特許第6683514号(P6683514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6683514-電力変換装置 図000002
  • 特許6683514-電力変換装置 図000003
  • 特許6683514-電力変換装置 図000004
  • 特許6683514-電力変換装置 図000005
  • 特許6683514-電力変換装置 図000006
  • 特許6683514-電力変換装置 図000007
  • 特許6683514-電力変換装置 図000008
  • 特許6683514-電力変換装置 図000009
  • 特許6683514-電力変換装置 図000010
  • 特許6683514-電力変換装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683514
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20200413BHJP
   H02M 7/5388 20070101ALI20200413BHJP
【FI】
   H02M7/48 F
   H02M7/5388
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-57954(P2016-57954)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-175747(P2017-175747A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 満孝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 芳光
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛
【審査官】 小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−054094(JP,A)
【文献】 特開2006−149153(JP,A)
【文献】 特表2013−529055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/5388
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相のコイル(11、12、13)を有する回転電機(10)の電力を変換する電力変換装置であって、
高電位側に設けられる第1上アーム素子(21〜23)、および、前記第1上アーム素子の低電位側に設けられる第1下アーム素子(24〜26)を相毎に有し、前記コイルの一端(111、121、131)と電圧源(40)とに接続される第1インバータ(20)と、
高電位側に設けられる第2上アーム素子(31〜33)、および、前記第2上アーム素子の低電位側に設けられる第2下アーム素子(34〜36)を相毎に有し、前記コイルの他端(112、122、132)に接続される第2インバータ(30)と、
前記電圧源の正極側と、前記第1上アーム素子の高電位側と、前記第2上アーム素子の高電位側とを接続する高電位側接続線(51)と、
前記電圧源の負極側と、前記第1下アーム素子の低電位側と、前記第2下アーム素子の低電位側とを接続する低電位側接続線(55)と、
前記第1インバータおよび前記第2インバータを制御し、前記複数相のコイルがY結線状態となるように制御するY結線制御、または、前記複数相のコイルを独立とするHブリッジ回路とし相毎に印加電圧を制御するブリッジ制御を行う制御部(65)と、
を備え、
前記制御部は
前記回転電機の回転数が前記Y結線制御にて出力可能な上限値または該上限値より低出力側の値よりもさらに低回転数側である場合には前記Y結線制御を行うとともに
前記回転電機の回転数が前記Y結線制御にて出力可能な上限値または該上限値より低出力側の値よりも高回転数側である場合には前記複数相のコイルを独立とする前記Hブリッジ回路とし相毎に印加電圧を制御することによって、コイルの各相に流れる相電流としての正弦波電流の半周期毎に、
前記第1インバータの前記第1上アーム素子及び前記第1下アーム素子を相補的にオンオフし、前記第2インバータの前記第2上アーム素子及び前記第2下アーム素子のオンオフを一定とすることにより、前記コイルに正方向に流れる電流と正方向の通電方向に応じた還流電流とを流すスイッチングパターンと、
前記第1インバータの前記第1上アーム素子及び前記第1下アーム素子のオンオフを一定とし、前記第2インバータの前記第2上アーム素子及び前記第2下アーム素子を相補的にオンオフすることにより、前記コイルに負方向に流れる電流と負方向の通電方向に応じた還流電流とを流すスイッチングパターンと、
する平衡ブリッジ制御を行う電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記回転電機の回転数が前記Y結線制御にて出力可能な上限値または該上限値より低出力側の値よりも高回転数側である場合には、前記複数相のコイルを独立とする前記Hブリッジ回路とし相毎に印加電圧を制御することによって、コイルの各相に流れる相電流としての正弦波電流の半周期毎に、
前記第1インバータの前記第1上アーム素子及び前記第1下アーム素子を相補的にオンオフし、前記第2インバータの前記第2上アーム素子をオフ、前記第2下アーム素子をオンするスイッチングパターンと、
前記第1インバータの前記第1上アーム素子をオフ、前記第1下アーム素子をオンし、前記第2インバータの前記第2上アーム素子及び前記第2下アーム素子を相補的にオンオフするスイッチングパターンと、
する平衡ブリッジ制御を行う請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記高電位側接続線および前記低電位側接続線の少なくとも一方には、前記第1インバータ側と前記第2インバータ側とを断接可能な開閉器(52、56)が設けられる請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記回転電機の駆動要求が前記低回転数側である場合、少なくとも1つの前記開閉器を開とし、前記第2インバータを中性点化し、前記駆動要求に応じて前記第1インバータを制御する前記Y結線制御とし、
前記駆動要求が前記高回転数側である場合、前記開閉器を閉とし、前記コイルに印加する電圧を相毎に制御する前記ブリッジ制御とする請求項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、巻線切替機能付インバータが知られている。例えば、特許文献1では、2組のインバータ回路と2個のスイッチを設けることで、Y接続運転とΔ接続運転とを切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−34198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、インバータ回路の制御方法としてPWM制御以外の制御については、なんら言及されていない。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転電機の最大トルクを向上可能な電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電力変換装置は、複数相のコイル(11、12、13)を有する回転電機(10)の電力を変換するものであって、第1インバータ(20)と、第2インバータ(30)と、高電位側接続線(51)と、低電位側接続線(55)と、制御部(65)と、を備える。
【0006】
第1インバータは、高電位側に設けられる第1上アーム素子(21〜23)、および、第1上アーム素子の低電位側に設けられる第1下アーム素子(24〜46)を相毎に有し、コイルの一端(111、121、131)と電圧源(40)とに接続される。
第2インバータは、高電位側に設けられる第2上アーム素子(31〜33)、および、第2上アーム素子の低電位側に設けられる第2下アーム素子(34〜36)を相毎に有し、コイルの他端(112、122、132)に接続される。
高電位側接続線は、電圧源の正極側と、第1上アーム素子の高電位側と、第2上アーム素子の高電位側とを接続する。
低電位側接続線は、電圧源の負極側と、第1下アーム素子の低電位側と、第2下アーム素子の低電位側とを接続する。
制御部は、第1インバータおよび第2インバータを制御し、複数相のコイルがY結線状態となるように制御するY結線制御、又は、複数相のコイルを独立とするHブリッジ回路とし相毎に印加電圧を制御するブリッジ制御を行う。
【0007】
御部は、回転電機の回転数がY結線制御にて出力可能な上限値または該上限値より低出力側の値よりもさらに低回転数側である場合にはY結線制御を行うとともに、回転電機の回転数がY結線制御にて出力可能な上限値または該上限値より低出力側の値よりも高回転数側である場合には複数相のコイルを独立とするHブリッジ回路とし相毎に印加電圧を制御することによって、コイルの各相に流れる相電流としての正弦波電流の半周期毎に、「第1インバータの第1上アーム素子及び第1下アーム素子を相補的にオンオフし、第2インバータの第2上アーム素子及び第2下アーム素子のオンオフを一定とすることにより、コイルに正方向に流れる電流と正方向の通電方向に応じた還流電流とを流すスイッチングパターン」と、「第1インバータの第1上アーム素子及び第1下アーム素子のオンオフを一定とし、第2インバータの第2上アーム素子及び第2下アーム素子を相補的にオンオフすることにより、コイルに負方向に流れる電流と負方向の通電方向に応じた還流電流とを流すスイッチングパターン」と、する平衡ブリッジ制御を行う
【0008】
本発明では、高電位側接続線および低電位側接続線にて、第1インバータと第2インバータとを接続することで、それぞれの相を独立のブリッジ回路とみなし、コイルの印加電圧を相毎に制御するブリッジ制御が可能である
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態による電力変換装置を示す概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態によるモータジェネレータの駆動領域を説明する説明図である。
図3】本発明の第1実施形態によるY結線制御をよびブリッジ制御を説明する説明図である。
図4】本発明の第1実施形態によるブリッジ制御時のU相の回路図である。
図5】本発明の第1実施形態によるブリッジ制御を説明する説明図である。
図6】本発明の第1実施形態による平衡ブリッジ制御時の動作を説明する説明図である。
図7】本発明の第1実施形態による不平衡ブリッジ制御時の動作を説明する説明図である。
図8】本発明の第2実施形態による電力変換装置を示す概略構成図である。
図9】本発明の第3実施形態による電力変換装置を示す概略構成図である。
図10】本発明の第4実施形態による電力変換装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による電力変換装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による電力変換装置を図1図7に示す。
図1に示すように、回転電機駆動システム1は、回転電機としてのモータジェネレータ10、および、電力変換装置15を備える。
【0011】
モータジェネレータ10は、例えば電気自動車やハイブリッド車両等の電動自動車に適用され、図示しない駆動輪を駆動するためのトルクを発生する、所謂「主機モータ」である。モータジェネレータ10は、駆動輪を駆動するための電動機としての機能、および、図示しないエンジンや駆動輪から伝わる運動エネルギによって駆動されて発電する発電機としての機能を有する。本実施形態では、モータジェネレータ10が電動機として機能する場合を中心に説明する。
【0012】
モータジェネレータ10は、3相交流の回転機であって、U相コイル11、V相コイル12、および、W相コイル13を有する。以下適宜、U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13を「コイル11〜13」という。また、U相コイル11に流れる電流をU相電流Iu、V相コイル12に流れる電流をV相電流Iv、W相コイル13に流れる電流をW相電流Iwとする。コイル11〜13に流れる電流について、第1インバータ20側から第2インバータ30側に流れる電流を正、第2インバータ30側から第1インバータ20側に流れる電流を負とする。
【0013】
電力変換装置15は、モータジェネレータ10の電力を変換するものであって、第1インバータ20、第2インバータ30、高電位側接続線51、低電位側接続線55、および、制御部65等を備える。
第1インバータ20は、コイル11〜13の通電を切り替える3相インバータであり、スイッチング素子21〜26を有する。第2インバータ30は、コイル11〜13の通電を切り替える3相インバータであり、スイッチング素子31〜36を有する。
スイッチング素子21は、トランジスタ211およびダイオード221を有する。スイッチング素子22〜26、31〜36も同様に、それぞれ、トランジスタ212〜216、311〜316、および、ダイオード222〜226、321〜326を有する。
【0014】
トランジスタ211〜216、311〜316は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)であって、制御部65によってオンオフ作動が制御される。トランジスタ211〜216、311〜316は、オンされたときに高電位側から低電位側への通電が許容され、オフされたときに通電が遮断される。トランジスタ211〜216、311〜316は、IGBTに限らず、MOSFET等であってもよい。
【0015】
ダイオード221〜226、321〜326は、トランジスタ211〜216、311〜316のそれぞれと並列に接続され、低電位側から高電位側への通電を許容する還流ダイオードである。例えば、ダイオード221〜226、321〜326は、例えば、MOSFETの寄生ダイオード等のように、トランジスタ211〜216、311〜316に内蔵されていてもよいし、外付けされたものであってもよい。
【0016】
第1インバータ20において、高電位側にスイッチング素子21〜23が接続され、低電位側にスイッチング素子24〜26が接続される。また、スイッチング素子21〜23の高電位側はバッテリ40の正極と接続され、スイッチング素子24〜26の低電位側はバッテリ40の負極と接続される。
【0017】
U相のスイッチング素子21、24の接続点にはU相コイル11の一端111が接続され、V相のスイッチング素子22、25の接続点にはV相コイル12の一端121が接続され、W相のスイッチング素子23、26の接続点にはW相コイル13の一端131が接続される。すなわち、第1インバータ20は、コイル11、12、13の一端111、121、131とバッテリ40との間に接続される。
【0018】
第2インバータ30において、高電位側にスイッチング素子31〜33が接続され、低電位側にスイッチング素子34〜36が接続される。
U相のスイッチング素子31、34の接続点にはU相コイル11の他端112が接続され、V相のスイッチング素子32、35の接続点にはV相コイル12の他端122が接続され、W相のスイッチング素子33、36の接続点にはW相コイル13の他端132が接続される。
【0019】
以下適宜、第1インバータ20において、高電位側に接続されるスイッチング素子21〜23を「第1上アーム素子」、低電位側に接続されるスイッチング素子24〜26を「第1下アーム素子」とする。また、第2インバータ30において、高電位側に接続されるスイッチング素子31〜33を「第2上アーム素子」、低電位側に接続されるスイッチング素子34〜36を「第2下アーム素子」とする。
【0020】
バッテリ40は、第1インバータ20と接続される。本実施形態では、第2インバータ30側にはバッテリ等の電圧源が設けられていない。
コンデンサ43は、第1インバータ20とバッテリ40との間に接続される平滑コンデンサである。
電流検出部45は、相電流Iu、Iv、Iwを検出する。本実施形態では、電流検出部45として、ホール素子等の電流検出素子が各相に設けられる。
【0021】
高電位側接続線51は、バッテリ40の正極側と、第1上アーム素子21〜23の高電位側と、第2上アーム素子31〜33の高電位側とを接続する。換言すると、高電位側接続線51は、モータジェネレータ10を経由せずに、インバータ20、30の高電位側を接続する接続配線である。
低電位側接続線55は、バッテリ40の負極側と、第1下アーム素子24〜26の低電位側と、第2下アーム素子34〜36の低電位側とを接続する。換言すると、低電位側接続線55は、モータジェネレータ10を経由せずに、インバータ20、30の低電位側を接続する接続配線である。
【0022】
高電位側接続線51には、第1インバータ20側と第2インバータ30側との導通および遮断を切替可能な開閉器52が設けられる。開閉器52は、第1インバータ20側と第2インバータ30側との導通および遮断を切替可能であれば、機械式のものであってもよいし、半導体スイッチ等であってもよい。
【0023】
制御信号生成部60は、第1ドライバ回路61、第2ドライバ回路62、および、制御部65を有する。
制御部65は、マイコンを主体として構成され、各種演算処理を行う。制御部65における各処理は、予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
制御部65は、第1インバータ20および第2インバータ30を制御する。具体的には、トルク指令値trq*や電流指令値Iu*、Iv*、Iw*等のモータジェネレータ10の駆動に係る指令値に基づき、スイッチング素子21〜26、31〜36のトランジスタ211〜216、311〜316のオンオフ作動を制御する制御信号を生成し、ドライバ回路61、62に出力する。
【0024】
第1ドライバ回路61は、制御部65からの制御信号に応じ、トランジスタ211〜216のオンオフ作動を制御するゲート信号を生成して出力する。第2ドライバ回路62は、制御部65からの制御信号に応じ、トランジスタ311〜316のオンオフ作動を制御するゲート信号を生成して出力する。トランジスタ211〜216、311〜316が制御信号に応じてオンオフされることで、バッテリ40の直流電力が交流電力に変換され、モータジェネレータ10へ供給される。これにより、モータジェネレータ10の駆動は、第1インバータ20および第2インバータ30を介して、制御部65に制御される。
【0025】
以下適宜、スイッチング素子21〜26、31〜36のトランジスタ211〜216、311〜316のオンオフ作動を制御することを、単にスイッチング素子21〜26、31〜36のオンオフ作動を制御する、という。本実施形態では、スイッチング素子21〜26、31〜36は、ドライバ回路61、62により、それぞれ独立してオンオフを制御可能である。
【0026】
モータジェネレータ10の駆動制御を説明する。本実施形態では、モータジェネレータ10の回転数およびトルクを「駆動要求」とする。図2に示すように、モータジェネレータ10の回転数およびトルクに応じ、駆動領域を第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3の3領域に分ける。第1領域R1は、トルクが切替閾値trq_th以下であって、低回転数側の領域である。第2領域R2は、トルクが切替閾値trq_th以下であって、高回転数側の領域である。領域R1、R2の境界値Bthは、後述するY結線制御にて出力可能な上限値とする。境界値Bthは、いずれも後述するY結線制御の効率と3相平衡ブリッジ駆動の効率とに基づき、Y結線制御にて出力可能な上限値より低出力側の値としてもよい。
第3領域R3は、トルクが切替閾値trq_thより大きい領域とする。切替閾値trq_thは、コイル11〜13の電流を3相平衡電流としたときに出力可能な上限値である。ここで、3相平衡電流は、相電流Iu、Iv、Iwの3相和の絶対値が0とみなせる程度の所定値以下であるものとする。
【0027】
モータジェネレータ10のトルクおよび回転数が第1領域R1のとき、制御部65は、コイル11〜13がY結線状態となるようにスイッチング素子21〜26、31〜36および開閉器52を制御する。コイル11〜13がY結線状態となるような制御を、「Y結線制御」とする。具体的には、図3(a)に示すように、開閉器52を開とし、第2上アーム素子31〜33の全相をオン、第2下アーム素子34〜36の全相をオフし、第2インバータ30を中性点化する。第1インバータ20において、スイッチング素子21〜26は、例えばPWM制御等により、モータジェネレータ10の駆動要求に応じて制御される。例えば、第2インバータ30が中性点化され、第1インバータ20のスイッチング素子21、25、26がオンされているとき、矢印A1で示す経路を電流が流れる。
【0028】
モータジェネレータ10のトルクおよび回転数が第2領域R2または第3領域R3のとき、開閉器52を閉とする。図4に示すように、開閉器52を閉とすることで、それぞれの相を独立したHブリッジ回路とみなすことができる。それぞれの相を独立したHブリッジ回路とみなし、相毎に印加電圧を制御することを「ブリッジ制御」とする。例えば、ブリッジ制御により、スイッチング素子21、25、26、32、33、34がオンされているとき、図3(b)に矢印A2で示す経路の電流が流れる。
【0029】
ブリッジ制御の詳細を図5に基づいて説明する。以下、U相を中心に説明するが、V相およびW相については、位相がずれている点を除き、略同様である。図5(a)に矢印A11に示すように、コイル11に正方向の電流を流す場合、第1上アーム素子21および第2下アーム素子34をオン、第1下アーム素子24および第2上アーム素子31をオフにする。
【0030】
図5(b)に矢印A12に示すように、コイル12に負方向の電流を流す場合、第1下アーム素子24および第2上アーム素子31をオン、第1上アーム素子21および第2下アーム素子34をオフにする。
なお、スイッチング素子21、24、31、34のオンオフ状態が、図5(a)、(b)に示すパターン以外の場合、通電方向に応じた還流電流が流れる。
【0031】
本実施形態では、スイッチング素子21〜26、31〜36を独立してオンオフ切り替え可能であるので、3相を独立したHブリッジ回路として制御することで、電流制御の自由度が高まる。
以下、コイル11〜13に3相平衡の電流が流れるようにブリッジ制御することを「平衡ブリッジ制御」、3相不平衡の電流が流れるようにブリッジ制御することを「不平衡ブリッジ制御」とする。
【0032】
モータジェネレータ10のトルクおよび回転数が第2領域R2のとき、開閉器52を閉とし、コイル11〜13に3相平衡の電流が流れるように、平衡ブリッジ制御とする。ここで、Y結線制御および平衡ブリッジ制御では、コイル11〜13に平衡電流が通電されるように制御するので、「平衡制御」である、といえる。平衡制御を行う領域R1、R2を「平衡領域」とする。
【0033】
図6は、平衡ブリッジ制御を行う場合の例である。図6では、(a)が相電流Iu、Iv、Iw、(b)がトルク、(c)がU相電圧Vuである。U相電圧Vuは、コイル11の第2インバータ30側を基準としたときの、第1インバータ20側の電位とする。また、図6(d)は第1上アーム素子21、(e)は第1下アーム素子24、(f)は第2上アーム素子31、(g)は第2下アーム素子34のスイッチングパターンである。図6中では、スイッチング素子21を「U1上」、スイッチング素子24を「U1下」、スイッチング素子31を「U2上」、スイッチング素子34を「U2下」と記載する。図7も同様とする。
【0034】
正のU相電圧Vuを印加するとき、駆動要求に応じたPWM制御により、第1インバータ20のスイッチング素子21、24を相補的にオンオフする。また、第2上アーム素子31をオフ、第2下アーム素子34をオンにする。これにより、U相コイル11には、正の電流が流れる。
負のU相電圧Vuを印加するとき、第1上アーム素子21をオフ、第1下アーム素子24をオンにする。また、駆動要求に応じたPWM制御により、第2インバータ30のスイッチング素子31、34を相補的にオンオフする。これにより、U相コイル11には、負の電流が流れる。
V相およびW相は、120°ずつ位相がずれた同様のスイッチングパターンとする。
これにより、図6(a)に示すように、コイル11〜13には、3相平衡の電流が流れる。
【0035】
本実施形態では、開閉器52の開閉の切り替えと、スイッチング素子21〜26、31〜36のオンオフ制御を変更することで、Y結線制御と平衡ブリッジ制御とを切り替え可能である。Y結線制御に変えて、平衡ブリッジ制御とすることで、より高回転数側の領域を出力可能である。図6(b)および図7(b)に示すように、3相平衡電流をコイル11〜13に流すことで、3相不平衡電流を流す場合と比較し、トルク変動を抑制可能である。
【0036】
モータジェネレータ10のトルクおよび回転数が第3領域R3のとき、開閉器52を閉とし、不平衡ブリッジ制御とする。本実施形態では、不平衡ブリッジ制御が「不平衡制御」に対応し、不平衡ブリッジ制御を行う第3領域R3を「不平衡領域」とする。
コイル11〜13に流れる電流を3相平衡の正弦波電流に替えて不平衡電流とすることで、出力可能なトルクを高めることができるので、平衡電流では出力できない第3領域R3のトルクを出力可能である。
【0037】
図7は、第3領域R3のトルクを出力すべく、不平衡ブリッジ制御を行う場合の例である。図7(a)に示すように、第3領域R3のトルクを出力する場合、正弦波電流に替えて、台形波の電流がコイル11〜13に流れるように制御する。
コイル11に正方向の電流を流すとき、スイッチング素子21、34を駆動要求に応じたデューティでスイッチングし、スイッチング素子24、31をオフにする。
U相電流Iuを正から負に切り替えるタイミングXu1において、スイッチング素子24、31をオン、スイッチング素子21、34をオフに切り替える。タイミングXu1は、電気角が180°となるタイミングとする。還流等を防ぐため、U相電流Iuが所望の値となるまでの間は、スイッチング素子24、31をオン、スイッチング素子21、34のスイッチング状態を継続する。このスイッチング状態の継続期間は、モータジェネレータ10のインダクタンスL等によって決まる。U相電流Iuが所望の値となった後は、スイッチング素子24、31を駆動要求に応じたデューティでスイッチングする。
【0038】
U相電流Iuを負から正に切り替えるタイミングXu2において、スイッチング素子21、34をオン、24、31をオフに切り替える。タイミングXu2は、電気角が0°となるタイミングとする。還流等を防ぐために、スイッチング素子21、34がオン、スイッチング素子24、31がオフの状態を、U相電流Iuが所望の値となるまでの間、継続する点については、タイミングXu1での切り替え時と同様である。
V相およびW相は、120°ずつ位相がずれた同様のスイッチングパターンとする。
【0039】
3相不平衡の台形波電流をコイル11〜13に流すことで、図7(b)に実線trq_bで示すように、破線で示す3相平衡の正弦波電流を流した場合のトルクtrq_sと比較し、脈動はあるものの、平均として大きなトルクを出力することができる。また、3相平衡の正弦波電流を流す場合と比較し、瞬間的な最大トルクを大きくすることができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の電力変換装置15は、複数相のコイル11〜13を有するモータジェネレータ10の電力を変換するものであって、第1インバータ20と、第2インバータ30と、高電位側接続線51と、低電位側接続線55と、制御部65と、を備える。
【0041】
第1インバータ20は、高電位側に設けられる第1上アーム素子21〜23、および、第1上アーム素子21〜23の低電位側に設けられる第1下アーム素子24〜26を相毎に有し、コイル11、12、13の一端111、121、131とバッテリ40とに接続される。
第2インバータ30は、高電位側に設けられる第2上アーム素子31〜33、および、第2上アーム素子31〜33の低電位側に設けられる第2下アーム素子34〜36を相毎に有し、コイル11、12、13の他端112、122、132に接続される。
【0042】
高電位側接続線51は、バッテリ40の正極側と、第1上アーム素子21〜23の高電位側と、第2上アーム素子31〜33の高電位側とを接続する。
低電位側接続線55は、バッテリ40の負極側と、第1下アーム素子24〜26の低電位側と、第2下アーム素子34〜36の低電位側とを接続する。
【0043】
制御部65は、第1インバータ20および第2インバータ30を制御する。
制御部65は、モータジェネレータ10のトルクが切替閾値trq_th以下の場合、コイル11〜13に平衡電流が流れるように制御する平衡制御とする。制御部65は、モータジェネレータ10のトルクが切替閾値trq_thより大きい場合、コイル11〜13に不平衡電流が流れるように制御する不平衡制御とする。
【0044】
本実施形態では、高電位側接続線51および低電位側接続線55にて、第1インバータ20と第2インバータ30とを接続することで、それぞれの相を独立のブリッジ回路とみなし、コイルの印加電圧を相毎に制御するブリッジ制御が可能である。ブリッジ制御とすることで、電流制御の自由度が高まり、コイル11〜13に不平衡電流を通電することができる。平衡制御に替えて不平衡制御とすることで、出力可能な最大トルクを向上可能である。
【0045】
高電位側接続線51および低電位側接続線55の少なくとも一方には、第1インバータ20側と第2インバータ30側とを断接可能な開閉器52が設けられる。本実施形態では、開閉器52は、高電位側接続線51に設けられる。開閉器52を設け、高電位側接続線51および低電位側接続線55の少なくとも一方にて第1インバータ20側と第2インバータ30側とを切り離すことで、Y結線制御が可能となる。
本実施形態では、高電位側接続線51に開閉器52を設け、低電位側接続線55の開閉器を省略することで、高電位側接続線51および低電位側接続線55の両方に開閉器を設ける場合と比較し、部品点数を低減可能である。
【0046】
平衡制御を行う駆動領域である平衡制御領域は、低回転数側の第1領域R1、および、第1領域R1より高回転数側の第2領域R2を含む。また、不平衡制御を行う領域を第3領域R3とする。
モータジェネレータ10の駆動要求が第1領域R1である場合、開閉器52を開とし、第2インバータ30を中性点化し、駆動要求に応じて第1インバータ20を制御するY結線制御とする。
モータジェネレータ10の駆動要求が第2領域R2または第3領域R3である場合、開閉器52を閉とし、コイル11〜13に印加する電圧を相毎に制御するブリッジ制御とする。
制御によって、高効率領域が異なる。そのため、駆動領域に応じて制御を切り替えることで、モータジェネレータ10の駆動効率を高めることができる。
【0047】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図8に示す。
図8に示すように、本実施形態の回転電機駆動システム2は、モータジェネレータ10、および、電力変換装置16を備える。
電力変換装置16では、低電位側接続線55に開閉器56が設けられており、高電位側接続線51の開閉器52が省略されている点が第1実施形態の電力変換装置15と異なる。
【0048】
本実施形態では、駆動要求が第1領域R1であって、Y結線制御を行う場合、開閉器56を開とし、第2下アーム素子34〜36の全相をオンすることで、第2インバータ30を中性点化する。
駆動要求が第2領域R2または第3領域R3であって、ブリッジ制御を行う場合、開閉器56を閉とする。
その他の構造や制御の詳細は、第1実施形態と同様である。
このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0049】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態を図9に示す。
図9に示すように、本実施形態の回転電機駆動システム3は、モータジェネレータ10、および、電力変換装置17を備える。
電力変換装置17では、高電位側接続線51に開閉器52が設けられ、低電位側接続線55に開閉器56が設けられる。
【0050】
本実施形態では、駆動要求が第1領域R1であって、Y結線制御を行う場合、開閉器52、56の少なくとも一方を開とする。開閉器52を開、開閉器56を閉とする場合、第2上アーム素子31〜33の全相をオンすることで第2インバータ30を中性点化し、開閉器52を閉、開閉器56を開とする場合、第2下アーム素子34〜36の全相をオンすることで第2インバータ30を中性点化する。すなわち、開とする開閉器52、56に応じ、全相オンにするアームを選択する。
開閉器52、56を共に開にする場合、第2上アーム素子31〜33の全相、または、第2下アーム素子34〜36の全相のいずれをオンにしても、第2インバータ30を中性点化することができる。
駆動要求が第2領域R2または第3領域R3であって、ブリッジ制御を行う場合、開閉器52、56を共に閉とする。
その他の構造や制御の詳細は、第1実施形態と同様である。
このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0051】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態を図10に示す。
図10に示すように、本実施形態の回転電機駆動システム4は、モータジェネレータ10、および、電力変換装置18を備える。
電力変換装置18では、第1実施形態の開閉器52が省略されている。すなわち、電力変換装置18では、高電位側接続線51および低電位側接続線55のいずれにも開閉器が設けられておらず、第1インバータ20側と第2インバータ30側とを切り離すことができない。そのため、本実施形態では、Y結線制御での駆動ができないので、図2の領域R1は、Y結線制御に替えて、平衡ブリッジ制御とする。
その他の構造や制御の詳細は、第1実施形態と同様である。
本実施形態では、高電位側接続線51および低電位側接続線55の開閉器を省略しているので、部品点数を低減することができる。また、Y結線制御ができない点を除き、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0052】
(他の実施形態)
(ア)電圧源
上記実施形態では、電圧源として、リチウムイオン電池等を例示した。他の実施形態では、電圧源は、リチウムイオン電池以外の鉛蓄電池、燃料電池等であってもよい。
(イ)回転電機
上記実施形態では、回転電機はモータジェネレータである。他の実施形態では、回転電機は、発電機の機能を持たない電動機であってもよいし、電動機の機能を持たない発電機であってもよい。また、上記実施形態の回転電機は3相である。他の実施形態では、回転電機は、4相以上としてもよい。
また、上記実施形態では、回転電機が電動車両の主機モータである。他の実施形態では、回転電機は、主機モータに限らず、例えばスタータ機能とオルタネータ機能とを併せ持つ、所謂ISG(Integrated Starter Generator)や、補機モータであってもよい。また、電力変換装置を車両以外の装置に適用してもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0053】
10・・・モータジェネレータ(回転電機)
11〜13・・・コイル(巻線)
15〜18・・・電力変換装置
20・・・第1インバータ
21〜23・・・第1上アーム素子 24〜26・・・第1下アーム素子
30・・・第2インバータ
31〜33・・・第2上アーム素子 34〜36・・・第2下アーム素子
40・・・バッテリ(電圧源)
51・・・高電位側接続線 55・・・低電位側接続線
65・・・制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10