特許第6683653号(P6683653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6683653マイクロフロー濾過システム及びフロー濾過方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6683653
(24)【登録日】2020年3月30日
(45)【発行日】2020年4月22日
(54)【発明の名称】マイクロフロー濾過システム及びフロー濾過方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/28 20060101AFI20200413BHJP
【FI】
   B01D61/28
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-111768(P2017-111768)
(22)【出願日】2017年6月6日
(62)【分割の表示】特願2015-502281(P2015-502281)の分割
【原出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-205760(P2017-205760A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】12162012.4
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】オラント,ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ロスレベン,ナディーネ
(72)【発明者】
【氏名】ルッツ,ザシャ
(72)【発明者】
【氏名】グロースマン,アデルベルト
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−183470(JP,A)
【文献】 特表2003−508194(JP,A)
【文献】 特表平2−504348(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0616836(EP,A2)
【文献】 欧州特許出願公開第0995483(EP,A1)
【文献】 特開2009−221137(JP,A)
【文献】 特開昭56−26503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 − 71/82
53/00 − 53/96
C02F 1/44
C12M 1/12
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接線流濾過モジュール(10)を使用して流体試料に含有される成分の濃度を増加させるフロー濾過方法であって、
前記流体試料に含有される成分の濃度をフロー濾過により増加させるために濃縮液の流れを再循環させることができる最小作業容積又は最小再循環容積の流体回路(3)と、前記流体回路(3)の外側に配置されて前記流体回路(3)容量と比較して十分に大きい前記流体試料の容量を有する第1のリザーバ(1)を備えるマイクロフロー濾過システム(100)を準備する工程であって、
前記第1のリザーバ(1)が、
前記流体試料が前記第1のリザーバ(1)から前記流体回路へ一方向に流れ、前記流体回路(3)内への前記流体試料の流れが、前記第1のリザーバ(1)が空になるまで前記第1のリザーバから第2のリザーバへ継続され、前記流体回路(3)から前記第1のリザーバ(1)へ流体試料が逆流することを防止でき前記流体回路(3)内の圧力が前記第1のリザーバ(1)内及び/又は前記接続導管(31)内の圧力よりも小さくなり、接続導管(31)を介して前記流体回路(3)と接続されるように設計及び配置され、
前記接続導管(31)が、前記接続により、前記流体回路(3)から前記第1のリザーバ(1)内へ流体試料が逆流することを防止し、
前記第1のリザーバ(1)内の前記流体試料の濃度が、一定であり、
前記流体回路が、
前記流体試料及び/又は前記濃縮液が供給される供給入口(18)、前記フロー濾過による前記濃縮液が排出される濃縮液出口(19)、及び、前記フロー濾過による浸透液が排出される浸透液出口(20)、及び、前記濃縮液を、濃縮液の流れと、浸透液の流れとに分離することが可能な半透膜(21)を有する前記接線流濾過モジュール(10)と、
共に前記流体回路(3)に接続されるリザーバ入口(11)及びリザーバ出口(12)を有し、前記流体回路(3)に一体化され、前記第1のリザーバに前記流体試料が含まれる間、前記第1のリザーバが空になるまで記第1のリザーバから第2のリザーバへ前記流体試料が流入され、前記フロー濾過で前記浸透液が分離された場合に前記最小作業容積又は最小再循環容積を有する流体回路(3)中の前記濃縮液の流量を減少させないことにより前記濃縮液の前記成分の濃度曲線(濃度対処理時間)を小さな傾きの直線状に増加させ、前記第1のリザーバが空になった場合に、前記第2のリザーバに前記濃縮液が含まれる間、前記フロー濾過で前記浸透液が分離されることにより前記流体回路(3)中の前記濃縮液の流量を減少させることにより、前記濃度曲線を指数関数的に増加させるように、前記接線流濾過モジュール(10)に前記濃縮液を流出する、密閉型リザーバである前記第2のリザーバ(2)と、
前記流体回路(3)を通る前記濃縮液の流体フローを発生させ、前記流体回路(3)内を濃縮モードで前記濃縮液の流れを再循環させ得るポンプ(5)と、
前記第2のリザーバ(2)、前記接線流濾過モジュール(10)、及び、前記ポンプ(5)と共に、それを通して前記濃縮液の流体の流れが導かれ、前記流体回路(3)を形成する複数の導管(14)と、
を備え、
記第1のリザーバ(1)の容積が、最大150mLであり、
前記第1のリザーバ(1)の容積が、前記第2のリザーバ(2)を備える前記流体回路(3)の容積より少なくとも2倍大きい容積を有する、
工程と、
少なくとも前記第1のリザーバ(1)に最大150mLの流体試料を充填する工程と、
前記濃縮液を前記流体回路(3)内で移動させ、前記接線流濾過モジュール(10)を通過させることによって、前記流体回路(3)内の前記濃縮液の前記成分の濃度を増加させ、浸透液の流れに一定量の流体を引き出す工程と、
前記マイクロフロー濾過システムの前記第1のリザーバが空になるまでの動作の間、浸透液の流れとして前記流体回路(3)から引き出される流体とバランスを保つように、前記接続導管(31)を介して、前記第1のリザーバ(1)から前記流体回路(3)内の第2のリザーバへ向かう前記流体試料の流体の連続フローを確立する工程と、
を含むフロー濾過方法。
【請求項2】
前記濃縮液の前記成分の濃度、及び/又は、前記濃縮液の粘度を監視する
ことを特徴とする請求項1に記載のフロー濾過方法。
【請求項3】
前記濃縮液が前記接線流濾過モジュール(10)を通過することによる前記濃縮液に含有される前記成分の濃度の増加が、少なくとも2倍の倍率である
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項4】
前記流体試料が、前記第1のリザーバ(1)から出て前記流体回路(3)の前記第2のリザーバ(2)内へ流れる
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項5】
前記流体回路(3)内の前記濃縮液を、前記密閉型リザーバを備える前記最小作業容積又は最小再循環容積の流体回路(3)内の前記濃縮液を再循環させることができる圧力、又は、前記濃縮液の再循環させることができる流量に調節されるようにバルブで制御する工程、
により特徴付けられる請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項6】
前記第1のリザーバ(1)から前記流体回路(3)内への前記流体試料のフローが、押圧力によって生成され、制御される、
又は、
流体試料のそれぞれの量が、前記第1のリザーバ(1)から吸い出され、又は、圧力が、前記第1のリザーバ(1)に供給される、
及び/又は、
前記フローが、再循環させることができる最小の量の前記濃縮液が前記密閉型リザーバを備える前記最小作業容積又は最小再循環容積の前記流体回路(3)に含まれるように制御される、
又は、
前記流体回路(3)が、前記流体回路(3)に空気がないように前記濃縮液によって完全に充填される、
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項7】
前記マイクロフロー濾過システム内の前記圧力、及び/又は、膜間差圧が、圧力調整手段によって制御される
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項8】
前記外側の第1のリザーバ(1)の容積が、最大100mLである
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項9】
前記外側の第1のリザーバ(1)の容積が、最大20mLである
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項10】
前記外側の第1のリザーバ(1)の容積が、最大10mLである
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項11】
前記外側の第1のリザーバ(1)の容積が、最大2mLである
ことを特徴とする請求項10のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項12】
前記外側の第1のリザーバ(1)の容積が、最大1mLである
ことを特徴とする請求項11のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項13】
前記マイクロフロー濾過システム(100)が、前記フロー濾過方法最大150mLの前記流体試料に含有される成分の濃度をフロー濾過により増加させる1回の動作のために使用される
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項14】
前記マイクロフロー濾過システム(100)が、前記フロー濾過方法最大100mLの前記流体試料に含有される成分の濃度をフロー濾過により増加させる1回の動作のために使用される
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項15】
前記マイクロフロー濾過システム(100)が、前記フロー濾過方法最大20mLの前記流体試料に含有される成分の濃度をフロー濾過により増加させる1回の動作のために使用される
ことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【請求項16】
前記第1のリザーバ(1)が空になるまで継続的に、前記流体試料が前記第1のリザーバ(1)から前記流体回路(3)内の第2のリザーバへ流れ出る
ことを特徴とする請求項15のいずれか1項に記載のフロー濾過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、流体試料に含有される成分の濃度を増加させるための、及び/又は化合物が含有される流体の交換のための、マイクロフロー濾過システム及びフロー濾過方法に関する。システムは、流体試料の通過により、流体内に化合物を含有する濃縮液の流れと、化合物を有しない流体を含む浸透液の流れと、に流体試料を分離することが可能な半透膜を有するマイクロ接線流(タンジェンシャルフロー)濾過モジュールを備えた回路を備える。流体回路は、流体回路に一体化されたリザーバ、ポンプ、及び回路に要素を接続する複数の導管を更に備える。好ましくは、システムは、流体回路内に少なくとも1つの圧力センサ及びフロー圧力調整器を更に備える。
【0002】
背景
精製、濃縮又はダイアフィルトレーション(血液等の透析濾過)のために半透膜を使用して流体試料を濾過する流体フロー濾過システムは、技術水準において公知である。これらのシステムは、例えば研究室での分析のために流体内の成分の濃度を増加させるため、又は精製の場合には微粒子状又は分子状汚染物質を除去するために使用される。このようなシステムはまた、ダイアフィルトレーションによって関連する分子又は微粒子を含む溶媒を交換するために適用され得る。このような濾過システムの半透膜は、フローチャネルの直径全体を膜が覆うようにフローチャネル内の流れ方向に対して法線向きに位置することができ、法線流濾過又は全流濾過として特徴づけられるか、又は膜面が、液体試料の流れ方向に略平行に位置することができ、接線流濾過システム(TFF−システム)又は十字流濾過システムとして公知である。
【0003】
接線流濾過システムは、対応する法線流濾過システムと比べて高い流束及び高い処理量がこのようなシステムによって多くの場合達成され得るように、膜面と略平行な流体試料のフローの方向により自動的な払拭及び洗浄が行われるという利点を有する。更に、目詰まり及びファウリングがこのようなシステム内で阻止されるように、試料の大きな画分が継続的に膜面上を流れる。これらの及び他の利点に関連して、接線流濾過システムは、多くの場合工業及び/又は生物工学プロセスで使用される。
【0004】
半透膜を有する接線流濾過モジュールを流体が通過する間、膜の孔径より小さい溶液の成分は浸透液の流れとして膜を通過して流れ、他方で大きな成分は濃縮液の流れに保持される。濃縮液の流れは、フロー回路内で再循環して、再び膜を横断するよう連続的に送り出される。このようなTFF−システムは、浸透液の流れがシステムから引き出される際に試料溶液の体積を大幅に低減させるために使用される。したがって、システムが濃縮モードで稼働するときに、試料溶液は濃縮される。
【0005】
他の用途では、緩衝液のような溶液内の2つ以上の成分の分離が実行される必要がある。したがって、1つの成分が浸透液の流れとして引き出され別の成分によってすなわち交換緩衝溶液によって交換されるように、必ずしも必要ではないが分離される成分を典型的に含まない交換緩衝溶液(ダイアフィルトレーション溶液)がシステムに添加され、最終的に、例えば、1つの緩衝液が別の緩衝液によって交換される。ダイアフィルトレーションモード及び濃縮モードは、特別な制御方式を使用してシステム内で組み合わせられ得る。
【0006】
文献WO 96/34679は、実践動作の間に生じる様々な流束及び成分通過挙動を考慮に入れた膜型濾過システムの性能を最適化する方法を説明する。このようなシステムにより、最小の濾過領域によって最小の時間で、2つ以上の成分を含有する試料溶液からの濃縮液内の所望の成分の最大の回収が可能となる。したがって、最適化されたダイアフィルトレーションプロセスが確立され得る。
【0007】
接線流濾過システムは、多くの場合、生物工学的、化学的、及び治療又は診断用途に有用な物質の生成で使用される。このような工業的規模の生成プロセスでは、濾過プロセスは活性成分の濃度を増加させるために通常使用される。接線流濾過システムでは、例えばタンパク質、粒子、凝集体、イオン、細菌、ウイルス、核酸、糖類などの濃縮される成分を含有する溶液が、流体回路に一体化されたリザーバに配置される。リザーバは、その他の回路の容積と比較して大きな容積を有する。研究室規模の濾過システムでは、リザーバは約0.1〜5Lである。工業的規模のシステムでは、リザーバの容積はそれぞれ、より大きい。
【0008】
回路で一体化される大きなリザーバを有するこのようなシステムの濃度曲線は、指数関数的な形を有する。濃度曲線は、プロセス時間に対する濃度を示し、全体の流体容積に対して少量の流体だけが浸透液の流れとして引き出されるプロセスの最初では非常に平坦となる。流体がより多く引き出され、回路及びリザーバ内の流体がより多く減少するほど、濃度曲線は指数関数的により大きく増加する。換言すれば、開始体積に対する流体システム内の比較的小さな体積が、濃度曲線の大きな増加をもたらす。溶液の濃度が広範囲のプロセス時間に対して比較的小さいので、濃度曲線のこの挙動は有利である。つまり、この間、目詰まり又はファウリングの危険性がプロセスで低下する。
【0009】
その他の回路の容積と比較して大きなリザーバの容積は、回路の最小作業容積を増加させるという欠点を有する。殆ど使い尽くした場合であっても、リザーバの大きな内部表面のため、無視できない体積の流体がリザーバに残される。この理由は、流体とリザーバ表面との間の密着力である。これは、回路全体の最小作業容積が増加するので、最大濃縮倍率の低下を引き起こす。更に、大きなリザーバ内の大きな流体−空気界面は、流体及び空気の成分間の不必要な反応を促進する恐れがある。この問題は、研究室規模及び工業的規模のシステムの両方で発生する。最小作業容積はまた、最小再循環容積と呼ばれることもある。
【0010】
工業的規模の濾過プロセスの開発は、多くの場合、非常に時間及びコストがかかり、プロセスパラメータの深い知識を必要とする。膜の特徴、流路構成、動的な影響及び他のプロセス工程などの多くの重要なパラメータが条件付けられる必要がある。
【0011】
WO 2006/26253 A2は、回路内に一体化されたリザーバを備える流体回路を開示する。説明される回路は、システムの大きな規模の開発、認定及び確認に有用なデータを取得する研究室規模のシステムのものである。最小作業容積又は最小再循環容積を低下させるために、溶液を収容する特別なタンクが使用される。タンクは、底部に入口及び出口を有する。このシステムの欠点は、流体溶液に含有される成分の不均一な分布である。したがって、流体を混合しそれにより有用なデータを取得できる均一な試料を作製するための磁気撹拌機を備えた混合ゾーンをタンクが含むことが提案される。ミキサを備えるこのような特別なタンクは非常に高価であり、システム全体の複雑さが増加する。更に、磁気撹拌機は、流体成分上に剪断応力を誘起する。
【0012】
したがって、医薬品及び生物工学産業では、小さな流体試料の体積でも、好ましくは100mL未満の流体の体積でも、大きな濃縮倍率で溶液の成分を濃縮することが可能な接線流濾過装置に対する強い要求が依然として存在する。本発明の目的は、リザーバの流体容積がシステムの最小作業容積と比較して十分に大きいこのような大きな濃縮倍率を提供することが可能な最適化されたTFF−システムを提供することである。更に、TFF−モジュールでの目詰まり及びファウリングが、濾過プロセス間、長い時間帯にわたって回避されなければならない。
【0013】
問題は、請求項1に記載の特性を有する流体試料のためのマイクロフロー濾過システムによって解決される。目的はまた、請求項12に記載のフロー濾過方法によって達成される。
【0014】
概要
流体に含まれる成分の濃度を増加させる本発明によるマイクロ接線流濾過システムは、流体回路及び第1の流体リザーバを備える。第1のリザーバは、回路の外側の外部のリザーバであるが、回路への一方向の流体接続を有する。第1のリザーバは、タンクのような別個の要素である。第1のリザーバはまた、容器、槽、キャニスタ又は一種の樽によって形成され得る。第1のリザーバは、好ましくは毛細管チャネル又はチューブなどの接続導管を介して、回路に接続される。好ましくは、第1のリザーバから回路への単一の流体接続が存在する。流体が回路から第1のリザーバへ逆流することを防止するように接続導管は設計及び配置される。したがって、一方では、第1のリザーバから回路への流体の一方向のフローが確立される。他方では、第1のリザーバに収容される流体の濃度が、回路内の流体の濃度の変化が生じる濾過プロセス全体を通じて、一定及び一定のままである。
【0015】
本発明によるフロー濾過システムが、流体試料内に含有される成分の濃度を増加させるような濃縮プロセス、及び/又は同様に精製目的で使用され得ることは明らかである。すべてのこれらの用途に対して、本発明によるシステム及び方法は特有の利点を示す。
【0016】
本発明との関連で、流体という用語は、液体、好ましくは緩衝溶液又は治療又は診断目的に有用な成分(例えばタンパク質)を含んだ流体試料として理解すべきである。また、体液、例えば全血も流体として使用され得る。
【0017】
本発明による流体回路は、接線流濾過モジュール、流体回路で一体化された第2の流体リザーバ、流体回路内の流体フローを発生させ動かすポンプ、好ましくは少なくとも1つの圧力センサ、及び同様に好ましくは圧力調整器を備える。回路は更に、すべての要素を互いに接続する複数の導管を備える。
【0018】
第2のリザーバは、回路に備えられ、好ましくは別個の流体要素、例えば容器、タンクなどとして設計される。代替的に、別の構成要素が追加的な機能を果たすように、第2のリザーバの機能性はまた回路の別の構成要素によって提供され得る。例えば、所定の体積が要素又は要素のそれぞれの修正部分に貯蔵され得るように、このような要素は、延長部分及び拡大された内腔を有するフレキシブルチューブ又は拡大された内径及び内腔を有するチューブであり得る。したがって、チューブであるこの構成要素は、例えば本来の搬送機能及びリザーバの追加的なリザーバ機能(又は貯蔵機能)を実行する。
【0019】
接線流濾過モジュール(TFF−モジュール)は、供給入口、濃縮液出口、浸透液出口、及び供給入口を通り接線流濾過モジュール内へと向かう流体試料の通過により流体試料を濃縮液の流れと浸透液の流れとに分離することが可能な半透膜を有する。TFF−モジュールは、約1〜1000kD(キロダルトン)の分子量カットオフに対応する膜の孔径を有したマイクロフロー濾過モジュールである。任意の一実施形態では、TFF−モジュールの膜は、約2μm〜0.05μmの範囲の、好ましくは最大0.1μmの孔径を有する。これはまた、おおよその膜のカットオフ範囲である。約1kDのカットオフ範囲まで膜の孔径が0.1μm未満で配置され得るならば、膜はまた、限外濾過を実行することが可能である。
【0020】
回路内の流体がリザーバを通過して流れることができるように、第2の流体リザーバは、共に回路に接続されたリザーバ入口及びリザーバ出口を有する。任意に又は追加的に、リザーバは、流体回路の外側に位置する第1のリザーバへの入口を特徴とすることができる。回路のポンプは、接線流濾過モジュールを含む流体回路を通り同様に回路内の第2のリザーバを通過する流体試料の流体フローを引き起こす。好ましい実施形態では、少なくとも2つの圧力センサが、流体試料についてのデータを取得及び検出するために使用される。これらのデータは、通常、回路に含まれる流体の粘度を判定することができる差圧値を算出するための圧力値である。任意に、圧力調整器が、これらの判定の結果に基づいて回路内の流体試料の圧力を調整するために使用される。
【0021】
これらの要素(TFF−モジュール、第2のリザーバ、ポンプ、任意に圧力センサ及び/又は圧力調整器)は、流体の流れが導かれる回路を複数の導管と共に形成する。第1のリザーバ、及び第2のリザーバを含む流体回路の配置は、濃縮モードでは、第1のリザーバの流体容積と(回路の容積を含む)第2のリザーバの流体容積との間の厳格な限定、及びそこに含まれる流体の厳格な限定が可能であるという利点を有する。第1のリザーバ内の流体の濃度及び回路内の流体の濃度は、濾過プロセスの最初でだけ同じである。残りの濃縮プロセスの間、回路内の濃度がプロセス時間に対して変化するため、第1のリザーバ内の流体の濃度は回路内の流体の濃度とは異なる。第1のリザーバ内の流体の濃度は、一般に公知であるか又は予め定められる。
【0022】
更に、第1のリザーバ内の流体の濃度は一定で、変化せず、特に濃度が増加しない。回路内では、濃度はプロセスの間に変化する。第1のリザーバが完全に空でない限り、回路内の濃度及び容積は正確に定められる。
【0023】
回路、特に第2のリザーバから、第1のリザーバ内への流体フロー又は拡散がないことが不可欠である。これは、接続導管によって確実なものとなる。したがって、接続導管は、好ましくは、濾過プロセス時に第2のリザーバから第1のリザーバ内への流体内に含まれる分子の効果的な拡散を防止する長さ、及び/又は回路の直径より小さい及び/又は第2のリザーバの直径より小さい直径を有する。加えて又は代替的に、バルブ又は背圧バルブが、第1のリザーバと回路との間の接続導管に設けられ得る。回路内の圧力が第1のリザーバ内及び/又は接続導管内の圧力よりも小さくなるように回路内の圧力を制御することも可能である。
【0024】
好ましい実施形態では、回路から第1のリザーバ内への流体の流れが確実に防止されるように、接続導管は薄くて長いチューブとして設計される。好ましい実施形態では、接続導管は、最大1mmの、好ましくは最大0.75mmの、特に好ましくは最大0.5mmの直径を有する。このような導管は、流体の逆流の防止及び/又は回路から第1のリザーバ内への流体内に含まれる分子の拡散の防止に対して有利である。加えて又は代替的に、接続導管は、少なくとも10mmの、好ましくは少なくとも50mmの、特に好ましくは少なくとも100mmの長さを有する。接続導管の長さが少なくとも200mm、300mm以上であることも好ましい。
【0025】
外部の第1のリザーバと回路との間の接続導管の使用は、別個の要素であり好ましくは容器として設計される第1のリザーバが使い捨て可能か又は回路から分離可能であり得るという利点を有する。したがって、第1のリザーバは、回路から分離され得る。これは、リザーバ及びその内容物の交換に対して、第1のリザーバの充填又は可能性のある再充填に対して、特にリザーバの洗浄に対して有利である。
【0026】
本発明によるシステムは、流体回路で一体化される大きな内部のリザーバでは、回路の最小再循環容積が増加するという発明の着想に基づき開発された。他方では、フロー濾過システムの動作中の時間に対する濃度を示す濃度曲線が、TFF−モジュールの膜の目詰まり及びファウリング効果の低下により有利な挙動を示す。回路の最小再循環容積の増加を回避するために、回路の内部のリザーバは、引き出されて、位置決定された外部のリザーバと交換され得る。外部のリザーバは回路の最小作業容積に影響を有しないが、これが適切な選択肢ではないことが認められた。位置決定された外部のリザーバの場合には、フロー濾過モジュール内の濃度の挙動が欠点となる。モジュール内の濃度の比較的大きな増加が濾過プロセスの最初から引き起こされるように濃度曲線は直線状の挙動を示す。したがって、システムは、浸透流量を低下させる目詰まり及びファウリングに対する高い危険性を示す。更に、流体試料の粘度は増加し、システムの圧力の増加を必要とすることになり、濃縮プロセス全体にわたる一定の膜間差圧の実現を難しくする。
【0027】
回路で一体化される小さな内部のリザーバ、及び回路で一体化されないが、流体が第1のリザーバから回路内へと一方向に流れるように回路と流体接続する非常に大きな外部のリザーバによって、問題が解決されることが認められた。第1のリザーバと回路との間の流体接続は、チューブ、フレキシブルチューブ又は流体チャネルのような接続導管によって設計される。そのため、第1のリザーバから回路へと向かい、回路内を流れる流体は、第1のリザーバを通過して又は第1のリザーバ内へ逆流しない。したがって、好ましくは、外部の第1のリザーバと回路との間の単一の一方向の接続が存在する。
【0028】
第1のリザーバが殆ど空になるまで第1のリザーバから回路内へと確立された連続的な流体フローが存在する。したがって、使い尽くすことができる流体が第1のリザーバ内に残される限り、回路内に含まれる流体の体積は、TFF−モジュールの動作の間、一定のままである。
【0029】
外部の第1のリザーバは、(濃縮モードで)処理される流体試料のための主要リザーバである。2つのリザーバのこのような組み合わせを有するシステムでは、流体の濃度は、先端の濾過システムの2つのバージョンの挙動の組み合わせに対応した挙動を示す。
【0030】
組み合わされた本発明のシステムは、外部のリザーバが空になるまで流体が第1のリザーバから回路内へと流れる限り、直線状の濃度曲線を示す。外部のリザーバが空である場合に、濃度の指数関数的な増加が開始する。したがって、濃度曲線の指数関数的な段階を、第2のリザーバを使用して遅らせることができる。第2のリザーバは第1の外部のリザーバと比べて非常に小さいので、最小再循環容積又は最小作業容積に対する第2のリザーバの影響は極めて小さいか又はごく僅かである。追加的に、大きな流体−空気界面がもたらす効果もまた、低減させることができる。外部の第1のリザーバは、回路の再循環容積に寄与しないので、必要に応じた大きさとすることができる。
【0031】
直線状の段階での濃度曲線の傾きは、内部のリザーバに対する外部のリザーバの比率、例えば内部の(第2の)リザーバを備える回路の容積に対する外部のリザーバの容積の比率、に対して決定及び調節され得る。
【0032】
濃度曲線の直線状の段階と指数関数的な段階との間の変化点は2つのリザーバの容積に左右されることが認識された。したがって、好ましくは、第1のリザーバは、(第2のリザーバを備える)回路の容積より少なくとも2倍大きい容積を有する。第1のリザーバの容積が回路の容積より少なくとも5倍大きいことが更に好ましく、少なくとも10倍より大きいことが更に好ましく、又は回路の容積よりも少なくとも15倍大きいことが特に好ましい。第1のリザーバの容積が回路の容積より少なくとも50倍大きいこともまた好ましい。他の実施形態では、第1のリザーバの容積が、回路の容積より、好ましくは少なくとも100倍より大きく、特に好ましくは少なくとも1000倍大きい。そのため、大きな流体バッチが、回路の容積を増加させずに、したがってシステムの最小作業容積を増加させずに、システムで扱われ得る。システムの最小作業容積の増加は、システムによって実行され得る最大濃縮率での制限をもたらす。
【0033】
扱われる流体体積は上限で制限されないが、TFF−システムは、通常、最大150mL、好ましくは最大100mLの流体及び液体バッチのために使用される。システムは、好ましくは最大20mLの、同様に好ましくは最大10mLの液体バッチの精製又は濃縮を実行するために好適である。最大2mL又は1mLの更に小さな流体体積もまた濃縮され得る。したがって、濃縮プロセスの開始体積は、好ましくは150mL〜1mLの間の範囲である。第1及び第2のリザーバは、それぞれの容積を有する。第1のリザーバの容積は、通常は開始流体体積の範囲内である。
【0034】
本発明によるシステムは、タンパク質又は分子などのような流体試料に含有される成分を濃縮するために使用され得る。システムがこのような濃縮モードで使用される場合には、第1のリザーバ及び第2のリザーバは共に同じ流体試料を含む。任意に、溶液内の1つ以上の成分が交換され得るように、更なる外部のリザーバが他に付加され得る。
【0035】
TFF−システムの好ましい実施形態では、第2のリザーバの容積は、最大2mL、好ましくは1mLである。このような寸法の第2のリザーバを備えるシステムは、通常研究室で使用される。少量の溶液を扱うことができ、最小作業容積又は最小再循環容積に対する第2のリザーバの影響を制限することができる。特別な実施形態では、第2のリザーバは、好ましくは最大0.7mL又は特に好ましくは最大0.5mLである。この容積の第2のリザーバは、最小作業容積に対する影響が更に制限され、少なくとも10、好ましくは少なくとも40の最大濃縮率に到達できるように100mL以下、好ましくは最大20mLの流体バッチが精製され得るという利点を有する。最大濃縮率はまた、好ましくは少なくとも100、特に好ましくは少なくとも1000であり得る。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、流体回路は、流体試料に含有される成分の濃度に関連したデータを取得する光学的測定器を備える。このような光学的測定器は、好適な光源、モノクロメータ又はフィルタ設備、及び試料を通過した後に残りの光を測定する検出ユニットと組み合わされた、セルなどであり得る。流体回路内に一体化されるこのような光学的測定器によって、システムの動作の間、流体試料に含有される成分の実際の濃度を継続的に検出することが可能である。したがって、流体試料に含有される成分の濃度又は濃度変化のオンラインの判定及び監視が容易に可能である。
【0037】
本発明の目的はまた、請求項12の特徴を有するフロー濾過方法によって達成される。好ましくは流体試料に含有される成分の濃度を増加させるための、又は精製のための方法は、マイクロフロー濾過システムの流体回路の一部である接線流濾過モジュールを使用する。システムはまた、流体が第1のリザーバから回路内へ一方向に流れるように接続導管を介して回路と接続された第1のリザーバを備える。接続導管は、流体が回路から第1のリザーバ内へ逆流することを防止する。したがって、第1のリザーバ内の流体の濃度は、特に濾過プロセス全体を通じて一定である。
【0038】
先に記載したようなマイクロフロー濾過システムを準備した後に、第1のリザーバが流体試料で充填される。続いて、第2のリザーバを含む回路全体が、作業を始めた回路のポンプによって、試料で充填される。好ましくは、第2のリザーバは、その他の回路又は回路全体が流体で充填される前に、直接的又は間接的に(回路を介して)充填される。回路が充填プロセスの最初に流体を全く含まない場合には、流体が回路内及び/又は第2のリザーバ内に吸い込まれるようにポンプが好ましくは負圧を生成する。回路はまた、他の公知の力又は手段を使用して充填され得る。
【0039】
好ましくは、回路はまた、空の回路の充填プロセスの間に逃散空気又は気体を放出するために、ベントを備える。したがって、乱れ及び/又はアーティファクトのない処理が可能であるように、システム内の気泡が排除される。
【0040】
次の工程では、流体試料が回路内を移動し、TFF−モジュールを通過する。その結果、一定量の流体が、浸透液の流れとして回路から(連続的に)引き出される。回路内の流体試料の成分の濃度は、結果として増加し続ける。精製の場合には、濃縮液の流れ内の成分の濃度は増加する一方で、浸透液の流れが精製された流体溶液となる。
【0041】
次の工程では、好ましくは、第1のリザーバが殆ど空になるまで、第1のリザーバから第2のリザーバへの流体の連続フローが確立される。したがって、流体の連続フローを確立するために十分な流体が第1のリザーバに含まれる限り、濾過モジュールで引き出される一定量の流体は、第1のリザーバからの同一の量の流体によって置換される。システムの動作の間、浸透液の流れは、回路内へ導かれる第1のリザーバからの追加的な流体によってバランスが保たれる。圧力調節器又はバルブのような調節器が、回路内の流体フロー及び/又は圧力を好ましくは制御する。回路のポンプを制御及び/又は調節することによって流体フローが制御されることが特に好ましい。
【0042】
流体が第1のリザーバに含まれる限り、成分の濃度曲線(濃度対処理時間)は直線状の挙動を示す。第1のリザーバの容積は、回路の最小作業容積に対して影響を有しない。直線状の段階での濃度曲線の傾きは、流体回路の容積、及び濾過モジュールを通過する流体の流束、例えば浸透液の流れの流束に左右される。更に、実際の濃度はまた、流体試料に含有される成分の開始濃度に左右され続ける。
【0043】
好ましくは、濃度が濾過プロセスの最初は小さな傾きのみで増加するように、直線状の段階での濃度曲線の傾きは、第1の及び第2のリザーバの好適な寸法の選択及び流体回路の容積及び浸透流量によって、低い値に調節される。調節は、先に記載したように実行される。
【0044】
第1のリザーバが使い尽くされたときに、第1のリザーバから回路内へのフローは停止する。続いて、濾過システムは、内部のリザーバを備える技術水準において公知の濾過システムと同一の挙動を示す。唯一の違いは、第2のリザーバがシステム全体の開始容積に対して十分に小さいということである。この時点から先は、システムの動作の間、濃度の時間依存的な推移は指数関数的な挙動を示し、濃縮率は、動作のこの指数関数的な段階の間、指数関数的に増加する。そのため、プロセスの最後に濃度の大きな増加が存在する。したがって、本発明のシステム及び本発明の方法は共に、動作の最も長い時間帯にわたって、濾過モジュールの膜の目詰まり及びファウリングを回避する。
【0045】
方法の好ましい実施形態では、流体試料内の成分の濃度が監視される。好ましくは、システムの動作は、所定の終了値、例えば濃度増加、終了濃度又は終了体積によって、又は定められた時間の経過後に停止され得る、回路内の流体フローはまた、濃度増加が指定された濃縮率に到達する場合に、又は指定された目標試料濃度に到達する場合に停止され得る。そのとき、回路のポンプが停止される。また、好ましくは、流体フローは、回路内に含まれる流体試料の量が回路の最小作業容積に到達する場合に停止され得る。
【0046】
最小作業容積又は最小再循環容積は、導管又は回路に空気を送らずに回路が稼働し得る最小の容積として定義される。したがって、最小作業容積は、第2のリザーバの導管内及び任意に光学的測定器及び/又は粘度測定器の容積内になければならない流体の量に加えて、(もし存在するならば)圧力調整器又はバルブ、(もし存在するならば)少なくとも1つの圧力センサ、ポンプ及び接線流濾過モジュール内に含まれ得る流体の体積を加えた、要素を接続する回路内のすべての導管の容積として定義される。流体量が減少するときに第2のリザーバ内に含まれる空気を接続導管に送らないように第2のリザーバが流体の好適な体積を含む必要がある限り、流体回路で一体化される第2のリザーバの容積は考慮に入れられる。第2のリザーバ内で含まれるこの最小流体容積は、回路の全体の最小作業容積の決定のために考慮すべき第2のリザーバの部分的な容積である。
【0047】
本発明による方法は、好ましくは少なくとも2倍の、更に好ましくは少なくとも10倍の、同様に更に好ましくは少なくとも50倍の溶液内の成分の濃度の増加を可能にする。濃度の増加の最大倍率は、すなわち回路の最小作業容積に対する第1のリザーバ内の溶液の開始体積に左右される。任意に、濃度の増加の倍率は、好ましくは少なくとも100、特に好ましくは少なくとも1000である。150mLの流体体積を含んだ第1のリザーバ及び100μLの最小作業容積を有するシステムは、1500の濃度の最大増加倍率を示す。このようなシステムでは、回路内の第2のリザーバの容積は約1mL〜0.5mLの間にある。
【0048】
方法の好ましい実施形態では、濃縮プロセスの略直線状の段階での濃度曲線の傾きは、好ましくは最大0.5、更に好ましくは最大0.2、更に好ましくは最大0.1、更に好ましくは最大0.05、更に好ましくは最大0.02である。濃度曲線は、濾過モジュールの浸透液の流れ又は流束に対する濃度と類似した操作時間に対する濃度として定義される。濃度曲線の傾きは、時間に対する濃度の変化と類似する。したがって、直線状の段階での濃度曲線の傾きは、特に好ましくは最大0.01、更に好ましくは最大0.005、更に好ましくは最大0.002、更に好ましくは最大0.001、更に好ましくは最大0.0005、更に好ましくは最大0.0002、特に好ましくは最大0.0001、及び更に特に好ましくは最大0.00001である。濃度曲線の傾きの単位は、ミリリットル及び秒当たりのミリグラムである。
【0049】
好ましくは、方法は、回路の所定の圧力又は所定のフローが調節されるように、第1の流体リザーバから回路内へのフローを制御する工程を含む。第1のリザーバからのフローはまた、所定の量の試料流体が回路内に含まれるように制御され得る。
【0050】
好ましくは、第1のリザーバの流体は、好ましくは直送ライン接続導管を介して、回路の第2のリザーバ内へ直接流れ込む。
【0051】
第1のリザーバから回路内への流体のフローの間、フローは流体回路と第1のリザーバとの間の圧力差から生じる押圧力よって制御される。任意に、それぞれの流体量が、第1のリザーバから回路内へと吸い出される。(第1のリザーバが満たされている限り)第2のリザーバ内及び/又は回路内に含まれる流体の体積が略一定であるように第1のリザーバからの流体のフローが制御されることが好ましい。
【0052】
本発明によるシステム及び方法の開発の間、濃度曲線に関して、システムの直線状の挙動から指数関数的な挙動への変化が生じる領域が調節され得ることが認識された。したがって、第1のリザーバ内の開始流体体積に対する回路の流体容積の比率が調節されるように、第1のリザーバに含まれる開始体積の選択及び調節が好ましくは実行される。濃度曲線の直線状の挙動と濃度曲線の指数関数的な挙動との間の変化ゾーンが所定の領域にあるように、この比率は予め定められる。好ましくは、溶液の体積の合計が、好ましくは開始体積の少なくとも50%に、好ましくは開始体積の少なくとも10%に、好ましくは開始体積の少なくとも5%に、同様に好ましくは開始体積の少なくとも2%に低下する場合に、直線状の挙動から指数関数的な挙動への変化が動作の終了段階で生じる。任意に、直線状の挙動から指数関数的な挙動への変化が生じるときに、溶液の体積の合計が開始体積の少なくとも0.5%に低下する。
【0053】
本発明は、図に示される特定の実施形態に基づいて、以下でより詳細に例示される。図に示される技術的特性は、本発明の好ましい実施形態を作製するために、個別に又は組み合わせて使用され得る。説明される実施形態は、請求項によって一般に定められる本発明の何らかの限定を意味するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1a】従来技術による接線流濾過システムの概略図を、このようなシステムの理論濃度曲線の概略図と共に示す。
図1b】従来技術による接線流濾過システムの概略図を、このようなシステムの理論濃度曲線の概略図と共に示す。
図2】本発明のシステムの概略図である。
図3】本発明による接線流濾過システムの濃度曲線の概略図である。
図4】約10〜15mLの開始体積の小さな流体バッチのために使用される本発明による高度なマイクロ接線流濾過システムを示す。
【0055】
発明の詳細な説明
図の説明では、流体に含有される成分の濃度を増加させる例を使用して、本発明が例示される。本発明はまた、少なくとも精製目的で使用され得る。この例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0056】
図1aは、ポンプP、濾過モジュールF及びリザーバRだけが示される回路を有した濾過システムの主要概略図である。リザーバRは、回路に一体化される。濃度曲線は、原理上時間の経過に対する濃度を示す。濃度曲線が指数関数的な挙動を有することが明確に示される。30分経過後に、濃度は1mg/mLの開始濃度から1.14mg/mLの量へと増加する。200分後、濃度は5mg/mLの値に到達する。248分経過後に、濃度は約125mg/mLの量に到達する。したがって、最初の濃度の増加は、比較的なだらかである。その結果、膜の目詰まり及びファウリングの危険性は低下する。上述したように、この種の回路は、回路の最小作業容積にリザーバRの容積が考慮されなければならず、回路が最小作業容積を増加させることになるという欠点を有し、濾過プロセス中にリザーバ内の濃度勾配の形成が回避されなければならない場合にはリザーバ内にミキサを実装するという要求を有する。したがって、最大可能濃縮倍率は制限される。
【0057】
図1bは、ポンプP及び濾過モジュールFが一体化された回路を有する濾過システムを示す。リザーバRは、回路の外側に位置し、回路と流体接続する。流体は、リザーバRから回路内へ一方向に流れる。この構成では、リザーバRの容積は、最小作業容積に考慮される必要はない。したがって、最小作業容積は非常に低い。このシステムの欠点は、濃度が時間の経過に対して直線状に上昇することである。30分経過後に、濃度は1mg/mLの開始濃度から19mg/mLの実際の濃度へと増加する。200分経過後に、濃度値は121mg/mLとなる。したがって、濃度の比較的大きな増加が、動作の開始時から生じる。これにより、濾過の初期段階で既にシステムでの目詰まり及びファウリングの高い危険性が発生する。
【0058】
図2は、本発明による濾過システムの主要概略図である。このシステムでは、2つのリザーバが使用される。1つの小さなリザーバR2は、ポンプP及び濾過モジュールFが同様に一体化された回路に一体化される。大きなリザーバR1は、回路の外側にあり、回路と流体接続する。この例では、リザーバR1は15mLの容積を有し、リザーバR2は1mLの容積を有する。流体回路の最小再循環容積は100μLである。
【0059】
図3は、図2に示されるような本発明によるシステムでの時間の経過に対する濃度の理論的な挙動を示す。濃度曲線は、232分を経過するまでは直線状の増加を、その後は指数関数的な増加を示す。時間の経過に対する濃度の直線状の増加が、外部のリザーバを備える先端のシステムでの濃度増加より十分に低い傾きを有することが示される。濃度増加の直線状の段階の傾きは、浸透流束に対する流体回路の容積に左右される。したがって、傾きを予め定めることができる。この例では、30分経過後に、濃度は1mg/mLの開始濃度から2.6mg/mLの実際の濃度へと増加する。248分経過後に濃度が125mg/mLの値を有するように、232分経過後に指数関数的な増加が開始する。プロセスの開始段階での低い増加が濾過膜の目詰まり及びファウリングの危険性を低下させることは明らかである。有利となる指数関数的な挙動は、その開始点でシフトされ、その後に開始する。したがって、濃度はこの変化点の後に非常に速く増加する。本発明による濾過システムの更なる利点は、回路で一体化されたリザーバR2の小さな容積のために最小作業容積が非常に低いということである。したがって、受取可能な最大濃縮率は、明確に大きい。
【0060】
図4は、本発明によるフロー濾過システム100の好ましい実施形態を示す。システムは、回路3の外側に位置する第1のリザーバ1を備える。回路3は、第2のリザーバ2、ポンプモジュール5、3つの圧力センサ6、7、8、圧力調整器9、及びマイクロ接線流濾過モジュール10を備える。
【0061】
ここに示されるシステム100は、リザーバ1が10〜15mLの容積を有する研究室規模のシステムである。好ましくは、10mLの体積を有する流体がリザーバ1に容易に含まれ得るように、第1のリザーバ1の容積は15mLの体積を有する。第1のリザーバ1(リザーバ1)は、タンク又は容器のような別個の要素又はコンポーネントである。リザーバは、回路3の外側に配置される。第1のリザーバ1は、接続導管31を介して回路3と接続される。接続導管31は、リザーバ1と回路3との間の唯一の流体接続である。接続導管31は、流体が回路3からリザーバ1へ戻って流れることを防止する。一例として、図4に示されるように、リザーバ1は、チューブ又は好ましくは管の形状を有する直送ライン導管4を介して、リザーバ2に直接接続される。
【0062】
第2のリザーバ2(リザーバ2)は、リザーバ2の上部域に、側壁の1つに、又は好ましくはリザーバ2の底部に位置し得るリザーバ入口11、及びリザーバ2の底部に又は底部の近傍に好ましくは位置するリザーバ出口12を有する。リザーバ入口11及びリザーバ出口12は、回路3の導管14に接続される。リザーバ1に含まれる流体がリザーバ2内に直接流れ込むことができるように、第2のリザーバ入口13は直送ライン導管4に接続される。
【0063】
直送ライン導管4のバルブ17により、第1のリザーバ1から第2のリザーバ2への流体のフローを制御することができる。バルブ17を使用することにより、第1の流体リザーバ1から回路3へのフローを制御することができる。流体回路内の所定の圧力は、圧力センサ6、7及び8のうちの1つ以上を使用して測定され得る。
【0064】
リザーバ2内の流体レベルの制御が行われ得るように、リザーバ2の底部の近傍に取り付けられた液体レベルセンサ15は、リザーバ2に含まれる液体の量を測定することができる。リザーバ2の上部がキャップ又は蓋によって封止されるように、リザーバ2は好ましくは密閉型リザーバである。
【0065】
リザーバ2は、タンクの形状を有することができ、リザーバ2の内側からの気体(例えば空気)の除去を可能にするために、好ましくはベント16を備える。流体を回路3から引き出す連続的な浸透液の流れのために、リザーバ1が使い尽くされ、更にリザーバ2が減少し始めるときに、ベント16によって、空気を処理の段階でリザーバ2に侵入させることができる。更に、リザーバ1の涸渇の後、バルブ17が開いている場合には、気体はリザーバ1からリザーバ2へと流れることができる。
【0066】
マイクロTFF−モジュール10は、供給入口18、濃縮液出口19、浸透液出口20、及び入口供給部18を通りTFF−モジュール10内へと向かう流体試料の通過により回路3の流体試料を濃縮液の流れと浸透液の流れとに分離することが可能な半透膜21を含む。システムの動作中、流体の連続フローが、回路内、及び回路3の要素を接続し一体化された要素と共に回路3を形成する導管14内に引き起こされる。導管14は、好ましくはフレキシブルチューブ又は代替的に剛性管であるか、又はマイクロ構造化モジュールの一体化部分である。
【0067】
TFF−モジュール10では、好ましくは、分離時間が試料容積及び膜を通過する流束に左右される膜21が使用される。挙げられる例では、膜は0.06mL/分の流束を許容する。引き出された流体が収集チャンバ23に収集され得るように、浸透液の流れは浸透液出口20を通過して引き出される。収集された流体量は、はかり24を使用して、容易に測定され得る。
【0068】
ポンプモジュール5は、2つのシリンジ25及びバルブ26を備える。交互に作業することができる電動ポンプステアリング装置及び2つのシリンジ25を使用することで、回路3を通過する流体試料の連続フローが可能となる。流体はループ内で循環し、結果としてTFF−モジュール10の濃縮液の流れは、第2のリザーバ2内に、そして再びTFF−モジュール10に再循環する。回路3を通過するフローはまた、バルブ26を使用して制御され得る。
【0069】
圧力センサ6及び7は、圧力差を測定するために使用される。圧力センサ6及び7は、好ましくは、ポンプモジュール5とTFF−モジュール10との間に位置する。センサは、回路3の導管14の断面積とは異なる定められた断面積を有する図示されない毛細管又はチャネルに位置する。2つの圧力センサ6、7の圧力値の差は、ハーゲン−ポアズイユの式を適用することによって流体試料の粘度を判定するために使用される。
【0070】
第3の圧力センサ8は、濾過モジュール10の流れ方向後側に位置する。圧力センサ7及び8の測定値を比較することにより、濾過モジュールによる圧力減少を判定することができる。圧力センサ6、7及び8の情報は、好ましくは同様にバルブである圧力調整器9を制御及び調節することによって回路3の内側の圧力−特に膜21に適用される膜間差圧−を制御及び監視するために、使用され得る。
【0071】
2つのポートを特徴とする出口バルブ27により、回路から流体を引き出すこと、及び流体が回路3を通過してではなく出口バルブ27の出口ポート28を通過して送り出されるように回路を閉鎖することができる。したがって、成分の高い濃度を有する所望の溶液は、出口ポート28に接続された結果チャンバ29に収集され得る。示される実施形態では、出口バルブ27は、出力バルブ27の三方バルブ機能を提供するために、共に作業する2つのバルブを備える。
【0072】
好ましくは、回路3はまた、流体に含有される成分の濃度を判定する光学的測定器を備える。光学的測定器は、溶液内の成分の濃度のオンライン検出を可能にするセル30を好ましくは備える。したがって、成分の実際の濃度が監視され得る。監視の結果は、所定の濃縮率に到達するとすぐに回路3内の流体フローを停止するため及び濾過プロセスを停止するための停止基準として使用され得る。セル30はまた、粘度を測定する圧力センサ6、7間の透明な毛細管として使用され得る。したがって、その長さにわたって圧力損失が検出され得る流体チャネル又は毛細管の機能を、セルは有する。
【0073】
図4に示される流体システムは、システム100に含まれる15mLの流体の開始体積を有する。13.9mLの開始体積がリザーバ1に含まれる。リザーバ2は1mLの体積を含み、回路3の残りのコンポーネントは100μLを含む。開始濃度は1mg/mLである。したがって、第1のリザーバ1は、リザーバ2の容積より少なくとも10倍大きい、約15倍大きい容積を有する。他の実施形態では、第2のリザーバ2は、最大0.7mLの、好ましくは最大0.5mLの容積を有する。したがって、リザーバ1の容積は、リザーバ2の容積と比べて20倍より大きい。
【0074】
第1のリザーバ1と比較して相対的に小さな第2のリザーバ2の容積のため、回路3の最小作業容積は減少する。最小作業容積は、好ましくは最大1mL、更に好ましくは最大700μL、同様に更に好ましくは最大500μLである。最大200μLの最小作業容積が特に好ましく、最大100μLの最小作業容積も同様である。本発明によるシステム100によって達成され得るこれらの最小作業容積により、好ましくは少なくとも2の、更に好ましくは少なくとも10の、更に好ましくは少なくとも20の、更に好ましくは50の、更に好ましくは少なくとも100の、及び特に好ましくは少なくとも150の濃度の最大増加倍率に到達することができる。図4に示されるシステムは、少なくとも100倍の濃度の増加倍率を可能にする。
図1a
図1b
図2
図3
図4