(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(発明の具体的課題、及び発明の概要)
海外旅行者の増加等により使用言語の異なる複数の国の人々が乗客コンベアを利用する機会が増加している。このような環境下において、乗客コンベアの利用者や、乗客コンベアの周囲にいる者に対して警告すべき状態が発生したような場合、それぞれの言語について1つずつ順番に警告を行っていると、後の方の警告は適切なタイミングとならない可能性がある。特に、緊急で警告すべきような状態においては、警告タイミングに言語間で優先度はつけられない。
【0010】
そこで、本発明では、警告すべき状態が発生した場合、複数の異なる言語で同時に警告を行う。これにより、各言語で迅速に警告を行うことができる。ここで、複数の言語の音声が重なった場合、人間は、一般に、自己の使用言語の音声に無意識に意識を集中する傾向がある。本発明は、人間のこのような性質を利用したものであり、したがって、複数の言語の警告が重なった場合でも、自己の使用言語での警告音声の内容は利用者等により適切に把握されることとなる。
【0011】
なお、本発明における「同時」とは、全く同一のタイミングで開始しなければならないことを要求するものではなく、最初に開始した警
告が完了する前に(最初に開始した警告の警告時間よりも短い時間の差で)他の言語の警告が開始することを含む。この場合でも、一の言語の警告が終ってから他の言語の警告を数珠つなぎ的に順番に行う場合よりも、迅速かつ適切なタイミングで警告を行うことができる。
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
(実施形態1)
1.構成
図1は、実施形態1におけるエスカレータの概略側面図である。
図2は、実施形態1におけるエスカレータの概略平面図である。なお、
図1は、
図2のA−A線による断面位置での概略側面図である。本実施形態におけるエスカレータ1は、エスカレータ本体10と、モータ20と、電力供給装置30と、制御装置40と、スピーカ51、52と、インレット接近検知部61と、乗り出し検知部62とを有する。スピーカ51、52は、警告装置の音声出力部の一例であり、制御装置40は警告装置の制御部の一例である。警告装置は、エスカレータ1の利用者に、エスカレータ利用上の注意を喚起する案内音声等を出力する。
【0014】
エスカレータ本体10は、建築物の2つの階床F1、F2間に架け渡された状態で設置されている。エスカレータ本体10は、無端状に連結された複数の踏段11と、無端状の移動手摺12(ハンドレール)と、モータ20の動力を踏段11及び移動手摺12に伝達する動力伝達機構(不図示)とを有する。複数の踏段11及び移動手摺12は、モータ20の動力により循環走行する。
【0015】
電力供給装置30は、モータ20に駆動用の電力を供給する。電力供給装置30は、例えば、制御装置40による制御に基づいて供給電力を変化させることが可能なインバータにより構成されている。
【0016】
スピーカ51、52は、制御装置40から出力される音声信号に基づく音声を出力する。スピーカ51、52は、音声出力部の一例である。音声出力部は、音声信号に基づいて音声を出力することができるデバイスであればどのようなものでもよい。スピーカ51は、左右のスカートガード13のうちの一方のスカートガード13における乗り口5a近傍部分と降り口5b近傍部分とにそれぞれ1個ずつ設けられている。スピーカ52は、他方のスカートガード13における乗り口5a近傍部分と降り口5b近傍部分とにそれぞれ1個ずつ設けられている。
【0017】
インレット接近検知部61は、インレット16への物体の接近を検知する。ここでの物体には、人間の体の一部位等が含まれる。インレット16は、移動手摺12が、スカートガード13と外部パネル14との間の進行方向に延びる閉鎖空間内に入る入口部であり、スカートガード13と外部パネル14の長手方向の端部に設けられている。インレット16には、移動手摺12が通過可能な程度の開口を有するインレットガード17が配置されている。インレット接近検知部61は、例えば光電センサにより構成され、インレット16に配置されている。インレット接近検知部61は、インレット16に物体が例えば所定距離以内に接近すると、接近検知信号を出力する。
【0018】
乗り出し検知部62は、エスカレータ1に搭乗中の利用者の移動手摺12外側への乗り出しを検知する。乗り出し検知部62は、例えば光電センサにより構成され、外部パネル14の長手方向の中間付近に光軸が略上方向に向くように配置されている。乗り出し検知部62は、乗り出しを検知すると、乗り出し検知信号を出力する。
【0019】
エスカレータ1の移動手摺12と、上階床側フロア部の下面つまり下階床側の天井部CLの下面とが交差する部分(デルタ部)には、乗り出している利用者を保護するためのデルタガードプレートPLが天井部CLから吊り下げられている。
【0020】
制御装置40は、エスカレータ1の動作を制御する。例えば、制御装置40は、電力供給装置30を制御することでモータ20に通電する電力を制御し、これにより、エスカレータ1の起動、停止、走行速度等を制御する。また、制御装置40は、スピーカ51、52からの音声の出力を制御する。
【0021】
図3は、実施形態1におけるエスカレータ1の制御装置40の電気的構成を示す図である。制御装置40は、制御部41と記憶部42とを有する。制御装置40は、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)を利用して構成されている。
【0022】
記憶部42は、プログラムや種々のデータを格納している。プログラムには、本実施形態の制御装置40の各種機能を実現するためのプログラムが含まれている。また、データには、日本語と英語の複数パターンの音声データが含まれている。
【0023】
制御部41は、記憶部42からプログラム及びデータを読み出し、読み出したプログラム及びデータに基づく演算処理を行う。これにより、制御装置40における各種の機能が実現される。
【0024】
例えば、制御部41は、エスカレータ1の動作中に、所定の警告条件が成立したときに、スピーカ51、52(音声出力部)から警告音声を複数の異なる言語で同時に出力させる。所定の警告条件は、エスカレータ1の利用者あるいはエスカレータ1の周囲にいる者に対して利用上あるいは安全上の見地から警告あるいは注意喚起すべき状態が検知されたことである。例えば、所定の警告条件は、エスカレータ1の動作中に、インレット接近検知部61でインレット16への接近が検知されたことや、乗り出し検知部62で乗り出しが検知されたことである。制御部41は、エスカレータ1の動作中に、インレット接近検知部61でインレット16への接近が検知され、または乗り出し検知部62で乗り出しが検知された場合、記憶部42から、検知された内容に応じた日本語及び英語の音声データをそれぞれ読み出し、読み出した音声データに基づいて日本語及び英語の音声信号をそれぞれ生成し、生成した音声信号をスピーカ51、52に出力する。
【0025】
2.動作
制御装置40による警告制御についてフローチャートを参照してより詳しく説明する。
【0026】
まず、インレット接近に対する警告制御について説明する。
図4は、制御装置40によるインレット接近に対する警告制御を説明するフローチャートである。本フローチャートによる警告制御は、エスカレータ1の運転中、エスカレータ1の運転制御と並行して行われる。
【0027】
制御装置40の制御部41は、インレット接近検知部61からインレット接近検知信号を受信したか否かを判断する(S11)。
【0028】
インレット接近検知信号を受信していない場合(S11でNO)、制御装置40の制御部41は、本ステップS11を再度実行する。
【0029】
インレット接近検知信号を受信した場合(S11でYES)、制御装置40の制御部41は、複数言語で同時に音声により警告する。具体的には、乗り口5a側から降り口5b側に向かう方向を踏段11の進行方向とした場合に、進行方向左側のスピーカ51から日本語の警告音声を出力させ、進行方向右側のスピーカ52から英語の警告音声を出力させる。日本語での警告の内容は、例えば「危険ですので、移動手摺の引き込み口から離れてください」という内容である。英語での警告の内容は、日本語での警告の内容を英語で表現した内容である。
【0030】
次に、乗り出しに対する警告制御を説明する。
図4は、制御装置40による乗り出しに対する警告制御を説明するフローチャートである。本フローチャートによる警告制御は、エスカレータ1の運転中、エスカレータ1の運転制御と並行して行われる。
【0031】
制御装置40の制御部41は、乗り出し検知部62から乗り出し検知信号を受信したか否かを判断する(S21)。
【0032】
乗り出し検知信号を受信していない場合(S21でNO)、制御装置40の制御部41は、本ステップS21を再度実行する。
【0033】
乗り出し検知信号を受信した場合(S21でYES)、制御装置40の制御部41は、複数言語で同時に音声により警告する。具体的には、進行方向左側のスピーカ51から日本語の警告音声を出力させ、進行方向右側のスピーカ52から英語の警告音声を出力させる。日本語での警告の内容は、例えば「移動手摺の外側に顔や手を出さないでください」という内容である。英語での警告の内容は、日本語での警告の内容を英語で表現した内容である。
【0034】
3.本実施形態の作用
エスカレータ1の運転中、インレット接近検知部61により、インレット16への何らかの物体の接近が検知されると、スピーカ51から、「危険ですので、手摺の引き込み口から離れてください」という内容の警告音声が日本語により出力される。また、これと同時に、スピーカ52から、「危険ですので、移動手摺の引き込み口から離れてください」という内容の警告音声が英語により出力される。
【0035】
また、乗り出し検知部62により、エスカレータ1に搭乗中の利用者の移動手摺12側方への乗り出しが検知されると、スピーカ51から、「移動手摺の外側に顔や手を出さないでください」という内容の警告音声が日本語により出力される。また、これと同時に、スピーカ52から、「移動手摺の外側に顔や手を出さないでください」という内容の警告音声が英語により出力される。
【0036】
このように、本実施形態によれば、利用者等に対して警告すべき状態が発生したときに、警告音声が日本語と英語で同時に出力される。したがって、使用言語の異なる複数の国の人々が乗客コンベアに搭乗しあるいはその近傍にいる環境下において警告すべき状態が生じたときに、いずれの言語を使用する人々に対しても音声により適切に警告を行うことができる。
【0037】
また、本実施形態では、日本語専用のスピーカ51と英語専用のスピーカ52とが設けられており、これらのスピーカ51、52は、互いに異なる位置に配置されているので、日本語と英語の警告音声は、互いに異なる方向から利用者に到達する。そのため、日本語と英語の警告音声が同時に出力された場合でも、警告内容を利用者が聴き取りやすくなる。
【0038】
(実施形態2)
本実施形態では、警告音声の声質を言語毎に異ならせる。例えば、制御装置40は、日本語の警告音声については、女性の音声によりスピーカ51から出力させ、英語の警告音声については、男性の音声によりスピーカ52から出力させる。あるいは、制御装置40は、日本語の警告音声については、相対的に高音の音声によりスピーカ51から出力させ、英語の警告音声については、相対的に低音の音声によりスピーカ52から出力させる。
【0039】
人間は、言語による複数の音声が重なった場合、それらの声質が互いに異なる方が、これらの音声を分離して聴き取りやすい。したがって、本実施形態によれば、複数の異なる言語の警告音声が同時に出力された場合に、それぞれの言語による警告内容を、利用者が聴き取りやすくなる。
【0040】
(実施形態3)
前記実施形態1、2では、インレット接近に対する警告音声を、スカートガード13に設けられたスピーカ51、52から出力する。しかし、
図6に示すように、インレットガード17に日本語音声出力用のスピーカ51と、英語音声出力用のスピーカ52とをさらに設け、インレット接近検知部61でインレット接近が検知された場合には、スピーカ51から日本語の警告音声を出力し、スピーカ52から英語の警告音声を出力するようにしてもよい。この構成によれば、警告の原因となるインレット16の直近で警告音声が発生するので、警告の原因となった利用者に対して、自己の行為が原因であることを認識させやすい。したがって、警告の効果を高めることができる。
【0041】
(実施形態4)
前記実施形態1、2では、乗り出しに対する警告音声を、スカートガード13に設けられたスピーカ51、52から出力する。しかし、
図7に示すように、天井部CLに日本語音声出力用のスピーカ51と、英語音声出力用のスピーカ52とをさらに設け、乗り出し検知部62で乗り出しが検知された場合には、スピーカ51から日本語の警告音声を出力し、スピーカ52から英語の警告音声を出力するようにしてもよい。この構成によれば、乗り出しの際に利用者との間に遮蔽物がない天井部CL付近から警告音声が発生するので、警告の原因となった利用者に対して警告音声が届きやすく、自己の行為が原因であることを認識させやすい。したがって、警告の効果を高めることができる。
【0042】
なお、天井部CLのスピーカ51、52とともに、あるいはそれに代えて、スカートガード13の長手方向(踏段11の進行方向)の中間付近に、乗り出しに対する警告音声を出力するためのスピーカを設けてもよい(図示せず)。また、乗り出し検知部62の近傍のスカートガード13の長手方向(踏段11の進行方向)の付近に、乗り出しに対する警告音声を出力するためのスピーカを設けてもよい(図示せず)。
【0043】
(実施形態についてのまとめ)
(1)実施形態1〜4における警告装置は、エスカレータ1(乗客コンベア)の利用に関する警告を音声により行う。
警告装置は、
音声を出力可能なスピーカ51、52(音声出力部)と、
スピーカ51、52(音声出力部)からの警告音声の出力を制御する制御装置40(制御部)と、を備える。
制御装置40(制御部)は、所定の警告条件が成立したときに、スピーカ51、52(音声出力部)から警告音声を複数の異なる言語で同時に出力させる。
【0044】
これにより、所定の警告条件が成立したときに、警告音声が複数の異なる言語で同時に出力される。したがって、使用言語の異なる複数の国の人々がエスカレータ1に搭乗しあるいはその近傍にいる環境下において警告すべき状態が生じたときに、いずれの言語を使用する人々に対しても音声により適切に警告を行うことができる。
【0045】
(2)実施形態1〜4における警告装置において、
スピーカ(音声出力部)として、複数の言語のそれぞれ専用のスピーカ51、52(音声出力部)が設けられている。
複数のスピーカ51、52(音声出力部)は、互いに異なる位置に配置されている。
【0046】
これにより、複数の言語の警告音声は、互いに異なる方向から利用者に到達することとなる。そのため、複数の異なる言語の警告音声が同時に出力された場合に、それぞれの言語による警告内容を、利用者が聴き取りやすくなる。
【0047】
(3)実施形態2における警告装置において、
制御装置40(制御部)は、警告音声の声質を言語毎に異ならせる。
【0048】
これにより、複数の異なる言語の警告音声が同時に出力された場合に、それぞれの言語による警告内容を、利用者が聴き取りやすくなる。
【0049】
(4)実施形態1〜4における警告装置において、
インレット16への物体の接近を検知するインレット接近検知部61をさらに備える。
所定の警告条件は、インレット接近検知部61でインレット16への物体の接近が検知されたことである。
【0050】
これにより、インレット16への人等の物体の接近があったときに、複数の言語により同時に警告音声が出力されることとなる。
(5)実施形態3における警告装置において、
スピーカ51、52(音声出力部)は、インレットガード17に配置されている。
【0051】
これにより、警告の原因となるインレット16の直近で警告音声が発生するので、警告の原因となった利用者に対して、自己の行為が原因であることを認識させやすい。したがって、警告の効果を高めることができる。
【0052】
(6)実施形態1〜4における警告装置において、
エスカレータ1(乗客コンベア)に搭乗中の利用者の移動手摺12外側への乗り出しを検知する乗り出し検知部62をさらに備える。
所定の警告条件は、乗り出し検知部62で利用者の乗り出しが検知されたことである。
【0053】
これにより、エスカレータ1(乗客コンベア)に搭乗中の利用者の移動手摺12外側への乗り出しがあったときに、複数の言語により同時に警告音声が出力されることとなる。
【0054】
(7)実施形態4における警告装置において、
スピーカ51、52(音声出力部)は、移動手摺12の直上方近傍の天井部CLに配置されている。
【0055】
これにより、乗り出しの際に利用者との間に遮蔽物がない天井部CL付近から警告音声が発生するので、警告の原因となった利用者に対して警告音声が届きやすく、自己の行為が原因であることを認識させやすい。したがって、警告の効果を高めることができる。
【0056】
(8)実施形態1、2において、
(1)から(5)における警告装置を有するエスカレータ1(乗客コンベア)が提供される。
【0057】
(その他の実施形態)
前記実施形態では、乗客コンベアが、異なる階床間に斜めに掛け渡されたエスカレータ1である場合を説明した。しかし、本発明は、乗客コンベアが、一の階床において水平あるいは斜めに配置されたいわゆる動く歩道等の乗客コンベアである場合にも適用可能である。
【0058】
前記実施形態では、複数の言語として日本語と英語の2言語を例示した。しかし、言語は、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語、その他の言語であってもよい。また、言語数は、2言語でなく、3以上の言語であってもよい。この場合、それぞれの言語専用のスピーカを設けてもよいし、1個または言語数よりも少ない数に統合してもよい。
【0059】
前記実施形態において、日本語専用のスピーカ51及び英語専用のスピーカ52の左右の配置は逆としてもよい。
【0060】
前記実施形態では、所定の警告条件として、インレット接近検知部61でインレット16への物体の接近が検知されたこと、乗り出し検知部62で乗り出しが検知されたことを例示した。しかし、本発明の所定の警告条件はこれに限定されない。所定の警告条件が成立したことは、前述したように、エスカレータの利用者あるいはエスカレータの周囲にいる者に関して利用上あるいは安全上の見地から警告あるいは注意喚起すべき状態が検知されたことであり、これに該当するものを広く含む。また、警告音声の内容は、成立した警告条件に応じて適宜設定すればよいことは言うまでもない。
【0061】
前記実施形態では、制御装置40はプログラマブルロジックコントローラ(PLC)を利用して構成され、制御装置40における各機能は、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現されている。しかし、制御装置40における各機能は、ハードウェア(電子回路)のみにより実現されてもよい。