(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コアとカバーとの間に中間層を介在させてなり、該カバー表面には塗膜層が形成されるマルチピースソリッドゴルフボールであって、上記コアの硬度分布において、コア中心のJIS−C硬度をHc、コア中心から12mm離れた位置のJIS−C硬度をH12、コア表面のJIS−C硬度をHoとするとき、下記式(1)〜(4)
0≦H12−Hc≦15 …(1)
15≦Ho−H12≦30 …(2)
18≦(Ho−H12)−(H12−Hc)≦21 …(3)
20≦Ho−Hc≦40 …(4)
を満足し、上記(3)式における(Ho−H12)−(H12−Hc)をA、ボールの動摩擦係数×Aをスピン指数とするとき、該スピン指数が5.8〜7.8であり、上記中間層の材料硬度がショアD硬度で62〜75であり、且つ、上記カバーの材料硬度がショアD硬度で25〜49であり、上記コアに初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)が、3.1〜3.7mmであり、上記(3)式における(Ho−H12)−(H12−Hc)をA、上記たわみ量(mm)×Aを硬度分布指数とするとき、該硬度分布指数が59〜71であることを特徴とするゴルフボール。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、内側からコア、中間層及びカバーを有するものである。
図1に本発明のゴルフボールの一例を示す内部構造を示す。
図1に示したゴルフボールGは、コア1と、該コア1を被覆する中間層2と、該中間層2を被覆するカバー3とを有し、該カバー表面には塗膜層5が形成されている。また、上記カバー3の表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルDが多数形成されている。更に、
図1のゴルフボールGは、コア1と中間層2との間に包囲層4が形成されている。以下、上記の各層について詳述する。
【0011】
コアの直径は、特に制限はないが、好ましくは34.7〜41.7mmであり、好ましくは、35.7〜40.7mm、更に好ましくは36.7〜39.7mmである。この直径が小さすぎると、コアの低スピン効果が発揮されなくなり、狙い通りの飛距離が得られなくなることがある。また、コア直径が大き過ぎると、耐久性が悪くなることがある。
【0012】
コアに対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)は、特に制限はないが、好ましくは2.5〜4.6mm、より好ましくは2.7〜4.4mm、更に好ましくは2.9〜4.2mmである。コアが硬すぎると、スピンが増加し飛距離が損なわれることがある。逆に、コアが軟らかすぎると、ボール初速が低下し、飛距離が損なわれることがある。
【0013】
コア中心のJIS−C硬度をHcとすると、Hcの値は、好ましくは40〜78、より好ましくは45〜73、更に好ましくは50〜68である。このコア中心硬度のJIS−C硬度の値が大きすぎると、スピンが増加し飛距離が損なわれることがある。逆に、上記値が小さすぎると、ボール初速が低下し飛距離が損なわれることがある。
【0014】
コア表面のJIS−C硬度をHoとすると、Hoの値は、好ましくは65〜99、より好ましくは70〜98、更に好ましくは75〜97である。このコア表面硬度のJIS−C硬度の値が大きすぎると、繰り返し打撃による耐久性が損なわれることがある。逆に、上記値が小さすぎると、フルショット時のスピンが抑制されず飛距離を損なうことがある。
【0015】
コア中心から12mm離れた位置のJIS−C硬度をH12とすると、H12の値は、好ましくは42〜84、より好ましくは47〜79、更に好ましくは52〜74である。上記の値が大きすぎると、フルショット時のスピンが抑制されず、飛距離を損なうことがある。逆に、上記値が小さすぎると、繰り返し打撃による耐久性が損なわれることがある。
【0016】
なお、上記の中心硬度及び所定位置における断面硬度とは、コアを半分に中心を通るように)切断して得た断面の中心及び所定位置において測定される硬度を意味し、表面硬度は上記コアの表面(球面)において測定される硬度を意味する。
【0017】
次に、本発明においては、コアは下記式(1)〜(4)を満足するものである。
0≦H12−Hc≦15 …(1)
15≦Ho−H12≦30 …(2)
(Ho−H12)−(H12−Hc)≧10 …(3)
20≦Ho−Hc≦40 …(4)
【0018】
上記式(1)は、コアの内側ゾーンが比較的緩やかな硬度傾斜であることを意味する。H12−Hcの下限値は0以上であり、好ましくは1以上、更に好ましくは2以上である。一方、上限値は15以下であり、好ましくは14以下、更に好ましくは13以下である。この値が大きすぎると、繰り返し打撃による耐久性が損なわれることがある。逆に、上記の値が小さすぎると、フルショット時のスピンが抑制されず、飛距離を損なうことがある。
【0019】
上記式(2)は、コアの外側ゾーンが比較的急な硬度傾斜であることを意味する。Ho−H12の下限値は15以上であり、好ましくは16以上、更に好ましくは17以上である。一方、上限値は30以下であり、好ましくは29以下、更に好ましくは28以下である。この値が大きすぎると、繰り返し打撃による耐久性が損なわれることがある。逆に、上記の値が小さすぎると、フルショット時のスピンが抑制されず飛距離を損なうことがある。
【0020】
上記式(3)は、コアの内外ゾーンの硬度差が大きいことを意味し、フルショット時の低スピン化をより一層図ることができ本発明の所望の効果が得られる。(Ho−H12)−(H12−Hc)の値は10以上であり、好ましくは10.5以上、更に好ましくは11以上である。この値が小さいと、フルショット時のスピンが抑制されず、飛距離を損なうことがある。
【0021】
次に、上記式(4)は、コアの中心と表面との硬度差が大きいことを意味する。Ho−Hcの下限値は20以上であり、好ましくは21以上、更に好ましくは22以上である。一方、上限値は40以下であり、好ましくは39以下、更に好ましくは38以下である。この値が大きすぎると、繰り返し打撃による耐久性が損なわれることがある。逆に、上記の値が小さすぎると、フルショット時のスピンが抑制されず、飛距離を損なうことがある。
【0022】
上記(3)式における(Ho−H12)−(H12−Hc)をA、コアに初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)×Aを硬度分布指数とするとき、該硬度分布指数は40以上となることが好適であり、好ましくは41以上、より好ましくは42以上である。上記硬度分布指数を上記範囲に設定することにより、コアたわみ量を変えた場合においても規定範囲を確保することで、フルショット時の低スピン化を実現し得るものである。
【0023】
上記コアは、ゴム材を主材とするゴム組成物を加硫することにより得られる。このゴム組成物として、特に制限はなく、好適な実施形態としては、例えば、基材ゴム、共架橋剤、架橋開始剤、硫黄、有機硫黄化合物、充填材及び老化防止剤を含有するゴム組成物を用いて形成することが挙げられる。そして、このゴム組成物の基材ゴムとしては、ポリブタジエンを用いることが好ましい。
【0024】
なお、上記基材ゴムには、上記ポリブタジエン以外にも他のゴム成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合し得る。上記ポリブタジエン以外のゴム成分としては、上記ポリブタジエン以外のポリブタジエン、その他のジエンゴム、例えばスチレンブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等を挙げることができる。
【0025】
共架橋剤としては、本発明では、特に制限はないが、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の金属塩等が挙げられる。不飽和カルボン酸として、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。不飽和カルボン酸の金属塩としては、具体的には、上記不飽和カルボン酸を所望の金属イオンで中和したものが挙げられる。具体的にはメタクリル酸、アクリル酸等の亜鉛塩やマグネシウム塩等が挙げられ、特にアクリル酸亜鉛が好適に用いられる。これらの不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、上限としては、好ましくは45質量部以下、より好ましくは43質量部以下、更に好ましくは41質量部以下である。
【0026】
架橋開始剤としては、有機過酸化物を使用することが好適である。具体的には、熱分解温度が比較的高温な有機過酸化物を使用することが好適であり、具体的には、1分間半減期温度が約165℃〜185℃の高温な有機過酸化物を使用するものであり、例えば、ジアルキルパーオキサイド類を挙げることができる。ジアルキルパーオキサイド類として、例えば、ジクミルパーオキサイド(日油社製「パークミルD」)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(日油社製「パーヘキサ25B」)、ジ(2−t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(日油社製「パーブチルP」)等が挙げられ、ジクミルパーオキサイドを好適に用いることができる。これらは1種を単独であるいは2種以上を併用してもよい。半減期は、有機過酸化物の分解速度の程度を表す指標の一つであり、もとの有機過酸化物が分解して、その活性酸素量が1/2になるまでに要する時間によって示される。コア用ゴム組成物における加硫温度は、通常、120〜190℃の範囲内であり、その範囲内では、1分間半減期温度が約165℃〜185℃と高温な有機過酸化物は比較的遅く熱分解する。本発明のゴム組成物によれば、加硫時間の経過とともに増加する遊離ラジカルの生成量を調整することにより特定の内部硬度形状を有するゴム架橋物であるコアを得るものである。
【0027】
架橋開始剤は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上であり、上限として、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下、更に好ましくは3.0質量部以下、最も好ましくは2.0質量部以下配合する。配合量が多過ぎると、硬くなり過ぎて耐え難い打感となると共に、割れ耐久性も大きく低下する。逆に、配合量が少な過ぎると、軟らかくなり過ぎて耐え難い打感となる共に、大きく生産性が低下する場合がある。
【0028】
充填材としては、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。充填剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上とすることができる。また、配合量の上限は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると適正な質量、及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
【0029】
また、本発明では、老化防止剤をゴム組成物に配合するものであり、例えば、ノクラックNS−6、同NS−30、同200(大内新興化学工業(株)製)等の市販品を採用することができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
老化防止剤の配合量については、特に制限はないが、基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、上限として好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下、更に好ましくは0.4質量部以下である。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると、適正なコア硬度傾斜が得られずに好適な反発性、耐久性及びフルショット時の低スピン効果を得ることができない場合がある。
【0031】
更に、上記ゴム組成物には、優れた反発性を付与するために有機硫黄化合物を配合することができ、具体的には、チオフェノール、チオナフトール、ハロゲン化チオフェノール又はそれらの金属塩を配合することが推奨され、より具体的には、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、パラクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール等の亜鉛塩、硫黄数が2〜4のジフェニルポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド、ジベンゾイルポリスルフィド、ジベンゾチアゾイルポリスルフィド、ジチオベンゾイルポリスルフィド等が挙げられるが、特に、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩、ジフェニルジスルフィドを好適に用いることができる。
【0032】
有機硫黄化合物は、上記基材ゴム100質量部に対し、0.05質量部以上、好ましくは0.07質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上、上限として5質量部以下、好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、最も好ましくは2質量部以下配合する。配合量が多すぎると硬さが軟らかくなり過ぎてしまい、少な過ぎると反発性の向上が見込めない。
【0033】
更に詳述すれば、上記のコア材料に直接的に水(水を含む材料)を配合することにより、コア配合中の有機過酸化物の分解を促進することができる。また、コア用ゴム組成物中の有機過酸化物は、温度によって分解効率が変化することが知られており、ある温度よりも高温になるほど分解効率が上がる。温度が高すぎると、分解したラジカル量が多くなりすぎてしまい、ラジカル同士で再結合や不活性化してしまうことになる。その結果、架橋に有効に働くラジカルが減ることになる。ここで、コア加硫の際に有機過酸化物が分解することで分解熱が発生するとき、コア表面付近は加硫モールドの温度とほぼ同程度を維持しているが、コア中心付近は外側から分解していった有機過酸化物の分解熱が蓄積されるため、モールド温度よりもかなり高温になる。コアに直接的に水(水を含む材料)を配合した場合、水は有機過酸化物の分解を助長する働きがあるため、上述したようなラジカル反応をコア中心とコア表面において変化させることができる。即ち、コア中心付近では有機過酸化物の分解が更に助長され、ラジカルの不活性化がより促されることで有効ラジカル量が更に減少するため、コア中心とコア表面との架橋密度が大きく異なるコアを得ることができ、且つ、コア中心部の動的粘弾性特性の異なるコアを得ることができる。
【0034】
そして、上記のコアを有するゴルフボールは、低スピン化を実現すると共に、耐久性に優れ、反発性の経時変化が少ないゴルフボールを提供することができる。
【0035】
上記のコア材料に配合される水については、特に制限はなく、蒸留水であっても水道水であってもよいが、特には、不純物を含まない蒸留水を使用することが好適に採用される。水の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上配合することが好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であり、上限としては、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下である。
【0036】
また、上記の水を適量配合することにより、加硫前のゴム組成物における水分含有率が1000ppm以上となることが好ましく、より好ましくは1500ppm以上である。上限としては、好ましくは8500ppm以下であり、より好ましくは8000ppm以下である。上記ゴム組成物の水分含有率が小さすぎると、適切な架橋密度・Tanδを得ることが困難となり、エネルギーロスが少なく低スピン化を図ったゴルフボールを成形することが困難となる場合がある。上記ゴム組成物の水分含有率が大きすぎると、コアが軟らかくなりすぎてしまい、適切なコア初速を得ることが困難となる場合がある。
【0037】
上記コアは、上記各成分を含有するゴム組成物を加硫硬化させることにより製造することができる。例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形又は射出成型し、有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度として、約100℃〜200℃、10〜40分の条件にて成形体を適宜加熱することにより、該成形体を硬化させ、製造することができる。
【0038】
次に、コアの架橋密度について説明する。
本発明においては、コア中心の架橋密度が、好ましくは6.0×10
2mol/m
3以上であり、上限値としては、好ましくは15.0×10
2mol/m
3以下である。一方、コア表面の架橋密度については、好ましくは13.0×10
2mol/m
3以上であり、上限値としては、好ましくは30.0×10
2mol/m
3以下である。なお、コア中心とコア表面との架橋密度の差[(コア表面の架橋密度)−(コア中心の架橋密度)の値]が、好ましくは9.0×10
2mol/m
3以上であり、上限値としては、好ましくは30.0×10
2mol/m
3以下である。上記のコア中心又はコア表面の架橋密度が上記範囲を逸脱すると、加硫時にゴム組成物中の水が有機過酸化物の分解に十分に寄与していない可能性があり、その結果、ボールの十分な低スピン効果を得られない場合がある。
【0039】
上記の架橋密度は、具体的には、以下の手順により測定することができる。
コアをその幾何学的中心を通るように厚さ2mmの円状平板に切り出す。そして、上記の円状平板において、コア中心及びコア表面に相当する各部位から内側に4mm以内となる測定箇所を打ち抜き器でφ3mmに打ち抜いてサンプルとし、小数点2桁の単位(mg)で測定可能な電子天秤でサンプル重量を測定する。10mlのバイアル瓶に上記サンプルとトルエン8mlを加え、栓をして密閉のうえ、72時間以上静置し、その後、溶液を廃棄し、浸漬後のサンプル重量を測定する。膨潤前後のサンプル重量からFlory-Rehnerの式を用いて、ゴム組成物の架橋密度を計算する。
ν= −(ln(1−v
r) + v
r+ χv
r2)/V
S(v
r1/3-v
r/2)
[ν:架橋密度、v
r:膨潤中のゴム容積分率、χ:相互作用定数、V
S:トルエンのモル容積]
v
r= V
BR/(V
BR + V
T)
V
BR= (w
f − w
fv
f)/ρ
V
T= (w
s − w
f)/ρ
T
[V
BR:ゴム組成物中のBRの体積、V
T:膨潤したトルエンの体積、v
f:ゴム組成物中の充填剤の重量分率、ρ:ゴム組成物の密度、w
f:浸漬前のサンプル重量、w
s:浸漬後のサンプル重量、ρ
T:トルエンの密度]
なお、Vsは0.1063×10
-3 m
3/mol、ρ
Tは0.8669、χは文献(Macromolecules 2007, 40, 3669-3675)をもとに0.47にて計算を行う。
【0040】
コア表面とコア中心との架橋密度の差[(コア表面の架橋密度)−(コア中心の架橋密度)の値]P(mol/m
3)と、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)に負荷した時までのコアのたわみ量E(mm)の積(P×E)の技術的意義は次のようである。一般的に、コア硬度が硬い、即ち、コアのたわみ量E(mm)の値が小さいほど、上記の架橋密度の差P(mol/m
3)は大きくなる傾向がある。従って、上記のようにPにEを掛けることにより、コア硬度の影響を打ち消すことができるため、低スピン化の指標としてP×Eの値を用いることが可能となる。上記のP×Eの値は、26×10
2mol/m
3・mm以上であることが好ましい。上述のように、コア中心とコア表面に架橋密度の違いが生まれることにより、低スピンであると共に、耐久性が高くなると共に、長期間使用しても初速度が低下することのないゴルフボールを得ることができる。
【0041】
次に、コアの動的粘弾性の測定法について説明する。
一般的には、ゴム材料の粘弾性は、ゴム製品の性能に大きな影響を与えることが知られており、また、損失正接tan δが貯蔵するエネルギーに対する損失するエネルギーの比を表すものであり、tan δが小さいほどゴムは弾性成分の寄与が大きく、tan δが大きいほど粘性成分の寄与が大きくなることが知られている。コア中心における加硫ゴムの動的粘弾性試験において、測定温度−12℃、周波数15Hzの条件で、動歪み1%での損失正接をtan δ
1、動歪み10%での損失正接をtan δ
10としたとき、これらのtanδの傾き:[(tan δ
10−tan δ
1)/(10%−1%)]の値が0.003以下であることが好ましく、より好ましくは0.002以下である。上記tanδの値が大きくなると、コアのエネルギーロスが大きくなりすぎてしまい、十分な反発性及び、低スピン効果を得ることが難しくなることがある。コアの動的粘弾性特性の計測には種々の方法を採用することができる。例えば、カバーを被覆したコアをその幾何学的中心を通るように厚さ2mmの円状平板に切り出し、これをサンプルとし、更に測定箇所を打ち抜き器でφ3mmに打ち抜く。そして、動的粘弾性装置(例えば、GABO社、製品名「EPLEXOR500N」)を使用し、圧縮試験用ホルダーを用いて、初期歪35%、測定温度−12℃、周波数15Hzの条件により、動歪み0.01〜10%歪時のtanδを測定し、その測定結果に基づいて傾きを求めることができる。
【0042】
次に、中間層について説明する。
中間層の材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で好ましくは35〜75、より好ましくは40〜70、更に好ましくは45〜65である。上記中間層が軟らかすぎると、フルショット時のスピン量が増えすぎてしまい飛距離が出なくなることがある。また、中間層が硬すぎると、パターやショートアプローチ実施時の打感が硬くなりすぎることがある。
【0043】
中間層の厚さは、好ましくは0.9〜2.4mm、より好ましくは1.0〜2.1mm、更に好ましくは1.1〜1.8mmである。また、本発明においては、中間層の厚さは、後述するカバー(最外層)よりも厚いことが好適である。上記の範囲を外れ、或いはカバーより薄くなると、ドライバー(W#1)ショット時において低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。
【0044】
中間層の材料については、特に制限はないが、各種の熱可塑性樹脂材料を好適に採用することができる。特には、本発明の所望の効果を十分に奏することができる点から、高反発な樹脂材料を中間層の材料に採用することが好適であり、例えば、アイオノマー樹脂材料を使用することが好適である。
【0045】
上記の樹脂としては、市販品を使用することができ、具体的には、ハイミラン1605、ハイミラン1601及びAM7318(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン8120(Dupont社製)等のナトリウム中和型アイオノマー樹脂やハイミラン1557、ハイミラン1706及びAM7317(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)等の亜鉛中和型アイオノマー樹脂、Dupont社製の商品名「HPF 1000」、「HPF 2000」、「HPF AD1027」、実験用「HPF SEP1264−3」等を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上併用することができる。
【0046】
なお、上記中間層材料には、非アイオノマー熱可塑性エラストマーを配合することができる。非アイオノマー熱可塑性エラストマーの配合量は、上記ベース樹脂の合計量100質量部に対して、1〜50質量部配合することが好適である。
【0047】
上記の非アイオノマー熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー(ポリオレフィン、メタロセンポリオレフィン含む)、ポリスチレン系エラストマー、ジエン系ポリマー、ポリアクリレート系ポリマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアセタールなどが挙げることができる。
【0048】
更に、この中間層形成用の材料には、必要に応じて、種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤等を適宜配合することができる。
【0049】
中間層材料については、後述するように、カバー(最外層)として好適に用いられるポリウレタンとの密着度を高めるために中間層表面を研磨することが好適である。更に、その研磨処理の後にプライマー(接着剤)を中間層表面に塗布するか、もしくは材料中に密着強化材を添加することが好ましい。
【0050】
更には、上記コアと上記中間層との間に包囲層を形成することができる。包囲層の材料については、上述した中間層の材料の記載と同様のものを採用することができ、中間層材料と同種又は異種の樹脂材料を採用することができる。
包囲層の厚さや材料硬度は、上記中間層の厚さや材料硬度の範囲内で適宜選定することができる。
【0051】
次に、ボールの最外層に相当するカバーについて説明する。
カバー(最外層)の材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは25〜57、より好ましくは27〜55、更に好ましくは29〜53である。
【0052】
カバー(最外層)の厚さは、特に制限はないが、好ましくは0.3〜1.5mm、より好ましくは0.4〜1.2mm、更に好ましくは0.5〜1.0mmである。その範囲よりも厚すぎると、W#1やアイアンショット時に反発が足りなくなるとともにスピンが多くなり、その結果として飛距離が出なくなることがある。逆に、上記範囲よりも薄すぎると、アプローチでのスピンが掛からなくなりコントロール性が不足することがある。
【0053】
カバー(最外層)の材料については、特に制限はなく、各種の熱可塑性樹脂材料や熱硬化性材料を好適に用いることができる。本発明のカバー材料としては、コントロール性と耐擦過傷性の観点から、ウレタン樹脂を使用することが好適である。特に、ボール製品の量産性の観点から、ポリウレタンを主体としたものを使用することが好適であり、以下に詳述する。
【0054】
ポリウレタン
熱可塑性ポリウレタン材料の構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する鎖延長剤及びポリイソシアネートからなる。ここで、原料となる高分子ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。ポリエステル系ポリオールとしては、具体的には、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリプロピレンアジペートグリコール、ポリブタジエンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール等のアジペート系ポリオールやポリカプロラクトンポリオール等のラクトン系ポリオールを採用することができる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)及びポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
これらの長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,000〜5,000の範囲内であることが好ましい。かかる数平均分子量を有する長鎖ポリオールを使用することにより、上記した反発性や生産性などの種々の特性に優れた熱可塑性ポリウレタン組成物からなるゴルフボールを確実に得ることができる。長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,500〜4,000の範囲内であることがより好ましく、1,700〜3,500の範囲内であることが更に好ましい。
【0056】
なお、上記の数平均分子量とは、JIS−K1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である(以下、同様。)。
【0057】
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限されるものではない。鎖延長剤としては、例えば、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、且つ分子量が2,000以下である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2〜12の脂肪族ジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4−ブチレングリコールを好適に使用することができる。
【0058】
ポリイソシアネートとしては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。
【0059】
なお、必須成分ではないが、熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性樹脂又はエラストマーを配合することができる。具体的には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添スチレンブタジエンゴム、スチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体又はその変性物、エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体又はその変性物、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体又はその変性物、ABS樹脂、ポリアセタール、ポリエチレン及びナイロン樹脂から選ばれ、その1種又は2種以上を用いることができる。特に、生産性を良好に維持しつつ、イソシアネート基との反応により、反発性や耐擦過傷性が向上することなどの理由から、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー及びポリアセタールを採用することが好適である。上記成分を配合する場合、その配合量は、カバー材の硬度の調整、反発性の改良、流動性の改良、接着性の改良などに応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、熱可塑性ポリウレタン成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上とすることができる。また、配合量の上限も特に制限されないが、熱可塑性ポリウレタン成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは75質量部以下、更に好ましくは50質量部以下とすることができる。
【0060】
また、上記ポリウレタン形成反応における活性水素原子:イソシアネート基の配合比は、上記した反発性、スピン性能、耐擦過傷性及び生産性などの種々の特性がより優れた熱可塑性ポリウレタン組成物からなるゴルフボールを得ることができるよう、好ましい範囲にて調整することができる。具体的には、上記の長鎖ポリオール、ポリイソシアネート化合物及び鎖延長剤を反応させて熱可塑性ポリウレタンを製造するに当たり、長鎖ポリオールと鎖延長剤とが有する活性水素原子1モルに対して、ポリイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基が0.95〜1.05モルとなる割合で各成分を使用することが好ましい。
【0061】
上述した熱可塑性ポリウレタン材料としては、市販品を好適に用いることができ、例えば、ディーアイシーバイエルポリマー社製の商品名「パンデックス」や、大日精化工業社製の商品名「レザミン」などを挙げることができる。
【0062】
カバー表面の処理
次に、本発明のゴルフボールにおいては、上記により成形されたカバー最外層の表面が有機溶剤を含まないポリイソシアネート化合物により処理することもできる。この表面処理方法について以下に説明する。
【0063】
上記の処理方法は、有機溶剤を含まないポリイソシアネート化合物を用いるものである。ここで、上記ポリイソシアネート化合物としては、特に制限はないが、以下の選択群から選ばれる。
【0064】
〈ポリイソシアネート化合物の選択群〉
トリレン−2,6−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、1,5−ジイソシアナトナフタレン、イソホロンジイソシアネート(異性体混合物を含む)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、及びこれらの誘導体、並びに上記イソシアネート化合物から形成されるプレポリマーからなる群
【0065】
上記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネートを使用することが好適であり、特に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(モノメリック(ピュア)MDI)とポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)が好適に用いられる。芳香族系ポリイソシアネートを採用する場合、熱可塑性樹脂中の反応性基との反応性に富むために所望の効果を良好に得ることができる。更に、ポリメリックMDIは、イソシアネート基の数がモノメリックMDIよりも多いため、架橋形成による耐擦過傷性改良効果が大きくなり、また、常温で液体状であるため、取り扱い性に優れる点から好適に採用される。但し、ポリメリックMDIは、一般的には暗褐色の外観を有しており、被処理材であるカバー材料の着色汚染が懸念される。この着色は、ポリメリックMDIを有機溶剤に溶解した溶液状態で処理した際に顕著に表れるため、この着色の懸念からも有機溶剤を含まない状態での使用が好適である。
【0066】
なお、ポリメリックMDIによる着色低減方法として、例えば、特許第4114198号公報や特許第4247735号公報等に記載される事前処理を好適に採用し得る。上記の特許記載のような手法を採択しても良いが、これに限定されるものではない。このような事前処理を行い、処理後に適切な洗浄を行えば、着色汚染は殆ど発生しないものである。
【0067】
上記のポリイソシアネート化合物の処理方法としては、浸漬法、塗装法(スプレー法)、熱や圧力を掛けた浸透法、滴下法などを好適に採用することができ、特に、浸漬法又は塗装法が工程管理や生産性の観点から好ましい。浸漬法による処理時間については、1分〜180分とすることが好適である。上記の処理時間が短すぎると、十分な架橋効果が得られ難くなり、長すぎると、過剰なポリイソシアネート化合物によりカバー表面の変色が大きくなる可能性がある。また処理時間が長くなることで、生産のリードタイムが長くなるため生産性の観点からあまり好ましくない。上記の処理時の温度については、生産性の観点から安定した溶融液体状態を保ち、また、反応性を安定に保てるような温度領域に制御することが好適であり、具体的には、10〜60℃であることが好適である。処理温度が低すぎる場合、カバー材への浸透・拡散又は表層界面部での反応性が十分でなくなり、所望の物性が得られない場合がある。処理温度が高過ぎる場合、カバー材への浸透・拡散又は表層界面部での反応性が高くなり、過剰なポリイソシアネート化合物によってカバー表面の変色が大きくなる可能性がある。また、ディンプル形状を含む外観の変化やゴルフボールの一部にアイオノマー系材料が使用されている場合には、物性変化を引き起こす可能性がある。上記の好適な範囲の処理時間及び処理温度で処理を行うことにより、生産性を損なうことなく、十分な架橋効果を得、所望の物性を得ることができる。
【0068】
上記のポリイソシアネート化合物により処理した後、ボール表面に過剰なポリイソシアネート化合物が残存しているとロゴマークの転写不良や塗装の剥離などの悪影響を与えやすくなり、更に経時による変色の発生などの外観不良に繋がる可能性があるため、適切な有機溶剤等で洗浄することが好ましい。特にポリメリックMDIを使用する場合、該化合物は暗褐色の液状物であるため、十分に洗浄をしないと外観不良に繋がってしまう。この際、使用される有機溶剤については、ポリイソシアネート化合物を溶解し、且つ、カバー材成分であるポリウレタンを溶解しない適切な有機溶剤を適宜選択すれば良い。この有機溶剤としては、エステル系、ケトン系などの有機溶剤やベンゼン、ジオキサン、四塩化炭素等のポリイソシアネート化合物を溶解させる溶剤を使用することが好ましい。特に、上記有機溶剤として、アセトンや酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン等を単独又は混合状態で好適に用いることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。上記有機溶剤による洗浄方法については一般的な手法を用いれば良く、例えば、浸漬、搖動、超音波、(マイクロ・ナノ)バブル、液中噴流、シャワー等の手法が用いられる。
【0069】
なお、上記のポリイソシアネート化合物による表面処理の事前処理として、乾燥処理を行うこともできる。即ち、カバーの処理に際し、カバー材に含有される水分を除去し、処理後の物性安定化や処理溶液の長寿命化のため、必要に応じて、事前に乾燥処理等を実施することが好適であるが、必ずしもその限りではない。乾燥処理としては、温風乾燥、真空乾燥等の一般的な手法を用いれば良い。
【0070】
上記のポリイソシアネート化合物による表面処理の後は、ポリウレタン材料とポリイソシアネート化合物との架橋反応を効果的に進行させ、物性・品質の向上や安定化、また、生産タクトの管理・短縮のために適切なキュア工程を設けることが好ましい。具体的には、15〜150℃、24時間以内の適切な温度及び時間による加熱処理を行うことが好適である。
【0071】
上記表面処理後のポリイソシアネート化合物の含浸量は、ゴルフボール全体の重量及び所望の物性に合わせて適宜調整することができる。上記の含浸量は、重量変化換算にて、好ましくは0.01〜1.0gの範囲内の変化である。この重量変化量が少ない場合、イソシアネート成分の含浸が十分ではなく、適切な物性改善効果が得られない場合がある。重量変化が大きすぎる場合には、ゴルフボールのルール適合範囲内での重量制御やディンプル変化を含めて各種制御が難しくなる場合がある。ポリイソシアネート化合物による含浸深さについては、所望の物性が得られるように、プロセス条件を適宜選択しても良い。本手法による改質効果は、表面からの侵入・拡散という原理上、物性傾斜をつけやすい。ある厚みを持ったカバー層内で物性傾斜を持たせることで、疑似的に多層カバー層を設けることと同義になり、従来にないカバー特性を発現させ得ることが可能となる。また、有機溶剤の有無によりポリイソシアネート化合物の含浸状況が変化し得る。有機溶剤を用いた場合、より深い方向まで物性変化が及び易く、有機溶剤を用いない場合、より界面近傍に近い位置での物性変化を与えやすい。有機溶剤を用いない手法で処理を施した場合、カバー外層の表層近傍の物性とカバー内部の物性との間に差をつけることが容易となり、ゴルフボールの設計自由度を大きく変えることができる利点がある。
【0072】
更に、上記のカバー樹脂材料には、必要に応じて、種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤等を適宜配合することができる。
【0073】
上述したコア,中間層及びカバー(最外層)の各層を積層して形成されたマルチピースソリッドゴルフボールの製造方法については、公知の射出成形法等の常法により行うことができる。例えば、ゴム材を主材とした加硫成形物をコアとして所定の射出成形用金型内に配備し、中間層材料を射出して中間球状体を得、次いで、該球状体を別の射出成形用金型内に配備してカバー(最外層)の材料を射出成形することによりマルチピースのゴルフボールを得ることができる。また、カバー(最外層)を中間球状体に被覆する方法により、カバーを積層することもでき、例えば、予め半殻球状に成形した2枚のハーフカップで該中間球状体を包み加熱加圧成形することができる。
【0074】
本発明のゴルフボールには、空気力学的性能の点から、最外層の表面に多数のディンプルが設けられる。上記最外層表面に形成されるディンプルの個数については、特に制限はないが、空気力学的性能を高め飛距離を増大させる点から、好ましくは250個以上、より好ましくは270個以上、更に好ましくは290個以上、最も好ましくは300個以上であり、上限値として、好ましくは400個以下、より好ましくは380個以下、更に好ましくは360個以下である。
【0075】
本発明では、カバー表面には塗膜層が形成される。この塗膜層を形成する塗料としては、2液硬化型ウレタン塗料を採用することが好適である。具体的には、この場合、上記2液硬化型ウレタン塗料は、ポリオール樹脂を主成分とする主剤と、ポリイソシアネートを主成分とする硬化剤とを含むものである。
【0076】
カバー表面に上記の塗料を塗装して塗膜層を形成する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、エアガン塗装法や静電塗装法等、所望の方法を用いることができる。
【0077】
塗膜層の厚さについては、特に制限はないが、通常、8〜22μm、好ましくは10〜20μmである。
【0078】
また、塗膜層の弾性仕事回復率が30〜98%となることが好適であり、より好ましくは70〜90%である。塗膜層の弾性仕事回復率が上記の範囲内であると、ゴルフボール表面に形成される塗膜が一定の硬度及び弾性を維持しながら自己修復回復機能が高くなりボールの優れた耐久性及び耐擦過傷性に寄与し得るものである。また、この塗膜層の弾性仕事回復率が上記範囲を逸脱すると、十分なアプローチスピンが得られないおそれがある。上記の弾性仕事回復率の測定方法については後述する。
【0079】
上記の弾性仕事回復率は、押し込み荷重をマイクロニュートン(μN)オーダーで制御し、押し込み時の圧子深さをナノメートル(nm)の精度で追跡する超微小硬さ試験方法であり、塗膜の物性を評価するナノインデンテーション法の一つのパラメータである。従来の方法では最大荷重に対応した変形痕(塑性変形痕)の大きさしか測定できなかったが、ナノインデンテーション法では自動的・連続的に測定することにより、押し込み荷重と押し込み深さとの関係を得ることができる。そのため、従来のような変形痕を光学顕微鏡で目視測定するときのような個人差がなく、確実且つ精度高く塗膜の物性を評価することができると考えられる。このため、ゴルフボール表面の塗膜がドライバーや各種のクラブの打撃により大きな影響を受け、当該塗膜がゴルフボールの各種の物性に及ぼす影響は小さくないことから、ゴルフボール用塗膜を超微小硬さ試験方法で測定し、従来よりも高精度に行うことは、非常に有効な評価方法となる。
【0080】
このようにカバー表面に塗膜層が形成されたゴルフボールについて、該ボールの動摩擦係数は、好ましくは、0.300〜0.430、より好ましくは0.350〜0.400である。上記の動摩擦係数の測定方法は、所定の角度で傾斜して設置された衝突板に、ゴルフボールを衝突させたときのゴルフボールと衝突板の摩擦係数であり、接触力試験機により測定される。この接触力試験機の詳細な説明は、特開2013−176530号公報に記載されたものとほぼ同じである。但し、本発明では、ボールを90cmの高さから落下させて20度の角度で衝突板に衝突させて動摩擦係数を計測するものである。ボールを衝突板に衝突させる角度を20度としたのは、アプローチショット時のアイアンクラブのフェース部分が開き目である状態をイメージしたものである。
なお、動摩擦係数は下記の数式により求められる。
動摩擦係数=接触力(せん断方向)/接触力(打出し方向)
アプローチショット時のスピン量は、カバー硬度や塗膜層の硬度との関係性が大きいが、ゴルフボールの動摩擦係数も相関が強い。従って、アプローチショット時の適正なスピン量を得るためには、後述するように、ゴルフボールの動摩擦係数を要素としたスピン指数の適正化を図る必要がある。
【0081】
本発明では、コア硬度分布における上記(3)式、即ち、(Ho−H12)−(H12−Hc)をAとし、ボールの動摩擦係数×Aをスピン指数とするとき、該スピン指数が3.0以上となることを要する。上記のスピン指数が3.0より大きくすることにより、ドライバー(W#1)によるフルショット時の低スピン化とアプローチショット時の適切なスピン量との両立を図ることができるものである。上記のスピン指数の好適な値は、3.5以上、より好ましくは4.0以上である。
なお、ボールの動摩擦係数にAを掛け合わせる技術的意味は、フルショット時の低スピン化による飛距離性能向上と、アプローチショットでのコントロール性能向上の二律背反の性能の達成度合いを示す指標であり、従来のゴルフボールよりも、全体(トータル)の性能を向上させるという本発明の所望の効果を奏する。
【0082】
本発明ゴルフボールの直径としては、42mm以上、好ましくは42.3mm以上、より好ましくは42.6mm以上であり、上限としては、44mm以下、好ましくは43.8mm以下、より好ましくは43.5mm以下、更に好ましくは43mm以下である。
【0083】
また、ゴルフボールの重さは、44.5g以上であることが好適であり、より好ましくは44.7g以上、更に好ましくは45.1g以上、最も好ましくは45.2g以上であり、上限としては、好ましくは47.0g以下、より好ましくは46.5g以下、更に好ましくは46.0g以下である。
【0084】
ゴルフボールを荷重負荷した時のたわみ量、即ち、ボールに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量は、下限値としては、好ましくは1.8mm以上、より好ましくは2.0mm以上、更に好ましくは2.2mm以上であり、上限値としては、好ましくは3.8mm以下、より好ましくは3.6mm以下、更に好ましくは3.4mm以下である。このボールのたわみ量が小さ過ぎると、打感を著しく損なう場合があり、或いはスピン量が過度に増加して所望の飛距離が出なくなる場合がある、逆に、上記のたわみ量が大き過ぎると、初速が出なくなり、又は、著しく耐久性を損なう場合がある。
なお、上記のゴルフボールの所定荷重負荷時のたわみ量は、カバー(最外層)表面に塗膜層を形成して完成されたゴルフボールの状態で測定されるたわみ量を意味する。
【実施例】
【0085】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0086】
〔実施例1〜6、比較例1〜4〕
コアの形成
表1に示した各実施例及び比較例のゴム組成物を調製した後、表1に示す加硫条件により加硫成形することによりソリッドコアを作製した。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に記載した各成分の詳細は以下の通りである。
・ポリブタジエン(1):JSR社製、商品名「BR01」
・ポリブタジエン(2):JSR社製、商品名「BR51」
・有機過酸化物(1):シグミルパーオキサイド、日油社製、商品名「パークミルD」
・有機過酸化物(2):1,1ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカの混
合物、日油社製、商品「パーヘキサC−40」
・硫酸バリウム(I):堺化学工業社製、商品名「沈降性硫酸バリウム100」
・硫酸バリウム(II):ハクスイテック社製、商品名「バリコ#100」
・酸化亜鉛:堺化学工業社製、商品名「酸化亜鉛3種」
・老化防止剤:2,2−メチレンビス(4−メチル−6−ブチルフェノール)、大内新興
化学工業社製、商品名「ノクラックNS−6」
・アクリル酸亜鉛:日本触媒社製
・水:和光純薬工業社製の蒸留水
・ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩:和光純薬工業社製
【0089】
包囲層及び中間層の形成
次に、実施例1,2,
5,6、参考例4及び比較例3,4については、コアの周囲に、表2に示した配合の中間層材料を用いて射出成形法により中間層を形成し、中間層被覆球体を得た。実施例3及び比較例1,2については、コアの周囲に、表2に示した配合の包囲層材料を用いて射出成形法により包囲層を形成し、その後に、同表に示した配合の中間層材料を用いて射出成形法により中間層を形成し、包囲層及び中間層を被覆した球体を得た。
【0090】
カバー(最外層)の形成
次に、全ての実施例及び比較例については、上記で得た中間層被覆球体の周囲に、表2に示した配合のカバー材料を用いて射出成形法によりカバー(最外層)を形成した。この際、カバー表面には、全ての実施例及び比較例に共通する所定の多数のディンプルを形成した。
【0091】
【表2】
【0092】
表2に記載した材料の詳細は下記の通りである。
・「HPF1000」:Dupont社製のアイオノマー
・「ハイミラン」:三井・デュポンポリケミカル社製のアイオノマー
・「AN4319」、「AN4221C」:三井・デュポンポリケミカル社製のニュクレル
・ステアリン酸マグネシウム:日油社製、商品名「マグネシウムステアレートG」
・水酸化カルシウム:白石カルシウム社製、商品名「水酸化カルシウムCLS−B」
・トリメチロールプロパン:三菱ガス化学社製
・「ポリテールH」:三菱化学社製、低分子量ポリオレフィン系ポリオール
・「T-8260」、「T-8295」、「T-8290」、「T-8283」:DIC BayerPolymer社製の商標パンデックス、MDI−PTMGタイプ熱可塑性ポリウレタン
・酸化マグネシウム:協和化学工業社製、商品名「キョーワマグMF150」
・酸化チタン:石原産業社製「タイペークR680」
・ポリエチレンワックス:三洋化成社製、商品名「サンワックス161P」
【0093】
カバー表面の処理
次に、実施例、比較例の全てのカバー表面に対して、下記の〈1〉〜〈4〉の工程を順次行い、イソシアネート化合物によるカバー表面処理を実施した。
〈1〉事前加温 … 温度45〜55℃、時間は30分で実施
〈2〉イソシアネート化合物による浸漬処理 … 温度45〜55℃、時間は20〜40分で実施。イソシアネート化合物として、ポリメリックMDI、住化バイエルウレタン社製の商品名「スミジュールp−MDI 44V20L」(中粘度タイプであり、溶媒は使用していない。)を採用した。
〈3〉洗浄 … アセトンによる洗浄
〈4〉キュア … 温度45〜55℃、時間は360分で実施
【0094】
塗膜層の形成
次に、下記表3に示す塗料配合において、ディンプルが多数形成されたカバー(最外層)表面に、エアースプレーガンにより上記塗料を塗装し、厚み15μmの塗膜層を形成したゴルフボールを作製した。
【0095】
【表3】
【0096】
表3中のアクリル系ポリオール*1及び*2の合成例を以下に記載する。なお、以下において、「部」は「質量部」を意味する。
【0097】
[アクリル系ポリオールの合成例1]
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入管、及び滴下装置を備えた反応器に、酢酸ブチルを1000部仕込み、撹拌しながら100℃まで昇温した。そこに、ポリエステル含有アクリルモノマー(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルFM−3)620部、メチルメタクリレート317部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート63部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル12部からなる混合物を、4時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させた。反応終了後、酢酸ブチル532部,ポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルL205AL)520部仕込み、混合して固形分50%、粘度600mPa・s(25℃)、重量平均分子量70,000、水酸基価142mgKOH/g(固形分)の、透明なアクリル系ポリオール樹脂溶液(ポリオール*1)を得た。
【0098】
[アクリル系ポリオールの合成例2]
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入管、及び滴下装置を備えた反応器に、酢酸ブチルを1000部仕込み、撹拌しながら100℃まで昇温した。そこに、ポリエステル含有アクリルモノマー(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルFM−3)220部、メチルメタクリレート610部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート170部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル30部からなる混合物を、4時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させた。反応終了後、酢酸ブチル180部,ポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルL205AL)150部仕込み、混合して固形分50%、粘度100mPa・s(25℃)、重量平均分子量10,000、水酸基価113mgKOH/g(固形分)の、透明なアクリル系ポリオール樹脂溶液(ポリオール*2)を得た。
【0099】
上記で得られたゴルフボールについて、以下の項目について測定及び評価を行った。結果を表5に示す。
【0100】
コア、包囲層被覆球体、中間層被覆球体の外径
23.9±1℃の温度で、任意の表面5箇所を測定し、その平均値を1個のコア、包囲層被覆球体、中間層被覆球体の測定値とし、測定個数5個のコア、包囲層被覆球体、中間層被覆球体の平均値を求めた。
【0101】
ボールの外径
23.9±1℃の温度で、任意のディンプルのない部分を5箇所測定し、その平均値を1個のボールの測定値とし、測定個数5個のボールの平均値を求めた。
【0102】
コア及びボールのたわみ量
コア又はボールを硬板の上に置き、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1,275N(130kgf)に負荷したときまでの各球体のたわみ量(mm)をそれぞれ計測した。なお、上記のたわみ量はいずれも23.9℃に温度調整した後の測定値である。
【0103】
コア硬度分布
コアの表面は球面であるが、その球面に硬度計の針をほぼ垂直になるようにセットし、JIS K6301−1975規格に従ってJIS−C硬度でコア表面硬度を計測した。
コアの中心及び所定位置における断面硬度については、コアを半球状にカットして断面を平面にして測定部分に硬度計の針を垂直に押し当てて測定した。JIS−C硬度の値で示される。
【0104】
包囲層、中間層及びカバーの材料硬度(ショアD硬度)
包囲層、中間層及びカバーの樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置した。その後、ショアD硬度はASTM D2240−95規格に準拠して計測した。
【0105】
塗膜層の弾性仕事回復率
塗料の弾性仕事回復率の測定には、厚み100μmの塗膜シートを使用して測定する。測定装置は、エリオニクス社の超微小硬度計「ENT−2100」が用いられ、測定の条件は、以下の通りである。
・圧子:バーコビッチ圧子(材質:ダイヤモンド、角度α:65.03°)
・荷重F:0.2mN
・荷重時間:10秒
・保持時間:1秒
・除荷時間:1秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=Welast / Wtotal × 100(%)
【0106】
ボールの動摩擦係数
特開2013−176530号公報に記載された接触力試験機とほぼ同様のものを用いてボールの動摩擦係数を測定した。
(I)測定装置の仕様
(A)発射部: 指定の高さより落下させる(今回は90cm)。
(B)衝突板:ベース板、表層板及び圧力センサにて構成される。ベース板はスチールからなり、厚さ15mmである。表層板はステンレススチール(SUS−630)からなり、サイズは80mm×80mm×20mmである。表層板の外側に位置し、衝突板の打撃面である表層材は、チタン合金からなり、溝形状なしで、平均粗さRa:0.146μm、最大高さRy:1.132μmである。このサイズは80mm×80mm×10mmである。圧力センサは、キスラー社の3成分力センサ(型式9067)を用いる。チャージアンプは、キスラー社の型式5011Bを用いる。
傾斜角度(落下方向と衝突板の角度)は20度である。
(II)測定手順
動摩擦係数の測定は次の方法で行った。
(II−a)衝突板の角度(α)を20度に設定する(落下方向と衝突板の角度)。
(II−b)発射部からゴルフボールを落下させる。
(II−c)打出し方向接触力Fn(t)、せん断方向接触力Ft(t)を測定し、Ft(t)/Fn(t)の最大値を算出する。
【0107】
ボールのスピン指数
表4中のコア硬度分布おける「硬度差(2)−硬度差(1)」、即ち、(Ho−H12)−(H12−Hc)の値に、上記の測定方法により算出されたボールの動摩擦係数を掛け合わせた計算値をスピン指数と定義して、同表にスピン指数を記載した。
【0108】
そして、各実施例、比較例のゴルフボールの飛び性能(W#1)及びアプローチスピン性能を下記の基準に従って評価した。その結果を表5に示す。
【0109】
初速
R&Aの承認する装置であるUSGAのドラム回転式の初速計と同方式の初速測定器を用いて測定した。ボールを23.9±1℃環境下で3時間以上温度調整した後、室温23.9±2℃の部屋でテストした。250ポンド(113.4kg)のヘッド(ストライキングマス)を用いて打撃速度143.8ft/s(43.83m/s)にてボールを打撃し、1ダースのボールを各々4回打撃して6.28ft(1.91m)の間を通過する時間を測定し、初速(m/s)を算出した。約15分間でこのサイクルを行った。
【0110】
飛び特性
ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)をつけてヘッドスピード(HS)50m/sにて打撃した時の飛距離を測定し、下記基準により評価した。クラブはブリヂストンスポーツ社製「TourStage X−Drive709 D430ドライバー(2013モデル)」を使用した。このドライバーのロフト角は9.5°である。スピン量については、ブリヂストンスポーツ社製「サイエンスアイ・フィールド」により測定した。
〔判定基準〕
○ … トータル飛距離264m以上
× … トータル飛距離264m未満
【0111】
アプローチスピン性能
上述した動摩擦係数の測定時に同時に、撮影装置によりゴルフボールのスピン量を計測した。即ち、「ボールの動摩擦係数」の項目で説明するように、ボールを90cmの高さから衝突板に落下させ、衝突後のスピン量を計測した。そのスピンの量を下記の基準により判断した。なお、衝突後のボール初速は、約3.5〜4.5m/s程度になり、これはアプローチショット時に、サンドウェッジで6〜7ヤードの距離を得るための、一般的なクラブヘッドスピードに相当する。
〔判定基準〕
○ … スピン量1200rpm以上
× … スピン量1200rpm未満
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
表5の試験結果から以下のことが考察される。
比較例1は、コア硬度分布における(Ho−H12)−(H12−Hc)の値が小さく、且つ、スピン指数が所定範囲よりも不足しており、その結果、アプローチスピン性能に劣る。
比較例2は、コア硬度分布における(Ho−H12)−(H12−Hc)の値が小さく、且つ、スピン指数が所定範囲よりも不足しており、その結果、アプローチスピン性能に劣る。
比較例3は、コア硬度分布における(Ho−H12)−(H12−Hc)の値が小さく、且つ、スピン指数が所定範囲よりも不足しており、その結果、飛び性能及びアプローチスピン性能に劣る。
比較例4は、コア硬度分布におけるHo−Hcの値及び(Ho−H12)−(H12−Hc)の値が小さくなり、且つ、スピン指数が所定範囲よりも不足しており、その結果、飛び性能及びアプローチスピン性能に劣る。