(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683025
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】セメント組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20200406BHJP
C04B 7/19 20060101ALI20200406BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20200406BHJP
C04B 18/16 20060101ALI20200406BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20200406BHJP
【FI】
C04B28/08ZAB
C04B7/19
C04B18/14 A
C04B18/16
B09B3/00 Z
B09B3/00 304G
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-115318(P2016-115318)
(22)【出願日】2016年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-218354(P2017-218354A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100120570
【弁理士】
【氏名又は名称】中 敦士
(72)【発明者】
【氏名】三隅 英俊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊之
【審査官】
田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−088768(JP,A)
【文献】
特開昭63−230545(JP,A)
【文献】
特開2012−086992(JP,A)
【文献】
特開2016−008159(JP,A)
【文献】
特開平10−218657(JP,A)
【文献】
特開2001−130933(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0294496(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0129393(US,A1)
【文献】
特開2009−215577(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/110594(WO,A1)
【文献】
特開2017−218355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグとダストとセメントクリンカーと石膏とを含むセメント組成物であって、
前記高炉スラグと前記ダストとの合計含有量が60質量%を超えて90質量%以下であり、前記セメントクリンカーと前記石膏との合計含有量が10質量%以上40質量%未満であり、
前記ダストがEPダストを含み、
前記EPダストの塩素含有量が0〜0.1質量%、有機炭素含有量が0〜0.0025質量%であり、
前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜13質量部であることを特徴とする、
セメント組成物。
【請求項2】
前記ダストが塩素バイパスダストを更に含み、
前記塩素バイパスダスト中の塩素含有量が3〜40質量%であり、
前記塩素バイパスダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜7質量部であることを特徴とする、
請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記塩素バイパスダストのSiO2含有量が7〜12質量%、Al2O3含有量が1.5〜6質量%、Fe2O3含有量が0.5〜4質量%、CaO含有量が45〜55質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、Na2O含有量が0.5〜2質量%、K2O含有量が7〜13質量%、TiO2含有量が0.1〜0.5質量%、MnO含有量が0.02〜0.5質量%であることを特徴とする、
請求項2記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記ダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して6.5質量部以下であり、
前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5質量部以上4.5質量部未満であることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれか1項記載のセメント組成物。
【請求項5】
前記EPダストのSiO2含有量が6〜11質量%、Al2O3含有量が1.5〜5.5質量%、Fe2O3含有量が0.5〜3質量%、CaO含有量が41〜45.5質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、SO3含有量が0.3〜1.3質量%、Na2O含有量が0.05〜0.5質量%、K2O含有量が0.5〜1.5質量%、TiO2含有量が0.1〜0.6質量%、MnO含有量が0.01〜0.2質量%であり、
前記EPダストのブレーン比表面積が7000〜30000cm2/gであることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれか1項記載のセメント組成物。
【請求項6】
高炉スラグとダストとセメントクリンカーと石膏とを含み、前記ダストがEPダストを含むセメント組成物の製造方法であって、
前記EPダストを水洗して、塩素含有量を0〜0.1質量%に、有機炭素含有量を0〜0.0025質量%に調整する水洗工程と、
前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜13質量部となり、前記セメント組成物中の前記高炉スラグと前記ダストの合計含有量が60質量%を超えて90質量%以下となり、前記セメントクリンカーと前記石膏との合計含有量が10質量%以上40質量%未満となるように、前記高炉スラグと前記ダストと前記セメントクリンカーと前記石膏とを混合する混合工程と
を含むことを特徴とする、
セメント組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ダストが塩素バイパスダストを更に含み、
前記混合工程において、前記塩素バイパスダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜7質量部となるように、前記高炉スラグと前記ダストと前記セメントクリンカーと前記石膏とを混合することを特徴とする、
請求項6記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項8】
前記塩素バイパスダストの塩素含有量が3〜40質量%、SiO2含有量が7〜12質量%、Al2O3含有量が1.5〜6質量%、Fe2O3含有量が0.5〜4質量%、CaO含有量が45〜55質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、Na2O含有量が0.5〜2質量%、K2O含有量が7〜13質量%、TiO2含有量が0.1〜0.5質量%、MnO含有量が0.02〜0.5質量%であることを特徴とする、
請求項7記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項9】
前記混合工程において、前記ダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して6.5質量部以下、前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5質量部以上4.5質量部未満となるように、前記高炉スラグと前記ダストと前記セメントクリンカーと前記石膏とを混合することを特徴とする、
請求項6〜8のいずれか1項記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項10】
前記EPダストのSiO2含有量が6〜11質量%、Al2O3含有量が1.5〜5.5質量%、Fe2O3含有量が0.5〜3質量%、CaO含有量が41〜45.5質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、SO3含有量が0.3〜1.3質量%、Na2O含有量が0.05〜0.5質量%、K2O含有量が0.5〜1.5質量%、TiO2含有量が0.1〜0.6質量%、MnO含有量が0.01〜0.2質量%であり、
前記EPダストのブレーン比表面積が7000〜30000cm2/gであることを特徴とする、
請求項6〜9のいずれか1項記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項11】
セメント又はコンクリート用の混合材であって、
高炉スラグとダストを含み、前記ダストがEPダストを含み、
前記EPダストの塩素含有量が0〜0.1質量%、有機炭素含有量が0〜0.0025質量%であり、
前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜13質量部であることを特徴とする、
セメント又はコンクリート用の混合材。
【請求項12】
前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5質量部以上4.5質量部未満であることを特徴とする、
請求項11記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
【請求項13】
前記ダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して6.5質量部以下であることを特徴とする、
請求項12記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
【請求項14】
前記ダストが塩素バイパスダストを更に含み、
前記塩素バイパスダストの塩素含有量が3〜40質量%であり、
前記塩素バイパスダストの含有量が高炉スラグ100質量部に対して0.5〜7質量部であることを特徴とする、
請求項11〜13のいずれか1項記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
【請求項15】
前記塩素バイパスダストのSiO2含有量が7〜12質量%、Al2O3含有量が1.5〜6質量%、Fe2O3含有量が0.5〜4質量%、CaO含有量が45〜55質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、Na2O含有量が0.5〜2質量%、K2O含有量が7〜13質量%、TiO2含有量が0.1〜0.5質量%、MnO含有量が0.02〜0.5質量%であることを特徴とする、
請求項14記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
【請求項16】
前記EPダストのSiO2含有量が6〜11質量%、Al2O3含有量が1.5〜5.5質量%、Fe2O3含有量が0.5〜3質量%、CaO含有量が41〜45.5質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、SO3含有量が0.3〜1.3質量%、Na2O含有量が0.05〜0.5質量%、K2O含有量が0.5〜1.5質量%、TiO2含有量が0.1〜0.6質量%、MnO含有量が0.01〜0.2質量%であり、
前記EPダストのブレーン比表面積が7000〜30000cm2/gであることを特徴とする、
請求項11〜15のいずれか1項記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
【請求項17】
前記高炉スラグのブレーン比表面積が3000〜5000cm2/gであることを特徴とする、
請求項11〜16のいずれか1項記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉スラグなどの混合材を多く含み、かつセメントの製造工程で発生する副産物であるダストを有効利用したセメント組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化防止対策として、セメント製造に由来するCO
2発生量の低減に向けて、高炉水砕スラグやフライアッシュ等の混合材を多量に使用した低炭素セメントの利用が進められている。しかしながら、このような混合材を多く含むセメントは、強度発現性が低く、特に初期の強度が出難いために養生期間を長くする必要があり、施工性の面で効率が低かった。
【0003】
そこで、セメントの初期強度を改善する従来技術として、混合材の粉末度を高める、セメントの配合量を増やす、反応促進剤を使用する等の対策がなされている。
【0004】
一方で、セメントの製造工程においては、電気集塵機で捕集された原料粉砕時に生じる極微粒な無機粉末(以下、EPダスト)や、キルン内の塩素循環量を制御することを目的に設置されている塩素バイパスで捕集されるクリンカーダスト(以下、塩素バイパスダスト)といった無機粉末が、副産物として発生する。
【0005】
EPダストや塩素バイパスダストは、通常はクリンカー原料として再利用されるが、温度が一旦下がったものを再び加熱することになり、セメント製造の熱効率は低下することになる。
【0006】
そこで、塩素バイパスダストをセメントに適量添加して利用することで、副産物を有効利用しながら初期強度の増加を図る技術が検討されてきた(特許文献1)。また、電気集塵ダスト(EPダスト)から水銀を除去した後にクリンカー原料として利用する技術やクリンカーの粉砕工程で添加する技術が開示されてきた(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−350337号公報
【特許文献2】特開2013−112579号公報
【特許文献3】特開2002−284550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、混合材の粉末度を高める、セメントの配合量を増やす、反応促進剤を使用する場合にはコストの面で問題があり、塩素バイパスダストをセメントに添加した場合やEPダストをセメントに添加、もしくはクリンカー原料として利用した場合には、長期強度が低下する問題があった。
【0009】
これからの低炭素社会に向けて高炉セメントの利用が進む可能性があり、セメント製造時に発生する副産物を有効利用可能な、より安価で効率良く強度改善が図れる技術が要望されている。また、耐久性を考慮すると長期強度を高めに維持することも重要であるため、初期強度だけでなく長期強度発現性にも優れるセメント組成物およびその製造方法が必要とされている。
【0010】
本発明は、これらの課題を総合的に解決するために行ったものであり、セメント製造時に発生する副産物を有効利用しながら強度発現性を向上した、高炉スラグなどの混合材を多く含むセメント組成物およびその製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、塩素含有量および有機炭素含有量を制御したEPダストを所定量高炉セメントに混合することで、EPダストの有効利用と強度発現性に優れる高炉セメント組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明により、以下が提供される。
[1]高炉スラグとダストとセメントクリンカーと石膏とを含むセメント組成物であって、
前記高炉スラグと前記ダストとの合計含有量が60質量%を超えて90質量%以下であり、前記セメントクリンカーと前記石膏との合計含有量が10質量%以上40質量%未満であり、
前記ダストがEPダストを含み、
前記EPダストの塩素含有量が0〜0.1質量%、有機炭素含有量が0〜0.0025質量%であり、
前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜13質量部であることを特徴とする、セメント組成物。
[2]前記ダストが塩素バイパスダストを更に含み、
前記塩素バイパスダスト中の塩素含有量が3〜40質量%であり、
前記塩素バイパスダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜7質量部であることを特徴とする、[1]記載のセメント組成物。
[3]前記塩素バイパスダストのSiO
2含有量が7〜12質量%、Al
2O
3含有量が1.5〜6質量%、Fe
2O
3含有量が0.5〜4質量%、CaO含有量が45〜55質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、Na
2O含有量が0.5〜2質量%、K
2O含有量が7〜13質量%、TiO
2含有量が0.1〜0.5質量%、MnO含有量が0.02〜0.5質量%であることを特徴とする、[2]記載のセメント組成物。
[4]前記ダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して6.5質量部以下であり、前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5質量部以上4.5質量部未満であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項記載のセメント組成物。
[5]前記EPダストのSiO
2含有量が6〜11質量%、Al
2O
3含有量が1.5〜5.5質量%、Fe
2O
3含有量が0.5〜3質量%、CaO含有量が41〜45.5質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、SO
3含有量が0.3〜1.3質量%、Na
2O含有量が0.05〜0.5質量%、K
2O含有量が0.5〜1.5質量%、TiO
2含有量が0.1〜0.6質量%、MnO含有量が0.01〜0.2質量%であり、
前記EPダストのブレーン比表面積が7000〜30000cm
2/gであることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか1項記載のセメント組成物。
【0013】
[6]高炉スラグとダストとセメントクリンカーと石膏とを含み、前記ダストがEPダストを含むセメント組成物の製造方法であって、
前記EPダストを水洗して、塩素含有量を0〜0.1質量%に、有機炭素含有量を0〜0.0025質量%に調整する水洗工程と、
前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜13質量部となり、前記セメント組成物中の前記高炉スラグと前記ダストの合計含有量が60質量%を超えて90質量%以下となり、前記セメントクリンカーと前記石膏との合計含有量が10質量%以上40質量%未満となるように、前記高炉スラグと前記ダストと前記セメントクリンカーと前記石膏とを混合する混合工程と
を含むことを特徴とする、セメント組成物の製造方法。
[7]前記ダストが塩素バイパスダストを更に含み、
前記混合工程において、前記塩素バイパスダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜7質量部となるように、前記高炉スラグと前記ダストと前記セメントクリンカーと前記石膏とを混合することを特徴とする、[6]記載のセメント組成物の製造方法。
[8]前記塩素バイパスダストの塩素含有量が3〜40質量%、SiO
2含有量が7〜12質量%、Al
2O
3含有量が1.5〜6質量%、Fe
2O
3含有量が0.5〜4質量%、CaO含有量が45〜55質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、Na
2O含有量が0.5〜2質量%、K
2O含有量が7〜13質量%、TiO
2含有量が0.1〜0.5質量%、MnO含有量が0.02〜0.5質量%であることを特徴とする、[7]記載のセメント組成物の製造方法。
[9]前記混合工程において、前記ダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して6.5質量部以下、前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5質量部以上4.5質量部未満となるように、前記高炉スラグと前記ダストと前記セメントクリンカーと前記石膏とを混合することを特徴とする、[6]〜[8]のいずれか1項記載のセメント組成物の製造方法。
[10]前記EPダストのSiO
2含有量が6〜11質量%、Al
2O
3含有量が1.5〜5.5質量%、Fe
2O
3含有量が0.5〜3質量%、CaO含有量が41〜45.5質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、SO
3含有量が0.3〜1.3質量%、Na
2O含有量が0.05〜0.5質量%、K
2O含有量が0.5〜1.5質量%、TiO
2含有量が0.1〜0.6質量%、MnO含有量が0.01〜0.2質量%であり、
前記EPダストのブレーン比表面積が7000〜30000cm
2/gであることを特徴とする、[6]〜[9]のいずれか1項記載のセメント組成物の製造方法。
【0014】
[11]セメント又はコンクリート用の混合材であって、
高炉スラグとダストを含み、前記ダストがEPダストを含み、
前記EPダストの塩素含有量が0〜0.1質量%、有機炭素含有量が0〜0.0025質量%であり、
前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5〜13質量部であることを特徴とする、セメント又はコンクリート用の混合材。
[12]前記EPダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して0.5質量部以上4.5質量部未満であることを特徴とする、[11]記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
[13]前記ダストの含有量が前記高炉スラグ100質量部に対して6.5質量部以下であることを特徴とする、[12]記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
[14]前記ダストが塩素バイパスダストを更に含み、
前記塩素バイパスダストの塩素含有量が3〜40質量%であり、
前記塩素バイパスダストの含有量が高炉スラグ100質量部に対して0.5〜7質量部であることを特徴とする、[11]〜[13]のいずれか1項記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
[15]前記塩素バイパスダストのSiO
2含有量が7〜12質量%、Al
2O
3含有量が1.5〜6質量%、Fe
2O
3含有量が0.5〜4質量%、CaO含有量が45〜55質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、Na
2O含有量が0.5〜2質量%、K
2O含有量が7〜13質量%、TiO
2含有量が0.1〜0.5質量%、MnO含有量が0.02〜0.5質量%であることを特徴とする、[14]記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
[16]前記EPダストのSiO
2含有量が6〜11質量%、Al
2O
3含有量が1.5〜5.5質量%、Fe
2O
3含有量が0.5〜3質量%、CaO含有量が41〜45.5質量%、MgO含有量が0.2〜1.2質量%、SO
3含有量が0.3〜1.3質量%、Na
2O含有量が0.05〜0.5質量%、K
2O含有量が0.5〜1.5質量%、TiO
2含有量が0.1〜0.6質量%、MnO含有量が0.01〜0.2質量%であり、
前記EPダストのブレーン比表面積が7000〜30000cm
2/gであることを特徴とする、[11]〜[15]いずれか1項記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
[17]前記高炉スラグのブレーン比表面積が3000〜5000cm
2/gであることを特徴とする、[11]〜[16]のいずれか1項記載のセメント又はコンクリート用の混合材。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セメント製造時に発生する副産物を有効利用しながら強度発現性を向上した、高炉スラグなどの混合材を多く含む高炉セメント組成物およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
<セメント組成物>
本発明に係るセメント組成物は、高炉スラグとダストとセメントクリンカーと石膏とを含むものであり、さらにJIS R5210に規定される少量混合成分などを含むことができる。
【0018】
本発明に係るセメント組成物に使用される高炉スラグは、鉄鋼製造工程において副産物として発生するスラグである。例えば高炉水砕スラグや高炉徐冷スラグを使用することができるが、強度発現性の観点からは高炉水砕スラグ、特にJIS A 6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定される高炉スラグの使用が好ましい。
【0019】
本発明に係るセメント組成物における高炉スラグの含有量に関しては、高炉スラグとダストとの合計含有量が60質量%を超えて90質量%以下であり、好ましくは63〜87質量%であり、より好ましくは65〜85質量%である。高炉スラグとダストの合計含有量が60質量%以下であるとCO
2削減に対する寄与が小さく、90質量%を超えると強度発現性の低下が懸念される。
【0020】
高炉スラグのブレーン比表面積は、好ましくは3000〜6000cm
2/gであり、より好ましくは3100〜5500cm
2/gであり、さらに好ましくは3200〜5000cm
2/gであり、特に好ましくは3300〜4500cm
2/gである。高炉スラグのブレーン比表面積は、強度発現性に影響するものであり、十分に粉砕することによって、強度発現性の良好な高炉セメント組成物を得ることができる。
【0021】
本発明に係るセメント組成物に使用されるダストは、EPダストを含む。EPダストは、電気集塵機(通称EP)により集塵されたセメントキルン排ガスに含まれるダスト、あるいはキルン排ガスの余熱を原料ミル及び原料ドライヤーで利用した後の排ガスに含まれるダストであり、このようなセメント製造時に発生する無機粉末ダスト等の副産物の有効利用を図ることができる。EPダスト中の塩素含有量は0〜0.1質量%であり、好ましくは0以上0.1質量%未満であり、より好ましくは0〜0.08質量%であり、さらに好ましくは0〜0.04質量%であり、特に好ましくは0〜0.03質量%である。この範囲であれば、強度発現性に優れる高炉セメントを提供することができる。EPダスト中の塩素含有量は少ない方が好ましく、0(測定限界未満)であることが最も好ましいが、例えば0.01質量%以上であってもよい。EPダスト中の塩素含有量は、EPダストを水洗することで調整することができる。なお、EPダスト中の塩素含有量は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。
【0022】
EPダスト中の有機炭素含有量は0〜0.0025質量%であり、好ましくは0〜0.0020質量%であり、より好ましくは0〜0.001質量%であり、さらに好ましくは0〜0.0005質量%であり、特に好ましくは0.0005質量%未満である。有機炭素含有量が0.0025質量%を超えると高炉セメント組成物の強度発現性の低下が懸念される。EPダスト中の有機炭素含有量は少ない方が好ましく、0(測定限界未満)であることが最も好ましい。EPダスト中の有機炭素含有量は、EPダストを水洗することで調整することができる。なお、EPダスト中の有機炭素含有量は、水洗後の溶液中の有機炭素含有量を全有機炭素計で測定することにより求めることができる。
【0023】
EPダストの含有量は、高炉スラグ100質量部に対して0.5〜13質量部であり、好ましくは0.5質量部以上4.5質量部未満であり、より好ましくは0.6〜4.0質量部であり、さらに好ましくは2.5〜3.5質量部である。EPダストの含有量が0.5質量部未満であるとEPダストの利用による効果が殆ど得られず、13質量部を超えると高炉セメント組成物の強度発現性の低下が懸念される。
【0024】
EPダストのSiO
2含有量は通常6〜11質量%であり、好ましくは6.5〜10.5質量%であり、より好ましくは7〜10質量%であり、さらに好ましくは7.5〜9.5質量%である。EPダストのAl
2O
3含有量は通常1.5〜5.5質量%であり、好ましくは2〜5.0質量%であり、より好ましくは2.5〜4.7質量%であり、さらに好ましくは3〜4.5質量%である。EPダストのFe
2O
3含有量は通常0.5〜3質量%であり、好ましくは1〜2.8質量%であり、より好ましくは1.3〜2.6質量%であり、さらに好ましくは1.5〜2.5質量%である。EPダストのCaO含有量は通常41〜45.5質量%であり、好ましくは41.5〜45質量%であり、より好ましくは42〜44.5質量%であり、さらに好ましくは42.5〜44質量%である。EPダストのMgO含有量は通常0.2〜1.2質量%であり、好ましくは0.25〜1.1質量%であり、より好ましくは0.3〜1質量%であり、さらに好ましくは0.35〜0.9質量%である。EPダストのSO
3含有量は通常0.3〜1.3質量%であり、好ましくは0.4〜1.2質量%であり、より好ましくは0.45〜1.15質量%であり、さらに好ましくは0.5〜1.1質量%である。EPダストのNa
2O含有量は通常0.05〜0.5質量%であり、好ましくは0.07〜0.4質量%であり、より好ましくは0.1〜0.35質量%であり、さらに好ましくは0.12〜0.3質量%である。EPダストのK
2O含有量は通常0.5〜1.5質量%であり、好ましくは0.55〜1.4質量%であり、より好ましくは0.6〜1.3質量%であり、さらに好ましくは0.7〜1.2質量%である。EPダストのTiO
2含有量は通常0.1〜0.6質量%であり、好ましくは0.15〜0.55質量%であり、より好ましくは0.2〜0.5質量%であり、さらに好ましくは0.25〜0.45質量%である。EPダストのMnO含有量は通常0.01〜0.2質量%であり、好ましくは0.02〜0.17質量%であり、より好ましくは0.02〜0.15質量%であり、さらに好ましくは0.03〜0.12質量%である。この範囲であれば、強度発現性に優れる高炉セメント組成物を提供することができる。
【0025】
EPダストのブレーン比表面積(粉末度)は、通常7000〜30000cm
2/gであり、好ましくは10000〜27000cm
2/gであり、より好ましくは13000〜25000cm
2/gであり、さらに好ましくは15000〜22000cm
2/gである。この範囲であれば、強度発現性に優れる高炉セメント組成物を提供することができる。また、EPダストは、電気集塵機で捕集されるダストの全体を使用するよりも、後段区側で細かい粒子が選択的に捕集されたものを使用することが好ましい。一般的なEPダスト全体の粉末度は10000cm
2/g未満であるのに対して、後段区側のダストを選択的に用いることで10000cm
2/g以上のEPダストが得られる。なお、EPダストのブレーン比表面積は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準拠して測定できる。
【0026】
本発明で使用するダストは、EPダスト以外に塩素バイパスダストを含むことが好ましい。塩素バイパスダストは、セメントキルンのNSPタワーより抽気される塩素バイパスより発生するダストであり、このようなセメント製造時に発生する無機粉末ダスト等の副産物の有効利用を図ることができる。塩素バイパスダストの塩素含有量は3〜40質量%であり、好ましくは4〜38質量%であり、より好ましくは5〜37質量%であり、さらに好ましくは5.5〜36質量%である。この範囲であれば、強度発現性に優れる高炉セメントを提供することができる。また、塩素バイパスダストを水洗して塩素含有量を低減したものを利用してもよいし、EPダストと塩素バイパスダストとを共に混合して水洗したものを利用してもよい。なお、塩素バイパスダスト中の塩素含有量は、EPダスト中の塩素含有量と同様の方法により測定できる。
【0027】
塩素バイパスダストの含有量は、高炉スラグ100質量部に対して0.5〜7質量部であり、好ましくは0.7〜6.5質量部であり、より好ましくは0.9〜6質量部であり、さらに好ましくは0.9〜2質量部である。この範囲であれば、強度発現性に優れる高炉セメント組成物を提供することができる。
【0028】
塩素バイパスダストのSiO
2含有量は通常7〜12質量%であり、好ましくは7.5〜11.5質量%であり、より好ましくは8〜11質量%であり、さらに好ましくは8.5〜10.5質量%である。塩素バイパスダストのAl
2O
3含有量は通常1.5〜6質量%であり、好ましくは2〜5.5質量%であり、より好ましくは2.5〜5質量%であり、さらに好ましくは3〜4.5質量%である。塩素バイパスダストのFe
2O
3含有量は通常0.5〜4質量%であり、好ましくは0.8〜3.5質量%であり、より好ましくは1〜3質量%であり、さらに好ましくは1.2〜2.5質量%である。塩素バイパスダストのCaO含有量は通常45〜55質量%であり、好ましくは46〜54質量%であり、より好ましくは47〜53質量%であり、さらに好ましくは48〜52質量%である。塩素バイパスダストのMgO含有量は通常0.2〜1.2質量%であり、好ましくは0.25〜1.1質量%であり、より好ましくは0.3〜1質量%であり、さらに好ましくは0.35〜0.9質量%である。塩素バイパスダストのNa
2O含有量は通常0.5〜2質量%であり、好ましくは0.6〜1.8質量%であり、より好ましくは0.7〜1.5質量%であり、さらに好ましくは0.8〜1.4質量%である。塩素バイパスダストのK
2O含有量は通常7〜13質量%であり、好ましくは8〜12質量%であり、より好ましくは9〜11質量%であり、さらに好ましくは9.5〜10.5質量%である。塩素バイパスダストのTiO
2含有量は通常0.1〜0.5質量%であり、好ましくは0.15〜0.48質量%であり、より好ましくは0.2〜0.46質量%であり、さらに好ましくは0.25〜0.45質量%である。塩素バイパスダストのMnO含有量は通常0.02〜0.5質量%であり、好ましくは0.03〜0.4質量%であり、より好ましくは0.04〜0.35質量%であり、さらに好ましくは0.04〜0.3質量%である。この範囲であれば、強度発現性に優れる高炉セメント組成物を提供することができる。
【0029】
本発明で使用するダストの含有量は特に限定されるものではないが、高炉スラグ100質量部に対して通常6.5質量部以下であり、0.5〜6.5質量部が好ましく、1〜6質量部がより好ましく、1.5〜5質量部がさらに好ましく、2〜4質量部が特に好ましい。このような範囲であれば、材齢28日の強度発現性に優れた高炉セメント組成物を提供することができる。なお、ダストとしてEPダストと塩素バイパスダストの両方を使用する場合、その合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明に係るセメント組成物に使用されるセメントクリンカーとしては、SP方式(多段サイクロン余熱方式)又はNSP方式(仮焼炉を併設した多段サイクロン余熱方式)等の既存のセメント製造設備を用い、石灰石、硅石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、銅からみ及び焼却灰からなる群より選ばれる原料を混合し、焼成して製造されたものが使用できる。
【0031】
本発明に係るセメント組成物に使用するセメントクリンカーのボーグ鉱物組成に関しては、C
3Sの含有量は通常50〜70質量%であり、好ましくは53〜67質量%であり、より好ましくは55〜65質量%である。C
2Sの含有量は通常7〜21質量%であり、好ましくは9〜19質量%であり、より好ましくは10〜18質量%である。C
3Aの含有量は通常6〜15質量%であり、好ましくは7〜14質量%であり、より好ましくは8〜13質量%である。C
4AFの含有量は通常6〜15質量%であり、好ましくは7〜14質量%であり、より好ましくは8〜13質量%である。このような鉱物組成のセメントクリンカーであれば、強度発現性に優れる高炉セメント組成物を提供することができる。
【0032】
本発明に係るセメント組成物に使用される石膏は特に限定されるものではないが、JIS R 9151「セメント用天然せっこう」に規定される品質を満足することが望ましい。具体的には二水石膏、半水石膏、不溶性無水石膏が好適に用いられる。
【0033】
また、セメントクリンカー及び石膏の混合物として、ポルトランドセメントを使用することもできる。例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸ポルトランドセメントなどが使用できる。普通ポルトランドセメントであれば入手が容易で、強度発現性に優れる高炉セメント組成物を提供することができる。さらに、セメントクリンカー、石膏および高炉スラグの代替として従来の高炉セメントを使用することも可能である。例えばJIS R 5211:2009「高炉セメント」に規定される高炉セメントである。
【0034】
本発明に係るセメント組成物にポルトランドセメントを使用する場合のポルトランドセメントのボーグ鉱物組成に関しては、C
3Sの含有量は通常50〜70質量%であり、好ましくは53〜67質量%であり、より好ましくは55〜65質量%である。C
2Sの含有量は通常7〜21質量%であり、好ましくは9〜19質量%であり、より好ましくは10〜18質量%である。C
3Aの含有量は通常6〜15質量%であり、好ましくは7〜14質量%であり、より好ましくは8〜13質量%である。C
4AFの含有量は通常6〜15質量%であり、好ましくは7〜14質量%であり、より好ましくは8〜13質量%である。このような鉱物組成のポルトランドセメントであれば容易に入手可能であり、強度発現性に優れる高炉セメント組成物を提供することができる。
【0035】
本発明に係るセメント組成物にポルトランドセメントを使用する場合、その化学成分はJIS R 5202「セメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。
【0036】
本発明に係るセメント組成物におけるセメントクリンカーと石膏との合計含有量は、10質量%以上40質量%未満であり、好ましくは13〜37質量%であり、より好ましくは15〜35質量%である。セメントクリンカーと石膏との合計含有量が40質量%以上であるとCO
2削減に対する寄与が小さく、10質量%未満であると強度発現性の低下が懸念される。本発明に係るセメント組成物にポルトランドセメントを使用する場合、ポルトランドセメントの含有量が上記の条件を満たすことが好ましい。
【0037】
本発明に係るセメント組成物におけるセメントクリンカーの含有量は、通常6質量%以上39.9質量%未満であり、好ましくは10〜35質量%であり、より好ましくは13〜30質量%であり、特に好ましくは15〜25質量%である。本発明に係るセメント組成物における石膏の含有量は、通常0.1質量%以上4質量%未満であり、好ましくは0.2〜3質量%であり、より好ましくは0.3〜2質量%であり、さらに好ましくは0.4〜1質量%であり、特に好ましくは0.45〜0.75質量%である。
【0038】
本発明に係るセメント組成物は、上記の成分からなるものであってもよいが、上記成分以外の混合材を含むことができる。上記の成分以外の混合材としては、JIS R 5212「シリカセメント」に規定されるシリカ質混合材、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に規定されるフライアッシュ、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定される石灰石を利用することができる。
【0039】
<セメント組成物の製造方法>
次に、本発明のセメント組成物の製造方法の一例について説明する。下記の製造方法によれば、本発明のセメント組成物を安価かつ効率的に製造することができる。
【0040】
まず、ダストに含まれるEPダストの塩素含有量及び有機炭素含有量を調整する。具体的には、EPダストを水洗して、塩素含有量を0〜0.1質量%に、有機炭素含有量を0〜0.0025質量%に調整する(水洗工程)。ダストが塩素バイパスダストを含む場合、塩素バイパスダストの塩素含有量を3〜40質量%に調整すべく、塩素バイパスダストを水洗してもよい。EPダストや塩素バイパスダストの水洗は、例えば、塩素バイパスダストの水洗設備や、水槽と攪拌設備からなる施設で行うことができる。
【0041】
次いで、高炉スラグとダストとセメントクリンカーと石膏とを混合することで、セメント組成物を得る(混合工程)。このとき、EPダストの含有量が高炉スラグ100質量部に対して0.5〜13質量部となり、得られるセメント組成物中の高炉スラグとダストの合計含有量が60質量%を超えて90質量%以下となり、セメントクリンカーと石膏との合計含有量が10質量%以上40質量%未満となるように、各成分を配合する。ダストが塩素バイパスダストを含む場合、塩素バイパスダストの含有量が高炉スラグ100質量部に対して0.5〜7質量部となるように、各成分を配合する。各成分の種類や配合量の好ましい形態は、前述のとおりである。
【0042】
また、本発明では、セメントクリンカーと石膏との代わりにポルトランドセメントを使用してもよく、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグの代わりに、高炉セメントを使用してもよい。すなわち、本発明の高炉セメント組成物の製造方法は、ポルトランドセメントと高炉スラグとダストとを混合することでセメント組成物を得る工程及び/又は高炉セメントとダストとを混合してセメント組成物を得る工程を含んでいてもよい。
【0043】
セメントクリンカーを製造する工程では、石灰石、硅石、石炭灰、粘土、建設発生土、下水汚泥、銅からみ及び焼却灰からなる群より選ばれる原料を混合し、焼成してセメントクリンカーを製造することができる。
【0044】
セメントクリンカーは、SP方式(多段サイクロン予熱方式)又はNSP方式(仮焼炉を併設した多段サイクロン予熱方式)等の既存のセメント製造設備を用いて、製造することができる。
【0045】
セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとダストとを混合する方法としては、特に制限されるものではなく、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとダストを混合粉砕する方法や、セメントクリンカーと石膏とを混合粉砕後、別粉砕したスラグとダストとを混合する方法等があげられる。
【0046】
なお、本発明に係るセメント組成物に使用される高炉スラグとダストとの混合物を「セメント又はコンクリート用の混合材」と称し、本発明の一実施形態に含まれるものであり、本発明に係るセメント組成物を製造する際に使用することができる。セメント又はコンクリート用の混合材は、前述したブレーン比表面積の条件を満たす微粉末状のものが好ましい。なお、以下では「セメント又はコンクリート用の混合材」を単に「混合材」と呼称する。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明の内容を詳細に説明する。本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、以下において特に断りがない場合は、%は質量%を示す。
【0048】
1.EPダストの水洗
使用したEPダストの化学成分を表1に示す。EPダストに対し、質量で10倍の水を添加し、1時間攪拌した後に吸引ろ過を行うことで、水洗物(水洗したEPダスト)を得た。この水洗物を40℃で乾燥させ、試験に用いた。なお、EPダストの水洗前後の塩素含有量、有機炭素含有量およびブレーン比表面積は、表2に示すとおりである。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
2.セメント組成物の製造
使用した高炉スラグの化学成分、ポルトランドセメントのボーグ鉱物組成、塩素バイパス(BP)ダストの化学成分をそれぞれ表3〜5に示す。なお、ポルトランドセメント中の石膏含有量は2.5質量%、セメントクリンカー含有量は95質量%である。まず、ブレーン比表面積3500cm
2/gに粉砕された高炉スラグに対し、EPダストおよび塩素バイパスダストを表6に示す水準で添加、混合することで、混合材を得た。なお、ダストは高炉スラグに対して外割で添加し、EPダストは水洗前又は水洗後のものを使用した。得られた混合材の含有量が80質量%となるように、混合材とポルトランドセメントとを混合することで、セメント組成物を製造した。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
3.強度発現性の評価
製造したセメント組成物を用いて、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準拠して、モルタル供試体の作製および圧縮強さ(材齢7日、28日)の測定を行った。なお、非水洗のEPダストを5%添加した場合の長期強度発現性の低下に対する改善効果を調べるため、非水洗EPダスト5%添加品(比較例1)を基準とする指数(%)を算出した。なお、モルタル圧縮強さに基づく判定は、材齢28日のモルタル圧縮強さ指数が100%以下の場合を×、100%を超えて110%未満の場合を○、110%以上の場合を◎とした。
【0056】
4.結果
結果を表6に示す。EPダストの水洗の効果に関しては(比較例1、実施例1)、水洗EPダストを添加することで、材齢28日のモルタル圧縮強さは高まることがわかった。また、塩素バイパスダストを添加し、かつ非水洗EPダスト添加した場合、非水洗EPダスト5%添加品(比較例1)に比べて、材齢28日のモルタル圧縮強さは小さくなった(比較例2〜3)。しかしながら、塩素バイパスダストを添加していても水洗したEPダストを添加することで、非水洗EPダスト5%添加品(比較例1)に比べて材齢28日のモルタル圧縮強さは高まることがわかった(実施例2〜8)。また、高炉スラグ100質量部に対するEPダストの添加量が0.5質量部以上4.5質量部未満であり、且つ水洗したEPダストと塩素バイパスダストとの合計添加量が高炉スラグ100質量部に対して6.5質量部以下である場合、特に良好な材齢28日のモルタル圧縮強さが得られた(実施例3、6、7)。
これらの結果から、EPダストを水洗して塩素含有量および有機炭素含有量を制御することで、EPダストの添加によるセメント組成物の長期強度発現性が高まることがわかった。また、今まで課題であった塩素バイパスダストの添加による長期強度の低下についても、水洗したEPダストを添加することで抑制でき、より多くの副産物を利用できることがわかった。
【0057】
【表6】