【文献】
CARTELLIERI M. et al.,Chimeric Antigen Receptor-Engineered T Cells for Immunotherapy of Cancer,Journal of Biomedicine and Biotechnology,2010年,Vol.2010, Article ID 956304,p.1-13
【文献】
RAMADOSS N. S. et al.,An Anti-B Cell Maturation Antigen Bispecific Antibody for Multiple Myeloma,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2015年 3月31日,Vol.137,p.5288-5291
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抗体が、VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号13及び14のVL領域からなる群から選択したVL領域を含む、請求項1に記載の抗体。
BCMAとヒトCD3ε(さらには「CD3」ともいう)に特異的に結合する二重特異性抗体であって、前記二重特異性抗体は、配列番号17のCDR3H領域と、配列番号20のCDR3L領域と、
a)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域、ならびに
b)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域、
の群から選択した、CDR1H領域、CDR2H領域、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含む、前記抗体。
前記二重特異性抗体が、BCMA VHとして、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号13のVL領域を含むか、またはBCMA VHとして、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号14のVL領域を含む、請求項3に記載の二重特異性抗体。
前記二重特異性抗体が、CD3に特異的に結合する抗体の軽鎖と重鎖を含み、その可変ドメインのVLとVHまたは定常ドメインのCLとCH1が、互いに入れ替わっており、
必要に応じて、前記抗CD3抗体部分の可変ドメインVH(さらには「CD3 VH」という)が、重鎖CDR1として、配列番号1の重鎖CDRを含み、重鎖CDR2として、配列番号2の重鎖CDRを含み、重鎖CDR3として、配列番号3の重鎖CDRを含み、前記抗CD3抗体部分の可変ドメインVL(さらには「CD3 VL」という)が、軽鎖CDR1として、配列番号4の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR2として、配列番号5の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR3として、配列番号6の軽鎖CDRを含む、請求項3または4に記載の二重特異性抗体。
請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物であって、医薬として用いるための医薬組成物であり、必要に応じて前記医薬組成物は、形質細胞障害の治療で医薬として用いるためのものである、医薬組成物。
請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物であって、多発性骨髄腫、全身性ループスエリテマトーデス、形質細胞性白血病またはALアミロイドーシスの治療において医薬として用いるための医薬組成物。
BCMAに対する抗原認識部分と、T細胞活性化部分とを含むキメラ抗原レセプター(CAR)であって、前記抗原認識部分が、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体である、前記CAR。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ヒトB細胞成熟抗原(BCMA)に特異的に結合するモノクローナル抗体を含む。本発明による抗体は、CDR3H領域及びCDR3L領域として、抗体83A10と同じCDR領域を含む。
【0014】
本発明による抗体は、一実施形態では、CDR3H領域及びCDR3L領域として、抗体83A10と同じCDR領域を含むが、抗体83A10と比べて、患者の骨髄穿刺液中のMM細胞を殺傷させるのに特に強力かつ効率的な利点を示す。
【0015】
本発明は、BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体であって、配列番号17のCDR3H領域と、配列番号20のCDR3L領域と、a)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、ならびに
f)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域の群から選択した、CDR1H領域、CDR2H領域、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする抗体を含む。
【0016】
本発明は、BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体であって、配列番号21のCDR1H領域、配列番号22のCDR2H領域及び配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域と、配列番号20のCDR3L領域、ならびに
a)配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域または
c)配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせを含むVL領域とを含むことを特徴とする抗体を含む。
【0017】
本発明は、本発明による抗体であって、配列番号12、13及び14のVL領域からなる群から選択したVL領域を含むことを特徴とし、49位のアミノ酸が、アミノ酸のチロシン(Y)、グルタミン酸(E)、セリン(S)及びヒスチジン(H)の群から選択されている抗体を提供する。一実施形態では、49位のアミノ酸は、配列番号12においてEであるか、配列番号13においてSであるか、または配列番号14においてHである。
【0018】
本発明は、本発明による抗体であって、配列番号12、13及び14のVL領域からなる群から選択したVL領域を含むことを特徴とし、74位のアミノ酸が、トレオニン(T)またはアラニン(A)である抗体を提供する。一実施形態では、74位のアミノ酸は、配列番号14においてAである。
【0019】
本発明による抗体は、一実施形態では、CDR3H領域、CDR1L領域、CDR2L領域及びCDR3L領域として、抗体83A10と同じCDR領域を含む。本発明は、BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体であって、配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域と、配列番号31のCDR1L領域、配列番号32のCDR2L領域、配列番号20のCDR3L領域を含むVL領域と、
a)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域、
b)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域、または
c)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする抗体を含む。
【0020】
本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、配列番号12のVL領域と、配列番号38、39及び40のVH領域を含む群から選択したVH領域とを含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、本発明による抗体であって、配列番号12のVL領域を含むことを特徴とし、49位のアミノ酸が、アミノ酸のチロシン(Y)、グルタミン酸(E)、セリン(S)及びヒスチジン(H)の群から選択されている抗体を提供する。一実施形態では、49位のアミノ酸は、Eである。
【0021】
本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、VH領域として、配列番号10のVH領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、VL領域として、配列番号12、13及び14のVL領域からなる群から選択したVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号12のVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号13のVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号14のVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。
【0022】
本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、VH領域として、配列番号38、39及び40からなる群から選択したVH領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、VH領域として、配列番号38のVH領域を含み、VL領域として、配列番号12のVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、VH領域として、配列番号39のVH領域を含み、VL領域として、配列番号12のVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、VH領域として、配列番号40のVH領域を含み、VL領域として、配列番号12のVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。
【0023】
一実施形態では、本発明による抗体はさらに、カニクイザルBCMAにも特異的に結合することを特徴とする。一実施形態では、本発明の抗体は、BCMAへの結合に関しては、cyno/ヒト親和性ギャップが1.5〜5、1.5〜10または1.5〜16である(表5)。
【0024】
したがって、本発明による二重特異性抗体は、一実施形態では、カニクイザルCD3にも特異的に結合することを特徴とする。一実施形態では、本発明の二重特異性抗BCMA/抗CD3抗体は、Mab CD3のcyno/ヒトギャップが1.25〜5または0.8〜1.0である。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、本発明による抗体は、Fc部分を有するかまたはFc部分を有さない抗体であり、多特異性抗体、二重特異性抗体、一本鎖可変断片(scFv)(二重特異性T細胞エンゲージャー、ダイアボディまたはタンデムscFvなど)、抗体模倣物(DARPinなど)、ネイキッド単特異性抗体または抗体・薬物コンジュゲート体が含まれる。一実施形態では、多特異性抗体、二重特異性抗体、二重特異性T細胞エンゲージャー、ダイアボディまたはタンデムscFvが、BCMAとCD3に特異的に結合する。
【0026】
本発明による抗体によれば、Fc部分を有するかまたは有さない様々な形態であって、現状の技術で知られている形態(例えば、上記の「背景技術」を参照されたい)、一本鎖可変断片(scFv)(二重特異性T細胞エンゲージャー、ダイアボディ、タンデムscFvなど)、及び抗体模倣物(DARPinなど)で、BCMAに対する抗体−薬物コンジュゲート体、及びBCMAと1つ以上のさらなる標的に対する多特異性または二重特異性抗体を生成でき、これらのいずれも、本発明の実施形態である。二重特異性抗体の形態は、現状の技術において周知であり、例えば、Kontermann RE,mAbs 4:2 1−16(2012)、Holliger P.,Hudson PJ,Nature Biotech.23(2005)1126−1136、Chan AC,Carter PJ Nature Reviews Immunology 10,301−316(2010)及びCuesta AM et al.,Trends Biotech 28(2011)355−362にも説明されている。
【0027】
本発明のさらなる実施形態は、ヒトCD3ε(さらには「CD3」ともいう)と、ヒトBCMAの細胞外ドメイン(さらには「BCMA」ともいう)という2つの標的に対する二重特異性抗体であって、BCMA結合部分として、本発明による抗BCMA抗体を含むことを特徴とする抗体である。
【0028】
本発明は、一実施形態では、BCMAとCD3に対する二重特異性抗体であって、BCMA結合部分に、配列番号17のCDR3H領域と、配列番号20のCDR3L領域と、
a)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、ならびに
f)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1H領域、CDR2H領域、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする抗体に関する。
【0029】
本発明は、一実施形態では、BCMAとCD3に対する二重特異性抗体であって、本発明による抗体のVH領域(さらには「BCMA VH」ともいう)であって、配列番号21のCDR1H領域、配列番号22のCDR2H領域及び配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域と、配列番号20のCDR3L領域、ならびに
a)配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域または
c)配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせを含むVL領域(さらには「BCMA VL」ともいう)とを含むことを特徴とする抗体に関する。
【0030】
本発明は、一実施形態では、本発明による二重特異性抗体であって、BCMA VHとして、配列番号10のVH領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。
【0031】
本発明は、一実施形態では、BCMAとCD3に対する二重特異性抗体であって、そのBCMA VLが、配列番号12、13及び14のVL領域からなる群から選択されていることを特徴とする抗体に関するものである。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、BCMA VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号12のVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、BCMA VHとして、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号13のVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。本発明は、一実施形態では、本発明による抗体であって、BCMA VHとして、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号14のVL領域を含むことを特徴とする抗体を提供する。
【0032】
本発明は、本発明による二重特異性抗体であって、配列番号12、13及び14のVL領域からなる群から選択したVL領域を含むことを特徴とし、49位のアミノ酸が、アミノ酸のチロシン(Y)、グルタミン酸(E)、セリン(S)及びヒスチジン(H)の群から選択されている抗体を提供する。一実施形態では、49位のアミノ酸は、E(配列番号12)、S(配列番号13)またはH(配列番号14)である。本発明は、本発明による二重特異性抗体であって、配列番号12、13及び14のVL領域からなる群から選択したVL領域を含むことを特徴とし、74位のアミノ酸が、トレオニン(T)またはアラニン(A)である抗体を提供する。一実施形態では、74位のアミノ酸は、配列番号14においてAである。
【0033】
本発明は、BCMAとCD3に対する二重特異性抗体であって、配列番号17のCDR3H領域を含むBCMA VHと、配列番号31のCDR1L領域、配列番号32のCDR2L領域、配列番号20のCDR3L領域を含むBCMA VL、ならびに
a)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域、
b)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域、または
c)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする抗体に関する。
【0034】
BCMAとCD3に対する二重特異性抗体は、一実施形態では、本発明による抗BCMA抗体と、抗CD3抗体を含むことを特徴とし、
a)抗体の軽鎖と重鎖が、前記標的のCD3及びBCMAの1つに特異的に結合し、
b)抗体の軽鎖と重鎖が、前記標的のもう一方に特異的に結合し、可変ドメインのVLとVHまたは定常ドメインのCLとCH1が互いに入れ替わっている。
【0035】
一実施形態では、前記抗CD3抗体部分のVHドメインは、前記抗BCMA抗体部分のCH1またはCLドメインに連結されている。一実施形態では、前記抗CD3抗体部分のVLドメインは、前記抗BCMA抗体部分のCH1またはCLドメインに連結されている。
【0036】
一実施形態では、本二重特異性抗体は、抗CD3抗体部分のFab断片を1個以下と、抗BCMA抗体部分のFab断片を2個以下と、Fc部分、一実施形態ではヒトFc部分を1個以下含む。一実施形態では、抗CD3抗体部分の1個以下のFab断片と、抗BCMA抗体部分の1個以下のFab断片は、Fc部分に連結されており、連結は、そのFab断片(複数可)のヒンジ領域へのC末端結合を介して行われている。一実施形態では、抗BCMA抗体部分の第2のFab断片は、そのC末端を介して、抗CD3抗体部分のFab断片のN末端またはFc部分のヒンジ領域(すなわち、Fc部分と抗CD3抗体部分との間)のいずれかに連結されている。好ましい二重特異性抗体は、
図1〜3に示されている。
【0037】
特に好ましいのは、示されているようなFab断片とFc部分のみを含むとともに、「aa置換」を含むかまたは含まない下記の二重特異性抗体である。
Fab BCMA−Fc−Fab CD3(二重特異性形態、
図1Aまたは1B)、
Fab BCMA−Fc−Fab CD3−Fab BCMA(二重特異性形態、
図2Aまたは2B)、
Fab BCMA−Fc−Fab BCMA−Fab CD3(二重特異性形態、
図2Cまたは2D)、
Fc−Fab CD3−Fab BCMA(二重特異性形態、
図3Aまたは3B)、
Fc−Fab BCMA−Fab CD3(二重特異性形態、
図3Cまたは3D)。
【0038】
図1〜3に示されているように、「Fab BCMA−Fc、「Fab BCMA−Fc−Fab CD3」及び「Fab BCMA−Fc−Fab CD3」とは、Fab断片(複数可)が、そのC末端を介して、Fc断片のN末端に結合していることを意味する。「Fab CD3−Fab BCMA」とは、Fab CD3断片が、そのN末端によって、Fab BCMA断片のC末端に結合していることを意味する。「Fab BCMA−Fab CD3」とは、Fab BCMA断片が、そのN末端によって、Fab CD3断片のC末端に結合していることを意味する。
【0039】
一実施形態では、本二重特異性抗体は、前記抗BCMA抗体の第2のFab断片であって、そのC末端によって、前記二重特異性抗体のCD3抗体部分のN末端に連結されている第2のFab断片を含む。一実施形態では、前記第1の抗CD3抗体部分のVLドメインは、前記第2の抗BCMA抗体のCH1またはCLドメインに連結されている。
【0040】
一実施形態では、本二重特異性抗体は、前記抗BCMA抗体の第2のFab断片であって、そのC末端によって、(前記抗BCMA抗体の第1のFab断片のように)Fc部分に連結されているとともに、そのN末端によって、CD3抗体部分のC末端に連結されている第2のFab断片を含む。一実施形態では、前記抗CD3抗体部分のCH1ドメインは、前記第2の抗BCMA抗体部分のVHドメインに連結されている。
【0041】
一実施形態では、本二重特異性抗体は、前記CD3抗体Fab断片のC末端にN末端が連結しているFc部分を含む。一実施形態では、本二重特異性抗体は、その第1のN末端によって、前記CD3抗体Fab断片のC末端に連結されているFc部分と、そのC末端によって、Fc部分の第2のN末端に連結されている前記抗BCMA抗体の第2のFab断片とを含む。一実施形態では、CD3抗体Fab断片のCLドメインは、Fc部分のヒンジ領域に連結されている。一実施形態では、BCMA抗体Fab断片のCH1ドメインは、Fc部分のヒンジ領域に連結されている。
【0042】
Fab断片は、現状の技術に従って、適切なリンカーを用いて、化学的に連結し合っている。一実施形態では、(Gly4−Ser1)3リンカーを使用する(Desplancq DK et al.,Protein Eng.1994 Aug;7(8):1027−33及びMack M.et al.,PNAS July 18,1995 vol.92 no.15 7021−7025)。「化学的に連結されている」(または「連結されている」)とは、本発明による場合、断片が共有結合によって連結されていることを意味する。リンカーがペプチドリンカーである場合には、このような共有結合は通常、それぞれのFab断片のVLドメイン及び/またはVHドメイン、リンカー、ならびに適切な場合には、Fc部分鎖をコードする核酸を用いて、生化学的な組み換え手段によって行う。
【0043】
本発明は、一実施形態では、本発明による、BCMAとCD3に対する二重特異性抗体であって、抗CD3抗体部分の可変ドメインVH(さらには「CD3 VH」ともいう)が、重鎖CDR1Hとして、配列番号1の重鎖CDRを含み、重鎖CDR2Hとして、配列番号2の重鎖CDRを含み、重鎖CDR3Hとして、配列番号3の重鎖CDRを含み、抗CD3抗体部分の可変ドメインVL(さらには「CD3 VL」ともいう)が、軽鎖CDR1Lとして、配列番号4の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR2Lとして、配列番号5の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR3Lとして、配列番号6の軽鎖CDRを含むことを特徴とする抗体に関するものである。
【0044】
一実施形態では、本発明によるこのような二重特異性抗体は、抗CD3ε抗体部分の可変ドメインが、配列番号7及び8のものであることを特徴とする。
【0045】
本発明は、本発明による二重特異性抗体であって、抗CD3抗体部分が、そのN末端で、抗BCMA抗体部分のC末端に連結されており、抗CD3抗体部分の可変ドメインのVLとVH、または定常ドメインのCLとCH1が、互いに入れ替わっていることを特徴とする抗体に関するものである。
【0046】
一実施形態では、前記抗CD3抗体部分のVHドメインは、前記抗BCMA抗体部分のCH1またはCLドメインに連結されている。一実施形態では、前記抗CD3抗体部分のVLドメインは、前記抗BCMA抗体部分のCH1またはCLドメインに連結されている。
【0047】
本発明による抗体部分は、一実施形態では、それぞれの抗体のFab断片である。
【0048】
本発明のさらなる実施形態では、軽鎖の可変ドメインのVLと、抗CD3抗体部分または抗BCMA抗体部分のそれぞれの重鎖の可変ドメインVHが、互いに入れ替わっている二重特異性抗体は、抗CD3抗体部分または抗BCMA抗体部分の定常ドメインCLを含むことを特徴とし、その124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによる番号付け)、それぞれの定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸と213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている。一実施形態では、本抗体は、CD3の結合に関して一価である。一実施形態では、定常ドメインCLの124位でのアミノ酸置換に加えて、123位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されている(さらには「電荷バリアント交換」ともいう)。一実施形態では、本抗体は、CD3の結合に関して一価であり、124位のアミノ酸はKであり、147位のアミノ酸はEであり、213位のアミノ酸はEであり、123位のアミノ酸はRである。一実施形態では、本二重特異性抗体は、加えて、同じ抗BCMA結合部分(一実施形態では、Fab断片)をもう1つ含む。これは、第1の抗BCMA結合部分が、電荷バリアント交換を含む場合には、第2の抗BCMA結合部分は、同じ電荷バリアント交換を含むことも意味する。(すべてのアミノ酸の番号付けは、Kabatによるものである。)
【0049】
本発明は、本発明による二重特異性抗体であって、
a)BCMAに特異的に結合する第1の抗体の第1の軽鎖及び第1の重鎖と、
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖及び第2の重鎖であって、第2の抗体の第2の軽鎖の可変ドメインVLと第2の重鎖の可変ドメインVHが、互いに入れ替わっている第2の軽鎖及び第2の重鎖とを含むことを特徴とし、
c)a)の第1の軽鎖の定常ドメインのCLにおいて、124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによる番号付け)、a)の第1の重鎖の定常ドメインのCH1において、147位のアミノ酸と、213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabatによる番号付け)抗体に関するものである(例えば、
図1A、2A、2C、3A、3Cを参照されたい)。
【0050】
一実施形態では、1つ前の段落で説明した前記二重特異性抗体はさらに、前記二重特異性抗体が、加えて、前記第1の抗体のFab断片(さらには「BCMA−Fab」ともいう)を含み、前記BCMA−Fabの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されている(Kabatによる番号付け)ことを特徴とし、前記BCMA−Fabの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸と213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabatによる番号付け)(例えば、
図2A、2Cを参照されたい)。
【0051】
本発明はさらに、本発明による二重特異性抗体であって、
a)BCMAに特異的に結合する第1の抗体の第1の軽鎖及び第1の重鎖と、
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖及び第2の重鎖であって、第2の抗体の前記第2の軽鎖の可変ドメインVLと第2の重鎖の可変ドメインVHが、互いに入れ替わっている前記第2の軽鎖及び第2の重鎖とを含むことを特徴とし、
c)b)の前記第2の軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の前記第2の重鎖の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸と、213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabatによる番号付け)前記抗体に関する。
【0052】
一実施形態では、第1または第2の軽鎖の定常ドメインCLの124位でのアミノ酸置換に加えて、123位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されている。
【0053】
一実施形態では、定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が、リシン(K)で置換されており、定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸と213位のアミノ酸が、グルタミン酸(E)で置換されている。一実施形態では、加えて、定常ドメインCLにおいて、123位のアミノ酸が、アルギニン(R)で置換されている。
【0054】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、CD3に特異的に結合する抗体のFab断片(さらには「CD3−Fab」ともいう)1つと、本発明による抗BCMA抗体のFab断片(さらには「BCMA−Fab(複数可)」ともいう)1つと、Fc部分とからなり、そのCD3−FabとBCMA−Fabは、そのC末端を介して、前記Fc部分のヒンジ領域に連結されている。CD3−FabまたはBCMA−Fabのいずれかは、aa置換を含み、CD3−Fabは、交叉を含む(
図1A及び1B)。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、1つのCD3−Fabと、1つのBCMA−Fabと、Fc部分(前記Fc部分のヒンジ領域には、CD3−FabとBCMA−Fabが、そのC末端を介して連結されている)と、第2のBCMA−Fab(そのC末端によって、CD3−FabのN末端に連結されている)とからなる。このCD3−Fabは、交叉を含み、CD3−Fabまたは両方のBCMA−Fabのいずれかは、aa置換を含む(
図2A及び2B)。特に好ましいのは、BCMA−Fab−Fc−CD3−Fab−BCMA−Fabを含む二重特異性抗体であって、そのBCMA−Fabが両方ともaa置換を含み、CD3−Fabが、VL/VHの交叉を含む抗体である(
図2a)。特に好ましいのは、BCMA−Fab−Fc−CD3−Fab−BCMA−Fabからなる二重特異性抗体であって、そのBCMA−Fabが両方とも、Q124K、E123R、K147E及びK213Eというaa置換を含み、CD3−Fabが、VL/VHの交叉を含む抗体である。特に好ましいのは、BCMA−Fabが両方とも、CDRとして、抗体21、22または42のCDRを含むか、VH/VLとして、抗体21、22または42のVH/VLを含むことである。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、2つのBCMA−FabとFc部分からなり、1つのBCMA−FabとCD3 Fabが、そのC末端を介して、前記Fc部分のヒンジ領域に連結されており、第2のBCMA−Fabが、そのC末端によって、CD3−FabのN末端に連結されている。このCD3−Fabは、交叉を含み、CD3−Fabまたは両方のBCMA−Fabのいずれかは、aa置換を含む(
図2A及び2B)。
【0057】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、2つのBCMA−Fabと、Fc部分(前記Fc部分のヒンジ領域には、BCMA−Fabが、そのC末端を介して連結されている)と、CD3−Fab(そのC末端によって、1つのBCMA−FabのN末端に連結されている)とからなる。このCD3−Fabは、交叉を含み、CD3−Fabまたは両方のBCMA−Fabのいずれかは、aa置換を含む(
図2C及び2D)。
【0058】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による抗体は、1つのCD3−Fab(そのC末端を介して、前記Fc部分のヒンジ領域に連結されている)と、BCMA−Fab(そのC末端によって、CD3−FabのN末端に連結されている)とからなる。このCD3−Fabは、交叉を含み、CD3−FabまたはBCMA−Fabのいずれかは、aa置換を含む(
図1A及び1B)。
【0059】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による抗体は、1つのCD3−Fab(そのC末端を介して、前記Fc部分のヒンジ領域に連結されている)と、BCMA−Fab(そのC末端によって、CD3−FabのN末端に連結されている)とからなる。このCD3−Fabは、交叉を含み、CD3−FabまたはBCMA−Fabは、aa置換を含む(
図3A及び3B)。
【0060】
本発明の好ましい実施形態では、本発明による抗体は、1つのBCMA−Fab(そのC末端を介して、前記Fc部分のヒンジ領域に連結されている)と、CD3−Fab(そのC末端によって、BCMA−FabのN末端に連結されている)とからなる。このCD3−Fabは、交叉を含み、CD3−FabまたはBCMA−Fabのいずれかは、aa置換を含む(
図3C及び3D)。
【0061】
これらのFab断片は、現状の技術に従って、適切なリンカーを用いて、化学的に連結し合っている。一実施形態では、(Gly4−Ser1)3リンカーを使用する(Desplancq DK et al.,Protein Eng.1994 Aug;7(8):1027−33及びMack M.et al.,PNAS July 18,1995 vol.92 no.15 7021−7025)。2つのFab断片間の連結は、重鎖間で行われている。したがって、第1のFab断片のCH1のC末端が、第2のFab断片のVHのN末端(非交叉の場合)またはVL(交叉の場合)に連結されている。Fab断片とFc部分との連結は、本発明によれば、CH1とCH2との連結として行われている。
【0062】
BCMAに特異的に結合する抗体の第1のFab断片と第2のFab断片は、一実施形態では、同じ抗体に由来しており、一実施形態では、CDR配列、可変ドメイン配列VH及びVL、ならびに/または定常ドメイン配列CH1及びCLが同一である。一実施形態では、BCMAに特異的に結合する抗体の第1のFab断片と第2のFab断片のアミノ酸配列は、同一である。一実施形態では、本BCMA抗体は、抗体21、22もしくは42のCDR配列を含む抗体、抗体21、22もしくは42のVH配列とVL配列を含む抗体、または抗体21、22もしくは42のVH配列と、VL配列と、CH1配列と、CL配列を含む抗体である。
【0063】
一実施形態では、本二重特異性抗体は、Fab断片及びFc部分として、抗CD3抗体のFab断片を1個以下と、抗BCMA抗体のFab断片を2個以下と、Fc部分、一実施形態では、ヒトFc部分を1個以下含む。一実施形態では、抗BCMA抗体の第2のFab断片は、そのC末端を介して、抗CD3抗体のFab断片のN末端、またはFc部分のヒンジ領域のいずれかに連結されている。一実施形態では、連結は、BCMA−FabのCH1と、CD3−FabのVLの間で行われている(VL/VHの交叉の場合)。
【0064】
一実施形態では、ヒトCD3に特異的に結合する抗体部分、一実施形態では、Fab断片は、重鎖CDR1として、配列番号1の重鎖CDRを含み、重鎖CDR2として、配列番号2の重鎖CDRを含み、重鎖CDR3として配列番号3の重鎖CDRを含む可変ドメインVHと、抗CD3ε抗体の軽鎖CDR1として、配列番号4の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR2として、配列番号5の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR3として、配列番号6の軽鎖CDRを含む(CDR Mab CD3)可変ドメインVLとを含むことを特徴とする。一実施形態では、ヒトCD3に特異的に結合する抗体部分は、可変ドメインが、配列番号7及び8のものである(VHVL MAB CD3)ことを特徴とする。
【0065】
本発明は、ヒトBCMAとヒトCD3εの細胞外ドメインに特異的に結合する二重特異性抗体であって、
i)配列番号48、配列番号49、配列番号50及び配列番号51(2×)(抗体21のセット1TCB)と、
ii)配列番号48、配列番号52、配列番号53及び配列番号54(2×)(抗体22のセット2TCB)と、
iii)配列番号48、配列番号55、配列番号56及び配列番号57(2×)(抗体42のセット3TCB)と、
のポリペプチドからなる群から選択した、重鎖と軽鎖のセットを含むことを特徴とする抗体に関するものである。
【0066】
一実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、抗体のCH3ドメイン間の元来の界面を構成する界面で、一方の重鎖のCH3ドメインと、他方の重鎖のCH3ドメインがそれぞれ、交わることを特徴とし、前記界面が、二重特異性抗体の形成を促すように変更されており、その変更は、
a)その二重特異性抗体において、一方の重鎖のCH3ドメインの元来の界面であって、他方の重鎖のCH3ドメインの元来の界面と交わる界面において、アミノ酸残基が、側鎖体積のより大きいアミノ酸残基で置換されていることによって、一方の重鎖のCH3ドメインの界面内に突起が作られ、その突起が、他方の重鎖のCH3ドメインの界面内の空隙に配置可能になるように、一方の重鎖のCH3ドメインが変更されていることと、
b)二重特異性抗体において、第2のCH3ドメインの元来の界面であって、第1のCH3ドメインの元来の界面と交わる界面において、アミノ酸残基が、側鎖体積のより小さいアミノ酸残基で置換されていることによって、第2のCH3ドメインの界面内に空隙が作られ、その空隙の中に、第1のCH3ドメインの界面内の突起が配置可能になるように、他方の重鎖のCH3ドメインが変更されていることと、
を特徴とする。
【0067】
一実施形態では、このような二重特異性抗体は、側鎖体積のより大きい前記アミノ酸残基が、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)からなる群から選択されていることを特徴とする。
【0068】
一実施形態では、このような二重特異性抗体は、側鎖体積のより小さい前記アミノ酸残基が、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)、バリン(V)からなる群から選択されていることを特徴とする。
【0069】
一実施形態では、このような二重特異性抗体は、両方のCH3ドメインがさらに、各CH3ドメインの対応する位置におけるアミノ酸として、システイン(C)を導入することによって変更されていることを特徴とする。
【0070】
一実施形態では、このような二重特異性抗体は、両方の重鎖の定常重鎖ドメインCH3の一方が、定常重鎖ドメインCH1で置換されているとともに、他方の定常重鎖ドメインCH3が、定常軽鎖ドメインCLで置換されていることを特徴とする。
【0071】
本発明はさらに、本発明による抗体であって、100nMの前記抗体濃度で、24時間後に、調製BCMA発現細胞の20%以上の細胞の細胞死を誘導する(親Fc部分を有する同じ抗体を対照として用いた、同じ条件下での対照に対するADCCによる)改変Fc部分を含む抗体に関する。このような抗体は、一実施形態では、ネイキッド抗体である。
【0072】
一実施形態では、本発明による抗体は、Asn297において、フコースの量が、オリゴ糖(糖)の総量の60%以下である抗体である(例えば、US20120315268を参照されたい)。
【0073】
一実施形態では、Fc部分は、ヒトFc部分に導入されているとともに、配列番号55及び56に開示されているアミノ酸置換を含む。
【0074】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗BCMA抗体のキメラ抗原レセプター(CAR)である。このような実施形態では、抗BCMA抗体は、本発明による抗体の一本鎖VH及びVLドメインと、CD3ゼータ膜貫通及びエンドドメインからなる。好ましくは、CD3ゼータドメインは、スペーサーを介して、前記VLドメインのC末端と連結されており、VLドメインのN末端は、スペーサーを介して、前記VHドメインのC末端に連結されている。BCMA抗体のキメラ抗原レセプターと、有用な膜貫通ドメイン及びエンドドメインと、その生成方法は、例えば、Ramadoss NS.et al.,J.Am.Chem.Soc.J.,DOI:10.1021/jacs.5b01876(2015)、Carpenter RO et al.,Clin.Cancer.Res.DOI:10.1158/1078−0432.CCR−12−2422(2013)、WO2015052538及びWO2013154760に説明されている。
【0075】
本発明のさらなる実施形態は、抗原結合断片、特に、Fab断片として、BCMAとCD3に結合する二重特異性抗体であって、Fc部分を有するかまたは有さない二重特異性抗として、説明されている形態、特に、2+1形態の二重特異性抗体として、及び本明細書に記載されているような重鎖と軽鎖、特に、表1Aに記載されているような重鎖と軽鎖を有する二重特異性抗体として、説明されているCL及びCH1配列とともに、そのCDR配列及び/またはVH/VL配列によって本明細書に説明されているようなMab21、Mab22、Mab42、Mab27、Mab33及びMab39抗体である。
【0076】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による二重特異性形態で、10nM以上、1fM以下の濃度で、48時間の処置後、多発性骨髄腫(MM)骨髄穿刺液中のヒト悪性形質細胞を少なくとも80%になるまで除去する抗BCMA抗体の生成方法であって、1〜50nMのcynoBCMAで、抗体83A10の可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)ファージディスプレイライブラリー(VHライブラリー、VLライブラリー)を1〜3ラウンドパニングし、上記のような二重特異性T細胞結合剤として、上記のような特性を有する可変軽鎖と可変重鎖を選択することを特徴とする方法である。好ましくは、パニングは、ラウンド1では、50nMのcynoBCMA、ラウンド2では、25nMのcyBCMA、ラウンド3では、10nMのcyBCMAを用いて、3ラウンド行う。好ましくは、ライブラリーは、軽鎖CDR1及びCDR2または重鎖CDR1及びCDR2のいずれかにおいてランダム化する。好ましくは、抗体83A10の対応するVHまたはVLをさらに含むFab断片として、それぞれ、50pM〜5nMのKdでhuBCMAに、0.1nM〜20nMのKdでcynoBCMAに結合する軽鎖及び重鎖を同定する。好ましくは、二重特異性形態は、
図2Aの形態であり、CD3 Fabのそれぞれの定常ドメインVLとVHであって、互いに入れ替わっているVLとVHと、両方のBCMA Fab内において、CH1ドメインにおけるK213E及びK147Eというアミノ酸交換と、CLドメインにおけるE123R及びQ124Kというアミノ酸交換とを含む。
【0077】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体の調製方法であって、
a)宿主細胞を
b)本発明による抗体の軽鎖と重鎖をコードする核酸分子を含むベクターで形質転換するステップと、
c)前記抗体分子の合成を可能にする条件で、宿主細胞を培養するステップと、
d)前記抗体分子を前記培養物から回収するステップと、
を含む方法である。
【0078】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による二重特異性抗体の調製方法であって、
e)宿主細胞を
f)第1の標的に特異的に結合する抗体の軽鎖と重鎖をコードする核酸分子を含むベクターと、
g)第2の標的に特異的に結合する抗体であって、可変ドメインのVLとVHまたは定常ドメインのCLとCH1が互いに入れ替わっている抗体の軽鎖と重鎖をコードする核酸分子を含むベクター
で形質転換するステップと、
h)前記抗体分子の合成を可能にする条件で、宿主細胞を培養するステップと、
i)前記抗体分子を前記培養物から回収するステップと、
を含む方法である。
【0079】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体をコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞である。本発明のさらなる実施形態は、第1の標的に特異的に結合する抗体の軽鎖と重鎖をコードする核酸分子を含むベクターと、第2の標的に特異的に結合する抗体であって、可変ドメインのVLとVHまたは定常ドメインのCLとCH1が互いに入れ替わっている抗体の軽鎖と重鎖をコードする核酸分子を含むベクターとを含む宿主細胞である。
【0080】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物である。
【0081】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体を含む医薬組成物であって、医薬として用いるための医薬組成物である。
【0082】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体を含む医薬組成物であって、形質細胞障害の治療で医薬として用いるための医薬組成物である。
【0083】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体を含む医薬組成物であって、多発性骨髄腫の治療で医薬として用いるための医薬組成物である。
【0084】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体を含む医薬組成物であって、全身性ループスエリテマトーデスの治療で医薬として用いるための医薬組成物である。
【0085】
本発明のさらなる実施形態は、単特異性抗体、ADCC促進型ネイキッド抗体、抗体−薬物コンジュゲート体、多特異性抗体または二重特異性抗体を含め、本発明による抗体を含む医薬組成物であって、抗体関連型拒絶反応の治療で医薬として用いるための医薬組成物である。
【0086】
一実施形態では、本発明による抗体は、多発性骨髄腫(MM)のような形質細胞障害、または下記のように、BCMAを発現するその他の形質細胞障害の治療に用いることができる。MMは、骨髄コンパートメントにおける異常な形質細胞の単クローン性増殖と蓄積によって特徴付けられる、形質細胞の悪性腫瘍である。MMは、同じIgG遺伝子の再構成と体細胞超変異を有する循環クローン性形質細胞も伴う。MMは、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)という無症状な前がん性の状態であって、低レベルの骨髄形質細胞と単クローナルタンパク質によって特徴付けられる状態から発症する。MM細胞は、低速度で増殖する。MMは、複数の構造的な染色体変化(例えば不均衡転座)の進行的な発生に起因する。MMは、悪性形質細胞と骨髄微小環境(例えば、正常な骨髄間質細胞)の相互作用を伴う。活動性のMMの臨床的徴候としては、モノクローナル抗体のスパイク、骨髄において過密な形質細胞、溶解性骨病変、及び破骨細胞の過剰刺激に起因する骨破壊が挙げられる(Dimopulos & Terpos,Ann Oncol 2010;21 suppl 7:vii143−150)。形質細胞、すなわち、BCMAを発現する形質細胞を伴う別の形質細胞障害は、全身性ループスエリテマトーデス(SLE)であり、ループスとしても知られている。SLEは、身体のあらゆる部分に影響を及ぼし得る全身性自己免疫疾患であり、免疫系が自己の細胞と組織を攻撃し、その結果、慢性炎症と組織の損傷が生じることで表される。SLEは、抗体−免疫複合体が関与して、さらなる免疫応答を引き起こすIII型過剰反応である(Inaki & Lee,Nat Rev Rheumatol 2010;6:326−337)。さらなる形質細胞障害は、形質細胞性白血病とALアミロイドーシスである(実施例19及び20も参照されたい)。これらのいずれの形質細胞障害においても、本発明による抗体によって、形質細胞/悪性形質細胞を除去することは、上記のような疾患に罹患している患者に有益であると予測される。
【0087】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体であって、形質細胞と同種抗体が関与する抗体関連型同種移植拒絶(急性及び慢性の抗体関連型拒絶反応(AMR)を含む)を治療するための抗体である。急性AMRは、数日にわたってみられる移植片機能障害であって、既存のドナー特異的抗体または移植後に発生する新規のドナー特異的抗体のいずれかによるものである移植片機能障害によって特徴付けられる。このAMRは、すべての腎移植の約5〜7%で発生し、前感作したクロスマッチ陽性患者の中でも、20〜48%の急性拒絶反応エピソードを引き起こす(Colvin and Smith,Nature Rev Immunol 2005;5(10):807−817)。急性AMRを起こした患者の組織病理から、内皮細胞の膨化、糸球体及び尿細管周囲毛細血管の好中球浸潤、フィブリン血栓、間質浮腫、ならびに出血が明らかになることが多い(Trpkov et al.Transplantation 1996;61(11):1586−1592)。AMRは、C4d染色または同種移植片生検体におけるその他の改良型の抗体検出方法によって同定できる。AMRの別の形態は、慢性同種移植片損傷としても知られており、この形態も、ドナー特異的抗体が関与するが、移植から数カ月後、さらには数年後に現れるものである。この形態は、腎生検において、移植糸球体症(慢性同種移植糸球体症としても知られている)として見られ、糸球体メサンギウムの拡大と毛細血管基底膜の多重化によって特徴付けられる(Regele et al.J Am Soc Nephrol 2002;13(9):2371−2380)。臨床症状は、早期において無症状である患者から、進行期において、ネフローゼレベルのタンパク尿、高血圧及び同種移植片機能障害を有する患者まで様々である。疾患の進行は、特に進行中の急性AMRの場合に非常に速く、数カ月以内に移植不全に至ることがある(Fotheringham et al.Nephron−Clin Pract 2009;113(1):c1−c7)。患者生検における移植糸球体症の有病率は、1年時点で5%から、5年時点で20%まで様々である(Cosio et al.Am J Transplant 2008;8:292−296)。
【0088】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体であって、医薬として用いる抗体である。
【0089】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体であって、医薬として用いる抗体を含む医薬組成物である。
【0090】
本発明のさらなる実施形態は、本発明によるネイキッド抗体または二重特異性抗体であって、医薬として用いるネイキッド抗体または二重特異性抗体を含む医薬組成物である。
【0091】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体であって、エフェクター機能が向上しており、医薬として用いる抗体を含む医薬組成物である。
【0092】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体であって、エフェクター機能が低下しており、医薬として用いる抗体を含む医薬組成物である。
【0093】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による二重特異性抗体としての抗体であって、医薬として用いる抗体を含む医薬組成物である。
【0094】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による多特異性抗体としての抗体であって、医薬として用いる抗体を含む医薬組成物である。
【0095】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による抗体であって、治療剤、例えば細胞障害剤または放射性標識とのコンジュゲート体(薬物コンジュゲート体)としての抗体であり、医薬として用いる抗体を含む医薬組成物である。
【0096】
本発明のさらなる実施形態は、本発明によるダイアボディとしての抗体であって、医薬として用いる抗体を含む医薬組成物である。
【0097】
一実施形態では、本発明による抗体は、特に、CD3とBCMAに対する二重特異性抗体であるときには、1週間に1回または2回、一実施形態では皮下投与によって、(例えば、一実施形態では、0.1〜2.5、好ましくは25mg/m
2/週、好ましくは250mg/m
2/週の用量範囲で)投与する。本発明による抗体は、その優れた細胞障害性活性により、T細胞二重特異性ではない(すなわち、一方のアームにおいて、CD3に結合しない)従来の単特異性抗体または従来の二重特異性抗体と少なくとも同程度の(またはこれらの従来の抗体よりもさらに少ない)臨床用量範囲で投与できる。本発明による抗体では、臨床現場においては、皮下投与(例えば、0.1〜250mg/m
2/週の用量範囲)が好ましいと想定されている。加えて、血清中のAPRILとBAFFのレベルが高い患者(例えば多発性骨髄腫患者)では、本発明による抗体の用量を増やす必要がないこともある。リガンドの競合による影響を受けないと見られるからである。これに対して、他のリガンドブロッキング/競合型抗BCMA抗体の用量は、上記の患者では、増やす必要があることがある。本発明による抗体の別の利点は、排泄半減期が約4〜12日であり、これにより、週に少なくとも1回または2回の投与が可能になることである。
【0098】
一実施形態では、本発明による抗体は、ADCC向上型のネイキッド/非コンジュゲート単特異性抗体のケースでは、週に1回/2回の静脈内経路によって、ただし、好ましくは皮下投与を介して、(例えば、200〜2000mg/m/週範囲の用量で、4週間)処置することを可能にする特性を持つ抗体である。本発明による抗体では、臨床現場においては、皮下投与(例えば、疾患の適応に応じて、200〜2000mg/m
2/週の用量範囲)が可能であるとともに、好ましいことが想定されている。加えて、血清中のAPRILとBAFFが高い患者(例えば多発性骨髄腫患者)では、本発明による抗体(例えば、非リガンドブロッキング/競合型抗体)では、用量を増やす必要がないことがある。リガンドの競合による影響を受けないと見られるからである。これに対して、他のリガンドブロッキング/競合型の抗BCMA抗体の用量は、上記の患者では、増やす必要があることがあり、これにより、皮下投与の技術的(例えば製薬上の)困難度が高くなる。本発明による抗体の別の利点は、Fc部分を含むことに基づき、このことは、4〜12日の排泄半減期と関連し、週に少なくとも1回または2回の投与を可能にする。
【0099】
本発明のさらに好ましい実施形態は、本発明による抗体を含む診断用組成物である。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
ヒトB細胞成熟抗原(BCMA)に特異的に結合するモノクローナル抗体であって、配列番号17のCDR3H領域と、配列番号20のCDR3L領域と、
a)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、ならびに
f)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
の群から選択した、CDR1H領域、CDR2H領域、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする前記抗体。
(項目2)
BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体であって、配列番号21のCDR1H領域と、配列番号22のCDR2H領域と、配列番号17のCDR3H領域とを含むVH領域と、配列番号20のCDR3L領域と、
a)配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域または
c)配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせを含むVL領域とを含むことを特徴とする前記抗体。
(項目3)
VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号12、13及び14のVL領域からなる群から選択したVL領域を含むを含むことを特徴とする、項目1または2に記載の抗体。
(項目4)
BCMAとヒトCD3ε(さらには「CD3」ともいう)に特異的に結合する二重特異性抗体であって、配列番号17のCDR3H領域と、配列番号20のCDR3L領域と、a)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、ならびに
f)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
の群から選択した、CDR1H領域、CDR2H領域、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする前記抗体。
(項目5)
ヒトBCMA(さらには「BCMA」ともいう)とヒトCD3ε(さらには「CD3」
ともいう)という細胞外ドメインである2つの標的に特異的に結合する二重特異性抗体であって、配列番号21のCDR1H領域、配列番号22のCDR2H領域及び配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域と、配列番号20のCDR3L領域、ならびに
a)配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域または
c)配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせを含むVL領域とを含むことを特徴とする前記抗体。
(項目6)
BCMA VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号12のVL領域を含むか、BCMA VHとして、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号13のVL領域を含むか、またはBCMA VHとして、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号14のVL領域を含むことを特徴とする、項目5に記載の二重特異性抗体。
(項目7)
CD3に特異的に結合する抗体の軽鎖と重鎖を含むことを特徴とし、その可変ドメインのVLとVHまたは定常ドメインのCLとCH1が、互いに入れ替わっている、項目4〜6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
(項目8)
前記抗CD3抗体部分の可変ドメインVH(さらには「CD3 VH」という)が、重鎖CDR1として、配列番号1の重鎖CDRを含み、重鎖CDR2として、配列番号2の重鎖CDRを含み、重鎖CDR3として、配列番号3の重鎖CDRを含み、前記抗CD3抗体部分の可変ドメインVL(さらには「CD3 VL」という)が、軽鎖CDR1として、配列番号4の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR2として、配列番号5の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR3として、配列番号6の軽鎖CDRを含むことを特徴とする、項目4〜7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
(項目9)
BCMAとCD3に特異的に結合する二重特異性抗体であって、
a)項目1〜3のいずれか1項に記載の第1の抗体の第1の軽鎖及び第1の重鎖と、
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖及び第2の重鎖であって、前記第2の抗体の第2の軽鎖の可変ドメインVLと第2の重鎖の可変ドメインVHが、互いに入れ替わっている前記第2の軽鎖及び第2の重鎖とを含むことを特徴とし、
c)a)の前記第1の軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによる番号付け)、a)の前記第1の重鎖の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸と、213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されていることを特徴とする前記抗体。
(項目10)
さらに、前記第1の抗体のFab断片(さらには「BCMA−Fab」ともいう)を含み、前記BCMA−Fabの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによる番号付け)、前記BCMA−Fabの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸と、213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabatによる番号付け)ことを特徴とする(例えば、図2A、2Cを参照されたい)、項目9に具体的に記載の二重特異性抗体。
(項目11)
BCMAとCD3に特異的に結合する二重特異性抗体であって、
a)項目1〜3のいずれか1項に記載の第1の抗体の第1の軽鎖及び第1の重鎖と、
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖及び第2の重鎖であって、第2の抗体の前記第2の軽鎖の可変ドメインVLと第2の重鎖の可変ドメインVHが、互いに入
れ替わっている前記第2の軽鎖及び第2の重鎖とを含むことを特徴とし、
c)b)の前記第2の軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の前記第2の重鎖の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸と、213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabatによる番号付け)前記抗体。
(項目12)
抗CD3抗体部分のFab断片を1個以下と、抗BCMA抗体部分のFab断片を2個以下と、Fc部分を1個以下含むことを特徴とする、項目4〜11のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
(項目13)
前記CD3抗体Fab断片のC末端と、前記BCMA抗体Fab断片の1つのC末端とに、そのN末端が連結しているFc部分を含むことを特徴とする、項目4〜12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
(項目14)
前記抗BCMA抗体部分の第2のFab断片であって、前記二重特異性抗体のCD3抗体部分のN末端に、そのC末端が連結されている前記第2のFab断片を含むことを特徴とする、項目4〜13のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
(項目15)
前記抗CD3抗体Fab断片のVLドメインが、前記第2の抗BCMA抗体Fab断片のCH1ドメインに連結されていることを特徴とする、項目14に記載の二重特異性抗体。
(項目16)
BCMAとCD3に特異的に結合する二重特異性抗体であって、
i)配列番号48、配列番号49、配列番号50及び配列番号51(2×)、
ii)配列番号48、配列番号52、配列番号53及び配列番号54(2×)、ならびにiii)配列番号48、配列番号55、配列番号56及び配列番号57(2×)
のポリペプチドからなる群から選択した、重鎖と軽鎖のセットを含むことを特徴とする前記抗体。
(項目17)
項目1〜16のいずれか1項に記載の抗体の調製方法であって、
a)宿主細胞を
b)項目1〜16のいずれか1項に記載の抗体の軽鎖と重鎖をコードする核酸分子を含むベクターで形質転換するステップと、
c)前記抗体分子の合成を可能にする条件で、前記宿主細胞を培養するステップと、
d)前記抗体分子を前記培養物から回収するステップと、
を含む前記方法。
(項目18)
項目1〜16のいずれか1項に記載の抗体と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
(項目19)
項目1〜16のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物であって、医薬として用いるための医薬組成物。
(項目20)
項目1〜16のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物であって、形質細胞障害の治療で医薬として用いるための医薬組成物。
(項目21)
項目1〜16のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物であって、多発性骨髄腫または全身性ループスエリテマトーデスまたは形質細胞性白血病またはALアミロイドーシスの治療において医薬として用いるための医薬組成物。
(項目22)
BCMAに対する抗原認識部分と、T細胞活性化部分とを含むキメラ抗原レセプター(CAR)であって、前記抗原認識部分が、項目1〜3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体または抗体断片であることを特徴とする前記CAR。
(項目23)
BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体の生成方法であって、前記モノクローナル抗体は、項目4〜16のいずれか1項に記載の二重特異性抗体として、多発性骨髄腫(MM)骨髄穿刺液中のヒト悪性形質細胞を、10nM以上、1fM以下の濃度の抗BCMA抗体で48時間処理後に少なくとも80%までになる形で除去し、前記方法は、
a)配列番号9の可変重鎖(VH)ファージディスプレイライブラリーを1〜50nMのカニクイザルBCMAで1〜3ラウンドパニングして、配列番号11の可変軽鎖と組み合わせて項目4〜16のいずれか1項に記載の二重特異性抗体にしたときに、上記のようなヒト悪性形質細胞を上記のような形で除去する可変重鎖を選択することと、
c)配列番号11の可変軽鎖(VL)ファージディスプレイライブラリーを1〜50nMのカニクイザルBCMAで1〜3ラウンドパニングして、b)配列番号9の可変重鎖と組み合わせて項目4〜16のいずれか1項に記載の二重特異性抗体にしたときに、上記のようなヒト悪性形質細胞を上記のような形で除去する可変軽鎖を選択することと、
選択した前記可変重鎖と、選択した前記可変軽鎖を組み合わせて、項目4〜16のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、上記のようなヒト悪性形質細胞を上記のような形で除去する前記抗体にすることとを特徴とする前記方法。
【発明を実施するための形態】
【0101】
「BCMA、標的BCMA、ヒトBCMA」という用語は、本明細書で使用する場合、分化形質細胞において優先的に発現する腫瘍壊死レセプタースーパーファミリーのメンバーであるヒトB細胞成熟抗原(BCMA、TR17_HUMAN、TNFRSF17(UniProt Q02223)としても知られている)に関するものである。BCMAの細胞外ドメインは、UniProtによれば、1〜54位(または5〜51位)のアミノ酸からなる。「BCMAに対する抗体、抗BCMA抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、BCMAの細胞外ドメインに特異的に結合する抗体に関するものである。
【0102】
「BCMAに特異的に結合する、またはBCMAに結合する」とは、その抗体が治療剤として、BCMAを標的とするのに有用となるように、十分な親和性で、標的BCMAに結合できる抗体を指す。いくつかの実施形態では、抗BCMA抗体の無関係な非BCMAタンパク質への結合の程度は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)、例えばBiacore(登録商標)、酵素結合免疫吸着法(ELISA)またはフローサイトメトリー(FACS)によって測定した場合、その抗体のBCMAへの結合よりも、約10倍、好ましくは100倍超小さい。一実施形態では、BCMAに結合する抗体の解離定数(Kd)は、10
−8M以下、好ましくは10
−8M〜10
−13M、好ましくは10
−9M〜10
−13Mである。一実施形態では、抗BCMA抗体は、BCMAのエピトープのうち、異なる種のBCMA間で、好ましくは、ヒトとカニクイザルの間で、加えて、好ましくは、マウスBCMAとラットBCMAでも保存されているエピトープに結合する。「CD3とBCMAに特異的に結合する二重特異性抗体、CD3とBCMAに対する二重特異性抗体」とは、両方の標的に結合するためのそれぞれの定義を指す。BCMA(またはBCMAとCD3)に特異的に結合する抗体は、他のヒト抗原には結合しない。したがって、ELISAでは、このような無関係な標的のOD値は、特定のアッセイの検出限界のOD値(好ましくは0.3ng/ml超)以下となるか、またはプレートに結合したBCMAを含まないかもしくは非トランスフェクションHEK293細胞を含む対照試料のOD値以下となる。
【0103】
好ましくは、抗BCMA抗体は、ヒトBCMA、ならびにヒト以外の哺乳動物由来のBCMA、好ましくはカニクイザル、マウス及び/またはラット由来のBCMAからなるBCMA群に特異的に結合している。「cyno/ヒトギャップ」とは、カニクイザルBCMAへのKD[M]/ヒトBCMAへのKD[M]という親和性比を指す(詳細については、実施例3を参照されたい)。「Mab CD3のcyno/ヒトギャップ」とは、本明細書で使用する場合、カニクイザルCD3へのKD[M]/ヒトCD3へのKD[M]という親和性比を指す。一実施形態では、本発明の二重特異性抗BCMA/抗CD3抗体は、Mab CD3のcyno/ヒトギャップが1.25〜5または0.8〜1.0である。本発明による二重特異性抗体は、一実施形態では、カニクイザルCD3にも特異的に結合することを特徴とする。一実施形態では、本発明の二重特異性抗BCMA/抗CD3抗体は、Mab CD3のcyno/ヒトギャップが1.25〜5または0.8〜1.0である。好ましくは、cyno/ヒトギャップは、抗BCMA抗体と抗CD3抗体において、同じ範囲内である。
【0104】
「APRIL」という用語は、本明細書で使用する場合、組み換えトランケート型マウスAPRIL(106〜241位のアミノ酸、NP_076006)に関するものである。APRILは、Ryan,2007(Mol Cancer Ther;6(11):3009−18)に記載されているようにして生成できる。
【0105】
「BAFF」という用語は、本明細書で使用する場合、Gordon,2003(Biochemistry;42(20):5977−5983)に記載されているようにして生成できる組み換えトランケート型ヒトBAFF(UniProt Q9Y275(TN13B_HUMAN)に関するものである。好ましくは、本発明に従って、Hisタグ化BAFFを使用する。好ましくは、Hisタグ化BAFFは、82〜285位のBAFF残基をコードするDNA断片を発現ベクターにクローニングし、N末端Hisタグとの融合を行ってから、トロンビン切断サイトとの融合を行い、前記ベクターを発現させ、回収したタンパク質をトロンビンによって切断することによって生成する。
【0106】
抗BCMA抗体は、ELISAによって、プレートに結合させたBCMAを用いて、ヒトBCMAへの結合について解析する。このアッセイでは、プレートに結合させたBCMAをある量、好ましくは1.5μg/mLと、0.1pM〜200nMの範囲の濃度(複数可)の抗BCMA抗体を使用する。
【0107】
「NF−κB」という用語は、本明細書で使用する場合、組み換えNF−κB p50(受託番号(P19838)に関するものである。NF−κB活性は、NCI−H929MM細胞(CRL−9068(商標))の抽出物のDNA結合ELISAによって測定できる。0.1μg/mLのTNF−α、1000ng/mLの熱処理済みのHTトランケート型BAFF、1000ng/mLのトランケート型BAFF、0.1pM〜200nMのアイソタイプ対照で処理していないかまたは処理したNCI−H929MM細胞を、0.1pM〜200nMの抗BCMA抗体を含めるか、または含めずに、20分インキュベートする。NF−κB活性は、NF−κBコンセンサス配列に結合したp65からの化学発光シグナルを検出する機能性ELISAを用いてアッセイできる(US6150090)。
【0108】
「さらなる標的」という用語は、本明細書で使用する場合、好ましくはCD3εを意味する。「第1の標的及び第2の標的」という用語は、第1の標的としてのCD3と、第2の標的としてのBCMAを意味するか、または第1の標的としてのBCMAと、第2の標的としてのCD3を意味する。
【0109】
「CD3εまたはCD3」という用語は、本明細書で使用する場合、UniProt P07766(CD3E_HUMAN)で説明されているヒトCD3εに関するものである。「CD3εに対する抗体、抗CD3ε抗体」という用語は、CD3εに特異的に結合する抗体に関するものである。一実施形態では、本抗体は、重鎖CDR1Hとして、配列番号1の重鎖CDRを含み、重鎖CDR2Hとして、配列番号2の重鎖CDRを含み、重鎖CDR3Hとして配列番号3の重鎖CDRを含む可変ドメインVHと、軽鎖CDR1Lとして、配列番号4の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR2Lとして、配列番号5の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR3Lとして、配列番号6の軽鎖CDRを含む可変ドメインVLとを含む。一実施形態では、本抗体は、配列番号7(VH)と配列番号8(VL)の可変ドメインを含む。
【0110】
「抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、モノクローナル抗体を指す。抗体は、2対の「軽鎖」(LC)と「重鎖」(HC)からなる(このような軽鎖(LC)/重鎖のペアは、本明細書では、LC/HCと略称する)。このような抗体の軽鎖と重鎖は、いくつかのドメインからなるポリペプチドである。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書では、HCVRまたはVHと略称する)と重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、重鎖定常ドメインCH1、CH2及びCH3(IgA、IgD及びIgGの抗体クラス)と、任意に応じて、重鎖定常ドメインCH4(IgE及びIgMの抗体クラス)を含む。各軽鎖は、軽鎖可変ドメインVLと軽鎖定常ドメインCLを含む。可変ドメインのVHとVLはさらに、相補性決定領域(CDR)という超可変性の領域であって、その領域よりも保存性の高い領域(フレームワーク領域(FR)という)に挟まれた領域に細分できる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端まで、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4という順序で配列されている3つのCDRと4つのFRで構成されている。重鎖と軽鎖の「定常ドメイン」は、抗体の標的への結合には直接関与しないが、様々なエフェクター機能を呈する。「抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、少なくとも、抗原であるCD3とBCMAのそれぞれへの特異的結合に必要となる抗体部分も含む。したがって、前記抗体部分が、本発明による二重特異性抗体に含まれる場合には、このような抗体(または抗体部分)は、一実施形態では、Fab断片であることができる。本発明による抗体は、Fab’、F(ab’)
2、scFv、ジ−scFvまたは二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)であることもできる。
【0111】
特徴的性質が保持されている限りは、「抗体」という用語には、例えば、マウス抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及び遺伝子操作抗体(バリアントまたは変異体抗体)が含まれる。特に好ましいのは、ヒトまたはヒト化抗体、特に組み換えヒトまたはヒト化抗体としての抗体である。さらなる実施形態は、異種特異的抗体(二重特異性、三重特異的など)と、例えば細胞障害性小分子とのその他のコンジュゲート体である。
【0112】
「二重特異性抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、一実施形態では、2対の重鎖及び軽鎖(HC/LC)のうちの1対が、CD3に特異的に結合し、もう一方が、BCMAに特異的に結合する抗体を指す。この用語は、現状の技術による他の形態の二重特異性抗体、一実施形態では、二重特異性一本鎖抗体も指す。
【0113】
「TCB」という用語は、本明細書で使用する場合、BCMAとCD3に特異的に結合する二重特異性抗体を指す。「83A10−TCBcv」という用語は、本明細書で使用する場合、BCMAとCD3に特異的に結合する二重特異性抗体のうち、配列番号45、配列番号46、配列番号47(2×)及び配列番号48の重鎖と軽鎖の組み合わせによって定められているとともに、
図2Aに示されており、EP14179705に説明されているような抗体を指す。本明細書で使用する場合、「21−TCBcv」という用語は、配列番号48、配列番号49、配列番号50及び配列番号51(2×)の重鎖と軽鎖の組み合わせによって定められるようなMab21の二重特異性抗体、「22−TCBcv」という用語は、配列番号48、配列番号52、配列番号53及び配列番号54(2×)の重鎖と軽鎖の組み合わせによって定められるようなMab22の二重特異性抗体、「42−TCBcv」という用語は、配列番号48、配列番号55、配列番号56及び配列番号57−(2×)の重鎖と軽鎖の組み合わせによって定められるようなMab42の二重特異性抗体を指す。
【0114】
「ネイキッド抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、BCMAに特異的に結合し、Fc部分を含み、治療剤、例えば細胞障害剤または放射性標識とコンジュゲートしていない抗体を指す。「コンジュゲート抗体、薬物コンジュゲート体」という用語は、本明細書で使用する場合、BCMAに特異的に結合するとともに、治療剤、例えば細胞障害剤または放射性標識とコンジュゲートしている抗体を指す。
【0115】
「二重特異性一本鎖抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、一実施形態では、2つの結合ドメイン(1つは、BCMAに特異的に結合し、もう一方は、一実施形態では、CD3に特異的に結合する)を含む1本のポリペプチド鎖を指す。各結合ドメインは、抗体重鎖由来の可変領域(「VH領域」)を1つ含み、第1の結合ドメインのVH領域は、CD3分子に特異的に結合し、第2の結合ドメインのVH領域は、BCMAに特異的に結合する。2つの結合ドメインは任意に応じて、短いポリペプチドスペーサーによって、互いに連結されている。ポリペプチドスペーサーの非限定例は、Gly−Gly−Gly−Gly−Ser(G−G−G−G−S)及びこのリピートである。加えて、各結合ドメインは、抗体軽鎖由来の可変領域(「VL領域」)を1つ含んでよく、第1の結合ドメインのVH領域及びVL領域と、第2の結合ドメインのVH領域及びVL領域を互いに対合させて、それらが合わさって、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインのそれぞれに特異的に結合できるようにするのに十分に長いポリペプチドリンカーを介して、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインのそれぞれのVH領域とVL領域が互いに連結されている(例えば、EP0623679を参照されたい)。二重特異性一本鎖抗体は、例えば、Choi BD et al.,Expert Opin Biol Ther.2011 Jul;11(7):843−53及びWolf E.et al.,Drug Discov Today.2005 Sep 15;10(18):1237−44でも言及されている。
【0116】
「ダイアボディ」という用語は、本明細書で使用する場合、同じポリペプチド鎖上で、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖(VH)可変ドメイン(VH−VL)(同じ鎖上の2つのドメイン間を対合させるには短すぎるペプチドリンカーによって連結されている)を含む二価及び二重特異性の抗体小断片を指す(Kipriyanov,Int.J.Cancer 77(1998),763−772)。これにより、別の鎖の相補的ドメインとの対合が起こり、2つの機能的な抗原結合部位を持つ二量体分子のアセンブリーが促される。本発明の二重特異性ダイアボディを構築するためには、抗CD3抗体と抗BCMA抗体のVドメインを融合して、VH(CD3)−VL(BCMA)、VH(BCMA)−VL(CD3)という2本の鎖を作製する。それぞれの鎖自体は、各抗原に結合できないが、他方の鎖との対合により、抗CD3抗体と抗BCMA抗体の機能的な抗原結合部位が再現される。2つのscFv分子は、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメイン間のリンカーであって、分子内での二量体形成には短すぎるリンカーとともに共発現し、自己アセンブルして、対向する2つの結合部位によって、二重特異性分子を形成する。例として、BCMAとCD3に対する結合ドメインをコードする可変領域はそれぞれ、PCRによって、説明されているようにして得たDNAコンストラクトから増幅して、Kipiriyanov et al.,J.Immunol,Methods,200,69−77(1997a)に説明されているように、pHOGのようなベクターにクローニングできるようにできる。続いて、この2つのscFvコンストラクトを1つの発現ベクターにおいて所望の配向で組み合わせることによって、VH−VLリンカーを短くして、鎖自体のバックフォールディングを防ぐ。これらのDNAセグメントは、終止コドンとリボソーム結合部位(RBS)によって分離する。RBSにより、バイシストロニックなメッセージとして、mRNAの転写が可能になり、このメッセージは、リボソームによって2つのタンパク質に翻訳され、これらのタンパク質が非共有結合で相互作用して、ダイアボディ分子を形成する。ダイアボディには、他の抗体断片のように、細菌(E.coli)及び酵母(Pichia pastoris)において、機能的な形態かつ高収量(最大Ig/l)で、発現できるという利点がある。
【0117】
「タンデムscFv」という用語は、本明細書で使用する場合、例えば、WO03/025018及びWO03/048209に説明されているような一本鎖Fv分子(すなわち、免疫グロブリンの重鎖可変ドメインVHと軽鎖可変ドメインVLの会合によって形成される分子)を指す。このようなFv分子(TandAbs(登録商標)として知られている)は、4つの抗体可変ドメインを含み、(i)VH/VLまたはVL/VHの配向で、抗原結合scFvを形成することによって、4つの可変ドメインのうちの最初の2つまたは最後の2つのいずれかが、同じ鎖内で、互いに分子内で結合し、(ii)もう一方の2つのドメインが、他方の鎖の対応するVHドメインまたはVLドメインと分子内で結合して、抗原結合VH/VL対を形成する。好ましい実施形態では、WO03/025018で言及されているように、このようなFv分子の単量体は、1つの単量体の2つの隣接ドメインが、抗原結合VH−VLまたはVL−VH scFvユニットを形成する少なくとも4つの可変ドメインを含む。
【0118】
「DARPin」という用語は、本明細書で使用する場合、例えばUS2009082274に説明されているような二重特異性アンキリンリピート分子を指す。これらの分子は、ヒトゲノムで見ることができるとともに、最も豊富なタイプの結合タンパク質の1つである天然のアンキリンタンパク質に由来する。DARPinライブラリーモジュールは、初期デザインでは229個のアンキリンリピート、その後の精緻化では別の2200個のアンキリンリピートを用いて、天然のアンキリンリピートタンパク質配列によって定められる。これらのモジュールは、DARPinライブラリー用のビルディングブロックとしての役割を果たす。ライブラリーモジュールは、ヒトゲノム配列に似ている。DARPinは、4〜6個のモジュールで構成されている。各モジュールは、約3.5kDaであるので、平均的なDARPinのサイズは、16〜21kDaである。結合剤の選択は、リボソームディスプレイによって行い、このリボソームディスプレイは、完全に無細胞であり、He M and Taussig MJ.,Biochem Soc Trans.2007,Nov;35(Pt 5):962−5に説明されている。
【0119】
「T細胞二重特異性エンゲージャー」という用語は、約55キロダルトンの1本のペプチド鎖上において、異なる抗体の2つの一本鎖可変断片(scFv)または4つの異なる遺伝子に由来するアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。scFvのうちの1つは、CD3レセプターを介してT細胞に結合し、もう一方は、BCMAに結合する。
【0120】
哺乳動物の抗体重鎖には、ギリシャ文字でα、δ、ε、γ及びμと示される5つの種類がある(Janeway CA,Jr et al (2001).Immunobiology.5th ed.,Garland Publishing)。存在する重鎖の種類によって、抗体のクラスが定まり、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM抗体で見られる(Rhoades RA,Pflanzer RG (2002).Human Physiology,4th ed.,Thomson Learning)。それぞれの重鎖は、サイズと組成が異なり、α鎖及びγ鎖は、約450個のアミノ酸を含み、μ鎖及びε鎖は、約550個のアミノ酸を有する。
【0121】
各重鎖には、定常領域と可変領域という2つの領域がある。定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体では同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。γ、α及びδ重鎖には、CH1、CH2及びCH3(一列になっている)という3つの定常ドメインと、柔軟性を加えるためのヒンジ領域で構成された定常領域があり(Woof J,Burton D Nat Rev Immunol 4(2004)89−99)、μ及びε重鎖には、CH1、CH2、CH3及びCH4という4つの定常ドメインで構成された定常領域がある(Janeway CA,Jr et al (2001).Immunobiology.5th ed.,Garland Publishing)。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生される抗体においては異なるが、1つのB細胞またはB細胞クローンによって産生されるすべての抗体では同じである。各重鎖の可変領域は、約110個のアミノ酸の長さであり、1つの抗体ドメインで構成されている。
【0122】
哺乳動物では、軽鎖には2つの種類しかなく、それらは、ラムダ(λ)及びカッパ(κ)と呼ばれている。軽鎖には、1つの定常ドメインCLと1つの可変ドメインVLという2つの連続的なドメインがある。軽鎖の概ねの長さは、211〜217個のアミノ酸分である。一実施形態では、軽鎖は、カッパ(κ)軽鎖であり、定常ドメインCLは、一実施形態では、カッパ(K)軽鎖(定常ドメインCK)に由来する。
【0123】
「aa置換」とは、本明細書で使用する場合、定常ドメインCH1では、147位及び213位のアミノ酸のグルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)による独立したアミノ酸置換を指し、定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸が、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されていることを指す。一実施形態では、加えて、定常ドメインCLにおいて、123位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されている。一実施形態では、124位のアミノ酸はKであり、147位のアミノ酸はEであり、213位のアミノ酸はEであり、123位のアミノ酸はRである。aa置換は、CD3 Fab、または1つもしくは2つのBCMA Fabのいずれかに存在する。電荷バリアントとしての、BCMAとCD3に対する二重特異性抗体は、EP14179705に説明されており、参照により開示されている(さらに、「それぞれ、電荷バリアント、電荷バリアント交換」という)。
【0124】
本明細書におけるすべてのアミノ酸番号付けは、Kabatに従っている(Kabat,E.A.et al,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991),NIH Publication 91−3242)。
【0125】
「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、本明細書で使用する場合、1つのアミノ酸組成物の抗体分子の調製物を指す。
【0126】
本発明による「抗体」は、いずれかのクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、好ましくはIgGもしくはIgE)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2、好ましくはIgG1)であることができ、それにより、本発明による二価の二重特異性抗体の由来元である両方の抗体は、同じサブクラス(例えば、IgG1、IgG4など、好ましくはIgG1)、好ましくは同じアロタイプ(例えばCaucasian)のFc部分を有する。
【0127】
「抗体のFc部分」は、当業者に周知の用語であり、抗体のパパイン切断に基づき定義されている。本発明による抗体は、Fc部分として、一実施形態では、ヒト由来のFc部分を含むとともに、好ましくは、ヒト定常領域の他のすべての部分を含む。抗体のFc部分は、補体の活性化、C1qの結合、C3の活性化及びFcレセプターの結合に直接関与する。抗体が補体系に及ぼす影響は、ある特定の条件に左右されるが、C1qへの結合は、Fc部分の所定の結合部位によって生じる。このような結合部位は、現状の技術において知られており、例えば、Lukas,TJ.,et al.,J.Immunol.127(1981)2555−2560、Brunhouse,R.,and Cebra,J.J.,MoI.Immunol.16(1979)907−917、Burton,D.R.,et al.,Nature 288(1980)338−344、Thommesen,J.E.,et al.,MoI.Immunol.37(2000)995−1004、Idusogie,E.E.,et al.,J.Immunol.164(2000)4178−4184、Hezareh,M.,et al.,J.Virol.75(2001)12161−12168、Morgan,A.,et al.,Immunology 86(1995)319−324及びEP0 307 434によって説明されている。
【0128】
このような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331及びP329である(番号付けは、KabatのEUインデックスによるものである)。抗体のサブクラスIgG1、IgG2及びIgG3は通常、補体の活性化、C1qの結合及びC3の活性化を示すが、IgG4は、補体系を活性化せず、C1qと結合せず、C3を活性化しない。一実施形態では、Fc部分は、ヒトFc部分である。
【0129】
一実施形態では、本発明による抗体は、野生型ヒトIgG Fc領域のFcバリアントを含み、前記Fcバリアントは、Pro329の位置のアミノ酸置換と、少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換を含み(残基は、KabatのEUインデックスに従って番号が付されている)、前記抗体は、野生型IgG Fc領域を含む抗体よりも、ヒトFcγRIIIA及び/またはFCγRIIA及び/またはFCγRIに対する親和性が低下しており、前記抗体によって誘導されるADCCは、野生型ヒトIgG Fc領域を含む抗体によって誘導されるADCCの少なくとも20%まで低下している。具体的な実施形態では、本発明による抗体における野生型ヒトFc領域のPro329は、グリシンもしくはアルギニン、またはFc/Fcγレセプターの界面内のプロリンサンドイッチ(Fcの329位のプロリンと、FcγRIIIのトリプトファン残基Trp87及びTip110との間に形成されている)を破壊するのに十分に大きいアミノ酸残基で置換されている(Sondermann et al.:Nature 406,267−273(20 July 2000))。本発明のさらなる態様では、Fcバリアントにおける少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換は、S228P、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297DまたはP331Sであり、さらに、別の実施形態では、前記少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換は、ヒトIgG1 Fc領域のL234A及びL235A、またはヒトIgG4 Fc領域のS228P及びL235Eである。このようなFcバリアントは、WO2012130831に詳細に説明されている。
【0130】
「エフェクター機能」とは、本明細書で使用する場合、抗体Fc領域とFcレセプターまたはリガンドとの相互作用に起因する生化学的なイベントを意味する。エフェクター機能としては、ADCC、ADCP及びCDCが挙げられるが、これらに限らない。「エフェクター細胞」とは、本明細書で使用する場合、1つ以上のFcレセプターを発現するとともに、1つ以上のエフェクター機能を媒介する免疫系細胞を意味する。エフェクター細胞としては、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞及びγδT細胞が挙げられるが、これらに限らず、エフェクター細胞は、いずれかの生物(ヒト、マウス、ラット、ウサギ及びサルが挙げられるが、これらに限らない)に由来してよい。「ライブラリー」とは、本明細書においては、いずれかの形態のFcバリアントセットを意味し、核酸またはアミノ酸配列のリスト、可変位における核酸またはアミノ酸置換のリスト、ライブラリー配列をコードする核酸を含む物理的ライブラリー、またはFcバリアントタンパク質を精製形態もしくは非精製形態で含む物理的ライブラリーが挙げられるが、これらに限らない。
【0131】
「Fcガンマレセプター」または「FcγR」とは、本明細書で使用する場合、IgG抗体Fc領域と結合するとともに、FcγR遺伝子によって実質的にコードされるタンパク質のファミリーのいずれかのメンバーを意味する。ヒトにおいては、このファミリーとしては、アイソフォームのFcγRIa、FcγRIb及びFcγRIcを含むFcγRI(CD64)と、アイソフォームのFcγRIIa(アロタイプのH131とR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb−1とFcγRIIb−2を含む)及びFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)と、アイソフォームのFcγRIIIa(アロタイプのV158とF158を含む)及びFcγRIIIb(アロタイプのFcγRIIIb−NA1とFcγRIIIb−NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)(Jefferis et al.,2002,Immunol Lett 82:57−65)と、いずれかの未発見のヒトFcγR、またはFcγRアイソフォームもしくはアロタイプが挙げられるが、これらに限らない。FcγRは、いずれかの生物(ヒト、マウス、ラット、ウサギ及びサルが挙げられるが、これらに限らない)に由来してよい。マウスFcγRとしては、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)及びFcγRIII−2(CD16−2)、ならびにいずれかの未発見のマウスFcγR、またはFcγRアイソフォームもしくはアロタイプが挙げられるが、これらに限らない。
【0132】
「エフェクター機能の向上したFcバリアント」とは、本明細書で使用する場合、少なくとも1つのアミノ酸の改変により、親Fc配列とは異なるFc配列を意味するか、または、例えばAsn279における、エフェクター機能を高めるグリコシル化の改変のようなその他の改変に関するものである。このような修飾は、例えば、Duncan et al.,1988,Nature 332:563−564、Lund et al.,1991,J Immunol 147:2657−2662、Lund et al.,1992,Mol Immunol 29:53−59、Alegre et al.,1994,Transplantation 57:1537−1543、Hutchins et al.,1995,Proc Natl Acad Sci U S A 92:11980−11984、Jefferis et al.,1995,//77muno/Lett 44:111−117、Lund et al.,1995,Faseb J 9:115−119、Jefferis et al.,1996,Immunol Lett 54:101−104、Lund et al.,1996,J Immunol 157:4963−4969、Armour et al.,1999,Eur J Immunol 29:2613−2624、Idusogie et al.,2000,J Immunol 164:4178−4184、Reddy et al.,2000,J Immunol 164:1925−1933、Xu et al.,2000,Cell Immunol 200:16−26、Idusogie et al.,2001,J Immunol 166:2571−2575、Shields et al.,2001,J Biol Chem 276:6591−6604、Jefferis et al.,2002,Immunol Lett 82:57−65、Presta et al.,2002,Biochem Soc Trans 30:487−490、US5624821、US5885573、US6194551、WO200042072、WO199958572で言及されている。このようなFcの改変には、本発明によれば、Fc部分の操作済みグリコフォームも含まれる。「操作済みグリコフォーム」とは、本明細書で使用する場合、Fcポリペプチドに共有結合している糖鎖組成物であって、親Fcポリペプチドの糖鎖組成物とは化学的に異なる前記糖鎖組成物を意味する。操作済みグリコフォームは、いずれかの方法によって、例えば、操作済みまたはバリアント発現株を用いることによって、1つ以上の酵素、例えばD1−4−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)との共発現によって、Fcポリペプチドを様々な生物もしくは様々な生物由来の細胞株において発現させることによって、またはFcポリペプチドを発現させた後に、糖鎖(複数可)を改変することによって生成してよい。操作済みグリコフォームの生成方法は、当該技術分野において知られており、Umana et al.,1999,Nat Biotechnol 17:176−180、Davies et al.,2001,Biotechnol Bioeng 74:288−294、Shields et al.,2002,J Biol Chem 277:26733−26740、Shinkawa et al.,2003,J Biol Chem 278:3466−3473)、US6602684、WO200061739、WO200129246、WO200231140、WO200230954、Potelligent(商標)の技術(ニュージャージー州プリンストンのBiowa,Inc.)、グリコシル化操作技術のGlycoMAb(商標)(スイス、チューリッヒのGLYCART biotechnology AG))で言及されている。操作済みグリコフォームとは典型的には、親Fcポリペプチドとは異なる糖鎖またはオリゴ糖組成物を指す。
【0133】
本発明による抗体であって、エフェクター機能の向上したFcバリアントを含む抗体は、FcガンマレセプターIII(FcγRIII、CD16a)に対する結合親和性が高い。FcγRIIIに対する高い結合親和性とは、CD16a/F158に対して、結合性が、CHO宿主細胞(CHO DG44もしくはCHO K1細胞など)で発現させた参照としての親抗体(95%フコシル化)と比べて、少なくとも10倍向上しているか、または/及び100nMの抗体濃度で、固定化したCD16aを用いて、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定した場合に、CD16a/V158に対して、結合性が、親抗体と比べて少なくとも20倍向上していることを示す。FcγRIIIの結合は、現状の技術による方法によって、例えば、抗体のFc部分のアミノ酸配列を改変すること、または抗体のFc部分のグリコシル化によって向上させることができる(例えば、EP2235061を参照されたい)。Mori,K et al.,Cytotechnology 55(2007)109及びSatoh M,et al.,Expert Opin Biol Ther.6(2006)1161−1173は、アフコシル化抗体を生成するためのFUT8(α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ)遺伝子ノックアウトCHO株に関するものである。
【0134】
「キメラ抗体」という用語は、ある供給源または種に由来する可変領域、すなわち結合領域と、異なる供給源または種に由来する定常領域の少なくとも一部を含む抗体であって、通常、組み換えDNA技法によって調製する抗体を指す。マウス可変領域とヒト定常領域を含むキメラ抗体が好ましい。本発明に含まれる「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、本発明による特性、特に、C1qの結合及び/またはFcレセプター(FcR)の結合に関する特性をもたらすために、定常領域が、元の抗体の定常領域から改変または変更されている形態である。このようなキメラ抗体は、「クラススイッチ抗体」ともいう。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントと、免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントとを含む免疫グロブリン遺伝子の発現産物である。キメラ抗体の生成方法は、従来の組み換えDNAを伴い、遺伝子のトランスフェクション技法は、当該技術分野において周知である。例えば、Morrison,S.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81(1984)6851−6855、米国特許第5,202,238号及び同第5,204,244号を参照されたい。
【0135】
「ヒト化抗体」という用語は、親免疫グロブリンの特異性と特異性が異なる免疫グロブリンのCDRを含むように、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が改変されている抗体を指す。好ましい実施形態では、「ヒト化抗体」を調製するために、マウスCDRが、ヒト抗体のフレームワーク領域に移植されている。例えば、Riechmann,L.,et al.,Nature 332(1988)323−327、及びNeuberger,M.S.,et al.,Nature 314(1985)268−270を参照されたい。本発明に含まれる「ヒト化抗体」のその他の形態は、本発明による特性、特に、C1qの結合及び/またはFcレセプター(FcR)の結合に関する特性をもたらすために、定常領域がさらに、元の抗体の定常領域から改変または変更されている抗体である。
【0136】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域を有する抗体を含むように意図されている。ヒト抗体は、現状の技術において周知である(van Dijk,M.A.,and van de Winkel,J.G.,Curr.Opin.Chem.Biol.5(2001)368−374)。ヒト抗体は、免疫によって、内因性免疫グロブリンを産生することなく、ヒト抗体の完全なレパートリーまたは選択部分を産生できるトランスジェニック動物(例えばマウス)で産生させることもできる。このような生殖系列変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入はヒト抗体の生成をもたらす(例えば、Jakobovits,A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)2551−2555、Jakobovits,A.,et al.,Nature 362(1993)255−258、Bruggemann,M.,et al.,Year Immunol.7(1993)33−40を参照されたい)。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーで生成することもできる(Hoogenboom,H.R.,and Winter,G.,J.MoI.Biol.227(1992)381−388、Marks,J.D.,et al.,J.MoI.Biol.222(1991)581−597)。Coleら及びBoernerらの技法も、ヒトモノクローナル抗体の調製に使用可能である(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985)及びBoerner,P.,et al.,J.Immunol.147(1991)86−95)。本発明によるキメラ抗体とヒト化抗体に関してすでに述べたように、「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、本発明による特性、特に、C1qの結合及び/またはFcRの結合に関する特性をもたらすために、例えば、Fc部分の「クラススイッチ」、すなわち、変更または変異(例えば、IgG1からIgG4への変更及び/またはIgG1/IgG4変異)によって、定常領域において改変されている抗体も含む。
【0137】
「組み換えヒト抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、宿主細胞(NSO細胞もしくはCHO細胞など)から単離した抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離した抗体、または宿主細胞にトランスフェクションした組み換え発現ベクターを用いて発現させた抗体のように、組み換え手段によって調製、発現、作製または単離されるあらゆるヒト抗体を含むように意図されている。このような組み換えヒト抗体は、再構成された形態の可変領域と定常領域を有する。本発明による組み換えヒト抗体は、インビボで体細胞超変異を受けたものである。したがって、この組み換え抗体のVH領域とVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列のVH配列とVL配列に由来及び関連しているが、天然では、インビボにおいてヒト抗体生殖系列レパートリー内に存在するとは限らない配列である。
【0138】
「可変ドメイン」(軽鎖(VL)の可変ドメイン、重鎖の可変領域(VH))とは、本明細書で使用する場合、軽鎖及び重鎖の各ペアのうち、本発明による抗体の結合に直接関与するペアを示す。可変ヒト軽鎖と可変ヒト重鎖のドメインは、同じ一般構造を有し、各ドメインには、配列が広く保存されているとともに、3つの「超可変領域」(すなわち、相補性決定領域、CDR)によってつながっている4つのフレームワーク(FR)領域が含まれる。フレームワーク領域は、βシートコンフォメーションをとり、CDRは、このβシート構造を連結するループを形成し得る。各鎖のCDRは、フレームワーク領域によって三次元構造に保たれ、もう一方の鎖のCDRと共に、結合部位を形成する。抗体の重鎖及び軽鎖のCDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性において、特に重要な役割を果たすので、本発明のさらなる目的をもたらす。
【0139】
「超可変領域」または「抗体の標的結合部分」という用語は、本明細書で使用するときには、抗体のアミノ酸残基のうち、標的の結合を担うアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」のアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」または「FR」領域は、本明細書で定義されているような超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖と重鎖は、N末端からC末端に向かって、FR1ドメイン、CDR1ドメイン、FR2ドメイン、CDR2ドメイン、FR3ドメイン、CDR3及びFR4ドメインを含む。各鎖のCDRは、上記のようなフレームワークアミノ酸によって隔てられている。特に、重鎖のCDR3は、標的の結合への寄与度が最も大きい領域である。CDR領域とFR領域は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)の標準的な定義によって定められる。「CDR1H、CDR2H及びCDR3H」という用語は、本明細書で使用する場合、可変ドメインVHに位置する、重鎖の各CDRを指す。「CDR1L、CDR2L及びCDR3L」という用語は、本明細書で使用する場合、可変ドメインVLに位置する、軽鎖の各CDRを指す。
【0140】
重鎖ドメインCH3と置き換わる定常重鎖ドメインCH1は、いずれかのIgクラス(例えばIgA、IgD、IgE、IgG及びIgM)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)のものであることができる。重鎖ドメインCH3と置き換わる定常軽鎖ドメインCLは、ラムダ(λ)またはカッパ(κ)のタイプ、好ましくはカッパ(κ)のタイプであることができる。
【0141】
「標的」または「標的分子」という用語は、本明細書で使用する場合、同義的に用いられており、ヒトBCMAを指す。二重特異性抗体においては、この用語は、BCMAと第2の標的を指す。好ましくは、二重特異性抗体においては、上記の用語は、BCMAとCD3を指す。
【0142】
「エピトープ」という用語には、抗体に特異的に結合できるいずれかのポリペプチド決定基が含まれる。ある特定の実施形態では、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルまたはスルホニルのような分子の化学的に活性な表面基を含み、ある特定の実施形態では、特定の三次元構造特性及びまたは特定の電荷特性を有してよい。エピトープは、標的の領域のうち、抗体が結合する領域である。
【0143】
概して、本発明による抗体の軽鎖と重鎖をコードする2つのベクターが存在する。二重特異性抗体においては、第1の標的に特異的に結合する前記抗体の軽鎖と重鎖をコードする2つのベクターと、さらに、第2の標的に特異的に結合する前記抗体の軽鎖と重鎖をコードする2つのベクターが存在する。これらの2つのベクターの一方は、それぞれの軽鎖をコードし、2つのベクターのうちのもう一方は、それぞれの重鎖をコードする。しかしながら、本発明による抗体を調製するための代替的な方法では、宿主細胞を形質転換するのに、第1の標的に特異的に結合する抗体の軽鎖と重鎖をコードする第1のベクターを1つのみと、第2の標的に特異的に結合する抗体の軽鎖と重鎖をコードする第2のベクターを1つのみ使用することができる。
【0144】
「核酸または核酸分子」という用語は、本明細書で使用する場合、DNA分子とRNA分子を含むように意図されている。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0145】
本明細書で使用する場合、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養物」という表現は、同義的に用いられており、これらの呼称にはいずれも、子孫が含まれる。すなわち、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という用語には、初代対象細胞と、継代数にかかわらず、初代対象細胞に由来する培養物とが含まれる。すべての子孫は、意図的または偶発的変異により、DNA量がまったく同一でない場合もあることも分かる。元の形質転換細胞でスクリーニングしたものと同じ機能または生物学的活性を有するバリアント子孫が含まれる。別個の名称が意図されている場合は、文脈から明らかとなるであろう。
【0146】
「形質転換」という用語は、本明細書で使用する場合、ベクター/核酸を宿主細胞に移入するプロセスを指す。強力な細胞壁バリアのない細胞を宿主細胞として使用する場合には、例えば、Graham and Van der Eh,Virology 52(1978)546ffによって説明されているようなリン酸カルシウム沈殿法によって、トランスフェクションを行う。しかしながら、DNAを細胞に導入する他の方法(核注入またはプロトプラスト融合による方法など)も用いてよい。原核細胞または相当な細胞壁構築物を含む細胞を使用する場合には、例えば、トランスフェクション方法の1つは、Cohen SN,et al,PNAS 1972,69(8):2110−2114によって説明されているような、塩化カルシウムを用いるカルシウム処理である。
【0147】
形質転換を用いて抗体を組み換え生成することは、現状の技術において周知であり、例えば、Makrides,S.C,Protein Expr.Purif.17(1999)183−202、Geisse,S.,et al.,Protein Expr.Purif.8(1996)271−282、Kaufman,RJ.,MoI.Biotechnol.16(2000)151−161、Werner,R.G.,et al.,Arzneimittelforschung 48(1998)870−880の総説論文と、US6331415及びUS4816567に説明されている。
【0148】
本明細書で使用する場合、「発現」とは、核酸をmRNAに転写するプロセス、及び/またはその後、転写したmRNA(転写産物ともいう)をペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質に翻訳するプロセスを指す。転写産物と、コードされたポリペプチドは、遺伝子産物と総称する。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞での発現には、mRNAのスプライシングが含まれる場合がある。
【0149】
「ベクター」とは、挿入されている核酸分子を宿主細胞内及び/または宿主細胞間に移入する核酸分子、特には自己複製核酸分子である。この用語には、DNAまたはRNAの細胞への挿入(例えば染色体への組み込み)を行うように主に機能するベクターと、DNAまたはRNAの複製を行うように主に機能するベクターの複製と、DNAまたはRNAの転写及び/または翻訳を行うように機能する発現ベクターが含まれる。記載したような機能の2つ以上を果たすベクターも含まれる。
【0150】
「発現ベクター」とは、適切な宿主細胞に導入すると、ポリペプチドに転写及び翻訳できるポリヌクレオチドである。「発現系」とは通常、所望の発現産物を産生するように機能できる発現ベクターで構成された好適な宿主細胞を指す。
【0151】
本発明による抗体は、組み換え手段によって生成するのが好ましい。このような方法は、現状の技術において広く知られており、原核細胞及び真核細胞でタンパク質を発現させてから、抗体ポリペプチドを単離して、通常は、薬学的に許容可能な純度まで精製することを含む。タンパク質の発現では、軽鎖と重鎖、またはそれらの断片をコードする核酸を標準的な方法によって発現ベクターに挿入する。発現は、CHO細胞、NSO細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、酵母またはE.coli細胞のような適切な原核または真核宿主細胞で行い、その細胞(上清または溶解後の細胞)から抗体を回収する。二重特異性抗体は、全細胞、細胞溶解液、または部分精製形態もしくは実質的に純粋な形態で存在してよい。精製は、アルカリ/SDS処理、カラムクロマトグラフィー及び当該技術分野において周知のその他の技法を含む標準的な技法によって、他の細胞成分または他の夾雑物、例えば他の細胞核酸またはタンパク質を取り除く目的で行う。Ausubel,F.,et al.,ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New York(1987)を参照されたい。
【0152】
NS0細胞での発現は、例えば、Barnes,L.M.,et al.,Cytotechnology 32(2000)109−123及びBarnes,L.M.,et al.,Biotech.Bioeng.73(2001)261−270によって説明されている。一過性発現は、例えば、Durocher,Y.,et al.,Nucl.Acids.Res.30(2002)E9によって説明されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi,R.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(1989)3833−3837、Carter,P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89(1992)4285−4289、及びNorderhaug,L.,et al.,J.Immunol.Methods 204(1997)77−87によって説明されている。好ましい一過性発現系(HEK293)は、Schlaeger,E.−J.及びChristensen,K.によって、Cytotechnology 30(1999)71−83において、ならびにSchlaeger,E.−J.によって、J.Immunol.Methods 194(1996)191−199で説明されている。
【0153】
原核生物に適する制御配列としては、例えば、プロモーターと、任意に応じてオペレーター配列と、リボソーム結合部位が挙げられる。真核細胞は、プロモーターと、エンハンサーと、ポリアデニル化シグナルを用いることが知られている。
【0154】
抗体は、例えば、プロテインAセファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティクロマトグラフィーのような従来の免疫グロブリン精製手順によって、培地から分離するのが好適である。モノクローナル抗体をコードするDNAまたはRNAは、従来の手順を用いて、容易に単離及びシークエンシングされる。ハイブリドーマ細胞は、上記のようなDNAとRNAの供給源としての役割を果たすことができる。このDNAは、単離したら、発現ベクターに挿入してよく、その後、発現ベクターをトランスフェクションしなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない宿主細胞(HEK293細胞、CHO細胞または骨髄腫細胞など)に、この発現ベクターをトランスフェクションして、その宿主細胞において、組み換えモノクローナル抗体を合成させる。
【0155】
本発明による抗体のアミノ酸配列バリアント(または変異体)は、ヌクレオチドの適切な変化を抗体DNAに導入することによって、またはヌクレオチド合成によって調製する。しかしながら、このような改変は、例えば、上に記載されているように、非常に限られた範囲でのみ行うことができる。例えば、このような改変によって、上記の抗体特性(IgGアイソタイプ及び標的の結合など)は変化しないが、組み換えによる生成の収量、タンパク質の安定性が向上したり、または精製が促されたりし得る。
【0156】
本発明は、一実施形態では、キメラ抗原レセプター(CAR)をコードする単離または精製核酸配列であって、そのCARが、BCMAに対する抗原認識部分と、膜貫通部分と、T細胞活性化部分を含み、この抗原認識部分が、本発明による抗体(ここでは、二重特異性抗体ではない)であることを特徴とする配列を提供する。コードされる抗体は、定められているように、その抗原結合断片であることもできる。このような「BCMA CAR」の構造と生成は、例えば、WO2013154760、WO2015052538、WO2015090229及びWO2015092024で説明されている。
【0157】
一実施形態では、本発明は、
(i)B細胞成熟抗原(BCMA)認識部分と、
(ii)スペーサードメインと、
(ii)膜貫通ドメインと、
(iii)細胞内T細胞シグナル伝達ドメインと、
を含み、そのBCMA認識部分が、BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体であることを特徴とし、そのモノクローナル抗体が、配列番号17のCDR3H領域と、配列番号20のCDR3L領域と、
a)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、ならびに
f)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1H領域、CDR2H領域、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とするキメラ抗原レセプター(CAR)を含む。
【0158】
T細胞活性化部分は、いずれかの好適な分子に由来するか、またはその分子から得たいずれかの好適な部分であることができる。一実施形態では、例えば、T細胞活性化部分は、膜貫通ドメインを含む。この膜貫通ドメインは、当該技術分野において知られているいずれかの分子に由来するか、またはその分子から得たいずれかの膜貫通ドメインであることができる。例えば、膜貫通ドメインは、CD8a分子またはCD28分子から得るか、またはその分子に由来することができる。CD8は、T細胞レセプター(TCR)のコレセプターとしての役割を果たす膜貫通糖タンパク質であり、主に、細胞障害性T細胞の表面に発現する。CD8の最も一般的な形態は、CD8アルファ鎖とCD8ベータ鎖で構成される二量体として存在する。CD28は、T細胞上で発現し、T細胞の活性化に必要な共刺激シグナルをもたらす。CD28は、CD80(B7.1)とCD86(B7.2)のレセプターである。好ましい実施形態では、CD8アルファとCD28は、ヒトのものである。膜貫通ドメインに加えて、T細胞活性化部分はさらに、細胞内(すなわち細胞質)T細胞シグナル伝達ドメインを含む。細胞内T細胞シグナルドメインは、CD28分子、CD3ゼータ分子もしくはこれらの改変型、ヒトFcレセプターガンマ(FcRγ)鎖、CD27分子、OX40分子、4−IBB分子、または当該技術分野において知られているその他の細胞内シグナル伝達分子から得るか、またはその分子に由来することができる。上で論じたように、CD28は、T細胞の共刺激において重要なT細胞マーカーである。CD3ゼータは、TCRと会合してシグナルを生成するとともに、免疫レセプターチロシンベース活性化モチーフ(ITAM)を含む。4−1BB(CD137としても知られている)は、強力な共刺激シグナルをT細胞に伝達して、Tリンパ球の分化を促すとともに、Tリンパ球の長期的な生存を増進する。一実施形態では、CD28、CD3ゼータ、4−1BB、OX40及びCD27は、ヒトのものである。
【0159】
本発明は、一実施形態では、上で定めたようなキメラ抗原レセプター(CAR)をコードする単離または精製核酸配列を提供する。
【0160】
T細胞二重特異性(TCB)結合剤は、濃度/腫瘍細胞レセプター占有度依存型の細胞殺傷能が非常に高い(例えばインビトロ細胞殺傷アッセイでのEC
50が、ピコモル以下または低ピコモル範囲である。Dreier et al.Int J Cancer 2002)。T細胞二重特異性結合剤(TCB)は、従来の単特異性抗体よりもはるかに低い用量で投与する。例えば、ブリナツモマブ(CD19×CD3)は、急性リンパ性白血病の治療では、5〜15μg/m
2/日の静脈内持続投与量(すなわち、わずか0.35〜0.105mg/m
2/週)で、非ホジキンリンパ腫の治療では、60μg/m
2/日で投与し、これらの用量における血清中濃度は、0.5〜4ng/mlの範囲である(Klinger et al.,Blood 2012、Topp et al.,J Clin Oncol 2011、Goebeler et al.Ann Oncol 2011)。低用量のTCBは、患者において高い有効性を発揮し得るので、本発明による抗体では、皮下投与が可能であるとともに、皮下投与は、臨床現場において好ましい(好ましくは、0.1〜2.5、好ましくは25mg/m
2/週、好ましくは250mg/m2/週の用量範囲である)ことが想定されている。これらの低い濃度/用量/レセプター占有度でも、TCBは、かなりの有害イベントを引き起こし得る(Klinger et al.,Blood 2012)。したがって、腫瘍細胞の占有度/被覆度を制御するのが重要である。血清中のAPRILとBAFFのレベルが高いとともに、変化し得る患者(例えば多発性骨髄腫患者、Moreaux et al.2004;Blood 103(8):3148−3157)では、腫瘍細胞受容体に結合するTCBの数と、腫瘍細胞占有度はそれぞれ、APRIL/BAFFからかなりの影響を受け得る。しかし、本発明の前記抗体、腫瘍細胞占有度、有効性/安全性をそれぞれ用いることによって、本発明による抗体の用量を増やす必要がないこともある。前記抗体は、APRIL/BAFFのリガンドの競合による影響を受けないと見られるからである。本発明による抗体の別の利点は、Fc部分を含むことに基づくものであり、これにより、Fc部分を含まないTCBであって、患者の携行するポンプを用いて静脈内持続投与を必要とするTCB(例えばブリナツモマブ)と比べて、排泄半減期が約4〜12日まで長くなり、週に少なくとも1回または2回の投与が可能になる。
【0161】
本発明による抗体の生物学的特性(それぞれ抗BCMA/抗CD3であるTCB抗体)は、様々な研究において、83A10−TCBcvとの比較で調査されている。例えば、H929MM細胞株において、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体の21−TCBcv、22−TCBcv、42−TCBcvがT細胞リダイレクト型細胞障害性を誘導する力を83A10−TCBcvと比較して測定した(実施例8、表12、
図4)。本発明の抗体を調べたところ、解析から、H929細胞の濃度依存的な殺傷と、EC50値はそれぞれ、83A10−TCBcvについて割り出したEC50値よりも高いと分かったことが示され、本発明による、TCBとしての抗BCMA抗体の方が、TCBとしてのMab83A10よりも、H929MM細胞の殺傷を誘導する作用が弱いことが示唆された。驚くべきことに、RPMI−8226MM細胞株と、さらにはJJN−3細胞株(それぞれ、実施例10及び11、表13、ならびに14及び15、
図6及び7)でT細胞リダイレクト型細胞障害性を測定したところ、逆の結果が観察され、本発明による、TCBとしての抗体では、83A10−TCBcvよりも低いEC50、すなわち、83A10−TCBcvよりも高い能力が示された。本発明者を驚かせたことに、本発明による、TCBとしての抗体では、83A10 TCBcvと直接比較したところ、MM患者から新たに採取した骨髄穿刺液において、下記のようないくつかの利点が見られた(注:考え得る最良の比較を行えるように、いずれの骨髄穿刺液においても常に、すべてのT細胞二重特異性(TCB)抗体を同じ濃度で試験した)。
【0162】
− 骨髄腫細胞の殺傷力が高かった。すなわち、83A10−TCBcvの場合よりも低い濃度でも、同じ殺傷率(%)であったとともに、殺傷に関する濃度応答曲線が、左にシフトした(実施例13、表18、19及び20、
図8、9及び10)。本発明によるTCBとしての抗体では、7つの異なる患者骨髄穿刺液において1nMの濃度でも、プロピジウムアイオダイド陰性生存多発性骨髄腫がん細胞の対照に対する減少率は、77.1〜100%であった。1nMの83A10−TCBcvでは、同じ7つの骨髄穿刺液において、37.1〜98.3%の減少率しか得られなかった(表20及び21)。
【0163】
− 本発明による、TCBとしての抗体では、7つの骨髄穿刺液による同じ実験において、試験した最高濃度(10nM)で、83A10−TCBcvよりも高い最高殺傷率が得られた(表20及び21)。
【0164】
− 22−TCBcv/42−TCBcvを用いると、83A10−TCBcvに応答しない患者が、応答者に変わり得る。83A10−TCBcvに対する殺傷応答が観察されなかった2つの骨髄患者試料において、驚くべきことに、本発明による、TCBとしての抗体によって、殺傷を確認できた(
図9A及び9B)。
【0165】
本発明のBCMA×CD3 TCBは、ヒト及びカニクイザル(cyno)BCMAと、マウス及びラットのBCMAに結合し、CD3結合部が、カニクイザルCD3にも結合する場合には、カニクイザルにおける毒物学的調査に適し、または、CD3結合部が、マウス/ラットBCMAに結合する場合には、マウス/ラットにおける毒物学的調査に適する。驚くべきことに、cynoBCMAに対する結合親和性は、ヒトBCMAに対する結合親和性に非常に近い。SPRを用いて、ヒト及びcynoBCMAに対する結合親和性を測定した(実施例2、表4)。cynoBCMAに対する親和性をヒトBCMAに対する親和性で除することによって、測定した親和性データから、cyno/ヒトギャップ(cynoBCMAとヒトBCMAの親和性比、KD)を算出した(実施例3、表5)。83A10では、cyno/ヒトギャップは15.3であることが分かった(すなわち、cynoに対する結合親和性は、ヒトBCMAに対する結合親和性よりも15.3倍低い)。本発明者を驚かせたことに、本発明による抗体のcyno/ヒトギャップは、15.4〜1.7であり、これは83A10の場合と同程度であり、または大半において、それよりも良好なcyno/ヒトギャップである(表5)。本発明によるBCMA×CD3 TCBで用いるCD3結合部は、カニクイザルCD3に対する交差反応性を有するので、薬物動態と薬力の調査結果をカニクイザルから得ることができる(実施例16を参照されたい)。また、カニクイザルにおける毒物学的調査によって、ヒトにおける薬理学的作用と毒物学的作用が予測され、カニクイザル機構に対する交差反応性は、患者にとって有益である。本発明のBCMA抗体は、マウスBCMAにも結合する(例えば、SPRによって測定した場合のクローン22及び42のKdは、0.9nM及び2.5nMである)実施例1.1.1A.4の表2Dを参照されたい)。このBCMA×CD3 TCBのCD3結合部は、マウスCD3に対する交差反応性を有さない。
【0166】
要約すると、RPMI−8226及びJJN−3のようなBCMA低発現MM細胞株の殺傷、特に、患者骨髄穿刺液中のMM細胞の殺傷と、加えて、BCMAに対する結合親和性における、非常に有利なcyno/ヒトギャップに関する効能と有効性の利点により、本発明の抗体と各TCBは本質的に、MM患者の治療用として有望な薬剤となる。加えて、本発明の抗BCMA×CD3 TCBcvは、83A10−TCBcvとして、長い排泄半減期、週に1回の投与(静脈内、皮下)での有効性、凝集傾向が低いかまたは存在しない点のような有利な特性を有するとともに、高い純度と良好な収量で製造できる。
【0167】
【表1A-1】
【表1A-2】
【表1A-3】
【表1A-4】
【表1A-5】
【表1A-6】
【表1A-7】
【表1A-8】
【0171】
下記の(2+1)Fc含有抗BCMA/抗CD3 TCBを作製するために、以下では、上記の表2Bに示されているそれぞれのコンストラクト/配列番号を使用した。
83A10−TCBcv:45、46、47(×2)、48(
図2A)
21−TCBcv:48、49、50、51(×2)(
図2A)
22−TCBcv:48、52、53、54(×2)(
図2A)
42−TCBcv:48、55、56、57(×2)(
図2A)
【0172】
以下に、本発明の具体的実施形態を列挙する。
【0173】
1.BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体であって、配列番号17のCDR3H領域と、配列番号20のCDR3L領域と、
a)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、ならびに
f)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1H領域、CDR2H領域、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする前記抗体。
【0174】
2.BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体であって、配列番号21のCDR1H領域と、配列番号22のCDR2H領域と、配列番号17のCDR3H領域とを含むVH領域と、配列番号20のCDR3L領域と、
a)配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域または
c)配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むVL領域とを含むことを特徴とする前記抗体。
【0175】
3.VL領域として、配列番号12、13及び14のVL領域からなる群から選択したVL領域を含むことを特徴とする、実施形態1または2に記載の抗体。
【0176】
4.VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号12のVL領域を含むことを特徴とする、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の抗体。
【0177】
5.VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号13のVL領域を含むことを特徴とする、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の抗体。
【0178】
6.VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号14のVL領域を含むことを特徴とする、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の抗体。
【0179】
7.VL領域の49位のアミノ酸が、アミノ酸のチロシン(Y)、グルタミン酸(E)、セリン(S)及びヒスチジン(H)の群から選択されていることを特徴とする、実施形態1または2に記載の抗体。
【0180】
8.VL領域の74位のアミノ酸が、トレオニン(T)またはアラニン(A)であることを特徴とする、実施形態7に記載の抗体。
【0181】
9.BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体であって、配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域と、配列番号31のCDR1L領域と、配列番号32のCDR2L領域と、配列番号20のCDR3L領域とを含むVL領域と、
a)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域、
b)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域、または
c)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする前記抗体。
【0182】
10.配列番号12のVL領域と、配列番号38、39及び40のVH領域を含む群から選択したVH領域とを含むことを特徴とする、実施形態9に記載の抗体。
【0183】
11.VL領域の49位のアミノ酸が、アミノ酸のチロシン(Y)、グルタミン酸(E)、セリン(S)及びヒスチジン(H)の群から選択されていることを特徴とする、実施形態9または10に記載の抗体。
【0184】
12.VL領域の74位のアミノ酸が、トレオニン(T)またはアラニン(A)であることを特徴とする、実施形態9または10に記載の抗体。
【0185】
13.カニクイザルBCMAにも特異的に結合するとともに、CD3εに特異的に結合する追加のFab断片を含むことを特徴とする、実施形態1〜12のいずれか1つに記載の抗体。
【0186】
14.Fcを有するかまたはFc部分を有さない抗体であることを特徴とする、実施形態1〜13のいずれか1つに記載の抗体。
【0187】
15.BCMAとCD3εに特異的に結合する二重特異性抗体であって、配列番号17のCDR3H領域と、配列番号20のCDR3L領域と、
a)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、ならびに
f)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1H領域、CDR2H領域、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせを含むことを特徴とする前記二重特異性抗体。
【0188】
16.ヒトBCMA(さらには「BCMA」ともいう)とヒトCD3ε(さらには「CD3」ともいう)という細胞外ドメインである2つの標的に特異的に結合する二重特異性抗体であって、配列番号21のCDR1H領域、配列番号22のCDR2H領域及び配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域と、配列番号20のCDR3L領域、ならびに
a)配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域または
c)配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせを含むVL領域とを含むことを特徴とする前記抗体。
【0189】
17.VH領域として、配列番号10のVH領域を含むことを特徴とする、実施形態15または16に記載の二重特異性抗体。
【0190】
18.BCMA VLが、配列番号12、13及び14のVL領域からなる群から選択されていることを特徴とする、実施形態15〜16のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0191】
19.BCMA VH領域として、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号12のVL領域を含むか、BCMA VHとして、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号13のVL領域を含むか、またはBCMA VHとして、配列番号10のVH領域を含み、VL領域として、配列番号14のVL領域を含むことを特徴とする、実施形態14〜18のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0192】
20.VL領域の49位のアミノ酸が、アミノ酸のチロシン(Y)、グルタミン酸(E)、セリン(S)及びヒスチジン(H)の群から選択されていることを特徴とする、実施形態15または19のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0193】
21.VL領域の74)位のアミノ酸が、トレオニン(T)またはアラニン(A)であることを特徴とする、実施形態15〜20のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0194】
22.BCMAとCD3に特異的に結合する二重特異性であって、配列番号17のCDR3H領域を含むVH領域と、配列番号31のCDR1L領域と、配列番号32のCDR2L領域と、配列番号20のCDR3L領域とを含むVL領域と、
a)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域、
b)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域、または
c)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域
の群から選択した、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする前記抗体。
【0195】
23.配列番号12のVL領域と、配列番号38、39及び40のVH領域を含む群から選択したVH領域とを含むことを特徴とする、実施形態22に記載の二重特異性抗体。
【0196】
24.VL領域の49位のアミノ酸が、アミノ酸のチロシン(Y)、グルタミン酸(E)、セリン(S)及びヒスチジン(H)の群から選択されていることを特徴とする、実施形態22または23に記載の二重特異性抗体。
【0197】
25.VL領域の74位のアミノ酸が、トレオニン(T)またはアラニン(A)であることを特徴とする、実施形態22〜24のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0198】
26.本発明による抗BCMA抗体と、抗CD3抗体とを含むことを特徴とし、
a)実施形態1〜7のいずれか1つに記載の抗体の軽鎖と重鎖と、
b)CD3に特異的に結合する抗体の軽鎖と重鎖であり、可変ドメインのVLとVH、または定常ドメインのCLとCH1が互いに入れ替わっている、実施形態15〜25のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0199】
27.抗CD3抗体部分のFab断片を1個以下と、抗BCMA抗体部分のFab断片を2個以下と、Fc部分を1個以下含むことを特徴とする、実施形態15〜26のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0200】
28.前記CD3抗体Fab断片のC末端と、前記BCMA抗体Fab断片の1つのC末端とに、そのN末端が連結しているFc部分を含むことを特徴とする、実施形態15〜27のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0201】
29.前記抗BCMA抗体(BCMA抗体部分)の第2のFab断片であって、前記二重特異性抗体の前記抗CD3抗体(CD3抗体部分)の前記Fab断片のN末端に、C末端が連結されている前記第2のFab断片を含むことを特徴とする、実施形態15〜28のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0202】
30.前記抗CD3抗体Fab断片のVLドメインが、前記第2の抗BCMA抗体Fab断片のCH1ドメインに連結されていることを特徴とする、実施形態29に記載の二重特異性抗体。
【0203】
31.抗CD3抗体部分の可変ドメインのVH(さらには「CD3 VH」という)が、重鎖CDR1として、配列番号1の重鎖CDRを含み、重鎖CDR2として、配列番号2の重鎖CDRを含み、重鎖CDR3として、配列番号3の重鎖CDRを含み、抗CD3抗体部分の可変ドメインVL(さらには「CD3 VL」という)が、軽鎖CDR1として、配列番号4の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR2として、配列番号5の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR3として、配列番号6の軽鎖CDRを含むことを特徴とする、実施形態15〜30のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0204】
32.抗CD3ε抗体部分の可変ドメインが、配列番号7及び8のものであることを特徴とする、実施形態15〜31のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0205】
33.ヒトBCMAとヒトCD3εの細胞外ドメインである2つの標的に特異的に結合する二重特異性抗体であって、
a)請求項1〜7のいずれか1項に記載の第1の抗体の第1の軽鎖と第1の重鎖と、
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖及び第2の重鎖であって、前記第2の抗体の第2の軽鎖の可変ドメインVLと第2の重鎖の可変ドメインVHが、互いに入れ替わっている第2の軽鎖及び第2の重鎖とを含むことを特徴とし、
c)a)の第1の軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによる番号付け)、a)の第1の重鎖の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸と、213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabatによる番号付け)(例えば、
図1A、2A、2C、3A、3Cを参照されたい)ことを特徴とする前記抗体。
【0206】
34.加えて、前記第1の抗体のFab断片(さらには「BCMA−Fab」ともいう)を含み、前記BCMA−Fabの定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによる番号付け)、前記BCMA−Fabの定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸と、213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabatによる番号付け)(例えば、
図2A、2Cを参照されたい)ことを特徴とする、請求項33に具体的に記載の二重特異性抗体。
【0207】
35.ヒトBCMAとヒトCD3εの細胞外ドメインである2つの標的に特異的に結合する二重特異性抗体であって、
a)請求項1〜7のいずれか1項に記載の第1の抗体の第1の軽鎖と第1の重鎖と、
b)CD3に特異的に結合する第2の抗体の第2の軽鎖及び第2の重鎖であって、第2の抗体の前記第2の軽鎖の可変ドメインVLと第2の重鎖の可変ドメインVHが、互いに入れ替わっている前記第2の軽鎖及び第2の重鎖とを含むことを特徴とし、
c)b)の前記第2の軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸が独立して、リシン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)で置換されており(Kabatによる番号付け)、b)の前記第2の重鎖の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸と、213位のアミノ酸が独立して、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)で置換されている(Kabatによる番号付け)前記抗体。
【0208】
36.ヒトBCMAとヒトCD3εの細胞外ドメインである2つの標的に特異的に結合する二重特異性抗体であって、
i)配列番号48、配列番号49、配列番号50及び配列番号51(2×)(抗体21のセット1TCB)と、
ii)配列番号48、配列番号52、配列番号53及び配列番号54(2×)(抗体22のセット2TCB)と、
iii)配列番号48、配列番号55、配列番号56及び配列番号57(2×)(抗体42のセット3TCB)と、
のポリペプチドからなる群から選択した、重鎖と軽鎖のセットを含むことを特徴とする前記抗体。
【0209】
37.請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体の調製方法であって、
a)宿主細胞を
b)請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体の軽鎖と重鎖をコードする核酸分子を含むベクターで形質転換するステップと、
c)前記抗体分子の合成を可能にする条件で、前記宿主細胞を培養するステップと、
d)前記抗体分子を前記培養物から回収するステップと、
を含む方法。
【0210】
38.請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体をコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞。
【0211】
39.請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
【0212】
40.請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体であって、医薬として用いる前記抗体を含む医薬組成物。
【0213】
41.請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体であって、形質細胞障害の治療で、医薬として用いる前記抗体を含む医薬組成物。
【0214】
42.請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体であって、多発性骨髄腫、形質細胞性白血病及びALアミロイドーシスの治療で、医薬として用いる前記抗体を含む医薬組成物。
【0215】
43.請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体であって、全身性ループスエリテマトーデスの治療で、医薬として用いる前記抗体を含む医薬組成物。
【0216】
44.請求項1〜36のいずれか1項に記載の抗体であって、単特異性抗体、ADCC促進型ネイキッド抗体、抗体−薬物コンジュゲート体または二重特異性抗体を含み、抗体関連型拒絶反応の治療で、医薬として用いる前記抗体を含む医薬組成物。
【0217】
45.BCMAに対する抗原認識部分と、T細胞活性化部分とを含むキメラ抗原レセプター(CAR)であって、前記抗原認識部分が、実施形態1〜14のいずれか1つに記載のモノクローナル抗体または抗体断片であることを特徴とする前記CAR。
【0218】
46.(i)B細胞成熟抗原(BCMA)認識部分と、
(ii)スペーサードメインと、
(ii)膜貫通ドメインと、
(iii)細胞内T細胞シグナル伝達ドメインと、
を含むことを特徴とする、実施形態45によるキメラ抗原レセプター(CAR)。
【0219】
47.前記抗原認識部分が、BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体または抗体断片であることを特徴とし、配列番号17のCDR3H領域と、配列番号20のCDR3L領域と、
a)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号23のCDR1L領域及び配列番号24のCDR2L領域、
b)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号25のCDR1L領域及び配列番号26のCDR2L領域、
c)配列番号21のCDR1H領域及び配列番号22のCDR2H領域と、配列番号27のCDR1L領域及び配列番号28のCDR2L領域、
d)配列番号29のCDR1H領域及び配列番号30のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、
e)配列番号34のCDR1H領域及び配列番号35のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域、ならびに
f)配列番号36のCDR1H領域及び配列番号37のCDR2H領域と、配列番号31のCDR1L領域及び配列番号32のCDR2L領域
の群から選択した、CDR1H領域、CDR2H領域、CDR1L領域及びCDR2L領域の組み合わせとを含むことを特徴とする、実施形態45または46に記載のキメラ抗原レセプター(CAR)。
【0220】
48.実施形態45〜47のいずれか1つに記載のキメラ抗原レセプター(CAR)をコードする単離または精製核酸配列。
【0221】
49.BCMAに特異的に結合するモノクローナル抗体であって、実施形態15〜36のいずれか1つに記載の二重特異性抗体として、多発性骨髄腫(MM)骨髄穿刺液中のヒト悪性形質細胞を、10nM〜1fMの濃度で48時間処理後、少なくとも80%までになる形で除去する前記モノクローナル抗体、すなわち抗BCMA抗体の生成方法であって、
a)配列番号9の可変重鎖(VH)ファージディスプレイライブラリーを1〜50nMのカニクイザルBCMAで1〜3ラウンドパニングし、配列番号11の可変軽鎖と組み合わせて、実施形態15〜36のいずれか1つに記載の二重特異性抗体にしたときに、上記のようなヒト悪性形質細胞を上記のような形で除去する可変重鎖を選択することと、
c)配列番号11の可変軽鎖(VL)ファージディスプレイライブラリーを1〜50nMのカニクイザルBCMAで1〜3ラウンドパニングし、b)配列番号9の可変重鎖と組み合わせて、実施形態15〜36のいずれか1つに記載の二重特異性抗体にしたときに、上記のようなヒト悪性形質細胞を上記のような形で除去する可変軽鎖を選択することと、
選択した前記可変重鎖と、選択した前記可変軽鎖を組み合わせて、実施形態4〜16のいずれか1つに記載の二重特異性抗体であって、上記のようなヒト悪性形質細胞を上記のような形で除去する前記抗体にすることと、
を特徴とする前記方法。
【0222】
50.請求項1〜36及び45〜47のいずれか1項に記載の抗体であって、多発性骨髄腫または全身性ループスエリテマトーデスまたは形質細胞性白血病またはALアミロイドーシスの治療で、医薬として用いる前記抗体を含む医薬組成物。
【0223】
一実施形態では、本発明による抗体の結合は、ELISAアッセイにおいて、405nmにおけるODとして測定した場合、100ng/mlのAPRILによって、APRILの非存在下における前記抗体のヒトBCMAへの結合と比べて20%超低下せず、APRIL依存的なNF−κBの活性化をAPRILと比べて20%超変化させず、前記抗体の非存在下と比べて、APRILの非存在下におけるNF−κBの活性化を20%超変化させない。
【0224】
一実施形態では、ELISAアッセイで、405nmにおけるODとして測定した場合に、6.25nMの濃度における抗体の結合は、140ng/mlのマウスAPRILによって、APRILの非存在下における前記抗体のヒトBCMAへの結合と比べて10%超低下せず、好ましくは1%超低下しない。ELISAアッセイで、405nmにおけるODとして測定した場合に、50nMの濃度における前記抗体の結合は、140ng/mlのマウスAPRILによって、APRILの非存在下における前記抗体のヒトBCMAへの結合と比べて10%超低下しない。
【0225】
一実施形態では、ELISAアッセイで、405nmにおけるODとして測定した場合に、前記抗体の結合は、100ng/mlのAPRILによって、かつ100ng/mlのBAFFによって、APRILまたはBAFFの非存在下における前記抗体のヒトBCMAへの結合と比べて20%超低下せず、この抗体は、APRIL単独の場合と比べて、APRIL依存的なNF−κBの活性化を20%超変化させず、BAFF単独の場合と比べて、BAFF依存的なNF−κBの活性化を20%超変化させず、前記抗体の存在しない状態と比べて、BAFFとAPRILの非存在下におけるNF−κBの活性化を20%超変化させない。
【0226】
一実施形態では、前記ELISAで測定した場合、前記抗体のヒトBCMAへの結合は、100ng/mlのAPRILによって、15%超低下せず、前記ELISAで測定した場合、1000ng/mlのAPRILによって20%超低下せず、前記ELISAで測定した場合、1000ng/mlのAPRILによって15%超低下しない。
【0227】
一実施形態では、前記抗体のヒトBCMAへの結合は、前記ELISAで測定した場合、100ng/mlのAPRILによって低下せず、100ng/mlのBAFFによって、15%超低下せず、前記ELISAで測定した場合、1000ng/mlのAPRILによって低下せず、1000ng/mlのBAFFによって、20%超低下せず、前記ELISAで測定した場合、1000ng/mlのAPRILによって低下せず、1000ng/mlのBAFFによって15%超低下しない。
【0228】
一実施形態では、本発明による抗体は、APRIL依存型のNF−kBの活性化を15%超変化させず、BAFF依存型のNF−kBの活性化を15%変化させず、APRILとBAFFの非存在下におけるNF−κBの活性化を15%超変化させない。
【0229】
一実施形態では、2.5μg/mlの濃度でのAPRILまたはBAFFのそれぞれの存在または非存在下で、5nM、好ましくは50nM及び140nMの濃度における本抗体のNCI−H929細胞(ATCC(登録商標)CRL−9068(商標))への結合として測定した場合、本抗体のBCMAへの結合は、APRILまたはBAFFのそれぞれの非存在下における前記抗体のNCI−H929細胞への結合と比べて、APRILによって低下せず、BAFFによって25%超、20%超及び10%超低下しない。
【0230】
一実施形態では、下記の実施例、配列表及び図は、本発明、添付の請求項で定められている真の範囲の理解を助ける目的で示されている。本発明の趣旨から逸脱せずに、定められている手順を修正できることが分かる。
【0231】
材料及び一般的な方法
組み換えDNA技法
Sambrook,J.et al.,Molecular cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1989で説明されているように、標準的な方法を用いて、DNAを操作した。分子生物学的な試薬は、メーカーの指示に従って用いた。ヒト免疫グロブリンの軽鎖と重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的な情報は、Kabat,E.A.et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,5
th ed.,NIH Publication No.91−3242に示されている。抗体鎖のアミノ酸は、Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,(1991)に従って、番号付けと言及を行った。
【0232】
遺伝子の合成
a)化学合成によって作製したオリゴヌクレオチドから、所望の遺伝子セグメントを調製した。PCR増幅を含め、オリゴヌクレオチドをアニーリング及びライゲーションすることによって、特有の制限エンドヌクレアーゼ切断サイトに挟まれた長さ600〜1800bpの遺伝子セグメントをアセンブリーしてから、示されている制限部位、例えばKpnl/SadまたはAscl/PaCLを介して、pPCRScript(Stratagene)ベースのpGA4クローニングベクターにクローニングした。サブクローニングした遺伝子断片のDNA配列をDNAシークエンシングによって確認した。遺伝子合成断片は、所定の仕様によって、Geneart(ドイツ、レーゲンスブルク)に依頼した。
【0233】
b)必要に応じて、所望の遺伝子セグメントは、適切なテンプレートを用いたPCRによって生成するか、または自動遺伝子合成によって、合成オリゴヌクレオチドとPCR産物から、Geneart AG(ドイツ、レーゲンスブルク)に合成してもらうかのいずれかであった。特有の制限エンドヌクレアーゼ切断サイトに挟まれた遺伝子セグメントを標準的な発現ベクターまたはさらなる解析用のシークエンシングベクターにクローニングした。市販のプラスミド精製キットを用いて、形質転換細菌から、プラスミドDNAを精製した。プラスミド濃度は、UV分光法によって割り出した。サブクローニングした遺伝子断片のDNA配列をDNAシークエンシングによって確認した。遺伝子セグメントを好適な制限部位とともに設計して、それぞれの発現ベクターにサブクローニングを可能にした。必要に応じて、真核細胞での分泌のためにタンパク質をターゲティングするリーダーペプチドをコードする5’末端DNA配列によって、タンパク質コード遺伝子を設計した。
【0234】
DNA配列の決定
DNA配列は、両鎖シークエンシングによって決定した。
【0235】
DNAとタンパク質の配列解析と配列データ管理
配列のマッピング、解析、アノテーション及び例示には、Clone Manager(Scientific & Educational Software)ソフトウェアパッケージバージョン9.2を用いた。
【0236】
発現ベクター
a)下に説明されているように、記載されている抗体鎖を含む融合遺伝子をPCR及び/または遺伝子合成によって生成し、既知の組み換え方法及び組み換え技法を用いて、該当する核酸セグメントを連結することによって、例えば、それぞれのベクターにおける独特の制限部位を用いてアセンブルした。サブクローニングした核酸配列をDNAシークエンシングによって検証した。一過性トランスフェクションのために、形質転換E.coli培養物から調製したプラスミドによって、大量のプラスミドを調製する(Nucleobond AX、Macherey−Nagel)。
【0237】
b)抗BCMA抗体発現ベクターの作製のために、哺乳動物細胞株での発現用に最適化されたそれぞれの汎用レシピエント発現ベクターに事前に挿入したヒトIgG1定常重鎖またはhumIgG1定常軽鎖のいずれかとインフレームで、重鎖及び軽鎖のDNA配列の可変領域をサブクローニングした。抗体発現は、CMVエンハンサーとMPSVプロモーターを含むキメラMPSVプロモーターに続いて、5’UTR、イントロン及びIgカッパMARエレメントによって駆動する。CDSの3’末端で、合成polyAシグナル配列によって、転写を終結させる。すべてのベクターは、真核細胞での分泌のためにタンパク質をターゲティングするリーダーペプチドをコードする5’末端DNA配列を有する。加えて、各ベクターは、EBV EBNA発現細胞でのエピソーマルプラスミドの複製のためのEBV OriP配列を含む。
【0238】
c)BCMA×CD3二重特異性抗体ベクターの作製用として、IgG1由来の二重特異性分子は少なくとも、CD3とBCMAという2つの別個の抗原決定基に特異的に結合できる2つの抗原結合部分からなる。この抗原結合部分は、可変領域と定常領域をそれぞれ含む重鎖と軽鎖で構成されたFab断片である。Fab断片の少なくとも1つは、VHとVLが置き換えられた「クロスfab」断片であった。Fab断片内のVHとVLを置き換えることにより、異なる特異性のFab断片が、同じドメイン配列を有さないようにする。この二重特異性分子デザインは、CD3に関しては一価であり、BCMAに関しては二価であり、一方のFab断片は、内側のクロスFabのN末端に融合した(2+1)。この二重特異性分子は、その分子の半減期を長くするために、Fc部分を含んでいた。このコンストラクトの概略図が
図2に示されており、このコンストラクトの好ましい配列は、配列番号39〜52に示されている。これらの分子は、ポリマーベースの溶液を用いて、哺乳動物発現ベクターを、懸濁液で増殖したHEK293 EBNA細胞にコトランスフェクションすることによって作製する。2+1クロスFab−IgG コンストラクトの調製のために、細胞に、対応する発現ベクターを1:2:1:1の比(「ベクターFc(knob)」:「ベクター軽鎖」:「ベクター軽鎖クロスFab」:「ベクター重鎖クロスFab」)でトランスフェクションした。
【0239】
細胞培養技法
Current Protocols in Cell Biology(2000),Bonifacino,J.S.,Dasso,M.,Harford,J.B.,Lippincott−Schwartz,J.and Yamada,K.M.(eds.),John Wiley & Sons,Incで説明されているような標準的な細胞培養技法を使用する。
【0240】
HEK293細胞(HEK293−EBNA系)での一過性発現
それぞれの哺乳動物発現ベクターをHEK293−EBNA細胞に一過性にコトランスフェクションし、ポリマーベースの溶液を用いて、その細胞を懸濁液で培養することによって二重特異性抗体を発現させた。6mMのL−グルタミンを添加したEx−Cell培地に、トランスフェクションの前日に、HEK293−EBNA細胞を1mL当たり150万個の生存細胞で播種した。最終産物の体積1mLごとに、200万個の生存細胞を遠心分離した(5分、210×g)。その上清を吸引除去し、その細胞を100μLのCD CHO培地に再懸濁した。100μLのCD CHO培地において1μgのDNA(重鎖:改変重鎖:軽鎖:改変軽鎖の比=1:1:2:1)を混合することによって、最終産物の体積1mLごとのDNAを調製した。ポリマーベースの溶液(1mg/mL)を0.27μL加えた後、その混合物を15秒ボルテックスし、室温で10分静置した。10分後、再懸濁した細胞とDNA/ポリマーベースの溶液の混合物を合わせてから、適切な容器に移し、その容器を振とう装置(37℃、5%CO
2)に入れた。3時間のインキュベート時間の後、6mMのL−グルタミンと、1.25mMのバルプロ酸と、12.5%のPepsoy(50g/L)とを添加したEx−Cell培地800μLを、最終産物の体積1mLごとに加えた。24時間後、フィード液70μLを最終産物の体積1mLごとに加えた。7日後、または細胞の生存率が70%以下になったら、細胞を上清から遠心分離及び滅菌ろ過によって分離した。親和性工程と1回または2回のポリッシング工程(陽イオン交換クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーであった)によって、抗体を精製した。必要なときには、追加のポリッシング工程を用いた。組み換え抗BCMAヒト抗体と二重特異性抗体は、ポリマーベースの溶液を用いて、HEK293−EBNA細胞に哺乳動物発現ベクターをコトランスフェクションすることによって、懸濁液中で作製した。この細胞には、形態に応じて、2つまたは4つのベクターをトランスフェクションした。ヒトIgG1の場合には、一方のプラスミドが重鎖をコードし、もう一方のプラスミドが軽鎖をコードした。二重特異性抗体の場合には、4つのプラスミドをコトランスフェクションした。これらのうちの2つは、2つの異なる重鎖をコードし、残りの2つは、2つの異なる軽鎖をコードした。6mMのL−グルタミンを添加したF17培地に、トランスフェクションの前日に、HEK293−EBNA細胞を1mL当たり150万個の生存細胞で播種した。
【0241】
タンパク質の定量
抗体の0.1%溶液の吸光度の理論値を用いて、280nmにおける吸光度を測定することによって、抗体濃度の定量を行った。この値は、アミノ酸配列をベースとし、GPMAWというソフトウェア(Lighthouse data)によって計算した。
【0242】
SDS−PAGE
NuPAGE(登録商標)Pre−Castというゲル系(Invitrogen)をメーカーの指示に従って使用する。具体的には、10%または4〜12%のNuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)Bis−TRIS Pre−Castゲル(pH6.4)と、NuPAGE(登録商標)MES(還元ゲル、NuPAGE(登録商標)Antioxidantランニングバッファー添加剤を含む)またはMOPS(非還元ゲル)ランニングバッファーを使用する。
【0243】
タンパク質の精製
プロテインAアフィニティクロマトグラフィーによる精製
親和性工程では、6CVの20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム(pH7.5)で平衡化したプロテインAカラム(HiTrap Protein A FF、5mL、GE Healthcare)に上清を充填した。同じバッファーによる洗浄工程後、20mMのリン酸ナトリウム、100mMの塩化ナトリウム、100mMのグリシン(pH3.0)による溶出工程によって、抗体をカラムから溶出させた。所望の抗体を含む画分を0.5Mのリン酸ナトリウム(pH8.0)によってすぐに中和し(1:10)、プールし、遠心分離によって濃縮した。この濃縮物を滅菌ろ過し、陽イオン交換クロマトグラフィー及び/またはサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに処理した。
【0244】
陽イオン交換クロマトグラフィーによる精製
陽イオン交換クロマトグラフィー工程では、濃縮したタンパク質を、親和性工程で用いた溶出バッファーによって1:10で希釈し、陽イオン交換カラム(Poros 50HS、Applied Biosystems)に充填した。平衡化バッファー(20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス(pH5.0))と洗浄バッファー(20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、100mMの塩化ナトリウム(pH5.0))での2回の洗浄工程の後、20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、100mMの塩化ナトリウム(pH8.5)を用いたグラジエントでタンパク質を溶出させた。所望の抗体を含む画分をプールし、遠心分離によって濃縮し、滅菌ろ過し、サイズ排除工程でさらに処理した。
【0245】
解析サイズ排除クロマトグラフィーによる精製
サイズ排除工程では、濃縮したタンパク質をXK16/60 HiLoad Superdex200カラム(GE Healthcare)と、処方バッファーとしてのTween20を含むかまたは含まない20mMのヒスチジン、140mMの塩化ナトリウム(pH6.0)に注入した。単量体を含む画分をプールし、遠心分離によって濃縮し、滅菌バイアルに滅菌ろ過した。
【0246】
純度と単量体含有率の測定
最終的なタンパク質調製物の純度は、CE−SDS(Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper Life Sciences))によって、単量体含有率は、HPLC(TSKgel G3000 SW XLという解析用サイズ排除カラム(Tosoh))によって、25mMのリン酸カリウム、125mMの塩化ナトリウム、200mMのL−アルギニン一塩酸塩、0.02%(w/v)アジ化ナトリウムのpH6.7のバッファーにおいて割り出した。
【0247】
LC−MS解析による分子量の確認
糖鎖除去
分子の均一な調製を確認するために、最終的なタンパク質溶液をLC−MS解析によって解析した。糖鎖によって付与される不均一性を取り除くために、コンストラクトをPNGaseF(ProZyme)で処理した。したがって、2Mのトリス2μlを濃度0.5mg/mlのタンパク質20μgに加えることによって、タンパク質溶液のpHをpH7.0に調整した。PNGaseFを0.8μg加えて、12時間、37℃でインキュベートした。
【0248】
LC−MS解析−オンライン検出
TOF6441という質量分析計(Agilent)に接続したAgilent HPLC1200で、LC−MS法を行った。Macherey Nagel Polystereneカラム、PR1000−8(粒径8μm、4.6×250mm、カタログ番号719510)で、クロマトグラフィーによる分離を行った。溶離液Aは、水中の5%のアセトニトリルと0.05%(v/v)のギ酸、溶離液Bは、95%のアセトニトリルと、5%の水と、0.05%のギ酸であった。流速は1ml/分であり、分離は、40℃で、上記のような処理によって得たタンパク質試料6μg(15μl)によって行った。
【表2】
【0249】
最初の4分間は、溶出液を廃棄物入れに流して、質量分析計を塩の混入から保護した。ESI源は、乾燥ガス流量12l/分、温度350℃、ネブライザー圧60psiで稼働させた。MSスペクトルは、正イオンモードの使用で、フラグメンター電圧380V、質量範囲700〜3200m/zを用いて得た。MSデータは、計器のソフトウェアによって、4〜17分で得た。
【0250】
ヒトPBMCの血液からの単離
末梢血単核球(PBMC)は、地元の血液バンクまたは健常なヒトドナーの新鮮な血液から得た濃縮リンパ球調製物(バフィーコート)から、Histopaqueによる密度遠心分離によって調製した。簡潔に述べると、血液を滅菌PBSで希釈し、Histopaqueグラジエント(Sigma、H8889)上に慎重に重層した。30分、450×gにて室温で遠心分離後(ブレーキはオフにした)、界面相を含め、PBMC上の血漿部分を破棄した。PBMCを新たな50mlのファルコンチューブに移し、そのチューブにPBSを充填して、総体積を50mlにした。この混合物を室温で10分、400×gで遠心分離した(ブレーキはオンにした)。上清を破棄し、PBMCペレットを滅菌PBSで2回洗浄した(4℃、10分間、350×gでの遠心分離工程)。得られたPBMC集団を自動(ViCell)で計数し、アッセイを開始するまで、インキュベーターにおいて、10%のFCSと1%のL−アラニル−L−グルタミン(Biochrom、K0302)とを含むRPMI1640培地中で、37℃において、5% CO
2で保存した。
【0251】
一次カニクイザルPBMCのヘパリン処理血液からの単離
下記のように、健常なカニクイザルドナーの新鮮な血液から、密度遠心分離によって、末梢血単核球(PBMC)を調製した。ヘパリン処理血液を滅菌PBSによって1:3で希釈し、Lymphoprep培地(Axon Lab#1114545)を滅菌PBSで90%まで希釈した。2倍量の希釈血液を1倍量の希釈密度グラジエント上で重層し、PBMC画分を遠心分離によって30分、520×gで、ブレーキなしで、室温で分離した。PBMCバンドを新たな50mlのファルコンチューブに移し、滅菌PBSで遠心分離によって10分、400×gにおいて4℃で洗浄した。低速遠心分離を1回行って、血小板を除去し(15分、150×g、4℃)、得られたPBMC集団を自動で計数し(ViCell)、すぐにさらなるアッセイで使用した。
【実施例】
【0252】
実施例1:抗BCMA抗体の作製
実施例1.1:抗原とツール試薬の作製
実施例1.1.1:組み換え可溶性ヒトBCMA細胞外ドメイン
ファージディスプレイ選択の際に抗原として用いるヒト、カニクイザル及びマウスBCMAの細胞外ドメインをN末端単量体Fc融合体として、HEK EBNA細胞で一過性に発現させ、ビオチンリガーゼBirAの共発現を介して、レセプター鎖(Fcノブ鎖)を有するFc部分のC末端にあるaviタグ認識配列において、インビボで部位特異的にビオチン化した。ヒトの細胞外ドメインは、4位のメチオニンから53位のアスパラギンまで、カニクイザルBCMAの細胞外ドメインは、4位のメチオニンから52位のアスパラギンまでを含んでいた。これらをN末端でヒトIgG1のヒンジに融合して、knobs−into−holes技法によって、未融合のヒトIgG1 Fc部分(ホール鎖)とヘテロ二量化するのを可能にした。
【0253】
実施例1.1.1A:成熟による抗BCMA抗体の作製
1.1.1A.1 ライブラリーと選択
83A10抗体に基づき、2つのライブラリーを構築した。これらのライブラリーを軽鎖(83A10L1/L2)のCDR1及びCDR2または重鎖(83A10H1/H2)のCDR1及びCDR2のいずれかにおいてランダム化する。これらの各ライブラリーは、増幅とアセンブルという続く2つの工程によって構築した。最終的なアセンブル産物は、クローン83A10のプラスミド調製に基づき、同様に処理したアクセプターベクターとともに、83A10L1/L2ライブラリーではNcoI/BsiWI、83A10H1/H2ライブラリーではMunI及びNheIで消化した。それぞれのライブラリーのために、消化済みランダム化(部分的)Vドメインと、消化済みアクセプターベクター(複数可)を、a.m.83A10 L1/L2ライブラリー(3/10)、83A10 H1/H2ライブラリー(3/10)という量(vドメインの量(μg)/ベクターの量(μg))でライゲーションし、83A10 L1/L2ライブラリーと83A10 H1/H2ライブラリーの精製済みライゲーション体をプールして、2つの各ライブラリーにおいて、E.coli TG1細胞の15個の形質転換体に用いて、83A10 L1/L2ライブラリーでは、2.44×10
10個、a.m.83A10 H1/H2ライブラリーでは、1.4×10
10個という最終的なライブラリーサイズを得た。これらのFabライブラリーを提示するファージミド粒子をレスキューし、精製した。
【0254】
1.1.1A.2 クローンの選択
選択は、Fcとaviタグの上流にクローニングしたヒトまたはcyno B細胞成熟抗原(BCMA)の細胞外ドメインに対して行った。選択前に、Fc除去物質をニュートラアビジンプレートに、500nMの濃度でコーティングした。選択は、下記のパターンに従って行った。
【0255】
1)固定化したFc除去物質に、ライブラリー83A10 L1/L2ライブラリーまたは83A10 H1/H2ライブラリーの約10
12個のファージミド粒子を1時間結合させる。2)(ライブラリー及び選択ラウンドに応じて、)ライブラリー83A10 L1/L2ライブラリーまたは83A10 H1/H2ライブラリーの未結合のファージミド粒子を50nM、25nM、10nMまたは2nMのヒトまたはcynoBCMAに20分移す。3)磁気ストレプトアビジンビーズを10分加える。4)10×1mlのPBS/Tween(登録商標)20と10×1mlのPBSを用いて、磁気ストレプトアビジンビーズを洗浄する。5)100mMのTEA(トリエチルアミン)1mlを10分加えることによって、ファージ粒子を溶出し、1Mのトリス(登録商標)/HCl(pH7.4)を500ul加えることによって中和する。6)対数増殖期のE.coli TG1細胞を再感染させ、ヘルパーファージVCSM13に感染させてから、次の選択ラウンドでの使用のために、ファージミド粒子のPEG/NaCl沈殿を行う。
【0256】
選択は、3ラウンドにわたって行い、条件は、2つのライブラリーのそれぞれにおいて5つのストリームラインで、個別に調節した。詳細には、選択パラメーターは以下のとおりである。
【0257】
ストリームライン1(ラウンド1では、50nMのhuBCMA、ラウンド2では、25nMのcynoBCMA、ラウンド3では10nMのhuBCMA)、
ストリームライン2(ラウンド1では、50nMのhuBCMA、ラウンド2では、10nMのhuBCMA、ラウンド3では、2nMのhuBCMA)、
ストリームライン3(ラウンド1では、50nMのhuBCMA、ラウンド2では、25nMのhuBCMA、ラウンド3では、10nMのcynoBCMA)、
ストリームライン4(ラウンド1では、50nMのhuBCMA、ラウンド2では、25nMのcynoBCMA、ラウンド3では、10nMのcynoBCMA)、
ストリームライン5(ラウンド1では、50nMのcynoBCMA、ラウンド2では、25nMのcynoBCMA、ラウンド3では、10nMのcynoBCMA)。
【0258】
Mab21 BCMA抗体、Mab22 BCMA抗体、Mab33 BCMA抗体及びMab42 BCMA抗体の重鎖は、cynoBCMAのみを用いたストリームライン5に由来していた。
【0259】
1.1.1A.3 スクリーニング方法
個々のクローンを1mlの培養物として、96ウェルの形態において細菌で発現させ、上清に対してELISAによるスクリーニングを行った。特異的結合剤は、ヒトBCMA及びcynoBCMAにおいては、5×バックグラウンドよりもシグナルが高く、Fc除去物質においては、3×バックグラウンドよりもシグナルが低いものとして定めた。ニュートラアビジン96ウェルストリッププレートを10nMのhuBCMA、10nMのcyBCMAまたは50nMのFc除去物質でコーティングしてから、Fab含有細菌上清を加え、二次抗体の抗Flag/HRPを用いることによって、Flagタグを介して、特異的に結合したFabを検出した。ELISA陽性クローンを1mlの培養物として、96ウェルの形態において、細菌で発現させ、上清に対して、動態スクリーニング実験のProteOnを行った。500個の陽性クローンが同定され、その大半の親和性は同程度であった。
【0260】
1.1.1A.4 可溶性FabとIgGによる表面プラズモン共鳴スクリーニング
70個のクローンをさらにSPRによって試験した。すべての実験は、25℃で、ランニングバッファーとしてのPBST(10mMのPBS(pH7.4)及び0.005%(v/v)のTween(登録商標)20)を用いて行った。GLC及びGLMセンサーチップを備えたProteOn XPR36バイオセンサーと、カップリング試薬(10mMの酢酸ナトリウム(pH4.5)、スルホ−N−ヒロドキシスクシンイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミンプロピル)−カルボジイミドヒドロクロライド[EDC]及びエタノールアミン)は、Biorad Inc.(カリフォルニア州ハーキュリーズ)から購入した。固定化は、30μl/分で、GLMチップ上に行った。下記の標準的なアミンカップリング手順を用いて、pAb(ヤギ)抗hu IgG F(ab)2特異的Ab(Jackson)を垂直方向にカップリングした。6個のすべてのリガンドチャネルを5分間、EDC(200mM)とスルホ−NHS(50mM)の混合物で活性化した。表面が活性化したらすぐに、pAb(ヤギ)抗hu IgG F(ab)2特異的抗体(50μg/ml、10mMの酢酸ナトリウム、pH5)を6個のすべてのチャネルにわたって5分間注入した。そして、1Mのエタノールアミン−HCl(pH8.5)を5分注射することによって、チャネルをブロックした。最終的な固定化レベルは、すべてのチャネルにおいて同程度で、11000〜11500RUの範囲であった。5つの別個の水平チャネル全体に沿って(30μl/分で)5分間同時に注入することによって、Fabバリアントをe.coli上清から捕捉して、上清中のFabの濃度に応じて、200〜900RUの範囲のレベルを得て、馴化培地を6個目のチャネルに沿って注入して、二重参照目的で『インライン』ブランクを用意した。ヒトBCMA、cynoBCMA及びマウスBCMAの希釈系列を3分間、垂直チャネルに沿って注入することによって(50nM/分、10nM/分、2nM/分、0.4nM/分、0.08nM/分、0nM/分、50μl/分)、1ショットの動態測定を行った。解離を5分間モニタリングした。ProteOn Manager v.2.1で動態データを解析した。反応スポットデータの処理には、インラインバッファーブランクを用いて、インタースポットリファレンスとダブルリファレンスステップを適用することを含めた(Myszka,1999)。マストランスポートなしに、1ショットの注入を繰り返して得た処理データを単純1:1ラングミュア結合モデルに当てはめた(O’Shannessy et al.,1993)。
【0261】
6ウェル形態における、HEK産生物の上清由来のIgGの測定のために、5つの別個の水平チャネル全体に沿って(30μl/分で)5分間同時に注入することによって、IgGバリアントをHEK293上清から捕捉して、200〜400RUの範囲のレベルを得て、馴化培地を6個目のチャネルに沿って注入して、二重参照目的で『インライン』ブランクを用意した。ヒトBCMA、cynoBCMA及びマウスBCMAの希釈系列を3分間、垂直チャネルに沿って注入することによって(25nM/分、5nM/分、1nM/分、0.2nM/分、0.04nM/分、0nM/分、50μl/分)、1ショットの動態測定を行った。解離を5分間モニタリングした。動態データを上記のようにして解析した。OSK測定値が表2Dにまとめられており、i/mは、測定値不確定である。huBCMAに対する親和性は、約50pm〜5nMであることが分かった。cynoBCMAに対する親和性は、約2nM〜20nMであることが分かった(いくつかのクローンは、この範囲から外れていた。
図17を参照されたい)。
【0262】
1.1.1A5.HC及びLCクローンのさらなる選択
本発明者は、経験から、huBCMA、cynoBCMA、マウスBCMAへの結合特性と比率(異なるアッセイで測定したもの)に基づき、これらの70個のクローンから、さらなる27個のクローンを選択した。これらのクローンから、4個のVHクローンと、9個のVLクローンを選択し、それにより、VH/VLの組み合わせは34個得られた。HEK−huBCMA細胞での結合親和性を測定した(
図18及び表2E)。HEK細胞上のhuBCMAへの抗体Mab21、Mab22、Mab27、Mab39及びMab42の結合性は、Mab83A10のhuBCMA−HEK細胞への結合性よりも有意には高くないことが分かった。しかしながら、huBCMA、cynoBCMAへの親和性、二重特異性抗体としてのBCMA陽性多発性骨髄腫細胞株H929、L363及びRPMI−8226への結合(フローサイトメトリーによるもの)、骨髄腫細胞H929、L363及びRPMI−8226と、患者骨髄穿刺液から得た生存骨髄腫形質細胞の殺傷効能、ならびにカニクイザルにおける薬物動態(PK))及び薬力(BCMA陽性細胞の殺傷)データのような全体的な特性により、Mab21、Mab22、Mab27、Mab33、Mab39及びMab42を選択した。
【表2C】
【表2D】
【表2E】
【0263】
実施例1.2:ツールとしてのBCMA発現細胞
実施例1.2.1:BCMAを表面上に発現するヒト骨髄腫細胞株と、細胞表面上のBCMAレセプター数の定量化
【0264】
BCMAの発現を5つのヒト骨髄腫細胞株(NCI−H929、RPMI−8226、U266B1、L−363及びJJN−3)でフローサイトメトリーによって評価した。NCI−H929細胞((H929)ATCC(登録商標)CRL−9068(商標))は、10〜20%の熱不活化FCSとともに、80〜90%のRPMI 1640において培養し、2mMのL−グルタミンと、1mMのピルビン酸ナトリウムと、50μMのメルカプトエタノールを含むことができた。RPMI−8226細胞((RRMI)ATCC(登録商標)CCL−155(商標))は、90%のRPMI 1640と10%の熱不活化FCSを含む培地で培養した。U266B1((U266)ATCC(登録商標)TIB−196(登録商標))細胞は、2mMのL−グルタミンと、10mMのHEPESと、1mMのピルビン酸ナトリウムと、4500mg/Lのグルコースと、1500mg/Lの炭酸水素ナトリウムと、15%の熱不活化FCSとを含むように改変したRPMI−1640培地で培養した。L−363細胞株(Leibniz Institute DSMZ−German collection of microorganisms and cell cultures、DSMZ番号ACC49)は、85%のRPMI1640と15%の熱不活化FCSで培養した。JJN−3細胞株(DSMZ番号ACC541)は、40%のダルベッコMEM+40%のイスコブMDM+20%の熱不活化FBSで培養した。簡潔に述べると、細胞を回収し、洗浄し、生存数について計数し、96ウェル丸底プレートの1ウェル当たりに50,000個の細胞で再懸濁し、10μg/mlの抗ヒトBCMA抗体(Abcam、#ab54834、マウスIgG1)とともに、30分、4℃で(インターナリゼーションを防ぐため)インキュベートした。マウスIgG1をアイソタイプ対照として用いた(BD Biosciences、#554121)。続いて、細胞を遠心分離し(350×gで5分)、2回洗浄し、FITCコンジュゲート抗マウス二次抗体とともに、30分、4℃でインキュベートした。インキュベート時間の終わりに、細胞を遠心分離し(350×gで5分)、FACSバッファーで2回洗浄し、100ulのFACSバッファーに再懸濁し、FACS Divaというソフトウェアを実行しているCantoIIという装置で解析した。骨髄腫細胞株H929、RPMI−8226及びU266B1の表面膜上でのBCMAレセプターの相対的定量数をQIFIKIT解析(Dako、#K0078、メーカーの指示に従った)によって評価した。H929細胞は、最も高い密度でヒトBCMAを発現し、他の骨髄腫細胞株よりも最大で5〜6倍高かった。BCMAの発現が中程度/低い骨髄腫細胞であるU266及びL363と、BCMAの発現が低い骨髄腫細胞であるRPMI−8226と、BCMAの発現が非常に低い骨髄腫細胞であるJJN−3と比べて、H929は、BCMAの発現が高い骨髄腫細胞株と考えられる。表3には、各実験(n=5)当たりにおける、ヒト多発性骨髄腫細胞株の細胞表面上の相対的なBCMAレセプター数がまとめられている。
【表3】
【0265】
実施例2:BCMA結合アッセイ:表面プラズモン共鳴
抗BCMA抗体の組み換えBCMAへの結合の表面プラズモン共鳴(SPR)による評価は、以下のとおりである。すべてのSPR実験は、Biacore T200において、25℃で、HBS−EP(0.01MのHEPES(pH7.4)、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%のSurfactant P20、フライブルク/ドイツのBiacore)をランニングバッファーとして用いて行った。抗BCMA抗体と組み換えBCMA Fc(kih)(ヒト及びカニクイザル)との相互作用の結合活性を割り出した。説明に従って、ビオチン化組み換えヒト及びカニクイザルBCMA Fc(kih)をSAチップ上に直接カップリングした(フライブルク/ドイツのBiacore)。固定化レベルは、200〜700RUの範囲であった。抗BCMA抗体を2倍の濃度範囲(1.95〜500nM)で、30μL/分の流量で、フローセルに120秒にわたって流した。解離を180秒間モニタリングした。バルク屈折率差は、参照フローセルで得られた応答を減じることによって補正した。この実施例では、標準的なアミンカップリングキットで説明されているように、事前に活性化及び不活性化した空の表面上に抗BCMA抗体を流した。Biacore T200 Evaluation Software(vAA、ウプサラ/スウェーデンのBiacore AB)を用いて、見かけ動態定数を導き、相互作用の二価性にかかわらず、比較目的で、速度式を1:1ラングミュア結合で数値積分によって当てはめを行った。抗BCMA抗体と組み換えヒトBCMA Fc(kih)との相互作用の親和性も割り出した。標準的なアミンカップリングキット(フライブルク/ドイツのBiacore)を用いて、抗ヒトFab抗体(GE Healthcare)をCM5チップにpH5.0で直接カップリングした。固定化レベルは、約6500RUであった。抗BCMA抗体を90秒、25nMで捕捉させた。組み換えヒトBCMA Fc(kih)を4倍の濃度範囲(1.95〜500nM)で、30μL/分の流量で、フローセルに120秒にわたって流した。解離を120秒間モニタリングした。バルク屈折率差は、参照フローセルで得られた応答を減じることによって補正した。その際、抗ヒトFab抗体が固定化されている表面(ただし、抗BCMA抗体ではなく、HBS−EPを注入した表面)の上に、組み換えBCMAを流した。Biacore T100 Evaluation Software(vAA、ウプサラ/スウェーデンのBiacore AB)を用いて、動態定数を導き、速度式を1:1ラングミュア結合で数値積分によって当てはめを行った(表4)。
【表4】
【0266】
実施例3:ヒト/カニクイザル(hu/cyno)親和性ギャップ
実施例2に記載されている親和性の値に基づき、抗BCMA抗体のヒトBCMAに対する親和性とカニクイザルBCMAに対する親和性を比較し、cyno/hu親和性比(ギャップ)の値を算出した(表5)。親和性cyno/huギャップは、抗体のカニクイザルBCMAへの親和性をヒトBCMAへの親和性で除した値として計算したものであり、BCMA抗体が、カニクイザルBCMAのx倍の結合親和性でヒトBCMAに結合することを意味し、x=cyno/huギャップ値である。結果は表5に示されている。
【表5】
【0267】
実施例4:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の作製
WO2014/122144(参照により援用する)に従って、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体を作製した。
【0268】
実施例4.1:抗CD3抗体
「CD3εまたはCD3」という用語は、本明細書で使用する場合、UniProt P07766(CD3E_HUMAN)で説明されているヒトCD3εに関するものである。「CD3に対する抗体、抗CD3抗体」という用語は、CD3εに結合する抗体に関するものである。好ましくは、この抗体は、重鎖CDR1として、配列番号1の重鎖CDRを含み、重鎖CDR2として、配列番号2の重鎖CDRを含み、重鎖CDR3として配列番号3の重鎖CDRを含む可変ドメインVHと、軽鎖CDR1として、配列番号4の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR2として、配列番号5の軽鎖CDRを含み、軽鎖CDR3として、配列番号6の軽鎖CDRを含む可変ドメインVLとを含む。好ましくは、この抗体は、配列番号7(VH)と配列番号8(VL)の可変ドメインを含む。上記のような抗CD3抗体を用いて、下記の実施例で用いたT細胞二重特異性抗体を作製した。
【0269】
実施例4.2:Fcを含む2+1形態の抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の作製
対応する抗BCMA IgG1抗体の完全な重鎖と軽鎖をコードするcDNAと、抗CD3 VH及びVL cDNAを出発物質として使用した。それぞれの二重特異性抗体において、対応する抗BCMA抗体の重鎖及び軽鎖と、上記の抗CD3抗体の重鎖及び軽鎖を含む4本のタンパク質鎖が関与した。重鎖のミスペアリング、例えば、抗CD3抗体の2本の重鎖のミスペアリングによる副生物の形成を最小限に抑えるために、WO2009080251とWO2009080252に説明されているように、「knob−into−hole変異」と、操作されたジスルフィド結合とを有する変異ヘテロ二量体Fc領域を用いる。軽鎖のミスペアリング、例えば、抗BCMA抗体の2本の軽鎖のミスペアリングによる副生物の形成を最小限に抑えるために、WO2009080251とWO2009080252で説明されている手法を用いて、抗CD3抗体の重鎖及び軽鎖に、CH1×定常カッパの交叉を適用する。
【0270】
a)2+1形態を有する抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体、すなわち、BCMAに対して二価であり、CD3に対して一価である二重特異性(Fab)
2×(Fab)抗体は、効能、有効性の予見及び安全性に関する利点を有することとなる。腫瘍標的のBCMAに優先的に結合するとともに、CD3抗体不足が回避されるので、薬剤暴露が腫瘍に集中する可能性が高くなるからである。
【0271】
事前に選択したヒトBCMA抗体用に、2+1形態の抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性(すなわち、BCMAに対して二価であり、CD3に対して一価であり、Fcを有する二重特異性(Fab)
2×(Fab)抗体を作製した。対応する抗BCMA IgG1抗体の完全Fab(重鎖VH及びCH1ドメイン+軽鎖VL及びCLドメイン)をコードするcDNAと、抗CD3 VH及びVL cDNAを出発物質として使用した。それぞれの二重特異性抗体において、対応する抗BCMA抗体の重鎖及び軽鎖と、上記の抗CD3抗体の重鎖及び軽鎖を、Fc領域とともに含む4本のタンパク質鎖が関与した。
【0272】
簡潔に述べると、各二重特異性抗体は、a)対応するBCMA抗体の完全軽鎖cDNAと、b)Splice Overlap Extension PCRのような標準的な分子生物学的方法によって作製した融合cDNAであって、(N末端からC末端の順で)分泌リーダー配列と、対応する上記抗BCMA抗体のFab(VHの後にCH1ドメインを含む)と、Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Serという配列を有するフレキシブルグリシン(Gly)−セリン(Ser)リンカーと、対応する上記抗BCMA抗体のFab(VHの後にCH1ドメインを含む)と、Gly−Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Gly−Gly−Serという配列を有するフレキシブルグリシン(Gly)−セリン(Ser)リンカーと、上記抗CD3抗体のVHと、ヒト軽鎖cDNAの定常カッパドメインとで構成される融合タンパク質をコードする融合cDNAと、c)Splice Overlap Extension PCのような標準的な分子生物学的方法によって作製した融合cDNAであって、(N末端からC末端の順で)分泌リーダー配列と、上記抗CD3抗体のVLと、ヒトIgG1 cDNAの定常CH1ドメインとで構成される融合タンパク質をコードする融合cDNAとをそれぞれコードする4つの哺乳動物発現ベクターを同時にコトランスフェクションすることによって作製した。ヒトまたはヒト化IgG1抗体の作製のために、上記の方法を用いて、哺乳動物細胞へのコトランスフェクションと、抗体の作製及び精製を行うのに際して、1つ修正があり、抗体の精製において、第1の捕捉工程は、プロテインAを用いるのではなく、代わりに、KappaSelect(GE Healthcare Life Sciences)のように、ヒトカッパ軽鎖定常領域に結合する樹脂を詰めたアフィニティクロマトグラフィーカラムを用いて行う。加えて、ジスルフィドを加えて、安定性と収量を高めるとともに、イオン架橋を形成する追加の残基を加えて、ヘテロ二量化の発生を高めることができる(EP1870459A1)。
【0273】
BCMA×CD3二重特異性抗体ベクターを作製するには、IgG1由来の二重特異性分子は、CD3とBCMAという2つの別個の抗原決定基に特異的に結合できる2つの抗原結合部位から少なくともなる。これらの抗原結合部位は、それぞれ可変領域と定常領域を含む重鎖と軽鎖で構成されるFab断片であった。Fab断片の少なくとも1つは、Fabの重鎖と軽鎖の定常ドメインが入れ替わっている「クロスFab」断片であった。Fab断片内の重鎖定常ドメインと軽鎖定常ドメインを入れ替えることにより、異なる特異性のFab断片が、同じドメイン配置を有さず、その結果、軽鎖を入れ替えないようにする。この二重特異性分子のデザインは、CD3に関しては一価であり、BCMAに関しては二価であり、1つのFab断片は、内側のクロスFabのN末端に融合されている(2+1)。半減期が長くなるように、この二重特異性分子には、Fc部分を含めた。このコンストラクトの概略図は、
図1〜3に示されており、好ましいコンストラクトの配列は、表2Aに示されている。これらの分子は、ポリマーベースの溶液を用いて、哺乳動物発現ベクターを、懸濁液で増殖したHEK293 EBNA細胞にコトランスフェクションすることによって作製する。2+1クロスFab−IgGコンストラクトの調製のために、細胞に、対応する発現ベクターを1:2:1:1の比(「ベクターFc(knob)」:「ベクター軽鎖」:「ベクター軽鎖クロスFab」:「ベクター重鎖クロスFab」)でトランスフェクションした。
【0274】
実施例4.3:比較用の抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の作製
抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体BCMA50−sc(Fv)
2(BCMA50−BiTE(登録商標)としても知られている)の作製と使用したアミノ酸配列は、WO2013072406とWO2013072415によるものであった。
【0275】
実施例5:電荷バリアントを有する抗BCMA/抗CD3 Fc含有(2+1)T細胞二重特異性抗体の作製と精製
WO2014/122144(参照により援用する)に従って、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体を作製及び精製した。
【0276】
この二重特異性抗体の作製のために、各哺乳動物発現ベクターをHEK293−EBNA細胞に一過性にコトランスフェクションし、ポリマーベースの溶液を用いて、その細胞を懸濁液で培養することによって、二重特異性抗体を発現させた。6mMのL−グルタミンを添加したEx−Cell培地に、トランスフェクションの前日に、HEK293−EBNA細胞を1mL当たり150万個の生存細胞で播種した。最終産物の体積1mLごとに、200万個の生存細胞を遠心分離した(5分、210×g)。その上清を吸引除去し、その細胞を100μLのCD CHO培地に再懸濁した。100μLのCD CHO培地において1μgのDNA(重鎖:改変重鎖:軽鎖:改変軽鎖の比=1:1:2:1)を混合することによって、最終産物の体積1mLごとのDNAを調製した。ポリマーベースの溶液(1mg/mL)を0.27μL加えた後、その混合物を15秒ボルテックスし、室温で10分静置した。10分後、再懸濁した細胞とDNA/ポリマーベースの溶液の混合物を合わせてから、適切な容器に移し、その容器を振とう装置(37℃、5%CO
2)に入れた。3時間のインキュベート時間の後、6mMのL−グルタミンと、1.25mMのバルプロ酸と、12.5%のPepsoy(50g/L)とを添加したEx−Cell培地800μLを、最終産物の体積1mLごとに加えた。24時間後、フィード液70μLを最終産物の体積1mLごとに加えた。7日後、または細胞の生存率が70%以下になったら、細胞を上清から遠心分離及び滅菌ろ過によって分離した。親和性工程と1回または2回のポリッシング工程(陽イオン交換クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーであった)によって、抗体を精製した。必要なときには、追加のポリッシング工程を用いた。
【0277】
親和性工程では、6CVの20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム(pH7.5)で平衡化したプロテインAカラム(HiTrap Protein A FF、5mL、GE Healthcare)に上清を充填した。同じバッファーによる洗浄工程後、20mMのリン酸ナトリウム、100mMの塩化ナトリウム、100mMのグリシン(pH3.0)による溶出工程によって、抗体をカラムから溶出させた。所望の抗体を含む画分を0.5Mのリン酸ナトリウム(pH8.0)によってすぐに中和し(1:10)、プールし、遠心分離によって濃縮した。この濃縮物を滅菌ろ過し、陽イオン交換クロマトグラフィー及び/またはサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに処理した。
【0278】
陽イオン交換クロマトグラフィー工程では、濃縮したタンパク質を、親和性工程で用いた溶出バッファーによって1:10で希釈し、陽イオン交換カラム(Poros 50HS、Applied Biosystems)に充填した。平衡化バッファー(20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス(pH5.0))と洗浄バッファー(20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、100mMの塩化ナトリウム(pH5.0))での2回の洗浄工程の後、20mMのリン酸ナトリウム、20mMのクエン酸ナトリウム、20mMのトリス、100mMの塩化ナトリウム(pH8.5)を用いたグラジエントでタンパク質を溶出させた。所望の抗体を含む画分をプールし、遠心分離によって濃縮し、滅菌ろ過し、サイズ排除工程でさらに処理した。
【0279】
サイズ排除工程では、濃縮したタンパク質をXK16/60 HiLoad Superdex200カラム(GE Healthcare)と、処方バッファーとしてのTween20を含むかまたは含まない20mMのヒスチジン、140mMの塩化ナトリウム(pH6.0)に注入した。単量体を含む画分をプールし、遠心分離によって濃縮し、滅菌バイアルに滅菌ろ過した。
【0280】
抗体の0.1%溶液の吸光度の理論値を用いて、280nmにおける吸光度を測定することによって、抗体濃度の定量を行った。この値は、アミノ酸配列をベースとし、GPMAWというソフトウェア(Lighthouse data)によって計算した。
【0281】
最終的なタンパク質調製物の純度は、CE−SDS(Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper Life Sciences))によって、単量体含有率は、HPLC(TSKgel G3000 SW XLという解析用サイズ排除カラム(Tosoh))によって、25mMのリン酸カリウム、125mMの塩化ナトリウム、200mMのL−アルギニン一塩酸塩、0.02%(w/v)アジ化ナトリウムのpH6.7のバッファーにおいて割り出した。
【0282】
最終的なタンパク質調製物の分子量を確認するとともに、この分子の均一な調製を確認するために、最終的なタンパク質溶液、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)を用いた。まず、糖鎖除去工程を行った。糖鎖によって付与される不均一性を取り除くために、コンストラクトをPNGaseF(ProZyme)で処理した。したがって、2Mのトリス2μlを濃度0.5mg/mlのタンパク質20μgに加えることによって、タンパク質溶液のpHをpH7.0に調整した。PNGaseFを0.8μg加えて、12時間、37℃でインキュベートした。続いて、LC−MSのオンライン検出を行った。LC−MS法は、TOF6441という質量分析計(Agilent)に接続したAgilent HPLC1200で行った。Macherey Nagel Polystereneカラム、PR1000−8(粒径8μm、4.6× 250mm、カタログ番号719510)で、クロマトグラフィーによる分離を行った。溶離液Aは、水中の5%のアセトニトリルと0.05%(v/v)のギ酸、溶離液Bは、95%のアセトニトリルと、5%の水と、0.05%のギ酸であった。流速は1ml/分であり、分離は、40℃で、上記のような処理によって得たタンパク質試料6μg(15μl)によって行った。
【0283】
最初の4分間は、溶出液を廃棄物入れに流して、質量分析計を塩の混入から保護した。ESI源は、乾燥ガス流量12l/分、温度350℃、ネブライザー圧60psiで稼働させた。MSスペクトルは、正イオンモードの使用で、フラグメンター電圧380V、質量範囲700〜3200m/zを用いて得た。MSデータは、計器のソフトウェアによって、4〜17分で得た。
【0284】
EP14179705(参照により援用する)の
図10には、83A10−TCB及び83A10−TCBcv抗体に関して、異なる精製方法の後の最終的なタンパク質調製物のCE−SDS(非還元)のグラフが示されている。プロテインA(PA)アフィニティクロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による精製工程を83A10−TCB抗体に対して行ったところ、純度は30%未満、単量体含有率は82.8%であった(A)。陽イオン交換クロマトグラフィー(cIEX)と、最終的なサイズ排除クトマトグラフィー(re−SEC)工程を含む追加の精製工程を最終的なタンパク質調製物に行ったところ(A)、純度は93.4%まで向上したが、単量体含有率は同じままであったとともに、収率は、0.42mg/Lまで大きく低下した。しかしながら、特定の電荷改変を83A10抗BCMA Fab CL−CH1に施したところ(すなわち83A10−TCBcv抗体)、追加のre−SEC精製工程を含むにもかかわらず、収率が7.9倍低く、単量体含有率が17.2%低い産生/精製プロファイルを有する(B)と比べて、95.3%の純度、100%の単量体含有率、及び最大で3.3mg/Lの収率によって判断されるように、PA+cIEX+SECによる精製工程を行っても、TCB分子の優れた産生/精製プロファイルをすでに観察できた(C)。
【0285】
続いて、83A10−TCBと83A10−TCBcv抗体の産生/精製プロファイルを比較するために、直接比較物の作製作業を行って、抗体に施したCL−CH1の電荷改変の利点をさらに評価した。83A10−TCBと83A10−TCBcvの分子はいずれも、
図2Aに示されているような分子形態のものである。
図11に示されているように、83A10−TCBと83A10−TCBcvの抗体の特性を並列で測定し、1)PAアフィニティクロマトグラフィーのみを行う(A、B)、2)PAアフィニティクロマトグラフィー後にSECを行う(C、D)、3)PAアフィニティクロマトグラフィーの後に、SECを行ってから、cIEXとre−SECを行う(E、F)各精製工程後に比較した。83A10−TCB及び83A10−TCBcv抗体に関する、各精製方法の後の最終的なタンパク質溶液のCE−SDS(非還元)のグラフは、EP14179705(参照により援用する)の
図11に示されている。EP14179705(参照により援用する)の
図11A及び11Bに示されているように、電荷バリアントをTCB抗体に適用することによる改善は、PAアフィニティクロマトグラフィーのみによる精製後に、すでに観察された。この直接比較試験では、PAアフィニティクロマトグラフィー精製工程を83A10−TCB抗体に行ったところ、純度は61.3%、収率は26.2mg/L、単量体含有率は63.7%であった(11A)。これに対して、83A10−TCBcv抗体をPAアフィニティクロマトグラフィーによって精製したところ、すべての特性は改善し、純度は81.0%に向上し、収率は51.5mg/Lに向上し、単量体含有率は68.2%となった(11B)。EP14179705(参照により援用する)の
図12A及び12Bで見られるように、さらにSEC精製工程を最終的なタンパク質調製物に行ったところ、83A10−TCBの純度は69.5%、収率は14.1mg/L、単量体含有率は74.7%となった(C)のに対して、83A10−TCBcvでは、純度が91.0%まで、単量体含有率が83.9%まで向上し、収率が10.3mg/Lとなった(D)。この特有の実験では、83A10−TCBcvの収率は、83A10−TCBよりも若干低かった(すなわち、27%低かった)が、適当な分子の割合は、83A10−TCBcvの方が83A10−TCBよりもかなり高く、LC−MSによって測定したところ、83A10−TCBcvは90%、83A10−TCBは40〜60%であった。第3の直接比較では、別の精製バッチ(産生は同じ)のそれぞれの最終的なタンパク質調製物であって、PAアフィニティクロマトグラフィー精製工程のみを行った後の調製物、約1L(等量)とともに、EP14179705(参照により援用する)の
図11C及び11Dで見られる、83A10−TCBと83A10−TCBcvの最終的なタンパク質調製物をプールした。続いて、プールしたタンパク質調製物をcIEX精製法及びSEC精製法によってさらに精製した。EP14179705(参照により援用する)の
図11E及び11Fに示されているように、電荷バリアントを有するTCB抗体では、電荷バリアントを有さないTCB抗体と比べて、産生/精製プロファイルの改善が一貫して観察された。いくつかの精製法工程(すなわち、PA+/−SEC+cIEX+SEC)を用いて、83A10−TCB抗体を精製した後は、43.1%の純度に達したに過ぎず、98.3%の単量体含有率を達成できたが、収率は損なわれ、0.43mg/Lまで低下した。LC−MSによって測定したところ、適当な分子の割合は低いままで、60〜70%であった。結局、最終的なタンパク質調製物の品質は、インビトロで用いるには許容不可能であった。まったく対照的なことに、複数回の同じ精製工程を同じ順序で83A10−TCBcv抗体に行ったところ、純度は96.2%、単量体含有率は98.9%に達したとともに、適当な分子は、LC−MSによって測定したところ、95%となった。しかしながら、収率は、cIEX精製工程の後、0.64mg/Lまで大きく低下した。これらの結果から、純度の向上、単量体含有率の向上、適当な分子の割合の向上、及び収率の向上は、83A10−TCBcv抗体で、2つの標準的な精製工程、すなわち、PAアフィニティクロマトグラフィーとSECの後のみに達成できるが(EP14179705の
図11D)、このような特性は、83A10−TCBでは、追加の精製工程を行っても実現できなかった(EP14179705の
図11E)ことが示されている。
【0286】
EP14179705(参照により援用する)の表12には、PA精製工程後の83A10−TCVcvと83A10−TCBの特性を比較した結果がまとめられている。EP14179705(参照により援用する)の表13には、PA精製工程及びSEC精製工程後の83A10−TCVcvと83A10−TCBの特性を比較した結果がまとめられている。EP14179705(参照により援用する)の表14には、PA、SEC+PAのみの後に、cIEX及びre−SECによる精製工程を行った後の83A10−TCVcvと83A10−TCBの特性を比較した結果がまとめられている。EP14179705(参照により援用する)の表12〜14では、太字の値は、83A10−TCBと83A10−TCVcvを比べた際に、特性が優れている方を示している。典型的でないとみられる例外(すなわち、収率、量のそれぞれ。EP14179705(参照により援用する)の表13を参照されたい)を除き、3つの直接比較実験から得られた産生/精製パラメーター及び値はすべて、83A10−TCBcvの方が83A10−TCBよりも優れていた。全体的な結果から、産生/精製特性における利点は、CL−CH1の電荷改変をTCB抗体に施すことによって得ることができることと、すでに高品質な状態となっているとともに、非常に良好な展開性特性を有するタンパク質調製物を得るのに必要なのは、2回の精製工程のみ(すなわち、PAアフィニティクロマトグラフィーとSEC)であることが明確に示されている。83A10−TCBcvの産生/精製特性の改善に基づき、83A10−TCBcvと同じ方法で、電荷バリアントを有する状態で、21−TCBcv、22−TCBcv、27−TCBcv、33−TCBcv、39−TCBcv及び42−TCBcvを作製した。
【表6】
【表7】
【表8-1】
【0287】
実施例6:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体のBCMA陽性多発性骨髄腫細胞株への結合(フローサイトメトリー)
抗BCMA/抗CD3 TCB抗体(21−TCBcv、22−TCBcv、42−TCBcv、83A10−TCBcv)の、BCMA発現細胞H929、L363及びRPMI−8226のヒトBCMAへの結合について、フローサイトメトリーによって解析した。MKN45(BCMAを発現しないヒト胃腺癌細胞株)をネガティブ対照として使用した。簡潔に述べると、培養した細胞を回収及び計数し、ViCellを用いて、細胞の生存率を評価した。続いて、生存細胞をBSA含有FACS Stain Buffer(BD Biosciences)において、1ml当たり2×10
6個の細胞に調整した。さらに、この細胞懸濁液100μlを丸底96ウェルプレートの各ウェルに分け、抗BCMA抗体または対応するIgG対照30μlとともに30分、4℃でインキュベートした。すべての抗BCMA/抗CD3 TCB抗体(及びTCB対照)を滴定し、1〜300nMの終濃度範囲で解析した。続いて、細胞を遠心分離し(5分、350×g)、120μl/ウェルのFACS Stain Buffer(BD Biosciences)で洗浄し、再懸濁し、さらに30分、4℃で、蛍光色素コンジュゲートPEコンジュゲートAffiniPure F(ab’)2 Fragment goat anti−human IgG Fc Fragment Specific(Jackson Immuno Reseach Lab、109−116−170)とともにインキュベートした。続いて、細胞をStain Buffer(BD Biosciences)で2回洗浄し、BD Fixationバッファー(#BD Biosciences、554655)を1ウェル当たり100ul用いて、4℃で20分間固定し、FACSバッファー120μlに再懸濁し、BD FACS CantoIIを用いて解析した。該当する場合には、Prism GraphPad(米国カリフォルニア州ラホヤ)を用いてEC50を算出し、表8には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体のH929細胞への結合に関して、表9には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体のL363細胞への結合に関して、表10には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体のRPMI−8226細胞への結合に関して、最大結合の50%に達するのに必要な抗体濃度を示すEC50値がまとめられている。アスタリスクは、Prismというソフトウェアによって推定及び算出された推定EC50値を示している。21−TCBcvのL363細胞への結合と、22−TCBcvのRPMI−8226細胞へのEC50値は、推定できなかった。
【表8-2】
【表9】
【表10】
【0288】
実施例7:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体がCD3陽性T細胞及びBCMA陽性多発性骨髄腫細胞株に結合した際の活性化T細胞からのサイトカインの産生(サイトカイン放出アッセイCBA解析)
ヒトBCMAを発現するヒト骨髄腫細胞(RPMI−8226、JJN−3)の存在または非存在下で、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体が、デノボのT細胞媒介性サイトカイン産生を誘導する能力について解析した。簡潔に述べると、ヒトPBMCをバフィーコートから単離し、1ウェル当たり30万個の細胞を丸底96ウェルプレートに播種した。あるいは、健常なドナーから得た全血280μlをディープウェル96ウェルプレートの各ウェルに播種した。BCMA陽性腫瘍標的細胞を加えて、最終的なE:T比を10:1とした。終濃度が0.1pM〜10nMになるように、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体と対照を加える。最長で24時間、37℃、5%CO
2でインキュベート後、アッセイプレートを5分間、350×gで遠心分離し、次の解析のために、上清を新たなディープウェル96ウェルプレートに移す。CBA解析をFACS CantoIIで、メーカーの指示に従って、Human Thl/Th2 Cytokine Kit II(BD#551809)、またはヒトグランザイムB(BD#560304)、ヒトIFN−γFlex Set(BD#558269)、ヒトTNF−αFlex Set(BD#558273)、ヒトIL−10 Flex Set(BD#558274)、ヒトIL− 6 Flex Set(BD#558276)、ヒトIL−4 Flex Set(BD#558272)、ヒトIL−2 Flex Set(BD#558270)というCBA Flex Setを組み合わせたもののいずれかを用いて行った。表13には、83A10−TCBcvが、サイトカインの産生と、セリンプロテアーゼのグランザイムB(細胞障害性T細胞機能のマーカー)の濃度依存的な増加を誘導したことが示されている。表11には、それぞれの抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体濃度において分泌されたサイトカイン/プロテアーゼのEC50値と量が示されている。
【表11】
【0289】
実施例8:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、BCMA高発現骨髄腫細胞H929へのリダイレクトT細胞による細胞障害性(比色LDH放出アッセイ)
抗BCMA/抗CD3 TCB抗体が、BCMA高発現MM細胞において、細胞上のBCMAへの抗原結合部分の結合を介してコンストラクトを架橋したときに、T細胞媒介性アポトーシスを誘導する可能性を解析した。簡潔に述べると、ヒトBCMA高発現H929多発性骨髄腫標的細胞をCell Dissociation Bufferで回収し、洗浄し、10%ウシ胎仔血清を添加したRPMI(Invitrogen)に再懸濁した。おおむね、1ウェル当たり30,000個の細胞を丸底96ウェルプレートに播種し、それぞれのコンストラクト希釈液を所望の終濃度で加え(トリプリケート)、終濃度は0.1pM〜10nMであった。適切な比較のために、すべてのTCBコンストラクト及び対照を同じモル濃度に調整した。ヒトPBMC(エフェクター細胞)をウェルに加えて、最終的なE:T比を10:1(1個の腫瘍標的細胞に約3〜5個のT細胞というE:T比に相当)とした。ネガティブ対照群は、エフェクター細胞または標的細胞のみによって表した。正規化のために、標的細胞を終濃度1%のTriton X−100とともにインキュベートして、細胞死を誘導することによって、H929MM標的細胞の最大溶解状態(=100%)を求めた。最小溶解状態(=0%)は、エフェクター細胞のみ、すなわち、いずれのT細胞二重特異性抗体も加えずにコインキュベートした標的細胞によって表した。続いて、37℃、5%CO
2でのインキュベートから20〜24時間または48時間後に、LDH検出キット(Roche Applied Science)をメーカーの指示に従って用いて、アポトーシス/壊死を起こしたMM標的細胞から上清に放出されたLDHを測定した。LDH放出率を抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の濃度に対して濃度応答曲線でプロットした。Prismというソフトウェア(GraphPad)を用いてEC50値を測定し、最大LDH放出率の50%をもたらすTCB抗体濃度として割り出した。
図4に示されているように、すべての抗BCMA/抗CD3 TCB抗体(21−TCBcv、22−TCBcv、42−TCBcv及び83A10−TCBcv)が、BCMA陽性H929骨髄腫細胞の濃度依存的な殺傷(LDHの放出によって測定)を誘導した。H929細胞の溶解は、特異的であった。BCMA陽性標的細胞には結合せず、T細胞上のCD3のみに結合する対照TCB抗体は、試験した濃度のうちの最高濃度においても、LDHの放出を誘導しなかったからである。表12には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体によって誘導された、BCMA高発現H929細胞のリダイレクトT細胞による殺傷のEC50値がまとめられている。
【表12】
【0290】
実施例9:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、BCMA中/低発現L363骨髄腫細胞へのリダイレクトT細胞による細胞障害性(LDH放出アッセイ)
抗BCMA/抗CD3 TCB抗体が、BCMA中/低発現MM細胞において、細胞上のBCMAへの抗原結合部分の結合を介してコンストラクトを架橋したときに、T細胞媒介性アポトーシスを誘導する能力も解析した。簡潔に述べると、ヒトBCMA中/低発現L363多発性骨髄腫標的細胞をCell Dissociation Bufferで回収し、洗浄し、10%ウシ胎仔血清を添加したRPMI(Invitrogen)に再懸濁した。およそ、1ウェル当たり30,000個の細胞を丸底96ウェルプレートに播種し、それぞれのコンストラクト希釈液を所望の終濃度で加え(トリプリケート)、終濃度は、0.1pM〜10nMである。適切な比較のために、すべてのTCBコンストラクト及び対照を同じモル濃度に調整する。ヒトPBMC(エフェクター細胞)をウェルに加えて、最終的なE:T比を10:1(1個の腫瘍標的細胞に約3〜5個のT細胞というE:T比に相当)とした。ネガティブ対照群は、エフェクター細胞または標的細胞のみによって表した。正規化のために、標的細胞を終濃度1%のTriton X−100とともにインキュベートして、細胞死を誘導することによって、MM標的細胞の最大溶解状態(=100%)を求めた。最小溶解状態(=0%)は、エフェクター細胞のみ、すなわち、いずれのT細胞二重特異性抗体も加えずにコインキュベートした標的細胞によって表した。続いて、37℃、5%CO
2でのインキュベートから20〜24時間後に、LDH検出キット(Roche Applied Science)をメーカーの指示に従って用いて、アポトーシス/壊死を起こしたMM標的細胞から上清に放出されたLDHを測定した。LDH放出率を抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の濃度に対して濃度応答曲線でプロットした。Prismというソフトウェア(GraphPad)を用いてEC50値を測定し、最大LDH放出率の50%をもたらすTCB抗体濃度として割り出した。
図5に示されているように、すべての抗BCMA/抗CD3 TCB抗体(21−TCBcv、22−TCBcv、42−TCBcv及び83A10−TCBcv)が、BCMA陽性L363骨髄腫細胞の濃度依存的な殺傷(LDHの放出によって測定)を誘導した。L363細胞の溶解は、特異的であった。BCMA陽性標的細胞には結合せず、T細胞上のCD3のみに結合する対照TCB抗体は、試験した濃度のうちの最高濃度においても、LDHの放出を誘導しなかったからである。表13には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体によって誘導された、BCMA中/低発現L363細胞のリダイレクトT細胞による殺傷のEC50値がまとめられている。
【表13-1】
【0291】
実施例10:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、BCMA中/低発現RPMI−8226骨髄腫細胞へのリダイレクトT細胞による細胞障害性(LDH放出量アッセイ)
抗BCMA/抗CD3 TCB抗体が、BCMA中/低発現MM細胞において、細胞上のBCMAへの抗原結合部分の結合を介してコンストラクトを架橋したときに、T細胞媒介性アポトーシスを誘導する能力を解析した。簡潔に述べると、ヒトBCMA中/低発現L363多発性骨髄腫標的細胞をCell Dissociation Bufferで回収し、洗浄し、10%ウシ胎仔血清を添加したRPMI(Invitrogen)に再懸濁した。およそ、1ウェル当たり30,000個の細胞を丸底96ウェルプレートに播種し、それぞれのコンストラクト希釈液を所望の終濃度で加え(トリプリケート)、終濃度は、0.1pM〜10nMである。適切な比較のために、すべてのTCBコンストラクト及び対照を同じモル濃度に調整する。ヒトPBMC(エフェクター細胞)をウェルに加えて、最終的なE:T比を10:1(1個の腫瘍標的細胞に約3〜5個のT細胞というE:T比に相当)とした。ネガティブ対照群は、エフェクター細胞または標的細胞のみによって表した。正規化のために、標的細胞を終濃度1%のTriton X−100とともにインキュベートして、細胞死を誘導することによって、MM標的細胞の最大溶解状態(=100%)を求めた。最小溶解状態(=0%)は、エフェクター細胞のみ、すなわち、いずれのT細胞二重特異性抗体も加えずにコインキュベートした標的細胞によって表した。続いて、37℃、5%CO
2でのインキュベートから20〜24時間後に、LDH検出キット(Roche Applied Science)をメーカーの指示に従って用いて、アポトーシス/壊死を起こしたMM標的細胞から上清に放出されたLDHを測定した。LDH放出率を抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の濃度に対して濃度応答曲線でプロットした。Prismというソフトウェア(GraphPad)を用いてEC50値を測定し、最大LDH放出率の50%をもたらすTCB抗体濃度として割り出した。
図6に示されているように、すべての抗BCMA/抗CD3 TCB抗体(21−TCBcv、22−TCBcv、42−TCBcv及び83A10−TCBcv)が、BCMA陽性RPMI−8226骨髄腫細胞の濃度依存的な殺傷(LDHの放出によって測定)を誘導した。RPMI−8226細胞の溶解は、特異的であった。BCMA陽性標的細胞には結合せず、T細胞上のCD3のみに結合する対照TCB抗体は、試験した濃度のうちの最高濃度においても、LDHの放出を誘導しなかったからである。表13には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体によって誘導された、BCMA中/低発現RPMI−8226細胞のリダイレクトT細胞による殺傷のEC50値がまとめられている。
【表13-2】
【0292】
実施例11:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、BCMA低発現JJN−3骨髄腫細胞へのリダイレクトT細胞による細胞障害性(フローサイトメトリー及びLDH放出)
抗BCMA/抗CD3 TCB抗体が、BCMA低発現MM細胞において、細胞上のBCMAへの抗原結合部分の結合を介してコンストラクトを架橋したときに、T細胞媒介性アポトーシスを誘導する能力を解析した。簡潔に述べると、ヒトBCMA低発現JJN−3多発性骨髄腫標的細胞をCell Dissociation Bufferで回収し、洗浄し、10%ウシ胎仔血清を添加したRPMI(Invitrogen)に再懸濁した。およそ、1ウェル当たり30,000個の細胞を丸底96ウェルプレートに播種し、それぞれのコンストラクト希釈液を所望の終濃度で加え(トリプリケート)、終濃度は、0.1pM〜10nMである。適切な比較のために、すべてのTCBコンストラクト及び対照を同じモル濃度に調整する。ヒトPBMC(エフェクター細胞)をウェルに加えて、最終的なE:T比を10:1(1個の腫瘍標的細胞に約3〜5個のT細胞というE:T比に相当)とした。ネガティブ対照群は、エフェクター細胞または標的細胞のみによって表した。正規化のために、標的細胞を終濃度1%のTriton X−100とともにインキュベートして、細胞死を誘導することによって、MM標的細胞の最大溶解状態(=100%)を求めた。最小溶解状態(=0%)は、エフェクター細胞のみ、すなわち、いずれのT細胞二重特異性抗体も加えずにコインキュベートした標的細胞によって表した。i)37℃、5%CO
2でのインキュベートから48時間後に、培養した骨髄腫細胞を回収し、洗浄し、アポトーシスを起こした骨髄腫細胞を割り出すために、蛍光色素コンジュゲート抗体とアネキシンVで染色した。染色パネルには、CD138−APCC750/CD38−FITC/CD5−BV510/CD56−PE/CD19−PerCP−Cy7/CD45−V450/アネキシンV−PerCP−Cy5.5が含まれていた。用いた蛍光色素標識抗体は、BD Biosciences(カリフォルニア州サンノゼ)とCaltag Laboratories(カリフォルニア州サンフランシスコ)から購入した。取得は、マルチカラーフローサイトメーターと、インストールされたソフトウェア(例えば、FACS Divaというソフトウェアを実行しているCantoIIという装置、またはCellQUESTというソフトウェアを使用するFACSCaliburというフローサイトメーター)を用いて行った。データ解析には、Paint−A−Gate Proというプログラム(BD Biosciences)を用いた。JJN−3細胞でアネキシンVを測定し、アネキシンV陽性JJN−3細胞の割合を抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の濃度に対してプロットした。所定のTCB濃度におけるアネキシンV陰性JJN−3細胞の絶対数を測定して、TCBを含めなかった場合のアネキシンV陰性JJN−3細胞の絶対数から減じて、TCBを含めなかった場合のアネキシンV陰性JJN−3細胞の絶対数で除することによって、特定濃度の抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、JJN−3細胞の溶解率も割り出した。
図7には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体(22−TCBcv、42−TCBcv及び83A10−TCBcv)が、BCMA低発現JJN−3骨髄腫細胞の濃度依存的な殺傷(フローサイトメトリーによって測定)を誘導したことが示されている。JJN−3細胞の溶解は、特異的であった。BCMA陽性標的細胞には結合せず、T細胞上のCD3のみに結合する対照TCB抗体は、試験した濃度のうちの最高濃度においても、アネキシンV陽性JJN−3細胞の増加またはJJN−3細胞の溶解を誘導しなかったからである。表14には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体によって誘導されたアネキシンV陽性JJN−3細胞の割合が、表15には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体によって誘導された、JJN−3細胞の溶解率がまとめられている。
【0293】
37℃、5%CO
2でのインキュベートから20〜24時間または48時間後に、LDHの検出も行った。続いて、LDH検出キット(Roche Applied Science)をメーカーの指示に従って用いて、アポトーシス/壊死を起こしたJJN−3MM標的細胞から上清に放出されたLDHを測定した。LDH放出率を抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の濃度に対して濃度応答曲線でプロットした。Prismというソフトウェア(GraphPad)を用いてEC50値を測定し、最大LDH放出率の50%をもたらすTCB抗体濃度として割り出した。
【表14】
【表15】
【0294】
実施例12:多発性骨髄腫患者由来の骨髄腫形質細胞でのBCMAの発現
対象とする腫瘍標的を発現するヒト細胞株は、非常に有用であり、T細胞の存在下で腫瘍細胞への細胞障害性を誘導するTCB抗体能を測定して、EC50値を割り出すため、かつTCB分子をランク付けするための実用的なツールである。しかしながら、容易に入手可能で実用的であるにもかかわらず、ヒト骨髄腫細胞株には、分子レベルのばらつきが非常に大きいことによって特徴付けられる非常に複雑な疾患である多発性骨髄腫の不均一性を示さないという注意点がある。加えて、骨髄腫細胞株の一部の細胞は、他の細胞よりもBCMAを強く発現する(例えば、H929細胞とRPMI−8226細胞を比べた場合)ので、骨髄腫細胞株は、同じ強度及び密度ではBCMAレセプターを発現せず、細胞レベルでのこのような不均一性は、異なる患者間でも観察され得る。多発性骨髄腫分野における重要なオピニオンリーダーとの学究的な協力を通じて、患者試料におけるBCMAの発現と密度の判定と、臨床患者試料による抗BCMA/抗CD3 TCB抗体の評価について検討している。地元の倫理委員会のガイドラインとヘルシンキ宣言に従って、インフォームドコンセントを行ってから、血液と骨髄穿刺液を多発性骨髄腫患者から採取する。
【0295】
a)マルチパラメーターフローサイトメトリー(平均蛍光強度)によって検出した、BCMAの発現
骨髄腫細胞でのBCMAレセプターの発現を割り出すために、新たに単離した全骨髄穿刺液を用いて、免疫表現型の解析を行った。免疫表現型の解析には、赤血球溶解K
3−EDTA(エチレンジアミン四酢酸)で抗凝固処理した全骨髄試料を用いた。直接免疫蛍光技法とマルチカラー染色(CD138
+ CD38
+ CD45
+ CD19
− CD56
+として同定された悪性形質細胞の特異的同定と、免疫表現型の特徴付けを目的としたもの)を用いて、1つのチューブ当たり合計2×10
6個の細胞を染色、溶解してから、洗浄した。続いて、少なくともCD38−FITC/CD56−PE/CD19−PerCP−Cy7/CD45−V450/BCMA−APCを含む蛍光色素コンジュゲート抗体のパネルを用いて、細胞を染色した。用いた蛍光色素標識抗体は、BD Biosciences(カリフォルニア州サンノゼ)とCaltag Laboratories(カリフォルニア州サンフランシスコ)から購入する。自家作製のAPCコンジュゲート抗ヒトBCMA抗体を免疫表現型の解析で使用した。取得は、マルチカラーフローサイトメーターと、インストールされたソフトウェア(例えば、FACS Divaというソフトウェアを実行しているCantoIIという装置、またはCellQUESTというソフトウェアを使用するFACSCaliburというフローサイトメーター)を用いて行った。データ解析には、Paint−A−Gate Proというプログラム(BD Biosciences)を用いた。悪性形質細胞集団にゲーティングを行って、BCMAの発現を測定し、平均蛍光強度(MFI)値を割り出し、骨髄腫患者間で比較した。
【表16】
【0296】
b)BCMAに特異的な抗原結合能の測定(定量フローサイトメトリー解析)
Qifikit(Dako)の方法を用いて、患者骨髄腫形質細胞の細胞表面での、BCMAに特異的な抗原結合能(SABC)を定量化した。FACSバッファー(PBS、0.1%BSA)で終濃度25μg/ml(または飽和濃度)まで希釈した50μlのマウス抗ヒトBCMA IgG(BioLegend#357502)またはマウスIgG2aアイソタイプ対照(BioLegend#401501)で、全骨髄穿刺液から単離した骨髄腫形質細胞を染色し、染色は、30分、4℃で遮光下において行った。次に、個々のウェルと細胞にセットアップビーズまたはキャリブレーションビーズ100μlを加え、それらのビーズをFACSバッファーで2回洗浄した。フルオレセインコンジュゲート抗マウス二次抗体を(飽和濃度で)含む25μlのFACSバッファー(Qifikitによって供給されているもの)に、細胞とビーズを再懸濁した。細胞とビーズは、45分、4℃で遮光下において染色した。細胞を1回洗浄し、すべての試料を100μlのFACSバッファーに再懸濁した。マルチカラーフローサイトメーターと、インストールされているソフトウェア(例えばFACS Divaというソフトウェアを実行しているCantoIIという装置、またはCellQUESTというソフトウェアを使用するFACSCaliburというフローサイトメーター)で、試料をすぐに解析した。
【表17】
【0297】
実施例13:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、自己骨髄浸潤T細胞の存在下における骨髄患者骨髄腫形質細胞へのリダイレクトT細胞による細胞障害性(マルチパラメーターフローサイトメトリー)
多発性骨髄腫に対する候補TCB抗体の前臨床評価の際、インビトロでの最も有意義かつ重大な特徴付けの1つは、そのTCB分子が、患者のT細胞を活性化して、患者の骨髄由来の一次骨髄腫形質細胞のリダイレクトT細胞による殺傷を誘導できたかである。抗BCMA/抗CD3 TCB抗体が、骨髄腫形質細胞のリダイレクトT細胞による殺傷を誘導する作用を評価するために、全骨髄穿刺液を多発性骨髄腫患者からEDTAコーティングチューブ内に採取し、すぐに細胞培養アッセイに用いた。フローサイトメトリーによって、エフェクター細胞と、全骨髄試料に存在する腫瘍細胞との比率(E:T比)を判定及び測定した。簡潔に述べると、200μlの骨髄試料を96ディープウェルプレートに移した。抗BCMA/抗CD3 TCB抗体と対照抗体の希釈液を滅菌培地において調製し、その調製物10μlを各ウェルに、0.1pM〜30nMの範囲の終濃度になるように加えた。骨髄−抗体懸濁液をゆっくり振とうすることによって混合してから、37℃、5%CO
2で48時間インキュベートし、パラフィンフィルムで密封する。インキュベーション期間の経過後、CD138−APCC750/CD38−FITC/CD5−BV510/CD56−PE/CD19−PerCP−Cy7/CD45−V450/BCMA−APC/アネキシンV−PerCP−Cy5.5を含む抗体パネルに基づき調製した対応するFACS抗体溶液20μlを96U底プレートに加えた。蛍光色素標識抗体をBD Biosciences(カリフォルニア州サンノゼ)及びCaltag Laboratories(カリフォルニア州サンフランシスコ)から購入したとともに、自家作製のAPCコンジュゲート抗ヒトBCMA抗体を使用した。続いて、試料を15分間、遮光下で室温においてインキュベートし、回収し、マルチカラーフローサイトメーターを用いて解析した。CD138
+ CD38
+ CD45
+ CD19
− CD56
+ 骨髄腫細胞集団にゲーティングを行ったアネキシンV陽性発現を評価することによって、骨髄腫細胞の細胞死を判定した。続いて、骨髄腫細胞死の割合を割り出した。所定のTCB濃度におけるアネキシンV陰性骨髄腫形質細胞の絶対数を測定し、TCBを含めなかった場合のアネキシンV陰性骨髄腫形質細胞の絶対数からその値を減じて、TCBを含めなかった場合のアネキシンV陰性骨髄腫形質細胞の絶対数で除することによって、特定濃度の抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、患者骨髄腫形質細胞の溶解率も割り出した。抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の特異性を確認するために、T細胞、B細胞及びNK細胞のような他のタイプの骨髄細胞におけるアネキシンVの発現も測定した。
図8に示されているように、患者骨髄腫形質細胞では、濃度依存的な特異的溶解が見られたが、T細胞、B細胞及びNK細胞の溶解は観察されなかった。加えて、CD3のみに結合し、BCMAには結合しない対照TCBは、最も高いTCB抗体濃度において、骨髄腫形質細胞の細胞死を誘導しなかった。表18に示されているように、最高濃度(30nM)におけるアネキシンV陽性患者骨髄骨髄腫細胞の割合は、42−TCBcvでは52.54%、22−TCBcvでは55.72%までに達したのに対して、83A10−TCBcvでは29.31%であったことから、患者骨髄腫形質細胞の殺傷を誘導するには、42−TCBcvと22−TCBcvの方が、83A10−TCBcvよりも強力であると結論付けられた。
【表18】
【0298】
5人の異なるMM患者から得た骨髄穿刺液における別の調査では、アネキシンV陰性細胞集団にゲーティングを行い、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の濃度に対してプロットすることによって、生存骨髄腫形質細胞の割合を割り出した。EC50値を測定し、最大生存骨髄腫形質細胞の50%をもたらすTCB抗体濃度として割り出した。それぞれの抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の存在下における生存骨髄腫形質細胞の最大値として、EMAX(%)を割り出した。5つの骨髄腫患者骨髄穿刺液試料の大半において、83A10−TCBcvは、22−TCBcv及び42−TCBcvよりも、骨髄腫形質細胞の溶解を誘導する能力がはるかに劣っていた(表26、
図9には、例として、5人の患者のうちの2人の濃度応答曲線が示されている)。22−TCBcvまたは42−TCBcvで処理した5つの患者試料のうちの5つで、生存骨髄腫細胞の濃度依存的な減少が観察されたのに対して、83A10−TCBcvでは、5つの患者試料のうち、1つのみであった。表19には、83A10−TCBcvと、22−TCBcv及び42−TCBcvとの比較、ならびに、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体が骨髄腫形質細胞の生存能に及ぼす作用が示されている。22−TCBcv及び42−TCBcvの方が、83A10−TCBcvよりも、それぞれの患者試料において、EMAX(%)値が低かったことにより示されているように、これらの結果から、22−TCBcv及び42−TCBcvの方が、5つの患者試料のうちの4つで、生存骨髄腫形質細胞が少なかった(すなわち、骨髄腫形質細胞の溶解が多く見られた)ことが明確に示されている。患者の骨髄腫形質細胞の濃度依存的な特異的溶解が観察されたが、非悪性骨髄細胞の溶解は観察されなかった(データは示されていない)。
【表19】
【0299】
本発明の新規な抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体を83A10−TCBcvと比較してさらに調べた際には、新たに採取した7つの患者全骨髄試料/穿刺液をCD138磁気マイクロビーズ(ドイツ、ベルギッシュグラートバッハのMiltenyi Biotec)で染色し、autoMACSという細胞分離カラムに通し、十分な残存数のMM形質細胞(通常4%超の骨髄腫形質細胞)を含む回収済み画分をさらなる実験で使用した。24ウェルプレートにおいて、1ウェル当たり500,000個の細胞をインキュベートし、48時間培養した。0.1.pM〜10nMの最終TCB濃度になるように、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体と対照抗体の希釈液をそれぞれのウェルに加えた。各投与時点は、トリプリケートで行った。フローサイトメトリー(FACSCalibur、Bectone Dickinson)を用いて、プロピジウムアイオダイド/CD138−FITCによる二重染色によって、形質細胞と骨髄微小環境の細胞の生存能を調べた。FACSDiva Software(Bectone Dickinson)を用いて、データ解析を行った。
図10に示されているように、バープロットには、それぞれの培地対照(MC)のトリプリケートにおける平均に対して正規化された平均値が示されている。統計的解析では、片側t検定を用いた。10nMの濃度における、MM形質細胞の成長の最大阻害率(IMAX10)と、1nMで測定した阻害率(IMAX1)はそれぞれ、培地対照に対する割合で求めた。培地対照との比較における、対照TCB抗体(10nM)の最大阻害率も示した。IMAX値の演算(Microsoft Excel(登録商標)、Microsoft Office Professional 2013)を除き、R3.1.19及びBioconductor2.1310を用いて演算処理を行った。その対応する統計的検定のP値が、5%未満(
*)、1%未満(
**)または0.1%未満(
***)であった場合に、作用を統計的に有意なものとみなした。
図10A〜10Gに示されているように、結果から、22−TCBcv及び42−TCBcvでは、7つの患者試料のうち7つにおいて、生存骨髄腫形質細胞が83A10−TCBcvよりも少なかった(すなわち、骨髄腫形質細胞の溶解数が多かった)ことが明確に示されている。表20には、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、患者骨髄穿刺液由来の生存骨髄腫形質細胞の培地対照に対する割合が示されている。表21には、IMAX10とIMAX1の値が示されている。これらの結果から、患者骨髄腫形質細胞の殺傷を誘導するには、22−TCBcvと42−TCBcvの方が、83A10−TCBcvよりも明らかに強力であることが示されている。骨髄形質細胞(BMPC)の特異的溶解が、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導されたとともに、すべての骨髄患者試料で観察されたにもかかわらず、骨髄微小環境(BMME)は、それぞれの試料において、影響を受けなかった(
図10H、7つの患者試料の代表的なもの)。
【表20-1】
【表20-2】
【表21】
【0300】
実施例14:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、患者骨髄T細胞のT細胞活性化(マルチパラメーターフローサイトメトリー)
抗BCMA/抗CD3 TCB抗体が、骨髄腫患者のCD4
+及びCD8
+T細胞(すなわち、骨髄浸潤T細胞(MIL))の活性化を誘導するかを評価するために、48時間のインキュベート後のそれぞれの処置群、未処置群及び対照群由来の試料も、CD8/CD69/TIM−3/CD16/CD25/CD4/HLA−DR/PD−1という8個のマーカーを含む抗体パネルに基づき調製したFACS抗体溶液で染色した。続いて、試料を15分間、遮光下で室温においてインキュベートし、回収し、マルチカラーフローサイトメーターを用いて解析した。CD4
+及びCD8
+T細胞集団にゲーティングを行ったCD25、CD69及び/またはHLA−DR陽性発現を評価することによって、T細胞の活性化を割り出した。続いて、T細胞の活性化の割合を測定した。
図11には、多発性骨髄腫患者由来の骨髄浸潤CD4
+及びCD8
+T細胞でのCD69及びCD25の濃度依存的なアップレギュレーションが示されている。表22には、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体によって誘導された、CD4
+及びCD8
+T細胞でのCD69及びCD25の発現の増大(1人の患者から得たデータ)がまとめられている。
【表22】
【0301】
実施例15:抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、患者骨髄T細胞のT細胞機能(サイトカインの産生)の向上(多重ビーズベースのイムノアッセイ/フローサイトメトリー)
抗BCMA/抗CD3 TCB抗体(83A10−TCBcv、22−TCBcv及び42−TCBcv)が、骨髄腫患者の骨髄浸潤CD4
+及びCD8
+T細胞のT細胞活性化と機能の向上を誘導するかを評価するために、48時間のインキュベート後のそれぞれの処置群、未処置群及び対照群の培養物から上清を回収し、サイトカインとセリンプロテアーゼの含有量を測定した。サイトカインビーズアレイ(CBA)解析をマルチカラーフローサイトメーターで、メーカーの指示に従って、Human Thl/Th2 Cytokine Kit II(BD#551809)、またはヒトグランザイムB(BD#560304)、ヒトIFN−γ Flex Set(BD#558269)、ヒトTNF−α Flex Set(BD#558273)、ヒトIL−10 Flex Set(BD#558274)、ヒトIL−6 Flex Set(BD#558276)、ヒトIL−4 Flex Set(BD#558272)、ヒトIL−2 Flex Set(BD#558270)というCBA Flex Setを組み合わせたもののいずれかを用いて行う。
【0302】
実施例16:カニクイザルにおける薬物動態/薬力(PK/PD)調査
抗BCMA/抗CD3 TCBcv抗体の利点のうち、その他の二重特異性抗体((scFv)
2(例えば、WO2013072415及びWO2013072406に記載されているようなBCMA×CD3二重特異性T細胞エンゲージャーBiTE(登録商標))など)を上回ることができた明白な利点は、患者の携行するポンプを介して、数週間から数カ月間投与する治療を必要とする(scFv)
2の非常に短い排泄半減期(例えば1〜4時間)に比べて、インビボにおいて、排泄半減期がかなり長いこと/クリアランスが低いことであり、これにより、1週間に2回または1回のIVまたはSC投与が可能になり得る(Topp et al.J Clin Oncol 2011;29(18):2493−8)。週に2回または1回の投与により、患者にとっての利便性が大きく向上し、リスク(例えば、ポンプの不具合、カテーテルによる問題など)も大きく低下する。
【0303】
a)抗BCMA/抗CD3 83A10−TCBcv抗体のインビボでの排泄半減期/クリアランスを確かめるために、AAALAC認証済みの熟練のCROで、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体(83A10−TCBcv、22−TCBcv及び42−TCBcv)を用いた1回用量の薬物動態(PK)薬力(PD)調査を行った。生物学的にナイーブな成体カニクイザル(約2歳、体重約3kg)を少なくとも40日間馴化し、体重、臨床観察結果及び臨床病態検査結果に基づき選択した。カニクイザルは、個々のタトゥーと色分けしたケージカードによって同定した。カニクイザルに対するすべての手順(飼育、健康モニタリング、拘束、投与などを含む)と倫理上の改正は、生物医学的研究で使用する動物の保護に関する規定を執行する現行の国内法規に従って行った。カニクイザルを、直近の試験前体重に基づき、無作為に処置群に割り当てた。許容不能な試験前所見が見られたカニクイザルを除外してから、試験前体重に関してバランスを取るように設計されたPristima(登録商標)システムに含まれるコンピュータープログラムを用いて、極端に軽い体重と極端に重い体重のカニクイザルを除外し、残りのカニクイザルを処置群に無作為に分けた。カニクイザルは、0.003mg/kg、0.03mg/kg及び0.3mg/kgという3つの83A10−TCBcv処置群に割り当てた(n=2匹。すなわち、1つの群当たり雌1匹、雄1匹)。カニクイザルに、83A10−TCBcvを1回i.v.注射し、PK評価のために、投与前、投与から30分後、90分後、180分後、7時間後、24時間後、48時間後、96時間後、168時間後、336時間後、504時間後という採取スケジュールと下記手順に従って、末梢静脈を介して、各時点に少なくとも0.8mLの血液試料を採取した。血清を分離するために、血液試料をチューブ内で60分間、室温で凝固させた。クロットを遠心分離によってスピンダウンした(少なくとも10分、1200g、+4℃)。得られた血清(約300μl)は、さらなる解析を行うまで、−80℃で直接保存した。大腿骨において、麻酔/鎮痛処置下で、投与前、投与から96時間後及び336時間後という採取スケジュールに従って、PK評価用の骨髄試料も採取した。血清を分離するために、骨髄試料をチューブ内で60分間、室温で凝固させた。クロットを遠心分離によってスピンダウンした(少なくとも10分、1200g、+4℃)。得られた骨髄(約1mL)は、さらなる解析を行うまで、−80℃で直接保存した。PKデータの解析と評価を行う。Watsonパッケージ(v7.4、米国マサチューセッツ州ウォルトマンのThermo Fisher Scientific)またはPhoenix WinNonlinシステム(v.6.3、米国のCertara Company)を用いて、標準的なノンコンパートメント解析を行う。
図12及び表23に示されているように、IV注射後、様々な時点に採取した血清試料から、83A10−TCBcvの血清中濃度をELISAによって測定した。表24には、各処理群において、ELISAによって測定した、骨髄中の83A10−TCBcvの濃度が示されている(BLQは、定量化レベル未満を意味する)。
【0304】
本発明による二重特異性抗体の潜在的な臨床用途に関連するいくつかの情報は、
図12、表23及び表24から得ることができる。
【0305】
− MM患者由来の骨髄穿刺液では、1nMまたは10nMの濃度の、本発明のTCBは、MM形質細胞の有意な殺傷またはさらには完全な殺傷を誘導し、0.03mg/kgの用量で、注射時点から168時間(7日目)の区間において、約1nM〜4nMの血漿濃度が得られたことから、週に1回、約0.03mg/kgの用量による治療が実現可能であり得ることが示された(200ng/mlは、約1nMに相当する)。
【0306】
−
図12には、調査した用量範囲において、PKが概ね用量線形的であり、平均濃度が用量に比例しており、臨床療法に有用な特性であることが示されている。
【0307】
− MMは、主に骨髄で見られる疾患であり、骨髄で検出される83A10−TCBcvの濃度は、血清中濃度に近く(表24)、例えば、注射から96時間後に、約1nM及び2nMの骨髄中濃度が測定されたが、これらは、本発明のTCBの濃度のうち、MM患者から新たに採取した骨髄穿刺液において、MM形質細胞の有意な殺傷が観察される濃度であり、このことからも、利便的な投与間隔(週に1回など)に好適であることが示されている。
【0308】
− 注射から24〜504時間後において、排泄は、概ね一次であるとともに、排泄半減期は約6〜8日であり、このことからも、例えば週に1回の投与に好適であることが示されている。
【表23】
【表24】
【0309】
薬力(PD)測定:フローサイトメトリーによってPD評価を行って、1回用量としてi.v.投与した83A10−TCBcvが、血液、骨髄形質細胞、B細胞及びT細胞に及ぼす作用を評価するために、7.5%のK3 EDTAを含むチューブに、血液試料(採取時点:投与前、投与から24時間後、48時間後、96時間後、168時間後、336時間後、504時間後、)と、骨髄試料(採取時点:投与前、投与から96時間後及び336時間後)を採取した。表面マーカーの「溶血・洗浄」型直接免疫蛍光染色法を適用した。簡潔に述べると、CD45/CD2/CD16/CD20/CD27/CD38またはCD45/CD2/CD16/CD4/CD25/CD8を含む2つの抗体混合物とともに、100μLの血液または骨髄を遮光下で30分、+4℃でインキュベートした。赤血球を溶解するために、溶血バッファー溶液2mLを試料に加え、15分、室温で遮光下においてインキュベートした。細胞を遠心分離によって回収し、染色バッファー(PBS2%ウシ胎仔血清)で洗浄した。染色した試料は、同日にサイトメーターでデータの取得を行うまで、冷蔵保存し、光から保護した。FACSデータの取得は、488及び635のレーザー線のBD FACS Canto IIを搭載したBectone Dickinsonフローサイトメーターで行った。データの収集と解析には、BD FACSDivaというソフトウェアを用いた。二重プラットフォームで、血液分析装置(ADVIA(商標)120、Siemens)によるWBC数に基づき、絶対細胞数の計数を行った。
図13に示されているように、83A10−TCBcvを1回用量でIV処置したすべてのカニクイザルにおいて、循環T細胞数の減少によって示されているように、末梢T細胞の再分布が観察された。
図14Aに示されているように、処置したカニクイザルにおいては、0.3mg/kgの83A10−TCBcvで処置してから24時間後にすでに、血中形質細胞(BCMA陽性細胞)の減少が観察されたが、全B細胞(BCMA陰性細胞)の減少は見られなかった。
図14bには、カニクイザルにおいて、0.3mg/kgの83A10−TCBcvで処置した後の血中形質細胞の減少動態が示されている。
【0310】
サイトカイン解析(IL−1b、IL−2、IL−6、IL−10、TNF−α及びIFN−γ)用の血漿を得るためにも、投与前、投与から30分後、90分後、180分後、7時間後、24時間後、48時間後、96時間後、168時間後という採取スケジュールに従って、血液試料を処理した。氷水浴中に保持したプラスチックチューブに血液試料を入れてから、遠心分離した(少なくとも10分、1200g、+4℃)。得られた血漿は、解析するまで、直接−80℃で保存した。多重ビーズベースのサイトカインイムノアッセイ(Luminex Technology)によって、サイトカイン解析を行う。Bio−Plex Manager4.1というソフトウェア(Bio−Rad)を用いてデータを解析し、5パラメーターロジスティック回帰モデル(5PL)を使用する。
【0311】
b)さらなる調査において、カニクイザルを42−TCBcvまたは22−TCBcvで処置した。カニクイザル(n=2/群)には、42−TCBcvを1回、IV注射(0.01mg/kg、0.1mg/kg及び1.0mg/kg)もしくはSC注射(0.01mg/kg及び0.1mg/kg)注射するか、または22−TCBcv(0.1mg/kg)を1回、IV注射するかした。指定の採取スケジュールに従った時点に、血液試料と骨髄試料を採取し、それに応じて、PK及びPDの測定(免疫表現型分析及びサイトカイン産生)のために処理した。
【0312】
カニクイザルに、42−TCBcvまたは22−TCBcv(IVのみ)を1回IVまたはSC注射し、PK評価のために、投与前、投与から30分後、90分後、180分後、7時間後、24時間後、48時間後、96時間後、168時間後、336時間後、504時間後という採取スケジュールと下記手順に従って、末梢静脈を介して、各時点の血液試料を採取した。血清を分離するために、血液試料をチューブ内で60分間、室温で凝固させた。クロットを遠心分離によってスピンダウンした(少なくとも10分、1200g、+4℃)。得られた血清(約300μl)は、さらなる解析を行うまで、−80℃で直接保存した。大腿骨において、麻酔/鎮痛処置下で、投与前、投与から96時間後及び336時間後という採取スケジュールに従って、PK評価用の骨髄試料も採取した。血清を分離するために、骨髄試料をチューブ内で60分間、室温で凝固させた。クロットを遠心分離によってスピンダウンした(少なくとも10分、1200g、+4℃)。得られた骨髄(約1mL)は、さらなる解析を行うまで、−80℃で直接保存した。PKデータの解析と評価を行った。Watsonパッケージ(v7.4、米国マサチューセッツ州ウォルトマンのThermo Fisher Scientific)またはPhoenix WinNonlinシステム(v.6.3、米国のCertara Company)を用いて、標準的なノンコンパートメント解析を行った。
図19及び表24A〜Dに示されているように、IVまたはSC注射後、様々な時点に採取した血清試料と骨髄試料から、42−TCBcvの濃度をELISAによって測定した。多発性骨髄腫患者の骨髄穿刺液における42−TCBcvの有効濃度範囲は、10pm〜10nM(灰色の区域)に相当する。括弧内の濃度の単位は、nMである。BLQは、定量化レベル未満、i/mは、測定値不確定である。
【表24A】
【表24B】
【表24C】
【表24D】
【0313】
表24A及び24Cの結果により、週に1回またはさらには2週間に1回の42−TCBcvによる処置に適する魅力的な血清中濃度プロファイルが示されている。IV投与及びSC投与後の血清中濃度の曲線下面積AUCを割り出し、AUC値を比較したところ、42−TCBcvのSC注射において、100%近い高いバイオアベイラビリティが示された。加えて、これらの結果から、42−TCBcvの骨髄中濃度は、42−TCBcvの血清中濃度と非常に近いことが示されている。42−TCBcvの血清中濃度は、骨髄(すなわち、骨髄腫腫瘍細胞が多く存在する主な位置)において利用可能な42−TCBcvの濃度を十分に表すことができた。
【0314】
薬力(PD)測定値は、PK測定値を裏付けるための有用な情報である。さらなるPD解析を行った。血液由来のカニクイザルCD20
+B細胞も、細胞表面にBCMAを発現し、血中の形質細胞よりも有意に頻度が高い(絶対数が多い)。抗BCMA/抗CD3 TCBcv抗体の信頼性の高い薬力学的作用として、また、83A10−TCBcv、42−TCBcv及び22−TCBcvの間で、インビボでの有効性を比較する目的で、血中B細胞の除去を使用した。フローサイトメトリーと、血液分析装置によって得たWBC数とからなる二重のプラットフォームに基づき、絶対B細胞数を算出し、投与前、10分のIV注入から24時間後、48時間後、96時間後及び196時間後という時点に測定した。B細胞除去率は、下記のように算出した。
【数1】
【表24E】
【0315】
1回用量をIV注射後のカニクイザルにおいて、BCMA発現B細胞の除去を誘導するには、42−TCBcvと22−TCBcvの方が、83A10−TCBcvよりも強力である(表24Eを参照されたい)。これらの3つの分子は、同じ分子構造とCD3結合部を有するので、カニクイザルにおける有効性の差は主に、それぞれのBCMA抗体に起因すると見られた。
【0316】
IV注射後のカニクイザルにおけるBCMA発現B細胞の除去が、抗BCMA/抗CD3 TCBcv抗体の力学的な薬力作用によるものかを確かめるために、IV注射から4日(96時間)後及び3週間(336時間)後に、BCMA陽性細胞(すなわち標的細胞)が濃縮された骨髄において、活性化CD8
+細胞障害性T細胞(すなわち、エフェクター細胞)の増加を測定した。フローサイトメトリーと、血液分析装置によって得たWBC数からなる二重のプラットフォームに基づき、絶対CD8
+ CD25
+活性化T細胞数を算出した。
【表24F】
【0317】
1回用量をIV注射後のカニクイザルにおいてT細胞の活性化を誘導するには、42−TCBcvと22−TCBcvの方が、83A10−TCBcvよりも強力である(表24Fを参照されたい)。これらの3つの分子は、同じ分子構造とCD3結合部を有するので、カニクイザルにおける薬力学的作用の差は、それぞれのBCMA抗体に起因すると見られた。これらの結果から、骨髄中及び血中のBCMA陽性B細胞の除去は、抗BCMA/抗CD3 TCBcv抗体によって誘導される、細胞障害性T細胞の活性化によるものである可能性が最も高いことが示されている。
【0318】
実施例17:PBMC−ヒト化NOGマウスを用いた、H929ヒト骨髄腫異種移植モデルにおける、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された抗腫瘍活性
Fc含有抗BCMA/抗CD3 TCBcv抗体は、排泄半減期が長いことにより、等モル用量で、週に1回のスケジュールで投与した(scFv)
2ベースの二重特異性抗体(BCMA50−BiTE(登録商標)など)よりも有効と見られた。PBMC−ヒト化NOGマウスにおいて、H929ヒト骨髄腫異種移植モデルで、83A10−TCBcvとBCMA50−BiTE(登録商標)(WO2013072415及びWO2013072406に記載されているようなもの)のインビボ作用を比較及び評価した。NOGマウスは、ヒト化マウスモデルに適する。常在NK細胞集団を含む免疫細胞を完全に欠損しているので、ヒト異種細胞の腫瘍の生着への許容性が高いからである(Ito et al.Curr Top Microbiol Immunol 2008;324:53−76)。簡潔に述べると、調査の0日目(d0)に、50:50でマトリゲル(フランスのBD Biosciences)を含む100μlのRPMI 1640 培地中の5×10
6個のヒト骨髄腫細胞株NCI−H929(NCI−H929、ATCC(登録商標)CRL−9068(商標))を、8〜10週齢の免疫不全NOD/Shi−scid IL2rγ(null)(NOG)雌マウス(デンマーク、リユのTaconic)の右側の背側腹側部に皮下(SC)注射した。H929腫瘍細胞のSC移植の24時間〜72時間前に、すべてのマウスに、γ源(1.44Gy、
60Co、フランス、ブルトゥニエールのBioMep)で全身照射を行った。15日目(d15)に、NOGマウスに、2×10
7個のヒトPBMC(500μlのPBS1×(pH7.4)中)を1回腹腔内(IP)注射した。ヒトPBMCの特徴付けは、免疫表現型分析(フローサイトメトリー)によって行った。続いて、Vivo manager(登録商標)というソフトウェア(フランス、クテルノンのBiosystems)を用いて、マウスを慎重に、種々の処置群と対照群(n=9匹/群)に無作為に分け、統計的検定(分散分析)を行って、群間の均質性について検定した。19日目(d19)、すなわち、H929腫瘍細胞をSC注射してから19日後であって、すべてのマウスにおいて、腫瘍体積が少なくとも100〜150mm
3に達した時点(ビヒクルで処置した対照群では、平均腫瘍体積が300±161mm
3、2.6nM/kgの対照TCBで処置した群では、315±148mm
3、2.6nM/kgの83A10−TCBcv群では、293±135mm
3、2.6nM/kgのBCMA50−(scFv)2(BCMA50−BiTE(登録商標))群では、307±138mm
3)に、抗体による処置を開始した。TCB抗体による処置スケジュールは、83A10−TCBcvですでに得た薬物動態の結果に基づくもので、3週間まで、週に1回IV投与すること(すなわち、TCB抗体を合わせて3回注射すること)から構成されていた。宿主マウスをヒトPBMCで再構成(d19)してから4日後に、1回目の抗BCMA/抗CD3 83A10−TCBcv抗体(それぞれ、2.6nM/kg、0.5mg/kg)を尾静脈注射した。83A10−TCBcv及び対照TCBcvで処置したすべての群のマウスにおいて、各処置の1時間前、2回目の処置の2時間前及び最後に、血液試料を頚静脈/下顎静脈穿刺(麻酔下)によって採取した。凝固活性化剤の入ったチューブ(T MGチューブ、チェリーレッドのキャップ、Capiject(登録商標)、Terumo(登録商標))に、血液試料をすぐに移した。チューブを室温で30分置いて、凝固させた。続いて、クロット/血清の分離のために、チューブを1,300gで5分間遠心分離した。血清アリコートを調製し、液体窒素で急速冷凍し、さらなる解析を行うまで、−80℃で保存した。調査中に、腫瘍体積(TV)をノギスによって測定し、TVの群間比較によって進行を評価した。腫瘍成長率(TG(%)として定義した)は、TG(%)=100×(解析群のTV中央値)/(対照ビヒクル処置群のTV中央値)によって割り出した。倫理的な理由から、TVが少なくとも2000mm
3に達したら、マウスを安楽死させた。
図15には、(A)対照群(ビヒクル対照(実線)と対照TCB(破線)を含む)、(B)83A10−TCBcv(2.6nM/kg)群、及び(C)BCMA50−BiTE(登録商標)(2.6nM/kg)という実験群ごとに、各個別マウスのTVが示されている。83A10−TCBcv(2.6nM/kg)群では、9匹のマウスのうち6匹(67%)において、腫瘍が退縮し、d19、すなわち、1回目のTCBによる処置を行った日に記録したTVまでを下回り、腫瘍の退縮は、調査終了まで維持された。83A10−TCBcv(2.6nM/kg)処置群のマウスのうち、腫瘍が退縮しなかった3匹は、d19に、TVがそれぞれ、376mm
3、402mm
3及び522mm
3であった。これに対して、週に1回のスケジュールで3週間、等モル用量のBCMA50−BiTE(登録商標)(2.6nM/kg)で処置した9匹のマウスのうち、いずれかの時点に、腫瘍が退縮したマウスはいなかった(0%)。表25には、すべての実験群における経時的な腫瘍体積の進行が示されている。d19〜d43に腫瘍成長率を算出し、83A10−TCBcv(2.6nM/kg)群とBCMA50−BiTE(登録商標)(2.6nM/kg)群との間で比較した(
図16)。結果から、83A10−TCBcv(2.6nM/kg)群においては、TG(%)が一貫してかつ有意に低下するとともに、BCMA50−BiTE(登録商標)(2.6nM/kg)と比べると、そのTG(%)が常に低いことが示されている。表26には、19〜43日目における腫瘍体積(TV)の中央値と腫瘍成長率(TG(%))が示されている。全体的な結果から、等モル用量で、週に1回のスケジュールで3週間投与すると、インビボで抗腫瘍活性を誘導するには、83A10−TCBcvの方がBCMA50−BiTE(登録商標)よりも優れていることが明確に示されている。
【表25-1】
【表25-2】
【表25-3】
【表25-4】
【表26】
【0319】
実施例18:PBMC−ヒト化NOGマウスでのRPMI−8226ヒト骨髄腫異種移植モデルにおいて、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された抗腫瘍活性
H929骨髄腫細胞株の代わりに、H929よりも、表面BCMAの発現レベルが低いとともに、一次骨髄腫細胞で検出されるレベルを表しているヒト骨髄腫RPMI−8226細胞株を腫瘍異種移植片として使用する。簡潔に述べると、調査の0日目(d0)に、50:50でマトリゲル(フランスのBD Biosciences)を含む0.9%NaCl溶液200μl中の10×10
6〜20×10
6個のヒト骨髄腫細胞株RPMI−8226(ATCC(登録商標)CCL−155(商標))を、8〜10週齢の免疫不全NOD/Shi−scid IL2rγ(null)(NOG)雌マウス(デンマーク、リユのTaconic)の右側の背側腹側部に皮下(SC)注射する。RPMI−8226細胞株のSC移植の24〜72時間前に、すべてのマウスに、γ源(1.44Gy、
60Co、フランス、ブルトゥニエールのBioMep)で全身照射を行った。腫瘍体積が少なくとも100〜150mm
3に達したのを受けて、9日目(d9)と45日目(d45)との間に1回、NOGマウスに、2×10
7個のヒトPBMC(PBS1×(pH7.4)500μL中)を1回、腹腔内(IP)注射した。ヒトPBMCの特徴付けは、免疫表現型分析(フローサイトメトリー)によって行う。続いて、Vivo manager(登録商標)というソフトウェア(フランス、クテルノンのBiosystems)を用いて、マウスを慎重に、種々の処置群と対照群(n=9匹/群)に無作為に分け、統計的検定(分散分析)を行って、群間の均質性について検定する。ヒトPBMCのIP注射の少なくとも24時間〜48時間後、かつ、すべてのマウスにおいて、腫瘍体積が少なくとも100〜150mm
3に達したら、抗体による処置を開始する。TCB抗体による処置スケジュールは、事前の薬物動態結果に基づいており、3週間まで、1週間に1回または2回、尾静脈を介してIV投与すること(すなわち、TCB抗体を合わせて3回注射すること)から構成されていた。各処置の1時間前、2回目の処置の2時間前及び最後に、血液試料を頚静脈/下顎静脈穿刺(麻酔下)によって採取する。凝固活性化剤の入ったチューブ(T MGチューブ、チェリーレッドのキャップ、Capiject(登録商標)、Terumo(登録商標))に、血液試料をすぐに移す。チューブを室温で30分置いて、凝固させる。続いて、クロット/血清の分離のために、チューブを1,300gで5分間遠心分離する。血清アリコートを調製し、液体窒素で急速冷凍し、さらなる解析を行うまで、−80℃で保存する。調査中に、腫瘍体積(TV)をノギスによって測定し、TVの群間比較によって進行を評価する。腫瘍成長率(TG(%)として定義した)は、TG(%)=100×(解析群のTV中央値)/(対照ビヒクル処置群のTV中央値)によって割り出す。
【0320】
まず、PBMC−ヒト化NOGマウスにおけるRPMI−8226ヒト骨髄腫異種移植片のモデルを作製して、その異種移植モデルが、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の試験に適するようにした。0日目に、BCMA
低発現RPMI−8226MM細胞をNOGマウスにSC注射した。22日目に、ヒトPBMCをIP注射したところ、1週間後、ヒトT細胞を血中で検出できた(データは示されていない)。
図20に示されているように、50日目まで、腫瘍成長度と体重を測定した。1)PBMC−ヒト化NOGマウスにおいて、RPMI−8226ヒト骨髄腫異種移植片が一貫して成長できなかったという理由、2)ヒトPBMCをIP注射してからまもなくして、RPMI−8226異種移植片を移植したPBMC−ヒト化NOGマウスの体重が減少し始めたという理由(移植片対宿主病の徴候)(これらのマウスは、倫理的な理由から、安楽死させた)、3)SC注射後、宿主マウスの殺処分時に、腫瘍異種移植片で、BCMAの発現の喪失が観察されたという理由から、残念ながら、予想外にも、この異種移植モデルは、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の抗腫瘍活性を試験するのには適さないことが分かった。
【0321】
実施例19:自己T細胞の存在下において、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、形質細胞性白血病(PCL)患者の末梢血単核球または骨髄穿刺液由来の形質細胞へのリダイレクトT細胞による細胞障害性(フローサイトメトリーによって測定したもの)
形質細胞性白血病(PCL)は、原発的に発症するかまたは臨床的に既存の多発性骨髄腫(MM)に起因するかのいずれかである、骨髄腫の白血病異型である。現在利用可能な治療は、かなり限られており、主に、MM薬と化学療法を組み合わせたものから構成されている。これまで、侵襲性と致死性の高いこの疾患用に明示的に登録された療法はなかった。BCMAは、正常形質細胞の生存において不可欠な役割を果たし、形質細胞性白血病患者の形質細胞性白血病の治療に、本発明による抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体を用いることができる。Ficollを用いる密度勾配またはその他の匹敵する方法によって、形質細胞を80%超含む高白血球数の形質細胞性白血病患者試料に由来する、新たな末梢血単核球(PBMC)を単離し、24時間及び48時間、0.1pM〜30nMの抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体濃度または対照抗体とともに、37℃で、加湿空気環境においてインキュベートした。形質細胞性白血病患者の全骨髄穿刺液も試料として用いることができる。各投与時点は、トリプリケートで行う。全集団と、CD138陽性細胞のアネキシン/プロピジウムアイオダイド染色によって、Divaというソフトウェア(BD)を用いるFACSCaliburで、アポトーシスを割り出す。プロピジウムアイオダイド/CD138−FITC二重染色によって、フローサイトメトリー(FACSCalibur、Bectone Dickinson)を用いて、形質細胞及びPBMC全集団の生存能を調べる。FACSDiva Software(Bectone Dickinson)を用いて、データ解析を行う。それぞれの培地対照(MC)のトリプリケートにおける平均に対して、平均値を正規化する。統計的解析では、片側t検定を使用する。10nMの濃度における、PCL細胞の成長の最大阻害率(IMAX10)と、1nMにおいて測定した阻害率(IMAX1)をそれぞれ、培地対照に対する割合で求める。培地対照との比較における、対照TCB抗体の最大阻害率(10または30nM)も測定する。IMAX値(Microsoft Excel(登録商標)、Microsoft Office Professional 2013)を除き、R3.1.19及びBioconductor2.1310を用いて演算処理を行った。対応する統計的検定のP値が5%未満(
*)、1%未満(
**)または0.1%未満(
***)である場合に、作用を統計的に有意であるとみなす。形質細胞性白血病患者試料由来のPBMC CD138
+形質細胞において、BCMAの発現も測定するとともに、エフェクター細胞と腫瘍細胞の比率(E:T)も割り出す。
図20に示されているように、これらの結果から、2つの形質細胞性白血病患者試料では、培地対照と比べて、42−TCBcvによって、生存骨髄形質細胞白血病細胞が有意に低下した(すなわち、骨髄形質細胞白血病細胞の溶解が多く見られた)ことが明確に示されている。表27には、10nM(IMAX10)及び1nM(IMAX1)の抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、患者骨髄穿刺液または末梢血由来の形質細胞白血病細胞の最大阻害率(培地対照に対するもの)が示されている。これらの結果から、42−TCBcvが、患者骨髄形質細胞白血病細胞の殺傷を誘導するのに非常に強力であることが示されている。骨髄形質細胞白血病細胞の特異的溶解が、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導されたとともに、骨髄試料で観察された(PCL患者1)にもかかわらず、骨髄微小環境(BMME)は、それぞれの試料において、影響を受けなかった(データは示されていない)。
【表27】
【0322】
実施例20:自己T細胞の存在下で、抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体によって誘導された、ALアミロイドーシス患者由来の骨髄形質細胞へのリダイレクトT細胞による細胞障害性(フローサイトメトリーによって測定したもの)
ALアミロイドーシスは、骨髄の傷害を原因とする希少疾患であり、通常、50〜80歳の人が罹患し、患者の3分の2は男性である。ALアミロイドーシスは、形質細胞による抗体/免疫グロブリンタンパク質の異常な産生によって映し出される。ALアミロイドーシスでは、抗体の軽鎖(LC)がミスフォールディングし、LCのミスフォールディングした異常なタンパク質に起因して、アミロイドが形成される。これらのミスフォールディングアミロイドタンパク質は、組織、神経及び器官の中及び周囲に沈着する。器官、神経または組織にアミロイドが蓄積すると、それらの機能を徐々に損傷し、悪影響を与える。ALアミロイドーシス患者は、1つ以上の器官を冒されることが多い。BCMAは、正常形質細胞の生存において不可欠な役割を果たすので、ALアミロイドーシスにおける形質細胞の殺傷における抗BCMA/抗CD3 T細胞二重特異性抗体の作用を評価するのは非常に理にかなっている。新たに採取したALアミロイドーシス患者全骨髄試料/穿刺液を直接、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体に暴露するか、またはCD138磁気マイクロビーズ(ドイツ、ベルギッシュグラートバッハのMiltenyi Biotec)で染色して、autoMACSという細胞分離カラムに通し、十分な残存数のALアミロイドーシス形質細胞(通常、4%超)を含む回収画分を、さらなる実験で用いる。24ウェルプレートにおいて、1ウェル当たり500,000個の細胞をインキュベートし、48時間培養する。0.1pM〜30nMの最終TCB濃度になるように、抗BCMA/抗CD3 TCB抗体と対照抗体の希釈液を各ウェルに加える。各投与時点は、トリプリケートで行う。プロピジウムアイオダイド/CD138−FITC二重染色によって、フローサイトメトリー(FACSCalibur、Bectone Dickinson)を用いて、形質細胞と骨髄微小環境の細胞の生存能を調べる。FACSDiva Software(Bectone Dickinson)を用いて、データ解析を行う。それぞれの培地対照(MC)のトリプリケートにおける平均に対して、平均値を正規化する。統計的解析では、片側t検定を使用する。10nMの濃度における、PCL細胞の成長の最大阻害率(IMAX10)と、1nMにおいて測定した阻害率(IMAX1)をそれぞれ、培地対照に対する割合で求める。培地対照との比較における、対照TCB抗体の最大阻害率(10または30nM)も測定する。IMAX値(Microsoft Excel(登録商標)、Microsoft Office Professional 2013)を除き、R3.1.19及びBioconductor2.1310を用いて演算処理を行った。対応する統計的検定のP値が、5%未満(
*)、1%未満(
**)または0.1%未満(
***)である場合に、作用を統計的に有意であるとみなす。ALアミロイドーシス患者試料由来の骨髄CD138
+形質細胞において、BCMAの発現も測定するとともに、エフェクター細胞と腫瘍細胞の比率(E:T)を割り出す。