特許第6683541号(P6683541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6683541金属表面コーティング用組成物および端子付き被覆電線
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  • 特許6683541-金属表面コーティング用組成物および端子付き被覆電線 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683541
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】金属表面コーティング用組成物および端子付き被覆電線
(51)【国際特許分類】
   C09D 191/00 20060101AFI20200413BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20200413BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20200413BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20200413BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20200413BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   C09D191/00
   C09D7/63
   C09D7/61
   C09D5/08
   C23C26/00 A
   H01R4/18 A
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-115796(P2016-115796)
(22)【出願日】2016年6月10日
(65)【公開番号】特開2017-2300(P2017-2300A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年8月7日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/65174
(32)【優先日】2016年5月23日
(33)【優先権主張国】WO
(31)【優先権主張番号】特願2015-118415(P2015-118415)
(32)【優先日】2015年6月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】細川 武広
(72)【発明者】
【氏名】長谷 達也
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 純一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓次
(72)【発明者】
【氏名】野村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和宏
(72)【発明者】
【氏名】溝口 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉田 公一
(72)【発明者】
【氏名】小宮 健一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 孝
(72)【発明者】
【氏名】設楽 裕治
(72)【発明者】
【氏名】八木下 和宏
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−105831(JP,A)
【文献】 特開2011−093963(JP,A)
【文献】 特開2009−007504(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/056546(WO,A1)
【文献】 特表2002−527594(JP,A)
【文献】 特表平02−500917(JP,A)
【文献】 特開2014−177603(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/003118(WO,A1)
【文献】 特開2008−144018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D101/00−201/10
C23C 26/00
H01R 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質と、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなるリン化合物と金属との組成物と、造核剤と、を含有し、前記リン化合物と組成物を形成する金属が、アルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛から選択される少なくとも1種であることを特徴とする金属表面コーティング用組成物。
【化1】
【化2】
ただし、X〜Xは、酸素原子を示し、R11〜R13は、それぞれ個別に水素基または炭素数〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数〜30の炭化水素基であり、R14〜R16は、それぞれ個別に水素基または炭素数〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数〜30の炭化水素基である。
【請求項2】
前記造核剤が、ケイ酸塩またはマグネシアを含有する無機粒子であることを特徴とする請求項1に記載の金属表面コーティング用組成物。
【請求項3】
前記造核剤が、タルク、カオリン、モンモリロナイト、酸化マグネシウムのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属表面コーティング用組成物。
【請求項4】
前記造核剤の平均粒径が、20μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の金属表面コーティング用組成物。
【請求項5】
前記造核剤の含有量が、造核剤を除く成分の合計100質量部に対し、0.01〜15質量部の範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の金属表面コーティング用組成物。
【請求項6】
前記リン化合物と金属との組成物は、金属水酸化物および金属カルボン酸塩のうちの少なくとも1種と前記リン化合物から形成されたものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の金属表面コーティング用組成物。
【請求項7】
前記金属カルボン酸塩が、金属サリチル酸塩であることを特徴とする請求項6に記載の金属表面コーティング用組成物。
【請求項8】
前記アミド化合物は、下記の一般式(3)〜(5)で表される化合物の1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の金属表面コーティング用組成物。
(化3)
21−CO−NH−R22 (3)
(化4)
23−CO−NH−Y31−NH−CO−R24 (4)
(化5)
25−NH−CO−Y32−CO−NH−R26 (5)
ただし、R21〜R26は、それぞれ個別に炭素数5〜25の飽和または不飽和の鎖状炭化水素基を示し、R22は水素であってもよい、Y31およびY32は、炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基、または炭素数7〜10のアルキルフェニレン基からなる群より選ばれる炭素数1〜10の2価の炭化水素基を示す。
【請求項9】
前記アミド化合物は、融点が20〜200℃の範囲内にある脂肪酸アミドであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の金属表面コーティング用組成物。
【請求項10】
前記リン化合物が、その炭素数〜30の炭化水素基の構造中に、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の金属表面コーティング用組成物。
【請求項11】
前記潤滑油基油およびアミド化合物の合計と、前記リン化合物と金属との組成物と、の比が、質量比で、98:2〜30:70の範囲内であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の金属表面コーティング用組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の金属表面コーティング用組成物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることを特徴とする端子付き被覆電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面コーティング用組成物および端子付き被覆電線に関し、さらに詳しくは、塗布性に優れる金属表面コーティング用組成物と、この金属表面コーティング用組成物により防食処理が施された端子付き被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
金属機器や金属部品において、潤滑目的や防食目的などで、グリースが用いられている。例えば特許文献1には、パーフルオロエーテル基油、増稠剤、硫酸バリウムまたは酸化アンチモンを含有してなるグリースを機械部品に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4811408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グリースなどの表面コーティング剤を金属表面に塗布する場合には、均一であることが求められる。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、塗布性に優れる金属表面コーティング用組成物およびこれを用いて防食性が高められた端子付き被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る金属表面コーティング用組成物は、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質と、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなるリン化合物と金属との組成物と、造核剤と、を含有することを要旨とするものである。
【化1】
【化2】
ただし、X〜Xは、それぞれ個別に酸素原子または硫黄原子を示し、R11〜R13は、それぞれ個別に水素基または炭素数1〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数1〜30の炭化水素基であり、R14〜R16は、それぞれ個別に水素基または炭素数1〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数1〜30の炭化水素基である。
【0007】
前記造核剤は、ケイ酸塩またはマグネシアを含有する無機粒子であることが好ましい。前記造核剤は、タルク、カオリン、モンモリロナイト、酸化マグネシウムのうちの少なくとも1種であることが好ましい。前記造核剤の平均粒径は、20μm以下であることが好ましい。前記造核剤の含有量は、造核剤を除く成分の合計100質量部に対し、0.01〜15質量部の範囲内であることが好ましい。
【0008】
前記リン化合物と金属との組成物は、金属水酸化物および金属カルボン酸塩のうちの少なくとも1種と前記リン化合物から形成されたものであることが好ましい。前記金属カルボン酸塩は、金属サリチル酸塩であることが好ましい。
【0009】
前記アミド化合物は、下記の一般式(3)〜(5)で表される化合物の1種または2種以上であることが好ましい。
(化3)
21−CO−NH−R22 (3)
(化4)
23−CO−NH−Y31−NH−CO−R24 (4)
(化5)
25−NH−CO−Y32−CO−NH−R26 (5)
ただし、R21〜R26は、それぞれ個別に炭素数5〜25の飽和または不飽和の鎖状炭化水素基を示し、R22は水素であってもよい、Y31およびY32は、炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基、または炭素数7〜10のアルキルフェニレン基からなる群より選ばれる炭素数1〜10の2価の炭化水素基を示す。
【0010】
前記アミド化合物は、融点が20〜200℃の範囲内にある脂肪酸アミドであることが好ましい。
【0011】
前記リン化合物は、その炭素数1〜30の炭化水素基の構造中に、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することが好ましい。
【0012】
前記リン化合物と組成物を形成する金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
前記潤滑油基油およびアミド化合物の合計と、前記リン化合物と金属との組成物と、の比は、質量比で、98:2〜30:70の範囲内であることが好ましい。
【0014】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線は、上記の金属表面コーティング用組成物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る金属表面コーティング用組成物によれば、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質と、特定のリン化合物と金属との組成物と、造核剤と、を含有することから、金属表面に均一に塗布することができ、塗布性に優れる。
【0016】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線によれば、上記の金属表面コーティング用組成物により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることから、長期にわたって安定した防食性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図である。
図2図1におけるA−A線縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る金属表面コーティング用組成物(以下、本組成物ということがある。)は、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質と、特定のリン化合物と金属との組成物と、造核剤と、を含有する。
【0020】
潤滑油基油としては、通常の潤滑油の基油として用いられる任意の鉱油、ワックス異性化油、合成油の1種または2種以上の混合物を使用することができる。鉱油としては、具体的には、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱瀝、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用できる。
【0021】
ワックス異性化油としては、炭化水素油を溶剤脱ろうして得られる石油スラックワックスなどの天然ワックス、あるいは一酸化炭素と水素との混合物を高温高圧で適用な合成触媒と接触させる、いわゆるFischer Tropsch合成方法で生成される合成ワックスなどのワックス原料を水素異性化処理することにより調製されたものが使用できる。ワックス原料としてスラックワックスを使用する場合、スラックワックスは硫黄と窒素を大量に含有しており、これらは潤滑油基油には不要であるため、必要に応じて水素化処理し、硫黄分、窒素分を削減したワックスを原料として用いることが望ましい。
【0022】
合成油としては、特に制限はないが、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等のポリα−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0023】
潤滑油基油の動粘度は、特に限定されるものではないが、通常、100℃において1〜150mm/sの範囲内であることが好ましい。また、揮発性および製造時の扱いやすさに優れることから、100℃における動粘度が2〜120mm/sの範囲内であることがより好ましい。動粘度は、JIS K2283に準拠して測定される。
【0024】
アミド化合物は、潤滑油基油中で水素結合による網目構造を形成する。これにより、潤滑油基油に粘稠性が付与され、グリース様の粘稠性物質となる。つまり、潤滑油基油とともに用いることで、常温でゲル状物を形成する。すなわち、アミド化合物は、液状の潤滑油基油を常温でゲル化(半固体状化)する。粘稠性物質は、その粘稠性により、被塗布材の塗布面に、常温下あるいは加熱下で、保持される。
【0025】
アミド化合物は、アミド基(−NH−CO−)を1つ以上有する化合物であり、アミド基が1つのモノアミド化合物やアミド基が2つのビスアミド化合物などを好ましく用いることができる。
【0026】
アミド化合物としては、例えば下記の一般式(3)〜(5)で表される化合物を好ましく用いることができる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(化3)
21−CO−NH−R22 (3)
(化4)
23−CO−NH−Y31−NH−CO−R24 (4)
(化5)
25−NH−CO−Y32−CO−NH−R26 (5)
【0027】
一般式(3)〜(5)において、R21〜R26は、それぞれ個別に炭素数5〜25の飽和または不飽和の鎖状炭化水素基を示し、R22は水素であってもよい、Y31およびY32は、炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基、または炭素数7〜10のアルキルフェニレン基からなる群より選ばれる炭素数1〜10の2価の炭化水素基を示す。また、一般式(3)〜(5)において、R21〜R26を構成する炭化水素基の水素の一部は水酸基(−OH)で置換されていてもよい。
【0028】
一般式(3)で表されるアミド化合物としては、具体的には、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、ステアリルステアリン酸アミド、オレイルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミド等の飽和または不飽和の長鎖脂肪酸と長鎖アミンによる置換アミドなどが挙げられる。これらのうちでは、一般式(3)においてR21が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基でありR22が水素基であるアミド化合物、一般式(3)においてR21およびR22のそれぞれが炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物など、一般式(3)においてR21およびR22の少なくとも一方が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物が好ましい。より具体的には、ステアリルステアリン酸アミドが好ましい。
【0029】
一般式(4)で表されるアミド化合物としては、具体的には、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。これらのうちでは、一般式(4)においてR23が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基でありR24が水素基であるアミド化合物、一般式(4)においてR23およびR24のそれぞれが炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物など、一般式(4)においてR23およびR24の少なくとも一方が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物が好ましい。より具体的には、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0030】
一般式(5)で表されるアミド化合物としては、具体的には、N,N‘−ジステアリルセバシン酸アミドなどが挙げられる。これらのうちでは、一般式(5)においてR25が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基でありR26が水素基であるアミド化合物、一般式(5)においてR25およびR26のそれぞれが炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物など、一般式(5)においてR25およびR26の少なくとも一方が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物が好ましい。
【0031】
アミド化合物は、潤滑油基油と混合した際に常温でゲル状(半固形状)を維持しやすい、常温でゲル状(半固形状)を維持しやすいなどの観点から、融点が20℃以上であることが好ましい。より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは80℃以上、特に好ましくは120℃以上である。また、融点が200℃以下であることが好ましい。より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。また、アミド化合物の分子量は、100〜1000の範囲内であることが好ましい。より好ましくは150〜800の範囲内である。
【0032】
アミド化合物の含有量は、潤滑油基油と混合した際に常温でゲル状(半固形状)を維持しやすい、常温でゲル状(半固形状)を維持しやすいなどの観点から、潤滑油基油100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましい。より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。また、潤滑油基油100質量部に対し、70質量部以下であることが好ましい。より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。
【0033】
特定のリン化合物は、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなる。
【化6】
【化7】
ただし、X〜Xは、それぞれ個別に酸素原子または硫黄原子を示し、R11〜R13は、それぞれ個別に水素基または炭素数1〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数1〜30の炭化水素基であり、R14〜R16は、それぞれ個別に水素基または炭素数1〜30の炭化水素基を示し、かつこれらのうちの少なくとも1つは炭素数1〜30の炭化水素基である。
【0034】
炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキル置換アリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。
【0035】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。これらは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0036】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基としては、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロへプチル基、ジメチルシクロへプチル基、メチルエチルシクロへプチル基、ジエチルシクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基の置換位置は、特に限定されない。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0037】
アルケニル基としては、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基などが挙げられる。これらは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0038】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基としては、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、へプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基の置換位置は、特に限定されない。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アリールアルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基などが挙げられる。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0039】
〜Xは、好ましくは全てが酸素原子である。R11〜R16の炭素数1〜30の炭化水素基は、好ましくは炭素数4〜30の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数8〜30の炭化水素基である。
【0040】
〜Xは、好ましくは全てが酸素原子である。R11〜R13は、少なくとも1つが水素基であり、かつ、少なくとも1つが炭素数1〜30の炭化水素基であることが好ましい。また、R14〜R16は、少なくとも1つが水素基であり、かつ、少なくとも1つが炭素数1〜30の炭化水素基であることが好ましい。
【0041】
一般式(1)で表されるリン化合物としては、亜リン酸、モノチオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸、亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、ジチオ亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ジチオ亜リン酸ジエステル、亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル、ジチオ亜リン酸トリエステルなどが挙げられる。これらは、一般式(1)で表されるリン化合物として1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
一般式(2)で表されるリン化合物としては、リン酸、モノチオリン酸、ジチオリン酸、リン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、ジチオリン酸モノエステル、リン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、ジチオリン酸ジエステル、リン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル、ジチオリン酸トリエステルなどが挙げられる。これらは、一般式(2)で表されるリン化合物として1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
リン化合物としては、下記の相溶性向上効果、粘着性向上効果、密着性向上効果に優れるなどの観点から、一般式(2)で表されるリン化合物がより好ましい。また、一般式(2)で表されるリン化合物のうちでは、下記の一般式(6)または一般式(7)で表される酸性リン酸エステルが特に好ましい。
(化8)
P(=O)(−OR14)(−OH) ・・・(6)
(化9)
P(=O)(−OR14(−OH) ・・・(7)
【0044】
特定のリン化合物と金属との組成物において、リン酸塩基(P−O基)は、また、被塗布材の塗布面にイオン結合して、粘稠性物質と、特定のリン化合物と金属との組成物と、を含有する粘稠性膜を塗布面に強固に密着させることに寄与する。金属との組成物にすることで、リン酸塩基(P−O基)のイオン結合性を高めてイオン結合を促進する。また、金属との組成物にすることで、特定のリン化合物と金属との組成物を、粘着性を持つものにする。さらに、金属との組成物にすることで、特定のリン化合物の酸性を下げて(pHを上げて)、塗布する金属表面の特定のリン化合物による腐食を抑える。
【0045】
特定のリン化合物と組成物を形成する金属は、耐熱性の観点から、価数が2価以上であることが好ましい。
【0046】
特定のリン化合物と組成物を形成する金属としては、Li,Na,Kなどのアルカリ金属、Mg,Caなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらの金属の塩は、金属表面に対し、高い吸着性を得る事ができる。また、例えばSnよりもイオン化傾向が高いため、Snに対するイオン結合性に優れたものとすることができる。これらのうちでは、耐水性などの観点から、Ca,Mgがより好ましい。
【0047】
特定のリン化合物と金属との組成物は、特定のリン化合物と含金属化合物(金属イオン供給源)とを混合することにより形成することができる。含金属化合物としては、金属水酸化物、金属カルボン酸塩などが挙げられる。カルボン酸の金属塩のカルボン酸としては、サリチル酸、安息香酸、フタル酸などが挙げられる。カルボン酸の金属塩は中性塩であり、さらに過剰の金属、金属酸化物、金属水酸化物を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス、ホウ酸、ホウ酸塩の存在下で金属、金属酸化物、金属水酸化物を反応させることにより得られる過塩基性塩などであってもよい。これらのうちでは、含金属化合物(金属イオン供給源)としては、反応時の溶解性、金属イオンの反応性などの観点から、過塩基性サリチル酸などが好ましい。
【0048】
特定のリン化合物と金属との組成物は、特定のリン化合物と含金属化合物(金属イオン供給源)とを別途混合して予め組成物にしたものを用いてもよいし、潤滑油基油、アミド化合物とともに特定のリン化合物および含金属化合物(金属イオン供給源)を一緒に混合して混合中に組成物にしたものを用いてもよい。また、別途予め調製された、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質とともに特定のリン化合物および含金属化合物(金属イオン供給源)を一緒に混合して混合中に組成物にしたものを用いてもよい。
【0049】
所望の配合比で確実に組成物を形成するなどの観点から、特定のリン化合物と金属との組成物は、特定のリン化合物と含金属化合物(金属イオン供給源)とを別途混合して予め組成物にしたものを用いることが好ましい。
【0050】
特定のリン化合物と金属との組成物において、特定のリン化合物の炭化水素基の少なくとも1つは炭素数4〜30の炭化水素基であると、長鎖アルキル化合物である潤滑油基油との相溶性に寄与する。炭化水素基とは、炭素および水素からなる有機基であり、N,O,Sなどのヘテロ元素を含有しないものである。そして、長鎖アルキル化合物である潤滑油基油との相溶性から、特定のリン化合物の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは脂肪族炭化水素基である。
【0051】
脂肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素からなるアルキル基、不飽和炭化水素からなるアルケニル基が挙げられ、これらのいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基であるアルキル基やアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれの構造のものであってもよい。ただし、アルキル基がn−ブチル基、n−オクチル基などの直鎖状のアルキル基であると、アルキル基同士が配向しやすく、特定のリン化合物と金属との組成物の結晶性が高くなり、潤滑油基油との相溶性が低下する傾向がある。この観点から、炭化水素基がアルキル基である場合には、直鎖状のアルキル基よりも分岐鎖状のアルキル基が好ましい。一方、アルケニル基は、1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することで、直鎖状であっても結晶性がそれほど高くない。このため、アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0052】
少なくとも1つの炭化水素基の炭素数が4未満では、特定のリン化合物が無機質となる。また、特定のリン化合物は結晶化の傾向が強くなる。そうすると、潤滑油基油との相溶性が悪く、潤滑油基油と混ざらなくなる。一方、炭化水素基の炭素数が30超では、特定のリン化合物の粘度が高くなりすぎて、流動性が低下しやすい。炭化水素基の炭素数としては、潤滑油基油との相溶性から、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。また、炭化水素基の炭素数としては、流動性などの観点から、より好ましくは26以下、さらに好ましくは22以下である。
【0053】
また、特定のリン化合物と金属との組成物は、分子内にリン酸塩基(極性基)と非極性基(エステル部位の炭化水素基)を併せ持つものであり、極性基同士、非極性基同士が会合した層状態で存在できるため、非重合体においても、高粘性の液体とすることが可能である。粘性の液体であると、金属表面に塗布したときに、ファンデルワールス力による物理吸着を利用して、金属表面により密着させることができる。この粘性は、鎖状の分子鎖同士の絡まりが生じることにより得られるものと推察される。したがって、この観点から、特定のリン化合物の結晶化を促進しない方向への設計が好ましい。具体的には、炭化水素基の炭素数を4〜30とすること、炭化水素基が1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することなどが挙げられる。
【0054】
粘着性の観点からすると、特定のリン化合物は、金属との組成物にする必要がある。金属との組成物にしていない特定のリン化合物そのものを用いた場合、リン酸基の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸基同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。また、アンモニアもしくはアミンとの組成物にしても、リン酸塩基(アミン塩)の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸塩基(アミン塩)同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。
【0055】
炭化水素基としては、より具体的には、オレイル基、ステアリル基、イソステアリル基、2−エチルヘキシル基、ブチルオクチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基、イソベヘニル基などが挙げられる。
【0056】
そして、具体的な酸性リン酸エステルとしては、ブチルオクチルアシッドホスフェイト、イソミリスチルアシッドホスフェイト、イソセチルアシッドホスフェイト、ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイト、イソベヘニルアシッドホスフェイト、オクチルデシルアシッドホスフェイト、オクチルドデシルアシッドホスフェイト、イソブチルアシッドホスフェイト、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、イソデシルアシッドホスフェイト、ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、ミリスチルアシッドホスフェイト、パルミチルアシッドホスフェイト、ジ−ブチルオクチルアシッドホスフェイト、ジ−イソミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−イソセチルアシッドホスフェイト、ジ−ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソステアリルアシッドホスフェイト、ジ−イソベヘニルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルデシルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルドデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソブチルアシッドホスフェイト、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、ジ−イソデシルアシッドホスフェイト、ジ−トリデシルアシッドホスフェイト、ジ−オレイルアシッドホスフェイト、ジ−ミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−パルミチルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。これらのうちでは、非結晶性、潤滑油基油との分子鎖絡まり性などの観点から、オレイルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイトが好ましい。
【0057】
特定のリン化合物と金属との組成物の分子量は、微分散化により、粘稠性物質との相溶性が向上することから、3000以下であることが好ましい。より好ましくは2500以下である。また、極性基の高濃度化による分離抑制などの観点から、80以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。分子量は、計算により求めることができる。なお、下記のIS−SA−Caについては、GPCにて分子量(重量平均分子量)を測定する。
【0058】
本組成物においては、特定のリン化合物と金属との組成物を含有していれば、金属との組成物にしていない特定のリン化合物そのものを一部に含有していてもよい。ただし、本組成物において、特定のリン化合物そのものの割合が大きくなると、イオン結合性が低下する、粘着性(粘性)が低下する、腐食を抑える効果が低下するなどから、特定のリン化合物そのものの割合は小さいほうが好ましい。
【0059】
特定のリン化合物そのものの割合を測る指標として、本組成物のpHを測る方法がある。酸性リン酸エステルの比率が高くなると、リン酸基(P−OH基)の残存量が多くなり、酸性度が高くなる(pHが下がる)。酸性リン酸エステルの比率が低くなると、リン酸基(P−OH基)の残存量が少なくなり、酸性度が低くなる(pHが上がる)。本組成物のpHとしては、4以上であることが好ましい。より好ましくは5.5以上である。
【0060】
また、特定のリン化合物と金属の比率(モル比)は、特定のリン化合物の価数をx、金属の価数をy、特定のリン化合物のモル数をl、金属のモル数をm、f=l×x−m×yとしたときのfの値によって示すこともできる。f>0の範囲では、金属に対し特定のリン化合物が過剰であり、リン酸基(P−OH基)が残存する。f=0では、金属に対し特定のリン化合物が当量であり、リン酸基(P−OH基)は残存しない。また、f<0では、金属に対し特定のリン化合物が不足であり、リン酸基(P−OH基)が残存しない。本組成物のpHを高くするには、f≦0であることが好ましい。
【0061】
粘稠性物質(潤滑油基油およびアミド化合物の合計)と、リン化合物と金属との組成物と、の比は、質量比で、98:2〜30:70の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、95:5〜40:60の範囲内である。粘稠性物質の割合が98質量部より多いと、流動性が低下する。粘稠性物質の割合が30質量部より少ないと、塗布後において、粘稠性膜の粘稠性が低下する。
【0062】
造核剤は、粘稠性物質に含まれるアミド化合物の結晶化を促進するものである。粘稠性物質は、潤滑油基油にアミド化合物が混合されたものであり、常温では潤滑油基油中においてアミド化合物が水素結合により高分子を形成し、マトリックスの潤滑油基油とオルガノゲルを形成し、高粘度でグリース様の物性を示す。このような粘稠性物質は、アミド化合物の融点に関係する所定の温度以上で融解し、マトリックスの潤滑油基油と同様の粘性に変化する。このような粘稠性物質は、アミド化合物の融解温度以上に加温した状態で塗布し、その後、常温に戻すことで容易に表面コーティングを行うことができる。この際、塗布時の温度や塗布後の冷却が不適切であると、冷却時に相の不均一化が起こり、膜にひび割れが生じ、均一な膜が形成されない。特に、融点の高いアミド化合物を用いて耐熱性を向上させたものでは、塗布時の温度と常温との温度差が大きくなるため、不均一化がより顕著になる傾向にある。造核剤は、溶融しているアミド化合物の結晶化を促進することにより相の不均一化を抑えるために添加される。
【0063】
相の不均一化によるひび割れは、このような粘稠性物質に対し特定のリン化合物と金属との組成物を配合する組成物において生じる。潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質だけだと、溶融塗布後にひび割れは生じない。したがって、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質だけに対しては、ひび割れ防止を目的として造核剤を配合する必要はない。しかし、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質だけでは、金属表面との密着性が確保できないため、塗布時の温度から常温に冷却される際に粘稠性物質の体積変化(収縮)が起こると、金属表面で剥離が起こり、塗布面が不均一となる。
【0064】
このような造核剤としては、アミド化合物の結晶化を促進するものであれば特に限定されるものではないが、ケイ酸塩またはマグネシアを含有する無機粒子が好ましい。ケイ酸塩またはマグネシアを含有する無機粒子としては、タルク、カオリン、モンモリロナイト、酸化マグネシウムなどが挙げられる。これらは造核剤として1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。造核剤のうちでは、タルクが特に好ましい。
【0065】
タルクは、ケイ酸とマグネシアと結晶水からなる積層状の鉱物であり、その積層面は剥離しやすい。剥離により新たなマグネシア部分が生成しやすいタルクが、極性が高くわずかに塩基性を持っているアミド化合物に作用しやすいためと推測される。
【0066】
造核剤の平均粒径は、20μm以下であることが好ましい。より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。造核剤の粒径が20μm以下であると、粒子の凝集が抑えられ、粒子による膜の不均一化が抑えられる。また、造核剤の平均粒径は、0.1μm以上であることが好ましい。より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上である。造核剤の粒径が0.1μm以上であると、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質への分散性や取扱い性に優れる。造核剤の平均粒径は、動的光散乱法、レーザー回折・散乱法、画像イメージング等により測定することができる。
【0067】
造核剤の含有量は、造核剤を除く成分の合計100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましい。より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。造核剤の含有量が0.01質量部以上であると、アミド化合物の結晶促進による相の均一化の効果に優れる。また、造核剤の含有量は、造核剤を除く成分の合計100質量部に対し、15質量部以下であることが好ましい。より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5.0質量部以下である。造核剤の含有量が15質量部以下であると、粒子の凝集が抑えられ、粒子による膜の不均一化が抑えられる。
【0068】
造核剤の比重は、0.5〜6.0の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.7〜5.0の範囲内である。造核剤の比重が0.5〜6.0の範囲内であると、沈殿、浮揚などが抑えられ、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質への分散性に優れ、アミド化合物の結晶促進による相の均一化の効果に優れる。
【0069】
本組成物中には、粘稠性物質と特定のリン化合物と金属との組成物の他に、本組成物の機能を損なわない範囲で、有機溶剤、安定化剤、腐食防止剤、色素、増粘剤、フィラーなどを添加することができる。
【0070】
本組成物は、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質と、特定のリン化合物と金属との組成物と、造核剤と、必要に応じて添加される成分と、を混合することにより得ることができる。また、潤滑油基油と、アミド化合物と、特定のリン化合物と金属との組成物と、造核剤と、必要に応じて添加される成分と、を混合することによっても得ることができる。粘稠性物質の粘稠性により、塗布後に塗布面に粘稠性膜が保持される。より融点の高いアミド化合物を用いれば、融点以下の高温下で常温と同様の粘稠性が維持され、塗布面に粘稠性膜が保持される。特定のリン化合物と金属との組成物は、金属吸着成分として作用し、金属表面において粘稠性膜の密着性の向上に貢献する。被塗布材の表面に本組成物を塗布するか、本組成物中に被塗布材を浸漬することにより、被塗布材の表面に本組成物をコーティングすることができる。造核剤は、溶融しているアミド化合物の結晶化を促進することにより相の不均一化を抑える。これにより、膜のひび割れを抑え、均一な膜が形成される。
【0071】
被塗布材の表面に塗布する粘稠性膜の膜厚としては、コーティング箇所からの流出防止や漏出防止の観点から、100μm以下であることが好ましい。より好ましくは50μm以下である。一方、塗布する粘稠性膜の機械的強度などの観点から、所定の厚さ以上であることが好ましい。膜厚の下限値としては、0.5μm、2μm、5μmなどが挙げられる。
【0072】
本組成物は、潤滑や防食用途などに用いることができる。防食用途としては、例えば端子付き被覆電線の防食剤などとして用いることができる。
【0073】
次に、本発明に係る端子付き被覆電線について説明する。
【0074】
本発明に係る端子付き被覆電線は、絶縁電線の導体端末に端子金具が接続されたものにおいて、本組成物の、潤滑油基油およびアミド化合物から構成される粘稠性物質と、特定のリン化合物と金属との組成物と、造核剤と、を含有する粘稠性膜により端子金具と電線導体の電気接続部が覆われたものからなる。これにより、電気接続部での腐食が防止される。
【0075】
図1は、本発明の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図であり、図2図1におけるA−A線縦断面図である。図1図2に示すように、端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁被覆(絶縁体)4により被覆された被覆電線2の電線導体3と端子金具5が電気接続部6により電気的に接続されている。
【0076】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)することができる。
【0077】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁被覆4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁被覆4の上から加締める。
【0078】
端子付き被覆電線1において、一点鎖線で示した範囲が、本組成物から得られる粘稠性膜7により覆われる。具体的には、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち先端より先の端子金具5の表面から、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち後端より後の絶縁被覆4の表面までの範囲が、粘稠性膜7により覆われる。つまり、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように粘稠性膜7で覆われる。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁被覆4側に少しはみ出すように粘稠性膜7で覆われる。そして、図2に示すように、端子金具5の側面5bも粘稠性膜7で覆われる。なお、端子金具5の裏面5cは粘稠性膜7で覆われなくてもよいし、覆われていてもよい。粘稠性膜7の周端は、端子金具5の表面に接触する部分と、電線導体3の表面に接触する部分と、絶縁被覆4の表面に接触する部分と、で構成される。
【0079】
こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6が粘稠性膜7により所定の厚さで覆われる。これにより、被覆電線2の電線導体3の露出した部分は粘稠性膜7により完全に覆われて、外部に露出しないようになる。したがって、電気接続部6は粘稠性膜7により完全に覆われる。粘稠性膜7は、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとも密着性に優れるので、粘稠性膜7により、電線導体3および電気接続部6に外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する。また、密着性に優れるため、例えばワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、電線が曲げられた場合にも、粘稠性膜7の周端で粘稠性膜7と、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとの間にも隙間ができにくく、防水性や防食機能が維持される。
【0080】
粘稠性膜7を形成する本組成物は、所定の範囲に塗布される。粘稠性膜7を形成する本組成物の塗布は、滴下法、塗布法等の公知の手段を用いることができる。
【0081】
粘稠性膜7は、所定の厚みで所定の範囲に形成される。その厚みは、0.01〜0.1mmの範囲内が好ましい。粘稠性膜7が厚くなりすぎると、端子金具5をコネクタへ挿入しにくくなる。粘稠性膜7が薄くなりすぎると、防食性能が低下しやすくなる。
【0082】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0083】
電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。電線導体3を構成する金属素線としては、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料が好ましい。
【0084】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0085】
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0086】
なお、図1に示す端子付き被覆電線1では、電線導体の端末に端子金具が圧着接続されているが、圧着接続に代えて溶接などの他の公知の電気接続方法であってもよい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0088】
(粘稠性物質の調製)
表1、2に示す配合組成(質量部)にて、潤滑油基油とアミド化合物を混合することにより、粘稠性物質を調製した。
・潤滑油基油A:鉱物系基油(動粘度=4.0mm/s(100℃))
・潤滑油基油B:鉱物系基油(動粘度=11.1mm/s(100℃))
・潤滑油基油C:合成油基油(動粘度=100.0mm/s(100℃))
・アミド化合物A:エチレンビスステアリルアミド(融点150℃、分子量592)、日本化成製「スリパックスE」
・アミド化合物B:エチレンビスエルカ酸アミド(融点120℃、分子量700)、日本化成製「スリパックスR」
【0089】
(リン化合物と金属との組成物の調製)
<調製例1> OL−Ca
500mlのフラスコにオレイルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18D」、分子量467(平均)、酸価183mgKOH/g)を50g(酸価0.163mol)とメタノール50mLを加え、50℃で撹拌し、均一溶液とした。そこに、水酸化カルシウム6.04g(0.0815mol)を加えた。懸濁液を室温のまま24時間撹拌し、水酸化カルシウムの沈殿物がなくなったことを確認後、ろ過し、ロータリーエバポレータにて、メタノールと生成水を減圧留去した。次いで、トルエン50mLを加えた後、同様に減圧留去する事で生成水を共沸によって留去し、澄明粘性物である目的物を得た。
【0090】
<調製例2> IS−Ca
オレイルアシッドホスフェイトに代えてイソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)50g(酸価0.159mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムを5.89g(0.0795mol)とした以外は調製例1と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0091】
<調製例3> IS−SA−Ca
500mlのフラスコにイソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)100g(酸価0.317mol)と過塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩(Ca含有量8.0質量%、過塩基性Ca含有量5.5質量%)116g(過塩基性Ca質量6.4g=0.159mol)を入れ、120℃で3時間攪拌した後、室温まで冷却し、褐色粘性物である目的物を得た。
【0092】
(金属表面コーティング用組成物の調製)
各リン化合物と金属との組成物と、粘稠性物質と、造核剤と、をそれぞれ所定の割合(質量部)で160℃の加温下にて混合することにより、金属表面コーティング用組成物を調製した。
・造核剤
タルク:日本タルク製「D−1000」(平均粒径1.0μm)、「SG−95」(平均粒径2.5μm)、「K−1」(平均粒径8.0μm)
カオリン:竹原化学工業製「GlomaxLL」(平均粒径1.5μm)
モンモリロナイト:Sud−Chemie製「SE−3010」(平均粒径0.3μm)
酸化マグネシウム:試薬(平均粒径10μm)
造核剤の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した。
【0093】
<塗布性評価>
アミド化合物の融点(150℃または120℃)に加温して液状とした金属表面コーティング用組成物に銅板を20秒間浸漬した後、5秒かけて引き上げ、常温で10分間放置することにより、銅板に薄膜コーティングした。そのコーティング膜を目視で観察し、膜の均一性を評価した。ひび割れ、シワ、分離による不均化が観察されたものを不良「×」とし、これらのいずれも観察されず均一に膜が形成されているものを良好「○」とした。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
実施例1〜19の金属表面コーティング用組成物は、十分な塗布性を示し、塗布された面は均一であった。これに対し、比較例1〜4の金属表面コーティング用組成物は、造核剤が含まれていないため、塗布後にひび割れが観察され、塗布された面は不均一であった。また、比較例5〜6の金属表面コーティング用組成物は、リン化合物と金属との組成物が含まれていないため、塗布後の冷却による粘稠性物質の体積変化(収縮)によって金属表面で剥離が起こり、塗布面が不均一であった。
【0097】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 端子付き被覆電線
2 被覆電線
3 電線導体
4 絶縁被覆(絶縁体)
5 端子金具
6 電気接続部
7 粘稠性膜
図1
図2