【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. B. Shapiro, D. E. Vaillancourt, M. M. Sturman, L. V. Metman,R. A. Bakay, and D. M. Corcos, "Effects of stn dbs on rigidity in parkinson's disease," Neural Systems and Rehabilitation Engineering,IEEE Transactions on, vol. 15, no. 2, pp. 173-181, 2007.
【非特許文献2】A. L. Benabid, S. Chabardes, J. Mitrofanis, and P. Pollak, "Deep brain stimulation of the subthalamic nucleus for the treatment of parkinson's disease," The Lancet Neurology, vol. 8, no. 1, pp. 67-81, 2009.
【非特許文献3】J. W. Lance, R. S. Schwab, and E. A. Peterson, "Action tremor and the cogwheel phenomenon in parkinsons disease," Brain, vol. 86, no. 1, pp. 95-110, 1963.
【非特許文献4】Y. Kwon, S.-H. Park, J.-W. Kim, Y. Ho, H.-M. Jeon, M.-J. Bang,S.-B. Koh, J.-H. Kim, and G.-M. Eom, "Quantitative evaluation ofparkinsonian rigidity during intra-operative deep brain stimulation/'Biomedical materials and engineering, vol. 24, no. 6, pp. 2273-2281,2014.
【非特許文献5】J. Levin, S. Krafczyk, P. ValkovPc, T. Eggert, J. Claassen, and K. Botzel, "Objective measurement of muscle rigidity in parkinsonian patients treated with subthalamic stimulation," Movement Disorders, vol. 24, no. 1, pp. 57-63, 2009.
【非特許文献6】S. Little, R. A. Joundi, H. Tan, A. Pogosyan, B. Forrow, C. Joint,A. L. Green, T. Z. Aziz, and P. Brown, "A torque-based method demonstrates increased rigidity in parkinsons disease during low frequency stimulation," Experimental brain research, vol. 219, no. 4,pp. 499-506, 2012.
【非特許文献7】C. M. Jarque and A. K. Bera, "Efficient tests for normality, homoscedasticity and serial independence of regression residuals," Economics letters, vol. 6, no. 3, pp. 255- 259, 1980.
【非特許文献8】N. A. Obuchowski, "Sample size tables for receiver operating characteristic studies, "American Journal of Roentgenology, vol. 175, no. 3, pp. 603-608, 2000.
【非特許文献9】M. K. Mak, E. C. Wong, and C. W. Hui-Chan, "Quantitative measurement of trunk rigidity in parkinsonian patients," Journal of neurology, vol. 254, no. 2, pp. 202-209, 2007.
【0006】
パーキンソン病(PD)患者は、薬に耐えられなくなったとき又は薬が効かなくなったとき、脳深部刺激(DBS)手術を必要とする場合が多い。無秩序なドーパミン作動性経路の機能的抑制を促進するために刺激電極が大脳基底核に埋め込まれる。刺激目標が医用画像により決定され、続いて精密な電極位置調整及び電気刺激調整のために電気生理学的検査が行われる。目標の術中刺激及び手首固縮の評価は副作用なしにPD症状を最適に軽減する刺激パラメータの選択を可能にする。それゆえ、神経科医は他動的な手首屈曲運動を加え、経験と主観性に基づいて、異なる電圧下において知覚される固縮の減少を定性的に記述する。角速度値からロバストな信号記述子を計算し、多項式数学モデルを構築して定量的連続スケールを用いて信号を分類する、手首固縮分類用の快適な無線ウェアラブルモーションセンサが開示される。導出された記述子は非固縮状態と固縮状態とを有意に区別し(p<0.05)、この分類モデルは、二人の専門家のブラインドアグリーメントに対して、評価された信号の80%以上を正しく分類した。加えて、歯車様固縮を角速度信号から高い感度(0.93)で検出する方法も開示される。本開示は、小型で簡単で使いやすいモーションセンサを使用しながら、手首固縮の信頼できる評価を提供し、固有の主観的臨床評価を向上する。
【0007】
パーキンソン病(PD)は大脳基底核内のドーパミン作動性ニューロンの量の減少に起因する神経変性障害である。ドーパミンは皮質脊髄運動神経路制御系への興奮信号を抑制する効果を有する。ニューロン間のドーパミン伝達の減少は運動神経路を興奮状態に維持するため、運動障害をもたらす。PD患者に顕著な主症状には、動作緩慢、安静時振戦、固縮及び姿勢保持反射障害がある。
【0008】
現在、PDの治療法はないが、レボドパ及びドーパミン拮抗薬は症状を一時的に軽減する。残念ながら、これらの薬は時間の経過とともに効果を失い、顕著な症状の発生率及び強さが高くなり(非特許文献1)、また患者は薬に耐えられなくなり得る。大脳基底核構造、例えば視床下核(STN)及び内部淡蒼球(GPi)、の高周波数脳深部刺激(DBS)が今日ではPD症状を軽減するための好ましい外科的な選択肢になっている。これは安静時振戦、緩慢動作及び特に固縮を薬物療法単独よりも低減することが報告されている。この処置は、大脳基底核構造へのドーパミンの効果に類似する、興奮した運動神経路の機能阻害を促進する刺激電極の埋め込みにある。
【0009】
刺激の固定目標は術前メディカルイメージングに基づいて決定される。その後、4極性電極を用いる生理学的探査によって最適な刺激部位が見つけ出される。リード上の4つの接点がその後、電極の最終配置を決定するために、刺激パラメータを変化させ、症状及び副作用を試験しながら検査される。手首固縮は、半定量的スケールを用いて熟練した神経科医により他動的に測定できるので、信頼できる特性である(非特許文献2)。この固縮は手首屈曲運動を妨げ、手首関節のギクシャクした動きを誘起する。これは歯車の動きに類似し(非特許文献3)、関連臨床徴候である。この評価は多くの場合、各医師の経験、知覚及び主観的尺度によって偏ったものとなり(非特許文献4)、客観的且つ定量的な評価方法の必要性が生じている。
【0010】
既存の技術は複雑なアクイジションセットアップを必要とし、運動学的測定とUPDRA臨床スコアとの間の相関関係の存在を証明するために使用されている。しかし、このような分析は帰納的に行われ、既存のシステムの複雑性及び侵襲性がそれらを術中OR DBSプロシージャに対して非実用的にしている。DBS術中に特定の刺激パラメータの下で手首固縮を評価する実用的で簡単かつ精密なシステム及び角速度データから歯車様固縮を検出する方法が設計された。このような解決策は評価の主観性の度合いを大幅に低減し、最適刺激設定の決定に大いに役立つ。
【0011】
PD患者の固縮は一般にパーキンソン病統一スケール(UPDRS)を用いて記述される。手首固縮の場合には、神経科医は他動的な手首屈曲及び伸展抵抗を無(0)から重度(4)までランク付けするよう要求される。従って、この離散スケールは前述したように高度に主観的である。
【0012】
埋め込み患者の手首固縮を測定するモーションセンサの導入はかなり新しい。STN DBSの有効性の最初の実験証明は2007年に行われた(非特許文献1)。この研究において、患者はオン刺激状態とオフ刺激状態の両状態において軽い棒を操作するよう要求された。その後、加えられた労力を計算するために手首の隣接角に亘って慣性トルクを積分し、両状態間の統計的有意性を示す。
【0013】
この研究に続いて、非特許文献5は筋固縮を、上腕二頭筋及び三頭筋の表面筋電図(EMG)記録から、測定結果と専門家のUPDRSスコアとの間の高い相関関係によって客観化している。つい最近、非特許文献6は、非特許文献1による仮定を更に探求し、アルミニウム棒を操作しながらの高周波数DBS治療において手首固縮の大幅な減少を観測している。角変位は手首と交差するゴニオメータを用いて評価され、力はバーに装着されたひずみ計により測定されている。130Hzの刺激治療周波数において、可動性の増加が示された。2014年に、非特許文献4は術中DBS中の手首固縮を幾つかの生体力学的特性を測定することによって評価している。粘性減衰とUPDRS臨床スコアとの間に高い相関比が見出された。
【0014】
図1に示すような、DBS手術中に信号を可視化し、手首固縮を評価するために小型のウェアラブルモーションセンサ及びカスタムメイドのソフトウェアを備えたシステムが開示される。センサは、
図1に示すように、手のひらに設置され、布バンドで保持される。このような構成は通常の他動的な手首屈曲運動を妨げず、また外科手術も妨害せず、固縮をハンドポーズと無関係に評価するために手首屈曲がセンサのY軸、即ち手首の回転軸に沿って行われて好都合である。
【0015】
一実施形態によれば、手の回転及び位置に対するデータ不変性を保証するために、装置座標系に対して取得したジャイロスコープデータのみが考慮される。角速度の信号を得るために、複雑にはなるが、加速度計又は磁力計データ又はその組み合わせをジャイロスコープデータと変換することもできる。
【0016】
角速度信号は次のような式で得られ、ここで数32767は、例えば特定のセンサ解像度に依存して、−32768と32767の間の任意の値を取り得る。
【数1】
【0017】
ここで、g
yは未加工のジャイロスコープY軸データを表す。この信号は、最終的な振戦を除去するために4サンプル移動平均フィルタを用いてフィルタ処理され、その後手首屈曲運動に対応するサンプルのみが維持される。従って、ωの負円弧の絶対値が取られ、信号の残部が切り捨てられる。固縮は印加された手首屈曲運動の速度、範囲及び円滑さを制限する抵抗力又はトルクとして知覚され得る。従って、固縮を軽減する刺激設定はより速い角速度及び円滑信号を生じる。
【0018】
信号記述子、即ち非固縮指標(指標)は、
図2aに示すように、定量的な運動学的尺度から得られる。
【数2】
ここで、μ
ωは平均角速度を表し、μ
Pは平均ピーク値を表す。絶対ピークは信号の2つの谷の間の最高値として計算され、一実施形態によれば0.2°s
-1のマージン内である。
【0019】
低い固縮値とμ
Pの高い値との間に直接相関が存在する。しかしながら、これは、大きく異なる形状を有する信号が同等の高さのピークを有し得るために、十分に的確な記述ではない。屈曲運動中の細長い信号円弧、所定期間内の数ピーク又は予期せぬ平坦域は若干の残存固縮に対応し、考慮しなければならない。このような情報は、信号の平均値は滑らかでなくシャープでない信号に対して減少するため、μ
ωによって生成される。その平方根はφを信号域内に収め、2つの運動学的尺度の間の値を有する動作点を設定する。
【0020】
信号記述子は、患者の状態を軽減する刺激設定と軽減しない刺激設定とを有意に区別することを期待される。従って、トレーニング用データセットを指定のクラスに分類し、各信号のφの値を計算する。ジャック−ベラ検定(非特許文献7)はデータの正規性を確かめ、記述力が両側検定を用いて評価されている。
【0021】
手首関節の歯車様固縮は角速度信号にアーチファクトを生じ、
図2bで観察し得る。このようなアーチファクトは2つのピークで挟まれた信号の非最小谷に対応する。それらの検出のために、信号のすべてのピークと谷を抽出し、それぞれ1つの谷とその谷を囲む2つのピークとの間に可能な三角形を描く。信号の平滑部分は絶対最小値と絶対最大値との間に規定される大きな三角形を有するが、歯車様アーチファクト部分は小さい傾いた三角形になる。検出基準は次のよう表せる。
【数3】
【0022】
ここで、hは谷と隣接ピーク間の中点との間の距離を表し、Δtは三角形の時間スパンであり、Aはその面積であり、λは歯車様アーチファクト検出用の閾値である。我々はλを最適にし、その検出精度を非特許文献8の記載に従って作成されたROC曲線に基づいて、ランダムに選択した30のトレーニング信号について(そのグランドトルースは観察者間で予め合意されている)評価した。
【0023】
他動的な手首屈曲時の固縮は専門家によって0〜80パーセントの範囲に亘って離散10進スケールで分類した。高いラベル値は低く知覚された手首固縮に対応する。トレーニングセットの48の信号を分析するためにMathworks Matlab R2013aを使用した。これに続き、知覚された手首固縮を信号記述子φの平均値の関数として各固縮スケールに対して最適に近似する多項式数学モデルを作成した。高度の近似はオーバフィッティングを生じ、大きく異なる入信号に応答し得なくなる。更に、この問題は標準のマシン学習技術を用いて対処することができるが、これらの技術は多量の計算を必要とし、局部信号処理での将来の実装を制限する。学習エラーはリーブワンアウトエラーとして評価した。
【0024】
一実施形態によれば、より高いロバスト性及び弁別力を保証するために信号形状記述子及び他の運動学的特性、例えばクォータニオン、がこの分類モデルに組み込まれる。他の実施形態によれば、手首固縮は、各刺激設定の下で、ベースライン固縮と比較される。これは、各設定が手首固縮をどの程度軽減するかの評価を可能にし、固縮の被験者間変動の影響を軽減する。他の実施形態によれば、この装置及び方法は他のPD関連医療処置、例えば振戦の決定及び特徴付け又はレボドパ試験に使用することができる。
【0025】
ここに提示される開示は当分野の大きな進展となる可能性を有する。高い信頼性、臨床関連性を有し、リアルタイムに神経科医にフィードバックされるDBS手術中の手首固縮の評価を再現している。従って、快適で簡単なカスタムメイドのウェアラブルモーションセンサシステムを設計し、ジャイロスコープデータから計算される角速度値のみを用いて異なる刺激設定の下で手首固縮を評価することができる。多項式数学モデルを用い、信号記述子を簡単な運動学的測定に基づいて導出することによって評価された信号の80%以上を正しく分類できた。本装置の性能は印加される手首屈曲運動の起こり得る変動に影響されない。
【0026】
一実施形態によれば、信号の形状及び滑らかさを評価するための信号処理戦略が使用され、クォータニオン情報も組み込まれる。取得した信号からの生体力学特性の推定は固縮を完全に記述するのに大きく役立ち、DBSの成功のための基準情報を提供する。加えて、一実施形態によれば、知覚される固縮の減少を正確に推定し、状態の軽減をモニタするために、評価すべき各信号はベースライン固縮特性と比較される。