【文献】
Banas, A., et al.,Rapid hepatic fate specification of adipose-derived stem cells and their therapeutic potential for liver failure,Journal of Gastroenterology and Hepatology,2009年,Vol.24, No.1,pp.70-77
【文献】
Okura, H., et al.,Properties of hepatocyte-like cell clusters from human adipose tissue-derived mesenchymal stem cells,Tissue Engineering, Part C: Methods,2010年,Vol.16, No.4,pp.761-770
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
態様の詳細な説明
脂肪細胞由来幹細胞(ASC)の集団から肝細胞様細胞(iHep)の集団を産生するための方法が提供される。該方法の局面は、ASCの集団を三次元培養(例えば、懸滴浮遊培養、高密度培養、スピナーフラスコ培養、マイクロキャリア培養など)に置く工程、ならびに細胞と第1および第2の培養培地とを接触させる工程を含む。個体を治療する方法も提供され、それは、ASCの集団からiHepの集団を産生すること、および有効数のiHepを個体内に投与することを含む。該方法を実践するためのキットも本明細書において記載される。
【0014】
本方法および組成物を記載する前に、本発明は、記載される特定の方法または組成物に限定されるわけではないことが理解されるべきである、というのはそのようなものは当然変動し得るためである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様のみを記載する目的のためのものであり、限定することを意図されるものではないことも理解されるべきである。
【0015】
値の値域が提供される場合、文脈上はっきりと別様に述べられていない限り、その値域の上限および下限の間にある各介在値も、下限の単位の10分の1まで具体的に開示されていると理解される。記述される値域内の任意の記述される値または介在値と、その記述される値域内の他の任意の記述される値または介在値との間にあるより小さな各値域は、本発明の内に包含される。これらのより小さな値域の上限および下限は、独立して、該値域内に含まれ得または除外され得、かつより小さな値域内にいずれか一方の限度が含まれる、どちらの限度も含まれない、または両方の限度が含まれる場合の各値域も、記述される値域における具体的に除外される任意の限度次第で、本発明の内に包含される。記述される値域が限度の一方または両方を含む場合、そうした含まれた限度のいずれかまたは両方を除外する値域も、本発明に含まれる。
【0016】
別様に定義されていない限り、本明細書において用いられるすべての技術的および科学的な用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと同様または同等の任意の方法および材料を、本発明の実践または試験において用いることができるものの、一部の潜在的なかつ好ましい方法および材料がここに記載されている。刊行物を引用しているものに関連した方法および/または材料を開示しかつ記載する、本明細書において言及されるすべての刊行物は、参照により本明細書に組み入れられる。本開示は、矛盾が存在する程度まで、組み入れられた刊行物の任意の開示に優先する。
【0017】
本開示を読めば当業者に明白であろうように、本明細書において記載されかつ例証される個々の態様のそれぞれは、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、他のいくつかの態様のいずれかのものの特色と容易に分離され得るまたはそれと組み合わされ得る個別の成分および特色を有する。列挙される任意の方法は、列挙される事象の順序でまたは論理的に可能である他の任意の順序で行われ得る。
【0018】
本明細書においておよび添付の特許請求の範囲において用いられるとき、「a」、「an」、および「the」という単数形は、文脈上はっきりと別様に述べられていない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。ゆえに、例えば、「細胞(a cell)」への言及には複数のそのような細胞が含まれ、かつ「ペプチド(the peptide)」への言及には、1つまたは複数のペプチドおよびそれらの同等物、例えば当業者に公知であるポリペプチドなどへの言及が含まれる。
【0019】
本明細書において論じられる刊行物は、本出願の提出日より前のそれらの開示に関してのみ提供される。本明細書におけるいかなるものも、先行発明という理由で、本発明がそのような刊行物に先行する権利を与えられないという承認として解釈されるべきでない。さらに、提供される刊行物の日付は実際の刊行日とは異なり得、それは独立して確認される必要があり得る。
【0020】
定義
「特異的結合」、「特異的に結合する」等の用語は、溶液または反応混合物における他の分子または部分と比較した、分子への優先的な非共有結合または共有結合を指す(例えば、抗体は、他の利用可能なポリペプチドと比較して、特定のポリペプチドまたはエピトープに特異的に結合する)。一部の態様において、一方の分子の、それが特異的に結合するもう一方の分子に対する親和性は、10
-5Mまたはそれ未満(例えば、10
-6Mもしくはそれ未満、10
-7Mもしくはそれ未満、10
-8Mもしくはそれ未満、10
-9Mもしくはそれ未満、10
-10Mもしくはそれ未満、10
-11Mもしくはそれ未満、10
-12Mもしくはそれ未満、10
-13Mもしくはそれ未満、10
-14Mもしくはそれ未満、10
-15Mもしくはそれ未満、または10
-16Mもしくはそれ未満)のK
D(解離定数)によって特徴付けされる。「親和性」とは結合の強度を指し、結合親和性の増加はより低いK
Dと相関する。
【0021】
本明細書において用いられる「特異的結合メンバー」という用語は、特異的結合ペアのメンバー(すなわち、非共有的な手段を介して、分子の一方、例えば第1の特異的結合メンバーが、他方の分子、例えば第2の特異的結合メンバーに特異的に結合する場合の2種類の分子、通常2種類の異なる分子)を指す。
【0022】
本明細書において用いられる「特異的結合作用物質」という用語は、生体分子に特異的に結合する任意の作用物質(例えば、核酸マーカー分子、タンパク質マーカー分子などのマーカーなど)を指す。ある場合には、マーカー分子(例えば、肝細胞マーカー分子)に対する「特異的結合作用物質」が用いられる。特異的結合作用物質は、任意のタイプの分子であり得る。ある場合には、特異的結合作用物質は、抗体またはそのフラグメントである。ある場合には、特異的結合作用物質は、核酸プローブ(例えば、RNAプローブ;DNAプローブ;RNA/DNAプローブ;修飾された核酸プローブ、例えばロックド核酸(LNA)プローブ、モルフォリノプローブなど;および同類のもの)である。
【0023】
本明細書において使用するとき、「マーカー分子」は、確定的である必要はない(すなわち、マーカーは、細胞を特定のタイプのものとして確定的にマーク付けする必要はない)。例えば、細胞によるマーカー分子の発現は、該細胞が特定の細胞タイプのものであるという指標(すなわち、示唆的)であり得る。例えば、3種類の細胞タイプ(タイプA、タイプB、およびタイプC)が特定のマーカー分子(例えば、特定のmRNA、特定のタンパク質など)を発現する場合、細胞によるそのマーカー分子の発現は、必ずしもそれだけで該細胞がタイプA細胞であると確定的に判定するために用いられるとは限らない。しかしながら、そのようなマーカーの発現は、該細胞がタイプA細胞であると示唆し得る。ある場合には、他の証拠と組み合わせたそのようなマーカーの発現は、該細胞がタイプA細胞であることを確定的に示し得る。別の例証的な例として、特定の細胞タイプが2種またはそれを上回る種類の特定のマーカー分子(例えば、mRNA、タンパク質、それらの組み合わせなど)を発現することが公知である場合には、細胞による該2種またはそれを上回る種類の特定のマーカー分子のうちの1つの発現は、該細胞が問題となっている特定のタイプのものであることを示唆し得るが、確定的ではない。そのような場合でも、マーカーは、依然としてマーカー分子と見なされる。
【0024】
「抗体」という用語は最も広い意味で用いられ、具体的には、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、およびそれらが所望の生物学的活性を呈する限りは抗体フラグメントを網羅する。「抗体」(Ab)および「免疫グロブリン」(Ig)は、同じ構造特徴を有する糖タンパク質である。抗体が特異的抗原への結合特異性を呈する一方で、免疫グロブリンは、抗体、および抗原特異性を欠く他の抗体様分子の両方を含む。後者の種類のポリペプチドは、例えば、リンパ系によって低レベルで、かつ骨髄腫によって増加したレベルで産生される。
【0025】
本明細書において用いられる「抗体フラグメント」およびそのすべての文法的変化形は、抗原結合部位を含む無傷抗体の一部分または無傷抗体の可変領域として定義され、該一部分は、無傷抗体のFc領域の定常重鎖ドメイン(すなわち、抗体アイソタイプに応じて、CH2、CH3、およびCH4)を含んでいない。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')
2、およびFvフラグメント;ダイアボディ(diabody);(1)一本鎖Fv(scFv)分子、(2)結び付いた重鎖部分を有しない、1つのみの軽鎖可変ドメインを含有する一本鎖ポリペプチド、または軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含有するそのフラグメント、(3)結び付いた軽鎖部分を有しない、1つのみの重鎖可変領域を含有する一本鎖ポリペプチド、または重鎖可変領域の3つのCDRを含有するそのフラグメント、および(4)非ヒト種由来の単一Igドメインまたは他の特異的単一ドメイン結合分子を含むナノボディ(nanobody)を含むがそれらに限定されない、連続アミノ酸残基の途切れることのない1つの配列からなる一次構造を有するポリペプチドである任意の抗体フラグメント(本明細書において、「一本鎖抗体フラグメント」または「一本鎖ポリペプチド」と称される);ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異的なまたは多価の構造が含まれる。1つまたは複数の重鎖を含む抗体フラグメントにおいて、重鎖は、無傷抗体の非Fc領域に見出される任意の定常ドメイン配列(例えば、IgGアイソタイプにおけるCH1)を含有し得、かつ/または無傷抗体に見出される任意のヒンジ領域配列を含有し得、かつ/または重鎖のヒンジ領域配列もしくは定常ドメイン配列に融合されたもしくはそこに配置されたロイシンジッパー配列を含有し得る。
【0026】
本開示において使用するとき、「エピトープ」という用語は、抗体のパラトープが結合する抗原上の任意の抗原決定基を意味する。エピトープ決定基は、通常、アミノ酸または糖側鎖など、分子の化学的に活性な表面団からなり、かつ通常、特異的三次元構造特徴ならびに特異的帯電特徴を有する。
【0027】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書において互換可能に用いられる。該用語は、1個または複数個のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーおよび天然に存在しないアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0028】
本明細書において用いられる「TK-NOGマウス」とは、高度に免疫欠損のNOGマウスの肝臓内で、単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSVtk)導入遺伝子が発現しているマウスを指す。HSVtk導入遺伝子を発現するマウス肝臓細胞は、非毒性用量のガンシクロビル(GCV)への短時間の曝露後に取り除かれ得る。一部の態様において、治療を受ける個体はマウスであり得る。例えば、肝臓細胞が取り除かれたTK-NOGマウスは、低下した肝機能を有する個体(すなわち、肝損傷を有する個体)と見なされ得、したがって該マウスは、主題のiHEPS(下記で詳細に記載される)をマウスに移植する場合に治療を受けている個体と見なされ得る。移植されたヒト肝臓細胞は、TK-NOGマウスの肝臓内で安定して維持され得、かつ移植されたヒト肝臓細胞を有するTK-NOGマウスは、本明細書において、ヒト化TK-NOGマウスと称される。ヒト化TK-NOGマウスの再構成された肝臓は、成熟したかつ機能的なヒト臓器であり得、かつ薬物代謝のヒト特異的プロファイルを生じ得る。「ヒト化肝臓」は、長期の期間(例えば、少なくとも8ヶ月間)、高レベルの機能を有してヒト化TK-NOGマウスにおいて安定して維持され得る。TK-NOGマウスについてのより多くの情報に関しては、(i)Hasegawa et al, Biochem Biophys Res Commun. 2011 Feb 18;405(3):405-10;(ii)Yamazaki et al, Chem Res Toxicol. 2012 Feb 20;25(2):274-6;(iii)Hu et al., Pharmacogenet Genomics. 2013 Feb;23(2):78-83;および(iv)Yamazaki et al, Chem Res Toxicol. 2013 Mar 18;26(3):486-9を参照されたく、これらは参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる。
【0029】
「幹細胞」という用語は、本明細書において、自己再生し得かつ分化した細胞タイプを生じ得る両方の能力を有する哺乳動物細胞を指すために用いられる(Morrison et al. (1997) Cell 88:287-298を参照されたい)。細胞個体発生(ontogeny)の文脈において、「分化した」または「分化している」という形容詞は相対的な用語である。「分化した細胞」とは、それが比較されている細胞よりも、発生経路のさらに下へ進んでいる細胞である。ゆえに、分化万能性(pluripotent)幹細胞は、系統制限された前駆細胞(例えば、脂肪細胞由来幹細胞)に分化し得、それは今度は最終段階の細胞(例えば、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞など)に分化し得、それはある特定の組織タイプにおいて特徴的役割を果たし、かつさらに増殖する能力を保持し得るまたは保持し得ない。幹細胞(および分化した子孫)は、特異的マーカー(例えば、タンパク質、RNAなど)の存在および特異的マーカーの非存在の両方によって特徴付けされ得る。幹細胞は、インビトロおよびインビボの両方の機能的アッセイ、とくに複数種類の分化した子孫を生じ得る幹細胞の能力に関係したアッセイによっても同定され得る。
【0030】
関心対象の幹細胞は哺乳動物のものであり、該用語は、ヒト、家庭用および農業用の動物、ならびにイヌ、ウマ、ネコ、ウシ、マウス、ラット、ウサギなどの動物園用、実験室用、スポーツ用、またはペット用の動物を含めた、哺乳動物として分類される任意の動物から単離された細胞を指す。一部の態様において、哺乳動物はヒトであり、したがって哺乳動物細胞(例えば、脂肪細胞由来幹細胞の集団)はヒト細胞(例えば、ヒト脂肪細胞由来幹細胞の集団)である。
【0031】
細胞培養の文脈における「継代している」または「継代」(すなわち、分割しているまたは分割)という用語は、当技術分野において公知であり、かつ新たな容器内に少数の細胞を移すことを指す。細胞は、それらが定期的に分割された場合に培養され得、なぜならそれは高い細胞密度に伴う老化を回避するためである。付着性細胞に関して、細胞は、継代プロトコールの一部として、成長表面から剥離される。剥離は、一般に、トリプシン酵素および/または他の市販の試薬(例えば、TrypLE、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、表面から細胞を物理的にかき落とすためのポリスマン(例えば、ラバーポリスマン)など)により実施される。次いで、例えば付加的培地による希釈後に、少数の剥離細胞(例えば、わずか1個の細胞)を用いて、新たな細胞集団を播種することができる。したがって、細胞集団を継代することは、細胞集団の細胞の少なくとも一部を解離し、解離された細胞を希釈し、かつ希釈された解離細胞を播くこと(すなわち、新たな細胞集団を播種すること)を意味する。
【0032】
「培地(media)」および「培地(medium)」という用語は、本明細書において互換可能に用いられる。細胞培養培地は、インビトロ培養の間に細胞を浸す液体混合物である。
【0033】
本明細書において用いられる「集団」、例えば「細胞集団」または「細胞の集団」という用語は、他の細胞および/または細胞団から分離している(すなわち、単離されている)2個またはそれを上回る数の細胞の団(すなわち、集団)を意味する。例えば、6ウェル培養ディッシュは、各集団が個々のウェル内に滞在する6つの細胞集団を含有し得る。細胞集団の細胞は、互いのクローン誘導体であり得るが、そうである必要はない。細胞集団は、個々の1個の細胞に由来し得る。例えば、個々の細胞が6ウェル培養ディッシュの単一ウェルに置かれ、かつ各細胞が1回分裂した場合には、該ディッシュは6つの細胞集団を含有する。細胞集団は任意の所望のサイズであり得、かつ1個の細胞よりも多い任意の数の細胞を含有し得る。例えば、細胞集団は、2個もしくはそれを上回る、10個もしくはそれを上回る、100個もしくはそれを上回る、1,000個もしくはそれを上回る、5,000個もしくはそれを上回る、10
4個もしくはそれを上回る、10
5個もしくはそれを上回る、10
6個もしくはそれを上回る、10
7個もしくはそれを上回る、10
8個もしくはそれを上回る、10
9個もしくはそれを上回る、10
10個もしくはそれを上回る、10
11個もしくはそれを上回る、10
12個もしくはそれを上回る、10
13個もしくはそれを上回る、10
14個もしくはそれを上回る、10
15個もしくはそれを上回る、10
16個もしくはそれを上回る、10
17個もしくはそれを上回る、10
18個もしくはそれを上回る、10
19個もしくはそれを上回る、または10
20個もしくはそれを上回る数の細胞であり得る。
【0034】
方法
本開示の局面は、脂肪細胞由来幹細胞(ASC)の集団から肝細胞様細胞の集団を産生する方法を含む。該方法は、概して、ASCの集団を三次元培養(例えば、懸滴浮遊培養、高密度培養、スピナーフラスコ培養、マイクロキャリア培養など)に置いて、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)を産生する工程;前駆体細胞集団を産生するために、ASC由来細胞凝集体の細胞と、アクチビンAおよび線維芽細胞成長因子(FGF)を含む第1の培養培地とを接触させる工程;ならびに誘導肝細胞様細胞(iHep)を含む誘導細胞集団を産生するために、前駆体細胞集団の細胞と、肝細胞成長因子(HGF)を含む第2の培養培地とを接触させる工程を伴う。
【0035】
脂肪由来幹細胞(ASC)
「脂肪由来幹細胞」という用語は、分化万能性であり、かつ骨形成系統、脂肪形成系統、および軟骨形成系統の細胞を含むがそれらに限定されない、様々な細胞タイプに分化する潜在力を有する、出生後哺乳動物に見出される脂肪細胞の集団を指す。ASCは、肝細胞様細胞にも分化し得る。ASCは、文献において、脂肪由来成体幹(ADAS)細胞、脂肪由来成体間質細胞、脂肪由来間質細胞(ADSC)、脂肪間質細胞(ASC)、脂肪間葉系幹細胞(AdMSC)、脂肪芽細胞、周皮細胞、前脂肪細胞、および処理された脂肪吸引(PLA)細胞と称されている。国際脂応用技術学会(International Fat Applied Technology Society)(IFATS)は、単離された、プラスチック付着性の、分化多能性(multipotent)の細胞集団を識別するために、「脂肪由来幹細胞」(ASC)という用語を採用する合意に達した。ゆえに、「脂肪由来幹細胞」(ASC)という用語は、本明細書において、当業者に公知であろうIFATS合意に従って用いられる。細胞株とは対照的に、ASCは不死化を受けていない。
【0036】
多数の科学的刊行物が、ASCの根底にある生物学を記載しており、種々の分野での再生医療におけるASCの使用のための前臨床研究が実施されており、かつASCの有効性がいくつかの臨床試験において判定されている。
【0037】
主題の方法における使用のためのASCは、当業者に公知であろう任意の好都合な方法によって単離され得る。皮下脂肪組織サンプルは、一般的に、局所麻酔下で入手され得る。ASCを単離するために用いられる現在の方法は、一般的に、コラゲナーゼ消化、その後に初代脂肪細胞から間質血管画分を単離する遠心式分離が続く。
【0038】
非限定的な例として、ASCを単離するために、切除された外科的標本(例えば、生検)としてまたは脂肪吸引物として入手された脂肪組織を、カルシウムの存在下においてコラゲナーゼ酵素(例えば、細菌由来のコラゲナーゼ)で消化して、個々の細胞成分を切り離すことができる。その後、成熟脂肪細胞を、残存細胞から(例えば、分画遠心分離(differential centrifugation)により)分離することができ、それは間質血管画分(SVF)ペレットを形成する。SVF細胞集団は、内皮細胞、線維芽細胞、BおよびTリンパ球、マクロファージ、骨髄細胞、周皮細胞、前脂肪細胞、平滑筋細胞、ならびに付着性培養ASCを含む。約10%ウシ胎仔血清を含有する培地(任意の好都合な培養培地が用いられ得る)を用いた培養(例えば、4〜6日間)後、1ミリリットルのヒト脂肪吸引物は、脂肪形成系統(脂肪細胞)、軟骨形成系統(軟骨細胞)、および骨形成系統(骨芽細胞)に沿ってインビトロで分化し得る0.25〜0.375×10
6個のASCをもたらす。ASCは、線維芽細胞様形態を表示し、かつ脂肪細胞に見られる細胞間脂肪滴を欠く。単離されたASCは、典型的に、10%ウシ胎仔血清を含有する基礎培地を用いて、標準的組織培養プラスチック上にて単層培養で増やされる。1人の患者からのリポサクションは、1Lを超える組織をもたらすことが多いため、1回のインビトロ細胞培養継代内で、1人のドナーから何億個ものASCを作製することが実現可能である。SVF細胞とは対照的に、ASCは、表面抗原についてのそれらの発現プロファイルに基づき、比較的均一である。
【0039】
一般的に、脂肪吸引物からのASCの単離は、(1)緩衝生理食塩水中で脂肪吸引物を洗浄すること;(2)脂肪吸引物をコラゲナーゼ消化に供すること;(3)遠心分離しかつ間質血管画分(SVF)ペレットを単離すること;(4)付着性表面上で不均一SVF細胞を培養すること;かつ(5)付着性ASCを単離すること、を含み得る。標準的条件下でのSVF細胞の培養は、(最初の数回の継代のうちは)最終的に、中胚葉細胞または間質細胞の比較的均一な集団であるASCの出現をもたらす。ASCは、例えば、細胞が複数種類の異なる系統に分化し得ることを実証することによって立証され得る(例えば、脂肪細胞は、例えばオイルレッドO染色を用いて識別され得;骨芽細胞は、例えばアリザリンレッド染色を用いて識別され得;かつ軟骨細胞は、例えばアルシアンブルー染色を用いて識別され得る)。タンパク質および核酸マーカーを用いて、複数種類の系統への分化を立証することもできる。
【0040】
細胞療法のための国際学会(International Society for Cellular Therapy)(ISCT)およびIFATSは、機能的かつ定量的な基準に基づいてSVF細胞およびASCを規定する最小基準を制定している。本明細書において用いられる4つの基準は、(1)ASCは、標準的培養条件下で維持された場合にプラスチック付着性である;(2)ASCは、骨形成、脂肪形成、および軟骨形成の分化能を有する;(3)ASCは、CD29、CD34、CD36、CD49f、CD73、CD90(Thy-1)、CD105、CD133、c-kit、およびc-metマーカー(すなわち、分子マーカー)を発現する;かつ(4)ASCは、CD45、CD106、およびCD31に対して陰性である、である。脂肪細胞、軟骨芽細胞、および骨芽細胞の分化アッセイ(例えば、それぞれ、オイルレッドO染色、アルシアンブルー染色、およびアリザリンレッド染色)は、潜在力および分化能を査定するために用いられ得、かつ生化学的なまたは逆転写ポリメラーゼ連鎖反応による、分化についての定量的評価と合わせて用いられ得る。ASCの集団倍加能を算出するために、コロニー形成単位-線維芽細胞(CFU-F)がIFATSによって推奨されている。
【0041】
ASCの単離および培養を含めた、ASCの性質についてのより多くの情報に関しては、(i)Gimble et al., Circ Res. 2007 May 11;100(9):1249-60:「Adipose-derived stem cells for regenerative medicine」;(ii)Gimble et al., Organogenesis. 2013 Jan 1;9(1):「Adipose-derived stromal/stem cells: A primer」;(iii)Bourin et al, Cytotherapy. 2013 Jun;15(6):641-8:「Stromal cells from the adipose tissue-derived stromal vascular fraction and culture expanded adipose tissue-derived stromal/stem cells: a joint statement of the International Federation for Adipose Therapeutics and Science (IFATS) and the International Society for Cellular Therapy (ISCT)」;(iv)Gentile et al, Stem Cells Transl Med. 2012 Mar;1(3):230-6:「Concise review: adipose-derived stromal vascular fraction cells and platelet-rich plasma: basic and clinical implications for tissue engineering therapies in regenerative surgery」;および(v)Mizuno et al., Stem Cells. 2012 May;30(5):804-10:「Concise review: Adipose-derived stem cells as a novel tool for future regenerative medicine」を参照されたい。これらのすべては参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0042】
本明細書において使用するとき、「脂肪組織」という用語は、脂を蓄える結合組織を含めた脂を指す。脂肪組織は、ASCならびに内皮前駆細胞および前駆体細胞を含めた、複数種類の再生細胞タイプを含有する。
【0043】
三次元培養
本開示の方法は、ASCの集団を三次元培養に置いて、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)を産生する工程を含む。本明細書において用いられる「三次元培養」という用語は、低い剪断力(およびその結果として、低い乱流)、および栄養素の高い質量移動を含む方法での細胞の培養を指す。「三次元培養」の非限定的な一例は、凝集体(例えばスフェア、すなわち球状体形成)としての細胞の培養である。細胞(例えば、ASC)の集団を三次元培養に置くことにより、該細胞に細胞凝集体(例えば、細胞スフェア)を形成させることができる。ゆえに、対象となる細胞(例えば、ASCの集団)を三次元培養に置いて、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)を産生することができる。細胞凝集体(例えば、スフェア)は、懸滴浮遊培養、高密度細胞培養(例えば、例えばマイクロキャリアを有するまたは有しない、スピナーフラスコ培養などのかき混ぜ式浮遊培養;例えばマイクロキャリアを有するまたは有しない、バイオリアクター培養;など)、および同類のものを含むがそれらに限定されない、いくつかの三次元培養技法によって産生され得る(実施例の節を参照されたい)。
【0044】
一部の態様において、細胞を、任意の好都合な選定密度(例えば、希釈または濃縮を介する)で三次元培養に置くことができる。例えば、ある場合には、細胞を、1×10
2細胞/ml〜1×10
7細胞/mlの値域にある細胞密度(例えば、5×10
2細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、1×10
3細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜1×10
5細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜5×10
4細胞/ml、7×10
3細胞/ml〜3×10
4細胞/ml、8×10
3細胞/ml〜3×10
4細胞/ml、1×10
4細胞/ml、1×10
4細胞/ml〜1×10
6細胞/ml、5×10
4細胞/ml〜1×10
6細胞/ml、7×10
4細胞/ml〜7×10
5、1×10
5細胞/ml〜7×10
5、3×10
5細胞/ml〜7×10
5、4×10
5細胞/ml〜6×10
5、または5×10
5)で三次元培養に置く。
【0045】
本開示の方法を実践する際に、細胞凝集体(例えば、胚様体に類似し得るスフェア)の形成に十分な期間、ASCを三次元培養で培養することができる。一部の態様において、ASCを、3日間またはそれ未満(例えば、2.5日間もしくはそれ未満、2日間もしくはそれ未満、1.5日間もしくはそれ未満、1日間もしくはそれ未満、12時間もしくはそれ未満、8時間もしくはそれ未満、6時間もしくはそれ未満、または4時間もしくはそれ未満)、三次元培養を用いて培養する(すなわち、ASCを三次元培養に置く)。一部の態様において、ASCを、2時間〜3日間の値域にある期間(例えば、2時間〜3日間、2時間〜2.5日間、2時間〜2日間、2時間〜1.5日間、2時間〜1日間、6時間〜3日間、6時間〜2.5日間、6時間〜2日間、6時間〜1.5日間、6時間〜1日間、6時間〜12時間、8時間〜3日間、8時間〜2.5日間、8時間〜2日間、8時間〜1.5日間、8時間〜1日間、8時間〜12時間、12時間〜2.5日間、12時間〜2日間、12時間〜1.5日間、12時間〜1日間、1日間〜3日間、1日間〜2.5日間、1日間〜2日間、1日間〜1.5日間、1.5日間〜3日間、1.5日間〜2.5日間、1.5日間〜2日間、2日間〜3日間、1日間から、1.5日間、2日間から、2.5日間から、または3日間)、三次元培養を用いて培養する。
【0046】
懸滴浮遊培養
一部の態様において、三次元培養は懸滴浮遊培養である。ゆえに、一部の態様において、対象となる細胞(例えば、ASC)の凝集体は、細胞を懸滴浮遊培養に置くことによって形成される。懸滴浮遊培養は、胚性幹細胞(ESC)から胚様体を形成するためにしばしば用いられる技法である。流体中の細胞を、表面(例えば、ペトリディッシュ、カバースリップ、ガラス、プラスチックなどの表面)上に液滴状(通常、サイズが5〜50μlの値域にある)に置き、かつ細胞が表面からぶら下がるように表面を反転させる。ゆえに、細胞は、前記表面の上面で培養されるのではなく、ぶら下がった液滴中で表面の下で培養される。ぶら下がった液滴は、懸滴と称されることもある。一部の細胞は、懸滴浮遊培養を用いて培養された場合に、凝集体(「スフェア」および/または「球状体」と称される)を形成する。
【0047】
一部の態様において、細胞を、選定密度(例えば、希釈または濃縮を介する)で懸滴浮遊培養に置くことができる。例えば、ある場合には、細胞を、1×10
2細胞/ml〜1×10
7細胞/mlの値域にある細胞密度(例えば、5×10
2細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、1×10
3細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜1×10
5細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜5×10
4細胞/ml、7×10
3細胞/ml〜3×10
4細胞/ml、8×10
3細胞/ml〜3×10
4細胞/ml、1×10
4細胞/ml、1×10
4細胞/ml〜1×10
6細胞/ml、5×10
4細胞/ml〜1×10
6細胞/ml、7×10
4細胞/ml〜7×10
5、1×10
5細胞/ml〜7×10
5、3×10
5細胞/ml〜7×10
5、4×10
5細胞/ml〜6×10
5、または5×10
5)で懸滴浮遊培養に置く。
【0048】
本開示の方法を実践する際に、細胞凝集体(例えば、胚様体に類似し得るスフェア)の形成に十分な期間、ASCを懸滴法によって培養する(すなわち、懸滴浮遊培養を用いて培養する)ことができる。一部の態様において、ASCを、3日間またはそれ未満(例えば、2.5日間もしくはそれ未満、2日間もしくはそれ未満、1.5日間もしくはそれ未満、1日間もしくはそれ未満、12時間もしくはそれ未満、8時間もしくはそれ未満、6時間もしくはそれ未満、または4時間もしくはそれ未満)、懸滴浮遊培養を用いて培養する(すなわち、ASCを懸滴浮遊培養に置く)。一部の態様において、ASCを、2時間〜3日間の値域にある期間(例えば、2時間〜3日間、2時間〜2.5日間、2時間〜2日間、2時間〜1.5日間、2時間〜1日間、6時間〜3日間、6時間〜2.5日間、6時間〜2日間、6時間〜1.5日間、6時間〜1日間、6時間〜12時間、8時間〜3日間、8時間〜2.5日間、8時間〜2日間、8時間〜1.5日間、8時間〜1日間、8時間〜12時間、12時間〜2.5日間、12時間〜2日間、12時間〜1.5日間、12時間〜1日間、1日間〜3日間、1日間〜2.5日間、1日間〜2日間、1日間〜1.5日間、1.5日間〜3日間、1.5日間〜2.5日間、1.5日間〜2日間、2日間〜3日間、1日間から、1.5日間、2日間から、2.5日間から、または3日間)、懸滴浮遊培養を用いて培養する。
【0049】
一部の態様において、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)を、三次元培養(例えば、懸滴浮遊培養、高密度培養、スピナーフラスコ培養、マイクロキャリア培養など)から取り出す。例えば、細胞凝集体(例えば、スフェア)を流体中に懸濁し、かつ三次元培養とは見なされない二次元表面上に播くことができる。ある場合には、凝集体(例えば、スフェア)を回収し(例えば、遠心分離により)、かつ懸濁する。ある場合には、凝集体(例えば、スフェア)を回収し、かつ15個の凝集体/ml〜45個の凝集体/mlの値域にある密度(例えば、20個の凝集体/ml〜40個の凝集体/ml、25個の凝集体/ml〜35個の凝集体/ml、または30個の凝集体/ml)で懸濁する。凝集体を、任意の好都合な培地(例えば、下記で記載されるステージ1培地)中に懸濁することができる。ある場合には、回収された(懸濁された)凝集体(例えば、スフェア)を播種する(すなわち、例えばマトリゲルコートされたディッシュ上に播く)。一部の態様において、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)とステージ1培地とを接触させるのと同時にまたはその前に、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)を、三次元培養(例えば、懸滴浮遊培養、高密度培養、スピナーフラスコ培養、マイクロキャリア培養など)から取り出す。ゆえに、ある場合には、細胞を、三次元培養から取り出した後に、ステージ1培地中で培養する(例えば、それと接触させる)。一部の態様において、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)の細胞を、依然として三次元培養にありながら、ステージ1培地と接触させる(例えば、細胞を非反転培養条件に移すため)。
【0050】
高密度培養−マイクロキャリア培養
一部の態様において、三次元培養は高密度培養である。ゆえに、対象となる細胞(例えば、ASC)の凝集体(例えば、スフェア)は、細胞を高密度培養に置くことによって形成される。一部の態様において、高密度培養はマイクロキャリア培養である。一部の態様において、三次元培養はマイクロキャリア培養である。ゆえに、対象となる細胞(例えば、ASC)の凝集体(例えば、スフェア)は、細胞をマイクロキャリア培養に置くことによって形成される。「マイクロキャリア培養」という用語は、本明細書において、支持マトリックス(例えば、球状支持マトリックス)上での細胞の培養を指すために用いられる。このシステムにおいて、細胞は、ゆっくりとした撹拌によって成長培地中に浮遊した小さな固体粒子の表面上で増殖する。細胞は、マイクロキャリアの表面上に接着し、かつコンフルエンスまで増大する。
【0051】
マイクロキャリアは、種々の形状およびサイズで産生され得、球状が最も一般的であり、かつそれらの密度により、それらは穏やかなかき混ぜで浮遊状態に維持されることが可能となる。各マイクロキャリアは、いくらかの増倍への細胞増大を容易にし得る寸法を有するべきである。このようにして細胞増大の終わりには、各マイクロキャリアは、その表面上に数百個の細胞を支持する。球状マイクロキャリアは、通常100〜250μmの直径を有する。一部の態様において、マイクロキャリアは、100μm〜250μmの値域にある直径を有するスフェアである。球状マイクロキャリアのサイズ分布は、マイクロキャリア上の細胞の不均等な分布を阻止するために低くあるべきである(例えば、±25μm)。マイクロキャリアの密度は、最小限の撹拌速度でマイクロキャリアを浮遊状態に維持するために、1をわずかに上回るべきである(例えば、1.02〜1.05g/ml)。
【0052】
マイクロキャリアは、ジエチルアミノエタノール(DEAE)-デキストラン、デキストラン、ガラス、ポリスチレンプラスチック、アクリルアミド(例えば、ポリアクリルアミド)、コラーゲンなどを含めた、多数の異なる材料から作製され得る。ある場合には、生分解性マイクロキャリアを、細胞のインビボ移植のための足場として用いることができる。MC表面は細胞増大に利用可能であるが、一方で培地中でのMCの可動性は、伝統的な哺乳動物および微生物の液中培養において用いられる浮遊環境と同程度である均一性を生み出す。
【0053】
マイクロキャリアの表面は、組換えタンパク質、正に帯電した第三級、第四級、または第一級アミン、ゼラチン、コラーゲン、他の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質およびペプチド(例えば、RGDペプチド)などの官能基で誘導体化され得る。正に帯電したMCは、静電気力によって、(負に帯電している)細胞に接着する。正電荷の最適な量は、一般的に、1〜2ミリ当量/g乾燥材料であることが見出されている(第三級アミンで誘導体化された、架橋デキストランまたはポリアクリルアミドビーズに関して)。このレベルで、細胞は、細胞増大に負の影響なく、マイクロキャリアに効率的に(1時間以内に約90%)接着する。コラーゲンまたはECMタンパク質によるコーティングは、より低い細胞接着をもたらすが、通常、低い接種レベルで、細胞のより良好な増大を支持する。
【0054】
デキストランベース(Cytodex、GE Healthcare)、コラーゲンベース(Cultispher、Percell)、およびポリスチレンベース(SoloHill Engineering)のマイクロキャリアを含めた、いくつかのタイプのマイクロキャリアが市販されている。それらは、その多孔度、比重、光学特性、動物性成分の存在、および表面化学の点で異なる。マイクロキャリアを以下の6つのグループにカテゴリー化することが可能である。
【0055】
グループ1:正電荷を有する、非多孔性の滑らかなマイクロキャリア(例えば、ポリスチレンマイクロキャリア)または微孔性マイクロキャリア(例えば、Cytodex 1)。これらのマイクロキャリアは、かき混ぜ式培養においてマイクロキャリアの表面上で細胞の連続的単層を形成する付着性細胞を培養するのに適している。このグループには、細胞株(BHKおよびMDCK)を培養することに用いられ成功している、円筒形状のマイクロキャリアであるWhatmanの陰イオン交換セルロース(DE-53)も含まれる。
【0056】
グループ2:コラーゲンコートされたマイクロキャリア(例えば、Cytodex 3およびFACT 102-L)。これらのマイクロキャリアは、コラーゲンと化学的にカップリングしており、かつ低い播き効率を有する感受性細胞を培養するのに適している。コラーゲンコーティングは、細胞収集を容易にするようにも設計されている。
【0057】
グループ3:ECMコートされたマイクロキャリア(ProF 102-L)。ProF 102-Lは組換えフィブロネクチンでコートされており、それは、血清不含条件において感受性細胞を培養するために設計されている。
【0058】
グループ4:非帯電マイクロキャリア(例えば、ガラスビーズおよび組織培養ポリスチレンMC P 102-L)。これらのマイクロキャリアは、伝統的な2D組織培養表面と同様の表面特性を有する。
【0059】
グループ5:マクロ多孔性マイクロキャリア(例えば、CytoporeおよびCultispher)。表面上に10〜70μmの値域にある孔サイズを有するマクロ多孔性マイクロキャリア。それらは、増大のためのより高い細胞表面面積を提供し、かつかき混ぜ器、スパージャー、またはスピンフィルターによって生み出される剪断ストレスからのより良好な力学的保護を細胞に付与する。
【0060】
グループ6:重みを加えたマイクロキャリア(Cytoline)。これらのマイクロキャリアは、流動床灌流培養における使用のために設計されている。これらの商業的マイクロキャリアは、ワクチンおよびバイオ医薬品の産生において用いられる固定物(anchorage)依存的細胞株を増殖させる必要性に従って設計されている。
【0061】
本開示の方法を実践する際に、細胞凝集体(例えば、胚様体に類似し得るスフェア)の形成に十分な期間、ASCをマイクロキャリア培養によって培養する(すなわち、マイクロキャリア培養を用いて培養する)ことができる。一部の態様において、ASCを、3日間またはそれ未満(例えば、2.5日間もしくはそれ未満、2日間もしくはそれ未満、1.5日間もしくはそれ未満、1日間もしくはそれ未満、12時間もしくはそれ未満、8時間もしくはそれ未満、6時間もしくはそれ未満、または4時間もしくはそれ未満)、マイクロキャリア培養を用いて培養する(すなわち、ASCをマイクロキャリア培養に置く)。一部の態様において、ASCを、2時間〜3日間の値域にある期間(例えば、2時間〜3日間、2時間〜2.5日間、2時間〜2日間、2時間〜1.5日間、2時間〜1日間、6時間〜3日間、6時間〜2.5日間、6時間〜2日間、6時間〜1.5日間、6時間〜1日間、6時間〜12時間、8時間〜3日間、8時間〜2.5日間、8時間〜2日間、8時間〜1.5日間、8時間〜1日間、8時間〜12時間、12時間〜2.5日間、12時間〜2日間、12時間〜1.5日間、12時間〜1日間、1日間〜3日間、1日間〜2.5日間、1日間〜2日間、1日間〜1.5日間、1.5日間〜3日間、1.5日間〜2.5日間、1.5日間〜2日間、2日間〜3日間、1日間から、1.5日間、2日間から、2.5日間から、または3日間)、マイクロキャリア培養を用いて培養する。
【0062】
種々の目的のための、および種々のタイプの細胞を用いる、(例えば、スピナーフラスコ、バイオリアクターなどを用いた)マイクロキャリアの使用の例に関しては、(i)Chen et al, Biotechnol Adv. 2013 Mar 24. pii:S0734-9750(13)00065-7: Application of human mesenchymal and pluripotent stem cell microcarrier cultures in cellular therapy: Achievements and future direction;(ii)Pacak et al, PLoS One. 2013;8(1):e55187: Microcarrier-based expansion of adult murine side population stem cells;(iii)Torgan et al, Med Biol Eng Comput. 2000 Sep;38(5):583-90: Differentiation of mammalian skeletal muscle cells cultured on microcarrier beads in a rotating cell culture system;および(iv)Park et al, Tissue Eng Part B Rev. 2013 Apr;19(2):172-90: Microcarriers designed for cell culture and tissue engineering of boneなどの科学的文献;ならびに米国特許第8524492号、第8426176号、第7947471号、第7670839号、第7361493号、第6214618号、および第5153133号、第4910142号、および第4824946号などの特許文献を参照されたく、そのすべては参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる。
【0063】
マイクロキャリア培養は、一般的に、マイクロキャリア(例えば、細胞を積んだマイクロキャリア)の撹拌を要する。撹拌には、単純な撹拌もしくは振とう、スピナーフラスコを用いた撹拌、および/またはバイオリアクター(回転(rotating)細胞培養システム(RCCS)、回転式(rotary)細胞培養システム(RCCS)、または回転チャンバーシステムとしても知られる)を用いた撹拌が含まれ得る。
【0064】
高密度培養−スピナーフラスコ培養
一部の態様において、三次元培養は高密度培養である。ゆえに、対象となる細胞(例えば、ASC)の凝集体(例えば、スフェア)は、細胞を高密度培養に置くことによって形成される。一部の態様において、高密度培養はスピナーフラスコ培養である。スピナーフラスコ培養は、かき混ぜ式浮遊培養の例である。かき混ぜ式浮遊培養(すなわち、大量浮遊培養)(例えば、スピナーフラスコ培養、バイオリアクター培養など)を用いて、マイクロキャリアの非存在下でまたはマイクロキャリアの存在下で、細胞を培養することができる。ゆえに、一部の態様において、マイクロキャリア培養は、スピナーフラスコを用いて撹拌される。一部の態様において、三次元培養(例えば、高密度培養)は、マイクロキャリアなしの(すなわち、その非存在下における)スピナーフラスコ培養である。マイクロキャリアの非存在下において、かき混ぜ式浮遊培養(例えば、スピナーフラスコ培養、バイオリアクター培養)に置かれたASCは、依然として細胞凝集体(例えば、スフェア)を形成する(
図13)。ゆえに、一部の態様において、三次元培養(例えば、高密度培養)は、マイクロキャリアなしの(すなわち、その非存在下における)スピナーフラスコ培養である。
【0065】
スピナーフラスコ(すなわち、かき混ぜボトル)は、一般的に、細胞(例えば、マイクロキャリアの非存在下での細胞、マイクロキャリア上の細胞など)および培地(すなわち、栄養素)の均一な循環、ならびに優れたガス交換(例えば、酸素供給)を提供することによって、大量の細胞の培養を容易にするように設計されている。スピナーフラスコは、任意の好都合な材料(例えば、ホウケイ酸ガラス、組織培養グレードのプラスチックなど)から作製され得、かつ通常、磁性かき混ぜ板を用いて制御され得るかき混ぜ装置(例えば、通常、縦型インペラまたはぶら下がり式かき混ぜ棒)を備えた平底フラスコである。スピナーフラスコは、ピペットの導入を可能にする、角度がついた2つのサイドアームも含み得る。高密度培養を提供する任意の好都合なスピナーフラスコを、主題の方法を実践する際に用いることができる。
【0066】
一部の態様において、細胞を、任意の好都合な選定密度(例えば、希釈または濃縮を介する)でスピナーフラスコ培養に置くことができる。例えば、ある場合には、細胞を、1×10
2細胞/ml〜1×10
7細胞/mlの値域にある細胞密度(例えば、5×10
2細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、1×10
3細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜1×10
5細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜5×10
4細胞/ml、7×10
3細胞/ml〜3×10
4細胞/ml、8×10
3細胞/ml〜3×10
4細胞/ml、1×10
4細胞/ml、1×10
4細胞/ml〜1×10
6細胞/ml、5×10
4細胞/ml〜1×10
6細胞/ml、7×10
4細胞/ml〜7×10
5、1×10
5細胞/ml〜7×10
5、3×10
5細胞/ml〜7×10
5、4×10
5細胞/ml〜6×10
5、または5×10
5)でスピナーフラスコ培養に置く。
【0067】
本開示の方法を実践する際に、細胞凝集体(例えば、胚様体に類似し得るスフェア)の形成に十分な期間、ASCをスピナーフラスコ培養によって培養する(すなわち、スピナーフラスコ培養を用いて培養する)ことができる。一部の態様において、ASCを、3日間またはそれ未満(例えば、2.5日間もしくはそれ未満、2日間もしくはそれ未満、1.5日間もしくはそれ未満、1日間もしくはそれ未満、12時間もしくはそれ未満、8時間もしくはそれ未満、6時間もしくはそれ未満、または4時間もしくはそれ未満)、スピナーフラスコ培養を用いて培養する(すなわち、ASCをスピナーフラスコ培養に置く)。一部の態様において、ASCを、2時間〜3日間の値域にある期間(例えば、2時間〜3日間、2時間〜2.5日間、2時間〜2日間、2時間〜1.5日間、2時間〜1日間、6時間〜3日間、6時間〜2.5日間、6時間〜2日間、6時間〜1.5日間、6時間〜1日間、6時間〜12時間、8時間〜3日間、8時間〜2.5日間、8時間〜2日間、8時間〜1.5日間、8時間〜1日間、8時間〜12時間、12時間〜2.5日間、12時間〜2日間、12時間〜1.5日間、12時間〜1日間、1日間〜3日間、1日間〜2.5日間、1日間〜2日間、1日間〜1.5日間、1.5日間〜3日間、1.5日間〜2.5日間、1.5日間〜2日間、2日間〜3日間、1日間から、1.5日間、2日間から、2.5日間から、または3日間)、スピナーフラスコ培養を用いて培養する。
【0068】
高密度培養−バイオリアクター培養
一部の態様において、三次元培養は高密度培養である。ゆえに、対象となる細胞(例えば、ASC)の凝集体(例えば、スフェア)は、細胞を高密度培養に置くことによって形成される。一部の態様において、高密度培養はバイオリアクター培養である。バイオリアクター培養は、かき混ぜ式浮遊培養の例である。かき混ぜ式浮遊培養(すなわち、大量浮遊培養)(例えば、スピナーフラスコ培養、バイオリアクター培養など)を用いて、マイクロキャリアの非存在下でまたはマイクロキャリアの存在下で、細胞を培養することができる。ゆえに、一部の態様において、マイクロキャリア培養は、バイオリアクターを用いて撹拌される。一部の態様において、三次元培養(例えば、高密度培養)は、マイクロキャリアなしの(すなわち、その非存在下における)バイオリアクター培養である。マイクロキャリアの非存在下において、かき混ぜ式浮遊培養(例えば、スピナーフラスコ培養、バイオリアクター培養)に置かれたASCは、依然として細胞凝集体(例えば、スフェア)を形成する。ゆえに、一部の態様において、三次元培養(例えば、高密度培養)は、マイクロキャリアなしの(すなわち、その非存在下における)バイオリアクター培養である。
【0069】
バイオリアクター(回転細胞培養システム(RCCS)、回転式細胞培養システム(RCCS)、または回転チャンバーシステムとしても知られる)は、ガス(例えば、大気、酸素、窒素、二酸化炭素)流速、温度、pH、溶存酸素レベル、撹拌速度/循環率などの環境条件を制御し得る。スピナーフラスコのように、バイオリアクターは、細胞(例えば、マイクロキャリアの非存在下での細胞、マイクロキャリア上の細胞など)および培地(すなわち、栄養素)の均一な循環、ならびに優れたガス交換(例えば、酸素供給)を提供することによって、大量の細胞の培養を容易にするように設計されている。高密度細胞培養を提供する任意の好都合なバイオリアクターを、開示される方法とともに用いることができ、かつ種々の適切なバイオリアクターが、当技術分野において公知である。適切なバイオリアクターの例には、回転壁微小重力バイオリアクター、回転壁容器バイオリアクター(RWVB)、かき混ぜ式タンクバイオリアクター、潅流バイオリアクター、流動床バイオリアクターが含まれるが、それらに限定されるわけではない。バイオリアクターは、ステンレス鋼、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラスなどを含むがそれらに限定されない、多種多様の異なる材料から作製され得る。
【0070】
バイオリアクターは、浮遊した哺乳動物細胞の増殖に用いられる例えば好都合なステンレス鋼または使い捨てバイオリアクターにおける培養のスケールアップを可能にし得る。バイオリアクターは、サイズに幅がある。ある場合には、バイオリアクター培養は、5リットル〜105リットルの値域にある培養(例えば、5リットル〜15リットル、8リットル〜12リットル、15リットル〜25リットル、25リットル〜40リットル、40リットル〜50リットル、45リットル〜55リットル、55リットル〜65リットル、65リットル〜75リットル、75リットル〜85リットル、85リットル〜95リットル、または95リットル〜105リットル)である。
【0071】
一部の態様において、細胞を、任意の好都合な選定密度(例えば、希釈または濃縮を介する)でバイオリアクター培養に置くことができる。例えば、ある場合には、細胞を、1×10
2細胞/ml〜1×10
7細胞/mlの値域にある細胞密度(例えば、5×10
2細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、1×10
3細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜5×10
6細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜1×10
5細胞/ml、5×10
3細胞/ml〜5×10
4細胞/ml、7×10
3細胞/ml〜3×10
4細胞/ml、8×10
3細胞/ml〜3×10
4細胞/ml、1×10
4細胞/ml、1×10
4細胞/ml〜1×10
6細胞/ml、5×10
4細胞/ml〜1×10
6細胞/ml、7×10
4細胞/ml〜7×10
5、1×10
5細胞/ml〜7×10
5、3×10
5細胞/ml〜7×10
5、4×10
5細胞/ml〜6×10
5、または5×10
5)でバイオリアクター培養に置く。
【0072】
本開示の方法を実践する際に、細胞凝集体(例えば、胚様体に類似し得るスフェア)の形成に十分な期間、ASCをバイオリアクター培養で培養することができる。一部の態様において、ASCを、3日間またはそれ未満(例えば、2.5日間もしくはそれ未満、2日間もしくはそれ未満、1.5日間もしくはそれ未満、1日間もしくはそれ未満、12時間もしくはそれ未満、8時間もしくはそれ未満、6時間もしくはそれ未満、または4時間もしくはそれ未満)、バイオリアクター培養を用いて培養する(すなわち、ASCをバイオリアクター培養に置く)。一部の態様において、ASCを、2時間〜3日間の値域にある期間(例えば、2時間〜3日間、2時間〜2.5日間、2時間〜2日間、2時間〜1.5日間、2時間〜1日間、6時間〜3日間、6時間〜2.5日間、6時間〜2日間、6時間〜1.5日間、6時間〜1日間、6時間〜12時間、8時間〜3日間、8時間〜2.5日間、8時間〜2日間、8時間〜1.5日間、8時間〜1日間、8時間〜12時間、12時間〜2.5日間、12時間〜2日間、12時間〜1.5日間、12時間〜1日間、1日間〜3日間、1日間〜2.5日間、1日間〜2日間、1日間〜1.5日間、1.5日間〜3日間、1.5日間〜2.5日間、1.5日間〜2日間、2日間〜3日間、1日間から、1.5日間、2日間から、2.5日間から、または3日間)、バイオリアクター培養を用いて培養する。
【0073】
分化培地中での細胞培養
本明細書において用いられる「分化培地」という用語は、細胞が分化するように誘導するために用いられ得る培地を指す。例えば、ステージ1およびステージ2培地(下記で記載される)は、ASCが肝細胞様細胞に分化するように誘導するために用いられる2種類のタイプの分化培地である。一部の態様において、方法は、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)を三次元培養(懸滴浮遊培養、高密度培養、スピナーフラスコ培養、バイオリアクター培養、かき混ぜ式浮遊培養、マイクロキャリア培養など)から取り出す工程、ならびに前駆体細胞集団を産生するために、ASC由来細胞凝集体の細胞と、アクチビンAおよび線維芽細胞成長因子(FGF)を含む第1の培養培地(例えば、ステージ1培地)とを接触させる(例えば、3日間またはそれ未満)工程を含む。一部の態様において、誘導肝細胞様細胞(iHep)を含む誘導細胞集団を産生するために、前駆体細胞集団の細胞と、肝細胞成長因子(HGF)を含む第2の培養培地(例えば、ステージ2培地)とを接触させる(例えば、7日間またはそれ未満)。適切な分化培地中に含まれ得る、下記で挙げられるすべてのタンパク質は、任意の好都合な供給源から提供され得る(例えば、組織から精製される、組換えなど)。
【0074】
一部の態様において、前駆体細胞集団を産生するために、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)の細胞と、ステージ1培地(下記で規定されるもの、例えばアクチビンAおよびFGFを有する培養培地)とを3日間またはそれ未満(例えば、2.5日間もしくはそれ未満、2日間もしくはそれ未満、1.5日間もしくはそれ未満、1日間もしくはそれ未満、または12時間もしくはそれ未満)接触させる。一部の態様において、前駆体細胞集団を産生するために、ASC由来細胞凝集体(例えば、スフェア)の細胞とステージ1培地とを、12時間〜3日間の値域にある期間(例えば、12時間〜2.5日間、12時間〜2日間、12時間〜1.5日間、12時間〜1日間、1日間〜3日間、1日間〜2.5日間、1日間〜2日間、1日間〜1.5日間、1.5日間〜3日間、1.5日間〜2.5日間、1.5日間〜2日間、2日間〜3日間、1日間、1.5日間、2日間、2.5日間、または3日間)接触させる。
【0075】
一部の態様において、誘導肝細胞様細胞を含む誘導細胞集団を産生するために、前駆体細胞集団の細胞と、ステージ2培地(下記で規定されるもの、例えば肝細胞成長因子(HGF)を有する培養培地)とを8日間またはそれ未満(例えば、7.5日間もしくはそれ未満、7日間もしくはそれ未満、6.5日間もしくはそれ未満、6日間もしくはそれ未満、5.5日間もしくはそれ未満、5日間もしくはそれ未満、4.5日間もしくはそれ未満、4日間もしくはそれ未満、3.5日間もしくはそれ未満、3日間もしくはそれ未満、2.5日間もしくはそれ未満、2日間もしくはそれ未満、1.5日間もしくはそれ未満、1日間もしくはそれ未満、または12時間もしくはそれ未満)接触させる。一部の態様において、誘導肝細胞様細胞を含む誘導細胞集団を産生するために、前駆体細胞集団の細胞とステージ2培地とを、12時間〜8日間の値域にある期間(例えば、12時間〜8日間、1日間〜8日間、2日間〜8日間、3日間〜8日間、4日間〜8日間、5日間〜8日間、6日間〜8日間、2日間〜7日間、3日間〜7日間、4日間〜7日間、5日間〜7日間、6日間〜7日間、5.5日間〜8日間、5.5日間〜7.5日間、5.5日間〜6.5日間、6日間〜7.5日間、6.5日間〜7.5日間、1日間、2日間、3日間、または3日間)接触させる。
【0076】
一部の態様において、(i)ASCの集団を三次元培養に置く工程から、(ii)誘導肝細胞様細胞(iHep)を含む誘導細胞集団を産生する工程までの総経過時間は、13日間未満(例えば、12.5日間未満、12日間未満、11.5日間未満、11日間未満、10.5日間未満、10日間未満、9.5日間未満、9日間未満、8.5日間未満、8日間未満、7.5日間未満、7日間未満、6.5日間未満、6日間未満、5.5日間未満、5日間未満、4.5日間未満、または4日間未満)である。
【0077】
一部の態様において、(i)ASCの集団を三次元培養に置く工程から、(ii)誘導肝細胞様細胞(iHep)を含む誘導細胞集団を産生する工程までの総経過時間は、13日間またはそれ未満(例えば、12.5日間もしくはそれ未満、12日間もしくはそれ未満、11.5日間もしくはそれ未満、11日間もしくはそれ未満、10.5日間もしくはそれ未満、10日間もしくはそれ未満、9.5日間もしくはそれ未満、9日間もしくはそれ未満、8.5日間もしくはそれ未満、8日間もしくはそれ未満、7.5日間もしくはそれ未満、7日間もしくはそれ未満、6.5日間もしくはそれ未満、6日間もしくはそれ未満、5.5日間もしくはそれ未満、5日間もしくはそれ未満、4.5日間もしくはそれ未満、または4日間もしくはそれ未満)である。
【0078】
一部の態様において、(i)ASCの集団を三次元培養に置く工程から、(ii)誘導肝細胞様細胞(iHep)を含む誘導細胞集団を産生する工程までの総経過時間は、12時間〜13日間の値域にある(例えば、1日間〜13日間、2日間〜13日間、3日間〜13日間、4日間〜13日間、4.5日間〜13日間、5日間〜13日間、5.5日間〜13日間、6日間〜13日間、6.5日間〜13日間、7日間〜13日間、7.5日間〜13日間、8日間〜13日間、8.5日間〜13日間、9日間〜13日間、9.5日間〜13日間、10日間〜13日間、10.5日間〜13日間、11日間〜13日間、11.5日間〜13日間、12時間〜12.5日間、1日間〜12.5日間、2日間〜12.5日間、3日間〜12.5日間、4日間〜12.5日間、4.5日間〜12.5日間、5日間〜12.5日間、5.5日間〜12.5日間、6日間〜12.5日間、6.5日間〜12.5日間、7日間〜12.5日間、7.5日間〜12.5日間、8日間〜12.5日間、8.5日間〜12.5日間、9日間〜12.5日間、9.5日間〜12.5日間、10日間〜12.5日間、10.5日間〜12.5日間、11日間〜12.5日間、11.5日間〜12.5日間、12時間〜12日間、1日間〜12日間、2日間〜12日間、3日間〜12日間、4日間〜12日間、4.5日間〜12日間、5日間〜12日間、5.5日間〜12日間、6日間〜12日間、6.5日間〜12日間、7日間〜12日間、7.5日間〜12日間、8日間〜12日間、8.5日間〜12日間、9日間〜12日間、9.5日間〜12日間、10日間〜12日間、10.5日間〜12日間、11日間〜12日間、3日間〜11日間、3日間〜10日間、3日間〜9.5日間、3日間〜9日間、6日間〜10日間、または4日間〜10日間)。
【0079】
基礎細胞培養培地
対象となる細胞(例えば、ASC、iHep、分化しているASCなど)を、本明細書において「基礎細胞培養培地」と称される適当な液体栄養培地中で培養する。下記で記載されるように、ステージ1およびステージ2培地は、少なくとも1種類の付加的成分を補給された基礎培養培地である。種々の基礎培地調合物が入手可能である(例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI、イスコフ培地、肝細胞培養培地(HCM)(Lonza、カタログ番号:cc-3198)など)。
【0080】
任意の好都合な培養培地が、基礎培養培地としての役割を果たし得る。例えば、適切な組織培養培地は、ビタミン;アミノ酸(例えば、必須アミノ酸、非必須アミノ酸など);pH緩衝剤;塩;抗微生物剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤など);血清(例えば、ウシ胎仔血清、ヒト血清、子ウシ血清、ウマ血清、ヤギ血清など);エネルギー源(例えば、糖類);ヌクレオシド;脂質;微量金属;サイトカイン;成長因子;刺激因子;添加物(例えば、ピルベート(0.1〜5mM)、グルタミン(0.5〜5mM)など);および同類のものなどの成分を含有し得る。任意の好都合な細胞培養培地を用いることができ、かつ当技術分野において公知であるように、種々の細胞タイプは、特定の培地調製物中でより良好に増大する。例えば、ある場合には、特定の培地調合物は、特定のタイプの細胞(例えば、ASC、肝細胞(肝細胞培養培地(HCM)(Lonza、カタログ番号:cc-3198))、神経前駆細胞、胚性幹細胞など)を培養するために最適化されている。したがって、任意の好都合な細胞培養培地を、基礎培養培地として用いることができ、かつASCおよび/またはそれらの分化子孫の培養に合わせて調製してもよい。
【0081】
1つの例示的、非限定的な適した基礎培地は、RPMI(ロズウェルパーク記念研究所(Roswell Park Memorial Institute)1640であり、それは、血清(ウシ胎仔血清(FBS))補給により哺乳動物細胞の培養を可能にする基礎培地として当技術分野において周知である。別の適切な基礎培養培地はアドバンストRPMI 1640であり、それは、伝統的なRPMI 1640に似ているが、増大率または形態の変化なく血清補給を50〜90%低下させることが可能である。アドバンストRPMI 1640は、例えばグルコース、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびフェノールレッドを含有し得る。RPMI 1640に関して、アドバンストRPMI 1640に関して、および多くの適切な市販の基礎培養培地に関して、完全な処方は、当業者にとって容易に入手可能である(例えば、オンラインで)。別の適切な基礎培養培地は、CLONETICS(商標)肝細胞培養培地(HCM(商標))である(例えば、Lonza−カタログ番号3198より入手可能)。
【0082】
ステージ1培地
「ステージ1培地」は、本明細書において、「第1の培養培地」とも称される。適切なステージ1培地は、少なくともアクチビンA(例えば、100ng/ml)および線維芽細胞成長因子(例えばFGF4、例えば20ng/ml)が補給された、細胞(例えば、ASC、分化しているASCなど)の培養に適した基礎培養培地(例えば、アドバンストRPMI 1640、RPMI 1640など)である。ある場合には、ステージ1培地は、Wntシグナル伝達アゴニスト(例えばWnt3a、例えば50ng/ml)を含む。ある場合には、ステージ1培地は、当技術分野において公知であるB27(例えば、20%)などの補給剤を含む。ある場合には、ステージ1培地は、Wntシグナル伝達アゴニストおよび補給剤(例えば、B27)を含む。ある場合には、ステージ1培地に用いられる基礎培養培地はアドバンストRPMI 1640であり、かつそれは、アクチビンA(例えば、100ng/ml)、FGF4(例えば、20ng/ml)、Wnt3a(例えば、50ng/ml)、および20% B27が補給されている。一般的に、ステージ1培地は、ASCを内胚葉系統へ分化させる。
【0083】
アクチビンは、ジスルフィド結合によって結合しているβサブユニットからなる二量体タンパク質である。次の3つの異なる様態のアクチビンが存在する:(i)ホモ二量体型アクチビンA(2つのβ
Aサブユニット);(ii)ホモ二量体型アクチビンB(2つのβ
Bサブユニット);および(iii)ヘテロ二量体型アクチビンAB(1つのβ
Aおよび1つのβ
Bサブユニット)。本明細書において用いられる「アクチビンA」という用語は、β
Aサブユニットのホモ二量体を指す。β
Aサブユニットは、「インヒビンβA鎖」または「INHBA」とも称されるポリペプチドである。インヒビンβA鎖のアミノ酸配列は、
である。
【0084】
一部の態様において、対象となるステージ1培地は、アクチビンAを約50ng/ml〜約150ng/mlの値域にある濃度(例えば、約60ng/ml〜約140ng/ml、約70ng/ml〜約130ng/ml、約80ng/ml〜約120ng/ml、約85ng/ml〜約115ng/ml、約90ng/ml〜約110ng/ml、約95ng/ml〜約105ng/ml、約97.5ng/ml〜約102.5ng/ml、または約100ng/ml)で含む。
【0085】
線維芽細胞成長因子(FGF)は、18種類の哺乳動物メンバーを有する、(配列、構造、および機能によって関連付けられた)十分に記載されたタンパク質のファミリーである。FGFは、配列相同性および系統発生における差異に基づき、次の6つのサブファミリーにグループ化される:FGF1および2;FGF3、7、10、および22;FGF4〜6;FGF8、17、および18;FGF9、16、および20;ならびにFGF19、21、および23。ある場合には、適切なFGFは、FGF1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、16、17、18、20、および/または22である。ある場合には、適切なFGFは、FGF4、FGF5、および/またはFGF6である。ある場合には、適切なFGFはFGF4である。
【0086】
例示的なヒトFGFのアミノ酸配列は、
である。
【0087】
一部の態様において、対象となるステージ1培地は、FGF(例えば、FGF4、FGF5、FGF6など)を5ng/ml〜50ng/mlの閾値にある濃度(例えば、5ng/ml〜40ng/ml、10ng/ml〜40ng/ml、10ng/ml〜30ng/ml、15ng/ml〜25ng/ml、17.5ng/ml〜22.5ng/ml、15ng/ml、17.5ng/ml、20ng/ml、22.5ng/ml、25ng/ml、または30ng/ml)で含む。
【0088】
Wntシグナル伝達アゴニスト
一部の態様において、適切な「ステージ1培地」は、Wntシグナル伝達アゴニストを含む。Wntシグナル伝達アゴニストは、β-カテニンの核局在化を誘発し、かつ古典的(canonical)Wntシグナル伝達の活性化をもたらす。Wntシグナル伝達経路の次の2つの主要な分岐が存在する:(1)β-カテニン依存的な古典的Wntシグナル伝達経路、および(2)平面内細胞極性(PCP)シグナル伝達ならびにカルシウムシグナル伝達(Gao, et. al, Cell Signal. 2010 May;22(5):717-27. Epub 2009 Dec 13)を含む、β-カテニンから独立した非古典的経路。本明細書において使用するとき、「Wntシグナル伝達」および「Wnt/β-カテニンシグナル伝達」という用語は、β-カテニン依存的な古典的Wntシグナル伝達経路を指すために互換可能に用いられる。従って、「Wntシグナル伝達アゴニスト」は、β-カテニン依存的Wntシグナル伝達経路からの出力を増加させる。Wnt経路の活性化は、β-カテニンタンパク質が細胞核に入った時点で最高潮に達する(β-カテニン依存的な古典的Wntシグナル伝達経路の最近の総説に関しては、Clevers et. al., Cell. 2012 Jun 8;149(6):1192-205: Wnt/β-catenin signaling and diseaseを参照されたい)。しかしながら、Wntシグナル伝達の非存在下では、遊離した細胞質β-カテニンは、アキシン、腺腫様大腸ポリポーシス(APC)、およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ(GSK-3β)タンパク質を含むβ-カテニン破壊複合体(destruction complex)として当技術分野において公知である複合体内に組み入れられる。GSK-3βによるβ-カテニンのリン酸化は、β-カテニンをユビキチン経路、およびプロテアソームによる分解(βTRCPを介した)に指定する。
【0089】
古典的Wntのその受容体(フリズル(Frizzled)タンパク質)への結合は、ディシブルド(Dishevelled)(Dvl)タンパク質の活性化につながり、それはグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)活性(すなわち、β-カテニンのリン酸化)を阻害し、β-カテニンの細胞質での安定化につながる。次いで、安定化したβ-カテニンは核に入り、かつ転写因子のTCF/LEF(T細胞特異的転写因子/リンパ系エンハンサー因子)ファミリーと結び付いて、重要な下流標的遺伝子の転写を誘導する。ゆえに、Wntシグナル伝達の非存在下では、β-カテニンの細胞質内(したがって、核内)レベルは、該経路の負の調節成分によって低く保たれる一方で、Wntシグナル伝達の存在下では、β-カテニンの細胞質内(したがって、核内)レベルは、該経路の正の調節成分によって安定化される。
【0090】
Wnt経路の「負の調節成分」は、Wnt経路に拮抗することによって機能しゆえに経路出力の減少(すなわち、標的遺伝子発現の減少)をもたらすタンパク質を意味する。Wnt経路の公知の負の調節成分の例には、WIF、sFRP、Dkk、APCDD1、Notum、SOST、アキシン、APC、GSK-3β、CK1γ、WTX、およびβTrCPが含まれるが、決してそれらに限定されるわけではない。
【0091】
Wnt経路の「正の調節成分」、Wnt経路を増強することによって機能しゆえに経路出力の増加(すなわち、標的遺伝子発現の増加)をもたらすタンパク質を意味する。Wnt経路の公知の正の調節成分の例には、Wnt(例えば、Wnt1、Wnt3、Wnt3a、Wnt7a、および/またはWnt8)、Norrin、R-スポンジン(spondin)、PORCN、Wls、フリズル、LRP5およびLRP6、Tspan12、Lgr4、Lgr5、Lgr6、Dvl、β-カテニン、ならびにTCF/LEFが含まれるが、決してそれらに限定されるわけではない。一部の態様において、対象となるWntシグナル伝達アゴニストは、古典的Wntシグナル伝達経路の正の調節成分(例えば、Wnt1、Wnt3、Wnt3a、Wnt7a、Wnt8など)である。
【0092】
一部の態様において、対象となるWntシグナル伝達アゴニストは、Wntシグナル伝達経路の成分に「特異的であり」または「特異的に結合し」、それにより、結合は経路出力(すなわち、標的遺伝子の転写)の増加をもたらす。アゴニストの結合は、共有結合もしくは非共有結合による相互作用、または共有結合および非共有結合による相互作用の組み合わせによって仲介され得る。アゴニストと、それが特異的に結合する成分との相互作用が、非共有結合により結合した複合体を産生する場合、生じる結合は、典型的に、静電気的、水素結合、または親油性相互作用の結果である。とくに、特異的結合は、結合メンバーのうちの対応するメンバーが属する化合物のファミリー内の他の種と比較した、特定の種に対する、ペアの一方のメンバーの優先的結合によって特徴付けされる。ゆえに、例えば、負の調節成分GSK-3に特異的であるWntシグナル伝達アゴニストは、細胞内の他のタンパク質と比較して、GSK-3に好んで結合する。
【0093】
対象となるWntシグナル伝達アゴニストは、Wntシグナル伝達経路からの出力の増加(すなわち、標的遺伝子発現の増加)をもたらす任意の分子(例えば、化学的化合物;非コード核酸、例えば非コードRNA;ポリペプチド;ポリペプチドをコードする核酸など)である。例えば、Wntシグナル伝達アゴニストは、該経路の正の調節成分を安定化する、その発現を増強する、もしくはその機能を増強することによって、または該経路の負の調節成分を不安定化する、その発現を減少させる、もしくはその機能を阻害することによって機能し得る。ゆえに、Wntシグナル伝達アゴニストは、ポリペプチドの正の調節成分(例えば、Wnt3、wnt3a、Wnt1など)、および/または該経路の1つもしくは複数の正の調節成分をコードする核酸であり得る。Wntシグナル伝達アゴニストは、mRNAまたはタンパク質のレベルのいずれかで、該経路の正の調節成分を安定化する小分子または核酸でもあり得る。
【0094】
一部の態様において、Wntシグナル伝達アゴニストは、β-カテニンを安定化し、ゆえにβ-カテニンの核内レベルを上昇させることによって機能する。β-カテニンは、複数の異なる様式で安定化され得る。Wntシグナル伝達経路の複数種類の異なる負の調節成分は、β-カテニンの分解を助長することによって機能するため、対象となるWntシグナル伝達アゴニストは、該経路の負の調節成分の(mRNAまたはタンパク質のレベルで機能する)小分子阻害剤または核酸阻害剤(例えば、マイクロRNA、shRNAなど)であり得る。例えば、一部の態様において、Wntシグナル伝達アゴニストは、GSK-3βの阻害剤である。一部のそのような態様において、GSK-3βの阻害剤は小分子化学的化合物(例えば、TWS119、BIO、CHIR-99021、SB 216763、SB 415286、CHIR-98014など)である。
【0095】
TWS119:3-(6-(3-アミノフェニル)-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イルオキシ)フェノール
(Ding et. al, Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Jun 24;100(13):7632-7. Epub 2003 Jun 6)
BIO:6-ブロモ-3-[(3E)-1,3-ジヒドロ-3-(ヒドロキシイミノ)-2H-インドール-2-イリデン]-1,3-ジヒドロ-(3Z)-2H-インドール-2-オン
または (2'Z,3'E)-6-ブロモインジルビン-3'-オキシム
(Meijer et. al, Chem Biol. 2003 Dec;10(12):1255-66)
CHIR-99021:6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル
(Bennett et al., J Biol Chem. 2002 Aug 23;277(34):30998-1004. Epub 2002 Jun 7)
SB 216763:3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン
(Cross et al., J Neurochem. 2001 Apr;77(1):94-102)
SB 415286:3-(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニルアミノ)-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン
(Cross et al., J Neurochem. 2001 Apr;77(1):94-102)
CHIR-98014:N2-(2-(4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(1H-イミダゾール-1-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)エチル)-5ニトロピリジン-2,6-ジアミン
(Ring et al., Diabetes. 2003 Mar;52(3):588-95)
【0096】
任意の好都合なWntアゴニストが用いられ得る。一部の態様において、WntアゴニストはWnt3aである。ヒトWnt3aのアミノ酸配列は、
である。
【0097】
ある場合には、対象となるステージ1培地は、Wnt3aを約20ng/ml〜約80ng/mlの値域にある濃度(例えば、約20ng/ml〜約80ng/ml、約25ng/ml〜約75ng/ml、約30ng/ml〜約70ng/ml、約35ng/ml〜約65ng/ml、約40ng/ml〜約60ng/ml、約45ng/ml〜約55ng/ml、約47.5ng/ml〜約52.5ng/ml、または約50ng/ml)で含む。
【0098】
ステージ2培地
「ステージ2培地」は、本明細書において、「第2の培養培地」とも称される。適切なステージ2培地は、少なくとも肝細胞成長因子(HGF)が補給された、細胞(例えば、分化しているASC、肝細胞など)の培養に適した基礎培養培地(例えば、肝細胞培養培地(HCM(商標))、アドバンストRPMI 1640、RPMI 1640など)である。ある場合には、ステージ2培地は、線維芽細胞成長因子(例えばFGF4、例えば25ng/ml)を含む。
【0099】
一部の態様において、ステージ2培地は、FGF(例えばFGF4、例えば25ng/ml)、オンコスタチンM(OSM、例えば30ng/ml)、デキサメタゾン(Dex、例えば2×10
-5M)、ジメチルスルホキシド(DMSO、例えば0.1%)、およびそれらの組み合わせより選択される成分をさらに含む。ある場合には、ステージ2培地に用いられる基礎培養培地は、CLONETICS(商標)であり(例えば、Lonza−カタログ番号3198より入手可能)、かつそれは、HGF(例えば、150ng/ml)、FGF(例えばFGF4、例えば25ng/ml)、オンコスタチンM(例えば、30ng/ml)、デキサメタゾン(例えば、2×10
-5M)、およびDMSO(例えば、0.1%)を補給されている。
【0100】
肝細胞成長因子(HGF)は、強力なマイトジェン、肝再生(hepatotrophic)因子、および/または成長因子として機能するタンパク質である。ヒトHGFのアミノ酸配列は、
である。
【0101】
一部の態様において、対象となるステージ2培地は、HGFを75ng/ml〜250ng/mlの値域にある濃度(例えば、100ng/ml〜200ng/ml、120ng/ml〜180ng/ml、125ng/ml〜175ng/ml、130ng/ml〜170ng/ml、135ng/ml〜165ng/ml、140ng/ml〜160ng/ml、145ng/ml〜155ng/ml、120ng/ml、125ng/ml、130ng/ml、135ng/ml、140ng/ml、145ng/ml、150ng/ml、155ng/ml、160ng/ml、または175ng/ml)で含む。
【0102】
一部の態様において、対象となるステージ2培地は、FGF(例えば、FGF4)を5ng/ml〜55ng/mlの値域にある濃度(例えば、5ng/ml〜45ng/ml、10ng/ml〜45ng/ml、10ng/ml〜35ng/ml、15ng/ml〜35ng/ml、20ng/ml〜30ng/ml、22.5ng/ml〜27.5ng/ml、15ng/ml、17.5ng/ml、20ng/ml、22.5ng/ml、25ng/ml、27.5ng/ml、または30ng/ml)で含む。
【0103】
オンコスタチンM(OSM)は、サイトカインとして機能しかつサイトカインのインターロイキン6グループに属するポリペプチドである。ヒトOSMのアミノ酸配列は、
である。
【0104】
一部の態様において、対象となるステージ2培地は、オンコスタチンM(OSM)を10ng/ml〜50ng/mlの値域にある濃度(例えば、15ng/ml〜45ng/ml、20ng/ml〜40ng/ml、22.5ng/ml〜37.5ng/ml、25ng/ml〜35ng/ml、27.5ng/ml〜32.5ng/ml、25ng/ml、27.5ng/ml、30ng/ml、32.5ng/ml、または35ng/ml)で含む。
【0105】
デキサメタゾン(Dex)は、抗炎症特性および免疫抑制特性を有する、ステロイド薬物のグルココルチコイド類の合成メンバーである。Dexは、(11β,16α)-9-フルオロ-11,17,21-トリヒドロキシ-16-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン、9α-フルオロ-16α-メチル-11β,17α,21-トリヒドロキシ-1,4-プレグナジエン-3,20-ジオン、9α-フルオロ-16α-メチルプレドニゾロン、およびプレドニゾロンFとしても知られる。Dexは、CAS番号50-02-2および化学構造:
を有する。
【0106】
一部の態様において、対象となるステージ2培地は、デキサメタゾン(Dex)を1×10
-6M〜1×10
-4Mの値域にある濃度(例えば、5×10
-6M〜5×10
-5M、1×10
-5M〜3×10
-5M、1.5×10
-5M〜2.5×10
-5M、または2×10
-5M)で含む。
【0107】
ジメチルスルホキシド(DMSO)は、無色の液体であり、かつ極性および非極性の化合物の両方を溶解する極性非プロトン性溶媒である、式(CH
3)
2SOを有する有機硫黄化合物である。DMSOは、メチルスルホキシドとしても知られ、CAS番号67-68-5を有し、かつ化学構造:
を有する。
【0108】
一部の態様において、対象となるステージ2培地は、DMSOを0.01%〜1%の値域にある濃度(例えば、0.025%〜0.5%、0.05%〜0.2%、または0.1%)で含む。
【0109】
肝細胞様細胞
本明細書において用いられる「肝細胞様細胞」という用語は、1つまたは複数の肝細胞特徴に対して陽性である(すなわち、それを呈する)細胞(例えば細胞集団の細胞、例えば主題の方法に従って誘導される細胞)を指す。肝細胞特徴(すなわち、肝細胞様細胞の特徴)には、以下が含まれるが、それらに限定されるわけではない:
(i)1つまたは複数の肝細胞マーカー(例えば、グルコース-6-ホスファターゼ、アルブミン(ALB)、α-1-アンチトリプシン(AAT、SERPINA1としても知られる)、サイトケラチン8(CK8)、サイトケラチン18(CK18)、サイトケラチン8/18(CK8/18)、アシアロ糖タンパク質受容体1(ASGR1)、アルコールデヒドロゲナーゼ1、I型アルギナーゼ、シトクロムp450 3A4(CYP3A4)、肝特異的有機アニオン輸送体(LST-1)、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FoxA2)、α-フェトプロテイン(AFP)、トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ(TDO2)、またはそれらの組み合わせ)の発現(すなわち、それに対して陽性);
(ii)グルコース-6-ホスファターゼ、CYP3A4、および/またはCYP1A1などの肝酵素の活性;
(iii)(例えば、血液、血清、血漿などの体液において測定される)肝臓産物(例えば、胆汁、尿、および/またはアルブミン)の産生および/または分泌;
(iv)肝細胞代謝特性(例えば、生体異物を解毒し得る能力;LDLのエンドサイトーシス、グリコーゲンの合成、シトクロムP450 1A2解毒活性など)の呈示;
(v)肝細胞形態学的特色の呈示;
(vi)免疫欠損個体(例えば、マウス、ヒトなど)の肝臓に生着し得る能力;ならびに
(vii)1つまたは複数の非肝細胞マーカー(例えば、脂肪細胞マーカー、例えばCD37、CD29など;ASCマーカー、例えばCD105;および同類のもの)の発現の欠如(それに対して陰性)。
【0110】
対象となる肝細胞様細胞は、該細胞が肝細胞様細胞と見なされるために、試験されるすべての肝細胞特徴に対して陽性である必要はない。例えば、ある場合には、対象となる肝細胞様細胞は、試験されるすべての肝細胞特徴に対して陽性である。しかしながら、ある場合には、対象となる肝細胞様細胞は、1つまたは複数の肝細胞特徴に対して陽性であり;かつ1つまたは複数の肝細胞特徴に対して陰性でもある。ある場合には(下記でより詳細に記載される)、肝細胞様細胞は、個体内に移植される。そのような場合、肝細胞様細胞は、(i)試験されるすべての肝細胞特徴に対して陽性であり得る;または(ii)1つもしくは複数の肝細胞特徴に対して陽性であり;かつ1つもしくは複数の肝細胞特徴に対して陰性であり得る。
【0111】
ゆえに、ある場合には、肝細胞様細胞は、すべての公知の肝細胞マーカーを発現するわけではなく、かつ/またはすべての肝細胞機能試験に対して試験で陽性を示すわけではない。例えば、ある場合には、主題の方法に従って誘導される肝細胞様細胞は、ASGR1を発現しない。しかしながら、下記の実施例の節(例えば、
図3C)において実証されるように、ある場合には、肝細胞様細胞は、それらが移植前には呈しなかった肝細胞特徴を、(例えば、マウスおよび/またはヒトなどの個体内への)移植後に呈する(例えば、ASGR1などの肝細胞マーカーを発現する)。例えば、ある場合には、主題の方法に従って誘導される肝細胞様細胞は、個体内への移植前には肝細胞マーカーASGR1を発現しないが、移植後にASGR1を発現する。ゆえに、ある場合には、主題の方法に従って誘導された肝細胞様細胞は、移植のための細胞の使用前に、すべての公知の肝細胞特徴(例えば、肝臓産物の産生、肝細胞マーカーの発現など)を呈することも、さらには試験されたすべての肝細胞特徴を呈することも必要とされない。例えば、ある場合には、主題の方法に従って誘導される肝細胞様細胞は、1つまたは複数の肝細胞特徴に対して陽性でありかつ1つまたは複数の肝細胞特徴に対して陰性であるが、依然として肝細胞様細胞と見なされかつ依然として個体に移植され得る。
【0112】
一部の態様において、主題の方法は、誘導細胞集団における誘導肝細胞様細胞(iHep)の存在を立証する工程を含む。立証は、肝細胞の特徴であることが当技術分野において公知である細胞表現型(例えば、遺伝子またはタンパク質の発現、薬物代謝プロファイル、特定の薬物に対する応答性など)に依存し得る。例えば、立証は、上記で挙げられる肝細胞特徴(例えば、肝細胞マーカーの発現、非肝細胞マーカーの発現の欠如、肝臓産物の産生および/または分泌、肝酵素の活性、肝細胞代謝特性の呈示など)のうちの任意の1つまたは複数を試験することによって実施され得る。ある場合には、立証は、誘導細胞集団のうちのiHepである細胞のパーセンテージを決定する工程を含む。
【0113】
一部の態様において、立証は、誘導細胞集団の細胞と、肝細胞マーカー(例えば、mRNA、タンパク質など)に特異的な特異的結合作用物質(例えば、核酸プローブ、抗体など)とを接触させる工程、および発現について陽性である細胞のパーセンテージを決定する工程を含み、該発現について陽性である細胞は、iHepである。適切なマーカーは、上記で挙げられている。一部の態様において、立証は、誘導細胞集団と、非肝細胞マーカー(例えば、mRNA、タンパク質など)に特異的な結合作用物質(例えば、核酸プローブ、抗体など)とを接触させる工程、および発現に対して陰性である細胞のパーセンテージを決定する工程を含み、該発現に対して陰性である細胞は、iHepである。適切なマーカーは、上記で挙げられている。ある場合には、誘導細胞集団の細胞のうちの10%以上(例えば、10.5%もしくはそれを上回る、11%もしくはそれを上回る、12.5%もしくはそれを上回る、15%もしくはそれを上回る、17.5%もしくはそれを上回る、20%もしくはそれを上回る、22.5%もしくはそれを上回る、25%もしくはそれを上回る、27.5%もしくはそれを上回る、30%もしくはそれを上回る、32.5%もしくはそれを上回る、35%もしくはそれを上回る、37%もしくはそれを上回る、40%もしくはそれを上回る、45%もしくはそれを上回る、50%もしくはそれを上回る、55%もしくはそれを上回る、60%もしくはそれを上回る、65%もしくはそれを上回る、70%もしくはそれを上回る、75%もしくはそれを上回る、80%もしくはそれを上回る、85%もしくはそれを上回る、90%もしくはそれを上回る、95%もしくはそれを上回る、98%もしくはそれを上回る、99%もしくはそれを上回る、または100%)が、iHepであると判定される。一部の態様において、誘導細胞集団のうちの、iHepであると判定される細胞のパーセントは、10%〜100%の値域にある(例えば、10%〜90%、10%〜80%、10%〜70%、10%〜60%、10%〜50%、10%〜45%、10%〜100%、40%〜100%、10%〜37.5%、10%〜37%、15%〜90%、15%〜80%、15%〜70%、15%〜60%、15%〜50%、15%〜45%、15%〜100%、40%〜100%、15%〜37.5%、15%〜37%、20%〜90%、20%〜80%、20%〜70%、20%〜60%、20%〜50%、20%〜45%、20%〜100%、40%〜100%、20%〜37.5%、20%〜37%、25%〜90%、25%〜80%、25%〜70%、25%〜60%、25%〜50%、25%〜45%、25%〜100%、40%〜100%、25%〜37.5%、25%〜37%、30%〜90%、30%〜80%、30%〜70%、30%〜60%、30%〜50%、30%〜45%、30%〜100%、40%〜100%、30%〜37.5%、または30%〜37%)。
【0114】
発現レベルは、細胞上および/または細胞内のマーカー(例えば、核酸またはタンパク質)の検出可能な量を反映することが当業者によって理解されるであろう。染色に対して陰性である(例えば、マーカー特異的試薬の結合のレベルが、対応する対照と検出可能なほどには異ならない)細胞は、依然として少量のマーカーを発現し得る。そして、細胞を特定のマーカーに対して「陽性」または「陰性」と言及することは、当技術分野においてよくあることであるものの、実際の発現レベルは量的特質である。検出された分子の数は、いくつかの対数によって変動し得るが、依然として「陽性」として特徴付けされ得る。
【0115】
タンパク質マーカーが用いられる場合、(例えば、マーカー特異的抗体の)染色強度を、レーザーが蛍光色素の量的レベル(特異的試薬、例えば抗体によって結合された細胞マーカーの量に比例する)を検出するフローサイトメトリーによってモニターすることができる。フローサイトメトリー、つまりFACSを用いて、特異的試薬に対する結合の強度、ならびに細胞サイズおよび光散乱などの他のパラメーターに基づき、細胞集団を分離することもできる。染色の絶対レベルは特定の蛍光色素および試薬調製によって異なり得るが、データを対照に対して正規化することができる。
【0116】
対照に対して分布を正規化するために、各細胞を、特定の染色強度を有するデータ点として記録する。これらのデータ点は対数目盛りに従って表示され得、測定の単位は任意の染色強度である。一例において、サンプル中で最も明るく染色された細胞は、染色されない細胞よりも4対数も強くあり得る。この様式で表示される場合、最も高い対数の染色強度に収まる細胞は明るく、一方で最も低い強度にあるものは陰性であることがはっきりしている。「低く」陽性に染色された細胞は、アイソタイプが適合する対照のものよりも明るい染色のレベルを有するが、集団において通常見出される最も明るく染色している細胞ほど強くはない。代替的な対照は、その表面上に規定密度のマーカーを有する基体、例えば加工されたビーズまたは細胞株を利用してもよく、それは強度に対する陽性対照を提供する。
【0117】
肝細胞様細胞の富化
iHepである入手された細胞の画分を増加させるために、産生されたiHepを富化する(すなわち、精製する)ことがときには有利である。特定の局面において、本明細書において提供される肝細胞様細胞を、レポーター遺伝子に機能的に連結された成熟肝細胞特異的転写調節エレメントを含む、スクリーニング可能なもしくは選択可能なレポーター発現カセットを用いることによって、または肝細胞特異的マーカー(例えば、ASGR1などの細胞表面抗原)に対する抗体を用いた細胞選別(例えば、磁性細胞選別、蛍光活性化細胞選別(FACS)など)によって選択し得るまたは富化し得る。
【0118】
選択または富化を促進するために、ASCは、レポーター遺伝子を含む選択可能なまたはスクリーニング可能なレポーター発現カセットを含み得る。レポーター発現カセットは、レポーター遺伝子(例えば、蛍光タンパク質のいずれか、例えば青色、黄色、赤色、緑色など)に機能的に連結された肝細胞特異的転写調節エレメントを含み得る。肝細胞特異的転写調節エレメントの非限定的な例には、グルコース-6-ホスファターゼ、アルブミン(ALB)、α-1-アンチトリプシン(AAT、SERPINA1としても知られる)、サイトケラチン8(CK8)、サイトケラチン18(CK18)、アシアロ糖タンパク質受容体1(ASGR1)、アルコールデヒドロゲナーゼ1、I型アルギナーゼ、シトクロムp450 3A4(CYP3A4)、肝特異的有機アニオン輸送体(LST-1)、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FoxA2)、α-フェトプロテイン(AFP)、およびトリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ(TDO2)のプロモーターが含まれる。
【0119】
ASCの細胞表面マーカー(例えば、CD29、CD34、CD36、CD49f、CD73、CD90(Thy-1)、CD105、CD133、c-kit、c-metなど)、内胚葉前駆体細胞の細胞表面マーカー(例えば、SOX17)、肝細胞前駆体/前駆細胞の細胞表面マーカー(例えば、N-カドヘリン、E-カドヘリン、EpCAM、およびNCAM)、および/または肝細胞の細胞表面マーカー(例えば、ASGR1)に特異的な抗体を用いた富化(例えば、磁性細胞選別、FACSなど)は、富化される対象となる細胞の遺伝子改変を要しないという利点を有する。磁性細胞選別およびFACSは、複数種類の表面マーカーを同時に分析し得る能力を有し、かつそれらを用いて、細胞表面マーカーの発現に基づき、ASC、内胚葉前駆体細胞、肝細胞前駆体/前駆細胞、および/または肝細胞(例えば、iHep)を選別することができる。ある場合には、iHepはASGR1を発現しない。しかしながら、ある場合には、例えばそれらがより長く培養されかつ/またはさらに分化した場合、iHepはASGR1を発現する。(i)ASGR1を発現せず、かつ/または(ii)肝細胞前駆体細胞および/もしくは内胚葉前駆体細胞のマーカーを発現する細胞を個体に投与する場合、細胞は、個体内への投与後にさらに分化し得る(下記の実施例の節において実証されるように)。
【0120】
ある場合には、主題の方法によって産生される細胞を、発現された細胞表面マーカーを用いることによって富化(例えば、選別)することができる。例えば、前駆体細胞集団(例えば、ステージ1培地に接触していたASC)の細胞、および/または誘導細胞集団の細胞(例えば、ステージ2培地と接触していた前駆体細胞集団の細胞)を、肝細胞前駆体/前駆細胞によって発現される任意のマーカー(例えば、N-カドヘリン、E-カドヘリン、EpCAM、およびNCAM)および/または内胚葉前駆体細胞によって発現される任意のマーカー(例えば、SOX17)を用いて富化することができる。誘導細胞集団の細胞(例えば、ステージ2培地と接触していた前駆体細胞集団の細胞)を、さらなる培養(例えば、さらなる分化を助長する)の前におよび/または個体への投与前に、肝細胞前駆体/前駆細胞によって発現される任意のマーカー(例えば、N-カドヘリン、E-カドヘリン、EpCAM、およびNCAMなど)、内胚葉前駆体細胞によって発現される任意のマーカー(例えば、SOX17)、および/または肝細胞によって発現される任意のマーカー(例えば、ASGR1)を用いて富化することができる。ASCを含む細胞集団(例えば、リポサクション由来の細胞の集団)を、ASC細胞表面マーカー(例えば、CD29、CD34、CD36、CD49f、CD73、CD90(Thy-1)、CD105、CD133、c-kit、c-metなど)を用いて、ASCについて富化することができる。
【0121】
凍結保存
一部の態様において、対象となる細胞(例えば、iHep)を、将来的な使用のために保存する。具体的には、次の工程を実施することによって、iHepを凍結保存することができる:(i)成長細胞表面から細胞を剥離する、(ii)細胞をリンスする(例えば、遠心分離を介してPBSで洗浄する)、(iii)10% DMSOを有する培地中に細胞(例えば、細胞ペレット)を再懸濁する、および(vi)細胞を保存するために当技術分野において一般に用いられる標準的組織培養技法を用いて、液体窒素中で細胞を冷凍しかつ保存する。細胞は、1本のバイアルあたり1〜5000万個の細胞で冷凍され得る。使用の準備をする場合、iHepは、冷凍された培養細胞を解凍するための当技術分野において一般に知られる様式で解凍されるべきである。
【0122】
治療の方法
本開示の局面は、個体を治療する方法を含む。対象となる治療の方法は、概して、(例えば、上記で記載される方法を用いて)脂肪由来幹細胞の集団から肝細胞様細胞を産生する工程、および有効数の肝細胞様細胞を個体内に投与する(例えば、注射する、移植するなど)工程を含む。ASCは任意の供給源由来であり得、かつ任意の好都合な方法によって得ることができる。ASCを単離する/抽出する/入手する例示的な方法は、上記で記載されている。ある場合には、(例えば、免疫応答の可能性および/または重症度を低下させるために、)ASCは自己由来(すなわち、iHepが投与される同じ個体由来)である。ある場合には、(例えば、免疫応答の可能性および/または重症度を低下させるために、)ASCは、血縁関係にある個体由来である。ある場合には、ASCは、血縁関係にない個体由来である。ある場合には、ASCは、別の種の個体由来である(例えば、マウスに投与されるヒトASC)。
【0123】
「治療」、「治療している」、「治療する」等の用語は、本明細書において、所望の薬理学的および/または生理学的な効果を得ることを概して指すために用いられる。効果は、疾患もしくはその症状を完全にもしくは部分的に阻止するという点で予防的であり得、かつ/または疾患および/もしくは疾患に起因する有害作用の部分的もしくは完全な安定化もしくは治癒という点で療法的であり得る。「治療」という用語は、哺乳動物、とくにヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、かつ(a)疾患もしくは症状を生じやすい可能性があるが、それを有するとはまだ診断されていない対象において、疾患および/もしくは症状が生じるのを阻止する工程:(b)疾患および/もしくは症状を阻害する工程、すなわち疾患および/もしくは関連症状の発症を食い止める工程;または(c)疾患および関連症状を緩和する工程、すなわち疾患および/もしくは症状の後退を引き起こす工程を含む。治療を必要としているものには、すでに痛手を負っている(inflict)もの(例えば、肝機能障害、肝疾患、肝損傷などを有するもの)、ならびに阻止が望まれるものが含まれ得る。
【0124】
「レシピエント」、「個体」、「対象」、「宿主」、および「患者」という用語は、本明細書において互換可能に用いられ、かつ診断、治療、または療法が望まれる任意の哺乳動物対象、とくにヒトを指す。治療の目的のための「哺乳動物」とは、ヒト、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ラクダなどの家庭用および農業用の動物ならびに動物園用、スポーツ用、またはペット用の動物を含む、哺乳動物として分類される任意の動物を指す。一部の態様において、哺乳動物はヒトである。
【0125】
療法的治療とは、施与前に対象が痛手を負っている場合のものであり、予防的治療とは、施与前に対象が痛手を負っていない場合のものである。一部の態様において、対象は、痛手を負う可能性が増加しているか、または治療前に痛手を負っている疑いがある。一部の態様において、対象は、痛手を負う可能性が増加している疑いがある。
【0126】
一部の態様において、治療される対象となる個体は、低下した肝機能を有する個体(例えば、肝損傷を有する個体)である。本明細書において用いられる「肝損傷」という用語は、低下した肝機能をもたらす任意の損傷(例えば、疾患、外傷によって引き起こされる、原因不明の、など)を指す。低下した肝機能(例えば、個体の基礎レベルの機能と比較して低下した;比較可能な年齢、重量、性別などの健常個体と比較して低下した;および同類のもの)を有する個体は、損傷した肝臓を有する個体(すなわち、肝損傷を有する個体)と称される。ゆえに、「肝損傷」および「低下した肝機能」という用語は、本明細書において同義的に用いられる。ある場合には、「肝損傷」を有する個体は、肝疾患を有する個体である。
【0127】
低下した肝機能の原因は既知または未知であり得る。所与の個体が低下した肝機能を有するかどうかを判定する方法(したがって、治療を受けている個体が肝機能を回復中であるまたは回復したかどうかを判定する方法でもある)は、当業者に公知であろう。肝機能検査には、肝臓に対する炎症および損傷を検出する一群の血液検査である、肝機能検査(LFT)としても知られる肝酵素検査が含まれ得る。肝損傷の血中タンパク質マーカーには、例えばSGOTとしても知られるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の増加;SGPTとしても知られるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の増加;アルカリホスファターゼの増加;5'ヌクレオチダーゼの増加;アルブミンの減少;グロブリンの減少;およびγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の増加が含まれ得る。上記タンパク質マーカーの上昇した量(および/または活性)(または、アルブミンおよび/もしくはグロブリンに関する減少したレベル)が血中において検出される場合、肝損傷が存在し得る。付加的な肝機能検査には、次のものが含まれる:(i)血液サンプルが凝固するのにかかる時間の検査であるプロトロンビン時間(PT)(例えば、低レベルの凝固因子が存在している場合、プロトロンビン時間はより長い)。これは国際標準化比(INR)(結果が実験室を超えて精確に比較され得るように、実験室がPTを報告する標準化された様式)として報告され得る;および(ii)ビリルビン検査:ビリルビン血中レベルは損なわれた胆汁流量を有するヒトにおいて上昇し得、これは重度の肝疾患、胆嚢疾患、または他の胆汁系の病状において生じ得る。
【0128】
「肝損傷」を示すと見なされ得る(かつ、症状、病気、および/または疾患を有する個体に、対象となる誘導肝細胞様細胞を移植することによって治療され得る)症状、病気、および/または疾患の例には、急性肝不全、アルコール関連肝疾患、アラジール症候群、α1-アンチトリプシン欠損、多包虫症、自己免疫肝炎、細菌性肝臓紫斑病、胆道閉鎖症、バッド・キアリ症候群、慢性肝疾患、肝硬変、先天性肝線維症、鬱血性ヘパトパシー、脂肪肝、ガラクトース血症、胃前庭部毛細血管拡張症、ジルベール症候群、ヘモクロマトーシス、肝炎(A、B、および/またはC)、肝性脳症、肝胆道疾患、肝結石症、肝肺症候群、肝腎症候群、肝脾腫大症、肝毒性、肝細胞癌腫、肝性脳症、黄疸、ラエンネック肝硬変、肝膿瘍、肝嚢胞、肝癌、肝不全、リングスタダス(Lyngstadaas)症候群、非アルコール性脂肪性肝疾患、小児末期肝疾患、肝紫斑病、多嚢胞肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎(PSC)、進行性家族性肝内胆汁鬱滞、ライ症候群、I型糖原病、ウイルス性肝炎、ウィルソン病、ツァーン梗塞、およびジーヴ症候群が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0129】
ある場合には、iHepは、移植前に一時期(例えば、HCM(商標)中で2日間)培養される。細胞(例えば、iHep)を、単独で、または適切な基体もしくはマトリックスとともに個体に提供して(すなわち、個体内に投与して)、例えばそれらが移植されている組織(例えば、肝臓)におけるそれらの増大および/または組織化を支持することができる。一部の態様において、マトリックスは足場(例えば、有機足場)である。一部の態様において、1×10
3個もしくはそれを上回る数の細胞、例えば5×10
3個もしくはそれを上回る数の細胞、1×10
4個もしくはそれを上回る数の細胞、5×10
4個もしくはそれを上回る数の細胞、1×10
5個もしくはそれを上回る数の細胞、5×10
5個もしくはそれを上回る数の細胞、1×10
6個もしくはそれを上回る数の細胞、5×10
6個もしくはそれを上回る数の細胞、1×10
7個もしくはそれを上回る数の細胞、5×10
7個もしくはそれを上回る数の細胞、1×10
8個もしくはそれを上回る数の細胞、5×10
8個もしくはそれを上回る数の細胞、1×10
9個もしくはそれを上回る数の細胞、5×10
9個もしくはそれを上回る数の細胞、または1×10
10個もしくはそれを上回る数の細胞が投与される(例えば、移植される)。一部の態様において、対象となる細胞は、マイクロキャリアに載って、個体内に投与される(例えば、生分解性マイクロキャリア上で増大した細胞)。
【0130】
主題の方法によって誘導された細胞(iHep)は、生理学的に許容される任意の賦形剤(例えば、ウィリアムE培地)に入れて投与してもよく、そこで該細胞は、生存および機能(例えば、臓器再構成)のための適当な部位を見出し得る。細胞は、任意の好都合な方法(例えば、注射、カテーテルなど)によって導入され得る。
【0131】
細胞は、以下の経路のいずれかを介して、対象に導入され得る(すなわち、個体内に投与され得る):非経口、皮下、静脈内、頭蓋内、髄腔内、眼内、または髄液内。細胞は、注射(例えば、直接的局所注射)、カテーテルなどによって導入され得る。局所送達(例えば、肝臓への送達)のための方法の例には、例えば関節もしくは臓器内への、例えば注射器による、例えばボーラス注射によるもの;例えば対流を有する、例えば挿管による、例えば連続的注入によるもの(参照によりここに組み入れられる、米国特許出願第20070254842号を参照されたい);または、その上に細胞が可逆的に貼り付けられている装置を移植することによるもの(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願第20080081064号および第20090196903号を参照されたい)が含まれる。
【0132】
ある場合には、iHepは、超音波ガイドによる肝注射によって個体内に投与される。このようにして、細胞は、肝葉内に直接置かれ得る(例えば、ヒトにおいて、または小動物用超音波システムを用いてさらにマウスにおいて)。輝度モード(Bモード)を用いて、変換器により関心対象の領域についての二次元画像を取得することができ、かつ細胞を、溶液(例えば100μl〜300μl、例えば200μlの、例えばウィリアムE培地)に入れて、例えば30Gニードルを用いて、肝臓における1箇所の部位または多くの部位(例えば、1〜30箇所の部位)内に注射することができる。
【0133】
対象への治療の施与の数は変動し得る。個体内への細胞の導入は、1回の事象であり得るが、ある特定の状況において、そのような治療は、限定された期間の改善を引き出し得かつ一連の持続的な反復治療を要し得る。他の状況において、効果が観察される前に、iHepの多数回の投与が要され得る。当業者によって容易に理解されるであろうように、正確なプロトコールは、治療されている個体の疾患または病状、疾患のステージ、およびパラメーターに依存する。
【0134】
「療法上有効な用量」または「療法的用量」とは、所望の臨床結果を生じさせる(すなわち、療法的有効性を達成する)のに十分な量である。療法上有効な用量を、1回または複数回の投与で投与することができる。本開示の目的のために、iHepの療法上有効な用量は、個体に投与された(例えば、移植された)場合に、例えば、健常な肝臓によって通常提供される機能を提供することによって、疾患状態(例えば、肝損傷)の進行を軽減する、改善させる、安定化する、逆行させる、阻止する、減速させる、または遅延させるのに十分である量である。ある場合には、移植されたiHepは、個体の肝臓に組み込まれかつ肝臓の一部になる。ある場合には、移植されたiHepは、個体の肝臓に組み込まれないが、健常な肝臓によって通常提供される機能を依然として提供し得る。
【0135】
一部の態様において、iHepの療法上有効な用量は、約1×10
3個またはそれを上回る数の細胞(例えば、5×10
3個もしくはそれを上回る、1×10
4個の細胞、5×10
4個もしくはそれを上回る、1×10
5個もしくはそれを上回る、5×10
5個もしくはそれを上回る、1×10
6個もしくはそれを上回る、5×10
6個もしくはそれを上回る、1×10
7個の細胞、5×10
7個もしくはそれを上回る、1×10
8個もしくはそれを上回る、5×10
8個もしくはそれを上回る、1×10
9個もしくはそれを上回る、5×10
9個もしくはそれを上回る、または1×10
10個もしくはそれを上回る数)である。一部の態様において、iHepの療法上有効な用量は、約1×10
3個の細胞〜約1×10
10個の細胞の値域にある(例えば、約5×10
3個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約1×10
4個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約5×10
4個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約1×10
5個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約5×10
5個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約1×10
6個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約5×10
6個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約1×10
7個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約5×10
7個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約1×10
8個の細胞〜約1×10
10個の細胞、約5×10
8個の細胞〜約1×10
10個、約5×10
3個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約1×10
4個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約5×10
4個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約1×10
5個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約5×10
5個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約1×10
6個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約5×10
6個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約1×10
7個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約5×10
7個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約1×10
8個の細胞〜約5×10
9個の細胞、約5×10
8個の細胞〜約5×10
9個、約5×10
3個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約1×10
4個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約5×10
4個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約1×10
5個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約5×10
5個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約1×10
6個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約5×10
6個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約1×10
7個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約5×10
7個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約1×10
8個の細胞〜約1×10
9個の細胞、約5×10
8個の細胞〜約1×10
9個、約5×10
3個の細胞〜約5×10
8個の細胞、約1×10
4個の細胞〜約5×10
8個の細胞、約5×10
4個の細胞〜約5×10
8個の細胞、約1×10
5個の細胞〜約5×10
8個の細胞、約5×10
5個の細胞〜約5×10
8個の細胞、約1×10
6個の細胞〜約5×10
8個の細胞、約5×10
6個の細胞〜約5×10
8個の細胞、約1×10
7個の細胞〜約5×10
8個の細胞、約5×10
7個の細胞〜約5×10
8個の細胞、または約1×10
8個の細胞〜約5×10
8個の細胞)。
【0136】
本開示の細胞は、ヒト投与のために十分に滅菌した条件下で調製された等張賦形剤を含む薬学的組成物の様態で供給され得る。医療用製剤における一般原則に関しては、G. Morstyn & W. Sheridan edsによるCell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy, Cambridge University Press, 1996;およびHematopoietic Stem Cell Therapy, E. D. Ball, J. Lister & P. Law, Churchill Livingstone, 2000を参照されたい。細胞賦形剤、および組成物の任意の付随要素の選定は、投与に用いられる経路および装置に従って適応させる。組成物は、細胞の生着または機能的動員を容易にする1種または複数種類の他の構成要素も含み得るまたは付随し得る。適切な構成要素には、細胞または補完的細胞タイプの付着を支持するまたは促進するマトリックスタンパク質が含まれる。
【0137】
分化した肝細胞において有用な遺伝子、例えば個体における遺伝子欠陥の修復、選択可能なマーカーなどを導入するために、主題の方法の細胞を遺伝的に変化させてもよい。細胞はまた、生存を増強する、増殖を制御する等のために、遺伝的に改変され得る。細胞は、適切なベクターを用いたトランスフェクションもしくは形質導入、相同組換え、または他の適当な技法によって遺伝的に変化し得、それにより、それらは関心対象の遺伝子を発現する。一部の態様において、選択可能なマーカーを導入して、所望の分化している細胞のより高い純度を提供する。
【0138】
本開示の細胞が組織再生に関与し得る能力、または投与の部位に療法用遺伝子を送達し得る能力を増強するために、該細胞を遺伝的に変化させることができる。肝細胞において汎特異的(pan-specific)であるまたは特異的に活性を有するプロモーターに機能的に連結された、所望の遺伝子に対する公知のコード配列を用いて、ベクターを設計する。
【0139】
標的哺乳動物細胞内に外因性遺伝子を移動させるのに有用な多くのベクターが利用可能である。ベクターは、エピソーム性、例えばプラスミド、サイトメガロウイルス、アデノウイルスなどのようなウイルス由来ベクターであり得るか、または相同組換えもしくはランダムな組み込みを介して標的細胞ゲノム内に組み込まれ得る、例えばMMLV、HIV-1、ALVなどのようなレトロウイルス由来ベクターであり得る。幹細胞の改変に関しては、レンチウイルスベクターが好ましい。HIVまたはFIVのgag配列に基づくものなどのレンチウイルスベクターを用いて、休止期のヒト幹細胞など、非分裂細胞にトランスフェクトすることができる(Uchida et al. (1998)
P.N.A.S. 95(20):11939-44を参照されたい)。
【0140】
レトロウイルスと適当なパッケージング株(packaging line)との組み合わせは、カプシドタンパク質が標的細胞に感染するのに機能的である場合にも使用法を見出し得る。通常、細胞とウイルスとを、培養培地中で少なくとも約24時間インキュベートする。次いで、細胞を、ある適用において培養培地中で短い間隔、例えば24〜73時間、または少なくとも2週間増大させ、かつ分析前に、5週間またはそれを上回る期間増大させ得る。一般に用いられるレトロウイルスベクターは「欠陥型」である、すなわち産生性感染に要されるウイルスタンパク質を産生することができない。ベクターの複製は、パッケージング細胞株中での増大を要する。
【0141】
レトロウイルスの宿主細胞特異性は、エンベロープタンパク質env(p120)によって決定される。エンベロープタンパク質は、パッケージング細胞株によって提供される。エンベロープタンパク質は、少なくとも3種類のタイプ、すなわちエコトロピック、アンホトロピック、およびゼノトロピックなものである。エコトロピックなエンベロープタンパク質とともにパッケージされたレトロウイルス、例えばMMLVは、ほとんどのマウスおよびラット細胞タイプに感染することができる。エコトロピックなパッケージング細胞株には、BOSC23(Pear et al. (1993) P.N.A.S. 90:8392-8396)が含まれる。アンホトロピックなエンベロープタンパク質を保持するレトロウイルス、例えば4070A(Danos et al、上記参照)は、ヒト、イヌ、およびマウスを含めた、ほとんどの哺乳動物細胞タイプに感染することができる。アンホトロピックなパッケージング細胞株には、PA12(Miller et al. (1985)
Mol. Cell. Biol. 5:431-437);PA317(Miller et al. (1986)
Mol. Cell. Biol. 6:2895-2902);GRIP(Danos et al. (1988)
PNAS 85:6460-6464)が含まれる。ゼノトロピックなエンベロープタンパク質とともにパッケージされたレトロウイルス、例えばAKR envは、マウス細胞を除いた、ほとんどの哺乳動物細胞タイプに感染することができる。
【0142】
ベクターは、例えばCre/Loxなどのリコンビナーゼシステムを用いて後で除去されなければならない遺伝子を含み得るか、または、それらを発現する細胞は、例えばヘルペスウイルスTK、bcl-xsなど、選択的毒性を可能にする遺伝子を含めることによって破壊される。適切な誘導性プロモーターは、トランスフェクトされた細胞またはその子孫のいずれかの所望の標的細胞タイプにおいて活性化される。転写活性化により、転写は、標的細胞における基礎レベルを上回って、少なくとも約100倍、より通常では少なくとも約1000倍増加することが意図される。
【0143】
実用性
下記の実施例において記載される結果は、主題の方法を用いてASCから得られた肝細胞様細胞の肝臓内への直接移植の後、機能的なヒト肝組織がインビボで生じ得ることを実証している。SCi-Hep(主題の方法を用いて誘導されたiHep)を、化学的に規定された培地中での短期間のインビトロ分化によって、ASCから産生した。SCi-Hepは、成熟肝細胞のインビトロ機能特性の多くを呈し、かつそれらは、マウスモデルシステムにおいてインビボで機能的なヒト肝臓を安定して再構成し得、そして移植研究により、SCi-Hepは非常に低い悪性度を有することが実証された。ゆえに、容易に利用可能な幹細胞を用いて、インビボで機能的なヒト肝組織を急速に構築した。ASCからiHepを作製する時間は、主題の方法によって、13日間を下回るまで(例えば、9日間に)大幅に低下する。加えて、iHep産生の効率は、主題の方法によって、10%を上回るまで(例えば、37%に)大幅に増加する。肝損傷(例えばアセトアミノフェン毒性による、例えば肝不全)は急速に(例えば、2週間またはそれ未満のうちに)死を引き起こし得るため、これらの特色の両方は、治療法を容易にする。
【0144】
これらの手順を、ヒトにおける自己肝再生を可能にするようにスケール変更することができる。1グラムのヒトまたはマウス肝組織あたり約140×10
6個の肝細胞が存在するため、1500グラムの成人ヒト肝臓は約2×10
11個の肝細胞を有し、一方で1.8グラムのマウス肝臓は2.5×10
8個の細胞を有する。100万個のヒト肝細胞をTK-NOGマウスに移植した後、マウス肝細胞の約50%の置き換えがルーチン的に得られ、それはマウス肝臓における約1.2×10
8個の機能的なヒト肝細胞に等しい。これは、移植された細胞の数と比較した、インビボで作製されたヒト肝細胞の数における120倍の増加(または7回の集団倍加)に相当する。同程度の再生効率がヒトにおいて達成された場合、8億個のSCi-Hep(10
11/120)が移植されて、ヒト肝臓における細胞の50%を置き換えると考えられる。この論点に関連して、単回のリポサクション手順から、1リットル(1000g)の脂肪吸引物を簡単に入手することができる。この量は、2〜10×10
9個の細胞を含有すると概算され、そのうちの1〜10%はASCであると概算される。ゆえに、1リットルの脂肪吸引物は2×10
7〜10
9個のASCを含有し、それは自己ヒト肝臓の置き換えを可能にする十分な数の細胞を提供し得る。超音波ガイドによる直接肝移植(下記の実施例において用いられる)を含めたヒト肝再生手順はスケール変更が可能でありかつヒト臨床用途に適当である。
【0145】
下記の実施例は、化学的な分化過程と連動した球状培養が、他の公知の方法と比較して、SCi-Hepの収量を7倍増加させ得ることを実証している。ゆえに、球状培養法は、ヒト対象における肝再生を可能にする、十分な数のSCi-Hepが入手され得ることを確実にするのに役立つ。球状培養法は、また、培養量を12倍低下させかつ培養している時間を40%減少させ;これらの因子は、ASCをiHepに分化させるコストを劇的に低下させる。Chi-Hepを産生するのに要される培地および成長因子の概算コストは、処理される1リットルの脂肪吸引物あたり約49,000ドルであるが、主題の方法は、これらのコストを20倍を上回って(処理される1リットルの脂肪吸引物あたり約2400ドルに)低下させる。
【0146】
移植されたSCi-Hepが腫瘍を形成しなかった(下記の実施例を参照されたい)という事実は、これらの細胞が、腫瘍を引き起こす危険性の著しい低下を有することを示している。SCi-Hepに関して得られた結果とは対照的に、iPS-Hepの移植後3週間以内に、容易に触診可能な腫瘍が認められた。このiPS由来細胞集団は大きな割合の未分化細胞を有するため、急速な腫瘍発生は驚くべきことではないはずである。しかしながら、ヒト肝臓を再生するためには約10
9個の細胞が移植されなければならないが、この集団において悪性度を有する細胞はわずか100〜1000個であっても、腫瘍形成を引き起こし得るであろう。これらの数は、肝再生のためにiPS由来細胞を調製するのに用いられる任意の選択的方法にとって、非常に重大な障壁をもたらす。移植されたSCi-Hepが腫瘍を形成しなかったという事実は、これらの細胞が、腫瘍を形成させる危険性の著しい低下を有することを示している。遺伝子操作されたTK-NOGマウスにおけるガンシクロビル誘導性肝損傷は、外因性毒物または薬物過量摂取によって引き起こされるヒトにおける急性肝不全に類似しているため、ここに開示される方法は、損傷した肝臓(例えば、急性肝不全を有する患者)を治療するために用いられ得る細胞を提供し得る。
【0147】
主題の方法によって産生された肝細胞様細胞は、損傷した肝臓における細胞置き換えのためのドナー細胞の供給源を提供する。そのようなものとして、肝細胞様細胞は、そのような治療を必要としている個体であるヒト患者における組織の再構成または再生のために、および/または非ヒト動物(例えばマウス、次いでそれは、例えば薬物スクリーニング、薬物試験などを含めた研究目的のために用いられ得る)におけるヒト肝組織の再構成のために用いられ得る。細胞は、それらが、意図される組織部位に生着しまたは移行し、かつ機能的に欠陥のある領域を再構成するまたは再生するのを可能にする様式で投与される。
【0148】
本開示の分化した細胞を用いて、肝細胞のマーカーに特異的である抗体を調製することもできる。免疫原性様態の本開示の細胞を脊椎動物に注射することによって、ポリクローナル抗体を調製することができる。モノクローナル抗体の産生は、米国特許第4,491,632号、第4,472,500号、および第4,444,887号、ならびにMethods in Enzymology 73B:3 (1981)のような標準的参考文献に記載されている。免疫適格細胞またはウイルス粒子のライブラリーと標的抗原とを接触させ、かつ正に選択されたクローンを増大させることによって、特異的抗体分子を産生することもできる。Marks et al., New Eng. J. Med. 335:730, 1996およびMcGuiness et al., Nature Biotechnol. 14:1449, 1996を参照されたい。さらなる代替策は、欧州特許出願第1,094,108Aに記載されている、抗体コード領域内へのランダムDNAフラグメントの再会合である。
【0149】
遺伝子発現は、主題の方法による肝細胞様細胞の産生前、産生中、および/または産生後に調査され得る。当技術分野において公知であるように、発現した遺伝子のセットを、細胞の他の部分集団、前駆細胞、最終分化した肝細胞、ASC等に対して比較してもよい。特異的mRNAを検出するための、当技術分野において公知の任意の適切な定性的または定量的な方法を用いることができる。mRNAは、例えばマイクロアレイへのハイブリダイゼーション、次世代シーケンシング、インサイチューハイブリダイゼーション、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(rtPCR)によって、またはポリA mRNAを含有するノーザンブロットにおいて検出され得る。当業者であれば、これらの方法を容易に用いて、2つのサンプル間のmRNA転写産物のサイズまたは量の差異を測定することができる。
【0150】
サンプル中のmRNA発現レベルを検出しかつ比較するための任意の適切な方法を、本開示の方法と関連させて用いることができる。例えば、サンプル由来のmRNAを、ナノポアシーケンシング(例えば、Soni et al Clin Chem 53:1996-2001 2007に記載されているもの、またはOxford Nanopore Technologiesによって記載されているもの)、Illuminaの可逆的ターミネーター法、Rocheのパイロシーケンシング法(454)、Life Technologiesのライゲーションによるシーケンシング(SOLiDプラットフォーム)、またはLife Technologiesのイオントレントプラットフォームなど、当技術分野において公知の次世代シーケンシング法によりシーケンシングすることができる。そのような方法の例は、以下の参考文献:Margulies et al (Nature 2005 437:376-80);Ronaghi et al (Analytical Biochemistry 1996 242:84-9);Shendure (Science 2005 309:1728);Imelfort et al (Brief Bioinform. 2009 10:609-18);Fox et al (Methods Mol Biol. 2009;553:79-108);Appleby et al (Methods Mol Biol. 2009;513:19-39);およびMorozova (Genomics. 2008 92:255-64)に記載されており、それは、工程のそれぞれに対するすべての出発産物、試薬、および最終産物を含めた、方法の概略的説明および方法の特定の工程に対する参照により組み入れられる。
【0151】
代替的に、サンプル中の遺伝子発現は、ヌクレオチド相互作用の特異性に基づくハイブリダイゼーション分析を用いて検出され得る。オリゴヌクレオチドまたはcDNAを用いて、特定の配列組成のDNAまたはRNAを選択的に識別するまたは捕捉することができ、かつ、サンプル中の細胞メッセージのプール内の特定のメッセージの相対的表現についての情報を提供する定性的または定量的に決定された公知の捕捉配列にハイブリダイズしたRNAまたはcDNAの量を選択的に識別するまたは捕捉することができる。例えば、フィルター、顕微鏡スライド、もしくはマイクロチップを含む高密度形式を有するアレイベースの技術、または分光分析を用いる溶液ベースの技術(例えば、質量分析法)を用いて、何百種から何千種類の遺伝子の相対的発現についての並行スクリーニングを可能にするように、ハイブリダイゼーション分析を設計することができる。
【0152】
アレイへのハイブリダイゼーションが実施され得、アレイは当技術分野において公知の任意の適切な方法に従って産生され得る。例えば、光指向性合成技法を用いた、オリゴヌクレオチドの大規模アレイを産生する方法は、米国特許第5,134,854号および米国特許第5,445,934号に記載されている。コンピューター制御システムを用いると、モノマーの不均一アレイは、いくつかの反応部位における同時カップリングを介して、ポリマーの不均一アレイに転換される。代替的に、例えばPCT公開出願WO 95/35505に記載されているように、マイクロアレイは、固体基体上への事前に合成されたオリゴヌクレオチドの沈着によって作製される。
【0153】
アレイを用いたサンプルのハイブリダイゼーションからのデータの回収のための方法も、当技術分野において周知である。例えば、細胞サンプルのポリヌクレオチドを、検出可能な蛍光標識を用いて作製することができ、かつサンプル中の該ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、該検出可能な標識の存在についてマイクロアレイを走査することによって検出される。装置上の、蛍光により印付けされた標的を検出するための方法および装置は、当技術分野において公知である。一般的に、そのような検出装置は、顕微鏡および基板に光を向かわせるための光源を含む。光子計数器は基板からの蛍光を検出し、一方でx-y移動ステージは基板の位置を変動させる。主題の方法において用いられ得る共焦点検出装置は、米国特許第5,631,734号に記載されている。走査型レーザー顕微鏡は、Shalon et al., Genome Res. (1996)
6:639に記載されている。適当な励起線(excitation line)を用いた走査は、用いられる各フルオロフォアに対して実施される。次いで、走査により作成されたデジタル画像を、後続の分析のために組み合わせる。任意の特定のアレイ要素に関して、一方のサンプルからの蛍光シグナルの比率を、もう一方のサンプルからの蛍光シグナルと比較し、かつ相対的シグナル強度を決定する。
【0154】
アレイへのハイブリダイゼーションから回収されたデータを分析するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、ハイブリダイゼーションの検出が蛍光標識を伴う場合、データ分析は、回収されたデータから、基板箇所の関数として蛍光強度を決定する工程、異常値、すなわちあらかじめ定められた統計的分布から外れるデータを除去する工程、および残りのデータから標的の相対的結合親和性を算出する工程を含み得る。結果として得られたデータは、標的とプローブとの間の結合親和性に従って変動する各領域における強度を有する画像として表示され得る。
【0155】
パターン照合は手作業で実施され得るか、またはコンピュータープログラムを用いて実施され得る。基板マトリックス(例えば、アレイ)の調製、そのようなマトリックスとの使用のためのオリゴヌクレオチドの設計、プローブの標識化、ハイブリダイゼーション条件、ハイブリダイズされたマトリックスの走査、および比較分析を含めた作成されたパターンの分析のための方法は、例えば米国特許第5,800,992号に記載されている。
【0156】
主題の方法によって産生されたインビトロ誘導肝細胞様細胞(iHep)は、新規な肝臓用薬物の発見、開発、および安全性試験のための細胞の供給源も提供する。主題の方法によって産生されたインビトロiHepの使用は、医薬産業に、心筋症、不整脈、および心不全を治療する薬物候補の前臨床スクリーニングのための貴重なツール、ならびに二次的心毒性と闘う治療法を提供する。主題の方法によって産生されたインビトロiHepを用いた新たなスクリーニングの開発は、新たな薬物を市場に出す時間およびコストを低下させるはずである。
【0157】
対象となる肝細胞様細胞の、生物学的に活性な作用物質(例えば、小分子化合物、ペプチド、ウイルスなど)についてのスクリーニングアッセイでは、通常、対象となる肝細胞様細胞を含む培養物と関心対象の作用物質とを接触させ、かつ該作用物質の効果を、マーカーの発現、細胞生存率、薬物代謝などの出力パラメーターをモニターすることによって査定する。
【0158】
スクリーニングのための関心対象の作用物質には、有機金属分子、無機分子、遺伝子配列などを含み得る数々の化学的分類、主に有機分子を包含する公知のおよび未知の化合物が含まれる。本開示の重要な局面は、毒性試験などを含めた、薬物候補を評価することである。
【0159】
ウイルスなどの複雑な生物学的作用物質に加えて、作用物質候補には、構造的相互作用に必要な官能基、とくに水素結合を含む有機分子が含まれ、かつ典型的に、少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基、多くの場合化学官能基のうちの少なくとも2種類を含む。作用物質候補は、上記官能基のうちの1つまたは複数で置換された、環状炭素もしくは複素環構造、および/または芳香族もしくは多環芳香族構造をしばしば含む。作用物質候補は、ペプチド、ポリヌクレオチド、単糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造類似体、または組み合わせを含めた生体分子の中にも見出される。
【0160】
薬理学的に活性な薬物、遺伝子学的に活性な分子などが含まれる。関心対象の化合物には、化学療法剤、ホルモン、またはホルモンアンタゴニストなどが含まれる。本開示に適した例示的な薬学的作用物質は、すべてが参照により本明細書に組み入れられる、「The Pharmacological Basis of Therapeutics」, Goodman and Gilman, McGraw-Hill, New York, New York, (1996), Ninth edition, 節:Water, Salts and Ions; Drugs Affecting Renal Function and Electrolyte Metabolism;Drugs Affecting Gastrointestinal Function;Chemotherapy of Microbial Diseases;Chemotherapy of Neoplastic Diseases;Drugs Acting on Blood-Forming organs;Hormones and Hormone Antagonists;Vitamins, Dermatology;およびToxicologyの下で記載されているものである。
【0161】
試験化合物には、上記で記載される分子分類のすべてが含まれ、かつ未知の内容物のサンプルがさらに含まれ得る。植物などの天然供給源に由来する天然に存在する化合物の複合混合物は関心対象である。多くのサンプルは溶液中に化合物を含むと考えられるが、適切な溶媒中に溶解し得る固体サンプルもアッセイされ得る。関心対象のサンプルには、製造サンプル、医薬品、分析のために調製された化合物のライブラリーなどが含まれる。関心対象のサンプルには、潜在的な療法的価値について査定されている化合物、すなわち薬物候補が含まれる。
【0162】
作用物質候補を含めた化合物は、合成または天然の化合物のライブラリーを含めた多種多様な供給源から入手される。例えば、生体分子を含めた多種多様な有機化合物のランダムなおよび指向的な合成に対して、ランダム化オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含めた数々の手段が利用可能である。代替的に、細菌、真菌、植物、および動物の抽出物の様態の天然化合物のライブラリーが利用可能であるか、または容易に産生される。加えて、天然のまたは合成により産生されたライブラリーおよび化合物は、従来的な化学的、物理的、および生化学的な手段により容易に修飾され、かつ組み合わせライブラリーを産生するために用いられ得る。公知の薬理学的作用物質を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化(amidification)などの指向的なまたはランダムな化学的修飾に供して、構造類似体を産生してもよい。
【0163】
作用物質は、該作用物質を欠く細胞と通常併用して、少なくとも1つ、通常は複数の細胞サンプルに該作用物質を添加することによって、生物学的活性についてスクリーニングされる。作用物質に応じたパラメーターの変化を測定し、かつ、例えば該作用物質の存在下および非存在下において、他の作用物質などを用いて得られる参照培養との比較によって、結果を評価する。
【0164】
作用物質を、溶液または容易に溶解可能な様態で、培養下の細胞の培地に好都合に添加する。作用物質は、フロースルー式システムで間欠的もしくは連続的な流れとして添加され得、または代替的に、化合物のボーラスを、単独でもしくは追加的に、他の点では静的な溶液に添加する。フロースルー式システムでは、一方は生理学的に中性な溶液であり、かつ他方は、添加される試験化合物と同じ溶液である、2種類の流体が用いられる。第1の流体が細胞の上を通過し、その後に第2の流体が続く。単一溶液法では、試験化合物のボーラスを、細胞を取り囲む培地の量に添加する。培養培地の成分の全体的濃度は、ボーラスの添加によって、またはフロースルー法における2種類の溶液間で、有意に変化すべきではない。
【0165】
好ましい作用物質調合物は、調合物全体に対して重大な影響を有し得る、防腐剤などの付加的成分を含まない。ゆえに、好ましい調合物は、生物学的に活性な化合物および生理学的に許容されるキャリア、例えば水、エタノール、DMSOなどから本質的になる。しかしながら、化合物が、溶媒なしの液体である場合、調合物は、化合物それ自体から本質的になり得る。
【0166】
異なる作用物質濃度を用いて、複数のアッセイを並列して実施して、種々の濃度に対する差異的応答を得てもよい。当技術分野において公知であるように、作用物質の有効濃度を決定する工程は、典型的に、1:10のまたは他の対数目盛りの希釈により生じる濃度の値域を用いる。濃度は、必要な場合には、第2の希釈系列によりさらに精密にしてもよい。典型的に、これらの濃度のうちの1つは、すなわちゼロ濃度でもしくは作用物質の検出のレベルより下で、または表現型の検出可能な変化を与えない作用物質の濃度でもしくはそれより下で、陰性対照としての役割を果たす。
【0167】
細胞は、上記で記載されるように、新しく単離、培養、遺伝的に変化させてもよい。細胞は、環境的に誘導された、例えば独立した培養物に分割され、かつ別々の条件下で、例えばウイルスの有りまたは無しで;他の生物学的作用物質の存在下または非存在下で増大した、クローン培養物の変種であり得る。応答のタイミングを含めた、細胞が作用物質に、とくに薬理学的作用物質に応答する様式は、細胞の生理学的状態の重要な反映である。
【0168】
パラメーターは、細胞の定量可能な成分、とくに、望ましくはハイスループットシステムで精確に測定可能な成分である。パラメーターは、細胞表面決定基、受容体、タンパク質、またはそれらの立体構造的なもしくは翻訳後の修飾体、脂質、炭水化物、有機もしくは無機分子、核酸、例えばmRNA、DNAなど、またはそのような細胞成分に由来する一部分、あるいはそれらの組み合わせを含めた、任意の細胞成分または細胞産物であり得る。ほとんどのパラメーターは定量的な読み出しを提供するものの、ある場合には、半定量的または定性的な結果が許容される。読み出しには、単一の決定値が含まれ得る、または平均、中央値、もしくは分散などが含まれ得る。特徴的には、パラメーター読み出し値の値域は、多数の同じアッセイから、各パラメーターに関して取得される。変動性が予想され、かつ試験パラメーターのセットのそれぞれについての値の値域は、単一値を提供するために用いられる一般的な統計法とともに標準的統計法を用いて取得される。
【0169】
本開示の実践において有用な一般的技法についてのさらなる詳細に関して、実践者は、細胞生物学、組織培養、および発生学における標準的教科書および総説を参照することができる。組織培養および幹細胞について、Teratocarcinomas and embryonic stem cells: A practical approach (E. J. Robertson, ed., IRL Press Ltd. 1987);Guide to Techniques in Mouse Development (P. M. Wasserman et al. eds., Academic Press 1993);Embryonic Stem Cell Differentiation in Vitro (M. V. Wiles, Meth. Enzymol. 225:900, 1993);Properties and uses of Embryonic Stem Cells: Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy (P. D. Rathjen et al., Reprod. Fertil. Dev. 10:31, 1998)が参照されうる。
【0170】
キット
主題の方法における使用のためのキットも提供される。主題のキットは、ステージ1および/またはステージ2培地中に用いられる成分の任意の組み合わせを含む。例えば、ある場合には、キットは、Wntシグナル伝達アゴニスト(例えば、Wnt3a)、アクチビンA、FGF(例えば、FGF4、FGF5、FGF6など)、およびHGFを含む。一部の態様において、キットは、オンコスタチンM、デキサメタゾン、および/またはジメチルスルホキシドをさらに含み得る。一部の態様において、主題のキットは、基礎培地(例えば、RPMI 1640)を含む。一部の態様において、主題のキットは、立証工程(または、富化工程)における使用のための肝細胞マーカータンパク質に特異的な抗体を含む。一部のそのような態様において、肝細胞マーカータンパク質は、グルコース-6-ホスファターゼ、アルブミン(ALB)、α-1-アンチトリプシン(AAT、SERPINA1としても知られる)、サイトケラチン8(CK8)、サイトケラチン18(CK18)、サイトケラチン8/18(CK8/18)、アシアロ糖タンパク質受容体1(ASGR1)、アルコールデヒドロゲナーゼ1、I型アルギナーゼ、シトクロムp450 3A4(CYP3A4)、肝特異的有機アニオン輸送体(LST-1)、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FoxA2)、α-フェトプロテイン(AFP)、トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ(TDO2)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。一部の態様において、主題のキットは、立証工程における使用のためのアッセイ試薬(例えば、胆汁、アルブミン、および/または尿を測定するための試薬;LDLエンドサイトーシスアッセイ、グリコーゲン合成アッセイ、シトクロムP450 1A2解毒活性アッセイなどの肝細胞アッセイを実施するための試薬)を含む。
【0171】
上記の成分に加えて、主題のキットは、(ある特定の態様において)主題の方法を実践するための指示書をさらに含み得る。これらの指示書は、多様な様態で主題のキット内に存在し得、そのうちの1つまたは複数はキット内に存在し得る。これらの指示書が存在し得る一様態は、キットのパッケージ内に、添付文書(package insert)の状態でなど、適切な媒体または基板上に印刷された情報として、例えば情報が印刷された1枚または複数枚の紙としてのものである。これらの指示書のさらに別の様態は、情報が記録されているコンピューター可読媒体、例えばディスケット、コンパクトディスク(CD)、フラッシュドライブなどである。存在し得るこれらの指示書のさらに別の様態は、切り離された場所で情報にアクセスするためにインターネットを介して用いられ得るウェブサイトアドレスである。
【実施例】
【0172】
以下の実施例は、本発明を行いかつ用いる方法についての完全な開示および説明を当業者に提供するために記載されるものであり、本発明者らが何を発明として見なすかの範囲を限定することを意図するものではなく、それらは、下記での実験が、実施されたすべてまたは唯一の実験であることを表すことを意図するものでもない。用いられる数(例えば、量、温度など)に関する精確さを確実にするための努力はなされたが、いくらかの実験の誤差および偏差は考慮されるべきである。別様に示されていない限り、部分(part)は重量による部分であり、分子量は重量平均分子量であり、温度はセ氏温度でのものであり、かつ圧力は大気におけるまたは大気付近のものである。標準的略語が用いられ得る:例えば、室温(RT);塩基対(bp);キロベース(kb);ピコリットル(pl);秒間(sまたはsec);分間(mまたはmin);時間(hまたはhr);日間(d);週間(wkまたはwks);ナノリットル(nl);マイクロリットル(ul);ミリリットル(ml);リットル(L);ナノグラム(ng);マイクログラム(ug);ミリグラム(mg);グラム((g)、質量の文脈において);キログラム(kg);等価の重力の力((g)、遠心分離の文脈において);ナノモル(nM);マイクロモル(uM);ミリモル(mM);モル(M);アミノ酸(aa);キロベース(kb);塩基対(bp);ヌクレオチド(nt);筋肉内(i.m.);腹腔内(i.p.);皮下(s.c.)など。
【0173】
脂肪由来幹細胞から肝細胞様細胞を産生するための、効率的で、高収量で、コスト効果が高い方法が本明細書に開示される。本方法によって産生された肝細胞様細胞は、インビトロで成熟肝細胞の機能特性の多くを有し、かつマウスモデルシステムにおいてインビボで機能的なヒト肝臓を安定して再構成し得る。以下の材料および方法を、下記の実施例1および2において用いた。
【0174】
材料および方法
ASCの調製および分化
スタンフォード大学メディカルセンターIRBによって承認されたプロトコールに従って、スタンフォード大学メディカルセンターでリポサクションを受けたヒトドナーから、脂肪吸引物を非特定化サンプルとして入手した。(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、Banas et al, J Gastroenterol Hepatol. 2009 Jan;24(1):70-7)に記載されるように、これらのサンプルからASCを調製した。ASCをMESENPRO RS(商標)培地(Gibco、12746-012)中で培養し、90%コンフルエンスで1:4比にて継代し、かつ培地を1日毎に変えた。Chi-Hepの調製に関して、2〜5回の継代後、ASC細胞を、マトリゲル(BD Biosciences、カタログ番号:354277)コートされたディッシュ上に播いた。細胞が50%コンフルエンスに達した後、ステージ1培地:100ng/mLアクチビンA(R&D、338-AC-010)、50ng/mL Wnt3a(StemRD、カタログ番号:W3A-H-100)、20ng/mL FGF4(PeproTech、カタログ番号:100-31)、および20% B27(Gibco、カタログ番号:17504-044)を補給されたRPMI1640(Gibco、カタログ番号:12633-012)中での3日間の培養にわたって、内胚葉分化転換(trans-differentiation)を誘導した。次いで、ステージ2培地:150ng/mL肝細胞成長因子(HGF)(PeproTech、カタログ番号:100-39)、25ng/mL FGF4、30ng/mLオンコスタチンM(OSM、PeproTech、カタログ番号:300-10)、2×10
-5Mデキサメタゾン(Dex、Sigma、カタログ番号:D4902)、および0.1% DMSO(Sigma、カタログ番号:C6164)を補給された肝細胞培養培地(HCM)(Lonza、カタログ番号:cc-3198) 中での培養によって、13〜15日間の期間にわたって肝分化を誘導した。次いで、TK-NOGマウス内への移植前に、細胞をHCM単独の中で2日間培養した。
【0175】
SCi-Hepの調製
初代ASCを脂肪吸引物から単離し、かつMesenPRO RS(商標)培地(Gibco、カタログ番号:12746-012)中に5×10
4細胞/mlで懸濁した。次いで、細胞を懸滴法によって培養し、それは、胚様体に類似する球状細胞凝集体(「スフェア」)の形成をもたらした。簡潔には、ASCを、8チャネルピペットを用いて、150mmペトリディッシュ(BD Biosciences、カタログ番号:354551)上に、列をなした個々の液滴(それぞれ約40ul)として播いた。2日後、ディッシュをPBSでリンスし、かつスフェアを37℃で150×gでの遠心分離によって回収し、ステージ1培地中に30個のスフェア/mlで再懸濁し、かつマトリゲルコートされたディッシュ(BD Biosciences、カタログ番号:354262)上に播種した。次いで、スフェア由来細胞を、2段階過程によって肝細胞に分化するように誘導した。ステージ1培地中でスフェアを培養することによって、2日間の期間にわたって内胚葉分化転換を誘導した。ステージ2培地中での培養によって、後続の2〜9日間の期間にわたって肝分化を誘導した。次いで、TK-NOGマウス内への移植前に、細胞をHCM単独の中で2日間培養した。
【0176】
iPS-Hepの調製
ASCに、Oct4、Sox2、Klf4、およびc-MYCをコードするレンチウイルスをトランスフェクトして、iPS細胞を作製した。感染の4日後、細胞を、マトリゲル(BD Biosciences、カタログ番号:354277)コートされた100mmディッシュ1枚あたり5×10
4個の細胞で、mTeSR-1培地(StemCell Technologies Inc、カタログ番号:05850)中に再度播き、かつ培地を1日毎に変えた。感染の15日後、個々のコロニーを手作業で選出し、かつ新たなマトリゲルコートされたディッシュ上に継代した。細胞が50%コンフルエンスに達した後、次いで、3段階の肝分化プロトコールを用いた。(i)iPS細胞をステージ1培地中で4日間培養した。(ii)次の7日間にわたって、20% B27、20ng/ml BMP4(Pepro Tech、カタログ番号:120-05ET)、および20ng/ml FGF4(PeproTech、カタログ番号:100-31)とともにRPMI1640(Gibco、カタログ番号:12633-012)を含有する肝細胞前駆(HP)培地中で、細胞を誘導した。(iii)次いで、10ng/ml HGF(PeproTech、カタログ番号:100-39)、10ng/mlオンコスタチンM(OSM、PeproTech、カタログ番号:300-10)、および0.1uMデキサメタゾン(Dex、Sigma、カタログ番号:D4902)とともに肝細胞成長培地(Lonza、カタログ番号:cc-3198)を有する肝細胞成熟(HM)培地中に、細胞を15日間置いた。分化に用いられたiPS細胞は、継代10〜20回のものであった。
【0177】
免疫蛍光染色
細胞を4%パラホルムアルデヒド中で10分間固定し、その後に10%ニワトリ血清での30分間のブロッキングが続いた。0.05% Triton X-100を有するPBS(TPBS)中で3回洗浄した後、細胞を、一次抗体の抗ヒトアルブミン(Bethyl Laboratories、カタログ番号:A80-129A、1:100)または抗ヒトCK8/18(abcam、カタログ番号:ab17139、1:100)とともに4℃で一晩インキュベートし、次いでTPBSで3回洗浄した。次いで、Alexa Fluor 488(Invitrogen、カタログ番号:A21200、1:1000)またはAlexa Fluor 594(Invitrogen、カタログ番号:A21201、1:1000)抱合型二次抗体を暗所で1時間適用した。4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、Sigma、カタログ番号:D9542)を用いて、核染色を査定した。NikonのEclipse Ni-Eイメージングシステムを用いて、画像を取得した。
【0178】
インビトロでのASGR1発現の査定に関して、細胞を0.2% Triton X-100で10分間透過処理し、その後に0.05% Triton X-100を有するPBS(TPBS)中での3回の洗浄が続いた。細胞を10%ニワトリ血清とともに30分間プレインキュベートし、その後に一次抗体の1:50希釈の抗ASGR1抗体(Sigma-Aldrich、カタログ番号:HPA012852)との4℃で一晩のインキュベーションが続き、次いでTPBSで3回洗浄した。次いで、1:1000希釈のAlexa Fluor 488(Invitrogen、カタログ番号:A21200)抱合型二次抗体を暗所で1時間適用した。4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、Sigma-Aldrich、カタログ番号:D9542)を用いて、核染色を査定した。NikonのEclipse Ni-Eイメージングシステムを用いて、画像を取得した。
【0179】
過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色
メーカー(Sigma、395B)の指示書に従って、PAS染色を実施した。簡潔には、細胞を4%パラホルムアルデヒドで1分間固定した。滅菌水でリンスした後、細胞をPAS溶液で5分間染色し、次いで滅菌水で洗浄し、かつシッフ試薬を用いて15分間染色した。次いで、細胞を水で1回洗浄し、かつヘマトキシリン溶液中で90秒間対比染色し、その後、分析前に滅菌水で3回のリンスが続いた。
【0180】
LDLエンドサイトーシス
メーカーの指示書に従い、Dil-LDLアッセイ(Biomedical Technologies Inc.、BT-904)を用いて、LDL取り込みを査定した。1% BSAを有する血清不含培地中で細胞を24時間プレインキュベートした。次いで、10ug/mL Dil-LDLを37℃で少なくとも5時間添加した。DPBSで3回洗浄した後、NikonのEclipse Ni-Eイメージングシステムを用いて、細胞を撮像した。
【0181】
フローサイトメトリー
CK8/18発現をフローサイトメトリー(FACS、Aida、ソフトウェアFlowjo)によって分析した。まず、メーカーの指示書に従って、細胞をFc受容体ブロッキング試薬(Miltenyi Biotech, Germany)でブロッキングし、次いで、一次抗体の抗ヒトCK8/18(abcam、カタログ番号:ab17139、1:200)で4℃にて30分間染色し、その後に、二次抗体のAlexa Fluor 488(Invitrogen、カタログ番号:A21200、1:1000)とのインキュベーションが続いた。適当に希釈されたアイソタイプ適合抗体(Ebioscience)を対照として用いた。10,000個の分析された事象からのデータを保存しかつ分析した。
【0182】
ヒトアルブミン産生
マウスアルブミンと交差反応しないヒト特異的抗体を用いる酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA、E80-129;Bethyl Laboratories, Montgomery, TX, USA)を用いて、ヒトアルブミン産生を評価した。簡潔には、細胞培養上清を0日目およびその後3日毎に回収した。Amicon(登録商標)Ultra-4遠心式フィルターユニット(EMD Millipore、UFC810024)を用いて、上清を濃縮した。まず、血液サンプルを2000gで5分間遠心分離して血清を単離し、次いで、アッセイのために1:10000で希釈した。各データ点は、分析された生物学的に独立した4つのサンプルの平均±SEである。
【0183】
尿素産生およびCYP450活性
メーカーの指示書に従い、尿素アッセイキット(abcam、ab83362)を用いて、希釈されていない細胞培養上清において細胞内尿素産生を検出した。細胞内CYP450活性を、メーカーの指示書に従い、P450-GloTM CYP3A4アッセイ(Promega、カタログ番号:V9002)を用いて測定した。簡潔には、細胞を、発光性(luminogenic)CYP基質を含有する培地とともに37℃で60分間培養した。次いで、25μlの上清を96ウェル白色不透明ルミノメーター用プレートに室温で移し、かつ25μlのルシフェリン検出試薬を添加して、発光反応を開始させた。20分間のインキュベーション後、IVIS 100イメージングシステムを用いて、発光を測定した。
【0184】
RT-PCR分析
RNeasy Plusキット(Qiagen、カタログ番号:74134)を用いて全RNAを抽出し、かつ(0.5μg)を、メーカーのガイドラインに従い、SuperScript III逆転写酵素(Invitrogen、カタログ番号:11754-050)を用いて逆転写した。以下のTaqMan遺伝子発現アッセイを用いて、PCR分析を実施した:FOXA2(Hs00232764_m1)、AFP(Hs00173490_m1)、ALB(Hs99999922_s1)、AAT(Hs01097800_m1)、A1AT(Hs00165475_m1)、TDO2(Hs00194611_m1)、CD37(Hs01099648_m1)、およびCD29(Hs00559595_m1)、およびCD105(Hs00923996_m1)。RT-PCRデータの統計分析に関して、示された日における、分析された遺伝子のそれぞれに対する測定された発現レベルを、ASCにおけるその発現のレベルに対して正規化した。次いで、対数変換された発現レベルを用いて1サンプルt検定を適用して、発現変化の統計的有意性を査定した。
【0185】
遺伝子発現のマイクロアレイ分析
メーカーの指示書に従って、各細胞タイプの独立して調製された3つの培養物から、全RNAを収集しかつ別個に処理した。簡潔には、Stem Pro Accutase(登録商標)細胞解離試薬(Invitrogen、カタログ番号:A11105-01)を用いて、細胞をディッシュから剥離した。RNeasy Miniキット(QIAGEN、カタログ番号:74104)を用いてRNAを抽出し、そして10ug RNAを標識しかつAffymetrix Human Genome U219アレイにハイブリダイズさせ、そしてメーカーの指示書に従って処理した。結果として生じた画像ファイルを、Affymetrix Microarray Analysis Suiteバージョン5.0ソフトウェアを用いて分析した。3つの生物学的複製物(replicate)を、ASC、Chi-Hep、SCi-Hep、iPS-Hep、および肝細胞の細胞について分析した。R/affyパッケージ(Gautier et al, Bioinformatics. 2004 Feb 12;20(3):307-15)を用いて、すべてのアレイから作成されたプローブ強度データを.CELファイルからRソフトウェア環境(「」「www.」、その後に「R-project.org」が続く、バージョン2.15.1)に直接読み込ませ、それを用いて、プローブレベルデータも抽出しかつ操作して、データ品質を査定しかつ発現集約尺度(summary measure)を作成した。ロバストマルチアレイ平均(RMA)法(Irizarry et al, Biostatistics. 2003 Apr;4(2):249-64)を用いて正規化を行って、各アレイ上の各プローブセットに対して1つの発現尺度を作成した。スチューデントt検定を適用して、ASC細胞と比較して、iHep、iPS-Hep、および肝細胞の細胞における発現変化を識別した。経験ベイズ法(Smyth et al, Stat Appl Genet Mol Biol. 2004;3:Article3)を適用して、各プローブに対する標準偏差概算を調整し、かつ多重検定調整を適用して、R/limmaパッケージを用いて最終p値を作成した。あらかじめ定められた基準(>2の倍数変化、および<0.01の調整p値)を満たす遺伝子発現変化を、さらなる分析に選択した。
【0186】
これらの細胞の遺伝子発現プロファイルの空間的関係性についての図解のために、本発明者らは、アレイデータの任意のペア間の距離を、マイクロアレイ上の各遺伝子に対する発現のレベルの差異の平方和の平方根として定義した:
式中、Nは、アレイ上のプローブの総数を表し、かつE
1iおよびE
2iは、ぞれぞれアレイ1および2上のプローブiに対する正規化発現レベルのlog2を提示している。言い換えれば、1対のプロファイルに関する距離は、サイズNのベクトルとして処理された2つのプロファイル間のユークリッド距離である。各細胞タイプに対して3つの複製アレイがあるため、本発明者らは、任意の2種類の細胞タイプ間の距離を、一方の細胞タイプに対する3つのアレイのそれぞれと、他方の細胞タイプに対する3つのアレイのそれぞれとを比較した場合に測定される距離(合計9組のアレイペアをもたらす)の平均として定義した。4種類の細胞タイプ間での空間的関係性についての2次元図解を、共通のASC-肝細胞軸を共有する2つの三角形を互いに隣り合って置くことによって作成した。三角形の各辺の長さは、示された頂点における細胞タイプ間の距離に比例する。
【0187】
さらに主成分分析(PCA)も用いて、分析される種々のタイプの細胞における遺伝子発現の全体的パターンの関連性を視覚化した。簡潔には、プロファイルの変動の最大量を説明する次元を同定し、そしてこれが、x軸上に示される第1の主成分(PC)になった。次いで、PC1に直交しかつ残りの変動の最大量を説明する次元を同定し、それが、y軸上に示される第2のPCになった。結果として、最初の2つの成分は、データの変動の大部分を捕捉した。したがって、視覚化をこれらの成分に集中させて、元のデータに存在している相当量の情報を喪失することなく、次元を低下させることができた。
【0188】
TK-NOGマウスの調製
すべての動物実験は、スタンフォード動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認されたプロトコールに従って実施された。移植のためのTK-NOGマウスを調製するために、8〜10週齢のTK-NOGマウスを、移植前−7日目および−5日目に25mg/kgのガンシクロビル(GCV)で処理した(i.p.)。次いで、1回目のGCV処理の6日後に20μlの血液サンプルを回収し、水に1:3で希釈し、かつ希釈されたサンプルのうちの10μlを用いて、(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、Hasegawa et al, Biochem Biophys Res Commun. 2011 Feb 18;405(3):405-10)に記載される、Fuji dry-chem 7000機器を用い、血清中ALTレベルを測定した。>200U/LのALTレベルを有するマウスのみを、7日目に細胞移植に用いた。<200U/LのALTレベルを有するマウスを、7日目に25mg/kg GCVの付加的用量で処理し、13日目にALTレベルを再調査し、その反復ALTレベルが>200U/Lであるマウスのみを、14日目に細胞移植に用いた。
【0189】
超音波ガイドによる肝注射
小動物用超音波システムVevo 2100(Visualsonics Canada)を用いて、超音波ガイド下注射の下で、移植される細胞を肝葉内に直接置いた。輝度モード(Bモード)を用いて、MS550s変換器により関心対象の領域についての二次元画像を取得した。この手順の間、単一動物用気化器ユニット(EZ-Systems Corp、EZ-108SA)を用いて、マウスを1.5%イソフルラン麻酔下に置いた。次いで、5×10
6個の細胞を、200μlのウィリアムE培地(Invitrogen、A12176-01)中に懸濁し、それを、30Gニードルを用いて肝臓における10箇所の別々の部位に注射した。
【0190】
腫瘍形成の分析
腫瘍形成を査定するために、5×10
4個のChi-Hep、SCi-Hep、またはiPS-Hepを収集し、50μlのマトリゲル(BD Biosciences、カタログ番号:354277)と混合した。個々の気化器ユニット(EZ-Systems Corp、EZ- 108SA)を用い、1.5%イソフルランを用いてNOGマウスを麻酔した。切開を行い、かつ切開の両側にわずかな圧力を適用して、腎臓を露出させた。次いで、27ゲージのニードルを有する注射器を用いて、細胞を腎臓被膜下に注射した。細胞をゆっくりと送達した後、注射部位の上に乾燥スワブを置いて、漏出を阻止した。該手順の間、綿棒スワブでの生理食塩水の適用により、腎臓を湿った状態に保った。3〜8週間後、マウスを屠殺し、かつ注射された腎臓を組織学的分析のために収集した。
【0191】
結果
実施例1−脂肪細胞由来幹細胞からの肝細胞様細胞の産生
脂肪細胞由来幹細胞(ASC)を肝細胞様細胞(iHep)に分化させるための方法が提供される(
図1A)。まず、「懸滴」法を用いてASCを培養して、球状細胞凝集体(「スフェア」)を産生する(
図1B)。SRY関連HMGbox転写因子17(Sox17)発現についての分析によって示されるように、球状培養は、内胚葉前駆体細胞に分化する、脂肪吸引物中のASCの数を増倍させる(
図5)。間葉系ASCが内胚葉に分化し得る能力は、肝細胞作製にとっての律速であり得るため、wnt3aを(ステージ1)分化培地に添加した。以前に記載されたiHepを作製する方法(Banas et al., J Gastroenterol Hepatol. 2009 Jan;24(1):70-7)と比較して、主題の方法は、2段階の分化過程が完了した後に、脂肪吸引物から入手されるASCの数の2.3倍の増加、および効率(CK8/18マーカーを用いてアッセイされる、入手された肝細胞様細胞の%)の3倍の増加をもたらす(
図1Cおよび表1)。本方法は、1リットルの脂肪吸引物から入手されるiHepの数を7倍増加させ、かつ生化学的に定義される肝細胞を>37%の純度で入手するために要されるインビトロ培養の期間を9日間またはそれ未満に低下させる。Chi-Hepと同様に、本発明者らがSCi-Hepと称する、球状培養によって産生された細胞は、肝細胞様形態を発達させ(
図1B)、かつ成熟肝細胞の多くの特性を呈した。それらは、肝細胞上に見出されるタンパク質(CK8/18)を発現し(
図1C)、かつLDLエンドサイトーシス、グリコーゲン合成(
図1D)、アルブミン分泌、および尿素産生(
図1E)を含めた、肝細胞の複数の代謝特性を有した。さらに、SCi-Hepは、複数の肝細胞特異的mRNAを発現し、かつASC特異的細胞表面タンパク質(CD105)の発現の低下(
図6;
図12)とともに、複数の脂肪細胞特異的mRNAの発現のレベルの著しい低下を有した(
図2A)。
【0192】
表1
3人の異なるドナーから調製されたASCを、以前の方法(Banas et al., J Gastroenterol Hepatol. 2009 Jan;24(1):70-7)を用いてChi-Hepに、または主題の方法を用いてSCi-Hep(球状培養iHep)に分化するように誘導した。3日後に入手されたASCの数(±SEM)、12日間(Chi-Hep)または9日間(SCi-Hep)の分化後に肝細胞マーカー(CK8/18+)を発現する細胞のパーセンテージ(±SEM)、肝細胞分化過程を完了するために要される日数、および1リットルの脂肪吸引物あたりに入手されたiHepの概算数が示されている。
【0193】
【表1】
【0194】
本発明者らは、また、Chi-HepおよびSCi-Hepの特性と、4種類の遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4、およびc-Myc)のトランスフェクション後にiPSにリプログラミングされ、次いで、Ochiyaプロトコール(Banas et al., J Gastroenterol Hepatol. 2009 Jan;24(1):70-7)を用いて、肝細胞に分化するように誘導されたASC(同じドナーから入手された)であるiPS-Hepとを比較した。iPS-Hepは、肝細胞上に見出されるタンパク質(CK8/18)を発現し(
図1C);LDLをエンドサイトーシスによって取り込むことができ、グリコーゲンを合成し得(
図7)、アルブミンを分泌し得、尿素を産生し得、かつCYP450活性を有した(
図8)。重要なことには、SCi-Hepは、ほんの3日間のインビトロ分化後にアルブミンおよび尿素を産生し、それは、Chi-Hep(
図1E)がこれらの分析物を産生する3〜6日前、およびiPS-Hep(
図8)がこれらの分析物を産生する12日前であった。ASCは、まずリプログラミングされ、次いで、それらがiPSHepに分化し得る前に分化万能状態から抜け出さなければならない。対照的に、SCi-Hepは、ASCの内胚葉への直接分化によって産生され、それは、なぜそれらがこれらの分析物をより迅速に産生し得るのかを説明する。より迅速な分化過程と一致して、SCi-Hepは、肝分化の開始後3日以内に、内胚葉特異的(上皮細胞接着分子、Epcam)および肝細胞特異的(アルブミン、Foxa2)遺伝子に対するmRNAを発現した(
図2B)。また、SCi-Hepは、試験された3種類のタイプのASC由来細胞の間で、最も高いレベルのアルブミン産生(1個の細胞あたり)を有した。それらのアルブミン産生のレベルの増加は、37%のSCi-Hepが成熟肝細胞マーカーを発現した一方で、それぞれ約12%および20%にすぎないChi-HepおよびiPS-Hepがこのマーカーを発現したことを示すFACS結果と一致する(
図1C)。ゆえに、SCi-Hep法は、増加した数の肝細胞様細胞を脂肪吸引物から産生し、かつ該細胞は、アセトアミノフェンの過量摂取後に生じるであろうなどの緊急の臨床的状況でそれらが用いられ得ることを可能にする時間枠内で調製される。
【0195】
これらの細胞をさらに特徴付けするために、マイクロアレイを用いて、ASC、Chi-Hep、SCi-Hep、iPS-Hep、および肝細胞において遺伝子発現プロファイリングを実施しており、かつデータ分析は補足情報に記載されている。簡潔には、多重比較により、インビトロ分化が、ASCにおける遺伝子発現パターンを有意に変更したこと、ならびにChi-HepおよびSCi-Hepが、非常に多くの数の肝細胞特異的遺伝子を発現したことが示された(例えば、Xu et al., Cell Transplantation, 2013 Oct 21; DOI:10.3727/096368913X673432;「Enabling Autologous Human Liver Regeneration With Differentiated Adipocyte Stem Cells」における表S2に公開されている;図、表、補足の図、補足の表などを含めたその全体は、参照により本明細書に組み入れられる)。さらに、2種類の分析(遺伝子発現差異についての空間図(
図2C)、および主成分分析(
図9))により、Chi-HepおよびSCi-Hepが、iPS-Hepプロファイルよりも、肝細胞のものにより近い遺伝子発現プロファイルを有したことが示されている。iPS-Hepは、脂肪細胞または肝細胞では発現されない多くの数の遺伝子を発現した(
図11)。まとめると、SCi-Hepは、肝細胞のものに類似するが完全に反映したものではない遺伝子発現パターンを有する。37%のみのSci-Hep細胞が成熟肝細胞マーカーを発現したため(
図1C)、十分に分化したSCi-Hepにおける遺伝子発現パターンは、この分析によって示唆されるよりも、肝細胞の伝子発現パターンにより酷似する可能性がある。なぜならば、遺伝子発現変化の一部は、集団におけるあまり分化していない細胞が優勢であることによってマスク(希釈)され得るためである。SCi-Hepは異なる方法によって産生され、かつChi-Hepよりもはるかに短い期間培養されるものの、それらの遺伝子発現プロファイルは極めて似ており:49395種のうち48165種のプローブは、これらの2種類のタイプのiHep間で有意な発現差異を示さなかった(調整p値>0.01、または<2の倍数変化)。これら2種類の細胞タイプにおいて、306種類の遺伝子(0.6%)の発現のレベルは3倍を上回る差異を有し(調整p<0.01)、かつ44種類の遺伝子(0.08%)のみが発現において10倍を上回る差異を有した(調整p<0.01)(例えば、Xu et al., Cell Transplantation, 2013 Oct 21; DOI:10.3727/096368913X673432;「Enabling Autologous Human Liver Regeneration With Differentiated Adipocyte Stem Cells」における表S4に公開されている;図、表、補足の図、補足の表などを含めたその全体は、参照により本明細書に組み入れられる)。いくつかの肝特異的遺伝子(例えば、CYP3A4)は差異的に発現したものの、圧倒的多数の遺伝子は、Chi-HepおよびSCi-Hepにおいて同様のレベルの発現を有し、それは、両タイプの細胞が同様の肝特異的遺伝子発現プロファイルを有することを示している。
【0196】
遺伝子発現データの分析
包括的遺伝子発現についてのマイクロアレイベースの分析を、ASC、Chi-Hep、SCi-Hep、iPS-Hep、および肝細胞に対して実施した。個体間の差異が遺伝子発現プロファイルに対して有し得る影響を排除するために、ASC、Chi-Hep、SCi-Hep、およびiPS-Hepを同じ個体から調製した。本発明者らの初回の分析に関して、肝細胞およびASCの遺伝子発現プロファイルを、差異的発現に対するあらかじめ定められた基準(>5の倍数変化、および<0.01の調整p値)を満たす遺伝子のセットの選択を可能にするように比較した。後続の比較がASCと肝細胞との間の確固とした発現差異を評価していることを確実にするために、本発明者らは、発現差異が5倍よりも大きい遺伝子を選択した。これらの基準に基づき、この分析により、その発現がASCと比較して肝細胞において増加するまたは減少する、それぞれ1,129種および1,437種類の遺伝子が同定された(例えば、Xu et al., Cell Transplantation, 2013 Oct 21; DOI:10.3727/096368913X673432;「Enabling Autologous Human Liver Regeneration With Differentiated Adipocyte Stem Cells」における表S2に公開されている;図、表、補足の図、補足の表などを含めたその全体は、参照により本明細書に組み入れられる)。3種類の異なるタイプのiHepおよび肝細胞の間の相似性を定量的に査定するために、本発明者らは、ASCが3つの異なる分化過程を経た後に、これらの選択遺伝子のどれぐらいが、変化した発現パターンを有するかを調べた。例えば、本発明者らは、上方調節または下方調節された選択遺伝子のうちのそれぞれ494種(つまり44%)および341種(つまり24%)の発現が、Chi-Hepにおいて同様に変化することを見出した(>2の倍数変化、および<0.01の調整p値)(
図11)。しかしながら、この結果は、これら2566種類の選択遺伝子のうちの1731種(つまり67%)の発現のレベルは、Chi-Hepにおいて(ASCと比べて)有意に変化しなかった、または(肝細胞と比較して)異なる方向に変化したことを示している。同様に、本発明者らは、同じ基準を用いて、上方調節または下方調節された選択遺伝子のうちのそれぞれ565種(つまり50%)および449種(つまり31%)の発現が、SCi-Hepにおいて同様に変更することを見出し(
図11);これは、2566種類の選択遺伝子のうちの1552種(つまり60%)の発現のレベルは、SCi-Hepにおいて有意に変化しなかった、または異なる方向に変化したことを示している。これらの結果は、Chi-HepおよびSCi-Hepは、肝細胞のものに類似するが確実に完全にそれを反映したものではない同様の遺伝子発現プロファイルを有することを示している。このタイプの比較をiPS-Hep遺伝子発現プロファイルを用いて行った場合に、同様の結果が出た(
図11)。本発明者らは、第2の手法も用いて、3種類の異なるタイプのiHepにおいて測定された包括的遺伝子発現プロファイルを比較した。今回、本発明者らは、Chi-Hep、SCi-Hep、およびiPS-Hepにおける遺伝子発現プロファイルとASCにおけるものとを直接比較して、肝細胞にも一貫して存在している遺伝子発現変化(ASCと比較)の数を調査した。この比較は、ASCと比較してiHepにおいて差異的に発現している全遺伝子を調査するため、この手法は上記で用いられるものとは異なる。ASCと比較してChi-Hepにおいて差異的に発現している(>2の倍数変化、および<0.01の調整p値)1487種類の遺伝子のうち、835種(56%)の遺伝子は、ASCと比較して肝細胞の細胞においても一貫した(かつ有意な)発現変化を示した(>5の倍数変化、および<0.01のp値)。同様に、SCi-Hepにおいて差異的に発現している2372種類の遺伝子のうち、これらの遺伝子のうちの1014種(43%)は、ASCと比較して肝細胞の細胞においても一貫した(かつ有意な)発現変化を示した。しかしながら、iPS-Hep発現データを用いて実施された同じ比較により、iPS-Hepにおいて差異的に発現した遺伝子のうちの31%(4456種類のうちの1372種)のみが、肝細胞において一貫した変化を示すことが明らかになった。iPS-Hep遺伝子発現パターンの差異は、その発現パターンがASCと比較して肝細胞において変化しない遺伝子の分析によっても例示される。その発現パターンがASCと比較して肝細胞において不変である16446種類の遺伝子のうち、これらの遺伝子のうちの96%および92%の発現は、それぞれChi-HepおよびSCi-Hepにおいても不変であった(
図11)。しかしながら、これら16446種類の遺伝子のうちの18%(つまり2969種)の発現のレベルは、iPS-Hepにおいて変化した。まとめると、これらの分析により、それらの発現パターンは肝細胞のものを完全には反映しないものの、Chi-HepおよびSCi-Hepは、iPS-Hepよりも、肝細胞のものにより優れて類似する遺伝子発現パターンを有することが示されている。さらに、肝細胞分化に関連した遺伝子発現変化を反映したわけではない、iPS-Hepにおける有意な数の遺伝子発現変化が存在する。
【0197】
実施例2−SCi-Hepを用いたヒト肝再生
SCi-Hepがインビボでヒト肝臓を再構成し得るかどうかを判定するために、5×10
6個のSCi-Hepを、4匹のガンシクロビル条件付きTK-NOGマウスの肝臓内に、超音波ガイドによる直接注射によって移植した(
図3A)。本発明者らは、キメラマウスの血清中のヒトアルブミンの量が、肝ヒト化の程度の指標であることを以前に実証した(Hasegawa et al, Biochem Biophys Res Commun. 2011 Feb 18;405(3):405-10)ため、血清中ヒトアルブミンレベルを、SCi-Hep移植後8週間の期間にわたって継続的に査定した。これらのマウスのうち4匹すべてが、移植後8週間の期間にわたってモニターした場合に、実質的なかつ増加する量のヒト血清アルブミンを産生した。それらは、4週間の時点で、それらの血清中に0.29(±0.09)mg/mlの平均ヒトアルブミン濃度を有し、それは、SCi-Hep移植の8週間後の時点で、0.82(±0.41)に増加した(
図3B)。対照的に、同数の未分化ASCを移植された3匹のマウスのいずれも、検出可能なヒト血清アルブミンを産生しなかった。
【0198】
肝臓組織学により、肝臓内に組み込まれた移植SCi-Hepは、ヒトアルブミンを産生し、かつ成熟ヒト肝細胞上に見出されるマーカー(ASGR1、CK8/18)を発現することが明らかになった(
図3C)。SCi-Hepは、移植の直前にインビトロでASGR1を発現しなかったため(
図10)、ASGR1発現により、SCi-Hepは、肝生着後に分化し続けることが示された。生着したSCi-Hepが肝臓で増殖するかどうかを判定することが重要であるため、本発明者らは、SCi-Hepが、細胞増殖に対する特異的マーカーであるKi67核タンパク質を発現するかどうかを調べた。有意なパーセンテージの生着SCi-Hepが、それらが肝臓においてインサイチューで増殖することを示す、Ki67陽性であった(
図3D)。加えて、有意なパーセンテージの生着SCi-Hep細胞が、密着結合(tight junction)タンパク質ZO-1も発現した(
図3D)。このことは、それらが、ヒト胆管形成に要される互いとの密着結合相互作用を確立していることを示す。対照的に、未分化ASCを移植されたマウスから得られた肝臓は、Ki67またはZO-1陽性細胞を全く有しなかった(
図3D)。
【0199】
SCi-Hepは腫瘍を形成しない
悪性度は、SCi-Hepがヒト対象における肝再生に用いられ得るかどうかの重大な決定因子であるため、本発明者らは、SCi-Hepが、免疫機能低下NOGマウスの腎臓被膜下への移植後に腫瘍を形成するかどうかを調査した。5×10
4個のChi-HepまたはSCi-Hepが5匹のNOGマウスのそれぞれに移植された後の2ヶ月間の観察期間にわたって、腫瘍は形成されなかった。さらに、組織切片の分析により、正常組織のみが移植領域に存在していることが示された。対照的に、4匹のNOGマウスのそれぞれへの同数のiPS-Hepの移植は、3週間以内に、体壁を通して触診され得る複数の腫瘍の形成をもたらした(
図4A)。iPS-Hep移植の2ヶ月後に得られた腫瘍組織の分析により、4匹すべてのマウスから、腫瘍は、3種すべての胚細胞層に由来する組織を含むことが明らかになった(
図4B)。
【0200】
実施例3−かき混ぜ式浮遊培養を用いたASC培養およびiHep形成
ASCを、1分間あたり0〜150回の回転(rpm)の範囲内の無数の異なる回転速度を用いたスピナーフラスコ培養(マイクロキャリアの非存在下において)に置いた。ASCが凝集体を形成しかつ増殖するのを可能にする培養条件を同定した。スピナーフラスコシステムでの24時間後、ASCの数は5×10
5個(開始細胞数)から7.7±0.3×10
6個に増加し(n=4の独立した複製物)、それは細胞の数のおよそ14倍の増加である。対照的に、ASCを懸滴法(すなわち、懸滴浮遊培養)を用いて48時間の期間培養した場合、ASCの数の6倍の増加(1×10
4個から6.1+0.2×10
4個へ)が得られた。さらに、スピナーフラスコ中のASC細胞凝集体の形態は、懸滴法を用いて形成された「スフェア」に類似していた(
図13)。
【0201】
さらには、細胞凝集体は、懸滴法を用いるのと同程度の効率で内胚葉に分化させることが可能であった。これらの結果は、高密度培養(例えばかき混ぜ式浮遊培養、例えばスピナーフラスコ培養、バイオリアクター培養など)が、ASCの増大および増殖を支持するであろうこと、ASCがマイクロキャリアの非存在下でさえ細胞凝集体(例えば、スフェア)を形成すること、ならびにASCが、かき混ぜ式浮遊培養(例えば、スピナーフラスコ)において実質的により高速度で増殖し得ることを示している。ゆえに、かき混ぜ式浮遊培養は、より多くの開始数のASC(例えば、分化培地との接触前)、および懸滴浮遊培養(例えば、スピナーフラスコ培養、バイオリアクター培養など)で見られるのと同程度の(またはより大きな)分化効率を提供することができ、それによって、はるかに大きな総数のiHepが産生される。
【0202】
付着によって培養されたASC、および(i)スピナーフラスコ培養(マイクロキャリアの非存在下での1日間培養)、または(ii)懸滴浮遊培養(2日間培養)を用いて産生された細胞凝集体(スフェア)を、(1)ASC表面マーカーCD34で染色し、次いで蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いてCD34陽性細胞について分析した(
図14A、表4);または(2)ステージ1培地中で2日間培養し、それらを内胚葉マーカーSox17で染色し、かつFACSを用いて陽性細胞について分析した(
図14B、表4)。
図14A〜Bは、かき混ぜ式浮遊培養(この場合には、マイクロキャリアの非存在下でのスピナーフラスコ培養)によって培養されたASCが、懸滴法によって培養されたASCと比較して、より大きなパーセンテージの(A)CD34+細胞(脂肪幹細胞)および大体等しいパーセンテージの(B)SOX17+細胞(内胚葉前駆体細胞)を形成することを実証している。
【0203】
表4
この表は、かき混ぜ式浮遊培養(この場合には、スピナーフラスコ培養)によって培養されたASCが、懸滴法によって培養されたASCと比較して、より大きなパーセンテージのCD34+細胞(脂肪幹細胞)および大体等しいパーセンテージのSOX17+細胞(内胚葉前駆体細胞)を形成することを実証している。パーセンテージは、マーカーの発現について陽性の細胞のパーセントである。
【0204】
【表4】
【0205】
図15A〜Bは、スピナーフラスコ培養を用いて産生されたiHep(SS-Hep)が、特異的シトクロムCYP酵素のCYP3A4およびCYP1A1を有し、かつCYP3A4の活性が、デキサメタゾン(Dex)処理によって強力に誘導されたことを実証している。YJMはヒト肝細胞の細胞株である。CYP活性を細胞生存率に対して正規化した。結果は、Dex誘導あり(+)およびなし(−)で提示されている。
【0206】
図16および表5は、スピナーフラスコ培養を用いて産生されたiHep(SS-Hep)が、Chi-HepおよびSCi-Hepと比較して、増加したレベルのヒトアルブミン(hAlb)を分泌したことを実証している(SCi-Hepと比較しておよそ16倍、およびChi-Hepと比較しておよそ96倍)。
【0207】
表5
この表は、スピナーフラスコ培養を用いて産生されたiHep(SS-Hep)が、Chi-HepおよびSCi-Hepと比較して、増加したレベルのヒトアルブミン(hAlb)を分泌したことを実証している(hAlbは、ng/ml/10
4細胞の単位である)。
【0208】
【表5】
【0209】
前述のものは、本発明の原理を例証しているにすぎない。当業者であれば、本明細書において明示的に記載されていないまたは示されていないが、本発明の原理を具体化しかつその精神および範囲の内に含まれる種々の編成を考案し得ることが解されるであろう。さらには、本明細書において列挙されるすべての例および条件付きの言葉は、本発明の原理、および当技術分野を前進させるために本発明者らによって寄与された概念を理解する際に読者を補助することを主に意図され、かつそのような具体的に列挙された例および条件に限定されないと解釈されるべきである。さらに、本発明の原理、局面、および態様を列挙した本明細書におけるすべての記述、ならびにそれらの具体的な例は、それらの構造的および機能的な同等物の両方を包含することを意図される。加えて、そのような同等物は、現在公知の同等物および将来開発される同等物の両方、すなわち構造にかかわらず同じ機能を果たす開発された任意の要素を含むことが意図される。したがって、本発明の範囲は、本明細書において示されているかつ記載されている例示的な態様に限定されることを意図されない。むしろ、本発明の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲によって具体化される。