特許第6682871号(P6682871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682871
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】制御機器
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20200406BHJP
【FI】
   H04R3/00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-9225(P2016-9225)
(22)【出願日】2016年1月20日
(65)【公開番号】特開2017-130807(P2017-130807A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年11月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003676
【氏名又は名称】ティアック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 要
【審査官】 鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−050123(JP,A)
【文献】 特開2007−127773(JP,A)
【文献】 DIGITAL MIXING STUDIO 01X 取扱説明書,日本,ヤマハ株式会社,2003年,p68-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1規格の第1オーディオ信号を処理する第1処理部と、
第2規格の第2オーディオ信号を処理する第2処理部と、
入力された第1オーディオ信号を第1処理部に供給するとともに第1処理部で処理された第1オーディオ信号を受信し、第2処理部で処理された第2オーディオ信号を受信し、受信した第1オーディオ信号と受信した第2オーディオ信号を加算することでミキシングオーディオ信号を生成して出力するミキシング処理部と、
ミキシング処理部から受信したミキシングオーディオ信号を録音する録音部と、
を備え、
前記第1処理部は、プログラムを実行するプロセッサとしての第1規格ドライバモジュール及び第1規格アプリケーションモジュールから構成され、
前記第2処理部は、前記プロセッサとしての第2規格ドライバモジュール及び第2規格アプリケーションモジュールから構成され、
前記ミキシング処理部は、前記プロセッサとしてのミキサモジュールから構成され、前記ミキサモジュールは、前記第1規格ドライバモジュールから入力された第1オーディオ信号を前記第1規格アプリケーションモジュールに供給し、前記第1規格アプリケーションモジュールで処理された第1オーディオ信号を前記第1規格ドライバモジュールから受信し、前記第2規格アプリケーションモジュールで処理された第2オーディオ信号を前記第2規格ドライバモジュールから受信し、受信した第1オーディオ信号と受信した第2オーディオ信号を加算することでミキシングオーディオ信号を生成して前記第1規格ドライバモジュール及び前記第2規格ドライバモジュールに供給する
ことを特徴とする制御機器。
【請求項2】
請求項1に記載の制御機器において、
第1処理部は、第1オーディオ信号にエフェクト処理を施し、
第2処理部は、第2オーディオ信号を再生する
ことを特徴とする制御機器。
【請求項3】
請求項1,2のいずれかに記載の制御機器において、
モード選択スイッチを有し、
ミキシング処理部は、モード選択スイッチが第1モードの場合に、受信した第1オーディオ信号を外部機器に出力し、モード選択スイッチが第2モードの場合に、受信した第1オーディオ信号と受信した第2オーディオ信号を加算することでミキシングオーディオ信号を生成して外部機器に出力する
ことを特徴とする制御機器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の制御機器において、
第1規格はASIO規格であって、第1オーディオ信号はASIOオーディオ信号であり、
第2規格はWDM規格であって、第2オーディオ信号はWDMオーディオ信号である、
ことを特徴とする制御機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ信号のミキシング機能を備えた制御機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オーディオ信号を編集・加工するパソコン等の制御機器が提案されている。特許文献1には、外部の音響機器と接続される複数の入力ポートと、少なくともマイク入力端子およびライン入力端子を有するサウンドチップと、1つの入力ポートを少なくともマイク入力端子またはライン入力端子のいずれかに、選択信号に基づいて接続する選択手段とを有するオーディオ信号ユニットと、表示手段と、デバイスドライバを含むオペレーティングシステムとメインCPUにより実現される制御手段であり、選択信号を生成して選択手段へ出力する制御手段とを備える制御機器が記載されている。制御手段は、オーディオ信号ユニットの1つの入力ポートに外部の音響機器が接続された状態で、少なくともマイク信号およびライン信号の音量レベルを調整するための調整子を表示手段に表示させ、表示された調整子のうちマイク信号の音量レベル調整子が操作された場合には、接続すべき端子としてマイク入力端子を選択指示する選択信号を生成し、ライン信号の音量レベル調整子が操作された場合には、接続すべき端子としてライン入力端子を選択指示する選択信号を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3896810号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、オーディオ信号を入出力するためのアプリケーション用APIとして提供された規格として、ASIO(Audio Stream Input Output)やWDM(Windows Driver Model)が用いられており、特にASIOはレイテンシー(オーディオ信号の遅延)が少ない規格として広く用いられている。例えば、ASIOに対応したアプリケーションとしてエフェクト処理を行うアプリケーションを起動し、マイク入力端子から入力されたオーディオ信号に所望のエフェクト処理を施して出力することが可能である。
【0005】
他方、例えば、WDMに対応したアプリケーションを起動して楽曲を再生しつつ、この楽曲に合わせて演奏する、いわゆるカラオケを楽しみたいというユーザも少なからず存在し、この場合にはASIOアプリケーションのオーディオ信号とWDMアプリケーションのオーディオ信号が混在することになるから、これらのオーディオ信号を処理する必要が生じる。
【0006】
従来のオーディオインタフェースとコンピュータ(パソコン等)との組合せでは、コンピュータのWDMアプリケーションで再生した楽曲データはオーディオインタフェースに入力され、オーディオインタフェースから外部に出力されるとともに、マイク入力端子から入力されたオーディオ信号はコンピュータに出力され、コンピュータで楽曲データとミキシングされて出力される構成であり、ミキシング後のオーディオ信号を録音するためにオーディオインタフェースから再びコンピュータに戻すとループが生じ、いわゆるハウリングが生じてしまうので、結果として別のコンピュータや録音機器に出力して録音せざるを得ない問題があった。
【0007】
本発明は、互いに異なる規格の下で処理された2種類のオーディオ信号、特にASIO規格のオーディオ信号とWDM規格のオーディオ信号をミキシングして録音することが可能な制御機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1規格の第1オーディオ信号を処理する第1処理部と、第2規格の第2オーディオ信号を処理する第2処理部と、入力された第1オーディオ信号を第1処理部に供給するとともに第1処理部で処理された第1オーディオ信号を受信し、第2処理部で処理された第2オーディオ信号を受信し、受信した第1オーディオ信号と受信した第2オーディオ信号を加算することでミキシングオーディオ信号を生成して出力するミキシング処理部と、ミキシング処理部から受信したミキシングオーディオ信号を録音する録音部とを備え、前記第1処理部は、プログラムを実行するプロセッサとしての第1規格ドライバモジュール及び第1規格アプリケーションモジュールから構成され、前記第2処理部は、前記プロセッサとしての第2規格ドライバモジュール及び第2規格アプリケーションモジュールから構成され、前記ミキシング処理部は、前記プロセッサとしてのミキサモジュールから構成され、前記ミキサモジュールは、前記第1規格ドライバモジュールから入力された第1オーディオ信号を前記第1規格アプリケーションモジュールに供給し、前記第1規格アプリケーションモジュールで処理された第1オーディオ信号を前記第1規格ドライバモジュールから受信し、前記第2規格アプリケーションモジュールで処理された第2オーディオ信号を前記第2規格ドライバモジュールから受信し、受信した第1オーディオ信号と受信した第2オーディオ信号を加算することでミキシングオーディオ信号を生成して前記第1規格ドライバモジュール及び前記第2規格ドライバモジュールに供給することを特徴とする。
【0009】
本発明の1つの実施形態では、第1処理部は、第1オーディオ信号にエフェクト処理を施し、第2処理部は、第2オーディオ信号を再生する。
【0010】
本発明の他の実施形態では、モード選択スイッチを有し、ミキシング処理部は、モード選択スイッチが第1モードの場合に、受信した第1オーディオ信号を外部機器に出力し、モード選択スイッチが第2モードの場合に、受信した第1オーディオ信号と受信した第2オーディオ信号を加算することでミキシングオーディオ信号を生成して外部機器に出力する。
【0011】
本発明のさらに他の実施形態では、第1規格はASIO規格であって、第1オーディオ信号はASIOオーディオ信号であり、第2規格はWDM規格であって、第2オーディオ信号はWDMオーディオ信号である。
【0012】
また、本発明は、コンピュータに、モード選択スイッチを含む操作パネルをディスプレイに表示させるステップと、ASIOオーディオ信号を入力させるステップと、入力されたASIOオーディオ信号に対してエフェクト処理を実行させるステップと、操作パネルのモード選択スイッチからの選択信号に応じ、選択信号が第1モードである場合に、エフェクト処理を施されたASIOオーディオ信号を出力させ、選択信号が第2モードである場合に、エフェクト処理を施されたASIOオーディオ信号にWDMオーディオ信号を加算することでミキシングオーディオ信号を生成させて出力させるとともに録音させるステップとを実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、互いに異なる規格の下で処理された2種類のオーディオ信号、特にASIO規格のオーディオ信号とWDM規格のオーディオ信号をミキシングすることができ、さらにWDM規格で録音することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態のブロック図である。
図2】実施形態のミキサモジュールの等価的回路図である。
図3】実施形態の操作パネルの説明図である。
図4】実施形態の処理フローチャートである。
図5】実施形態のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0016】
まず、本実施形態の基本原理について説明する。
【0017】
本実施形態では、互いに異なる第1規格の第1オーディオ信号と、第2規格の第2オーディオ信号とを同一のコンピュータ内で共存させ、第1オーディオ信号の処理を可能とするとともに、第1オーディオ信号と第2オーディオ信号とのミキシングを可能とする。
【0018】
すなわち、第1規格のドライバ及び第1規格のアプリケーションにより第1オーディオ信号の処理を行うが、通常、これと異なる第2規格のドライバ及び第2規格のアプリケーションにより生成された第2オーディオ信号は、第1規格のドライバ及び第1規格のアプリケーションでは処理できない。
【0019】
そこで、本実施形態では、第1規格のドライバの機能を拡張するミキサモジュールないしミキサドライバを新たにコンピュータにインストールし、このミキサドライバにより第1規格のドライバ及び第1規格のアプリケーションと、第2規格のドライバ及び第2規格のアプリケーションとの間のオーディオ信号のやり取りを可能とする。ミキサモジュールは、第1モード及び第2モードの2つの選択モードを有し、第1モードが選択された場合には、第1規格のドライバからの第1オーディオ信号を第1規格のアプリケーションに提供し、第1規格のアプリケーションで処理(例えばエフェクト処理)された第1オーディオ信号を出力端子から出力する。また、第2モードが選択された場合には、第1オーディオ信号の処理と並行して、第2規格のアプリケーションを起動して第2オーディオ信号を再生し、第2規格のドライバを介して第2オーディオ信号を入力し、処理された第1オーディオ信号と再生された第2オーディオ信号とを加算してミキシングオーディオ信号を生成し出力端子から出力する。また、ミキサモジュールは、第2モードが選択された場合、必要に応じてミキシングオーディオ信号を第2規格のドライバを介して第2規格のアプリケーションに供給し、録音等の処理を実行する。ミキサモジュールは、第1オーディオ信号を処理するとともに第2オーディオ信号を処理し、第1オーディオ信号と第2オーディオ信号をミキシングする。
【0020】
すなわち、ミキサモジュールは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)と第1規格のドライバと第2規格のドライバと協働し、
・第1規格のドライバからの第1オーディオ信号を受け取る機能
・第1オーディオ信号を第1規格のアプリケーションに渡す機能
・第1規格のアプリケーションで処理された第1オーディオ信号を第1規格のドライバに渡す機能
・第2規格のドライバからの第2オーディオ信号を受け取る機能
・第1オーディオ信号と第2オーディオ信号を加算してミキシングする機能
・ミキシングオーディオ信号を第2規格ドライバに渡す機能
を有する。
【0021】
このような機能を有することで、コンピュータは、互いに異なる規格の下で処理された2種類のオーディオ信号をミキシングして出力あるいは録音することが可能となる。
【0022】
第2オーディオ信号を再生する第2規格のアプリケーションと、ミキシングオーディオ信号を録音する第2規格のアプリケーションは、互いに同一でもよく異なっていてもよい。例えば、再生専用のアプリケーションで第2オーディオ信号を再生し、録音専用のアプリケーションでミキシングオーディオ信号を録音する。
【0023】
ミキサモジュールないしミキサドライバは、コンピュータに接続されるオーディオインタフェースを介してオーディオ信号をコンピュータに入力し音楽制作する場合の、当該オーディオインタフェースにバンドルされるデバイスドライバとして位置づけることができる。デバイスドライバは、オーディオインタフェースとともにCD−ROM等の記録媒体あるいはインターネットで配布され得る。
【0024】
次に、第1規格としてASIO(Audio Stream Input Output)、第2規格としてWDM(Windows Driver Model)を例にとり説明する。
【0025】
図1は、本実施形態における制御機器のブロック図を示す。制御機器は、具体的にはCPU、ROM、RAM、メモリを備えるパソコン(PC)等のコンピュータ10で構成される。
【0026】
コンピュータ10は、第1のASIOドライバ14、第2のASIOドライバ15、WDMドライバ16、ミキサモジュール18、ASIOアプリケーション20、WDMアプリケーション22、及び操作パネル24を有する。ASIOドライバ14、ASIOドライバ15、WDMドライバ16、ミキサモジュール18、ASIOアプリケーション20、WDMアプリケーション22は、CPUで実行されるプログラムであり、操作パネル24は、CPUがミキサモジュール18を実行することでディスプレイに表示される。
【0027】
オーディオインタフェース12は、例えばUSB等でコンピュータ10に接続される。オーディオインタフェース12は、マイク入力端子及びオーディオ入出力端子並びにアンプを備え、マイク入力端子からオーディオ信号を入力し増幅してコンピュータ10に出力し、コンピュータ10からのオーディオ信号を入力してオーディオ出力端子から出力する。
【0028】
ASIOドライバ14、ASIOドライバ15、及びASIOアプリケーション20は、ASIO規格に従ってオーディオ信号を処理するプログラムモジュールであり、予めROM等のプログラムメモリやハードディスクにインストールされるか、あるいはインターネット経由で所定のサーバからダウンロードしてインストールされる。ASIOアプリケーション20の一例は、オーディオ信号に対してエフェクト処理を施すプログラムである。エフェクト処理には、ノイズ除去、リバーブ(Reverb)、ボリューム、ディレイ(エコー)、ハイパス、ローパス、反転、イコライジング等が含まれる。ASIO規格に従って処理されるオーディオ信号を以下ではASIOオーディオ信号と称する。
【0029】
WDMドライバ16及びWDMアプリケーション22は、WDM規格に従ってオーディオ信号を処理するプログラムモジュールである。WDMアプリケーション22の一例は、音楽再生プログラムや録音プログラムであり、Windows Media Player等が含まれる。WDM規格に従って処理されるオーディオ信号を以下ではWDMオーディオ信号と称する。
【0030】
ミキサモジュール18は、ASIOドライバ14、ASIOドライバ15、WDMドライバ16の間に介在し、ASIOオーディオ信号とWDMオーディオ信号を統合的に処理する。具体的には、ASIOオーディオ信号とWDMオーディオ信号をそれぞれ個別に処理する他に、ASIOオーディオ信号とWDMオーディオ信号をミキシングする機能を有する。ミキサモジュール18は、オーディオインタフェース12にバンドルされたデバイスドライバとしてインターネット経由で所定のサーバからダウンロードしてインストールされる。なお、ミキサモジュール18とともに、WDMドライバ16も合わせてダウンロードしてインストールされることが好適であり、同一のインストーラにミキサモジュール18とWDMドライバ16がともに含まれることが好適である。WDMドライバ16は、ミキサモジュール18に対してWDMオーディオ信号を出力するとともに、ミキサモジュール18からのASIOオーディオ信号あるいはミキシングオーディオ信号をWDMアプリケーション22に供給するものであり、ミキサモジュール18と協働して動作する。
【0031】
操作パネル24は、コンピュータ10のディスプレイに表示されるパネルであり、ミキサモジュール18の機能を設定する。本実施形態では、操作パネル24によって、DAWモードとBROADCAST/KARAOKEモードを切り替えることができる。DAWモードでは、ミキサモジュール18は、入力されたASIOオーディオ信号をASIOアプリケーション20で処理し、処理済みのASIOオーディオ信号を外部に出力する。すなわち、ミキサモジュール18は、ASIOドライバ14からのASIOオーディオ信号を入力し、ASIOアプリケーション20に当該ASIOオーディオ信号を供給するとともに、ASIOアプリケーション20で処理されたASIOオーディオ信号をASIOドライバ15から入力する。また、WDMアプリケーション22を起動して再生されたWDMオーディオ信号をWDMドライバ16から入力し、処理済みのASIOオーディオ信号にWDMオーディオ信号を加算してミキシングする。そして、ミキシングされたオーディオ信号をASIOドライバ14に供給するとともに、処理済みのASIOオーディオ信号をそのままWDMドライバ16に供給し、設定に応じてWDMアプリケーション22で録音する。
【0032】
他方、BROADCAST/KARAOKEモードでは、ミキサモジュール18は、入力されたASIOオーディオ信号をASIOアプリケーション20で処理するとともに、WDMアプリケーション22で再生されたWDMオーディオ信号を加算してミキシングし、ミキシング済みのオーディオ信号を外部に出力するか、あるいはWDMアプリケーション22でメモリ等に録音する。すなわち、ミキサモジュール18は、ASIOドライバ14からのASIOオーディオ信号を入力し、ASIOアプリケーション20に当該ASIOオーディオ信号を供給するとともに、ASIOアプリケーション20で処理されたASIOオーディオ信号をASIOドライバ15から入力する。また、WDMアプリケーション22を起動して再生されたWDMオーディオ信号をWDMドライバ16から入力し、処理されたASIOオーディオ信号にWDMオーディオ信号を加算してミキシングする。ミキシングされたオーディオ信号をASIOドライバ14に供給するとともに、ミキシングされたオーディオ信号をWDMドライバ16に供給し、設定に応じてWDMアプリケーション22で録音する。
【0033】
従来においては、たとえコンピュータ10にASIOドライバ14、ASIOドライバ15、及びASIOアプリケーション20と、WDMドライバ16及びWDMアプリケーション22がともにインストールされていたとしても、それぞれ別個独立にオーディオ信号を処理しており、例えばASIOアプリケーション20を起動してマイク入力端子から入力されたオーディオ信号にエフェクト処理を施してオーディオ出力端子から出力するか、あるいはWDMアプリケーション22を起動してメモリに記憶された楽曲データを再生して出力するかのいずれかであり、ASIOオーディオ信号とWDMオーディオ信号をミキシングして出力することはできなかった。また、既述したように、仮にミキシングしたとしてもミキシング後のオーディオ信号を録音するために再びコンピュータに戻すとループが生じ、いわゆるハウリングが生じてしまうので、結果として別のコンピュータや録音機器に出力して録音せざるを得なかった。
【0034】
これに対し、本実施形態では、ミキサモジュール18がASIOオーディオ信号とWDMオーディオ信号をミキシングし、WDMドライバ16に対して録音用のオーディオ信号として再生されたオーディオ信号とは別に供給し、WDMアプリケーション22ではWDMドライバ16からの録音用のオーディオ信号を受け取って録音するので、ハードウェア上のループが構成されずにハウリングが生じることもなく、同一のコンピュータ10でミキシングオーディオ信号を録音できる。
【0035】
なお、ミキサモジュール18は、ASIOオーディオ信号をASIOドライバ14を介して外部に出力する他に、ミキシングオーディオ信号と同様にWDMドライバ16を介してWDMアプリケーション22に供給することもできるから、DAWモードにおいてASIOオーディオ信号をWDMアプリケーション22に供給して録音してもよい。
【0036】
図2は、ミキサモジュール18の等価的回路図を示す。ミキサモジュール18は、上記のようにプログラムモジュールであるが、図2ではその機能を等価的な回路構成として示す。図2の機能は、ハードウェア上は、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)とミキサモジュール18によりCPUで実現される。
【0037】
ミキサモジュール18は、フェーダL1L,L1R,L2L,L2R,L3L,L3R、スイッチS1〜S7、及び加算器18a,18bを有する。
【0038】
オーディオインタフェース12からのASIOオーディオ信号は、ASIOドライバ14を介してフェーダL1L,L1Rに供給される。フェーダL1Lは、オーディオインタフェース12のマイク入力端子1に対応し、フェーダL1Rは,オーディオインタフェース12のマイク入力端子2に対応する。フェーダL1Lは、入力されたASIOオーディオ信号のレベルを調整してスイッチS1,S2に供給する。フェーダL1Rは、入力されたASIOオーディオ信号のレベルを調整してスイッチS3,S4に供給する。
【0039】
スイッチS1〜S4は、入力アサインスイッチであり、マイク入力端子1,2からのASIOオーディオ信号のどれをLチャンネル、Rチャンネルに割り当てるかを決定する。具体的には、マイク入力端子1をLチャンネルに割り当てるときにはS1をオンし、マイク入力端子1をLチャンネル及びRチャンネルに割り当てるときにはS1及びS2をオンし、マイク入力端子2をLチャンネルに割り当てるときにはS3をオンし、マイク入力端子2をLチャンネル及びRチャンネルに割り当てるときにはS3及びS4をオンする。また、マイク入力端子1をLチャンネルに割り当て、マイク入力端子2をRチャンネルに割り当てるときにはS1及びS4をオンし、マイク入力端子1をRチャンネルに割り当て、マイク入力端子2をLチャンネルに割り当てるときにはS2及びS3をオンする。
【0040】
スイッチS5は、バイパススイッチであり、ASIOアプリケーション20が存在しない場合にオンされ、ASIOアプリケーション20が存在し、ASIOアプリケーションでエフェクト処理を施す場合にオフされる。ASIOアプリケーション20が存在する場合であっても、エフェクト処理を施さない場合にオンしてもよい。スイッチS5がオフされると、Lチャンネル及びRチャンネルのASIOオーディオ信号はASIOINとしてミキサモジュール18からASIOドライバ15を介してASIOアプリケーション20に供給され、既述したような各種エフェクト処理が実行され、処理済みのASIOオーディオ信号はASIOOUTとしてミキサモジュール18に入力される。処理済みのASIOオーディオ信号、あるいはスイッチS5がオンされてバイパスされたASIOオーディオ信号は、加算器18a,18bに供給される。
【0041】
また、WDMアプリケーション22で再生されたWDMオーディオ信号は、WDMドライバ16を介してフェーダL2L,L2Rに供給される。フェーダL2L,L2Rは、入力されたWDMオーディオ信号のレベルを調整して加算器18a,18bに供給する。
【0042】
加算器18a,18bは、エフェクト処理された、あるいはエフェクト処理されないASIOオーディオ信号と、WDMオーディオ信号を加算してミキシングし、ASIOドライバ14を介してオーディオインタフェース12に出力する。WDMオーディオ信号が存在しない場合、加算器18a,18bはミキシングすることなく、あるいは無音をミキシングしてASIOオーディオ信号をそのまま出力することは言うまでもない。
【0043】
スイッチS6は、ミキシングオーディオ信号を録音するためのスイッチであり、録音時にオンする。スイッチS6をオンにすると、加算器18a,18bからのミキシングオーディオ信号は、フェーダL3L,L3Rに供給される。フェーダL3L,L3Rは、ミキシングオーディオ信号のレベルを調整してWDMドライバ16を介してWDMアプリケーション22に供給する。WDMアプリケーション22は、ミキシングオーディオ信号を半導体メモリやハードディスク等の記録媒体に記録して録音する。
【0044】
スイッチS7は、ASIOオーディオ信号をそのまま録音するためのスイッチであり、録音時にオンする。スイッチS7をオンにすると、ASIOオーディオ信号は、加算器18a,18bで加算されることなくフェーダL3L,L3Rに供給される。フェーダL3L,L3Rは、ASIOオーディオ信号のレベルを調整してWDMドライバ16を介してWDMアプリケーション22に供給する。WDMアプリケーション22は、ASIOオーディオ信号を半導体メモリやハードディスク等の記録媒体に記録して録音する。
【0045】
スイッチS6及びスイッチS7は連動しており、いずれかが択一的にオンする。すなわち、スイッチS6がオンのときにはスイッチS7はオフし、スイッチS7がオンのときにはスイッチS6はオフとなる。
【0046】
図3は、コンピュータ10のディスプレイに表示される操作パネル24の一例を示す。操作パネル24には、サンプリングレートに加え、モード選択スイッチ24a、モニタセッティングスイッチ24b、オーディオ入力セッティングスイッチ24cが表示され、ユーザが所望のモード及び設定を入力し得る。
【0047】
モード選択スイッチ24aは、DAWモードとBROADCAST/KARAOKEモードを択一的に選択するスイッチである。DAWモードが選択されると、既述したように、ミキサモジュール18は、ASIOドライバ14からのASIOオーディオ信号をASIOドライバ15を介してASIOアプリケーション20に供給し、ASIOアプリケーション20で処理され、ASIOドライバ15から入力されるASIOオーディオ信号にWDMドライバ16から入力されるWDMオーディオ信号を加算してミキシングし、ASIOドライバ14に出力する。また、ミキサモジュール18は、DAWモードにおいて、ASIOアプリケーション20で処理されたASIOオーディオ信号をWDMドライバ16を介してWDMアプリケーション22に供給し録音してもよい。BROADCAST/KARAOKEモードが選択されると、ミキサモジュール18は、ASIOアプリケーションで処理された(あるいは処理されない)ASIOオーディオ信号とWDMアプリケーション22で再生されたWDMオーディオ信号とをミキシングし、ASIOドライバ14に出力し、並行してWDMドライバ16を介してWDMアプリケーション22に供給し録音する。なお、BROADCASTの場合には、WDMアプリケーション22はミキシングオーディオ信号をインターネットを介して配信する。録音する場合とインターネットを介して配信する場合のいずれにおいても、ミキシングオーディオ信号は同時にオーディオインタフェース12に出力され、オーディオインタフェース12のオーディオ出力端子から出力されるので、ユーザはヘッドフォン等でミキシングオーディオ信号をモニタできる。
【0048】
モニタセッティングスイッチ24bは、マイク入力端子1,2をそれぞれモノラルに割り当てるか、ステレオに割り当てるかを設定するスイッチである。
【0049】
オーディオ入力セッティングスイッチ24cは、マイク入力端子1,2の有効/無効を選択するためのスイッチである。
【0050】
図4は、本実施形態の全体処理フローチャートであり、コンピュータ10のCPUで実行される処理である。
【0051】
CPUは、ミキサモジュール18を読み出して実行すると、まず、図3に示す操作パネル24をディスプレイに表示する(S101)。ユーザは、操作パネルを操作することで、モード、モニタセッティング、オーディオ入力を設定する(S102)。
【0052】
次に、CPUは、設定されたモードがDAWモードであるかBROADCAST/KARAOKEモードであるかを判定する(S103)。DAWモードである場合、CPUは、ASIOドライバ14からのASIOオーディオ信号を入力し、ユーザによって起動されるASIOアプリケーション20(ミキサモジュール18の実行に応じて自動的に起動されるようにしてもよい)を起動してエコー等のエフェクト処理を実行する(S104a)。この処理と並行して、WDMアプリケーション22を起動してWDMオーディオ信号を再生し(S104b)、S104aで得られたASIOオーディオ信号とS104bで得られたWDMオーディオ信号を加算することでミキシングオーディオ信号を生成する(S109)。そして、生成したミキシングオーディオ信号をオーディオインタフェース12に出力し(S110)、これとともに、処理済みのASIOオーディオ信号を半導体メモリやハードディスク等に記録して録音できるようにWDMアプリケーション22にデータを渡す(S105)。ASIOアプリケーション20が存在しない場合、エフェクト処理を実行することなく、ASIOオーディオ信号をバイパス処理してオーディオインタフェース12に出力する。S104aのASIOオーディオ信号の処理には、かかるバイパス処理も含まれる。
【0053】
他方、S103でBROADCAST/KARAOKEモードであると判定された場合、CPUは、ASIOドライバ14からのASIOオーディオ信号を入力し、エフェクト処理の実行が選択されている場合は、ASIOアプリケーション20を起動して(ユーザにより起動されるようにしてもよいし、設定に応じて自動的に起動されるようにしてもよい)エコー等のエフェクト処理を実行する(S106a)。エフェクト処理の実行が選択されていない場合は、S106aでバイパス処理される。また、この処理と並行して、WDMアプリケーション22を起動してWDMオーディオ信号を再生し(S106b)、S106aで得られたASIOオーディオ信号とS106bで得られたWDMオーディオ信号を加算することでミキシングオーディオ信号を生成する(S107)。ミキシングに際し、ASIOオーディオ信号のレベルとWDMオーディオ信号のレベルをそれぞれ独立に調整し得るように構成してもよい。CPUは、生成したミキシングオーディオ信号をオーディオインタフェース12に出力する。また、これとともに、WDMアプリケーション22を起動し、ミキシングオーディオ信号を半導体メモリやハードディスク等に記録して録音し、あるいはインターネット配信する(S108)。
【0054】
以上説明したように、本実施形態では、ASIOとWDMを同一のコンピュータ10内に共存させ、ASIOオーディオ信号とWDMオーディオ信号を統一的に処理できるとともに、両オーディオ信号をミキシングして出力あるいは録音することができる。本実施形態では、信号処理をプログラムでソフトウェアとして処理するため、ハードウェアの追加や変更が必要なく、操作パネル24を用いた設定のみで所望の処理を実現できる。
【0055】
なお、本発明はこれに限定されず種々の変形が可能である。
【0056】
例えば、本実施形態では、図1に示すようにASIOドライバ14とASIOドライバ15とミキサモジュール18とWDMドライバ16を別個のプログラムモジュールとして示しているが、これらを単一のプログラム、つまりモノリシックなプログラムモジュールとしてインターネットサーバ等から提供してもよい。ASIOに着目すると、ミキサモジュール18は、従来のASIOドライバ14の機能を拡張するためのモジュールあるいはプラグインとして機能する、つまり階層構造のプログラムモジュールといえ、図3の操作パネル24におけるモード選択スイッチ24aは、当該プラグインの実行/非実行を選択するスイッチということができる。
【0057】
また、本実施形態では、第1モードとしてDAWモード、第2モードとしてBROADCAST/KARAOKEモードを例示したが、これに限定されるものではなく、例えば第1モードとしてミキシング非実行モード、第2モードとしてミキシングモードとしてもよい。要するに、択一的に選択可能な2つのモードを有し、いずれか一方のモードでミキシングを実行せずにASIOオーディオ信号を出力し、いずれか他方のモードでASIOオーディオ信号とWDMオーディオ信号をミキシングすればよい。
【0058】
本実施形態のミキサモジュール18等は、インターネット等の通信回線を介してコンピュータ10に提供されるが、CD−ROMあるいはDVD−ROM等の記録媒体に格納され、記録媒体を介してコンピュータ10にインストールされてもよい。コンピュータ10のCPUは、プログラムメモリに記憶されたミキサモジュール18等を読み出して実行することで上記の機能を実行する。
【0059】
図5は、本実施形態のシステム構成の一例を具体的に示す。コンピュータ10は、CPU、ROM、RAM、半導体メモリ、入出力インタフェース(I/F)、通信インタフェース(I/F)、ディスプレイを備える。入出力I/Fの一例はUSBである。オーディオインタフェース12とコンピュータ10は入出力I/Fで接続される。ROMにはASIOドライバ14、ASIOドライバ15、WDMドライバ16、ミキサモジュール18、ASIOアプリケーション20、WDMアプリケーション22の各プログラムが記憶される。ASIOドライバ14、ASIOドライバ15、WDMドライバ16、ミキサモジュール18は、通信I/Fを介して接続されたインターネットのサーバからダウンロードされる。CPUは、ROMに記憶された各種プログラムを読み出して図4に示す処理を実行する。CPUは、ディスプレイに操作パネル24を表示してモード選択信号を受け付け、モード選択信号に応じてミキシング処理を実行する。CPUは、生成したミキシングオーディオ信号をオーディオインタフェース12に出力するとともに、半導体メモリに記録して録音する。半導体メモリはコンピュータ10外部に接続されていてもよい。また、生成したミキシングオーディオ信号をインターネットを介して配信する。
【符号の説明】
【0060】
10 コンピュータ(制御機器)、12 オーディオインタフェース、14 第1のASIOドライバ、15 第2のASIOドライバ、16 WDMドライバ、18 ミキサモジュール、20 ASIOアプリケーション、22 WDMアプリケーション、24 操作パネル。
図1
図2
図3
図4
図5