特許第6682586号(P6682586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682586
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】発熱監視装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20200406BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   B66B5/02 W
   B66B5/00 G
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-171746(P2018-171746)
(22)【出願日】2018年9月13日
(65)【公開番号】特開2020-40824(P2020-40824A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2018年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】野尻 雅樹
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−044802(JP,A)
【文献】 特開2010−058913(JP,A)
【文献】 特開2017−178495(JP,A)
【文献】 特開2017−187393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
B66B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの巻上機を制動し、ブレーキドラムとブレーキシューとの間の摩擦により制動力を発生するドラム式ブレーキ装置に発生する発熱を監視する装置であって、
前記ブレーキ装置の発熱領域から放出される赤外線を感知し、前記発熱領域の温度分布を撮像するサーマルカメラと、
前記サーマルカメラの出力を画像解析して発熱温度を検出する発熱検知部と、
検出した発熱温度が設定値を超えた場合に作動する保護回路と、を備え、
前記保護回路には、第1の設定値と第2の設定値が設定され、
前記第1の設定値は、前記ブレーキシューが前記ブレーキドラムに常に接触する結果、制動力が消失する危険性のある温度に設定され、前記第2の設定値は、前記第1の設定値よりも低い温度に設定され、
前記保護回路は、発熱温度が前記第1の設定温度に到達した場合にエレベータを停止させ、発熱温度が前記第2の設定値に到達した場合に、警告情報を発報させることを特徴とする発熱監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ブレーキでの発熱を監視する発熱監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械の運動を停止させ、速度を調節するブレーキには、制動力に摩擦力を利用した摩擦ブレーキが広く用いられている。摩擦ブレーキには、ドラムブレーキやディスクブレーキがあり、エレベータでは、巻上機に取り付けられている。ドラムブレーキでは、モータの回転軸に設けられたブレーキドラムにブレーキシューを押し付けて、回転軸を停止させる。
【0003】
エレベータの定期点検では、ブレーキの点検は、重要な点検項目であり、ブレーキの安全な作動を確保するために、ブレーキシューの損傷、摩耗具合、隙間等が綿密に点検される。
【0004】
また、エレベータでは、運転中にブレーキの異常を検知し、異常が発生した場合に、エレベータの運転を自動的に停止させる安全装置が設けられており、この種の先行技術としては、例えば、特許文献1、2を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−224531号公報
【特許文献2】特開2017−81687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エレベータでは、ブレーキの「引き摺り」と呼ばれる現象が発生することがある。このブレーキの「引き摺り」とは、ブレーキシューが完全に開放されずにブレーキドラムに接触したままの状態でエレベータが走行することをいう。
従来、このようなブレーキの「引き摺り」は、ブレーキの故障として検出されない点に問題がある。「引き摺り」の発生しているブレーキは、ブレーキドラムとブレーキシューの間に熱は発生しているが、ブレーキとしての制動機能は維持されているからである。
【0007】
しかし、「引き摺り」の状態が続き、発熱が増大していくと、最終的にブレーキの制動力が抄出し、重大な事故につながる可能性がある。
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであって、ブレーキに引き摺りが発生していないかどうかを常時監視し、制動力の喪失してしまう事態を未然に防止できるようにした発熱監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る発熱監視装置は、エレベータの巻上機を制動し、ブレーキドラムとブレーキシューとの間の摩擦により制動力を発生するドラム式ブレーキ装置に発生する発熱を監視する装置であって、前記ブレーキ装置の発熱領域から放出される赤外線を感知し、前記発熱領域の温度分布を撮像するサーマルカメラと、前記サーマルカメラの出力を画像解析して発熱温度を検出する発熱検知部と、検出した発熱温度が設定値を超えた場合に作動する保護回路と、を備え、前記保護回路には、第1の設定値と第2の設定値が設定され、前記第1の設定値は、前記ブレーキシューが前記ブレーキドラムに常に接触する結果、制動力が消失する危険性のある温度に設定され、前記第2の設定値は、前記第1の設定値よりも低い温度に設定され、前記保護回路は、発熱温度が前記第1の設定温度に到達した場合にエレベータを停止させ、発熱温度が前記第2の設定値に到達した場合に、警告情報を発報させることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態による発熱監視装置が適用されるエレベータの巻上機を示す側面図である。
図2】ドラムブレーキの構成を示す図である。
図3】本実施形態による発熱監視装置の構成を示す図である。
図4】本実施形態による発熱監視装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による発熱監視装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態による発熱監視装置が適用されるエレベータの巻上機を示す側面図である。図1において、参照番号10はエレベータの巻上機を示し、参照番号12は、巻上機10を駆動する巻上機モータを示している。巻上機10の制動には、ドラムブレーキ14が設けられている。参照番号15は、ブレーキシューで、16は、ブレーキを作動させる電磁コイルである。
【0012】
次に、図2は、ドラムブレーキ14の構成を示す図である。
巻上機モータ12の回転軸13には、ブレーキドラム18が取り付けられている。ブレーキシュー15は、回転軸13に関して180°対称に一対設けられており、それぞれ腕部20に保持されている。腕部20は、支点19を中心に揺動可能になっている。コイルスプリング22は、ブレーキシュー15をブレーキドラム18の外周面に対して押し付ける方向に付勢している。電磁コイル16には、両側からプランジャ24a、24bが嵌入されており、それぞれプランジャ24a、24bは、ロッド25a、25bを介して腕部20と連結されている。電磁コイル16が消磁されていると、ブレーキシュー15は、ブレーキドラム18の外周面に押し付けられるので、摩擦による制動力が発生する。電磁コイル16が励磁されていると、この電磁コイル16は、コイルスプリング22の弾性力に抗して腕部20とともにブレーキシュー15を開き、ブレーキ解除になる。
【0013】
次に、図3は、本実施形態による発熱監視装置の構成を示す図である。
ドラムブレーキ14が正常に作動していると、エレベータの昇降中は、ブレーキ解除になっており、ブレーキシュー15はブレーキドラム18の外周面には接触していない。
【0014】
ところが、ドラムブレーキ14では、ブレーキの引き摺りと呼ばれる現象が発生することがある。ブレーキの引き摺りが発生するとブレーキシュー15がブレーキドラム18の外周面から完全に離れずに、接触したままの状態になる。制動力は中途半端になり、エレベータはそのまま走行することになる。
【0015】
ドラムブレーキ14に、このような「引き摺り」が発生すると、ブレーキシュー15とブレーキドラム18の間の摩擦により熱が発生するので、本実施形態による発熱監視装置では、サーマルカメラ30で熱を検知するようになっている。サーマルカメラ30は、赤外線を感知する画素集合体からなる赤外線センサを有し、ドラムブレーキ14の発熱部から放出された赤外線を受けると、各画素は温度に応じた電圧を出力する。このサーマルカメラ30の出力から発熱部の表面温度に対応する濃淡をもった温度分布画像が得られ、この画像を解析することで、発熱部の温度を検出することができる。
サーマルカメラ30は、ドラムブレーキ14の周囲にブラケット31を介してモータ12に取り付けられ、ブレーキシュー15とブレーキドラム18との間の摩擦により温度上昇した発熱領域をカバーする位置に配置されている。好ましくは、ブレーキドラムから5cm以内の近辺に配置される。サーマルカメラ30の出力は、エレベータ制御盤34に設けられた発熱検知部35に中継部32を介して送信される。
【0016】
発熱検知部35は、サーマルカメラ30の出力を画像解析して、発熱領域の最高温度を検出する。この実施形態では、ドラムブレーキ14に「引き摺り」が発生したかどうかを判定する上での基準値が2段階に設定されている。
設定温度Aは、この温度まで上昇したら警戒を始める判断基準となる温度である。この設定温度Aの場合は、「引き摺り」が発生している結果、温度は上がっているが、保護回路36を作動させる必要はなく、設定温度Aに達したという警告情報が遠隔監視装置37に送信される。
【0017】
これに対して、設定温度Bは、設定温度Aよりも高い温度に設定されており、保護回路36を作動させて巻上機への電源を遮断してエレベータを停止させる温度である。温度Bは、危険な状況を示す温度であるが、ブレーキシュー15が過熱しすぎて、制動力を消失するまでの温度ではなく、制動力が保持される範囲で設定される。
【0018】
本実施形態による発熱監視装置は、以上のように構成されるものであり、次に、作用および効果について説明する。
図4は、本実施形態による発熱監視装置の動作を示すフローチャートである。
エレベータの運転中は、サーマルカメラ30により、ドラムブレーキ14の発熱状態は、次のように監視される。
サーマルカメラ30で撮像したブレーキシュー15近辺の赤外線画像データが発熱検知部35により画像解析されることで、ブレーキシュー15の発熱が検知される(ステップS10)。ドラムブレーキ14が正常に作動していれば、エレベータの昇降中、ブレーキシュー15はドラムブレーキ18の外周面には接触していないので、発熱は発生しない。かごを停止させるときだけ、ドラムブレーキ14が作動し、ブレーキシュー15は発熱する。この場合の発熱温度は、発熱検知部35により検知され、設定温度Aと比較されるが、正常なブレーキ動作による発熱であり、設定温度Aよりも低い温度である(ステップS11のno)。このようにして、エレベータの運転中は、ブレーキシュー15の発熱状況から、ドラムブレーキ14が正常に機能していることを確認することができる。
【0019】
ここで、ドラムブレーキ14に、ブレーキの引き摺り現象が発生したとする。
ブレーキに「引き摺り」が発生すると、ブレーキシュー15は、ブレーキドラム18の外周面から完全に離れずに、接触したままエレベータが走行することになる。このような引き摺り現象が発生している間も、サーマルカメラ30で撮像したブレーキシュー15回りの赤外線画像データが発熱検知部35により画像解析されるので、ブレーキシュー15回りの発熱が検知される(ステップS10)。
【0020】
さらに、引き摺り現象による場合の発熱温度は、設定温度A、設定温度Bと比較される。この場合は、異常なブレーキ動作により発熱であり、設定温度Aまたは設定温度Bを超えてしまうことがあり得る。
ここで、「引き摺り」の程度が比較的軽い状況であったとする。この場合は、ステップS11で、検知した発熱温度と設定温度Aとが比較されると、発熱温度は設定温度Aより高くなっているので、続くステップS12で設定温度Bと比較される。「引き摺り」の程度が比較的軽い状況では、発熱温度は、設定温度Bよりは低いので、ステップS13に進み、遠隔監視装置37に発熱状況の警告情報が発報される。さらに、遠隔監視装置37からは、保守会社の監視センタにも警告情報が送信される(ステップS14)。このようにして、ブレーキシュー15の発熱状況から、ドラムブレーキ14に「引き摺り」現象が発生しているが、その程度は軽いことを確認することができる。
【0021】
次に、ドラムブレーキ14に、重大な引き摺り現象が発生したとする。
この場合は、ステップS11で、検知した発熱温度と設定温度Aとが比較されると、発熱温度は設定温度Aより高くなっているので、続くステップS12で設定温度Bと比較される。「引き摺り」の程度が重大な状況では、発熱温度は、設定温度Bを超えてしまうので(ステップS12のyes)、ステップS15に進み、保護回路36を作動させ、巻上機を停止させる。ドラムブレーキ14の制動力が消失する前に、エレベータは、停止はするので、重大事故を未然に防止することができる。この場合も、遠隔監視装置37に発熱状況の情報が発報され、遠隔監視装置37からは、保守会社の監視センタにも情報が送信される(ステップS14)。したがって、エレベータ管理の関係者は、事態を正確に把握することができる。
【0022】
なお、以上説明した実施形態は、本発明をエレベータの巻上機に適用した例であるが、本発明は、エレベータの制御盤内のトランスや回路基板といった発熱量の大きい部位について、発熱状況を監視するのも適用可能である。また、本発明は、ドラムブレーキだけでなく、ディスクブレーキにも適用可能である。
【0023】
以上、本発明に係る発熱監視装置について、好適な実施形態を挙げて説明したが、これらの実施形態は、例示として挙げたもので、発明の範囲の制限を意図するものではない。もちろん、明細書に記載された新規な装置、方法およびシステムは、様々な形態で実施され得るものであり、さらに、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、種々の省略、置換、変更が可能である。請求項およびそれらの均等物の範囲は、発明の主旨の範囲内で実施形態あるいはその改良物をカバーすることを意図している。
【符号の説明】
【0024】
10…巻上機、12…巻上機モータ、14…ドラムブレーキ、15…ブレーキシュー、16…電磁コイル、20…腕部、22…コイルスプリング、30…サーマルカメラ、31…ブラケット、34…制御盤、35…発熱検知部、36…保護回路
図1
図2
図3
図4