【文献】
Biacore T200 Instrument Handbook,GE Healthcare,2013年,URL,https://www.gelifesciences.co.jp/tech_support/manual/pdf/71341633_biacore_t200_app.pdf
基準結合曲線が、所定の取得条件で基準−検体リガンド相互作用の1以上の結合曲線をバイオセンサを用いて取得することによって提供される、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
所定の取得サイクルが1以上の会合フェーズを含んでおり、センサ表面が、所定の濃度で検体を含む流体試料に接触して置かれる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
所定の取得サイクルが1以上の解離フェーズを含んでおり、センサ表面が、検体を含まない流体に接触して置かれる、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
バイオセンサのセンサ表面がフローセル内に設けられ、所定の取得サイクルは、フローセルを通る流体の流量を規定する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
リガンド及び検体の少なくとも一方が、薬物標的及び薬物標的を特徴付けるために用いられる天然の結合パートナーもしくは試薬の群から選択される、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
基準閾値曲線の外側に位置する試料結合曲線のデータ点の割合を算出するステップを含んでおり、偏差基準が、基準閾値曲線の外側にあることが許容されるデータ点の最大割合である、請求項3乃至請求項15のいずれか1項記載の方法。
基準曲線が最初に差し引かれた、閾値基準結合曲線又は試料結合曲線の二乗和を算出し、評価基準として二乗和の比を用いる、請求項3乃至請求項16のいずれか1項記載の方法。
検体リガンド相互作用の分類のための所定の偏差基準が、所定の取得サイクルの異なるフェーズに応じて重み付けされる、請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法。
コンピュータ上で実行された場合に、請求項1乃至請求項19のいずれか1項記載の方法を実行するようにバイオセンサシステムの動作を制御するように構成されたコンピュータプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述したように、本発明は、流体試料中の検体とバイオセンサのセンサ表面に固定されたリガンドとの間の相互作用を評価するための方法及びバイオセンサシステムに関する。
【0012】
通常、実験的な結合データは、センサベースの技術により得ることができ、その技術は分子相互作用を調べて、相互作用が進行するにつれて結果をリアルタイムで提示する。しかし、本発明をより詳細に説明する前に、本発明を使用することが意図される一般的な状況について説明する。
【0013】
特に定義されない限り、本明細書で用いられるすべての技術的及び科学的用語は、本発明に関連する当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。また、特に断らない限り、単数形は、複数の参照を含むことを意味する。
【0014】
本明細書で言及するすべての刊行物、特許出願、特許、及びその他の参考文献は、全体として参照により組み込まれる。
【0015】
化学センサ又はバイオセンサは、通常、ラベルフリー技術に基づいており、例えば固定された層の質量、屈折率、又は厚さなどのセンサ表面の性質の変化を検出しているが、何らかの標識に依存するセンサもある。典型的なセンサ検出技術は、これらに限定されないが、光学的、熱光学的、及び圧電もしくは音波方法(例えば表面弾性波(SAW)及び水晶振動子マイクロバランス(QCM)法を含む)などの質量検出方法、並びに電位測定、導電率測定、電流測定、及びキャパシタンス/インピーダンス方法などの電気化学的方法を含む。光学的検出方法については、代表的な方法は、外部及び内部反射法を共に含む反射光学的方法などの質量表面濃度を検出する方法を含み、それらは角度、波長、偏光、又は位相について分解され、例えば、エバネッセント波偏光解析法及びエバネッセント波分光法(EWS、又は内部反射分光法)であって、両者は表面プラズモン共鳴(SPR)によるエバネッセント電界増強、ブリュースター角屈折率測定法、臨界角屈折率測定法、漏れ全反射
(FTR)、散乱全内部反射(STIR)(散乱増強ラベルを含んでもよい)、光導波路センサ、
外部反射撮像、及び臨界角分解撮像、ブリュースター角分解撮像、SPR角分解撮像などのエバネッセント波に基づく撮像などを含むことができる。さらに、測光及び撮像/顕微鏡方法を挙げることができるが、これは「それ自体」又は反射方法と組合せて、例えば表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)、エバネッセント波蛍光(TIRF)及び燐光に基づいており、また、導波路干渉計(例えばForteBio(登録商標)によって実現される生体層干渉法)、導波路漏洩モード分光法、反射干渉分光法(RIfS)、伝送干渉法、ホログラフィ分光法、及び原子間力顕微鏡法(AFR)を挙げることもできる。
【0016】
市販されているバイオセンサは、GE Healthcare社によって製造販売されている、上述したBIACORE(商標)システム機器を含み、それは表面プラズモン共鳴(SPR)に基づいており、束縛されたリガンドと検体との間の表面結合相互作用をリアルタイムでモニタすることを可能にする。この文脈では、「リガンド」は、所与の検体に対する既知又は未知の親和性があり、表面に固定された任意の捕捉又は捕獲する薬剤を含む分子であり、「検体」はそれに対する任意の特定の結合パートナーを含む。
【0017】
以下の詳細な説明及び実施例では、本発明は、SPR分光法、特にBIACORE(商標)システムの文脈で例示しているが、本発明はこの検出方法に限定されるものではないことを理解されたい。そうではなく、検出面における変化を測定することができ、それが検体の固定されたリガンドへの結合を定量的に示すものであれば、検体が検出表面に固定されたリガンドに結合する任意の親和性に基づく検出方法を用いることができる。
【0018】
SPR現象はよく知られており、屈折率の異なる2つの媒質の界面において特定の条件の下で光が反射する場合にSPRが発生し、その界面は金属膜、通常、銀又は金で被覆されていると言えば十分であろう。BIACORE(商標)機器では、媒体は、試料及びセンサチップのガラスであって、そのガラスはマイクロ流体フローシステムにより試料に接触する。金属膜は、チップ表面の金の薄い層である。SPRは、特定の反射角で反射光の強度を低下させる。反射光強度が最小になるこの角度は、反射光の反対側、BIACORE(商標)システムでは試料側の表面に近い屈折率に応じて変化する。
【0019】
BIACORE(商標)システムの概略図を
図1に示す。センサチップ1は、流路5を通る検体4、例えば抗原、を有する試料の流れにさらされた捕捉分子(リガンド)3、例えば抗体、を支持する金膜2を有する。光源7(LED)からの単色のp偏光6は、プリズム8によってガラス/金属界面9に結合され、そこで光は全反射される。反射された光ビーム10の強度は、光検出部11(光検出器アレイ)によって検出される。
【0020】
BIACORE(登録商標)機器の技術的態様及びSPR現象についての詳細な説明は、米国特許第5,313,264号に見いだすことができる。バイオセンサ検出表面のマトリクスコーティングに関するより詳細な情報は、例えば、米国特許第5,242,828号及び第5,436,161号に与えられている。さらに、BIACORE(商標)機器と共に使用されるバイオセンサチップの技術的態様の詳細な説明は、米国特許第5,492,840号に見いだすことができる。
【0021】
試料中の分子がセンサチップ表面の捕捉分子に結合すると、濃度、したがって表面の屈折率が変化して、SPR応答が検出される。相互作用の過程の時間に対する応答をプロットすることにより、相互作用の進行の定量的な測定を提供する。このようなプロット、又は反応速度もしくは曲線(結合等温線)は、通常、結合曲線又はセンサグラムと呼ばれ、また当該技術分野では時には「親和性トレース」又は「アフィノグラム」とも呼ばれる。BIACORE(商標)システムでは、SPR応答値は共鳴単位(RU)で表される。1RUは最小反射光強度の角度の0.0001°の変化を表しており、これは、大部分のタンパク質及び他の生体分子についてセンサ表面の約1pg/mm
2の濃度変化に対応する。検体を含む試料がセンサ表面に接触すると、センサ表面に結合した捕捉分子(リガンド)が、「会合」と呼ばれるステップで検体と相互作用する。このステップは、試料が最初にセンサ表面に接触される際のRUの増加によって結合曲線で示される。逆に、試料の流れが、例えば、バッファフローに置換された場合には、「解離」が通常発生する。このステップは、検体が表面結合リガンドから解離する際の経時的なRUの低下により結合曲線で示される。
【0022】
センサチップ表面での可逆的相互作用についての代表的な結合曲線(センサグラム)を
図2に示しており、検出表面は、固定された捕捉分子すなわちリガンド、例えば抗体を有し、試料中の結合パートナー、したがって、すなわち検体と相互作用する。上述した他の検出原理に基づくバイオセンサシステムによって生成される結合曲線は、同様の外観を有する。縦軸(y軸)は応答(ここでは共鳴単位RU)を示し、横軸(x軸)は時間(ここでは秒)を示す。横軸の下には、結合曲線を取得するための取得サイクルが、センサ表面が異なる流体に接触する異なる時間区間に分割されて模式的に開示されている。最初に、t
1からt
2まで、バッファ(B)が検出表面上を通過し、結合曲線のベースライン応答
Iを与える。次に、t
2からt
3までの間、センサ表面が濃度C
1で検体を含む試料と接触し、検体の結合に起因して信号の増加が観察される。結合曲線のこの部分
IIは、通常「会合フェーズ」と呼ばれる。最終的に、会合フェーズの終了時又はその近くで定常状態に到達し、共鳴信号は
IIIで平坦になる(しかし、この状態は常に達成され)。本明細書での「定常状態」という用語は、「平衡」という用語と同義的に使用されることに留意されたい(他の文脈では、「平衡」という用語は、理想的な相互作用モデルを記述するために確保される場合があり、系が平衡状態でない場合であっても、実際には結合は経時的に一定であり得るからである)。会合フェーズの終了時のt
3では、試料はしばしばバッファ(B)の連続的な流れに置き換えられ、信号の減少は表面からの検体の解離、すなわち解放を反映している。結合曲線のこの部分
IVは、通常「解離フェーズ」と呼ばれる。分析は、必要に応じて、t
4における再生ステップにより終了し、(理想的には)リガンドの活性を維持しつつ、結合した検体を表面(R)から除去することができる溶液をセンサ表面に注入する。これは、センサグラムの部分
Vで示されている。t
5において、バッファ(B)の注入がベースライン
Iを回復させ、ここで表面は新たな分析のための準備が整う。状況によっては、再生ステップ
Vを省略して、再生せずに新しい注入サイクルを開始することが便利であり得る。そのような状況の例としては、同一検体の濃度系列、本質的に完全な解離を可能にする十分に高い解離速度を有する検体のスクリーニングなどが挙げられる。
【0023】
会合フェーズ
II及び解離フェーズ
IVのプロファイルから、結合及び解離反応速度に関する情報が得られ、
IIIの結合曲線の高さは、親和性(表面の質量濃度の変化に関連する相互作用に起因する応答)を示している。
【0024】
本発明
本発明は上述した本発明の特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって確立されることを理解されたい。
【0025】
述べたように、本発明は、流体試料中の検体とバイオセンサのセンサ表面に固定されたリガンドとの間の相互作用を評価するための方法及びバイオセンサシステムに関する。バイオセンサは、検出面における変化を測定することができ、それが検体の固定されたリガンドへの結合を定量的に示すものであれば、検体が検出表面に固定されたリガンドに結合する任意の種類の親和性に基づく検出方法に基づいてもよい。
図4に概略的に開示する一実施形態によれば、本方法は以下のステップを含む。
・所定の取得サイクルに対する基準相互作用を表す基準結合曲線を提供するステップ10、
・所定の取得サイクルに対する検体リガンド相互作用の試料結合曲線を、バイオセンサを用いて取得するステップ20、
・試料結合曲線の基準結合曲線からの偏差を登録するステップ40、
・登録された偏差が所定の偏差基準より小さい場合には、基準相互作用と同等なものとして検体リガンド相互作用を分類するステップ50。
【0026】
図4の破線のボックスで示すように、本方法は、必要に応じて、偏差が登録される前に試料結合曲線を基準結合曲線に対して正規化するステップ30を含むことができる。このような正規化は、センサ表面のリガンド活性のばらつきを補償するために使用することができる。
【0027】
本開示全体にわたって、基準結合曲線という用語は、以下のような基準相互作用に対して特徴的な結合曲線を意味する。
・特定の検体−リガンド対の間の相互作用、
・2以上の検体−リガンド対のグループに共通であり得る特定の相互作用タイプ、
・特定の相互作用機構を示す特定の相互作用挙動、
・その他。
【0028】
基準結合曲線は、基本的に任意の適切な方法で提供することができ、バイオセンサを用いて取得されるように直接使用される特定の相互作用についての直接的な結合曲線であってもよいし、或いは、より詳細に説明するように、1以上の結合曲線を操作することによって提供される精密な結合曲線であってもよい。一実施形態では、基準結合曲線は、所定の取得条件で基準−検体リガンド相互作用の1以上の結合曲線を、バイオセンサを用いて取得することにより提供される。いくつかの実施形態では、基準結合曲線は、バイオセンサにより取得された結合曲線に直接基づかないが、理論的又は経験的モデルに基づいた理論的結合曲線、例えば、特定の相互作用機構などを特徴付けるように特に構成された結合曲線であってもよい。
【0029】
本方法では、基準結合曲線は、所定の取得サイクルに対する基準相互作用の代表的なものであり、評価される検体リガンド相互作用についての試料結合曲線は、同じ所定の取得サイクルを用いて取得され、結果として得られる結合曲線は、理論的モデルなどに応答をフィティングするのではなく、直接比較によって評価することができ、評価のための特定の相互作用パラメータを抽出することができる。
【0030】
本開示全体にわたって、所定の取得サイクルという用語は、バイオセンサの集合的なステップ及び設定、並びに試料流体中の検体の濃度を含み、これらはバイオセンサにより登録される結合曲線の形状に影響を及ぼす。一実施形態によれば、所定の取得サイクルは、1以上の会合フェーズを含み、
センサ表面は、所定の濃度で検体を含む流体試料に接触して置かれる。一実施形態では、所定の取得サイクルは、異なる検体濃度について2以上の会合フェーズを含み、結果として得られる結合曲線において、検体リガンド相互作用の反応速度特性からの寄与が増加する。所定の取得サイクルは、1以上の解離フェーズを含むことができ、
センサ表面は、検体を含まない流体に接触して置かれる。
図5は、所定の取得サイクルの例、及び中間解離フェーズBを有する検体濃度C
1〜C
5に対する5つの会合フェーズを含む基準曲線の例を示し、
中間解離フェーズBでは、センサ表面は検体を含まないバッファに接触して置かれている。
図5では、取得サイクルは、指定した時点t
nで異なる区間に分割された処理タイムラインによって示されている。関連する基準結合曲線から分かるように、C
1<C
2<C
3<C
4<C
5である。しかし、所定の取得サイクルは、決して
図5の例に限定されるものではなく、所定の取得サイクルは、検体リガンド相互作用の評価及び分類を容易にする任意の適切な方法で構成することができることに留意されたい。所定の取得サイクルは、例えば以下を含むことができる。
・検体濃度C
1を有する単一の会合フェーズ、
・同じ検体濃度C
1のいくつかの会合フェーズ、
・中間解離フェーズのない2以上の連続した会合フェーズ、
・1以上の再生フェーズ、
・高い検体濃度と、それに続くより低い検体濃度等。
【0031】
所定の取得サイクルにより定義されるいくつかのパラメータは、使用されるバイオセンサの種類及びその設定に関連することができる。例えば、バイオセンサのセンサ表面がフローセル内に設けられると、所定の取得サイクルもフローセルを通る流体の流量を規定することができ、いくつかの条件の下では会合及び解離速度は流量に依存する。関連し得る他のパラメータは、バイオセンサの温度、リガンド活性の減衰などである。
【0032】
検体濃度C
1〜C
5は、オフラインで調製して、別々の試料容器に提供されてもよいし、或いは、濃度は、高濃度の試料ストック溶液をバッファなどと混合して検体の所定の濃度を有する試料流体にすることができるインラインの混合装置によって提供されてもよい。
【0033】
図5aでは、基準結合曲線は、検体リガンド相互作用が評価される基準相互作用を示す破線の曲線として表示される。一実施形態によれば、試料結合曲線の基準結合曲線からの偏差を登録するステップ40は、基準結合曲線からの偏差を直接計算することによって実行され、偏差量に対する直接閾値を、分類するステップ50のために設定することができる。他の実施形態によれば、例えば、所定の取得サイクルなどの1以上のフェーズ又は部分に対して偏差を重み付けすることにより、分類のステップのためのより具体的な閾値基準を提供することができる。
【0034】
一実施形態によれば、
図5aに概略的に示すように、基準結合曲線に対する許容閾値を定義するために上側及び/又は下側基準閾値曲線を設けることができ、
偏差基準は基準閾値曲線に対して定義される。
図5aでは、上側及び/又は下側基準閾値曲線は、細い実線で開示されており、それぞれ正及び負の方向にy軸に沿って基準結合曲線を線形シフトしたものを表す。
・上側閾値曲線=基準結合曲線+所定の上側閾値パラメータ
・下側閾値曲線=基準結合曲線+所定の下側閾値パラメータ
図5bは、取得サイクル及び
図5aの対応する基準曲線を示し、
試料結合曲線は、分類のために太い点線でプロットされている。
図5bでは、開示された試料結合曲線は、上側及び下側閾値曲線の境界内に完全に含まれており、したがって所定の閾値についての基準相互作用と同等なものとして分類することができる。一実施形態によれば、分類は単一の上側又は下側閾値曲線に基づいてもよく、
試料結合曲線が1つの閾値曲線を満たす場合には、基準相互作用と同等なものとして分類される。以下に及び実施例に関連してさらに詳細に開示するように、上側及び下側閾値曲線の形式による偏差基準は、複数の基準結合曲線の取り込みから算出された統計情報に基づいて提供することができる。このようにして、検体リガンド結合曲線の分類に使用される閾値は、実際の相互作用の偏差などについてより代表的なものであり得る。一実施形態によれば、検体リガンド相互作用の分類のための所定の偏差基準は、所定の取得サイクルの異なるフェーズ又は部分に応じて重み付けされる。
【0035】
図6〜
図9は、統計的に定義された基準結合曲線並びに上側及び下側閾値曲線を構築する1つの方法を示す。統計的に関連する基準結合曲線を提供するために、所定の取得サイクルに対する基準−検体リガンド相互作用について、2以上の結合曲線が取得される。
図6では、5つの基準−検体リガンド相互作用の結合曲線が、所定の取得サイクルについて概略的に開示されている。バイオセンサの応答及び試料作製などのばらつきに起因して、基準−検体リガンド相互作用間の偏差の特定量を予想することができ、したがって、本発明の方法による評価はこのような偏差を考慮するように構成することができる。一実施形態によれば、基準結合曲線は、2以上の結合曲線の平均又は中央値曲線として定義され、試料結合曲線の偏差は、ステップ40において平均又は中央値曲線に対して登録される。いくつかの基準−検体リガンド相互作用では、登録された結合曲線間の偏差は、偏差/減衰型パターンにより特徴付けられる。このような場合には、基準−検体リガンド相互作用の結合曲線は、統計的に定義された基準結合曲線を算出する前に正規化することができる。正規化は、具体的な偏差/減衰パターンに応じて任意の適切な方法で実行することができ、一実施形態によれば、所定の取得サイクルにおいて適切な正規化点t
Nを選択して、その点t
Nですべての曲線が同じ値を有するように基準−検体リガンド相互作用の結合曲線をy方向にリスケーリングすることによって実行することができる。正規化点は、所定の取得サイクルに応じて好適に選択され、一実施形態では、最も高い応答を有する会合フェーズの終了前の短い時間フレームの点として選択される。
図7は、正規化点t
Nに対して正規化された、
図6の基準−検体リガンド相互作用の結合曲線を開示する。別の例は、2以上の正規化点t
Nを選択して、例えば正規化点t
Nにおける平均応答に基づいて曲線を正規化することである。
【0036】
図8では、基準結合曲線を、
図7の正規化された基準-検体リガンド相互作用の結合曲線に基づく平均曲線として概略的に示している。或いは、基準結合曲線は、中央の曲線として、又は所定の取得サイクルの基準相互作用を表す基準結合曲線を提供する他の任意の適切な統計的手法で提供することができる。基準結合曲線を定義するための統計的手法を用いることにより、例えば平均曲線からの偏差に関する情報も提供し、そのような情報は、例えば、登録された基準-検体リガンド相互作用の結合曲線が偏差のより広い範囲を示した所定の取得サイクルにおいて、1以上のフェーズ又は部分に対してより広い閾値範囲を可能にする基準閾値曲線を提供するために使用することができる。一実施形態では、上側及び下側基準閾値曲線は、2以上の基準-検体リガンド相互作用の結合曲線の最小及び最大によって定義される。別の実施形態が
図8に概略的に開示され、実施例でさらに詳細に開示されるが、そこでは上側及び下側基準閾値曲線は、平均曲線からの所定の標準偏差によって定義される。標準偏差の概念を用いることにより、評価の妥当性を確実性の高いレベルに設定することができる。本発明による評価のための閾値を定義するために標準偏差を用いるという概念は、標準偏差プロットの形で評価結果を提示して、定義された基準閾値曲線に対する試料結合曲線の適合を明確に示すことをさらに可能にするが、これについては実施例1に関して
図14に示す。一実施形態によれば、本方法は、
目視検査のために、以下のうちの1以上をグラフィックディスプレイ上に表示するステップを含む。
・基準結合曲線、1以上の試料結合曲線、並びに必要に応じて上側閾値曲線、下側基準閾値曲線、及び
対照結合曲線のオーバーレイプロット、
・偏差プロットであって、
登録された基準結合曲線からの偏差が1以上の試料結合曲線について表示される、偏差プロット、
・基準閾値曲線プロットであって、
1以上の試料結合曲線が基準閾値スケールで表示される、基準閾値曲線プロット。
【0037】
さらに、すでに述べたように、試料結合曲線は、例えばバイオセンサの変動などの影響を回避するために、基準結合曲線に対して正規化することができる。そのうえ、バイオセンサ及び関係する検体リガンド相互作用の関数が妥当であることを確認するために、本方法は以下のステップを含むことができる。
・試料結合曲線に関連して、
対照-検体リガンド相互作用の
対照結合曲線を取得するステップ、
・
対照結合曲線の基準結合曲線からの偏差を登録するステップ、
・
対照結合曲線の偏差が所定の
対照限界より小さい場合に、試料結合曲線の取得を確認するステップ。
【0038】
上と同様に、
対照結合曲線を基準結合曲線に対して正規化することもできる。一実施形態では、所定の
対照限界は、基準閾値曲線と同じであってもよい。
対照、検体リガンドとの相互作用を便宜的に基準相互作用と同じであってもよい。
【0039】
一実施形態によれば、検体リガンド相互作用を分類するステップは、基準閾値曲線の外側に位置する試料結合曲線のデータ点の割合を算出するステップを含み、
偏差基準は、基準閾値曲線の外側にあることが許容されるデータ点の最大割合である。一実施形態によれば、検体リガンド相互作用を分類するステップは、基準曲線が最初に差し引かれた、閾値基準結合曲線及び/又は試料結合曲線の二乗和を算出するステップを含み、
偏差基準は許容される二乗和の最大値である。
【0040】
図9に概略的に開示する一実施形態では、本方法は、
偏差を登録するステップ及び以降のステップから結合曲線の1以上の区間を除外するステップを含む。結合曲線から1以上の区間を除外することは、スパイクなどのような外乱を含む領域を除外するために有用である。一実施形態では、本方法は、そのような区間を自動的に除外するために外乱を識別するステップを含む。一実施形態では、除外される区間は、検体リガンド相互作用及び所定の取得条件についての事前知識に基づいて予め決定されており、
図9に開示された実施形態では、除外された区間は、所定の取得サイクルで規定されるように会合フェーズと解離フェーズとの間の遷移を含む。
【0041】
本方法は、流体試料中の検体とバイオセンサのセンサ表面に固定されたリガンドとの間の任意の相互作用を評価するために使用することができ、
基準相互作用を表す関連する基準結合曲線を提供することができ、迅速かつ信頼性のある相対評価が所望される。応用領域の例は、以下を含む。
・処理品質管理、本方法は最終又は中間処理結果を検証するために用いられる、
・結合挙動などの特定の種類を識別するための検体/リガンドのライブラリのスクリーニング。
【0042】
一実施形態によれば、リガンド及び検体の少なくとも一方は、薬物標的及び薬物標的を特徴付けるために用いられる天然の結合パートナーもしくは試薬の群から選択される。
【0043】
一実施形態によれば、上述の方法を実行するように構成されたバイオセンサシステムが提供される。バイオセンサシステムは、例えばBIACORE(商標)システムのようなSPRベースのシステムであってもよいし、或いは、例えばForteBio(商標)システムなどのような導波路干渉計であってもよい。またさらに、コンピュータ上で実行された場合に、上述の方法を実行するようにバイオセンサシステムの動作を制御するように構成されたコンピュータプログラムが提供される。
【0044】
実施例1
図10〜
図17は、本発明の一実施形態による、流体試料中の検体とバイオセンサのセンサ表面に固定されたリガンドとの間の相互作用の評価の一例を示す。この実施例では、hisタグFcレセプタ、FcγRIIIaVal158がヒスチジンバイオセンサ表面上に捕捉され、抗体リツキシマブのバイオセンサ表面への結合が登録された。図は、抗体濃度が高く、解離フェーズが各々の後に続く5つの会合フェーズを有する取得サイクルに対する相互作用について収集された基準結合曲線の範囲を示す。異なる基準結合曲線間の応答に大きなばらつきがあることが分かる。
図11は、正規化のための基礎として最後の会合フェーズの終了の数秒前のデータを用いて正規化した基準結合曲線を開示する。
【0045】
図12では、中央の曲線は、
図11の正規化した基準結合曲線の平均を表し、上側の曲線及び下側の曲線は、平均+/−3倍の標準偏差をそれぞれ表している。
図13は、平均基準結合曲線と、上側及び下側の曲線との対応する差分プロットを示し、登録された基準結合曲線における不確実性を明確に示しており、
図14は、標準偏差スケールで再プロットした登録された基準結合曲線を示す。
【0046】
図15は、これらのセグメント内の不確実性の影響を低減するために除外された、会合フェーズと解離フェーズとの間の遷移における区間の平均及び標準偏差曲線を示す。
図16は、
図15の基準結合曲線プロットにプロットされた試料結合曲線を示し、図から分かるように、すべてのデータが+/-3倍標準偏差の曲線に含まれるわけではない。
図17は、標準偏差スケールで再プロットした試料結合曲線を示し、いくつかの時点で試料結合曲線が明確に基準結合曲線から3倍の標準偏差より多くずれていることが分かる。しかし、相互作用について登録された
対照試料は、期待通りに振る舞うと結論づけられ、すべての時点において基準結合曲線から3倍の標準偏差の範囲内にある。
【0047】
実施例2
図18〜
図22は、
本発明によりMabX−ECR試薬3154が評価された実施例を開示する。この実施例では、ストレスのあるMabXの増加するレベルを含むMabX−ECR試薬3154が評価されている。
図18aは、1つの会合フェーズ及び後続の解離フェーズを有する取得サイクルに対してワイルドタイプのMabX−ECR試薬3154の相互作用について収集された基準結合曲線の範囲を示す。異なる基準結合曲線の間には、応答に中程度のばらつきがあることが分かる。
図18bは正規化された基準結合曲線を開示し、
図18cは対応するSD限界曲線を示す。
図19〜
図20は、ストレスのあるMabXの増加するレベルの評価を示し、
図19は、pHストレスによるスパイクのあるMabXについて達成された結果を開示し、
図20は、酸化によるストレスのあるMabXについて達成された結果を開示する。
図19及び
図20では、
図19a及び
図20aは、空白ランを差し引いた後の登録された応答曲線を示し、
図19b及び
図20bは、正規化後の応答曲線を示し、
図19c及び
図20cは、登録された応答曲線の各1つの標準偏差をSDプロットに重ね合わせて示し、
図19d及び
図20dは、SDプロットの時間遷移における登録された応答曲線の標準偏差を示す。この実施例は、本発明により提供される直観的な評価の良い例示を与える。
【0048】
実施例3
実施例2と同様に、
図21及び
図22は、本発明によりMabX−ECR試薬2994が評価される実施例を開示する。この実施例では、ストレスのあるMabXの増加するレベルを含むMabX−ECR試薬2994が評価されている。
図21及び
図22は、ストレスのあるMabXの増加するレベルの評価を示し、
図21は、pHストレスによるスパイクのあるMabXについて達成された結果を開示し、
図22は、酸化によるストレスのあるMabXについて達成された結果を開示する。
図21及び
図22では、
図21a及び
図22aは、正規化後の応答曲線を示し、
図21b及び
図22bは、SDプロットの時間遷移における登録された応答曲線の標準偏差を示す。