特許第6683421号(P6683421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683421
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/02 20060101AFI20200413BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20200413BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20200413BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20200413BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C08L33/02
   C08L67/00
   C08L33/14
   C08L63/00 A
   C08K5/10
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-21697(P2015-21697)
(22)【出願日】2015年2月6日
(65)【公開番号】特開2016-145265(P2016-145265A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2018年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】山本晃市
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/037526(WO,A1)
【文献】 特開平07−053830(JP,A)
【文献】 特開2002−265736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00− 33/26
C08L 63/00− 63/10
C08L 67/00− 67/08
C08K 5/00− 5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カルボキシル基含有アクリルゴム 100質量部;
(b)ポリエステル系重合体 15〜100質量部;及び
(c)エポキシ基含有重合体 (α/4β)〜(90α/4β)質量部;
を含む熱可塑性エラストマー組成物。
ここで上記αは、上記成分(a)カルボキシル基含有アクリルゴムの酸価(単位KOHmg/g)であり;
上記αの値は0.1〜5KOHmg/gの範囲にあり;
上記βは、上記成分(c)エポキシ基含有重合体のエポキシ指数(単位eq/Kg)である。
【請求項2】
上記成分(b)の酸価が2〜50eq/Tonである請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
上記成分(b)ポリエステル系重合体の配合量が15〜60質量部である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
上記成分(a)カルボキシル基含有アクリルゴムが部分架橋体である請求項1〜3の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
上記成分(a)カルボキシル基含有アクリルゴムのゲル含有率が10〜30質量%である請求項4に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
上記成分(b)が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート系樹脂、及びポリエステル系エラストマーからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
上記成分(c)が、スチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・アリルグリシジル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、及びアクリル酸エチル・アクリル酸n−ブチル・エチレングリコールジメタアクリレート・グリシジルメタアクリレート共重合体からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
更に(d)エステル系可塑剤を上記成分(a)100質量部に対して1〜70質量部を含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
上記成分(d)が、ポリエステル系可塑剤であることを特徴とする請求項8に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関する。更に詳しくは、耐熱性、耐油性、耐永久歪性、及び機械的強度に優れた熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム弾性を有する軟質材料であって、加硫工程を必要とせず、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性やマテリアルリサイクル性を有する熱可塑性エラストマーが、加硫ゴムを代替する材料として、自動車部品、家電部品、電線被覆、医療用部品、履物、及び雑貨等の分野で多用されている。また近年、より厳しい環境で使用される分野への適用が盛んに試みられており、自動車部品の、特に従来加硫ゴムが使用されていた分野では、高温環境下で機械特性が安定していること、及び高度な耐油性を有していることが必要とされる。
【0003】
ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂、あるいはこれらとポリエーテル繰り返し単位を有するポリアミド系エラストマーやポリエステル系エラストマーは、耐熱性及び耐油性に優れ、ゴム弾性も良好であるが、加硫ゴムを代替する材料としては、耐永久歪性が十分ではないという問題があった。特にポリエステル系エラストマーには高温環境下における耐永久歪性が十分ではないという問題があった。
【0004】
特許文献1には、「(A)熱可塑性コポリエステルエラストマーまたは熱可塑性コポリアミドエラストマー30〜90重量%、および(B)ガラス転移温度が25℃以下の架橋ゴム状弾性体コア層と分子中にエポキシ基およびカルボキシル基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を含有するガラス転移温度が25℃以下の共重合体シェル層からなるコアシェル型のゴム70〜10重量%からなる熱可塑性エラストマー組成物。」が提案されている。しかし、機械特性、特に高温環境下での機械特性は、不十分である。
【0005】
特許文献2には、「ポリアミド系重合体(A1)又は/及びポリエステル系重合体(A2)に、ゲル分30重量%以上が均一分散したゴム(B)を混合した後、架橋剤を加えて、動的架橋させて成り、前記ゴム(B)が、架橋性基を有し、前記架橋性基が、前記架橋剤の存在下に該架橋剤と反応してゴム(B)を架橋させ得る官能基である熱可塑性エラストマー組成物」が提案されている。しかし、耐永久歪性が不十分である。
【0006】
特許文献3には、「下記に示す成分(A)、成分(B)及び成分(C)からなる組成物を、成分(A)の100質量部に対して0.05〜5質量部の架橋剤で動的架橋して得られる熱可塑性エラストマー組成物。成分(A):アクリル酸アルキルエステル等を主成分とし、エポキシ基含有単量体が0.5〜15質量%含まれた単量体混合物を共重合してなるアクリルゴム50〜85質量部。成分(B):熱可塑性ポリエステル樹脂15〜50質量部。成分(C):オレフィン系重合体セグメントとビニル系共重合体セグメントとからなるグラフト共重合体又はその前駆体を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部に対して1〜35質量部。」が提案されている。しかし、耐永久歪性が不十分である。
【0007】
特許文献4には、カルボキシル基含有アクリルゴムと、エポキシ基含有アクリルゴムと、熱可塑性ポリエステル樹脂と、相容化剤とを含む特定の樹脂組成物が提案されている。しかし、成形性や成形品の外観が安定しないという問題がある。また機械特性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−231770号公報
【特許文献2】特許第4765628号公報
【特許文献3】特開2007−045885号公報
【特許文献4】特開2014−065824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、耐熱性、耐油性、耐永久歪性、及び機械的強度に優れ、加硫ゴムを代替する材料として好適に用いることのできる熱可塑性エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の熱可塑性エラストマー組成物により上記課題を達成できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(a)カルボキシル基含有アクリルゴム 100質量部;
(b)ポリエステル系重合体 15〜100質量部;及び
(c)エポキシ基含有重合体 0.01〜25質量部;
を含む熱可塑性エラストマー組成物である。
【0012】
第2の発明は、上記成分(b)が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート系樹脂、及びポリエステル系エラストマーからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする第1の発明に記載の熱可塑性エラストマー組成物である。
【0013】
第3の発明は、上記成分(c)が、スチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・アリルグリシジル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、及びアクリル酸エチル・アクリル酸n−ブチル・エチレングリコールジメタアクリレート・グリシジルメタアクリレート共重合体からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする第1の発明又は第2の発明に記載の熱可塑性エラストマー組成物である。
【0014】
第4の発明は、更に(d)エステル系可塑剤を上記成分(a)100質量部に対して1〜70質量部を含むことを特徴とする第1〜3の発明の何れか1に記載の熱可塑性エラストマー組成物である。
【0015】
第5の発明は、上記成分(d)が、ポリエステル系可塑剤であることを特徴とする第4の発明に記載の熱可塑性エラストマー組成物である。
【0016】
第6の発明は、第1〜5の発明の何れか1に記載の熱可塑性エラストマー組成物を含む物品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐熱性、耐油性、耐永久歪性、及び機械的強度に優れる。そのため従来材料として加硫ゴムが使用されてきた物品、例えば、ラックアンドピニオンブーツなどの自動車サスペンション関連部品;などの材料として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(a)カルボキシル基含有アクリルゴム:
上記成分(a)は、(メタ)アクリル酸エステルを主たるモノマーとし、カルボキシル基含有モノマーに由来する構造単位を、JIS K0070−1992に準拠して測定した酸価が0.1〜5KOHmg/g、好ましくは0.2〜2KOHmg/gとなる量で含み、ムーニー粘度(ML1+4 150℃)が好ましくは15〜40である重合体である。ここで「主たるモノマー」とは、当該モノマー由来の構造単位の含有量が、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上であることを意味する。「(メタ)アクリル酸エステル」とは、「アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル」の意味である。
【0019】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルなどをあげることができる。
【0020】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1〜8のアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどをあげることができる。これらの中でも(メタ)アクリル酸エチル、及び(メタ)アクリル酸n−ブチルがより好ましい。
【0021】
上記(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、炭素数2〜8のアルコキシアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、及び(メタ)アクリル酸4−メトキシブチルなどをあげることができる。これらの中でも(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸2−メトキシエチルがより好ましく、アクリル酸2−エトキシエチル、及びアクリル酸2−メトキシエチルが更に好ましい。
【0022】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0023】
上記カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、及びマレイン酸などの有機酸;マレイン酸モノブチルエステル、及びフマル酸モノブチルエステルなどのブテンジオン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロアルキルエステル、及びフマル酸モノシクロアルキルエステルなどのブテンジオン酸モノシクロアルキルエステル;などをあげることができる。カルボキシル基含有モノマーとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0024】
上記成分(a)は、上記カルボキシル基含有モノマーに由来する構造単位を、JIS K0070−1992に準拠し、電位差滴定法により測定した酸価が0.1〜5KOHmg/g、好ましくは0.2〜2KOHmg/gとなる量で含む。架橋を十分に進行させ、成分(a)の分散を良好にする観点から、酸価は0.1KOHmg/g以上、好ましくは0.2KOHmg/g以上である。また成形加工性の観点から、酸価は5KOHmg/g以下、好ましくは2KOHmg/g以下である。
【0025】
上記成分(a)は、上記カルボキシル基含有モノマーに由来するカルボキシル基を含むため、上記成分(c)のエポキシ基と反応し、耐熱性、耐油性、耐永久歪性、及び機械的強度を高めることができる。
【0026】
上記成分(a)の重合には、モノマーとして、更にビニル基を2以上有する多官能性モノマーを用いることが好ましい。後述する部分架橋体を容易に得ることができるようになる。
【0027】
上記ビニル基を2以上有する多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、及び1,3,5−トリビニルベンゼンなどの多官能ビニル化合物;ジアリルフタレート、及びジアリルフマレートなどのジアリル化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、及びエチレングルコールジメタアクリレートなどの多官能アクリレート;などをあげることができる。ビニル基を2以上有する多官能性モノマーとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0028】
上記成分(a)中の上記ビニル基を2以上有する多官能性モノマーに由来する構造単位の含有量は、後述する部分架橋体中に生成するゲルの含有率を、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下にする観点から、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。また部分架橋体を容易に得るために、通常0.2質量%以上、好ましくは0.3質量%以上である。
【0029】
上記成分(a)の重合には、モノマーとして、上述したモノマー(上記(メタ)アクリル酸エステル、上記カルボキシル基含有モノマー、及び上記ビニル基を2以上有する多官能性モノマー)と共重合可能なその他のモノマーを、当該モノマー由来の構造単位の含有量が、通常49.5質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下となる量で用いることができる。
【0030】
上記その他のモノマーとしては、例えば、共役ジエン系モノマー、非共役ジエン系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、α,β−エチレン性不飽和ニトリル系モノマー、アミド基含有(メタ)アクリル系モノマー、多官能性ジ(メタ)アクリル系モノマー、及びα−オレフィン系モノマーなどをあげることができる。
【0031】
上記共役ジエン系モノマーとしては、1,3−ブタジエン、ブタジエン、クロロプレン、及びピペリレンなどをあげることができる。
【0032】
上記非共役ジエン系モノマーとしては、1,2−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、及びノルボルナジエンなどをあげることができる。
【0033】
上記芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンなどをあげることができる。
【0034】
上記α,β−エチレン性不飽和ニトリル系モノマーとしては、アクリロニトリル、及びメタアクリロニトリルなどをあげることができる。
【0035】
上記アミド基含有(メタ)アクリル系モノマーとしては、アクリルアミド、及びメタクリルアミドなどをあげることができる。
【0036】
上記α−オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、及び1−オクテンなどをあげることができる。
【0037】
上記その他のモノマーとしては、更に塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、及びブチルビニルエーテルなどをあげることができる。
【0038】
上記その他のモノマーとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0039】
上記成分(a)は、好ましくは、上述した(メタ)アクリル酸エステルを主たるモノマーとする重合体の部分架橋体である。上記成分(b)との混和性が良好になる。また機械的特性や耐疲労性が向上する。更に上記部分架橋体は、通常、パウダー(微粒子)として得られるため、取扱作業が容易になる。成分(a)は、より好ましくは、上記部分架橋体であって、部分架橋によりゲルが10〜30質量%の含有率で生成している部分架橋体である。更に好ましくは、上記部分架橋体であって、部分架橋によりゲルが10〜30質量%の含有率で生成しており、生成したゲルが均一に分散している部分架橋体である。
【0040】
上記成分(a)として、上記部分架橋体を用いることにより、上記成分(a)と上記成分(b)とを良好に分散させることが、容易にできる。また予め上記成分(a)と上記成分(b)とを溶融混練し、良好に分散させた後、上記成分(c)を加えて溶融混練することにより、上記成分(a)と上記成分(b)との架橋を効率的に行うことができる。
【0041】
上記成分(a)中の上記ゲルの含有率は、柔軟性の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。ゲル含有率の下限は、特にないが、通常10質量%以上、好ましくは15質量%以上である。
【0042】
本明細書において、上記成分(a)中の上記ゲルの含有率は、試料0.2gを、温度23℃のメチルエチルケトン200mlに投入して24時間攪拌した後、200メッシュの金網を用いて濾過したとき、メッシュ上に捕捉される不溶解分の溶媒除去後の質量から算出する。
【0043】
上記部分架橋体は、上記成分(b)、成分(c)、及び任意成分とともに溶融混練する際に、架橋反応をさせてもよいが、上記成分(b)、上記成分(c)、及び任意成分とともに溶融混練する前に、架橋反応をさせることにより得ることが好ましい。なお「部分架橋」とは、架橋反応をさせた後も熱可塑性を保持しているという意味である。
【0044】
上記成分(a)の上記パウダーの形態は、特に制限されず、任意である。コアシェル構造をとっていてもよい。パウダーの粒子径は特に制限されないが、レーザー回折・散乱式粒度分析計を使用して測定した粒子径分布曲線において、粒子の小さい方からの累積が50質量%となる平均粒子径は、通常0.2〜2.0mm程度である。
【0045】
上記成分(a)のJIS K6300−1−2013に従い、L形ロータを使用し、予熱時間1分間、ロータの回転時間4分間、及び試験温度150℃の条件で測定したムーニー粘度(ML1+4 150℃)は、耐熱性、耐油性、耐永久歪性、及び機械的強度の観点から、好ましくは15〜40、より好ましくは20〜35である。
【0046】
成分(b)ポリエステル系重合体:
上記成分(b)は、ポリエステル系重合体であり、主鎖中にエステル結合(−COO−)を有する。なお本明細書において、「ポリエステル系重合体」の用語は、「ポリエステル系エラストマー」をも含む用語として使用する。「ポリエステル系樹脂」の用語は、「ポリエステル系エラストマー以外のポリエステル系重合体」の意味で使用する。
【0047】
上記ポリエステル系樹脂としては、特に制限されず、任意の多価カルボン酸と任意の多価オールを用い、公知の方法で得られたポリエステル系樹脂を用いることができる。
【0048】
上記多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4、4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニル−3、3’−ジカルボン酸、ジフェニル−4、4’−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの芳香族多価カルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、及びセバシン酸などの脂肪族多価カルボン酸;及びこれらのエステル形成性誘導体などをあげることができる。上記カルボン酸としてはこれらの1種以上を用いることができる。
【0049】
上記多価オールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4'−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、グリセリン、及びトリメチロールプロパンなどの脂肪族多価アルコール;キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族多価オール;及びこれらのエステル形成性誘導体などをあげることができる。上記多価オールとしてはこれらの1種以上を用いることができる。
【0050】
上記ポリエステル系エラストマーは、ハードセグメントであるポリエステルブロックと、ソフトセグメントであるポリオールブロックを有する熱可塑性エラストマーである。
【0051】
上記ポリエステル系エラストマーとしては、特に制限されず、任意の多価カルボン酸、任意の多価オール、及び任意のポリオールを用い、公知の方法で得られたポリエステル系エラストマーを用いることができる。
【0052】
上記ポリエステルブロックは、多価カルボン酸と多価オールとからなる重合体ブロックである。上記多価カルボン酸としては、例えば、上記ポリエステル系樹脂の説明において上述したものをあげることができる。上記多価カルボン酸としては、これらの1種以上を用いることができる。上記多価オール酸としては、例えば、上記ポリエステル系樹脂の説明において上述したものをあげることができる。上記多価オールとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0053】
上記ポリオールブロックは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及びポリカーボネートポリオールなどのポリオールの少なくとも1種以上を主モノマーとする重合体ブロックである。
【0054】
上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール;ポリエチレンオキサイド、及びポリプロピレンオキサイドなどのポリアルキレンオキサイド;エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体;エチレンオキサイドとテトラヒドロフランとの共重合体;2価フェノール化合物とポリオキシアルキレングリコールとの共重合体;及び2価フェノールと炭素数2〜4のアルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、及び1,4−ブチレンオキサイドなど。)の1種以上との共重合体;などをあげることができる。
【0055】
上記ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ブチレンアジペート)、ポリ(ネオペンチルアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(ブチレンアゼラエート)、ポリ(ブチレンセバケート)、及びポリカプロラクトンなどをあげることができる。
【0056】
上記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリ(ブタンジオールカーボネート)、ポリ(ヘキサンジオールカーボネート)、及びポリ(ノナンジオールカーボネート)などをあげることができる。
【0057】
上記ポリオールとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0058】
上記成分(b)としては、機械的強度、耐熱性、及び耐油性の観点から、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート系樹脂、及びポリエステル系エラストマーが好ましく、成形性の観点からは、ポリブチレンテレフタレート系樹脂がより好ましい。
【0059】
上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、多価カルボン酸に由来する構造単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構造単位を50モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは95モル%以上含み、多価オールに由来する構造単位の総和を100モル%として、1,4−ブタンジオールに由来する構造単位を50モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは95モル%以上含むポリエステル系樹脂である。
【0060】
上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂には、テレフタル酸以外のその他の多価カルボン酸を用い得る。その他の多価カルボン酸としては、例えば、上記ポリエステル系樹脂の説明において上述したものをあげることができる。その他の多価カルボン酸としては、これらの1種以上を用いることができる。
【0061】
上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂には、1,4−ブタンジオール以外のその他の多価オールを用い得る。その他の多価オールとしては、例えば、上記ポリエステル系樹脂の説明において上述したものをあげることができる。その他の多価オールとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0062】
上記ポリブチレンテレフタレート系樹脂の市販品としては、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社の「ノバデュラン(商品名)」などをあげることができる。
【0063】
上記成分(b)としては、これらの1種以上を用いることができる。
【0064】
上記成分(b)の粘度は、特に制限はされないが、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(質量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した固有粘度(極限粘度)(以下、[η]と略すことがある。)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を押出成形に用いる場合には、機械的物性の観点から、好ましくは0.7dl/g以上、より好ましくは1.0dl/g以上であってよい。一方、成形加工性の観点から好ましくは3.0dl/g以下、より好ましくは2.0dl/g以下であってよい。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形に用いる場合には、機械的物性の観点から、好ましくは0.5dl/g以上、より好ましくは0.7dl/g以上であってよい。一方、成形加工性の観点から好ましくは2.0dl/g以下、より好ましくは1.0dl/g以下であってよい。なお上記成分(b)として2種以上の混合物を用いる場合には、混合物として[η]が上記範囲になるようにすればよい。
【0065】
上記成分(b)の酸価は、耐加水分解性の観点から、好ましくは50eq/Ton、より好ましくは40eq/Ton以下である。一方、上記成分(b)の生産効率の観点から、酸価は好ましくは2eq/Ton以上であってよい。
【0066】
上記成分(b)の酸価は、JIS K0070−1992に準拠し、上記成分(b)をベンジルアルコールに溶解し、濃度0.1N(mol/L)の水酸化ナトリウム水溶液を滴定液として、電位差滴定法により求めた。なお酸価は、上記JISの定義では、試料1g中に含有する遊離脂肪酸や樹脂酸などを中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数であるが、本明細書において上記成分(b)の酸価は、試料1トン中に含有する遊離脂肪酸や樹脂酸などを中和するのに必要とする水酸化カリウムのモル数とし、単位を「eq/Ton」と表記した。
【0067】
上記成分(b)の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、成形加工性、成形物の外観、及び機械的特性の観点から15質量部以上、好ましくは20質量部以上である。またゴム弾性、及び耐永久歪性の観点から、100質量部以下、好ましくは90質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。
【0068】
(c)エポキシ基含有重合体:
上記成分(c)はエポキシ基を含有する重合体である。成分(c)はエポキシ基を含むことにより、上記成分(a)のカルボキシル基と反応し、耐熱性、耐油性、耐永久歪性、及び機械的強度を高める働きをする。
【0069】
上記成分(c)は、エポキシ基を含有するモノマーを用いて共重合することにより得ることができる。またスチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、及びオレフィン系樹脂などを、エポキシ基を含有する化合物を用いて変性(グラフト重合)することにより得ることができる。
【0070】
上記成分(c)としては、例えば、スチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・アリルグリシジル共重合体、及びエチレン・酢酸ビニル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体などをあげることができる。これらの中で、耐油性の観点から、スチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体が好ましい。
【0071】
上記成分(c)の市販例としては、東亞合成株式会社のスチレン・(メタ)アクリル酸エステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体「アルフォンUG−4040(商品名)」、及びカネカ株式会社のエポキシ変性スチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体「カネエースMP−40(商品名)」などをあげることができる。
【0072】
上記成分(c)としては、これらの1種以上を用いることができる。
【0073】
上記成分(a)のカルボキシル基と上記成分(c)のエポキシ基は、耐油性と引張伸びの観点から、溶融混練時にその全てが反応し、消費されることが好ましい。そのため成分(c)の配合量は、成分(a)100質量部に対して、成分(a)の酸価をαKOHmg/gとし、成分(c)のエポキシ指数をβeq/Kgとして、好ましくは(α/4β)〜(90α/4β)質量部、より好ましくは(5α/4β)〜(40α/4β)質量部である。例えば、成分(a)の酸価が0.8KOHmg/gであり、成分(c)のエポキシ指数が2eq/Kgである場合には、好ましくは0.1〜9.0質量部、より好ましくは0.5〜4.0質量部である。
【0074】
本明細書において、エポキシ指数は、JIS K7236:2001に従い、電位差滴定装置を使用して測定した値である。
【0075】
(d)エステル系可塑剤:
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、好ましくは、成分(d)エステル系可塑剤を更に含む。成分(d)を含ませることにより、柔軟性を大きく向上させることができる。
【0076】
上記成分(d)としては、例えば、フタル酸ジ−2−エチルへキシル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルへキシル、フタル酸ジへプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジラウリル、フタル酸ジシクロへキシル、及びフタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル系可塑剤;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ−2−エチルへキシルなどのアジピン酸エステル系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル、及びトリメリット酸トリイソノニルなどのトリメリット酸エステル系可塑剤;セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジオクチルなどのセバシン酸エステル系可塑剤;及び、多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−へキサンジオール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどを用い、多価カルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ピメリン酸、スべリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などを用い、必要により一価アルコール、モノカルボン酸をストッパーに使用したポリエステル系可塑剤などをあげることができる。これらの中で、耐熱性、熱老化性、及び耐油性の観点から、ポリエステル系可塑剤が好ましい。
【0077】
上記成分(d)としては、これらの1種以上を用いることができる。
【0078】
上記成分(d)の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、機械的特性の観点から、70質量部以下、好ましくは50質量部以下である。配合量の下限は、任意成分であるから特にないが、成分(d)により柔軟性向上効果を得る観点から、通常1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、更に無機充填剤を含ませることができる。無機充填剤を用いることにより、成形加工性、引張強度、及び剛性を向上させることができる。また増量による経済上の利点を有する。無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、水酸化マグネシウム、マイカ、クレー、硫酸バリウム、天然珪酸、合成珪酸(ホワイトカーボン)、酸化チタン、カーボンブラック、及びこれらを熱可塑性エラストマー組成物との親和性を向上させる目的で表面処理した物などをあげることができる。これらの中で、炭酸カルシウム、及びタルクが好ましい。無機充填剤としてこれらの1種以上を用いることができる。
【0080】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、更にリン系、フェノール系、及び硫黄系など各種の酸化防止剤、老化防止剤、加水分解防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤など各種の耐候剤、銅害防止剤、変性シリコンオイル、シリコンオイル、ワックス、酸アミド、脂肪酸、脂肪酸金属塩など各種の滑剤、芳香族リン酸金属塩系及びゲルオール系など各種の造核剤、グリセリン脂肪酸エステル系など各種の帯電防止剤、及び有機系・無機系の各種難燃剤を含ませることができる。なお、これらの添加剤類は、成形品の表面にブリードアウト、ブルームするなどのトラブルを防止するため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物との相容性の高いものが好ましい。
【0081】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(a)〜(c)、及び所望により用いる任意成分を、任意の混練機、例えば、単軸押出機、二軸押出機、カレンダーロール、バンバリーミキサー、各種のニーダー、及びこれらを2以上組み合わせた装置、を使用して溶融混練することにより得ることができる。好ましくは、二軸押出機を使用し、樹脂温度230〜280℃の条件で溶融混練することにより得ることができる。より好ましくは、二軸押出機を使用し、上記成分(a)及び上記成分(b)をトップ(スクリュウの長さ方向の根元付近)からフィードし、樹脂温度230〜280℃の条件で溶融混練した後、上記成分(c)をサイド(スクリュウの長さ方向の中央付近)からフィードし、樹脂温度230〜280℃の条件で更に溶融混練することにより得ることができる。上記成分(d)は、トップからフィードしてもよく、サイドからフィードしてもよい。上記成分(a)が上記成分(d)を吸収し、上記成分(a)のパウダーが凝集固化して塊となり、ホッパー等で詰まるなどのトラブルが発生するのを防止する観点から、上記成分(d)はサイドからフィードすることが好ましい。
【0082】
本発明の物品は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を含むことを特徴とし、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を任意の成形方法、例えば、ブロー成形法、押出成形法、射出成形法、プレス成形法、圧縮成形法、及びこれらの2以上を組み合わせる方法により、所望の形状に成形することにより得ることができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
使用した原材料
(a)カルボキシル基含有アクリルゴム:
(a−1)OMNOVA社の「サニガムP95(商品名)」。酸価0.8KOHmg/g、ムーニー粘度(ML1+4 150℃)30、分子量140000、ゲル含有率28質量%。
【0085】
(b)ポリエステル系重合体:
(b−1)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社のポリブチレンテレフタレート系樹脂「ノバデュラン5008(商品名)」、[η]0.85dl/g、融点225℃、末端カルボキシル基13eq/Ton
(b−2)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社のポリブチレンテレフタレート系樹脂「ノバデュラン5020(商品名)」、[η]1.20dl/g、融点224℃、末端カルボキシル基19eq/ton
(b−3)三菱化学株式会社のポリエチレンテレフタレート系樹脂「ノバペックスBK2180(商品名)」、[η]0.79dl/g、融点251℃。
(b−4)東レ・デュポン株式会社のポリエステル系エラストマー「ハイトレル5557(商品名)」、融点208℃。
(b−5)帝人株式会社のポリエチレンナフタレート系樹脂「テオネックスTN8065S(商品名)」、融点265℃。
(b−6)シェルケミカルズジャパン株式会社のポリトリメチレンテレフタレート系樹脂「コルテラCP509200(商品名)」、融点225℃。
【0086】
(c)エポキシ基含有重合体:
(c−1)東亞合成株式会社のスチレン・(メタ)アクリル酸エステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体「アルフォンUG−4040(商品名)」。エポキシ指数2.10eq/Kg
(c−2)住友化学株式会社のエチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体「ボンドファーストBF−E(商品名)」。エポキシ指数0.84eq/Kg。
(c−3)三菱レイヨン株式会社の(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体「メタブレンP−1900(商品名)」。エポキシ指数6.33eq/Kg。
【0087】
(c’)比較成分:
(c’−1)阪本薬品工業株式会社のエポキシ基含有モノマー(ジエチレングリコ−ルジグリシジルエーテル)「SR−2EG(商品名)」。エポキシ指数(=1000/エポキシ当量)6.71eq/Kg
(c’−2)三新化学工業株式会社のアミン基含有化合物(ヘキサメチレンジアミンカーバメート)「サンフェル6−MC(商品名)」。
【0088】
(d)可塑剤:
(d−1)株式会社ADEKAのポリエステル系可塑剤「アデカサイザーRS−735(商品名)」。
【0089】
測定方法
(1)成形外観の評価:
組成物製造時のストランドの表面を目視で観察したり、手で触ったりし、以下の基準で評価した。
○:ストランドの表面は滑らかである。
△:ストランドの表面にやや肌荒れが生じている。
×:ストランドの表面に鱗状等の著しい外観不良が生じている。
【0090】
(2)硬度:
下記で得た組成物を用い、型締め圧力120トンの射出成形機を使用し、成形温度250℃で縦13cm×横13cm、厚み2mmの射出シートを作製した。得られた射出シートを用いて6mm厚のプレスシートを作成した。得られたプレスシートをサンプルとして、ASTM D2240に従い、デュロメータ硬さ(タイプA)の15秒後を測定した。またデュロメータ硬さ(タイプA)の15秒後の値が90以上の場合、及び信頼性のある値を測定できなかった場合には、デュロメータ硬さ(タイプD)の5秒後の値を測定した。
【0091】
(3)引張試験:
JIS K 6251−2010に準拠し、試験片として上記で得た2mm厚射出シートから打抜いた3号ダンベルを用い、引張速度500mm/分の条件で測定した。
【0092】
(4)体積膨潤率(高温環境下における耐油性):
JIS K 6258−2003に準拠し、試験片は上記で得た2mm厚射出シートから打ち抜いたものを用い、IRM#903オイルに温度120℃で22時間浸漬した後の体積膨潤率を測定した。
【0093】
(5)圧縮永久歪(高温環境下における耐永久歪性):
JIS K 6262−2003に準拠し、25%圧縮変形させて、温度120℃、及び22時間の条件で測定した。
【0094】
実施例1〜15、比較例1〜6
表1〜3の何れか1に示す量(質量部)の成分を、日本製鋼株式会社の28mm径、L/D=42の二軸押出機と水冷ストランドカット方式の造粒機とを備えた装置を使用し、スクリュウ回転数600rpm、押出機出口温度260℃の条件で溶融混練し、組成物のペレットを得た。その際に上記成分(a)、及び上記成分(b)はトップから、上記成分(c)、比較成分(c)、及び上記成分(d)はサイドからフィードした。上記試験(1)〜(5)を行った。結果を表1〜3の何れか1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成形外観、機械特性、高温環境下における耐油性、及び高温環境下における耐永久歪性に優れている。一方、比較例は、成形外観、機械特性、高温環境下における耐油性、及び高温環境下における耐永久歪性の何れか1が不十分である。