特許第6682959号(P6682959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6682959延伸フィルムの製造方法及び硬化膜形成用エマルジョン組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6682959
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】延伸フィルムの製造方法及び硬化膜形成用エマルジョン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20200101AFI20200406BHJP
   B29C 55/14 20060101ALI20200406BHJP
   B05D 7/04 20060101ALI20200406BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200406BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20200406BHJP
   B29K 33/04 20060101ALN20200406BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20200406BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20200406BHJP
【FI】
   C08J7/04 K
   B29C55/14
   B05D7/04
   B05D7/24 301F
   C08F2/44 C
   B05D7/24 303Z
   B29K33:04
   B29L7:00
   B29L9:00
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-70821(P2016-70821)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179200(P2017-179200A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】川島 直之
(72)【発明者】
【氏名】井上 明久
(72)【発明者】
【氏名】頓所 真司
(72)【発明者】
【氏名】和田 光弘
(72)【発明者】
【氏名】丸山 泰知
【審査官】 安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−040325(JP,A)
【文献】 特開2015−129222(JP,A)
【文献】 特開2015−131935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04−7/06
B05D 1/00−7/26
B29C 55/00−55/30、61/00−61/10
C08F 2/00−2/60
B29K 33/04
B29L 7/00
B29L 9/00
C09D 1/00−10/00、101/00−201/10
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸又は二軸延伸工程を有する延伸フィルムの製造方法であって、
上記延伸工程前又は途中に、エマルジョン組成物を基材フィルム表面に塗工する工程
を備え、
上記エマルジョン組成物が、多官能(メタ)アクリレート化合物と、乳化剤と、アゾ系ラジカル開始剤とを含有し、
上記アゾ系ラジカル開始剤の10時間半減期温度が65℃を超えることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
上記エマルジョン組成物における上記アゾ系ラジカル開始剤の含有量が、固形分換算で0.1質量%以上5質量%以下である請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
上記多官能(メタ)アクリレート化合物が非水溶性である請求項1又は請求項2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
多官能(メタ)アクリレート化合物と、乳化剤と、アゾ系ラジカル開始剤とを含有し、
上記アゾ系ラジカル開始剤の10時間半減期温度が65℃を超える、インラインコーティングにおける硬化膜形成用エマルジョン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法及び硬化膜形成用エマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を主成分とする基材は、寸法安定性、機械的強度、耐熱性、透明性、電気絶縁性等の諸特性を向上し易いことから、幅広い用途のフィルムとして使用されている。ここで、上記フィルムを例えばフラットパネルディスプレイの表面保護フィルム、太陽電池の保護フィルム等に適用する場合には、耐候性、耐擦傷性等を向上する目的で、上記基材のフィルムの表面に硬化膜(ハードコート層)を積層した上で使用されることが一般的である。
【0003】
このような硬化膜を積層したフィルムを製造する方法として、未延伸の樹脂フィルムを用い、延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階で、硬化膜を形成する組成物を塗工するインラインコーティングが好適に行われている。このインラインコーティングによれば、硬化膜を有する延伸フィルムの製造において、製造工程を簡略化することができ、生産効率を高めることができる。また、インラインコーティングを、既存設備を用いて行うことができることから、上記組成物として、分散媒として水を主成分とする水系のエマルジョン組成物を用いることが検討されている(特開平09−137081号公報参照)。
【0004】
しかし、インラインコーティングにおいて上記従来の水系のエマルジョン組成物を用いると、得られる延伸フィルムの硬化膜にクラックや破断が発生し易い上、硬化膜の湿熱耐性(耐水性)が低いためか、湿熱環境下において、基材フィルムから可塑剤やフィルムの加水分解物が生じるため、延伸フィルムの透明性が低下するという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−137081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたものであり、その目的は、硬化膜におけるクラック等の発生を抑制でき、かつ湿熱環境下においても透明性を維持できる延伸フィルムを得ることができる延伸フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、一軸又は二軸延伸工程(以下、「延伸工程」ともいう)を有する延伸フィルムの製造方法であって、上記延伸工程前又は途中に、エマルジョン組成物(以下、「エマルジョン組成物(I)」ともいう)を基材フィルム表面に塗工する工程(以下、「塗工工程」ともいう)を備え、上記エマルジョン組成物(I)が、多官能(メタ)アクリレート化合物(以下、「[A]化合物」ともいう)と、乳化剤(以下、「[B]乳化剤」ともいう)と、アゾ系ラジカル開始剤(以下、「[C]開始剤」ともいう)とを含有し、上記[C]開始剤の10時間半減期温度が65℃を超えることを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、多官能(メタ)アクリレート化合物と、乳化剤と、アゾ系ラジカル開始剤とを含有し、上記アゾ系ラジカル開始剤の10時間半減期温度が65℃を超える硬化膜形成用エマルジョン組成物である。
【0009】
ここで、[C]開始剤の「10時間半減期温度」とは、半減期が10時間となる温度をいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明の延伸フィルムの製造方法によれば、硬化膜におけるクラック等の発生を抑制でき、かつ湿熱環境下においても透明性を維持できる延伸フィルムを得ることができる。本発明の硬化膜形成用エマルジョン組成物は、当該延伸フィルムの製造方法に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<延伸フィルムの製造方法>
当該延伸フィルムの製造方法は、延伸工程を有し、上記延伸工程前又は途中に、塗工工程を備え、上記塗工工程において、エマルジョン組成物(I)を基材フィルム表面に塗工する。エマルジョン組成物(I)は、[A]化合物と、[B]乳化剤と、[C]開始剤とを含有し、[C]開始剤の10時間半減期温度が65℃を超える。当該延伸フィルムの製造方法によれば、硬化膜におけるクラック等の発生を抑制でき、かつ湿熱環境下においても透明性を維持できる延伸フィルムを得ることができる。
【0012】
当該延伸フィルムの製造方法が上記構成を有することで上記効果を奏する理由については必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察することができる。すなわち、延伸工程前又は途中に塗工するエマルジョン組成物(I)で用いるラジカル開始剤として、上記特定範囲の10時間半減期温度を有するものを用いることで、延伸フィルムの製造工程において、エマルジョン組成物(I)の塗膜中の[A]化合物の重合による硬化をより適切な段階で行うことが可能となると考えられ、架橋密度の高い硬化膜を形成することができ、かつ延伸操作の硬化膜への影響を低減することができ、その結果、硬化膜におけるクラック等の発生を抑制することができる。また、ラジカル開始剤としてアゾ系のものを用いることで、過酸化物系のラジカル開始剤のように、分解により親水性物質を生成することがないため、硬化膜の耐水性の低下が抑制され、基材フィルムからの可塑剤やフィルムの加水分解物等の生成が低減されると考えられる。その結果、得られる延伸フィルムは、湿熱環境下においても透明性を維持できる。
【0013】
当該延伸フィルムの製造方法は、通常、塗工工程により得られたエマルジョン組成物(I)の塗膜を加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)を備える。
【0014】
以下、当該延伸フィルムの製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0015】
[延伸工程]
本工程では、基材フィルムを一軸又は二軸延伸する。これにより、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムが得られる。
【0016】
基材フィルムとしては、例えば樹脂フィルム等が挙げられる。樹脂フィルムの主成分としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリスルホン等の樹脂が挙げられる。これらの中で、ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0017】
延伸を行う基材フィルムとしては、例えば上記樹脂をシート状に成形した未延伸樹脂フィルム等が用いられる。
【0018】
上記未延伸樹脂フィルムは、例えば溶融押出法、溶融流涎法、カレンダー法等により樹脂をシート状に成形することにより得られる。上記樹脂の成形方法としては、溶融押出法が好ましい。溶融押出法に使用される成形装置としては、例えば一軸押出機、二軸押出機等が挙げられる。また、溶融押出法における溶融温度としては、例えば200℃以上300℃以下である。上記樹脂としては、ペレット状の熱可塑性樹脂が好ましい。この場合、ペレット状の熱可塑性樹脂は、予め十分に乾燥させておくとよい。シート状に成形した未延伸樹脂フィルムは、静電印加キャスト法により例えば0℃以上50℃以下の冷却ロールに巻き付けて冷却固化させることが好ましい。
【0019】
上記未延伸樹脂フィルムの平均厚みとしては、例えば10μm以上1,000μm以下である。
【0020】
基材フィルムを延伸する工程は、例えば長手方向(流れ方向)に延伸する工程(以下、「延伸工程(I)」ともいう)、短手方向(幅方向)に延伸する工程(以下、「延伸工程(II)」ともいう)等を含む。
【0021】
未延伸樹脂フィルムを、延伸工程(I)又は延伸工程(II)により延伸することにより、一軸延伸フィルムが得られる。未延伸樹脂フィルムを、延伸工程(I)及び延伸工程(II)により延伸することにより、二軸延伸フィルムが得られる。この場合、延伸工程(I)及び延伸工程(II)の順序としては特に限定されず、延伸工程(I)後に延伸工程(II)を行っても、延伸工程(II)後に延伸工程(I)を行ってもよく、また、延伸工程(I)及び延伸工程(II)を同時に行ってもよい。
【0022】
(延伸工程(I))
本工程では、基材フィルムを長手方向(流れ方向)に延伸する。長手方向に延伸する方法としては、例えば加熱したロールによって延伸する方法等が挙げられる。長手方向の延伸倍率の下限としては、2が好ましく、2.5がより好ましい。上記延伸倍率の上限としては、5が好ましく、4がより好ましい。ロール温度の下限としては、60℃が好ましく、80℃がより好ましい。ロール温度の上限としては、120℃が好ましく、100℃がより好ましい。
【0023】
(延伸工程(II))
本工程では、基材フィルムを短手方向(幅方向)に延伸する。短手方向に延伸する方法としては、例えばクリップ止め等の適宜の方法によって端部を把持し、熱風ゾーンに導いて延伸する方法等が挙げられる。短手方向の延伸倍率の下限としては、2が好ましく、2.5がより好ましい。上記延伸倍率の上限としては、5が好ましく、4がより好ましい。熱風ゾーンの温度の下限としては、70℃が好ましく、80℃がより好ましい。熱風ゾーンの温度の上限としては、140℃が好ましく、120℃がより好ましい。
【0024】
一軸延伸フィルムとしては、未延伸樹脂フィルムを延伸工程(I)で延伸したものが好ましい。二軸延伸フィルムとしては、未延伸樹脂フィルムを延伸工程(I)後に延伸工程(II)で延伸したものが好ましい。
【0025】
[塗工工程]
本工程では、上記延伸工程前又は途中に、エマルジョン組成物(I)を基材フィルム表面に塗工する。これにより、基材フィルムに積層されるエマルジョン組成物(I)の塗膜が得られる。エマルジョン組成物(I)の塗工は、延伸工程前又は途中であれば、例えば上記延伸工程前、延伸工程(I)前、延伸工程(II)前、延伸工程(I)と延伸工程(II)との間等、基材フィルムの延伸操作とは別の時点で行ってもよく、上記延伸工程(I)、延伸工程(II)等、基材フィルムの延伸操作と同時に行ってもよい。エマルジョン組成物(I)については後述する。
【0026】
基材フィルム表面にエマルジョン組成物(I)を塗工する方法としては、特に限定されないが、例えばグラビアコート法、ダイコート法、スプレーコート法、ワイヤーバーコート法、リバースロールコート法、カーテンコート法、ディップコート法等が挙げられる。
【0027】
塗工したエマルジョン組成物(I)から塗膜を形成するために、100℃〜140℃程度の温度で、1秒〜2分程度の時間加熱することにより、エマルジョン組成物(I)から[D]分散媒等の揮発成分を蒸発させることが好ましい。
【0028】
1軸延伸フィルムを製造する場合において、延伸工程(I)を行う場合、塗工工程は、例えば延伸工程(I)前、延伸工程(I)と同時等に行うことができる。これらの中で、延伸工程(I)前に行うことが好ましい。
【0029】
1軸延伸フィルムを製造する場合において、延伸工程(II)を行う場合、塗工工程は、例えば延伸工程(II)前、延伸工程(II)と同時等に行うことができる。これらの中で、延伸工程(II)前に行うことが好ましい。
【0030】
2軸延伸フィルムを製造する場合において、延伸工程(I)後に延伸工程(II)を行う場合、塗工工程は、例えば延伸工程(I)前、延伸工程(I)と同時、延伸工程(I)後延伸工程(II)前、延伸工程(II)と同時等に行うことができる。これらの中で、延伸工程(I)後延伸工程(II)前が好ましい。
【0031】
2軸延伸フィルムを製造する場合において、延伸工程(II)後に延伸工程(I)を行う場合、塗工工程は、例えば延伸工程(II)前、延伸工程(II)と同時、延伸工程(II)後延伸工程(I)前、延伸工程(I)と同時等に行うことができる。これらの中で、延伸工程(II)後延伸工程(I)前が好ましい。
【0032】
2軸延伸フィルムを製造する場合において、延伸工程(I)及び延伸工程(II)を同時に行う場合、塗工工程は、例えば延伸工程((I)及び(II))前、延伸工程((I)及び(II))と同時等に行うことができる。これらの中で、延伸工程前が好ましい。
【0033】
[加熱工程]
本工程では、塗工工程により得られたエマルジョン組成物(I)の塗膜を加熱する。これにより、加熱によって[C]開始剤から発生したラジカルにより[A]化合物が重合し、塗膜が硬化して、硬化膜が形成される。また、延伸した基材フィルムの場合、基材フィルムの結晶配向性を促進できる。
【0034】
加熱工程は、エマルジョン組成物(I)の塗膜が形成された後であればどの段階で行ってもよいが、塗膜形成直後、すなわち、延伸工程等を行なうことなく、加熱することが好ましい。
【0035】
加熱工程における温度の下限としては、130℃が好ましく、160℃がより好ましく、190℃がさらに好ましい。上記温度の上限としては、260℃が好ましく、240℃がより好ましい。
【0036】
加熱工程の時間の下限としては、1秒が好ましく、5秒がより好ましく、15秒がさらに好ましく、30秒が特に好ましい。上記時間の上限としては、5分が好ましく、3分がより好ましく、2分がさらに好ましく、1分が特に好ましい。
【0037】
形成される硬化膜の平均厚みの下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、0.7μmがさらに好ましい。上記平均厚みの上限としては、30μmが好ましく、10μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。上記硬化膜の平均厚みを上記範囲とすることで、積層フィルムの硬度及び耐擦傷性と生産性とを両立できる。
【0038】
エマルジョン組成物(I)が後述する[H]光ラジカル開始剤を含有する場合、上記加熱工程後等に、上記塗工工程により得られたエマルジョン組成物(I)の塗膜に光照射するとよい。上記加熱工程の前に、上記塗膜に光照射することで、[H]光ラジカル開始剤からの活性種の発生を促進することができ、硬化膜の硬度をより高めることができる。
【0039】
次に、エマルジョン組成物(I)について説明する。
【0040】
[エマルジョン組成物(I)]
エマルジョン組成物(I)は、当該延伸フィルムの製造方法において、基材フィルムに積層される硬化膜を形成するのに用いられる。エマルジョン組成物(I)は、[A]化合物と、[B]乳化剤と、[C]開始剤とを含有する。エマルジョン組成物(I)は、通常、水を主成分とする分散媒(以下、「[D]分散媒」ともいう)を含有し、また、上記[A]〜[D]成分以外のその他の成分を含有していてもよい。以下、各成分について説明する。
【0041】
([A]化合物)
[A]化合物は、多官能(メタ)アクリレート化合物である。すなわち、[A]化合物は、2以上の(メタ)アクリロイル基を有する。(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基(CH=CH−CO−)又はメタクリロイル基(CH=C(CH)−CO−)を意味する。[A]化合物は、[C]開始剤の存在下、加熱により重合し、得られる重合体が、エマルジョン組成物(I)により形成される硬化膜の母材となる。
【0042】
[A]化合物の有する(メタ)アクリロイル基の数は、2以上であり、3以上が好ましく、3を超えることがさらに好ましい。一方、上記基の数は、20以下が好ましく、18以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい、12以下が特に好ましい。
【0043】
2つの(メタ)アクリロイル基を有する[A]化合物としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
3つの(メタ)アクリロイル基を有する[A]化合物としては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する[A]化合物としては、例えばペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートや、4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴエステル(メタ)アクリレート類、オリゴエーテル(メタ)アクリレート類、オリゴエポキシ(メタ)アクリレート類、ジペンタエリスリトール等の水酸基へのエチレンオキシド又はプロピレンオキシドの付加物のポリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0046】
[A]化合物としては、上記化合物以外に、ウレタン基と、2つ以上の(メタ)アクリロイル基とを有する多官能ウレタンアクリレートを用いることもできる。上記多官能ウレタンアクリレートとしては、例えばジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートとの2:1付加体(10官能ウレタンアクリレート)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの2:1付加体(6官能ウレタンアクリレート)等が挙げられる。上記多官能ウレタンアクリレートの市販品としては、例えば新中村化学工業社のNKオリゴUA−W2A(2官能ウレタンアクリレート)、NKオリゴU−6LPA(6官能ウレタンアクリレート)、日本化薬社のKAYARAD DPHA−40H(10官能ウレタンアクリレート)等が挙げられる。
【0047】
[A]化合物のアクリル当量の下限としては、50g/eqが好ましく、70g/eqがより好ましく、90g/eqがさらに好ましい。一方、[A]化合物のアクリル当量の上限としては、2,000g/eqが好ましく、1,000g/eqがより好ましく、300g/eqがさらに好ましく、140g/eqが特に好ましい。[A]化合物のアクリル当量を上記範囲とすることで、硬化膜の耐擦傷性及び硬度を向上できる。ここで「アクリル当量」とは、化合物の分子量をその化合物の有する(メタ)アクリロイル基の数で除した値であり、(メタ)アクリロイル基1モル当たりの分子量を示す。
【0048】
[A]化合物としては、アクリル当量1,000g/eq以下のものが特に好ましい。このように、エマルジョン組成物(I)がアクリル当量1,000g/eq以下の[A]化合物を含有することで、形成される硬化膜の硬度を顕著に向上できる。エマルジョン組成物(I)が含有する[A]化合物の全量に対するアクリル当量1,000g/eq以下の[A]化合物の割合の下限としては、50質量%が好ましい。
【0049】
[A]化合物の分子量の下限としては、200が好ましく、500がより好ましい。一方、[A]化合物の分子量の上限としては、8,000が好ましく、5,000がより好ましく、3,000がさらに好ましく、1,500が特に好ましい。[A]化合物の分子量を上記範囲とすることで硬化膜の湿熱耐性をより高めることができ、その結果、湿熱環境下での透明性をより維持することができる。
【0050】
[A]化合物としては、上述で例示したもの以外に、例えば特開2001−233928号公報、特開2002−012651号公報、特開2009−297271号公報、特開2015−054461号公報、特開2015−146243号公報、特開2015−147828号公報、特開2015−147952号公報等に記載の2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物なども挙げられる。
【0051】
[A]化合物としては、これらの中で、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールのエチレンオキシド付加物のヘキサアクリレート、変性ヘキサアクリレート、ウレタン基と2つ以上の(メタ)アクリロイル基とを有する多官能ウレタンアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート及びポリテトラメチレングリコールジアクリレートが好ましく、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートとの2:1付加体及びペンタエリスリトールトリアクリレートとイソホロンジイソシアネートとの2:1付加体がより好ましい。
【0052】
[A]化合物の官能基数としては、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、3を超えることがさらに好ましい。一方、上記官能基数としては、20以下が好ましく、18以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。
【0053】
エマルジョン組成物(I)中の[A]化合物の含有量の下限としては、固形分換算で、20質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましく、70質量%が特に好ましい。一方、上記含有量の上限としては、99質量%が好ましく、97質量%がより好ましい。[A]化合物の含有量を上記範囲とすることで、硬化膜の硬度及び耐擦傷性をより向上できる。「固形分換算」とは、エマルジョン組成物(I)中の[D]分散媒以外の成分の総和に対する含有量比を意味する。
【0054】
([B]乳化剤)
[B]乳化剤は、界面活性作用を示し、[A]化合物等を媒体中に分散させてエマルジョンを形成することができる化合物である。
【0055】
[B]乳化剤としては、例えば下記式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0056】
【化1】
【0057】
上記式(1)中、Xは、芳香環、エチレン性二重結合又はこれらの組み合わせを有する1価の基である。Rは、炭素数2〜4のアルキレン基である。nは、5〜150の整数である。複数のRは、同一でも異なっていてもよい。Rは、水素原子、−PO(OM)、−SOM又は1価のエチレン性二重結合含有基である。Mは、それぞれ独立して、水素原子、アンモニウム基又は金属原子である。
【0058】
上記Xで表される1価の基が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等を挙げることができる。なお、上記Xが芳香環を有する場合、この芳香環は非置換でもよく、アルキル基、アリール基、これらの組み合わせ等で置換されていてもよい。
【0059】
上記Xで表される1価の基としては、下記式(2)で表される基、ビニル基、アリル基、3−ペンテニル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロイル基、アリルエーテル基などが挙げられる。上記Xとしては、これらの中で、下記式(2)で表される基が好ましい。
【0060】
【化2】
【0061】
上記式(2)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。mは、1〜3の整数である。mが2又は3の場合、複数のRは、同一でも異なっていてもよい。*は、上記式(1)における酸素原子に結合する部位を示す。
【0062】
上記R及びRで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基などが挙げられる。
【0063】
上記mとしては、1及び2が好ましい。
【0064】
上記Rで表される炭素数2〜4のアルキレン基としては、エチレン基、n−プロピレン基、i−プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基等が挙げられる。
【0065】
上記Rで表される1価のエチレン性二重結合含有基としては、例えばビニル基、アリル基、3−ペンテニル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロイル基、アリルエーテル基、これらの基を置換基として有するアンモニウムイオン等のカチオンと−SO等のアニオン基とにより形成されるイオン性基などが挙げられる。
【0066】
上記Mで表される金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属のイオンなどが挙げられる。
【0067】
[B]乳化剤としては、上記式(1)で表される化合物以外のノニオン系乳化剤、アニオン系乳化剤等も用いることができる。
【0068】
上記ノニオン系乳化剤としては、例えばポリエチレングリコール又はポリアルキレングリコールのアルキルエステル、脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、アルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0069】
上記アニオン系乳化剤としては、ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウム等のロジン酸塩、オレイン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等の脂肪酸のナトリウム塩又はカリウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩などが挙げられる。
【0070】
[B]乳化剤としては、反応性乳化剤を用いることもできる。上記反応性乳化剤としては、例えば上記式(1)で表される化合物のうち、上記Xで表される1価の基がエチレン性二重結合を有する化合物、上記Rが1価のエチレン性二重結合含有基である化合物、上記Xで表される1価の基がエチレン性二重結合を有し、かつ上記Rが1価のエチレン性二重結合含有基である化合物等が挙げられる。また、上記反応性乳化剤の市販品としては、例えばラテムルS−180A、ラテムルPD−104、PD−105、PD−420、PD−430(以上、花王社)、エレミノールJS−2(三洋化成社)、アクアロンKH−10、アクアロンBC−20、アクアロンRN−20、アクアロンRN−30、アクアロンRN−50(以上、第一工業製薬社)、アデカリアソープSE−10N、SR−10N(以上、ADEKA社)、Antox MS−60、RE1000(以上、日本乳化剤社)、サーフマーFP−120(東邦化学工業社)等が挙げられる。
【0071】
[B]乳化剤としては、上記式(1)で表される化合物が好ましく、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩がより好ましい。
【0072】
エマルジョン組成物(I)中の[B]乳化剤の含有量の下限としては、エマルジョン組成物(I)中の全固形分100質量部に対して、0.01質量部が好ましく、0.1質量部がより好ましく、0.2質量部がさらに好ましく、0.5質量部が特に好ましい。上記含有量の上限としては、30質量部が好ましく、20質量部がより好ましく、10質量部がさらに好ましい。[B]乳化剤の含有量を上記範囲とすることで、硬化膜の硬度を向上できる。
【0073】
([C]開始剤)
[C]開始剤は、10時間半減期温度が65℃を超えるアゾ系ラジカル開始剤である。すなわち、[C]開始剤は、アゾ基(−N=N−)を有するラジカル開始剤である。[C]開始剤は、加熱によって活性種を発生し、[A]化合物の重合を促進することで、硬化膜を形成させる。
【0074】
[C]開始剤の10時間半減期温度としては、65℃超であり、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、80℃以上がさらにより好ましく、85℃以上が特に好ましい。また、上記10時間半減期温度としては、140℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、115℃以下がさらに好ましい。[C]開始剤の10時間半減期温度を上記範囲とすることで、硬化膜のクラック等の発生をより抑制でき、かつ湿熱環境下における透明性をより維持することができる。
【0075】
[C]開始剤としては、例えばジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2.2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0076】
[C]開始剤の市販品としては、例えばV601、V−59、V501、VE073、
VA086、V40、VAm110(以上、和光純薬工業社)等が挙げられる。
【0077】
[C]開始剤は、水溶性であっても非水溶性(油溶性)であってもよいが、得られる硬化膜の湿熱耐性をより高め、湿熱環境下において透明性をより維持できる観点から、非水溶性の使用又は非水溶性と水溶性との併用が好ましい。
【0078】
エマルジョン組成物(I)中の[C]開始剤の含有量の下限としては、固形分換算で、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、0.8質量%がさらに好ましく、1質量%が特に好ましい。上記含有量の上限としては、7質量%が好ましく、6質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。[C]開始剤の含有量を上記範囲とすることで、硬化膜におけるクラック等の発生をさらに抑制でき、かつ湿熱環境下において透明性をより維持できる。
【0079】
[[D]分散媒]
[D]分散媒は、水を主成分する。[D]分散媒としては、水のみを含有する分散媒でも、水及び有機溶媒を含有する混合分散媒でもよい。[D]分散媒としては、環境負荷等の観点から、水のみを含有する分散媒が好ましい。
【0080】
上記有機溶媒としては、水に可溶な有機媒体であれば特に限定されないが、例えばアルコール類、エーテル類等が挙げられる。上記アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。上記エーテル類としては、例えばエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0081】
[D]分散媒が有機溶媒を含有する場合、有機溶媒の含有量の上限としては、例えば10質量%である。
【0082】
(その他の成分)
エマルジョン組成物(I)は、上記[A]〜[D]以外にも、さらに[E]重合体、[F]濡れ剤、[G]無機粒子、[H]光ラジカル開始剤、有機粒子、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、可塑剤、紫外線吸収剤、色剤等のその他の成分を含有してもよい。
【0083】
([E]重合体)
[E]重合体は、硬化膜と基材フィルムとの密着性を向上することができる成分である。[E]重合体は、ポリマー(例えば数平均分子量が10,000超)の他、オリゴマー(例えば数平均分子量が10,000以下)も含まれる。
【0084】
[E]重合体としては、例えばPET、PEN等のポリエステルのポリマー又はオリゴマー、架橋性基を有するポリマー又はオリゴマー等が挙げられる。
【0085】
上記ポリエステルとしては、例えば多塩基酸と多価アルコールとの縮合物等が挙げられる。上記多塩基酸としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、無水コハク酸等が挙げられる。上記多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0086】
上記ポリエステルの市販品としては、例えばKA−5071S、KZT−8803、KT−8701、KZT−9204(以上、ユニチカ社)、バイロナールMD1200、MD1245、MD1480,MD1930,MD2000、MD1500(以上、東洋紡社)、PES−H001等のハイテックPEシリーズ(東邦化学工業社)、ニュートラック2010(花王社)、スーパーフレックス210(第一工業製薬社)、プラスコートZ730、Z760、Z592、Z687、Z690(以上、互応化学工業社)等が挙げられる。
【0087】
上記ポリエステルは、カルボキシ基を有することが好ましい。ポリエステルがカルボキシ基を有することで、例えば架橋性基を有するポリマー又はオリゴマー等によって架橋構造を形成することができ、その結果、硬化膜と基材フィルムとの密着性をより向上できる。ポリエステルがカルボキシ基を有する場合、ポリエステルにおけるカルボキシ基の含有割合は、ポリエステルの酸価として表すことができ、例えば1KOHmg/g以上30KOHmg/gである。
【0088】
上記架橋性基としては、例えばアミノ基(特にメラミン性のアミノ基)、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。上記架橋性基は、例えば基材フィルム等が有するカルボキシ基などと反応して、結合基を生ずる。
【0089】
上記架橋性基を有するポリマー又はオリゴマーの市販品としては、例えばエポクロスWS−300、WS−500、WS−700、K−2000(以上、日本触媒社)、カルボジライトV−02、SV−02、V−02−L2、V−04、E−01、E−02、E−05(以上、日清紡ケミカル社)、ニカラックMW−30M、MW−30、MW−11、MX−035、MX−45、BX−4000(以上、三和ケミカル社)、H−3、MF−9等のエラストロンシリーズ(以上、第一工業製薬社)などが挙げられる。
【0090】
[E]重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)の下限としては、1,000が好ましく、1,200がより好ましく、1,500がさらに好ましい。一方、[E]重合体のMnの上限としては、50,000が好ましく、30,000がより好ましく、20,000がさらに好ましい。[E]重合体のMnを上記範囲とすることで、エマルジョン組成物(I)の塗工性を維持しつつ、形成される硬化膜と基材フィルムとの密着性をより向上できる。
【0091】
エマルジョン組成物(I)が[E]重合体を含有する場合、エマルジョン組成物(I)中の[E]重合体の含有量の下限としては、固形分換算で、0.1質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。上記含有量の上限としては、15質量%が好ましく、10質量%がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。[E]重合体の含有量を上記範囲とすることで、硬化膜の硬度を維持しつつ、基材フィルムとの密着性をさらに向上できる。
【0092】
([F]濡れ剤)
[F]濡れ剤は、エマルジョン組成物(I)を塗工する際のハジキ等を抑制し、硬化膜の均一性をより向上させることができる成分である。[F]濡れ剤は、上述の[B]乳化剤とは、機能の点で異なる。[F]濡れ剤としては、例えばシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、アクリルポリマー系界面活性剤等が挙げられる。
【0093】
[F]濡れ剤としては、例えば特開2013−18921号公報、特開2014−133807号公報、特開2014−162889号公報等に記載の濡れ剤等が挙げられる。[F]濡れ剤は、これらの濡れ剤をそのまま用いてもよく、縮合させて用いてもよい。
【0094】
エマルジョン組成物(I)が[F]濡れ剤を含有する場合、エマルジョン組成物(I)中の[F]濡れ剤の含有量の下限としては、固形分換算で、0.01質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましく、0.2質量%がさらに好ましい。上記含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。[F]濡れ剤の含有量を上記範囲とすることで、エマルジョン組成物(I)を塗工する際のハジキ等をより抑制できる。
【0095】
[[G]無機粒子]
[G]無機粒子は、エマルジョン組成物(I)の硬化膜の硬度を向上する。
【0096】
[G]無機粒子の主成分としては、例えば酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化セリウム等を挙げることができる。[G]無機粒子の主成分としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン及びこれらの組み合わせが好ましく、酸化ケイ素がより好ましい。なお、[G]無機粒子は、アルコキシ基、カルボキシ基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基等を有する化合物で表面処理されたものであってもよい。上記化合物としては、(メタ)アクリロイル基を有するシラン化合物が好ましく、メタクリロキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。[G]無機粒子としては、酸化ケイ素を主成分とする粒子をメタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したものが特に好ましい。この場合、[G]無機粒子のアクリル当量としては、特に限定されないが、例えば3,000g/eq以上8,000g/eq以下である。
【0097】
[G]無機粒子の体積平均粒子径の下限としては、1nmが好ましく、5nmがより好ましく、15nmがさらに好ましく、20nmが特に好ましい。一方、[G]無機粒子の体積平均粒子径の上限としては、2,000nmが好ましく、500nmがより好ましく、100nmがさらに好ましく、50nmが特に好ましい。[G]無機粒子の体積平均粒子径が上記範囲である場合、形成される硬化膜の硬度をより向上できる。また、硬化膜の透明性も向上できる。ここで「[G]無機粒子の体積平均粒子径」とは、動的光散乱式粒子径分布測定装置により測定したメジアン径をいう。
【0098】
エマルジョン組成物(I)が[G]無機粒子を含有する場合、エマルジョン組成物(I)中の[G]無機粒子の含有量の下限としては、固形分換算で、0.01質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましく、0.25質量%がさらに好ましい。上記含有量の上限としては、99質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、70質量%がさらに好ましく、50質量%が特に好ましい。[G]無機粒子の含有量を上記範囲とすることで、エマルジョン組成物(I)の塗工性を維持しつつ、形成される硬化膜の硬度をより向上できる。
【0099】
([H]光ラジカル開始剤)
[H]光ラジカル開始剤は、光照射によって活性種を発生し、[A]重合体の重合を促進して硬化膜の硬度を向上させることができる。
【0100】
[H]光ラジカル開始剤としては、例えばアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、3−メチルアセトフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等が挙げられる。
【0101】
[H]光ラジカル開始剤の市販品としては、例えばIrgacure184(BASF社)等が挙げられる。
【0102】
[H]光ラジカル開始剤は、水溶性化合物であっても非水溶性化合物であってもよいが、得られる硬化膜の湿熱耐性をより高め、湿熱環境下において透明性をより維持できる観点から、非水溶性が好ましい。
【0103】
エマルジョン組成物(I)が[H]光ラジカル開始剤を含有する場合、エマルジョン組成物(I)中の[H]光ラジカル開始剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましい。[H]光ラジカル開始剤の含有量を上記範囲とすることで、より効果的に、硬化膜の硬度をより向上できる。
【0104】
[重合禁止剤]
重合禁止剤は、保管時等の[A]化合物の重合を抑制することでエマルジョン組成物(I)の貯蔵安定性を向上することができる。上記重合禁止剤の市販品としては、例えばp−メトキシフェノール、フェノチアジン、BHT(以上、和光純薬工業社)、IRGANOX1010、IRGANOX1035(以上、BASF社)、SumilizerGA−80(住友化学社)、キノパワーQS−30、キノパワーQS−W10(以上、川崎化成工業社)等が挙げられる。エマルジョン組成物(I)が上記重合禁止剤を含有する場合、重合禁止剤の含有量の上限としては、固形分換算で、1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。上記重合禁止剤の含有量を上記範囲とすることで、[A]化合物の重合性と、エマルジョン組成物(I)組成物の貯蔵安定性とをバランスよく向上できる。
【0105】
<エマルジョン組成物(I)の製造方法>
エマルジョン組成物(I)の製造方法は、[D]分散媒、[A]化合物、[B]乳化剤及び[C]開始剤を混合する工程(混合工程)を備える。エマルジョン組成物(I)の製造方法によれば、エマルジョン組成物(I)を容易かつ確実に製造できる。
【0106】
エマルジョン組成物(I)の製造方法は、上記混合工程により得られた混合物に応力を付与する処理する工程(応力付与工程)をさらに備えることが好ましい。エマルジョン組成物(I)の製造方法は、上記応力付与工程をさらに備えることで、エマルジョン組成物(I)のエマルジョン安定性をより高めることができる。なお、混合工程及び応力付与工程は、同時に行ってもよい。すなわち、[D]分散媒、[A]化合物、[B]乳化剤及び[C]開始剤を混合しながら、得られた混合物に適宜応力を付与してもよい。以下、各工程について説明する。
【0107】
[混合工程]
本工程では、[A]化合物、[B]乳化剤、[C]開始剤及び[D]分散媒と、必要に応じて任意成分とを混合し、混合物を得る。混合方法としては、特に限定されず、攪拌混合法等の一般的な方法を採用できる。
【0108】
[応力付与工程]
本工程では、上記混合工程により得られた混合物に応力を付与する処理を行う。これにより、エマルジョンを調製する。具体的には、エマルジョンの調製は、乳化剤を用いた界面化学的手法と、プロペラミキサー、タービンミキサー、ホモミキサー、ディスパーミキサー、ウルトラミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザー、超音波処理等を用いた機械的手法とを併用して応力を加えることで行う。その調製方法としては、乳化剤を水相に溶解・分散させ、撹拌下で油相を注いでいくAgent−in−water法、乳化剤を油相に溶解・分散させ、撹拌下で水相を注いでいき、途中で連続相が油相から水相に転送する転送乳化法、脂肪酸を油相に、アルカリを水相にそれぞれ溶解しておき、乳化時に水/油の界面で石鹸を生成させるNascent−soap法、乳化剤に対して、水と油を少量ずつ交互に添加する交互添加法等を採用することができる。なお、高圧ホモジナイザー処理とは、固体と液体との混合流体や2種以上液体の混合流体等を超高圧ポンプにて加圧することにより、混合、乳化及び/又は分散させる処理をいう。混合物に応力を付与する方法としては、上記油滴の油滴径を適切な範囲に調節する観点から、高圧ホモジナイザー処理が好ましい。この場合、上記油滴の油滴径をより適切な範囲に調節する観点から、高圧ホモジナイザー処理の前には超音波照射等の他の処理によって上記混合物の乳化及び分散を行わないことが好ましい。以下に、高圧ホモジナイザーを用いるエマルジョン調製方法を説明する。
【0109】
高圧ホモジナイザー処理における加圧圧力の下限としては、10MPaが好ましく、20MPaがより好ましく、30MPaがさらに好ましい。上記加圧圧力の上限としては、300MPaが好ましく、270MPaがより好ましく、250MPaがさらに好ましい。また、高圧ホモジナイザー処理における処理時間の下限としては、10分が好ましく、30分がより好ましい。上記処理時間の上限としては、180分が好ましく、120分がより好ましい。高圧ホモジナイザー処理における加圧圧力及び処理時間を上記範囲とすることで、エマルジョン組成物(I)のエマルジョン安定性をより向上できる。
【0110】
高圧ホモジナイザー処理における処理温度としては、各成分の変性を抑制する観点から、例えば5℃以上50℃以下である。
【0111】
<延伸フィルム>
当該延伸フィルムの製造方法により得られる延伸フィルムは、基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面に積層される硬化膜を備え、上記硬化膜が、エマルジョン組成物(I)から形成される。
【0112】
上記延伸フィルムの平均総厚みとしては、例えば10μm以上1,000μm以下である。
【0113】
当該延伸フィルムの製造方法により得られる延伸フィルムは、硬化膜におけるクラック等が少なく、かつ湿熱環境下においても透明性を維持することできるので、フラットパネルディスプレイ、太陽電池、タッチパネル等の表面保護フィルムや、反射防止フィルムなどとして好適に用いることができる。また、上述の用途以外にも、建材、車両等の様々な材料として幅広い用途で用いることができる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0115】
<エマルジョン組成物の調製>
各エマルジョン組成物の調製に用いた各成分を下記に示す。なお、表1に記載した使用量は、各成分の固形分の質量部を示す。
【0116】
[[A]化合物]
DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート):新中村化学工業社の「NKエステルA9530」(主成分の分子量579、主成分の官能基数6)
DPPA(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート):新中村化学工業社の「NKエステルA9570W」(主成分の分子量525、官能基数5)
PETEA(ペンタエリスリトールテトラアクリレート):共栄社化学社の「ライトアクリレートPE−4A」(分子量352、官能基数4)
UA1(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートとの2:1付加体):日本化薬社の「KAYARAD DPHA−40H」(DPHAも含む)(主成分の分子量1,215、官能基数10)
UA2(ペンタエリスリトールトリアクリレートとイソホロンジイソシアネートとの2:1付加体):新中村化学工業社の「NKオリゴU−6LPA」(ペンタエリスリトールテトラアクリレートも含む)(主成分の分子量1,008、官能基数6)
【0117】
[[B]乳化剤]
乳化剤(B−1):メタクリル基を有するポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤社の「RE1000」)
乳化剤(B−2):ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸アンモニウム(日本乳化剤社の「ニューコール707SF」)
乳化剤(B−3):ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル(日本乳化剤社の「ニューコール707」
【0118】
[[C]ラジカル開始剤]
I−1:2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(和光純薬工業社の「AIBN」、10時間半減期温度:65℃)
I−2:ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業社の「V601」、10時間半減期温度:66℃)
I−3:2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬工業社の「V−59」、10時間半減期温度:67℃)
I−4:4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(和光純薬工業社の「V501」、10時間半減期温度:69℃)
I−5:ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(和光純薬工業社の「VE073」、10時間半減期温度:73℃)
I−6:2.2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](和光純薬工業社の「VA086」、10時間半減期温度:86℃)
I−7:1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(和光純薬工業社の「V40」、10時間半減期温度:88℃)
I−8:2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)(和光純薬工業社の「VAm110」、10時間半減期温度:110℃)
I−9:α,α’−ジ(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン(日油社の「パーブチルP」、10時間半減期温度:119℃)
I−10:ジ−t−ブチルパーオキサイド(日油社の「パーブチルD」、10時間半減期温度:124℃)
【0119】
[[D]分散媒]
【0120】
[[E]重合体]
E−1:PET系オリゴマー(東洋紡STC社の「バイロナールMD2000」)
E−2:PEN系オリゴマー(互応化学社の「プラスコートZ−687」)
E−3:オキサゾリン基含有ポリマー(日本触媒社の「エポクロスWS−300」)
E−4:ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル社の「カルボジライトSV−02」)
E−5:ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル社の「カルボジライトE−02」)
E−6:ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル社の「カルボジライトE−05」)
【0121】
[[F]濡れ剤]
F−1:シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング社の「DOW CORNING TORAY 8019 ADDITIVE」)
【0122】
[[G]無機粒子]
G−1:メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面修飾したメジアン径40nmの水分散シリカ(アクリル基当量:5,000g/eq)
【0123】
[調製例1〜28]
表1に記載した種類及び量の各成分と水とを混合し、高圧ホモジナイザー(吉田機械興業社の「C−ES008C」)を用い、加圧圧力200MPa、処理時間60分、処理温度25℃の条件で高圧ホモジナイザー処理することにより、固形分濃度30質量%のエマルジョン組成物(J1)〜(J28)を調製した。
【0124】
<延伸フィルムの製造>
[実施例1〜24及び比較例1〜4]
上記調製した各エマルジョン組成物を用い、下記方法により、硬化膜が積層された二軸延伸フィルムを製造した。
【0125】
PETペレット(ホモポリマー)を十分に乾燥した後、一軸押出機に供給し、250℃で溶融してT−ダイからシート状に押し出し、次いで静電印加キャスト法によって45℃の冷却ロールに巻き付けて冷却固化させることにより、PETの未延伸フィルムを得た。このPETの未延伸フィルムを90℃に加熱し、長手方向に3.0倍に延伸することでPETの一軸延伸フィルムを得た。
【0126】
上記得られた一軸延伸フィルムの一方の面に、表1に示す各エマルジョン組成物をリバースロールコート法によって塗工した。
【0127】
次に、エマルジョン組成物を塗工した一軸延伸フィルムを予熱ゾーンに導いて130℃で1分間加熱乾燥した後、90℃で短手方向に3.0倍に延伸した。なお、得られたフィルムは、長手方向に3.0倍、短手方向に3.0倍延伸しているため、合計延伸倍率は9.0倍となる。次いで、上記フィルムを熱硬化ゾーンに導き、230℃で30秒間加熱してエマルジョン組成物の塗膜の熱硬化を行うことにより、平均厚み50μmの基材フィルムと、この基材フィルムの一方の面に積層される平均厚み約1μmの硬化膜とを備える二軸延伸フィルムを得た。
【0128】
<評価>
上記得られた延伸フィルムについて、下記方法により、硬化膜のクラック等の発生抑制性、鉛筆硬度、耐擦傷性、基材フィルムと硬化膜との密着性及び湿熱環境下での透明維持性について評価した。評価結果を表1に合わせて示す。比較例2における「−」は、該当する評価を行わなかったことを示す。
【0129】
[硬化膜のクラック等の発生抑制性(延伸耐性)]
表1に示す調製例で調製したエマルジョン組成物を、未延伸のポリエステルフィルムに塗工し、100℃で1分間乾燥を行ってから、100℃で1つの軸に対して3倍に熱延伸した後、220℃でアニーリングして、塗膜を硬化させ硬化膜を形成させた。得られた硬化膜が形成された延伸フィルムにおいて、硬化膜のクラック等の発生抑制性(延伸耐性)は、綺麗な硬化膜が得られた場合は「○(良好)」と、硬化膜に1箇所のクラックを生じた場合は「△(やや良好)」と、硬化膜に2箇所以上のクラックや破断を生じた場合は「×(不良)」と評価した。
【0130】
[鉛筆硬度]
得られた延伸フィルムをガラス基板に固定させて、「JIS K5600−5−4」に準拠して評価した。
【0131】
[耐擦傷性]
得られた延伸フィルムをスチールウール(日本スチールウール社の「ボンスターNo.0000」)を学振型摩耗堅牢度試験機(テスター産業社の「AB−301」)に取り付け、硬化膜表面を各荷重にて20回繰り返し擦過し、この硬化膜の表面における傷の発生の有無を目視で確認した。100g、200g、300g、400gと荷重を変更し、傷の無い最大の荷重を耐擦傷性とした。
【0132】
[基材フィルムと硬化膜との密着性]
JIS−K5600−5−6:1999に従い、クロスカット法により測定を行い、延伸フィルムにおける基材フィルムと硬化膜との密着性を評価した。密着性は、どの格子にもはがれがない場合は「○(良好)」と、はがれが認められた場合は「×(不良)」と評価した。
【0133】
[湿熱環境下での透明維持性(ΔHaze)]
得られた延伸フィルムのHazeをJIS−K7136:2000に従い測定した。次に、上記延伸フィルムに85℃、95%RH、168時間の加熱加湿処理を行った。処理後、上記延伸フィルムの非コート面にブリードアウトした成分を、イソプロパノールを染み込ませたガーゼで拭き取った。次いで、延伸フィルムのHazeを再度測定し、処理前後のHaze差(ΔHaze:処理後のHaze−処理前のHaze)を求め、延伸フィルムの湿熱環境下での透明維持性の指標とした。透明維持性は、ΔHazeが0.5以下の場合は「○(良好)」と、ΔHazeが0.5を超え1.0以下の場合は「△(やや良好)」と、ΔHaseが1.0を超える場合は「×(不良)」と判断した。
【0134】
【表1】
【0135】
表1の結果から明らかなように、実施例の延伸フィルムの製造方法によれば、硬化膜におけるクラック等の発生を抑制でき、かつ湿熱環境下においても透明性を維持できる延伸フィルムを得ることができる。一方、比較例の製造方法では、クラック等の発生抑制性及び湿熱環境下における透明維持性のいずれかが不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の延伸フィルムの製造方法によれば、硬化膜におけるクラック等の発生を抑制でき、かつ湿熱環境下においても透明性を維持できる延伸フィルムを得ることができる。本発明の硬化膜形成用エマルジョン組成物は、当該延伸フィルムの製造方法に好適に用いることができる。