(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682661
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】オーステナイト型マトリックスを有するTWIP鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20200406BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20200406BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20200406BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20200406BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20200406BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20200406BHJP
【FI】
C21D9/46 P
C22C38/00 302A
C22C38/58
C22C21/02
C22C18/04
!C22C38/60
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-561531(P2018-561531)
(86)(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公表番号】特表2019-520477(P2019-520477A)
(43)【公表日】2019年7月18日
(86)【国際出願番号】IB2017000591
(87)【国際公開番号】WO2017203341
(87)【国際公開日】20171130
【審査請求日】2019年1月18日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/000702
(32)【優先日】2016年5月24日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャルボニエ,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】アラン,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】テシエ,マリー−クリスティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】プティガン,ジェラール
【審査官】
本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2009−0070502(KR,A)
【文献】
特表2014−505168(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/023012(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46−9/48
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程
、
A.
0.5<C<1.2%、
13.0≦Mn<25.0%、
S≦0.030%、
P≦0.080%、
N≦0.1%、
Si≦3.0%、
0.051≦Al≦4.0%、
V≦2.5%、
及
び、任意に、
Nb≦0.5%、
B≦0.005%、
Cr≦1.0%、
Mo≦0.40%、
Ni≦1.0%、
Cu≦5.0%、
Ti≦0.5%、
0.06≦Sn≦0.2
%
の1つ以上の元素を含み、組成の残部は鉄及
び不可避的不純
物からなるスラブの供給工程、
B. そのようなスラブを再加熱し、それを熱間圧延する工程、
C. 巻き取り工程、
D. 第1の冷間圧延工程、
E. UTS
annealedを有する焼鈍鋼板を得る再結晶焼鈍工程、
ここで、UTSannealedは再結晶焼鈍後に得られる鋼板のMPaでの極限引張強度を表し、
及び
F. 以下の式Aを満たす圧下率CR%での第2の冷間圧延工程
1216.472−0.98795×UTS
annealed≦(−0.0008×UTS
annealed+1.0124)×CR%
2+(0.0371×UTS
annealed−29.583)×CR%
を含
み、
第2の冷間圧延が、1〜25%の間の圧下率で実行され、
第2の冷間圧延工程F.が、以下の式Bをさらに満たす圧下率で実行され、
【数1】
1200MPa以上の極限引張強度(UTS)を有する、
TWIP鋼板の製造方法。
【請求項2】
スラブにおいてAlの量が、0.06%を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
再加熱が、1000℃を超える温度で実施され、且つ最終圧延温度が少なくとも850℃である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
巻き取り温度が、580℃以下の温度で実行される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第1の冷間圧延工程D)が、30〜70%の間の圧下率で実行される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1の冷間圧延工程D)が、40〜60%の間の圧下率で実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
再結晶焼鈍E)が、700〜900℃の間で実行される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
再結晶焼鈍後に得られるUTSannealedが、800MPa以上である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
UTSannealedが、800〜1400MPaの間である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
UTSannealedが、1000〜1400MPaの間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
再結晶焼鈍後に得られる全伸びTE%annealedが、10%を超える、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
TE%annealedが、15%を超える、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
TE%annealedが、30%〜70%の間である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第2の冷間圧延工程F)の後に、溶融めっき工程G)が実施される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
溶融めっきが、アルミニウム系浴又は亜鉛系浴を用いて実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
アルミニウム系浴が、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意に0.1〜8.0%のMg、及び任意に0.1〜30.0%のZnを含み、残部はAlである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
亜鉛系浴が、0.01〜8.0%のAl、任意に0.2〜8.0%のMgを含み、残部はZnである、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト型マトリックスを有するTWIP鋼板の製造方法に関する。本発明は、自動車の製造に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
自動車の重量を減らす観点から、自動車の製造に高強度鋼を使用することが知られている。例えば、構造部品の製造のための、そのような鋼の機械的特性を改善しなければならない。しかし、鋼の強度を向上させても、硬鋼の伸び、ひいては成形性が低下する。これらの問題を克服するために、良好な成形性を有する双晶誘起塑性鋼(TWIP鋼)が登場した。これらの製品が非常に良好な成形性を示すとしても、極限引張応力(UTS)及び降伏応力(YS)等の機械的特性は自動車用途を満たすのに十分高くない場合がある。
【0003】
特許出願US2006278309号は、強度が900MPaを超え、その積(強度(MPa)×破断点伸び(%))は45000を越え、その化学組成は、含有率を重量基準で表して、0.5%≦C≦0.7%、17%≦Mn≦24%、Si≦3%、Al≦0.050%、S≦0.030%、P≦0.080、N≦0.1及び、任意にCr≦1%、Mo≦0.40%、Ni≦1%、Cu≦5%、Ti≦0.50%、Nb≦0.50%及びV≦0.50%の1種以上の元素を含み、組成はさらに鉄及び製錬から生じる不可避的不純物を含み、鋼の再結晶化率が75%を超え、鋼の析出炭化物の表面分率が1.5%未満であり、鋼の平均粒径が18μm未満である熱間圧延オーステナイト鉄/炭素/マンガン鋼板を開示する。
【0004】
この特許出願では、冷間圧延後に950MPaより高い強度を有する冷間圧延オーステナイト鋼/炭素/マンガン鋼板を得ることができる。鋼板の厚さは、1回の圧延工程ではなく2回以上の工程(各圧延工程の後に焼鈍操作を行う)で冷間圧延により薄くすることができる。最終製品の強度及び変形性を低下させる恐れがあるため、最後の圧延及び焼鈍工程前の粒径は18ミクロンを超えてはならない。
【0005】
しかし、このオーステナイト鋼板の強度は十分高くない。実際、実施例では、この発明の範囲内の最大強度は1130MPaである。
【0006】
US2006/0179638号は、鋼製品、特に鋼板又は鋼ストリップを製造する方法を開示しており、鋼ストリップ又は鋼板は、重量基準でC:1.00%、Mn:7.00〜30.00%、Al:1.00〜10.00%、Si:2.50〜8.00%、Al+Si:3.50〜12.00%、B:0.01%、Ni:8.00%、Cu:3.00%、N:0.60%、Nb:0.30%、Ti:0.30%、V:0.30%、P:0.01%及び残部としての鉄及び不可避的不純物を含み、それらのストリップ又は板からその後完成した鋼製品が、2〜25%の冷間成形の程度で実施される冷間成形により製造される。
【0007】
しかし、この方法を適用することによって、2〜25%の間の程度を有する冷間成形後に得られる引張強度(Rm)は非常に低い。実際、実施例は、冷間成形度10%、即ち、2〜25の間で引張強度が最大で568MPaであることを示す。また、比較例では、50%の冷間成形度で引張強度は最大1051MPaである。さらに、均一伸びは、冷間成形の程度が30又は50%のときに非常に急速に低下する。最後に、軽鋼と呼ばれる実施例で使用された鋼は、非常に少ない量の炭素(0.070%C)及び多い量のMn(25.9%Mn)を有する。この鋼は、加工硬化及び機械的特性、特に降伏強度が非常に低いため、非常に特殊である。したがって、この鋼は自動車産業にとって興味深いものではない。
【0008】
CN102418032号は、鋼材の製造方法、特に双晶誘起塑性(TWIP)高マンガン鋼板の強度と伸びの積を高めるための焼鈍準備処理に関する。この方法は、熱間圧延と、それに続いて酸洗い後、2〜4回の間、熱間圧延板を冷間圧延し、熱処理温度800〜1000℃及び熱処理時間10〜30分で熱処理することを含む。
【0009】
この製造要件によれば、酸洗い後の熱間圧延板の冷間圧延及び熱処理の工程(4)を3回の冷間圧延及び熱処理工程で行う場合、製造工程は以下の通りである。1回目の冷間圧延及び熱処理は、熱間圧延板を室温で2.5〜4mmに冷間圧延した後、冷間圧延板を設定温度860〜880℃の加熱炉に10〜15分間保持し、冷間圧延板を空冷することを含み;その後、2回目の冷間圧延及び熱処理は、1回目の冷間圧延及び熱処理された板を1.0〜2mmに冷間圧延した後、板を設定温度880〜900℃に10〜15分間保持し、板を空冷することを含み;その後、3回目の冷間圧延及び熱処理は、2回目から得られた板を0.8〜1.5mmに冷間圧延した後、板を880〜950℃の設定温度に10〜30分間保持し、板を空冷することを含み;したがって、空冷された板は、使用のための完成したTWIP鋼板である。
【0010】
しかし、この特許出願では、一方では、冷間圧延の間に行われる圧下率の割合は言及されておらず、他方では、好ましい実施形態で3回の冷間圧延及び熱処理が行われ、長い処理時間及び機械的特性の低下がもたらされる。実際、3回の冷間圧延及び熱処理方法後に得られた実施例1は、わずか980MPaの引張強度(MPa)及び81%という破断後の伸びを有する。
【0011】
EP1878811号は、遅延亀裂に対する良好な耐性を示す鋼板の製造方法を開示しており、該方法は、
− 鋼を供給する工程、
− 鋼を半製品の形態で鋳造する工程、
− 半製品を再加熱する工程、
− 半製品を最終圧延温度まで熱間圧延して板を得る工程、
− 板を巻き取る工程、
− 任意に冷間圧延及び焼鈍を行う工程、
− 板が250〜900℃の間に含まれる温度で少なくとも15秒の時間tの間浸漬される、少なくとも1回の浸漬処理を行う工程
を含む。
【0012】
しかし、開示された方法は、遅延亀裂に対する良好な耐性を得るために、この最後に浸漬処理を含む非常に特殊な方法である。さらに、焼鈍工程後の冷間圧延の記載はない。言及された唯一の冷間圧延は、焼鈍工程の前に行われる。また、冷間圧延の圧下率のパーセンテージについては言及していない。最後に、鋼組成は、非常に低い0.050%以下の量のAlを含む。したがって、本発明の目的は、機械的性質が改善されたTWIP鋼板の製造方法を提供することにより上記の欠点を解決することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/278309号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0179638号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第102418032号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1878811号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、請求項1によるTWIP鋼板の製造方法を提供することによって達成される。この方法は、請求項2〜21の特徴も含むことができる。
【0015】
別の目的は、請求項22によるTWIP鋼板を提供することによって達成される。この鋼板は、請求項23の特徴も含むことができる。
【0016】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明を説明するために、限定されない実施例の様々な実施形態及び試験を、特に以下の図を参照して説明する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の用語が定義される。
− UTS:極限引張強度、
− UTS
annealed:再結晶焼鈍後に得られた極限引張強度、
− TE:全伸び、
− TE
annealed:再結晶焼鈍後に得られた全伸び、及び
− CR%:2回目の冷間圧延の圧下率。
【0019】
本発明は、以下の工程、即ち、
A. 重量基準で
0.5<C<1.2%、
13.0≦Mn<25.0%、
S≦0.030%、
P≦0.080%、
N≦0.1%、
Si≦3.0%、
0.051≦Al≦4.0%、
及び純粋に任意の基準で、
Nb≦0.5%、
B≦0.005%、
Cr≦1.0%、
Mo≦0.40%、
Ni≦1.0%、
Cu≦5.0%、
Ti≦0.5%、
V≦2.5%、
0.06≦Sn≦0.2%
等の1つ以上の元素を含み、組成の残部が鉄及び加工から生じる不可避的不純物を構成する鋼板を有するスラブの供給工程、
B. そのようなスラブを再加熱し、そのスラブを熱間圧延する工程、
C. 巻き取り工程、
D. 第1の冷間圧延工程、
E. UTS
annealedを有する焼鈍鋼板を得る再結晶焼鈍工程、及び
F. 以下の式Aを満たす圧下率CR%での第2の冷間圧延工程
1216.472−0.98795×UTS
annealed≦(−0.0008×UTS
annealed+1.0124)×CR%
2+(0.0371×UTS
annealed−29.583)×CR%
を含むTWIP鋼板の製造方法に関する。
【0020】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、本発明の方法を適用した場合、特に第2の冷間圧延の圧下率が式Aを満たす場合、機械的特性が改善された、特に高い強度を有するTWIP鋼板を得ることが可能になると思われる。
【0021】
鋼の化学組成に関して、Cは微細構造の形成及び機械的特性において重要な役割を果たす。Cは、積層欠陥エネルギーを増加させ、オーステナイト相の安定性を促進する。13.0〜25.0重量%の範囲のMn含有率と組み合わされた場合、この安定性は0.5%以上の炭素含有率に対して達成される。炭化バナジウムが存在する場合、Mn含有率が高いと、オーステナイトにおける炭化バナジウム(VC)の溶解度が増加することがある。しかし、C含有率が1.2%を超えると、例えば、バナジウムの炭化物又は炭窒化物の過剰な析出のために延性が低下するリスクがある。好ましくは、炭素含有率は、十分な強度を得るために、0.4〜1.2%の間、より好ましくは0.5〜1.0%の間である。
【0022】
Mnも、強度を増加させ、積層欠陥エネルギーを増加させ、オーステナイト相を安定化させるための必須元素である。その含有率が13.0%未満であると、マルテンサイト相が形成されるリスクがあり、これは変形性を著しく低下させる。また、マンガンの含有率が25.0%を超えると、双晶の形成が抑制され、このため強度は向上するものの、室温での延性が低下する。好ましくは、積層欠陥エネルギーを最適化し、変形の影響下でマルテンサイトの形成を防止するために、マンガン含有率は15.0〜24.0の間、より好ましくは17.0及び24.0%である。また、Mn含有率が24.0%を超える場合、完全転位滑りによる変形モードよりも、双晶による変形モードが好ましくない。
【0023】
Alは、鋼の脱酸に特に有効な元素である。Cと同様に、Alは積層欠陥エネルギーを増加させ、変形マルテンサイトを形成するリスクを低下させ、それによって延性及び遅れ破壊耐性を改善する。しかし、Mnは液状鉄における窒素の溶解度を高めるので、Mn含有率が高い鋼中に過剰に存在すると、Alは欠点である。過剰に多量のAlが鋼中に存在すると、Nは、Alと結合するものであるが、高温変換中の結晶粒界の移動を妨げる窒化アルミニウム(AlN)の形で析出し、連続鋳造においてひび割れのリスクをかなり高める。さらに、後述するように、本質的に炭窒化物からなる微細な析出物を形成するためには、十分な量のNが利用可能でなければならない。好ましくは、Al含有率は2%以下である。Al含有率が4.0%を超えると、双晶の形成が抑制され、延性が低下するリスクがある。好ましくは、Alの量は0.06%を超え、有利には0.1%を超え、より好ましくは1.0%を超える。
【0024】
これに対応して、凝固時のAlNの析出及び体積欠陥(ブリスター)の形成を防止するためには、窒素含有量は0.1%以下にしなければならない。また、バナジウム、ニオブ、チタン、クロム、モリブデン及びホウ素等の窒化物の形態で析出し得る元素である場合、その窒素含有率は0.1%を超えてはならない。
【0025】
任意に、Vの量は2.5%以下、好ましくは0.1〜1.0%の間である。好ましくは、Vは析出物を形成する。好ましくは、鋼中のそのような元素の体積分率は0.0001〜0.025%の間である。好ましくは、バナジウム元素は主に粒内位置に局在する。有利には、バナジウム元素は、7nm未満、好ましくは1〜5nmの間、より好ましくは0.2〜4.0nmの間の平均サイズを有する。
【0026】
ケイ素も鋼の脱酸素及び固相の硬化に有効な元素である。しかし、3.0%の含有率を超えると、ケイ素は伸びを低下させ、特定の組立処理中に望ましくない酸化物を形成する傾向があり、したがって、ケイ素はこの限界未満に保たなければならない。好ましくは、ケイ素の含有率は0.6%以下である。
【0027】
硫黄及びリンは、粒界を脆化させる不純物である。十分な熱間延性を維持するために、それぞれの含有率は0.030%及び0.080%を超えてはならない。
【0028】
いくつかのホウ素は、0.005%まで、好ましくは0.001%まで添加することができる。この元素は粒界に偏析し、それらの結合を高める。理論に拘束されるつもりはないが、これは、プレス成形による成形後の残留応力の減少、及びそれによる成形部品の応力下でのより良好な耐食性をもたらすと考えられる。この元素は、オーステナイト粒界で偏析し、その結合を高める。ホウ素は、例えば、炭化ホウ素及び窒化ホウ素の形態で析出する。
【0029】
ニッケルは、溶液硬化によって鋼の強度を増加させるために任意に使用することができる。しかし、とりわけ、コストの理由から、ニッケル含有率を1.0%以下、好ましくは0.3%未満の最大含有率に制限することが望ましい。
【0030】
同様に、5.0%を超えない含有率での銅の添加は、銅金属の析出により鋼を硬化させる1つの手段である。しかし、この含有率を超えると、銅は熱間圧延板の表面欠陥の出現の原因となる。好ましくは、銅の量は2.0%未満である。好ましくは、銅の量は0.1%を超える。
【0031】
チタン及びニオブも、析出物を形成することによって硬化及び強化を達成するために任意に使用され得る元素である。しかし、Nb又はTiの含有率が0.50%を超えると、過度の析出により靱性が低下するリスクがあり、避けなければならない。好ましくは、Tiの量は、0.040重量%〜0.50重量%の間又は0.030重量%〜0.130重量%の間である。好ましくは、チタン含有率は、0.060重量%〜0.40重量%の間であり、例えば、0.060重量%〜0.110重量%の間である。好ましくは、Nbの量は、0.01重量%を超え、より好ましくは0.070〜0.50重量%の間又は0.040〜0.220重量%である。好ましくは、ニオブ含有率は、0.090重量%〜0.40重量%の間、有利には0.090重量%〜0.20重量%の間である。
【0032】
クロム及びモリブデンは、溶液硬化によって鋼の強度を高めるための任意の元素として使用することができる。しかし、クロムは積層欠陥エネルギーを低下させるので、その含有率は1.0%を超えてはならず、好ましくは0.070%〜0.6%の間である。好ましくは、クロム含有率は0.20%〜0.5%の間である。モリブデンは0.40%以下の量、好ましくは0.14%〜0.40%の間の量で添加することができる。
【0033】
さらに、いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、バナジウム、チタン、ニオブ、クロム及びモリブデンの析出物は、遅延亀裂に対する感度を低下させることができ、延性及び靭性を低下させることなくそうできると思われる。したがって、好ましくは、炭化物、窒化物及び炭窒化物の形態でチタン、ニオブ、クロム及びモリブデンから選択される少なくとも1つの元素が鋼中に存在する。
【0034】
任意に、錫(Sn)は0.06〜0.2重量%の間の量で添加される。いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、錫は貴な元素であり、高温ではそれのみで薄い酸化膜を形成しないため、溶融亜鉛メッキ前の焼鈍においてSnがマトリックスの表面に析出し、Al、Si、Mn等の酸化促進元素が表面に拡散して酸化物を生成することを抑制し、それにより亜鉛めっき性を向上させる。しかし、Snの添加量が0.06%未満ではその効果が顕著でなく、Snの添加量を増加させると選択的酸化物の形成が抑制され、一方Snの添加量が0.2%を超えると添加されるSnにより高温脆性がひきおこされ、高温加工性が悪化する。したがって、Snの上限は0.2%以下に制限される。
【0035】
鋼はまた、開発から生じる不可避的不純物を含むことができる。例えば、不可避的不純物としては、O、H、Pb、Co、As、Ge、Ga、Zn及びWが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、各々の不純物の重量含有率は、0.1重量%未満である。
【0036】
本発明によれば、この方法は、上記の組成を有する鋼製の半製品、例えば、スラブ、薄いスラブ、又はストリップの供給工程A)を含み、そのようなスラブは鋳造される。好ましくは、鋳造された投入原料は、1000℃を超える、より好ましくは1050℃を超える、有利には1100〜1300℃の間の温度に加熱されるか、又は中間冷却なしに鋳造後そのような温度で直接使用される。
【0037】
次いで、熱間圧延が、好ましくは890℃を超える、より好ましくは1000℃を超える温度で行われ、例えば、通常、2〜5mm、さらには1〜5mmの厚さを有する熱間圧延ストリップを得る。延性の欠如による亀裂の問題を回避するために、圧延終了温度は、好ましくは850℃以上である。
【0038】
熱間圧延後、ストリップは、炭化物(実質的にセメンタイト(Fe,Mn)
3C))、即ち、特定の機械的特性を低下させるであろう何かの顕著な析出が起こらないような温度で巻き取られる必要がある。巻取り工程C)は、580℃以下、好ましくは400℃以下の温度で実行される。
【0039】
その後の冷間圧延操作、続いて再結晶焼鈍が行われる。これらの追加の工程により、熱間圧延ストリップで得られる粒径よりも小さい粒径がもたらされ、したがってより高い強度特性がもたらされる。もちろん、厚さが、例えば、0.2mm〜数mm、好ましくは0.4mm〜4mmのより薄い厚さの製品を得ることが望ましい場合には、それは実施されなければならない。
【0040】
上記の方法で得られた熱間圧延品は、通常の方法で考えられる事前の酸洗い操作が行われた後に冷間圧延される。
【0041】
第1の冷間圧延工程D)は、30〜70%の間、好ましくは40〜60%の間の圧下率で行われる。
【0042】
この圧延工程の後、粒子は高度に加工硬化され、再結晶焼鈍操作を実施する必要がある。この処理は、延性を回復させると同時に強度を低下させる効果を有する。好ましくは、この焼鈍は連続的に行われる。有利には、再結晶焼鈍E)は、700〜900℃の間、好ましくは750〜850℃の間で、例えば、10〜500秒、好ましくは60〜180秒の間実行される。
【0043】
本発明によれば、再結晶焼鈍後に得られた鋼板のUTS値をUTS
annealedと称する。好ましくは、再結晶焼鈍工程E)の後、焼鈍鋼板は、800MPaを超える、好ましくは800〜1400MPaの間、より好ましくは1000〜1400MPaの間のUTS
annealedを有する。
【0044】
好ましくは、再結晶焼鈍後に得られた鋼板のTE値をTE
annealedと称する。この好ましい実施形態では、鋼板は、10%を超える、好ましくは15%を超える、より好ましくは30〜70%の間のTE
annealedを有する。
【0045】
次いで、第2の冷間圧延は、式Aを満たす圧下率で実行される。
【0046】
好ましい実施形態では、第2の冷間圧延工程F)は、以下の式Bをさらに満たす圧下率CR%で実行される。
【0048】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、本発明の方法が適用される場合、特に第2の冷間圧延の圧下率が上記の式をさらに満たす場合には、機械的特性がさらに改善された、特により高い伸びを有するTWIP鋼板を得ることができると思われる。
【0049】
好ましくは、第2の冷間圧延工程F)は、1〜50%の間、好ましくは1〜25%の間又は26〜50%の間の圧下率で実行される。それにより、鋼の厚さの減少が可能となる。また、上記の方法で製造された鋼板は、再圧延工程を経てひずみ硬化によって増加した強度を有することができる。さらに、この工程により高密度の双晶が誘起され、鋼板の機械的性質が改善される。
【0050】
第2の冷間圧延後、溶融めっき工程G)を実施することができる。好ましくは、工程G)は、アルミニウム系浴又は亜鉛系浴によって実行される。
【0051】
好ましい実施形態では、溶融めっき工程は、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意に0.1〜8.0%のMg、及び任意に0.1〜30.0%のZnを含み、残部はAlであるアルミニウム系浴で実施される。
【0052】
別の好ましい実施形態では、溶融めっき工程は、0.01〜8.0%のAl、任意に0.2〜8.0%のMgを含み、残部はZnである亜鉛系浴で実施される。
【0053】
溶融浴はまた、インゴットの供給又は溶融浴中の鋼板の通過からの不可避不純物及び残留元素を含むことができる。例えば、任意の不純物は、Sr、Sb、Pb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Zr又はBiから選択され、各追加元素の含重量有率は0.3重量%未満である。インゴットの供給又は溶融浴中の鋼板の通過からの残留元素は、5.0重量%まで、好ましくは3.0重量%までの含有率を有する鉄とすることができる。
【0054】
例えば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るために、皮膜堆積後に焼鈍工程を実施することができる。
【0055】
このようにして、1200MPaを超える、好ましくは1200〜1600MPaの間の極限引張強度(UTS)を有するTWIP鋼板が得られる。好ましくは、全伸び(TE)は10%を超え、より好ましくは15%を超え、より好ましくは15〜50%の間である。
【実施例】
【0056】
この実施例では、以下の重量組成を有するTWIP鋼板を使用した。
【0057】
【表1】
【0058】
まず、試料を1200℃の温度で加熱し、熱間圧延した。熱間圧延の仕上温度を890℃に設定し、熱間圧延後に400℃で巻き取りを実施した。その後、50%の冷間圧延圧下率で第1の冷間圧延を実行した。その後、750℃で180秒間の再結晶焼鈍を実施した。再結晶焼鈍工程後に得られたUTS
annealed及びTE
annealedを決定した。
【0059】
その後、第2の冷間圧延を異なる冷間圧延圧下率で実行した。結果を以下の表に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
結果は、本発明の方法が適用される場合、特に式Aが満たされる場合に、TWIP鋼板の機械的特性が非常に改善されることを示す。
【0062】
図1は、試験1〜8の第2の冷間圧延後に得られたUTSの値を示す。試験2〜8では、式Aが満たされ、UTSが非常に改善されることを意味する。
【0063】
図2は、試験3〜8の第2の冷間圧延後に得られたTEの値を示す。試験3、4、5及び7では、式Bがさらに満たされ、UTS及びTEの両方が非常に改善されることを意味する。