項式補間、スプライン補間、ラグランジュ補間等の他の公知の補間方法を用いてもよい。
【0029】
制御ゲイン計算手段26では、路面摩擦係数計算手段24で計算された車両走行情報値である路面摩擦係数と、ヨーレート偏差計算手段29で計算された車両走行情報値であるヨーレート偏差に応じて制御ゲインを計算する。
なお、制御ゲイン計算手段26では、
図11の実施形態に示すように、路面摩擦係数計算手段24で計算された路面摩擦係数に応じて制御ゲインを計算し、ヨーレート偏差を用いずに計算する構成であっても良く、また
図12の実施形態に示すように、ヨーレート偏差計算手段29で計算されたヨーレート偏差に応じて制御ゲインを計算し、路面摩擦係数を用いずに計算する構成であっても良い。
図11、
図12に示す各実施形態は、その他の構成については、
図3に示す実施形態と同様である。
【0030】
制御ゲインは、前記した通りヨー方向の固有振動数ω
nの制御ゲインをα、ヨー方向の減衰係数ζの制御ゲインをλとする。これ以降に出てくる制御ゲインは全てαを例に説明する。また、路面摩擦係数もしくはヨーレート偏差には、
図7に示すように2つの閾値を設けても良い。路面摩擦係数が閾値μ
aより小さい、もしくはヨーレート偏差が閾値r
aより大きい場合は制御ゲインを初期値から1に近付けていき、路面摩擦係数が閾値μ
bより小さい、もしくはヨーレート偏差が閾値r
bより大きい場合は制御ゲインを1に設定する。
【0031】
また、
図8に示すように制御ゲインが初期値から1に下がる時よりも、1から初期値に戻す時の方が緩やかであることを特徴とする。路面摩擦係数が低い場所では、タイヤはグリップ力を失いやすいため、制御ゲインを即座に小さくしてヨーモーメント制御による制駆動トルクを小さくし、路面摩擦係数が高い場所では、タイヤのグリップ力が戻るため、制御ゲインを緩やかに初期値に戻していきヨーモーメント制御による制駆動トルクを大きくすることで、運転者に違和感を与えることがない。
【0032】
図3において、複数ヨーモーメント計算手段27では、複数のヨーモーメントが計算されており、式(4)に示す実舵角δ(s)に対するヨーモーメントM
z(s)の三次遅れ系の伝達関数を計算したものが複数個出力される。
【0034】
式(4)は、式(3)と同様に車速と車両の質量やホイールベース等の車両パラメータから計算される、G
δr(0):ヨー角速度ゲイン定数、ω
n:ヨー方向の固有振動数、ζ:ヨー方向の減衰係数、T
r:ヨー角速度時定数、G
Mr(0):ヨーモーメントゲイン定数、T
M:ヨーモーメント時定数と、s:ラプラス演算子、α
i:固有振動数ω
nの制御ゲイン(i=1〜3)、λ
i:減衰係数ζの制御ゲイン(i=1〜3)、から構成されている。
【0035】
複数目標ヨーレート計算手段25と同様に、例えば、
図5に示すように3つの制御ゲインが予め計算されていて制御ゲインの初期値α
2を2.0に設定した場合、(a)α
1=1.0、(b)α
2=2.0、(c)α
3=1.5の制御ゲインの時に計算されるヨーモーメントを予め計算しておく。ただし、式(4)をみると、制御ゲインα
iもしくはλ
iが1.0であれば、実舵角δ(s)に対するヨーモーメントM
z(s)はゼロであることがわかる。
【0036】
ヨーモーメント補正手段33では、複数ヨーモーメント計算手段27から計算されたヨーモーメントと、制御ゲイン計算手段26から計算された制御ゲインから、最終的に出力するべきヨーモーメントを計算する。例えば、上記と同様に制御ゲインの初期値α
2を2.0に設定していた時に、制御ゲイン計算手段26によって制御ゲインが2.0から1.0に変化した場合、α
1とα
3の間、もしくはα
3とα
2の間は、目標ヨー
モーメントを線形補間により近似する事でスムーズにヨーモーメントをゼロに近付ける。なお、本実施形態では、補間方法として、線形補間を例に示したが、補間方法はこれに限られるものではない。すなわち、補間方法として、多項式補間、スプライン補間、ラグランジュ補間等の他の公知の補間方法を用いてもよい。
【0037】
制駆動トルク計算手段28では、アクセルトルク指令値と式(4)で計算されたヨーモーメントに応じて4輪の制駆動トルクを決定してトルク指令値Yを指令する。車両姿勢安定化制御が無い場合はトルク指令値Yが最終指令トルクとなる。
【0038】
なお、この車両の旋回制御装置は、この実施形態で説明した4輪IWMの搭載車以外にも、前後左右の4輪に制動トルクを与える手段として摩擦ブレーキを使用した前輪駆動車、後輪駆動車、ガソリンを駆動源とした4輪駆動車においても上記と同様にしてヨーモーメント制御を行うことができる。
【0039】
図9および
図13(A)〜(C)は、左右輪で同じ駆動トルクを出力している車両が左旋回した時の、旋回性能を向上させる向きにヨーモーメントを発生させる方法を各駆動方式別に示したものである。破線で示した細い矢印はIWMもしくは摩擦ブレーキ(図示せず)による制動トルク、実線で示した細い矢印はIWMもしくはエンジン出力による駆動トルク、太い矢印は制動トルクと駆動トルクの合計値を表していて、実線は駆動トルク、破線は制動トルクの合計値となる。
【0040】
図9に示すように、IWM搭載車は、旋回外輪は駆動トルク、旋回内輪は制動トルクを出力することでヨーモーメントが発生する。
また、
図13に示すように、ガソリンエンジン車は、旋回外輪はエンジン出力による駆動トルク、旋回内輪は駆動トルクよりも大きな摩擦ブレーキによる制動トルクを出力することでヨーモーメントが発生する。もし、旋回中に運転者がアクセル操作もしくはブレーキ操作をした場合、制動トルクもしくは駆動トルクが付加されるため車両は加速もしくは減速する。
【0041】
図3において、車両姿勢安定化制御装置15には、メインECU部13から実ヨーレートが入力される。ヨーレート偏差計算手段29では、実ヨーレートと目標ヨーレート補正手段32で補正された補正後の目標ヨーレートとの差からヨーレート偏差を計算する。
【0042】
車両姿勢状態計算手段30では、ヨーレート偏差計算手段29で計算されたヨーレート偏差の大きさから車両の姿勢状態を計算する。
図10は、車両姿勢を3つの状態に分けて示したものである。目標ヨーレートと実ヨーレートの値がほぼ同等である場合は、ヨーモーメント制御によって片側の前後輪が同じ方向に制動トルクもしくは駆動トルクを指令してヨーモーメントを発生させる。それに対し、路面摩擦係数が低い場所等では車両が曲りきれないもしくはスピン状態になりやすくなる。目標ヨーレートをr
ref、実ヨーレートをr
act、閾値を前記r
bとすれば、
r
ref > r
act かつ |r
ref − r
act| > r
b ならば ⇒ アンダーステア状態(US)(5)
r
ref < r
act かつ|r
ref − r
act| > r
b ならば ⇒ オーバーステア状態(OS) (6)
と判断して、USの場合は後輪が制御輪、OSの場合は前輪が制御輪として、ヨーモーメントを発生させて車両姿勢を安定化させる。
【0043】
車両姿勢安定化制御の制駆動トルク計算手段31では、路面摩擦係数計算手段24で計算された路面摩擦係数、車両姿勢状態計算手段30で計算された車両姿勢状態、目標ヨーレート補正手段32で補正された補正後目標ヨーレートから指令する制動トルクおよび駆動トルクを計算してトルク指令値Eとして指令する。
【0044】
トルク指令値Yとトルク指令値Eは最終トルク指令値を計算するインバータトルク指令装置16に入力され、最終トルク指令値をインバータ装置11へと指令する。インバータ装置11は、最終トルク指令値となるよう電流を制御してインホイールモータ駆動装置5を駆動する。
【0045】
上記構成によると、制御ゲインを初期値から1に近付ける、即ち車両の旋回性能を向上させるヨーモーメント制御から車両本来の旋回性能に戻しても不要なヨーモーメントを発生させずに車両姿勢を安定化させる。さらに、車両に車両姿勢安定化制御が備わっている場合は、上記に加えてヨーモーメント制御に使用している目標ヨーレートを車両姿勢安定化制御にも使用することで、ヨーモーメント制御から車両姿勢安定化制御に切り替えても運転者に違和感を与えないようにする。以下、具体的に説明する。
【0046】
ヨーモーメント制御装置14によるヨーモーメント制御は、走行中の車両の車速と舵角、そして制御ゲインから計算される目標ヨーレートに応じて、前後左右輪の制動トルクもしくは駆動トルクを指令してヨーモーメントを発生させる。事前に目標ヨーレートを車両本来のヨー応答特性よりも早い立ち上がりとなるように設定すれば、これに応じてヨーモーメントが大きく発生する。
【0047】
目標ヨーレートとヨーモーメントを決める制御ゲインは予め複数の値が設定されており、例えば制御ゲインが3つ設定されている場合、車両本来のヨー応答特性を実現する制御ゲインをα
1、初期のヨー応答特性を実現する制御ゲインをα
2、α
1とα
2の間のある1つの制御ゲインをα
3とし、制御ゲインがα
1の時の目標ヨーレートをr
1、ヨーモーメントをM
1、制御ゲインがα
2の時の目標ヨーレートをr
2、ヨーモーメントをM
2、制御ゲインがα
3の時の目標ヨーレートをr
3、ヨーモーメントをM
3とする。
【0048】
路面摩擦係数の推定値が閾値μ
aよりも大きい、もしくはヨーレート偏差が閾値r
aよりも小さい場合は目標ヨーレートをr
2(車両本来のヨー応答特性よりも早い応答)、ヨーモーメントをM
2とする。路面摩擦係数の推定値が閾値μ
bよりも小さい、もしくはヨーレート偏差が閾値r
bよりも大きい場合は目標ヨーレートをr
1(車両本来のヨー応答特性におおよそ一致する)、ヨーモーメントをM
1とする。路面摩擦係数の推定値が閾値μ
aより小さく閾値μ
bより大きい時、またはヨーレート偏差が閾値r
aより大きく閾値r
bより小さい時でかつ制御ゲインがα
1からα
3の間、またはα
3からα
2の間の時の目標ヨーレートとヨーモーメントは補間により近似する。これにより、初期のヨー応答特性から車両本来のヨー応答特性にスムーズに近付けていく。
【0049】
また、車両姿勢安定化制御装置15による車両姿勢安定化制御には、ヨーモーメント制御で使用する目標ヨーレートと同じものを使用するため、ヨーモーメント制御から車両姿勢安定化制御に切り替えても操舵に対する車両の旋回特性が変わらないため運転者に違和感を与えることはない。
【0050】
路面摩擦係数は、横加速度センサ21で実測した横加速度等から推定する。走行中の車両の車速と舵角から計算される目標横加速度と、上記横加速度センサ21で実測した実横加速度の偏差がある閾値Gy
c以下なら1、閾値Gy
cを超えた場合はその時の実横加速度から路面摩擦係数を推定する。
【0051】
このように、この実施形態の車両の旋回制御装置は、タイヤのグリップ限界を考慮することで、例えば、走行する場所の路面摩擦係数が低い場合に旋回性能を向上させるようなヨーモーメント制御を行った場合、タイヤのグリップが限界を超えないようにヨーモーメントを制御することで、車両を安定させる。また、旋回中にヨーレート偏差もしくは路面摩擦係数の大きさに応じて制御ゲインを変化させても、ヨーモーメント制御による不要なヨーモーメントを発生させることがなく、目標ヨーレートが不安定になることがなくて旋回性能が向上する。ヨーモーメント制御から車両挙動安定化制御に切り替えても、切り替える前後の操舵に対する車両の旋回特性を変化させないため運転者に違和感を与えない。
【0052】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。