(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682762
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】Ni合金鋳造品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 27/20 20060101AFI20200406BHJP
B22D 27/04 20060101ALI20200406BHJP
B22D 21/00 20060101ALI20200406BHJP
B22C 9/22 20060101ALI20200406BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20200406BHJP
F04D 29/38 20060101ALI20200406BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20200406BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20200406BHJP
C22C 19/05 20060101ALN20200406BHJP
【FI】
B22D27/20 B
B22D27/04 A
B22D21/00 C
B22C9/22 C
C22C1/02 503G
F04D29/38 F
F01D5/28
F02C7/00 D
F02C7/00 C
!C22C19/05 C
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-19261(P2015-19261)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-140894(P2016-140894A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年12月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂征
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】関口 達也
【審査官】
河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−331352(JP,A)
【文献】
特開昭61−71168(JP,A)
【文献】
特開2014−131816(JP,A)
【文献】
特開2013−136097(JP,A)
【文献】
特開2002−331353(JP,A)
【文献】
特開平03−134201(JP,A)
【文献】
特開平05−200529(JP,A)
【文献】
特開昭57−184572(JP,A)
【文献】
特開昭51−050814(JP,A)
【文献】
特開2010−075999(JP,A)
【文献】
米国特許第4905752(US,A)
【文献】
中国特許出願公開第101294250(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 21/00,27/04
B22C 9/22
C22C 1/02,19/03,19/05
F04D 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni合金鋳造品の製造方法であって、
Ni合金溶湯を鋳型のキャビティに注湯して鋳込む鋳込み工程と、
前記Ni合金溶湯を注湯した鋳型を、固液界面に温度勾配を設けて引抜速度100mm/時間以上400mm/時間以下で引き抜いて凝固させることにより、柱状晶を形成する柱状晶形成工程と、
前記柱状晶形成工程の後に連続して引抜速度1000mm/分以上で引き抜いて凝固させることにより等軸晶を形成する等軸晶形成工程と、
を備えることを特徴とするNi合金鋳造品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のNi合金鋳造品の製造方法であって、
前記鋳型は、前記鋳型のキャビティ側に、コバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含む結晶粒微細化層を有しており、
前記柱状晶形成工程は、固液界面の温度勾配を80℃/cm以上にすることを特徴とするNi合金鋳造品の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のNi合金鋳造品の製造方法であって、
前記鋳型は、前記鋳型のキャビティ側における等軸晶を形成する領域にコバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含む結晶粒微細化層を有しており、前記鋳型のキャビティ側における柱状晶を形成する領域に前記結晶粒微細化層を有していないことを特徴とするNi合金鋳造品の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のNi合金鋳造品の製造方法であって、
前記結晶粒微細化剤は、アルミン酸コバルト、酸化コバルト、酢酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、スルフォン酸コバルト、硫酸アンモニウムコバルト、チオシアン酸コバルトまたは硝酸コバルトであることを特徴とするNi合金鋳造品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のNi合金鋳造品の製造方法であって、
前記Ni合金鋳造品は、タービンブレードであり、
前記タービンブレードの翼部が柱状晶で形成され、前記タービンブレードのダブテール部が等軸晶で形成されることを特徴とするNi合金鋳造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni合金鋳造品の製造方法及びNi合金鋳造品に関する。
【背景技術】
【0002】
Ni合金鋳造品、例えば、Ni合金で鋳造されたタービンブレードでは、翼部にはクリープ強度が要求され、ダブテール部には疲労強度が要求される。このため、タービンブレードの翼部を柱状晶組織とし、ダブテール部を等軸晶組織とすることにより、強度特性に優れたタービンブレードを鋳造することができる。
【0003】
特許文献1には、翼部が柱状晶組織であり、ダブテール部が等軸晶組織であるNi基合金製のタービン用動翼の製造方法において、1回目の鋳込みで翼部の体積と等しい量の合金を鋳込み、一方向凝固させて柱状晶組織を形成した後に、追加チャージして2回目の鋳込みを行うことにより等軸晶組織を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−134201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されているように、複数回の鋳込みを行って柱状晶組織と等軸晶組織とからなるNi合金鋳造品を製造する場合には、鋳込み回数の増加や鋳込み作業の煩雑等により、Ni合金鋳造品の生産性が低下する可能性がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、Ni合金鋳造品の生産性を向上させることが可能なNi合金鋳造品の製造方法及びNi合金鋳造品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るNi合金鋳造品の製造方法は、Ni合金溶湯を鋳型のキャビティに注湯して鋳込む鋳込み工程と、前記Ni合金溶湯を注湯した鋳型を、固液界面に温度勾配を設けて引抜速度100mm/時間以上400mm/時間以下で引き抜いて凝固させることにより、柱状晶を形成する柱状晶形成工程と、前記柱状晶形成工程の後に連続して引抜速度1000mm/分以上で引き抜いて凝固させることにより等軸晶を形成する等軸晶形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るNi合金鋳造品の製造方法において、前記鋳型は、前記鋳型のキャビティ側に、コバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含む結晶粒微細化層を有しており、前記柱状晶形成工程は、固液界面の温度勾配を80℃/cm以上にすることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るNi合金鋳造品の製造方法において、前記鋳型は、前記鋳型のキャビティ側における等軸晶を形成する領域にコバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含む結晶粒微細化層を有しており、前記鋳型のキャビティ側における柱状晶を形成する領域に前記結晶粒微細化層を有していないことを特徴とする。
【0010】
本発明に係るNi合金鋳造品の製造方法において、前記結晶粒微細化剤は、アルミン酸コバルト、酸化コバルト、酢酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、スルフォン酸コバルト、硫酸アンモニウムコバルト、チオシアン酸コバルトまたは硝酸コバルトであることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るNi合金鋳造品の製造方法において、前記Ni合金鋳造品は、タービンブレードであり、前記タービンブレードの翼部が柱状晶で形成され、前記タービンブレードのダブテール部が等軸晶で形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るNi合金鋳造品は、上記のいずれか1つに記載のNi合金鋳造品の製造方法で製造されたNi合金鋳造品における引抜方向に対して直交方向の柱状晶の結晶粒径が、0.45mmから0.55mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、鋳込み後の引抜速度を連続して変えることにより、柱状晶を形成した後に連続して等軸晶を形成するので、Ni合金鋳造品の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態において、Ni合金鋳造品の製造方法の構成を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施の形態において、鋳造装置の構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態において、鋳型の構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態において、鋳込み工程を説明するための図である。
【
図5】本発明の実施の形態において、柱状晶形成工程を説明するための図である。
【
図6】本発明の実施の形態において、等軸晶形成工程を説明するための図である。
【
図7】本発明の実施の形態において、他の鋳型の構成を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態において、タービンブレードの構成を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施の形態において、Ni合金鋳造品の外観観察結果を示す写真である。
【
図10】本発明の実施の形態において、Ni合金鋳造品のミクロ組織観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、Ni合金鋳造品の製造方法の構成を示すフローチャートである。Ni合金鋳造品の製造方法は、鋳込み工程(S10)と、柱状晶形成工程(S12)と、等軸晶形成工程(S14)と、を備えている。
【0016】
まず、Ni合金鋳造品を鋳造するための鋳造装置について説明する。
図2は、鋳造装置10の構成を示す図である。
【0017】
鋳造装置10は、真空チャンバ等のチャンバ(図示せず)と、Ni合金原料を溶解するための溶解坩堝(図示せず)と、を備えている。鋳造装置10には、鋳型12を加熱するための加熱帯14と、鋳型12を冷却するための冷却帯16とが設けられている。加熱帯14は、ヒータ18と、サセプタ20とを含んで構成されている。冷却帯16は、水冷チルリング22と、水冷チルプレート24と、昇降体26とを含んで構成されている。水冷チルプレート24は、昇降体26に取り付けられており、水冷チルプレート24に載置された鋳型12を加熱帯14や冷却帯16に移動可能に構成されている。加熱帯14と冷却帯16との間には、熱遮蔽するための熱遮蔽板28が設けられている。鋳造装置10については、Ni合金等の金属材料の一方向凝固鋳造を行うときに用いられる一般的な鋳造装置を用いることができる。
【0018】
次に、鋳型12について説明する。
図3は、鋳型12の構成を示す図である。鋳型12は、Ni合金溶湯が注湯されるキャビティ12aを備えている。鋳型12は、キャビティ12a側に設けられた結晶粒微細化層12bと、結晶粒微細化層12bの外側に設けられたバックアップ層12cと、を有している。
【0019】
結晶粒微細化層12bは、コバルト化合物からなる結晶粒微細化剤と、耐火材との混合物により形成されており、結晶粒を微細化する機能を有している。コバルト化合物からなる結晶粒微細化剤は、Ni合金溶湯と接触することにより、多くの結晶核を発生させる核発生物質として機能する。鋳型12のキャビティ12a側に設けられた結晶粒微細化層12bがコバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含むことにより、Ni合金溶湯の凝固の初期段階に多くの結晶核が発生するので、結晶粒を微細化することができる。
【0020】
結晶粒微細化剤については、アルミン酸コバルト、酸化コバルト、酢酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、スルフォン酸コバルト、硫酸アンモニウムコバルト、チオシアン酸コバルト、硝酸コバルト等のコバルト化合物を用いることが可能である。これらのコバルト化合物については、一般的な市販品を用いることができる。
【0021】
耐火材については、アルミナ、ジルコン(珪酸ジルコニウム)、ジルコニア、イットリア等のセラミックスを用いることが可能である。
【0022】
バックアップ層12cは、耐火材で形成されており、鋳型強度を保持する機能を有している。耐火材には、機械的強度が大きいアルミナ、ジルコン(珪酸ジルコニウム)、シリカ、ムライト等のセラミックスを用いることができる。
【0023】
鋳型12の製造方法については、一般的なロストワックス法等を用いることが可能である。鋳型12をロストワックス法で製造する場合には、例えば、タービンブレード等の蝋型模型に、コバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含むスラリを塗布した後に、バックアップ層用のスラリを塗布して乾燥し、脱蝋した後に焼成すればよい。
【0024】
鋳込み工程(S10)は、Ni合金溶湯を鋳型12のキャビティ12aに注湯して鋳込む工程である。
図4は、鋳込み工程(S10)を説明するための図である。
【0025】
まず、チャンバ内を排気して、チャンバ内を真空雰囲気にする。真空度については、例えば、0.013Pa(1×10
−4Torr)から0.13Pa(1×10
−3Torr)である。なお、チャンバ内を排気した後に、チャンバ内にアルゴンガス等の不活性ガスを導入して不活性ガス雰囲気としてもよい。次に、溶解坩堝を傾動させて、鋳型12のキャビティ12aにNi合金溶湯30を注湯する。
【0026】
鋳込み温度については、Ni合金の液相線に対して+100℃以上+150℃以下であることが好ましい。鋳込み温度がNi合金の液相線に対して+100℃より低温である場合には、湯廻り不良等により鋳造欠陥が生じ易いからである。鋳込み温度がNi合金の液相線に対して+150℃より高温である場合には、結晶粒が粗大化し易いからである。例えば、Ni合金にNi基超合金であるRene77を用いた場合には、液相線温度が約1380℃であるので、鋳込み温度については、1480℃以上1530℃以下とすることが好ましい。なお、Rene77については、例えば米国特許第4478638号に報告されているように、14.2質量%から15.8質量%のCo(コバルト)と、14.0質量%から15.3質量%のCr(クロム)と、4.0質量%から4.6質量%のAl(アルミニウム)と、3.0質量%から3.7質量%のTi(チタン)と、3.9質量%から4.5質量%のMo(モリブデン)と、0.05質量%から0.09質量%のC(炭素)と、0.012質量%から0.02質量%のB(ホウ素)と、0.5質量%以下のFe(鉄)と、0.2質量%以下のSi(珪素)と、を含み、残部がNi(ニッケル)と不可避的不純物とから構成されている。
【0027】
鋳型温度については、Ni合金の液相線に対して+20℃以上+50℃以下であることが好ましい。鋳型温度がNi合金の液相線に対して+20℃より低温である場合には、鋳型12の結晶粒微細化層12bからも凝固が始まり、水冷チルプレート24の上面からNi合金溶湯30が一方向に凝固しない可能性があるからである。鋳型温度がNi合金の液相線に対して+50℃より高温である場合には、結晶粒微細化層12bに含まれるコバルト化合物からなる結晶粒微細化剤がNi合金溶湯30に溶け込むことで、結晶粒の微細化効果が低減する可能性があるからである。例えば、Ni合金にNi基超合金であるRene77を用いた場合には、液相線温度が約1380℃であるので、鋳型温度については、1400℃以上1430℃以下とすることが好ましい。
【0028】
柱状晶形成工程(S12)は、Ni合金溶湯30を注湯した鋳型12を、固液界面(凝固界面)に温度勾配を設けて引抜速度100mm/時間以上400mm/時間以下で引き抜いて凝固させることにより、柱状晶を形成する工程である。
図5は、柱状晶形成工程(S12)を説明するための図である。
【0029】
水冷チルプレート24を下降させて、Ni合金溶湯30を注湯した鋳型12を、固液界面(熱遮蔽板28の位置)に温度勾配を設けて引抜速度100mm/時間以上400mm/時間以下で加熱帯14から冷却帯16へ引き抜いて凝固させることにより、水冷チルプレート24の上面から鋳型12の上方に向けて一方向に冷却されて凝固し、結晶粒が一方向に成長して柱状晶が形成される。引抜速度が100mm/時間以上であるのは、100mm/時間より小さい場合には、凝固速度が小さくなるのでNi合金鋳造品の生産性が低下するからである。引抜速度が400mm/時間以下であるのは、400mm/時間より大きい場合には、凝固速度が大きくなるので等軸晶が形成される可能性があるからである。引抜速度については、150mm/時間以上250mm/時間以下であることが好ましい。
【0030】
柱状晶形成時には、鋳型12の結晶粒微細化層12bによる結晶核の発生を抑制するために、固液界面(凝固界面)の温度勾配を80℃/cm以上とすることが好ましい。引抜速度が100mm/時間以上400mm/時間以下の場合において、固液界面の温度勾配が80℃/cmより小さい場合には、結晶粒微細化層12bによる結晶核の発生を抑制し難くなるので、等軸晶が形成される可能性があるからである。固液界面の温度勾配と、引抜速度と、金属組織との関係においては、固液界面の温度勾配がより大きく、引抜速度がより小さい(凝固速度が小さい)ほど柱状晶が形成されやすく、固液界面の温度勾配がより小さく、引抜速度がより大きい(凝固速度が大きい)ほど等軸晶が形成されやすい。このため、引抜速度が100mm/時間以上400mm/時間以下の場合において、固液界面の温度勾配を80℃/cm以上とすることにより、一般的な一方向凝固を行う場合の固液界面の温度勾配より大きくすることで、結晶粒微細化層12bによる結晶核の発生を抑制することが可能となる。
【0031】
固液界面の温度勾配を大きくするためには、例えば、鋳込み工程(S10)において、予め、鋳型12の底面の位置を基準位置(熱遮蔽板28の位置)から冷却帯16側へ所定量だけ移動させて、鋳型12を位置決めしておけばよい。これにより、鋳型12の底面の位置を基準位置(熱遮蔽板28の位置)として一方向凝固を開始する場合よりも、固液界面の温度勾配を大きくすることができる。鋳型12の冷却帯16側への移動量については、固液界面の温度勾配により相違するが、固液界面の温度勾配を80℃/cm以上とする場合には、20mmから30mmとすればよい。鋳型12の位置調整については、水冷チルプレート24を下降させることにより調整可能である。
【0032】
柱状晶の長さについては、引抜時間で制御することが可能である。例えば、柱状晶の長さを200mmとする場合において、引抜速度200mm/時間で引き抜く場合には、引抜時間を1時間とすればよい。
【0033】
等軸晶形成工程(S14)は、柱状晶形成工程(S12)の後に連続して引抜速度1000mm/分以上で引き抜いて凝固させることにより等軸晶を形成する工程である。
図6は、等軸晶形成工程(S14)を説明するための図である。
【0034】
水冷チルプレート24を下降させることにより、柱状晶形成工程(S12)の後に連続して引抜速度1000mm/分以上で引き抜いて凝固させることにより、柱状晶32に連続して等軸晶を形成することができる。引抜速度が1000mm/分以上であるのは、引抜速度が1000mm/分より小さいと凝固速度が小さくなるので等軸晶を形成し難くなるからである。鋳型12には結晶粒微細化層12bが設けられているので、結晶粒が微細化した等軸晶を形成することが可能となる。
【0035】
また、上記構成の鋳型12に代えて、他の鋳型を用いることが可能である。
図7は、他の鋳型40の構成を示す図である。鋳型40では、鋳型40のキャビティ40a側において、柱状晶が形成される領域には、コバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含まず、アルミナ等の耐火材で形成された耐火材層40bが設けられており、キャビティ40a側の等軸晶が形成される領域には、コバルト化合物を含む結晶粒微細化剤で形成された結晶粒微細化層40cが設けられている。また、結晶粒微細化層40cの外側には、バックアップ層40dが設けられている。このように、鋳型40は、鋳型40のキャビティ40a側における等軸晶を形成する領域にコバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含む結晶粒微細化層40cを有しており、鋳型40のキャビティ40a側における柱状晶を形成する領域に結晶粒微細化層40cを有していないことにより、柱状晶形成時に結晶核の発生を抑制するために固液界面の温度勾配を大きくする必要がないので、鋳型の位置決め作業等を行う必要がない。
【0036】
鋳型40の製造方法については、一般的なロストワックス法等を用いることが可能である。鋳型40をロストワックス法で製造する場合には、例えば、タービンブレード等の蝋型模型の柱状晶を形成する領域のみに、コバルト化合物からなる結晶粒微細化剤が含まれていないアルミナ等のスラリを塗布した後に、蝋型模型の等軸晶を形成する領域にコバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含むスラリを塗布し、次にバックアップ層用のスラリを塗布して乾燥し、脱蝋した後に焼成すればよい。
【0037】
なお、Ni合金鋳造品を鋳造するためのNi合金については、特に限定されることなく、例えば、タービンブレード等に用いられるインコネル合金等のNi基超合金を用いることができる。Ni合金鋳造品については、特に限定されないが、タービンブレードであることが好ましい。
図8は、タービンブレード42の構成を示す模式図である。タービンブレード42の翼部44を柱状晶で形成し、ダブテール部46を等軸晶で形成することにより、翼部44ではクリープ強度が向上し、ダブテール部46では疲労強度が向上した優れた強度特性を有するタービンブレード42を製造できる。
【0038】
以上、上記構成によれば、Ni合金溶湯を鋳型のキャビティに注湯して鋳込む鋳込み工程と、Ni合金溶湯を注湯した鋳型を、固液界面に温度勾配を設けて引抜速度100mm/時間以上400mm/時間以下で引き抜いて凝固させることにより、柱状晶を形成する柱状晶形成工程と、柱状晶形成工程の後に連続して引抜速度1000mm/分以上で引き抜いて凝固させることにより等軸晶を形成する等軸晶形成工程と、を備えていることから、柱状晶と等軸晶とが連続して形成されるので、複数回の鋳込みを行う必要がない。これにより鋳込み作業が軽減されてNi合金鋳造品の生産性を向上させることができる。
【0039】
上記構成によれば、鋳型は、鋳型のキャビティ側に、コバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含む結晶粒微細化層を有しており、柱状晶形成工程は、結晶粒微細化層からの結晶核の発生を抑制するために、固液界面の温度勾配を80℃/cm以上にしているので、柱状晶形成時には、鋳型の結晶粒微細化層からの結晶核の発生が抑制される。また、等軸晶形成時には、鋳型の結晶粒微細化層から結晶核が発生するので微細な等軸晶の結晶粒を形成することができる。このように、鋳型のキャビティ側の柱状晶が形成される領域に結晶粒微細化層が設けられている場合でも、柱状晶と、微細な等軸晶とを連続して鋳造可能であることから、Ni合金鋳造品の生産性を向上させることができる。また、鋳型のキャビティ側の柱状晶が形成される領域に結晶粒微細化層が設けられている場合でも鋳造可能であることから鋳型製造が容易となり、Ni合金鋳造品の生産性が向上する。更に、結晶粒を微細化するための振動装置等が不要であることから、Ni合金鋳造品の生産コストを低減することができる。
【0040】
上記構成によれば、鋳型は、鋳型のキャビティ側における等軸晶を形成する領域にのみ、コバルト化合物からなる結晶粒微細化剤を含む結晶粒微細化層が設けられているので、柱状晶形成時には結晶核の発生が抑制される。等軸晶形成時では、結晶粒微細化層から結晶核が発生し、微細な等軸晶を形成することができる。これにより、柱状晶と、微細な等軸晶とを連続して鋳造可能であることから、Ni合金鋳造品の生産性を向上させることができる。また、柱状晶形成時には、結晶核の発生を抑制するために固液界面の温度勾配を大きくする必要がなく、温度勾配を大きくするための鋳型の位置調整作業が不要になるので、Ni合金鋳造品の生産性が向上する。
【実施例】
【0041】
Ni合金鋳造品について鋳造試験を行った。
【0042】
(鋳造方法)
Ni合金鋳造品については、矩形状シートを鋳造した。Ni合金については、Ni基超合金であるRene77を用いた。鋳造装置については、
図2に示す鋳造装置10の構成と同様のものを使用した。鋳型については、
図3に示す鋳型12と同様の構成の鋳型を用いた。結晶粒微細化層に含まれるコバルト化合物については、アルミン酸コバルトを用いた。バックアップ層については、アルミナで形成した。
【0043】
鋳型を水冷チルプレートに載置した後に、水冷チルプレートを下降させて、柱状晶形成時における固液界面の温度勾配を大きくするために、冷却帯側に20mm引き抜いた位置で鋳型を位置決めした。鋳型のキャビティに、Ni合金溶湯を注湯した。鋳込み温度については1530℃とし、鋳型温度については1430℃とした。水冷チルプレートの温度については300℃とした。真空度については、0.013Pa(1×10
−4Torr)とした。
【0044】
水冷チルプレートを下降させることにより、Ni合金溶湯を注湯した鋳型を、固液界面に温度勾配を設けて引抜速度150mm/時間から250mm/時間で加熱帯から冷却帯へ引き抜いて凝固させることにより、柱状晶を形成した。固液界面の温度勾配については80℃/cmから100℃/cmとした。
【0045】
水冷チルプレートを下降させることにより、柱状晶を形成した後に連続して、引抜速度1000mm/分で加熱帯から冷却帯へ引き抜いて凝固させることにより、等軸晶を形成した。
【0046】
(外観観察)
Ni合金鋳造品について外観観察を行った。
図9は、Ni合金鋳造品の外観観察結果を示す写真である。
図9に示すように、Ni合金鋳造品の下側では柱状晶が形成されており、Ni合金鋳造品の上側では微細な等軸晶が形成された。このように、Ni合金鋳造品では、柱状晶に連続して微細な等軸晶が形成されていた。また、Ni合金鋳造品において、柱状晶が形成されている領域には、等軸晶が認められなかった。このことから、柱状晶形成時に固液界面の温度勾配を大きくすることにより、結晶粒微細化層による結晶核の発生を抑制できることがわかった。
【0047】
(ミクロ組織観察)
Ni合金鋳造品について光学顕微鏡によりミクロ組織観察を行った。
図10は、Ni合金鋳造品のミクロ組織観察結果を示す写真であり、
図10(a)は、柱状晶の領域のミクロ組織観察結果を示す写真であり、
図10(b)は、等軸晶の領域のミクロ組織観察結果を示す写真である。ミクロ組織観察については、Ni合金鋳造品の引抜方向に対して直交方向の金属組織を観察した。また、柱状晶及び等軸晶の結晶粒径については、Ni合金鋳造品の引抜方向に対して直交方向の金属組織において複数の結晶粒の結晶粒径を測定し、これらを平均して求めた。この結果、柱状晶の結晶粒径については、0.45mmから0.55mmであり、等軸晶の結晶粒径については、1mmから4mmであった。
【符号の説明】
【0048】
10 鋳造装置、 12、40 鋳型、 14 加熱帯、 16 冷却帯、 18 ヒータ、 20 サセプタ、 22 水冷チルリング、 24 水冷チルプレート、 26 昇降体、 28 熱遮蔽板、 30 Ni合金溶湯、 32 柱状晶、 42 タービンブレード、 44 翼部、 46 ダブテール部。