【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRを有するポリペプチドP10が、(薬物耐性)グラム陽性(例えば黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))およびグラム陰性(例えば緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa))菌に対して、および真菌、例えばカンジダ アルビカンス(Candida albicans)およびクロコウジカビ(Aspergillus niger)に対してin vitroで高度に有効であることを見出した。
図2Aおよび2Bに示すとおり、P10は、検査したいずれの他のペプチドよりも相当に有効である。加えてP10は、プラスチック表面上に加えて生体(創傷3次元ヒト皮膚モデル)表面上でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)バイオフィルム形成を妨害できる。さらにP10は、内毒素リポテイコ酸(LTA)、ペプチドグリカン(PG)およびリポ多糖類(LPS)を中和し、それにより炎症誘発性応答を低減する。P10は、ヘリックスの一方に極性アミノ酸および反対の側に親油性アミノ酸が位置付けられた両親媒性構造を生じるα−ヘリックスの形をとる。プロリン置換がヘリックスを壊すように導入されたペプチドは不活性であり、ポリペプチドの両親媒性の性質がその生物学的活性のために重要であることを示していた。
図2〜5から明らかであるとおりP10は、臨床試験が実施されたOP−145(P60.4Ac)よりもさらに相当強力であることが見出された。
図2Bに示し、実施例に詳述するとおり、P10は、P60.4AcのIC90(0.75μM)よりもさらに低いIC99.9(0.59μM)を有する。したがって、P10は、0.59μMの濃度で細菌1000個の内999個を死滅させるが、一方でP60.4Acは、同様のわずかに高い濃度でも、細菌1000個の内900個しか死滅させない。したがって同様の濃度ではP10での処置と比較してP60.4Acでの処置後では100倍多い細菌が生存する。さらに、細菌、真菌、ウイルスおよび寄生虫を含む多種多様な微生物に対して活性であるように、P10は広い活性スペクトルを有する。
【0017】
バイオフィルム感染に対する本発明の抗菌性ペプチドの固有の効果は、以下の3つ:1)バイオフィルム形成を妨害し、存在するバイオフィルムを消失させること、2)放出部位およびその周辺で細菌、真菌または他の微生物を死滅させること、および3)リポテイコ酸(LTA)、ペプチドグリカン(PG)およびリポ多糖類(LPS)などの炎症促進性微生物内毒素を中和し、それらの食作用および殺菌活性を増強するためにマクロファージを活性化することによって免疫応答を統合すること、からなる。この免疫制御は、インプラント周辺の組織が病原体についての新規ニッチになることを妨害するために必要である。本発明のポリペプチドは、従来の抗生物質に耐性であるものを含む幅広い微生物に対して活性である。
【0018】
さらにi)1つまたはすべてのアミノ酸がそのD−アミノ酸によって置き換えられているP10バリアント(表2)、ii)ペプチドがアセチル、アミド、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO、ヘキサノイル、デカノイル、ミリストイル、プロピノイル、1つまたは2つのアミノ−ヘキサノイル基を含むさまざまな基でC末端のN末端で伸長されているP−10バリアント、iii)1つのアミノ酸が他のL−アミノ酸によって置き換えられているP−10バリアント、およびiv)実施例において実証されたとおりP10のものに匹敵する抗菌活性を有する短いP−10バリアント(表2、3、5および6を参照されたい)が見出された。
【0019】
したがって本発明によるポリペプチドは、バイオフィルム中に存在するか否かにかかわらず、内毒素中和活性、高い選択性すなわち高い抗菌活性、許容可能な低い細胞傷害性および免疫増強活性によって証明されるとおり最適な抗炎症(微生物性化合物の中和)活性を伴って微生物に対する高い抗菌活性を有する。
【0020】
したがって本発明は、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは前記アミノ酸配列のバリアントを含む単離されたまたは組換えポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが、抗菌、抗バクテリア、抗ウイルス、抗真菌、駆虫および/または抗炎症活性を有し、
前記バリアントが、少なくとも16アミノ酸を有し、さらに:
− 次のアミノ酸置換:
・L、I、VまたはAの群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記群から選択される別のアミノ酸による置換、
・R、KまたはHの群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記群から選択される別のアミノ酸による置換、
・EのQによる置換
・YまたはWのFによる置換
・Q、N、A、SまたはTの群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記群から選択される別のアミノ酸による置換
の5つまでを有し
− 対応するD−アミノ酸によるアミノ酸の1つまたは複数の置換を有し、
− 対応する非天然アミノ酸によるアミノ酸の1つまたは複数の置換を有する、および/または
− 前記アミノ酸配列由来の少なくとも16個の連続するアミノ酸のレトロインベルソ(retro−inverso)配列を有する、
単離されたまたは組換えポリペプチドを提供する。
【0021】
本明細書に定義のアミノ酸配列またはバリアントでは、アミノ酸は一文字表記によって記される。これらの一文字表記および三文字表記は、当業者に十分周知であり、次の意味を有する:A(Ala)はアラニンであり、C(Cys)はシステインであり、D(Asp)はアスパラギン酸であり、E(Glu)はグルタミン酸であり、F(Phe)はフェニルアラニンであり、G(Gly)はグリシンであり、H(His)はヒスチジンであり、I(Ile)はイソロイシンであり、K(Lys)はリジンであり、L(Leu)はロイシンであり、M(Met)はメチオニンであり、N(Asn)はアスパラギンであり、P(Pro)はプロリンであり、Q(Gln)はグルタミンであり、R(Arg)はアルギニンであり、S(Ser)はセリンであり、T(Thr)はスレオニンであり、V(Val)はバリンであり、W(Trp)はトリプトファンであり、Y(Tyr)はチロシンである。
【0022】
本発明のポリペプチドは抗菌活性、好ましくは抗バクテリア、抗ウイルスおよび/または抗真菌活性、より好ましくは抗バクテリアおよび/または抗真菌活性を有する。さらに本発明のポリペプチドは、好ましくは抗菌および抗炎症活性の両方を有する。本明細書において使用される用語ポリペプチドの「抗菌活性」は、少なくとも1つの微生物、例えばバクテリア、ウイルスおよび/または真菌の成長または増殖を妨げることを指し、成長または増殖の抑制、低減または妨害および微生物を死滅させることを含む。微生物は、微細な、すなわち通常ヒト裸眼で見るためには小さすぎる生物である。微生物は非常に多様であり、細菌、ウイルス、真菌、古細菌、原虫および微細藻類を含む。同様に本明細書において使用される用語「抗バクテリア活性」、「抗ウイルス活性」、「抗真菌活性」および「駆虫活性」は、それぞれバクテリア、ウイルス、真菌および寄生虫の成長または増殖を妨げることを指し、一般に成長または増殖の抑制、低減または妨害およびそれらを死滅させることを含む。抗菌、抗バクテリア、抗ウイルス、抗真菌および駆虫活性は、当技術分野において周知の方法によって測定できる。
【0023】
そのような方法の1つは、本出願の実施例において詳述されており、in vitro死滅アッセイを含む。この方法では微生物、例えば細菌または真菌は、さまざまな濃度の本発明によるポリペプチドと共に例えば1〜2時間インキュベートされ、その後微生物−ポリペプチド混合物は、ポリペプチドとインキュベートされておらず、同じ方法でさらに処理された微生物の試料と比較した生存しているおよび/または死滅された微生物の数を確立するために好適な培養培地中または上でインキュベートされた。
【0024】
ウイルスプラークアッセイは、本発明のポリペプチドの抗ウイルス活性を評価するために使用できる。簡潔にはウイルス接種物は、許容状態の細胞単層の感染の前にポリペプチドに曝露される。標準的時間間隔後に細胞抽出物中のウイルス力価は、これらの抽出物の複数回希釈を使用し、新鮮細胞単層に感染させ、細胞単層へのそれらの効果を定量することによって決定される。
【0025】
駆虫活性の評価のために、本発明のポリペプチドおよび寄生虫は、標準的時間間隔でインキュベートされる。その後、寄生虫の代謝活性を例えばMTTアッセイによって直接分析してもよいし、または寄生虫を哺乳動物細胞に移して、インキュベーション後にこれらの細胞における寄生虫の繁殖を顕微鏡によって評価する。
【0026】
本明細書において使用されるポリペプチドの「抗炎症活性」という用語は、微生物、例えば細菌、ウイルス、真菌および/または寄生虫に感染した対象における炎症性応答を抑制、低減または妨害することを指す。本発明のポリペプチドの抗炎症活性は、リポテイコ酸(LTA)、ペプチドグリカン(PG)および/またはリポ多糖類(LPS)などの炎症促進性微生物化合物の放出を抑制、低減または妨害することによって達成される。抗炎症活性は、当技術分野において周知の方法によって測定できる。そのような方法の一例は、リポ多糖類中和アッセイである。この方法では本発明のポリペプチドは、リポ多糖類1mgと混合され、60分間インキュベートされる。その後これらの混合物は、4回希釈新鮮ヒト血液に加えられ、その18時間後にELISAによって血液試料中のサイトカイン(1L−8、1L−12p40)のレベルが測定される。
【0027】
本明細書において使用されるアミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRのバリアントは、少なくとも16アミノ酸の長さを有し、好ましくは次のアミノ酸置換:
− L、I、VまたはAの群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記群から選択される別のアミノ酸による置換、
− R、KまたはHの群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記群から選択される別のアミノ酸による置換、
− EのQによる置換
− YまたはWのFによる置換
− Q、N、A、SまたはTの群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記群から選択される別のアミノ酸による置換、
− 1つまたは複数のアミノ酸の対応するD−アミノ酸による置換、
− 1つまたは複数のアミノ酸の対応する非天然アミノ酸による置換
の5つまでを有する。前記バリアントは、L−アミノ酸の前記置換の1、2、3、4または5つの別のL−アミノ酸による、および/またはL−アミノ酸のその対応するD−アミノ酸による置換を有する場合がある。代替的に、前記バリアントの少なくとも16個すべてのL−アミノ酸はその対応するD−アミノ酸によって置換される。
【0028】
好ましくは、前記バリアントは、次のアミノ酸置換:
− アミノ酸位置1のLのI、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置2のAのL、V、QまたはIによる置換
− アミノ酸位置3のRのKまたはHによる置換
− アミノ酸位置4のEのQによる置換
− アミノ酸位置5のYのFまたはWによる置換
− アミノ酸位置6のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置7のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置8のIのL、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置9のVのL、IまたはAによる置換
− アミノ酸位置10のEのQによる置換
− アミノ酸位置11のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置12のLのI、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置13のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置14のRのKまたはHによる置換
− アミノ酸位置15のWのFまたはYによる置換
− アミノ酸位置17のRのHまたはKによる置換
− アミノ酸位置18のQのN、A、SまたはTによる置換
− アミノ酸位置19のVのL、IまたはAによる置換
− アミノ酸位置20のLのI、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置21のRのKまたはHによる置換
− アミノ酸位置22のTのQ、NまたはAによる置換
− アミノ酸位置24のRのHまたはKによる置換
− アミノ酸1から5の対応するD−アミノ酸による置換
のうち5つまでを有する。本明細書においてアミノ酸の番号付けは以下のとおりである:L
1A
2R
3E
4Y
5K
6K
7I
8V
9E
10K
11L
12K
13R
14W
15L
16R
17Q
18V
19L
20R
21T
22L
23R
24。
【0029】
好ましくは本明細書に定義のバリアントは、前記置換の1、2、3、4または5つなどの4つまでの前記アミノ酸置換、より好ましくは3つまでの前記アミノ酸置換を有する。さらに本明細書に定義のバリアントは、前記アミノ酸置換の5つまで、より好ましくは4つまで、最も好ましくは3つまでを有するアミノ酸配列YKKIVEKLKRWLRQVLを少なくとも好ましくは含む。
【0030】
前記バリアントにおけるLアミノ酸の別のLアミノ酸による5つまでのアミノ酸置換は、好ましくは次のとおりである:
− アミノ酸位置1のLのI、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置2のAのL、VまたはQによる置換
− アミノ酸位置3のRのKまたはHによる置換
− アミノ酸位置4のEのQによる置換
− アミノ酸位置5のYのFによる置換
− アミノ酸位置6のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置7のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置11のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置12のLのI、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置13のKのHによる置換
− アミノ酸位置14のRのKまたはHによる置換
− アミノ酸位置15のWのFによる置換
− アミノ酸位置17のRのHによる置換
− アミノ酸位置18のQのN、A、SまたはTによる置換
− アミノ酸位置19のVのLによる置換
− アミノ酸位置20のLのI、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置21のRのKまたはHによる置換
− アミノ酸位置22のTのQ、NまたはAによる置換
− アミノ酸位置24のRのHによる置換
【0031】
別の好ましい実施形態では本発明によるポリペプチドは、
LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
IAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
VAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
AAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LLREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LVREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LQREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LAKEYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LAHEYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LARQYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LAREFKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LAREYRKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LAREYHKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LAREYKRIVEKLKRWLRQVLRTLR
LAREYKKIVEKLKKWLRQVLRTLR
LAREYKKIVEKLKRFLRQVLRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLHQVLRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRNVLRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRAVLRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRSVLRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRTVLRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQLLRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVIRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVVRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVARTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVLKTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVLHTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRQLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRNLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRALR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLH
REYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRT
REYKKIVEKLKRWLRQVLRT
YKKIVEKLKRWLRQVLRTLR
LAREYKKIVEKLKRWLRQVL
EYKKIVEKLKRWLRQVLR
YKKIVEKLKRWLRQVL,
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、任意選択でN末端および/またはC末端修飾を有し、好ましくはNおよび/またはC末端伸長基を含み、前記N末端修飾は、好ましくはアセチル−、ヘキサノイル−、デカノイル−、ミリストイル−、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−およびプロピノイル残基からなる群から選択され、前記C末端修飾は好ましくはアミド−、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−アミド−および1つまたは2つのアミノ−ヘキサノイル基からなる群から選択される。一実施形態では本発明によるポリペプチドは、前記アミノ酸配列の1つからなる。
【0032】
上述した別のアミノ酸によるアミノ酸の5つまでの置換の代わりに、またはそれに加えて、本明細書で定義されたアミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRのバリアントは、1つまたは複数のL−アミノ酸のその対応するD−アミノ酸による置換を含有していてもよい。アラニンに対するAなどの大文字一文字表記によって本明細書で示されるアミノ酸は、天然に存在するタンパク質中に一般に見出されるこれらのL−アミノ酸である。実施例(表2)において実証するとおり、L−アミノ酸がその対応するD−アミノ酸で置換されたポリペプチドは、それらの抗菌活性を保持している。したがって本明細書で定義されたアミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRのバリアントは、1つまたは複数のアミノ酸の対応するD−アミノ酸による置換を含有していてもよい。本明細書において使用される「対応するD−アミノ酸」は、L−アミノ酸のD−アミノ酸対応物として定義される。例えばアラニン(A)の対応するD−アミノ酸はD−アラニン(a)であり、アルギニン(R)の対応するD−アミノ酸はD−アルギニン(r)であり、アスパラギン(N)の対応するD−アミノ酸はD−アスパラギン(n)などである。本明細書で定義されたバリアントのすべてのL−アミノ酸が、それらの対応するD−アミノ酸によって置換されていてもよい。本明細書で定義されたアミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRのバリアントは、L−アミノ酸のその対応するD−アミノ酸による24個までの置換を含有していてもよい。そのようなアミノ酸バリアントを含むポリペプチドにおいて抗菌活性が保持されることから、バリアントは、完全にD−アミノ酸からなるものでもよい。例えばバリアントは、L−アミノ酸24個、23個、22個、21個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個または1個のその対応するD−アミノ酸による置換を含有していてもよい。一実施形態では本明細書で定義されたアミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRのバリアントは、その対応するD−アミノ酸によるアミノ酸の1つの置換を含有する。アミノ酸配列中のD−アミノ酸の位置は重要ではない。表2に示すとおり、1つのアミノ酸がD−アミノ酸によって置換されている配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRを有するすべてのポリペプチドにおいて抗菌活性は保持されている。別の実施形態ではバリアントは、すべてのL−アミノ酸のそれらの対応するD−アミノ酸による置換を含有する。同様に実施例(表2)において示すとおり、D−アミノ酸だけを含有しているバリアントである配列lareykkiveklkrwlrqvlrtlr(ペプチド番号1313−07)を含むポリペプチドは、抗菌活性を持っている。本明細書で定義されたバリアントは、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRの少なくとも16個の連続するアミノ酸のレトロインベルソペプチドをさらに含有する場合がある。好ましくは、前記バリアントは、前記アミノ酸配列の全長のレトロインベルソペプチドである。レトロインベルソペプチドは、参照アミノ酸配列の逆向き配列にあるD−アミノ酸からなるペプチドである。それにより本発明の好ましいバリアントは、D−アミノ酸配列rltrlvqrlwrklkevikkyeralの少なくとも16アミノ酸を有する場合がある。表2に示すとおり、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRのレトロインベルソ配列を含有するバリアントである配列lareykkiveklkrwlrqvlrtlr(ペプチド番号1241−03)を含むポリペプチドは、抗菌活性を持っている。
【0033】
本明細書で定義されたアミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRのバリアントは、アミノ酸の非天然アミノ酸による5つまでの置換を含有する場合がある。本明細書において使用される「非天然アミノ酸」は、それらが天然にあるかどうかに関わらず遺伝的にコードされていないアミノ酸を指す。本明細書で定義されたアミノ酸配列のバリアントにおいて存在できる非天然アミノ酸は:β−アミノ酸、p−アシル−L−フェニルアラニン、N−アセチルリジン、O−4−アリル−L−チロシン、2−アミノアジピン酸、3−アミノアジピン酸、ベーターアラニン、4−tert−ブチル水素2−アジドサクシネート、ベータ−アミノプロピオン酸、2−アミノ酪酸、4−アミノ酪酸、2,4,−ジアミノ酪酸、6−アミノカプロン酸、2−アミノヘプタン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−アミノピメリン酸、p−アミノフェニルアラニン、2,3−ジアミノ酪酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,2’−ジアミノピメリン酸、p−アミノ−L−フェニルアラニン、p−アジド−L−フェニルアラニン、D−アリルグリシン、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、3−ベンゾチエニルアラニン p−ブロモフェニルアラニン、t−ブチルアラニン、t−ブチルグリシン、4−クロロフェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、システイン酸、D−シトルリン、チオ−L−シトルリン、デスモシン、イプシロン−アミノヘキサン酸、N−エチルグリシン、N−エチルアルパラギン、2−フルオロフェニルアラニン、3−フルオロフェニルアラニン、4−フルオロフェニルアラニン、ホモアルギニン、ホモシステイン、ホモセリン、ヒドロキシリジン、アロ−ヒドロキシリジン、3−(3−メチル−4−ニトロベンジル)−L−ヒスチジンメチルエステル、イソデスモシン、アロ−イソロイシン、イソプロピル−L−フェニルアラニン、3−メチル−フェニルアラニン、N−メチルグリシン、N−メチルイソロイシン、6−N−メチルリジン、O−メチル−L−チロシン、N−メチルバリン、メチオニンスルホキシド、2−ナフチルアラニン、L−3−(2−ナフチル)アラニン、イソセリン、3−フェニルセリン、ノルバリン、ノルロイシン、5,5,5−トリフルオロ−DL−ロイシン、オルニチン、3−クロロ−チロシン、N5−カルバモイルオルニチン、ペニシラミン、フェニルグリシン、ピペリジン酸、ピリジルアラニン、1,2,3,4−テトラヒドロ−イソキノリン−3−カルボキシル酸、ベータ−2−チエニルアラニン、γ−カルボキシ−DL−グルタミン酸、4−フルオロ−DL−グルタミン酸、D−チロキシン、アロ−スレオニン、5−ヒドロキシ−トリプトファン、5−メトキシ−トリプトファン、5−フルオロ−トリプトファン、3−フルオロ−バリンを含む。
【0034】
一実施形態では前記配列の天然アミノ酸は、対応する非天然アミノ酸によって置換される。本明細書において使用される「対応する非天然アミノ酸」は、参照天然アミノ酸の誘導体である非天然アミノ酸を指す。例えば天然アミノ酸は、対応するβ−アミノ酸によって置換される。β−アミノ酸は、天然アミノ酸におけるα炭素ではなくβ炭素に結合したアミノ基を有する。例えばα−アラニンは、β−アラニンによって置換されるなど。天然アミノ酸の前記天然アミノ酸の誘導体である非天然アミノ酸による置換の他の例は、次のとおり。アラニンは、例えばベータ−アラニン、t−ブチルアラニン、2−ナフチルアラニン、L−3−(2−ナフチル)アラニン、2−アミノイソ酪酸によって置換される。アルギニンは、例えばホモアルギニン、オルニチン、N5−カルバモイルオルニチン、3−アミノプロピオン酸によって置換される。アスパラギンは、例えばN−エチルアスパラギンによって置換される。アスパラギン酸は、例えば4−tert−ブチル水素2−アジドサクシネートによって置換される。システインは、例えばシステイン酸、ホモシステインによって置換される。グルタミン酸は、例えばγ−カルボキシ−DL−グルタミン酸、4−フルオロ−DL−グルタミン酸によって置換される。グルタミンは、例えばD−シトルリン、チオ−L−シトルリンによって置換される。グリシンは、例えばN−メチルグリシン、t−ブチルグリシン、N−メチルグリシン、D−アリルグリシンによって置換される。ヒスチジンは、例えば3−(3−メチル−4−ニトロベンジル)−L−ヒスチジンメチルエステルによって置換される。イソロイシンは、例えばイソデスモシン、N−メチルイソロイシン、アロ−イソロイシンによって置換される。ロイシンは、例えばノルロイシン、デスモシン、5,5,5−トリフルオロ−ロイシンによって置換される。リジンは、例えば6−N−メチルリジン、2−アミノヘプタン酸、N−アセチルリジン、ヒドロキシリジン、アロ−ヒドロキシリジンによって置換される。メチオニンは、例えばメチオニンスルホキシドによって置換される。フェニルアラニンは、例えばp−アミノ−L−フェニルアラニン、3−ベンゾチエニルアラニン p−ブロモフェニルアラニン、p−アシル−L−フェニルアラニン、2−フルオロフェニルアラニン、3−フルオロフェニルアラニン、4−フルオロフェニルアラニンによって置換される。プロリンは、例えば3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、1−アセチル−4−ヒドロキシ−L−プロリンによって置換される。セリンは、例えばホモセリン、イソセリン、3−フェニルセリンによって置換される。スレオニンは、例えばD−チロキシン、アロ−スレオニンによって置換される。トリプトファンは、例えば5−ヒドロキシ−トリプトファン、5−メトキシ−トリプトファン、5−フルオロ−トリプトファンによって置換される。チロシンは、例えばO−メチル−L−チロシン、O−4−アリル−L−チロシン、3−クロロ−チロシンによって置換される。バリンは、例えばノルバリン、N−メチルバリン、3−フルオロ−バリンによって置換される。
【0035】
本発明による特に好ましいポリペプチドは、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは表2、3、5または6から選択される、最大でPBS中3.2μMの致死性濃度(LC)99.9を有するそのバリアントを含む。一実施形態では表2、3、5または6から選択される、最大で2.4μMのPBS中LC99.9を有するポリペプチドが提供される。
【0036】
本発明によるポリペプチドは、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは本明細書で定義されたこの配列のバリアントからなる場合がある。本明細書において使用される「ポリペプチド」は、複数のアミノ酸を含むペプチド、ポリペプチドおよびペプチド模倣物を指す。用語「ポリペプチド」および「ペプチド」は、互換的に用いられる。抗菌活性を有することが実証された本発明による最も小さなポリペプチドは、16アミノ酸の長さを有する。しかしアミノ酸配列またはそのバリアントは、大きなポリペプチド、すなわち1つまたは複数の追加のアミノ酸によってN末端および/またはC末端で伸長されたポリペプチドの一部であってよい。本発明のポリペプチドのアミノ酸配列またはそのバリアントは、好ましくはNおよび/またはC末端伸長基を含むことによってN末端および/またはC末端で修飾されてよい。代替的に前記アミノ酸配列またはそのバリアントは、Nおよび/またはC末端で伸長されている。本発明によるポリペプチドは、したがって少なくとも16アミノ酸を含み、1000アミノ酸までを含む場合がある。しかし小さなポリペプチドは、産生費用をできるだけ低く保つために好ましい。好ましくは本発明によるポリペプチドは、長さ16〜200アミノ酸、より好ましくは16〜100アミノ酸、より好ましくは16〜50アミノ酸である。一実施形態では本発明によるポリペプチドは、16から24アミノ酸、すなわち16、17、18、19、20、21、22、23または24アミノ酸を含む。前記ポリペプチドは、好ましくは16〜24アミノ酸を有する。そのような16〜24アミノ酸を有するポリペプチドは、アセチル−、ヘキサノイル−、デカノイル−、ミリストイル−、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−およびプロピオニル残基からなる群から選択されるN末端修飾などおよび/またはアミド−、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−アミド−および1つまたは2つのアミノ−ヘキサノイル基からなる群から選択されるC末端修飾などのN末端および/またはC末端修飾をさらに有する場合があり、さまざまな長さのポリペプチドの例およびそれらの抗菌活性は、実施例において提供されている。一実施形態では本発明のポリペプチドは、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは本明細書で定義されたそのバリアントからなり、任意選択でN末端および/またはC末端修飾を有し、好ましくはNおよび/またはC末端伸長基を含む。
【0037】
本明細書において使用される「ペプチド模倣物」は、本発明のポリペプチドの抗菌、抗バクテリア、抗ウイルス、抗真菌、駆虫および/または抗炎症特性を模倣する非ペプチド構造要素を含有する化合物を指す。それにより本発明のポリペプチドは、非ペプチド構造要素を含む場合がある。そのような非ペプチド構造要素は、前記配列またはバリアントの1つまたは複数のアミノ酸の修飾の置換の結果として、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは本明細書で定義されたそのバリアントに存在する場合がある。代替的に本発明のポリペプチドは、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは本明細書で定義されたそのバリアントの外に非ペプチド構造要素、すなわち任意選択のNおよび/またはC末端伸長基を含む場合がある。ペプチド模倣物中の非ペプチド構造要素は、典型的には1つまたは複数の既存のアミノ酸の修飾である。好ましいペプチド模倣物は、例えば本明細書上に定義されるような非天然アミノ酸、コンホメーションの制限、ポリペプチドの環化、等比体積(isosteric)置換または他の修飾を使用して、本発明のポリペプチドの構造的修飾によって得られる。本発明によるポリペプチドのアミノ酸配列は、したがって任意選択で1つまたは複数の修飾を含む。そのようなポリペプチドは、翻訳後プロセシングなどの天然のプロセスによってまたは化学的修飾技術によって修飾されてよい。修飾は、ポリペプチド骨格、アミノ酸側鎖およびNまたはC末端を含む前記ポリペプチド中の任意の位置に挿入されてよい。単一のポリペプチドが複数の種類の修飾または単一の種類の複数の修飾を含有する場合がある。修飾は、アセチル化、アミド化、アシル化、リン酸化、メチル化、脱メチル化、ADP−リボシル化、ジスルフィド結合形成、ユビキチン化、ガンマ−カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、ヨウ素化、酸化、ペグ化および硫酸化を含む。加えて本発明によるポリペプチドは、ビオチン、フルオレセインまたはフラビン、脂質または脂質誘導体、糖類などの標識を有して提供されてよい。本発明によるポリペプチドは、標的化成分を有してさらに提供されてよい。
【0038】
好ましい実施形態では前記アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは本明細書で定義された前記そのバリアント、本発明によるポリペプチドは、N末端および/またはC末端で修飾されている。したがって本発明のポリペプチドは、好ましくはNおよび/またはC末端伸長基を含む。本発明のポリペプチドにおいて使用できるNおよびC末端伸長基は、当技術分野において十分周知である。N末端修飾の好ましい例は、アセチル、ヘキサノイル、デカノイル、ミリストイル、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−およびプロピオニル残基である。C末端修飾の好ましい例は、アミド、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−アミドおよび1つまたは2つのアミノヘキサノイル基である。しかし他のNまたはC末端伸長基も当業者に周知の活性化合物を生じる。一実施形態では前記アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは本明細書で定義されたそのバリアントは、N末端アセチル−、ヘキサノイル−、デカノイル−、ミリストイル−、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−またはプロピオニル残基およびC末端アミド−、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−アミド−および1つまたは2つのアミノ−ヘキサノイル基を含む。実施例(表3)において実証するとおりそのようなN末端またはC末端修飾を有するポリペプチドは、高い抗菌活性を保持している。一実施形態では本発明によるポリペプチドは、N末端がアセチル化され、C末端がアミド化されて提供される。
【0039】
したがって本発明はアミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLR、または前記アミノ酸配列のバリアントを含む単離されたまたは組換えポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、抗菌、抗バクテリア、抗ウイルス、抗真菌、駆虫および/または抗炎症活性を有し、前記バリアントが、少なくとも16アミノ酸を有し、さらに次のアミノ酸置換:
− アミノ酸位置1のLのI、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置2のAのL、V、QまたはIによる置換
− アミノ酸位置3のRのKまたはHによる置換
− アミノ酸位置4のEのQによる置換
− アミノ酸位置5のYのFまたはWによる置換
− アミノ酸位置6のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置7のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置8のIのL、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置9のVのL、IまたはAによる置換
− アミノ酸位置10のEのQによる置換
− アミノ酸位置11のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置12のLのI、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置13のKのRまたはHによる置換
− アミノ酸位置14のRのKまたはHによる置換
− アミノ酸位置15のWのFまたはYによる置換
− アミノ酸位置17のRのHまたはKによる置換
− アミノ酸位置18のQのN、A、SまたはTによる置換
− アミノ酸位置19のVのL、IまたはAによる置換
− アミノ酸位置20のLのI、VまたはAによる置換
− アミノ酸位置21のRのKまたはHによる置換
− アミノ酸位置22のTのQ、NまたはAによる置換
− アミノ酸位置24のRのHまたはKによる置換
− アミノ酸1から4の対応するD−アミノ酸による置換、
の5つまで、好ましくは3つまで、より好ましくは1つまでを有し、
前記アミノ酸配列または前記そのバリアントは、Nおよび/またはC末端伸長基を含み、好ましくはN末端アセチル−、ヘキサノイル−、デカノイル−、ミリストイル−、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−またはプロピオニル残基およびC末端アミド−、NH−(CH
2−CH
2−O)
11−CO−アミド−および1つまたは2つのアミノ−ヘキサノイル基を含む、単離されたまたは組換えポリペプチドを提供する。他のNまたはC末端伸長基も活性化合物を生じることは当業者に明らかである。本明細書においてアミノ酸の番号付けは次のとおりである:L
1A
2R
3E
4Y
5K
6K
7I
8V
9E
10K
11L
12K
13R
14W
15L
16R
17Q
18V
19L
20R
21T
22L
23R
24。前記ポリペプチドは、好ましくは16〜24アミノ酸を有する。
【0040】
好ましい実施形態では本発明によるポリペプチドは、疎水性成分を含む。カチオン性(ポリ)ペプチドへの疎水性基の付加は、微生物内毒素を中和するおよび微生物膜と相互作用するそれらの能力を改善し、それにより微生物、例えば病原体を排除するそれらの能力を改善する。
【0041】
本明細書で上述したとおり、本発明によるポリペプチドは、当技術分野において周知の化学的修飾技術によって修飾されてよい。本発明によるポリペプチドの修飾は、ポリペプチドの合成の際または終了時に導入できる。例えばポリペプチドが固相合成技術を使用して合成される場合、N末端アセチル化は、樹脂に結合したままのアミノ酸配列を酢酸と反応させることによって終了時に実施できる。別の例として、C末端アミド化は、例えば固相ペプチド合成での特別な種類の樹脂、商業的に入手できるTentagel S AM(例えばRapp、Tubingen、Germany)などを使用して実施される。これらの樹脂は、アミド化(ポリ)ペプチドが切断の際に放出される化学的手段を含む。ポリペプチドを修飾するこれらおよび他の方法は、当業者に周知である。
【0042】
一実施形態では本発明は、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは前記アミノ酸配列のバリアントを含む単離されたまたは組換えポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが、抗菌、抗バクテリア、抗ウイルス、抗真菌、駆虫および/または抗炎症活性を有し、
前記バリアントが、少なくとも16アミノ酸を有し、さらに:
− 次のアミノ酸置換:
・L、I、VまたはAの群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記群から選択される別のアミノ酸による置換、
・R、KまたはHの群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記群から選択される別のアミノ酸による置換、
・EのQによる置換
・YまたはWのFによる置換
・Q、N、A、SまたはTの群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記群から選択される別のアミノ酸による置換、
の5つまでを有し、および/または
− 対応するD−アミノ酸によるアミノ酸の1つまたは複数の置換を有する、
単離されたまたは組換えポリペプチドを提供する。
【0043】
本発明は、アミノ酸配列LAREYKKIVEKLKRWLRQVLRTLRまたは本明細書で定義されたそのバリアントを含む6つまでのポリペプチドを含む多量体をさらに提供する。前記多量体は、同じアミノ酸配列を有する6つまでのポリペプチドモノマー、またはそのため2つ以上ポリペプチドモノマーが異なるアミノ酸配列を有する6つまでのポリペプチドモノマーを含む場合がある。好ましい実施形態では本発明による多量体は、同じアミノ酸配列を有する6つまでの本発明によるポリペプチドを含む。
【0044】
本発明によるポリペプチドの塩も提供される。そのような塩は、これだけに限らないが、酸付加塩および塩基付加塩を含む。本明細書において使用されるポリペプチドの「薬学的に許容される塩」は、ポリペプチドの所望の抗菌、抗バクテリア、抗真菌、抗ウイルス、駆虫および/または抗炎症活性を保持しており、ヒトまたは動物への投与のために好適である塩を指す。ポリペプチドの塩の調製のための方法は、当技術分野において周知であり、一般に塩が不溶性である溶媒または培地中において、または真空でまたは凍結乾燥によって次に除去される水などの溶媒において例えば産生物の遊離酸または遊離塩基形態を適切な酸または塩基の1つまたは複数の等価物と反応させることによって、または好適なイオン交換樹脂で存在する塩のカチオンを別のカチオンに交換することによって、ポリペプチドを薬学的に許容される酸または塩基と混合することを含む。薬学的に許容される酸および塩基の例は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、シュウ酸、ピルビン酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、トリフルオロ酢酸、ケイ皮酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸、過塩素酸、リン酸およびポリペプチドの遊離アミノ基とアンモニウム塩を形成するチオシアン酸などの有機および無機酸、およびエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、および他のモノ−、ジ−およびトリアルキルアミンおよびアリールアミンなどのポリペプチドの遊離カルボキシル基とカルボキシレートを形成する塩基を含む。
【0045】
本発明によるポリペプチドは、種々の方法によって調製できる。例えばポリペプチドは、一般に使用される固相合成方法、例えば当技術分野において十分周知であるアルファアミノ基のt−BOCまたはFMOC保護を含む方法によって合成されてよい。ここでアミノ酸は、アミノ酸の伸長している鎖に逐次的に付加される。そのような方法は、例えばMerrifield(1963)、J.Am.Chem.Soc.85:2149〜2156およびAthertonら、「Solid Phase Peptide Synthesis」IRL Press、London(1989)に記載されている。固相合成方法は、ポリペプチドの合成または比較的短い長さ、約70アミノ酸までの長さを有するポリペプチドなどの大規模産生のために特に好適である。
【0046】
代替的に本発明のポリペプチドは、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が宿主細胞において発現される当技術分野において十分周知の組換え技術を使用して調製できる。したがって本発明は:
− 本発明によるポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子を提供するステップ、
− 前記核酸分子で宿主細胞を形質転換するステップ、
− 前記ポリペプチドの発現を可能にする条件下で前記宿主細胞を培養するステップ、
− 前記細胞から前記ポリペプチドを回収するステップ、
− 任意選択で前記ポリペプチドを、例えばNおよび/またはC末端伸長基を付加することによって、N末端またはC末端で修飾するステップ
を含む本発明によるポリペプチドの調製のための方法を提供する。
【0047】
本発明は、本明細書において本発明による核酸分子とも称される、本発明によるポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子をさらに提供する。本明細書において使用される本発明の核酸分子または核酸配列は、ヌクレオチド、好ましくはDNAおよび/またはRNAの鎖を含む。
【0048】
さらに、本発明による核酸配列分子を含むベクターが提供される。本明細書において使用される用語「ベクター」は、異種性核酸配列を宿主細胞に導入できるプラスミド、バクテリオファージまたは動物ウイルスなどの核酸分子を指す。本発明によるベクターは、宿主細胞において異種性核酸配列によってコードされた本発明のポリペプチドの発現または産生を可能にする。本発明により使用されるベクターは、例えば動物ウイルス由来であり、その例はこれだけに限らないが、ワクチニアウイルス(改変ワクチニアウイルスAnkara、MVAなどの弱毒化誘導体を含む)、ニューカッスル疾患ウイルス(NDV)、アデノウイルスまたはレトロウイルスを含む。本発明によるベクターは、選択された宿主細胞において本発明によるポリペプチドの転写の開始のために好適であるプロモーターを含む発現カセットを好ましくは含む。真核宿主細胞における本発明によるポリペプチドの発現のための好適なプロモーターの例は、これだけに限らないが、哺乳動物宿主のためのベータアクチンプロモーター、イムノグロビンプロモーター、5S RNAプロモーターまたは、サイトメガロウイルス(CMV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)およびサルウイルス40(SV40)プロモーターなどのウイルス由来プロモーターを含む。
【0049】
さらに本発明は、本発明による核酸分子および/またはベクターを含む組換え宿主細胞を提供する。宿主細胞は、本発明によるベクターなどの核酸分子によって形質転換されているまたは形質転換できる細胞である。「形質転換」は、外来核酸のレシピエント細胞への導入を指す。宿主細胞の形質転換は、前記細胞による組換えタンパク質の一過性発現を生じることができ、組換えタンパク質が規定の期間についてだけ発現されることを意味する。代替的にレシピエント細胞の形質転換は、安定な発現を生じることができ、核酸が細胞のゲノムに導入され、それにより細胞の次世代に伝えられることを意味する。追加に、組換えタンパク質の誘導性発現は、達成できる。誘導性発現系は、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列の発現を可能にする分子の存在または不在を必要とする。誘導性発現系の例は、これだけに限らないが、Tet−OnおよびTet−Off発現系、例えばエクジソン誘導性遺伝子発現系、アラビノース誘導性遺伝子発現系などのホルモン誘導性遺伝子発現系、および誘導性メタロチオネインプロモーターを含むpMT/BiPベクター(Invitrogen)を使用するショウジョウバエ誘導性発現系を含む。本発明によるポリペプチドの調製のための方法において使用される宿主細胞は、例えばグラム陽性原核生物、グラム陰性原核生物または真核生物である。好ましくは、前記宿主細胞は、植物細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞または昆虫細胞などの真核細胞であり、最も好ましくは昆虫細胞または哺乳動物細胞である。好適な宿主細胞の例は、コーン細胞、イネ細胞、ウキクサ(duckweed)細胞、タバコ細胞(BY−2またはNT−1細胞など)およびジャガイモ細胞などの植物細胞を含む。酵母細胞の例は、サッカロミセス(Saccharomyces)およびピキア(Pichia)である。昆虫細胞の例は、Tn5、SF−9およびSF−21細胞などのヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞およびDrosophila Schneider2(S2)細胞などのショウジョウバエ細胞である。本発明によるポリペプチドを発現するために好適である哺乳動物細胞の例は、これだけに限らないが、アフリカミドリザル腎臓(Vero)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK−21など)細胞、ヒト網膜細胞(例えばPerC6細胞)、ヒト胚性腎臓細胞(HEK293細胞など)、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)、ニワトリ胚腎臓細胞(CEK細胞)、胚盤葉由来胚性幹細胞(例えばEB14)、マウス胚性線維芽細胞(3T3細胞など)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞およびこれらの細胞型の誘導体を含む。
【0050】
本発明による方法は、本発明によるポリペプチドを回収、精製および/または単離するステップを好ましくはさらに含む。得られた本発明によるポリペプチドは、任意選択での追加の精製、単離またはプロセシングステップ、例えばゲル電気泳動またはクロマトグラフィー法を使用する精製後に、ヒト治療において好ましくは使用される。
【0051】
本発明によるポリペプチドは、治療用および非治療用適用の両方において有利に使用できる多数の活性を表す。具体的には本発明によるポリペプチドは、細菌感染、真菌感染、ウイルス感染などの種々の微生物感染を妨げること、および寄生虫感染を妨げることにおいて有用である。それにより、本発明によるポリペプチドまたはその薬学的に許容される塩、および少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含む医薬組成物が提供される。同様に、本発明による核酸分子またはベクター、および少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含む医薬組成物が提供される。
【0052】
本発明は、医薬としての使用のための本発明によるポリペプチドをさらに提供する。さらに、医薬としての使用のための本発明によるポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子が提供される。前記医薬は、治療剤または予防剤であってよい。
【0053】
一実施形態では本発明は、細菌、真菌、ウイルスおよび/または寄生虫感染に罹患している対象の処置のための方法であって、本発明によるポリペプチド、本発明による医薬組成物または本発明による核酸分子の治療有効量を前記対象に投与するステップを含む、方法を提供する。同様に、微生物に感染した対象の処置のためまたは微生物感染の予防のための医薬の調製物のための方法が提供される。好ましい実施形態では、前記微生物は、バクテリア、真菌、ウイルスまたは寄生虫である。さらに、微生物、細菌、真菌、ウイルスおよび/または寄生虫感染から生じる微生物、細菌、真菌、ウイルスおよび/または寄生虫感染または状態の処置における本発明による使用のためのポリペプチドおよび/または核酸分子が提供される。
【0054】
本明細書において使用される「対象」は、ヒトまたは動物である。対象は、これだけに限らないが、ヒト、ブタ、フェレット、アザラシ、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシおよびウマなどの哺乳動物、およびニワトリ、アヒル、ガチョウおよびシチメンチョウなどの鳥類を含む。本発明の好ましい実施形態では対象は、哺乳動物である。特に好ましい実施形態では対象は、ヒトである。
【0055】
本発明は、前記微生物または寄生虫を本発明によるポリペプチドまたは医薬組成物と接触させることを含む、微生物、例えばバクテリア、ウイルス、真菌または寄生虫の成長を抑制するための方法も提供する。前記接触させることは、in vivoおよびin vitroで実施できる。
【0056】
本発明によるポリペプチドおよび医薬組成物は、種々のウイルス、細菌および真菌感染などのさまざまな微生物感染の処置において有効である。例えばポリペプチドおよび医薬組成物は、グラム陰性およびグラム陽性細菌の処置において有効である。本発明のポリペプチドおよび組成物で処置できる感染をヒトまたは動物において生じる可能性がある病原性細菌の例は、これだけに限らないが、リステリア、大腸菌類、クラミジア、リケッチア菌、マイコバクテリア、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、髄膜炎菌、クレブシレア(Klebsiella)、シュードモナス、レギオネラ、ジフテリア、サルモネラ、桿菌、コレラ菌(Vibrio cholerae)、破傷風、クロストリジウム、バシラス、エルシニアおよびレプトスピラ細菌を含む。
【0057】
本発明のポリペプチドおよび組成物で処置できる感染をヒトまたは動物において生じる可能性がある病原性ウイルスの例は、これだけに限らないが、A、BまたはC肝炎、ヘルペスウイルス(例えばVZV、HSV−I、HAV−6、HSV−II、CMV、EpsteinBarr−virus)、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、コロナウイルス、呼吸器多核体ウイルス(respiratory syncytial virus RSV)、ロタウイルス、モルビリウイルス、風疹ウイルス、パルボウイルス、ワクチニアウイルス、HTLVウイルス、デングウイルス、パピローマウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルスおよびヒト免疫不全ウイルス(HIVウイルス、例えばIおよびII型)を含む。
【0058】
本発明のポリペプチドおよび組成物で処置できる感染をヒトまたは動物において生じる可能性がある病原性真菌の例は、これだけに限らないが、カンジダ(Candida)(例えば、アルビカンス(albicans)、クルセイ(krusei)、グラブラタ(glabrata)、トロピカリス(tropicalis))、アスペルギルス(Aspergillus)(例えば、フミガーツス(fumigatus)、ニガー(niger))、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)、ケカビ属(Genus Mucorales)、ブラストミセス・デルマティティディス(Blastomyces dermatitidis)、南アメリカ分芽菌(Paracoccidioides brasiliensis)およびコクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)を含む。
【0059】
本発明のポリペプチドおよび組成物で処置できる感染をヒトまたは動物において引き起こす可能性がある病原性寄生虫の例は、これだけに限らないが、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)、マラリア原虫(例えばファルシパルム、ビバックス)、エントアメーバ、ジアルジア、大腸バランチジウム(Balantidium coli)、アカントアメーバ、クリプトスポリジウム菌種、ニューモシスチル カリニ(Pneumocystis carinii)、ネズミバベシア(Babesia microti)、トリパノソーマ(例えばブルセイ、クルーズ)、リーシュマニア(例えばドノバニ)およびトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)を含む。
【0060】
好ましい実施形態では本発明のポリペプチドおよび医薬組成物は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus MRSA)および(非耐性)黄色ブドウ球菌(S.aureus)、グラム陰性バクテリア緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)および真菌性菌種カンジダ アルビカンス(Candida albicans)およびクロコウジカビ(Aspergillus niger)によって生じた感染を処置することにおいて有効である。
【0061】
ポリペプチドを含有する組成物は、予防および/または治療処置のために投与されてよい。治療用適用ではポリペプチドまたは組成物は、既に疾患に罹患している対象、好ましくはヒトに、感染の症状または感染から生じる状態およびその合併症を妨げるための十分な量で投与される。予防用適用ではポリペプチドまたは組成物は、微生物または寄生虫感染に罹患する危険がある対象、例えばヒトまたは動物に、感染を予防するまたは感染の発症を少なくとも抑制するために十分な量で投与される。ポリペプチドは、本発明による医薬組成物中に、状態または疾患、特に微生物または寄生虫感染に関連する症状を治療するために十分な量である治療量で典型的には存在する。本発明によるポリペプチドまたはその少なくとも2つの組合せの投与の典型的な用量は、ポリペプチドのサイズに応じて体重1kgあたりポリペプチド0.01から10mgの間である。
【0062】
本発明のポリペプチドおよび医薬組成物は、例えば皮膚感染、創傷感染および尿路感染における局所適用のために特に好適である。本明細書に前述のとおり本発明のポリペプチドは、バイオフィルム形成を妨害でき、既存のバイオフィルムを消失させ、バイオフィルム形成部位およびその周辺で細菌、真菌または他の微生物を死滅させ、炎症促進性微生物内毒素を中和することによって免疫応答を調節する。細菌性バイオフィルムは、皮膚創傷の治癒を遅らせ、感染した皮膚創傷、皮膚感染または尿路感染の治癒または処置における従来の抗生物質の局所的な抗バクテリア有効性を低減する場合がある。本出願の実施例において実証するとおり本発明によるポリペプチドは、例えば創傷治癒において特に有用である。実施例は、本発明のポリペプチドがヒト線維芽細胞の熱創傷感染モデルにおけるバイオフィルムに存在する細菌を死滅させることにおいて有効であることを示している。一実施形態では、それにより本発明は皮膚感染、創傷感染および/または尿路感染の処置または予防における使用のための本発明によるポリペプチド、医薬組成物および/または核酸分子を提供する。同様に、創傷治癒における使用のための本発明によるポリペプチド、医薬組成物および/または核酸分子の使用が提供される。さらに、皮膚感染、創傷感染、尿路感染の処置または予防および/または創傷治癒のための医薬組成物の製造における本発明によるポリペプチド、医薬組成物および/または核酸分子の使用が提供される。本発明は、皮膚感染、創傷感染および/または尿路感染に罹患している対象の処置のための、前記対象に本発明によるポリペプチド、本発明による医薬組成物または本発明による核酸分子の治療有効量を投与することを含む方法をさらに提供する。
【0063】
ポリペプチドおよび医薬組成物は、それらがリポテイコ酸、ペプチドグリカンおよびリポ多糖類などの炎症促進性微生物内毒素を中和し、それにより好中球、マクロファージ/単球およびリンパ球の流入および感染した対象による炎症促進性微生物化合物の放出を抑制、低減または妨害することから抗炎症剤としても有用である。したがって同様に、炎症促進性化合物を放出できる細胞を本発明によるポリペプチドと接触させることを含む炎症促進性化合物の放出を抑制するための方法が提供される。前記接触させることは、in vivoおよびin vitroで実施できる。さらに、抗炎症剤としての使用のための本発明によるポリペプチドが提供される。
【0064】
本発明のポリペプチドは、徐放性および/または標的化送達担体に有利に組み込まれる。本明細書において使用される用語「徐放性」は、経時的方法での本発明のポリペプチドの放出を指す。一実施形態では徐放性は、緩効性を指す。本明細書において使用される用語「標的化送達」は、部位特異的方法での本発明のポリペプチドの放出を指す。徐放性ビヒクルの使用は、注射によるなどの本発明のポリペプチドの頻回投与が回避できる有利点を有する。標的化送達ビヒクルの使用は、本発明のポリペプチドが炎症の部位または感染の部位などの対象の身体における目的の部位に効果的に送達および/または保持される有利点を有する。好ましくは本発明のポリペプチドは、細菌、真菌、ウイルスおよび寄生虫を含む微生物に感染した部位に標的化される。徐放性および/または標的化送達担体は、当技術分野において十分周知である。徐放性および/または標的化送達ビヒクルの非限定的例は、ナノ粒子、微小粒子、ナノカプセル、マイクロカプセル、リポソーム、ミクロスフェア、ハイドロゲル、ポリマー、脂質複合体、血清アルブミン、抗体、シクロデキストリンおよびデキストランである。徐放性は、例えばそのような担体中にまたは表面上に本発明のポリペプチドを組み込むことによって提供される。担体は本発明のポリペプチドを捕捉し、水性、酸性または塩基性環境または体液などの好適な環境においてゆっくり分解または溶解し、それによりポリペプチドを放出する粒子を形成する材料である。標的化送達は、その表面上に標的化基を有する担体を提供することによって例えば達成される。標的化基を含むそのような担体の例は、抗体機能化担体、部位特異的リガンドを有する担体および正または負の表面電荷を有する担体である。徐放性および/または標的化送達のための好ましい粒子は、ナノ粒子、すなわち直径約1から500nm、好ましくは直径約200nmまでの範囲の粒子およびリポソームであり、任意選択で標的化基を有して提供される。
【0065】
したがって本発明は、本発明のポリペプチドを含む徐放性担体およびそのような徐放性担体を含む医薬組成物をさらに提供する。同様に、本発明のポリペプチドを含む標的化送達担体およびそのような標的化送達担体を含む医薬組成物が提供される。一実施形態では前記担体は、ナノ粒子、微小粒子、ナノカプセル、マイクロカプセル、リポソーム、ミクロスフェア、ハイドロゲル、ポリマー、脂質複合体、血清アルブミン、抗体、シクロデキストリンおよびデキストランからなる群から選択される。
【0066】
好ましい標的化送達および/または徐放性担体は、生分解性材料のものである。本明細書において使用される「生分解性」は、生理的条件下で分解する分子を指す。これは、加水分解的に分解可能である分子および酵素的分解を必要とする分子を含む。好適な生分解性材料は、これだけに限らないが、PLA(ポリ乳酸酸)、PGA(ポリグリコール酸)、ポリカプロラクトン(PCA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリプロピレンフマレート、(ラクチド、グリコリドおよびカプロラクトンなどの)ラクトン由来のポリマー、トリメチレンカーボネートおよびテトラメチレンカーボネートなどのカーボネート、ジオキサノン、エチレングリコール、ポリエステルアミド(PEA)エチレンオキシド、エステルアミド、γ−ヒドロキシバレレート、β−ヒドロキシプロピオネート、α−ヒドロキシ酸、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシアルカノエート、ポリイミドカーボネート、ポリウレタン、ポリ酸無水物およびその組合せ、ヒアルロン酸、キトサンおよびセルロースなどの多糖およびゼラチンおよびコラーゲンなどのタンパク質などの生分解性ポリマーおよび天然生分解性材料を含む。
【0067】
本発明のポリペプチドは、微生物、例えば細菌、ウイルス、真菌、寄生虫感染に影響されやすい材料のための保存剤としてさらに有利に使用できる。そのような材料は、本発明のポリペプチドによって浸透またはコートまたは覆われてよい。一実施形態では本発明のポリペプチドは、医療用デバイスのための保存剤として使用される。本明細書において使用される用語「医療用デバイス」は、ヒトまたは動物の身体において使用できるデバイスを指し、これだけに限らないが、医療機器、医療用具、臀部および膝を含む人工接合部などの人工関節および歯科用人工装具、乳房インプラント、ペースメーカー、心臓バルブ、ステント、カテーテル、耳管チューブ、スプリント、医療用デバイスのためのネジおよび創傷または組織ドレッシング材などのインプラント可能なデバイスを含む。そのような医療用デバイスは、例えば細菌による付着のため、個々の細菌の付着およびバイオフィルム中の細菌の両方のために特に好適である。
【0068】
したがって同様に、医療用デバイスのための保存剤としての本発明のポリペプチドの使用が提供される。さらに、好ましくは医療用デバイスのための、本発明のポリペプチドを含むコーティングが提供される。一実施形態ではそのようなコーティングは、本発明のポリペプチドの徐放性を提供する。医療用デバイスのためのそのような徐放性コーティングは、好ましくは生分解性材料を含み、それにより本発明のポリペプチドの放出は、コーティング材料の分解によって達成される。したがって同様に、本発明のポリペプチドを含む徐放性コーティングが提供される。さらに、本発明のポリペプチドおよび生分解性材料を含むそのようなコーティングを含む医療用デバイスが提供される。本発明による生分解性コーティングは、上記で定義された生分解性材料を含む。具体的には、そのような生分解性コーティングは、PLA(ポリ乳酸酸)、PGA(ポリグリコール酸)、ポリカプロラクトン(PCA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリプロピレンフマレート、(ラクチド、グリコリドおよびカプロラクトンなどの)ラクトン由来のポリマー、トリメチレンカーボネートおよびテトラメチレンカーボネートなどのカーボネート、ジオキサノン、エチレングリコール、ポリエステルアミド(PEA)エチレンオキシド、エステルアミド、γ−ヒドロキシバレレート、β−ヒドロキシプロピオネート、α−ヒドロキシ酸、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシアルカノエート、ポリイミドカーボネート、ポリウレタン、ポリ酸無水物およびその組合せ、ヒアルロン酸、キトサンおよびセルロースなどの多糖、およびゼラチンおよびコラーゲンなどのタンパク質からなる群から選択される材料を含む。
【0069】
本発明によるポリペプチドは、強力な抗菌剤であるが、それらを抗生物質、抗ウイルス剤および抗真菌剤などの従来の抗感染薬などの周知の抗菌剤または他の抗菌性ペプチド、および抗体および化学物質、例えば増感剤、ナノ粒子と組み合わせることができる。そのような組合せは、抗菌活性の増加または活性スペクトルの広幅化を生じる可能性がある。本発明のポリペプチドは、細菌感染を処置するために例えばペニシリン、セファロスポリン、マクロライド、フルオロキノロン、スルホンアミド、テトラサイクリンおよび/またはアミノグリコシドと組み合わされてよい。ウイルス感染の処置のためにポリペプチドは、アシクロビル、ガンシクロビル、ジドブジン(AZT)またはジダノシンなどの抗ウイルスヌクレオシド類似物または、オセルタミビル、ペラミビルまたはザナミビルなどのノイラミダーゼ阻害剤と組み合わされてよい。真菌感染の処置のために本発明のポリペプチドおよび組成物は、ポリエン抗真菌剤、イミダゾール、トリアゾ−ル、アリルアミン、エキノキャンディン、シクロピロクス、フルシトシンおよび/またはグリセオフルビンと組み合わされてよい。したがって本発明は、本発明によるポリペプチドおよび、ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム、ムピロシンからなる群から好ましくは選択される抗生物質または抗菌性ペプチドなどの追加の抗菌剤を含む医薬組成物を提供する。
【0070】
本発明による医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む。好適な担体の例は、例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン(例えばBSAまたはRSA)およびオボアルブミンを含む。好ましい実施形態では前記好適な担体は、溶液、例えば生理食塩水である。錠剤、カプセルなどに組み込まれ得る賦形剤の例は次のとおりである:トラガカントゴム、アラビアゴム、コーンデンプンまたはゼラチンなどの結合剤;結晶セルロースなどの賦形剤;コーンデンプン、アルファ化デンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;ショ糖、乳糖またはサッカリンなどの甘味剤;ペパーミント、冬緑油またはサクランボなどの風味剤。単位投与形態がカプセルである場合、上の種類の材料に加えて、脂肪油などの液体担体を含有してよい。種々の他の材料は、コーティングとして、または他に投与単位の物理的形態を改変するために存在してもよい。例えば錠剤は、セラック、糖または両方でコートされてよい。シロップまたはエリキシル剤は、活性化合物、甘味剤としてショ糖、保存剤としてメチルおよびプロピルパラベン、色素およびサクランボまたはオレンジ風味などの風味剤を含有してよい。本発明による医薬組成物は、好ましくはヒト使用のために好適である。
【0071】
本明細書に記載の医薬組成物は、種々の異なる方法で投与できる。例は、本発明によるポリペプチドを含み、薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物を経口、鼻腔内、直腸内、局所、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮下、経皮的、くも膜下腔内および頭蓋内方法を介して投与することを含む。経口投与のために活性成分は、カプセル、錠剤および粉剤などの固体投与形態またはエリキシル剤、シロップおよび懸濁剤などの液体投与形態で投与できる。
【0072】
注射用の滅菌組成物は、本発明のポリペプチドを水または、ゴマ油、ココナッツ油、ピーナッツ油、綿実油などの天然に存在する植物油またはオレイン酸エチルなどの合成脂肪性ビヒクル、などの注射のためのビヒクルに溶解または懸濁することによって従来の医薬用常法により製剤できる。緩衝液、保存剤、抗酸化物質なども組み込まれてよい。
【0073】
好ましい実施形態では本発明による医薬組成物は、局所投与のために製剤化される。本明細書において使用される「局所投与」は、微生物または寄生虫感染から生じる状態を局所的に処置するための皮膚または粘膜などの身体表面への適用を指す。局所投与のために好適な製剤の例は、これだけに限らないがクリーム、ゲル、軟膏、ローション、フォーム、懸濁剤、スプレー、エアロゾル、粉末エアロゾルを含む。局所用の医薬は、皮膚上にあってよく、それらが皮膚に直接適用されることを意味する。局所用の医薬は、例えば気道の粘膜上皮への適用のために吸入用であってもよく、または結膜に適用される点眼薬または耳に入れられる点耳薬などの皮膚以外の組織の表面に適用されてよい。局所投与のために製剤された前記医薬組成物は、利尿剤、希釈剤、保水剤、保存剤、pH調整剤および/または水などの局所適用のために好適な少なくとも1つの薬学的賦形剤を好ましくは含む。
【0074】
本発明によるポリペプチドは、診断用使用のためにも特に好適である。ポリペプチドは、血液、血漿、粘液、創傷滲出液および尿などの生理学的試料中に存在する微生物感染の、例えば微生物毒素、例えばLPS、LTAおよびPGを含む細菌性毒素の検出による、検出のために使用できる。さらにポリペプチドは、そのような試料中の微生物毒素の量を決定するために使用できる。したがって、診断剤としての使用のための本発明によるポリペプチド核酸分子が提供される。さらに、血液、血漿、粘液、創傷滲出液および尿試料などの生理学的試料中の微生物毒素、好ましくは細菌性または真菌性毒素を検出するための本発明によるポリペプチドの使用が提供される。上述したとおり本発明によるポリペプチドは、ビオチン、フルオレセイン標識、近赤外色素または放射性同位元素などの好適な成分にカップリングされてよい。そのような標識ポリペプチドは、それらが微生物感染の部位に移動することから、細菌感染などの微生物感染を検出するための方法において使用できる。ポリペプチドに付着した使用される標識についての好適な検出器を使用して、感染部位を検出することが可能である。したがって、細菌感染などの微生物感染を検出するための方法も本発明によって提供される。方法は、微生物に感染したまたは感染したと疑われる対象に標識ポリペプチドを投与することを典型的には含む。標識ポリペプチドが感染性生物と相互作用できることから、それは感染部位に蓄積する。生理学的試料中の微生物毒素を検出するための方法は、微生物に感染したまたは感染したと疑われる対象の生理学的試料に標識化ポリペプチドを投与することを含む。ポリペプチドに付着している標識に感受性である種々の検出器を使用して、感染部位または試料中でのポリペプチドの蓄積を検出できる。
【0075】
本発明によるポリペプチドの別の有用な適用は、食品の保存においてである。したがって、食品保存剤としての本発明によるポリペプチドの使用が同様に提供される。一般に病原性または腐敗性微生物は、60から100℃で変動する温度にそれらを供することにより食品を熱的に処理することによって破壊される。そのような処置は、望ましくない官能効果など食品に望ましくない効果を有する場合がある。食品における保存剤としての本発明によるポリペプチドの使用は、食品の保存期間の延長および/または安全性の増強をもたらすことができる。
【0076】
食品中の病原性微生物は、対象の感染または中毒を生じる場合があり、カンピロバクター ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、チフス菌(Salmonella typhi)、パラチフス菌(Salmonella paratyphi)および非チフスサルモネラ菌種(non−typhi Salmonella species)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Escherichia coli)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、赤痢菌(Shigella)およびボツリヌス菌(Clostridium Botulinum)などの細菌、ロタウイルスおよびノーウォークウイルスなどのウイルス、有鉤条虫(Taenia solium)、無鉤条虫(Taenia saginata)および旋毛虫(Trichinella spiralis)などの寄生虫およびカビを含む。食品の腐敗は、食品の見た目、硬さ、風味および/または匂いの変化を指し、ラクトバチルス、ロイコノストック、シュードモナス、ミクロコッカス、フラボバクテリウム、セラチア、エンテロバクターおよび連鎖球菌などの細菌、アスペルギルス、フサリウムおよびクラドスポリウムなどの細菌および酵母によって生じる場合がある。
本発明は、次の非限定的例においてより詳細に説明される。