(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6682687
(24)【登録日】2020年3月27日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】放射性ヨウ素標識化合物の合成装置
(51)【国際特許分類】
C07B 59/00 20060101AFI20200406BHJP
C07C 209/74 20060101ALI20200406BHJP
C07C 211/29 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
C07B59/00
C07C209/74
C07C211/29
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-158364(P2019-158364)
(22)【出願日】2019年8月30日
【審査請求日】2019年9月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】海老根 孝明
(72)【発明者】
【氏名】佐野 純一
【審査官】
山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】
特許第6564961(JP,B1)
【文献】
特公昭48−35246(JP,B1)
【文献】
特公昭49−20192(JP,B1)
【文献】
特開2019−115903(JP,A)
【文献】
米国特許第5398806(US,A)
【文献】
特開昭55−73640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 59/00
C07C 209/00−211/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、
前記非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させて、前記ヨウ素交換反応を実行するための反応容器と、
前記反応容器を下方から加熱する加熱部と、
前記反応容器に接続され、前記ヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管と、
を有し、
前記還流管は、前記加熱部の位置よりも上方に配置され、
前記還流管の一部分は、前記反応容器よりも上方において、渦巻状に設置されており、
前記還流管の前記一部分は水平に配置されていることを特徴とする、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
【請求項2】
非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、
前記非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させて、前記ヨウ素交換反応を実行するための反応容器と、
前記反応容器を下方から加熱する加熱部と、
前記反応容器に接続され、前記ヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管と、
を有し、
前記還流管は、前記加熱部の位置よりも上方に配置され、
前記還流管の一部分は、前記反応容器よりも上方において、渦巻状に設置されており、
前記一部分は、天井面に対して平行な面内において二重以上巻回されていることを特徴とする、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
【請求項3】
非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、
前記非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させて、前記ヨウ素交換反応を実行するための反応容器と、
前記反応容器を下方から加熱する加熱部と、
前記反応容器に接続され、前記ヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管と、
を有し、
前記還流管は、前記加熱部の位置よりも上方に配置され、
前記還流管の一部分は、前記反応容器よりも上方において、渦巻状に設置されており、
前記一部分は、当該一部分における一端から他端に向けて徐々に巻径が縮小又は拡大していることを特徴とする、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
【請求項4】
前記還流管は、前記一部分と、前記一部分と前記反応容器との間に位置する中間部と、を含み、
前記中間部における各部の高さ位置は、前記反応容器に接続されている前記中間部の一端部から、前記一部分に向けて、単調に上昇している請求項1から3のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
【請求項5】
前記還流管の前記一部分を冷却する冷却部を有する請求項1から3のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
【請求項6】
前記一部分は二重以上巻回されているとともに、前記一部分における各巻回部どうしは周方向における複数箇所において留め具によって拘束されることで束ねられている請求項1から3のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
【請求項7】
前記還流管の材料は、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1から3のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
【請求項8】
前記還流管の他端部は、トラップに接続されており、
前記トラップは、チューブを介して活性炭トラップに接続されており、
前記活性炭トラップは、外部に開放されており、
前記トラップは、前記反応容器よりも上方に配置されており、
前記還流管は、前記反応容器と前記一部分との間に位置する中間部を含み、
前記中間部における各部の高さ位置は、前記反応容器側に向けて単調に下がっている請求項1から3のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性ヨウ素標識化合物の合成法として、非放射性化合物と放射性ヨウ化ナトリウムとの交換反応による合成法が知られている。このような合成法は、脳血流シンチグラフィに使用されるN−イソプロピル−4−ヨードアンフェタミン(
123I)(
123I−IMP)や、心筋脂肪酸代謝シンチグラフィに使用される15−(4−ヨードフェニル)−3(R,S)−メチルペンタデカン酸(
123I)(
123I−BMIPP)の合成に用いられている。
このうち、
123I−IMPは、例えば、非放射性のN−イソプロピル−4−ヨードアンフェタミンの水溶液を硫酸銅及びギ酸の存在下、加熱還流させながら[
123I]ヨウ化ナトリウムと接触させることで合成することができる。
【0003】
このように加熱還流を行いながら放射性ヨウ素標識化合物を合成する方法について、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−73640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1においては、加熱還流に関して合成装置における具体的な構成について何ら言及されていないところ、本発明者等の検討の結果、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置における還流管の設置条件によっては、放射性ヨウ素標識化合物の良好な合成収率を実現することが困難となることが分かった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてされたものであり、放射性ヨウ素標識化合物の良好な合成収率を実現することが可能な構造の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、
前記非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させて、前記ヨウ素交換反応を実行するための反応容器と、
前記反応容器を下方から加熱する加熱部と、
前記反応容器に接続され、前記ヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管と、
を有し、
前記還流管は、前記加熱部の位置よりも上方に配置され、
前記還流管の一部分は、前記反応容器よりも上方において、渦巻
状に設置されて
おり、
前記還流管の前記一部分は水平に配置されていることを特徴とする、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、還流管の一部分が、反応容器よりも上方において、渦巻状又は蛇行状に設置されていることにより、放射性ヨウ素標識化合物の良好な合成収率を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る放射性ヨウ素標識化合物の合成装置の模式図である。
【
図2】
図2(a)は還流管の一部分の変形例1を示す模式的な平面図、
図2(b)は還流管の一部分の変形例2を示す模式的な平面図、
図2(c)は還流管の一部分の変形例3を示す模式的な平面図である。
【
図3】比較例に係る放射性ヨウ素標識化合物の合成装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る放射性ヨウ素標識化合物の合成装置1を示す図である。この合成装置1は、非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、
図1に示すように、非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させてヨウ素交換反応を実行するための反応容器10と、反応容器10を下方から加熱する加熱部20と、反応容器10に接続されヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管30と、を有する。還流管30は、加熱部20の位置よりも上方に配置されている。還流管30の一部分301は、反応容器10よりも上方において、渦巻状又は蛇行状(
図2(b)、
図2(c)参照)に設置されている。
本明細書において、「上」とは、重力方向に対する反対方向を意味し、「下」とは、重力方向と同じ方向を意味する。
【0012】
本実施形態によれば、還流管30の一部分301が、反応容器10よりも上方において、渦巻状又は蛇行状に設置されていることにより、放射性ヨウ素標識化合物の良好な合成収率を実現することができる。
【0013】
合成装置1は、N−イソプロピル−4−ヨードアンフェタミン(
123I)(
123I−IMP)や、心筋脂肪酸代謝シンチグラフィに使用される15−(4−ヨードフェニル)−3(R,S)−メチルペンタデカン酸(
123I)(
123I−BMIPP)などの放射性ヨウ素標識化合物の合成に用いられる。非放射性ヨウ素化合物は、安定同位体のヨウ素を構成元素として備えるが、この安定同位体のヨウ素が、ヨウ素交換反応により、放射性同位体のヨウ素に置換されることで、これら放射性ヨウ素標識化合物を合成することができる。なお、本明細書において単に「放射性ヨウ素」という場合は放射性同位元素のヨウ素を指す意味であり、
123Iの他、
124I、
125I、
131Iが例示される。
【0014】
図1に示すように、反応容器10は、反応溶液を収容する本体部101と、還流管30との接続口102と、試薬を反応容器10に投入するための投入口103と、を備える。接続口102は、反応容器10の上部に形成されている。接続口102は、反応溶液の蒸気を本体部101から還流管30に排出させる出口と、還流管30で冷却された蒸気が液体となって本体部101に戻る際の入口と、の両方を兼ねている。投入口103には切り替え可能なバルブ50が取り付けられている。バルブ50を切り替えることにより、投入口103を開放したり、閉じたりすることができる。また、反応容器10は、図示しないラインを介して真空ポンプと接続されている。このラインに設けられた切り替えバルブを使用することにより、反応容器10の内部を大気圧に開放したり、真空ポンプにより減圧したり、密閉状態にしたりして、反応容器10の圧力の調整を行うことができるようになっている。
【0015】
ヨウ素交換反応の反応溶媒としては、水が挙げられる。放射性ヨウ素は、放射性ヨウ化ナトリウムとして用いられることが好ましい。また、ヨウ素交換反応は、触媒存在下で実行することが好ましく、触媒としては、例えば、硫酸銅が用いられる。また、pH調整剤を加えて、反応溶液中のpHを調整してもよい。このpH調整剤としては、例えば、ギ酸を使用することができる。
【0016】
加熱部20は、反応容器10を下方から加熱するためのものであり、
図1の合成装置1では、1−アセトキシ−2−エトキシエタンなどの熱媒を収容する熱媒容器201と、熱媒容器201に収容された熱媒を加熱するヒーター202と、を備えて構成されている。反応容器10は、熱媒容器201に接触して設置されている。より詳細には、本体部101の少なくとも底面に対して熱媒容器201が接触している。ヒーター202の熱が、熱媒容器201内の熱媒を介して、本体部101に伝達され、当該本体部101の少なくとも底面が加熱されるようになっている。なお、1−アセトキシ−2−エトキシエタンのような熱媒を還流させて使用する場合は、熱媒容器201には冷却管を取り付けてもよい。
【0017】
還流管30は、ヨウ素交換反応の反応溶液を反応容器10へ還流させるためのものである。還流管30の形状は、中空の細長の管状であれば、特に限定されない。還流管30の一端部30aは、反応容器10の接続口102に対して接続されている。
【0018】
上述のように、還流管30は、加熱部20の位置よりも上方に配置されている。還流管30の一部分301は、反応容器10よりも上方において、渦巻状又は蛇行状に設置されている。還流管30は、一端部30aを起点として、加熱部20から離れる方向に向かって延びていることが好ましい。還流管30の各部は、接続口102よりも高い位置に配置されているか、又は、接続口102と同じ高さ位置に配置されていることが好ましい。還流管30の材料は、本発明の合成装置1で実行するヨウ素交換反応の反応溶液に耐性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))とすることができる。
【0019】
還流管30の他端部30bは、トラップ401に接続されている。トラップ401は、図示しないチューブを介して、活性炭トラップ(活性炭を収容した容器)に接続されている。活性炭トラップは外部に開放されている。反応容器10側から活性炭トラップに導入された放射性ヨウ素を含む蒸気が、活性炭トラップを通過することによって、蒸気に含まれる溶射性ヨウ素が活性炭に吸着される。このため、活性炭トラップからは、放射性ヨウ素を実質的に含まない蒸気が外部に放出される。
【0020】
還流管30の長さは、接続口102から排出された蒸気を室温で冷却できるだけの十分な長さとなっている。反応容器10から還流管30へ排出された反応溶液の蒸気は、反応溶液の蒸気が還流管30内で冷却されて液体となり、この液体が還流管30を通して自重により反応容器10に戻る(還流する)。これにより、還流させながらヨウ素交換反応を行うことができるようになっている。
本実施形態においては、還流管30は、渦巻状又は蛇行状の一部分301を有するので、蒸気を冷却できるだけの還流管30の(特に一部分301の)十分な長さを確保しても、還流管30を省スペースに配置することができる。しかも、一部分301は、反応容器10よりも上方の位置に配置されているので、蒸気が冷却されることで液体に戻った反応溶液を、還流管30から反応容器10へとより確実に戻す(還流させる)ことができる。このような還流状態を保ちながらヨウ素交換反応を実行することによって、反応容器10における反応溶液の量を十分に維持することができるので、放射性ヨウ素標識化合物の良好な反応収率(合成収率)を実現することが可能となる。
【0021】
また、放射性ヨウ素は、放射線を発生するため、作業者の被曝防護の観点からは、少なくとも、反応容器10は、遮蔽体60で覆われていることが好ましい。
図1の例では、反応容器10及び加熱部20等は遮蔽体60の内部に配置されており、還流管30の一部分301及びトラップ401は、遮蔽体60の外部に配置されている。
【0022】
医薬品又は医薬品の原料として使用される放射性ヨウ素標識化合物は、清浄な環境で合成されることが好ましい。このため、合成装置1の反応容器10、加熱部20、遮蔽体60、還流管30及びトラップ401は、クリーンベンチ内に配置されることが好ましい。この場合、還流管30の一部分301は、このクリーンベンチの天井Wに沿って配置されることが好ましい。
【0023】
ここで、クリーンベンチとしては、天井Wから清浄な空気がダウンフローで吹き出されるタイプのものを用いることも好ましい。この場合、天井Wから吹き出される空気によって、還流管30の一部分301を冷却することができるため、一部分301の内部において、反応溶液の蒸気をスムーズに液体に戻すことができる。すなわち、合成装置1は、還流管30の一部分301を冷却する冷却部(クリーンベンチ)を有することが好ましい一例である。
【0024】
また、トラップ401は、加熱部20よりも上方に配置されることが好ましく、より好ましくは、反応容器10よりも上方に配置される。これにより、より確実に還流状態を保ちながらヨウ素交換反応を実行することができ、反応収率をさらに向上させることが可能となる。
【0025】
還流管30の一部分301が渦巻状の場合、反応容器10よりも上方の位置において、還流管30を少なくとも一重、好ましくは二重以上巻回することによって、一部分301が形成されている。
一部分301における還流管30の各巻回部の直径(巻径)は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
例えば、一部分301における各巻回部どうしは、周方向における複数箇所において留め具(不図示)によって拘束されることで束ねられている。ただし、本発明は、この例に限らず、一部分301は、予め渦巻状又は蛇行状に賦形されていてもよい。
【0026】
還流管30の一部分301は、例えば、クリーンベンチの天井Wの面に対して平行な面内において還流管30が巻回されることによって形成されていることが好ましい。すなわち、還流管30の一部分301は、例えば水平(略水平)に配置されていることが好ましい。
【0027】
また、還流管30の一部分301における各部の高さ位置は、反応容器10側から遠ざかるにつれて単調に上昇していることも好ましい。つまり、例えば、一部分301における反応容器10側の端である一端301aから、一部分301におけるトラップ401側の端である他端301bに向けて、一部分301における各部の高さ位置が単調に上昇していることも好ましい。
【0028】
本実施形態の一例として、
図1に示すように、還流管30は、一部分301と、一部分301と反応容器10との間に位置する第1中間部302(中間部)と、を含む。第1中間部302における各部の高さ位置は、反応容器10に接続されている第1中間部302の一端部(還流管30の一端部30a)から、一部分301に向けて(一部分301の一端301aに向けて)、単調に上昇している。つまり、還流管30の第1中間部302における各部の高さ位置は、反応容器10側に向けて単調に下がっていることも好ましい。
【0029】
なお、還流管30は、一部分301とトラップ401との間に位置する第2中間部303を含んでいる。一例として、第2中間部303における各部の高さ位置は、一部分301の他端301b側からトラップ401側に向けて単調に下降している。
【0030】
以下、合成装置1を用いて
123I−IMPを合成する方法の一例を、
図1を用いて説明する。
【0031】
熱媒容器201に熱媒として1−アセトキシ−2−エトキシエタンを加え、図示しない冷却管を熱媒容器201に設置する。また、還流管30としては、ポリテトラフルオロエチレン製のチューブを用い、
図1に示すように、遮蔽体60の外側において、クリーンベンチの天井Wに沿って渦巻状又は蛇行状の一部分301を設置する。
【0032】
放射性ヨウ素(例えば、
123I)は、サイクロトロンを用いて、下記式(1)の核反応によって製造できる。下記式(1)は
124Xeに陽子を照射し、生成する
123Csが壊変して
123Xeが得られ、さらに
123Xeが壊変することで、
123Iが得られる核反応を示す。
124Xe(p,2n)
123Cs→
123Xe→
123I (1)
【0033】
上記式(1)の核反応を経て製造された放射性ヨウ素(
123I)を水酸化ナトリウム水溶液(約5〜10mL)として投入口103から反応容器10の本体部101に投入する。
【0034】
次いで、反応容器10内の放射性ヨウ素(
123I)溶液を加熱しながら減圧下で蒸散を行い、残量が1mL程度になるまで濃縮する。
【0035】
次いで、非放射性のN−イソプロピル−4−ヨードアンフェタミン、硫酸銅及びギ酸の水溶液(約1〜2mL)を投入口103から反応容器10の本体部101に加え、熱媒温度を150℃になるように加熱して、40分間還流させながら、ヨウ素交換反応を実行する。
【0036】
ヨウ素交換反応後の反応液を冷却後、ジエチルエーテル、塩酸、水酸化ナトリウムを用いた液−液抽出により、後処理、及び、精製を行い、
123I−IMPを得る。
【0037】
<変形例>
変形例1として
図2(a)に示すように、還流管30の一部分301は、一端301aから他端301bに向けて徐々に巻径が縮小する渦巻状に形成されていてもよい。
または、還流管30の一部分301は、一端301aから他端301bに向けて徐々に巻径が拡大する渦巻状に形成されていてもよい。
変形例2として
図2(b)に示すように、還流管30の一部分301は、蛇行状に形成されていてもよい。
変形例3として
図2(c)に示すように、還流管30の一部分301は、途中で蛇行の向きが変化する蛇行状に形成されていてもよい。
各変形例1〜3の場合にも、還流管30の一部分301は水平(略水平)に配置されているか、又は、還流管30の一部分301における各部の高さ位置が反応容器10側から遠ざかるにつれて単調に上昇していることが好ましい。
なお、一部分301は、渦巻状の部分と蛇行状の部分との双方を含んで構成されていてもよい。
上記実施形態及び変形例は以下の技術思想を包含する。
(1)非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、
前記非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させて、前記ヨウ素交換反応を実行するための反応容器と、
前記反応容器を下方から加熱する加熱部と、
前記反応容器に接続され、前記ヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管と、
を有し、
前記還流管は、前記加熱部の位置よりも上方に配置され、
前記還流管の一部分は、前記反応容器よりも上方において、渦巻状又は蛇行状に設置されていることを特徴とする、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
(2)前記還流管の前記一部分は水平に配置されている(1)に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
(3)前記還流管の前記一部分における各部の高さ位置は、前記反応容器側から遠ざかるにつれて単調に上昇している(1)に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
(4)前記還流管は、前記一部分と、前記一部分と前記反応容器との間に位置する中間部と、を含み、
前記中間部における各部の高さ位置は、前記反応容器に接続されている前記中間部の一端部から、前記一部分に向けて、単調に上昇している(1)から(3)のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
(5)前記還流管の前記一部分を冷却する冷却部を有する(1)から(4)のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
更に、上記実施形態及び変形例は以下の技術思想を包含する。
<1>非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、
前記非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させて、前記ヨウ素交換反応を実行するための反応容器と、
前記反応容器を下方から加熱する加熱部と、
前記反応容器に接続され、前記ヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管と、
を有し、
前記還流管は、前記加熱部の位置よりも上方に配置され、
前記還流管の一部分は、前記反応容器よりも上方において、渦巻状に設置されており、
前記還流管の前記一部分は水平に配置されていることを特徴とする、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
<2>非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、
前記非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させて、前記ヨウ素交換反応を実行するための反応容器と、
前記反応容器を下方から加熱する加熱部と、
前記反応容器に接続され、前記ヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管と、
を有し、
前記還流管は、前記加熱部の位置よりも上方に配置され、
前記還流管の一部分は、前記反応容器よりも上方において、渦巻状に設置されており、
前記一部分は、天井面に対して平行な面内において二重以上巻回されていることを特徴とする、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
<3>非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、
前記非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させて、前記ヨウ素交換反応を実行するための反応容器と、
前記反応容器を下方から加熱する加熱部と、
前記反応容器に接続され、前記ヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管と、
を有し、
前記還流管は、前記加熱部の位置よりも上方に配置され、
前記還流管の一部分は、前記反応容器よりも上方において、渦巻状に設置されており、
前記一部分は、当該一部分における一端から他端に向けて徐々に巻径が縮小又は拡大していることを特徴とする、放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
<4>前記還流管は、前記一部分と、前記一部分と前記反応容器との間に位置する中間部と、を含み、
前記中間部における各部の高さ位置は、前記反応容器に接続されている前記中間部の一端部から、前記一部分に向けて、単調に上昇している<1>から<3>のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
<5>前記還流管の前記一部分を冷却する冷却部を有する<1>から<4>のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
<6>前記一部分は二重以上巻回されているとともに、前記一部分における各巻回部どうしは周方向における複数箇所において留め具によって拘束されることで束ねられている<1>から<5>のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
<7>前記還流管の材料は、ポリテトラフルオロエチレンである<1>から<6>のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
<8>前記還流管の他端部は、トラップに接続されており、
前記トラップは、チューブを介して活性炭トラップに接続されており、
前記活性炭トラップは、外部に開放されており、
前記トラップは、前記反応容器よりも上方に配置されており、
前記還流管は、前記反応容器と前記一部分との間に位置する中間部を含み、
前記中間部における各部の高さ位置は、前記反応容器側に向けて単調に下がっている<1>から<7>のいずれか一項に記載の放射性ヨウ素標識化合物の合成装置。
【実施例】
【0038】
図1の合成装置1および
図3に示す比較例の合成装置90を用いて
123I−IMPをそれぞれ合成し、合成収率を比較した。
【0039】
(実施例1)
実施例1では、上記の実施形態で説明した合成装置1を用いて
123I−IMPを合成した。合成装置1を用いた
123I−IMPの合成方法は、前述のとおりであり、約150GBqの放射性ヨウ素を用いて合成したところ、88.8±1.23%(平均値±標準偏差、n=3)であり、最も低くても87.9%の合成収率で
123I−IMPが得られた。
【0040】
(比較例1)
図3に示す合成装置90は、還流管30の代わりに還流管901を備え、トラップ401の代わりにトラップ902を備える点で、合成装置1と異なる。トラップ902は、加熱部20と同じ高さ位置、すなわち、反応容器10よりも下方に配置されている。還流管901は、チューブ状である点は、還流管30と同じである。ただし、還流管901の一端部901a(接続口102に接続されている端部)から他端部901b(トラップ902に接続されている端部)に向けて、還流管901の高さ位置は、一旦、加熱部20と同じ高さまで下がった後、反応容器10よりも上方の高さまで上がり、再びトラップ902の高さまで下がっている。また、還流管901は、渦巻状又は蛇行状の一部分301を備えていない。合成装置90を用いた
123I−IMPの合成方法は、合成装置1に代えて合成装置90を用いた以外は、前述のとおりであるが、約150GBqの放射性ヨウ素を用いて合成したところ、78.9±3.33%(平均値±標準偏差、n=3)であり、最も低いときは75.2%の合成収率であった。
【0041】
以上のことから、本発明によれば、ヨウ素交換反応による放射性ヨウ素標識化合物がより高い収率で得られることが示唆された。
【符号の説明】
【0042】
1 合成装置
10 反応容器
20 加熱部
30 還流管
30a 一端部
30b 他端部
50 バルブ
60 遮蔽体
90 合成装置
101 本体部
102 接続口
103 投入口
201 熱媒容器
202 ヒーター
301 一部分
301a 一端
301b 他端
302 第1中間部(中間部)
303 第2中間部
401 トラップ
901 還流管
902 トラップ
W 天井
【要約】
【課題】放射性ヨウ素標識化合物の良好な合成収率を実現する。
【解決手段】放射性ヨウ素標識化合物の合成装置1は、非放射性ヨウ素化合物からヨウ素交換反応により放射性ヨウ素標識化合物を合成するための放射性ヨウ素標識化合物の合成装置であって、非放射性ヨウ素化合物を溶液状態で還流させながら放射性ヨウ素と接触させてヨウ素交換反応を実行するための反応容器10と、反応容器10を下方から加熱する加熱部20と、反応容器10に接続されヨウ素交換反応の反応溶液を還流させるためのチューブ状の還流管30と、を有し、還流管30は、加熱部20の位置よりも上方に配置され、還流管30の一部分301は、反応容器10よりも上方において、渦巻状又は蛇行状に設置されている。
【選択図】
図1