(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下で、本出願人は先に、上腕用カフに接続され、上腕用カフからの脈波を検出する検出手段が含まれる第1筐体と、足首用カフに接続され、足首用カフからの脈波を検出する検出手段が含まれる第2筐体とで構成される血圧脈波測定装置を提案した(特願2016−052605号)。この血圧脈波測定装置によれば、配管が絡まる不具合を回避できる。例えば、上腕用カフと第1筐体とを接続する配管の長さは2メートルに設定され、足首用カフと第2筐体とを接続する配管の長さは50センチメートルに設定される。これらの配管の長さを基準長としてABI及びPWVの測定アルゴリズムが定義される。
【0008】
ここで、仮に上腕用カフと第1筐体とを接続する配管の長さや足首用カフと第2筐体とを接続する配管の長さを変更する場合には、脈波が配管を伝播するのに要する時間が変わるため、上述したABI及びPWVの測定アルゴリズムも変更しなければならない。このため、設計変更に非常に労力と時間がかかる。
【0009】
そこで、この発明の課題は、ABI及びPWVの測定アルゴリズムを変更することなしに、上肢部用カフと第1筐体とを接続する配管の長さ、および、下肢部用カフと第2筐体とを接続する配管の長さを変更できる血圧脈波測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明の血圧脈波測定装置は、
下肢上肢血圧比及び脈波伝播速度を測定する血圧脈波測定装置であって、
被験者の上肢部を押圧するための第1のカフと、
上記被験者の下肢部を押圧するための第2のカフと、
上記第1のカフに第1の配管を介して接続され、上記第1のカフから上記第1の配管をこの配管の長手方向に伝播してくる第1の脈波を検出する第1の検出部と、
上記第2のカフに第2の配管を介して接続され、上記第2のカフから上記第2の配管をこの配管の長手方向に伝播してくる第2の脈波を検出する第2の検出部と、
上記第1及び第2の脈波を用いて足関節上腕血圧比及び脈波伝播速度をそれぞれ算出する制御部とを備え、
上記第1の配管及び上記第2の配管における長手方向に関して特定の位置に第1及び第2の遅延要素がそれぞれ設けられ、
上記第1の遅延要素は、上記第1の配管の伝達特性を、予め定められた第1基準長を有する配管の伝達特性に一致させるように遅延させ、
上記第2の遅延要素は、上記第2の配管の伝達特性を、予め定められた第2基準長を有する配管の伝達特性に一致させるように遅延させることを特徴とする。
【0011】
本明細書で、脈波伝播速度とは、典型的には、上腕−足首間脈波伝播速度baPWV(brachial-ankle Pulse Wave Velocity)及び心臓−足関節間動脈脈波伝播速度haPWV(heart-ankle Pulse Wave Velocity)を指す。なお、心臓から足首までの動脈の硬さを反映する指標となる心臓足首血管指数(CAVI)(Cardio Ankle Vascular Index)は、心臓−足関節間動脈脈波伝播速度haPWVを対数脈波で補正することにより算出することが可能である。また、下肢上肢血圧比は、典型的には、足関節上腕血圧比ABI(Ankle Brachial Pressure Index)を指す。
【0012】
この発明の血圧脈波測定装置では、第1のカフと第1の検出部との間を接続する第1の配管における長手方向に関して特定の位置に第1の遅延要素が設けられている。また、第2のカフと第2の検出部との間を接続する第2の配管における長手方向に関して特定の位置に第2の遅延要素が設けられている。ここで、第1の遅延要素は、第1の配管の伝達特性を予め定められた第1基準長を有する配管の伝達特性に一致させるように遅延させ、第2の遅延要素は、第2の配管の伝達特性を予め定められた第2基準長を有する配管の伝達特性に一致させるように遅延させる。この構成により、第1基準長、第2基準長を有する配管のために定義されたABI及びPWVの測定アルゴリズムを変更する必要なしに、上肢部用カフと第1筐体とを接続する配管の長さ、および、下肢部用カフと第2筐体とを接続する配管の長さを変更することが可能となる。
【0013】
一実施形態の血圧脈波測定装置では、
上記第1の検出部は第1の筐体内に配置され、上記第2の検出部は第2の筐体内に配置され、
上記第1の遅延要素は、上記第1の筐体内の上記第1の配管の端部に設けられ、
上記第2の遅延要素は、上記第2の筐体内の上記第2の配管の端部に設けられることを特徴とする。
【0014】
この一実施形態の血圧脈波測定装置では、第1の遅延要素を第1の筐体内に設け、第2の遅延要素を第2の筐体内に設けたので、被験者が上腕用及び足首用のカフを被験者の上腕及び足首にそれぞれ装着するときの邪魔にならない。
【0015】
一実施形態の血圧脈波測定装置では、
上記第1の遅延要素及び上記第2の遅延要素は、所定の容量の空気を貯蔵するエアタンクであることを特徴とする。
【0016】
この一実施形態の血圧脈波測定装置では、既存の製品に簡単に取り付けることができかつ小型化が容易である。
【発明の効果】
【0017】
以上より明らかなように、この発明の血圧脈波測定装置によれば、第1基準長、第2基準長を有する配管のために定義されたABI及びPWVの測定アルゴリズムを変更する必要なしに、上肢部用カフ及び下肢部用カフに接続される各配管の長さを容易に変更することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0020】
実施形態.
図1は本発明の実施形態に係る血圧脈波測定装置100が使用される態様を示す斜視図である。この血圧脈波測定装置100は、第1の筐体であるメインユニット101と、第2の筐体であるアンクルユニット102と、4つのカフ24ar,24al,24br,24blとを含んでいる。
【0021】
図1に示すように、収納ワゴン300は、キャスター付きの脚301と、この脚301に立設された支柱302と、支柱302の先端に取り付けられた載置台303と、支柱302の途中に取り付けられ、上方に向かって開口した収納ボックス304とを含んでいる。載置台303には、メインユニット101が載置されている。収納ボックス304には、アンクルユニット102と、右足首(右下肢)、左足首(左上肢)用のカフ24ar,24alが収容される。右上腕(右上肢)、左上腕(左上肢)用のカフ24br,24blは、メインユニット101の後部に設けられたフック101e,101fに引っ掛けられて保持される。
【0022】
メインユニット101と右上腕(右上肢)、左上腕(左上肢)用のカフ24br,24blとは、カフ加圧用の空気を通すための第1の配管としての配管22br,22blによって接続されている。さらに、所定の第1容量の空気を貯蔵するエアタンク50br,50blは、配管22br,22blの長手方向に関して特定の位置において配管51br,51blを介してそれぞれ接続されている。ここで、配管22brの長さと配管22blの長さとは略同一であり、配管51brの長さと配管51blの長さは略同一である。ここで、エアタンク50br,50blはメインユニット101とカフ24br,24blとを接続する配管22br,22blの流体伝達特性が予め定められた第1基準長を有する配管の流体伝達特性と一致するように配管22br,22blのいずれかの位置に遅延要素としてそれぞれ設けられている。この例では、第1基準長は2メートルに設定されている。
【0023】
同様に、アンクルユニット102と、右足首(右下肢)、左足首(左上肢)用のカフ24ar,24alとは、カフ加圧用の空気を通すための第2の配管としての配管22ar,22alによって接続されている。さらに、所定の第2容量の空気を貯蔵する空気室であるエアタンク50ar,50alは、配管22ar,22alの長手方向に関して特定の位置において配管51ar,51alを介してそれぞれ接続されている。ここで、配管22arの長さと配管22alの長さとは同一であり、配管51arの長さと配管51alの長さは同一である。ここで、エアタンク50ar,50alはアンクルユニット102とカフ24ar,24alとを接続する配管22ar,22alの流体伝達特性が予め定められた第2基準長を有する配管の流体伝達特性と一致するように配管22ar,22alのいずれかの位置に遅延要素としてそれぞれ設けられている。この例では、第2基準長は50センチメートルに設定されている。
【0024】
また、メインユニット101は、アンクルユニット102に対して、接続ケーブル23によって電力供給および通信可能に接続されている。
【0025】
図1に示すように、被験者200はベッド310上に仰向けに横たわっている。アンクルユニット102は、収納ボックス304から取り出され、被験者200の右足首と左足首との間のベッド310上に載置されている。
【0026】
カフ24ar,24al,24br,24blは、それぞれ被験者200の肢部に装着される。具体的には、それぞれ、右足首(右下肢)、左足首(左上肢)、右上腕(右上肢)、左上腕(左上肢)に装着される。
【0027】
なお、以下の説明では、専ら、右足首、左足首、右上腕、左上腕に装着される例について説明する。ただし、「肢部」とは、四肢に含まれる部位を表わし、手首や指尖部などであってもよい。カフ24ar,24al,24br,24blは、特に区別する必要がない限り、これらを総称して、「カフ24」と呼ぶ。
【0028】
図2は
図1の血圧脈波測定装置100の内部の制御系の構成を概略的に示すブロック図である。
図2に示すように、アンクルユニット102は、2つの検出ユニット20ar,20alを含む。メインユニット101は、情報処理ユニット1と、2つの検出ユニット20br,20blとを含む。
【0029】
検出ユニット20ar,20al,20br,20blは、それぞれ、被験者200の肢部の脈波を検出するために必要なハードウェアを含む。検出ユニット20ar,20al,20br,20blの構成は全て同様であってよいので、特に区別する必要がない限り、これらを総称して、「検出ユニット20」と呼ぶ。
【0030】
情報処理ユニット1は、制御部2と、出力部4と、操作部6と、記憶装置8とを含む。
【0031】
制御部2は、血圧脈波測定装置100全体の制御を行う装置であり、代表的に、CPU(Central Processing Unit)10と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)14とを含むコンピュータで構成される。
【0032】
CPU10は、演算処理部に相当し、ROM12に予め格納されているプログラムを読出して、RAM14をワークメモリとして使用しながら、当該プログラムを実行する。
【0033】
また、制御部2には、出力部4、操作部6および記憶装置8が接続されている。出力部4は、測定された脈波や脈波解析結果などを出力する。出力部4は、LED(Light Emitting Diode)またはLCD(Liquid Crystal Display)などで構成される表示デバイスであってもよいし、プリンタ(ドライバ)であってもよい。この例では、
図1中に示すように、メインユニット101の上面に、出力部4としてLCDの表示画面40が設けられている。
【0034】
図2中に示す操作部6は、ユーザからの指示を受付ける。この例では、
図1中に示すように、メインユニット101の上面に、操作部6として操作スイッチ60が設けられている。ユーザは操作スイッチ60によって電源オン、オフ、血圧測定開始などの指示を入力することができる。
【0035】
図2中に示す記憶装置8は、各種データやプログラムを保持する。制御部2のCPU10は、記憶装置8に記録されたデータやプログラムの読み出しや書き込みを行う。記憶装置8は、たとえば、ハードディスク、不揮発性メモリ(たとえば、フラッシュメモリ)、あるいは、着脱可能な外部記録媒体などにより構成されてよい。
【0036】
次に、各検出ユニット20の構成について具体的に説明する。
【0037】
検出ユニット20brは、カフ24brに配管22brを介して接続され、配管22brを伝播してくる脈波を検出する検出部である。詳細には、検出ユニット20brは、被験者200の右上腕に装着されたカフ24brの内圧(以下、「カフ圧」という)の調整および検出を行うことで、右上腕における脈波を検出する。カフ24brは、図示のない流体袋(この例では、空気袋)を内包している。
【0038】
検出ユニット20brは、圧力センサ28brと、カフ駆動部31brと、A/D(Analog to Digital)変換部29brとを含む。カフ駆動部31brは、配管22brを介してカフ24brに空気を送り込み、カフ24brを加圧する。また、カフ駆動部31brは、調整弁26brと、圧力ポンプ25brと、調整弁26brと圧力ポンプ25brとを接続する配管27brとを含む。カフ24brと、圧力センサ28br,調整弁26brとは、配管22brによって接続されている。ここで、配管22brのカフ24br側の端部には配管51brを介してエアタンク50brが接続されている。
【0039】
圧力センサ28brは、配管22brを介して伝達される圧力変動を検出するための検出部位であり、一例として、単結晶シリコンなどからなる半導体チップに所定間隔に配列された複数のセンサエレメントを含む。圧力センサ28brによって検出された圧力変動信号は、A/D変換部29brによってデジタル信号に変換されて、脈波信号pbr(t)として制御部2に入力される。
【0040】
調整弁26brは、圧力ポンプ25brとカフ24brとの間に介挿され、測定時にカフ24brの加圧に用いられる圧力を所定の範囲に維持する。圧力ポンプ25brは、制御部2からの検出指令に応じて作動し、カフ24brを加圧するためにカフ24br内の流体袋(図示せず)に空気を供給する。
【0041】
この加圧によって、カフ24brは測定部位に押圧され、右上腕の脈波に応じた圧力変化がそれぞれ配管22brを介して検出ユニット20brへ伝達される。検出ユニット20brは、この伝達される圧力変化を検出することで、右上腕の脈波を検出する。
【0042】
検出ユニット20blも同様に、圧力センサ28blと、カフ駆動部31blと、調整弁26blと、圧力ポンプ25blと、A/D変換部29blとを含む。カフ駆動部31blは、配管22blを介してカフ24blに空気を送り込み、カフ24blを加圧する。また、カフ駆動部31blは、調整弁26blと、圧力ポンプ25blと、調整弁26blと圧力ポンプ25blとを接続する配管27blとを含む。カフ24blと、圧力センサ28bl,調整弁26blとは、配管22blによって接続されている。ここで、配管22blのカフ24bl側の端部には配管51blを介してエアタンク50blが接続されている。
【0043】
また、検出ユニット20arは、圧力センサ28arと、カフ駆動部31arと、調整弁26arと、圧力ポンプ25arと、A/D変換部29arとを含む。カフ駆動部31arは、配管22arを介してカフ24arに空気を送り込み、カフ24arを加圧する。また、カフ駆動部31arは、調整弁26arと、圧力ポンプ25arと、調整弁26arと圧力ポンプ25arとを接続する配管27arとを含む。カフ24arと、圧力センサ28ar,調整弁26arとは、配管22arによって接続されている。ここで、配管22arのカフ24ar側の端部には配管51arを介してエアタンク50arが接続されている。
【0044】
検出ユニット20alも同様に、圧力センサ28alと、カフ駆動部31alと、調整弁26alと、圧力ポンプ25alと、A/D変換部29alとを含む。カフ駆動部31alは、配管22alを介してカフ24alに空気を送り込み、カフ24alを加圧する。また、カフ駆動部31alは、調整弁26alと、圧力ポンプ25alと、調整弁26alと圧力ポンプ25alとを接続する配管27alとを含む。カフ24alと、圧力センサ28al,調整弁26alとは、配管22alによって接続されている。ここで、配管22alのカフ24al側の端部には配管51alを介してエアタンク50alが接続されている。
【0045】
検出ユニット20bl,20ar,20al内の各部の機能は、検出ユニット20brと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。また、検出ユニット20内の各部についても、特に区別する必要がない限り、“ar”,“br”などの記号は省略して説明する。
【0046】
この血圧脈波測定装置100は、制御部2(特にCPU10)による制御によって、後述する
図3Aの処理フローに示すように、公知のオシロメトリック法による血圧値測定を行う。また、脈波検出を行って、脈波伝播速度として上腕−足首間脈波伝播速度baPWV(brachial-ankle Pulse Wave Velocity)及び心臓−足関節間動脈脈波伝播速度haPWV(heart-ankle Pulse Wave Velocity)を求めるとともに、下肢上肢血圧比として足関節上腕血圧比ABI(Ankle Brachial Pressure Index)を求める。すなわち、制御部2は、各検出ユニット20br,20bl,20al,20arにより検出された脈波を用いて足関節上腕血圧比(ABI)及び脈波伝播速度(PWV)を算出する。知られているように、上腕−足首間脈波伝播速度baPWVは血管の硬さを示す指標であり、また、足関節上腕血圧比ABIは血管の詰まりを示す指標である。
【0047】
以上のように構成された血圧脈波測定装置100の動作について以下に説明する。
【0048】
図3Aは
図1の血圧脈波測定装置100が実行する下肢上肢血圧比及び脈波伝播速度測定処理を示すフローチャートであり、
図3Bは
図1の血圧脈波測定装置100の圧力センサによって検出される脈波波形を示す図である。具体的には、測定を開始すると、
図3AのステップS1に示すように、各検出ユニット20内のポンプ25を駆動して、各カフ24の昇圧を開始する。
【0049】
そして、ステップS2に示すように、圧力センサ28でカフ圧を監視しながら、カフ圧を所定の圧力(被験者200の最高血圧より高い圧力)まで加圧してポンプ25を停止する(カフ昇圧完了)。次に、ステップS3に示すように、調整弁26を制御して、各カフ24の降圧を開始し、カフ圧を徐々に減圧してゆく。この減圧過程において、測定部位の動脈で発生する動脈容量の変動を各カフ24を介して、圧力センサ28で脈波信号として検出する。
【0050】
そして、ステップS4に示すように、この脈波信号の振幅に基づいて、公知のオシロメトリック法による所定のアルゴリズムを適用して最高血圧(収縮期血圧:Systolic Blood Pressure)と最低血圧(拡張期血圧:Diastolic Blood Pressure)とを算出する(血圧測定)。これとともに、CPU10が下肢上肢血圧比取得部として働いて、被験者200の左半身、右半身について、それぞれ足関節上腕血圧比ABI=(足関節収縮期血圧)/(上腕収縮期血圧)を算出する。また、この例では、脈拍(単位;拍/分)も算出する。なお、血圧の算出は、減圧過程に限らず、加圧過程において行われてもよい。
【0051】
次に、ステップS5に示すように、調整弁26を閉鎖して、カフ圧を規定圧(例えば50mmHg程度)に保持する。この状態で、ステップS6に示すように、CPU10が脈波伝播速度取得部として働いて、圧力センサ28によって脈波を測定する。このとき、例えば
図3Bに示すような脈波波形が得られる。この例では、被験者200の右上腕の波形の立ち上がりに対する左足関節の波形の立ち上がりの遅れがΔTlになっている。また、被験者200の右上腕の波形の立ち上がりに対する右足関節の波形の立ち上がりの遅れがΔTrになっている。この遅れΔTl、ΔTrに基づいて、被験者200の右上腕−左足関節間、右上腕−右足関節間について、それぞれ上腕−足首間脈波伝播速度baPWVを次式により算出する。
baPWV=(La−Lb)/ΔT
ここで、Laは大動脈起始部から足関節までの距離を表し、また、Lbは大動脈起始部から上腕までの距離を表している。ΔTは、ΔTlまたはΔTrを表している(簡単のため、“l”,“r”の記号を省略している)。ΔTl、ΔTrを用いて算出される上腕−足首間脈波伝播速度baPWVを、それぞれ左半身についての上腕−足首間脈波伝播速度baPWV、右半身についての上腕−足首間脈波伝播速度baPWVと呼ぶ。
【0052】
測定が完了すると、
図3AのステップS7に示すように、調整弁26を全開してカフ圧を開放する。そして、ステップS8に示すように、CPU10が表示処理部として働いて、メインユニット101の上面に設けられた表示画面40(
図1参照)に測定結果を表示する。
【実施例】
【0053】
実施例1.
先ず、配管22brの長さが第1基準長である2メートルに対して、それよりも短縮された1.1メートルであるときの配管22brの流体伝達特性の変化について以下に説明する。
【0054】
図4Aは
図1のエアタンク50brの容量を0ccに設定したときの
図1の配管22brの周波数に対するゲインの変化を示す流体伝達特性に関するグラフであり、
図4Bは
図1のエアタンク50brの容量を0ccに設定したときの
図1の配管22brの周波数に対する位相の変化を示す流体伝達特性に関するグラフである。
図4A,
図4Bでは、配管22brの長さが2メートル(基準長)に設定されたときの配管22brの流体伝達特性が実線で示され、配管22brの長さが1.1メートルに設定されたときの配管22brの流体伝達特性が点線で示されている。
図4Aに示すように、周波数26(Hz)のときに生じていたゲインのピークが周波数40(Hz)にずれていることが分かる。また、
図4Bに示すように、配管22brの長さが2メートル(基準長)に設定されたときの位相の変化を示す曲線と、配管22brの長さが1.1メートルに設定されたときの位相の変化を示す曲線とにずれが生じていることが分かる。
【0055】
すなわち、
図4A,
図4Bに示すように、配管22brの長さを基準長から変更(短縮)することにより、配管22brの流体伝達特性にずれが生じることが分かる。なお、配管22bl,22ar,22alについても同様である。
【0056】
ここで、本発明では、各配管22br,22bl,22ar,22alに所定の容量を有したエアタンクをそれぞれ設けることにより、上述したずれを補正している。この構成により、長さが変更された配管22brを用いて測定されたデータに対して、基準長を有する配管22brのために定義された測定アルゴリズムを用いてABI及びPWVを測定したとしても誤差が生じない。なお、配管22bl,22ar,22alについても同様である。
【0057】
次に、配管22brに設けられたエアタンク50brの容量の設定の仕方を以下に説明する。
【0058】
図5は
図1の配管22brの短縮長ΔL(cm)と、その短縮長ΔL(cm)に起因したずれ(
図4A及び
図4Bで説明したずれ)を補正するのに必要とされるエアタンク容量(cc)との関係を示すグラフである。ここで、短縮長ΔLとは、基準長から短くなった長さのことをいう。
図5では、
図4A,
図4Bで説明したずれを補正するのに必要とされるエアタンクの容量を示している。本実施例では、配管22brの短縮長ΔLは90(センチメートル)(=2(メートル)−1.1(メートル))である。したがって、
図5を参照すると、エアタンク50brの容量は11.3(cc)に設定される。以下に、エアタンク50brの容量を11.3(cc)に設定した場合の効果について説明する。なお、エアタンク50blについても同様である。
【0059】
図6Aは
図1のエアタンク50brの容量を11.3ccに設定したときの
図1の配管22brの周波数に対するゲインの変化を示す流体伝達特性に関するグラフであり、
図6Bは
図1のエアタンク50brの容量を11.3ccに設定したときの
図1の配管22brの周波数に対する位相の変化を示す流体伝達特性に関するグラフである。
図6A,
図6Bでは、配管22brの長さが2メートル(基準長)に設定されたときの配管22brの流体伝達特性が実線で示され、配管22brの長さが1.1メートルに設定されたときの配管22brの流体伝達特性が点線で示されている。
図6Aに示すように、周波数26(Hz)のときに生じていたゲインのピークにずれが生じていないことが分かる。また、
図6Bに示すように、配管22brの長さが2メートル(基準長)に設定されたときの位相の変化を示す曲線と、配管22brの長さが1.1メートルに設定されたときの位相の変化を示す曲線とが略一致していることが分かる。すなわち、エアタンク50brは、メインユニット101とカフ24brとを接続する配管22brの流体伝達特性が基準長を有する配管の流体伝達特性と一致するように遅延要素として働いている。したがって、長さが変更された配管22brを用いて測定されたデータに対して、基準長を有する配管のために定義された測定アルゴリズムを用いてABI及びPWVを測定したとしても誤差が生じないことが理解できる。
【0060】
なお、配管22bl,22ar,22alについても同様である。
【0061】
上述したように、エアタンク50ar,50alは、アンクルユニット102とカフ24ar,24alとを接続する配管22ar,22alの流体伝達特性が基準長を有する配管の流体伝達特性と一致するように配管22ar,22alの長手方向の特定の位置に遅延要素としてそれぞれ設けられている。また、エアタンク50br,50blは、メインユニット101とカフ24br,24blとを接続する配管22br,22blの流体伝達特性が基準長を有する配管の流体伝達特性と一致するように配管22br,22blの長手方向の特定の位置に遅延要素としてそれぞれ設けられている。
【0062】
次に、配管22ar,22alの短縮長ΔLは15(センチメートル)(=50(センチメートル)−35(センチメートル))である。したがって、
図5を参照すると、エアタンク50ar,50alの容量は1.9(cc)にそれぞれ設定される。この効果については上述したエアタンク50arの効果と同様である。なお、本実施例では、エアタンク50ar,50alの容量は非常に小さいので省略することも可能である。
【0063】
変形例.
図7は本発明の実施形態の変形例に係る血圧脈波測定装置100Aの内部の制御系の構成を概略的に示すブロック図である。本変形例に係る血圧脈波測定装置100Aは、
図2の血圧脈波測定装置100と比較すると、エアタンク50ar,50al,50br,50bl及び配管51ar,51al,51br,51blの代わりに、メインユニット101内の配管22br,22blの端部に設けられたエアタンク50Abr,50Ablと
、アンクルユニット102内の配管22ar,22alの端部に設けられるエアタンク50Aar,50Aalとを備えたことが相違する。
【0064】
以上の変形例に係る血圧脈波測定装置100Aによれば、上述した実施形態と同様の動作及び作用効果を得ることができる。さらに、上述した実施形態と比較すると、各エアタンクをメインユニット101もしくはアンクルユニット102の内部に設けたので、被験者が上腕用及び足首用のカフを被験者の上腕及び足首にそれぞれ装着するときの邪魔にならない。
【0065】
なお、上述の実施形態において、制御部2は、心臓−足関節間動脈脈波伝播速度haPWVに基づいてCAVI(Cardio Ankle Vascular Index)などの指標を算出してもよい。また、上述の実施形態では、カフ24ar,24al,24br,24blが、専ら、右足首、左足首、右上腕、左上腕に装着される例について説明した。しかしながら、これに限られるものではない。カフ24ar,24al,24br,24blが装着される被測定部位は、手首や指尖部などであってもよい。
【0066】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。