特許第6683186号(P6683186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683186
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月15日
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/045 20120101AFI20200406BHJP
【FI】
   B60W30/045
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-223778(P2017-223778)
(22)【出願日】2017年11月21日
(65)【公開番号】特開2019-93847(P2019-93847A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2018年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】砂原 修
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
【審査官】 神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−175810(JP,A)
【文献】 特開2008−150032(JP,A)
【文献】 特開2005−145197(JP,A)
【文献】 特開2017−089465(JP,A)
【文献】 特開2011−093496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00〜10/30
B60W 30/00〜60/00
B60T 7/12〜 8/1769
B60T 8/32〜 8/96
B62D 6/00〜 6/10
F02D 29/00〜29/06
F02D 43/00〜45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御装置であって、
アクセル開度センサと、
ブレーキ踏込量センサと、
ドライバにより操作されるステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、
前記操舵角センサの検出値に基づく操舵速度が閾値以上となったことが判定されたときに、車両減速度を発生させることで車両姿勢を制御する車両姿勢制御手段と、
前記アクセル開度センサの検出値に基づくアクセル踏込量及び前記ブレーキ踏込量センサの検出値に基づくブレーキ踏込量のうちの一方が第1値であるときは、当該第1値よりも低い第2値であるときよりも、前記閾値を大きい値に変更する閾値変更手段と、
を有し、
前記閾値変更手段は、前記アクセル踏込量が、増加方向に変化していることが判定された場合には、増加方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のアクセル踏込量に対して前記閾値を大きな値に変更し、及び/又は、
前記閾値変更手段は、前記ブレーキ踏込量が、増加方向に変化していることが判定された場合には、増加方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のブレーキ踏込量に対して前記閾値を大きな値に変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
車両の制御装置であって、
アクセル開度センサと、
ブレーキ踏込量センサと、
ドライバにより操作されるステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、
前記操舵角センサの検出値に基づく操舵速度が閾値以上となったことが判定されたときに、車両減速度を発生させることで車両姿勢を制御する車両姿勢制御手段と、
値変更手段と、
を有し
前記閾値変更手段は、前記ブレーキ踏込量センサの検出値に基づくブレーキ踏込量に基づいて、前記ブレーキ踏込量が、増加方向に変化していることが判定された場合には、増加方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のブレーキ踏込量に対して前記閾値を大きな値に変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
車両の制御装置であって、
アクセル開度センサと、
ブレーキ踏込量センサと、
ドライバにより操作されるステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、
前記操舵角センサの検出値に基づく操舵速度が閾値以上となったことが判定されたときに、車両減速度の付与を開始することで車両姿勢を制御する車両姿勢制御手段と、
閾値変更手段と、
を有し、
前記閾値変更手段は、前記アクセル開度センサの検出値に基づくアクセル踏込量に基づいて、前記アクセル踏込量が、増加方向に変化していることが判定された場合には、増加方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のアクセル踏込量に対して前記閾値を大きな値に変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
前記閾値変更手段は、前記ブレーキ踏込量が、減少方向に変化していることが判定された場合には、減少方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のブレーキ踏込量に対して前記閾値を小さな値に変更する、請求項2記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記閾値変更手段は、前記アクセル踏込量が、減少方向に変化していることが判定された場合には、減少方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のアクセル踏込量に対して前記閾値を小さな値に変更する、請求項3記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記閾値変更手段は、更に、車速に関連する車速関連値が所定値未満であるときは、当該所定値以上であるときよりも、前記閾値を大きい値に変更する、請求項2乃至5の何れか一項に記載の車両の制御装置
【請求項7】
前記閾値変更手段は、更に、少なくともアクセル踏込量及びブレーキ踏込量のうちの一方が増加方向に変化しているときには、そうでないときよりも、前記閾値を大きい値に変更する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の車両の制御装置
【請求項8】
前記閾値変更手段は、更に、少なくともアクセル踏込量及びブレーキ踏込量のうちの一方が減少方向に変化しているときには、そうでないときよりも、前記閾値を小さい値に変更する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の車両の制御装置
【請求項9】
さらに、操舵装置を有し、前記操舵装置は、ドライバにより操作されるステアリングホイールを含み、
前記車両姿勢制御手段は、前記ステアリングホイールの切り込み操作により前記操舵速度が前記閾値以上となったときに前記車両姿勢を制御する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の車両の制御装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に係わり、特に、所望の車両姿勢(車両挙動)を実現するための制御を実行する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップ等により車両の挙動が不安定になった場合に、車両の挙動を安全方向に制御する技術(例えば横滑り防止装置)が知られている。具体的には、車両のコーナリング時等に、車両にアンダーステアやオーバーステアの挙動が生じたことを検出し、それらを抑制するように車輪に適切な減速度を付与するようにしたものが知られている。
【0003】
一方、上述したような車両の挙動が不安定になるような走行状態における安全性向上のための制御とは異なり、通常の走行状態にある車両のコーナリング時におけるドライバによる一連の操作(ブレーキング、ステアリングの切り込み、加速、及び、ステアリングの戻し等)が自然で安定したものとなるように、コーナリング時に減速度を調整して操舵輪である前輪に加わる荷重を調整するようにした車両運動制御装置が知られている。
【0004】
更に、ドライバのステアリング操作に対応するヨーレート関連量(例えばヨー加速度)に応じて、エンジンやモータの生成トルクを低減させることにより、ドライバがステアリング操作を開始したときに減速度を迅速に車両に生じさせ、十分な荷重を操舵輪である前輪に迅速に加えるようにした車両用挙動制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置によれば、ステアリング操作の開始時に荷重を前輪に迅速に加えることにより、前輪と路面との間の摩擦力が増加し、前輪のコーナリングフォースが増大するので、カーブ進入初期における車両の回頭性が向上し、ステアリングの切り込み操作に対する応答性(つまり操安性)が向上する。これにより、ドライバの意図に沿った車両姿勢の制御を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6112304号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されたような、ドライバのステアリング操作に応じて車両減速度を生じさせる制御(車両姿勢制御)を、ドライバによるアクセル操作時やブレーキ操作時に実行すると、ドライバに違和感を与えてしまう場合がある。特に、ドライバによるアクセル踏込量やブレーキ踏込量が大きいときに車両姿勢制御によって車両に減速度を生じさせると、ドライバが意図しない減速度が生じているような違和感、具体的にはブレーキの引き摺りが生じているような違和感を、ドライバに与えてしまう場合がある。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、操舵角関連値に応じて減速度を発生させる車両姿勢制御を行う車用の制御装置において、アクセル操作時やブレーキ操作時に車両姿勢制御の実行を制限して、ドライバに与える違和感を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は車両の制御装置であって、アクセル開度センサと、ブレーキ踏込量センサと、ドライバにより操作されるステアリングホイールと、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、操舵角センサの検出値に基づく操舵速度が閾値以上となったことが判定されたときに、車両減速度を発生させることで車両姿勢を制御する車両姿勢制御手段と、アクセル開度センサの検出値に基づくアクセル踏込量及びブレーキ踏込量センサの検出値に基づくブレーキ踏込量のうちの一方が第1値であるときは、当該第1値よりも低い第2値であるときよりも、閾値を大きい値に変更する閾値変更手段と、を有し、閾値変更手段は、アクセル踏込量が、増加方向に変化していることが判定された場合には、増加方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のアクセル踏込量に対して前記閾値を大きな値に変更し、及び/又は、閾値変更手段は、ブレーキ踏込量が、増加方向に変化していることが判定された場合には、増加方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のブレーキ踏込量に対して閾値を大きな値に変更することを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、アクセル踏込量又はブレーキ踏込量が第1値であるときは、当該第1値よりも低い第2値であるときよりも、車両姿勢制御に関する閾値を大きい値に変更するので、車両姿勢制御が実行されにくくなる。したがって、本発明によれば、アクセル踏込量又はブレーキ踏込量大きいときに、車両姿勢制御の介入によりドライバに与える違和感、具体的にはドライバが意図しない減速度が生じているような違和感(特にブレーキの引き摺りが生じているような違和感)を、適切に抑制することができる。
【0009】
他の観点では、本発明は、車両の制御装置であって、アクセル開度センサと、ブレーキ踏込量センサと、ドライバにより操作されるステアリングホイールと、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、操舵角センサの検出値に基づく操舵速度が閾値以上となったことが判定されたときに、車両減速度を発生させることで車両姿勢を制御する車両姿勢制御手段と、閾値変更手段と、を有し、閾値変更手段は、ブレーキ踏込量センサの検出値に基づくブレーキ踏込量に基づいて、ブレーキ踏込量が、増加方向に変化していることが判定された場合には、増加方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のブレーキ踏込量に対して閾値を大きな値に変更することを特徴とする
【0012】
他の観点では、上記目的を達成するために、本発明は車両の制御装置であって、アクセル開度センサと、ブレーキ踏込量センサと、ドライバにより操作されるステアリングホイールと、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、操舵角センサの検出値に基づく操舵速度が閾値以上となったことが判定されたときに、車両減速度の付与を開始することで車両姿勢を制御する車両姿勢制御手段と、値変更手段と、を有し、閾値変更手段は、アクセル開度センサの検出値に基づくアクセル踏込量に基づいて、アクセル踏込量が、増加方向に変化していることが判定された場合には、増加方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のアクセル踏込量に対して閾値を大きな値に変更することを特徴とする車両の制御装置
【0013】
また、本発明において、好ましくは、閾値変更手段は、更に、少なくともアクセル踏込量びブレーキ踏込量うちの一方が増加方向に変化しているときには、そうでないときよりも、閾値を大きい値に変更する。
このように構成された本発明によれば、アクセルペダルやブレーキペダルの踏み込み操作がなされている最中に、車両姿勢制御の介入によりドライバに与える違和感を適切に抑制することができる。
【0014】
また、本発明において、好ましくは、閾値変更手段は、更に、少なくともアクセル踏込量びブレーキ踏込量うちの一方が減少方向に変化しているときには、そうでないときよりも、閾値を小さい値に変更する。
このように構成された本発明では、アクセルペダルやブレーキペダルの踏み戻し操作がなされている最中においては、車両姿勢制御の介入時に違和感を与えにくいので、閾値を小さい値に変更して車両姿勢制御を実行されやすくする。
【0015】
好適な例では、操舵装置は、ドライバにより操作されるステアリングホイールを含み、車両姿勢制御手段は、ステアリングホイールの切り込み操作により操舵速度閾値以上となったときに車両姿勢を制御するのがよい。
【0016】
好適な例では、閾値変更手段は、アクセル踏込量が、減少方向に変化していることが判定された場合には、減少方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のアクセル踏込量に対して閾値を小さな値に変更し、及び/又は、閾値変更手段は、ブレーキ踏込量が、減少方向に変化していることが判定された場合には、減少方向に変化していることが判定されていない場合よりも、同一のブレーキ踏込量に対して閾値を小さな値に変更するのがよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、操舵角関連値に応じて減速度を発生させる車両姿勢制御を行う車用の制御装置において、アクセル操作時やブレーキ操作時に車両姿勢制御の実行を制限して、ドライバに与える違和感を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態による姿勢制御処理のフローチャートである。
図4】本発明の実施形態による、アクセル踏込量に応じた車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップである。
図5】本発明の実施形態による、ブレーキ踏込量に応じた車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップである。
図6】本発明の実施形態によるトルク低減量決定処理のフローチャートである。
図7】本発明の実施形態による目標付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図8】本発明の実施形態の変形例1による車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップである。
図9】本発明の実施形態の変形例2による車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップである。
図10】本発明の実施形態の変形例3による車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置を説明する。
【0020】
<システム構成>
まず、図1により、本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両のシステム構成を説明する。図1は、本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
【0021】
図1において、符号1は、本実施形態による車両の制御装置を搭載した車両を示す。車両1の車体前部には、駆動輪(図1の例では左右の前輪2)を駆動する駆動力源として、エンジン4が搭載されている。エンジン4は、ガソリンエンジンである。
【0022】
また、車両1は、操舵装置に含まれるステアリングホイール6に連結されたステアリングコラム(図示せず)の回転角度を検出する操舵角センサ8、図示しないアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ10、車速を検出する車速センサ12、及び、図示しないブレーキペダルが踏み込まれている量(ブレーキ踏込量)を検出するブレーキ踏込量センサ13を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値をPCM(Power-train Control Module)14に出力する。なお、アクセル開度センサ10により検出されるアクセル開度は、アクセルペダルが踏み込まれている量、つまりアクセル踏込量に対応する。よって、以下では、アクセル開度のことを適宜「アクセル踏込量」と言い換える。
【0023】
次に、図2により、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を説明する。図2は、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
本実施形態によるPCM14(車両の制御装置)は、上述したセンサ8〜12の検出信号の他、エンジン4の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4の各部(典型的には点火プラグ5であり、その他には、スロットルバルブ、ターボ過給機、可変バルブ機構、燃料噴射弁、EGR装置等)に対する制御を行うべく、制御信号を出力する。
【0024】
PCM14は、アクセルペダルの操作を含む車両1の運転状態に基づき基本目標トルクを決定する基本目標トルク決定部16と、操舵装置の操舵角に関連する値(操舵角関連値)に基づき、車両姿勢の制御に必要な減速度を発生させるためのエンジン4のトルク低減量を決定するトルク低減量決定部18と、基本目標トルクやトルク低減量に基づき最終目標トルクを決定する最終目標トルク決定部20と、最終目標トルクを出力させるようにエンジン4を制御するエンジン制御部22とを有する。本実施形態では、PCM14は、ステアリングホイール6の切り込み操作時に、具体的にはステアリングホイール6の操舵角に関連する操舵角関連値が閾値(後述する開始閾値)以上となったときに、車両減速度を発生させることで車両姿勢を制御するようにする。また、本実施形態では、操舵角関連値としてステアリングホイール6の操舵速度を用いる。
【0025】
これらのPCM14の各構成要素は、1つ又は複数のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
詳細は後述するが、PCM14は本発明における車両の制御装置に相当し、車両姿勢制御手段及び閾値変更手段として機能する。
【0026】
<本実施形態による制御内容>
次に、図3乃至図7を参照して、本発明の実施形態において車両の制御装置が行う制御について説明する。
【0027】
図3は、本発明の実施形態による姿勢制御処理のフローチャートである。図4は、本発明の実施形態による、アクセル踏込量(アクセル操作量)に応じた車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップである。図5は、本発明の実施形態による、ブレーキ踏込量(ブレーキ操作量)に応じた車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップである。図6は、本発明の実施形態によるトルク低減量決定処理のフローチャートである。図7は、本発明の実施形態による目標付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0028】
図3の姿勢制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両の制御装置に電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。
姿勢制御処理が開始されると、図3に示すように、ステップS1において、PCM14は車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、PCM14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセル開度(アクセル踏込量)、車速センサ12が検出した車速、ブレーキ踏込量センサ13が検出したブレーキ踏込量、車両1の変速機に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0029】
次に、ステップS2において、PCM14の基本目標トルク決定部16は、ステップS1において取得されたアクセルペダルの操作を含む車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、基本目標トルク決定部16は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を決定する。
【0030】
次に、ステップS3において、基本目標トルク決定部16は、ステップS2において決定した目標加速度を実現するためのエンジン4の基本目標トルクを決定する。この場合、基本目標トルク決定部16は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4が出力可能なトルクの範囲内で、基本目標トルクを決定する。
【0031】
また、ステップS2〜S3の処理と並行して、ステップS4〜S5の処理が行われる。まず、ステップS4において、PCM14のトルク低減量決定部18は、アクセル踏込量又はブレーキ踏込量に基づき、車両姿勢制御開始条件を規定する開始閾値を決定する。この開始閾値は、車両姿勢制御を開始させるに当たって、操舵速度を判定するための閾値である(操舵速度の判定自体は、後述するトルク低減量決定処理において行われる)。ここで、図4及び図5を参照して、開始閾値について具体的に説明する。
【0032】
図4は、アクセル踏込量(横軸)と開始閾値(縦軸)との関係を定めたマップを示している。図4に示すように、本実施形態では、基本的には、アクセル踏込量が大きいほど、開始閾値を大きな値に設定している。詳しくは、(1)アクセル踏込量が所定値A11以上で所定値A12未満である場合には、アクセル踏込量が大きいほど、開始閾値を大きな値に設定し、(2)アクセル踏込量が所定値A11未満である場合には、開始閾値を一定値に設定、具体的には所定値A11以上で所定値A12未満である場合に適用される値よりも小さい値を一定値として設定し、(3)アクセル踏込量が所定値A12以上である場合には、開始閾値を一定値に設定、具体的には所定値A11以上で所定値A12未満である場合に適用される値よりも大きな値を一定値として設定している。トルク低減量決定部18は、このようなマップを参照して、アクセル開度センサ10によって検出された現在のアクセル踏込量に対応する開始閾値を決定する。
【0033】
ここで、車両姿勢制御開始条件は、操舵速度が開始閾値以上である場合に成立するようになっているが、上記のようにアクセル踏込量に応じて開始閾値を大きくすると、操舵速度が開始閾値以上になりにくくなるため、車両姿勢制御開始条件が成立しにくくなる、すなわち車両姿勢制御が実行されにくくなる。本実施形態では、アクセル踏込量が大きいときに、車両姿勢制御の介入による違和感を抑制すべく、開始閾値を大きな値に設定して、車両姿勢制御が実行されにくくしている。
【0034】
また、図4に示した所定値A11と所定値A12は、車両姿勢制御の介入による違和感が発生し得るアクセル踏込量に基づき設定される。例えば、所定値A11は5〜15%程度のアクセル開度に対応するアクセル踏込量に設定され、所定値A12は50〜70%程度のアクセル開度に対応するアクセル踏込量に設定される。
【0035】
次に、図5は、ブレーキ踏込量(横軸)と開始閾値(縦軸)との関係を定めたマップを示している。図5に示すように、本実施形態では、基本的には、ブレーキ踏込量が大きいほど、開始閾値を大きな値に設定している。詳しくは、(1)ブレーキ踏込量が所定値B11以上で所定値B12未満である場合には、ブレーキ踏込量が大きいほど、開始閾値を大きな値に設定し、(2)ブレーキ踏込量が所定値B11未満である場合には、開始閾値を一定値に設定、具体的には所定値B11以上で所定値B12未満である場合に適用される値よりも小さい値を一定値として設定し、(3)ブレーキ踏込量が所定値B12以上である場合には、開始閾値を一定値に設定、具体的には所定値B11以上で所定値B12未満である場合に適用される値よりも大きな値を一定値として設定している。トルク低減量決定部18は、このようなマップを参照して、ブレーキ踏込量センサ13によって検出された現在のブレーキ踏込量に対応する開始閾値を決定する。
【0036】
ここで、車両姿勢制御開始条件は、操舵速度が開始閾値以上である場合に成立するようになっているが、上記のようにブレーキ踏込量に応じて開始閾値を大きくすると、操舵速度が開始閾値以上になりにくくなるため、車両姿勢制御開始条件が成立しにくくなる、すなわち車両姿勢制御が実行されにくくなる。本実施形態では、ブレーキ踏込量が大きいときに、車両姿勢制御の介入による違和感を抑制すべく、開始閾値を大きな値に設定して、車両姿勢制御が実行されにくくしている。
【0037】
また、図5に示した所定値B11と所定値B12は、車両姿勢制御の介入による違和感が発生し得るブレーキ踏込量に基づき設定される。例えば、所定値B11は10〜20%程度のブレーキ開度に対応するブレーキ踏込量に設定され、所定値B12は40〜60%程度のブレーキ開度に対応するブレーキ踏込量に設定される。
【0038】
なお、トルク低減量決定部18は、ドライバがアクセルペダルを操作していない場合には、図4に示すマップより開始閾値を決定しない、つまりアクセル踏込量に基づき開始閾値を決定しない。この場合には、トルク低減量決定部18は、図5に示すマップを用いて、ブレーキ踏込量に基づき開始閾値を決定する。他方で、トルク低減量決定部18は、ドライバがブレーキペダルを操作していない場合には、図5に示すマップより開始閾値を決定しない、つまりブレーキ踏込量に基づき開始閾値を決定しない。この場合には、トルク低減量決定部18は、図4に示すマップを用いて、アクセル踏込量に基づき開始閾値を決定する。
このように、トルク低減量決定部18は、基本的には、図4に示すマップ及び図5に示すマップのいずれか一方を用いて開始閾値を決定する。原則、ドライバは、アクセルペダル及びブレーキペダルの両方を操作することはないからである。ただし、ドライバがアクセルペダル及びブレーキペダルの両方を操作した場合には、トルク低減量決定部18は、図4に示すマップよりアクセル踏込量に基づき決定された開始閾値と、図5に示すマップよりブレーキ踏込量に基づき決定された開始閾値とのうちの大きい方の開始閾値を適用する。また、ドライバがアクセルペダル及びブレーキペダルのいずれも操作していない場合には、トルク低減量決定部18は、アクセル踏込量やブレーキ踏込量によらない開始閾値(例えば事前に定められた固定値)を適用する。
【0039】
図3に戻ると、ステップS5において、PCM14のトルク低減量決定部18は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するためのトルク低減量を決定するトルク低減量決定処理を実行する。このトルク低減量決定処理については、詳細は後述する。
【0040】
次いで、ステップS6において、PCM14の最終目標トルク決定部20は、ステップS3において決定した基本目標トルクから、ステップS5のトルク低減量決定処理において決定したトルク低減量を減算することにより、最終目標トルクを決定する。ステップS5のトルク低減量決定処理において、トルク低減量が0に決定された場合には、最終目標トルク決定部20は、ステップS3において決定した基本目標トルクをそのまま最終目標トルクとして決定する。車両姿勢制御が実行されない通常時には、このように、基本目標トルクがそのまま最終目標トルクとして決定されることとなる。
【0041】
次いで、ステップS7において、PCM14のエンジン制御部22は、ステップS6において決定した最終目標トルクを出力させるようにエンジン4を制御する。具体的には、エンジン制御部22は、ステップS6において決定した最終目標トルクと、エンジン回転数とに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量(例えば、空気充填量、燃料噴射量、吸気温度、酸素濃度等)を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素のそれぞれを駆動する各アクチュエータを制御する。この場合、エンジン制御部22は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定して制御を実行する。
特に、エンジン制御部22は、トルク低減量が適用された最終目標トルクを実現させるときには、トルク低減量が適用されていない、基本目標トルクとしての最終目標トルクを実現させるときよりも、点火プラグ5の点火時期をリタード(遅角)させることで、エンジン4のトルクを低減させるようにする。なお、エンジン4がディーゼルエンジンである場合には、トルク低減量が適用された最終目標トルクを実現させるときには、トルク低減量が適用されていない、基本目標トルクとしての最終目標トルクを実現させるときよりも、燃料噴射量を減量することで、エンジン4のトルクを低減させるようにする。
このようなステップS7の後、PCM14は、姿勢制御処理を終了する。
【0042】
次に、図6を参照して、トルク低減量決定処理について説明する。このトルク低減量決定処理は、図3のステップS5で実行される。
【0043】
トルク低減量決定処理が開始されると、ステップS21において、トルク低減量決定部18は、現在、車両姿勢制御が実行されていないか否かを判定する。具体的には、前回の処理において0より大きいトルク低減量が決定された場合、車両姿勢制御が実行されていると判定し、前回の処理においてトルク低減量が決定されていないかトルク低減量が0であった場合、車両姿勢制御が実行されていないと判定する。
【0044】
その結果、車両姿勢制御が実行されていない場合、ステップS22に進み、トルク低減量決定部18は、車両姿勢制御開始条件が成立したか否かを判定する。具体的には、トルク低減量決定部18は、操舵速度(例えばステップS1において取得した操舵角から算出した操舵角の変化速度)が、図3のステップS4において設定した開始閾値以上であるか否かを判定する(図4も参照)。その結果、操舵速度が開始閾値以上である場合、つまり車両姿勢制御開始条件が成立した場合(ステップS22:Yes)、ステップS23に進む。これに対して、操舵速度が開始閾値未満である場合、つまり車両姿勢制御開始条件が成立していない場合(ステップS22:No)、処理は終了する。
【0045】
次いで、ステップS23において、トルク低減量決定部18は、操舵速度が増加しているか否かを判定する。その結果、操舵速度が増加している場合、ステップS24に進み、トルク低減量決定部18は、操舵速度に基づき目標付加減速度を設定する。この目標付加減速度は、ドライバの意図した車両挙動を正確に実現するために、ステアリング操作に応じて車両に付加すべき減速度である。
基本的には、トルク低減量決定部18は、図7のマップに示す目標付加減速度と操舵速度との関係に基づき、現在の操舵速度に対応する目標付加減速度を取得する。図7において、横軸は操舵速度を示し、縦軸は目標付加減速度を示す。図7に示すように、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する目標付加減速度は、所定の上限値(例えば0.5m/s2)に漸近する。具体的には、操舵速度が増大するほど目標付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。
【0046】
他方で、ステップS23の判定の結果、操舵速度が増加していない場合、つまり操舵速度が減少している場合又は変化していない場合、ステップS25に進む。ステップS25では、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度を今回の処理における付加減速度として決定する。
【0047】
また、ステップS21の判定の結果、車両姿勢制御が既に実行されている場合、ステップS26に進む。ステップS26において、トルク低減量決定部18は、車両姿勢制御終了条件が成立したか否かを判定する。具体的には、トルク低減量決定部18は、操舵速度が所定の終了閾値未満であるか否かを判定する。その結果、操舵速度が終了閾値以上である場合、つまり車両姿勢制御終了条件が成立していない場合(ステップS26:No)、ステップS23に進む。この場合には、PCM50は、車両姿勢制御を継続すべく、上記したステップS23以降の処理を行う。
【0048】
これに対して、操舵速度が終了閾値未満である場合、つまり車両姿勢制御終了条件が成立した場合(ステップS26:Yes)、ステップS27に進む。ステップS27では、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度を今回の処理において減少させる量(減速度減少量)を取得する。1つの例では、トルク低減量決定部18は、目標付加減速度と同様にして、図7に示したようなマップを用いて、操舵速度に応じた減少率に基づき、減速度減少量を算出する。他の例では、トルク低減量決定部18は、予めメモリ等に記憶されている一定の減少率(例えば0.3m/s3)に基づき、減速度減少量を算出する。
【0049】
次いで、ステップS28において、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度からステップS27において取得した減速度減少量を減算することにより、今回の処理における付加減速度を決定する。
【0050】
ステップS24、S25、又はS28の後、ステップS29において、トルク低減量決定部18は、ステップS24、S25、又はS28において決定した今回の付加減速度に基づき、トルク低減量を決定する。具体的には、トルク低減量決定部18は、今回の付加減速度を実現するために必要となるトルク低減量を、ステップS1において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。このステップS29の後、トルク低減量決定部18はトルク低減量決定処理を終了し、図3のメインルーチンに戻る。
【0051】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態による車両の制御装置は、車両姿勢制御を実行するか否かを決定すべく操舵速度を判定するための開始閾値を、少なくともアクセル踏込量及びブレーキ踏込量のうちの一方に基づき設定する。具体的には、アクセル踏込量が所定値A11以上である場合には所定値A11未満である場合よりも開始閾値を大きくすると共に、アクセル踏込量が所定値A12以上である場合には所定値A12未満である場合よりも開始閾値を大きくし、また、ブレーキ踏込量が所定値B11以上である場合には所定値B11未満である場合よりも開始閾値を大きくすると共に、ブレーキ踏込量が所定値B12以上である場合には所定値B12未満である場合よりも開始閾値を大きくする。換言すると、アクセル踏込量又はブレーキ踏込量が大きいときは、そうでないときよりも、開始閾値を大きい値に変更する(更に換言すると、アクセル踏込量又はブレーキ踏込量が或る値であるときは、当該値よりも低い値であるときよりも、開始閾値を大きい値に変更する)。
【0052】
このように開始閾値を大きくすると、操舵速度が開始閾値以上になりにくくなるため、車両姿勢制御開始条件が成立しにくくなる、すなわち車両姿勢制御が実行されにくくなる。その結果、本実施形態によれば、アクセル踏込量又はブレーキ踏込量が大きいときに車両姿勢制御が実行されにくくなり、車両姿勢制御の介入によりドライバに与える違和感、具体的にはドライバが意図しない減速度が生じているような違和感(特にブレーキの引き摺りが生じているような違和感)を、適切に抑制することができる。
【0053】
<変形例>
以下では、上記した実施形態の変形例について説明する。
【0054】
(変形例1)
変形例1は、車両姿勢制御において使用する開始閾値を定めたマップが上記した実施形態と異なる。図8は、この変形例1による車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップを示している。具体的には、図8(a)は、アクセル踏込量に応じた開始閾値を定めたマップであり、図8(b)は、ブレーキ踏込量に応じた開始閾値を定めたマップである。変形例1では、図8(a)に示すように、全車速域において、アクセル踏込量が大きくなるにつれて開始閾値が線形にて大きくなっており、また、図8(b)に示すように、全車速域において、ブレーキ踏込量が大きくなるにつれて開始閾値が線形にて大きくなっている。このような変形例1によっても、アクセル踏込量又はブレーキ踏込量が大きいときの車両姿勢制御の実行を適切に抑制することができる。
【0055】
(変形例2)
変形例2も、車両姿勢制御において使用する開始閾値を定めたマップが上記した実施形態と異なる。図9は、この変形例2による車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップを示している。具体的には、図9(a)は、アクセル踏込量に応じた開始閾値を定めたマップであり、図9(b)は、ブレーキ踏込量に応じた開始閾値を定めたマップである。変形例2では、図9(a)に示すように、アクセル踏込量が所定値A2以上である場合には、アクセル踏込量が所定値A2未満である場合よりも開始閾値が大きくなっており、また、図9(b)に示すように、ブレーキ踏込量が所定値B2以上である場合には、ブレーキ踏込量が所定値B2未満である場合よりも開始閾値が大きくなっている。特に、変形例2では、アクセル踏込量が所定値A2以上である場合とアクセル踏込量が所定値A2未満である場合の両方とも、開始閾値がアクセル踏込量によらずに一定値となっているが、アクセル踏込量が所定値A2以上である場合にはアクセル踏込量が所定値A2未満である場合よりも開始閾値が大きくなっている。加えて、ブレーキ踏込量が所定値B2以上である場合とブレーキ踏込量が所定値B2未満である場合の両方とも、開始閾値がブレーキ踏込量によらずに一定値となっているが、ブレーキ踏込量が所定値B2以上である場合にはブレーキ踏込量が所定値B2未満である場合よりも開始閾値が大きくなっている。例えば、アクセル踏込量が所定値A2以上である場合及びブレーキ踏込量が所定値B2以上である場合に適用される開始閾値には、通常のステアリング操作では到達し得ない操舵速度に対応する値が適用される。こうした場合、アクセル踏込量が所定値A2以上となる領域R1及びブレーキ踏込量が所定値B2以上となる領域R2において、車両姿勢制御の実行を実質的に禁止することができる。
なお、アクセル踏込量に適用する所定値A2は、上記した所定値A12と同様に、50〜70%程度のアクセル開度に対応するアクセル踏込量に設定される。また、ブレーキ踏込量に適用する所定値B2は、上記した所定値B12と同様に、40〜60%程度のブレーキ開度に対応するブレーキ踏込量に設定される。
【0056】
(変形例3)
変形例3も、車両姿勢制御において使用する開始閾値を定めたマップが上記した実施形態と異なる。図10は、この変形例3による車両姿勢制御の開始閾値を定めたマップを示している。具体的には、図10(a)は、アクセル踏込量に応じた開始閾値を定めたマップであり、図10(b)は、ブレーキ踏込量に応じた開始閾値を定めたマップである。
図10(a)において、実線で示すグラフG11は、アクセル踏込量がほぼ変化していない場合に適用するマップを示し(上記した実施形態と同様のマップ(図4参照)に相当する)、破線で示すグラフG12は、アクセル踏込量が増加方向に変化している場合に適用するマップを示し、一点鎖線で示すグラフG13は、アクセル踏込量が減少方向に変化している場合に適用するマップを示している。すなわち、変形例3では、アクセルペダルの踏み込みがなされている場合には、アクセルペダルの踏み込み及び踏み戻しがなされていない場合よりも開始閾値を大きくし、また、アクセルペダルの踏み戻しがなされている場合には、アクセルペダルの踏み込み及び踏み戻しがなされていない場合よりも開始閾値を小さくする。この場合、アクセル踏込量の増加方向への変化率が大きいほど、開始閾値をより大きくするのがよく、また、アクセル踏込量の減少方向への変化率が大きいほど、開始閾値をより小さくするのがよい。このような変形例3では、アクセルペダルの踏み込みがなされている場合には、車両姿勢制御の介入時に違和感を与えやすくなるので、車両姿勢制御が実行されにくくし、また、アクセルペダルの踏み戻しがなされている場合には、車両姿勢制御の介入時に違和感を与えにくくなるので、車両姿勢制御が実行されやすくしている。
一方、図10(b)において、実線で示すグラフG21は、ブレーキ踏込量がほぼ変化していない場合に適用するマップを示し(上記した実施形態と同様のマップ(図5参照)に相当する)、破線で示すグラフG22は、ブレーキ踏込量が増加方向に変化している場合に適用するマップを示し、一点鎖線で示すグラフG23は、ブレーキ踏込量が減少方向に変化している場合に適用するマップを示している。すなわち、変形例3では、ブレーキペダルの踏み込みがなされている場合には、ブレーキペダルの踏み込み及び踏み戻しがなされていない場合よりも開始閾値を大きくし、また、ブレーキペダルの踏み戻しがなされている場合には、ブレーキペダルの踏み込み及び踏み戻しがなされていない場合よりも開始閾値を小さくする。この場合、ブレーキ踏込量の増加方向への変化率が大きいほど、開始閾値をより大きくするのがよく、また、ブレーキ踏込量の減少方向への変化率が大きいほど、開始閾値をより小さくするのがよい。このような変形例3では、ブレーキペダルの踏み込みがなされている場合には、車両姿勢制御の介入時に違和感を与えやすくなるので、車両姿勢制御が実行されにくくし、また、ブレーキペダルの踏み戻しがなされている場合には、車両姿勢制御の介入時に違和感を与えにくくなるので、車両姿勢制御が実行されやすくしている。
【0057】
(変形例4)
変形例4では、上記した実施形態や変形例で示したアクセル踏込量又はブレーキ踏込量に応じた開始閾値の変更に加えて、車速に応じた開始閾値の変更も行う。具体的には、変形例4では、車速が所定車速未満である場合には、車速が所定車速以上である場合よりも、開始閾値を大きい値に変更する。換言すると、車速が低い場合には、そうでない場合よりも、開始閾値を大きい値に変更する。このような車速に応じた開始閾値の変更は、図10(a)に示したグラフG11からグラフG12への変更、及び図10(b)に示したグラフG21からグラフG22への変更と同様の態様にて行えばよい。
こうして車速に応じて開始閾値を変更することにより、低車速域において車両姿勢制御が実行されにくくなり、低車速域での車両姿勢制御の介入によりドライバに与える違和感、具体的にはブレーキの引き摺りが生じているような違和感を、適切に抑制することができる。
なお、上記した変形例4を実施する場合、車速に代えて、エンジン回転数や、トランスミッションの出力回転数や、Gセンサが検出した加速度などを用いてもよい。これらのパラメータは、車速を一義的に表すものであり、車速関連値に相当する。
【0058】
(変形例5)
上記した実施形態では、操舵角関連値として操舵速度を用いて車両姿勢制御を実行する例を示したが、操舵速度に代えて、ヨーレートや横加速度に基づき車両姿勢制御を実行するようにしてもよい。これらの操舵速度、ヨーレート、横加速度は、本発明における「操舵角関連値」の一例に相当する。
【0059】
(変形例6)
上記した実施形態では、アクセル開度センサ10により検出されたアクセル踏込量(アクセル開度)そのものを、アクセル踏込量関連値として用いる例を示したが、アクセル踏込量に代えて、エアフローセンサにより検出された吸入空気量や、スロットル開度センサにより検出されたスロットルバルブの開度や、吸気バルブの閉弁時期等の吸気量に対応する値や、燃料噴射弁による燃料噴射量や、点火プラグによる点火時期の進角量等のエンジン負荷に対応する値を、アクセル踏込量関連値として用いてもよい。
また、上記した実施形態では、ブレーキ踏込量センサ13により検出されたブレーキ踏込量そのものを、ブレーキ踏込量関連値として用いる例を示したが、ブレーキ踏込量に代えて、ブレーキ装置において、マスターシリンダからホイールシリンダに供給される油圧(制動油圧/ブレーキ液圧)や、マスターバックに設けられた圧力センサによって検出されたマスターバック負圧などを、ブレーキ踏込量関連値として用いてもよい。
【0060】
(変形例7)
上記した実施形態では、エンジン4の出力トルク(駆動力)を低減させることで車両減速度を発生させる車両姿勢制御を示したが、エンジン4の出力トルクを低減させる代わりに、ブレーキ装置により制動力を付与することで車両減速度を発生させる車両姿勢制御を実行してもよい。更に他の例では、ハイブリッド車両や電気自動車が有するモータの出力トルクを低減させることで、車両減速度を発生させる車両姿勢制御を実行してもよい。要は、所望の車両減速度を発生させるべく、車両に最終的に付与される駆動力(車輪に伝達される駆動力)を低減させればよい。
【符号の説明】
【0061】
1 車両
2 前輪
4 エンジン
6 ステアリングホイール
8 操舵角センサ
10 アクセル開度センサ
12 車速センサ
13 ブレーキ踏込量センサ
14 PCM
16 基本目標トルク決定部
18 トルク低減量決定部
20 最終目標トルク決定部
22 エンジン制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10