(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
3軸方向のコンクリート部材(水平方向のX軸方向及びY軸方向の梁部材と、鉛直方向(Z軸方向)の柱部材)を接合した柱梁接合部において、斜引張力によって生じる斜めせん断ひび割れが発生するため、コンクリート部材が損傷を受けてひび割れが拡大して粘りのない脆性的破壊を引き起こし、柱梁接合部の破壊が直ちに構造骨組の崩壊に繋がり、やがて構造物全体が致命的なせん断破壊に至ることが古くから多くの研究によって証明されている。
【0003】
この柱梁接合部における斜めひび割れの発生を防止するために、柱梁接合部を補強する種々の方法が以下に示す特許文献に開示されている。
【0004】
RC造に関しては、例えば、特許文献1(特開2005−23603号公報)に示された補強方法は、コンクリート構造物の柱梁接合部において、柱を挟んで同一方向に配置された一対の梁のそれぞれの端面から柱梁接合部内に延びる上部梁主筋が、他方の梁の端面に向かって斜め下方に延びて、他方の梁の端面から水平に内部に向かって定着されて下部梁主筋となり、柱を挟んで同一方向に配置された一対の梁のそれぞれの端面から柱梁接合部内に延びる下部梁主筋が、他方の梁の端面に向かって斜め上方に延びて、他方の梁の端面から水平に内部に向かって定着されて上部梁主筋となることによって、柱梁接合部に生じる引張主応力を圧縮主応力に変換し、引張主応力を低減させると共に、圧縮主応力を増大させるものである。
【0005】
また、特許文献2(特開2017−222996号公報)は、コンクリート製柱の柱主筋とコンクリート製梁の梁主筋とが配筋された接合部と、接合部の外側から接合部へプレストレスを与える鋼製部材と、を有する柱梁の接合部構造を開示している。また、同文献は、接合部が、コンクリート製柱及びコンクリート製梁が接合されるプレキャストコンクリート製の接合部材であること、及び、コンクリート製柱、コンクリート製梁はプレキャストコンクリート製であることを開示している。
【0006】
PC造に関しては、特許文献3(特許第5612231号公報)において、プレキャストコンクリート部材からなる柱と梁を、パネルゾーン(柱梁接合部)を貫通する2次ケーブルによって圧着接合して一体化するPC構造の2段階非線形弾性耐震設計法が開示されている。この2段階非線形弾性耐震設計法によれば、柱梁圧着接合部において、所定の地震荷重設計値までは、フルプレストレスの接合状態とし、所定の地震荷重設計値を超える極大地震が襲来した場合には、パーシャル・プレストレス接合の状態とすることによって主要構造部材(柱、梁、パネルゾーン)に致命的な損傷が発生するのを防ぐことができる。
【0007】
一方で、鉄骨造部材の両端にPC造部材を接合した複合構造梁と柱を接合した構造において、柱とPC造部材を貫通する緊張鋼材を鉄骨造部の各端部に緊張定着させることによって柱と梁を接合すると共に、PC造部材と鉄骨造部材とを接合することが特許文献4(特開2005−30151号公報)に開示されている。
【0008】
また、両端部のPC造部材と中央部の鉄骨造部材からなる複合構造梁が柱に設けた顎に載せてあり、その顎が梁のせん断力を負担しており、鉄骨造部材の両端部には接合用アンカープレートが設けてあり、PC造部材と鉄骨造部材とが機械式継手と接合用アンカープレートで接合してあり、かつ、PC造部材には緊張鋼材が配設され、この緊張鋼材の一端が鉄骨造部材の接合用アンカープレートに緊張定着してあり、他端が柱梁接合部を貫通して隣接スパンの梁の鉄骨造部材の接合用アンカープレート、若しくは、柱に緊張定着してあり、緊張鋼材量が曲げ応力に対応するように決められており、機械式継手がせん断応力の一部を負担する複合構造梁を用いた建物構造が特許文献5(特許第4888915号公報)に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1においては、一方の梁端から主筋を柱梁接合部に斜めに延ばして他方の梁端に定着することによって引張主応力を低減させている。しかしながら、周知のように、RC構造では、鉄筋がひび割れの発生を防止することができず、ひび割れが発生してから鉄筋がひび割れの進展を抑制し、ひび割れ幅の拡大を抑止する役割を担うのみである。つまり、鉄筋がひび割れの発生を積極的に防止する役割を果たすことができず、ひび割れが発生してから初めてひび割れの拡大を抑制するものにすぎない。
【0011】
従って、特許文献1に示されているように鉄筋を配置しても、柱梁接合部に発生する斜めひび割れを積極的に防ぐことはできず、あくまでもひび割れが発生してから、進展しないようにする消極的な方法にすぎないため、地震荷重を繰り返し受けると、斜めひび割れの発生により柱梁接合部の耐震性及び耐久性の低下が生じる。
【0012】
特許文献2においては、柱梁接合部にプレストレスを与えて斜めひび割れを抑制することとしているが、柱梁接合部以外の部材がRC部材となっている。地震荷重は、柱梁接合部だけでなく、その周囲の柱端部及び梁端部にも大きな応力を発生させ、ひび割れを起こさせる。特許文献2に記載の構造では、地震荷重によって柱端部及び梁端部にひび割れが生じると共に、残留変形が生じるため、繰り返し地震荷重を受けると、ひび割れがさらに進展してしまい、部材が損傷して構造全体の耐久性が得られないという問題がある。
【0013】
また、特許文献2は、柱梁接合部において鉛直方向と水平方向に導入するプレストレスの割合や適用範囲等について言及していない。一般的に梁部材には作用荷重による軸力が殆ど生じないが、柱部材には、作用荷重による軸力が常に生じており、また、常時荷重(鉛直荷重)による軸力は圧縮であるが、作用荷重の種類によって軸力方向が一定ではなく変動し、地震や風等の偶発荷重(水平荷重)による軸力は圧縮と引張との2種類ある。特に、建物の外周に配置された外柱や隅柱に地震荷重によって大きな引抜力または圧縮力が発生することが多い。また、柱の軸力は、階層によって値が異なり、特に高層建物や超高層建物において、最上層と最下層との軸力の差は非常に大きく、作用荷重による柱軸力の大きさや方向(圧縮または引張)がまちまちであり、一定ではない。従って、水平方向(梁軸方向)と鉛直方向(柱軸方向)に適切な割合でプレストレスを導入する必要がある。
【0014】
特許文献3には、「パネルゾーン(柱と梁の接合部)において、スパン方向の大梁と長手方向の桁梁及び柱部材ともプレストレスを与えることによって、パネルゾーンはXYZ全ての方向から3次元的にプレストレス力を受けることになる。」と記載され、更に、「パネルゾーンに3次元的に軸圧縮を付加しているのでプレストレスによる復元力特性を有しているため、地震後の残留変形は全く生じない。従来の設計法によるRC構造およびPC構造のパネルゾーンが破壊することでエネルギーを吸収することと全く違う設計思想である。」と記載されている。
【0015】
この設計思想に基づいて柱梁接合部に3軸方向に予めプレストレスを導入することで、地震時に柱梁接合部に生じる斜め引張力を積極的に打ち消し、結果的に斜め引張力が生じることなくせん断破壊することを完全に回避でき、特許文献1に示されるような多くの斜め配筋を設ける必要がなくなる。また、柱梁接合部の周囲部材はPC部材であり、地震荷重時に一時ひび割れが発生したとしても、地震後にPC部材内に導入されているプレストレス力によってひび割れが閉じて部材が健全な状況に復帰し、柱梁接合部を保護する役割も果たし、特許文献2のような耐久性に劣ることを回避し、構造全体の耐久性を確保することができる。ところが、特許文献3は、3軸方向にプレストレスを導入する具体的な方法について言及していない。
【0016】
特許文献4及び特許文献5は、プレストレストコンクリートからなる端部と鉄骨からなる中央部とで形成された梁と、PC柱とで形成された複合(混合)構造によって、特許文献1と特許文献2に示す構造欠点を克服できるものである。しかし、中央鉄骨梁は、剛性が小さく変形しやすいため、梁上面に構築されるコンクリート製スラブにはひび割れが発生し、たわみが大きくなるという問題だけではなく、鉄骨梁が熱に弱いため、耐火被覆が必要であり、コストがかかる等の問題がある。
【0017】
また、構築方法としては、端部のコンクリート部材と中央の鉄骨部材とを連結した後に、緊張材を緊張してプレストレスを導入することにならざるを得ないため、コンクリート部材が緊張力によって縮もうとするが、鉄骨部材がそれを阻止し、結果的にコンクリート部材へのプレストレスの導入が困難となり、また、鉄骨部材に不適切な引張応力が生じるという問題もある。
【0018】
また、柱梁で先に形成されたラーメン構造骨組にPC緊張材を緊張定着してプレストレスを導入するによって、不静定2次応力が発生し、コンクリート部材に設計荷重の他に不適切な応力が余分に発生してしまう。部材断面に設計通りのプレストレスを導入するために、この不静定2次応力を打ち消すように、設計及び施工計画段階で詳細に検討する必要があり、設計及び施工において煩雑な手間がかかるばかりではなく、部材断面の納まり上、部材断面を大きくし、PC緊張鋼材量を増やすことが必要になる場合もある。
【0019】
本発明は、従来技術の上記問題点を解消し、柱梁接合部だけでなく、地震荷重時に大きな応力が発生する柱端部と梁端部にまでプレストレスを導入して3軸圧縮状態にし、また、地震荷重の影響を殆ど受けず常時荷重しか負担しない柱梁中央部をRC造とする複合構造を形成することで、鉄骨部材の欠点を克服し、合理的かつ経済的な複合構造及びその形成方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、柱梁接合部(パネルゾーン)の3軸圧縮状態における3方向のプレストレスを適切な割合とする複合構造及びその形成方法を提供する。
【0021】
さらに、本発明は、端部部材にプレストレスを導入した後に中央部材と接続して一体化することを可能にすることで、端部のプレストレス導入が中央部に全く影響せず、RC造の中央部材に不適切な引張応力が全く生じない複合構造及びその形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決する本願の第1の態様は、
鉛直方向(Z軸)に配置された柱と、平面2方向(X軸、Y軸)にそれぞれ配置された梁とで形成された建物構造において、
前記柱がPC造の柱端部材とRC造の柱中央部材とからなり、前記梁がPC造の梁端部材とRC造の梁中央部材とからなる複合構造とし、
前記柱端部材と前記梁端部材はいずれもプレキャスト部材であり、
前記柱端部材は、上層の柱下端部と、柱梁接合部と、下層の柱上端部とを構成し、
前記柱端部材を貫通して配設されたPC緊張材を緊張定着することによって前記柱端部材にプレストレスが導入され、
前記梁端部材と前記柱端部材とを貫通して配設されたPC緊張材を緊張定着することによって、前記梁端部材及び前記柱端部材に前記X軸方向とY軸方向にそれぞれプレストレスが導入され、
前記柱端部材と前記梁端部材がPC圧着接合により一体化されると共に、前記柱梁接合部を3軸圧縮状態としたことを特徴とする建物構造である。
【0023】
また、本願の第2の態様は、
前記梁中央部材は、現場打ちコンクリートで形成され、鉄筋接続により前記梁端部材と一体化され、
前記柱中央部材は、現場打ちコンクリート又はプレキャストコンクリートで形成され、鉄筋接続により前記柱端部材と一体化されていることを特徴とする上記第1の態様に記載の建物構造である。
【0024】
また、本願の第3の態様は、
前記柱端部材の側面に梁受用アゴを設けてあり、
前記梁端部材が前記梁受用アゴの上に載せられていることを特徴とする上記第1の態様又は第2の態様に記載の建物構造である。
【0025】
また、本願の第4の態様は、
前記X軸方向の梁端部材の断面に導入されたプレストレスをσxとし、
前記Y軸方向の梁端部材の断面に導入されたプレストレスをσyとし、
前記柱端部材の断面にZ軸方向に導入されたプレストレスをσzとしたときに、
前記σx、σy及びσzが以下の条件(1)と(2)のいずれも満足することを特徴とする上記第1の態様乃至上記第3の態様のいずれかに記載の建物構造である。
(1)前記柱端部材と前記梁端部材の部材断面において、長期設計荷重に対して引張応力度が生じないこと。
(2)前記柱梁接合部において、大規模地震時(極稀に起きる地震)に斜めひび割れの発生を許容せず、地震荷重による入力せん断力で生じる斜め引張応力度がコンクリート許容引張応力度以下であること。
【0026】
また、本願の第5の態様は、
前記σx、σy及びσzが以下の条件を満たすことを特徴とする上記第4の態様に記載の建物構造である。
2.0 ≦ σx ≦ 10.0 N/mm
2
2.0 ≦ σy ≦ 10.0 N/mm
2
0.6 ≦ σz ≦ 9.0 N/mm
2
【0027】
また、本願の第6の態様は、
鉛直方向(Z軸)に配置された柱と、平面2方向(X軸、Y軸)にそれぞれ配置された梁とで形成された建物構造の形成方法において、
前記柱をPC造の柱端部材とRC造の柱中央部材とから構成し、前記梁をPC造の梁端部材とRC造の梁中央部材とから構成した複合構造とし、
前記柱端部材を、上層の柱下端部と、柱梁接合部と、下層の柱上端部とを構成するようにプレキャスト部材として形成し、
前記梁端部材をプレキャスト部材として形成し、
前記柱端部材を貫通して配設したPC緊張材を緊張定着することによって前記柱端部材にプレストレスを導入し、
前記梁端部材と前記柱端部材とを貫通して配設したPC緊張材を緊張定着することによって、前記梁端部材及び前記柱端部材に前記X軸方向とY軸方向にそれぞれプレストレスを導入し、
前記各軸方向に導入されたプレストレスによるPC圧着接合により前記梁端部材と一体化した前記柱端部材を複数用意し、
前記梁端部材と一体化した前記柱端部材を、前記X軸方向及び前記Y軸方向に複数並べて基礎から立設した前記柱中央部材の頭部にそれぞれ鉄筋接続により一体化し、
その後、対向する前記梁端部材の間に、鉄筋を接続し、現場打ちコンクリートを打設して、前記梁端部材と一体化した前記梁中央部材を形成することにより、前記プレストレスの導入が前記梁中央部材に影響しないように最下層の骨組を形成し、
鉄筋接続により上層の前記柱中央部材を前記柱端部材の頭部に一体化し、
以後、同様の工程を繰り返して上方層の骨組みを構築することを特徴とする建物構造の形成方法である。
【0028】
また、本願の第7の態様は、
前記X軸方向の梁端部材の断面に導入されたプレストレスをσxとし、
前記Y軸方向の梁端部材の断面に導入されたプレストレスをσyとし、
前記柱端部材の断面にZ軸方向に導入されたプレストレスをσzとしたときに、
前記σx、σy及びσzを、以下の条件(1)と(2)のいずれも満足するように導入することを特徴とする上記第6の態様に記載の建物構造の形成方法である。
(1)前記柱端部材と前記梁端部材の部材断面において、長期設計荷重に対して引張応力度が生じないこと。
(2)前記柱梁接合部において、大規模地震時(極稀に起きる地震)に斜めひび割れの発生を許容せず、地震荷重による入力せん断力で生じた斜め引張応力度がコンクリート許容引張応力度以下であること。
【0029】
また、本願の第8の態様は、
前記σx、σy及びσzを、以下の条件を満たすように導入することを特徴とする上記第7の態様に記載の建物構造の形成方法である。
2.0 ≦ σx ≦ 10.0 N/mm
2
2.0 ≦ σy ≦ 10.0 N/mm
2
0.6 ≦ σz ≦ 9.0 N/mm
2
【発明の効果】
【0030】
本発明の効果を以下に列挙する。
(1)柱と梁の端部及び柱梁接合部をPC造とし、柱と梁の中央部をRC造として形成された複合構造によって、地震荷重により部材断面に生じる曲げ応力が大きな領域においてひび割れが発生するのを防ぎ、また、柱梁接合部に斜めひび割れが発生するのを防ぐことができる。また、地震時に柱と梁の端部に曲げひび割れが発生したとしても、PC緊張材によるプレストレスによって、地震後にひび割れが閉じていくので、優れた耐震性と耐久性を得ることができる。部材の中央部は、主に常時荷重しか負担しないため、RC造とすることによって、コストの軽減が図れると共に、従来の鉄骨造(S造)とした場合に生じる耐火性が劣ることや、剛性が小さいためにたわみ変形がしやすいこと、振動が大きくなり居住性に欠けること等の問題が解消される。
(2)梁端部材を柱端部材に設けてあるアゴに載せて、PC圧着接合して一体化することによって、本発明者が特許文献3に提案した「PC圧着関節工法」を適用可能にし、地震荷重作用時に、柱と梁との圧着接合部(面)に設けてある目地が口開き、アゴの上で梁部材が回転しながら地震エネルギーを吸収することにとって、梁、柱及び柱梁接合部を保護し、破損を防ぐことができる。また、地震後、部材内に導入されているプレストレスによって、開いたPC圧着接合部の目地が閉じて、元の状態に復帰していくことになる。そのため、目地の軽微な補修を行うだけで、建物の使用を速やかに再開することができる。
(3)柱梁接合部と各軸方向の部材端部断面とを考慮したプレストレス導入法によって、各軸方向の部材端断面が所要の構造性能を満足すると共に、柱梁接合部が3軸圧縮状態になり、地震荷重による入力せん断力によって柱梁接合部の対角線上に生じる斜め引張力の全部またはその殆どを打ち消し、地震時に斜めひび割れが発生するのを防ぐことができる。しかも、各軸方向の部材端部断面においては、無理なくそれぞれ合理的にプレストレスを導入することができる。
(4)さらに、X軸方向及びY軸方向のプレストレスの値の適用範囲をσx=σy=2.0〜10.0N/mm
2とし、Z軸方向のプレストレスの値の適用範囲を、柱の軸力の影響を考慮して、X軸方向及びY軸方向よりも低減したσz=0.6〜9.0N/mm
2とすることによって、PC構造物に一般的に使用されているコンクリート設計基準強度(Fc=40〜60N/mm
2)に対応させ、導入力が過小または過大となるのを防ぎ、合理的かつ経済的な設計とすることができる。
(5)大規模地震時に柱梁接合部に生じる斜め引張力が、導入されたプレストレスによって一部のみ打ち消され、一部が残る場合でも、その斜め引張力による引張応力度が、柱梁接合部を構成するコンクリートの許容引張応力度以下になるようにすることで、致命的な斜めせん断ひび割れが構造体に発生することなく、耐震性能を保つことができる。
(6)柱及び梁のPC造端部部材を形成し、PC緊張材によりプレストレスを導入した後に、端部部材を中央部のRC造部材と鉄筋接合して一体化することで、端部部材に導入するプレストレスがRC造部材に全く影響しないようにすることができ、端部部材に所定のプレストレスを容易に導入することができると共に、RC造部材に不適切な応力が発生するのを防止することができる。
(7)先に柱端部材と梁端部材にプレストレスを導入してPC圧着接合で一体化した後に、中央部材と接合してラーメン構造骨組を形成する方法によって、ラーメン構造骨組に不静定2次応力が発生することなく、設計及び施工において煩雑な検討の手間を省くことができ、部材断面もPC鋼材量も増やす必要はなく、経済設計ができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、本願の第1実施形態に係るプレストレストコンクリート造(本願において「PC造」とする)の柱端部材1と梁端部材2を示している。柱端部材1と梁端部材2はいずれもプレキャスト部材であり、接合前の状態を示している。
図1(a)は平面図、
図1(b)は側面図、
図1(c)は
図1(b)に示すA−A断面を示す断面図である。本願においては、水平方向にX軸を取り、X軸に垂直な水平方向をY軸とし、X軸及びY軸に垂直な方向(重力方向)をZ軸とし、図において各方向を矢印で示している。
【0033】
本願においては、柱端部材1の側面に接合する梁端部材2の梁せいと同じ高さで、柱幅全体にわたる柱端部材1の部分を柱梁接合部3としている。
図1(a)、
図1(b)に示すように、本願の図面においては、柱梁接合部3の範囲を破線で示している。
【0034】
柱梁接合部3の下部から所定長さまで下方へ延びた柱端部材1の部分は下層の柱上端部4を構成する。また、柱梁接合部3の上部から所定長さまで上方へ延びた柱端部材1の部分は上層の柱下端部5を構成する。このように柱端部材1は、柱上端部4と、柱梁接合部3と、柱下端部5とを有する。
【0035】
柱端部材1の側面には梁受け用アゴ6を設けてある。
図1(a)においては、建物構造物の外柱の例を示し、X軸方向に接合する梁端部材2が、柱端部材1の片側(図面に向かって右側)のみに配置されている。したがって、X軸方向においては、梁端部材2が配置された側にのみ梁受け用アゴ6を設けている。一方、Y軸方向に接合する梁端部材2は、柱端部材1の両側に配置されている。したがって、Y軸方向においては、柱端部材1の両側にそれぞれ梁受け用アゴ6を設けている。
【0036】
図1(b)に示すように、柱端部材1にはPC緊張材として複数のPC鋼棒7を長手方向(Z軸方向)に配設している。柱端部材1の上下の両端部には所要の大きさの欠き込みをそれぞれ設け、その中に定着具8を配置して定着部を形成している。この定着部にPC鋼棒7の端部を緊張定着させて所要のプレストレス(σz)を柱端部材1の断面に長手方向(Z軸方向)に導入する。図示は省略しているが、緊張定着した後に、定着部の欠き込みに無収縮モルタル等の充填材を充填して隙間を埋めてPC鋼棒7の頭部を防錆処理することが好ましい。
【0037】
図1(a)に示すように、柱梁接合部3には、PC緊張材を挿入するためのシース9を水平方向(X軸及びY軸方向)に貫通して設ける。
図1に示す実施形態ではX軸方向に接合する梁端部材2が片側のみであるため、X軸方向において梁端部材2とは反対側の柱端部材1の側面には、定着部を構成する欠き込みを設ける。欠き込みの底面は、シース9の端面と略同一平面上に配置する。Y軸方向のように梁端部材2が柱端部材1の両側に配置される場合には欠き込みを設ける必要はなく、柱端部材1を貫通してシース9を配置すれば良い。
【0038】
同じ要領に従って、中柱の場合には、水平方向の両方向(X軸方向とY軸方向)とも、欠き込みを設けず、シース9のみとすることができる。また、隅柱の場合には、水平方向の両方向(X軸方向とY軸方向)とも、梁端部材2が配置されていない側の柱端部材1の側面に欠き込みを設けることができる。
【0039】
ただし、本願発明はこれに限られず、柱端部材1の断面内に定着部を構成する欠き込みを設けず、柱端部材1の側面にPC鋼棒7の定着具8を露出して設け、PC鋼棒7を緊張定着した後にPC鋼棒7の頭部に防錆処理を行い、キャップをつけた定着部とすることも可能である。
【0040】
図1(b)に示すように、柱端部材1の長手方向(Z軸方向)において、部材内に埋設した鉄筋の端部を、接続鉄筋10として、柱端部材1の上下端からそれぞれ所要の長さ突出させてある。図示は省略するが、柱端部材1内には所要の主筋やフープ筋を配筋してある。
【0041】
梁端部材2には、長手方向(X軸方向又はY軸方向)にPC緊張材を挿入するためのシース9を貫通して配設している。また、梁端部材2の内部には予め複数の下端筋と上端筋を埋設する。下端筋と上端筋の端部は、柱端部材1とは反対側の梁端部材2の端部から外に延ばし、接続鉄筋10としている。
【0042】
また、
図1(b)に示すように、梁端部材2には、複数のスターラップ筋11を所定のピッチで配設し、スターラップ筋11の下部を梁端部材2に埋設している。スターラップ筋11の上部は、後述する現場打ちトップコンクリート21と梁端部材2とを接合するため、梁端部材2の上方に露出させている。なお、
図1(a)においては、スターラップ筋11の図示を省略している。
【0043】
柱端部材1側の梁端部材2の端部に、上側に柱端部材1側へ向かって突出した突出部を形成している。また、梁端部材2の端部は、突出部よりも下側の部分が、突出部を梁受け用アゴ6に載せたときに梁受け用アゴ6と略同じ高さに配置するように構成されている。柱端部材1と梁端部材2の構成は、このように、いわゆる隠れアゴタイプとすることが好ましい。
【0044】
なお、図示は省略するが、梁端部材2の端部は、上部を柱端部材1側へ突出させず、梁端部の全断面を梁受け用アゴ6の上に載せる、いわゆる露出アゴタイプとすることもできる。また、図示は省略するが、梁端部材2には所要の主筋や補強筋等を配置して埋設する。
【0045】
上記のようにして、所定の長さで梁端部材2を形成する。これにより、プレキャストの梁端部材2と、プレストレス(σz)が導入されたプレキャストPC造の柱端部材1とが形成される。
【0046】
次に、
図1を参照して説明したプレキャスト部材として予め形成された柱端部材1と梁端部材2との一体接合について
図2を参照して説明する。
【0047】
まず、プレキャスト部材として形成した梁端部材2と、プレキャスト部材として形成した柱端部材1を用意する。梁端部材2は、平面2方向(X軸方向、Y軸方向)にそれぞれ配置するため、必要な数を用意する。
【0048】
次に、柱端部材1の側面に形成された梁受け用アゴ6に、柱端部材1側に向かって突出した梁端部材2の突出部を載せる。柱端部材1とは反対側の梁端部材2の端部は、サポート部材によって支持する。柱端部材1と梁端部材2の間には所定の目地(間隔)12を設ける。PC緊張材として、例えばPC鋼棒7をシース9内に挿入し、梁端部材2から柱端部材1まで貫通して配置する。
【0049】
目地12にモルタルを充填して硬化させた後、PC鋼棒7を緊張定着させ、所定のプレストレス(σx、σy)を梁端部材2の断面に導入する。これにより、柱端部材1と平面2方向(X軸方向、Y軸方向)の梁端部材2をPC圧着接合により一体化するとともに、柱梁接合部3が3軸圧縮状態となる。
【0050】
本願においては、σx、σy、σzの算定は、プレストレスの導入時の各プレキャスト部材の断面積に基づいて行うものとする。つまり、梁端部材2の断面積は施工段階に応じて変化し、施工後の完成した梁端はトップコンクリート21の分とスラブ協力幅を考慮しして加算した断面がT型断面と大きくなるが、σx、σy、σzはトップコンクリート21を含まない断面積で算定するものとする。ただし、後述のように、長期設計荷重に対して引張応力度が生じないように断面照査する際には、梁端の部材断面はトップコンクリート21を含む合成断面(プレキャスト部材と現場打コンクリートを合成したT型断面の面積)とする。
【0051】
また、プレストレスσ(σx、σy、σz)は、PC緊張材の緊張導入力と、PC緊張材の図心が部材断面に対して偏心して配設されることによる影響を考慮して合成することとする。つまり、プレストレスσ(σx、σy、σz)の算定値は、P/Aと、P・eによる影響を考慮して合成したものとする。ここで、「P」はPC緊張材による有効緊張導入力、「A」はプレキャスト部材の断面積(トップコンクリート21を含めない)、「e」はPC緊張材の図心がプレキャスト部材断面の中立軸に対して偏心した距離を意味する。
【0052】
断面に導入されるプレストレスは、偏心なしの場合には一様分布となり、偏心ありの場合には一様分布とはならないが、いずれも本発明を適用することができる。
【0053】
σx、σy及びσzは、以下の条件(1)と(2)のいずれも満足することが好ましい。
(1)柱端部材1と梁端部材2の部材断面において、長期設計荷重に対して引張応力度が生じないこと。
(2)柱梁接合部3において、大規模地震時(極稀に起きる地震)に斜めひび割れの発生を許容せず、地震荷重による入力せん断力で生じる斜め引張応力度がコンクリート許容引張応力度以下であること。
【0054】
これにより、各軸方向の部材端断面が所要の構造性能を満足すると共に、柱梁接合部3が3軸圧縮状態になり、地震荷重による入力せん断力によって柱梁接合部3の対角線上に生じる斜め引張力の全部またはその殆どを打ち消し、地震時に斜めひび割れの発生を防ぐことができる。しかも、各軸方向の部材端部断面においては、無理なくそれぞれ合理的にプレストレスを導入することができる。また、大規模地震時に、柱梁接合部3上に生じた斜め引張力の一部が打ち消し切れず残されたとしても、斜め引張力による引張応力度が柱梁接合部3のコンクリートの許容引張応力度以下になるようにしてあるため、柱梁接合部3にとって致命的な斜めせん断ひび割れが発生することなく、耐震性能を保つことができる。
【0055】
また、σx、σy及びσzは、以下の条件を満たすことが更に好ましい。
2.0 ≦ σx ≦ 10.0 N/mm
2
2.0 ≦ σy ≦ 10.0 N/mm
2
0.6 ≦ σz ≦ 9.0 N/mm
2
【0056】
これにより、PC構造物に一般的に使用されているコンクリート設計基準強度(Fc=40〜60N/mm
2)に対応し、導入力が過小又は過大とならず、合理的かつ経済的な設計とすることができる。
【0057】
図3は、柱端部材1と、梁端部材2と、柱中央部材13と、梁中央部材14とを有する建物構造物の一部を示す側面図である。建物構造物の基礎として、複数の杭基礎15の上にそれぞれフーチング16を設け、フーチング16の間に基礎梁17を構築している。
【0058】
各フーチング16には最下層の1節目のRC造柱(柱中央部材13)が立設される。本願では、発明の理解を容易なものとするため、最下層で柱端部材1の下部に形成された柱部分を構成する部材も、柱中央部材13と称する。つまり、柱中央部材13は、柱の長手方向の中央を構成する部分を有するRC造部材を意味する。
【0059】
最下層の1節目の柱中央部材13を形成した後、柱中央部材13の頭部に予め一体化した柱端部材1と梁端部材2を設置する。柱中央部材13の頭部には予め鉄筋継手のための接続具としてスリーブ等を埋設しておき、柱端部材1の接続鉄筋10と柱中央部材13の主筋との間で鉄筋継手を構成することで、柱端部材1と柱中央部材13とを一体化する。鉄筋継手としては、例えば、
図7を参照して後述するモルタル充填式継手を用いることができる。
【0060】
次に、1節目の柱中央部材13の上に配置した柱端部材1の上に2節目のRC造の柱中央部材13を立設する。2節目の柱中央部材13は、現場打ちコンクリート又はプレキャストコンクリートにより形成することができる。柱中央部材13と柱端部材1は、例えば、モルタル充填式継手等の鉄筋継手により一体化する。
【0061】
以上の作業を同様に繰り返し行うことで、柱端部材1をPC造、柱中央部材13をRC造で形成した柱を鉛直方向(Z軸方向)に構築することができる。
【0062】
梁中央部材14は、互いに対向する一対の梁端部材2の間に鉄筋を接続し、現場打コンクリートを打設することで、梁端部材2と一体化して形成する。梁中央部材14と梁端部材2の鉄筋の接続は、例えば、梁端部材2の端部から露出している上端筋及び下端筋と、梁中央部材14の上端筋及び下端筋とを重ね継手として行うことができる。
【0063】
また、
図6に示すように、柱端部材1に予めアンカー筋(主筋)18を埋設し、機械式継手19を用いて、アンカー筋18とトップコンクリート内主筋20を接続してトップコンクリート21を打設して一体化する。
【0064】
従って、本願では、長期設計荷重に対して引張応力度が生じないように断面照査する際には、梁端の部材断面は、
図6に示すトップコンクリート21を含めて形成された合成断面(プレキャストコンクリートと現場打ちコンクリートを合成したT型断面)とする。
【0065】
梁中央部材14とトップコンクリート21及びスラブ(図示せず)は、現場打ちコンクリートにより一体的に形成する。なお、本願発明に直接関係しない構成部分、例えば、現場打ちコンクリート梁の梁中央部材14内の配筋詳細等については、従来通りであるので図示や説明は省略する。
【0066】
図4は本第1実施形態の建物構造の一部を示す平面図である。
図4に示すように、平面2方向(X軸方向、Y軸方向)において、隅柱にはそれぞれ片側のみ梁が配置される。隅柱においては、PC緊張材が1つの梁端部材2と柱端部材1を貫通して配設される。PC緊張材は、一方の定着部が柱端部材1の断面内に配置され、他方の定着部が梁端部材2と梁中央部材14との接合部に配置される。
【0067】
外柱の場合では、X軸方向とY軸方向のいずれかの方向が隅柱と同様に構成され、他方の方向においては、柱端部材1の両側に梁が形成される。両側に梁が形成される方向のPC緊張材は、2つの梁端部材2と柱端部材1を貫通して配設される。また、両側に梁が形成される方向のPC緊張材の定着部は、柱端部材1の断面内には配置されず、両端とも梁端部材2と梁中央部材14との接合部に配置される。
【0068】
図3と
図4に示すように、本第1実施形態の建物構造は、鉛直方向(Z軸方向)に端部をPC造、中央部をRC造とした柱を形成し、平面2方向(X軸、Y軸)に端部をPC造、中央部をRC造とした梁を形成した複合構造からなるものとしている。これにより、地震荷重による曲げ応力の大きい部分が耐震性の高いPC造になる。また、柱梁接合部3にプレストレスが導入され、柱梁接合部3が3軸圧縮状態になり、地震荷重による斜めひび割れの発生を防ぐことができる。
【0069】
柱において、地震荷重による曲げ応力が大きく、PC造とすべき部分(
図3において「b」で示す)は、階高(上下層階の梁トップコンクリート間の距離)をHとすると、梁端部材2の下端から下にH/10〜H/6の部分と、トップコンクリート21の上端から上にH/10〜H/6の部分である。したがって、この範囲内の部分を、柱端部材1によって形成することが好ましい。
【0070】
梁においては、X軸方向のスパン(柱芯間の距離)をLxとし、Y軸方向のスパンをLyとすると、PC造とすべき部分(
図3及び
図4において「ax」で示す)は、柱芯からLx/6〜Lx/4の部分と、柱芯からLy/6〜Ly/4の部分である。したがって、この範囲内の部分を、梁端部材2によって形成することが好ましい。この範囲以外のスパン中央部では地震荷重による曲げ応力が小さくなり、主に長期荷重による曲げ応力が発生するため、従来のRC造の梁で対応できる。
【0071】
次に、本第1実施形態の建物構造の構築方法について、
図5から
図7を参照して説明する。
図5は本第1実施形態に係る建物構造の構築方法を示す側面図である。
図6は本第1実施形態に係る建物構造の柱端部材1とその周辺を示す図である。
図6(a)は側面図であり、
図6(b)は
図6(a)に示すC−C断面図である。
図7は本第1実施形態に係る建物構造の柱端部材1と柱中央部材13の接合構造を示す側面図である。
【0072】
<工程1>
建物の基礎構造として、複数の杭基礎15の上にそれぞれフーチング16と基礎梁17を構築する。各フーチング16の上に最下層の1節目の柱中央部材13を現場打ちコンクリートまたはプレキャスコンクリートで形成する。本実施形態においては、2節目以降の柱とは異なり、1節目の柱の下部はPC造の部材によって構成されず、柱端部材1よりも下の柱の部分は一体に形成される。
【0073】
図7に示すように、RC造柱の頭部にPC造柱端部材1と鉄筋接続ができるように予めモルタル充填方式による鉄筋継手用のスリーブ22と、スリーブ22に接続してあるアンカー筋18を埋め込む。図示は省略するが、このアンカー筋18は、RC造の柱中央部材13の主筋として柱中央部材13の軸方向に貫通して配置される。プレキャスト部材として形成された柱端部材1と梁端部材2に予めプレストレスを導入し、PC圧着接合して一体化したもの(以下PCブロックと称する)を用意する。柱端部材1と梁端部材2をPC圧着接合する作業については、工場にて行うことができるが、PCブロックの運搬が困難である場合には、柱端部材1と梁端部材2をそれぞれ現場に搬入した後に、現場で地組することもできる。また、平面2方向(X軸方向、Y軸方向)のいずれか一方向の梁端部材2のみを、工場で柱端部材1とPC圧着接合して一体化し、現場に搬入した後に、残りの梁端部材2を柱端部材1とPC圧着接合することとしてもよい。つまり、PCブロックを形成してから架設するという作業手順が好ましく、柱端部材1と梁端部材2を接合する場所及び手順は問わない。
【0074】
<工程2>
図5(a)に示すように、PCブロックをRC造の柱中央部材13の上方に吊り上げ、柱端部材1の接続鉄筋10を柱中央部材13の頭部に設けたモルタル充填式継手のスリーブ22に差し込み、
図5(b)に示すように、柱中央部材13の上にPCブロックを載せる。その後、
図7に示すスリーブ22内に無収縮高強度モルタルを充填して硬化させることで、接続鉄筋10を、スリープ22を介してアンカー筋18と接続し、柱中央部材13と柱端部材1を一体化する。
【0075】
<工程3>
対向する梁端部材2の接続鉄筋10に、梁中央部材14の下端筋と上端筋を接続する。下端筋と上端筋の鉄筋接続は、鉄筋重ね継手方式とすることが好ましいが、例えば、カプラー接続具を用いた鉄筋接続、ガス圧着継手を用いた鉄筋接続等、他の接続方法を採用してもよい。
【0076】
図6に示すように、トップコンクリート21用の主筋20は、梁端部材2の天端から露出させたスターラップ筋11内に配置し、予め柱端部材1に埋設した機械式継手19のカプラーにねじ込むことで、柱端部材1内に予め埋め込んだアンカー筋18と接続する。
【0077】
鉄筋接続した後に、RC梁として必要な配筋(図示省略)を行い、梁端部材2のトップコンクリート21を含めて梁中央部材14に現場打ちコンクリートを打設して硬化することによって、
図5(c)に示すように、PC造の梁端部材2とRC造の梁中央部材14が一体化されるとともに、梁端において梁端部材2とスラブ協力幅を加えたトップコンクリート21からなるT型断面の合成梁が形成される。最終的にPC造の合成梁端部材と、RC造の梁中央部材14とで複合構造の梁が形成される。長期設計荷重に対して引張応力度が生じないように検討する梁端の設計断面としては、この合成梁端部材のT型断面とする。
【0078】
<工程4>
図5(d)に示すように、形成された1層分の柱梁ラーメン構造の柱端部材1の上に、2節目の柱中央部材13を現場打ちコンクリートまたはプレキャスコンクリートで形成する。柱中央部材13を現場打ちコンクリートとする場合、鉄筋接続は、機械式継手、ガス圧接継手等により行うことができる。柱中央部材13をプレキャストコンクリートとする場合、柱端部材1と柱中央部材13の鉄筋接続は、1節目の鉄筋接続と同様に、柱端部材1の上方に露出した接続鉄筋10を、柱中央部材13の下端部に埋め込んだスリーブ22に差し込み、無収縮高強度モルタルを充填し、硬化させることにより、接続鉄筋10をスリーブ22を介してアンカー筋18と接続する。これにより、RC造の柱中央部材13とPC造の柱端部材1とを一体化する。以後、前述と同じように繰り返し構築して、所定の建物構造を形成することができる。
【0079】
次に、
図8を参照して本願の第2実施形態について説明する。
図8は本願の第2実施形態に係る建物構造を示す側面図である。本第2実施形態に係る建物構造は、1層目の柱脚の構造において上記第1実施形態と異なるが、その他の点は上記第1実施形態と共通している。したがって、本第2実施形態においては、上記第1実施形態の説明において符号を付して説明した部分については、上記第1実施形態と同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0080】
本第2実施形態においては、第1層の柱中央部材13とフーチング16の間にPC造の柱脚部材23を設けている。柱脚部材23は、柱脚部材23及びフーチング16の一部をZ軸方向(上下方向)に貫通して配置したPC鋼棒7によって、Z軸方向のプレストレスが導入されている。柱脚部材23は、フーチング16の上端から上にH/10〜H/6までの柱の部分を構成することが好ましい。なお、柱脚部材23は、プレキャスト部材とすることが好ましいが、現場打ちコンクリートとしてもよい。
【0081】
本第2実施形態の建物構造の形成方法は、以下の点において上記第1実施形態の建物の形成方法とは異なる。まず、フーチング16を形成する際に、PC鋼棒7を所定の位置に配置し、PC鋼棒7の中間部から下の部分をフーチング16内に埋め込む。フーチング16の上面には、予め目地12用の欠き込みを形成しておく。次に、目地12用の欠き込み内にモルタルを敷き、レベルを調整した後、柱脚部材23に予め埋設したシースに、フーチング16の上面から突出したPC鋼棒7を通し、柱脚部材23を目地12上に配置する。その後、PC鋼棒7に緊張力を導入し、定着具8を取り付ける。定着具8は柱脚部材23の上部に形成した欠き込み内に配置する。柱脚部材23と柱中央部材13の接合は、柱端部材1とその上に配置された柱中央部材13の接合と同様に行うことができる。
【0082】
通常、RC造とするフーチング16と基礎梁17は、所要の曲げ剛性を有することが必要であることから大きな断面で形成されるため、上部構造の柱梁接合部3に相当するフーチング16をPC造とする必要はない。一方で、最下層の柱脚の断面には建物全体の長期荷重による軸力が作用することによって大きな圧縮応力が生じ、地震荷重によって生じる引張応力がこの大きな圧縮応力に相殺される。しかし、低層建物の場合や、スパンが小さくて柱の数が多い場合等、柱1本あたりに受ける軸力が小さくて柱脚に生じる圧縮応力が小さい場合も考えられる。また、地震荷重によって柱脚に大きな引抜力が生じる場合もある。このような場合に、柱脚をPC造として、地震荷重によって柱脚にひび割れや損傷等の発生を抑制することで、建物構造の耐震性及び耐久性を高めることができる。
【解決手段】柱端部材1と梁端部材2をいずれもプレキャスト部材とし、柱端部材1は、上層の柱下端部5と柱梁接合部3と下層の柱上端部4とを構成し、柱端部材1をZ軸方向に貫通したPC緊張材を緊張定着することによって柱端部材1にZ軸方向のプレストレスを導入し、X軸方向に配置した梁端部材2と柱端部材1とをX軸方向に貫通したPC緊張材の緊張定着によって、X軸方向に配置された梁端部材2及び柱端部材1にX軸方向のプレストレスを導入し、Y軸方向に配置した梁端部材2と柱端部材1とをY軸方向に貫通したPC緊張材の緊張定着によって、Y軸方向に配置された梁端部材2及び柱端部材1にY軸方向のプレストレスを導入し、柱端部材1と梁端部材2がPC圧着接合により一体化されると共に、柱梁接合部3を3軸圧縮状態とする。