(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682647
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】顎変位を口内測定するシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20200406BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
A61B5/11 300
A61B5/11ZDM
A61C19/04 Z
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-544899(P2018-544899)
(86)(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公表番号】特表2019-512290(P2019-512290A)
(43)【公表日】2019年5月16日
(86)【国際出願番号】EP2017054162
(87)【国際公開番号】WO2017144585
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年10月22日
(31)【優先権主張番号】102016103320.0
(32)【優先日】2016年2月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515251805
【氏名又は名称】ハイキャット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】HiCAT GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ニルス ハンセン
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム ハイ
(72)【発明者】
【氏名】ヨヘン クッシュ
【審査官】
磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第102006011787(DE,A1)
【文献】
特開2006−239104(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2011−0085514(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/24
A61B 5/11
A61C 19/00−19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者個別の、上顎に対する下顎の運動を複数の自由度で検出する方法であって、
前記患者の口腔に、光学センサシステムと、前記光学センサシステムの画像内にある所定の対象物と、が設けられており、前記光学センサシステムは、前記下顎または前記上顎に固定に結合されており、前記光学センサシステムによって検出した前記対象物は、対向する前記上顎または前記下顎に対して所定の関係を有し、前記下顎の運動時に、前記対象物の複数の空間点の列を、前記光学センサシステムによって記録し、多次元の運動曲線として、運動データセットに記憶し、
互いに所定の関係にある複数の光学センサシステムを設け、前記複数のセンサシステムによって記録した複数の前記運動データセットの重ね合わせから、前記口腔内にある3次元の運動曲線を計算する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記光学センサシステムとして、口内カメラ(7)が設けられている、ことを特徴とする、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記光学センサシステムとして、ダイオードアレイまたはPSDまたは感光性手段が設けられており、前記患者の前記口腔内に配置された、集光されたビームを有する少なくとも1つの光源が、前記所定の対象物として収容されている、ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記患者の顎領域の3次元コンピュータグラフィックモデルを設け、対応する仮想的な運動をアニメーション化するため、前記3次元コンピュータグラフィックモデルに前記運動データセットを適用する、ことを特徴とする、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
無線接続を介して、前記患者の外にある受信器に、前記光学センサシステムによって記録した前記空間点を送信する、ことを特徴とする、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
複数の前記顎のうちの1つに固定された支持部(4)に、ゴム製の圧縮可能な試験体(36)を支持し、咀嚼時には、対顎に支持されたスタンプ(21)によって前記試験体(36)に力が加えられ、変形を口内カメラ(7)によって記録し、前記記録から咀嚼力を求める、ことを特徴とする、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記患者の前記下顎および/または前記上顎に、前記光学センサシステムを支持する支持弓部として、個別に形成される支持部(30、33)を、複数の歯の複数の3次元表面データに基づいて作製する、ことを特徴とする、
請求項1から6までのいずれ1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法を実行するため、患者個別の、上顎に対する下顎の運動または咀嚼運動を、複数の自由度で、口内において検出するシステムにおいて、
前記患者の前記口腔に取外し可能に固定可能な光学センサシステムと、前記光学センサシステムの画像内にある所定の対象物と、を有し、前記光学センサシステムにより、前記下顎の運動が、前記対象物の複数の空間点の列として記録され、多次元の運動曲線として、複数の前記空間点の前記列を運動データセットに記憶するため、記憶手段が設けられており、
前記光学センサシステムは、複数の口内カメラまたは感光性手段を備えており、前記複数の口内カメラまたは感光性手段は、前記運動中に、同じ対象物または前記複数の口内カメラまたは感光性手段に対応付けた専用の対象物をさまざまな視点から記録することを特徴とするシステム。
【請求項9】
前記光学センサシステムが、口内カメラ(7)を有する、ことを特徴とする、
請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記光学センサシステムは、ダイオードアレイまたはPSDまたは感光性手段を有し、前記所定の対象物として、前記患者の前記口腔に、少なくとも1つの点状の光源が配置されている、ことを特徴とする、
請求項8記載のシステム。
【請求項11】
前記口腔外にある受信ユニットおよび評価ユニットに、複数の前記空間点の前記列および/または前記運動データセットを送信する送信手段が実装されている、ことを特徴とする、
請求項8から10までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項12】
前記下顎および/または前記上顎に個別に適合された支持部(30、33)が設けられており、前記支持部(30、33)は、再利用可能な感光性手段またはカメラモジュール(31)用の汎用の収容部を有する、ことを特徴とする、
請求項8から11までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項13】
前記支持部(30、33)は、前記光学センサシステムを支持する支持弓部と複数の歯とを結合するために、ばね弾性体または緊締装置を有する、ことを特徴とする、
請求項12記載のシステム。
【請求項14】
前記支持弓部の変形を測定する手段が設けられている、ことを特徴とする、
請求項13記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者個別の、上顎に対する下顎変位を複数の自由度で検出する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな診断および治療計画において、上顎に対する下顎の変位は、関心事である。ゆえに例えば、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の治療の際には、睡眠中に気道を拡張するため、患者の下顎をいわゆる前方整位型スプリントによって前方に変位させる。前方変位の度合いは、気道を可能な限りに大きく拡張することと、同時に顎関節および周囲の軟組織に可能な限りに小さい負荷しかかからないようにすることとの間の妥協によって決まる。前方整位型スプリントをコンピュータにおいて仮想的に計画するためには、患者個別の下顎の前方移動の測定が重要である。というのは、それぞれの患者における前方移動は、軽い開口および側方運動を個別に伴うからである。つまり個別の前方移動パターンについての知識により、最も効率的で、患者にやさしい治療が可能になる。
【0003】
下顎前方移動の度合いは、従来、いわゆるジョージゲージによって測定される。純粋に機械式のこの装置は、前方変位の全体距離だけを測定可能であり、前方移動区間に沿った開口運動および側方運動の記録はできないままである。
【0004】
器具ベースの機能性医学からは、個別の咬合パターンを記録し、これにより咬合機能における障害を識別することが可能な測定装置が公知である。この測定装置は、(コンダイル、すなわち顎関節に由来し)コンダイログラフィ装置とも称される。コンダイログラフィ装置は、顎前方移動運動を記録するために使用することも可能である。しかしながらこの装置は、操作が極めて複雑であり、そのサイズに起因して取り扱いが不便である。いわゆる「ジョーモーショントラッキング(jaw motion tracking(JMT))」と称される手法は、組込み式の受信モジュールと、釣り合わされた下顎センサとを備えたフェイスボウから成るシステムを使用しており、下顎センサは、パラ・オクルーザル支持部の磁石支持部により、下顎歯に固定して結合される。このシステムにより、運動データが記録され、次にこの運動データが、前もってレントゲンスキャンによって求めた、咀嚼系の3次元グラフィックデータと重ね合わされる。
【0005】
さらに、下顎に支持された電子式サポーティングピンレジストラと協働する、上顎に支持された測定センサを用いて、顎の相対運動を記録する口内システムが公知である。データは、ケーブルによって外に導かれ、外部のコンピュータによって処理される。次に測定した咀嚼力から、咀嚼筋組織の能力を特定することができる。
【0006】
しかしながらこの極めて単純なシステムでは、歯の幾何学形状に対する距離関係は作成できない。外部に導かれるケーブルのため、患者は、咬合終末位にも到達できず、その際に前方移動が悪化する。さらにバイトスプリントを測量することはできない。さらにこのシステムによって、運動の6自由度のすべてを測定することはできない。
【0007】
公知のシステムのうちのいくつかのシステムの欠点は、歯に強固に結合される一方で、咬合を阻害してはならない手段を、外に導かなければならないことである。これは、多くの場合にパラ・オクルーザル・アタッチメントを固定することによって発生する。さらに公知のシステムは、比較的大きな重量を有し、運動測定の際には、長いレバーによって相応に大きな摂動力が働く。いくつかの公知のシステムは、頭部の軟組織にも載置されるため、測定に悪影響を及ぼしてしまうことがある。
【0008】
独国特許出願公開第102012104373号明細書(DE 10 2012 104 373 A1)からは、患者個別の、上顎に対する下顎の運動を複数の自由度で検出する方法が公知である。そこには、上顎および下顎の3次元表面データを記録する複数の方法が記載されており、これらの方法は、例えば、表面の三角測量法またはNURBS(「Non-Uniform Rational B-Spline;非一様有理Bスプライン」)法を使用する。これによれば、体積データは、CT、MRIまたはDVTによって記録可能であるのに対し、2次元データは、写真、ビデオ撮影またはテクスチャから得ることが可能である。
【0009】
独国特許出願公開第102007058883号明細書(DE 10 2007 058 883 A1)からは、カメラ用、または画像伝送のための光学系用の口内支持部が公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、患者にとって装用感が良好でありかつ高い精度で6自由度まで顎運動を口内測定できる、簡単な手段で実行可能な方法、および対応するシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの課題は、請求項1の特徴的構成を備えた方法と請求項9によるシステムとによって解決される。有利な実施形態は、それぞれの従属請求項に挙げられている。
【0012】
これによれば、本発明の核心は、口内カメラ、またはダイオードアレイもしくはPSD(「位置検出デバイス:Position Sensitive Device」)のような感光性手段を含み得る、口腔の所定の位置に支持される、少なくとも1つの光学センサシステムにより、同様に口腔の所定の位置にある対象物を、感光性手段の場合には光源によって構成される対象物を、下顎運動もしくは咀嚼運動中に記録し、運動データを多次元空間において記録することにある。ここでは光学センサシステムは、上顎かまたは下顎の基準系に固定されるのに対し、記録すべき対象物は、相応に相対する下顎または上顎の基準系に設けられる。以下では、わかり易くするため、光学センサシステムが、上顎の所定の個所に固定に支持されることを前提とする。記録すべき対象物としては、口内カメラの場合、例えば歯のような口腔の解剖学的構造の一部を使用することができる。しかしながら有利には、別のマーキングを、対象物として口内に固定する。感光性手段の場合には、特に強く集束されるビームを備えた少なくとも1つの光源が、患者の口腔に所定のように支持される。
【0013】
本発明では、下顎の運動中に、対象物の空間点の列を、光学センサシステムによって記録し、対応する多次元の運動曲線として、運動データセットに記憶する。口内カメラの場合には、記録のために口腔に十分な光が供給されることを前提とする。この光は、外部から導かれるか、または有利には口腔内で生成される。運動は、光学センサシステムによって記録されるため、特に横方向の運動は、相応に高解像度で検出可能である。前進および後退運動も1つまたは複数の光学センサシステムによって検出することができる。
【0014】
次に運動データは、対応する登録およびマージの後、患者の顎領域の3次元コンピュータグラフィックモデルを仮想的な運動にアニメーション化するため、使用可能である。これにより、下顎の患者個別の実際の運動を、3次元体積で解剖学的に忠実にディスプレイに表示することができる。顎関節の運動軌跡は、3次元体積において点毎に視覚化することが可能である。
【0015】
一般に本発明による口内光学センサシステムの特別な利点は、当然のことながら、硬い支持部を口腔から外に導く必要はなく、患者は、顎運動の際に運動の自由を維持していることである。実施形態に応じて、舌に対して十分なスペースも確保されているため、記録の際、患者に不快感が生じることはない。
【0016】
多次元の運動曲線の記録が、写真計測によって評価される場合、その記録には単一の光学センサシステムで十分である。このような写真計測による評価の目標は、記録の時点に複数の画像が位置していた、これらの画像の相互の空間位置を再現することである。この再現は、共平面性条件を維持した、中心射影の法則に従って行われる。
【0017】
しかしながら解像度を改善するために有利であるのは、最も簡単な場合には、運動中に同じ対象物をさまざまな視点から記録する、複数の口内カメラもしくは感光性手段を備えた、口腔内に配置される光学センサシステムを設けることである。しかしながらそれぞれの口内カメラまたは感光性手段に、専用の対象物を対応付けることも可能である。この場合、本発明による方式は、基本的に、1つの口内カメラまたは1つの感光性手段が上顎に対して「上を」向き、また別の口内カメラもしくは別の感光性手段が「下を」向いているかどうかについても依存しない。この場合、それぞれ記録した運動データは、後に、既知の比率に基づいて計算によって重ね合わせることが可能である。
【0018】
特に極めて有利であるのは、無線パスを介し、例えばBluetooth(登録商標)またはWLANを用いて、口腔外にある受信器に画像を送信する、小型化された口内カメラまたは感光性手段を使用する場合であり、画像は、この受信器で処理される。この目的に使用可能な、対応する送信機能を備えた、小型化されたカメラ/感光性手段は、割安な価格で市場において入手可能である。有利には、それ自体が同様に小型化された光源を使用するカメラが使用される。このような自立型のシステムを使用する際には、供給線路を口腔から外に導く必要はないため、咬合終末位までの運動の記録が問題なく可能になる。このような自立型の口内システムの別の利点は、これらのシステムが比較的軽量であり、したがって過剰な重量によって咀嚼運動に悪影響が及ぼされないことである。さらにスマイルラインも、妨げられることなく記録することができる。
【0019】
本発明による方式の特別な利点は、本発明により、並進3自由度および回転3自由度の6自由度までの運動を記録でき、また咬合に至るまでの運動を記録できることである。これは、光学センサシステムと対象物との間の空間的な関係が分かることによって可能になる。
【0020】
有利には、システムは、上顎もしくは下顎の複数の歯に直接かつ強固に結合されるため、軟組織への結合によって記録に悪影響が及ぼされることはない。これは、特に好適な実施形態において、患者の下顎および上顎に一体成形されかつ個別に成形される支持弓部によって実現される。支持弓部の使用は、有利には次のワークフローを伴う。
【0021】
まず口内カメラによって2つの歯列を記録する。この記録の結果は、歯の高精度の3次元表面データである。場合によっては、後にセンサの配置を最適化できるようにするため、頬側咬合の記録も行われる。一般に、計画の際には、弓部が対咬歯と干渉しないことを考慮する必要がある。
【0022】
記録から得られたデータに基づき、患者の上顎および下顎の舌側に挿入可能な支持弓部を印刷する。歯の表面データの正確な知識により、患者個別の顎に支持弓部を正確に嵌合することができる。上顎弓は、特に複数の口内カメラおよび光源を有する測定モジュールに結合される。下顎弓には、記録すべき対象物として、運動を測定することができるポインタが固定される。完成した支持弓部が、患者の口に挿入される。状況によっては、支持弓部が歯に固定される場合に、この支持弓部の最終的な位置を検出するため、再度、記録が表示される。これは、咬合終末位が基準位置として記録される場合には不要である。固定される支持弓部には、測定モジュールと、対象物としてのポインタとが固定される。測定が開始された後、記録されたデータは、近距離無線によって直接かつリアルタイムに、外部にある受信器に無線で送られてコンピュータに登録される。この際に有利であるのは、高い解像度ですべての自由度を記録できるようにするため、口内カメラをさまざまな角度で支持することである。
【0023】
支持弓部の特別な利点は、これが、このシステムのモジュール式の形成を助勢することにある。特に、使用される測定モジュールは、他の複数の測定に対して再度、使用可能である。このため、次の患者の支持弓部は、対応して標準化された収容部を有する。さらに支持弓部により、良好な保持力が提供される。というのは、プレス嵌めにより、内側から歯に向かって支持弓部を押圧できるからである。
【0024】
支持弓部には、あらかじめ作成した3次元データセットによる、システムの登録を改善するため、放射線不透過のマーカを備え付けることができる。本発明による方式により、それぞれ記録した顎位に対して、またはそれぞれ人為的にシミュレーションにおいて調整した顎位に対して、付加的に印刷した部分と共に、支持弓部にクリックされる(aufgeklickt)咬合記録器(Einartikulations-Registrat)を印刷することも可能である。
【0025】
本発明による自立型かつ小型化されたシステムは、口の外部に邪魔な装置が見えることなく、デジタルボリュームトモグラフィ(DVT:Digital Volume Tomography)装置および/またはフェイススキャナに装着することも可能である。フェイススキャナにおいて可視化可能な軟組織運動は、妨害されることなく歯の運動と共に記録可能である。口唇は、閉じられている。これにより、軟組織・組織モデルも、外部の妨害の影響を受けることなく作成することができる。
【0026】
本発明によるシステムを支持するため、すでに使用した治療用スプリントを使用することもできる。このためには、元のスプリントをセンサ収容部の分だけ拡張するかまたはセンサをスプリントに接着する。1回のスキャンにより、スプリントに対するセンサの位置を求めることができる。センサは、歯列矯正スプリントに取り付けることも可能であるため、機能/力測定は、ブレースによって行うことも可能である。
【0027】
有利な実施形態では、光学式口内カメラまたは感光性手段が、センサモジュールに対応付けられた加速度センサまたはジャイロスコープによって助勢される。この場合に有利であるのは、センサモジュールを下顎に固定することである。というのは下顎は、上顎よりも強く運動するからである。双方の顎に加速度センサを設ける場合、患者の頭部の運動を算出することができる。
【0028】
咬合挙上が計画されている場合、この咬合挙上を模擬する上顎スプリントおよび下顎スプリントを作製することも可能である。咬合挙上スプリントには、運動測定のためのセンサ類を取り付けることができるため、患者の機能が、計画された咬合挙上によってどのように影響を受けるかを検査することができる。
【0029】
有利な実施形態では、個別に成形される支持弓部に、歯との強固な結合を付加的に助勢する緊締装置(例えば、ばね弾性体)を備え付けることができ、その際に歯との接着結合部を作製する必要もない。
【0030】
別の有利な実施形態では、個別に成形される支持弓部が、弓部の変形を測定する装置を有する。これにより、個々の歯の極めて小さい運動を検出して、運動モデルにおいて考慮することができる。歯の個々の運動を考慮することにより、実際の咬合終末位を正確に予想することができる。これにより、咬合終末位の複数の歯の間の接触点をより良好に予測することができる。例えば、隣合う2つずつの歯の間に、個々の支持部構成部材間の位置を変更する手段が配置されるように、個別に成形される支持弓部を形成することができる。
【0031】
光学センサとして、感光性ダイオードが、特にアレイで配置されるかまたはPSD(「位置検出デバイス:Position Sensitive Device/Detector」)として構成されて使用される場合、これらは、到来する光点の重心を高い精度で特定することができる。このようなPSDは、光点の1次元または2次元の位置を測定することができる光学式位置センサ(OPSoptical position sensor)である。PSDは、等方性のセンサ表面を有しかつ連続的に位置情報を供給するアナログセンサとして動作するか、または表面がラスタ状に構造化されており、したがって離散の位置情報を供給する離散型センサとして動作する。
【0032】
口内カメラとは異なり、感光性手段の場合にはデジタル画像は評価されず、アナログの2つの電圧差分に基づき、感光面上の2つの座標軸に沿って光点の位置が求められる。対顎において複数の平面型センサを使用することにより、また複数の光放射源を使用することにより、三角測量法により、顎の相互の位置を6自由度で求めることができる。感光性手段の利点は、小型の構造、ならびに数ナノメートルの極めて高い位置分解能および数ナノ秒の極めて高い時間分解能である。さらに(カメラセンサとは異なり)信号の繁雑な後処理は、不要である。感光性手段の欠点は、到来するすべての光の重心が求められることであり、これにより、放射光の集光および散乱光の回避が必要になる。単一のダイオードの表面上で複数の放射体の位置を特定できるようにするためには、これらの放射体を時間的にずらして駆動制御し、これにより、常に単一の放射体が光を送出するようにしなければならない。そうでないと、可視のすべての放射体の重心が、位置として求められることになるからである。すなわち各時点では、単一の放射体が光を送出する。特に有利な実施形態では、放射体は、時間的なパターンで光を送出する。この時間的なパターンを介して、光がどの放射体からダイオード表面に到来したかを一意に対応付けることができる。時間的なパターンは、例えば各放射体が、固定の点滅周波数で送信することであってよい。
【0033】
以下では、
図1から
図12に基づき、本発明を詳しく説明する。すべての図はそれぞれ、本発明によるシステムの特別な実施形態を示している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明によるシステムの一実施形態を示す図である。
【
図2】本発明によるシステムの別の一実施形態を示す図である。
【
図3】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【
図4】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【
図5】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【
図6】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【
図7】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【
図8】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【
図9】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【
図10】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【
図11】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【
図12】本発明によるシステムのさらに別の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図7を除き、すべての図は、患者の口腔に支持される、本発明によるシステムの原理図を示している。ここでは、それぞれ常に前方から口の中を見た図が示されており、解剖学的構造のうち、上顎の歯1および下顎の歯2だけが描画されている。口蓋3は、単に間接的に描画されている。
【0036】
図1には、個別に成形される支持部4が、上顎の複数の歯1の間に緊締されておりかつ口蓋3に接触している、本発明によるシステムの一変形形態が示されている。支持部4には、電源5およびBluetooth(登録商標)送信器6が組み込まれている。送信器6は、2つの口内カメラ7から得た複数の信号を外部に送信する。2つの口内カメラ7は、所定の角度で斜め下向きに配向されており、それぞれ、下顎の歯2の際立った構造に照準を合わせている。口内カメラ7にはそれぞれ、光源も対応付けられている。したがってこの場合、1つずつの口内カメラ7と、口内カメラ7の画像内にある、所定の構造を備えた歯と、を含む2つの光学センサシステムが設けられている。咀嚼運動時に歯が行う運動から、複数の空間点の2つの列が記録され、これらの列から、多次元の運動曲線を作成することができる。解像度を改善するためには、歯の輪郭を一層強調することを目的として、歯に一意のパターンを噴霧することも可能である。
【0037】
図2に示した例では、3つの口内カメラ8が、上の支持部4に収容されており、これらの口内カメラ8は、下側の支持部10に設けられた特別な対象物9(「ポインタ」/「マーク」)に向けられている。下側の支持部10も同様に、下顎の歯2に個別に成形されており、複数の歯2の間に相応に緊締されている。対象物9は、(ここで示したように)隆起した構造であってよい、または平坦なパターン、例えば、QRコードもしくはバーコードもしくはその他の画像パターンから形成することも可能である。
【0038】
図3には、可能な限りに多くの自由度の記録について、特に垂直方向の運動の記録についても最適化された実施形態が示されている。ここでも支持部11が、上顎の複数の歯1の間に嵌め込まれている。
図2に示した変形形態においてすでに2つの口内カメラ12が配向されていると同様に、これらの口内カメラ12は垂直方向下を向いている。これらの口内カメラ12が向けられている対象物は、個別に作製されておりかつ患者の複数の歯2の間の舌側に緊締されているスプリント13である。スプリント13の表面には、画像パターンを被覆することができる。しかしながら支持部11は、同様に2つの口内カメラ15が組み込まれた、下に向かって延在するウェブ14を有する。口内カメラ15の視線方向は、それぞれ水平方向に左右に向かって、同様に画像パターンを被覆することが可能なスプリント13の側壁に向けられている。この実施形態は、垂直方向かつ前後に行われる運動を高い解像度で記録するのに特に適しており、これに対してカメラ12は、むしろ前後左右に運動を記録できる。
【0039】
図4に示した変形形態は、患者の舌に対する可能な限りに広い自由空間について、および対応する装用感について最適化されている。上顎の歯1には、支持部17を支持するスプリント16が個別に適合されている。支持部17からは、下に向かって開いている凹部18が形成されており、その内部空間は、水平方向左右に配向された2つの口内カメラ19によって照明されている。口内カメラ20は、垂直方向下に向けられている。凹部18には、下顎の歯2に支持されたスプリント23にステー22を介して固定されている、スタンプのヘッド21が入り込む。ヘッド21の上面および側面には、ここでも、顎の運動時に口内カメラ19および20によって記録される画像パターンが被着されている。患者の舌は、屹立するスタンプの複数のステー22の間に快適に位置している。患者個別のすべての部分に印刷が可能である。
【0040】
図5に示した実施形態は、
図1および
図3の変形形態の組み合わせに相当する。支持部24は、上顎の複数の歯1の間に嵌め込まれており、かつ、水平方向に配向された3つの口内カメラ26が組み込まれた、下方に延在するウェブ25を有する。口内カメラ26は、それぞれ、下顎の歯2の際立った構造に照準を合わせている。これにより、対象物として採用された歯の運動が、側方から観察され、これにより、垂直方向の運動成分をより良好に識別することができる。
【0041】
図6に示した変化形態は、
図5と同様に、上顎の複数の歯1の間に嵌め込まれた支持部27を示しており、支持部27は、口蓋の下の弓部に延在しており、これによって舌に対するスペースを空けることができる。弓部の下側の縁部には、下顎のそれぞれ反対側に位置する歯2へ向けて、斜め下に向けられている2つの口内カメラ28が設けられている。
図4に示した変化形態とは異なり、上顎から張り出すスタンプは、下に突き出ていない。
【0042】
図7には、開いた顎の石膏モデルが示されている。特別に下顎29に成形される支持部30では、再利用可能なカメラモジュール31が、汎用の収容部に支持されている。カメラモジュール31に組み込まれたカメラは、上に向けられており、そこでは、上顎32に成形された支持部33に画像パターン34が印刷されている。この実施形態により、6自由度で運動曲線を記録することができる。
【0043】
図8には、治療用スプリント35が下顎の歯に載置されている変化形態が示されている。そこに挿入されたカメラ36は、垂直方向上に向けられており、上顎の、対合する歯1の運動を記録する。治療用スプリント35は、下顎の複数の歯2と形状結合しており、反対側では、上顎の複数の歯1に対する所定の当接部を形成する。
【0044】
図9には、
図4の変化形態に類似しておりかつ対応して同じ参照符号が使用されているが、スタンプのヘッド21によって加圧されるゴムから成る、凹部18に嵌め込まれたフレキシブルな試験体36により、咀嚼力の測定を可能にする変化形態が示されている。カメラ19は、既知の材料特性を有する試験体36の圧縮を記録する。
【0045】
これにより、咬合に近い状態で(okklusionsnah)、有限要素法(FEM)によって力を求めることができる。側方のカメラ19は、拘束されておらず、試験体36の圧縮を垂直方向に測定することができる。左右の運動は、前方のカメラによって測定することが可能である。上方のカメラは、試験体36によって覆われている。咬合終末位の位置は既知であるため、下顎のゲージを調節するか、または試験体36を適切な厚さで印刷することが可能である。
【0046】
ゴムの厚さおよびショア硬度を変化させると、異なる動特性を有する、咬合に近い状態が、測定可能である。カメラの位置分解能が高いことにより、測定システムは、FEMシミュレーションにより、極めて細かく力を量子化することができる。
【0047】
口蓋における凹部に同様に嵌め込まれる圧電・力測定モジュールにより、このゴムを置き換えることができる。この圧電・力測定素子用のコンタクトは、凹部に設けられている。下顎のポインタは、これが、咬合に近い状態で力測定素子に当接するように構成されている。したがって咬合において、障害となる影響を受けることなく、咀嚼力を測定することができる。
【0048】
ゴムおよび圧電センサは、一体化させることも可能である。口蓋における支持は、垂直方向において良好であるため、大きな力も測定することができる。
【0049】
図10には、アクティブな面における光点の重心を検出することができる平面感光性ダイオード37が使用されている変化形態が示されている。この平面ダイオードは、対顎においてアクティブに発光する複数の放射体39からの入射光を集光する光学系38を有する。対顎は、放射体39用のエネルギ源40および駆動制御電子装置41を含んでいる。放射体39は、1つのダイオードに到来する1つの光点に対し、どの放射体からこの光点が送出されたかを特定できるようにするため、時間変調または周波数変調を介して駆動制御される。
【0050】
図11には、ダイオードではなく、対顎の放射体43が光学系44を有する、平面感光性ダイオード42を有する実施形態が示されている。この光学系44は、放射体の光を集光し、集束されたピクセルを平面ダイオードに当てて、その重心が求められるようにする。
図10と同様に、放射体43は、時間変調または周波数変調を介して駆動制御される。集束光学系を有する放射体を使用する代わりに、すでに集光された光を放射するレーザを使用することも可能である。
【0051】
図12には、ダイオード45と、光学系47を備えた放射体46と、が同じ顎側に設けられている、平面感光性ダイオード45を有する変化形態が示されている。放射体46から送出された光信号は、光学系47によって集光され、反射器48によって反対側の顎に反射されるため、光信号は、平面ダイオードに光点として映し出される。この変化形態の利点は、対顎側が、放射体用のエネルギ源も制御電子装置も必要としない受動型のモジュールとして構成できることにある。集光光学系を備えた放射体を使用する代わりに、すでに集光された光を放射するレーザを使用することも可能である。反対側の顎の反射器48は、ミラー反射器もしくはプリズム反射器として構成することも、レトロレフレクタとして構成することも可能である。レトロレフレクタは、入射した光を、光源に対して、同じ方向もしくは類似の方向に反射するという特性を有する。