特許第6683114号(P6683114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683114
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】塗装用治具及び塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 13/02 20060101AFI20200406BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20200406BHJP
   B05B 15/00 20180101ALI20200406BHJP
【FI】
   B05B13/02
   B05D1/02 H
   B05B15/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-238847(P2016-238847)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2018-94463(P2018-94463A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 肇
【審査官】 高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−283753(JP,A)
【文献】 実開平05−060549(JP,U)
【文献】 米国特許第05998755(US,A)
【文献】 特開2018−015700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B12/00−16/80
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの吹き付け塗装に用いる塗装用治具であって、
回転軸と、
上記回転軸を中心とした円周上に並んで配置され、それぞれが上記ワークを保持可能な複数のワーク保持部と、
上記複数のワーク保持部が上記ワークを保持した状態で上記回転軸を中心に回転するときに生じる周方向の気流に同方向の気流を付加するような気流調整を行う気流調整部と、
を備える、塗装用治具。
【請求項2】
上記気流調整部は、上記複数のワーク保持部の互いに隣接する2つのワーク保持部の間の空間に設けられ且つ上記複数のワーク保持部と一体的に回転する羽根部材を備え、上記羽根部材は、その回転時に周方向の気流を発生させることによって上記気流調整を行うように構成されている、請求項1に記載の塗装用治具。
【請求項3】
上記羽根部材は、上記空間のうち上記複数のワーク保持部を通る仮想円内に配置されるように構成されている、請求項2に記載の塗装用治具。
【請求項4】
上記羽根部材は、上記回転軸の径方向線に沿って延在する平坦面を有し、上記平坦面が回転時における回転方向後方側の受風面となるように構成されている、請求項2または3に記載の塗装用治具。
【請求項5】
上記気流調整部は、上記回転軸の径方向線に対する上記羽根部材の傾斜角度を可変とする角度調整部と、上記羽根部材の径方向位置を可変とする位置調整部との少なくとも一方を備える、請求項2〜4のいずれか一項に記載の塗装用治具。
【請求項6】
数の連結アーム部を備え、上記複数の連結アーム部のそれぞれが上記回転軸と上記複数のワーク保持部のそれぞれとを連結し、上記複数の連結アーム部のそれぞれに上記羽根部材が取付けられる、請求項2〜5のいずれか一項に記載の塗装用治具。
【請求項7】
ワークに吹き付け塗装を施すための塗装方法であって、
それぞれが上記ワークを保持可能な複数のワーク保持部が回転軸を中心とした円周上に並んで配置された治具を準備し、
上記治具の上記複数のワーク保持部のそれぞれに上記ワークを取付け、
上記回転軸を中心に上記治具の上記複数のワーク保持部を回転させるとともに、その回転時に生じる周方向の気流に同方向の気流を付加するような気流調整を行い、
上記治具の上記複数のワーク保持部の回転軌跡上に塗料を吹き付ける、塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの吹き付け塗装に用いる塗装用治具及び塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1には、円周上に並べて配置された複数のワークに吹き付け塗装を施すための塗装装置が開示されている。この塗装装置は、複数のワークを保持するホルダーを周方向に回転させながら、これら複数のワークに一定方向からスプレーガンによって塗料を吹き付けるように構成されている。このような塗装装置は、複数のワークを回転させている間にこれらの塗装を行うことができるため、生産性が高いことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−13884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の塗装装置は、以下のような問題を抱えている。
即ち、ホルダーの回転によって生じる周方向の気流の勢いは、互いに隣接する2つのワークの間で相対的に弱くなる。このため、スプレーガンによってワークに向けて吹き付けられた塗料は、ワーク間を径方向内方へ通り抜け易く、このワーク間に留まりにくい。この場合、使用した塗料量と実際にワークに塗着した塗料量との比率として示される塗着効率が低くなり、その分、塗料の使用量が増えるという問題が生じ得る。このような問題は、ホルダーの回転速度が低い場合により顕著である。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、ワークに吹き付け塗装を施すときの塗着効率を向上させるのに有効な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
ワークの吹き付け塗装に用いる塗装用治具であって、
回転軸と、
上記回転軸を中心とした円周上に並んで配置され、それぞれが上記ワークを保持可能な複数のワーク保持部と、
上記複数のワーク保持部が上記ワークを保持した状態で上記回転軸を中心に回転するときに生じる周方向の気流に同方向の気流を付加するような気流調整を行う気流調整部と、
を備える、塗装用治具、にある。
【0007】
本発明の別態様は、
ワークに吹き付け塗装を施すための塗装方法であって、
それぞれが上記ワークを保持可能な複数のワーク保持部が回転軸を中心とした円周上に並んで配置された治具を準備し、
上記治具の上記複数のワーク保持部のそれぞれに上記ワークを取付け、
上記回転軸を中心に上記治具の上記複数のワーク保持部を回転させるとともに、その回転時に生じる周方向の気流に同方向の気流を付加するような気流調整を行い、
上記治具の上記複数のワーク保持部の回転軌跡上に塗料を吹き付ける、塗装方法、にある。
【発明の効果】
【0008】
上記の塗装用治具によれば、複数のワーク保持部がワークを保持した状態で回転軸を中心に回転するときに生じる周方向の気流に同方向の気流を付加するような気流調整を気流調整部によって行うことができる。このため、気流調整前に比べて周方向の気流を増幅させることができ、ワーク間に形成される、周方向の流速差が小さい領域を気流調整前よりも周方向に沿って拡張させることができる。この場合、治具に保持されたワークに向けて吹き付けられた塗料の塗料粒子は、ワーク間を気流調整後の気流に乗って周方向に移動し易くなる一方で、上記の領域が拡張した影響でワーク間を径方向内方へ通り抜けにくくなり、このワーク間に長く留まることができる。その結果、塗料粒子がワークに付着し易くなり、気流調整前に比べて塗着効率が高くなる。
これらと同様の作用効果は上記の塗装方法によっても得られる。
【0009】
以上のごとく、上記の各態様によれば、ワークに吹き付け塗装を施すときの塗着効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1の塗装用治具の平面図。
図2図1の塗装用治具の一部を示す斜視図。
図3図2中のA領域を詳細に示す斜視図。
図4図3の平面図。
図5図1の塗装用治具の羽根部材による気流調整の様子を模式的に示す図。
図6】実施形態2の塗装用治具の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0012】
上記の塗装用治具において、上記気流調整部は、上記複数のワーク保持部の互いに隣接する2つのワーク保持部の間の空間に設けられ且つ上記複数のワーク保持部と一体的に回転する羽根部材を備え、上記羽根部材は、その回転時に周方向の気流を発生させることによって上記気流調整を行うように構成されているのが好ましい。
この塗装用治具によれば、気流調整を行うための手段として羽根部材を使用することによって、気流調整部の構造を簡素化できる。また、羽根部材によって生じる気流には、塗料の吹き付け流に対向するような遠心方向の流れ成分も含まれており、この流れ成分によってワーク間に塗料粒子を長く留まらせる効果が高まる。
【0013】
上記の塗装用治具において、上記羽根部材は、上記空間のうち上記複数のワーク保持部を通る仮想円内に配置されるように構成されているのが好ましい。
この塗装用治具によれば、ワークよりも径方向内方へ移動しようとする塗料粒子の流れを羽根部材によって規制することができる。このため、治具に塗料粒子が付着しにくい。この場合、治具に一旦付着した塗料粒子がワークに向けて飛散して塗装品に所謂「ブツ」といわれる塗装不良が形成されるのを防ぐことができ、塗装品の外観上の品質を向上させることができる。
また、治具に塗料粒子が付着しにくいため、治具を洗浄する洗浄作業の頻度が低くなり、洗浄作業にかかる費用を低く抑えることができる。
【0014】
上記の塗装用治具において、上記羽根部材は、上記回転軸の径方向線に沿って延在する平坦面を有し、上記平坦面が回転時における回転方向後方側の受風面となるように構成されているのが好ましい。
この塗装用治具によれば、羽根部材の受風面は、回転軸の径方向線に沿って延在する平坦面であり径方向外方に向くことや径方向内方に向くことが殆どない。従って、羽根部材の回転時に径方向外方へ向かう気流の勢いが強くなり過ぎたり、径方向内方へ向かう気流の勢いが強くなり過ぎたりするのを抑制することができる。この場合、ワークに向けて吹き付けられた塗料粒子が、羽根部材による気流によってワークよりも外側へ押し返されたり、羽根部材による気流によって治具のうち羽根部材よりも内側へ勢いよく進入したりするのを防ぐのに効果がある。
【0015】
上記の塗装用治具において、上記気流調整部は、上記回転軸の径方向線に対する上記羽根部材の傾斜角度を可変とする角度調整部と、上記羽根部材の径方向位置を可変とする位置調整部との少なくとも一方を備えるのが好ましい。
この塗装用治具によれば、角度調整部及び位置調整部の少なくとも一方を調整することで、使用するワークの形状や寸法に適した向き及び位置に羽根部材をセットすることができる。
【0016】
上記の塗装用治具は、それぞれが上記回転軸と上記複数のワーク保持部のそれぞれとを連結する複数の連結アーム部を備え、上記複数の連結アーム部のそれぞれに上記羽根部材が取付けられるのが好ましい。
この塗装用治具によれば、ワーク保持部の取付けのために使用する連結アーム部を羽根部材の取付けに兼用することができ、部品点数を少なく抑えるのに効果がある。
【0017】
以下、ワークの吹き付け塗装に用いる塗装用治具(以下、単に「治具」という。)の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
なお、この治具を説明するための図面において、特に断わりのない限り、治具の回転軸の周方向を矢印Xで示し、この回転軸の径方向を矢印Yで示し、この回転軸の軸方向を矢印Zで示している。
【0019】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1の治具10は、ワークWの吹き付け塗装に用いる治具であり、回転軸11と、複数のワーク保持部20と、複数の連結アーム部30と、複数の気流調整部40と、を備えている。
【0020】
この治具10において、回転軸11が駆動手段(図示省略)に接続されている。このため、治具10は、回転軸11が駆動されることによって、この回転軸11を中心に反時計回りである回転方向X1に回転するように構成されている。
なお、必要に応じて、治具10の回転方向を時計回りとしたり、治具10の回転方向を時計回りと反時計回りとの間で切り替えるようにしたりすることもできる。
【0021】
この治具10に対しては、一定方向から塗料Pを吹き付けるための1つの塗装機1が使用される。この塗装機1として、例えば、特開2000−070770号公報に開示の塗装装置(所謂、「ベル型塗装機」である塗装ガン)を使用することができる。この塗装機1は、ロボットアーム(図示省略)に取付けられて使用されるのが好ましい。
【0022】
この治具10において、回転軸11に設けられた1つのフランジ部12(後述の第1フランジ部12a)に対して、ワーク保持部20及び連結アーム部30がそれぞれ8つずつ設けられている。
【0023】
8つのワーク保持部20は、回転軸11を中心とした円周上(仮想円の周上)に並んで配置され、それぞれがワークWを保持可能である。ワークWの保持のために、ワーク保持部20は、その先端にワークWを引っ掛けるための引掛け構造(その具体的な構成については図示省略)を備えている。このため、ワーク保持部20は、この引掛け構造を介してワークWを保持することができる。
【0024】
8つの連結アーム部30は、それぞれが回転軸11と8つのワーク保持部20のそれぞれとを連結するように構成されている。これら8つの連結アーム部30のそれぞれに気流調整部40が取付けられている。気流調整部40は、8つのワーク保持部20の互いに隣接する2つのワーク保持部20,20の間の空間Sに配置されている。この空間Sは、互いに隣接する2つのワークW,Wの間の空間でもある。
【0025】
図2に示されるように、回転軸11は、その軸方向Zの異なる3つの部位のそれぞれにフランジ部12を備えている。第1フランジ部12aは、3つのフランジ部12の中で最上段に位置する。第2フランジ部12bは、3つのフランジ部12の中で中段に位置する。第3フランジ部12cは、3つのフランジ部12の中で最下段に位置する。
【0026】
第1フランジ部12aは、その上面に8つの係合ピン13を備えている。8つの係合ピン13のそれぞれに連結アーム部30の一端側が係合するように構成されている。本構成は、第2フランジ部12b及び第2フランジ部12cについても同様である。
【0027】
なお、図2では、説明の便宜上、第1フランジ部12aに対して1つの連結アーム部30のみを記載しているが、実際には、第1フランジ部12aの8つの係合ピン13のそれぞれに8つの連結アーム部30のそれぞれが係合している。
【0028】
このため、治具10では、第1フランジ部12aに対応した上段に、ワーク保持部20及び連結アーム部30がそれぞれ8つずつ設けられている。また、第2フランジ部12bに対応した中段に、ワーク保持部20及び連結アーム部30がそれぞれ8つずつ設けられている。更に、第3フランジ部12cに対応した下段に、ワーク保持部20及び連結アーム部30がそれぞれ8つずつ設けられている。
【0029】
また、1つのワークWは、軸方向Zに並ぶ3つのワーク保持部20を利用して治具10に取付けられる。この場合、塗装を同時に施すことができるワークWの最大保持数が8である。仮に、1つワーク保持部20で1つのワークWを保持するようにした場合には、この最大保持数が24になる。
【0030】
気流調整部40は、3つの分岐アーム42と、いずれも回転軸11の周方向Yに離間して配置され且つ軸方向Zに長尺状に延在する8つの羽根部材45と、を備えている。
なお、図2では、説明の便宜上、1つの羽根部材45のみを記載している
【0031】
羽根部材45は、8つのワーク保持部20の互いに隣接する2つのワーク保持部20,20の間の空間Sに設けられ且つ8つのワーク保持部20と一体的に回転するように構成されている。この羽根部材45は、平板状の部材であり、ワークWの長手方向の長さと概ね同様の長さを有する。
【0032】
この羽根部材45は、軸方向Zに並ぶ3つの分岐アーム42を利用して治具10に取付けられている。即ち、1つの羽根部材45は、その上段部分が第1フランジ部12a側から延びる1つの連結アーム部30に1つの分岐アーム42を介して固定され、その中段部分が第2フランジ部12bから延びる1つの連結アーム部30に1つの分岐アーム42を介して固定され、その下段部分が第3フランジ部12cから延びる1つの連結アーム部30に1つの分岐アーム42を介して固定されている。
【0033】
図3及び図4に示されるように、連結アーム部30は、2つの連結アーム32,36を備えている。
【0034】
連結アーム32は、係合筒部31から水平状に延出する第1部材33と、この第1部材33に水平方向にスライド可能に係合する第2部材34と、を備えている。係合筒部31は、係合ピン13の外径を若干上回る孔径の筒状空間を有する。係合筒部31は、係合ピン13に被せられた係合状態で、この係合ピン13に対して相対回転可能である一方で、蝶ねじである固定具14の固定操作によって係合ピン13に対する相対回転動作が阻止されるように構成されている。連結アーム32の第1部材33は、係合筒部31と一体的に動くように構成されている。
【0035】
連結アーム32の第2部材34は、固定具14の固定操作によって第1部材33に対するスライド動作が阻止されるように構成されている。この第2部材34は、その上面から上方へ延出する2つの係合ピン34a,34bを備えている。2つの係合ピン34a,34bはいずれも、係合ピン13と同様の形状を有する。第2部材34の係合ピン34aには、係合筒部31と同形状の係合筒部35が相対回転可能に係合している。この係合筒部35は、固定具14の固定操作によって係合ピン34aに対する相対回転動作が阻止されるように構成されている。
【0036】
連結アーム36は、係合筒部35から水平状に延出する第1部材37と、この第1部材37に水平方向にスライド可能に係合する第2部材38と、を備えている。第2部材38は、固定具14の固定操作によって第1部材37に対するスライド動作が阻止されるように構成されている。そして、この第2部材38にワーク保持部20が固定されている。
【0037】
上記構成の連結アーム部30によれば、係合ピン13に対する係合筒部31の回転位置と、連結アーム32における第1部材33に対する第2部材34のスライド位置と、係合ピン34aに対する係合筒部35の回転位置と、連結アーム36における第1部材37に対する第2部材38のスライド位置と、の4つの相対位置のうちの少なくとも1つを調整することによって、回転軸11に対するワーク保持部20の相対位置を定めることができる。
【0038】
なお、上記構成の連結アーム部30において、これら相対回転構造及びスライド構造のうちの少なくとも一方を省略することもできる。
【0039】
気流調整部40の分岐アーム42は、連結アーム部30の連結アーム32から分岐するように構成されている。この分岐アーム42は、第1部材43及び第2部材44を備えている。第1部材43は、連結アーム32側の係合ピン34bに相対回転可能に係合する、係合筒部31と同形状の係合筒部41から水平状に延出している。第2部材44は、この第1部材43に水平方向にスライド可能に係合している。
【0040】
係合筒部41は、係合ピン34bに対して相対回転可能に係合しており、固定具14の固定操作によって係合ピン34bに対する相対回転動作が阻止されるように構成されている。第2部材44は、固定具14の固定操作によって第1部材43に対するスライド動作が阻止されるように構成されている。そして、この第2部材44に締結ボルト46を介して羽根部材45が固定されている。
【0041】
上記構成の気流調整部40によれば、係合ピン34bに対する係合筒部41の回転位置と、分岐アーム42における第1部材43に対する第2部材44のスライド位置と、の2つの相対位置のうちの少なくとも1つを調整することによって、回転軸11及び連結アーム部30に対する羽根部材45の相対位置を定めることができる。
【0042】
この場合、係合ピン34bに対して相対回転可能に構成された係合筒部41が、回転軸11の径方向線Lに対する羽根部材45の傾斜角度(図4中の傾斜角度θ)を可変とする角度調整部を構成している。また、第1部材43に対して第2部材44がスライド可能に構成された分岐アーム42が、羽根部材45の径方向位置を可変とする位置調整部を構成している。
【0043】
図4に示されるように、羽根部材45は、2つのワーク保持部20,20の間の空間Sのうち8つのワーク保持部20を通る仮想円C内に配置されるように構成されている。換言すれば、この羽根部材45は、回転軸11の径方向Y(回転軸11を中心とした仮想円Cの径方向Y)について回転軸11とワーク保持部20との間に配置されるように構成されている。この仮想円Cは、複数のワーク保持部20の回転時の回転軌跡を示すものである。
【0044】
また、この羽根部材45は、回転軸11の径方向線L(回転軸11を中心とした仮想円Cの径方向Yに延在する線)に沿って延在する平坦面45aを有している。即ち、羽根部材45は、その平坦面45aが径方向線Lに沿って配置されるように構成されている。そして、この平坦面45aが回転時における回転方向後方側の受風面(即ち、回転時に気体を押圧する面)となる。
【0045】
次に、ワークWに吹き付け塗装を施すための塗装方法について説明する。
【0046】
この塗装方法では、先ず、上記構成の治具10(それぞれがワークWを保持可能な複数のワーク保持部20が回転軸11を中心とした円周上に並んで配置された治具)を準備する。そして、治具10の複数のワーク保持部20のそれぞれにワークWを取付ける。
【0047】
次に、回転軸11に作用する駆動手段によって治具10の複数のワーク保持部20をこの回転軸11を中心に連続的に回転させる。このとき、治具10と一体で回転する気流調整部40の羽根部材45によって気流を発生させ、この気流のうち周方向Xの一方向である回転方向X1の流れ成分を利用して気流調整が行われる。この羽根部材45を、回転方向X1の気流を整える整流板ということもできる。この気流調整は、回転方向X1についての気体の流速及び流速分布を変えるのに効果がある。この気流調整に際しては、羽根部材45のための上記の角度調整部と上記の位置調整部との少なくとも一方を、使用するワークWの形状や寸法に合わせて調節するのが好ましい。
【0048】
そして、回転状態のこの治具10の複数のワーク保持部20の回転軌跡(仮想線C)上に塗装機1で塗料Pを吹き付ける(図1参照)。これにより、この回転軌跡を通るワークWに管理基準値の塗膜が形成された吹き付け塗装が施される。
【0049】
実施形態1によれば、上記の治具10を用いてワークWに吹き付け塗装を施すことによって、以下のような作用効果が得られる。
【0050】
図5に示されるように、治具10が回転軸11を中心に回転するときに気流調整部40によって所望の気流調整を行うことができる。具体的には、気流調整部40の羽根部材45によって、複数のワーク保持部20がワークWを保持した状態で回転軸11を中心に回転するときに生じる回転方向X1の気流F1に同方向である回転方向X1の気流F2を付加するような気流調整を行うことができる。このため、気流調整前に比べて回転方向X1の気流を増幅させることができ、互いに隣接する2つのワークW,Wの間の空間S(ワーク間)に形成される、回転方向X1の流速差が小さい領域Bを気流調整前よりも周方向Xに沿って拡張させることができる。
【0051】
この場合、治具10に保持されたワークWに向けて塗装機1から吹き付けられた塗料Pの塗料粒子Paは、ワーク間を気流調整後の気流に乗って回転方向X1に移動し易くなる一方で、領域Bが拡張した影響でワーク間を径方向内方へ通り抜けにくくなり、このワーク間に長く留まることができる。図5では、塗料粒子Paが空間Sを周方向Xに拡散して流れる様子を模式的に示している。また、羽根部材45によって生じる気流には、塗料Pの吹き付け流に対向するような遠心方向の流れ成分も含まれており、この流れ成分によってワーク間に塗料粒子Paを長く留まらせる効果が高まる。
【0052】
その結果、塗料粒子PaがワークWに付着し易くなり、気流調整前に比べて塗着効率を向上させることができる。特に、気流調整を行うための手段として平板状の羽根部材45を使用することによって、気流調整部40の構造を簡素化できる。また、羽根部材45がワークWの長手方向の長さと概ね同様の長さを有するため、羽根部材45によって気流調整がなされた後の気流を、ワークWに概ね均一に作用させることができる。
【0053】
ここでいう「塗着効率」とは、ワークWの塗装に使用した塗料量と実際にワークWに塗着した塗料量との比率をいう。この塗着効率が高いほど、廃棄される塗料量が少ないことを指す。塗着効率を高めることによって、塗装環境の飛躍的改善、塗料の大幅な節約、塗装のスピードアップを実現し、塗装のトータルコストを削減することが可能になる。
【0054】
上述のような作用効果は、治具10が気流調整部40を備える場合と備えていない場合とのそれぞれについて発明者が鋭意実施した気流解析結果からも確認された。
【0055】
また、実施形態1によれば、複数のワーク保持部20を通る仮想円C内に羽根部材45を配置することによって、ワークWよりも径方向内方へ移動しようとする塗料粒子Paの流れを羽根部材45によって規制することができる。このため、治具10に塗料粒子Paが付着しにくい。この場合、治具10に一旦付着した塗料粒子PaがワークWに向けて飛散して塗装品に所謂「ブツ」といわれる塗装不良が形成されるのを防ぐことができ、塗装品の外観上の品質を向上させることができる。
また、治具10に塗料粒子Paが付着しにくいため、治具10を洗浄する洗浄作業の頻度が低くなり、洗浄作業にかかる費用を低く抑えることができる。
【0056】
また、実施形態1によれば、羽根部材45の受風面は、回転軸の径方向に沿って延在する平坦面45aであり径方向外方に向くことや径方向内方に向くことが殆どない。従って、羽根部材45の回転時に径方向外方へ向かう気流の勢いが強くなり過ぎたり、径方向内方へ向かう気流の勢いが強くなり過ぎたりするのを抑制することができる。
この場合、ワークWに向けて吹き付けられた塗料粒子Paが、羽根部材45による気流によってワークよりも外側へ押し返されたり、羽根部材45による気流によって治具10のうち羽根部材45よりも内側へ勢いよく進入したりするのを防ぐのに効果がある。
【0057】
また、実施形態1によれば、羽根部材45のための角度調整部(係合ピン34bに対する係合筒部41の相対回転位置)及び位置調整部(分岐アーム42における第1部材43に対する第2部材44のスライド位置)の少なくとも一方を調整することで、使用するワークWの形状や寸法に適した向き及び位置に羽根部材45をセットすることができる。
【0058】
また、実施形態1によれば、ワーク保持部20の取付けのために使用する連結アーム部30を羽根部材45の取付けに兼用することができ、部品点数を少なく抑えるのに効果がある。
【0059】
以下、上記の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0060】
(実施形態2)
図8に示されるように、実施形態2の治具110は、気流調整部140のための取付け構造が実施形態1の治具10と相違している。
【0061】
気流調整部140において、分岐アーム42に固定された係合筒部41は、回転軸11の第1フランジ部12aに設けられた係合ピン13(図2及び図3参照)に相対回転可能に係合している。このため、分岐アーム42は、連結アーム部30を介さずに回転軸11に直に取付けられている。
【0062】
また、この気流調整部140では、実施形態1で連結アーム部30の取付けに使用している8つの係合ピン13のうちの半数を係合筒部41の取付けに使用している。このため、回転軸11の第1フランジ部12aには、連結アーム部30と気流調整部140が4つずつ取付けられ、且つ周方向Xに交互に配置されている。このときのワークWの最大保持数は4であり、実施形態1の治具10の場合の半数である。
【0063】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0064】
実施形態2によれば、連結アーム部30を気流調整部140に交換するのみで治具110を構築することができる。このため、治具110を既存の治具の軽微な改良によって作製することができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0065】
本発明は、上記の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0066】
上記の実施形態では、ワーク保持部20と一体的に回転する羽根部材45を用いて回転方向X1の気流を発生させる場合について例示したが、この羽根部材45に代えて或いは加えて、回転方向X1の気流を発生させるエアノズルなどのエア供給手段を採用することもできる。
【0067】
上記の実施形態では、複数のワーク保持部20を通る仮想円C内に羽根部材45を配置する場合について例示したが、所望の気流調整が可能であれば、この羽根部材45の一部が仮想円C外に配置されてもよい。
【0068】
上記の実施形態では、羽根部材45の受風面が径方向線Lに沿って延在する平坦面45aである場合について記載したが、この平坦面45aが径方向線Lに対して傾斜して延在するように構成されてもよい。また、羽根部材45によって回転方向X1の気流を発生させることができれば、羽根部材45の受風面を平坦面以外の面(例えば、湾曲面など)によって構成することもできる。
【0069】
上記の実施形態では、気流調整部40,140が羽根部材45のための角度調整部及び位置調整部の両方を備える場合について例示したが、これら度調整部及び位置調整部のうちの少なくとも一方を省略することもできる。
【0070】
上記の実施形態では、回転軸11が3つのフランジ部12(12a,12b,12c)を備える場合について例示したが、フランジ部12の数はこれに限定されるものではなく、必要に応じてその数を変更してもよい。また、1つのフランジ部12に設けられる係合ピン13の数は8つに限定されるものではなく、必要に応じてその数を変更してもよい。
【0071】
上記の実施形態では、1つの治具10に対して1つの塗装機1を使用する場合について例示したが、塗装機1の数は限定されるものではなく、例えば回転軸11の周方向Xの異なる複数位置のそれぞれに複数の塗装機1のそれぞれを配置することもできる。
【符号の説明】
【0072】
10,110 塗装用治具(治具)
11 回転軸
20 ワーク保持部
30 連結アーム部
40,140 気流調整部
41 係合筒部(角度調整部)
42 分岐アーム(位置調整部)
45 羽根部材
45a 平坦面(受風面)
C 仮想円(移動軌跡)
F1,F2 気流
L 径方向線
S 空間
W ワーク
X 周方向
X1 回転方向(周方向)
Y 径方向
Z 軸方向
θ 傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6