特許第6682761号(P6682761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6682761植物油脂含有飲食品の風味改善方法、植物油脂含有飲食品の製造方法、嗜好性飲料、及びインスタント嗜好性飲料用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682761
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】植物油脂含有飲食品の風味改善方法、植物油脂含有飲食品の製造方法、嗜好性飲料、及びインスタント嗜好性飲料用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/14 20060101AFI20200406BHJP
   A23F 3/14 20060101ALI20200406BHJP
   A23G 1/32 20060101ALI20200406BHJP
   A23G 1/46 20060101ALI20200406BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20200406BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   A23F5/14
   A23F3/14
   A23G1/32
   A23G1/46
   A23L2/00 B
   A23L2/52
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-316(P2015-316)
(22)【出願日】2015年1月5日
(65)【公開番号】特開2015-144600(P2015-144600A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2017年11月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-452(P2014-452)
(32)【優先日】2014年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 幸平
(72)【発明者】
【氏名】浅野 一朗
(72)【発明者】
【氏名】藤井 繁佳
(72)【発明者】
【氏名】井村 直人
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−511965(JP,A)
【文献】 特表2012−505255(JP,A)
【文献】 特開2006−257246(JP,A)
【文献】 特開2010−213575(JP,A)
【文献】 特開平02−053455(JP,A)
【文献】 特表2002−542796(JP,A)
【文献】 特開2003−009804(JP,A)
【文献】 特開2005−143467(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0129516(US,A1)
【文献】 特開2003−102382(JP,A)
【文献】 特開平11−113492(JP,A)
【文献】 特開平11−243859(JP,A)
【文献】 JAOCS,1996年,Vol. 3, No. 6,pp. 713-716
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−35/00
A23F 3/00−5/50
A23G 1/00−9/52
A23C 1/00−23/00
A23D 7/00−9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油脂を含有する飲食品に、テルペン類を含有させて風味を改善する方法であり、
前記植物油脂が、パーム油、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、菜種油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される1種以上であり、
前記飲食品が、コーヒー飲料、紅茶飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料あり、
前記テルペン類がリモネン、β−ピネン、α−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、及びバレンセンからなる群より選択される一種以上であり、
前記飲食品における前記テルペン類の質量濃度が15ppm以下であり、
前記飲食品がコーヒー飲料又は抹茶飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0003〜0.05質量部の前記テルペン類を含有させ、
前記飲食品が紅茶飲料又はココア飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0166〜0.05質量部の前記テルペン類を含有させることを特徴とする、植物油脂含有飲食品の風味改善方法。
【請求項2】
前記テルペン類の含有量が、前記植物油脂100質量部に対して0.035質量部以下である、請求項1に記載の植物油脂含有飲食品の風味改善方法。
【請求項3】
前記飲食品における前記テルペン類の質量濃度を0.01〜15ppmとする、請求項1に記載の植物油脂含有飲食品の風味改善方法。
【請求項4】
前記飲食品が、さらに、乳原料を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の植物油脂含有飲食品の風味改善方法。
【請求項5】
植物油脂とテルペン類を含有する植物油脂含有飲食品の製造方法であって、
前記植物油脂が、パーム油、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、菜種油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される1種以上であり、
前記植物油脂含有飲食品が、コーヒー飲料、紅茶飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料あり、
前記テルペン類がリモネン、β−ピネン、α−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、及びバレンセンからなる群より選択される一種以上であり、
前記飲食品における前記テルペン類の質量濃度が15ppm以下であり、
前記飲食品がコーヒー飲料又は抹茶飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0003〜0.05質量部の前記テルペン類を含有させ、
前記飲食品が紅茶飲料又はココア飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0166〜0.05質量部の前記テルペン類を含有させることを特徴とする、植物油脂含有飲食品の製造方法。
【請求項6】
さらに、乳原料を含有させる、請求項5に記載の植物油脂含有飲食品の製造方法。
【請求項7】
コーヒー飲料、紅茶飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料からなる嗜好性飲料であって、
植物油脂と、テルペン類からなる香料と、乳原料とを含有し、
前記植物油脂が、パーム油、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、菜種油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される1種以上であり、
前記嗜好性飲料における前記テルペン類の質量濃度15ppm以下であり、
前記テルペン類がリモネン、β−ピネン、α−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、及びバレンセンからなる群より選択される一種以上であり、
前記嗜好性飲料がコーヒー飲料又は抹茶飲料の場合には、前記テルペン類の含有量が、前記植物油脂100質量部に対して0.0003〜0.05質量部であり、
前記嗜好性飲料が紅茶飲料又はココア飲料の場合には、前記テルペン類の含有量が、前記植物油脂100質量部に対して0.0166〜0.05質量部であことを特徴とする、嗜好性飲料。
【請求項8】
原料として、嗜好性飲料の可溶性固形分と、乳原料と、植物油脂と、テルペン類からなる香料とを含有しており、
前記嗜好性飲料が、コーヒー飲料、紅茶飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料であり、
前記テルペン類がリモネン、β−ピネン、α−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、及びバレンセンからなる群より選択される一種以上であり、
前記植物油脂が、パーム油、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、菜種油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される1種以上であり、
前記嗜好性飲料がコーヒー飲料又は抹茶飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0003〜0.05質量部の前記テルペン類を含有しており、
前記嗜好性飲料が紅茶飲料又はココア飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0166〜0.05質量部の前記テルペン類を含有しており、
液体に混合することによって、前記テルペン類の質量濃度が15ppm以下である飲料が得られることを特徴とする、インスタント嗜好性飲料用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物油脂を含有する飲食品において生じる、植物油脂の持つ油っぽさやクセ(特有の風味)を低減することにより風味を改善する方法、当該方法により植物油脂含有飲食品を製造する方法、並びに当該方法を用いて得られた嗜好性飲料及びインスタント嗜好性飲料用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に乳風味や 乳の食感を付与するため、 生乳やクリーム、クリームチーズ、 バターなどの乳製品が使用される。しかし、これらの材料はコストが高く、その配合量が制限されてしまうという問題がある。
【0003】
この問題を解決するために、乳脂肪分の一部又は全部を植物油脂で代替する方法が汎用されている。乳脂肪分に代えて植物油脂を用いることにより、より低コストで、乳風味の飲食品を製造することが可能になる。しかし、乳脂肪分に代えて植物油脂を用いることにより、コスト低減等の利点はあるが、植物油脂自体の風味(油っぽさやクセ)が付与されてしまう欠点もある。
【0004】
特許文献1には、加熱殺菌して調製される容器詰めのコーヒーの製造に際して、飲料中に、乳脂肪1重量当たり植物油脂を0.15〜2の割合で配合することにより、飲用後の不快な残り香や後味を改善する方法が開示されている。しかし、当該方法では、植物油脂の配合量によってはコーヒー等の素材の本来の好ましい風味がマスキングされてしまう場合や、乳様の食感が得られない場合がある。このため、乳様の食感及び風味を付与しながら、コーヒー等の素材の本来の風味がマスキングされることのない、最適な植物油脂の配合量については、明確ではない。
【0005】
特許文献2には、植物油脂及びカゼインを特定の配合量及び配合比率にすることにより、乳様の好ましい食感及び風味を有していながらも、コーヒーや紅茶などの素材の本来の風味がマスキングされることなく際立っている飲料が開示されている。しかしながら、当該飲料において配合される植物油脂の含有量は0.5〜2.0重量%であるが、植物油脂の含有量が2.0重量%より高いと、植物油脂自体の風味が強くなり飲料のコーヒー等の素材の風味がマスキングされ、素材本来の好ましい風味が損なわれてしまう。このため、使用する植物油脂の含有量は制限されている。
【0006】
一方、これまでに、飲食物の風味向上や改善などの課題に対し、様々な成分を配合することによる解決策が提案されている。例えば、特許文献3には、乳清ミネラルの添加によるカゼインナトリウム類のカゼイン臭の低減方法が開示されている。特許文献4には、スクラロースを有効成分として、米粉、小麦粉、そば粉、トウモロコシ粉等の穀物粉の粉臭さをマスキングするマスキング剤が開示されている。特許文献5には、セスキテルペンを含有する柑橘類由来の抽出物を有効成分として、豆乳臭をマスキングするための組成物が開示されている。特許文献6には、エステル、テルペン、アルコール等を有効成分として魚類抽出物に規定量含有させることにより、魚類抽出物特有の魚臭さをマスキングした液体食品組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4387440号公報
【特許文献2】特許第5306440号公報
【特許文献3】特許第3387643号公報
【特許文献4】特開2000−152764号公報
【特許文献5】特開2004−105011号公報
【特許文献6】特開2013−226131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3〜6で開示されているように、マスキング効果を有する成分を飲食品に添加することにより、特有の臭みや苦み、渋みといった風味の改善に関する報告はあるが、植物油脂を乳脂肪の代替として使用した飲食品において、その使用量や使用比率を制限することなく、かつコーヒーや紅茶などの素材の風味を維持しつつ、植物油脂自体の風味(油っぽさ、クセ)を抑制する方法はこれまでに無い。
【0009】
本発明は、植物油脂を用いた時に生じる、植物油脂自体の風味(油っぽさやクセ)を低減し、それを含む飲食品における全体的な風味を改善する方法、当該方法により植物油脂含有飲食品を製造する方法、並びに当該方法を用いて得られた嗜好性飲料及びインスタント嗜好性飲料用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、植物油脂を含有する飲食品に対して、テルペン類を添加することにより、植物油脂の持つ油っぽさやクセを低減し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
[1]本発明の第一の態様に係る植物油脂含有飲食品の風味改善方法は、植物油脂を含有する飲食品に、テルペン類を含有させて風味を改善する方法であり、前記植物油脂が、パーム油、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、菜種油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される1種以上であり、前記飲食品が、コーヒー飲料、紅茶飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料あり、前記テルペン類がリモネン、β−ピネン、α−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、及びバレンセンからなる群より選択される一種以上であり、前記飲食品における前記テルペン類の質量濃度が15ppm以下であり、前記飲食品がコーヒー飲料又は抹茶飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0003〜0.05質量部の前記テルペン類を含有させ、前記飲食品が紅茶飲料又はココア飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0166〜0.05質量部の前記テルペン類を含有させることを特徴とする。
[2]前記[1]の植物油脂含有飲食品の風味改善方法においては、前記テルペン類の含有量が、前記植物油脂100質量部に対して0.035質量部以下であることが好ましい。
[3]前記[1]の植物油脂含有飲食品の風味改善方法においては、前記植物油脂含有飲食品における前記テルペン類の質量濃度を0.01〜15ppmとすることが好ましい。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかの植物油脂含有飲食品の風味改善方法においては、前記植物油脂含有飲食品が、さらに、乳原料を含有することが好ましい。
[5]本発明の第二の態様に係る植物油脂含有飲食品の製造方法は、植物油脂とテルペン類を含有する植物油脂含有飲食品の製造方法であって、前記植物油脂が、パーム油、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、菜種油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される1種以上であり、前記植物油脂含有飲食品が、コーヒー飲料、紅茶飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料あり、前記テルペン類がリモネン、β−ピネン、α−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、及びバレンセンからなる群より選択される一種以上であり、前記飲食品における前記テルペン類の質量濃度が15ppm以下であり、前記飲食品がコーヒー飲料又は抹茶飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0003〜0.05質量部の前記テルペン類を含有させ、前記飲食品が紅茶飲料又はココア飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0166〜0.05質量部の前記テルペン類を含有させることを特徴とする、植物油脂含有飲食品の製造方法。
[6]前記[5]の植物油脂含有飲食品の製造方法においては、さらに、乳原料を含有させることが好ましい。
[7]本発明の第三の態様に係る嗜好性飲料は、コーヒー飲料、紅茶飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料からなる嗜好性飲料であって、植物油脂と、テルペン類からなる香料と、乳原料とを含有し、前記植物油脂が、パーム油、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、菜種油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される1種以上であり、前記嗜好性飲料における前記テルペン類の質量濃度15ppm以下であり、前記テルペン類がリモネン、β−ピネン、α−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、及びバレンセンからなる群より選択される一種以上であり、前記嗜好性飲料がコーヒー飲料又は抹茶飲料の場合には、前記テルペン類の含有量が、前記植物油脂100質量部に対して0.0003〜0.05質量部であり、前記嗜好性飲料が紅茶飲料又はココア飲料の場合には、前記テルペン類の含有量が、前記植物油脂100質量部に対して0.0166〜0.05質量部であことを特徴とする。
[8]本発明の第四の態様に係るインスタント嗜好性飲料用組成物は、原料として、嗜好性飲料の可溶性固形分と、乳原料と、植物油脂と、テルペン類からなる香料とを含有しており、前記嗜好性飲料が、コーヒー飲料、紅茶飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料であり、前記テルペン類がリモネン、β−ピネン、α−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、及びバレンセンからなる群より選択される一種以上であり、前記植物油脂が、パーム油、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、菜種油、及び中鎖脂肪酸トリグリセリドからなる群より選択される1種以上であり、前記嗜好性飲料がコーヒー飲料又は抹茶飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0003〜0.05質量部の前記テルペン類を含有しており、前記嗜好性飲料が紅茶飲料又はココア飲料の場合には、前記植物油脂100質量部に対して0.0166〜0.05質量部の前記テルペン類を含有しており、液体に混合することによって、前記テルペン類の質量濃度が15ppm以下である飲料が得られることを特徴とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、単にテルペン類を原料として用いることにより、植物油脂を原料とする飲食品において、植物油脂に由来する油っぽさやクセ(特有の風味)を低減させて飲食品の風味を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<植物油脂含有飲食品の風味改善方法、及び植物油脂含有飲食品の製造方法>
本発明に係る植物油脂含有飲食品の風味改善方法(以下、「本発明に係る風味改善方法」)は、植物油脂を含有する飲食品に、テルペン類を含有させることを特徴とする。植物油脂と共にテルペン類を配合することにより、植物油脂の持つ油っぽさやクセが低減され、飲食品の風味が改善される。テルペン類により植物油脂の持つ油っぽさやクセが低減される理由は明らかではないが、テルペン類の特有の香味により、植物油脂の油っぽさやクセがマスキングされるためではないかと推察される。
【0014】
本発明に係る風味改善方法において、改善対象となる飲食品(植物油脂含有飲食品)が含有する植物油脂としては、食用油であれば特に限定されず、天然油であってもよく、加工油であってもよく、合成油であってもよく、クリーミングパウダー(クリームの代用として、紅茶、コーヒー等の嗜好性飲料に添加される粉末)のような複合体であってもよい。当該食用油としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油(ココナッツオイル)、硬化ヤシ油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、大豆油、こめ油、サフラワー油(ベニバナ油)、綿実油、ひまわり油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。これらの植物油脂のうち、特にパーム油、パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、菜種油、又は中鎖脂肪酸トリグリセリドが好ましく用いられる。また、植物油脂含有飲食品が含有する植物油脂としては、一種類のみであってもよく、二種類以上が混合されていてもよい。
【0015】
クリーミングパウダーは、ヤシ油、パーム油、パーム核油、大豆油、コーン油、綿実油、ナタネ油、乳脂、牛脂、豚脂等の食用油脂;シヨ糖、グルコース、澱粉加水分解物等の糖質;カゼインナトリウム、第二リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、脱脂粉乳、乳化剤等のその他の原料等を、望まれる品質特性に応じて選択し、水に分散し、均質化し、乾燥することによって製造できる。本発明に係る飲料用組成物の製造方法において原料とするクリーミングパウダーとしては、植物性油脂と、コーンシロップ等の澱粉加水分解物と、乳タンパク質とを少なくとも含むものが好ましく、乳脂肪分と乳タンパク質とを少なくとも含むものであってもよい。
【0016】
クリーミングパウダーは、例えば、食用油脂をはじめとする原料を水中で混合し、次いで乳化機等で水中油型乳化液(O/Wエマルション)とした後、水分を除去することによって製造することができる。水分を除去する方法としては、噴霧乾燥、噴霧凍結、凍結乾燥、凍結粉砕、押し出し造粒法等、任意の方法を選択して行うことができる。得られたクリーミングパウダーは、必要に応じて、分級、造粒及び粉砕等を行ってもよい。
【0017】
本発明に係る風味改善方法において用いられるテルペン類としては、可食性のものであればよく、一般的に飲食品に添加される香料として使用される物の中から適宜選択して使用することができる。また、本発明に係る風味改善方法において用いられるテルペン類としては、天然物由来の精製油(精油)であってもよく、合成品であってもよい。
【0018】
具体的には、テルペン類としては、例えば、リモネン(D−リモネン、L−リモネン)、α−ピネン、β−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、バレンセン、及びp−シメン等が挙げられる。本発明においては、様々な飲食品に対して充分な効果が得られることから、テルペン類としてリモネン、α−ピネン、β−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、及びバレンセンからなる群より選択される一種以上を用いることが好ましく、D−リモネン及びβ−ピネンからなる群より選択される一種以上を用いることが特に好ましい。本発明においては、一種類のみを植物油脂含有飲食品に含有させてもよく、二種類以上のテルペン類を組み合わせて植物油脂含有飲食品に含有させてもよい。
【0019】
テルペン類による植物油脂の持つ油っぽさやクセが低減されるという効果(以下、単に「油感マスキング効果」ということがある。)はテルペン類の含有量に依存する。すなわち、飲食品中の植物油脂含量に対するテルペン類の含有量が高いほど、または飲食品中のテルペン類の含有量が高いほど、テルペン類による油感マスキング効果は高くなる。植物油脂含有飲食品の種類によっては、油感マスキング効果が高くなりすぎると、植物油脂含有飲食品の油っぽさが過剰に低くなり、全体の風味がすっきりしすぎて薄くなってしまう場合もある。植物油脂含有飲食品中の植物油脂に対して適当な量のテルペン類を含有させることにより、当該植物油脂含有飲食品に求められるコクやクリーム感を損なうことなく、植物油脂に由来する好ましくない油っぽさやクセを低減させることができる。
【0020】
植物油脂含有飲食品に含有させるテルペン類の量は、所望の強さの油感マスキング効果が得られるように、植物油脂含有飲食品の種類、植物油脂含有飲食品中の植物油脂の含有量等を考慮して、適宜決定できる。例えば、テルペン類がリモネンの場合、植物油脂含有飲食品に含有させるリモネンの量は、植物油脂含有飲食品中の植物油脂100質量部に対して0.0001〜0.05質量部であることが好ましく、0.0003〜0.035質量部であることがより好ましく、0.001〜0.02質量部であることがさらに好ましい。
【0021】
また、テルペン類の多くが特有の香味を有しているため、テルペン類の含有量が多くなりすぎると、テルペン類自体の香味が強くなり、異味に感じられるようになる。このため、植物油脂含有飲食品に含有させるテルペン類の質量濃度は、当該植物油脂含有飲食品中において当該テルペン類特有の香味がヒトの五感で検知可能な最小質量濃度(検知閾値濃度)以下であることが好ましく、検知閾値濃度の0.67倍濃度以下であることがより好ましい。例えば、テルペン類がリモネンの場合、植物油脂含有飲食品の種類によってやや変動するものの、検知閾値濃度はおよそ10〜20ppm程度である。このため、本発明に係る風味改善方法において、テルペン類としてリモネンを用いる場合、植物油脂含有飲食品に含有させるリモネン量は、15ppm以下が好ましく、0.01〜15ppmがより好ましく、0.1〜10ppm以下がさらに好ましく、0.5〜5ppmがよりさらに好ましい。なお、各植物油脂含有飲食品における各テルペン類の検知閾値濃度は、植物油脂含有飲食品に様々な濃度となるようにテルペン類を添加した場合に、当該テルペン類特有の香味がヒトの五感で検知できるかどうかを調べ、特有の香味が検知できた最小濃度値を決定することにより求められる。
【0022】
本発明に係る風味改善方法において、改善の対象となる植物油脂含有飲食品としては、植物油脂を含有するものであれば特に限定されるものではなく、食品であってもよく、飲料であってもよい。テルペン類を含有させることにより、油感マスキング効果に加えて、植物油脂含有飲食品の香り立ちもより良好になる。このため、特有の香りが重要な品質の一つである嗜好性飲料に対して本発明に係る風味改善方法を行うことが好ましく、特に、テルペン類による油感マスキング効果が顕著に発揮されるため、牛乳やクリームのようなクリーム感が期待される飲食品に対して行うことがより好ましい。クリーム感が期待される飲食品としては、例えば、乳原料及びクリーミングパウダーからなる群より選択される一種以上を原料として含有する飲食品が挙げられる。
【0023】
乳原料としては、全粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、牛乳、低脂肪乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、乳糖、生クリーム、バター、クリームチーズ等が挙げられる。
【0024】
具体的には、植物油脂含有食品としては、マーガリン、ファットスプレッド等が挙げられる。また、植物油脂含有飲料としては、乳原料やクリーミングパウダーを含有する嗜好性飲料や果汁飲料等が挙げられる。なお、「嗜好性飲料」とは、紅茶、緑茶、ウーロン茶等の茶飲料、ハーブティー、コーヒー、ココア、又はこれらの混合飲料を意味する。ハーブティーの原料としては、ハイビスカス、ローズヒップ、ペパーミント、カモミール、レモングラス、レモンバーム、ラベンダー等が挙げられる。本発明においては、植物油脂含有飲食品が、嗜好性飲料であることが好ましく、コーヒー飲料、紅茶飲料、ココア飲料、又は抹茶飲料であって乳原料を含有するものがより好ましい。
【0025】
本発明に係る風味改善方法を用いることにより、植物油脂の持つ油っぽさやクセが低減された植物油脂含有飲食品を製造することができる。具体的には、植物油脂100質量部に対して0.0001〜0.05質量部のテルペン類を含有させるように原料を配合する。特に、乳脂の代替物として植物油脂を用いる飲食品を製造する際に、原料としてさらにテルペン類を用いることにより、植物油脂の持つ油っぽさやクセを低減し、飲食品の全体的な風味を改善することができる。例えば、植物油脂と、乳原料及びクリーミングパウダーからなる群より選択される一種以上とを含有する嗜好性飲料に対して、テルペン類として香料を用いて本発明に係る風味改善方法を行うことにより、植物油脂と、テルペン類からなる香料と、乳原料及びクリーミングパウダーからなる群より選択される一種以上とを含有する嗜好性飲料が製造できる。
【0026】
<嗜好性飲料及びインスタント嗜好性飲料用組成物>
本発明に係る嗜好性飲料は、植物油脂と、テルペン類からなる香料と、乳原料とを含有することを特徴とする。本発明に係る嗜好性飲料は、テルペン類からなる香料を含有するため、植物油脂を含有するにもかかわらず、植物油脂の持つ油っぽさやクセが低減された嗜好性飲料である。
【0027】
また、本発明に係るインスタント嗜好性飲料用組成物(以下、「本発明に係る飲料用組成物」)は、原料として、嗜好性飲料の可溶性固形分と、乳原料と、植物油脂と、テルペン類からなる香料とを含有することを特徴とする。本発明に係る飲料用組成物を、水や牛乳等の液体に混合することによって、植物油脂を含有するにもかかわらず、植物油脂の持つ油っぽさやクセが低減された嗜好性飲料が調製できる。
【0028】
乳原料、植物油脂、及びテルペン類としては、前記の通りのものを用いることができる。
【0029】
本発明に係る嗜好性飲料及び本発明に係る飲料用組成物におけるテルペン類からなる香料の含有量としては、油感マスキング効果が発揮される量であれば特に限定されるものではないが、当該嗜好性飲料や当該飲料用組成物を水等に溶解させて得られた飲料におけるテルペン類の質量濃度が、当該飲料において当該テルペン類特有の香味がヒトの五感で検知可能な最小質量濃度(検知閾値濃度)以下であることが好ましく、検知閾値濃度の0.67倍濃度以下であることがより好ましい。特に、テルペン類がリモネンの場合、飲料用組成物中のリモネン含有量としては、植物油脂100質量部に対して0.0001〜0.05質量部であることが好ましく、0.0003〜0.035質量部であることがより好ましく、0.001〜0.02質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明に係る嗜好性飲料は、常法により調製された嗜好性飲料に、植物油脂等を混合することにより調製できる。具体的には、例えば、紅茶、緑茶、ウーロン茶等の茶葉や、ハーブティーの原料、コーヒー豆等の嗜好性原料から抽出された抽出液に植物油脂等を混合することにより調製することができる。また、本発明に係る嗜好性飲料は、嗜好性飲料の可溶性固形分と植物油脂等を共に水等の液体に溶解させることにより調製することもできる。
【0031】
本発明に係る嗜好性飲料及び本発明に係る飲料用組成物において原料として用いられる嗜好性飲料の可溶性固形分は、茶葉やコーヒー豆等の嗜好性原料から抽出された可溶性の固形分であり、粉末であってもよく、水溶液であってもよい。本発明に係る飲料用組成物を製造する場合には、保存安定性が良好であるため、粉末の可溶性固形分を原料とすることが好ましい。粉末の可溶性固形分としては、具体的には、インスタント紅茶粉末、インスタント緑茶粉末、インスタントウーロン茶粉末、インスタントハーブティー粉末、インスタントコーヒー粉末、ココアパウダー、及びこれらのうちの二種類以上の混合粉末等したものが挙げられる。
【0032】
嗜好性飲料の可溶性固形分は、常法により製造することができ、また、市販されているものを用いてもよい。例えば、茶飲料の可溶性固形分は、紅茶葉、緑茶葉(生茶葉)、ウーロン茶葉等の茶葉から熱水を用いて可溶性の固形分を抽出することで得られ、得られた抽出物を乾燥し、粉末化してもよい。また、インスタントコーヒー粉末は、焙煎したコーヒー豆から熱水を用いて可溶性の固形分を抽出することで得られ、得られた抽出物を乾燥し、粉末化してもよい。ハーブティーの可溶性固形分は、ハーブの原料から熱水を用いて可溶性の固形分を抽出することで得られ、得られた抽出物を乾燥することによりインスタントハーブティー粉末が得られる。茶葉やコーヒー豆等の嗜好性飲料の原料としては、一般的に嗜好性飲料に使用されているものを用いることができる。嗜好性飲料の原料から得られた抽出物は、必要に応じて濃縮してもよい。当該濃縮方法としては、熱濃縮方法、冷凍濃縮方法、逆浸透膜や限外濾過膜等を用いた膜濃縮方法等の汎用されている濃縮方法により行うことができる。また、嗜好性飲料の原料から得られた抽出物の乾燥方法としては、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
【0033】
本発明に係る嗜好性飲料及び本発明に係る飲料用組成物の製造においては、望まれる品質特性によってその他の原料をさらに用いることができる。当該その他の原料としては、紅茶飲料やコーヒー飲料等に配合可能な成分が挙げられる。具体的には、甘味料、香料(但し、テルペン類は除く。)、澱粉分解物等が挙げられる。さらに、必要に応じて着色料を添加して色調を調整することもできる。また、必要に応じて、茶類やハーブ、コーヒー等を抽出することなく微粉砕したものを混ぜてもよい。また、本発明に係る飲料用組成物が粉末の場合には、当該その他の原料として、賦形剤、結合剤、流動性改良剤(固結防止剤)等も挙げられる。
【0034】
甘味料としては、砂糖、ショ糖、オリゴ糖、ブドウ糖、果糖等の糖類、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール等の糖アルコール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース等の高甘味度甘味料、ステビア等が挙げられる。
【0035】
賦形剤や結合剤としては、デキストリン等の澱粉分解物、麦芽糖、トレハロース等の糖類、難消化性デキストリン等の食物繊維、カゼイン等のタンパク質等が挙げられる。中でも、インスタント紅茶用組成物やインスタントコーヒー用組成物に汎用されているデキストリンが好ましい。なお、賦形剤や結合剤は、造粒時の担体としても用いられる。
【0036】
流動性改良剤としては、微粒酸化ケイ素、第三リン酸カルシウム等の加工用製剤が用いられてもよい。
【0037】
本発明に係る嗜好性飲料及び本発明に係る飲料用組成物の製造においては、さらに、原料として酸味料を配合してもよい。原料として酸味料を配合することにより、嗜好性飲料や得られた飲料用組成物から調製される嗜好性飲料の味にアクセントをつけることもできる。
【0038】
本発明に係る嗜好性飲料及び本発明に係る飲料用組成物は、例えば、嗜好性飲料の可溶性固形分と、乳原料と、植物油脂と、テルペン類からなる香料と、必要に応じてその他の原料とを、混合することによって製造される。混合の順番は特に限定されるものではなく、全ての原料を同時に混合してもよく、順次混合させてもよい。全ての原料が液状の場合には、全ての原料をそのまま混合することによって、液状の嗜好性飲料又は飲料用組成物が製造される。一方で、全ての原料が粉末の場合には、全ての原料をそのまま混合することによって、粉末の飲料用組成物が製造される。
【0039】
本発明に係る飲料用組成物の製造において粉末原料と液状の原料を用いる場合、粉末の原料を全て予め混合し、得られた混合粉末に、液状の原料の混合液を噴霧して乾燥させることによって、粉末の飲料用組成物が製造される。例えば、本発明に係る飲料用組成物は、水、アルコール類、グリセリン類、又はこれらの混合溶媒に溶解させたデキストリンを、固形状の原料を全て混合した混合物の造粒時噴霧した後、得られた造粒物を乾燥させることによって製造できる。逆に、液状の原料の混合液に、粉末の原料を溶解又は分散させることによって、液状の飲料用組成物が製造される。
【実施例】
【0040】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。なお、以下の実施例等において、特に記載がない限り、「%」は「質量%」、「ppm」は「質量ppm」を意味する。
【0041】
[実施例1]
脂肪分として乳脂(還元乳)のみを含有するミルクコーヒー飲料と、脂肪分として植物油脂のみを含有するミルクコーヒー飲料と、脂肪分として植物油脂のみを含有し、かつリモネンも含有するミルクコーヒー飲料とを調製し、植物油脂特有のクセとコーヒーの香り立ちを評価した。具体的には、表1の処方で、ミルクコーヒー飲料を調製し、アイス飲用(約4℃〜10℃)した時のコーヒーの鼻から抜ける香り、及び植物油脂のクセを評価した。表1中、インスタントコーヒー粉末は市販品(商品名:〈マキシム〉、味の素ゼネラルフーヅ(株)製)である。
【0042】
【表1】
【0043】
評価結果を表1に示す。この結果、乳脂のみを使用した飲料1−1は、当然ながら植物油脂のクセや不快な油っぽさはなく、かつコーヒーの香り立ちも良好であった。一方で、植物油脂のみを使用した飲料1−2は、植物油脂のクセがあり、かつコーヒーの香り立ちがやや不良であった。これに対して、飲料1−2にリモネンを添加した飲料1−3は、植物油脂のクセや油っぽさはなく、コーヒーの香り立ちも良好であった。これらの結果から、リモネンを含有させることにより、植物油脂特有のクセや油っぽさを抑制できることが明らかになった。
【0044】
[実施例2]
脂肪分として植物油脂のみを含有するミルクコーヒー飲料に対して様々な濃度のリモネンを添加し、その効果を調べた。
具体的には、表2の処方で、脂肪分として乳脂(還元乳)のみを含有するミルクコーヒー飲料2−1と、脂肪分として植物油脂のみを含有するミルクコーヒー飲料2−2と、脂肪分として植物油脂のみを含有し、かつリモネン濃度が0.05、0.1、0.5、1、5、10、15、又は20ppm(0.000005、0.00001、0.00005、0.0001、0.0005、0.001、0.0015、又は0.002%)となるように添加したミルクコーヒー飲料2−3〜2−10とを調製した。表2中のインスタントコーヒー粉末は表1と同じである。
【0045】
【表2】
【0046】
調製されたミルクコーヒー飲料のうち、リモネンを添加した飲料2−3〜2−10について、リモネン風味(柑橘様の風味)を感じるかどうかを、3名のパネルにより評価した。この結果、20ppmのリモネンを添加した飲料2−10は、3名のパネル全員がリモネン風味を感じると評価し、15ppmのリモネンを添加した飲料2−9は、3名のパネルのうち1名がリモネン風味を感じると評価し、残る2名は感じないと評価した。0.005〜10ppmのリモネンを添加した飲料2−3〜2−8については、3名のパネル全員がリモネン風味を感じないと評価した。
【0047】
リモネン風味が感じられなかった飲料2−3〜2−9について、油っぽさと植物油脂特有のクセに対するリモネンの効果を評価した。表3に示すように、各パネルが5段階(5点表記)で評価し、全パネルによる総評を5段階(○×表記)で評価した。リモネン不含有の飲料2−2を規準とし、油っぽさと植物油脂特有のクセが、飲料2−2と同程度の場合には「効果なし」とし、飲料2−2よりも油っぽさと植物油脂特有のクセが低減するほど、効果があるとした。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
評価結果を、各飲料中のリモネン濃度と共に表4に示す。表中、「リモネン濃度(飲料中、ppm)」とは、各飲料中のリモネン濃度を示し、「リモネン濃度(対油脂、ppm)」とは、各飲料中の植物油脂に対するリモネン濃度を示す。この結果、リモネンを含有させた飲料2−3〜2−9の全てにおいて、油っぽさと植物油脂特有のクセが低減しており、リモネンによる油感マスキング効果が確認された。中でも、飲料中のリモネン濃度が0.1〜5ppmであり、対植物油脂に対するリモネン濃度が3.3〜166ppm(植物油脂100質量部に対して0.00033〜0.0166質量部)である飲料2−4〜2−7では、高い効果が得られた。よりリモネン濃度が高い飲料2−8及び2−9は、油感が減り過ぎた結果、ミルクコーヒー飲料としてはすっきりとしすぎて薄くなったため、飲料2−7等よりも評価が低くなった。
【0051】
[実施例3]
植物油脂を含有するココア飲料、抹茶ミルク飲料、及びミルク紅茶飲料に対してリモネンを添加し、油感マスキング効果について調べた。
具体的には、表5に示す処方にて、リモネンを飲料中の濃度が1、5、又は10ppm(0.0001、0.0005、又は0.001%)となるように添加したココア飲料3a−1〜3a−3、抹茶ミルク飲料3b−1〜3b−3、ミルク紅茶飲料3c−1〜3c−3を調製した。表中、ココアパウダーは市販品(森永製菓(株)製)、抹茶パウダーは市販品(共栄製茶(株)製)である。紅茶は、市販品(三井農林(株)製)の茶葉70gに95℃の湯を500mL注ぎ、5分間抽出し、Brix分を固形分として調整したものである。
【0052】
【表5】
【0053】
各飲料について、油っぽさと植物油脂特有のクセに対するリモネンの効果を、リモネン不含有の飲料を規準とし、実施例2と同様にして評価した。3名のパネルによる総評の結果を、各飲料中のリモネン濃度及びパネルのコメントと共に表6〜8に示す。表中、「リモネン濃度(飲料中、ppm)」とは、各飲料中のリモネン濃度を示し、「リモネン濃度(対油脂、ppm)」とは、各飲料中の植物油脂に対するリモネン濃度を示す。この結果、リモネンを含有させた全ての飲料において、油っぽさと植物油脂特有のクセが低減しており、コーヒー以外の嗜好性飲料(抹茶、紅茶、ココア)でも同様の効果があることがわかった。
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
[実施例4]
異なる種類の植物油脂を含有するミルクコーヒー飲料に対してリモネンを添加し、油感マスキング効果について調べた。
具体的には、表9に示す処方にて、リモネンを飲料中の濃度が5ppm(0.0005%)となるように添加したミルクコーヒー飲料を調製した。表9中のインスタントコーヒー粉末は表1と同じである。
【0058】
【表9】
【0059】
飲料4−1〜4−2について、油っぽさと植物油脂特有のクセに対するリモネンの効果を、リモネン不含有の飲料を規準とし、実施例2と同様にして評価した。3名のパネルによる総評の結果を、各飲料中のリモネン濃度と共に表9に示す。表中、「リモネン濃度(飲料中、ppm)」とは、各飲料中のリモネン濃度を示し、「リモネン濃度(対油脂、ppm)」とは、各飲料中の植物油脂に対するリモネン濃度を示す。この結果、リモネンを含有させた飲料4−1〜4−2の両方において、油っぽさと植物油脂特有のクセが低減しており、植物油脂の種類にかかわらず、リモネンによる油感マスキング効果が確認された。
【0060】
[実施例5]
脂肪分として乳脂(還元乳)と植物油脂の両方を含有するミルクコーヒー飲料に対してリモネンを添加し、その効果を調べた。
具体的には、表10の処方で、脂肪分の30%が乳脂(還元乳)であり、70%が植物油脂であるミルクコーヒー飲料5−1と、このミルクコーヒー飲料5−1にリモネンを飲料中の濃度が0.5、1、5、又は10ppm(0.00005、0.0001、0.0005、又は0.001%)となるように添加したミルクコーヒー飲料5−2〜5−5とを調製した。表10中のインスタントコーヒー粉末は表1と同じである。
【0061】
【表10】
【0062】
飲料5−2〜5−5について、油っぽさと植物油脂特有のクセに対するリモネンの効果を、リモネン不含有の飲料5−1を規準とし、実施例2と同様にして評価した。3名のパネルによる総評の結果を、各飲料中のリモネン濃度と共に表11に示す。表中、「リモネン濃度(飲料中、ppm)」とは、各飲料中のリモネン濃度を示し、「リモネン濃度(対油脂、ppm)」とは、各飲料中の植物油脂に対するリモネン濃度を示す。この結果、リモネンを含有させた飲料5−2〜5−5の全てにおいて、油っぽさと植物油脂特有のクセが低減しており、植物油脂と乳脂の両方を含有する飲料においても、リモネンによる油感マスキング効果が確認された。
【0063】
【表11】
【0064】
[実施例6]
植物油脂と乳脂の含有割合の異なるミルクコーヒー飲料におけるリモネンの油感マスキング効果について調べた。
表12に示す処方にて、脂肪分として植物油脂のみを含有するミルクコーヒー飲料6−1と、脂肪分として乳脂(還元乳)のみを含有するミルクコーヒー飲料6−2とを調製し、さらに両者を1:3、1:1、又は3:1で混合したミルクコーヒー飲料6−3〜6−5を調製し、植物油脂特有のクセを評価した。表12中のインスタントコーヒー粉末は表1と同じである。
【0065】
【表12】
【0066】
【表13】
【0067】
3名のパネルの評価と総評の結果を、各飲料中の乳脂と植物油脂の含有割合と共に表13に示す。この結果、植物油脂の含有割合の多い飲料ほど、高い油感マスキング効果が得られた。乳脂しか含有していない飲料では、元々植物油脂に特有のクセや油っぽさがないため、リモネン添加によりやや異味が感じられた。
【0068】
[実施例7]
植物油脂と乳脂の含有割合の異なるココア飲料におけるリモネンの油感マスキング効果について調べた。
具体的には、インスタントコーヒー粉末にかえて、ココアパウダー(森永製菓(株)製)を用いた以外は、実施例6と同様にして、脂肪分中、乳脂と植物油脂の含有割合が、0:1、1:3、1:1、3:1、又は1:0であるココア飲料7−1、7-3〜5、7−2を調製し、植物油脂特有のクセを評価した。
【0069】
【表14】
【0070】
3名のパネルの評価と総評の結果を、各飲料中の乳脂と植物油脂の含有割合と共に表14に示す。この結果、実施例6のミルクコーヒー飲料の場合と同様に、植物油脂の含有割合の多い飲料ほど、高い油感マスキング効果が得られた。乳脂しか含有していない飲料では、元々植物油脂に特有のクセや油っぽさがないため、リモネン添加によりやや異味が感じられた。
【0071】
[実施例8]
乳原料を含有しないコーヒー飲料に対してリモネンを添加し、油感マスキング効果について調べた。
具体的には、表15に示す処方にて、脂肪分として植物油脂のみを含有し、乳原料を含有していないクリーミングパウダーを含有するコーヒー飲料8−1と、このコーヒー飲料8−1にリモネンを飲料中の濃度が0.5、5、又は10ppm(0.00005、0.0005、又は0.001%)となるように添加したコーヒー飲料8−2〜8−4を調製した。表15中のインスタントコーヒー粉末は表1と同じであり、クリーミングパウダーは市販品(商品名:〈マリーム〉、味の素ゼネラルフーヅ(株)製)である。
【0072】
【表15】
【0073】
【表16】
【0074】
飲料8−2〜8−4について、油っぽさと植物油脂特有のクセに対するリモネンの効果を、リモネン不含有の飲料8−1を規準とし、実施例2と同様にして評価した。3名のパネルによる総評の結果を、各飲料中のリモネン濃度と共に表16に示す。表中、「リモネン濃度(飲料中、ppm)」とは、各飲料中のリモネン濃度を示し、「リモネン濃度(対油脂、ppm)」とは、各飲料中の植物油脂に対するリモネン濃度を示す。この結果、リモネンを含有させた飲料8−2〜8−4の全てにおいて、油っぽさと植物油脂特有のクセが低減しており、乳原料を含有しない飲料においても、リモネンによる油感マスキング効果が確認された。
【0075】
[実施例9]
スプレッドに対してリモネンを添加し、油感マスキング効果について調べた。
具体的には、市販品のチョコレートスプレッド(商品名:〈明治クリーミースムース(チョコレート仕立て)〉、(株)明治製、無脂乳固形分:1.4%、乳脂肪分:9.5%、植物性脂肪分:47.1%)に、リモネンを、スプレッド中の濃度が1ppm(スプレッド中の植物油脂に対するリモネン濃度が2ppm)となるように混合し、実施例2と同様にして植物油脂特有のクセを評価した。
この結果、リモネン添加前のチョコレートスプレッドに比べて、リモネンを混合したチョコレートスプレッドは、油っぽさと植物油脂特有のクセが明らかに低減しており、植物油脂含有食品においてもリモネンによる油感マスキング効果があることが確認された。
【0076】
[実施例10]
脂肪分として植物油脂のみを含有するミルクコーヒー飲料に対して様々なテルペン類を添加し、その効果を調べた。
具体的には、表17の処方で、脂肪分として植物油脂のみを含有するミルクコーヒー飲料10−1と、脂肪分として植物油脂のみを含有し、かつテルピノレン、β−ピネン、α−ピネン、リナロール、ヌートカトン、又はバレンセンを表18に記載の濃度となるように添加したミルクコーヒー飲料10−2〜10−7を調製した。表17中のインスタントコーヒー粉末は表1と同じである。
【0077】
【表17】
【0078】
【表18】
【0079】
各飲料について、油っぽさと植物油脂特有のクセに対するテルペン類の効果を、テルペン類不含有の飲料10−1を規準とし、実施例2と同様にして評価した。3名のパネルによる総評の結果とパネルのコメントを、各飲料中のテルペン類の種類及び濃度と共に表18に示す。表中、「テルペン類」とは各飲料に添加したテルペン類の種類を示し、「テルペン類濃度(飲料中、ppm)」とは、各飲料中に添加したテルペン類の濃度を示し、「テルペン類濃度(対油脂、ppm)」とは、各飲料中の植物油脂に対するテルペン類濃度を示す。この結果、β−ピネン、α−ピネン、テルピノレン、リナロール、ヌートカトン、又はバレンセンを添加した飲料10−2〜10−7のいずれにおいても、油っぽさと植物油脂特有のクセが低減しており、リモネン以外のテルペン類であっても、リモネンと同様の効果があることがわかった。