特許第6683372号(P6683372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683372
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】傾斜機能物品及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20200413BHJP
   F16J 15/00 20060101ALI20200413BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20200413BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20200413BHJP
   F16J 15/3284 20160101ALI20200413BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   F16J15/00 Z
   C09K3/10 Q
   F16J15/10 W
   F16J15/3284
   C04B35/52
【請求項の数】27
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-524456(P2017-524456)
(86)(22)【出願日】2015年10月22日
(65)【公表番号】特表2018-504291(P2018-504291A)
(43)【公表日】2018年2月15日
(86)【国際出願番号】US2015056885
(87)【国際公開番号】WO2016085595
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2018年10月18日
(31)【優先権主張番号】14/552,832
(32)【優先日】2014年11月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301008534
【氏名又は名称】ベイカー ヒューズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】レイ・ツァオ
(72)【発明者】
【氏名】ヅィユー・スー
(72)【発明者】
【氏名】グイジュン・デン
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02056004(EP,A1)
【文献】 特開平02−204316(JP,A)
【文献】 特開2008−081362(JP,A)
【文献】 特開2013−052680(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/114443(WO,A1)
【文献】 特開2006−057008(JP,A)
【文献】 特開2012−097821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
C01B32/00−32/991
C04B35/52−35/536
C09K3/10−3/12
F16J15/00−15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1炭素複合材を含む第1部材、ならびに
前記第1部材上に配置され、第2炭素複合材及び補強剤を含む第2部材、
を含み、
前記第1炭素複合材中の炭素及び前記第2炭素複合材中の炭素が独立して、膨張化黒鉛、または膨張性黒鉛のうち1種以上を含み、
前記第2部材が前記第2炭素複合材の前記補強剤に対する重量比の勾配を有し、
前記第1部材が前記第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する物品。
【請求項2】
前記勾配が前記第1部材に近接する内側部分から前記第1部材から離れた外側部分に及ぶ、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記勾配が、前記第2部材の前記内側部分から前記第2部材の前記外側部分への、前記第2炭素複合材の前記補強剤に対する重量比の漸減を含む、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記勾配が、前記第2部材の前記内側部分から前記第2部材の前記外側部分まで連続的に変化する、請求項3に記載の物品。
【請求項5】
前記勾配が、前記第2部材の前記内側部分から前記第2部材の前記外側部分まで別々の段階で変化する、請求項3に記載の物品。
【請求項6】
前記第1炭素複合材及び前記第2炭素複合材が独立して炭素微細構造体を含み、前記炭素微細構造体の間に間隙空間があり、結合剤が前記間隙空間の少なくともいくつかの中に配置されており、前記炭素微細構造体が前記炭素微細構造体の内部に無充填の空隙を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記第1及び前記第2炭素複合材が独立して少なくとも2つの炭素微細構造体、及び前記少なくとも2つの炭素微細構造体の間に配置された結合相を含み、前記結合相が結合剤を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記結合相が、結合剤層、及び前記少なくとも2つの炭素微細構造体の1つを前記結合剤層と結合させる界面層を含み、前記界面層が、C−金属結合、C−B結合、C−Si結合、C−O−Si結合、C−O−金属結合、または金属炭素固溶体のうち1種以上を含む、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
前記補強剤が、酸化物、窒化物、炭化物、金属間化合物、金属、金属合金、カーボンファイバー、カーボンブラック、雲母、粘土、ガラス繊維、またはセラミック材料のうち1種以上を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
原子炉圧力容器シール、原子炉アクチュエータシール、原子力発電所のポンプシール、圧力解放シール、回転シール、スプールバルブシール、ブレーキピストンシール、シャフトシール、ベアリングシーリング、またはピニオンシールである、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
シール、シール弁座、シールアセンブリ、高圧ビーズ型フラックスクリーンプラグ、スクリーンベースパイププラグ、ロータリーボールバルブシール、圧縮パッキン部品、Oリング、ボンデッドシール、ブレットシール、地下安全バルブシール、地下安全バルブフラッパーシール、運動用シール、バックアップリング、ドリルビットシール、ライナーポートプラグ、デブリバリア、掘削刺激ライナープラグ、流入制御装置プラグ、フラッパー、ボールシート、ガスリフトバルブプラグ、流体損失制御フラッパー、電動水中ポンプシール、せん断プラグ、フラッパーバルブ、ガスリフトバルブ、もしくはスリーブから選択されるダウンホール物品である、請求項1に記載の物品。
【請求項12】
第1炭素複合材を含む第1部材、ならびに
前記第1部材上に配置され、第2炭素複合材及び補強剤を含む第2部材、
を含み、
前記第2部材が前記第2炭素複合材の前記補強剤に対する重量比の勾配を有し、
前記第1炭素複合材及び前記第2炭素複合材のそれぞれが独立して、膨張化黒鉛および/または膨張性黒鉛と、SiO、Si、B、B、金属、または前記金属の合金のうち1種以上を含有する結合剤を含み、前記金属が、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、スズ、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンのうちの1種以上であり、
前記第1部材が前記第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する物品。
【請求項13】
第1炭素複合材を含む第1部材、ならびに
前記第1部材上に配置され、第2炭素及び第2結合剤を含む第2炭素複合材を含む第2部材、
を含み、
前記第1炭素複合材中の炭素及び前記第2炭素複合材中の炭素が独立して、膨張化黒鉛、または膨張性黒鉛のうち1種以上を含み、
前記第2部材が前記第2炭素の前記第2結合剤に対する重量比の勾配を有し、
前記第1部材が前記第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する物品。
【請求項14】
前記勾配が前記第1部材に近接する内側部分から前記第1部材から離れた外側部分に及ぶ、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
前記勾配が、前記第2部材の前記内側部分から前記第2部材の前記外側部分への、前記第2炭素の前記第2結合剤に対する重量比の漸減を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記第2結合剤が、Ni、Cr、Fe、W、またはCoの1種以上を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項17】
物品の製造方法であって、
第1炭素及び第1結合剤を含む第1粉末混合物を鋳型内に配置すること、
第2炭素、第2結合剤、及び補強剤を含み、前記補強剤の重量に対する前記第2炭素及び前記第2結合剤の合計重量の比の勾配を有する第2粉末混合物を、前記第1粉末混合物上に配置して複合組成物を得ること、ならびに
約350℃〜約1400℃の温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で前記複合組成物を加圧して、前記物品を形成すること、
を含み、
前記加圧された第1粉末混合物が、第1炭素複合材を含む第1部材を形成し、前記第1炭素複合材は、前記第1炭素及び前記第1結合剤を含み、
前記加圧された第2粉末混合物が、補強剤及び第2炭素複合材を含む第2部材を形成し、前記第2炭素複合材は、前記第2炭素及び前記第2結合剤を含み、
前記物品が、
第1部材、ならびに
前記第1部材上に配置された第2部材、
を含み、
前記第1炭素複合材中の炭素及び前記第2炭素複合材中の炭素が独立して、膨張化黒鉛、膨張性黒鉛、天然黒鉛、または人造黒鉛のうち1種以上を含み、
前記第2部材が前記第2炭素複合材の前記補強剤に対する重量比の勾配を有し、
前記第1部材が前記第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する、方法。
【請求項18】
前記補強剤の重量に対する前記第2炭素及び前記第2結合剤の合計重量の比の勾配を確立するために、前記第2粉末混合物を複数部分に分けて配置する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第1炭素複合材を含む第1部材を形成すること、ならびに
第2炭素複合材及び補強剤を含み、前記第2炭素複合材の前記補強剤に対する重量比の勾配を有する第2部材を前記第1部材上に配置して、前記物品を形成すること、
を含み、
前記第1炭素複合材中の炭素及び前記第2炭素複合材中の炭素が独立して、膨張化黒鉛、または膨張性黒鉛のうち1種以上を含み、
前記第1部材が前記第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する、物品の製造方法。
【請求項20】
前記第2部材を形成することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
約350℃〜約1400℃の温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で、炭素、結合剤、及び補強剤を含み、前記補強剤の重量に対する前記炭素及び前記結合剤の合計重量の比の勾配を有する粉末混合物を加圧することをさらに含み、
前記加圧された粉末混合物が、補強剤及び第2炭素複合材を含む第2部材を形成し、前記第2炭素複合材は、前記炭素及び前記結合剤を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2部材を前記第1部材上に配置することが、前記第2部材を前記第1部材に積層することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
物品の製造方法であって、
第1炭素複合材を含む第1部材を鋳型内に配置すること、
第2炭素、第2結合剤、及び補強剤を含み、前記補強剤の重量に対する前記第2炭素及び前記第2結合剤の合計重量の比の勾配を有する粉末混合物を、前記第1部材上に配置すること、ならびに
約350℃〜約1400℃の温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で前記粉末混合物を加圧して、前記物品を形成すること、
を含み、
前記加圧された粉末混合物が、補強剤及び第2炭素複合材を含む第2部材を形成し、前記第2炭素複合材は、前記第2炭素及び前記第2結合剤を含み、
前記物品が、
第1部材、ならびに
前記第1部材上に配置された第2部材、
を含み、
前記第1炭素複合材中の炭素及び前記第2炭素複合材中の炭素が独立して、膨張化黒鉛、膨張性黒鉛、天然黒鉛、または人造黒鉛のうち1種以上を含み、
前記第2部材が前記第2炭素複合材の前記補強剤に対する重量比の勾配を有し、
前記第1部材が前記第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する、方法。
【請求項24】
物品の1つ以上をシールとして用いることを含む流れの抑制方法であって、
前記物品が、
第1炭素複合材を含む第1部材、ならびに
前記第1部材上に配置され、第2炭素複合材及び補強剤を含む第2部材、
を含み、
前記第1炭素複合材中の炭素及び前記第2炭素複合材中の炭素が独立して、膨張化黒鉛、または膨張性黒鉛のうち1種以上を含み、
前記第2部材が前記第2炭素複合材の前記補強剤に対する重量比の勾配を有し、
前記第1部材が前記第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する、方法。
【請求項25】
物品の1つ以上をシールとして用いることを含む流れの抑制方法であって、
前記物品が、
第1炭素複合材を含む第1部材、ならびに
前記第1部材上に配置され、第2炭素及び第2結合剤を含む第2炭素複合材を含む第2部材、
を含み、
前記第1炭素複合材中の炭素及び前記第2炭素複合材中の炭素が独立して、膨張化黒鉛、または膨張性黒鉛のうち1種以上を含み、
前記第2部材が前記第2炭素の前記第2結合剤に対する重量比の勾配を有し、
前記第1部材が前記第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する、方法。
【請求項26】
物品の製造方法であって、
第1炭素及び第1結合剤を含む第1粉末混合物を鋳型内に配置すること、
第2炭素及び第2結合剤を含み、前記第2結合剤に対する前記第2炭素の重量比の勾配を有する第2粉末混合物を、前記第1粉末混合物上に配置して複合組成物を得ること、ならびに
約350℃〜約1400℃の温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で前記複合組成物を加圧して、前記物品を形成すること、
を含み、
前記加圧された第1粉末混合物が、第1炭素複合材を含む第1部材を形成し、前記第1炭素複合材は、前記第1炭素及び前記第1結合剤を含み、
前記加圧された第2粉末混合物が、第2炭素複合材を含む第2部材を形成し、前記第2炭素複合材は、前記第2炭素及び前記第2結合剤を含み、
前記物品が、
第1部材、ならびに
前記第1部材上に配置された第2部材、
を含み、
前記第1炭素複合材中の炭素及び前記第2炭素複合材中の炭素が独立して、膨張化黒鉛、膨張性黒鉛、天然黒鉛、または人造黒鉛のうち1種以上を含み、
前記第2部材が前記第2炭素の前記第2結合剤に対する重量比の勾配を有し、
前記第1部材が前記第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する、方法。
【請求項27】
前記第2結合剤に対する前記第2炭素の重量比の勾配を確立するために、前記第2粉末混合物を複数部分に分けて配置する、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年11月25日に出願された米国特許出願第14/552,832号の利益を主張し、その全内容を参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
幅広い用途の様々なツールにシールが用いられている。その幅広い用途のために、特に高圧及び高温用途において、または他の過酷な環境において、高い熱安定性及び高い化学的安定性を有するシールを提供することが望まれる。高い耐侵食性を有するシールを提供することも望まれる。
【0003】
エラストマーは比較的軟質で変形可能な材料であり、シールに用いられてきた。しかし、エラストマーは過酷な条件の下では分解しやすいため、その用途が制限される。代替として、金属の高い耐侵食性ならびに優れた高圧及び高温耐性ゆえに金属対金属シールが用いられてきた。しかし、金属は低い弾性及び低い順応性を有する。したがって、金属はエラストマーと比較して粗いケーシング表面を密封する効果が低い。
【0004】
そのため、当業界では弾性及び耐侵食性が同時に向上した新規材料は常に受け入れられる。こうした材料の熱安定性及び化学的安定性も向上していれば、さらに有利であろう。
【発明の概要】
【0005】
従来技術における上記及び他の欠陥は、一実施形態において、物品が、第1炭素複合材を含む第1部材、ならびに第1部材上に配置され、第2炭素複合材及び補強剤を含む第2部材を含み、第2部材が、第2炭素複合材の補強剤に対する重量比の勾配を有し、第1部材が、第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有することにより克服される。
【0006】
別の実施形態では、物品は、第1炭素複合材を含む第1部材、ならびに第1部材上に配置され、第2炭素及び第2結合剤を含む第2炭素複合材を含む第2部材を含み、第2部材は、第2炭素の第2結合剤に対する重量比の勾配を有し、第1部材は、第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する。
【0007】
物品の製造方法は、第1炭素及び第1結合剤を含む第1粉末混合物を鋳型内に配置すること、第2炭素、第2結合剤、及び補強剤を含み、補強剤の重量に対する第2炭素及び第2結合剤の合計重量の比の勾配を有する第2粉末混合物を、第1粉末混合物上に配置して複合組成物を得ること、ならびに約350℃〜約1400℃の温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で複合組成物を加圧して物品を形成することを含む。
【0008】
別の実施形態では、物品の製造方法は、第1炭素複合材を含む第1部材を形成すること、ならびに第2炭素複合材及び補強剤を含み、第2炭素複合材の補強剤に対する重量比の勾配を有する第2部材を第1部材上に配置することを含み、第1部材は第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する。
【0009】
物品の製造方法は、第1炭素複合材を含む第1部材を鋳型内に配置すること、第2炭素、第2結合剤、及び補強剤を含む粉末混合物、ならびに補強剤の重量に対する第2炭素及び第2結合剤の合計重量の比の勾配を有する第2の粉末混合物を、第1部材上に配置すること、ならびに約350℃〜約1400℃の温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で粉末混合物を加圧して物品を形成することも含むことができる。
【0010】
さらに別の実施形態では、物品の製造方法は、第1炭素及び第1結合剤を含む第1粉末混合物を鋳型内に配置すること、第2炭素及び第2結合剤を含み、第2結合剤に対する第2炭素の重量比の勾配を有する第2粉末混合物を、第1粉末混合物上に配置して複合組成物を得ること、ならびに約350℃〜約1400℃の温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で複合組成物を加圧して物品を形成することを含む。
【0011】
以下の説明は決して限定するものとみなされるべきではない。添付図面に関して、同様の要素には同様の番号を付してある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施形態による物品の断面図を示す。
図2】黒鉛対結合剤比の勾配を有する第2部材の断面図を示し、黒鉛対結合剤比が最も高い領域は最も明るいグレースケールの値を有し、一方、黒鉛対結合剤比が最も低い領域は最も暗いグレースケールの値で示してある。
図3図2に示した第2部材の領域Aの微細構造を示す。
図4図2に示した物品の領域Bの微細構造を示す。
図5図2に示した物品の領域Cの微細構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、炭素複合材から製造される物品は傾斜機能化することができ、その結果、物品の一部が物品の別の部分のものとは異なる次の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有することができることを見出した。この発見により、高弾性及び高耐侵食/摩耗性を同時に有する物品の製造が可能となる。エラストマーシールと比較して、本物品は耐侵食/摩耗性が向上し、熱安定性が向上しており、そのため高耐侵食/摩耗性が望まれる用途または高温及び高圧環境において用いることができる。従来の耐侵食性金属対金属シールと比較して、本物品は弾性及び順応性が劇的に上昇し、より高い密封率及びより確実な密封を可能とする。
【0014】
加えて、本物品は、低温(例えば極低温)と高温(例えば物品の分解温度よりもわずかに低い温度)との間で繰り返し熱サイクルを受けることができ、また、本物品はその化学的、物理的、及び機械的特性をほとんど偏移なく維持する。さらに、本物品は、長期間、例えば3か月超、具体的には6か月超、より具体的には1年超、さらに具体的には2年超の間低温または高温で浸漬した後であっても、その化学的、物理的、及び機械的特性をほとんど偏移なく維持する。さらなる有利な特徴として、本物品は優れた機械的強度を有する。
【0015】
一実施形態において、物品は、第1炭素複合材を含む第1部材、ならびに第1部材上に配置され、第2炭素複合材及び補強剤を含む第2部材を含み、第2部材は、第2炭素複合材の補強剤に対する重量比の勾配を有し、第1部材は、第2部材のものとは異なる以下の特性、すなわち弾性、耐腐食性、耐侵食性、または硬度を1つ以上有する。
【0016】
別の実施形態において、特性の変化は炭素対結合剤重量比の変化によって実現される。例えば、第2部材は炭素及び結合剤を含有する炭素複合材を含み、また、第2部材は炭素の結合剤に対する重量比の勾配を有する。任意により、第2部材は補強剤をさらに含む。補強剤は第2部材中に均一に分布させることができる。あるいは、第2部材は炭素の補強剤に対する重量比の勾配を有する。
【0017】
第2部材は任意の好適な形態を有し得る。一実施形態において、第2部材は第1部材上に配置された層を含む。第2部材は、坑井作業または本物品が関連する作業を実施するのに必要な任意の好適な厚さを有し得る。例示的実施形態において、第2部材は約50μm〜約10mmまたは約500μm〜約5mmの厚さを有する。
【0018】
ある実施形態において、第2部材が第1部材を完全にまたは部分的に覆う外層を含む例のように、第1部材は第2部材によって完全にまたは部分的に覆われ得る。他の実施形態において、第2部材は第1部材の一部または複数部分にのみ適用される場合もある。
【0019】
第2部材中の補強剤は次の酸化物、窒化物、炭化物、金属間化合物、金属、金属合金、カーボンファイバー、カーボンブラック、雲母、粘土、ガラス繊維、またはセラミック材料のうち1種以上を含む。金属には、Ni、Ta、Co、Cr、Ti、Mo、Zr、Fe、またはWが含まれる。これらの金属の合金、酸化物、窒化物、炭化物、または金属間化合物も用いることができる。セラミック材料には、SiC、Si、SiO、BNなどが含まれる。補強剤の組合せを用いてもよい。一実施形態において、補強剤は第1部材の炭素組成物中の結合剤または第2部材中の炭素複合材と同一ではない。
【0020】
第2炭素複合材の補強剤に対する重量比は約1:100〜約100:1、約1:50〜約50:1、または約1:20〜約20:1とすることができる。有利には、第2部材は第2炭素複合材の補強剤に対する重量比の勾配を有する。勾配は第1部材に近接する内側部分から第1部材から離れた外側部分に及ぶ。勾配は、第2部材の内側部分から第2部材の外側部分への第2炭素複合材の補強剤に対する重量比の漸減を含むことができる。例えば、第2炭素複合材の補強剤に対する重量比は、第2部材の内側部分における約50:1、約20:1、または約10:1から、第2部材の外側部分における約1:50、約1:20、または約1:10まで変化し得る。一実施形態において、勾配は第2部材の内側部分から第2部材の外側部分まで連続的に変化する。別の実施形態では、勾配は第2部材の内側部分から第2部材の外側部分まで別々の段階で変化する。
【0021】
第2部材が炭素の結合剤に対する重量比の勾配を有する場合、重量比は約1:100〜約1:1または約1:10〜約1:2とすることができる。勾配は第1部材に近接する内側部分から第1部材から離れた外側部分に及ぶ。勾配は、第2部材の内側部分から第2部材の外側部分への炭素の結合剤に対する重量比の漸減を含むことができる。例えば、炭素の結合剤に対する重量比は、第2部材の内側部分における約1:1または約1:2から、第2部材の外側部分における約1:100または約1:10まで変化し得る。一実施形態において、勾配は第2部材の内側部分から第2部材の外側部分まで連続的に変化する。別の実施形態では、勾配は第2部材の内側部分から第2部材の外側部分まで別々の段階で変化する。
【0022】
第1部材及び第2部材は独立して、黒鉛などの炭素及び結合剤を含有する炭素複合材を含む。第1及び第2部材中の炭素複合材は同一であっても異なっていてもよい。一実施形態において、第1部材中の炭素複合材は第2部材中の炭素複合材と同一である。別の実施形態では、第2部材中の結合剤は、第1部材中の結合剤に比べて高い耐腐食/摩耗性を有する。
【0023】
本明細書で用いる場合、黒鉛には次の天然黒鉛、人造黒鉛、膨張性黒鉛、または膨張化黒鉛のうち1種以上が含まれる。天然黒鉛は自然に形成された黒鉛である。これを「鱗片状」黒鉛、「塊状」黒鉛、及び「土状」黒鉛に分類することができる。人造黒鉛は炭素材料から製造された工業製品である。熱分解黒鉛が人造黒鉛の一形態である。膨張性黒鉛は、インターカラント材料が天然黒鉛または人造黒鉛の層間に挿入された黒鉛のことをいう。様々な化学物質が黒鉛材料にインターカレートするのに用いられている。これらには酸、酸化剤、ハロゲン化物などが含まれる。例示的なインターカラント材料としては、硫酸、硝酸、クロム酸、ホウ酸、SO、またはハロゲン化物、例えばFeCl、ZnCl、及びSbClなどが挙げられる。加熱すると、インターカラントは液体または固体状態から気相に変化する。気体形成により圧力が生じて隣接する炭素層を押し離し、その結果、膨張化黒鉛が得られる。膨張化黒鉛粒子は蠕虫状の外観をしており、そのため一般にワームと呼ばれる。
【0024】
有利には、黒鉛は膨張化黒鉛を含む。他の形態の黒鉛と比較して、膨張化黒鉛は高い柔軟性、高い圧縮復元性、及びより大きな異方性を有する。したがって、膨張化黒鉛及び本明細書に開示の結合剤から形成される炭素複合材は、望ましい機械的強度に加えて優れた弾性を有することができる。
【0025】
炭素複合材は黒鉛相及び結合相を含むことができる。結合相は、黒鉛粒、黒鉛粒子、黒鉛片、黒鉛結晶、または黒鉛微細構造体を機械的なインターロッキングによって結合する結合剤を含む。一実施形態において、炭素複合材は炭素微細構造体を含み、炭素微細構造体の間に間隙空間があり、結合剤は間隙空間の少なくともいくつかの中に配置されており、炭素微細構造体は炭素微細構造体の内部に無充填の空隙を含む。
【0026】
炭素微細構造体は、黒鉛を加圧して高度に圧縮した状態にした後に形成される黒鉛の微細構造体である。炭素微細構造体は圧縮方向に沿って一緒に積層された黒鉛底面を含む。本明細書で用いる場合、炭素底面は炭素原子の実質的に平らで平行なシートまたは層のことをいい、各シートまたは層は原子1個の厚さを有する。黒鉛底面は炭素層とも呼ばれる。炭素微細構造体は一般に平らで薄い。炭素微細構造体は様々な形状を有することができ、マイクロフレーク、マイクロディスクなどとも呼ぶことができる。一実施形態において、炭素微細構造体は互いにほぼ平行である。
【0027】
炭素複合材には2種類の空隙、すなわち炭素微細構造体の間の空隙または間隙空間及び個々の炭素微細構造体内部の空隙がある。炭素微細構造体の間の間隙空間は約0.1〜約100μm、具体的には約1〜約20μmのサイズを有し、一方で炭素微細構造体内部の空隙はさらに小さく、一般に約20nm〜約1μm、具体的には約200nm〜約1μmである。空隙または間隙空間の形状は特に限定されない。本明細書で用いる場合、空隙または間隙空間のサイズは、空隙または間隙空間の最大寸法のことをいい、高解像度の電子顕微鏡または原子間力顕微鏡技術によって測定することができる。
【0028】
炭素微細構造体の間の間隙空間はマイクロまたはナノサイズ結合剤で充填されている。例えば、結合剤は炭素微細構造体の間の間隙空間の約10%〜約90%を占有することができる。一実施形態において、結合剤は個々の炭素微細構造体に浸透せず、炭素微細構造体内部の空隙は無充填、すなわち結合剤で全く充填されていない。したがって、炭素微細構造体内部の炭素層は結合剤によって互いに固定されてはいない。この機構により、本物品、特に膨張化黒鉛を含む物品の柔軟性を保持することができる。
【0029】
任意により、結合剤と黒鉛との間に界面層が形成される。界面層は化学結合、固溶体、またはこれらの組合せを含むことができる。化学結合、固溶体、またはこれらの組合せが存在する場合、黒鉛のインターロッキングが強化され得る。黒鉛は機械的なインターロッキング及び化学結合の両方によって互いに固定され得ると理解される。結合相の厚さは約0.1〜約100μmまたは約1〜約20μmである。結合相は黒鉛を互いに結合させる連続的または不連続的ネットワークを形成することができる。
【0030】
例示的な結合剤としては、非金属、金属、合金、またはこれらの少なくとも1種を含む組合せが挙げられる。非金属は次のSiO、Si、B、またはBのうちの1種以上である。金属はアルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、スズ、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレン、のうちの1種以上とすることができる。合金には次のアルミニウム合金、銅合金、チタン合金、ニッケル合金、タングステン合金、クロム合金、鉄合金、マンガン合金、ジルコニウム合金、ハフニウム合金、バナジウム合金、ニオブ合金、モリブデン合金、スズ合金、ビスマス合金、アンチモン合金、鉛合金、カドミウム合金、またはセレン合金のうちの1種以上が含まれる。一実施形態において、結合剤は次の銅、ニッケル、クロム、鉄、チタン、銅の合金、ニッケルの合金、クロムの合金、鉄の合金、またはチタンの合金のうちの1種以上を含む。例示的な合金としては、鋼、インコネルなどのニッケル−クロム系合金、及びモネル合金などのニッケル−銅系合金が挙げられる。ニッケル−クロム系合金は、約40〜75%のNi及び約10〜35%のCrを含有することができる。ニッケル−クロム系合金は約1〜約15%の鉄も含有することができる。少量のMo、Nb、Co、Mn、Cu、Al、Ti、Si、C、S、P、Bまたはこれらの少なくとも1種を含む組合せがニッケル−クロム系合金に含まれていてもよい。ニッケル−銅系合金は主にニッケル(最大約67%)及び銅で構成される。ニッケル−銅系合金は、少量の鉄、マンガン、炭素、及びケイ素も含有することができる。これらの材料は様々な形状、例えば粒子、繊維、及びワイヤなどとすることができる。これらの材料の組合せを用いることができる。
【0031】
耐侵食/摩耗性結合剤としては、次のNi、Ta、Co、Cr、Ti、Mo、Zr、Fe、W、及びこれらの合金の1種以上が挙げられる。耐侵食/摩耗性結合剤は、物品が粗面をシールするのに十分に順応することができるように比較的延性もあるべきであると理解される。耐侵食性結合剤は、使用される場合、その高い靱性を考慮して、物品表面近傍の領域に限定することができる。物品の他の部分、例えば第1部材などには、より延性のある結合剤を用いることができる。このようにして、本物品は耐侵食/摩耗性であると同時に、制限された固定力の下で十分に変形することができる。一実施形態において、第2部材の炭素組成物中の第2結合剤は耐侵食/摩耗性結合剤を含む。
【0032】
本物品を製造するために用いられる結合剤はマイクロまたはナノサイズである。一実施形態において、結合剤は約0.05〜約250μm、約0.05〜約50μm、約0.05〜約10μm、具体的には約0.5〜約5μm、より具体的には約0.1〜約3μmの平均粒径を有する。理論に縛られることを望むものではないが、結合剤がこれらの範囲内のサイズを有する場合、黒鉛の間に均一に分散すると考えられる。
【0033】
界面層が存在する場合、結合相は、結合剤を含む結合剤層及び黒鉛を結合剤層と結合させる界面層を含む。界面層は次のC−金属結合、C−B結合、C−Si結合、C−O−Si結合、C−O−金属結合、または金属炭素固溶体のうち1種以上を含む。結合は黒鉛の表面上の炭素及び結合剤から形成される。
【0034】
一実施形態において、界面層は結合剤の炭化物を含む。炭化物には次のアルミニウムの炭化物、チタンの炭化物、ニッケルの炭化物、タングステンの炭化物、クロムの炭化物、鉄の炭化物、マンガンの炭化物、ジルコニウムの炭化物、ハフニウムの炭化物、バナジウムの炭化物、ニオブの炭化物、またはモリブデンの炭化物のうちの1種以上が含まれる。これらの炭化物は、対応する金属または金属合金結合剤を炭素微細構造体の炭素原子と反応させることによって形成される。結合相は、SiOもしくはSiを炭素微細構造体の炭素と反応させることによって形成されるSiC、またはBもしくはBを炭素微細構造体の炭素と反応させることによって形成されるBCを含むこともできる。結合剤材料の組合せを用いる場合、界面層はこれらの炭化物の組合せを含むことができる。炭化物は、炭化アルミニウムなどの塩様炭化物、SiC及びBCなどの共有結合性炭化物、4、5、及び6族遷移金属の炭化物などの侵入型炭化物、または中間遷移金属炭化物、例えばCr、Mn、Fe、Co、及びNiの炭化物とすることができる。
【0035】
別の実施形態では、界面層は黒鉛などの炭素及び結合剤の固溶体を含む。炭素は特定の金属マトリックスに、または特定の温度範囲で溶解性を有し、炭素微細構造体上への金属相の濡れ及び結合の両方を容易とすることができる。熱処理により、金属中での炭素の高溶解性を低温で維持することができる。こうした金属としては、Co、Fe、La、Mn、Ni、またはCuの1種以上が挙げられる。結合剤層は固溶体及び炭化物の組合せを含むこともできる。
【0036】
炭素複合材は、炭素複合材の全重量に対して、約20〜約95wt%、約20〜約80wt%、または約50〜約80wt%の黒鉛を含む。結合剤は、炭素複合材の全重量に対して、約5wt%〜約75wt%または約20wt%〜約50wt%の量で存在する。
【0037】
図1を参照すると、例示的実施形態において、物品10は第1炭素複合材を含む第1部材1を含む。物品10は、第1部材1上に配置され、第2炭素複合材及び補強剤を含む第2部材2も含み、第2部材2は第2炭素複合材3の補強剤4に対する重量比の勾配を有する。
【0038】
図2は、黒鉛対結合剤比の勾配を有する第2部材5の断面図を示す。図2において、黒鉛対結合剤比が最も高い領域は最も明るいグレースケールの値を有し、一方で、黒鉛対結合剤比が最も低い領域は最も暗いグレースケールの値で示してある。図2に示すように、黒鉛対結合剤比は第2部材の頂部から第2部材の底部まで漸増している。
【0039】
第2部材の領域A〜Cの微細構造をそれぞれ図3〜5に示す。図3に示すように、物品が摩耗物にさらされる第2部材の頂部近傍では、結合剤7が優位を占めており、黒鉛粒子6が摩耗物と物品表面との間の摩擦を軽減する潤滑剤としてその中に分散している。図4は、第2部材の中央では、結合剤が、黒鉛9と互いに結合して物品の構造一体性及び耐熱性を向上させる結合相8を形成することを示す。図5に示すように、第2部材の底部では、黒鉛相9が優位を占めており、より高い弾性、ひいてはより効率的かつ確実な密封を可能とする。
【0040】
傾斜機能物品を形成する一方法は、第1炭素及び第1結合剤を含む第1粉末混合物を鋳型内に配置すること、第2炭素、第2結合剤、及び補強剤を含み、補強剤の重量に対する第2炭素及び第2結合剤の合計重量の比の勾配を有する第2粉末混合物を、第1組成物上に配置して複合組成物を得ること、ならびに約350℃〜約1200℃の温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で複合組成物を加圧して物品を形成することを含む。
【0041】
第2部材が炭素の結合剤に対する重量比の勾配を有する場合、この方法は、第1炭素及び第1結合剤を含む第1粉末混合物を鋳型内に配置すること、第2炭素及び第2結合剤を含み、第2結合剤に対する第2炭素の重量比の勾配を有する第2粉末混合物を、第1粉末混合物上に配置して複合組成物を得ること、ならびに約350℃〜約1400℃の温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で複合組成物を加圧して物品を形成することを含む。
【0042】
一実施形態において、補強剤の重量に対する第2炭素及び第2結合剤の合計重量の比(原材料重量比とも呼ぶ)の勾配を確立するために、第2粉末混合物を複数部分に分けて配置する。例えば、第2粉末混合物の第1部分は90:10の原材料重量比を有することができる。第2粉末混合物の第2部分は80:20の原材料重量比を有することができる。第2粉末混合物の第3部分は70:30の原材料重量比を有することができる。また、第2粉末混合物の最後の部分は10:90の原材料重量比を有することができる。第1粉末混合物が鋳型内に配置されるとと、第2粉末混合物の第1部分が第1粉末混合物上に配置され、第2部分が第1部分上に配置され、かつ第3部分が第2部分上に配置されてから、最後の部分を鋳型内に配置する。部分の数は特に限定されない。一実施形態において、第2粉末混合物を約3〜約100部分、約3〜約50部分、約3〜約20部分、約5〜約15部分、または約5〜約10部分に分けて連続的に配置することによって勾配を確立するが、この場合、連続する部分の原材料重量比は漸減している。第2炭素の第2結合剤に対する重量比の勾配を確立するために、第2粉末混合物を同様にして配置することができる。
【0043】
粉末混合物は、黒鉛及びマイクロまたはナノサイズの結合剤、ならびに存在する場合には補強剤を、当該技術分野において公知の任意の好適な方法でブレンドすることによって形成することができる。好適な方法の例としては、ボール混合法、音響混合法、リボンブレンド法、垂直スクリュー混合法、及びVブレンド法が挙げられる。
【0044】
物品は1段階プロセスまたは2段階プロセスによって形成することができる。2段階プロセスでは、複合組成物を冷間圧縮により加圧して圧粉体とし、その後、圧粉体を加圧及び加熱することによって物品を形成する。別の実施形態では、複合組成物を室温で加圧して圧粉体を形成することができ、その後、圧粉体を大気圧で加熱して物品を形成する。これらのプロセスを2段階プロセスと呼ぶことができる。あるいは、複合組成物を加圧及び加熱して直接物品を形成することもできる。このプロセスを1段階プロセスと呼ぶことができる。
【0045】
黒鉛はチップ、粉末、プレートレット、フレークなどの形態とすることができる。一実施形態において、黒鉛は約50μm〜約5,000μm、好ましくは約100〜約300μmの直径を有するフレーク状である。黒鉛フレークは約1〜約5μmの厚さを有することができる。
【0046】
2段階プロセスに関して、冷間圧縮は、複合組成物を室温または結合剤が黒鉛と実質的に結合しない限りの高温で圧縮することを意味する。一実施形態において、約80wt%超、約85wt%超、約90wt%超、約95wt%超、または約99wt%超の黒鉛は圧粉体中で結合していない。圧粉体を形成する圧力は約500psi〜約10ksiとすることができ、温度は約20℃〜約200℃とすることができる。この段階での縮小率、すなわち複合組成物の体積に対する圧粉体の体積は約40%〜約80%である。圧粉体の密度は約0.1〜約5g/cm、約0.5〜約3g/cm、または約0.5〜約2g/cmである。
【0047】
圧粉体を、約350℃〜約1400℃、具体的には約800℃〜約1400℃の温度で加熱して物品を形成することができる。一実施形態において、温度は結合剤の融点の約±20℃〜約±100℃、または結合剤の融点の約±20℃〜約±50℃である。別の実施形態では、温度は結合剤の融点を超え、例えば、結合剤の融点よりも約20℃〜約100℃高いかまたは約20℃〜約50℃高い。温度が高いほど、結合剤は粘性が低くなり、より良好に流れ、結合剤を黒鉛と均一にブレンドするために必要とされる圧力が低くなり得る。しかし、温度は高すぎると、器具に有害な影響を及ぼし得る。
【0048】
温度は所定の温度スケジュールまたは傾斜率に従って加えることができる。加熱手段は特に限定されない。例示的な加熱方法としては、直流(DC)加熱、誘導加熱、マイクロ波加熱、及び放電プラズマ焼結(SPS)が挙げられる。一実施形態において、DC加熱によって加熱を行う。例えば、複合組成物を電流で荷電し、電流が組成物を通って流れて熱を非常に素早く発生させることができる。任意により、不活性雰囲気下、例えばアルゴンまたは窒素下で加熱を行うこともできる。一実施形態において、圧粉体は空気の存在下で加熱される。
【0049】
加熱は約500psi〜約30,000psiまたは約1000psi〜約5000psiの圧力で行うことができる。圧力は超大気圧または亜大気圧とすることができる。一実施形態において、物品を形成するのに望ましい圧力を一度に印加しない。圧粉体を装填した後、室温または低温で最初に低い圧力を組成物に印加して組成物中の大きな孔を閉塞する。さもなければ、溶融した結合剤が金型の表面に流れる場合がある。温度が所定の最高温度に達すると、物品を製造するのに必要な望ましい圧力を印加することができる。温度及び圧力は、約5分間〜約120分間所定の最高温度及び所定の最大圧力に保持することができる。一実施形態において、所定の最高温度は結合剤の融点の約±20℃〜約±100℃、または結合剤の融点の約±20℃〜約±50℃である。
【0050】
この段階での縮小率、すなわち圧粉体の体積に対する物品の体積は、約10%〜約70%または約20〜約40%である。物品の密度は圧縮の程度を制御することによって変化させることができる。物品は約0.5〜約10g/cm、約1〜約8g/cm、約1〜約6g/cm、約2〜約5g/cm、約3〜約5g/cm、または約2〜約4g/cmの密度を有することができる。
【0051】
あるいは、同様に2段階プロセスに関して、最初に室温及び約500psi〜30,000psiの圧力で複合組成物を加圧して圧粉体を形成することができ、さらに圧粉体を約350℃〜約1400℃、具体的には約800℃〜約1400℃の温度で加熱して物品を製造することができる。一実施形態において、温度は結合剤の融点の約±20℃〜約±100℃、または結合剤の融点の約±20℃〜約±50℃である。別の実施形態では、温度は結合剤の融点よりも約20℃〜約100℃または約20℃〜約50℃高くすることができる。加熱は不活性雰囲気の存在下または非存在下の大気圧で行うことができる。
【0052】
別の実施形態では、圧粉体を作製せずに複合組成物から直接物品を製造することができる。加圧及び加熱は同時に行うことができる。好適な圧力及び温度は、2段階プロセスの第2段階について本明細書で考察したものと同様とすることができる。
【0053】
ホットプレスは温度及び圧力を同時に加えるプロセスである。傾斜機能物品を製造するために、1段階及び2段階プロセスの両方においてホットプレスを用いることができる。
【0054】
別の実施形態では、第1部材及び第2部材を別々に形成する。その後、第1部材を第2部材上に配置する。例えば、第1粉末混合物を鋳型に装填し、本明細書に開示の複合組成物から物品を製造する1段階または2段階法に従って加工することができる。同様に、第2粉末混合物を鋳型に装填し、本明細書に開示の複合組成物から物品を製造する1段階または2段階法に従って加工することができるが、この場合第2部材は、第2炭素複合材の補強剤に対する重量比の勾配、または第2炭素の第2結合剤に対する重量比の勾配を有する。
【0055】
第1部材を第2部材上に配置する方法は特に限定されない。一実施形態において、第1部材の表面及び/または第2部材の表面に局部加熱を適用することによって、第1部材を第2部材に積層する。他の例示的方法としては、静水圧圧縮、拡散接合、熱成形、溶接、ろう付けなどが挙げられる。
【0056】
別の実施形態では、第1部材を形成した後、これを鋳型に配置する。次に、本明細書に記載の第2粉末混合物を第1部材の表面上に配置する。その後、第2粉末混合物及び第1部材を一緒に成形して傾斜機能物品を形成する。
【0057】
本明細書の傾斜機能物品は多様な形状、例えばリング、チューブ、パイプ、ロッド、トロイド、球、多角形、円錐、円筒、これらの切頭形状などで形成することができる。こうした形状は鋳造プロセス、押出成形などから得ることができる。加えて、成形形状に切断、のこ引き、アブレーション加工、及び他の材料除去法を含めた様々な形削り加工をさらに適用させることができる。
【0058】
傾斜機能物品は複数の有利な特性を有し、様々な用途に用いることができる。本物品はツールまたはツールの構成部品を製造するのに用いることができる。例示的なツールとしては、シール、高圧ビーズ型フラックスクリーンプラグ、スクリーンベースパイププラグ、圧縮パッキン部品、Oリング、ボンデッドシール、ブレットシール、地下安全バルブシール、地下安全バルブフラッパーシール、運動用シール、バックアップリング、ドリルビットシール、ライナーポートプラグ、デブリバリア、掘削刺激ライナープラグ、流入制御装置プラグ、フラッパー、ボールシート、ガスリフトバルブプラグ、流体損失制御フラッパー、電動水中ポンプシール、せん断プラグ、フラッパーバルブ、ガスリフトバルブ、及びスリーブが挙げられる。他の例示的な物品としては、原子炉圧力容器シール、原子炉アクチュエータシール、原子力発電所のポンプシール、圧力解放シール、回転シール、スプールバルブシール、ブレーキピストンシール、シャフトシール、ベアリングシーリング、またはピニオンシールが挙げられる。一実施形態において、物品はダウンホール部品である。
【0059】
本物品は、動作温度の範囲が約−65°F〜約1200°Fの高い耐熱性を有する。特に有利な特徴として、傾斜機能物品を形成することによって耐侵食/腐食性及び弾性の両方が向上する。本物品は侵食/腐食損傷を受けるシール、例えば安全または遮断バルブ用途に用いられるフラッパーまたはロータリーボールバルブシールとしての用途に特に好適である。本物品または本物品を備えるツールは様々な用途に用いることができる。一実施形態において、本物品または本物品を備えるツールは流れを抑制するために用いることができる。
【0060】
本明細書に開示したすべての範囲は端点を含み、端点は互いに独立して組合せ可能である。本明細書で用いる場合、接尾辞「(s)(複数可)」は修飾する用語の単数形及び複数形両方を含むことを意図し、そのため、その用語の少なくとも1つを含む(例えば、colorant(s)(着色剤(複数可))は少なくとも1種の着色剤を含む)。「or(または)」は「and/or(及び/または)」を意味する。「optional(任意の)」または「optionally(任意に)」はその後に記載の事象または状況が起きても起きなくてもよいことを意味し、この記載はその事象が起きる場合及び起きない場合を含むことを意味する。本明細書で用いる場合、「combination(組合せ)」はブレンド、混合物、合金、反応生成物などを含む。「a combination thereof(これらの組合せ)」は、「列挙した事項及び任意により列挙していない類似の事項の1つ以上を含む組合せ」を意味する。すべての参照文献は参照により本明細書に援用される。
【0061】
本発明を記述する文脈(特に以下の特許請求の範囲の文脈中)における用語「a」及び「an」ならびに「the」ならびに同様の指示対象の使用は、本明細書で別途示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形両方を包含すると解釈されるべきである。さらに、本明細書における用語「first(第1)」、「second(第2)」などは、いかなる順序、量、または重要性も表さず、むしろ、ある要素を別の要素と区別するために用いられることにも留意すべきである。量に関連して用いられる修飾語「about(約)」は記載した値を含み、状況からわかる意味を有する(例えば、特定の量の測定に関連する誤差の程度を含む)。
【0062】
例示を目的として典型的な実施形態を記載したが、上述の記載は本発明の範囲に対する制限であるとみなされるべきではない。したがって、当業者であれば本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更、応用、及び代替を想到することができる。
図1
図2
図3
図4
図5