(54)【発明の名称】心不全患者の検出方法、心疾患の識別方法、心不全の検査試薬、心不全の検査キット、心不全を検出するための装置及び心不全を検出するためのプログラム
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gupta N, Manevich Y, Kazi AS, Tao JQ, Fisher AB, Bates SR. Identification and characterization of p63 (CKAP4/ERGIC-63/CLIMP-63), a surfactant protein A binding protein, on type II pneumocytes. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2006;291:L436- L446.
【非特許文献2】Schweizer A, Ericsson M, Bachi T, Griffiths G, Hauri HP. Characterization of a novel 63 kDa membrane protein. Implications for the organization of the ER-to-Golgi pathway. J Cell Sci. 1993;104(pt 3): 671-683.
【非特許文献3】Nikonov AV, Hauri HP, Lauring B, Kreibich G. Climp-63-medi- ated binding of microtubules to the ER affects the lateral mobility of translocon complexes. J Cell Sci. 2007;120(pt 13):2248-2258.
【非特許文献4】Shibata Y, Shemesh T, Prinz WA, Palazzo AF, Kozlov MM, Rapoport TA. Mechanisms determining the morphology of the pe- ripheral ER. Cell. 2010;143:774-788.
【非特許文献5】Bates SR, Kazi AS, Tao JQ, et al. Role of P63 (CKAP4) in binding of surfactant protein-A to type II pneumocytes. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2008;295:L658-L669.
【非特許文献6】Conrads TP, Tocci GM, Hood BL, et al. CKAP4/p63 is a receptor for the frizzled-8 protein-related antiproliferative factor from intersti- tial cystitis patients. J Biol Chem. 2006;281:37836-37843.
【非特許文献7】Shahjee HM, Koch KR, Guo L, Zhang CO, Keay SK. Antiprolifera- tive factor decreases Akt phosphorylation and alters gene expression via CKAP4 in T24 bladder carcinoma cells. J Exp Clin Cancer Res. 2010;29:160.
【非特許文献8】Zhang J, Planey SL, Ceballos C, Stevens SM Jr, Keay SK, Zacharias DA. Identification of CKAP4/p63 as a major substrate of the palmi- toyl acyltransferase DHHC2, a putative tumor suppressor, using a novel proteomics method. Mol Cell Proteomics. 2008;7:1378-1388.
【非特許文献9】Li S-X, Tang G-S, Zhou D-X et al. Prognostic significance of cytoskeleton -associated membrane protein 4 and its palmitoyl acyltransferase DHHC2 in hepatocellular carcinoma. Cancer 2014;120:1520-1531.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、心不全の診断のために、血中のBNP、NT-proBNPの測定が行われている。しかし、これらのマーカーは、心不全のみならず心不全を起こしていない心房細動や肥大型心筋症でも高値を示すため、実際には心不全患者を特異的に検出できていないのが現状である。
【0006】
本発明の目的は、第一に、心不全患者の特異性の高い検出方法を提供することにある。またその他の目的として、心疾患の識別方法、心不全の検査試薬、心不全患者を検出するための心不全の検査キット、並びに心不全を検出するための装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、心不全患者の血液試料中のCKAP4の測定値が、心不全を発症していない者のCKAP4の測定値と比較して有意に減少していることを見出した。また、高血圧、肥大型心筋症、心房細動等の心不全を起こしていない心疾患患者においては、血液試料中のCKAP4の測定値が心不全を発症していない個体と同等であることを見出した。
【0008】
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
I.下記工程を含む、心不全患者の検出方法:
(1)被験体から採取された血液試料中のCKAP4の測定値を取得する工程、
(2)当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値を、所定の基準値と比較する工程、及び
(3)当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が、当該所定の基準値よりも低い場合に、当該被験体が心不全患者であると決定する工程。
I-1.前記取得工程において、
前記血液試料と抗CKAP4抗体とを接触させ、
前記血液試料中のCKAP4と前記抗CKAP4抗体とを含む複合体を形成し、
前記複合体を検出することにより、前記血液試料中のCKAP4の測定値を取得する、
I.に記載の方法。
I-2.前記取得工程において、
前記血液試料と固相と第1抗CKAP4抗体と第2抗CKAP4抗体と標識物質とを接触させ、
前記固相上に、前記血液試料中のCKAP4と前記第1抗CKAP4抗体と前記第2抗CKAP4抗体と標識物質とを含む複合体を形成し、
前記複合体を検出することにより、前記血液試料中のCKAP4の測定値を取得する、
I.に記載の方法。
I-3.前記複合体形成後に、前記固相を洗浄することにより複合体を形成していない成分を除去する、
I-2.記載の方法。
II.下記工程を含む、心疾患の識別方法:
(A)心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体から採取された血液試料中のCKAP4の測定値を取得する工程、
(B)当該患者又は当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値を、所定の基準値と比較する工程、及び
(C)当該患者又は当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が当該所定の基準値よりも低い場合に、当該患者又は当該被験体が心不全であると決定する、又は
当該患者又は当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が当該所定の基準値と同程度以上の場合に、当該患者又は当該被験体は心不全以外の心疾患であると決定する工程。
II-1.前記取得工程において、
前記血液試料と抗CKAP4抗体とを接触させ、
前記血液試料中のCKAP4と前記抗CKAP4抗体とを含む複合体を形成し、
前記複合体を検出することにより、前記血液試料中のCKAP4の測定値を取得する、
前記II.に記載の方法。
II-2.前記取得工程において、
前記血液試料と固相と第1抗CKAP4抗体と第2抗CKAP4抗体と標識物質とを接触させ、
前記固相上に、前記血液試料中のCKAP4と前記第1抗CKAP4抗体と前記第2抗CKAP4抗体と標識物質とを含む複合体を形成し、
前記複合体を検出することにより、前記血液試料中のCKAP4の測定値を取得する、
前記II.に記載の方法。
II-3.前記複合体形成後に、前記固相を洗浄することにより複合体を形成していない成分を除去する、
前記II-2.記載の方法。
III.前記I.またはII.に記載の方法に用いられる、抗CKAP4抗体を含む、心不全の検査試薬。
III-1.前記抗CKAP4抗体が、ビオチン又は標識物質で標識されている、前記III.に記載の検査試薬。
IV.第1抗CKAP4抗体、固相、第2抗CKAP4抗体および標識物質を含む、前記I、I-1〜I-3 、II、及びII-1〜I-3 のいずれか一項に記載の方法に用いられる、心不全の検査キット。
IV-1.標識物質がアルカリホスファターゼであり、及び/又は固相が磁気ビーズである、前記IV.に記載の心不全の検査キット。
V.プロセッサ及び前記プロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、
前記メモリには、
(1)当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値を取得する工程、
(2)当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値を、所定の基準値と比較する工程、及び
(3)当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が、当該所定の基準値よりも低い場合に、当該被験体が心不全患者であると決定する工程、を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、心不全患者の検出装置。
VI.プロセッサ及び前記プロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータに、
(1)被験体から採取された血液試料中のCKAP4の測定値を取得する工程、
(2)当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値を、所定の基準値と比較する工程、及び
(3)当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が、当該所定の基準値よりも低い場合に、当該被験体が心不全患者であると決定する工程、を実行させるコンピュータプログラム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、心不全患者を特異的に検出する方法を提供することができる。また、心不全と他の心疾患との識別方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.用語の説明
はじめに、本明細書、請求の範囲、要約で使用されている用語について説明する。
【0012】
「心不全」とは、うっ血性心不全であり表1に示すフラミンガム研究(Framingham study)のうっ血性心不全診断基準に基づいて心不全であると診断されうる疾患である。
【0014】
本発明の「心不全」には、急性心不全及び慢性心不全の両方が含まれる。急性心不全の診断基準は、例えば循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告) 急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)(日本循環器学会、他)に記載の基準を適用できる。慢性心不全の診断基準は、例えば循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009年度合同研究班報告) 慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)(日本循環器学会、他)に記載の基準を適用できる。
【0015】
また、心不全の原因となる基礎疾患としては、狭心症、急性心筋梗塞、虚血性心筋症等の虚血性心疾患;拡張型心筋症、拘束型心筋症、肥大型心筋症、たこつぼ型心筋症、産褥性心筋症等の心筋症;高血圧症;心内膜炎、腱索断裂、大動脈解離等に起因する弁逆流症;心筋炎;大動脈弁狭窄;心タンポナーデ、収縮性心膜炎等の心膜疾患;心房中隔欠損、心室中隔欠損等の先天性心疾患;大動脈解離;弁狭窄症等の弁膜疾患;肺塞栓症又は肺血栓症;敗血症、甲状腺中毒症、貧血、短絡疾患、脚気心、Paget病等の高心拍出量症候群等が挙げられる。基礎疾患として好ましくは虚血性心疾患、心筋症、心筋炎であり、より好ましくは虚血性心疾患又は心筋症である。
【0016】
「個体」は、特に制限されないが、個体にはヒト及びヒト以外の哺乳動物が含まれる。哺乳動物としては、例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、サル等が挙げられる。好ましくは、ヒトである。また、個体の年齢、性別は問わない。個体として好ましくは、生きている個体である。
【0017】
「被験体」は、何らかの疾患を有している個体であっても、如何なる疾患をも有していない個体であってもよい。また、被験体は、労作性又は非労作性の息切れ、呼吸困難、起座呼吸、倦怠感、易疲労感、胸部不快感、胸痛等の自覚症状がある者であってもよく、また無症状の者であってもよい。さらに、当該被験体には、医療面接;血圧検査;心音検査及び心機図検査等の理学的検査;胸部X線検査;胸部CT検査;心MR検査;標準12誘導等の心電図検査;心エコー検査;クレアチニンキナーゼ(CK)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、乳酸脱水素酵素(LDH)、BNP、NT-proBNP等の値を測定する血清又は血漿の生化学的検査等により公知の診断基準に従って心疾患を疑われた個体が含まれる。
【0018】
「心疾患患者」とは、上記「被験体」の説明に記載の公知の診断基準に従って心疾患であると診断された患者をいう。心疾患としては、狭心症、急性心筋梗塞、虚血性心筋症等の虚血性心疾患;拡張型心筋症、拘束型心筋症、肥大型心筋症、たこつぼ型心筋症、産褥性心筋症等の心筋症;高血圧症;心室頻拍、心室細動、心房細動、心房粗動、上室性頻拍等の不整脈;心内膜炎、腱索断裂、大動脈解離等に起因する弁逆流症;心筋炎;大動脈弁狭窄;心タンポナーデ、収縮性心膜炎等の心膜疾患;心房中隔欠損、心室中隔欠損等の先天性心疾患;大動脈解離;弁狭窄症等の弁膜疾患;肺塞栓症又は肺血栓症;敗血症、甲状腺中毒症、貧血、短絡疾患、脚気心、Paget病等の高心拍出量症候群等が挙げられる。心疾患として好ましくは虚血性心疾患、心筋症、心筋炎であり、より好ましくは虚血性心疾患又は心筋症である。
【0019】
「血液試料」とは、被験体から採取した血液(全血)、又は当該血液から調製した血清、又は血漿をいう。より好ましくは、血清又は血漿であり、さらに好ましくは血清である。血漿を採取する際に使用する抗凝固剤の種類は特に制限されない。測定に用いる被験体の血液試料と所定の基準値を決定する血液試料は同種であっても異種であっても良いが、同種であることが好ましい。また、血液試料として血漿を用いる場合、所定の基準値を決定するための血漿は、被験体の血漿と同じ抗凝固剤を用いて採血された血液から調製されることが好ましい。さらに、血液試料は、新鮮なものであっても、保存されていたものであってもよい。血液試料を保存する場合には、室温環境、冷蔵環境又は冷凍環境において保存することができるが、好ましくは冷凍保存である。
【0020】
「CKAP4の測定値」とは、CKAP4タンパク質(以下、単に「CKAP4」とする)の量又は濃度を反映した値をいう。当該測定値を「量」で標記する場合には、モルであっても質量であってもよいが、質量で標記することが好ましい。また、値を「濃度」で表記する場合には、モル濃度であっても血液試料の一定容量あたりの質量の割合(質量/容量)であってもよいが、好ましくは質量/容量である。量又は濃度を反映する値としては、上記の他に、蛍光や発行などのシグナルの強度であってもよい。
【0021】
「所定の基準値」とは、CKAP4の測定値の基準値をいう。当該基準値は、心不全を発症していない個体の血液試料中のCKAP4の測定値及び/又は心不全を発症した個体の血液試料中のCKAP4の測定値に基づいて決定することができる。
【0022】
たとえば、心不全を発症した複数の個体の血液試料を用いて測定したCKAP4測定値と、心不全を発症していない複数の個体の血液試料を用いて測定したCKAP4測定値とを取得する。これらの複数の値に基づいて陽性と陰性とを最も精度よく分類できる値を「基準値」とすることができる。ここで、「最も精度よく分類できる値」は、検査の目的によって感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などの指標に基づいて適宜設定することができる。
【0023】
例えば一態様として、心不全を発症していない複数の個体から得られたそれぞれの血液試料中のCKAP4の測定値の中で、最も低い測定値を基準値としてもよい。例えば、スクリーニング検査のように、擬陽性をできるだけ低減させたい場合は、当該基準値を好適に用いることができる。
【0024】
また、別の態様として、心不全を発症した個体の血液試料中のCKAP4の測定値に基づいて基準値を決定する場合には、心不全を発症した複数の個体の血液試料中のCKAP4の測定値の中から、最も高い測定値を基準値と決定することができる。例えば、スクリーニング検査のように擬陰性をできるだけ低減させたい場合は、当該基準値を好適に用いることができる。
【0025】
また別の態様として、基準値は、心不全を発症していない個体の血液試料中のCKAP4の測定値そのもの、又は心不全を発症していない個体の複数のCKAP4の測定値の平均値、中央値または最頻値とすることもできる。
【0026】
また、心不全を発症していない個体の複数の血液試料中のCKAP4の測定値に基づいて決定することもできる。
【0027】
この場合には、当該複数の血液試料中の[CKAP4の測定値の平均値]を、好ましくは[「当該平均値」から「当該複数の血液試料中のCKAP4の測定値の標準偏差の値を1倍して得られた値」を減じた値]を、又はより好ましくは、[「当該平均値」から「当該標準偏差の値を2倍して得られた値」を減じた値]を基準値とすることができる。
【0028】
またさらに、基準値として、同一被験体であって当該被験体が心不全を来す前、好ましくは心疾患を来す前に取得された過去のCKAP4の測定値(一つの測定値でもよいし、複数の測定値の平均値、中央値、最頻値などであってもよい)を使用することもできる。
【0029】
心不全を発症していない個体の血液試料中のCKAP4の測定値と心不全を発症した個体の血液試料中のCKAP4の測定値に基づいて基準値を決定する場合には、心不全を発症していない1個体の血液試料中のCKAP4の測定値と心不全を発症した1個体の血液試料中のCKAP4の測定値の平均値を基準とすることができる。また、「心不全を発症していない個体の複数の血液試料中のCKAP4の測定値の平均値」と「心不全を発症した個体の複数の血液試料中のCKAP4の測定値の平均値」をさらに平均した値を基準値とすることもできる。他の態様として、心不全を発症していない個体と心不全を発症した個体を一群とし、この一群の血液試料中のCKAP4の測定値の中央値を基準値とすることもできる。
【0030】
さらなる他の態様として、上記基準値を決定する方法において、心不全を発症していない個体の血液試料中のCKAP4の測定値に代えて、健常個体の血液試料中のCKAP4の測定値を使用してもよい。
【0031】
これらの基準値は、被験体の血液試料のCKAP4の測定値を取得する際に決定してもよいが、あらかじめ決定しておいてもよい。
【0032】
「被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が所定の基準値よりも低い」又は「心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が所定の基準値よりも低い」とは、被験体、心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が所定の基準値よりも低値を示した場合をいう。この場合の下限値は特に制限されないが、好ましくは「0」である。
【0033】
「心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が所定の基準値と同程度以上」とは、心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が所定の基準値と同じかそれより高いことをいう。この場合の上限値は特に制限されないが、好ましくは、個体の血液試料において示しうる値の最高値である。
【0034】
さらなる別の態様として、上記の1つの基準値に基づいて心不全患者を検出する方法、又は心疾患を識別する方法に代えて、基準値を複数組み合わせて心不全患者を検出又は心疾患を識別を行ってもよい。例えばあらかじめ測定された心不全患者及び心不全を有さない個体の複数のCKPA4の測定値を“高”、“中”、“低”等の複数の数値範囲に分位する。この場合、被験体、心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が“低”の数値範囲に分布した場合には、当該血液試料を提供した個体が心不全を有すると判定することができる。また、被験体、心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が“高”の数値範囲に分布した場合には、当該血液試料を提供した個体は心不全を有していないと判定することができる。さらに、被験体、心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が“中”の数値範囲に分布した場合には、その他の検査データや医学的所見を組み合わせて心不全の有無を判定してもよい。
【0035】
「健常個体」とは、特に制限されないが、好ましくは「個体」の項に記載されたヒト又はヒト以外の哺乳動物であって、生化学的検査、血液検査、尿検査、血清検査、生理学的検査等において異常データを示さない個体をいう。健常個体の年齢、性別は特に制限されない。
【0036】
「心不全を発症していない個体」とは、特に制限されないが、好ましくは「個体」の項に記載されたヒト又はヒト以外の哺乳動物であって、公知の診断基準に従って、心不全を発症していると診断され得ない個体である。
【0037】
「複数の血液試料」とは、2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上の血液試料である。これらは、異なる個体から採取された血液試料であってもよいし、採取時が異なる同一個体の複数の血液試料であってもよい。
【0038】
「複数の測定値」とは、2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上のCKAP4の測定値である。
【0039】
「複数の個体」とは、2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上の個体である。
【0040】
基準値を決定するためにCKAP4の測定値を取得する個体と、被験体の種、年齢、性別等を必ずしも同じくする必要はないが、好ましくは同種である。また、前記個体は被験体と同年代及び/又は同一性別であることが好ましい。
【0041】
「抗CKAP4抗体」は、CKAP4と特異的に結合する限り制限はなく、CKAP4又はその一部を抗原としてヒト以外の動物に免疫して得られたポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。また、免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。
【0042】
抗CKAP4抗体を作製するために用いられる、抗原となるCKAP4として好ましくは、ヒト(例えばUniProtKB/Swiss-Prot: Q07065.2)、マウス(例えばNCBI Reference Sequence: NP_780660.1)、ラット(例えばCBI Reference Sequence: NP_001102210.1)等由来のCKAP4であり、より好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するヒトCKAP4である。抗原として用いられるCKAP4は、哺乳類細胞から公知の方法にしたがって抽出されたものでもよく、また組換え遺伝子工学技術によって得られたリコンビナントタンパク質であってもよい。CKAP4の一部を抗原とする場合には、CKAP4を酵素等で消化して得られるフラグメントを使用してもよく、またCKAP4の一部のアミノ酸配列と同じ配列を有するペプチドを抗原としてもよい。当該ペプチドは、公知の方法によって合成することができる。
【0043】
さらに抗CKAP4抗体として、例えばMyBioSource社から発売されている抗ヒトCKAP4抗体(カタログ番号MBS6009861等)、アブカム社(英国、ケンブリッジ)から発売されているヒトCKAP4と反応する抗CKAP4抗体(ab84712)等の市販品を使用することもできる。
2.心不全患者の検出方法
本実施態様においては、血液試料中のCKAP4の測定値を取得し、当該CKAP4の測定値を使用して心不全患者を検出する。
(i)CKAP4の測定値を取得する工程
本工程においては、はじめに被験体から採取された血液試料中のCKAP4の測定値を取得する。
【0044】
血液試料中のCKAP4の測定値の取得方法は、血液試料に含まれるCKAP4の測定値が取得できるかぎり、特に限定されない。本工程では、CKAP4の測定値を取得するために、CKAP4に特異的に結合可能な抗体、すなわち抗CKAP4抗体を用いることが可能である。また、後述する「4.抗CKAP4抗体を含む心不全の検査試薬」若しくは「5.心不全の検査キット」を使用してもよい。
【0045】
血液試料と、抗CKAP4抗体とを混合する順序は特に限定されず、これらを実質的に同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。
【0046】
本実施形態では、先に抗CKAP4抗体と血液試料中のCKAP4との複合体を形成させてから当該複合体を固相上に固定化するか、又はあらかじめ抗CKAP4抗体を固相上に固定化し、固定化された抗CKAP4抗体と血液試料中のCKAP4が複合体を形成させることができる。より好ましくは、先に前記複合体を形成させてから当該複合体を固相上に固定化する態様である。そして、固相上に固定化された当該複合体又は固相上で形成された複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、血液試料に含まれるCKAP4の量又は濃度を測定することができる。
【0047】
先に抗CKAP4抗体と血液試料中のCKAP4との複合体を形成させてから当該複合体を固相上に固定化する場合、ビオチン等で修飾した抗CKAP4抗体を、血液試料中のCKAP4と接触させて複合体を形成させる。別途固相にアビジン類をあらかじめ結合させておくことにより、ビオチンとアビジン類との結合を介して、当該複合体を固相に固定化することができる。
【0048】
また、あらかじめ抗CKAP4抗体を固相に固定する場合、抗CKAP4抗体の固相への固定の態様は、特に限定されない。例えば、抗CKAP4抗体と固相とを直接結合させてもよいし、抗CKAP4抗体と固相との間を別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、ビオチンと、アビジン又はストレプトアビジン(以下、「アビジン類」ともいう)との組み合わせを介した結合が挙げられる。この場合、抗CKAP4抗体をあらかじめビオチンで修飾し、固相にアビジン類をあらかじめ結合させておくことにより、ビオチンとアビジン類との結合を介して、抗CKAP4抗体と固相とを間接的に結合させることができる。本実施態様においては、抗CKAP4抗体と固相との結合は、ビオチンとアビジン類を介した間接的な結合であることが好ましい。
【0049】
固相の素材は特に限定されず、例えば、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば、粒子、膜、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも粒子が好ましく、磁性粒子が特に好ましい。
【0050】
本工程においては、複合体の形成後、好ましくは複合体形成後、標識物質の検出の前に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、CKAP4と結合しなかった抗CKAP4抗体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができる。当該方法は、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0051】
本工程において、前記複合体の検出は、標識物質で標識された抗CKAP4抗体を使用して行うか、未標識の抗CKAP4抗体と当該未標識の抗CKAP4抗体と結合することができる標識物質で標識された抗イムノグロブリン抗体等を使用して行うことができるが、標識された抗CKAP4抗体を使用することが好ましい。また、標識された抗CKAP4抗体のCKAP4におけるエピトープと固相に結合する抗CKAP4抗体のCKAP4におけるエピトープとは異なることが好ましい。
【0052】
標識抗CKAP4抗体又は標識抗イムノグロブリン抗体に用いられる標識物質は、検出可能なシグナルが生じるかぎり、特に限定されない。例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、
125I、
14C、
32Pなどが挙げられる。それらの中でも、標識物質として、酵素が好ましく、アルカリホスファターゼが特に好ましい。
【0053】
標識抗CKAP4抗体は、当該技術において公知の標識方法により、抗CKAP4抗体を上記の標識物質で標識して得られる。また、市販のラベリングキットなどを用いて標識してもよい。また、標識イムノグロブリン抗体は、抗CKAP4抗体の標識と同じ手法を用いてもよいし、市販のものを使用してもよい。
【0054】
本工程では、複合体に含まれる標識抗CKAP4抗体の標識物質により生じるシグナルを検出することにより、血液試料に含まれるCKAP4の測定値を取得できる。ここで、「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本工程では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましい。
【0055】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術において公知である。本工程では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択すればよい。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、ルミノメーター、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0056】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。特に好ましくは、CDP-Star(登録商標)である。当該基質の発光は、ルミノメーターで検出することが好ましい。
【0057】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0058】
シグナルの検出結果は、CKAP4の測定値として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量的に検出する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から算出される値を、CKAP4の測定値として用いることができる。シグナル強度の測定値から算出される値としては、例えば、該測定値から陰性対照試料の測定値を差し引いた値、該測定値を陽性対照試料の測定値で除した値、及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。陰性対照試料としては、生理食塩水などのCKAP4を含まない試料が挙げられる。陽性対照試料としては、CKAP4を所定の量又は濃度で含む血液試料が挙げられる。
【0059】
また、CKAP4の測定値を取得するために、例えばMyBioSource社(米国、カリフォルニア、サンディエゴ)のcytoskeleton-associated protein 4, ELISA Kit(カタログ番号MBS926308)等のUniProtKB/Swiss-Prot: Q07065.2のアミノ酸配列(配列番号:1)を有するタンパク質を検出する市販のELISAキットを使用することもできる。市販のキットを用いて血液試料中のCKAP4の測定値を取得する場合には、キットに添付のプロトコールにしたがって取得することができる。
(ii)CKAP4の測定値の比較工程及び心不全患者の決定工程
次に、上記(i)工程で取得した被験体の血液試料中のCKAP4の測定値と所定の基準値とを、単純比較法や統計学的な検定等の公知の方法に従って比較する。
【0060】
そして、上記「1.用語の説明」に記載の「被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が所定の基準値よりも低い」と決定するための定義に従って、所定の基準値よりも被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が低い場合に、血液試料を採取した被験体が心不全患者であると決定することができる。「被験体」、「血液試料中」、「CKAP4の測定値」、「所定の基準値」等に係る上記「1.用語の説明」の記載を、ここに援用することができる。
【0061】
なお、本発明の「心不全患者の検出方法」により得られた検出結果は、医師等に提供され、医師等による心不全の診断を補助する。この検出結果にその他の検査データや医学的所見を組み合わせて心不全の確定診断を行うこともできる。
3.心疾患の識別方法
本発明は、血液試料中のCKAP4の測定値を取得し、当該CKAP4の測定値に基づいて、心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体が、心不全を発症しているか否か識別する方法である。
(i)CKAP4の測定値の取得工程
本発明の識別方法では、はじめに心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体から採取された血液試料中のCKAP4の測定値を取得する。CKAP4の測定値の取得方法は上記「2.心不全患者の検出方法」の(i)工程に記載する方法を同様に用いることができ、当該記載はここに援用するすることができる。
(ii)CKAP4の測定値の比較工程及び心疾患の識別工程
次に、上記(i)の工程で取得された当該患者又は当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値と所定の基準値とを、単純比較法や統計学的な検定等の公知の方法に従って比較する。
【0062】
そして、上記「1.用語の定義」に記載の「心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が所定の基準値よりも低い」又は「心疾患患者又は心疾患が疑われる被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が所定の基準値と同程度以上」であると決定するための定義にしたがって、当該患者又は当該被験体の血液試料中のCKAP4の測定値が当該所定の基準値よりも低い場合に、当該患者又は当該被験体が心不全であると決定する、又は当該患者又は当該被験体の血液試料中のCKAP4濃度が当該所定の基準値と同程度以上の場合に、当該患者又は当該被験体は心不全以外の心疾患であると決定することができる。「心疾患患者」、「心疾患が疑われる被験体」、「血液試料中」、「CKAP4の測定値」、「所定の基準値」等に係る上記「1.用語の説明」の記載を、ここに援用することができる。
【0063】
なお、本発明の「心疾患の識別方法」により得られた識別結果は、医師等に提供され、医師等による心疾患の診断を補助する。この識別結果にその他の検査データや医学的所見を組み合わせて心疾患の確定診断を行うこともできる。
4.抗CKAP4抗体を含む心不全の検査試薬
本発明は、上記「2.心不全患者の検出方法」又は「3.心疾患の識別方法」に使用される抗CKAP4抗体を含む心不全の検査試薬を提供する。
【0064】
抗CKAP4抗体は、上記「1.用語の説明」に記載したものを使用することができる。
【0065】
本実施態様の検査試薬には、少なくとも抗CKAP4抗体が1種以上含まれていればよい。抗CKAP4抗体がポリクローナル抗体である場合には、1種の抗原で免役して得られたポリクローナル抗体であってもよく、また2種以上の抗原で並行して同一個体に免役して得られたポリクローナル抗体であってもよい。また、2種以上の抗原をそれぞれ別の動物に接種して得られたそれぞれのポリクローナル抗体を混合してもよい。抗CKAP4抗体がモノクローナル抗体である場合には、1種のハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体であってもよいが、2種以上のハイブリドーマから産生されたモノクローナル抗体であって、それぞれのモノクローナル抗体が同一又は異なるエピトープを認識する複数のモノクローナル抗体が2種以上含まれていてもよい。また、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体を1種以上ずつ混合して含んでいてもよい。
【0066】
当該検査試薬に含まれる抗CKAP4抗体の形態は、特に制限されず、抗CKAP4抗体を含む抗血清若しくは腹水等の乾燥状態又は液体状態であってもよい。また、抗CKAP4抗体の形態は、精製抗CKAP4抗体、抗CKAP4抗体を含む免疫グロブリン画分若しくは抗CKAP4抗体を含むIgG画分の乾燥状態又は水溶液であってもよい。
【0067】
前記形態が、抗CKAP4抗体を含む抗血清若しくは腹水の乾燥状態又は液体状態である場合、さらにβ−メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。また、抗CKAP4抗体の形態が、精製抗CKAP4抗体、抗CKAP4抗体を含む免疫グロブリン画分若しくは抗CKAP4抗体を含むIgG画分の乾燥状態又は水溶液である場合、さらに、リン酸緩衝液等のバッファー成分;β−メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;塩化ナトリウム等の塩;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤等、アジ化ナトリウム等の防腐剤の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0068】
本発明においては、当該抗CKAP4抗体は未標識であっても、ビオチン又は上述の標識物質で標識されていてもよいが、ビオチン又は上述の標識物質で標識されていることが好ましい。標識物質は、上記「2.心不全患者の検出方法」の項に例示されたものを使用することができるが、好ましくはアルカリホスファターゼである。また、本発明においては、抗CKAP4抗体が、固相表面等に固定化された状態で提供されるものであってもよい。固相及び固定化については、上記「2.心不全患者の検出方法」の項で例示したとおりである。固相として好ましくは、磁気ビーズである。
5.心不全の検査キット
本発明は、上記「4.抗CKAP4抗体を含む心不全の検査試薬」を含む、心不全患者の検出方法又は心疾患の識別方法に使用される心不全の検査キットである。
【0069】
より具体的には、ビオチンで標識された抗CKAP4抗体を含む検査試薬、及び標識物質で標識された抗CKAP4抗体を含む検査試薬を含む、心不全の検査キットである。標識物質として好ましくは、アルカリホスファターゼである。本実施形態は、固相、好ましくはアビジン類が結合した固相、より好ましくはアビジン類が結合した磁気ビーズをさらに含んでいてもよい。また、本実施形態は、基質を含んでいてもよい。基質として好ましくは、CDP-Star(登録商標)である。
【0070】
なお、標識物質、固相、基質の詳細は、「2.心不全患者の検出方法」に記載したとおりであり、当該記載はここに援用することができる。
【0071】
本実施形態の検査キットは、CKAP4の異なるエピトープに結合する2種類の抗CKAP4抗体(第1抗CKAP4抗体、第2抗CKAP4抗体)を含むことが好ましい。この場合、固相上に第1抗CKAP4抗体、CKAP4、第2抗CKAP4抗体および標識物質の複合体が形成される。このような検出方法は、一般的にサンドイッチELISAと呼ばれる。この複合体において、第1抗CKAP4抗体は固相に固定されており、第2抗CKAP4抗体は標識物質と直接又は間接的に結合している。ここで、第2抗CKAP抗体と標識物質とが間接的に結合している、とは第2抗CKAP4抗体に抗体などを介して標識物質が結合していることをいう。たとえば、第2抗CKAP4抗体を認識する標識抗体が第2抗CKAP4抗体に結合している状態が挙げられる。
【0072】
第1抗CKAP4抗体が予め固相に結合している場合は、本実施形態の検査キットは、第1抗CKAP4抗体を固定化した固相と、第2抗CKAP4抗体と、標識物質とを含み得る。第2抗CKAP4抗体と、標識物質とは、別々の容器に収容されていてもよいし、同一の容器に収容されていてもよい。なお、標識物質が酵素であり、上記検査キットがさらに基質を含む場合、酵素と基質とは別々の容器に収容されている必要がある。ユーザに提供される際は、固相と、第2抗CKAP4抗体と、標識物質とのうち少なくとも2種類が同梱されていてもよいし、別々に梱包されていてもよい。
【0073】
第1抗CKAP4抗体が予め固相に結合していない場合は、本実施形態の検査キットは、固相と、第1抗CKAP4抗体と、第2抗CKAP4抗体と、標識物質とを含み得る。第1抗CKAP4抗体と、第2抗CKAP4抗体と、標識物質とのうち少なくとも2種類が同一の容器に収容されていてもよいし、別々の容器に収容されていてもよい。なお、標識物質が酵素であり、上記検査キットがさらに基質を含む場合、酵素と基質とは別々の容器に収容されている必要がある。ユーザに提供される際は、固相と、第1抗CKAP4抗体と、第2抗CKAP4抗体と、標識物質とのうち少なくとも2種類が同梱されていてもよいし、別々に梱包されていてもよい。
【0074】
上述の検査キットは、
図10に示されるようなキットとしてユーザに提供され得る。心不全の検査キット50は、外装箱55と、固相として複数の磁性粒子を含む第1容器51と、固相に結合可能な第1抗CKAP4抗体を含む第2容器52と、酵素標識された第2抗CKAP4抗体含む第3容器53と、検査キットの添付文書54とを含む。添付文書54には、検査キットの取り扱い方法、保管条件、使用期限などを記載しておくことができる。基質試薬を含む容器、洗浄用の水性媒体を含む容器などを外装箱55に同梱してもよい。
6.心不全患者の検出装置及び心不全患者の検出プログラム
以下に、上記の本実施形態の方法を実施するための検出装置及び検出プログラムの一実施形態を、添付図面を参照して説明する。
図11は、検出装置1の概略図である。検出装置1は、測定装置2と、測定装置2に接続されたコンピュータシステム3と、を含む。
【0075】
測定装置2は、被験体から採取された血液試料中のCKAP4の測定値を測定する。測定装置2は、特に限定されるものではなく、CKAP4の測定方法に応じて適宜選択できる。本実施形態の測定装置2は、ビオチン標識抗CKAP4抗体、アビジン類を固定した磁性粒子及び標識物質で標識された抗CKAP4抗体を用いるELISA法により生じるシグナルを検出可能な測定装置である。この種の測定装置は、用いた標識物質に基づくシグナルの検出が可能であれば特に限定されず、標識物質の種類に応じて適宜選択できる。
【0076】
ビオチン標識抗CKAP4抗体、アビジン類を固定した磁性粒子を含む検査試薬、標識物質で標識された抗CKAP4抗体を含む試薬及び患者から採取した血液試料を測定装置2にセットすると、測定装置2は、各試薬を用いて抗原抗体反応を実行し、CKAP4と特異的に結合した標識抗体に基づく光学的情報としてシグナルを取得し、得られた光学的情報をコンピュータシステム3に送信する。
【0077】
コンピュータシステム3は、コンピュータ4と、データなどを入力する入力部5と、被験体の情報や検出結果などを表示する表示部6と、を含む。コンピュータシステム3は、測定装置2から受信した光学的情報に基づき、被験体から採取された血液試料中のCKAP4の測定値を取得し、当該CKAP4の測定値により、被験体が心不全患者であるか否かを検出する。なお、コンピュータシステム3は、
図11に示すように、測定装置2とは別個の機器であってもよいし、測定装置2に組み込まれていてもよい。
【0078】
コンピュータ4は、
図12に示すように、プロセッサ(CPU)40、ROM41、RAM42、ハードディスク(HDD)43、入出力インターフェイス44、読取装置45、通信インターフェイス46及び画像出力インターフェイス47を備えており、これらはバス48によってデータ通信可能に接続されている。また、測定装置2は、通信インターフェイス46により、コンピュータ4と通信可能に接続されている。
【0079】
CPU40は、入出力各部の動作を一連に制御するとともに、ROM41又はハードディスク43に記憶されているコンピュータプログラムを実行する。つまり、CPU40は、コンピュータプログラムに従って、測定装置2から受信した光学的情報の処理を行い、血液試料中のCKAP4の測定値を算出するとともに、ROM41又はハードディスク43に記憶されている所定の基準値(カットオフ値)を読み出し、当該CKAP4の測定値が所定の基準値よりも低い場合に、血液試料を採取した被験体が心不全患者であると決定する。そして、CPU40は、決定結果を出力して表示部5に表示させる。
【0080】
ROM41は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成される。ROM41には、上述したように、CPU40によって実行される心不全患者の検出のためのコンピュータプログラム(心不全患者検出プログラム)及び当該心不全患者検出プログラムの実行に用いるデータが記録される。また、ROM41には、所定の基準値の他、当該被験体の過去のCKAP4の測定値などが記録されていてもよい。
【0081】
RAM42は、SRAM、DRAMなどによって構成される。RAM42は、ROM41及びハードディスク43に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。RAM42は、また、CPU40がこれらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU40の作業領域として利用される。
【0082】
ハードディスク43は、CPU40に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(心不全患者検出プログラム)などのコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータが記録される。ハードディスク43には、所定の基準値(カットオフ値)の他、当該被験体の過去のCKAP4の測定値などが記録されていてもよい。
【0083】
読取装置45は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVDROMドライブなどによって構成される。読取装置45は、可搬型記録媒体7に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み取ることができる。
【0084】
入出力インターフェイス44は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成される。入出力インターフェイス44には、キーボード、マウスなどの入力部5が接続されている。操作者は、入力部5によりコンピュータ3に各種の指令を入力することができる。
【0085】
通信インターフェイス46は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェイスなどである。コンピュータ3は、通信インターフェイス46により、プリンタなどへ印刷データの送信を行うことができる。
【0086】
画像出力インターフェイス47は、LCD、CRTなどで構成される表示部6に接続されている。表示部6は、CPU40から与えられた画像データに応じた映像信号を出力できる。表示部6は、入力された映像信号にしたがって画像を表示する。
【0087】
次に、
図13を用いて、心不全患者検出プログラムに基づき、検出装置1により実行される心不全患者の検出方法について説明する。まず、ステップST1において、CPU40は、測定装置2から光学的情報(シグナル)の送信を受けると、取得した光学的情報から血液試料中のCKAP4の測定値を算出し、ROM41又はハードディスク43に記憶する。そして、ステップST2において、CPU40は、取得したCKAP4の測定値と、ROM41又はハードディスク43に記憶された所定の基準値(カットオフ値)とを比較する。CKAP4の測定値が所定の基準値(カットオフ値)より低いと、ステップST3が「YES」となってST4に進み、CPU40は、血液試料を採取した被験体が心不全患者であると決定し、ステップST6において、CPU40は、決定結果を出力して、表示部5に表示したり、プリンタにより印刷したりする。また、血液試料を採取した被験体が心不全患者であるとの結果をROM41又はハードディスク43に記憶してもよい。一方、CKAP4の測定値が所定の基準値(カットオフ値)と同じ又はそれより高い(同程度以上である)と、ステップST3が「NO」となってステップST5に進み、CPU40は、血液試料を採取した被験体が心不全患者でないと決定する。そして、ステップST6において、CPU40は、決定結果を出力して、表示部5に表示したり、プリンタにより印刷したりする。また、血液試料を採取した被験体が心不全患者でないとの結果をROM41又はハードディスク43に記憶してもよい。このとき、被験体が、心疾患患者又は心疾患が疑われる者である場合には、当該被験体が心不全以外の心疾患であると決定することができ、その決定結果をCPU40は出力することができる。これにより、本実施態様においては、心疾患患者又は心疾患が疑われる者が、心不全を発症しているか否かを識別することもできる。
【0088】
以上、本発明に係る心不全患者の検出装置及び心不全患者の検出プログラムの一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例の態様に限定して解釈されるものではない。
実施例:血清中CKAP4濃度の測定
各疾患の患者血清中CKAP4濃度を比較するため、表2に示す6群の各被験者の血清中のCKAP4濃度を測定した。
1.対象
被験者の内訳を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
ここで、1及び2群の患者は、虚血性心疾患又は拡張型心筋症を基礎疾患として有しかつ心不全を発症していると診断された患者であり、3〜5群の患者は、基礎疾患はあるものの未だ心不全を発症していない患者である。6群の健常者は、心疾患のみならず、他の疾患も含め疾患の疑いのない者である。
2.測定方法
被験者から採血を行い、血清を分離後測定まで-80℃で凍結保存した。
【0092】
血清中のCKAP4は、MyBioSource社(米国、サンフランシスコ、サンディエゴ)から購入したELISAキットを用いて、添付のプロトコールにしたがって測定した。
【0093】
統計解析には、StatFlexを用い、一元配置分散分析を行い、多群比較にはTurkey検定を用いた。また、感度、特異度の検定にはROC解析を行いAUCを求めた。
3.結果
(1)血清中CKAP4濃度
各群の血清中のCKAP4濃度の平均値±標準偏差(pg/ml)を表3に示す。
【0094】
【表3】
*は、高血圧患者群(3群)、心房細動患者群(4群)、肥大型心筋症患者群(5群)、健常者群(6群)に対して有意差がp<0.05であったことを示す。
【0095】
上記結果から、1群の虚血性心疾患による心不全患者及び2群の拡張型心筋症による心不全患者の血清中のCKAP4濃度は、健常者よりも低値を示すことが明らかとなった。また、高血圧患者、心房細動患者、肥大型心筋症患者では、血清中のCKAP4濃度は変化しないことが明らかとなった。
【0096】
この結果から、心不全を発症した患者の血液試料中のCKAP4濃度は、他の心疾患患者又は健常者よりも低くなることが示唆された。
(2)ROC解析(Receiver Operating Characteristic analysis) 血清中のCKAP4濃度の値が、心不全に特異的であるかどうか評価するため、ROC解析を行った。ROC解析によって得られたAUC値を表4に示す。AUC値が1.0に近いほど特異性が高いことを示す。また、各群のROC曲線を
図2〜9に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
虚血性心疾患による心不全患者群(1群)は、健常者群(6群)に対して高いAUC値を示し、血中のCKAP4濃度の測定が虚血性心疾患による心不全の有無の検出に非常に有効であることが示された。また、高血圧患者群(3群)、肥大型心筋症患者群(4群)、及び心房細動患者(5群)に対しても、高い値を示しこれらの疾患と虚血性心疾患による心不全の鑑別診断に有効であることが示された。
【0099】
拡張型心筋症による心不全患者群(2群)もまた、健常者群(6群)に対して高いAUC値を示し、血液試料中のCKAP4濃度の測定が拡張型心筋症による心不全の有無の検出に非常に有効であることが示された。また、高血圧患者群(3群)、肥大型心筋症患者群(4群)及び心房細動患者(5群)に対しても、高い値を示しこれらの疾患と拡張型心筋症による心不全の鑑別診断に有効であることが示された。
【0100】
この解析から、血液試料中のCKAP4濃度の低下は心不全に特異的であると考えられた。