特許第6682439号(P6682439)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6682439病態判定支援装置、方法、プログラムおよび記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682439
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】病態判定支援装置、方法、プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6809 20180101AFI20200406BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20200406BHJP
   G06F 17/00 20190101ALI20200406BHJP
【FI】
   C12Q1/6809 Z
   C12M1/00 A
   G06F17/00
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-546243(P2016-546243)
(86)(22)【出願日】2014年9月3日
(86)【国際出願番号】JP2014073213
(87)【国際公開番号】WO2016035168
(87)【国際公開日】20160310
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 盛敏
(72)【発明者】
【氏名】東山 諒
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大輔
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−522537(JP,A)
【文献】 特表2004−504038(JP,A)
【文献】 特開2006−254739(JP,A)
【文献】 特開2012−157283(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/083023(WO,A1)
【文献】 特表2011−500041(JP,A)
【文献】 特表2010−504579(JP,A)
【文献】 簑島 伸生ほか,疾患遺伝子変異と疾患関連多型の総合知識ベースの構築,[Online]URL:http://lifesciencedb.jp/houkoku/pdf/001/b029.pdf,[Retrieved on 04-11-2014]
【文献】 Minoshima et al.,Nucleic Acids Research,Vol.29, No.1,p.327-328(2001)
【文献】 横山仁,腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR)の現状と今後の展望,日本小児腎臓病学会雑誌,Vol.26, No.2,p.213-219(2013)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12M 1/00−3/10
G06F 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性嚢胞腎の病態の判定を支援する病態判定支援装置であって、
被験者の遺伝子配列を記載したシークエンスデータから、多発性嚢胞腎に関連する範囲の遺伝子変異の情報を抽出する抽出手段と、
前記抽出した前記遺伝子変異の情報を用いて、遺伝子変異と医学的な情報とを対応付けた複数のデータベースから、前記抽出した前記遺伝子変異に対応する医学的な情報を取得する取得手段と、
前記抽出した前記遺伝子変異の情報と、前記取得した前記医学的な情報とを一覧で表示する一覧表示手段と、
を有し、
前記データベースが、腎嚢胞を有しない者に観察される遺伝子変異のデータベースを含み、
前記一覧で表示する情報が、前記腎嚢胞を有しない者の所定の人数中何人に前記抽出した前記遺伝子変異が存在したのかの情報を含む、病態判定支援装置。
【請求項2】
前記データベースを記録した記録部を有する請求項1に記載の病態判定支援装置。
【請求項3】
前記遺伝子変異の情報が、染色体の位置情報を基準とした情報であり、
染色体の番号と、変異の位置と、変異後の塩基の種類とを含む、請求項1または2に記載の病態判定支援装置。
【請求項4】
前記データベースが、偽遺伝子配列データベースをさらに含む、請求項1〜のいずれかに記載の病態判定支援装置。
【請求項5】
多発性嚢胞腎の病態の判定を支援する病態判定支援方法であって、
被験者の遺伝子配列を記載したシークエンスデータから、多発性嚢胞腎に関連する範囲の遺伝子変異の情報を抽出する抽出ステップと、
前記抽出した前記遺伝子変異の情報を用いて、遺伝子変異と医学的な情報とを対応付けた複数のデータベースから、前記抽出した前記遺伝子変異に対応する医学的な情報を取得する取得ステップと、
前記抽出した前記遺伝子変異の情報と、前記取得した前記医学的な情報とを一覧で表示する一覧表示ステップと、
を含み、
前記データベースが、腎嚢胞を有しない者に観察される遺伝子変異のデータベースを含み、
前記一覧で表示する情報が、前記腎嚢胞を有しない者の所定の人数中何人に前記抽出した前記遺伝子変異が存在したのかの情報を含病態判定支援方法。
【請求項6】
前記データベースが、偽遺伝子配列データベースをさらに含む、請求項に記載の病態判定支援方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の病態判定支援装置の前記抽出手段、前記取得手段、および前記一覧表示手段として、コンピュータを機能させるプログラム。
【請求項8】
請求項に記載のプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の病態の判定を支援する装置に関し、より詳細には、被験者の遺伝子配列に基づく遺伝子変異の情報と、公共データベース等に記録されている、当該遺伝子変異についての種々の医学的な情報とを一覧で表示することで、被験者の病態を判定する際の支援を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子の変異に関連する疾患に対して、患者が有する遺伝子情報の解析をはじめとして、疾患と遺伝子変異との関連性が盛んに研究されている。例えば、頻度の高い遺伝性の腎疾患であり、難病として知られている多発性嚢胞腎(polycystic kidney disease; PKD)のうち、常染色体優勢多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease; ADPKD)については、病因遺伝子としてPKD1遺伝子とPKD2遺伝子とが同定されている。ADPKDの場合、遺伝子変異の約85%がPKD1遺伝子の異常であり、約15%がPKD2遺伝子の異常であり、PKD1遺伝子異常において疾患の進行速度がより早いことが報告されている。遺伝子変異を検出する公知の方法としては、サンガーシークエンス法(非特許文献1)や次世代シークエンス解析法(特許文献1および非特許文献2)が知られており、PKD1遺伝子およびPKD2遺伝子についても、これらの方法により変異を検出することが可能となっている。
【0003】
一方で、近年では、種々の公共データベースにおいて、疾患と遺伝子変異との関連性についての研究結果が公開されている。例えば、多発性嚢胞腎財団(PKD財団)が運営するウェブサイト上では、Mayoクリニックが作成した病原変異のデータベース(以下、Mayoデータベースと記載する)が公開されている。また、米国生物工学情報センター(NCBI: National Center for Biotechnology Information)が運営するGenBankでは、種々の配列に関するデータベースが公開されている。これら公共データベース上では、遺伝子変異に関連する医学的な情報を取得することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−11230号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】F. Sanger et al., “A rapid method for determining sequences in DNA by primed synthesis with DNA polymerase”, Journal of Molecular Biology, 1975年4月, Volume 94, p.411-446
【非特許文献2】水島−菅野純子 他,“次世代シークエンサーの医療への応用と課題”,モダンメディア,栄研化学株式会社,2011年8月,第57巻8号,p.1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
検出した遺伝子変異の情報に基づいて患者の病態の原因となる病原遺伝子変異を特定しようとする場合、当該遺伝子変異についての医学的な見地での種々の情報が必要とされる。そのため、一つの公共データベースを参照するだけでは、正確な病原遺伝子変異の特定に十分な程度の情報を得ることができない。また、1人の患者について数個から数十個の遺伝子変異が検出されると、これら数個から数十個の遺伝子変異のそれぞれについて、複数の公共データベースや過去の学術論文等の記載をその都度個別に参照する必要があり、非常に手間がかかる上、健常者データベースが無ければ十分に病原遺伝子変異を特定することができない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、被験者の遺伝子配列に基づく遺伝子変異の情報と、公共データベース等に記録されている、遺伝子変異についての種々の医学的な情報とを一覧で表示し、独自に構築した健常者の遺伝子変異(多型)データベースの情報を参照することで、被験者の病原遺伝子変異を特定し易くし、病態を判定する際の支援を行う装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための、本発明に係る病態判定支援装置は、多発性嚢胞腎の病態の判定を支援する病態判定支援装置であって、被験者の遺伝子配列を記載したシークエンスデータから、多発性嚢胞腎に関連する範囲の遺伝子変異の情報を抽出する抽出手段と、前記抽出した前記遺伝子変異の情報を用いて、遺伝子変異と医学的な情報とを対応付けた複数のデータベースから、前記抽出した前記遺伝子変異に対応する医学的な情報を取得する取得手段と、前記抽出した前記遺伝子変異の情報と、前記取得した前記医学的な情報とを一覧で表示する一覧表示手段を有する。
【0009】
好ましくは、前記データベースを記録した記録部を有する。
【0010】
好ましくは、前記遺伝子変異の情報が、染色体の位置情報を基準とした情報であり、染色体の番号と、変異の位置と、変異後の塩基の種類とを含む。
【0011】
また、本発明に係る病態判定支援方法は、多発性嚢胞腎の病態の判定を支援する病態判定支援方法であって、被験者の遺伝子配列を記載したシークエンスデータから、多発性嚢胞腎に関連する範囲の遺伝子変異の情報を抽出する抽出ステップと、前記抽出した前記遺伝子変異の情報を用いて、遺伝子変異と医学的な情報とを対応付けた複数のデータベースから、前記抽出した前記遺伝子変異に対応する医学的な情報を取得する取得ステップと、前記抽出した前記遺伝子変異の情報と、前記取得した前記医学的な情報とを一覧で表示する一覧表示ステップと、を含む。
【0012】
また、本発明に係るプログラムは、上記した本発明の病態判定支援装置の前記抽出手段、前記取得手段、および前記一覧表示手段として、コンピュータを機能させる。
【0013】
また、本発明に係るコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記した本発明に係るプログラムを記録する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、被験者から得られる遺伝子変異の情報と、公共データベース等に記録されている、当該遺伝子変異についての種々の医学的な情報とを一覧で表示することができるので、遺伝子変異の情報に基づいて被験者の病態を判定しようとする際に必要となる種々の情報を、一覧で網羅的に提供することができる。
【0015】
さらに、一覧で網羅的に提供する情報として、既存の公共データベースに限らず、健常者の遺伝子変異(多型)データベースの情報もあわせて提供することにより、すなわち、所定の人数の健常者についてシークエンス解析を行って、新たに独自の健常人データベースを構築し、この独自に構築した健常者の遺伝子変異(多型)データベースを参照することにより、1人の患者について数個から数十個検出される遺伝子変異から、健常者に観察される正常な遺伝子変異(多型)を比較して除くことができるようになり、被験者の病原遺伝子変異をより特定し易くすることができる。なお、多発性嚢胞腎は産まれながらに腎嚢胞を有するものの、30〜40歳まで無症状であることが多い。このため、健常者の遺伝子多型データベースを作成するためには、健常者を選択する際に、35歳以上で両腎に超音波検査で腎嚢胞を有しないことを確認した者を選択することが重要である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る病態判定支援装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る病態判定支援装置の機能を説明するためのブロック図である。
図3】本発明の実施の形態に係る病態判定支援装置が行うデータ処理の順序を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する説明を省略する。
【0018】
なお、説明の簡略化のため、以下では判定対象とする疾患を多発性嚢胞腎(PKD)として説明する
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る病態判定支援装置1の概略構成を示すブロック図である。本実施形態では、病態判定支援装置1はコンピュータ・システムとして実現されている。
【0020】
病態判定支援装置1(以下、単に装置1とも記す)は、後述するデータの処理を行うCPU10と、データ処理の作業領域に使用するメモリ11と、処理データを記録する記録部12と、各部の間でデータを伝送するバス13と、外部機器とのデータの入出力を行うインタフェース部14(以下、I/F部と記す)とを備えている。なお、図1では記載を省略しているが、コンピュータが通常備えている操作手段(キーボード等)や表示手段(ディスプレイ等)も備えている。
【0021】
記録部12内には、対象とする疾患(多発性嚢胞腎;PKD)の遺伝子変異の情報と、当該遺伝子変異に関連する医学的な情報とが関連付けられた内部データベース12aが予め記録されている。
【0022】
また、装置1はインターネット2を介して種々の公共データベース3に接続されていてもよく、公共データベース3から取得した、遺伝子変異に関連する医学的な情報と、公共データベース3に問い合わせた際の、対象とする疾患の遺伝子変異の情報とを関連付けて内部データベース12aとして記録することもできる。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態に係る装置1の機能を説明するためのブロック図である。装置1は、抽出部21と、取得部22と、一覧表示部23とを備える。これらの機能ブロックは、本発明に係るプログラムを装置1にインストールすることにより実現されるものである。これらの機能については後述する。
1)遺伝子変異の情報
【0024】
本発明の実施の形態では、遺伝子変異の情報を、染色体の位置情報を基準として表す。遺伝子変異の情報は、染色体の番号と、この番号で示される染色体における変異の位置(開始位置および終了位置)と、変異後の塩基の種類とを含む。多発性嚢胞腎(PKD)の場合の遺伝子変異の情報の一例を表1に示す。PKDの場合、PKD1遺伝子の異常は16番染色体(chr16)に存在し、PKD2遺伝子の異常は4番染色体(chr4)に存在することが知られている。
【表1】
【0025】
表1中、Contigで示される列が染色体の番号を示し、Start posおよびEnd posで示される列が変異の位置(開始位置および終了位置)を示し、Actual valueで示される列が変異後の塩基の種類を示す。なお、Ref valueで示される列は、その位置での変異していない、正常な塩基の種類を示す。
2)内部データベース
【0026】
次に、予め作成しておく種々の内部データベース12aの一例として、次の6種類のデータベースについて説明する。
【0027】
・日本人健常人データベース
【0028】
所定の年齢(例えば35歳)以上で両方の腎臓に嚢胞が認められない、所定の人数(例えば、140名)の健康な日本人を対象として、試料(例えば血液)を採取して公知の方法でシークエンス解析し、検出した遺伝子変異(例えば、一塩基多型、SNP)の位置情報を、染色体の位置情報を基準とした位置情報に読み替えて、内部データベース12aとして記録しておく。
【0029】
当該データベースが照会(query)を受け、照会対象の遺伝子変異が当該データベースにレコードとして記録されている場合には、所定の人数中何名にその遺伝子変異が存在したかの情報を、データベースの照会結果として返す。
【0030】
・Cons論文データベース
【0031】
異種間で共通祖先が持っていた遺伝子が進化の過程で変化している場合、その遺伝子由来のタンパク質は共通の機能を持つことが多く、その異種間の相同性が高い領域を「良く保存された領域(conserved region)」と呼ぶ。この良く保存された領域はその蛋白質の機能において重要であると考えられている。Cons.論文はアダム・シーペルらの論文(Evolutionarily conserved elements in vertebrate, insect, worm, and yeast genome. Genome Res 2005 15:1034-1050)を示しており、遺伝子領域の保存された状態を数値で示す方法を示している。Cons論文中の、PKD1遺伝子領域およびPKD2遺伝子領域のそれぞれの塩基の保存状態を数値化してConsスコアを作成し、このConsスコアと、染色体の位置情報を基準とした位置情報とを対応付けて、内部データベース12aとして記録しておく。
【0032】
当該データベースが照会を受け、照会対象の遺伝子変異が当該データベースにレコードとして記録されている場合には、Consスコアをデータベースの照会結果として返す。なお、Consスコアは0〜1の実数値であり、スコアが1に近いほど、良く保存されており、その塩基に変異があると病原性が強いことを意味する指標である。
【0033】
・Mayoデータベース
【0034】
Mayoデータベースにて公開されているPKD1変異およびPKD2変異についての病原変異のデータを、染色体の位置情報を基準とした位置情報と対応付けて、内部データベース12aとして記録しておく。
【0035】
当該データベースが照会を受け、照会対象の遺伝子変異が当該データベースにレコードとして記録されている場合には、PKD財団で使用されている判定指標を返す。判定指標とは、例えば「Definitely Pathogenic」および「Highly Likely Pathogenic」等である。
【0036】
・PubMed IDデータベース
【0037】
PubMedとは、米国の国立生物化学情報センター(NCBI)が作成している文献情報のデータベースである。このPubMedに蓄積されている過去の学術論文等から病原遺伝子変異を予め抽出し、染色体の位置情報を基準とした位置情報と対応付けて、内部データベース12aとして記録しておく。
【0038】
当該データベースが照会を受け、照会対象の遺伝子変異が当該データベースにレコードとして記録されている場合には、PubMedIDを返す。PubMedIDとは、PubMedに蓄積されている文献に付された固有のID番号である。
【0039】
・偽遺伝子配列データベース
【0040】
PKDについて知られている偽遺伝子配列PKD1P1, PKD1P2, PKD1P3, PKD1P4, PKD1P5, PKD1P6を、種々の公知の公共データベースからピックアップし、これらをPKD1遺伝子と比較してそれぞれ偽遺伝子と正常遺伝子PKD1の異なる変異部位を抽出し、染色体の位置情報を基準とした位置情報と対応付けて、内部データベース12aとして記録しておく。
【0041】
当該データベースが照会を受け、照会対象の遺伝子変異が当該データベースにレコードとして記録されている場合には、照会した遺伝子変異が偽遺伝子由来の変異である旨をデータベースの照会結果として返す。この偽遺伝子由来の遺伝子変異が複数検出された場合は、後述するロングレンジPCRで偽遺伝子を増幅した可能性があり、当該データベースは遺伝子検査の精度管理の指標となる。
【0042】
・GenBankデータベース
【0043】
GenBankデータベースからPKD1遺伝子およびPKD2遺伝子の遺伝子変異の位置情報を、染色体の位置情報を基準とした位置情報に読み替えて、内部データベース12aとして記録しておく。
【0044】
当該データベースが照会を受け、照会対象の遺伝子変異が当該データベースにレコードとして記録されている場合には、rs#ナンバーをデータベースの照会結果として返す。rs#ナンバーとはReference SNP ID numberを意味し、NCBIが、各々のSNPに対して定義した、世界的に統一されたSNPの認識番号である。
3)病態判定支援装置の動作
【0045】
以下の説明においては、特に断らない限り装置1が行う処理は、実際には装置1のCPU10が行う処理を意味する。CPU10はメモリ11を作業領域として必要なデータ(処理途中の中間データ等)を一時記憶し、記録部12に演算結果等の長期保存するデータを適宜記録する。また、装置1は、以下で説明するステップS1〜S4の処理を行うために、本発明に係るプログラムを、例えば実行形式(例えば、C言語等のプログラミング言語からコンパイラにより変換されて生成される)で記録部12に予め記録しており、装置1は、記録部12に記録したプログラムを使用して処理を行う。なお、上記プログラムは、CD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体から装置1にインストールしてもよいし、装置1をインターネット2と接続し、インターネット2を介してプログラムのプログラムコードをダウンロードしてもよい。
【0046】
図3は、本発明の実施の形態に係る病態判定支援装置が行うデータ処理の順序を示すフローチャートである。以下、本発明の実施の形態に係る病態判定支援装置のデータ処理について、図3に示すフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0047】
ステップS1において、被験者のシークエンスデータを読み込む。シークエンスデータは、例えば被験者の血液等の遺伝子解析可能な試料から、例えばFASTQファイル形式やVCFファイル形式のデータとして市販のシークエンサー機器を使用して既に作成されており、記録部12に予め記録されている。あるいは、シークエンスデータは、I/F部14またはインターネット2経由で外部機器から取得して読み込んでもよい。
【0048】
シークエンスデータの作成について説明すると、本実施形態で判定対象としている多発性嚢胞腎(PKD)の場合、PKD1遺伝子およびPKD2遺伝子はサイズが比較的大きな遺伝子であるので、遺伝子変異の検出には、サンガー法を採用したシークエンサー機器よりも、次世代のシークエンス解析法を採用したシークエンサー機器が望ましい。
【0049】
サンガー法は、シークエンシング反応中にDNA複製の際にジデオキシヌクレオチドが取り込まれると核酸伸長反応が停止する原理を利用して、塩基配列を決定する方法である。サンガー法は、点変異であれば感度は良好であるが、塩基の欠失や挿入といった点変異とは異なる変異が生じていた場合に、その部位以降の塩基配列が読めなくなるという欠点がある。また、サンガー法を用いた検出では、1種類のシークエンスプライマーで塩基配列決定が可能な鎖長(〜500bp程度)に限界がある。したがって、仮にPKD1のみを検出対象とした場合でも、1検体あたり90種類ものプライマーを用いる必要があり、繁雑で費用が非常に増大する。
【0050】
一方、次世代のシークエンス解析法と呼ばれている解析方法は、最初にゲノムDNAを鋳型としてPKD1遺伝子のエクソンをロングレンジPCRにて増幅し、35bp〜400bpに断片化したライブラリを調整し、その後市販のシークエンサー機器を用いて塩基配列を決定する方法である。次世代のシークエンス解析法によると、大量のシークエンシングが可能であり、PKD1遺伝子およびPKD2遺伝子のようなサイズが比較的大きな遺伝子のシークエンシングやエキソーム解析など多数の解析に向いている。
【0051】
本実施形態では、シークエンスデータは、例えば次世代のシークエンス解析法を採用したシークエンサー機器を用いて予め作成されている。
【0052】
ステップS2(抽出ステップ)において、図2に示す抽出部21が、読み込んだシークエンスデータ(FASTQ形式)のシークエンス断片長をマッピングおよびアライメントすることで、シークエンスデータから遺伝子の変異を抽出する。遺伝子変異を抽出する具体的な手段としては、例えばSNP(一塩基多型)を抽出する公知のソフトウェアを利用することができる。
【0053】
抽出した遺伝子変異の情報は、染色体の位置情報を基準として表されており、染色体の番号と、この番号で示される染色体における変異の位置(開始位置および終了位置)と、変異後の塩基の種類とを含んでいる。なお、この時点では、抽出した遺伝子変異には、変異が存在しているものの変異前と遺伝子変異によってもコードされるアミノ酸が変わらずタンパク機能も変わらないシノニマス(synonymous)変異や、判定対象とする疾患である多発性嚢胞腎(PKD)の病原遺伝子変異以外の遺伝子変異(多型)も含まれている。
【0054】
本実施形態では、遺伝子変異を抽出する際に設定するシークエンス断片長を、従来の約75bp程度から、ロングレンジPCRの増幅領域および増幅断面より長いもの(約400bp)とすることで、検出率(ADPKD患者との相関率)を63%から89%に向上させている。
【0055】
ステップS3(取得ステップ)において、図2に示す取得部22が、ステップS2において抽出した遺伝子変異の情報を用いて、遺伝子変異に関連する医学的な情報を、複数の内部データベース12aから取得する。具体的には、遺伝子変異の情報として、染色体の番号と、この番号で示される染色体における変異の位置と、変異後の塩基の種類とを検索キーとして、複数の内部データベース12aの各々に、検索キーに合致するレコードの有無を照会する。検索キーに合致するレコードが内部データベース12a内に存在する場合、各々の内部データベース12a毎に規定されている情報が、照会結果として返される。
【0056】
具体的に例を示すと、例えば16番染色体の2160494の位置に存在する変異「T」について、内部データベース12aにレコードの有無を照会する場合、照会する遺伝子変異の情報は、"Contig=chr16, Startpos=2160494, Endpos=2160494, Actual value= T"となる。Mayoデータベースを例とすると、装置1は、Mayoデータベース内に、この遺伝子変異の情報のレコードが存在するか否かを判定し、当該レコードが存在する場合、内部データベース12aへの照会結果として、当該遺伝子変異の情報"Contig=chr16, Startpos=2160494, Endpos=2160494, Actual value= T"に関連づけられた医学的な情報である、判定指標"Likely Neutral"を取得する。当該レコードが存在しない場合には、レコードが存在しない旨の情報(例えば、NULL)を取得する。
【0057】
他の内部データベース12aについてもMayoデータベースと同様に、取得部22は、"Contig=chr16, Startpos=2160494, Endpos=2160494, Actual value= T"で表される遺伝子変異の情報が、内部データベース12a内にレコードとして存在するか否かを判定し、当該レコードが存在する場合には、当該遺伝子変異に関連付けられた医学的な情報を取得する。医学的な情報とは、例えば日本人健常人データベースの場合は、所定の人数中何名にその遺伝子変異が存在したかの情報であり、Cons論文データベースの場合はConsスコアであり、GenBankデータベースの場合はrs#ナンバーであり、PubMed IDデータベースの場合はPubMedIDである。
【0058】
ステップS4(一覧表示ステップ)において、図2に示す一覧表示部24が、ステップS2において抽出した遺伝子変異の情報と、ステップS3において取得した医学的な情報とを一覧表示する。一覧表示項目の一例を表2に示す。
【表2】
【0059】
表2中、Contigで示される列が染色体の番号を示し、Start posおよびEnd posで示される列が変異の位置(開始位置および終了位置)を示し、Actual valueで示される列が変異後の塩基の種類を示す。Ref valueで示される列は、その位置での変異していない、正常な塩基の種類を示す。"Actual"および"DB #1"〜"DB #5"の見出しが付された列は、内部データベース12aから取得した医学的な情報を示しており、左側から順番に、Mayoデータベースによる判定指標、GenBankデータベースによるrs#ナンバー、日本人健常人データベースによる当該遺伝子変異の保有割合、Cons論文データベースによるConsスコア、PubMed IDデータベースによるPubMedIDである。
【0060】
例えば16番染色体の2160494の位置に存在する変異「T」について、表2を参照すると、"Contig=chr16, Startpos=2160494, Endpos=2160494, Actual value= T"で特定される行には、Mayoデータベースによる判定指標(Likely Neutral)と、rs#ナンバー(rs79884128)と、日本人の当該遺伝子変異の保有割合(54/140)と、Consスコア(0.023622)と、PubMedID(22185115)とが一覧で表示されている。
【0061】
また、表2には、被験者のシークエンスデータから抽出された1個から数十個の遺伝子変異が表示されており、これら抽出された遺伝子変異の各々について、内部データベース12aから取得した医学的な情報が、抽出された遺伝子変異と関連付けられて表示されている。表2に示すこれら一覧で網羅的に表示されている情報は、患者の病態を判定しようとする際に必要とされる、医学的な見地での種々の情報である。
【0062】
以上、本発明によると、被験者から得られる遺伝子変異の情報と、公共データベース等に記録されている、当該遺伝子変異についての種々の医学的な情報とを一覧で表示することができるので、遺伝子変異の情報に基づいて被験者の病態を判定しようとする際に必要となる種々の情報を、一覧で網羅的に提供することができる。したがって、本発明によれば、各遺伝子変異について、複数の公共データベースや過去の学術論文等の記載をその都度個別に参照する必要が無く、被験者の病態の判定作業に係る労力を軽減することが可能となる。
【0063】
また、判定作業に必要とされる情報が網羅的に表示されるので、複数の公共データベースや過去の学術論文等の記載を参照する度に判定作業が中断することもなく、判定作業に注力することが可能となる。
【0064】
以上、本発明を特定の実施の形態によって説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではない。
【0065】
上記実施の形態では、ステップS4において、ステップS2において抽出した遺伝子変異の情報と、ステップS3において取得した医学的な情報とを一覧表示しているが、一覧表示する遺伝子変異の情報はこれらに限定されない。これらの情報に加えて、変異の効果(Effect)、PKD1遺伝子とPKD2遺伝子との区別(Region)、コドン変異(Codon)、アミノ酸変異(Aa)、ヌクレオチド変異(Nuc ch)、およびタンパク質変化(Prot ch)などから判定に必要なものを適宜選択して、表示列に追加して一覧表示してもよい。これら追加の表示項目を含めた一覧表示項目の一例を、表3に示す。
【表3】
【0066】
また、上記実施の形態では、図3に示すデータ処理をCPU10が行う処理として記載しているが、CPU10が行う処理をそれぞれの機能に分類して、各機能毎に専用の電子回路を作製し、これら電子回路が図3のデータ処理を分担して実行してもよい。
【0067】
また、上記実施の形態では、内部データベース12aを装置1の記録部12内に記録するスタンドアローン型のシステムとして説明しているが、内部データベース12aの保存場所は記録部12内に限定されず、インターネット3を介してアクセス可能な、装置1とは別のコンピュータ機器内に保存するネットワーク型のシステムとしてもよい。
【0068】
また、上記実施の形態では、対象とする疾患の遺伝子変異の情報と、当該遺伝子変異に関連する医学的な情報とを関連付けて、内部データベース12aとして予め記録しているが、内部データベース12aが記録している情報は常に一定ではなく、例えばインターネット3を介して定期的に動的に更新してもよい。内部データベース12aの内容を動的に更新する手段としては、例えばスクリプト言語により更新手順を記載した自動化プログラムを作成する。この自動化プログラムを装置1の記録部12内に記録しておき、定期的に自動化プログラムが起動して、公共データベース3に自動的にアクセスすることにより、内部データベース12aの更新に必要な情報を公共データベース3から自動的に収集して、内部データベース12aの内容を更新すればよい。
【0069】
また、上記実施の形態では、操作手段と表示手段とは個別の構成として記載しているが、これらを統合してタッチパネル型の構成としてもよい。
【0070】
また、上記実施の形態では、ステップS4にて一覧表示する項目の情報として、文字列の情報を表示しているが、この文字列に関連付けられた所定の処理を適宜実行してもよい。例えば、一覧表示項目としてPubMedIDが表示されている場合、PubMedIDのID番号を例えば操作手段(マウス)で指定すると、当該ID番号に関連付けられた学術文献のデータファイルを表示してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 病態判定支援装置
2 インターネット
3 公共データベース
10 CPU
11 メモリ
12 記録部
12a 内部データベース
13 バス
14 インタフェース部
21 抽出部(抽出手段)
22 取得部(取得手段)
23 一覧表示部(一覧表示手段)
図1
図2
図3