(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記巻込み工程では、前記端末部を前記巻込み機構により前記境界面に直交する方向へ押して、同端末部を、前記基材の前記境界面を含む裏面に密着するように変形させることで、前記端末部を巻込む請求項1に記載の表皮付き製品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載された製造方法では、表皮の端末部を巻込むための専用の治具を導入するのに費用がかかる。また、表皮の端末部を巻込む際に、トリミング工程を経た中間製品を真空成形型から治具に載せ替える工程が必要となり、その分、製造工数が増える問題もある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、トリミング工程を経た中間製品を載せ替えることなく、表皮の端末部を基材に巻込むことのできる表皮付き製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する表皮付き製品の製造方法は、表皮の主要部が基材の表面に被せられ、かつ前記表皮における前記主要部の周囲の端末部が前記基材の裏面側に巻込まれてなる表皮付き製品を製造する方法であって、予め成形された基材を、その基材の裏面において真空成形型に装着するとともに、前記基材の表面側に、前記表皮の材料である表皮材を配置した後、前記真空成形型及び前記基材を通じて前記表皮材を吸引することで、同表皮材の前記主要部を前記基材の表面に密着するように変形させる賦形工程と、前記賦形工程を経た後に、前記基材を前記真空成形型に装着された状態に維持しつつ、前記表皮材のうち前記基材の表面に密着していない余剰部分を、前記主要部の周囲に前記端末部が残るようにトリム刃で切断することにより、前記端末部を有する前記表皮を形成するトリミング工程と、前記トリミング工程を経た後に、前記基材を前記真空成形型に装着された状態に維持しつつ、前記表皮の前記端末部を巻込み機構により前記基材の裏面側に巻込む巻込み工程とを備える。
【0009】
上記の製造方法によれば、真空成形型を用いて賦形工程及びトリミング工程が順に実施された後、巻込み工程が上記真空成形型を用いて実施されることにより、表皮の主要部が基材の表面に被せられ、かつ同表皮の端末部が同基材の裏面側に巻込まれてなる表皮付き製品が製造される。このように、賦形工程、トリミング工程及び巻込み工程は、基材が真空成形型に装着された状態で、表現を変えると、共通の真空成形型を用いて実施される。そのため、巻込み工程が、真空成形型とは別に設けられた専用の治具を用いて実施される場合とは異なり、専用の治具が不要となる。また、端末部の巻込みのために、トリミング工程を経た中間製品を、真空成形型から専用の治具に載せ替えなくてもすむ。
【0010】
上記表皮付き製品の製造方法において、前記基材として、裏面が表面との境界部分に平坦な境界面を有するものを用い、前記トリム刃として、前記境界面に沿う方向へ往復動し得るものを用い、前記トリミング工程では、前記トリム刃を前記境界面に沿って前記余剰部分に近づく側へ移動させて前記余剰部分に押付けることにより切断を行なうことが好ましい。
【0011】
ここで、トリミング工程において、仮に、トリム刃を基材の境界面に対し直交する方向へ移動させることにより、余剰部分を、主要部の周囲に端末部が残るように切断すると、その端末部は、主要部に隣接し、かつ上記境界面に直交する部分と、その部分に対し主要部とは反対側に隣接し、かつ上記境界面に平行な部分とによって構成される。この平行な部分の分、端末部が長くなり、その結果、端末部が過渡に長くなるおそれがある。
【0012】
この点、上記の製造方法によれば、トリム刃として、基材の境界面に沿う方向へ往復動し得るものが用いられる。そして、トリミング工程では、トリム刃が境界面に沿って余剰部分に近づく側へ移動させられて、その余剰部分に押付けられる。余剰部分が切断されて、主要部の周囲に端末部が残る。この端末部は、主要部に隣接し、かつ上記境界面に直交する部分のみによって構成される。従って、端末部には、上記境界面に平行な部分がなく、その分、端末部が短くなる。その結果、端末部が過渡に長くなるのを抑制することが可能となる。
【0013】
上記表皮付き製品の製造方法において、前記基材の周縁部は、複数の直線部分と、隣り合う前記直線部分を繋ぎ、かつ前記直線部分の長さよりも短い周長を有する湾曲状の複数のコーナ部分とにより構成されており、前記トリム刃として、前記表皮材の前記余剰部分のうち、前記基材の前記直線部分に対応する箇所を切断する第1トリム刃と、前記基材のコーナ部分に対応する箇所を切断する第2トリム刃とを用い、前記トリミング工程では、真空引きにより前記表皮材を吸引しながら、前記第2トリム刃による前記余剰部分の切断を行なった後に、前記第1トリム刃による前記余剰部分の切断を行なうことが好ましい。
【0014】
ここで、第1トリム刃による余剰部分の切断と、第1トリム刃に隣接する第2トリム刃による余剰部分の切断とが同時に行なわれると、第1トリム刃と第2トリム刃とが接近して干渉し合うおそれがある。
【0015】
この点、上記の製造方法によれば、第1トリム刃による切断と、第2トリム刃による切断とがタイミングをずらして行なわれる。そのため、第1トリム刃と第2トリム刃との干渉が起りにくい。
【0016】
また、上記の切断は、真空引きにより表皮材が吸引されて、余剰部分が基材の裏面側に引張られた状態で行なわれる。
しかし、真空引きされながら余剰部分が切断されると、その切断された箇所から少なからず空気が吸引される。余剰部分を基材の裏面側に引張る力が切断前よりも低下し、余剰部分が、真空引きにより引張られる前の形状に戻ろうとする。
【0017】
切断された箇所の長さが長くなるほど、吸引される空気の量が多くなり、余剰部分を基材の裏面側に引張る力の低下度合いが大きくなる。切断される箇所の長さは、余剰部分のうち、基材のコーナ部分に対応する箇所において、直線部分に対応する箇所よりも短い。前者の箇所の切断は第2トリム刃によって先に行なわれ、後者の箇所の切断は第1トリム刃によって後で行なわれる。従って、余剰部分の切断が完了するまでに、余剰部分を基材の裏面側に引張る力は、第1トリム刃による切断を先に行ない、かつ第2トリム刃による切断を後で行なう場合に比べて、低下しにくくなる。余剰部分は、真空引きにより引張られる前の形状に戻りにくくなる。これに伴い、余剰部分を切断することにより形成される端末部もまた、基材の裏面に近づく。
【0018】
そのため、トリミング工程に続けて行なわれる巻込み工程では、表皮の端末部が巻込み機構により基材の裏面側に好適に巻込まれる。
上記表皮付き製品の製造方法において、前記巻込み工程では、前記端末部を前記巻込み機構により前記境界面に直交する方向へ押して、同端末部を、前記基材の前記境界面を含む裏面に密着するように変形させることで、前記端末部を巻込むことが好ましい。
【0019】
上記の製造方法によれば、巻込み工程では、基材が真空成形型に装着された状態で、表皮の端末部が、巻込み機構により、基材の境界面に直交する方向へ押される。押された端末部は、基材の境界面を含む裏面に密着するように変形させられる。このようにして、トリミング工程を経た中間製品が載せ替えられることなく、表皮の端末部が基材の裏面側に巻込まれる。
【0020】
上記表皮付き製品の製造方法において、前記巻込み工程は、前記基材の裏面のうち少なくとも前記端末部が巻込まれる予定の箇所に接着剤を塗布した状態で行なうものであり、前記巻込み工程では、前記巻込み機構により前記端末部を押して巻込む動作を、その押す方向へ前記基材が動くのを規制した状態で行なうことが好ましい。
【0021】
ここで、巻込み機構により押された端末部を、接着剤の塗布された基材の裏面に強固に接着させるためには、その端末部が基材に強く押付けられることが重要である。
この点、上記の製造方法によれば、基材は、巻込み機構により端末部を押す方向へ動くことを規制される。端末部は、この状態で巻込み機構により押されるため、基材に強く押付けられる。その結果、端末部は基材の裏面に強固に接着(圧着)される。
【0022】
上記表皮付き製品の製造方法において、前記基材として、前記裏面のうち前記端末部が密着される箇所とは異なる箇所にリブが形成されたものを用い、前記巻込み工程では、前記真空成形型に設けられたチャック機構により前記リブを掴むことで、前記巻込み機構により前記端末部が押される方向へ前記基材が動くのを規制し、この状態で、前記端末部を押して巻込むことが好ましい。
【0023】
上記の製造方法によれば、巻込み工程では、基材の裏面のうち端末部が密着される箇所とは異なる箇所に形成されたリブが、真空成形型に設けられたチャック機構によって掴まれる。基材は、巻込み機構により端末部が押される方向へ動くことを規制される。
【0024】
上記表皮付き製品の製造方法において、前記巻込み機構として、前記真空成形型の一部をなし、かつ前記境界面に対し直交する方向へ往復動し得るプラグを備えるものを用い、前記賦形工程では、前記プラグを、前記基材を裏面側から支える箇所まで移動させ、前記トリミング工程では、前記プラグを前記トリム刃の移動経路から外れた箇所まで後退させ、前記巻込み工程では、前記プラグを、前記基材を裏面側から支える箇所まで移動させることが好ましい。
【0025】
上記の製造方法によれば、真空成形型のうちプラグとは異なる部分(残部)は、賦形工程、トリミング工程及び巻込み工程のいずれにおいても、基材をその裏面側から支える。
また、真空成形型及び巻込み機構のそれぞれの一部をなすプラグは次のように作動する。
【0026】
賦形工程では、プラグは基材を裏面側から支える箇所まで移動させられる。そのため、基材を、真空成形型のプラグと上記残部とに対し装着することが可能となる。
トリミング工程では、基材が真空成形型の上記残部に装着された状態で、プラグがトリム刃の移動経路から外れた箇所まで後退させられる。そのため、プラグは、トリム刃による余剰部分の切断の妨げとなりにくい。
【0027】
巻込み工程では、プラグが、真空成形型の上記残部に装着された基材を裏面側から支える箇所まで移動させられる。この移動の際、表皮の端末部がプラグによって基材の裏面側に押し込まれることで、巻込みが行なわれる。
【0028】
上記表皮付き製品の製造方法において、前記トリム刃として、列をなすように並べられた複数の歯を有し、かつ各歯の先端部が尖り、さらに、隣り合う歯間の谷部が、刃の角度が一様となるように湾曲した状態に形成されたものを用い、前記トリミング工程では、前記トリム刃の各歯を前記余剰部分に押付けることで切断を行なうことが好ましい。
【0029】
ここで、仮に、トリム刃として、先端の尖った三角形の板状をなす複数の歯が列をなすように並べられた状態で形成されていて、各歯の谷部における刃の角度が歯の根元部分に近づくに従い大きくなるものが用いられた場合、次の懸念がある。それは、各歯が表皮材の余剰部分に押付けられると、表皮を切断しながら各歯が進入するところ、谷部では、歯の根元部分に近づくに従い余剰部分が切断されにくくなって引きちぎられて、屑が発生するおそれがあることである。
【0030】
この点、上記の製造方法によれば、トリミング工程において、上記構成を有するトリム刃が用いられて、各歯が余剰部分に押付けられる。すると、谷部では、刃の角度が一様であるため、余剰部分が歯の部位によらず一様に切断される。余剰部分が引きちぎられることなく、主要部の周囲に端末部を残した状態で余剰部分がきれいに切断される。余剰部分が引きちぎられることが原因で屑が発生することが起りにくい。
【発明の効果】
【0031】
上記表皮付き製品の製造方法によれば、トリミング工程を経た中間製品を載せ替えることなく、表皮の端末部を基材に巻込むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、表皮付き製品の製造方法の第1実施形態について、
図1〜
図9を参照して説明する。
【0034】
<表皮付き製品について>
最初に、第1実施形態の製造方法によって製造される表皮付き製品について説明する。
図1(a)〜(c)に示すように、表皮付き製品11は、骨格部分をなす基材12に、装飾性及び手触り感の良好な表皮21を被せて一体化したものである。
【0035】
基材12の大部分を占める本体部13は、その中央部分が周辺部分よりも表側(
図1(a)の上側)へ多く膨出するように緩やかに湾曲している。基材12は、上記本体部13の周りに周縁部14を有している。周縁部14は、基材12の裏側(
図1(a)の下側)へ向けて湾曲されている。周縁部14は、複数の直線部分15と、隣り合う直線部分15間に位置して両直線部分15を繋ぐ複数のコーナ部分16とを有している。
【0036】
基材12は、表面17及び裏面18を有している。裏面18は、表面17との境界部分に、平坦な境界面18aを有している。境界面18aは、基材12の周縁部14のうち、本体部13から最も遠ざかった箇所に位置している。
【0037】
基材12としては、非通気性素材であって、バキューム孔が開設されているものや、木質系材料等の通気性を有する材料によって形成されたものが用いられる。
表皮21は、その大部分を占める主要部22と、主要部22の周囲の端末部23とからなる。上記主要部22は基材12の表面17に被せられ、端末部23は基材12の裏面18側に巻込まれている。
【0038】
上記表皮21としては、非通気性の合成樹脂シート、あるいは非通気性の合成樹脂シートの裏面にクッション層を裏打ちした素材が用いられる。例えば、TPO(サーモプラスチックオレフィン)シートの裏面にポリエチレンフォームが裏打ちされていて、ソフト感に優れた積層シート材料が挙げられる。
【0039】
こうした構成を有する表皮付き製品11としては、例えば、ドアトリム等の自動車用内装部品が挙げられる。
<製造装置30について>
次に、上記表皮付き製品11の製造に用いられる製造装置30について説明する。
【0040】
図2に示すように、製造装置30は、真空吸引機構(図示略)を有する真空成形型31と、その真空成形型31の上方において昇降可能に配置された上型41とを備えている。
真空成形型31の上部には、上記基材12の裏面18に対応した形状を有する突部32a,32bが形成されている。これらの突部32a,32bは、賦形工程に際し、基材12が装着される箇所である。真空成形型31には、表皮21の端末部23を基材12の裏面18側に巻込むための巻込み機構35が設けられている。巻込み機構35は、真空成形型31の一部をなし、かつ上記基材12の境界面18aに対し直交する方向である上下方向へ往復動し得るプラグ36を備えている。プラグ36は、上端部に上記突部32bを有している。真空成形型31のうち、プラグ36とは異なる箇所を残部37というものとすると、この残部37の一部は、自身の上端部に上記突部32aを有している。上記残部37において、突部32aの下方であって、後述するトリム刃46の移動経路上となる箇所には、切断用溝部38が形成されている。
【0041】
図2及び
図5に示すように、上型41の下部には、上記基材12の表面17に対応した形状を有する凹部42が形成されている。上型41には、上記表皮21の材料である表皮材20のうち基材12の表面17に密着していない余剰部分24を、同表皮材20の主要部22の周囲に端末部23が残るように切断するための切断機構45が設けられている。切断機構45は、基材12の周縁部14(
図1(c)参照)に沿って配置され、かつ同基材12の境界面18aに沿う方向(
図2、
図5の各左右方向)へ往復動し得る複数のトリム刃46を備えている。各トリム刃46の往復動は、エアシリンダ等のアクチュエータによりなされる。
【0042】
図4(a),(b)に示すように、各トリム刃46は、列をなすように並べられた複数の歯47を有している。各歯47の先端部48は尖っている。隣り合う歯47間の谷部49は、刃の角度θ2が、先端部48における刃の角度θ1と同程度で、しかも谷部49の部位によらず一様となるように湾曲した状態に形成されている。
【0043】
さらに、
図3に示すように、製造装置30は、表皮材20を把持した状態で昇降するクランプ枠51を備えている。
次に、第1実施形態の作用として、上記製造装置30を用いて表皮付き製品11を製造する方法について、効果とともに説明する。
【0044】
この方法の実施に際しては、賦形工程、トリミング工程及び巻込み工程が順に行なわれる。次に、各工程について説明する。
<賦形工程>
図2に示すように、賦形工程の実施に先立ち、予め所定の形状に成形された基材12が準備される。この基材12において、表皮21が被せられる予定の箇所に接着剤が塗布される。また、加熱されることにより軟化した表皮材20が準備される。
【0045】
上型41が上昇させられて、真空成形型31から上方へ離間させられる。プラグ36が、基材12を裏面18側から支える箇所まで移動させられて、プラグ36における突部32bの高さが、真空成形型31の残部37における突部32aの高さに揃えられる。この高さとは、突部32bの上端面が突部32aの上端面に連続する高さである。
【0046】
上記基材12が、その裏面18において、上記のように高さの揃えられた突部32a,32bに装着される。基材12は、真空成形型31におけるプラグ36及び残部37によって裏面18側から支えられた状態となる。
【0047】
表皮材20が、基材12の表面17側に配置される。
図3に示すように、表皮材20を把持した状態のクランプ枠51が下降されることにより、表皮材20が真空成形型31の残部37のうち、突部32a,32bの周囲であって、それらよりも低い箇所に押付けられる。また、上型41が、
図2における二点鎖線の矢印で示す方向へ移動(下降)される。
【0048】
そして、
図3に示すように、真空吸引機構が作動させられることにより、真空成形型31及び基材12を通じて表皮材20が吸引されることで、すなわち、基材12と表皮材20との間にある空気が排出されることで、同表皮材20の主要部22が基材12の表面17に密着するように変形させられる。変形させられた表皮材20は、接着剤により基材12の表面17に接着される。
【0049】
<トリミング工程>
賦形工程の次に行なわれるトリミング工程では、基材12が真空成形型31の上記残部37に装着された状態で、プラグ36が、
図3における二点鎖線の矢印で示す方向へ移動されることで、トリム刃46の移動経路から外れた箇所まで後退させられる。そのため、プラグ36は、トリム刃46による表皮材20の切断の妨げとなりにくい。
【0050】
切断機構45が作動し、
図5において二点鎖線の矢印で示すように、トリム刃46が、基材12の境界面18aに沿って表皮材20の余剰部分24に近づく側へ移動させられる。この移動は、
図6に示すようにトリム刃46の先端が、真空成形型31の残部37における切断用溝部38内に入り込むまで行なわれる。この移動の過程で、トリム刃46の各歯47(
図4(a)参照)が余剰部分24に押付けられる。この押付けにより、表皮材20の主要部22の周囲に端末部23が残るように余剰部分24が切断される。その後、トリム刃46は、基材12の上記境界面18aに沿って、切断用溝部38から遠ざかる側へ移動(後退)させられる。
【0051】
ここで、仮に、比較例のトリム刃55として、
図4(c)に示すように、先端部57の尖った三角形の板状をなす複数の歯56が列をなすように並べられていて、各歯56の谷部58における刃の角度が、歯56の根元部分に近づくに従い大きくなるものが用いられた場合、次の懸念がある。それは、各歯56が、先端部57から谷部58にかけて表皮材20の余剰部分24に押付けられると、余剰部分24を切断しながら各歯56が進入するところ、谷部58では、歯56の根元部分に近づくに従い余剰部分24が切断されにくくなって引きちぎられて、屑が発生するおそれがあることである。
【0052】
この点、第1実施形態では、
図4(a)に示すトリム刃46が用いられて、各歯47が表皮材20の余剰部分24に押付けられる。すると、谷部49では、刃の角度θ2が一様であることから、余剰部分24が歯47の部位によらず一様に切断される。谷部49でも先端部48と同様に、余剰部分24が引きちぎられることなく、主要部22の周囲に端末部23を残した状態で余剰部分24がきれいに切断される。余剰部分24が引きちぎられることが原因で屑が発生することが起りにくい。
【0053】
上記切断により、表皮材20は、基材12の表面17に接着された主要部22、及びその主要部22の周囲の端末部23からなる表皮21と、クランプ枠51によって押え付けられた残余部25とに分離される(
図7参照)。このようにして、表皮21が主要部22において基材12の表面17に接着され、かつ端末部23において基材12に接着されていない中間製品が得られる。
【0054】
<巻込み工程>
トリミング工程の次に行なわれる巻込み工程では、上記中間製品における基材12が真空成形型31の残部37に装着された状態に維持される。基材12は、残部37によって裏面18側から支えられ続ける。
【0055】
図7に示すように、表皮21の端末部23が、巻込み機構35により、基材12の境界面18aに直交する方向である上方へ押される。詳しくは、プラグ36が、
図6における二点鎖線の矢印で示す方向へ向けて、基材12を裏面18側から支える箇所まで移動させられる。この移動の際、表皮21の端末部23の一部がプラグ36によって基材12の裏面18側に押し込まれる。端末部23が、基材12の境界面18aを含む裏面18に密着するように変形させられる。このようにして、端末部23が基材12の裏面18側に巻込まれて接着剤によって基材12の裏面18に接着されると、
図1(a)〜(c)に示す表皮付き製品11が得られる。
【0056】
上記のように、賦形工程、トリミング工程及び巻込み工程は、基材12が真空成形型31に装着された状態で、表現を変えると、共通の真空成形型31を用いて実施される。そのため、巻込み工程が、真空成形型とは別に設けられた専用の治具を用いて実施される特許文献1とは異なり、そうした専用の治具が不要となる。治具の導入のための費用が不要となる。
【0057】
また、端末部23を巻込むために、トリミング工程を経た中間製品を、真空成形型31から専用の治具に載せ替えなくてもすむ。載せ替える工程が不要となり、その分、製造工数を少なくすることができる。
【0058】
なお、巻込み工程の後には、
図8に示すように、上型41が切断機構(図示略)を伴って上昇させられる。そして、表皮付き製品11が真空成形型31の突部32a,32bから取出される。
【0059】
第1実施形態によると、上記以外にも次の作用及び効果が得られる。
・比較例として、
図9(b)に示すように、トリム刃46を基材12の境界面18aに対し直交する方向である上下方向へ移動させても、表皮材20の余剰部分24を、主要部22の周囲に端末部23が残るように切断することができる。ただし、この場合には、端末部23は、主要部22に隣接し、かつ上記境界面18aに直交する部分61と、その部分61に対し主要部22とは反対側に隣接し、かつ上記境界面18aに平行な部分62とによって構成される。この平行な部分62の分、端末部23が長くなってしまい、その結果、端末部23が過渡に長くなるおそれがある。
【0060】
この点、第1実施形態では、
図9(a)に示すように、トリム刃46として、基材12の境界面18aに沿う方向へ往復動し得るものが用いられる。そして、トリミング工程では、トリム刃46が境界面18aに沿って表皮材20の余剰部分24に近づく側へ移動させられて、その余剰部分24に押付けられる。余剰部分24が切断されて、主要部22の周囲に端末部23が残る。この端末部23は、主要部22に隣接し、かつ上記境界面18aに直交する部分61のみによって構成される。従って、上記境界面18aに対し平行な部分62(
図9(b)参照)がなく、その分、端末部23が短くなり、同端末部23が過渡に長くなるのを抑制することができる。
【0061】
さらに、表皮材20の余剰部分24を、端末部23が過渡に短くなる箇所で切断すると、同端末部23を、基材12の境界面18aを含む裏面18の形状に追従させることが難しくなり、同端末部23を基材12の裏面18側に適切に巻込むことが困難となる。
【0062】
この点、トリム刃46を基材12の境界面18aに沿う方向に移動させる第1実施形態では、トリム刃46を移動させる経路の高さについては特に制約がない。そのため、表皮材20の余剰部分24を、端末部23が適切な長さとなる箇所で切断することが容易である。このように、第1実施形態では、端末部23の長さのコントロールが容易となる。
【0063】
・トリミング工程を経ることで、端末部23にはトリム刃の歯に対応した形状の切断跡が残る。第1実施形態では、
図4(a)に示すように、谷部49が湾曲したトリム刃46が用いられる。そのため、
図4(c)に示すトリム刃55が用いられた比較例よりも切断跡の幅(山部と谷部との間隔)が狭くなる。これは、比較例では、切断跡の谷部が尖った形状となるのに対し、第1実施形態では、同谷部が湾曲した形状となる、すなわち、尖った部分の先端を除去したような形状となるからである。その結果、余剰部分24の狙いとする箇所の切断が比較例よりも容易となり、端末部23の端面の位置精度を高めることができる。
【0064】
(第2実施形態)
次に、表皮付き製品の製造方法の第2実施形態について、上記
図5及び
図6に加え、
図10及び
図11を参照して説明する。
【0065】
<基材12について>
基材12における本体部13の周りの周縁部14は、複数の直線部分15と、隣り合う直線部分15を繋ぐ複数のコーナ部分16とによって構成されている。この点で、第2実施形態は第1実施形態と共通している。さらに、各コーナ部分16は、本体部13から遠ざかる側へ膨らむように円弧状に湾曲している。各コーナ部分16は、いずれの直線部分15の長さよりも短い周長を有している。
【0066】
<トリム刃について>
切断機構45における複数のトリム刃として、複数の第1トリム刃71と、複数の第2トリム刃72とが用いられている。各第1トリム刃71は、表皮材20の余剰部分24のうち、基材12の直線部分15に対応する箇所を、主要部22の周囲に端末部23が残るように切断するためのものである。第1トリム刃71のうち、余剰部分24において比較的長さの長い直線部分15に対応する箇所を切断するものについては、複数に分割されている。また、各第2トリム刃72は、表皮材20の余剰部分24のうち、基材12のコーナ部分16に対応する箇所を、主要部22の周囲に端末部23が残るように切断するためのものである(
図5参照)。
【0067】
<トリミング工程について>
第2実施形態では、真空引きにより表皮材20が吸引されながら、第2トリム刃72による余剰部分24の切断が行なわれ、その後に、第1トリム刃71による余剰部分24の切断が行なわれる。
【0068】
上記以外の事項は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
次に、表皮付き製品11を製造する方法について説明する。この方法の実施に際しては、第1実施形態と同様に、賦形工程、トリミング工程及び巻込み工程が順に行なわれる。これらの工程のうち、トリミング工程に第2実施形態の特徴がある。
【0069】
トリミング工程では、
図5に示すように、基材12が真空成形型31の残部37に装着された状態で、プラグ36が第1トリム刃71及び第2トリム刃72の移動経路から外れた箇所まで後退させられる。
【0070】
真空吸引機構が作動させられることにより、真空成形型31及び基材12を通じて表皮材20の主要部22が吸引されるとともに、同真空成形型31を通じて表皮材20の余剰部分24が吸引される。
【0071】
この状態で、
図5、
図6及び
図10に示すように、第2トリム刃72が、基材12の境界面18aに沿って、表皮材20の余剰部分24のうち、コーナ部分16に対応する箇所に近づく側へ移動させられる(
図10の二点鎖線参照)。この移動の過程で、第2トリム刃72が余剰部分24に押付けられる。この押付けにより、表皮材20の主要部22の周囲に端末部23が残るように余剰部分24の一部が切断される。この段階では、余剰部分24のうち直線部分15に対応する箇所は切断されない。その後、第2トリム刃72は、基材12の上記境界面18aに沿って、後退させられる(
図10の実線参照)。
【0072】
上記第2トリム刃72による切断の後には、
図5、
図6及び
図11に示すように、第1トリム刃71が、基材12の境界面18aに沿って、表皮材20の余剰部分24のうち、直線部分15に対応する箇所に近づく側へ移動させられる(
図11の二点鎖線参照)。この移動の過程で、第1トリム刃71が余剰部分24に押付けられる。この押付けにより、表皮材20の主要部22の周囲に端末部23が残るように、余剰部分24の未切断部分が切断される。その後、第1トリム刃71は、基材12の上記境界面18aに沿って、後退させられる(
図11の実線参照)。
【0073】
ここで、仮に、第1トリム刃71による余剰部分24の切断と、第1トリム刃71に隣接する第2トリム刃72による余剰部分24の切断とが同時に行なわれると、表皮材20から余剰部分24を、端末部23が残るように短時間で切断することが可能である。反面、切断時には第1トリム刃71と第2トリム刃72とが互いに接近して干渉し合うおそれがある。
【0074】
この点、第2実施形態では、上記のように、第1トリム刃71による切断と、第2トリム刃72による切断とがタイミングをずらして行なわれる。そのため、第1トリム刃71と第2トリム刃72とが干渉し合うのを抑制することができる。
【0075】
また、上記の切断は、真空引きにより表皮材20が吸引されて、余剰部分24が基材12の裏面18側に引張られた状態で行なわれる。
しかし、真空引きされながら余剰部分24が切断されると、その切断された箇所から少なからず空気が吸引され、余剰部分24を基材12の裏面18側に引張る力が切断前よりも低下する。そのため、余剰部分24が、真空引きにより引張られる前の形状に戻ろうとする。
【0076】
切断された箇所の長さが長くなるほど、吸引される空気の量が多くなり、余剰部分24を基材12の裏面18側に引張る力の低下度合いが大きくなる。切断される箇所の長さは、余剰部分24のうち、基材12のコーナ部分16に対応する箇所において、直線部分15に対応する箇所よりも短い。各コーナ部分16の周長が、いずれの直線部分15の長さよりも短いからである。
【0077】
この点、第2実施形態では、
図11において破線で示すように、コーナ部分16に対応する箇所73の切断が第2トリム刃72によって先に行なわれる。その後に、直線部分15に対応する箇所の切断が第1トリム刃71によって行なわれる。従って、余剰部分24の全部の切断が完了するまでに、余剰部分24を基材12の裏面18側に引張る力は、第1トリム刃71による切断を先に行ない、かつ第2トリム刃72による切断を後で行なう場合に比べて、低下しにくくなる。余剰部分24は、真空引きにより引張られる前の形状に戻りにくくなる。これに伴い、余剰部分24を切断することにより形成される端末部23もまた、基材12の裏面18に近づく。
【0078】
そのため、トリミング工程に続けて行なわれる巻込み工程では、表皮21の端末部23を巻込み機構35のプラグ36によって基材12の裏面18側に好適に巻込むことができる。
【0079】
(第3実施形態)
次に、表皮付き製品の製造方法の第3実施形態について、
図12を参照して説明する。
<基材12について>
基材12の裏面18のうち、端末部23が密着される箇所とは異なる複数箇所には、その基材12の剛性を高めるための板状のリブ75が一体に形成されている。また、基材12の裏面18のうち、端末部23が密着される箇所と、上記リブ75が形成された箇所とは異なる複数箇所には、巻込み工程で基材12を掴むために使用される板状のリブ76が一体に形成されている。いずれのリブ75,76も、基材12の表面17から遠ざかる側(裏側)へ突出している。
【0080】
<上型41について>
第3実施形態では、上型41を備えない製造装置30が用いられている。
<チャック機構77について>
真空成形型31において、基材12のリブ76に接近した箇所にはチャック機構77が備えられている。チャック機構77は、リブ76の厚み方向(
図12の左右方向)に対向して配置された一対のアーム78を備えている。各アーム78は、一方(
図12の下方)の端部において軸79により回動可能に支持され、かつ他方(
図12の上方)の端部に爪81を有している。このチャック機構77では、
図12において実線で示すように、両爪81の間隔が狭まる方向へ各アーム78が回動されることで、リブ76が厚み方向の両側から両爪81によって掴まれる。その逆に、
図12において二点鎖線で示すように、両爪81の間隔が広がる方向へ各アーム78が回動されることで、リブ76を掴む力が弱められる。さらに、チャック機構77は、両爪81によってリブ76を掴んだ状態の両アーム78を、そのリブ76から遠ざかる側(下側)へ移動させる機構(図示略)を備えている。
【0081】
<賦形工程について>
基材12において、表皮21が被せられる予定の箇所に接着剤が塗布されることについては、上述した通りである。この接着剤は、上記第1実施形態及び第2実施形態では図示が省略されたが、第3実施形態(
図12参照)では符号82で示されている。接着剤82は、基材12の表面17に塗布されるとともに、同基材12の裏面18のうち端末部23が巻込まれる予定の箇所にも塗布される。
【0082】
<巻込み工程について>
巻込み工程では、巻込み機構35により端末部23を押して巻込む動作が、その押す方向へ基材12が動くのをチャック機構77によって規制した状態で行なわれる。
【0083】
上記以外の事項は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
次に、表皮付き製品11を製造する方法について説明する。この方法の実施に際しては、第1実施形態と同様に、賦形工程、トリミング工程及び巻込み工程が順に行なわれる。これらの工程のうち、巻込み工程に第3実施形態の特徴がある。
【0084】
ここで、巻込み機構35のプラグ36により押された端末部23を、接着剤82の塗布された基材12の裏面18に強固に接着させるためには、その端末部23が基材12に強く押付けられることが重要である。
【0085】
この点、第3実施形態の巻込み工程では、
図12において実線で示すように、チャック機構77において、両爪81の間隔が狭まる方向へ各アーム78が回動される。基材12の裏面18の複数箇所からそれぞれ突出するリブ76が、厚み方向の両側から各アーム78の両爪81によって掴まれる。この状態で、
図12の二点鎖線で示す巻込み機構35のプラグ36が、実線で示すように基材12を裏面18側から支える箇所まで移動させられる。この際、基材12は、プラグ36によって端末部23が押される方向(上方)へ動くことを規制される。端末部23の一部は、この状態でプラグ36によって基材12の裏面18側へ押し込まれるため、基材12の境界面18aを含む裏面18に沿って変形させられた後、基材12に強く押付けられる。その結果、端末部23を基材12の裏面18に強固に接着(圧着)させることができる。
【0086】
さらに、第3実施形態では、一対の爪81によってリブ76を掴んだ状態の両アーム78が、
図12において矢印で示すように、リブ76から遠ざかる側(下側)へ移動させられる。そのため、そうした移動が行なわれないものに比べ、端末部23の一部を基材12の裏面18に対し、より強固に接着(圧着)させることができる。
【0087】
なお、上記各実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
・プラグ36としては、単一の部品によって構成されるものが用いられてもよいし、基材12の周縁部14(
図1(c)参照)に沿って複数に分割されたものが用いられてもよい。後者の場合には、プラグ36毎に最適なタイミングで同プラグ36を移動させることができるメリットがある。
【0088】
・真空吸引機構を作動させるタイミング(表皮材20の吸引開始タイミング)と、真空吸引機構の作動を停止させるタイミング(表皮材20の吸引停止タイミング)とが適宜変更されてもよい。例えば、プラグ36が下降されるときには、真空吸引機構の作動を停止させて、大気開放させてもよい。
【0089】
・基材12の表面17における接着剤82の塗布箇所は、
図12に示すように、互いに離間した複数箇所に設定されてもよい。
・第1及び第2実施形態においても、第3実施形態と同様に、上型41を備えない製造装置30によって表皮付き製品11が製造されてもよい。
【0090】
・チャック機構77として、巻込み機構35により端末部23が押される方向へ基材12が動くのを規制できるものであることを条件に、第3実施形態とは異なるタイプが用いられてもよい。
【0091】
・両アーム78は、リブ76から遠ざかる側(下側)へ移動させられることなく、そのリブ76を掴んだ位置に保持されてもよい。
・上記表皮付き製品の製造方法は、ドアトリムとは異なる自動車用内装部品を表皮付き製品として製造する場合にも適用可能である。
【0092】
・上記表皮付き製品の製造方法は、自動車用内装部品とは異なる表皮付き製品を製造する場合にも適用可能である。