(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、損傷評価装置100の構成を説明する図である。
図1に示すように、損傷評価装置100は、超音波探触子110、パルサレシーバ112、デジタイザ114、制御装置116および警告装置118を含んで構成される。損傷評価装置100は、例えば、ステンレスや合金鋼でなるボイラの配管等、200℃以上(より具体的には500℃〜800℃)の高温環境下に曝される検査対象物Mのクリープ損傷による損傷度を評価する。
【0016】
超音波探触子110は、高温環境に耐性を有し、超音波を発信および受信可能な探触子であり、検査対象物Mの外表面に、接着剤や、バンド等の締結機構によって固定されることで常設される。超音波探触子110は、検査対象物Mの内部に向けて超音波を発信し、検査対象物Mの内部で反射(または、回折、散乱)した超音波(反射波)を受信して電気信号(アナログ信号)に変換する。
【0017】
ここで、超音波は密度が異なる物質の境界において反射するという特性を有するため、検査対象物Mにおいてクリープ損傷が発生していると、クリープ損傷が発生した箇所において超音波の反射量が増加する。したがって、損傷評価装置100は、検査対象物Mの内部で反射した超音波を受信して解析することで、検査対象物Mのクリープ損傷による損傷度を把握することができる。
【0018】
パルサレシーバ112は、超音波探触子110に電力を供給して超音波を発信させる。また、パルサレシーバ112は、超音波探触子110によって受信した超音波(の振幅)が示される電気信号(アナログ信号)を取得する。
【0019】
デジタイザ114は、パルサレシーバ112で取得した電気信号を、デジタル値で表される超音波信号に変換して制御装置116に送信する。
【0020】
制御装置116は、制御部120および記憶部122を含んで構成されるコンピュータである。制御部120は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成され、ROMからCPU自体を動作させるためのプログラム等を読み出し、ワークエリアとして機能するRAMや他の電子回路と協働して損傷評価装置100全体を管理および制御する。
【0021】
記憶部122は、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等でなる記憶媒体であり、詳しくは後述する初期超音波信号140を記憶する。
【0022】
制御部120は、本実施形態において、信号取得部130、差分導出部132、損傷評価部134、警告制御部136として機能する。
【0023】
信号取得部130は、未使用の検査対象物Mに超音波探触子110が常設された後、検査対象物Mが未使用であるときに(所定のタイミングで)、パルサレシーバ112およびデジタイザ114を制御し、超音波探触子110から検査対象物Mに対して超音波を発信および受信させる。そして、信号取得部130は、未使用の検査対象物Mの内部で反射された超音波に基づく超音波信号を初期超音波信号140として記憶部122に記憶する。
【0024】
その後、検査対象物Mが使用されると(ボイラ等が稼働されると)、信号取得部130は、予め設定された検査間隔ごとに(所定のタイミング後に)、パルサレシーバ112およびデジタイザ114を制御し、超音波探触子110から検査対象物Mに対して超音波を発信および受信させる。そして、信号取得部130は、検査対象物Mの内部で反射された超音波に基づく超音波信号を評価超音波信号142(
図2(b)参照)として取得する。
【0025】
図2は、差分導出部132の処理を説明する図である。なお、
図2では、横軸に距離(外表面からの距離)をとり、縦軸に信号の振幅(強さ)をとっている。実際には、各種信号は時分割されたデジタル値で取得されることになるが、超音波の伝搬速度が既知であるため、超音波が発信されてから受信されるまでの時間と、伝搬速度とに基づいて、外表面からの距離に換算できる。
【0026】
図2(a)および
図2(b)を比較すると、未使用の検査対象物Mはクリープ損傷が発生していないので、内部で反射される超音波が殆どなく、
図2(a)に示す初期超音波信号140の振幅は小さくなる。一方、検査対象物Mは使用される環境(温度、時間等)に応じてクリープ損傷が発生、進行していくので、使用される期間が長くなるほど、検査対象物Mの内部でクリープ損傷が増加していく。したがって、使用される期間が長くなるほど、内部で反射される超音波も増加していくため、
図2(b)に示す評価超音波信号142の振幅は大きくなっていく。
【0027】
差分導出部132は、信号取得部130により評価超音波信号142が取得されると、
図2(c)に示すように、取得された評価超音波信号142と、記憶部122に記憶された初期超音波信号140との差分を差分信号144(評価超音波信号142−初期超音波信号140)として導出する。
【0028】
その後、差分導出部132は、差分信号144に対してヒルベルト変換を施すことにより、
図2(d)に示すように、差分信号144の包絡線を導出して包絡線信号146とする。初期超音波信号140、評価超音波信号142および差分信号144は、0を基準としてプラス側およびマイナス側に振れているが、包絡線信号146は、0を基準としてプラス側のみに振れている。なお、
図2(d)においては、包絡線信号146のうち、評価範囲148について拡大して示している。
【0029】
続いて、差分導出部132は、検査対象物Mにおける評価対象となる評価範囲148(X1−X2間)の包絡線信号146を積分することにより、
図2(d)中、ハッチングで示すように、評価範囲148の面積を導出する。なお、評価範囲148は、検査対象物Mにおいてクリープ損傷が発生しやすい範囲(距離)に予め設定されている。
【0030】
図3は、検査対象物Mの損傷度と面積との関係を示す図である。上記したように、検査対象物Mでクリープ損傷が進行していくと(損傷度が増加していくと)、評価超音波信号142の振幅が大きくなるため、初期超音波信号140との差分である差分信号144の振幅も大きくなり、評価範囲148の面積も拡大していく。したがって、
図3に示すように、検査対象物Mにおける評価範囲148のクリープ損傷による損傷度が増加していくに連れて、評価範囲148の面積も増加する。
【0031】
そこで、損傷評価部134は、差分導出部132により導出された面積に基づいて、検査対象物Mにおける評価範囲148のクリープ損傷による損傷度を評価する。具体的に、損傷評価部134は、差分導出部132により導出された面積と、予め設定された損傷閾値Thとを比較する。なお、損傷閾値Thは、予め実験により決定され、検査対象物Mがクリープ損傷により破断するおそれがある、または、検査対象物Mを交換する必要があるとされる損傷度に対応する値に設定されている。
【0032】
警告制御部136は、差分導出部132により導出された面積が損傷閾値Th以上となった場合に、警告装置118を介して、検査対象物Mがクリープ損傷により破断するおそれがある、または、検査対象物Mを交換する必要があることを示す警告を行う。なお、警告装置118は、スピーカや表示装置であり、音声や画像によって警告を行う。
【0033】
図4は、制御部120による処理の流れを説明するフローチャートである。なお、
図4に示す処理(損傷評価方法)は、検査間隔ごとに実行される。
図4に示すように、まず、信号取得部130は、パルサレシーバ112およびデジタイザ114を制御し、超音波探触子110から検査対象物Mに対して超音波を発信および受信させ、検査対象物Mの内部で反射された超音波に基づく超音波信号を取得する(S100)。
【0034】
そして、信号取得部130は、未使用の検査対象物Mに対する超音波信号を取得したか否か判定する(S102)。なお、未使用の検査対象物Mに対する超音波信号か否かは、ユーザの指示により判定する。
【0035】
その結果、未使用の検査対象物Mに対する超音波信号を取得した場合(S102におけるYES)、信号取得部130は、取得した超音波信号を初期超音波信号140として記憶部122に記憶する(S104)。
【0036】
一方、未使用の検査対象物Mに対する超音波信号を取得していない場合(S102におけるNO)、つまり、使用中の検査対象物Mに対する超音波信号を取得した場合、差分導出部132は、上記ステップS100で取得された評価超音波信号142と、記憶部122に記憶された初期超音波信号140との差分を差分信号144として導出する(S106)。
【0037】
その後、差分導出部132は、ステップS106で導出した差分信号144に対してヒルベルト変換を施すことにより、差分信号144の包絡線を導出して包絡線信号146とする(S108)。また、差分導出部132は、検査対象物Mにおける評価対象となる評価範囲148の包絡線信号146を積分することにより、評価範囲148の面積を導出する(S110)。
【0038】
続いて、損傷評価部134は、上記ステップS110において導出された面積が損傷閾値Th以上であるか否か判定する(S112)。その結果、面積が損傷閾値Th以上である場合(S112におけるYES)、警告制御部136は、警告装置118を介して警告を行い(S114)、当該処理を終了する。なお、警告に関しては、処理を繰り返す度に行うようにしてもよく、また、一度警告した後は、再び警告しないようにしてもよい。一方、面積が損傷閾値Th以上でない場合(S112におけるNO)、警告制御部136は、警告を行わずに当該処理を終了する。
【0039】
以上のように、損傷評価装置100では、超音波探触子110を検査対象物Mに対して常設することで、検査対象物Mのクリープ損傷に関するパラメータ値(面積)をリアルタイムで導出し、検査対象物Mのクリープ損傷による損傷度をリアルタイムで評価することができる。
【0040】
図5は、連続的に損傷度を評価する損傷評価装置100、および、定期的に損傷度を検査する損傷評価装置10によるパラメータ値の導出間隔の比較を示す図である。
図5に示すように、損傷評価装置100は、リアルタイムで連続的に、パラメータ値(面積)を導出するとともに、損傷度を評価することができる。一方、損傷評価装置10では、例えば1年毎のように定期的にしかパラメータ値を導出することができないため、パラメータ値が離散的になってしまう。
【0041】
したがって、損傷評価装置10では、警告すべきタイミングで警告することができない場合があり、検査と検査との間でクリープ損傷が進行した場合には、検査対象物Mが破損してしまうといったことが起こり得る。これに対して、損傷評価装置100では、リアルタイムでパラメータ値(面積)を連続的に導出して損傷度を評価することができるため、検査対象物Mが破損してしまう前に、警告を行うことができる。また、損傷評価装置100では、検査対象物Mのクリープ損傷を早期に発見することができる。
【0042】
また、損傷評価装置10では、パラメータ値を導出(計測)する際に、検査対象物Mと接続された装置(例えば、ボイラ)を停止させる必要がある。これに対して、損傷評価装置100では、検査対象物Mと接続された装置を停止させる必要がなく、検査対象物Mと接続された装置の稼働効率を向上させることができる。
【0043】
また、損傷評価装置10では、検査の度に超音波探触子110を検査対象物Mに対して取り付けるため、取付位置の誤差によって、パラメータ値の導出精度が悪化してしまうといった問題が起こってしまう。これに対して、損傷評価装置100では、超音波探触子110を検査対象物Mに対して常設することで、取付位置の誤差が発生しないため、パラメータ値(面積)を精度よく導出でき、損傷度を精度よく評価することができる。
【0044】
また、検査対象物の損傷度を、温度、歪み、応力といった間接的なパラメータ値で推定する方法と比較して、損傷評価装置100では、超音波により直接、検査対象物Mにおけるクリープ損傷による損傷度を面積として導出するので、推定による判断を極力減らして、損傷度(面積)を精度よく評価することができる。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0046】
<変形例1>
図6は、変形例1の超音波探触子110の配置を説明する図である。上記の損傷評価装置100では、1つの超音波探触子110を用いて超音波信号を取得するようにしたが、複数の超音波探触子110を用いてそれぞれ超音波信号を取得するようにしてもよい。例えば、
図6に示すように、検査対象物Mが湾曲している場合に、検査対象物Mにおける流体の流れ方向に直交する外表面に対して、90°ずらした位置にそれぞれ超音波探触子110を4つ常設するようにしてもよい。
【0047】
これにより、検査対象物Mが湾曲している等、損傷が生じる条件が周方向に異なる場合に、特にクリープ損傷の進行が速い位置を特定することが可能となるとともに、その位置での損傷度(面積)に応じて警告を行うことが可能となる。
【0048】
なお、複数の超音波探触子110を用いる場合、1つの超音波探触子110に対して1つのパルサレシーバ112を設けるようにしてもよい。また、1つのパルサレシーバ112と、複数の超音波探触子110との間にマルチプレクサを設け、1つのパルサレシーバ112で送受信する超音波信号を複数の超音波探触子110に対して分岐させるようにしてもよい。
【0049】
<変形例2>
上記の損傷評価装置100では、評価超音波信号142と初期超音波信号140との差分信号144を導出し、差分信号144の包絡線を導出して包絡線信号146とし、包絡線信号146に基づいてパラメータ値(面積)を導出するようにした。しかしながら、検査対象物Mの損傷度を評価する方法はこれに限らない。
【0050】
図7は、変形例2における検査対象物Mの損傷度の評価方法を説明する。例えば、損傷評価部134は、
図7に示すように、初期超音波信号140および評価超音波信号142に対して、横軸が振幅、縦軸が振幅の頻度となる信号分布を導出する。なお、信号分布の中心は0となる。
【0051】
その後、損傷評価部134は、導出した信号分布を正規分布に当てはめ、分散σを導出し、分散σよりもプラス側の領域について、下記の数式1を用いてパラメータ値Sを導出する。また、損傷評価部134は、分散−σよりもマイナス側の領域についても同様にパラメータ値Sを導出する。
【0052】
【数1】
…(数式1)
ここで、Vpは振幅を示し、NpはVpの信号の個数を示し、Vthは分散σの振幅を示し、ΔVは振幅の最小単位を示す。
【0053】
そして、損傷評価部134は、プラス側のパラメータ値Sとマイナス側のパラメータ値Sを加算する。また、損傷評価部134は、導出したパラメータ値Sの合計値が、予め実験により決定された損傷度に対応する損傷閾値以上となった場合に、検査対象物Mがクリープ損傷により破断するおそれがある、または、検査対象物Mを交換する必要があると判定する。これにより、検査対象物Mのクリープ損傷による損傷度をリアルタイムで評価することができる。
【0054】
<変形例3>
上記の損傷評価装置100では、未使用の検査対象物Mに超音波探触子110が常設され、未使用の検査対象物Mに超音波を発信させることで初期超音波信号140を取得し、初期超音波信号140と評価超音波信号142とに基づいて、検査対象物Mの損傷度を評価するようにした。しかしながら、これに限らず、既に使用されている検査対象物Mに超音波探触子110を常設させ、その後の検査対象物Mの損傷度を評価するようにしてもよい。
【0055】
図8は、既に使用されている検査対象物Mに超音波探触子110を常設させた場合の損傷閾値を説明する図である。既に使用されている検査対象物Mに超音波探触子110が常設される場合、制御装置116の記憶部122には、予め検査対象物Mと同一の材質および形状でなる未使用の試験体の初期超音波信号140を記憶しておく。
【0056】
そして、検査対象物Mに超音波探触子110が常設された後、初めて超音波信号(評価超音波信号142)が取得されると、差分導出部132は、記憶部122に記憶された初期超音波信号140と、評価超音波信号142との差分信号144を導出する。また、差分導出部132は、差分信号144に対してヒルベルト変換を施すことにより、差分信号144の包絡線を導出して包絡線信号146とし、検査対象物Mにおける評価範囲148の面積を導出する。
【0057】
そして、損傷評価部134は、予め実験的に計測された面積と検査対象物Mの損傷度との関係を参照して、導出された面積に基づいて現在の損傷度を推定し、未使用の検査対象物Mに対する損傷閾値Thから、推定した損傷度に応じた補正値を減算することで、補正された損傷閾値Thを導出する。また、信号取得部130は、初めて取得された超音波信号(評価超音波信号142)を初期超音波信号140として記憶する。
【0058】
これにより、未使用の検査対象物Mだけでなく、既に使用されている検査対象物Mに対しても、損傷度を評価することが可能となる。
【0059】
<変形例4>
上記の損傷評価装置100では、超音波探触子110が検査対象物Mの外表面に、接着剤や、バンド等の締結機構等によって固定されることで常設されるようにした。しかしながら、これに限らず、例えば、ゾル−ゲル法等により検査対象物Mの外表面に超音波探触子110を埋め込むようにしてもよい。