特許第6683600号(P6683600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683600
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】顔料分散樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20200413BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20200413BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20200413BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20200413BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20200413BHJP
【FI】
   C09D17/00
   C09B67/20 L
   C09B67/20 F
   C09D201/00
   C09D7/65
   C09D7/63
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-511618(P2016-511618)
(86)(22)【出願日】2015年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2015059599
(87)【国際公開番号】WO2015152042
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2018年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-73587(P2014-73587)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩越 あや子
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−514862(JP,A)
【文献】 特開2007−039645(JP,A)
【文献】 特開2000−226414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
C09B 67/20
C09D 7/65
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料及び分散用樹脂を含有する顔料分散樹脂組成物であって、
該分散用樹脂は、親水鎖を有する重合体を必須とし、該親水鎖一つ当たりの数平均分子量が1000以上であり、
前記親水鎖は、ポリアルキレングリコール鎖、及び、イオン性官能基を有する単量体単位を含む重合体又は共重合体の少なくとも一方であり、
該顔料分散樹脂組成物は、更に、界面活性剤を含むものであり、
前記界面活性剤は、HLB値が2〜18であり、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物を有することを特徴とする顔料分散樹脂組成物。
【請求項2】
前記親水鎖を有する重合体は、側鎖を有し、該側鎖が親水鎖であることを特徴とする請求項1に記載の顔料分散樹脂組成物。
【請求項3】
前記親水鎖を有する重合体は、該親水鎖一つ当たりの数平均分子量が1200以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の顔料分散樹脂組成物。
【請求項4】
前記親水鎖を有する重合体は、酸価が50mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の顔料分散樹脂組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤は、数平均分子量が150〜5000であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の顔料分散樹脂組成物。
【請求項6】
前記界面活性剤は、HLB値が8〜18であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の顔料分散樹脂組成物。
【請求項7】
前記界面活性剤は、HLB値が10〜18であることを特徴とする請求項に記載の顔料分散樹脂組成物。
【請求項8】
前記顔料分散樹脂組成物は、固形分換算で、顔料100質量%に対して、分散用樹脂が5〜100質量%であり、界面活性剤が0.5〜75質量%であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の顔料分散樹脂組成物。
【請求項9】
前記顔料は、比表面積が15m/g以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の顔料分散樹脂組成物。
【請求項10】
前記顔料分散樹脂組成物は、水性塗料用原色として用いられるものであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の顔料分散樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散樹脂組成物に関する。より詳しくは、自動車塗装等の工業製品製造における工業塗料分野に好適であり、水性塗料用原色として用いられる顔料分散樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料分散樹脂組成物は、各種の塗料を着色、調色するための塗料用原色として用いられ、一般に原色(顔料)ペースト等と呼ばれるものである。特に、工業塗料分野においては、例えば、自動車塗装工程の電着、中塗り、上塗りベース、クリヤー等による積層塗膜を形成する塗装システム等において、顔料分散樹脂組成物によって上塗りベース塗料等を着色することが行われている。自動車の上塗りベース塗料等の性能や品質に影響を与えるため、そのような塗装システム等に適合する優れた顔料分散樹脂組成物の開発が求められている。
ところで、近年、工場等からの揮発性有機化合物(VOC)対策が求められる中、環境対応塗料の一つとして水性塗料の需要が工業塗料分野においても増大している。そのため、顔料分散樹脂組成物としても、水性塗料用原色として適用できるものが広く用いられている。
【0003】
従来の顔料分散樹脂組成物に関して、ビスアセトアセトアリリド顔料(a)、スチレン−アクリル酸系共重合体(b)、塩基性化合物(c)、湿潤剤(d)及び混練助剤(e)を含有する常温で固形の顔料組成物であって、スチレン−アクリル酸系共重合体(b)の酸価が145〜175であり、混練助剤(e)が界面活性剤を含有し、8〜12のHLBを有するものが開示されている(例えば、特許文献1等を参照)。
また顔料、顔料分散剤等、界面活性剤として作用するアセチレン列ジオールエチレンオキシド/プロピレンオキシド付加物を含む組成物が開示されている(例えば、特許文献2等を参照)。
更に、顔料、顔料分散剤等、グリシジルエーテルでキャップされたアセチレンジオールエトキシレートを含有し、水をベースとするコーティング組成物等が開示されている(例えば、特許文献3等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/034043号
【特許文献2】特開2004−339226号公報
【特許文献3】特開2003−238472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記先行技術においては、顔料そのものの分散特性に加えて、経時による粘度上昇等を抑制して貯蔵安定性も向上させることについては開示されていない。
すなわち、塗料分野等における顔料分散においては、通常、分散剤が用いられ、それを用いた顔料分散工程においては、顔料に対する分散剤のぬれ、分散機等による顔料の機械的解砕と再凝集、樹脂組成物中における顔料の安定化といった段階に分けることができる。この中で、顔料の分散特性に関するぬれ性と貯蔵安定性に関する安定化が顔料分散性の優劣を決める重要な要因となるが、上記先行技術においては、樹脂による顔料粒子間の橋架け凝集や発泡特性が課題として認識されていて、当該要因が考慮されていない。
【0006】
ところで、塗料組成物を工業用途に適用する場合、一般的に塗装・硬化工程において焼付硬化が行われることになるが、例えば、自動車塗装においては、製造ラインで量産されるボディーの塗装・硬化工程において、エネルギーコストの削減、いわゆるCO削減のため、高不揮発分化が求められるとともに、工業的に比較的低温で硬化させることができる塗料が求められている。そのように低温で硬化させる場合に従来の顔料分散樹脂組成物を用いると、上塗り塗料等における配合設計の自由度が低下したり、色相や彩度を指標とする外観等の塗膜性能が低下したりすることとなる。これは、分散剤の影響に起因するものであるため、顔料分散樹脂組成物中の分散剤、すなわち樹脂分をより少なくして高顔料含有率(高PWC)化を達成することが求められていた。
そのような中、顔料分散樹脂組成物において高PWC化すると、顔料の分散が困難となり分散性が低下することから、分散粒径が大きくなったり、分散時間が長くなって生産性を低下させたりすることとなり、また貯蔵安定性も低下するといった課題が生じていた。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、良好な顔料分散性を発揮し、特に高顔料含有率(高PWC)化しても分散粒径や分散時間を指標とする分散特性に優れ、しかも良好な貯蔵安定性を確保し、外観等の塗膜性能も良好なものとすることができる顔料分散樹脂組成物を提供することによって、自動車塗装等の工業塗料分野において、上塗りベース塗料等における配合設計の自由度や外観等の塗膜性能の向上に貢献することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、分散剤として機能する樹脂、すなわち分散用樹脂によって顔料を分散させた顔料分散樹脂組成物において、先ず、親水鎖を有する重合体からなる分散用樹脂を用いることが水性塗料用原色において有用であることに着目し、次いで、顔料の分散特性に関するぬれ性と貯蔵安定性に関する安定化に関して検討したところ、ぬれ性を向上させるには表面張力が比較的低い添加剤を用いるのが効果的であること、安定化には分散用樹脂の親水鎖における分子量が影響し、比較的分子量の大きな親水鎖を有する分散用樹脂、特に該親水鎖が重合体の側鎖を構成する分散用樹脂が有効であることを見出した。そして、添加剤一種、又は、分散用樹脂一種だけで顔料分散を行うのではなく、ぬれ性向上に寄与する添加剤(ぬれ剤)と安定性向上に寄与する分散用樹脂(安定化剤)とを併用して顔料分散を行うことにより、分散特性が良好なまま高PWC化を達成することができることを見出した。ぬれ剤は、顔料表面(細孔も含む)に素早く吸着し、顔料の解砕により顔料表面に現れた活性面と相互作用し一時的に再凝集を防止する効果があり、安定化剤は、分散された顔料粒子を覆って安定性を確保する効果を有するものと考えられる。また安定化剤を構成する分散用樹脂の親水鎖分子量については、その下限を特定することによって親水鎖分子量の大きさを特定すると、顔料分散工程において分散時間を短縮し、分散による到達粒径を小さくしつつ貯蔵安定性を確保できることを見出したものである。これによって高PWC化しても分散特性に優れたものとすることができるとの際立った効果を発揮させることが可能となり、上記課題をみごとに解決できることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、顔料及び分散用樹脂を含有する顔料分散樹脂組成物であって、上記分散用樹脂は、親水鎖を有する重合体を必須とし、該親水鎖一つ当たりの数平均分子量が1000以上であり、上記顔料分散樹脂組成物は、更に、界面活性剤を含むものである顔料分散樹脂組成物である。
【0010】
本発明の顔料分散樹脂組成物における構成要素である顔料、分散用樹脂及び界面活性剤について、先ず分散用樹脂及び界面活性剤を詳述し、次いで顔料、顔料分散樹脂組成物の組成及び調製法、適用用途について説明する。
なお、本発明の発明特定事項の説明とともに、本発明の好ましい形態を示すが、本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
また数値範囲で示した事項について、いくつかの好ましい数値範囲がある場合、それらの下限値と上限値とを選択的に組合せて好ましい形態とすることができる。
【0011】
[分散用樹脂]
上記分散用樹脂は、親水鎖を有する重合体を必須とし、該親水鎖一つ当たりの数平均分子量(親水鎖分子量ともいう)が1000以上である。すなわち、親水性部位と疎水性部位とを有する重合体であって、親水性部位である親水性の構成単位(例えば、オキシエチレン基)が連なった親水鎖を有し、該親水鎖一つ当たりの数平均分子量が上記特定値以上となる重合体によって構成される、いわゆる顔料分散剤として用いられる樹脂である。親水性部位と疎水性部位との区分けについては、相対的に親水性である基(好ましくはオキシアルキレン基)を有する単量体単位からなる部位を親水性部位とし、その他の単量体単位からなる部位を疎水性部位とする。
上記親水鎖を有する重合体としては、例えば、主鎖のみによって構成される重合体であれば主鎖に親水鎖を有するもの、主鎖と側鎖によって構成される重合体であれば主鎖及び/又は側鎖に親水鎖を有するものが挙げられる。主鎖に親水鎖を有する場合、主鎖を構成するブロック重合体の一つ又は複数のブロック部位が親水鎖となる。また、側鎖に親水鎖を有する場合、一つの側鎖において、側鎖全体が親水鎖となるか、側鎖がブロック重合体によって構成され、該ブロック重合体の一つ又は複数のブロック部位が親水鎖となる。側鎖全体が親水鎖となるとは、側鎖を構成する単量体単位がすべて親水性である基を有することであり、例えば、後述するポリアルキレングリコール鎖が側鎖の場合、主鎖との結合部位における残基を有するオキシアルキレン基による単量体単位、オキシアルキレン基による単量体単位、及び、末端基を有するオキシアルキレン基による単量体単位から構成されることになり、この場合は側鎖全体が親水鎖となる。
【0012】
これらの中でも、上記親水鎖を有する重合体は、側鎖を有し、該側鎖が親水鎖であることが好ましい。すなわち、主鎖に対して一つ又は複数の側鎖を有し、一つの側鎖を有する場合は該一つの側鎖が親水鎖であり、また、複数の側鎖を有する場合は複数の側鎖のうちの一部又は全部における側鎖が親水鎖であることが好ましい。より好ましくは、側鎖の全部が親水鎖であり、該親水鎖である側鎖一つ当たりの数平均分子量が上記特定値以上となることである。側鎖を有する重合体からなる樹脂を櫛形分散剤とも称し、当該重合体を櫛形重合体(グラフト重合体)とも称する。
上記分散用樹脂は、上記櫛形重合体を主成分として構成されるもの、すなわち固形分換算で上記櫛形重合体を55質量%以上含むものであることが好ましく、その他の重合体等を含んでいてもよいが、より好ましくは、分散用樹脂に含まれるすべての重合体が実質的に上記櫛形重合体であることである。
【0013】
上記重合体の親水鎖一つ当たりの数平均分子量が1000未満であると、分散された顔料粒子に対して充分な安定性を確保することができなくなる。上記親水鎖一つ当たりの数平均分子量の下限に関しては、1200以上が好ましく、1400以上がより好ましく、2000以上が更に好ましい。
このように、上記親水鎖を有する重合体おいて、該親水鎖一つ当たりの数平均分子量が1200以上であるものや、該親水鎖一つ当たりの数平均分子量が1400以上であるものは本発明の好ましい実施形態である。
また上記親水鎖一つ当たりの数平均分子量の上限に関しては、粘度上昇によって分散用樹脂の調製や顔料分散に影響を及ぼすことから、10000以下が好ましく、5000以下がより好ましい。
上記親水鎖一つ当たりの数平均分子量は、重合体を形成する原料の数平均分子量から算出することができる。
【0014】
上記櫛形重合体において、重合体一分子当たりの平均側鎖本数としては、1〜12本であることが好ましい。上記平均側鎖本数が12本を超えると、櫛形重合体の分子量が大きくなり過ぎて、分散用樹脂の調製や顔料分散に影響を及ぼすことになる。上記平均側鎖本数のより好ましい範囲は、1〜5本、更に好ましい範囲は、2〜4本である。これらの本数の側鎖がすべて親水鎖であり、該側鎖分子量が親水鎖一つ当たりの上記数平均分子量の規定を満たすことが好ましい。
なお、櫛形重合体の主鎖における側鎖の位置は特に限定されるものではない。
【0015】
上記親水鎖は、ポリアルキレングリコール鎖(ポリオキシアルキレン鎖)であることが好ましい。したがって、上記櫛形重合体は、ポリアルキレングリコール鎖を側鎖として有する櫛形重合体であることが好ましい。より好ましくは、実質的にすべての親水鎖がポリアルキレングリコール鎖となる形態であり、上記櫛形重合体の場合は、実質的にすべての側鎖がポリアルキレングリコール鎖となる形態である。
本発明における親水鎖を有する重合体の好ましい形態においては、ポリアルキレングリコール鎖の部位が相対的に親水性部位となり、その他の部位がポリアルキレングリコール鎖を含まない疎水性部位となる。また、上記櫛形重合体の好ましい形態においては、相対的に主鎖が疎水性部位となり、側鎖が親水性部位すなわち親水鎖となる。このような場合、水性塗料用原色として用いると、疎水性部位が顔料粒子を覆う作用を奏し、親水性部位が水系媒体と親和して親水鎖の立体障害作用が、効果的に発揮され、分散安定性がより優れたものとなる。側鎖が親水鎖である櫛形重合体の場合は、この立体障害作用がより効果的に発揮されることになる。
【0016】
上記ポリアルキレングリコール鎖としては、炭素数2〜4のオキシアルキレン基によって構成されるものが好ましい。更に好ましくは、オキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基によって構成されるものである。これらは、ランダム、ブロック、交互付加等、いずれの付加形態であってもよい。側鎖がオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基を有する場合、水性塗料用原色として用いる際の分散安定性の観点から、側鎖におけるオキシエチレン基の平均モル数:オキシプロピレン基の平均モル数の比率の好ましい範囲は、100〜50:0〜50であり、より好ましい範囲は90〜55:10〜45であり、更に好ましい範囲は85〜60:15〜40である。
【0017】
またポリアルキレングリコール鎖を側鎖とする場合、主鎖に結合していない側のポリアルキレングリコール鎖の末端部位は、炭素数4以下の炭化水素基であることが好ましい。炭素数が4を超えると、顔料分散樹脂組成物を水性塗料用原色として用いた場合に水系媒体に対する分散性が低下するおそれがある。上記末端部位は、より好ましくは、炭素数3以下のアルキル基、更に好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、最も好ましくは、メチル基である。
【0018】
上記親水鎖としてはまた、イオン性官能基を有する単量体単位を必須として構成される重合体又は共重合体としてもよい。イオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、アミノカルボン酸基等の酸基、これらが中和された基が挙げられる。中でも、カルボキシル基が好ましく、また、主鎖及び/又は側鎖におけるイオン性官能基量を調整することにより、主鎖及び/又は側鎖に親水鎖を形成することができる。
上記親水鎖を有する重合体においては、親水鎖として、ポリアルキレングリコール鎖と、イオン性官能基を有する単量体単位を必須として構成される重合体又は共重合体とを共に有する形態としてもよい。
【0019】
上記分散用樹脂は、酸価が50mgKOH/g以下であることが好ましい。すなわち、分散用樹脂を構成する櫛形重合体(上記親水鎖を有する重合体)は、固形分換算における酸価が上記特定値以下であることが好ましい。これにより、分散用樹脂の顔料分散性をより優れたものとしつつ、顔料分散樹脂組成物を用いた塗料から形成される塗膜を良好な基本性能を発揮し得るものとすることができる。上記酸価の上限に関しては、40mgKOH/g以下がより好ましい。上記酸価の下限に関しては特に限定しないが、2mgKOH/g以上が好ましい。
上記酸価は、重合体の疎水性部位における単量体単位が有する酸基によってもたらされることが好ましい。櫛形重合体である場合は、主鎖が疎水性部位となり、該主鎖における単量体単位が有する酸基によってもたらされることが好ましい。それにより、疎水性部位、好ましくは主鎖が顔料粒子表面に吸着し、顔料同士が凝集しないように安定化させる親水鎖(好ましくは親水鎖である側鎖)の立体障害効果が充分に発揮されることになる。
【0020】
上記重合体の疎水性部位を構成するものとしては、例えば、スチレン−酸系単量体の共重合体、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、(メタ)アクリルアミン系重合体又は共重合体、側鎖にグリシジル基を有する(メタ)アクリル系重合体又は共重合体等が挙げられる。上記櫛形重合体においては、これらの重合体又は共重合体等によって主鎖が構成されることが好ましい。
中でも、疎水性部位が、分散された顔料粒子を覆って安定性を確保する作用を発揮しやすく、また工業的に製造しやすい等の利点から、スチレン−酸系単量体の共重合体が好ましく、例えば、スチレン、無水マレイン酸を必須の単量体成分とするスチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−(メタ)アクリル系単量体の共重合体が好適である。最も好ましくは、スチレン−無水マレイン酸共重合体である。スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−(メタ)アクリル系単量体の共重合体をスチレン−無水マレイン酸系共重合体ともいう。なお、これらの重合体、共重合体においては、必要に応じて他の単量体単位を含んでいてもよい。
【0021】
上記スチレン−無水マレイン酸系共重合体において、スチレン及び無水マレイン酸による単量体単位が主体(実質的にすべて)であることが好ましい。またスチレンと無水マレイン酸とのモル比率については特に限定されるものではなく、上記酸価の好ましい範囲を満たすように適宜調整すればよい。例えば、スチレンのモル数:無水マレイン酸のモル数の比率が90〜10:10〜90であることが好ましい。上記モル比率に関して、より好ましい比率は、70〜30:30〜70、更に好ましい比率は、60〜40:40〜60である。
【0022】
上記親水鎖を有する重合体の疎水性部位の分子量としては、数平均分子量が1000以上、20000以下であることが好ましい。上記疎水性部位の数平均分子量が1000未満であると、疎水性部位が分散された顔料粒子に吸着して安定性を確保する作用が発揮されにくくなり、上記疎水性部位の数平均分子量が20000を超えると、粘度上昇によって分散用樹脂の調製や顔料分散に影響を及ぼすおそれがある。上記疎水性部位の数平均分子量の下限に関しては、1500以上がより好ましい。また上記疎水性部位の数平均分子量の上限に関しては、10000以下がより好ましく、5000以下が更に好ましく、3000以下が特に好ましい。上記櫛形重合体においては、主鎖の分子量が上述した範囲内であることが好ましい。
上記親水鎖を有する重合体における疎水性部位と親水性部位(親水鎖)との割合としては、疎水性部位と親水性部位の機能がそれぞれ有効に発揮されるようにするために、疎水性部位の質量:親水性部位の質量の比率が80〜20:20〜80であることが好ましい。上記比率は、70〜30:30〜70であることがより好ましい。上記櫛形重合体においては、疎水性部位である主鎖と親水性部位(親水鎖)である側鎖との割合が上述した範囲内となればよい。
【0023】
上記親水鎖を有する重合体の調製は、好ましい形態である櫛形重合体の場合、通常用いられるグラフト変性により実施することができ、例えば、好ましい形態として、側鎖をポリアルキレングリコール鎖とする櫛形重合体を調製する場合、主鎖を構成する重合体又は共重合体とポリアルキレングリコール鎖を有する化合物とを反応させてグラフト化すればよい。ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物としては、アルキレンオキシドを付加重合させて得られる化合物の片末端にアルキル基を有する化合物として、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(ポリアルキレンオキシドモノアルキルエーテル)を用いることができ、また、アルキレンオキシドを付加重合させて得られる化合物の片末端にアルキル基を有し、もう一方の片末端にアミノ基を有する化合物として、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアミン(ポリアルキレンオキシドモノアルキルエーテルモノアミン)を用いることができる。例えば、オキシエチレン基及びオキシプロピレン基を有するポリアルキレングリコール鎖の場合、エチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体モノメチルエーテル又はエチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体モノメチルエーテルモノアミンを用いて側鎖を形成することができる。
またブロック重合体の場合、通常用いられるブロック重合により実施することができ、例えば、ポリアルキレングリコール部位を有する鎖状化合物の末端に単量体成分を反応させることによって調製すればよい。
【0024】
本発明においては、主鎖をスチレン−無水マレイン酸系共重合体とし、側鎖をポリアルキレングリコール鎖とする櫛形重合体が好ましい実施形態の一つであり、このような重合体を調製する場合は、スチレン−無水マレイン酸系共重合体とポリアルキレングリコール鎖を有する化合物とを反応させてグラフト化することになる。ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物としては、好ましくは、ポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテル又はポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテルモノアミン、より好ましくは、エチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体モノメチルエーテル又はエチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体モノメチルエーテルモノアミンが挙げられる。
なお、無水マレイン酸単量体単位におけるカルボキシル基が過剰である場合、ブチルセロソルブ等によりカルボキシル基をキャップして反応させることができる。
スチレン−無水マレイン酸系共重合体と、エチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体モノメチルエーテル又はエチレンオキシド・プロピレンオキシド共重合体モノメチルエーテルモノアミンとを用いて調製される櫛形重合体の好ましい実施形態としては、下記単量体単位(1)、(2)及び(3)を有する形態、下記単量体単位(1)及び(3)を有する形態、下記単量体単位(2)及び(3)を有する形態が挙げられる。該実施形態においては、これらの単量体単位がランダム、ブロック又は交互付加した形態のいずれであってもよい。
このような櫛形重合体においては、スチレンによる単量体単位によって疎水性を高めることができ、これにより疎水性が高い顔料との親和性を高めることができる。
【0025】
【化1】
【0026】
上記単量体単位(1)、(2)及び(3)を表す化学式中、Rは、同一又は異なって、炭素数2〜4のアルキレン基を表すことが好ましい。Rは、更に好ましくは、エチレン基又はプロピレン基である。−(RO)n1−、−(RO)n2−で表されるオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基とオキシプロピレン基によって構成される場合、−(CHCHO)n3−と−(CHCHCHO)n4−とがランダム、ブロック又は交互付加した形態となる。
は、同一又は異なって、炭素数4以下の炭化水素基を表すことが好ましい。Rは、より好ましくは、炭素数3以下のアルキル基、更に好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基、最も好ましくは、メチル基である。
は、同一又は異なって、NH又はOを表す。Xは、同一又は異なって、N又はOを表し、XがOのとき当該単量体単位は−(RO)n2−Rで表される基を有しない。
櫛形重合体一分子において、m1、m2、m3、n1、n2、n3、n4は、0以上の整数を表し、上述した主鎖、親水鎖である側鎖の分子量範囲を考慮して適宜設定することが好ましい。
【0027】
上記親水鎖である側鎖一つ当たりの数平均分子量の算出に関して、一つの側鎖の分子量は、主鎖を構成する単量体単位(繰り返し単位)に属する基を除き、一つの側鎖を構成する単量体単位と、側鎖末端にある基との合計分子量となる。側鎖末端にある基としては、主鎖に結合していない片末端部位の基、主鎖に結合した後の片末端部位の残基が挙げられる。
したがって、上記単量体単位(1)及び(2)においては、ポリアルキレングリコール鎖を構成する単量体単位であるオキシアルキレン基の合計分子量と両末端部位の基(片末端部位の基である−R、及び、もう一方の片末端部位の残基である−NH−、−N−又は−O−)との合計分子量が一つの側鎖を構成する分子量となり、これにもとづいて側鎖(親水鎖)一つ当たりの数平均分子量を算出又は測定することになる。
【0028】
上記櫛形重合体の調製において、無水マレイン酸単量体単位にポリアルキレングリコール鎖を有する化合物としてポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテルモノアミンを付加してグラフト化する場合、結合部位において、第2級アミド結合及び/又はイミド結合を生じることになる。この場合、第2級アミド結合とイミド結合の生成割合としては特に限定されず、顔料の分散特性がこの割合と顔料表面特性等によって影響される場合は、顔料表面特性等に応じて適宜調整すればよい。
上記単量体単位(1)及び(2)において、XがNHのときは第2級アミド結合、XがNのときはイミド結合となっている。
【0029】
上記櫛形重合体は、上述のように主鎖に酸系単量体単位を含むものが好ましいが、この場合、顔料表面に応じて中和して使用しても良い。その場合、中和剤として一般的な塩基性化合物を用いることができ、例えば、アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
[界面活性剤]
上記界面活性剤としては、顔料の水系媒体に対する表面張力(動的表面張力)を低下させる作用を有するものが好適である。これによって、顔料の水系媒体に対するぬれ性を向上させ、顔料分散工程において顔料表面に素早く吸着して被覆し、解砕された顔料の再凝集を防止することができる。表面張力を低下させる作用の測定については、例えば、水等の水系媒体に分散用樹脂及び界面活性剤を添加した水系媒体溶液に対し、一定量の顔料を添加し、水系媒体上に浮かんでいる粉状の顔料が水系媒体溶液中に分散してなくなるまでに要する時間を計測することによって行うことができる。分散用樹脂と界面活性剤とを添加した水系媒体溶液の動的表面張力が低いほど上記ぬれに要した時間が短くなるという良い相関関係が認められ、また、分散用樹脂のみを添加した場合と比較して、分散用樹脂と動的表面張力を低下させる界面活性剤とを添加した場合に上記計測時間(ぬれに要した時間)が短くなることから、このような界面活性剤を分散用樹脂と併用すれば、顔料の水系媒体に対するぬれ性を向上させることができる。また動的表面張力が低いほど顔料分散工程における顔料の到達粒径が小さくなり、これによって分散時間の短縮、高PWC化を達成するとの効果を充分に発揮することができる。
上記界面活性剤は、分散用樹脂とともに水系媒体に添加した場合の動的表面張力が10〜50mN/mであることが好ましい。より好ましい動的表面張力の範囲は、25〜45mN/mである。上記動的表面張力は、自動動的表面張力計BP−5(協和界面化学社製)を用いて測定することができる。
【0031】
上記界面活性剤は、HLB値が2〜18であることが好ましい。HLB値は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値として一般的に用いられているものであり、例えば、グリフィンの式によって算出することができる。この場合、20×(界面活性剤における親水性部位の分子量)/(界面活性剤の分子全体の分子量)で定義されている。後述するポリアルキレングリコール鎖(ポリオキシアルキレン基)を有する場合、当該部位が親水性部位となり、それ以外の部位が疎水性部位となる。
上記HLB値が2未満であると、親水性が低下し過ぎて水性塗料用原色として用いる場合の顔料分散性が低下し、また、上記HLB値が18を超えると、親水性が強くなり過ぎて顔料表面への吸着作用が低下するおそれがある。上記HLB値の下限値に関しては、8以上がより好ましく、10以上が更に好ましく、上記HLB値の上限値に関しては、16以下がより好ましく、15以下が更に好ましい。
上記界面活性剤としては、後述する実施例において用いられているように、エアープロダクツ・ジャパン社製の「Enviro Gem 2010」、「Surfinol CT−111」、「Surfinol CT−121」、「Surfinol CT−131」、「Surfinol CT−211」、「Surfinol CT−221」、「Surfinol CT−231」、「Surfinol 420」、「Surfinol 440」、「Surfinol 465」;アデカ社製の「ADEKANOL L−61」、「ADEKANOL L−64」;第一工業製薬社製の「ノイゲンXL−40」、「ノイゲンXL−60」、「ノイゲンXL−80」、「ノイゲンXL−400D」;日本乳化剤社製の「Newcol N704」、「Newcol N710」、「Newcol N714」、「Newcol N740」等の市販品を用いることができる。
【0032】
上記界面活性剤としてはまた、数平均分子量が150〜5000であることが好ましい。数平均分子量がこの範囲を外れると、界面活性剤の顔料表面への吸着作用が効果的に発揮されないおそれがある。上記界面活性剤の数平均分子量は、300〜3500がより好ましく、400〜2500が更に好ましい。
本発明においては、上記界面活性剤として、単独の化合物を用いてもよく複数の化合物を混合して用いてもよい。複数の化合物を併用する場合、上記HLB値は、界面活性剤に含まれる各化合物のHLB値の加重平均となり、上記数平均分子量は、界面活性剤に含まれる各化合物の数平均分子量が上記好ましい範囲となることが好ましい。
【0033】
更に、上記界面活性剤の好ましい形態としては、ノニオン型界面活性剤であり、特に、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物を必須とする形態が好ましく、それとともに、アセチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及び、フェノールエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種を含有してもよい。上記界面活性剤の好ましい実施形態としてはまた、アセチレングリコール及び/又はアセチレングリコールエチレンオキサイド付加物と、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びフェノールエチレンオキサイド付加物とを含有する形態、アセチレングリコール及び/又はアセチレングリコールエチレンオキサイド付加物と、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はフェノールエチレンオキサイド付加物とを含有する形態である。
【0034】
また上記界面活性剤の好ましい形態において、アセチレングリコールを用いる場合、アセチレングリコールとともに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はフェノールエチレンオキサイド付加物を併用することが好ましい。より好ましくは、アセチレングリコールとともに、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することである。
これらにより、顔料の水系媒体に対する表面張力を低下させる作用を効果的に発揮させることができる。
なお、上記化合物において、エチレンオキサイド部位の一部がプロピレンオキサイド等の他のアルキレンオキサイドに置き換わっていてもよい。
【0035】
上記界面活性剤を構成する化合物を好ましい化学式で表すと、次のようになる。
上記アセチレングリコールは、下記化学式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0036】
【化2】
【0037】
式中、R、R、R、Rは、同一又は異なって、炭素数が1〜10の直鎖又は分岐の炭化水素基、好ましくは、炭素数が1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。
【0038】
上記アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物は、下記化学式(5)で表される化合物であることが好ましい。
【0039】
【化3】
【0040】
式中、R、R、R、R10は、同一又は異なって、炭素数が1〜10の直鎖又は分岐の炭化水素基、好ましくは、炭素数が1〜8の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。n5及びn6は、同一又は異なって、0〜20の整数を表し、同時に0を表すものではなく、好ましくは、1〜20の整数を表す。
【0041】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、下記化学式(6)又は(7)で表される化合物であることが好ましい。
【0042】
【化4】
【0043】
式中、x、yは、x+yが9〜14の整数を表し、いずれかが0であってもよい。n7は、2〜20の整数を表す。
【0044】
【化5】
【0045】
式中、zは、9〜14の整数を表す。n7は、上記と同様である。
【0046】
上記フェノールアルキレンオキサイド付加物は、下記化学式(8)で表される化合物であることが好ましい。
【0047】
【化6】
【0048】
式中、R11は、炭素数が7〜11の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。n8は、1〜30の整数を表す。
【0049】
上記アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物における化学式(5)においては、R、R、R、R10で表されるアルキル基の主鎖となる炭素数が1〜8であることが好ましく、より好ましくは、1〜6、更に好ましくは、1〜4である。また、R及びRがメチル基であって、R及びR10が同一又は異なってメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基及びイソブチル基からなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。より好ましくは、R及びRがメチル基であって、R及びR10がイソブチル基の場合である。n5及びn6としては、n5+n6の値が30以下であることが好ましい。
【0050】
上記アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物のより好ましい形態は、下記化学式(9)で表される化合物である。
【0051】
【化7】
【0052】
式中、n5及びn6は、上記と同様である。
【0053】
上記界面活性剤としてはまた、その化学構造において、シングル型化合物、ジェミニ型化合物等に類別することができ、中でも、ジェミニ型化合物を含むことが好ましい。シングル型化合物とは、界面活性剤おいて一つの分子中に一つ又は複数の親水性部位と一つの疎水性部位を有する化合物であり、好ましくは、一つの分子中に一つの親水性部位と一つの疎水性部位を有する化合物である。例えば、親水性部位であるポリオキシエチレン基に疎水性部位である直鎖のアルキル基が結合した直鎖状の形態である上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルのより好ましい形態の化学式(7)で表される化合物は、シングル型化合物に類別されることになる。
【0054】
これに対して、ジェミニ型とは、界面活性剤を構成し得る複数の分子が結合部位を介して結合した構造を有する化合物であり、好ましくは、界面活性剤を構成し得る二つの分子がアセチレン基を介して結合した構造を有する化合物である。より好ましくは、親水性部位がポリオキシアルキレン基(好ましくはポリオキシエチレン基)であって、アセチレン基を介して結合した構造を有するジェミニ型化合物であり、これをアセチレングリコール型化合物ともいう。例えば、親水性部位であるポリオキシエチレン基に疎水性部位である分岐鎖のアルキル基が結合した二つの部位が、結合部位であるアセチレン基を介して結合した形態である上記アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物のより好ましい形態の化学式(9)で表される化合物は、ジェミニ型化合物(アセチレングリコール型化合物)に類別されることになる。
【0055】
上記ジェミニ型化合物は、その化学構造からシングル型化合物等に比べ、疎水性部位が素早く顔料表面と相互作用して吸着しやすく、また、顔料表面に対して吸着部位となる疎水性部位がシングル型化合物等の吸着部位に比べて嵩高く、顔料表面に対する界面活性剤分子の吸着有効面積が大きくなる等のことが考察され、そのようなことから顔料表面に対するぬれに必要な量が少なくて済むとの利点を有する。
本発明における界面活性剤の好ましい実施形態としては、上記ジェミニ型化合物を用いる形態、より好ましくは、上記アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物として上記ジェミニ型化合物を用いる形態である。
上記界面活性剤の好ましい実施形態としてはまた、上記した好ましい化合物が主体となるように調製されたもの、より好ましくは、実質的にすべての有効成分が上記した好ましい化合物によって構成されるように調製されたものである。
【0056】
[顔料]
上記顔料としては、本発明の顔料分散樹脂組成物が用いられる塗料を着色等するために用いられるものであれば特に限定されず、例えば、比表面積が15m/g以上であることが好ましい。このような顔料は、従来の分散用樹脂では高PWC化を達成しにくいものであり、これに本発明を適用すれば、顔料分散工程において顔料の到達粒径を小さくし、また、貯蔵安定性を向上するとの本発明の作用効果が際立って発揮されることになる。上記比表面積の下限値に関しては、20m/g以上がより好ましく、50m/g以上が更に好ましく、上記比表面積の上限値に関しては、600m/g以下がより好ましい。
上記顔料の比表面積は、顔料1g当たりの全表面積(m/g)と定義されていて、顔料製造会社によって報告されている。またBET法により窒素ガスの吸着量を測定して算出することができる。BET法における測定条件については、通常、塗料用顔料の比表面積を測定する際に用いられる条件とすればよい。
【0057】
上記顔料の種類としては、有機系、無機系の各種着色顔料、体質顔料が挙げられる。有機系着色顔料としては、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジコ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等、無機系の着色顔料としては、カーボンブラック、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン等、体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等が挙げられる。その他、光輝性顔料等を用いてもよい。これらは1種で用いても2種以上併用してもよい。
中でも、本発明においては、従来の分散用樹脂では高PWC化を達成することが困難であったカーボンブラック、フタロシアニン系顔料(特にフタロシアニンブルー)に好適に適用できる。
【0058】
[顔料分散樹脂組成物]
上記顔料分散樹脂組成物の配合組成としては、顔料の比表面積が大きくなるほどPWCが小さく設定されることになるが、本発明においては、いずれの比表面積であっても従来よりもPWCを高く設定することができる。比表面積が300m/g以上の顔料(例えば、カーボンブラック)を用いる場合、PWCとしては、好ましくは、30〜80%、より好ましくは、35〜65%とすることができ、比表面積が50m/g以上、300m/g未満の顔料(例えば、フタロシアニンブルー)を用いる場合、PWCとしては、好ましくは、40〜90%、より好ましくは、50〜85%とすることができる。
【0059】
上記配合組成としてはまた、顔料100質量%に対して、分散用樹脂が5〜100質量%であり、界面活性剤が0.5〜75質量%であることが好ましい。これらは、固形分換算した値である。分散用樹脂割合が上記範囲を外れると、分散用樹脂による顔料分散作用が充分に機能しないおそれがある。界面活性剤割合が0.5質量%未満であると、顔料のぬれ性向上作用が充分に発揮されないおそれがあり、また、75質量%を超えると、界面活性剤成分が多くなり過ぎて分散用樹脂の作用が損なわれるおそれがなる。
上記分散用樹脂割合の下限に関しては、15質量%以上がより好ましく、上限に関しては、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましい。また、上記界面活性剤割合の下限に関しては、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、上限に関しては、35質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
【0060】
上記顔料分散樹脂組成物においては、水性塗料用原色として用いられる場合、水や水溶性溶剤等の水系媒体を用いることが好ましい。顔料、分散用樹脂、界面活性剤及び水系媒体を含む顔料分散樹脂組成物は、本発明の好ましい実施形態の一つである。この場合、上記顔料分散樹脂組成物の不揮発分としては、該組成物の全質量を100質量%とすると、20〜50質量%とすることが塗料原色ペーストとしての使用に適し好ましい。また必要に応じて、消泡剤、表面調整剤、防腐剤、防錆剤、可塑剤等の添加剤を用いてもよい。
【0061】
本発明の顔料分散樹脂組成物の製造方法については、顔料を分散用樹脂及び界面活性剤によって分散する工程を含むことになる。分散工程で用いる分散機、分散条件は、顔料の比表面積、種類等によって適宜設定すればよい。分散機としては、サンドグラインドミル(SGミル)、ボールミル、ビーズミル、スパイクミル、パールミル、ダイノミル、ロールミル、エクストルーダー、ペイントシェーカー、ニーダー等が挙げられる。中でも、サンドグラインドミル等のメディア式分散機を用いることが好ましい。メディアとしては、ジルコンビーズ、ジルコニアビーズ、ソーダー石灰ガラスビーズ、無アルカリビーズ、アルミナビーズ、シリコンビーズ等が挙げられる。メディア粒径としては、顔料分散における通常の範囲内で設定すればよく、例えば、平均粒径としては、0.03〜5mmが好ましく、0.05〜2mmがより好ましい。メディアの平均粒径は、市販の粒子径分布測定装置によって、メジアン径(D50粒子径)を測定することにより算出できる。
本発明においては、上記分散工程において、メディア式分散機を用いて分散する形態、特に、サンドグラインドミルを用いて分散する形態が好ましい。これによって、比表面積が大きな顔料に対しても、良好な顔料分散特性を保ったまま高PWC化を達成することが容易となる。
【0062】
[適用用途]
本発明の顔料分散樹脂組成物は、各種着色塗料の原色ペーストとして用いることができ、特に、水性塗料用原色として用いられるものであることが好適である。水性塗料としては、例えば、自動車車体、自動車部品、産業機械、建設機械、その他の工業製品等に用いられる工業塗料分野に適用されるものが好適である。
【0063】
上記顔料分散樹脂組成物の好ましい実施形態としては、中でも、自動車用塗料(好ましくは自動車ボディー用塗料)として用いる水性塗料の原色ペーストとして用いることが好ましい。上記顔料分散樹脂組成物は、より好ましくは、積層塗膜を形成する自動車用等の塗装システムにおいて、中塗り塗料、上塗りベース塗料用原色ペーストとして適用され、更に好ましくは、上塗りベース塗料用原色ペーストとして適用される。
【0064】
上記顔料分散樹脂組成物が適用される水性塗料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂等の樹脂成分とメラミン樹脂、ブロックイソシアネート等の硬化剤成分等を含むエマルション、ディスパージョン等が用いられる。
上記顔料分散樹脂組成物が適用される水性塗料においては、例えば、上記顔料分散樹脂組成物を10〜100質量部とし、それに対して水性塗料の樹脂成分を10〜500質量部、硬化剤成分を1〜50質量部、水系媒体を10〜500質量部とすればよい。本発明によって顔料分散樹脂組成物の高PWC化を達成すれば、顔料分散樹脂組成物の水性塗料に対する配合量を低減することが可能となる。
【0065】
本発明の顔料分散樹脂組成物を水性塗料用原色として用いると、水性塗料であることにより環境対応型塗料となり、また、本発明によって水性塗料用原色を高PWC化すれば、水性塗料における塗料配合設計の自由度を高め、原料ペーストによる外観低下等の塗膜性能の低下を抑制することが可能となる。更に、顔料分散樹脂組成物の貯蔵安定性向上によって、良好な性能、品質を有する工業製品等を安定的に生産することが可能となる。
【発明の効果】
【0066】
本発明の顔料分散樹脂組成物は、上述の構成よりなり、ぬれ性向上に寄与する界面活性剤(ぬれ剤)と安定性向上に寄与する分散用樹脂(安定化剤)とを併用して顔料分散を行うものであることから、良好な顔料分散性を発揮し、特に高顔料含有率(高PWC)化しても分散粒径や分散時間を指標とする分散特性に優れ、しかも良好な貯蔵安定性を確保し、外観等の塗膜性能も良好なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0068】
<到達粒径の測定>
分散後に得られた顔料分散樹脂組成物をホウ酸塩水溶液によって希釈し、日機装社製の粒子径分布測定装置(Microtrack UPA 150−EX)を用いて、メジアン径(D50粒子径)を測定した。
【0069】
<粘度の測定>
東機産業社製の粘度計(TV−22型 E型粘度計)を用いて測定した。測定条件は、50rpm×3minとし、コーン・ロータとして標準装備の1°34’×R24を用いた。
【0070】
<実施例1、2及び比較例1、2>
下記表1に示すように、側鎖の全部が親水鎖である各種分散用樹脂、界面活性剤(エアープロダクツ・ジャパン社製、Enviro Gem 2010、HLB値13〜14)、脱イオン水及び消泡剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK−011)を所定の割合で混合し、それに青色顔料(山陽色素社製、Cyanine Blue G−314、比表面積64m/g)を添加した。顔料の配合量は、分散用樹脂の有効成分の配合量が顔料の配合量に対して40%となるように調整した。ペイントシェーカーを用いて分散し、実施例1、2及び比較例1、2に係る顔料分散樹脂組成物(原色ペースト)を得た。
得られた顔料分散樹脂組成物それぞれについて、分散終了直後に到達粒径及び粘度を測定し、40℃×10日間保管後に、再び粘度を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
上記表1に示した試験結果から以下のことが分かる。
親水性の側鎖を有する分散用樹脂における側鎖一つ当たりの数平均分子量(側鎖分子量)が1400(実施例2、比較例2)のときには、分散直後(初期)及び40℃×10日間保管後のいずれにおいても粘度が低かった。側鎖分子量が1000(実施例1)のときには、分散直後(初期)の粘度が低かったものの、40℃×10日間保管後に粘度が上昇した。一方、側鎖分子量が400であった比較例1では、初期粘度が高く、しかも40℃×10日間保管後の粘度が顕著に上昇し、100mPa・sを大幅に超えた。以上の結果から、側鎖分子量を1400とすることによって極めて良好な貯蔵安定性を得ることができることが分かった。また、側鎖分子量が1000の場合には、側鎖分子量が1400の場合に比べて貯蔵安定性に劣るものの、側鎖分子量が400の場合と比べると貯蔵安定性の向上効果が見られた。
また、界面活性剤が用いられた実施例1、2では、150nm程度まで到達粒径を小さくすることができ、界面活性剤が用いられなかった比較例2では、到達粒径が200nmを超えていた。この結果から、界面活性剤を用いることによって、分散特性を向上できることが分かる。
【0073】
<実施例3〜8>
下記表2に示すように、界面活性剤の種類(HLB値)、及び、各成分の配合量を変更したこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3〜8に係る顔料分散樹脂組成物(原色ペースト)を得た。
得られた顔料分散樹脂組成物それぞれについて、分散終了直後に到達粒径を測定した。その結果を下記表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
上記表2に示した試験結果から、界面活性剤のHLB値と到達粒径との相関が分かった。すなわち、HLB値が15以下のときには、HLB値が大きいほど到達粒径を小さくなる傾向があるが、HLB値が15を超えると、到達粒径が急激に大きくなることが分かった。
【0076】
<比較例3>
下記表3に示すように、分散用樹脂の種類を変更したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例3に係る顔料分散樹脂組成物(原色ペースト)を得た。なお、比較例3で用いた分散用樹脂は、数平均分子量が1000以上の親水鎖を含まないものであった。
実施例2及び比較例3の顔料分散樹脂組成物それぞれについて、分散終了直後の到達粒径を測定し、40℃×10日間保管後に、再び粒径を測定した。その結果を下記表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
上記表3に示した試験結果から、酸価が比較的大きい分散用樹脂を用いた場合には、到達粒径が経時的に大きくなり、貯蔵安定性が低下することが分かった。
【0079】
<実施例9及び比較例4>
下記表4に示すように、各種分散用樹脂、界面活性剤(エアープロダクツ・ジャパン社製、Enviro Gem 2010、HLB値13〜14)、脱イオン水及び消泡剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK−011)を所定の割合で混合し、それに赤色顔料(大日精化工業株式会社製、Daipyroxide TM Red 8270、比表面積110m/g)を添加した。ペイントシェーカーを用いて分散し、実施例9及び比較例4に係る顔料分散樹脂組成物(原色ペースト)を得た。
得られた顔料分散樹脂組成物それぞれについて、分散終了直後に到達粒径を測定した。その結果を下記表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
上記表4に示した試験結果から以下のことが分かる。
界面活性剤が用いられた実施例9では、界面活性剤が用いられなかった比較例4よりも到達粒径が小さくなった。この結果から、界面活性剤を用いることによって、分散特性を向上できることが分かった。
【0082】
以上の実施例、比較例から、顔料分散樹脂組成物において使用する分散用樹脂の親水鎖一つ当たりの数平均分子量を特定しつつ、界面活性剤を用いることによって、従来よりも分散粒径を指標とする分散特性を向上させることが可能となり、しかも貯蔵安定性に優れたものとなるとの本発明の有利な効果が立証され、また、本明細書に記載された本発明の構成によって奏される作用機構を合わせて考えれば、本発明の技術的意義が充分に裏付けられたものといえる。