特許第6682907号(P6682907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682907
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】脆性基板の分断方法
(51)【国際特許分類】
   B28D 5/00 20060101AFI20200406BHJP
   C03B 33/033 20060101ALI20200406BHJP
   C03B 33/10 20060101ALI20200406BHJP
   C03B 33/037 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
   B28D5/00 Z
   C03B33/033
   C03B33/10
   C03B33/037
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-35039(P2016-35039)
(22)【出願日】2016年2月26日
(65)【公開番号】特開2017-149078(P2017-149078A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】曽山 浩
【審査官】 飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/182241(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
C03B 33/033
C03B 33/037
C03B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一の面と、前記一の面に垂直な厚さ方向とを有する脆性基板を準備する工程を備え、さらに
b)第1の面と、前記第1の面と隣り合う第2の面と、前記第2の面と隣り合うことで稜線をなしかつ前記第1の面および前記第2の面の各々と隣り合うことで頂点をなす第3の面と、を有する刃先を準備する工程を備え、前記稜線は、面取り加工なしのものであり、さらに
c)前記脆性基板の前記一の面上で前記刃先を前記稜線から前記第1の面へ向かう方向へ摺動させることによって、溝形状を有するトレンチラインを塑性変形により前記脆性基板の前記一の面上に形成する工程を備え、前記トレンチラインは、前記トレンチラインの下方において前記脆性基板が前記トレンチラインと交差する方向において連続的につながっている状態であるクラックレス状態が得られるように形成され、さらに
d)前記工程c)の後に、前記トレンチラインに沿って前記厚さ方向における前記脆性基板のクラックを伸展させることによって、クラックラインを形成する工程を備え、前記クラックラインによって前記トレンチラインの下方において前記脆性基板は前記トレンチラインと交差する方向において連続的なつながりが断たれており、さらに
e)前記クラックラインに沿って前記脆性基板を分断する工程を備え
前記工程d)は、
前記工程c)によって摺動させられた前記刃先の前記稜線が前記脆性基板の前記一の面の縁を切り下ろす工程と、
前記刃先の前記稜線によって切り下ろされた前記縁から前記トレンチラインに沿って前記クラックラインが伸展する工程と、を含む
脆性基板の分断方法。
【請求項2】
a)一の面と、前記一の面に垂直な厚さ方向とを有する脆性基板を準備する工程を備え、さらに
b)第1の面と、前記第1の面と隣り合う第2の面と、前記第2の面と隣り合うことで稜線をなしかつ前記第1の面および前記第2の面の各々と隣り合うことで頂点をなす第3の面と、を有する刃先を準備する工程を備え、前記刃先は、前記稜線に垂直な断面において2μm以下の曲率半径を有し、さらに
c)前記脆性基板の前記一の面上で前記刃先を前記稜線から前記第1の面へ向かう方向へ摺動させることによって、溝形状を有するトレンチラインを塑性変形により前記脆性基板の前記一の面上に形成する工程を備え、前記トレンチラインは、前記トレンチラインの下方において前記脆性基板が前記トレンチラインと交差する方向において連続的につながっている状態であるクラックレス状態が得られるように形成され、さらに
d)前記工程c)の後に、前記トレンチラインに沿って前記厚さ方向における前記脆性基板のクラックを伸展させることによって、クラックラインを形成する工程を備え、前記クラックラインによって前記トレンチラインの下方において前記脆性基板は前記トレンチラインと交差する方向において連続的なつながりが断たれており、さらに
e)前記クラックラインに沿って前記脆性基板を分断する工程を備え
前記工程d)は、
前記工程c)によって摺動させられた前記刃先の前記稜線が前記脆性基板の前記一の面の縁を切り下ろす工程と、
前記刃先の前記稜線によって切り下ろされた前記縁から前記トレンチラインに沿って前記クラックラインが伸展する工程と、を含む
脆性基板の分断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脆性基板の分断方法に関し、特に、刃先の摺動を用いた脆性基板の分断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットディスプレイパネルまたは太陽電池パネルなどの電気機器の製造において、脆性基板を分断することがしばしば必要となる。典型的な分断方法においては、まず、脆性基板上にクラックラインが形成される。本明細書において「クラックライン」とは、脆性基板の厚さ方向に部分的に進行したクラックが脆性基板の表面上においてライン状に延びているもののことを意味する。次に、いわゆるブレイク工程が行われる。具体的には、脆性基板に応力を印加することによって、クラックラインのクラックが厚さ方向に完全に進行させられる。これにより、クラックラインに沿って脆性基板が分断される。
【0003】
特許文献1によれば、ガラス板の上面にあるくぼみがスクライブ時に生じる。この特許文献1においては、このくぼみが「スクライブライン」と称されている。また、このスクライブラインの刻設と同時に、スクライブラインから直下方向に延びるクラックが発生する。この特許文献1の技術に見られるように、従来の典型的な技術においては、スクライブラインの形成と同時にクラックラインが形成される。
【0004】
特許文献2によれば、上記の典型的な分断技術とは顕著に異なる分断技術が提案されている。この技術によれば、まず、脆性基板上での刃先の摺動によって塑性変形を発生させることにより、この特許文献2において「スクライブライン」と称される溝形状が形成される。本明細書においては、以降において、この溝形状のことを「トレンチライン」と称する。トレンチラインが形成されている時点では、その下方にクラックは形成されない。その後にトレンチラインに沿ってクラックを伸展させることで、クラックラインが形成される。つまり、典型的な技術とは異なり、クラックを伴わないトレンチラインがいったん形成され、その後にトレンチラインに沿ってクラックラインが形成される。その後、クラックラインに沿って通常のブレイク工程が行われる。
【0005】
上記特許文献2の技術のように、クラックを伴わないトレンチラインを積極的に利用する技術を、本明細書においては「クラックレススクライビング技術」と称する。クラックレススクライビング技術において形成されるトレンチラインは、クラックの同時形成を伴う典型的なスクライブラインに比して、より低い荷重での刃先の摺動により形成可能である。荷重が小さければ、刃先に加わるダメージも小さくなる。よって、この分断技術によれば、刃先の寿命を延ばすことができる。刃先の構成の一種として、上記特許文献2によれば、3つの面が合流する頂点と、そこから延びる稜線とを有するものが開示されている。具体的には、刃先は、天面と第1の側面と第2の側面とが合流する頂点と、第1の側面および第2の側面がなす稜線とを有する。脆性基板上で刃先が摺動される方向としては、天面から稜線へ向かう第1の方向と、稜線から天面へ向かう第2の方向とが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−188534号公報
【特許文献2】国際公開第2015/151755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した刃先は、クラックレススクライビング技術に限らず、クラックの同時発生を伴う典型的なスクライビング技術においても広く用いられてきたものである。典型的なスクライビング技術においては、刃先の摺動方向は、上記第1の方向が標準的である。言い換えれば、稜線を前側とし、天面を後側とするのが標準的である。なぜならばその方が、刃先へのダメージを抑えやすいためである。一方で、クラックレススクライビング技術においては、刃先への荷重が低いことから刃先へのダメージが抑えられるので、上記第2の方向も十分に実用的である。そしてクラックレススクライビング技術においては、その用途によっては、第1の方向ではなく第2の方向が特に望まれる場合があり得る。このような場合に適した刃先の具体的な構成については、クラックレススクライビング技術の検討が始まってから間もないということもあり、具体的な検討が未だなされていなかった。
【0008】
工業目的で用いられる刃先は、その交換頻度が比較的高いことから、容易に準備され得るものであることが望まれる。特に、刃先の摺動方向として上記第2の方向が選択される場合は、第1の方向が選択される場合に比して刃先へのダメージが加わりやすい。このため、刃先の寿命が短くなりやすく、それに応じて刃先の交換頻度が高くなりやすい。よって、刃先が容易に準備され得るものであることが、より一層望まれる。
【0009】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、3つの面が合流する頂点を有する刃先がその稜線を後側として摺動される場合において、刃先を容易に準備し、かつ刃先の十分な寿命を確保することができる、脆性基板の分断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の局面に従う脆性基板の分断方法は、以下の工程a)〜e)を有する。
a)一の面と、一の面に垂直な厚さ方向とを有する脆性基板が準備される。
b)第1の面と、第1の面と隣り合う第2の面と、第2の面と隣り合うことで稜線をなしかつ第1の面および第2の面の各々と隣り合うことで頂点をなす第3の面と、を有する刃先が準備される。稜線は、面取り加工なしのものである。
c)脆性基板の一の面上で刃先を稜線から第1の面へ向かう方向へ摺動させることによって、溝形状を有するトレンチラインが塑性変形により脆性基板の一の面上に形成される。トレンチラインは、トレンチラインの下方において脆性基板がトレンチラインと交差する方向において連続的につながっている状態であるクラックレス状態が得られるように形成される。
d)工程c)の後に、トレンチラインに沿って厚さ方向における脆性基板のクラックを伸展させることによって、クラックラインが形成される。クラックラインは、工程c)によって摺動させられた刃先の稜線が脆性基板の一の面の縁を切り下ろされ、刃先の稜線によって切り下ろされた縁からトレンチラインに沿ってクラックラインが伸展することにより形成される。クラックラインによってトレンチラインの下方において脆性基板はトレンチラインと交差する方向において連続的なつながりが断たれている。
e)クラックラインに沿って脆性基板が分断される。
【0011】
本発明の他の局面に従う脆性基板の分断方法は、以下の工程a)〜e)を有する。
a)一の面と、一の面に垂直な厚さ方向とを有する脆性基板が準備される。
b)第1の面と、第1の面と隣り合う第2の面と、第2の面と隣り合うことで稜線をなしかつ第1の面および第2の面の各々と隣り合うことで頂点をなす第3の面と、を有する刃先が準備される。刃先は、稜線に垂直な断面において2μm以下の曲率半径を有する。
c)脆性基板の一の面上で刃先を稜線から第1の面へ向かう方向へ摺動させることによって、溝形状を有するトレンチラインが塑性変形により脆性基板の一の面上に形成される。トレンチラインは、トレンチラインの下方において脆性基板がトレンチラインと交差する方向において連続的につながっている状態であるクラックレス状態が得られるように形成される。
d)工程c)の後に、トレンチラインに沿って厚さ方向における脆性基板のクラックを伸展させることによって、クラックラインが形成される。クラックラインは、工程c)によって摺動させられた刃先の稜線が脆性基板の一の面の縁を切り下ろされ、刃先の稜線によって切り下ろされた縁からトレンチラインに沿ってクラックラインが伸展することにより形成される。クラックラインによってトレンチラインの下方において脆性基板はトレンチラインと交差する方向において連続的なつながりが断たれている。
e)クラックラインに沿って脆性基板が分断される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一の局面に従う脆性基板の分断方法によれば、刃先の稜線は、面取り加工なしのものである。これにより、刃先の稜線が面取り加工ありのものである場合に比して、刃先を容易に準備することができる。また、クラックレススクライビング技術が用いられることで、刃先への荷重を低くすることができる。これにより、稜線を後側とした摺動を行いつつも、刃先の十分な寿命を確保することができる。
【0013】
本発明の他の局面に従う脆性基板の分断方法によれば、刃先は、稜線に垂直な断面において2μm以下の曲率半径を有する。このような曲率半径は、稜線をなす一対の面が形成された後に、稜線に対する面取り加工を控えるだけで、容易に得られる。よって、刃先を容易に準備することができる。また、クラックレススクライビング技術が用いられることで、刃先への荷重を低くすることができる。これにより、稜線を後側とした摺動を行いつつも、刃先の十分な寿命を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態1における脆性基板の分断方法に用いられるカッティング器具の構成を概略的に示す側面図である。
図2図1の矢印IIの視点での概略平面図である。
図3図2の頂点近傍の部分拡大図である。
図4図3の稜線に垂直な断面における曲率半径を算出するための表面プロファイルを模式的に示すグラフ図である。
図5】本発明の実施の形態1〜5における脆性基板の分断方法の構成を概略的に示すフロー図である。
図6】本発明の実施の形態1における脆性基板の分断方法の第1の工程を概略的に示す上面図である。
図7図6の線VII−VIIに沿う概略端面図である。
図8】本発明の実施の形態1における脆性基板の分断方法の第2の工程を概略的に示す上面図である。
図9図8の線IX−IXに沿う概略端面図である。
図10】比較例1における脆性基板の分断方法に用いられるカッティング器具の構成を概略的に示す平面図である。
図11】実施の形態1の実施例における脆性基板の分断形状を示す側面図である。
図12】比較例3における脆性基板の分断形状を示す側面図である。
図13】本発明の実施の形態2における脆性基板の分断方法における、トレンチラインの形成方法の構成を概略的に示すフロー図である。
図14】本発明の実施の形態3における脆性基板の分断方法の第1の工程を概略的に示す上面図である。
図15図14の線XV−XVに沿う概略端面図である。
図16】本発明の実施の形態3における脆性基板の分断方法の第2の工程を概略的に示す上面図である。
図17】本発明の実施の形態3における脆性基板の分断方法の第3の工程を概略的に示す上面図である。
図18】本発明の実施の形態4における脆性基板の分断方法の第1の工程を概略的に示す上面図である。
図19】本発明の実施の形態4における脆性基板の分断方法の第2の工程を概略的に示す上面図である。
図20】本発明の実施の形態5における脆性基板の分断方法に用いられる刃先の構成を概略的に示す断面図である。
図21】本発明の実施の形態5における脆性基板の分断方法に用いられるアシスト刃先の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0016】
<実施の形態1>
(カッティング器具の構成)
図1および図2を参照して、はじめに、本実施の形態のガラス基板4(脆性基板)の分断方法におけるトレンチラインの形成工程に用いられるカッティング器具50の構成について説明する。カッティング器具50は刃先51およびシャンク52を有している。刃先51は、そのホルダとしてのシャンク52に固定されることによって保持されている。
【0017】
刃先51には、天面SD1(第1の面)と、天面SD1を取り囲む複数の面とが設けられている。これら複数の面は側面SD2(第2の面)および側面SD3(第3の面)を含む。天面SD1、側面SD2およびSD3(第1〜第3の面)は、互いに異なる方向を向いており、かつ互いに隣り合っている。刃先51は、天面SD1、側面SD2およびSD3が合流する頂点を有する。この頂点PPによって刃先51の突起部が構成されている。また側面SD2およびSD3は、刃先51の側部を構成する稜線PSをなしている。稜線PSは、頂点PPから線状に延びており、かつ、線状に延びる凸形状を有する。以上の構成から、刃先51は、天面SD1と、天面SD1と隣り合う側面SD2と、側面SD2と隣り合うことで稜線PSをなしかつ天面SD1および側面SD2の各々と隣り合うことで頂点PPをなす側面SD3と、を有する。
【0018】
稜線PSは、面取り加工なしのものである。このため刃先51の稜線は鋭利な形状をなしている。具体的には、刃先51は、稜線PSに垂直な断面における曲率半径(以下、単に「稜線PSの曲率半径」とも称する)として、2μm以下の曲率半径を有し、好ましくは1μm以下の曲率半径を有する。この曲率半径の測定方法の例について、以下に説明する。
【0019】
図3を参照して、上記曲率半径は、測定線SR上での側面SD2およびSD3の表面プロファイルの測定結果から算出され得る。測定線SRは、刃先51のうち、頂点PP近傍の、ガラス基板4への実質的な作用部分ER内に位置するものである。測定線SRは、頂点PPから離れた位置で稜線PSと直交する。作用部分ERは、稜線PSに直交する方向における寸法L1と、稜線PSに沿った方向における寸法L2とを有する。典型的には、寸法L1は30μm以上50μm以下であり、寸法L2は10μm以上30μm以下である。頂点PPと測定線SRとの間隔LDは、頂点PPの存在による表面プロファイルへの影響が十分に小さくなるような間隔であり、たとえば5μm程度である。図4は、測定線SR上の位置と高さHとの関係の測定結果を模式的に示す表面プロファイルである。表面プロファイルの測定は、たとえばレーザ顕微鏡を用いて行い得る。得られた表面プロファイルに対して稜線PSの位置で円RRを当てはめることで、曲率半径が算出され得る。
【0020】
刃先51はダイヤモンドポイントであることが好ましい。すなわち刃先51は、硬度および表面粗さを小さくすることができる点からダイヤモンドから作られていることが好ましい。より好ましくは刃先51は単結晶ダイヤモンドから作られている。さらに好ましくは結晶学的に言って、天面SD1は{001}面であり、側面SD2およびSD3の各々は{111}面である。この場合、側面SD2およびSD3は、異なる向きを有するものの、結晶学上、互いに等価な結晶面である。
【0021】
なお単結晶でないダイヤモンドが用いられてもよく、たとえば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法で合成された多結晶体ダイヤモンドが用いられてもよい。あるいは、微粒のグラファイトや非グラファイト状炭素から、鉄族元素などの結合材を含まずに焼結された多結晶体ダイヤモンド粒子を鉄族元素などの結合材によって結合させた焼結ダイヤモンドが用いられてもよい。
【0022】
シャンク52は軸方向AXに沿って延在している。刃先51は、天面SD1の法線方向が軸方向AXにおおよそ沿うようにシャンク52に取り付けられることが好ましい。
【0023】
(ガラス基板の分断方法)
図5に示すフロー図を参照しつつ、次に、ガラス基板4の分断方法について、以下に説明する。
【0024】
ステップS10(図5)にて、分断されることになるガラス基板4(図1)が準備される。ガラス基板4は、上面SF1(一の面)と、その反対の下面SF2(他の面)とを有している。上面SF1には縁EDが設けられている。図6で示す例においては、縁EDは長方形状を有する。ガラス基板4は、上面SF1に垂直な厚さ方向DTを有する。またステップS20(図5)にて、上述した、刃先51を有するカッティング器具50(図1および図2)が準備される。
【0025】
図6を参照して、ステップS30(図5)にてトレンチラインTLが形成される。具体的には、以下の工程が行われる。
【0026】
まず、刃先51(図1)の頂点PPが上面SF1に位置N1で押し付けられる。これにより刃先51がガラス基板4に接触する。位置N1は、図示されているように、ガラス基板4の上面SF1の縁EDから離れていることが好ましい。言い換えれば、刃先51の摺動開始時点において、刃先51がガラス基板4の上面SF1の縁EDに衝突することが避けられる。
【0027】
次に、上記のように押し付けられた刃先51がガラス基板4の上面SF1上で摺動させられる(図6の矢印参照)。刃先51(図1)は、上面SF1上で稜線PSから天面SD1へ向かう方向へ摺動させられる。厳密に言えば、刃先51は、稜線PSから頂点PPを経由して天面SD1へ向かう方向を上面SF1上に射影した方向DBに摺動させられる。方向DBは、頂点PPの近傍における稜線PSの延在方向を上面SF1上に射影した方向におおよそ沿っている。図1においては、方向DBは、刃先51から延びる軸方向AXを上面SF1上へ射影した方向と反対方向に対応している。よって刃先51はシャンク52によって上面SF1上を押し進められる。
【0028】
ガラス基板4の上面SF1上を摺動させられる刃先51(図1)の稜線PSおよび天面SD1のそれぞれは、ガラス基板4の上面SF1と角度AG1および角度AG2をなしている。角度AG2は角度AG1よりも小さいことが好ましい。
【0029】
上記摺動によって上面SF1上に塑性変形が発生させられる。これにより上面SF1上に、溝形状を有するトレンチラインTL(図7)が形成される。トレンチラインTLは、ガラス基板4の塑性変形のみによって生じることが好ましく、その場合、ガラス基板4の上面SF1上で削れが生じない。削れを避けるためには、刃先51の荷重を過度に高くしなければよい。削れがないことにより、上面SF1上に、好ましくない微細な破片が生じることが避けられる。ただし、若干の削れは、通常、許容され得る。
【0030】
トレンチラインTLの形成は、位置N1および位置N3eの間で、位置N1から位置N2を経由して位置N3eへ刃先51を摺動させることによって行われる。位置N2は、ガラス基板4の上面SF1の縁EDから離れている。位置N3eは、ガラス基板4の上面SF1の縁EDに位置している。
【0031】
トレンチラインTLは、トレンチラインTLの下方においてガラス基板4がトレンチラインTLの延在方向(図6における横方向)と交差する方向DC(図7)において連続的につながっている状態であるクラックレス状態が得られるように形成される。クラックレス状態においては、塑性変形によるトレンチラインTLは形成されているものの、それに沿ったクラックは形成されていない。適切なクラックレス状態を得るために、刃先51に加えられる荷重は、トレンチラインTL形成時点ではクラックが発生しない程度に小さくなるように、かつ、後の工程でクラックを発生させることができる内部応力の状態を作り出すような塑性変形が発生する程度に大きくなるように、調整される。
【0032】
トレンチラインTLを形成するために上記のように摺動させられた刃先51は、最終的に位置N3eに達する。クラックレス状態は、刃先51が位置N2に位置している時点で維持されており、さらに、刃先51が位置N3eに達する瞬間まで維持されている。刃先51が位置N3eに達すると、刃先51の稜線PS(図1)は、ガラス基板4の上面SF1の縁EDを切り下ろす。
【0033】
図8および図9を参照して、上記の切り下ろしによって、位置N3eに微細な破壊が生じる。この破壊を起点として、トレンチラインTL付近の内部応力を解放するようにクラックが発生する。具体的には、ガラス基板4の上面SF1の縁EDに位置する位置N3eからトレンチラインTLに沿って、厚さ方向DTにおけるガラス基板4のクラックが伸展する(図8における矢印参照)。言い換えれば、クラックラインCLの形成が開始される。これにより、ステップS50(図5)として、位置N3eから位置N1へクラックラインCLが形成される。
【0034】
なお、クラックラインCLの形成をより確実にするために、刃先51が位置N2から位置N3eを摺動する速度を、位置N1から位置N2における速度より小さくしてもよい。同様に、位置N2から位置N3eにおいて刃先51に印加される荷重を、クラックレス状態が維持される範囲で位置N1から位置N2における荷重よりも大きくしてもよい。
【0035】
クラックラインCLによってトレンチラインTLの下方においてガラス基板4はトレンチラインTLの延在方向(図8における横方向)と交差する方向DC(図9)において連続的なつながりが断たれている。ここで「連続的なつながり」とは、言い換えれば、クラックによって遮られていないつながりのことである。なお、上述したように連続的なつながりが断たれている状態において、クラックラインCLのクラックを介してガラス基板4の部分同士が接触していてもよい。また、トレンチラインTLの直下にわずかに連続的なつながりが残されていてもよい。
【0036】
トレンチラインTL(図6)に沿ってクラックラインCL(図8)が伸展する方向(図8の矢印)は、トレンチラインTLが形成された方向(図6の矢印)と逆である。このような方向関係でクラックラインCLを発生させるためには、トレンチラインTLの形成のために刃先51が方向DB(図1)へ摺動する際に、角度AG2が角度AG1よりも小さくされていることが好ましい。この角度関係が満たされていないと、クラックラインCLが発生しにくい。また角度AG1および角度AG2がおおよそ同じであると、クラックラインCLが発生するか否かが不安定となりやすい。
【0037】
次に、ステップS60(図5)にて、クラックラインCLに沿ってガラス基板4が分断される。すなわち、いわゆるブレイク工程が行なわれる。ブレイク工程は、ガラス基板4への外力の印加によって行ない得る。たとえば、ガラス基板4の上面SF1上のクラックラインCL(図9)に向かって下面SF2上に応力印加部材(たとえば、「ブレイクバー」と称される部材)を押し付けることによって、クラックラインCLのクラックを開くような応力がガラス基板4へ印加される。なおクラックラインCLがその形成時に厚さ方向DTに完全に進行した場合は、クラックラインCLの形成とガラス基板4の分断とが同時に生じる。
【0038】
以上によりガラス基板4の分断が行なわれる。なお上述したクラックラインCLの形成工程は、いわゆるブレイク工程と本質的に異なっている。ブレイク工程は、既に形成されているクラックを厚さ方向にさらに伸展させることで基板を完全に分離するものである。一方、クラックラインCLの形成工程は、トレンチラインTLの形成によって得られたクラックレス状態から、クラックを有する状態への変化をもたらすものである。この変化は、クラックレス状態が有する内部応力の開放によって生じると考えられる。
【0039】
(比較例1)
図10を参照して、本比較例の刃先59の頂点PPは、4つの面SE1〜SE4が合流する箇所に設けられている。頂点PPからは4つの稜線PS1〜PS4が設けられている。この場合、図6の工程において、ガラス基板4の上面SF1の縁EDを、稜線PS1〜PS4のいずれかで切り下ろし得る。よって、本実施の形態と同様に、クラックラインCLが確実に形成されやすい長所がある。一方で、刃先59の形成に高い加工精度が必要となり、よってその形成が容易ではない、という短所がある。なぜならば、本比較例のように面SE1〜SE4が合流する箇所によって刃先の頂点PPが設けられる場合は、これらのうち3つの面が合流する点を通るように、残る1つの面の位置を合わせる必要があるためである。
【0040】
(比較例2)
本比較例においては、刃先51の摺動方向が、方向DB(図1)と反対であるものとする。この場合、図6の工程において、ガラス基板4の上面SF1の縁EDを、稜線PSではなく天面SD1が切り下ろす。つまり、切り下ろしの際、上記本実施の形態においては鋭利な稜線PSが作用するのに対して、本比較例においては、平坦な天面SD1が作用する。このため本比較例においては、クラックラインCLの形成開始のきっかけとなる微細な破壊が生じにくくなる。よってクラックラインCLが確実には形成されにくくなる。
【0041】
(実施例および比較例3)
図11は、本実施の形態の実施例におけるガラス基板4の分断形状を概略的に示す側面図である。図12は、比較例3のガラス基板4の分断形状を概略的に示す側面図である。分断されるガラス基板4の厚みは0.1mmとされた。ガラス基板4が分断されることによって得られた面(以下、「分断面」とも称する)は、図11および図12における右辺に対応しており、レーザ顕微鏡によって得られた表面プロファイルに基づき、分断面の高度差を強調して描かれたものである。分断に用いられた刃先51の稜線PS(図3)は、実施例においては面取り加工なしのものとされ、比較例3においては面取りありのものとされた。稜線PSの曲率半径は、実施例においては0.6μmであり、比較例3においては3.9μmであった。
【0042】
実施例の分断面は、比較例3の分断面に比して、上面SF1に対する直角度が良好であった。また実施例の分断面は、比較例3の分断面に比して、平坦度が良好であった。具体的には、分断面の高度差が、実施例においては0.5μmであり、比較例3においては2.3μmであった。ここで「高度差」とは、分断面の表面プロファイルのうち、最も低い位置と最も高い位置との差である。このように実施例の方が比較例3に比して良好な分断面が得られる理由は、稜線PSの曲率半径が小さいことにより、トレンチラインTLの形成時にガラス基板4へ付与される内部応力が、より局所的に集中して付与されるためと推測される。
【0043】
(効果のまとめ)
本実施の形態によれば、刃先51を容易に準備することができる。その第1の理由は、上記比較例1とは異なり、刃先51の頂点が、天面SD1、側面SD2および側面SD3の3つの面が合流する箇所として設けられるからである。仮に、3つを超える面が合流する箇所によって刃先の頂点が設けられる場合、3つの面が合流する点を通るように、残る面の位置を合わせる必要がある。このため、高い加工精度が必要となる。これに対して、3つの面が合流する箇所によって刃先の頂点が設けられる場合、そのような高い加工精度は必要ではない。第2の理由は、刃先51の稜線PSが、面取り加工なしのものであるからである。これにより、刃先51の稜線PSが面取り加工ありのものである場合に比して、刃先51を容易に準備することができる。これを他の観点から見れば、刃先51が、稜線PSに垂直な断面において2μm以下、好ましくは1μm以下、の曲率半径を有するからである。このような曲率半径は、稜線PSをなす一対の面が形成された後に、稜線PSに対する面取り加工を控えるだけで、容易に得られる。よって、刃先51を容易に準備することができる。
【0044】
さらに、本実施の形態によれば、クラックレススクライビング技術が用いられることで、刃先51への荷重を低くすることができる。これにより、天面SD1を前側とし稜線PSを後側とする摺動を行いつつも、刃先51の十分な寿命を確保することができる。
【0045】
さらに本実施の形態によれば、稜線PSに対する面取り加工がなされた比較例3に比して、良好な分断面が得られる。具体的には、上面SF1に対する直角度が良好な分断面が得られる。また、平坦度が良好な分断面が得られる。
【0046】
さらに本実施の形態によれば、トレンチラインTLに沿ったクラックラインCLをより確実に形成することができる。その第1の理由は、上記比較例2とは異なり、トレンチラインTLの形成のために摺動させられた刃先51の稜線PSが、ガラス基板4の上面SF1の縁EDを切り下ろすからである。第2の理由は、このように切り下ろしを行う稜線PSが、面取りされていないために、または、2μm以下の曲率半径を有するために、鋭利な状態にあるためである。ガラス基板4の上面SF1の縁EDを、鋭利な稜線PSが切り下ろすことで、クラックラインCLをより確実に形成することができる。
【0047】
<実施の形態2>
再び図6を参照して、本実施の形態においては、ガラス基板4の上面SF1上において刃先51が摺動することになる位置に、潤滑剤が供給される。言い換えれば、トレンチラインTL(図6)を形成する工程(図5:ステップS30)は、図13に示すように、潤滑剤を供給するステップS31と、潤滑剤が供給された位置において刃先51が摺動されるステップS32とを含む。ステップS31を実施するためには、たとえば、シャンク52(図1)に潤滑剤供給部(図示せず)が設けられれば良い。なお、これら以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、その説明を繰り返さない。またステップS31は、後述する実施の形態3〜5にも適用可能である。
【0048】
本実施の形態においては、実施の形態1と同様、刃先51の進行方向として方向DB(図1)が選択されている。刃先51への荷重が同じである条件下では、方向DBへの摺動は、その逆方向への摺動に比して、刃先51へのダメージが大きくなりやすい。本実施の形態によれば、このダメージを効果的に抑制することができる。これにより、刃先の寿命を延ばすことができる。
【0049】
<実施の形態3>
図14を参照して、ステップS10(図5)にて、上記実施の形態1と同様のガラス基板4が準備される。ただし本実施の形態においては、ガラス基板4の上面SF1上にアシストラインALが設けられている。図15を参照して、アシストラインALは、アシストトレンチラインTLaと、アシストクラックラインCLaとを有する。アシストトレンチラインTLaは溝形状を有する。アシストクラックラインCLaは、厚さ方向DTにおけるガラス基板4のクラックがアシストトレンチラインTLaに沿って延びることによって構成されている。
【0050】
本実施の形態においては、アシストラインALはガラス基板4の上面SF1に、アシストトレンチラインTLaおよびアシストクラックラインCLaを同時に形成する工程によって設けられる。このようなアシストラインALは、通常の典型的なスクライブ方法によって形成され得る。たとえば、このようなアシストラインALは、図14の矢印に示すように、刃先がガラス基板4の上面SF1の縁EDを乗り上げ、そして上面SF1上を移動することによって行い得る。乗り上げ時の衝撃により微細なクラックが発生することで、アシストトレンチラインTLa形成時に、アシストクラックラインCLaを同時に形成することが、容易に可能である。この刃先は、乗り上げ時の刃先およびガラス基板4へのダメージを抑えるために、刃先51の形状とは異なる、乗り上げに適した形状を有するものであることが好ましい。具体的には、刃先は、回動可能に保持されたもの(ホイール型のもの)であることが好ましい。言い換えれば、刃先はガラス基板4上で摺動ではなく回動するものであることが好ましい。なお、アシストラインALの起点は、図14においては縁EDであるが、縁EDから離れていてもよい。
【0051】
次にステップS20(図5)にて、実施の形態1と同様の刃先51が準備される。なお、前述したアシストラインAL用の刃先の準備を容易とするために、上記のアシストラインALがこの刃先51を用いて形成されていてもよい。あるいは、刃先51の形状と同様の形状を有する刃先を用いて上記のアシストラインALが形成されていてもよい。
【0052】
図16を参照して、次に、ステップS30(図5)にてトレンチラインTLが形成される。具体的には、以下の工程が行われる。
【0053】
まず実施の形態1と同様の動作が行われる。具体的には、上面SF1に刃先51(図1)の頂点PPが位置N1で押し付けられる。次に、押し付けられた刃先51がガラス基板4の上面SF1上で方向DB(図1)に摺動させられる(図16の矢印参照)。これにより上面SF1上にトレンチラインTLがクラックレス状態で形成される。
【0054】
本実施の形態においては、トレンチラインTLの形成は、位置N1および位置N3aの間で、位置N1から位置N2を経由して位置N3aへ刃先51を摺動させることによって行われる。位置N3aはアシストラインAL上に配置されている。位置N2は、位置N1と位置N3aとの間に配置されている。好ましくは、刃先51は、アシストラインAL上の位置N3aを超えてさらに位置N4まで摺動させられる。位置N4は縁EDから離れていることが好ましい。
【0055】
トレンチラインTLを形成するために上記のように摺動させられた刃先51は、位置N3aにおいてアシストラインALと交差する。よって刃先51の稜線PS(図1)もアシストラインALと交差する。この交差によって位置N3aに微細な破壊が生じる。この破壊を起点として、トレンチラインTL付近の内部応力を解放するようにクラックが発生する。具体的には、アシストラインAL上に位置する位置N3aからトレンチラインTLに沿って、厚さ方向DTにおけるガラス基板4のクラックが伸展する(図17の矢印参照)。言い換えれば、刃先51の稜線PSによって交差されたアシストラインALから、トレンチラインTLに沿って、クラックラインCLが伸展する。これにより、ステップS50(図5)として、位置N3aから位置N1へクラックラインCLが形成される。クラックラインCLの形成後は、実施の形態1と同様、クラックラインCLによってトレンチラインTLの下方においてガラス基板4はトレンチラインTLと交差する方向において連続的なつながりが断たれている。
【0056】
刃先51は、位置N3aに達した後、ガラス基板4から離される。好ましくは、刃先51は、位置N3aを超えて位置N4まで摺動した後、ガラス基板4から離される。
【0057】
次に、ステップS60(図5)にて、実施の形態1と同様に、クラックラインCLに沿ってガラス基板4が分断される。以上により本実施の形態のガラス基板4の分断方法が行われる。
【0058】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様に、トレンチラインTLに沿ったクラックラインCLをより確実に形成することができる。なぜならば、トレンチラインTLの形成のために摺動させられた刃先51の稜線PSが、ガラス基板4の上面SF1に設けられたアシストラインALと、摺動する刃先51の頂点によって形成されたトレンチラインTLとが交差する位置N3a(図16)へ、局所的に応力を印加するからである。この応力印加により、クラックラインCLの形成開始のきっかけが、高い確実性で得られる。その他、実施の形態1とほぼ同様の効果が得られる。
【0059】
<実施の形態4>
本実施の形態においては、実施の形態3と異なり、アシストラインAL(図15および図16)が有するアシストトレンチラインTLaおよびアシストクラックラインCLaのそれぞれが、実施の形態1で説明されたトレンチラインTLおよびクラックラインCLの形成方法に類した方法によって形成される。以下、この方法について具体的に説明する。
【0060】
まず、アシストラインALの形成に用いられる刃先が準備される。この刃先は、刃先51(図1および図2)と同じであってもよい。すなわち、アシストラインALの形成と、その後に形成されるトレンチラインTLの形成とが、共通の刃先51によって行われてもよい。あるいは、アシストラインALの形成のための刃先として、刃先51とは別の刃先(以下、「アシスト刃先」と称する)が準備されてもよい。アシスト刃先は、刃先51(図1および図2)の形状と同じ形状を有してもよい。あるいは、アシスト刃先は、刃先51の形状と異なる形状を有してもよい。アシスト刃先が刃先51の形状と異なる形状を有している場合においても、アシスト刃先は、頂点PPおよび稜線PSを形成する天面SD1、側面SD2および側面SD3の構成を有し、上述した形状の相違は、これら構成間の配置の相違によるものであることが好ましい。ここで考慮されている刃先の「形状」は、刃先のうち、頂点PP近傍の部分、すなわちガラス基板4への作用部分、の形状であり、この作用部分から離れた部分の形状は、通常、重要ではない。以下において、説明を冗長としないために、アシストラインALの形成に用いられる刃先のことを、それが刃先51かあるいはアシスト刃先であるかを問わず、単に「刃先」と称する場合がある。
【0061】
図18を参照して、次に、トレンチラインTLの形成(図6)に類した方法によって、アシストトレンチラインTLaがクラックレス状態で形成される。図19を参照して、次に、トレンチラインTLに沿ったクラックラインCLの形成方法(図8)に類した方法によって、アシストトレンチラインTLa(図18)に沿ったアシストトレンチラインTLaが形成される。以上により、アシストラインAL(図15)が形成される。
【0062】
次に、実施の形態3と同様に、ステップS30およびS50(図5)にて、トレンチラインTL(図16)およびクラックラインCL(図17)が形成され、ステップS60(図5)にて、クラックラインCLに沿ってガラス基板4が分断される。以上により本実施の形態のガラス基板4の分断方法が行われる。
【0063】
本実施の形態においては、トレンチラインTL(図16)の形成において刃先51に印加される荷重は、アシストトレンチラインTLa(図18)の形成において刃先に印加される荷重に比して大きくされる。本発明者の実験的な検討によれば、このように荷重に差異を設けることで、クラックラインCL(図17)をより確実に発生させることができる。
【0064】
好ましくは、トレンチラインTL(図16)の形成における角度AG2(図1)は、アシストトレンチラインTLaの形成における角度AG2(図1)よりも小さくされる。このような角度関係が用いられることにより、特に、アシストトレンチラインTLaの形成のための刃先が、刃先51、または、刃先51の形状と同じ形状を有するアシスト刃先である場合であっても、上述した荷重の差異を設けやすい。この理由は、刃先の形状が同様の場合、角度AG2が小さいほど、トレンチラインTL(またはアシストトレンチラインTLa)をクラックレス状態で形成可能な荷重が大きくなるためである。トレンチラインTLの形成において、角度AG2が大き過ぎると、トレンチラインTLをクラックレス状態で形成することと、アシストトレンチラインTLaの形成時の荷重よりも大きな荷重を用いることとを両立させることが困難となる。これに対して、トレンチラインTL(図16)の形成における角度AG2(図1)が、アシストトレンチラインTLaの形成における角度AG2(図1)よりも小さくされる場合、トレンチラインTLの形成において、アシストトレンチラインTLaの形成時の荷重よりも大きな荷重を用いることが容易となる。よって、トレンチラインTLのための刃先51に高荷重向けの刃先設計を適用し、かつ、アシストトレンチラインTLaのための刃先に低荷重向けの刃先設計を適用する、という配慮が不要となる。よって、アシストトレンチラインTLaの形成において、トレンチラインTLの形成に用いられる刃先51、またはその形状と同じ形状を有するアシスト刃先を用いることができる。
【0065】
上述したように角度AG2(図1)に差異が設けられる場合、アシストトレンチラインTLaを形成するための刃先として、トレンチラインTLを形成するための刃先51とは別に、アシスト刃先が準備されることが好ましい。これにより、刃先51の角度AG2がトレンチラインTLの形成に適したものとなる状態で刃先51の姿勢を固定しておくことができる。言い換えれば、アシストトレンチラインTLaの形成工程とトレンチラインTLの形成工程との間で、角度AG2の最適化のための刃先51の姿勢調整が不要となる。
【0066】
<実施の形態5>
図20および図21を参照して、本実施の形態においては、トレンチラインTLの形成においては刃先51が用いられ、アシストトレンチラインTLaの形成においては、実施の形態4で説明されたアシスト刃先として、アシスト刃先51aが用いられる。刃先51の形状と、アシスト刃先51aの形状とは、互いに相違している。たとえば、頂点PP(図2参照)の近傍において刃先51およびアシスト刃先51aのそれぞれは、稜線PSに垂直な断面における稜線PSの角度APおよびAPaを有し、角度APは角度APaよりも大きい。なお、これら以外の構成については、上述した実施の形態4の構成とほぼ同じであるため、その説明を繰り返さない。
【0067】
本実施の形態によれば、アシストトレンチラインTLaの形成時と、トレンチラインTLの形成時とで、異なる形状を有する刃先が用いられる。これにより、刃先の形状として、アシストトレンチラインTLaおよびトレンチラインTLのそれぞれの形成において、相対的に低荷重に適したものおよび高荷重に適したものを用いることができる。よって、アシストトレンチラインTLaおよびトレンチラインTLの形成時にクラックレス状態をより確実に得ることができ、かつ、アシストトレンチラインTLaおよびトレンチラインTLのそれぞれからアシストクラックラインCLaおよびクラックラインCLをより確実に発生させることができる。
【0068】
なお上記各実施の形態においては上面SF1の縁が長方形状である場合について図示されているが、他の形状が用いられてもよい。また上面SF1が平坦である場合について説明したが、上面は湾曲していてもよい。またトレンチラインTLが直線状である場合について説明したが、トレンチラインTLは曲線状であってもよい。また脆性基板としてガラス基板4が用いられる場合について説明したが、脆性基板は、ガラス以外の脆性材料から作られていてもよく、たとえば、セラミックス、シリコン、化合物半導体、サファイアまたは石英から作られ得る。
【符号の説明】
【0069】
ED 縁
AL アシストライン
CL クラックライン
SD1 天面(第1の面)
SD2 側面(第2の面)
SD3 側面(第3の面)
SF,SF1 上面(一の面)
PP 頂点
TL トレンチライン
PS 稜線
CLa アシストクラックライン
TLa アシストトレンチライン
4 ガラス基板(脆性基板)
51 刃先
51a アシスト刃先
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21