特許第6683640号(P6683640)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683640
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/08 20060101AFI20200413BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20200413BHJP
【FI】
   F15B11/08 A
   E02F9/22 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-29305(P2017-29305)
(22)【出願日】2017年2月20日
(65)【公開番号】特開2018-135913(P2018-135913A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大貴
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
(72)【発明者】
【氏名】小高 克明
【審査官】 角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−189502(JP,A)
【文献】 特開平8−333768(JP,A)
【文献】 特開2012−197625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00−11/22
21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される圧油によって駆動する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータを操作するための操作装置と、パイロットポンプと、前記パイロットポンプから供給される圧油から前記操作装置の操作量に応じた油圧信号であるパイロット圧を生成する油圧パイロット弁と、前記油圧パイロット弁からの前記パイロット圧によって駆動され、前記油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御するための方向制御弁と、を備えた建設機械において、
前記操作装置の操作モードを通常モード又は制御モードに選択的に切り替える切替装置と、
前記方向制御弁に作用させる前記パイロット圧を調整するパイロット圧調整装置と、
前記パイロット圧を検出するパイロット圧検出器と、を有し、
前記パイロット圧調整装置は、
前記油圧パイロット弁と前記方向制御弁とを接続し、第1電磁減圧弁が設けられたパイロット管路と、
前記パイロットポンプと前記方向制御弁とを、前記油圧パイロット弁をバイパスして接続し、電磁開閉弁及び第2電磁減圧弁が設けられたバイパス管路と、
前記切替装置及び前記パイロット圧検出器からの信号が入力され、前記第1電磁減圧弁、前記電磁開閉弁、及び前記第2電磁減圧弁にそれぞれ駆動信号を出力するコントローラと、を有し、
前記コントローラは、
前記切替装置及び前記パイロット圧検出器からの信号に基づいて、所定の目標パイロット圧を設定する目標パイロット圧設定部と、
前記パイロット圧検出器からの信号及び前記目標パイロット圧設定部からの情報に基づいて、前記駆動信号を出力する駆動指令部と、を含み、
前記目標パイロット圧設定部は、前記切替装置の操作によって前記操作装置の操作モードが前記制御モードに切り替えられた場合に、前記制御モードに切り替えられた時点における前記パイロット圧検出器で検出された前記パイロット圧を、前記所定の目標パイロット圧に設定し、
前記駆動指令部は、前記パイロット圧検出器で検出される前記パイロット圧が前記所定の目標パイロット圧よりも高いときに、前記所定の目標パイロット圧になるように前記第1電磁減圧弁に前記駆動信号を出力する一方、前記パイロット圧検出器で検出される前記パイロット圧が前記所定の目標パイロット圧よりも低いときに、前記所定の目標パイロット圧になるように前記電磁開閉弁及び前記第2電磁減圧弁にそれぞれ前記駆動信号を出力す
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項に記載の建設機械において、
前記パイロット圧検出器で検出される前記パイロット圧と前記所定の目標パイロット圧との差圧が所定の第1閾値以下である場合、前記駆動指令部は、前記操作装置の操作量に応じた前記パイロット圧になるように、前記第1電磁減圧弁に前記駆動信号を出力する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項に記載の建設機械において、
前記操作装置の操作モードが前記制御モードから前記通常モードに切り替わった場合、前記駆動指令部は、時間的な遅れを持たせて前記操作装置の操作量に応じた前記パイロット圧になるように、時間的な遅れ要素を付加した前記駆動信号を前記第1電磁減圧弁に出力する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項に記載の建設機械において、
前記パイロット圧検出器で検出される前記パイロット圧と前記所定の目標パイロット圧との差圧が所定の第2閾値以上である場合、前記駆動指令部は、時間的な遅れを持たせて前記操作装置の操作量に応じた前記パイロット圧になるように、時間的な遅れ要素を付加した前記駆動信号を前記第1電磁減圧弁に出力する
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械では、オペレータが機械式の操作レバーを操作することにより、操作レバーの操作量に応じたパイロット圧(油圧信号)が生成される。このパイロット圧を方向制御弁に作用させることにより、油圧アクチュエータが駆動する。なお、油圧信号により方向制御弁を駆動する方式は、油圧パイロット式と称される。
【0003】
建設機械は、悪路を走行して作業をすることが多く、特に、路面上の障害物を乗り越える際には車体が振動する。その際、車体の振動によりオペレータも揺らされてしまうため、操作レバーの位置を所定の位置に維持することが難しく、操作レバーを誤操作してしまう可能性がある。これに伴って、パイロット圧が大きく変動するため、ジャーキングが発生する場合がある。
【0004】
安定した操作信号を出力するための技術として、例えば特許文献1では、電気パイロット式の信号波形を処理することにより、車体の走行を制御する方法が提案されている。具体的には、車体の走行を操作する電気的な操作信号の周波数をバンドエリミネーションフィルタ処理により減衰させた上で、ローパスフィルタ処理によってピーク周波数をカットして操作信号波形を滑らかにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−65324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機械式の操作レバーの操作を安定させるために、例えば、機械式操作レバーのばね定数を変えることで当該レバーの操作を重くし、車体の振動によるレバーの誤操作を回避してジャーキングの発生を抑制することが考えられる。しかしながら、この方法では、ジャーキングが発生していない通常の状態であってもレバーの操作が重くなり、レバーの操作性が低下してしまう。また、特許文献1に記載の技術は電気パイロット式の操作信号に関するものであるため、上記の油圧パイロット式の建設機械に特許文献1に記載の技術をそのまま適用することはできない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、油圧パイロット式の油圧制御装置を備えた建設機械において、ジャーキングの発生を抑止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される圧油によって駆動する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータを操作するための操作装置と、パイロットポンプと、前記パイロットポンプから供給される圧油から前記操作装置の操作量に応じた油圧信号であるパイロット圧を生成する油圧パイロット弁と、前記油圧パイロット弁からの前記パイロット圧によって駆動され、前記油圧アクチュエータに供給される圧油の流れを制御するための方向制御弁と、を備えた建設機械において、前記操作装置の操作モードを通常モード又は制御モードに選択的に切り替える切替装置と、前記方向制御弁に作用させる前記パイロット圧を調整するパイロット圧調整装置と、前記パイロット圧を検出するパイロット圧検出器と、を有し、前記パイロット圧調整装置は、前記油圧パイロット弁と前記方向制御弁とを接続し、第1電磁減圧弁が設けられたパイロット管路と、前記パイロットポンプと前記方向制御弁とを、前記油圧パイロット弁をバイパスして接続し、電磁開閉弁及び第2電磁減圧弁が設けられたバイパス管路と、前記切替装置及び前記パイロット圧検出器からの信号が入力され、前記第1電磁減圧弁、前記電磁開閉弁、及び前記第2電磁減圧弁にそれぞれ駆動信号を出力するコントローラと、を有し、前記コントローラは、前記切替装置及び前記パイロット圧検出器からの信号に基づいて、所定の目標パイロット圧を設定する目標パイロット圧設定部と、前記パイロット圧検出器からの信号及び前記目標パイロット圧設定部からの情報に基づいて、前記駆動信号を出力する駆動指令部と、を含み、前記目標パイロット圧設定部は、前記切替装置の操作によって前記操作装置の操作モードが前記制御モードに切り替えられた場合に、前記制御モードに切り替えられた時点における前記パイロット圧検出器で検出された前記パイロット圧を、前記所定の目標パイロット圧に設定し、前記駆動指令部は、前記パイロット圧検出器で検出される前記パイロット圧が前記所定の目標パイロット圧よりも高いときに、前記所定の目標パイロット圧になるように前記第1電磁減圧弁に前記駆動信号を出力する一方、前記パイロット圧検出器で検出される前記パイロット圧が前記所定の目標パイロット圧よりも低いときに、前記所定の目標パイロット圧になるように前記電磁開閉弁及び前記第2電磁減圧弁にそれぞれ前記駆動信号を出力することを特徴とする建設機械を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油圧信号処理によりジャーキングの発生を抑止することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの一構成例を示す外観図である。
図2】走行用油圧制御システムの一構成例を示す図である。
図3】悪路走行中におけるパイロット圧の変化、及び所定の目標パイロット圧を示すグラフである。
図4】走行用コントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図5】走行用コントローラで実行される処理の流れの概要を示すフローチャートである。
図6】走行用コントローラで実行される通常モード処理の流れを示すフローチャートである。
図7】走行用コントローラで実行される制御モード処理の流れを示すフローチャートである。
図8】遅れ処理を実行した場合におけるパイロット圧の変化の様子を説明するグラフである。
図9】パイロット圧と所定の目標パイロット圧との差圧が所定の第1閾値以下である場合におけるパイロット圧の様子を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る建設機械の一態様として、クローラ式の油圧ショベルについて説明する。
【0012】
<油圧ショベル1の全体構成>
まず、油圧ショベル1の全体構成について、図1を参照して説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る油圧ショベル1の一構成例を示す外観図である。
【0014】
油圧ショベル1は、路面を走行するための走行体2と、走行体2の上方に旋回装置30を介して旋回可能に取り付けられた旋回体3と、旋回体3の前方に取り付けられて掘削等の作業を行うフロント作業機4と、を備えている。
【0015】
走行体2は、クローラ21と、クローラ21を回転駆動させるための走行モータ22と、を有しており、走行モータ22の駆動力によりクローラ21を路面に接触させた状態で回転させて車体を移動させる。
【0016】
クローラ21は車体の左右にそれぞれ配置されており、走行モータ22も左右のそれぞれのクローラ21に対応して車体の左右にそれぞれ配置されている。オペレータは、後述する走行用操作レバー34L,34R(図2参照)を操作して左右の走行モータ22をそれぞれ独立して駆動させることにより、左右のクローラ21をそれぞれ独立して正逆回転させることができる。なお、図1では、左右のクローラ21及び左右の走行モータ22のうち、右側のクローラ21R及び右側の走行モータ22Rを示している。
【0017】
旋回体3は、車体の前部に配置されて、オペレータが搭乗する運転室31と、車体の後部に配置されて、車体が傾倒しないようにバランスを保つためのカウンタウェイト32と、運転室31とカウンタウェイト32との間に配置されて、エンジン等を内部に収容する機械室33と、を備えている。旋回体3は、旋回装置30の内部に収容された旋回モータ(不図示)の駆動力によって旋回する。
【0018】
フロント作業機4は、基端が旋回体3に回動可能に取り付けられて、車体に対して上下方向に回動するブーム41と、ブーム41の先端に回動可能に取り付けられて、車体に対して上下方向に回動するアーム42と、アーム42の先端に回動可能に取り付けられて、車体に対して上下方向に回動するバケット43と、を備えている。
【0019】
バケット43は、例えば、岩盤を掘削するブレーカや岩石を破砕する小割機等のアタッチメントに変更することが可能である。これにより、油圧ショベル1は、作業内容に適したアタッチメントを用いて、掘削や破砕を含む様々な作業を行うことができる。
【0020】
また、フロント作業機4は、旋回体3とブーム41とを連結し、伸縮することによってブーム41を回動させるブームシリンダ40aと、ブーム41とアーム42とを連結し、伸縮することによってアーム42を回動させるアームシリンダ40bと、アーム42とバケット43とを連結し、伸縮することによってバケット43を回動させるバケットシリンダ40cと、これらの各シリンダ40a,40b,40cへ作動油を導く複数の配管(不図示)と、を有している。
【0021】
走行モータ22や旋回モータ、ならびにブームシリンダ40a、アームシリンダ40b、及びバケットシリンダ40cは、油圧ポンプ51L,51R(図2参照)から供給される圧油によって駆動する油圧アクチュエータの一態様である。これらの油圧アクチュエータは、油圧回路やコントローラ等で構成される油圧制御システムによって駆動が制御されている。以下では、走行モータ22(22L,22R)の駆動を制御する走行用油圧制御システムについて詳しく説明する。
【0022】
<走行用油圧制御システムの構成>
次に、走行用油圧制御システムの構成について、図2を参照して説明する。
【0023】
図2は、走行用油圧制御システムの一構成例を示す図である。なお、走行用油圧制御システムは、左右の走行モータ22L,22Rについて同様の構成を有しているため、以下では、左側の走行モータ22Lに係る走行用油圧制御システムを例に挙げて説明し、右側の走行モータ22Rに係る走行用油圧制御システムについての詳細な説明は省略する。なお、左側の走行モータ22Lに係る走行用油圧制御システムの説明において、各構成に付された符号のLをRに読み替えると、右側の走行モータ22Rに係る走行用油圧制御システムの説明となる。
【0024】
走行用油圧制御システムは、油圧ポンプ51Lと、油圧ポンプ51Lに吸入される作動油を貯留するための作動油タンク52と、油圧ポンプ51Lから供給される圧油によって駆動する走行モータ22Lと、走行モータ22Lに供給される圧油の流れ(流量及び方向)を制御するための方向制御弁53Lと、パイロットポンプ54と、走行モータ22Lを操作するための操作装置としての走行用操作レバー34Lと、パイロットポンプ54から供給される圧油から走行用操作レバー34Lの操作に応じた油圧信号であるパイロット圧を生成する一対の油圧パイロット弁55La,55Lbと、を含んで構成されている。
【0025】
油圧ポンプ51Lは、作動油タンク52から作動油を吸入して走行モータ22Lに供給し、パイロットポンプ54は、作動油タンク52から作動油を吸入して方向制御弁53Lに供給する。
【0026】
方向制御弁53Lは、走行モータ22Lを正回転させる第1切換位置Rと、圧油を作動油タンク52へ直接戻す第2切換位置Nと、走行モータ22Lを逆回転させる第3切換位置Lと、を有している(オープンセンタ型)。
【0027】
方向制御弁53Lは、左右の受圧室a,bにそれぞれ作用するパイロット圧に応じて内部のスプールが左右にストロークすることにより、第1〜第3切換位置R,N,Lのいずれかに切り換わる構成になっている。なお、第1切換位置R及び第3切換位置Lのときに走行モータ22Lに導かれた圧油は、作動油タンク52へ流出する。
【0028】
一対の油圧パイロット弁55La,55Lbはそれぞれ、走行用操作レバー34Lの操作量に応じたパイロット圧を生成する。図2において、オペレータが走行用操作レバー34Lを左側(実際には前側)に倒すように操作した場合、左側の油圧パイロット弁55Laが駆動して、パイロットポンプ54からの吐出圧を走行用操作レバー34Lの操作量に応じた圧力まで減圧する。これにより、方向制御弁53Lの左側の受圧室aに作用させるためのパイロット圧が生成される。
【0029】
また、オペレータが走行用操作レバー34Lを右側(実際には後側)に倒すように操作した場合、右側の油圧パイロット弁55Lbが駆動して、パイロットポンプ54からの吐出圧を走行用操作レバー34Lの操作量に応じた圧力まで減圧する。これにより、方向制御弁53Lの右側の受圧室bに作用させるためのパイロット圧が生成される。したがって、一対の油圧パイロット弁55La,55Lbで生成されるパイロット圧はそれぞれ、パイロットポンプ54からの吐出圧よりも低い。
【0030】
また、本実施形態に係る走行用油圧制御システムは、走行用操作レバー34Lの操作モードを「通常モード」又は「制御モード」に選択的に切り替える切替装置としての切替スイッチ35Lと、一対の油圧パイロット弁55La,55Lbで生成されたパイロット圧をそれぞれ検出する一対のパイロット圧検出器56La,56Lbと、切替スイッチ35Lの操作に応じて方向制御弁53Lに作用させるパイロット圧を調整するパイロット圧調整装置5Lと、を含んで構成されている。
【0031】
走行用操作レバー34Lの操作モードについて、「制御モード」とは、例えば悪路走行中に、オペレータの走行用操作レバー34Lの誤操作によるジャーキングの発生を抑止したい、あるいはジャーキングの増幅を抑制したい場合の操作モードであり、「通常モード」とは、例えば油圧ショベル1の通常運転時等、ジャーキングの抑制を特に必要としない場合の操作モードである。本実施形態では、オペレータが切替スイッチ35Lを押した状態が「制御モード」であり、オペレータが切替スイッチ35Lから指を離した状態が「通常モード」である。
【0032】
図2において、一対のパイロット圧検出器56La,56Lbのうち、左側のパイロット圧検出器56Laは左側の油圧パイロット弁55Laで生成されたパイロット圧を検出し、右側のパイロット圧検出器56Lbは右側の油圧パイロット弁55Lbで生成されたパイロット圧を検出する。したがって、左側のパイロット圧検出器56Laは、圧油の流れに対して左側の油圧パイロット弁55Laよりも下流側に設けられ、右側のパイロット圧検出器56Lbは、圧油の流れに対して右側の油圧パイロット弁55Lbよりも下流側に設けられている。
【0033】
パイロット圧調整装置5Lにおいて、方向制御弁53Lの左側の受圧室aに作用させるパイロット圧を調整する構成と、方向制御弁53Lの右側の受圧室bに作用させるパイロット圧を調整する構成とは、同様の構成であるため、以下では、方向制御弁53Lの左側の受圧室aに作用させるパイロット圧を調整する構成を例に挙げて説明し、方向制御弁53Lの右側の受圧室bに作用させるパイロット圧を調整する構成の詳しい説明は省略する。
【0034】
パイロット圧調整装置5Lは、パイロット管路61Laと、バイパス管路62Laと、パイロット管路61Laに設けられた第1電磁減圧弁610Laと、バイパス管路62Laに設けられた電磁開閉弁621La及び第2電磁減圧弁622Laと、第1電磁減圧弁610La、電磁開閉弁621La、及び第2電磁減圧弁622Laにそれぞれ駆動信号を出力する走行用コントローラ50と、を有している。
【0035】
パイロット管路61Laは、油圧パイロット弁55Laと方向制御弁53Lとを接続し、油圧パイロット弁55Laで生成されたパイロット圧を方向制御弁53L(左側の受圧室a)に作用させるための管路である。
【0036】
第1電磁減圧弁610Laは、パイロット管路61Laにおいて、圧油の流れに対してパイロット圧検出器56Laよりも下流側であって方向制御弁53Lよりも上流側に配置されている。第1電磁減圧弁610Laは、走行用コントローラ50から出力される駆動信号によってその開度が調整される。
【0037】
バイパス管路62Laは、パイロットポンプ54と方向制御弁53Lとを、油圧パイロット弁55Laをバイパスして接続し、パイロットポンプ54からの吐出圧(パイロット圧)を直接的に方向制御弁53L(左側の受圧室a)に作用させるための管路である。
【0038】
電磁開閉弁621La及び第2電磁減圧弁622Laは、バイパス管路62Laにおいて、圧油の流れに対してパイロットポンプ54の下流側であって方向制御弁53Lの上流側に配置されている。なお、本実施形態では、バイパス管路62Laにおいて、圧油の流れに対して第2電磁減圧弁622Laよりも上流側に電磁開閉弁621Laが配置されている。
【0039】
電磁開閉弁621Laは、走行用コントローラ50からの駆動信号を受けて、バイパス管路62Laを開状態にする。第2電磁減圧弁622Laは、走行用コントローラ50から出力される駆動信号によってその開度が調整され、パイロットポンプ54からの吐出圧を所定の目標パイロット圧まで減圧する。
【0040】
本実施形態では、パイロット管路61Laとバイパス管路62Laとは、圧油の流れに対して第1電磁減圧弁610La及び第2電磁減圧弁622Laよりも下流側においてチェック弁60Laを介して合流している。チェック弁60Laは、パイロット管路61Laを流れる圧油、及びバイパス管路62Laを流れる圧油が、互いに他方の管路へと逆流することを防いでいる。
【0041】
具体的には、走行用コントローラ50からの駆動信号を受けて電磁開閉弁621Laが駆動し、バイパス管路62Laが開状態になった場合には、パイロット管路61La及びバイパス管路62Laの両管路に圧油が流れる。このとき、チェック弁60Laは、パイロット管路61Laを流れる圧油、及びバイパス管路62Laを流れる圧油のうち、圧力が高い方の圧油を方向制御弁53Lに導くように機能する。
【0042】
走行用コントローラ50は、切替スイッチ35L及びパイロット圧検出器56Laからの信号が入力され、パイロット圧を調整するための演算等が内部で行われた後、第1電磁減圧弁610La、電磁開閉弁621La、及び第2電磁減圧弁622Laにそれぞれ駆動信号を出力する。
【0043】
具体的には、走行用コントローラ50は、方向制御弁53Lに作用させるパイロット圧を制御するための各種の演算等を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUによる演算等を実行するためのプログラムを格納するROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disk Drive)等の記憶媒体と、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM(Random Access Memory)と、パイロット管路61Laやバイパス管路62Laに設けられた各機器に対して信号の入出力を行うI/F(インターフェース)と、を含む。
【0044】
そして、CPU、ROM、HDD、RAM、及びI/Fがバスを介して互いに電気的に接続されており、パイロット管路61Laやバイパス管路62Laに設けられた各機器がI/Fに電気的に接続されている。
【0045】
このようなハードウェア構成において、ROMやHDD等の記憶媒体に格納された走行用制御プログラムをCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された走行制御プログラム(ソフトウェア)を実行することにより、走行制御プログラム(ソフトウェア)とハードウェアとが協働して、走行制御システムとしての機能を実現する。
【0046】
なお、本実施形態では、走行用コントローラ50の構成をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせにより説明したが、これに限らず、例えば走行制御プログラムの機能を実現する集積回路を用いて構成してもよい。
【0047】
上記では、パイロット圧調整装置5Lにおいて、方向制御弁53Lの左側の受圧室aに作用させるパイロット圧を調整する構成を具体的に説明したが、方向制御弁53Lの右側の受圧室bに作用させるパイロット圧を調整する構成も同様に、パイロット管路61Lbと、バイパス管路62Lbと、第1電磁減圧弁610Lbと、電磁開閉弁621Lbと、第2電磁減圧弁622Lbと、走行用コントローラ50と、を有している。
【0048】
また、右側の走行モータ22Rに係る走行用油圧制御システムは、左側の走行モータ22Lに係る走行用油圧制御システムと同様に、油圧ポンプ51Rと、作動油タンク52と、走行モータ22Rと、方向制御弁53Rと、パイロットポンプ54と、走行用操作レバー34Rと、一対の油圧パイロット弁55Ra,55Rbと、切替スイッチ35Rと、一対のパイロット圧検出器56Ra,56Rbと、パイロット圧調整装置5Rと、を含んで構成されている。
【0049】
右側の走行モータ22Rに係る走行用油圧制御システムにおけるパイロット圧調整装置5Rは、左側の走行モータ22Lに係る走行用油圧制御システムの場合と同様に、パイロット管路61Ra,61Rbと、バイパス管路62Ra,62Rbと、第1電磁減圧弁610Ra,610Rbと、電磁開閉弁621Ra,621Rbと、第2電磁減圧弁622Ra,622Rbと、走行用コントローラ50と、を有している。なお、走行用コントローラ50、作動油タンク52、及びパイロットポンプ54はそれぞれ、左右の走行用油圧制御システム全体で共通のものを使用している。
【0050】
<方向制御弁53Lに作用させるパイロット圧の調整方法>
次に、方向制御弁53Lに作用させるパイロット圧の調整方法について、図3を参照して説明する。
【0051】
図3は、悪路走行中におけるパイロット圧の変化、及びパイロット圧調整装置5Lにおいて設定される所定の目標パイロット圧Pを示すグラフである。
【0052】
油圧ショベル1は悪路を走行して作業をすることが多いため車体が振動しやすく、オペレータの実際の操作による走行用操作レバー34Lの操作量に応じたパイロット圧、すなわちパイロット圧検出器56Laで検出されるパイロット圧Po(以下、単に「パイロット圧Po」とする)は、図3において実線で示すような振動周期を有している。そして、この振動周期に同期して、オペレータが意図せず走行用操作レバー34Lを誤操作してしまう場合があり、走行用操作レバー34Lの誤操作に伴う操作量に応じて、パイロット圧Poが大きく変動してしまう可能性がある。
【0053】
この大きく変動するパイロット圧Poを方向制御弁53Lにそのまま作用させてしまうと、車体のジャーキングが発生し、あるいはジャーキングをさらに増幅させてしまうことになる。そこで、前述したパイロット圧調整装置5Lは、変動するパイロット圧Poを、予め設定した所定の目標パイロット圧P(以下、単に「目標パイロット圧P」とする)に減圧させて方向制御弁53Lに対し操作信号として作用させる。
【0054】
具体的には、パイロット圧Poが目標パイロット圧P以上の場合(Po≧P)には、図3において破線の下矢印で示すように、パイロット圧Poを目標パイロット圧Pまで減圧させる。このとき、走行用コントローラ50から出力された駆動信号を受けた第1電磁減圧弁610Laが、パイロット圧Poを目標パイロット圧Pまで減圧させる。
【0055】
また、パイロット圧Poが目標パイロット圧Pよりも低い場合(Po<P)には、図3において実線の下矢印で示すように、パイロットポンプ54からの吐出圧Pd(図3において二点鎖線で示す)を目標パイロット圧Pまで減圧させる。このとき、走行用コントローラ50から出力された駆動信号を受けた電磁開閉弁621Laがバイパス管路62Laを開状態にし、かつ、駆動信号を受けた第2電磁減圧弁622Laがパイロットポンプ54からの吐出圧Pdを目標パイロット圧Pまで減圧させる。
【0056】
すなわち、本実施形態では、パイロット圧Poが目標パイロット圧Pよりも低い場合(Po<P)、パイロット圧Poを目標パイロット圧Pまで昇圧させるのではなく、パイロット圧Poよりも高圧であるパイロットポンプ54からの吐出圧Pdを目標パイロット圧Pまで減圧させている。
【0057】
このように、方向制御弁53Lに対して変動のない目標パイロット圧Pを作用させることができるため、走行用操作レバー34Lの誤操作に伴って油圧パイロット弁55Laで生成されるパイロット圧Poが大きく変動した場合であっても、車体のジャーキングの発生を抑止でき、またジャーキングの増幅を抑制することが可能となる。以下、パイロット圧調整装置5Lにおける走行用コントローラ50の詳しい機能について説明する。
【0058】
<走行用コントローラ50の機能構成>
次に、走行用コントローラ50の機能構成について、図4を参照して説明する。
【0059】
図4は、走行用コントローラ50が有する機能を示す機能ブロック図である。
【0060】
走行用コントローラ50は、受信部501と、目標パイロット圧設定部502と、差圧演算部503と、差圧判定部504と、閾値記憶部505と、駆動指令部506と、を含む。
【0061】
受信部501は、切替スイッチ35Lからの信号を受信する。本実施形態では、受信部501が切替スイッチ35Lからの信号を継続して受信している間は、走行用操作レバー34Lの操作モードは「制御モード」の状態で維持されており、受信部501が切替スイッチ35Lからの信号を受信しなくなったときは、走行用操作レバー34Lの操作モードは「制御モード」から「通常モード」に切り替わる。
【0062】
目標パイロット圧設定部502は、受信部501からの情報、及びパイロット圧検出器56Laからの信号に基づいて、切替スイッチ35Lによって走行用操作レバー34Lの操作モードが「制御モード」に切り替えられた時点におけるパイロット圧検出器56Laで検出されたパイロット圧(パイロット圧Po)を、目標パイロット圧Pとして設定する。
【0063】
差圧演算部503は、目標パイロット圧設定部502からの情報、及びパイロット圧検出器56Laからの信号に基づいて、パイロット圧Poと目標パイロット圧Pとの差圧(以下、単に「差圧」とする)を演算する。
【0064】
差圧判定部504は、差圧演算部503、及び閾値記憶部505からの情報に基づいて、差圧と閾値との大小を比較して、閾値に対する差圧の大小関係を判定する。閾値記憶部505には、所定の第1閾値α及び所定の第2閾値βが予め記憶されている。
【0065】
駆動指令部506は、差圧判定部504からの情報、及びパイロット圧検出器56Laからの信号に基づいて、パイロット圧Poが所定のパイロット圧(パイロット圧Po又は目標パイロット圧)になるように、第1電磁減圧弁610La、電磁開閉弁621La、及び第2電磁減圧弁622Laに対してそれぞれ駆動信号を出力する。
【0066】
具体的には、パイロット圧Poをそのまま方向制御弁53Lに作用させる処理においては、駆動指令部506は、第1電磁減圧弁610Laに対してパイロット圧Poとなるように駆動信号を出力する。パイロット圧Poを目標パイロット圧Pに調整して方向制御弁53Lに作用させる処理においては、駆動指令部506は、パイロット圧Poが目標パイロット圧P以上の場合(Po≧P)には、第1電磁減圧弁610Laに対して目標パイロット圧Pとなるように駆動信号を出力し、パイロット圧Poが目標パイロット圧Pよりも低い場合(Po<P)には、電磁開閉弁621Laに対して「開」となるように駆動信号を出力するとともに、第2電磁減圧弁622Laに対して目標パイロット圧Pとなるように駆動信号を出力する。
【0067】
<走行用コントローラ50における処理>
次に、走行用コントローラ50内で実行される具体的な処理について、図5図9を参照して説明する。
【0068】
図5は、走行用コントローラ50で実行される処理の流れの概要を示すフローチャートである。図6は、走行用コントローラ50で実行される通常モード処理の流れを示すフローチャートである。図7は、走行用コントローラ50で実行される制御モード処理の流れを示すフローチャートである。図8は、遅れ処理を実行した場合におけるパイロット圧の変化の様子を説明するグラフである。図9は、パイロット圧Poと目標パイロット圧Pとの差圧が所定の第1閾値α以下である場合におけるパイロット圧の様子を説明するグラフである。
【0069】
まず、図5に示すように、受信部501は、パイロット圧検出器56Laからの信号を監視し、油圧ショベル1の走行中に切替スイッチ35Lからの信号の受信があるかどうか、すなわち切替スイッチ35Lが押されたか否かを判定する(ステップS700)。
【0070】
ステップS700において、受信部501に切替スイッチ35Lからの信号の受信がない場合(ステップS700/NO)には、「通常モード処理」に進み(ステップS800)、処理が終了する。この場合、油圧ショベル1の通常運転時や、ジャーキングの抑止を不要としているときである。
【0071】
ステップS700において、受信部501に切替スイッチ35Lからの信号の受信がある場合(ステップS700/YES)には、「制御モード処理」に進み(ステップS900)、処理が終了する。
【0072】
まず、通常モード処理(ステップS800)に進んだ場合について説明する。図6に示すように、走行用コントローラ50は、パイロット圧検出器56Laからパイロット圧Po(走行用操作レバー34Lの操作量に応じて油圧パイロット弁55Laで生成されたパイロット圧)を取得する(ステップS801)。
【0073】
そして、駆動指令部506は、第1電磁減圧弁610Laに対し、パイロット圧Poとなるように(パイロット圧Poをそのまま作用させる)駆動信号を出力し(ステップS803)、処理が終了する。
【0074】
次に、制御モード処理(ステップS900)に進んだ場合について説明する。図7に示すように、目標パイロット圧設定部502は、パイロット圧検出器56Laからパイロット圧Po(走行用操作レバー34Lの操作量に応じて油圧パイロット弁55Laで生成されたパイロット圧)を取得し(ステップS901)、切替スイッチ35Lが押された時点、すなわち走行用操作レバー34Lの操作モードが「制御モード」に切り替えられた時点におけるパイロット圧Poを目標パイロット圧Pとして設定する(ステップS902)。
【0075】
そして、受信部501は、切替スイッチ35Lからの信号を継続して受信しているかどうか、すなわち走行用操作レバー34Lの操作モードが「制御モード」の状態を維持しているかどうかを判定する(ステップS903)。
【0076】
ステップS903において、受信部501が切替スイッチ35Lからの信号を継続して受信している場合(ステップS903/YES)には、差圧判定部504は、差圧演算部503で演算された差圧(|Po−P|)が所定の第1閾値α(α>0)よりも大きいかどうかを比較する(ステップS904)。ここで、所定の第1閾値αは、例えば0.2MPa等の比較的0MPaに近い数値である。ステップS903において、受信部501が切替スイッチ35Lからの信号を継続して受信していない場合(ステップS903/NO)については後述する。
【0077】
ステップS904において、差圧が所定の第1閾値αよりも大きいと判定された場合(|Po−P|>α)には、差圧判定部504は、続いて、差圧演算部503で演算された差圧が所定の第2閾値βよりも小さいかどうかを比較する(ステップS905)。ここで、所定の第2閾値βは、例えば1MPa等の数値であり、所定の第1閾値αに比べて大きな値である。
【0078】
なお、本実施形態では、ステップS904の次にステップS905に進むような処理の流れになっているが、必ずしもその順番である必要はなく、ステップS905の次にステップS904に進んでも良いし、ステップS904及びステップS905のうちのいずれかのステップのみでもよい。
【0079】
ステップS904において、差圧が所定の第1閾値α以下であると判定された場合(|Po−P|≦α)には、駆動指令部506は、第1電磁減圧弁610Laに対し、パイロット圧Poとなるように(パイロット圧Poをそのまま作用させる)駆動信号を出力し(ステップS910)、処理が終了する。
【0080】
ここで、差圧が所定の第1閾値α以下である場合(|Po−P|≦α)とは、図9に示すように、パイロット圧Poが目標パイロット圧Pに近似していることから、ジャーキングの抑止を特に必要としない状態である。このような場合には、走行用操作レバー34Lの操作量に応じたパイロット圧(パイロット圧Po)を方向制御弁53Lに作用させる処理を行うことで、例えばオペレータが切替スイッチ35Lを解除し忘れているような場合(オペレータが意図せずに切替スイッチ35Lを押し続けているような場合)であっても通常運転時と同様な運転をすることができる。
【0081】
ステップS905において、差圧が第2閾値βよりも小さい場合(|Po−P|<β)には、駆動指令部506は、ステップS901において取得したパイロット圧Poが、目標パイロット圧Pよりも大きいかどうかを比較する(ステップS906)。ステップS905において、差圧が所定の第2閾値β以上である場合(|Po−P|≧β)については後述する。
【0082】
ステップS906において、パイロット圧Poが目標パイロット圧P以上の場合(Po≧P)には、駆動指令部506は、第1電磁減圧弁610Laに対して目標パイロット圧Pとなるように駆動信号を出力し(ステップS907)、処理が終了する。これにより、第1電磁減圧弁610Laは、パイロット管路61Laを流れてきた圧油の圧力(パイロット圧Po)を目標パイロット圧Pまで減圧させる。
【0083】
ステップS906において、パイロット圧Poが目標パイロット圧Pよりも小さい場合(Po<P)には、駆動指令部506は、電磁開閉弁621Laに対して「開」となるように駆動信号を出力するとともに、第2電磁減圧弁622Laに対して目標パイロット圧Pとなるように駆動信号を出力し(ステップS908)、処理が終了する。これにより、電磁開閉弁621Laがバイパス管路62Laを開状態とし、第2電磁減圧弁622Laは、バイパス管路62Laを流れてきたパイロットポンプ54からの圧油の圧力(吐出圧Pd)を目標パイロット圧Pまで減圧させる。
【0084】
次に、ステップS903において、受信部501が切替スイッチ35Lからの信号を継続して受信していない場合、及びステップS905において、差圧が所定の第2閾値β以上である場合(|Po−P|≧β)の処理について説明する。
【0085】
これらの場合、図7に示すように、駆動指令部506は、時間的な遅れを持たせて(図8に示すt[sec])走行用操作レバー34Lの操作量に応じたパイロット圧(パイロット圧Po)になるように、時間的な遅れ要素を付加した駆動信号を第1電磁減圧弁610Laに出力し(ステップS909)、処理が終了する。
【0086】
ここで、駆動指令部506が、時間的な遅れを持たせずに単に駆動信号を第1電磁減圧弁610Laに出力した場合、図8において一点鎖線で示すように、方向制御弁53Lに作用させるパイロット圧が急激に変化することとなり、車体が大きく振動する可能性がある。
【0087】
そこで、図8において破線で示すように、駆動指令部506が、時間的な遅れ要素を付加した駆動信号を第1電磁減圧弁610Laに出力することで、第1電磁減圧弁610Laの開度が徐々に調整されることから、方向制御弁53Lに作用させるパイロット圧の急激な変化を抑制して、油圧ショベル1の滑らかな走行を実現することが可能となる。図8に示すグラフでは、この時間的な遅れ要素に一次遅れ要素を用いているが、必ずしも一次遅れ要素である必要はない。
【0088】
なお、ステップS903において、受信部501が切替スイッチ35Lからの信号を継続して受信していない場合(ステップS903/No)は、走行用操作レバー34Lの操作モードを「制御モード」から「通常モード」に切り替えた場合(オペレータが切替スイッチ35Lから指を離した状態)であるので、制御モード処理から通常モード処理にモードを遷移させる処理に相当する。
【0089】
また、ステップS905において、差圧が所定の第2閾値β以上である場合(|Po−P|≧β)とは、オペレータは切替スイッチ35Lを押したままの状態(例えば、オペレータが切替スイッチ35Lを解除し忘れているような場合)ではあるが、方向制御弁53Lに作用させるパイロット圧を意図して変動させたい等、オペレータによる走行用操作レバー34Lの操作通りに油圧ショベル1を走行させたい場合である。
【0090】
以上より、走行用コントローラ50から出力される駆動信号にしたがって、変動のあるパイロット圧を変動のないパイロット圧(目標パイロット圧P)に制御した上で方向制御弁53Lに作用させることにより、また、オペレータによる実際の走行用操作レバー34Lの操作通りに油圧ショベル1を走行させたいとき等にはパイロット圧の制御状態を徐々に解除させることにより、不要な車体のジャーキングの発生の抑止、あるいはジャーキングの増幅の抑制を図り、オペレータによる操作性を向上させることができる。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0092】
例えば、上記実施形態では、操作装置として走行用操作レバー34L,34Rについて説明したが、必ずしもオペレータが手で操作するレバーである必要はなく、例えば走行用操作ペダルであってもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、切替装置としての切替スイッチ35L,35Rは、オペレータが押し続けることにより「制御モード」の状態が維持されるようなスイッチであったが、切替装置の仕様については特に制限はない。
【0094】
また、上記実施形態では、走行用コントローラ50は、受信部501を含んでおり、切替スイッチ35LのON又はOFFの情報は受信部501からの情報に基づいたが、必ずしも受信部501からの情報に基づく必要なく、例えば切替スイッチ35L,35Rから直接的に走行用コントローラ50の各部に信号が入力されてもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、油圧アクチュエータとして走行モータ22L,22Rについて説明したが、これに限らず、例えばブームシリンダ40a、アームシリンダ40b、及びバケットシリンダ40c等の他の油圧アクチュエータであってもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、建設機械としてクローラ式の油圧ショベル1について説明したが、必ずしもクローラ式の建設機械である必要はなく、例えばホイール式の油圧ショベル等のホイール式の建設機械であってもよい。
【0097】
また、制御モード処理(ステップS900)は、少なくとも、切替スイッチ35Lによって走行用操作レバー34Lの操作モードが制御モードに切り替えられた時点におけるパイロット圧検出器56Laで検出したパイロット圧Poを目標パイロット圧Pに設定し、方向制御弁53Lに作用させるパイロット圧が目標パイロット圧Pとなるような駆動信号を出力する処理であればよい。
【符号の説明】
【0098】
5L,5R:パイロット圧調整装置
22L,22R:走行モータ(油圧アクチュエータ)
34L,34R:走行用操作レバー(操作装置)
35L,35R:切替スイッチ(切替装置)
50:走行用コントローラ(コントローラ)
51L,51R:油圧ポンプ
53L,53R:方向制御弁
54:パイロットポンプ
55La,55Lb,55Ra,55Rb:油圧パイロット弁
56La,56Lb,56Ra,56Rb:パイロット圧検出器
61La,61Lb,61Ra,61Rb:パイロット管路
62La,62Lb,62Ra,62Rb:バイパス管路
501:目標パイロット圧設定部
506:駆動指令部
610La,610Lb,610Ra,610Rb:第1電磁減圧弁
621La,621Lb,621Ra,621Rb:電磁開閉弁
622La,622Lb,622Ra,622Rb:第2電磁減圧弁
P:所定の目標パイロット圧
α:所定の第1閾値
β:所定の第2閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9