(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本発明に係るハイドロゲルの一実施形態の断面を示す。この実施形態に係るハイドロゲル1は、A層10とB層20とを積層して構成される。次に、A層10及びB層20のそれぞれの組成について説明する。
【0014】
A層10には、モノマー由来成分、水、保湿剤、粘着性を有する水不溶性高分子及び両親媒性高分子が含まれている。そして、水不溶性高分子は、A層全量に対して3〜20重量%含まれ、両親媒性高分子は、ケン化度50〜75%のポリビニルアルコールであり、且つA層全量に対して0.05〜5重量%含まれることを特徴とする。
【0015】
(モノマー由来成分)
A層で使用されるモノマー由来成分は、重合により架橋部を含む水溶性高分子として含まれている。水溶性高分子は、非架橋性モノマーと架橋性モノマーとの共重合体により得ることができる。例えば、水溶性の(メタ)アクリル系モノマーと2以上のアルケニル基を有する架橋性モノマーとの共重合体を用いることができる。
【0016】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル変成(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル変成(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノマーを例示できる。また、N−ビニルアミド等の水溶性のモノマーを例示することができる。
【0017】
また、2以上のアルケニル基を有する架橋性モノマーとしては、多官能アクリレート、多官能アクリルアミド等の架橋性モノマーを例示することができる。
【0018】
この架橋された水溶性高分子によって、水溶性高分子のマトリックスを構成することができる。すなわち、モノマー由来成分から構成される架橋された水溶性高分子、水、保湿剤及び両親媒性高分子が含まれる組成物であって、前記の水、保湿剤及び両親媒性高分子がこの水溶性高分子のマトリックス内に含まれるハイドロゲルを得ることができる。
【0019】
モノマー由来成分としての水溶性高分子を構成する非架橋性モノマーの具体例をさらに詳述すると、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等の非電解質系アクリルアミド誘導体、ターシャルブチルアクリルアミドスルホン酸(TBAS)及び/又はその塩、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド(DMAEAA)塩酸塩、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)塩酸塩等の電解質系アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、スルホプロピルメタクリレート(SPM)及び/又はその塩、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド(QDM)等の電解質系アクリル誘導体、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の非電解質系アクリル誘導体が挙げられる。
【0020】
架橋性モノマーの具体例としては、N,N'−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
A層中における架橋された水溶性高分子の含有量は、非架橋性モノマーと架橋性モノマーを含む配合液を調製する際、当該非架橋性モノマーと当該架橋性モノマーが均一に溶解していれば、特に限定されるものではない。しかし、前記架橋された水溶性高分子は、好ましくは、得られるゲル体のゲル強度を維持し、保型性、加工性を高めるために、A層全量に対して15重量%以上であり、18重量%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
また、架橋された水溶性高分子のマトリックスを形成するためには、非架橋性モノマーを用いるが、当該非架橋性モノマーは、主として水溶性であり、水への溶解度が十分高く、特に、常温で液体のモノマーの場合は任意の割合で水と溶解するモノマーが好ましい。反面、A層を構成する組成物には、水とモノマー以外にも保湿剤や、必要に応じて、電解質塩、重合開始剤等の添加剤も溶解させる必要がある場合があり、この場合は、架橋された水溶性高分子の濃度は、A層全量に対して35重量%以下に設定することが好ましく、30重量%以下に設定することがさらに好ましい。
【0023】
前記架橋性モノマーのA層全量に対する含有量は、前記非架橋性モノマーあるいは当該架橋性モノマーの分子量や化学的、物理的特性に応じて適宜設定するべきであるが、得られるゲル体の保型性を高めるためには0.01重量%以上に設定することが好ましく、0.05重量%以上に設定することがさらに好ましい。逆に、保型性を損なわない程度に柔軟性を有している方が、粘着剤として使用する際の初期タックが得やすいことから、1.0重量%以下に設定することが好ましく、0.6重量%以下に設定することがさらに好ましい。
【0024】
上述のように、前記非架橋性モノマーはマトリックスの大部分を占めるため、水溶性が高い方が好ましい。例えば溶解度においては少なくとも20(g/100mL−H
2O)以上であることが好ましく、さらに好ましくは50(g/100mL−H
2O)以上であり、最も好ましくは65(g/100mL−H
2O)以上である。
【0025】
前記架橋性モノマーは、マトリックスの一部を構成するため、必ずしも水溶性のものを使用しなくてもマトリックス全体の親水性が損なわれることはない。水溶性が低い架橋性モノマーを前記配合液に溶解させる方法としては、例えば架橋性モノマーが液体の場合は非架橋性モノマーに溶解させる方法があり、非架橋性モノマー以外に保湿剤としての多価アルコールに溶解して添加する方法もある。
【0026】
(保湿剤)
A層には、保湿性、可塑性を向上させるために保湿剤を含有させる。保湿剤としては、多価アルコールを用いることが好ましい。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールの他、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等の多価アルコール縮合体、ポリオキシエチレングリセリン等の多価アルコール変成体等が使用可能である。なお、保湿剤としては、常温(好ましくは氷点下10℃以上で)で液状、詳細には、ゲル体を実際に使用する温度領域(例えば室内で使用する場合は20℃前後)で液状の多価アルコールを使用することが好ましい。
【0027】
A層には、水が含まれるため、保湿剤無くしては短時間で水分が蒸発及び/又は乾燥しやすく、可塑性が損なわれるとともに粘着性、特に初期タック力が著しく低下しやすい。また、本発明のハイドロゲルを、医療用電極等、導電性を必要とする用途に用いる場合は、水分が蒸発すると、電極のインピーダンスが高くなり、さらに電極が特定のインピーダンスを超えた場合には使用不可能になる。したがって、保湿剤は、A層に添加することにより、水分が一定以上蒸発するのを防止すると同時に、当該保湿剤が常温で液状であれば、保湿剤自体が可塑剤としての機能をも有する。
【0028】
A層内における保湿剤の濃度は、保湿性、可塑性を維持し、優れた安定性を発現するために、A層全量に対して35重量%以上であることが好ましく、さらに、40重量%以上であることがより好ましい。また、この保湿剤の量は、得られるゲル体の腰強度、粘着力を確保する意味において、一定以上の樹脂固形分の含有量を確保するため、A層全量に対して70重量%以下であることが好ましく、65重量%以下であることがより好ましい。
【0029】
(水)
A層に含まれる水の濃度は、粘着性を有する水不溶性高分子を安定的に分散させるためには配合液中に13重量%以上、つまりA層全量に対して13重量%以上であることが好ましく、18重量%以上であることがさらに好ましい。また、蒸発、乾燥によるゲル物性の変動を抑え、ゲル物性を安定化するためにはA層全量に対して40重量%以下であることが好ましく、30重量%以下に設定することがさらに好ましい。例えば、保湿剤としてグリセリンを使用する場合、相対湿度がおおむね50%〜70%の範囲で、自重の約20〜約40重量%の水分を保持する性質(保湿性)を有している。さらに、発明者らが各種保湿剤を含有するハイドロゲルを作製し、相対湿度60%での保湿性を求めた結果、例えばグリセリンの保湿性は約30重量%であり、乳酸ナトリウムでは約80重量%であった。
【0030】
以上のように、保湿剤の保湿性は相対湿度に依存し、保湿剤を使用したハイドロゲルの保湿性も同じく相対湿度に依存する。保湿力の異なる保湿剤を組み合わせて使用することにより、一定湿度におけるゲルの保湿性を制御することは可能であるが、相対湿度依存性は保湿剤固有の性質であるため実質制御不可能である。以上より、理想的には保湿性が低い保湿剤(さらに理想的には常温で液体であること)を高濃度で使用し、ゲルの設計上の含水率を低く設定することで、ゲルの保湿性の相対湿度依存性を見かけ上低くすることは可能であるが、A層では、粘着性を有する水不溶性高分子を安定的に分散させるため、上記の濃度以上の水分量を保持することが好ましい。
【0031】
(水不溶性高分子)
粘着性を有する水不溶性高分子としては、(メタ)アクリルエステル、酢酸ビニル、マレイン酸エステル等の疎水性モノマーの単独又は複数を重合させたものが挙げられる。具体的には、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、マレイン酸ジオクチル等の疎水性モノマーの単独もしくは共重合体である。前記以外にエチレン、プロピレン、ブチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等の疎水性モノマーのいずれか一つ、又は、複数がさらに共重合されていても良い。また、シリコーン粘着剤や天然ゴム系や合成ゴム系の粘着剤を使用することも可能である。これらの中で、アクリルエステル共重合体は改良が重ねられており、高粘着であることから好適に使用される。
【0032】
粘着性を有する水不溶性高分子をA層中に分散させるためには、前記高分子を乳化分散させたエマルジョンを使用することが好ましい。通常、前記エマルジョンの固形分は30〜60重量%であり、残りの大部分は水である。
【0033】
例えば、アクリルエステル系共重合樹脂のエマルジョンとして、昭和高分子株式会社製の商品名「ポリゾールPSA SE−1730」、日信化学工業株式会社の商品名「ビニブランADH−1048」等が好適に用いられる。
【0034】
A層における、粘着性を有する水不溶性高分子の含有量は、最終製品に期待する効果に応じて調節すれば良いが、電極エレメントに対する良好な粘着力を得るためには、A層全量に対して3重量%以上添加することが必要である。好ましくは5重量%以上であり、より好ましくは8重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また、これらの高分子は単独でも粘着剤としての機能を有するものであるため、添加量は多くても差し支えないが、添加量が多過ぎても、粘着力は一定値以上向上せず、また、医療用電極ハイドロゲルとして用いる場合にゲルの導電性も低下するため、これらのバランスを考慮して、A層全量に対して20重量%以下とする。好ましくは15重量%以下、より好ましくは13重量%以下である。
【0035】
さらに、粘着性を有する水不溶性高分子は、前記疎水性モノマーと、親水性モノマーの共重合体であることが好ましい。疎水性モノマーに対して親水性モノマーを共重合することで、水に不溶性の高分子の分散安定性が高くなり、分散剤や界面活性剤等の添加を少なくできる利点がある。
【0036】
粘着性を有する水不溶性高分子が、疎水性モノマーと親水性モノマーの共重合体である場合、当該共重合体における親水性モノマーの共重合比率が0.1重量%以上の場合に分散安定化の効果を発現する。また、当該共重合比率が5重量%より多い場合は前記高分子の生成が困難になることが特開2002−80809号公報、特開2003−336024号公報、及び特開2003−335805号公報に記載されている。したがって、前記水不溶性高分子として、疎水性モノマーと親水性モノマーの共重合体であって当該親水性モノマーの共重合比率が0.1〜5重量%である共重合体を用いることが好ましい。
【0037】
前記親水性モノマーとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ターシャルブチルアクリルアミドスルホン酸(TBAS)及び/又はその塩、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド(DMAEAA)塩酸塩、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)塩酸塩、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、スルホプロピルメタクリレート(SPM)及び/又はその塩、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド(QDM)等の水溶性モノマーが挙げられる。これらの中で、少なくとも1種のカルボキシル基を含有する水溶性モノマーを含むことが望ましく、特に、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩は汎用モノマーであり、好適に使用され、中でもアクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましい。
【0038】
(両親媒性高分子)
本実施形態に係るハイドロゲルにおけるA層には、両親媒性の高分子共重合体を含有させるため、導電材料から構成される電極に対して良好な付着性を得ることができる。また、両親媒性の高分子を含有し、粘着性を有する水不溶性高分子も含むことにより、前記水不溶性高分子の分散安定性が良好になる。特に、A層を形成する配合液の調製時に前記水不溶性高分子の分散安定性が良好になるために、より均一で品質安定性が高い良好なハイドロゲルのA層を得ることができる。
【0039】
本発明において、両親媒性とは、少なくとも有機溶媒と水の混合溶媒に溶解し、好ましくは、水と、極性有機溶媒の双方に溶解可能であることを意味する。有機溶媒と水の混合溶媒の例としては、エタノール/水=60/40の混合溶媒が挙げられる。したがって、前記両親媒性高分子は、室温下において、エタノール/水=60/40の混合溶媒に対しても溶解する高分子が該当する。
【0040】
本実施形態においては、両親媒性高分子として、ケン化度50〜75%のポリビニルアルコールを用いる。ケン化度50%未満では、水溶化が不可能ではないが困難になり、製造時のハンドリング性が低下する。また、75%を超える場合は、水溶性が高くなる反面、塩析の傾向が強くなり、電解質等イオン性の添加剤を多く使用する場合には適さない場合がある。なお、ポリビニルアルコールのケン化度については、ケン化度98%以上を完全ケン化と呼び、98%〜80%程度を部分ケン化と呼び、それ以下を低ケン化と呼ぶ。部分ケン化に関しては、より詳細に区別する場合は、ケン化度95%前後のものを中間ケン化と呼び、概ね95%〜80%程度のものを部分ケン化と呼ぶ場合もある。また、ケン化度とは、以下の式で算出される百分率である。
ケン化度=ポリビニルアルコールユニット/
(酢酸ビニルユニット+ポリビニルアルコールユニット)×100
※ 各ユニットの物質量(モル数)を上式に代入して計算する。
【0041】
ケン化度50〜75%のポリビニルアルコールの具体例として、日本酢ビポバール株式会社の商品名「JポバールJMR−10M」(ケン化度65%)、日本合成化学工業株式会社の商品名「ゴーセファイマーLW−300」(ケン化度53〜60%)、電気化学工業株式会社の商品名「デンカポバールMP−10」(ケン化度70%)等が挙げられる。
【0042】
A層における前記両親媒性高分子の添加量は、添加による配合液の分散安定性向上の効果を得るためには、A層全量に対して0.05重量%以上添加することが必要であり、好ましくは0.1重量%以上である。また、添加量が多過ぎると、配合液の粘度が上昇するために配合液の調製時に混入した気泡が抜けるのに時間がかかったり、電解質の添加が多い場合には水不溶性高分子が凝集しやすくなる傾向が出る。したがって、前記両親媒性高分子の添加量は、A層全量に対して5.0重量%以下であり、好ましくは4.0重量%以下である。分散安定性向上のためには、この程度の添加量で効果は十分に得られる。
【0043】
(pH調製剤)
A層は、少なくともモノマー由来成分、水、保湿剤、粘着性を有する水不溶性高分子及び両親媒性高分子、並びに重合開始剤を含む配合液を加熱又は光照射することにより重合反応させて得ることができる。 前記重合反応により架橋を有する水溶性高分子マトリックスが形成され、A層が得られる。また、A層には、必要に応じて、pH調整剤を添加することができる。このpH調整剤により、配合液のpHを4〜7の範囲に調整した上で、加熱又は光照射することにより重合反応させて得ることができる。
【0044】
もともと、水溶性のアクリルエステルやアクリルアミド誘導体は、モノマーであれポリマーであれ、アルカリ性の水溶液中で保管すると、エステル基やアミド基の加水分解が進行する。逆に、pHが酸性に傾き過ぎても同様に加水分解が進行する。したがって、pHを4〜7に調整することにより、アクリルモノマーの加水分解を抑制することが可能となり、配合液の保管性とともに、ゲル生成後の長期保存安定性も向上する。
【0045】
pH調整剤として、一定量の鉱酸や有機酸を前記配合液に添加することにより、pHを4〜7に調整することが可能である。この場合、多官能の鉱酸及び/又は有機酸を使用することが好ましい。さらには、酸とその塩を混合して用いると、pH緩衝性が発現し、よりpHを安定化させることが可能となるため好ましい。
【0046】
鉱酸としては、硫酸、リン酸、炭酸等が挙げられる。また、有機酸としては、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸等の多官能カルボン酸が挙げられる。pH調整剤である前記鉱酸、前記有機酸、及びこれらの塩について、配合液における添加量は、特に限定されるものではなく、pH調整剤の能力に応じて適宜設定することができる。
【0047】
(重合開始剤)
前記配合液は、通常、光重合開始剤を含む。
【0048】
光重合開始剤は、紫外線や可視光線で開裂し、ラジカルを発生するものが好適であり、α−ヒドロキシケトン、α−アミノケトン、ベンジルメチルケタール、ビスアシルフォスフィンオキサイド、メタロセン等が挙げられる。より具体的には、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(製品名:ダロキュア1173、チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(製品名:イルガキュア184、チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン(製品名:イルガキュア2959、チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製)、2−メチル−1−[(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(製品名:イルガキュア907、チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン(製品名:イルガキュア369、チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製)、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(製品名:イルガキュア127、チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製)等が挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて使用することが可能である。
【0049】
光重合開始剤の添加量は、重合反応を十分に行い、残存モノマーを低減するためには、ゲル化前配合液100重量%中、0.01重量%以上であることが好ましく、光重合開始剤の反応残による変色(黄変)や臭気を防ぐため1.0重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.05〜0.5重量%である。
【0050】
(電解質)
本発明のハイドロゲルを、心電図(ECG)、脳波、眼振、筋電等に使用する生体電位測定用電極や、TENS、低周波治療等に使用する電気刺激用電極、電気メス用対極板や、イオントフォレシス用電極等の電極(医療用電極)に使用する場合は、電解質塩を添加することにより導電性能を向上させることができる。電解質塩としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩化物が好ましい。
【0051】
電解質塩の好ましい例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの塩化物が挙げられる。これらのいずれか一つ、又は複数を使用しても良い。
【0052】
導電性付与を目的として電解質塩を添加する場合、その添加量は、A層全量に対して少なくとも0.5重量%以上であることが好ましい。電解質を多く添加すれば、導電性が向上するが、多過ぎると水不溶性高分子の凝集傾向が高まると同時に、一定以上添加量を増やした場合、導電性向上のメリットよりも前記の凝集性の点や、配合液調製時の溶解時間が長くなる等のデメリットが大きくなるため、添加量は、A層全量に対して6.0重量%以下であることが好ましく、より好ましくは4.0重量%以下である。
【0053】
(界面活性剤)
A層を形成する際、前記配合液に界面活性剤を添加することができる。界面活性剤により、水不溶性高分子や両親媒性高分子の塩析による凝集傾向を低減させることが可能となる。特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル基を有する界面活性剤が好ましい。好ましい例として、例えば(式1)〜(式6)の構造を有するものが挙げられる。
【0060】
上記式中、Rはアルキル基、Mはアンモニウム塩又はアルカリ金属塩、AOはアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド)を表し、nは1〜50の整数を表す。
【0061】
(式1)の構造を有するものとしては、アクアロンKH−05、KH−10(第一工業製薬株式会社製)、(式2)の構造を有するものとしては、エレミノールRS−30(三洋化成株式会社製)、(式3)の構造を有するものとしては、エレミノールJS−2(三洋化成株式会社製)、(式4)の構造を有するものとしては、ラテムルS−180A、S−180(花王株式会社製)、(式5)の構造を有するものとしては、エマールD−3−D、ラテムルE−118B、E−150、レベノールWX(花王株式会社製)、ハイテノール08E、18E、LAシリーズ(第一工業製薬株式会社製)、(式6)の構造を有するものとしては、ニューコール293、RA544(日本乳化剤株式会社製)等がある。
【0062】
これら界面活性剤の添加による効果を得るためには、前記配合液に対して0.1重量%以上の添加が好ましく、また、粘着性や他の性能への影響を考慮した場合、前記配合液に対して2.0重量%以下の添加が好ましい。界面活性剤の添加方法は特に限定されない。
【0063】
(過酸化物)
さらに、必要に応じて、前記配合液に少なくとも0.003重量%の過酸化物を添加することにより、重合後のゲルの黄変を防止することが可能である。なお、前記配合液に0.3重量%以上添加しても、黄変防止効果に大差が生じないばかりか、ゲル中に残留する過酸化物が多くなり、例えば医療用電極として使用した場合に、電極を構成する導電材料を腐食させる危険性が高い。ゲルに残留した過酸化物は、ゲル生成後一定期間熟成することにより減少する。熟成とは一定の温度条件でゲルを静置して過酸化物等の分解を促進することを指す。過酸化物の分解を促進するためには、熟成の温度を30℃以上に設定することが好ましい。また、熟成の温度が高過ぎると、ゲルマトリックス等が分解、劣化する危険性があり、ゲルに貼付する保護フィルム等の収縮が発生し、皺が入ったり、変形したりする危険性もあるため60℃以下に設定することが好ましい。熟成の温度として最も好ましいのは35〜45℃である。
【0064】
過酸化物として、過酸化水素、過炭酸ソーダ、過ホウ酸ナトリウム、過酢酸、二酸化塩素等が挙げられる。これらの過酸化物は、水で10%以下まで希釈してから前記配合液に添加することが好ましい。また、一旦、前記配合液に添加したら、その配合液は24時間以内に使用するべきである。これらの過酸化物を添加してから長期間経過すると、重合反応が開始し、意図せぬところでゲルを生成する可能性がある。
【0065】
続いて、A層10と積層させるB層20の組成について説明する。B層20には、モノマー由来成分、水及び保湿剤が含まれ、且つ、A層に添加した粘着性を有する水不溶性高分子及び両親媒性高分子としてのポリビニルアルコールは実質的に含まれないことを特徴とする。水不溶性高分子及びポリビニルアルコールを添加しないことにより、B層の粘着性が低下し、皮膚表面に対して最適な粘着力が得られ、皮膚にダメージを与えることがない。
【0066】
B層におけるモノマー由来成分、水及び保湿剤の内容、及びそれらの添加量は、A層の場合と同様である。ただし、B層全量に対する水の量は、A層全量に対する水の量の±10重量%であり、B層全量に対する保湿剤の量は、A層全量に対する保湿剤の量の±10重量%の範囲内とする。この範囲内であれば、A層とB層の密着性が良く、医療用電極のハイドロゲルとして使用する場合であっても、ハイドロゲルと皮膚表面との間が優先的に剥がれ、A層及びB層の層間が剥離することはない。なお、水及び保湿剤は、ハイドロゲル1の製造後、時間経過とともにA層からB層(もしくはその逆)に若干量移行することがあるが、移行を経て実質的に定常状態になった後に上記の±10重量%であれば本発明の範囲内である。
【0067】
本実施形態に係るハイドロゲルにおいて、A層及びB層に含有される水の含有量は、限定するものではないが、例えば、所定の重量のA層又はB層の試料を取り出し、該試料を乾燥させて乾燥重量を測定して、初期重量と乾燥重量との差を算出して決定する方法、また、カールフィッシャー水分測定装置を用いて容量滴定法又は電量滴定法等により決定することができる。
【0068】
本実施形態に係るハイドロゲルにおいて、A層及びB層に含有される保湿剤の含有量は、限定するものではないが、例えば、溶媒抽出法、液体クロマトグラフィー(LC)等の手段を用いて定量することができる。
【0069】
また、A層におけるモノマー由来成分とB層におけるモノマー由来成分は、異なる化合物であっても同一の化合物であっても良いが、同一であることが好ましい。これにより、A層とB層の組成が類似し、層間の密着性を一層向上させることができる。
【0070】
さらに、本実施形態に係るハイドロゲルにおけるB層には、最適な粘着力を得ることを目的として、ポリアクリル酸又はその塩等の水溶性高分子を必要に応じて含有させても良い。
【0071】
このような水溶性高分子の例として、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、構成単位にN−アルキルスルホン酸アクリルアミドを含むポリマー等を挙げることができる。これらは、いずれかを単独で用いても良いし、複数種を併用しても良い。
【0072】
アクリル酸とメタクリル酸との共重合体は、アクリル酸とメタクリル酸との共重合比(モル比)が9:1〜1:9であることが好ましい。
【0073】
アクリル酸とメタクリル酸との共重合体の含有量は、少な過ぎると目的とする粘着力が得られ難く、逆に多過ぎるとハイドロゲルが硬くなり、結果的に粘着力の低下を引き起こすため、これらのバランスを考慮して適宜設定される。具体的には、B層全量に対して0.03〜3重量%とすることが好ましく、より好ましくは0.2〜2重量%である。
【0074】
アクリル酸とメタクリル酸との共重合体は、例えば、ラジカル重合、レドックス反応、光照射等の方法により製造することができる。このようなアクリル酸とメタクリル酸との共重合体として、東亞合成社製のジュリマーAC−20H、AC−20L(商品名)や、日本触媒社製FL−200(商品名)等の市販品を使用することもできる。
【0075】
構成単位にN−アルキルスルホン酸アクリルアミドを含むポリマーの重量平均分子量は特に限定されるものではないが、配合液の調製のし易さや、得られるハイドロゲルが最適な粘着力を発揮するために、700万以下であることが好ましい。また、凝集性のあるゲルを得るために50万以上であることが好ましい。
【0076】
構成単位にN−アルキルスルホン酸アクリルアミドを含むポリマーの含有量は、B層全量に対して0.1〜40重量%とすることが好ましく、より好ましくは0.4〜15重量%である。
【0077】
構成単位にN−アルキルスルホン酸アクリルアミドを含むポリマーは、他のポリマーとの共重合体であっても良い。市販されている上記共重合体として、例えば、アクリル酸とN−アルキルスルホン酸アクリルアミドとの共重合体が挙げられる。具体的には、アクリル酸とアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸との共重合体(東亞合成社製アロンビスAH−305(商品名))等を用いることができる。
【0078】
構成単位にN−アルキルスルホン酸アクリルアミドを含むポリマーが他のポリマーとの共重合体である場合、その共重合比(モル比)は、N−アルキルスルホン酸アクリルアミドを含むポリマー:他のポリマー=2:8〜8:2であることが好ましく、2:8〜5:5であることがより好ましい。
【0079】
B層において、モノマー由来成分、水、保湿剤、及び必要に応じて添加する水溶性高分子以外の成分、例えば、必要に応じて添加するpH調整剤、電解質、界面活性剤、過酸化物等については、A層の場合と同様である。
【0080】
本実施形態のハイドロゲル1は、A層10側については、特定の水不溶性高分子及び両親媒性高分子としてのポリビニルアルコールを所定量含むことにより、初期タックが高く、吸湿率が低く、したがって高湿環境下での粘着力低下が小さい。一方、B層20側については、A層より粘着力が小さく、且つA層に対する密着性に優れている。この特徴を生かし、本実施形態のハイドロゲル1は、
図1に示すように、導電材料から構成される電極30にA層10を密着させ、医療用電極ハイドロゲルとして利用することができる。
図1において、B層20にはさらに離型処理を施したポリエチレンテレフタレート等の保護フィルム40が積層され、使用する際には、この保護フィルム40を剥がし、B層20側を皮膚に貼付して使用される。皮膚表面の汗や湿気によるA層10の粘着力低下が小さいため、電極エレメントとの剥離を生じない。
【0081】
電極30は、表面基材50である樹脂フィルム上にAg、Ag/AgCl等の金属やカーボン等を含む導電性インクを印刷コーティングして、導電層を形成するか、又は、表面基材50である樹脂フィルム上に金属箔(アルミ、ステンレス、Ag等)、もしくはカーボン等を練り込んだ導電性フィルムをラミネートして導電層を形成することにより得ることができる。
【0082】
表面基材50としての樹脂フィルムの厚みは5μm〜150μm程度が良い。前記樹脂フィルムの材質は、特に制限されないが、印刷に適した合成紙(ポリプロピレンに無機フィラーを添加したもの)、PET、OPPフィルム等が好ましい。また、外観を向上させるために、表面基材50における電極30とは逆の面に対して、化粧印刷を施したり、柔軟性を損なわない程度に、紙、不織布、発泡体(ポリエチレン、ポリエチレンビニルアセテート、ポリウレタン等の軟質の発泡シート)、ポリウレタン等のフィルムもしくはシートがラミネートされていても良い。
【0083】
医療用電極等のハイドロゲルとして使用することを考慮すると、A層及びB層のそれぞれの具体的な粘着力は、ベークライト板に対する粘着力としてそれぞれ5〜15N/20mm、0.5〜7N/20mmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、A層の粘着力が7〜12N/20mm、B層の粘着力が2〜5N/20mmである。この範囲内であれば、電極30及び皮膚表面に対する粘着力として最適である。なお、本発明において、ベークライト板に対する粘着力とは、ハイドロゲルを120mm×20mmに切り出し、測定対象のA層又はB層の側にベークライト板を貼り付けて、2kgの圧着ローラーを1往復させて試験片を作製し、レオメーター(サン科学社製、CR−500DX)を用い、JIS−Z0237:2009に準じて測定条件を角度90度、速度300mm/分として、測定開始点から所定の引き剥がし時点(30、40、50、60、70mm)における応力値(N/20mm)を測定し、3試験(計15点)の値の平均値をいう。測定は、温度23±5℃、湿度55%±10%の環境下で行うものとする。
【0084】
A層10及びB層20のそれぞれの厚さは、用途等を考慮して適宜設定することができる。具体的には、A層の厚さは0.2〜1.2mm、B層の厚さは0.2〜1.2mm、A層とB層の厚さの比は、1:6〜6:1とすることが好ましく、1:3〜3:1であることがより好ましい。
【0085】
また、ハイドロゲル1には、必要に応じて、ハイドロゲル1の面内方向に沿って中間基材として不織布又は織布を埋設することができる。これら中間基材は、ゲルの補強、裁断時の保形性を改善するために用いられる。例えば、ハイドロゲル1を加工用の中間素材として流通させる場合、これら中間基材は、末端の加工業者での取り扱いを容易にするために必要である。不織布及び織布の材質は、セルロース、絹、麻等の天然繊維やポリエステル、ナイロン、レーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維、又は、それらの混紡が使用可能である。
【0086】
また、中間基材として、半透膜も好適に用いられる。この半透膜はセロハン、酢酸セルロース等によって構成され、織布又は不織布に比べて水や保湿剤を通過させ難いため、A層及びB層のそれぞれの製造時における組成をより長期間にわたり保持することができる。
【0087】
中間基材の厚みは、厚過ぎると液の浸透性が悪くなり、導通性に悪影響を及ぼす場合があり、逆に薄過ぎると目付が小さ過ぎる場合と同様にハイドロゲルの補強等を図ることができなくなる可能性があるため、これらを考慮して適宜設定される。好ましくは、0.02〜2.0mmの範囲内である。また、0.02〜0.5mmであることがより好ましく、0.03〜0.3mmであることが特に好ましい。
【0088】
また、本発明におけるハイドロゲルの全厚みは、0.4〜2.4mmであることが好ましく、0.6〜1.5mmであることがより好ましく、0.7〜1.0mmであることが特に好ましい。なお、ハイドロゲルの厚さは、マイクロメーター等の測定により決定することができる。
【0089】
ハイドロゲル1を製造するには、A層及びB層のそれぞれについて、必要な成分を含む配合液を調製し、それらの配合液を順次、加熱又は光照射により重合して積層させることにより行うことができる。
【0090】
A層の配合液の場合、一例として、あらかじめ水に溶解させた両親媒性高分子を、必要に応じてさらに水で希釈して均一に攪拌した溶液に、水不溶性高分子のエマルジョンを添加し、均一分散させる。次に、保湿剤を投入し、均一に分散するまで攪拌する。これを〔液1〕とする。
【0091】
そして、〔液1〕にモノマーを投入し攪拌する。モノマーの種類によっては、溶解時に吸熱又は発熱する場合があるので、吸熱する場合は加温し、発熱する場合は冷却することが好ましい。加温又は冷却する場合、〔液1〕の温度が10℃〜50℃の範囲になるように設定することが好ましく、20℃〜40℃であることがより好ましい。温度が低過ぎると、モノマー自体の溶解に、特に固体のモノマーの場合には時間がかかるとともに、モノマー以外の添加成分の溶解にも時間を要する。添加する成分によっては、温度が低過ぎると溶解しない場合もある。また、極端に温度が低下すると、エマルジョンやその他の高分子成分が凝集する場合もある。また、温度が高過ぎると、同じくエマルジョンの分散不良が生じたり、反応性が高い成分が含まれる場合は、反応開始又は暴走したり、さらに、配合液中の揮発成分が蒸発し、設計通りの配合液が得られない場合もある。
【0092】
電解質を必要とする場合は、モノマーを投入する工程の次に添加することが好ましい。電解質を投入すると、塩析によりエマルジョンやその他の高分子成分が凝集する場合もあるが、先にモノマーを溶解することにより凝集を抑制する効果が得られる。これは、モノマー自体が界面活性剤的な働きをしているものと推察されるが詳しい機構は不明である。
【0093】
次に、上記以外の必要成分と、重合開始剤を添加し、全ての成分が完全に溶解するまで攪拌、混合することにより、配合液が得られる。
【0094】
B層の配合液についても、水不溶性高分子及び両親媒性高分子としてのポリビニルアルコールを配合しない以外は、上記A層の配合液と同様にして調製することができる。なお、A層及びB層の配合液の調製手順は、上記の手順に限定されるものではない。
【0095】
各配合液の保管については、添加するエマルジョンやその他の成分が安定であれば特に制限されないが、0℃〜50℃の範囲で保管するのが好ましく、5℃〜40℃の範囲で保管することがさらに好ましい。
【0096】
ハイドロゲル1の製造方法としては、A層及びB層の組成、中間基材の材質、厚み等によって細かい条件が異なり、特に限定されるものではない。例えば、中間基材を埋め込む場合には、中間基材に一定以上のテンションをかけた状態で中間基材を空中で保持し、その中間基材の上側及び下側に、モノマー配合液を流し込み、光照射等により重合してシート状とする方法、表面が平滑なシート状のA層及びB層のゲル材をそれぞれ作製した後、一定以上のテンションをかけた状態で保持している中間基材をこれらのゲル材で挟持し、複合化する方法、あるいは、表面が平滑なシート状のA層を作製し、このA層の上に、必要に応じて、一定以上のテンションをかけた状態で中間基材を載置し、その中間基材の上にB層のモノマー配合液を流し込み、光照射等によりさらに重合させる方法等を適宜採用することができる。また、ハイドロゲルをロール状に供給して、前述の製造プロセスを連続して行うこともできる。
【0097】
樹脂フィルム等(ベースフィルム)の上に通常はB層の配合液をまず滴下し、その上面に離型処理した樹脂フィルム等(トップフィルム)を被せて液を押し広げ、一定の厚みに制御した状態で熱又は光(紫外線)照射により当該配合液を重合架橋させて一定の厚みのゲル体を得る。ベースフィルムは、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン、紙又は樹脂フィルムをラミネートした紙等を使用することができる。
【0098】
ベースフィルムを保護フィルム40として利用する場合は、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、紙又は樹脂フィルムをラミネートした紙等の表面に離型処理を施したものが好適に用いられる。特に、二軸延伸したPETフィルムや、OPP等が好ましい。離型処理の方法としては、シリコーンコーティングが挙げられる、特に、熱又は紫外線で架橋、硬化反応させる焼き付け型のシリコーンコーティングが好ましい。
【0099】
トップフィルムとしては、基本的にベースフィルムと同じ材質のものを使用することが可能であるが、光照射によりゲル生成する場合は、光を遮蔽しない材質を選択する必要がある。
【0100】
ゲルを連続的に重合架橋させた後、生成したB層の上に、必要に応じて中間基材を載せ、その上にA層の配合液を滴下し、B層の場合と同様にさらにトップフィルムを被せて液を押し広げ、熱又は光照射を行って重合架橋させ、A層とB層の積層構造からなるハイドロゲルを得ることができる。
【0101】
A層及びB層のそれぞれの配合液には、エマルジョンの分散性を悪化させない程度に、タッキファイヤーとして親水性の高分子を含有させても良い。例えば、ポリアクリル酸とその塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(両親媒性でないもの)、ポリエチレンオキサイド等を使用することが可能である。また、エマルジョンのタッキファイヤーとして、ロジン系の樹脂等を添加しても良い。
【0102】
また、配合液には、必要に応じて防腐剤、殺菌剤、防黴剤、防錆剤、酸化防止剤、安定剤、香料、着色剤等や、抗炎症剤、ビタミン剤、美白剤その他の薬効成分を適宜添加しても良い。
【実施例】
【0103】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
(実施例1)
・A層の配合液調製
撹拌・混合容器を使用して、表1に示すとおり、非架橋性モノマーとしてアクリルアミド、架橋性モノマーとしてメチレンビスアクリルアミドを合わせて18.9重量%、イオン交換水9.8重量%を混合し、撹拌して均一に溶解させた後に、保湿剤としてグリセリンを46.1重量%添加し、前記と同様に均一になるまで撹拌した。次に、電解質として塩化ナトリウムを2.1重量%、その他添加剤としてクエン酸、安息香酸Na、光開始剤、界面活性剤を合わせて0.3重量%添加し、完全溶解するまで撹拌した。最後に、水不溶性高分子としてアクリルエステル系共重合のエマルジョン(固形分50重量%、商品名「ポリゾールPSA SE−1730」、昭和高分子株式会社製)を22.6重量%(固形分11.3重量%、水11.3重量%)、両親媒性高分子としてケン化度が65%のポリビニルアルコールを0.2重量%添加し、均一になるまで数分間撹拌し、乳白色の配合液を得た。ここで、表1においては、純分換算での記載とし、例えば、水不溶性高分子aについては上記エマルジョンにおける固形分11.3重量%、水cについてはイオン交換水9.8重量%と上記エマルジョンにおける水11.3重量%との合計量21.1重量%を記載した。他の実施例、比較例についても同様である。
【0105】
・B層の配合液調製
撹拌・混合容器を使用して、表1に示すとおり、非架橋性モノマーとしてアクリルアミド、架橋性モノマーとしてメチレンビスアクリルアミドを合わせて21.4重量%、イオン交換水23.8重量%を混合し、撹拌して均一に溶解させた後に、保湿剤としてグリセリンを52.1重量%添加し、前記と同様に均一になるまで撹拌した。次に、電解質として塩化ナトリウムを2.4重量%、その他添加剤としてクエン酸、安息香酸Na、光開始剤を合わせて0.3重量%添加し、完全溶解するまで撹拌した。その後、数分間撹拌し、透明な配合液を得た。
【0106】
・ハイドロゲルの製造
得られたB層の配合液を、シリコーンコーティングされたPETフィルム上に滴下し、一定のクリアランスを通過させることで、液が均一に押し広げられ、厚さが0.5mmになるように固定した。これにメタルハライドランプを使用してエネルギー量500mJ/cm
2で紫外線照射を行うことにより厚さ0.5mmのB層を得た。得られたB層に、中間基材(ナイロンメッシュ)を載せて、その上にA層の配合液を滴下し、その上から同じくシリコーンコーティングされたPETフィルムを被せて、液を均一に押し広げ、厚さが0.5mmになるように固定した。これにメタルハライドランプを使用してエネルギー量3000mJ/cm
2(B層に対しては合計3500mJ/cm
2)の赤外線照射を行い、全厚み1.0mmのハイドロゲルを得た。
【0107】
(実施例2)
A層の配合液は、各成分(a〜f及びh)の重量%を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に調製した。また、B層の配合液は、水溶性高分子としてジュリマーAC−20H(東亞合成社製、商品名)を0.7重量%添加した以外は、実施例1と同様に調製した。これらの各配合液を用いて、実施例1と同様にしてハイドロゲルを製造した。
【0108】
(実施例3〜10)
A層及びB層の配合液を、各成分(a〜f及びh)の重量%を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に調製した。そして、これらの各配合液から実施例1と同様にしてハイドロゲルを製造した。
【0109】
(実施例11)
A層の配合液は、各成分(a〜f及びh)の重量%を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に調製した。また、B層の配合液は、水溶性高分子として、ジュリマーAC−20H(東亞合成社製、商品名)を1.2重量%、アロンビスAH−305X(東亞合成社製、商品名)を0.5重量%、合わせて1.7重量%添加し、各成分(c〜f及びh)の重量%を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に調製した。そして、これらの各配合液から実施例1と同様にしてハイドロゲルを製造した。
【0110】
(実施例12)
A層及びB層の配合液を、各成分(a〜h)の重量%を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に調製した。水溶性高分子(成分g)としてはジュリマーAC−20H(東亞合成社製、商品名)を添加した。そして、これらの各配合液から実施例1と同様にしてハイドロゲルを製造した。
【0111】
(比較例1)
A層の配合液を、水不溶性高分子を添加せず、各成分(b〜f及びh)の重量%を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして調製した。また、B層の配合液については、各成分(c〜f及びh)の重量%を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして調製した。これらの各配合液から実施例1と同様にしてハイドロゲルを製造した。
【0112】
(比較例2)
A層及びB層の配合液を、各成分(a〜f及びh)の重量%を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に調製した。そして、これらの各配合液から実施例1と同様にしてハイドロゲルを製造した。
【0113】
(比較例3)
A層の配合液を、両親媒性高分子としてポリビニルアルコールを添加せず、グリセリンの量を46.3重量%とした以外は、実施例1と同様にして調製しようとしたところ、水不溶性高分子が凝集したため、ゲルが作製できなかった。
【0114】
(比較例4)
A層の配合液を、各成分(a〜f及びh)の重量%を表2に示すように変更し、実施例1と同様に調製したところ、配合液の粘度が高く、ゲルの作製に至らなかった。
【0115】
(比較例5〜7)
A層及びB層の配合液を、各成分(a〜f及びh)の重量%を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に調製した。そして、これらの各配合液から実施例1と同様にしてハイドロゲルを製造した。
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
(粘着力評価)
得られた実施例1〜12並びに比較例1〜2及び5〜7のハイドロゲルについて、ベークライト板、カーボン及び皮膚に対するA層及びB層のそれぞれの粘着力を測定した。それぞれの粘着力の評価方法は次のとおりである。測定した結果を表3及び表4に示す。
【0118】
・粘着力評価(ベークライト板)
ハイドロゲルを120mm×20mmに切り出し、PETフィルムを剥がして現れたゲル面にベークライト板を貼り付けて、2kgの圧着ローラーを1往復して圧着し試験片とした。測定にはレオメーター(サン科学社製、CR−500DX)を用い、JIS−Z0237:2009に準じて、測定条件は、角度90度、速度300mm/分で行った。測定開始点から所定の引き剥がし時点(30、40、50、60、70mm)における応力値(N/20mm)を測定し、3試験(計15点)の値から平均値を算出し、この値をハイドロゲルのA層又はB層の粘着力とした。測定環境としては、温度23±5℃、湿度55%±10%の環境下で実施した。
【0119】
・粘着力評価(カーボン)
ハイドロゲルを120mm×20mmに切り出し、PETフィルムを剥がして現れたゲル面にバッキング材(カーボンインクを片面に印刷したPET#36にPEフォーム材(厚み1mm)をラミネートしたもの等)を貼り付けて、2kgの圧着ローラーを1往復して圧着させ、試験片とした。測定にはレオメーター(サン科学社製、CR−500DX)を用い、JIS−Z0237:2009に準じて、測定条件は、角度90度、速度300mm/分で行った。測定開始点から所定の引き剥がし時点(30、40、50、60、70mm)における応力値(N/20mm)を測定し、3試験(計15点)の値から平均値を算出し、この値をハイドロゲルのA層のカーボンに対する粘着力とした。さらに、ハイドロゲルを、高湿環境下(35℃、90%)に5分間静置し、その後、上記と同様にしてカーボンに対する粘着力を測定した。測定環境としては、温度23±5℃、湿度55%±10%の環境下で実施した。
【0120】
・粘着力評価(皮膚)
ハイドロゲルを120mm×20mmに切り出し、PETフィルムを剥がして現れたゲル面に測定時の持ち手を作るために無機フィラーをコーティングした合成紙を貼り付け、試験片とした。その後、被験者5名(20代〜50代の男女)を、貼付15分前に温度23±5℃、湿度55%±10%の環境下の測定室に入室させた。上記試験片を各被験者の前腕内側のなるべく体毛の少ない部分に貼付し、その状態で30分間維持した。測定にはレオメーター(サン科学社製、CR−500DX)を用い、測定条件は、角度180度、速度1000mm/分で行った。測定開始点から所定の引き剥がし時点(30、40、50、60、70mm)における応力値(N/20mm)を測定し、2試験(計10点)の値から平均値を算出し、この値をハイドロゲルのB層の皮膚に対する粘着力とした。
【0121】
(層間剥離)
得られた実施例1〜12並びに比較例1〜2及び5〜7のハイドロゲルについて、ベークライト板から引き剥がすときのA層及びB層の層間剥離の有無を評価した。評価方法は以下のとおりである。まず、ハイドロゲルを120mm×20mmに切り出し、PETフィルムを剥がして現れたゲル面に測定時の持ち手を作るために無機フィラーをコーティングした合成紙を貼り付けて、2kgの圧着ローラーを1往復して圧着させ、反対側のPETフィルムを剥がし、ベークライト板に貼り付け、2kgの圧着ローラーを1往復させて試験片とした。JIS−Z0237:2009に準じて、測定にはレオメーター(サン科学社製、CR−500DX)を用い、ベークライト板からのハイドロゲルの引き剥がし試験を行った。測定条件は、角度90度、速度300mm/分で行った。その際の、層間剥離の有無を目視により確認した。その結果を表3及び表4に示す。表中、○は、層間剥離なしを意味し、△は、一部剥離があることを意味し、×は、層間剥離することを意味する。
【表3】
【表4】
【0122】
表3及び表4に示すように、本発明により、電極エレメントとの接着性に優れ、汗や湿気等の水分を吸収しても電極エレメントや対象物との粘着性、接着性の低下が少なく、皮膚表面に対しては最適な粘着力を有するハイドロゲルが得られた。